(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】膜厚測定方法、膜厚測定システム、光反射フィルムの製造方法及び光反射フィルムの製造システム
(51)【国際特許分類】
G01B 11/06 20060101AFI20220621BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
G01B11/06 101G
G01N21/27 B
(21)【出願番号】P 2019551123
(86)(22)【出願日】2018-10-22
(86)【国際出願番号】 JP2018039206
(87)【国際公開番号】W WO2019087848
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2017211444
(32)【優先日】2017-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 美佳
(72)【発明者】
【氏名】増田 治加
(72)【発明者】
【氏名】森藤 亨
【審査官】九鬼 一慶
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-031559(JP,A)
【文献】特開2009-079938(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0183188(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00 -11/30
G01N 21/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、当該基材上に形成された金属層と、当該金属層上に形成された可視光透過膜とを備える光反射フィルムにおける前記可視光透過膜の膜厚測定方法であって、
前記光反射フィルムにおける前記可視光透過膜側に光照射し、前記可視光透過膜表面で反射した第1反射光と、前記金属層表面で反射した第2反射光と、を含む反射干渉光の反射スペクトルを測定し、
前記金属層における最大光反射率に対する光反射率の割合が40%以下となる波長領域を特定波長領域としたとき、当該特定波長領域における前記反射干渉光の反射スペクトルと、基準スペクトルとに基づいて、前記可視光透過膜の膜厚を推定することを特徴とする膜厚測定方法。
【請求項2】
前記可視光透過膜に550nmの波長の光を照射した際の光反射率が、前記金属層に550nmの波長の光を照射した際の光反射率に対して、1/4以下であることを特徴とする請求項1に記載の膜厚測定方法。
【請求項3】
前記特定波長領域における前記光反射フィルムの前記可視光透過膜側に光照射したときの光反射率の割合が、0~35%の範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の膜厚測定方法。
【請求項4】
前記可視光透過膜の屈折率が、1.3~1.6の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の膜厚測定方法。
【請求項5】
前記基準スペクトルが、
前記可視光透過膜の屈折率n1及び消衰係数k1と、前記金属層を構成する金属の屈折率n2及び消衰係数k2と、を用いて、前記反射干渉光の反射スペクトルを、前記可視光透過膜の所定の膜厚ごとにシミュレーションにより作成したものであり、
前記可視光透過膜の前記屈折率n1及び前記消衰係数k1は、評価用基材上に、前記可視光透過膜と同様の方法で形成した評価用可視光透過膜を用いて測定した推定値であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の膜厚測定方法。
【請求項6】
前記金属層を構成する金属の前記屈折率n2及び前記消衰係数k2が、前記金属層を用いて測定した実測値であることを特徴とする請求項5に記載の膜厚測定方法。
【請求項7】
前記可視光透過膜が、2層以上の可視光透過膜が積層されてなることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の膜厚測定方法。
【請求項8】
前記可視光透過膜が、低屈折率層と、当該低屈折率層よりも屈折率が高い高屈折率層とが、この順に前記金属層上に積層されたものであることを特徴とする請求項7に記載の膜厚測定方法。
【請求項9】
基材と、当該基材上に形成された金属層と、当該金属層上に形成された可視光透過膜とを備える光反射フィルムにおける前記可視光透過膜の膜厚測定システムであって、
前記光反射フィルムにおける前記可視光透過膜側に光照射し、前記可視光透過膜表面で反射した第1反射光と、前記金属層表面で反射した第2反射光と、を含む反射干渉光の反射スペクトルを測定する測定装置と、
