(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】ガラス板構成体及び振動板
(51)【国際特許分類】
H04R 7/02 20060101AFI20220621BHJP
H04R 7/08 20060101ALI20220621BHJP
C03C 27/06 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
H04R7/02 Z
H04R7/08
C03C27/06 101F
(21)【出願番号】P 2019546997
(86)(22)【出願日】2018-10-03
(86)【国際出願番号】 JP2018037119
(87)【国際公開番号】W WO2019070006
(87)【国際公開日】2019-04-11
【審査請求日】2020-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2017194639
(32)【優先日】2017-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 研人
(72)【発明者】
【氏名】秋山 順
(72)【発明者】
【氏名】内田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】田原 慎哉
【審査官】冨澤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-100223(JP,A)
【文献】特開平06-325868(JP,A)
【文献】特開2015-219528(JP,A)
【文献】特開2001-016692(JP,A)
【文献】国際公開第2016/085615(WO,A1)
【文献】特開2003-125475(JP,A)
【文献】国際公開第2017/175682(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0108661(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 7/00-7/26
B32B 1/00-43/00
C03C 27/00-29/00
H01L 27/32
H05B 33/00-33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のガラス板と、
前記第1のガラス板に対向して配置された第2の板と、
前記第1のガラス板および前記第2の板の間に液体を封止して形成される液体層と、
前記液体層を取り囲んで前記第1のガラス板と前記第2の板を固定するシール材と、
前記液体層を分割する仕切部と、
を備えるガラス板構成体であって、
平面視においてそれぞれ独立した複数の振動領域を有
し、
前記複数の振動領域の境界は、前記シール材または前記仕切部により画定され、
前記振動領域内では、前記第1のガラス板および前記第2の板の内面の全面が、前記液体に接する状態で対向している、
ガラス板構成体。
【請求項2】
前記振動領域における前記液体層の液体は、当該振動領域の縁部に形成され、他の前記振動領域との境界を画定する
前記仕切部によって密封されている請求項
1に記載のガラス板構成体。
【請求項3】
少なくとも二つの隣接した前記振動領域における前記液体層の液体は、当該二つの振動領域の境界を画定する
前記仕切部において互いに流動可能な状態で接している請求項
1に記載のガラス板構成体。
【請求項4】
第1のガラス板と、
前記第1のガラス板に対向して配置される第2の板と、
前記第1のガラス板および前記第2の板の間に液体を封止して形成される液体層と、を備えるガラス板構成体であって、
前記液体層を取り囲んで前記第1のガラス板と前記第2の板を固定するシール材と、
平面視においてそれぞれ独立した複数の振動領域を有
し、
少なくとも二つの隣接した前記振動領域における前記液体層の液体は、当該二つの振動領域の境界を画定する仕切部において互いに流動可能な状態で接している、
ガラス板構成体。
【請求項5】
前記複数の振動領域は各々、前記液体層が、前記第1のガラス板と前記第2の板の両側から挟み込まれるように保持される、請求項4に記載のガラス板構成体。
【請求項6】
前記第1のガラス板および前記第2の板は、
前記シール材を介して互いに固定されており、前記仕切部は前記シール材より接着強度の低い材料より構成される、請求項
1から5のいずれか1項に記載のガラス板構成体。
【請求項7】
前記複数の振動領域の面積がそれぞれ等しい、請求項1
から6のいずれか1項に記載のガラス板構成体。
【請求項8】
少なくとも二つの前記振動領域における前記液体層の液体は、互いに異なる成分を有する、請求項1から
7のいずれか1項に記載のガラス板構成体。
【請求項9】
前記シール材および前記仕切部は、ポリ酢酸ビニル系、ポリ塩化ビニル系、ポリビニルアルコール系、エチレン共重合体系、ポリアクリル酸エステル系、シアノアクリレート系、飽和ポリエステル系、ポリアミド系、線状ポリイミド系、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ系、ポリウレタン系、不飽和ポリエステル系、反応性アクリル系、ゴム系、シリコーン系、変性シリコーン系からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1から8のいずれか1項に記載のガラス板構成体。
【請求項10】
前記液晶層と、前記シール材および前記仕切部と、の屈折率差は、0.015以下である、請求項1から9のいずれか1項に記載のガラス板構成体。
【請求項11】
前記第1のガラス板及び前記第2の板の少なくとも一方は、25℃における損失係数が1×10
-4
以上である、請求項1から10のいずれか1項に記載のガラス板構成体。
【請求項12】
前記第1のガラス板及び前記第2の板の少なくとも一方は、縦波音速値が4.0×10
3
m/s以上である、請求項1から11のいずれか1項に記載のガラス板構成体。
【請求項13】
前記液体層は、25℃における粘性係数が1×10
-4
~1×10
3
Pa・sであり、かつ、25℃における表面張力が15~80mN/mである、請求項1から12のいずれか1項に記載のガラス板構成体。
【請求項14】
前記液体層は、25℃、1atmにおける蒸気圧が1×10
4
Pa以下である、請求項1から13のいずれか1項に記載のガラス板構成体。
【請求項15】
請求項1から
