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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】導電性ペーストおよび積層型電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20220621BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20220621BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
H01B1/22 A
H01B1/00 M
H01G4/30 516
H01G4/30 201G
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019195917
(22)【出願日】2019-10-29
(65)【公開番号】P2021072159
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2021-04-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】多賀 和哉
(72)【発明者】
【氏名】西坂 康弘
【審査官】和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-163928(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22
H01B 1/00
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CuおよびNiの中から選ばれる少なくとも1種類の元素を含む導電性粉末と、ガラス粉末と、有機材料とを備え、
前記ガラス粉末は、軟化点が455℃以上650℃以下であるホウケイ酸系ガラス組成物を含み、かつ前記ガラス粉末とC粉末との混合物の昇温加熱時に発生するガスの質量分析により得られるマススペクトルは、470℃以上680℃以下に質量数44のガス発生ピークを有し、
前記導電性粉末の少なくとも一部の表面が、Ag、SnおよびAlの中から選ばれる少なくとも1種類の元素を含む金属層により被覆されている、導電性ペースト。
【請求項2】
CuおよびNiの中から選ばれる少なくとも1種類の元素を含む導電性粉末と、ガラス粉末と、有機材料とを備え、
前記ガラス粉末は、軟化点が455℃以上650℃以下であるホウケイ酸系ガラス組成物を含み、かつ前記ガラス粉末とC粉末との混合物の昇温加熱時に発生するガスの質量分析により得られるマススペクトルは、470℃以上680℃以下に質量数44のガス発生ピークを有し、
前記導電性粉末の少なくとも一部の表面が、有機物層により被覆されている、導電性ペースト。
【請求項3】
CuおよびNiの中から選ばれる少なくとも1種類の元素を含む導電性粉末と、ガラス粉末と、有機材料とを備え、
前記ガラス粉末は、軟化点が455℃以上650℃以下であるホウケイ酸系ガラス組成物を含み、かつ前記ガラス粉末とC粉末との混合物の昇温加熱時に発生するガスの質量分析により得られるマススペクトルは、470℃以上680℃以下に質量数44のガス発生ピークを有し、
前記導電性粉末の平均粒径が1μm以下である、導電性ペースト。
【請求項4】
前記ホウケイ酸系ガラス組成物は、酸素を除いた構成元素のうち、修飾酸化物となる少なくとも1種類の第1の元素を36mol%以上68mol%以下含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項5】
前記第1の元素は、Li、NaおよびKの中から選ばれる少なくとも1種類の元素を含む、請求項4に記載の導電性ペースト。
【請求項6】
前記ホウケイ酸系ガラス組成物は、前記第1の元素のうち、軟化点以上での酸化物の標準生成自由エネルギーがCO の標準生成自由エネルギーより大きい酸素供給酸化物となる少なくとも1種類の第2の元素を1.5mol%以上6.5mol%以下含む、請求項4または5のいずれか1項に記載の導電性ペースト。
【請求項7】
前記第2の元素は、Cu、CoおよびNiの中から選ばれる少なくとも1種類の元素を含む、請求項6に記載の導電性ペースト。
【請求項8】
積層された複数の誘電体層と複数の内部電極層とを含む積層体と、前記積層体の外表面上の互いに異なる位置に形成され、かつ前記内部電極層に電気的に接続される、複数の外部電極とを備え、