前記金属層における最大光反射率に対する光反射率の割合が40%以下となる波長領域を特定波長領域としたとき、当該特定波長領域における前記反射干渉光の反射スペクトルと、基準スペクトルとに基づいて、前記可視光透過膜の膜厚を推定する演算装置と、
を備えることを特徴とする膜厚測定システム。
【請求項10】
基材と、当該基材上に形成された金属層と、当該金属層上に形成された可視光透過膜とを備える光反射フィルムの製造方法であって、
前記基材上に前記金属層を形成する工程と、
前記金属層上に前記可視光透過膜を形成する工程と、
前記可視光透過膜形成後に、前記光反射フィルムにおける前記可視光透過膜側に光照射し、前記可視光透過膜表面で反射した第1反射光と、前記金属層表面で反射した第2反射光と、を含む反射干渉光の反射スペクトルを測定する工程と、
前記金属層における最大光反射率に対する光反射率の割合が40%以下となる波長領域を特定波長領域としたとき、当該特定波長領域における前記反射干渉光の反射スペクトルと、基準スペクトルとに基づいて、前記可視光透過膜の膜厚を推定する工程と、
前記推定された前記可視光透過膜の膜厚に基づいて、前記可視光透過膜を形成する工程における膜形成条件を調整する工程と、
を有することを特徴とする光反射フィルムの製造方法。
【請求項11】
基材と、当該基材上に形成された金属層と、当該金属層上に形成された可視光透過膜とを備える光反射フィルムの製造システムであって、
前記基材上に前記金属層を形成する第1の膜形成装置と、
前記金属層上に前記可視光透過膜を形成する第2の膜形成装置と、
前記可視光透過膜形成後に、前記光反射フィルムにおける前記可視光透過膜側に光照射し、前記可視光透過膜表面で反射した第1反射光と、前記金属層表面で反射した第2反射光と、を含む反射干渉光の反射スペクトルを測定する測定装置と、
前記金属層における最大光反射率に対する光反射率の割合が40%以下となる波長領域を特定波長領域としたとき、当該特定波長領域における前記反射干渉光の反射スペクトルと、基準スペクトルとに基づいて、前記可視光透過膜の膜厚を推定する演算装置と、
前記推定された前記可視光透過膜の膜厚に基づいて、前記第2の膜形成装置の膜形成条件を調整する制御装置と、
を備えることを特徴とする光反射フィルムの製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜厚測定方法、膜厚測定システム、光反射フィルムの製造方法及び光反射フィルムの製造システムに関する。より詳細には、本発明は、膜厚を測定する際の原材料ロス及び膜厚測定時間ロスを抑制でき、かつ測定精度の高い、金属層上に形成された可視光透過膜の膜厚測定方法、膜厚測定システム、光反射フィルムの製造方法及び光反射フィルムの製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
銀などからなる高光反射性の金属層上に、可視光透過膜を積層した場合、当該可視光透過膜の膜厚が、所望の厚さで形成されたかどうかを確認する膜厚測定方法は複数ある。
例えば、破壊式の膜厚測定方法として、可視光透過膜の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で計測して膜厚を計測することが知られている。しかし、この方法では、特に可視光透過膜がポリマーにより形成されている場合、測定する際に膜自体が変形してしまうため、正確な膜厚が分からないという問題がある。また、可視光領域で使用する高反射体上に可視光透過膜(増反射膜)を形成する場合、当該可視光透過膜の膜厚を10~100nmとすることが多いが、正確な膜厚を測定しながら製造することが難しいため、製造時の膜厚コントロールが困難であった。
【0003】
一方、非破壊式の膜厚測定方法として、蒸着チャンバー内に設置した水晶振動子によって蒸着膜厚をモニターする方法も知られているが、積層する相手の表面エネルギーによっては、所望の膜厚で層形成できないことがある。具体的には、水晶振動子への積層膜厚に比べて蒸着した積層相手への膜厚が薄いことがある。
【0004】
他の非破壊式の膜厚測定方法として、光学式干渉によって既知の屈折率nと吸収係数kの値を使って膜厚をシミュレーションによって算出する方法が知られている。
例えば、可視光透明な膜をガラス板に形成した場合、空気との屈折率が異なる材料は界面反射がある。そのため、反射光の強度(4~15%)が波長に依存することを利用して、反射干渉光のスペクトル形状をシミュレーションし、フィッティングすることができる。そして、このシミュレーションしたスペクトル形状と、実測したスペクトル形状とを比較することによって膜厚を算出できる。
【0005】