14のいずれか1項に記載のガラス板構成体および、前記ガラス板構成体の片面または両面に設置された少なくとも1つの振動子を含む振動板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板構成体及び振動板に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、スピーカーまたはマイクロフォン用の振動板としてコーン紙や樹脂が用いられている。これらの材料は損失係数が大きく、共振による振動が生じにくいことから、可聴域における音の再現性能が良いと考えられている。
しかし、これらは何れも材料における音速値が低いため、高周波で励振した際に、音波周波数に材料の振動が追従しにくく、分割振動が発生しやすい。そのため特に高周波数領域において所望の音圧が出にくい。
【0003】
近年、特にハイレゾ(ハイレゾリューション)音源等で再生が求められる帯域は20kHz以上の高周波数領域であり、ヒトの耳では聞こえにくい帯域とされるものの、臨場感が強く感じられるなど、より感情に迫るものがあることから、該帯域の音波振動を忠実に再現できることが望ましい。
【0004】
そこで、コーン紙や樹脂に代えて、金属、セラミックス、ガラス等の、材料に伝播する音速が速い素材を用いることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Olivier Mal et. al.,“A Novel Glass Laminated Structure for Flat Panel Loudspeakers”AES Convention 124,7343.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スピーカー用の振動板として、1枚のガラスを用いたものや(特許文献1)、2枚のガラス板の間にブチラール系樹脂層を有する合わせガラスが知られている(非特許文献1)。
【0008】
上記のような平面形状のスピーカーを振動させる場合、板に振動子を接着し、振動を付与するが、2チャンネルのステレオ再生、さらに多くのチャンネルを持つ多次元再生を行うことは困難である。また、単一の板に二つ以上の振動子を配置してステレオ再生や多次元再生を行わせることを試みても、単一の板内で異なる振動モードが互いに干渉する場合がある。
【0009】
そこで本発明では、優れたステレオ再生や多次元再生等を行い得るガラス板構成体及び振動板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のガラス板構成体は、第1のガラス板と、前記第1のガラス板に対向して配置される第2の板と、前記第1のガラス板および前記第2の板の間に液体を封止して形成される液体層と、を備えるガラス板構成体であって、平面視においてそれぞれ独立した複数の振動領域を有する。
【0011】
本発明の振動板は前記ガラス板構成体および、前記ガラス板構成体の片面または両面に設置された少なくとも1つの振動子を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明のガラス板構成体によれば、各振動領域で独立した振動が可能となり、ステレオ、多次元的な再生が可能となると共に、映像に合わせた局所的な再生が可能となる。また、振動子を含む振動板であるため、音の再生に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係るガラス板構成体の一例を示す断面図であって、(a)は第1の実施形態、(b)は第2の実施形態を示す。
【
図2】本発明に係るガラス板構成体の振動領域を示す平面図であって、(a)は実施例1、(b)は実施例2、(c)は実施例3、(d)は実施例4を示す。
【
図3】本発明に係るガラス板構成体の振動領域を示す平面図であって、(a)は実施例5、(b)は実施例6、(c)は実施例7、(d)は実施例8を示す。
【
図4】本発明に係るガラス板構成体の振動領域を示す平面図であって、(a)は実施例9、(b)は実施例10、(c)は実施例11、(d)は実施例12を示す。
【
図5】本発明に係るガラス板構成体の振動領域を示す平面図であって、(a)は実施例13、(b)は実施例14を示す。
【
図6】本発明に係るガラス板構成体の振動領域の実施例15示す平面図。
【
図7】本発明に係るガラス板構成体の音の良好性の試験結果を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、発明を実施するための形態に基づいて、本発明の詳細およびその他の特徴について説明する。なお、以下の図面において、同一又は対応する部材又は部品には、同一又は対応する符号を付すことにより、重複する説明を省略する。また、図面は、特に指定しない限り、部材又は部品間の相対比を示すことを目的としない。よって、具体的な寸法は、以下の限定的でない実施形態に照らし、適宜選択可能である。
【0015】
また、本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0016】
(ガラス板構成体の概要)
本発明のガラス板構成体は、第1のガラス板と、前記第1のガラス板に対向して配置される第2の板と、前記第1のガラス板および前記第2の板の間に液体を封止して形成される液体層と、を備えるガラス板構成体であって、平面視においてそれぞれ独立した、即ちそれぞれ独立して振動可能な複数の振動領域を有する。
【0017】
振動可能な複数の振動領域を有することにより、音のステレオの再生、または多次元的再生が可能となる。また、振動領域を細かく区分することで、ガラス板構成体の局所的な音の選択が可能となり、画面と音を同時に連携させた再生が可能となる。例えば、映像における特定の人やものからの音などを、映像中の位置から局所的に表現が可能となる。特に、複数の振動領域の面積がそれぞれ等しい場合、ステレオ再生に適している。
【0018】
液体層は、シール材により取り囲まれ、シール材は、第1のガラス板と第2の板を互いに固定するために用いられる。この構成により、シール材の内側に保持される液体層が漏れることがなく、ガラス板構成体の品質が向上する。
【0019】
また、第1のガラス板と第2の板との端面とシール材の端面が、単一面を構成することが好ましい。これにより、両者の端面が均一になるため好ましい外観のあるガラス板構成体を提供できる。
【0020】