前記外部電極は、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の導電性ペーストの焼き付けにより形成されたを下地電極層を含む、積層型電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、ガラス粉末を含む導電性ペースト、およびそれを用いて形成された外部電極を備えた積層型電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサなどの積層型電子部品の外部電極は、一般に積層体の表面に形成された下地電極層と、下地電極層上に付与されためっき層とを含む。下地電極層は、CuおよびNiなどの導電性粉末と、ガラス粉末と、有機材料とを備える導電性ペーストの焼き付けにより形成される焼結体層であることが多い。ここで、めっき層の厚みは極めて薄いため、外部電極の厚みは、下地電極層の厚みに影響される。
【0003】
例えば、積層セラミックコンデンサの小型大容量化を進めるための一手段として、外部電極の厚みをできるだけ薄くし、静電容量を発現する積層体の体積を大きくすることが挙げられる。そのためには、下地電極層の厚みを薄くする必要がある。一方、下地電極層を薄くすると、外部から水分が浸入しやすくなる虞がある。導電性ペースト中のガラス粉末は、導電性粉末の焼結性を向上させ、外部からの水分の浸入を抑制できる、緻密な下地電極層を得るために添加されている。
【0004】
ガラス粉末の成分としては、B酸化物およびSi酸化物を網目形成酸化物とし、Ba、CaおよびSrなどのアルカリ土類金属元素酸化物を修飾酸化物として含むホウケイ酸系ガラス組成物が用いられることが多い。上記のようなホウケイ酸系ガラス組成物が用いられたガラス粉末を含む導電性ペーストの一例として、国際公開第2014/175013号(特許文献1)に記載された導電性ペーストが挙げられる。特許文献1に開示された導電性ペーストは、800℃から900℃で積層体に焼き付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2014/175013号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された導電性ペーストは、上記のように高温で焼きつけられる。そのため、下地電極層が焼き付け温度から室温まで冷却されたとき、収縮の度合いが大きい。その結果、積層体に大きな応力が加わり、クラックが発生する虞がある。すなわち、クラック発生を抑制するためには、導電性ペーストの焼き付け温度を低下させ、下地電極層の冷却時における収縮の度合いを小さくする必要がある。一方、焼き付け温度を低下させると、導電性ペースト中の有機材料が十分燃焼あるいは分解されずに残留し、下地電極層の緻密化を阻害する虞がある。また、緻密化するものの積層体と下地電極層との接合性が低下する虞がある。
【0007】
この開示の目的は、低い焼き付け温度で緻密な、かつ積層体との接合性の高い下地電極層を得ることができる導電性ペースト、およびそれを用いて形成された下地電極層を含む外部電極を備えた積層型電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この開示に係る導電性ペーストは、CuおよびNiの中から選ばれる少なくとも1種類の元素を含む導電性粉末と、ガラス粉末と、有機材料とを備える。ガラス粉末は、軟化点が455℃以上650℃以下であるホウケイ酸系ガラス組成物を含む。そして、ガラス粉末とC粉末との混合物の昇温加熱時に発生するガスの質量分析により得られるマススペクトルは、470℃以上680℃以下に質量数44のガス発生ピークを有する。
【0009】
この開示に係る積層型電子部品は、積層された複数の誘電体層と複数の内部電極層とを含む積層体と、積層体の外表面上の互いに異なる位置に形成され、かつ内部電極層に電気的に接続される、複数の外部電極とを備える。そして、外部電極は、この開示に係る導電性ペーストの焼き付けにより形成された下地電極層を含む。
【発明の効果】
【0010】
この開示に係る導電性ペーストは、低い焼き付け温度で緻密な、かつ積層体との接合性の高い下地電極層を得ることができる。また、この開示に係る積層型電子部品は、この開示に係る導電性ペーストの焼き付けにより形成された上記の下地電極層を含む外部電極を備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】この開示に係る導電性ペーストの実施形態である導電性ペースト1の模式図である。
図2】ガラス粉末3による有機材料4の燃焼の促進について、推定されているメカニズムを説明するための模式図である。
図3】Cu、Ni、CoおよびCの酸化物の標準生成自由エネルギーと温度との関係を表すグラフ(エリンガム図)である。
図4】この開示に係る積層型電子部品の実施形態である積層セラミックコンデンサ100の断面図である。