しかし、光学式干渉計では、可視光領域で高光反射性の金属膜上に可視光透過膜を積層する場合、可視光透過膜の反射強度は高光反射性の金属膜の反射強度に比べると非常に小さいため、可視光透過膜側から光照射した際の反射干渉光のスペクトル形状を実測することが困難である。また、積層する相手の表面エネルギーによって、形成される膜厚は異なるため、所望の厚さであるのかを判別することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、膜厚を測定する際の原材料ロス及び膜厚測定時間ロスを抑制でき、かつ測定精度の高い、金属層上に形成された可視光透過膜の膜厚測定方法、膜厚測定システム、光反射フィルムの製造方法及び光反射フィルムの製造システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討した結果、基材、金属層及び可視光透過膜が順に積層された光反射フィルムに光照射し、その反射干渉光の反射スペクトルを測定し、前記金属層の最大光反射率に対する光反射率の割合が40%以下となる波長領域を特定波長領域としたとき、当該特定波長領域における前記反射干渉光の反射スペクトルと、基準スペクトルとに基づいて、膜厚を測定できることを見いだし、本発明に至った。
すなわち、本発明に係る課題は、以下の手段により解決される。
【0009】
1.基材と、当該基材上に形成された金属層と、当該金属層上に形成された可視光透過膜とを備える光反射フィルムにおける前記可視光透過膜の膜厚測定方法であって、
前記光反射フィルムにおける前記可視光透過膜側に光照射し、前記可視光透過膜表面で反射した第1反射光と、前記金属層表面で反射した第2反射光と、を含む反射干渉光の反射スペクトルを測定し、
前記金属層における最大光反射率に対する光反射率の割合が40%以下となる波長領域を特定波長領域としたとき、当該特定波長領域における前記反射干渉光の反射スペクトルと、基準スペクトルとに基づいて、前記可視光透過膜の膜厚を推定することを特徴とする膜厚測定方法。
【0010】
2.前記可視光透過膜に550nmの波長の光を照射した際の光反射率が、前記金属層に550nmの波長の光を照射した際の光反射率に対して、1/4以下であることを特徴とする第1項に記載の膜厚測定方法。
【0011】
3.前記特定波長領域における前記光反射フィルムの前記可視光透過膜側に光照射したときの光反射率の割合が、0~35%の範囲内であることを特徴とする第1項又は第2項に記載の膜厚測定方法。
【0012】
4.前記可視光透過膜の屈折率が、1.3~1.6の範囲内であることを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の膜厚測定方法。
【0013】
5.前記基準スペクトルが、
前記可視光透過膜の屈折率n1及び消衰係数k1と、前記金属層を構成する金属の屈折率n2及び消衰係数k2と、を用いて、前記反射干渉光の反射スペクトルを、前記可視光透過膜の所定の膜厚ごとにシミュレーションにより作成したものであり、
前記可視光透過膜の前記屈折率n1及び前記消衰係数k1は、評価用基材上に、前記可視光透過膜と同様の方法で形成した評価用可視光透過膜を用いて測定した推定値であることを特徴とする第1項から第4項までのいずれか一項に記載の膜厚測定方法。
【0014】
6.前記金属層を構成する金属の前記屈折率n2及び前記消衰係数k2が、前記金属層を用いて測定した実測値であることを特徴とする第5項に記載の膜厚測定方法。
【0015】
7.前記可視光透過膜が、2層以上の可視光透過膜が積層されてなることを特徴とする第1項から第6項までのいずれか一項に記載の膜厚測定方法。
【0016】
8.前記可視光透過膜が、低屈折率層と、当該低屈折率層よりも屈折率が高い高屈折率層とが、この順に前記金属層上に積層されたものであることを特徴とする第7項に記載の膜厚測定方法。
【0017】
9.基材と、当該基材上に形成された金属層と、当該金属層上に形成された可視光透過膜とを備える光反射フィルムにおける前記可視光透過膜の膜厚測定システムであって、
前記光反射フィルムにおける前記可視光透過膜側に光照射し、前記可視光透過膜表面で反射した第1反射光と、前記金属層表面で反射した第2反射光と、を含む反射干渉光の反射スペクトルを測定する測定装置と、
前記金属層における最大光反射率に対する光反射率の割合が40%以下となる波長領域を特定波長領域としたとき、当該特定波長領域における前記反射干渉光の反射スペクトルと、基準スペクトルとに基づいて、前記可視光透過膜の膜厚を推定する演算装置と、
を備えることを特徴とする膜厚測定システム。
【0018】
10.基材と、当該基材上に形成された金属層と、当該金属層上に形成された可視光透過膜とを備える光反射フィルムの製造方法であって、
前記基材上に前記金属層を形成する工程と、
前記金属層上に前記可視光透過膜を形成する工程と、
前記可視光透過膜形成後に、前記光反射フィルムにおける前記可視光透過膜側に光照射し、前記可視光透過膜表面で反射した第1反射光と、前記金属層表面で反射した第2反射光と、を含む反射干渉光の反射スペクトルを測定する工程と、