第1のガラス板と第2の板のうち少なくとも1枚の板の周囲の少なくとも一部の端面が、テーパー面を有し、シール材の端面が、板のテーパー面と連続した曲面を有していても良い。この構成により、第1のガラス板または第2の板の端部における鋭利な角を除去でき、安全性が図られ、シール材と板との接触面積が増大するためシール性能を向上させることができる。
【0021】
振動領域における液体層の液体は、当該振動領域の縁部に形成され、他の振動領域との境界を画定する仕切部によって密閉されていて良い。そして仕切部はシール材と同じ材料でもよく、シール材より接着強度の低い材料でも良い。
【0022】
仕切部を設けることにより液体層を隙間無く仕切り、明確に振動領域を仕切ることが可能となり、振動領域ごとの振動の独立性を高めることができ、接着面積も増え、第1のガラス板と第2の板との接着強度が向上する。
【0023】
また、仕切部は完全に隣接する液体層の液体を分離することなく、ある程度分離状態を保ちつつ、それぞれの振動領域内にある液体層が定位置にあっても良い。即ち、少なくとも二つの隣接した振動領域における液体層の液体は、当該二つの振動領域の境界を画定する仕切部において互いに流動可能な状態で接している。
【0024】
ガラス板構成体の透過率を高めるために、液体層とシール材との屈折率を整合させることも有用である。即ち、第1のガラス板と第2の板に保持されている液体層の屈折率と、シール材(仕切部を含む)の屈折率とが近いほど、両者の境界面における反射及び干渉が防止されることから好ましく、ガラス板の視認性を妨げない。そして、液体層とシール材(仕切部を含む)との屈折率差が、0.015以下が好ましく、0.01以下であることがより好ましい。
【0025】
封止した液体層(液剤)とシール材(仕切部を含む)が異なる物質で、両者の屈折率に差があり、これがガラス板構成体の一例であるディスプレイの視認領域(の全面)に設けられると、背面から透過した光により、両者の境界が見えてしまい、視認性が阻害される。
【0026】
そこで本発明のガラス板構成体は、両者の屈折率の差を所定値以下に抑えることにより、両者の境界面の視認を困難にすることができる。また、ガラス板構成体の視認領域(の全面)に設けても、視認性を妨げることはない。そして、境界を隠すための縁を設ける必要がなくなり、縁なしガラス板構成体を実現しやすくなり、音響特性のみならずデザインの向上、デザインの自由度の向上、コストの削減が可能となる。
【0027】
また、ガラス板構成体の直線透過率が高いと、透光性の部材としての適用が可能となる。そのため、ガラス板構成体は、日本工業規格(JIS R3106-1998)に準拠して求められた可視光透過率が60%以上であることが好ましく、65%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましい。なお、透光性の部材としては、例えば透明スピーカー、透明マイクロフォン、建築、車両用の開口部材等の用途が挙げられる。
【0028】
本発明に係るガラス板構成体は、25℃における損失係数が1×10-2以上であり、かつ、少なくとも1枚のガラス板の板厚方向の縦波音速値が4.0×103m/s以上であることが好ましい。なお、損失係数が大きいとは振動減衰能が大きいことを意味する。
【0029】
損失係数とは、半値幅法により算出したものを用いる。材料の共振周波数f、振幅hであるピーク値から-3dB下がった点(すなわち、最大振幅-3[dB]における点)の周波数幅をWとしたときに、{W/f}で表される値を損失係数と定義する。
共振を抑えるには、損失係数を大きくすればよく、すなわち、振幅hに対し相対的に周波数幅Wは大きくなり、ピークがブロードとなることを意味する。
【0030】
損失係数は材料等の固有の値であり、例えばガラス板単体の場合には、その組成や相対密度等によって異なる。なお、損失係数は共振法などの動的弾性率試験法により測定することができる。
【0031】
縦波音速値とは、物件中を縦波が伝搬する速度をいう。縦波音速値は、日本工業規格(JIS-R1602-1995)に記載された超音波パルス法により測定することができる。
【0032】
(液体層)
本発明に係るガラス板構成体は、少なくとも2枚(少なくとも一対)の板の間に液体からなる層(液体層)を設けることで、高い損失係数を実現することができる。中でも、液体層の粘性や表面張力を好適な範囲にすることで、より損失係数を高くすることができる。これは、一対の板を、粘着層を介して設ける場合とは異なり、一対の板が固着せず、各々の板としての振動特性を持ち続けることに起因するものと考えられる。尚、説明を簡略化するため、第1のガラス板と第2の板をそれぞれ「板」と称している。
【0033】
液体層は、25℃における粘性係数が1×10-4~1×103Pa・sであり、かつ、25℃における表面張力が15~80mN/mであることが好ましい。粘性が低すぎると振動を伝達しにくくなり、高すぎると液体層の両側に位置する一対の板同士が固着して1枚の板としての振動挙動を示すようになることから、共振による振動が減衰されにくくなる。また、表面張力が低すぎると板間の密着力が低下し、振動を伝達しにくくなる。表面張力が高すぎると、液体層の両側に位置する一対の板同士が固着しやすくなり、1枚の板としての振動挙動を示すようになることから、共振による振動が減衰されにくくなる。
【0034】
液体層の25℃における粘性係数は1×10-3Pa・s以上がより好ましく、1×10-2Pa・s以上がさらに好ましい。また、1×102Pa・s以下がより好ましく、1×10Pa・s以下がさらに好ましい。
液体層の25℃における表面張力は17mN/m以上がより好ましく、30mN/m以上がさらに好ましい。
【0035】
液体層の粘性係数は回転粘度計などにより測定することができる。液体層の表面張力はリング法などにより測定することができる。
【0036】
液体層は、蒸気圧が高すぎると液体層が蒸発してガラス板構成体としての機能を果たさなくなるおそれがある。そのため、液体層は、25℃、1atmにおける蒸気圧が1×104Pa以下が好ましく、5×103Pa以下がより好ましく、1×103Pa以下がさらに好ましい。
【0037】
液体層の厚みは薄いほど、ガラス構成体の剛性を高く維持できる点および振動伝達の点から好ましい。具体的には、2枚の板の合計の厚みが1mm以下の場合は、液体層の厚みは、2枚の板の合計の厚みの1/10以下が好ましく、1/20以下がより好ましく、1/30以下がさらに好ましく、1/50以下がよりさらに好ましく、1/70以下がことさらに好ましく、1/100以下が特に好ましい。
【0038】