図5】積層セラミックコンデンサ100の第1の外部電極14aの第1の下地電極層14a1の微細構造を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この開示の特徴とするところを、図面を参照しながら説明する。なお、以下に示す積層型電子部品の実施形態では、同一のまたは共通する部分について図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さないことがある。
【0013】
-導電性ペーストの実施形態-
この開示に係る導電性ペーストの実施形態を示す導電性ペースト1について、図1ないし図3を用いて説明する。
【0014】
<導電性ペーストの構成>
図1は、導電性ペースト1の模式図である。導電性ペースト1は、導電性粉末2と、ガラス粉末3と、有機材料4とを備える。
【0015】
導電性粉末2は、CuおよびNiの中から選ばれる少なくとも1種類の元素を含む。すなわち、導電性粉末2は、CuまたはNiの金属単体のみならず、Cu合金またはNi合金を含んでいてもよい。
【0016】
また、導電性粉末2の少なくとも一部の表面は、Ag、SnおよびAlの中から選ばれる少なくとも1種類の元素を含む金属層により被覆されていてもよい。上記の金属元素は、CuおよびNiより融点が低い。そのため、上記の構造を有する導電性粉末2は、焼結温度を低下させることができる。
【0017】
さらに、導電性粉末2の少なくとも一部の表面は、有機物層により被覆されていてもよい。この場合、例えば有機物層の存在により立体障害反発または静電反発などの効果が得られる。その結果、導電性粉末2が微粒であっても、導電性ペースト1中における導電性粉末2の凝集を抑制することができる。
【0018】
そして、導電性粉末2の平均粒径は、1μm以下であることが好ましい。導電性粉末2の平均粒径は、導電性粉末2の走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:以後、SEMと略称することがある)観察像の画像解析から得られた等価円換算直径のメジアン径とした。等価円換算直径のメジアン径とは、粒径に対する積算%の分布曲線において、積算%が50%となる粒径(D50)のことである。この場合、導電性粉末2は、焼結温度を低下させることができる。
【0019】
ガラス粉末3は、この開示に係るガラス粉末である。このガラス粉末3の特徴については後述する。なお、図1では、導電性粉末2およびガラス粉末3は、模式的に球形に描かれているが、それぞれの粉末の形状はこの限りではない。例えば、導電性粉末2は、扁平形状の導電性粉末を含んでいてもよい。ガラス粉末3も、不定形状のガラス粉末を含んでいてもよい。
【0020】
有機材料4は、樹脂および有機溶剤などを含むバインダー成分、ならびに分散剤およびレオロジーコントロール剤などを含む添加剤を含む。これらの成分は、導電性ペーストの有機材料として通常用いられる材料の中から適宜選択することができる。
【0021】
ガラス粉末3は、ホウケイ酸系ガラス組成物を含む。ホウケイ酸系ガラス組成物とは、B酸化物およびSi酸化物を網目形成酸化物として含み、アルカリ金属元素酸化物およびアルカリ土類金属元素酸化物などを修飾酸化物として含むガラス組成物である。そして、ガラス粉末3に含まれるホウケイ酸系ガラス組成物の軟化点は、455℃以上650℃以下である。
【0022】
被測定物の軟化点の測定は、熱重量・示差熱分析装置(Thermogravimeter-Differential Thermal Analyzer:以後、TG-DTAと略称することがある)により行なわれる。測定条件は、後述される。
【0023】
すなわち、ガラス粉末3に含まれるホウケイ酸系ガラス組成物の軟化点は、従来のホウケイ酸系ガラス組成物の軟化点より低い。したがって、ガラス粉末3を備える導電性ペースト1の焼き付けにより形成された下地電極層は、焼き付け温度から室温まで冷却されたとき、収縮の度合いが小さい。その結果、積層体に加わる応力が低減され、クラックの発生が抑制される。しかしながら、上記したように、焼き付け温度を低下させると、導電性ペースト中の有機材料が十分燃焼あるいは分解されずに残留し、下地電極層の緻密化を阻害する虞がある。
【0024】
そこで、この開示に係る導電性ペースト1では、ガラス粉末3により導電性ペースト1中の有機材料4を十分燃焼させるようにしている。具体的には、ガラス粉末3とC粉末との混合物の昇温加熱時に発生するガスの質量分析により得られるマススペクトルは、470℃以上680℃以下に質量数44、すなわちCO2のガス発生ピークを有するという特徴を持つ。言い換えると、ガラス粉末3は、上記の温度範囲において軟化流動して有機材料4の残渣と接触することにより、ガラス流動体の構成成分からOを供給し、有機材料4の残渣の燃焼を促進している。