前記金属層における最大光反射率に対する光反射率の割合が40%以下となる波長領域を特定波長領域としたとき、当該特定波長領域における前記反射干渉光の反射スペクトルと、基準スペクトルとに基づいて、前記可視光透過膜の膜厚を推定する工程と、
前記推定された前記可視光透過膜の膜厚に基づいて、前記可視光透過膜を形成する工程における膜形成条件を調整する工程と、
を有することを特徴とする光反射フィルムの製造方法。
【0019】
11.基材と、当該基材上に形成された金属層と、当該金属層上に形成された可視光透過膜とを備える光反射フィルムの製造システムであって、
前記基材上に前記金属層を形成する第1の膜形成装置と、
前記金属層上に前記可視光透過膜を形成する第2の膜形成装置と、
前記可視光透過膜形成後に、前記光反射フィルムにおける前記可視光透過膜側に光照射し、前記可視光透過膜表面で反射した第1反射光と、前記金属層表面で反射した第2反射光と、を含む反射干渉光の反射スペクトルを測定する測定装置と、
前記金属層における最大光反射率に対する光反射率の割合が40%以下となる波長領域を特定波長領域としたとき、当該特定波長領域における前記反射干渉光の反射スペクトルと、基準スペクトルとに基づいて、前記可視光透過膜の膜厚を推定する演算装置と、
前記推定された前記可視光透過膜の膜厚に基づいて、前記第2の膜形成装置の膜形成条件を調整する制御装置と、
を備えることを特徴とする光反射フィルムの製造システム。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、膜厚を測定する際の原材料ロス及び膜厚測定時間ロスを抑制でき、かつ測定精度の高い、金属層上に形成された可視光透過膜の膜厚測定方法、膜厚測定システム、光反射フィルムの製造方法及び光反射フィルムの製造システムを提供することができる。
【0021】
本発明の効果の発現機構又は作用機構は以下のとおりである。
光学式干渉法によって、可視光透過膜の膜厚の測定する場合、通常はこれらを実際に使用する際の光波長領域である可視光領域の光を用いて膜厚を測定することが知られている。
しかし、金属層上に積層した可視光透過膜の膜厚を測定する場合には、可視光透過膜表面での反射光強度が、金属層表面の反射光強度に対して非常に弱いため、精度の高い膜厚測定をすることができなかった。
【0022】
本発明者らは、検討の結果、金属層の最大光反射率に対する光反射率の割合が40%以下となる波長領域を特定波長領域に設定し、光反射フィルムの反射干渉光の反射スペクトルと、基準スペクトルに基づいて膜厚を推定することで、精度よく膜厚を測定できることを見いだした。当該特定波長領域では、金属層の光反射率が低いため、金属層表面の反射光強度に対する可視光透過膜表面で反射光強度の割合が高くなり、可視光透過膜の膜厚を精度よく測定することができる。
【0023】
また、本発明の膜厚の測定方法を用いれば、例えば、ロールtoロール方式で可視光透過膜を備えた光反射フィルムを製造する場合、可視光透過膜の製膜工程を長時間ストップせずに、膜厚測定しつつ可視光透過膜の製膜をすることができる。そのため、製造時間のロスを軽減しつつ、所望の膜厚の可視光透過膜が積層された光反射フィルムを製造することができる。
【0024】
また、従来の方法では、膜厚確認用に可視光透過膜を別途成膜した光反射フィルムを作製し、当該可視光透過膜の膜厚を測定すること等を行っていたが、通常、その膜厚確認用として可視光透過膜を形成した部分は製品としては使えない部分となり、原材料のロスがあった。本技術を活用すると、例えば、ロールtoロール方式のライン上で、製品となる可視光透過膜に直接光照射して膜厚を測定できるので、原材料ロスを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明に係る光反射フィルムの一例を示す断面図
【
図2】本発明に係る光反射フィルムに光照射した際の反射干渉光を説明するための断面図
【
図3】金属層に光照射した際の光反射率を示すグラフ
【
図4】実施例の光反射フィルム1の光反射フィルムの低屈折率層L1について、シミュレーションにより作成した基準スペクトルを示すグラフ
【
図5】特定波長領域の基準スペクトルを示す
図4の一部を拡大したグラフ
【
図6】
図5と同じ特定波長領域で膜厚を変更した基準スペクトルを示すグラフ
【
図7】本発明の光反射フィルムの製造システムの一例を示す概略図
【
図8】実施例の光反射フィルム2の光反射フィルムの高屈折率層Hについて、シミュレーションにより作成した特定波長領域における基準スペクトルを示すグラフ
【
図9】