また、2枚の板の合計の厚みが1mm超の場合は、液体層の厚みは、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましく、20μm以下がよりさらに好ましく、15μm以下がことさらに好ましく、10μm以下が特に好ましい。
液体層の厚みの下限は、生産性および耐久性の点から0.01μm以上が好ましい。
【0039】
液体層は化学的に安定であり、液体層と液体層の両側に位置する2枚の板とが、反応しないことが好ましい。化学的に安定とは、例えば光照射により変質(劣化)が少ないものであり、少なくとも-20~70℃の温度領域で凝固、気化、分解、変色、板との化学反応等が生じないものを意味する。
【0040】
液体層の成分としては、具体的には、水、オイル、有機溶剤、液状ポリマー、イオン性液体およびそれらの混合物等が挙げられる。
【0041】
より具体的には、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ストレートシリコーンオイル(ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル)、変性シリコーンオイル、アクリル酸系ポリマー、液状ポリブタジエン、グリセリンペースト、フッ素系溶剤、フッ素系樹脂、アセトン、エタノール、キシレン、トルエン、水、鉱物油、およびそれらの混合物、等が挙げられる。中でも、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルおよび変性シリコーンオイルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、プロピレングリコールまたはシリコーンオイルを主成分とすることがより好ましい。
【0042】
また、液体スペース層は振動領域によって異なる成分であっても良い。振動領域ごとに上述の成分の中から異なる成分を選択することができる。
【0043】
上記の他に、粉体を分散させたスラリーを液体層として使用することもできる。損失係数の向上といった観点からは、液体層は均一な流体であることが好ましいが、ガラス板構成体に着色や蛍光等といった意匠性や機能性を付与する場合には、該スラリーは有効である。
液体層における粉体の含有量は0~10体積%が好ましく、0~5体積%がより好ましい。
粉体の粒径は沈降を防ぐ観点から10nm~10μmが好ましく、0.5μm以下がより好ましい。
【0044】
また、意匠性・機能性付与の観点から、液体層は蛍光材料を含んでもいてもよい。例えば、蛍光材料を粉体として分散させたスラリー状の液体層でも、蛍光材料を液体として混合させた均一な液体層でもよい。これにより、ガラス板構成体に光の吸収および発光といった光学的機能を付与することができる。
【0045】
(シール材及び仕切部)
シール材が、一方の板の端面と、液体層の端面と、他方の板の主面に密着している。一方の板の端面および液体層の端面が、他方の板の主面に対して垂直な場合、シール材は、断面視においてL字状に延びた輪郭を有する。このような構成により、ガラス板構成体の強度が向上する。
【0046】
また、シール材がテーパー面を有することが好ましい。これにより、板の端面を加工したのと同じ効果を得ることができる。
【0047】
シール材は、第1のガラス板と第2の板のそれぞれの端面に設けられるが、仕切部は、シール材に囲まれた領域内に複数の振動領域を形成するために適宜設けられる。
【0048】
シール材及び仕切部は、ポリ酢酸ビニル系、ポリ塩化ビニル系、ポリビニルアルコール系、エチレン共重合体系、ポリアクリル酸エステル系、シアノアクリレート系、飽和ポリエステル系、ポリアミド系、線状ポリイミド系、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ系、ポリウレタン系、不飽和ポリエステル系、反応性アクリル系、ゴム系、シリコーン系、変性シリコーン系からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。シール材と仕切部が同じ材料でも、異なっていても良く、仕切部はシール材より接着強度の低い材料から選択しても良い。
【0049】
(第1のガラス板および第2の板)
本発明に係るガラス板構成体においては、液体層を両側から挟むように、少なくとも2枚(少なくとも一対)の板が設けられる。そして、2枚の板のうち少なくとも1枚の板がガラス板である。このような構成において、何れかの板が共振した場合に、液体層の存在により、他の板が共振しない、又は、他の板の共振の揺れを減衰することができることから、ガラス板構成体は、ガラス板単独の場合と比べて損失係数を高くすることができる。
【0050】
一対の板を構成する2枚の板のうち、一方の板と他方の板の共振周波数のピークトップの値は異なることが好ましく、共振周波数の範囲が重なっていないものがより好ましい。ただし、一方の板および他方の板の共振周波数の範囲が重複する場合や、ピークトップの値が同じであっても、液体層の存在によって、一方の板が共振しても、他方の板の振動が同期しないことで、ある程度共振が相殺される。このことから、ガラス板単独の場合に比べて高い損失係数を得ることができる。
【0051】
すなわち、一方の板の共振周波数(ピークトップ)をQa、共振振幅の半値幅をwa、他方の板の共振周波数(ピークトップ)をQb、共振振幅の半値幅をwbとした時に、下記式(1)の関係を満たすことが好ましい。
(wa+wb)/4<|Qa-Qb|・・・(1)
式(1)における左辺の値が大きくなるほど二つの板の共振周波数の差異(|Qa-Qb|)が大きくなり、高い損失係数が得られるようになることから好ましい。
【0052】
そのため、下記の式(2)を満たすことがより好ましく、下記の式(3)を満たすことがより好ましい。
(wa+wb)/2<|Qa-Qb|・・・(2)
(wa+wb)/1<|Qa-Qb|・・・(3)
なお、板の共振周波数(ピークトップ)および共振振幅の半値幅は、ガラス板構成体における損失係数と同様の方法で測定することができる。
【0053】
一方の板と他方の板は、質量差が小さいほど好ましく、質量差がないことがより好ましい。板の質量差がある場合、軽い方の板の共振は重い方の板で抑制することはできるが、重い方の板の共振を軽い方の板で抑制することは困難である。すなわち、質量比に偏りがあると、慣性力の差異により、原理的に共振による振動を互いに打ち消せなくなる。
【0054】
一方の板/他方の板で表される2枚の板の質量比は0.1~10(1/10~10/1)が好ましく、0.5~2(5/10~10/5)がより好ましく、1.0(10/10、質量差0)がさらに好ましい。