【0025】
なお、ガラス組成物の軟化点とは、ガラス組成物の粘度η(Pa・s)が、logηで6.65以下となる温度であり、軟化点に近い温度であれば、軟化点の温度以下であってもガラス組成物は軟化流動している。したがって、ガラス粉末3に含まれるホウケイ酸系ガラス組成物の軟化点が、CO2のガス発生ピーク温度より高くなることがあってもよい。
【0026】
上記について、図2を用いてさらに説明する。図2は、ガラス粉末3による有機材料4の燃焼の促進について、推定されているメカニズムを説明するための模式図である。図2(A)は、軟化点より少し低い温度において、ガラス粉末3と、有機材料4の残渣に相当するC成分5とが混合されている状態を示す。ただし、上記のように、この段階でもガラス粉末3は軟化流動を開始しているため、C成分5が軟化流動しつつあるガラス粉末3により包まれている状態となっていてもよい。
【0027】
図2(B)は、軟化点より少し高い温度で、ガラス粉末3が軟化してガラス流動体3fとなり、C成分5と接触している状態を示す。なお、図2(B)ではC成分5がガラス流動体3fにより取り囲まれた状態が図示されているが、C成分5とガラス流動体3fが部分的に接触している状態であってもよい。この状態において、ガラス流動体3fの構成成分からOが供給される。
【0028】
図2(C)は、図2(B)に示された状態における温度、およびそれよりさらに高い温度でOを受け取ったC成分5が燃焼して、ガラス流動体3f内にCO2を含むガスの泡5gが生成された状態を示す。ただし、この状態では、ガラス流動体3fの粘度は、ガスの泡5gがはじけるほど低下しておらず、ガスの泡5gは、ガラス流動体3f内に留まっている。
【0029】
図2(D)は、図2(B)に示された状態における温度よりもさらに高い温度において、ガラス流動体3fの粘度がさらに下がることにより、ガスの泡5gがはじけてガラス流動体3fからCO2を含むガスが抜けた状態を示す。その結果、被測定物の昇温加熱時に発生するガスの質量分析において、CO2のガス発生ピークが検出される。
【0030】
なお、前述したように、上記のメカニズムは、合理的に推定されたものではあるが、その他の要因が関与している可能性もある。すなわち、この開示における導電性ペーストの条件は、上記のメカニズムのみにより説明されることを必須とはしていないことに留意すべきである。
【0031】
被測定物の昇温加熱時に発生するガスの質量分析は、熱重量・質量分析装置(Thermogravimetry-Mass Spectrometer:以後、TG-MSと略称することがある)により行なわれる。測定条件は、後述される。
【0032】
この開示に係る導電性ペースト1は、上記の特徴を持つガラス粉末3を備えているため、低い焼き付け温度であっても、導電性ペースト1中の有機材料4を十分燃焼させることができる。その結果、導電性粉末2同士のネッキングが有機材料4に由来する残留有機成分により阻害されず、導電性粉末2の焼結が促進される。そのため、下地電極層の緻密化が促進され、積層体と下地電極層との接合性の低下が抑制される。
【0033】
ガラス粉末3に含まれるホウケイ酸系ガラス組成物は、酸素を除いた構成元素のうち、修飾酸化物となる少なくとも1種類の第1の元素M1を36mol%以上68mol%以下含むことが好ましい。ここで、この開示における修飾酸化物とは、ガラス組成物中の網目形成酸化物(Si酸化物およびB酸化物)以外の酸化物を指す概念である。すなわち、この開示における修飾酸化物には、ガラス組成物中でいわゆる中間酸化物と呼ばれるAl酸化物なども含まれる。この場合、ホウケイ酸系ガラス組成物の軟化点を455℃以上650℃以下に容易に調整することができる。
【0034】
また、第1の元素M1は、Li、NaおよびKの中から選ばれる少なくとも1種類の元素を含むことが好ましい。この場合、ホウケイ酸系ガラス組成物の軟化点の調整をさらに容易に行なうことができる。
【0035】
ガラス粉末3に含まれるホウケイ酸系ガラス組成物は、第1の元素M1のうち、軟化点以上での酸化物の標準生成自由エネルギーΔGM°がCO2の標準生成自由エネルギーΔGC°より大きい酸素供給酸化物となる少なくとも1種類の第2の元素M2を1.5mol%以上6.5mol%以下含むことが好ましい。なお、この比率は、酸素を除いた構成元素に対するものである。
【0036】
すなわち、前述のガラス粉末3が軟化してガラス流動体3fとなり、C成分5と接触している状態(図2(B)参照)において、ガラス流動体3f内の第2の元素M2からOが供給される。この場合、ガラス粉末3とC粉末との混合物のTG-MSによるマススペクトルにおいて、470℃以上680℃以下にCO2のガス発生ピークを容易に発生させることができる。