図8と同じ特定波長領域で膜厚を変更した基準スペクトルを示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の膜厚測定方法は、基材と、当該基材上に形成された金属層と、当該金属層上に形成された可視光透過膜とを備える光反射フィルムにおける前記可視光透過膜の膜厚測定方法であって、前記光反射フィルムにおける前記可視光透過膜側に光照射し、前記可視光透過膜表面で反射した第1反射光と、前記金属層表面で反射した第2反射光と、を含む反射干渉光の反射スペクトルを測定し、前記金属層における最大光反射率に対する光反射率の割合が40%以下となる波長領域を特定波長領域としたとき、当該特定波長領域における前記反射干渉光の反射スペクトルと、基準スペクトルとに基づいて、前記可視光透過膜の膜厚を推定することを特徴とする。この特徴は、下記実施態様に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0027】
本発明の実施態様としては、前記可視光透過膜に550nmの波長の光を照射した際の光反射率が、前記金属層に550nmの波長の光を照射した際の光反射率に対して、1/4以下であることが好ましい。可視光透過膜が低屈折率の材料で構成されている場合には、空気との界面の屈折率差が小さいので、界面反射が小さくなる(例えば、4~8%程度)。このとき、金属層に550nmの波長の光を照射した際の光反射率が大きいと(例えば、41~100%)、従来の方法では膜厚の測定は困難である。本発明の方法であれば、このような可視光透過膜に550nmの波長の光を照射した際の光反射率が、金属層に550nmの波長の光を照射した際の光反射率に対して、1/4以下であるような場合でも、膜厚を精度よく測定できる。
【0028】
本発明の実施態様としては、前記特定波長領域における前記光反射フィルムの前記可視光透過膜側に光照射したときの光反射率の割合が、0~35%の範囲内であることが好ましい。これにより、本発明の効果をより有効に得ることができる。
【0029】
本発明の実施態様としては、前記可視光透過膜の屈折率が、1.3~1.6の範囲内であることが好ましい。これにより、のちに成膜する高屈折率層との組み合わせで光学干渉効果により増反射膜として機能できるため好ましい。
【0030】
本発明の実施態様としては、前記基準スペクトルが、前記可視光透過膜の屈折率n1及び消衰係数k1と、前記金属層を構成する金属の屈折率n2及び消衰係数k2と、を用いて、前記反射干渉光の反射スペクトルを、前記可視光透過膜の所定の膜厚ごとにシミュレーションにより作成したものであり、前記可視光透過膜の前記屈折率n1及び前記消衰係数k1は、評価用基材上に、前記可視光透過膜と同様の方法で形成した評価用可視光透過膜を用いて測定した推定値であることが好ましい。これにより、膜厚の測定精度を高めることができる。
【0031】
本発明の実施態様としては、前記金属層を構成する金属の前記屈折率n2及び前記消衰係数k2が、前記金属層を用いて測定した実測値であることが好ましい。これにより、膜厚の測定精度を高めることができる。
【0032】
本発明の膜厚測定方法は、前記可視光透過膜が、2層以上の可視光透過膜が積層された光反射フィルムに対しても好適に適用できる。
【0033】
本発明の膜厚測定方法は、前記可視光透過膜が、低屈折率層と、当該低屈折率層よりも屈折率が高い高屈折率層とが、この順に前記金属層上に積層された光反射フィルムに対しても好適に適用できる。
【0034】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、数値範囲を表す「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用している。
【0035】
[膜厚測定方法]
本発明の膜厚測定方法は、基材と、当該基材上に形成された金属層と、当該金属層上に形成された可視光透過膜とを備える光反射フィルムにおける前記可視光透過膜の膜厚測定方法であって、前記光反射フィルムにおける前記可視光透過膜側に光照射し、前記可視光透過膜表面で反射した第1反射光と、前記金属層表面で反射した第2反射光と、を含む反射干渉光の反射スペクトルを測定し、前記金属層における最大光反射率に対する光反射率の割合が40%以下となる波長領域を特定波長領域としたとき、当該特定波長領域における前記反射干渉光の反射スペクトルと、基準スペクトルとに基づいて、前記可視光透過膜の膜厚を推定するものである。
ここで、本明細書でいう「基準スペクトル」とは、膜厚測定の際に、基準として用いる反射スペクトルをいう。基準スペクトルの詳細は後述する。
また、本明細書でいう「最大光反射率に対する光反射率の割合」における「最大光反射率」とは、200~1400nmの波長範囲内で光反射率を測定したときに最大となる光反射率のことをいう。
【0036】
本発明に係る光反射フィルム10は、基材11と、当該基材11上に形成された金属層12と、当該金属層12上に形成された可視光透過膜15とを備えるものである(
図1)。