【0055】
一方の板および他方の板の厚みはいずれも薄いほど、板同士が液体層を介して密着しやすく、また、板を少ないエネルギーで振動させることができる。そのため、スピーカー等の振動板用途の場合には、板の厚みは薄いほど好ましい。具体的には2枚の板の板厚が、それぞれ15mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましく、5mm以下がさらに好ましく、3mm以下がさらにより好ましく、1.5mm以下が特に好ましく、0.8mm以下が特により好ましい。一方、薄すぎると板の表面欠陥の影響が顕著になりやすく割れが生じやすくなったり、強化処理しにくくなったりすることから、0.01mm以上が好ましく、0.05mm以上がより好ましい。
【0056】
また、共振現象に起因する異音の発生を抑制した建築・車両用開口部材用途においては、一方の板および他方の板の板厚はそれぞれ0.5~15mmが好ましく、0.8~10mmがより好ましく、1.0~8mmがさらに好ましい。
【0057】
一方の板および他方の板の少なくともいずれか一方の板は、損失係数が大きい方が、ガラス板構成体としての振動減衰も大きくなり、振動板用途として好ましい。具体的には、板の25℃における損失係数は1×10-4以上が好ましく、3×10-4以上がより好ましく、5×10-4以上がさらに好ましい。上限は特に限定されないが、生産性や製造コストの観点から5×10-3以下であることが好ましい。また、一方の板および他方の板の両方が、上記損失係数を有することがより好ましい。
なお、板の損失係数は、ガラス板構成体における損失係数と同様の方法で測定することができる。
【0058】
一方の板および他方の板の少なくともいずれか一方の板は、板厚方向の縦波音速値が高い方が高周波領域の音の再現性が向上することから、振動板用途として好ましい。具体的には、板の縦波音速値が4.0×103m/s以上が好ましく、5.0×103m/s以上がより好ましく、6.0×103m/s以上がさらに好ましい。上限は特に限定されないが、板の生産性や原料コストの観点から7.0×103m/s以下が好ましい。また、一方の板および他方の板の両方が、上記音速値を満たすことがより好ましい。
なお、板の音速値は、ガラス板構成体における縦波音速値と同様の方法で測定することができる。
【0059】
本発明に係るガラス板構成体において、第1のガラス板はガラス板により構成される。第2の板の素材は任意であり、ガラス以外の樹脂による樹脂板(有機ガラス板ともいう)など、種々のものを採用することができる。意匠性や加工性の観点からは、樹脂板またはその複合材料を用いることが好ましく、樹脂板が、アクリル系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、PET樹脂、FRP材料を用いることが特により好ましい。
【0060】
少なくとも1枚の板がガラス板の場合、その組成は特に限定されないが、例えば下記範囲であることが好ましい。
SiO2:40~80質量%、Al2O3:0~35質量%、B2O3:0~15質量%、MgO:0~20質量%、CaO:0~20質量%、SrO:0~20質量%、BaO:0~20質量%、Li2O:0~20質量%、Na2O:0~25質量%、K2O:0~20質量%、TiO2:0~10質量%、かつ、ZrO2:0~10質量%。但し上記組成がガラス全体の95質量%以上を占める。
【0061】
ガラス板の組成はより好ましくは、下記範囲である。
SiO2:55~75質量%、Al2O3:0~25質量%、B2O3:0~12質量%、MgO:0~20質量%、CaO:0~20質量%、SrO:0~20質量%、BaO:0~20質量%、Li2O:0~20質量%、Na2O:0~25質量%、K2O:0~15質量%、TiO2:0~5質量%、かつ、ZrO2:0~5質量%。但し上記組成がガラス全体の95質量%以上を占める。
【0062】
ガラス板のヤング率を密度で除した値である比弾性率は、大きいほど、ガラス板の剛性を高くすることができる。具体的にはガラス板の比弾性率が2.5×107m2/s2以上が好ましく、2.8×107m2/s2以上がより好ましく、3.0×107m2/s2以上がさらにより好ましい。上限は特に限定されないが、ガラス製造時の成形性の観点から4.0×107m2/s2以下であることが好ましい。ヤング率は、日本工業規格(JIS-R1602-1995)に記載された超音波パルス法により測定することができる。
【0063】
ガラス板の比重はいずれも小さいほど、少ないエネルギーでガラス板を振動させることができる。具体的にガラス板の比重は、2.8以下が好ましく、2.6以下がより好ましく、2.5以下がさらにより好ましい。下限は特に限定されないが、2.2以上であることが好ましい。
【0064】
(ガラス板構成体)
ガラス板構成体を構成する板の少なくとも1枚および液体層の少なくともいずれか一方に着色することも可能である。これは、ガラス板構成体に意匠性を持たせたい場合や、IRカット、UVカット、プライバシーガラス等の機能性を持たせたい場合に有用である。
【0065】
ガラス板構成体を構成する板のうち、ガラス板は少なくとも1枚であればよいが、2枚以上のガラス板を用いてもよい。この場合、すべて異なる組成のガラス板を用いてもよく、すべて同じ組成のガラス板を用いてもよく、同じ組成のガラス板と異なる組成のガラス板とを組み合わせて用いてもよい。中でも、異なる組成からなる2種類以上のガラス板を用いることが振動減衰性の点から好ましく用いられる。
ガラス板の質量や厚みについても同様に、すべて異なっても、すべて同一でも、一部が異なっていてもよい。中でも、構成するガラス板の質量が全て同一であることが振動減衰性の点から好ましく用いられる。
【0066】
ガラス板構成体を構成するガラス板の少なくとも1枚に、物理強化ガラス板や化学強化ガラス板を用いることもできる。これは、ガラス板構成体の破壊を防ぐのに有用である。ガラス板構成体の強度を高めたい場合には、ガラス板構成体の最表面に位置するガラス板を、物理強化ガラス板又は化学強化ガラス板とすることが好ましく、構成するガラス板の全てが物理強化ガラス板又は化学強化ガラス板であることがより好ましい。
【0067】
また、ガラス板として、結晶化ガラスや分相ガラスを用いることも、縦波音速値や強度を高める点から有用である。特に、ガラス板構成体の強度を高めたい場合には、ガラス板構成体の最表面に位置するガラス板を結晶化ガラス又は分相ガラスとすることが好ましい。