【0037】
上記について、図3を用いてさらに説明する。図3は、Cu、Ni、CoおよびCの酸化物の標準生成自由エネルギーと温度との関係を表すグラフ、いわゆるエリンガム図である。酸化物の標準生成自由エネルギーΔG°と温度との関係を表す線より下側の領域では元素単体が安定であり、上側の領域では酸化物が安定である。
【0038】
すなわち、エリンガム図は、種々の元素の酸化物の安定性を、平衡酸素分圧と関連させて示すものである。エリンガム図から、ある元素の酸化物を還元するためには、どのような還元剤をどの程度の温度で作用させればよいか、そしてある酸素分圧下において金属が酸化するか否かについて知ることができる。
【0039】
図3に示されているCの酸化に関係する線(実線)と、Cuの酸化に関する線(破線)とを見ると、ガラス粉末3の軟化点以上、すなわち455℃以上で、Cの酸化に関係する線がCuの酸化に関係する線より下側の領域に位置している。したがって、Cuの酸化に関係する線とCの酸化に関係する線との間の領域では、CuはCu単体が安定であり、CはCO2が安定となる。すなわち、第1の元素M1中に第2の元素M2としてCuが含まれている場合、ホウケイ酸系ガラス組成物のCu酸化物は、上記の領域内の温度および酸素分圧下において還元され、Cを燃焼させるのに必要な酸素を供給することができる。
【0040】
図3には、Coの酸化に関する線(一点鎖線)およびNiの酸化に関する線(二点鎖線)も併せて示されている。これらも上記と同様に、ガラス粉末3の軟化点以上で、Cの酸化に関係する線がCoの酸化に関係する線およびNiの酸化に関係する線より下側の領域に位置している。したがって、ホウケイ酸系ガラス組成物の修飾酸化物となっている第1の元素M1中に第2の元素M2としてCoおよびNiが含まれている場合も、同様の作用を奏することができる。
【0041】
すなわち、第1の元素M1中に第2の元素M2が含まれている場合、導電性ペースト1の焼き付け温度が低くても、導電性ペースト1中の有機材料4を効果的に燃焼させることができる。言い換えると、上記の場合、ガラス粉末3とC粉末との混合物のTG-MSによるマススペクトルにおいて、470℃以上680℃以下にCO2のガス発生ピークを容易に発生させることができる。
【0042】
例えば、導電性粉末2の少なくとも一部の表面が有機物層により被覆されている場合、焼き付け前の導電性ペースト1は、導電性粉末2が有機物層により被覆されていない場合に比べて、より多くの有機材料を含むことになる。すなわち、導電性ペースト中の有機材料が十分燃焼あるいは分解されずに残留し、下地電極層の緻密化を阻害しやすくなる。
【0043】
しかしながら、上記のように第1の元素M1中に第2の元素M2が含まれている場合、導電性ペースト1の焼き付け温度が低くても、導電性ペースト1中の有機材料4を効果的に燃焼させることができる。この効果は、導電性ペースト1の焼き付け中にCO2が抜けにくい導電性粉末2の平均粒径が1μm以下である場合などに、特に顕著となる。
【0044】
第2の元素M2は、上記で示されたCu、CoおよびNiに限られない。一方、第2の元素M2がCu、CoおよびNiの中から選ばれる少なくとも1種類の元素である場合、ホウケイ酸系ガラス組成物の軟化点の調整をさらに容易に行なうことができる。
【0045】
-積層型電子部品の実施形態-
この開示に係る積層型電子部品の実施形態を示す積層セラミックコンデンサ100について、図4および図5を用いて説明する。
【0046】
図4は、積層セラミックコンデンサ100の断面図である。積層セラミックコンデンサ100は、積層体10を備えている。積層体10は、積層された複数の誘電体層11と複数の内部電極層12とを含む。複数の誘電体層11は、外層部と内層部とを有する。外層部は、積層体10の第1の主面と第1の主面に最も近い内部電極層12との間、および第2の主面と第2の主面に最も近い内部電極層12との間に配置されている。内層部は、それら2つの外層部に挟まれた領域に配置されている。
【0047】
複数の内部電極層12は、第1の内部電極層12aと第2の内部電極層12bとを有する。積層体10は、積層方向に相対する第1の主面および第2の主面と、積層方向に直交する幅方向に相対する第1の側面および第2の側面と、積層方向および幅方向に直交する長さ方向に相対する第1の端面13aおよび第2の端面13bとを有する。
【0048】