また、可視光透過膜は、1層からなるものでもよく、2層以上の層が積層されてなるものでもよい。
図1には、可視光透過膜15として、低屈折率層13と高屈折率層14が積層された2層構成の例を示している。また、
図2には、可視光透過膜が1層からなる場合の例を示している。
【0037】
金属層上に可視光透過膜が形成されたサンプルに光が垂直に入射した場合、大気/可視光透過膜界面と、可視光透過膜/金属層界面の2か所で光が反射する。ここで、膜厚:d、屈折率:n、入射光波長:λとし、iを整数とすると、2nd=iλのとき二つの光は強め合い、2nd=(i+1/2)λのとき二つの光は打ち消し合う。つまり反射光強度を縦軸、入射光波長を横軸にとると、反射光強度は入射光波長に対してある振幅を持った波のような特性を有することになる。このとき波の振幅は、金属層の屈折率n2及び消衰係数k2と、可視光透過膜の屈折率n1と消衰係数k1によって決まる。
【0038】
ここで、例えば、
図2に示す光反射フィルム10における可視光透過膜15側に光照射し、可視光透過膜表面15で反射した第1反射光L1と、金属層表面で反射した第2反射光L2と、を含む反射干渉光L3の反射スペクトルを測定すると、可視光透過膜15の膜厚によって、反射スペクトル形状が異なる。
しかし、可視光領域で高光反射性の金属層上に可視光透過膜が積層されている場合、可視光透過膜の反射強度は高光反射性の金属膜の反射強度に比べると非常に小さい。そのため、実際には、反射干渉光のスペクトル形状から、僅かな膜厚ごとの差を判別することは困難である。
【0039】
本発明の膜厚測定方法では、金属層の最大光反射率に対する光反射率の割合が40%以下となる波長領域を特定波長領域に設定し、光反射フィルムの反射干渉光の反射スペクトルを測定している。当該特定波長領域では、金属層の光反射率が低いため、金属層表面の反射光強度に対する可視光透過膜表面で反射光強度の割合が高くなる。
【0040】
図3に一般的な金属を用いて形成した金属層に光照射した際の光反射率を示す。金属層として銀層を用いた場合、光反射率の割合が40%以下となる特定波長領域を、例えば、200~330nmと設定することができる。
このように、金属層表面での光反射の影響を受けにくい波長領域で膜厚の測定することで、膜厚ごとの反射干渉光のスペクトル形状の差が判別しやすくなる。したがって、金属層上に積層された可視光透過膜であっても、精度よくその膜厚を測定することができる。
【0041】
また、特定波長領域は、金属層における最大光反射率に対する光反射率の割合が40%以下であるとしたが、
図3に示すように、金属の種類によって光反射率の割合は異なる。したがって、特定波長領域は、金属層に用いられる金属の種類によって、適切な範囲を選択すればよい。
【0042】
また、実際に金属層(銀層)上に、可視光透過膜を積層した光反射フィルムについて、可視光透過膜表面で反射した第1反射光と、金属層表面で反射した第2反射光と、を含む反射干渉光の反射スペクトルの基準スペクトルについて、後述の方法でシミュレーションにより作成した結果を
図4に示す。
従来の膜厚測定に用いていた可視光波長領域(380~780nm)においては、金属層の光反射率が高い。そのため、
図4に示すように、この波長範囲では、膜厚ごとの反射干渉光のスペクトルの差を判別することが困難であり、精度の高い膜厚測定をすることはできない。
一方、本発明の膜厚測定方法では、金属層の最大光反射率に対する光反射率の割合が40%以下となる波長領域を特定波長領域に設定している。
図4に示す反射干渉光のスペクトルでは、例えば、特定波長領域を200~330nmと設定することができる。ここで、この特定波長領域は、金属層表面での光反射の影響を受けにくい領域であるため、膜厚ごとの差がはっきりと表れている。この反射干渉光のスペクトル形状と、基準スペクトルとに基づいて、可視光透過膜の膜厚を測定することができる。
【0043】
また、本発明の効果をより有効に得る観点からは、可視光透過膜に550nmの波長の光を照射した際の光反射率が、金属層に550nmの波長の光を照射した際の光反射率に対して、1/4以下であることが好ましい。可視光透過膜が低屈折率の材料で構成されている場合には、空気との界面の屈折率差が小さいので、界面反射が小さくなる(例えば、4~8%程度)。このとき、金属層に550nmの波長の光を照射した際の光反射率が大きいと(例えば、41~100%)、従来の方法では膜厚の測定は困難である。本発明の方法であれば、このような可視光透過膜に550nmの波長の光を照射した際の光反射率が、金属層に550nmの波長の光を照射した際の光反射率に対して、1/4以下であるような場合でも、膜厚を精度よく測定できる。
【0044】
また、本発明の効果をより有効に得る観点からは、特定波長領域における光反射フィルムの可視光透過膜側に光照射したときの光反射率の割合が、0~35%の範囲内であることが好ましい。
【0045】