【0068】
ガラス板構成体の少なくとも一方の最表面に本発明の効果を損なわない範囲でコーティングやフィルムを形成してもよい。コーティングの施工やフィルムの貼付は例えば傷付き防止等に好適である。
【0069】
コーティングやフィルムの厚みは、表層のガラス板の板厚の1/5以下であることが好ましい。コーティングやフィルムには従来公知の物を用いることができる。コーティングとしては例えば撥水コーティング、親水コーティング、滑水コーティング、撥油コーティング、光反射防止コーティング、遮熱コーティング、高反射コーティング等が挙げられる。また、フィルムとしては例えばガラス飛散防止フィルム、カラーフィルム、UVカットフィルム、IRカットフィルム、遮熱フィルム、電磁波シールドフィルム、プロジェクター用スクリーンフィルム等が挙げられる。
【0070】
ガラス板構成体の形状は、用途によって適宜設計することができ、平面板状であっても曲面形状でもよい。また、正面視において、四角形状、三角形状、円形状、多角形状などでもよい。
【0071】
低周波数帯域の出力音圧レベルを上げるため、ガラス板構成体にエンクロージャーまたはバッフル板を付与した構造とすることも出来る。エンクロージャーまたはバッフル板の材質は特に限定されないが、本発明のガラス板構成体を用いることが好ましい。
【0072】
ガラス板構成体の少なくとも一方の最表面に本発明の効果を損なわない範囲で、フレーム(枠)を設けてもよい。フレームは、ガラス板構成体の剛性を向上させたい場合、あるいは曲面形状を保持したい場合等に有用である。フレームの材質としては従来公知の物を用いることができるが、例えばAl2O3、SiC、Si3N4、AlN、ムライト、ジルコニア、イットリア、YAG等のセラミックスおよび単結晶材料、鋼、アルミニウム、チタン、マグネシウム、炭化タングステン等の金属および合金材料、FRP等の複合材料、アクリル、ポリカーボネート等の樹脂材料、ガラス材料、木材等を用いることが出来る。
用いるフレームの重量は、ガラス板の重量の20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
【0073】
ガラス板構成体とフレームとの間にはシール部材を有することもできる。さらに、ガラス板構成体の外周端部の少なくとも一部を、ガラス板構成体の振動を妨げないシール部材でシールしてもよい。シール部材としては、伸縮性の高いゴム、樹脂、ゲル等を用いることが出来る。
【0074】
シール部材用の樹脂に関しては、アクリル系、シアノアクリレート系、エポキシ系、シリコーン系、ウレタン系、フェノール系等を用いることができる。硬化方法としては一液型、二液混合型、加熱硬化、紫外線硬化、可視光硬化等が挙げられる。
熱可塑性樹脂(ホットメルトボンド)を用いることも出来る。例として、エチレン酢酸ビニル系、ポリオレフィン系、ポリアミド系、合成ゴム系、アクリル系、ポリウレタン系が挙げられる。
【0075】
ゴムに関しては、例えば天然ゴム、合成天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、エチレン・プロピレンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(ハイパロン)、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、エチレン・酢酸ビニルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム(チオコール)、水素化ニトリルゴムを用いることが出来る。
シール部材の厚さtは、薄すぎると十分な強度が確保されず、厚すぎると振動の支障となる。ゆえにシール部材の厚さは10μm以上かつガラス板構成体の合計厚みの5倍以下であることが好ましく、50μm以上かつガラス板構成体の合計厚みより薄いことがより好ましい。
【0076】
ガラス板構成体の板と液体層との界面における剥離防止等のために、向かい合う板の面の少なくとも一部に本発明の効果を損なわない範囲で上記のシール部材を塗布することができる。この場合、シール部材塗布部の面積は振動の支障とならないように液体層の面積の20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることが特に好ましい。
【0077】
また、シール性能を向上するために、板のエッジ部分を適切な形状に加工することも出来る。例えば少なくとも一方の板の端部をC面取り(板の断面形状が台形形状)またはR面取り(板の断面形状が略円弧状)することにより、シール部材と板の接触面積を増大させ、シール部材と板の接着強度を向上させることが出来る。
【0078】
(振動板)
本発明の振動板は、ガラス板構成体および、第1のガラス板または第2の板に設けられた振動子を含むことが好ましい。
【0079】
振動板としては、例えば、ガラス板構成体の片面または両面に1個以上の振動素子や振動検出素子(振動子)を設置することにより、スピーカー、マイクロフォン、イヤフォン、モバイル機器等の筺体振動体や筺体スピーカーとして機能させることができる。出力音圧レベルを向上させるためには、2個以上の振動素子をガラス板構成体の両面に設置することが望ましい。
【0080】
一般に振動板に対する振動子の位置はガラス構成体の中央部であることが望ましいが、本材料は高音速かつ高減衰性能を有するため、振動子をガラス板構成体の端部に設置してもよい。本発明に係る振動板を用いることにより、従来再現が難しかった高周波領域の音の再生が容易に可能となる。また、ガラス板構成体の大きさ、形状、色調等における自由度が高く、意匠性を施すことが可能であることから、デザイン性にも優れた振動板を得ることができる。また、ガラス板構成体表面または近傍に設置した集音用マイクロフォンまたは振動検出器で音声または振動をサンプリングし、これと同位相あるいは逆位相の振動をガラス板構成体に発生させることによりサンプリングした音声または振動を増幅したり打ち消したりすることができる。
【0081】
このとき、上記のサンプリング点における音声または振動の特性が、ガラス板構成体に伝搬するまでの間に、或る音響伝達関数に基づいて変化する場合、および、ガラス板構成体に音響変換伝達関数が存在する場合には、制御フィルタを用いて制御信号の振幅と位相を補正することにより、振動を精度よく増幅したりキャンセルしたりすることが可能となる。上記のような制御フィルタを構成する際、例えば最小二乗法(LMS)アルゴリズムを用いることが出来る。