誘電体層11は、例えばBaTiO3系のペロブスカイト型化合物を含む複数の結晶粒を有する。上記の誘電体材料としては、例えばBaTiO3系のペロブスカイト型化合物の結晶格子中のBa2+の一部が、希土類元素のイオンであるRe3+により置換されたものが挙げられる。また、BaTiO3系のペロブスカイト型化合物としては、BaTiO3、ならびにBaTiO3のBa2+およびTi4+の少なくとも一方が、Ca2+およびZr4+などの他のイオンにより置換されたものなどが挙げられる。
【0049】
第1の内部電極層12aは、誘電体層11を介して第2の内部電極層12bと互いに対向している対向電極部と、対向電極部から積層体10の第1の端面13aまでの引き出し電極部とを備えている。第2の内部電極層12bは、誘電体層11を介して第1の内部電極層12aと互いに対向している対向電極部と、対向電極部から積層体10の第2の端面13bまでの引き出し電極部とを備えている。
【0050】
第1の内部電極層12aと第2の内部電極層12bとが誘電体層11を介して互いに対向することにより、1つのコンデンサが形成される。積層セラミックコンデンサ100は、複数個のコンデンサが後述する第1の外部電極14aおよび第2の外部電極14bを介して並列接続されたものと言える。
【0051】
内部電極層12を構成する導電性材料としては、Ni、Cu、AgおよびPdなどから選ばれる少なくとも一種の金属または当該金属を含む合金を用いることができる。内部電極層12は、後述するように共材(不図示)と呼ばれる誘電体粒子をさらに含んでいてもよい。共材は、内部電極層12の形成に用いられる内部電極層用ペーストに添加されているものであり、積層体10の焼成時に誘電体層11側に排出されるが、その一部が内部電極層12に残留することがある。 共材は、積層体10の焼成時において、内部電極層12の焼結収縮特性を誘電体層11の焼結収縮特性に近づけるために添加されるものである。
【0052】
積層セラミックコンデンサ100は、第1の外部電極14aと第2の外部電極14bとをさらに備えている。第1の外部電極14aは、第1の内部電極層12aと電気的に接続されるように積層体10の第1の端面13aに形成され、第1の端面13aから第1の主面および第2の主面ならびに第1の側面および第2の側面に延びている。第2の外部電極14bは、第2の内部電極層12bと電気的に接続されるように積層体10の第2の端面13bに形成され、第2の端面13bから第1の主面および第2の主面ならびに第1の側面および第2の側面に延びている。
【0053】
第1の外部電極14aは、第1の下地電極層14a1と第1の下地電極層14a1上に配置された第1のめっき層14a2とを有する。第1の下地電極層14a1は、この開示に係る導電性ペースト1の焼き付けにより形成された焼結体層(後述)を有する。同様に、第2の外部電極14bは、第2の下地電極層14b1と第2の下地電極層14b1上に配置された第2のめっき層14b2とを有する。第2の下地電極層14b1も、この開示に係る導電性ペースト1の焼き付けにより形成された焼結体層(後述)を有する。
【0054】
図5は、第1の下地電極層14a1の微細構造を説明するための断面図である。第2の下地電極層14b1は、第1の下地電極層14a1と同様の構造を有しているため、以後の説明を省略する。第1の下地電極層14a1が有する焼結体層は、導電体領域15a1とガラス領域16a1とを含む。導電体領域15a1は、導電性ペースト1が備える導電性粉末2が焼結した金属焼結体を含んでいる。ガラス領域16a1は、ガラス粉末3に由来するガラス成分を含んでいる。なお、焼結体層は、異なる成分で複数層形成されていてもよい。
【0055】
第1の下地電極層14a1上に配置された第1のめっき層14a2を構成する金属としては、Ni、Cu、Ag、AuおよびSnなどから選ばれる少なくとも一種または当該金属を含む合金を用いることができる。当該めっき層は、異なる成分で複数層形成されていてもよい。好ましくは、Niめっき層およびSnめっき層の2層である。
【0056】
Niめっき層は、下地電極層上に配置され、積層型電子部品を実装する際に、下地電極層がはんだによって侵食されることを防止することができる。Snめっき層は、Niめっき層上に配置される。Snめっき層は、Snを含むはんだとの濡れ性がよいため、積層型電子部品を実装する際に、実装性を向上させることができる。なお、これらのめっき層は、必須ではない。
【0057】
この開示に係る積層セラミックコンデンサ100は、導電性ペースト1の焼き付けにより形成された、緻密化が促進され、積層体との接合性の低下が抑制された下地電極層を含む外部電極を備えることができる。
【0058】
-実験例-