また、のちに成膜する高屈折率層との組み合わせで光学干渉効果により増反射膜として機能できるようにする観点からは、可視光透過膜の屈折率が、1.3~1.6の範囲内であることが好ましい。
【0046】
<基準スペクトル>
本明細書でいう「基準スペクトル」とは、膜厚測定の際に、基準として用いる反射スペクトルをいう。
基準スペクトルは、例えば、可視光透過膜の屈折率n1及び消衰係数k1と、金属層を構成する金属の屈折率n2及び消衰係数k2と、を用いて、反射干渉光の反射スペクトルを、可視光透過膜の所定の膜厚ごとにシミュレーションにより作成したものであることが好ましい。
【0047】
以下、基準スペクトルをシミュレーションによって所定の膜厚ごとに作成する例を説明するが、基準スペクトルを得ることができれば、必ずしもこれに限られない。
例えば、金属層上に可視光透過膜を形成した光反射フィルムを、別の方法(例えば、エリプソメトリー法)で可視光透過膜の膜厚を測定することができる。これにより、どのような膜厚のときにどのような反射干渉光のスペクトルが得られるかが分かるので、これを所定の膜厚ごとに基準スペクトルを作成することができる。
【0048】
(可視光透過膜の屈折率n1及び消衰係数k1)
シミュレーションに用いる可視光透過膜の屈折率n1及び消衰係数k1は、可視光透過膜に用いる材料によって異なるものである。可視光透過膜の屈折率n1及び消衰係数k1は、材料に応じてあらかじめ決められた値を用いてもよいが、評価用基材上に、測定する可視光透過膜と同様の方法で形成した評価用可視光透過膜を用いて測定した推定値であることが好ましい。これにより、実際に測定する可視光透過膜の屈折率n1及び消衰係数k1が正確に分かるため、膜厚の測定精度を高めることができる。
また、屈折率n1及び消衰係数k1は、照射する光波長によって異なる値となるので、特定波長領域において、所定の波長ごとに(例えば、2nmごと)に求めた値をシミュレーションに用いることが好ましい。
【0049】
屈折率n1及び消衰係数k1は、例えば、分光エリプソメーター(UVISEL、株式会社堀場製作所)を用いて、エリプソメトリー法によって測定することができる。
【0050】
(金属層の屈折率n2及び消衰係数k2)
シミュレーションに用いる金属層を構成する金属の屈折率n2及び消衰係数k2は、金属の種類によって異なるものである。当該金属の屈折率n2及び消衰係数k2は、金属の種類に応じてあらかじめ決められた値を用いてもよいが、基材上に金属層を形成した後に、当該金属層を用いて測定した実測値であることが好ましい。これにより、実際に測定する金属層を構成する金属の屈折率n2及び消衰係数k2が正確に分かるために、膜厚の測定精度を高めることができる。
【0051】
屈折率n2及び消衰係数k2は、例えば、分光エリプソメーター(UVISEL、株式会社堀場製作所)を用いて、エリプソメトリー法によって測定することができる。
【0052】
(シミュレーションによる反射スペクトルの作成)
基準スペクトルとなる反射干渉光の反射スペクトルは、例えば、可視光透過膜の屈折率n1及び消衰係数k1と、金属層の屈折率n2及び消衰係数k2とを、光学干渉式膜厚計算ソフトFILMesaure(フィルメトリクス社製)に入力することで、シミュレーションにより作成することができる。シミュレーションは、所定の膜厚ごとに行うことができる。
シミュレーションによって作成した基準スペクトルの一例を
図4~6に示す。
図4は、波長200~700nmの基準スペクトルであり、
図5及び
図6は特定波長領域である200~330nmを拡大したものである。また、
図5は膜厚5nmごとにシミュレーションした基準スペクトルを示しており、
図6は膜厚2nmごとにシミュレーションした結果を示している。これらは、シミュレーションによって作成した基準スペクトルの一例であり、さらに狭い膜厚間隔でシミュレーションを行って基準スペクトルを作成しても良い。
図5及び
図6に示すように、特定波長領域では、スペクトル形状が大きく異なるため、シミュレーションによって作成した基準スペクトルのうち、実測した反射スペクトルと最も一致度が高い基準スペクトルを判定することで、膜厚を測定することができる。
【0053】
<その他>
本発明の膜厚測定方法で測定可能な可視光透過膜は、1層からなるものでもよく、2層以上の層が積層されてなるものでもよい。
2層以上の場合には、例えば、各層を形成した後、その次の層を形成する前に、1層ずつ本発明に係る膜厚測定方法によって膜厚を測定していくことによって、各層の膜厚を測定することができる。また、この測定を行う場合、2層目以降を測定する際には、測定を行う可視光透過膜以外の可視光透過膜の層での反射成分を含めてシミュレーションを行うことで、基準スペクトルを作成することができる。
【0054】
また、上述した1層ずつ膜厚を測定する方法に限られず、複数の層を一度に測定することも可能である。