【0082】
より具体的な構成として、例えば、複層ガラスの全部または少なくとも1枚のガラス板を本発明のガラス板構成体とする。そして、制御対象の音波振動が流入する側の板の振動レベルまたはガラス間に存在する空間の音圧レベルをサンプリングし、このサンプリングを、制御フィルタにより適切に信号補正した上で音波振動が流出する側に設置されたガラス板構成体上の振動素子に出力する構造とすることが出来る。
【0083】
本振動板の用途としては、例えば電子機器用部材として、フルレンジスピーカー、15Hz~200Hz帯の低音再生用スピーカー、10kHz~100kHz帯の高音再生スピーカー、振動板の面積が0.2m2以上の大型スピーカー、振動板の面積が3cm2以下の小型スピーカー、平面型スピーカー、円筒型スピーカー、透明スピーカー、スピーカーとして機能するモバイル機器用カバーガラス、TVディスプレイ用カバーガラス、映像信号と音声信号とが同一の面から生じるディスプレイ、ウェアラブルディスプレイ用スピーカー、電光表示器、照明器具、等に利用することが出来る。また、ヘッドフォン、イヤフォンまたはマイク用の振動板、振動センサーとして用いることが出来る。
【0084】
車両等の輸送機械の内装用振動部材として、車載・機載スピーカーとして用いることができる。例えばスピーカーとして機能するサイドミラー、サンバイザー、インパネ、ダッシュボード、天井、ドア、その他内装パネルとすることが出来る。これらをマイクロフォンおよびアクティブノイズコントロール用振動板として機能させることもできる。
【0085】
その他の用途として、超音波発生装置用振動板、超音波モーター用スライダ、低周波発生装置、液中に音波振動を伝搬させる振動子、およびそれを用いた水槽並びに容器、振動素子、振動検出素子、振動減衰装置用のアクチュエータ用材料として用いることができる。
【0086】
(ガラス板構成体の実施形態)
図1は、本発明のガラス板構成体10の一例を示す断面図で、(a)は第1の実施形態、(b)は第2の実施形態を示す。
【0087】
ガラス板構成体10は、第1のガラス板20と、第1のガラス板20に対向して配置される第2の板30と、第1のガラス板20および第2の板30の間に液体を封止して形成される液体層40と、液体層40の液漏れを防止し第1のガラス板20と第2の板30を接合するシール材50と、液体層40を仕切る仕切部60と、仕切部60で仕切られ平面視においてそれぞれ独立して振動可能な複数の振動領域70とを備える。
【0088】
複数の振動領域70に分けることにより、各振動領域70で独立した振動が可能となり、ステレオ、多次元的な音の再生が可能となるとともに、映像に合わせた局所的な再生が可能となる。例えば、映像における特定の人やモノから音などを、映像中の位置から局所的に表現が可能となる。
【0089】
また、複数の振動領域70の面積がそれぞれ等しいことが好ましい。面積が等しければ、ステレオなどの左右や上下の音源を均一にすることができ、良質な音を再生できる。また、複数の振動領域70が異なる面積であっても良い。特定の音源や、映像に合わせた独自の音を再生できる。
【0090】
第1のガラス板20は、二つの対向する主面(第2の板30側を主面21とする)と、端部22における端面とを有し、第2の板30も同様に、二つの対向する主面(第1のガラス板側の主面31とする)と、端部32における端面とを有する。液体層40とシール材50および仕切部60は、第1のガラス板20と第2の板30との間に配置され、シール材50は液体層40を取り囲むように各端部22,32の端面側に配置されている。即ち、シール材50は、端部22、32の端面から主面21、31の中心部に向かう部分である、第1のガラス板20、第2の板30の周囲に設けられる。また、「主面」は、視認のための光が出射する面を意味する。
【0091】
仕切部60は、シール材50で画定された空間内に配置され、第1のガラス板20の主面21と第2の板30の主面31の両方に接合している状態(第1の実施形態)か、一方の主面(21または31)に接合し、他方の主面(31または21)とはやや離間した状態(第2の実施形態)にある。尚、断面的(部分的に)に第1のガラス板20と第2の板30との間の空間に配置されていても良い。また、各実施形態を独立して形成しても良く、各実施形態を組み合わせして形成しても良い。
【0092】
第1の実施形態において、振動領域70における液体層40は、当該振動領域70の縁部に形成され、他の振動領域70との境界を画定する仕切部60によって密封されている。
【0093】
仕切部60が完全に液体層40を隙間なく仕切ることで、明確に振動領域70を仕切ることが可能となり、振動領域70ごとの振動の独立性を高めることができる。また、接着部分の面積も増えるため、第1のガラス板20と第2の板30との接着強度が向上する。
【0094】
シール材50及び仕切部60と、液体層40となる液剤(液体)の塗布方法を説明する。
【0095】
(シール材、仕切部、塗布)
シール材50は、例えば縦100mm、横100mm、厚さ0.5mmの第2の板30の主面31に、ディスペンサーを用いて端部32から1mm間隔をあけ、幅0.5mmで線描画される。また、複数の振動領域70を形成するため、仕切部60を第2の板30の主面31にシール材5と同様に線描画する。仕切部60は、シール材50と同じ材料でも良く、シール材50より接着強度の低い材料でも良い。
【0096】
(液剤塗布)
ディスペンサーを用いて、第2の板30の中央部分(シール材50に取り囲まれた部分)に液剤(オイル剤)を、例えば線幅0.5mm、線間隔4mmでシール材50の塗布線との間隔2mmを保って線描画する。液剤の吐出量は、貼合後の液体層40の層厚が3μmになるように質量を合わせて塗布する。例えば、シール材50の線内部の領域が縦100mm、横100mmであるところに、厚さ3μmで密度1g/cm3の液剤を塗布する場合、塗布量合計0.03gになるように吐出質量をコントロールすればよい。このとき、シール材50と液体層40になる液剤の線描画はどちらを先に塗布しても良い。
【0097】
100mm×100mm×0.5mm寸法の第2の板30を用意する。その第2の板30にディスペンサー(武蔵エンジニアリング製;SHOTMASTER400DS-s)を用いて、液剤として25℃における動粘度3000(mm2/s)のジメチルシリコーンオイル、およびメチルフェニルシリコーンオイルを、端部及び仕切部60の端部から幅5mmのあそびを設け、一様に塗布する。さらに第2の板30の端部に線幅約0.5mmでシール材(硬化樹脂)50を塗布し、第2の板30と第1のガラス板20を貼合後、シール材50と仕切部60を硬化させる。