この開示に係る導電性ペーストは、以下の実験例に基づいてより具体的に説明される。これらの実験例は、この開示に係る導電性ペーストの条件、またはより好ましい条件を規定する根拠を与えるためのものでもある。実験例では、試料番号1から試料番号20のガラス粉末が作製され、TG-DTAによる軟化点の評価、およびTG-MSによるガラス粉末とC粉末との混合物におけるCO2ガスの発生挙動の評価が行われた。
【0059】
また、試料番号1から試料番号20のガラス粉末と平均粒径0.5μmのCu粉末と有機材料とを用いて導電性ペーストが作製され、それらを用いて外部電極の下地電極層が形成された、図4に示すような積層セラミックコンデンサが作製された。なお、積層セラミックコンデンサの積層体における誘電体層は、BaTiO3系のペロブスカイト型化合物を含む誘電体材料により形成されており、内部電極層は、Niにより形成されている。これらの積層セラミックコンデンサを用いて、外部電極の下地電極層と積層体との接合性の評価、および下地電極層の緻密性の評価が行なわれた。
【0060】
TG-DTAによる試料番号1から試料番号20のガラス粉末の軟化点の評価は、表1に示された条件により行なわれた。
【0061】
【表1】
【0062】
TG-MSによる試料番号1から試料番号20のガラス粉末とC粉末との混合物におけるCO2ガスの発生挙動の評価は、表2に示された条件により行われた。
【0063】
【表2】
【0064】
試料番号1から試料番号20のガラス粉末を含む導電性ペーストの焼き付けにより外部電極の下地電極層が形成された積層セラミックコンデンサにおける下地電極層と積層体との接合性の評価は、表3に示された条件により行われた。
【0065】
【表3】
【0066】
試料番号1から試料番号20のガラス粉末を含む導電性ペーストの焼き付けにより外部電極の下地電極層が形成された積層セラミックコンデンサにおける下地電極層の緻密性の評価は、表4に示された条件により行われた。
【0067】
【表4】
【0068】
以上のようにして行なわれた軟化点の評価結果、CO2ガスの発生挙動の評価結果、下地電極層と積層体との接合性の評価結果および下地電極層の緻密性の評価結果は、表5にまとめて示されている。
【0069】
【表5】
【0070】
表5において試料番号に*を付したものは、この開示に係る導電性ペーストを規定する条件から外れた試料である。
【0071】
前述したように、例えば試料番号2のホウケイ酸系ガラス組成物においては、B酸化物およびSi酸化物が網目形成酸化物であり、Ba、Ca、Al、Mn、CuおよびTiの各酸化物が修飾酸化物と見なされる。すなわち、第1の元素M1の比率は、Oを除く上記のホウケイ酸系ガラス組成物の構成元素のうち、Ba、Ca、Al、Mn、CuおよびTiの各元素の総和の比率がモル%で表されたものである。表5に示されるように、この開示に係る導電性ペーストを規定する条件を満たす各試料においては、下地電極層と積層体との接合性および下地電極層の緻密性が良好であることが確認された。
【0072】
この明細書に開示された実施形態は、例示的なものであって、この開示に係る発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。すなわち、この開示に係る発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また、上記の範囲内において、種々の応用、変形を加えることができる。
【0073】
例えば、積層体を構成する誘電体層および内部電極層の層数、誘電体層および内部電極層の材質などに関し、この発明の範囲内において種々の応用、変形を加えることができる。また、積層型電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、この開示に係る発明はそれに限らず、多層基板の内部に形成されたコンデンサ要素などにも適用することができる。
【0074】
さらに、外部電極の数および位置は、この明細書に開示された実施形態に限られない。すなわち、外部電極は、積層体の外表面上の互いに異なる位置に複数形成され、かつ内部電極層に電気的に接続されるものであればよい。
【符号の説明】
【0075】
1 導電性ペースト
2 導電性粉末
3 ガラス粉末
3f ガラス流動体
4 有機材料
5 C成分
5g ガスの泡
100 積層セラミックコンデンサ
10 積層体
11 誘電体層
12 内部電極層
13a 第1の端面
13b 第2の端面
14a 第1の外部電極
14a1 第1の下地電極層
14a2 第1のめっき層
14b 第2の外部電極
14b1 第2の下地電極層
14b2 第2のめっき層
15a1 導電性領域
16a1 ガラス領域
M1 第1の元素
M2 第2の元素
ΔG° 酸化物の標準生成自由エネルギー
ΔGM° 第2の元素の酸化物の標準生成自由エネルギー
ΔGC° CO2の標準生成自由エネルギー
図1
図2
図3
図4
図5