【0098】
(貼合工程)
上述の工程を経て、シール材50、仕切部60および液剤を塗布し、塗布した第2の板30と、同種同サイズの未塗布の第1のガラス板20を減圧下で貼合する。減圧貼合の際、圧力は1500Pa以下であれば好ましく、300Pa以下であればより好ましく、さらに100Pa以下であれば好ましく、特に10Pa以下であることが望ましい。貼合後、UV照射や加熱など、使用するシール材50の硬化形態に合わせてシール材50を硬化させる。
【0099】
貼合の際に、内側に塗布した液剤が伸び広がり、シール材50と接触して内側から力がかかり、シール材50は主に外側に広がる。シール材50は外に広がるが、第1のガラス板20と第2の板30のそれぞれの端部22,32で表面張力がはたらき、第1のガラス板20、第2の板30から液剤が漏れ出ることがなく、液体層40が形成され、複数の振動領域70が形成される。
尚、シール材50、仕切部60、液体層40の液剤を第2の板30の主面31に塗布することを説明したが、第1のガラス板20の主面21でも良い。
【0100】
図2~
図6に基づいて、平面視において独立して振動可能な振動領域70の実施例について説明する。仕切部60の形状は、第1の実施形態、第2の実施形態を適宜用いることが可能である。
【0101】
図2は、振動領域70を均等に分割した例である。実施例1(
図2の(a))は平面視左右2分割、実施例2(
図2の(b))は上下左右4分割、実施例3(
図2の(c))は上下左右6分割、実施例4(
図2の(d))は上下左右8分割である。音源や映像に合わせて複数に振動領域70を分割することが可能である。また、第1のガラス板20または第2の板30に振動子80を設けることも可能であり、以下の実施例も同様である。
【0102】
図3は、多次元再生を目的として左右又は上下での分割である。実施例5(
図3の(a))は左右2分割、実施例6は(
図3の(b))は左右3分割、実施例7(
図3の(c))は上下2分割、実施例8(
図3の(d))は上下3分割である。分割された振動領域70の面積は同じでも異なっていても良い。複数のチャンネルを必要とする振動板などに好適である。
【0103】
図4は、局所的分割を示す一例である。実施例9(
図4の(a))は中央領域に略角形形状で一つの振動領域71があり、仕切部60を境界としてその周辺にも他の振動領域72がある。実施例10(
図4の(b))も同様であるが、振動領域71が端部22、32近傍にある。実施例11(
図4の(c))は振動領域71が略円形状である。実施例12(
図4の(d))は中央の振動領域71が複数ある例である。局所的に形成された振動領域70の形状、数に限定しないが、求める音源等により選択可能である。
【0104】
また、振動領域71の周囲に他の振動領域72が形成されていることを説明したが、振動領域70はスポット的でも良く、振動領域71の周囲は固体材料や空白な領域(非振動領域)であっても良い。そして、周辺で振動領域72が形成され、中央部は固体材料や空白な領域(非振動領域)であっても良い。
【0105】
図5は、特殊形状の例を示す。実施例13(
図5の(a))は、振動領域71が平面視十字形状である。実施例14(
図5の(b))は、複数の振動領域71が直列に配列されている。これらの特殊形状は、特定の領域での音の再生、映像との組み合わせに好適である。
【0106】
図6は、振動領域70と非振動領域75との併用である。実施例15(
図6)は、複数の振動領域70を有し、部分的に固体材料などが配置された非振動領域75を有している。また、振動領域70を分ける第1の実施形態の仕切部61と第2の実施形態の仕切部62とを採用することにより、隣接する振動領域70の液体層40の液体が仕切られ場合と、流動可能な状態で接する場合とに分かれる。
【0107】
実施例15では、一例として、独立した振動領域70aと液体が流動可能な振動領域70bを示している。振動領域70b同士において、液体層40の液体は完全に混じり合わず、それぞれある程度の分離状態を保ちつつ、定位置にある。実施例15に限らず、上述の各実施例においても、仕切部60の実施形態は、音の再生目的に合わせて選択可能である。また、液体層40の液体の成分を変えることにより、振動領域70b同士の液体の分離を維持させることも可能である。
【0108】
図7の表に基づいて、比較例と試験例との試験結果を説明する。
【0109】
所定の大きさ(例えば55inch、厚さ1.1mm)のガラス板構成体10を表の通り作成した。比較例はガラス単板(55inch、厚さ1.1mm)、試験例1は振動領域の面積が等しくなるように仕切部60で2分割したガラス板構成体(55inch、厚さ1.1mmの2枚のガラス板の間に液体層を有する)、試験例2は振動領域の面積が等しくなるように仕切部60で8分割したガラス板構成体(試験例1と同じ構成)である。「LRモード再生」とは、2つの振動子から互いに異なる振動を発生させる再生方法である。試験例1では、2つの振動領域の中心にそれぞれ1つの振動子を配置し、LRモード再生を行った。比較例では、試験例1と同じ位置に振動子を配置し、LRモード再生を行った。試験例2では、8つの振動領域のうち、左側の4つの振動領域のうちいずれか1つの振動領域の中心に振動子を1つ配置し、右側の4つの振動領域のうちいずれか1つの振動領域の中心に振動子を1つ配置し、LRモード再生を行った。スイープ音及び音楽を発信してそれぞれの良好性を確認した。優れた再生が可能であるものを「◎」、良好な再生が可能であるものを「○」、良好な再生が困難なものを「×」として評価した。
【0110】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0111】
本出願は2017年10月4日出願の日本国特許出願(特願2017-194639)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明のガラス板構成体は、複数の振動領域を備えるため、ステレオ再生、局所再生などを要求する分野に好適である。また、スピーカーやマイクロフォン、イヤフォン、モバイル機器等に用いられる振動板にも好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0113】
10 ガラス板構成体
20 第1のガラス板
30 第2の板
40 液体層
50 シール材
60 仕切部
70 振動領域
80 振動子