そのためには、例えば、あらかじめ、可視光透過膜を構成する各層で用いる材料を用いて、各層の屈折率n1及び消衰係数k1を測定しておく。そして、シミュレーションを行う際に、何層構成であるかを設定し、各層の屈折率n1及び消衰係数k1を入力することで、各層の基準スペクトルを作成することができる。
そして、これらの基準スペクトルを重ねあわせたスペクトルと、実測した反射干渉光のスペクトルとを比較することにより、可視光透過膜の各層の膜厚を測定することができる。
【0055】
<光反射フィルム>
本発明の膜厚測定方法は、基材11と、当該基材11上に形成された金属層12と、当該金属層12上に形成された可視光透過膜15とを備える光反射フィルム10における可視光透過膜15の膜厚測定方法である(
図1)。
また、可視光透過膜15は、1層からなるものでもよく、2層以上の層が積層されてなるものでもよい。
図1には、可視光透過膜15として、低屈折率層13と高屈折率層14が積層された2層構成の例を示している。
【0056】
<基材>
基材は、金属層を支持する機能を有する。本発明に係る基材の材料は特に限られないが、樹脂フィルムであることが好ましい。
【0057】
樹脂フィルムの例には、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム等のポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、アクリルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、フッ素樹脂フィルム、セルロースエステル系フィルム、ポリシクロオレフィン系フィルム等が含まれる。中でも、耐熱性や強度、透明性が高い点から、ポリエチレンテレフタレートフィルムやポリプロピレンフィルムが好ましい。
【0058】
基材の厚さは、例えば10~300μmとすることが好ましい。基材の厚さが10μm以上であると、基材が十分な強度を有するだけでなく、表面平滑性も損なわれにくい。基材の厚さは、20~200μmであることがより好ましく、20~100μmであることがさらに好ましい。
【0059】
基材上に均一に層を形成するためには、基材が不純物をできるだけ含まないことが好ましい。そのような観点から、基材は、透明基材であることが好ましい。透明基材の波長360~400nmでの平均光透過率は、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。
【0060】
基材表面には、有機コーティング層を設けることが好ましい。これにより、基材と後述する金属層との密着性を高めるアンカー層として機能し得るだけでなく、表面平滑性の高い金属層を形成しやすくできる。
【0061】
有機コーティング層は、樹脂を主成分として含むことが好ましい。ここで、樹脂を主成分として含むとは、樹脂の含有量が、有機コーティング層の全質量に対して50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上であることをいう。
【0062】
有機コーティング層に含まれる樹脂の例には、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂又はその硬化物、複素環式化合物(例えばメラミン系樹脂)又はその硬化物、エポキシ系樹脂の硬化物、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、及び塩化ビニル酢酸ビニル共重合体等が含まれる。これらは、1種類であってもよいし、2種類以上を組み合わせてもよい。
【0063】
これらの中でも、光に対する耐久性が良好である点から、有機コーティング層は、アクリル系樹脂又はその硬化物を含むことが好ましい。また、金属層との密着性の観点から、アクリル系樹脂と複素環式化合物(例えばメラミン系樹脂)の混合物、又はアクリル系樹脂の硬化物を含むことがより好ましい。
【0064】
アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体又は(メタ)アクリル酸エステルと他の共重合モノマーとの共重合体であり得る。(メタ)アクリル酸エステルは、好ましくはメタクリル酸メチルであり得る。
【0065】
メタクリル酸メチルと共重合される共重合体モノマーの例には、メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;アクリル酸、メタクリル酸等のα,β-不飽和酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和基含有二価カルボン酸;2-ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;n-ブトキシメチルアクリルアミド等のアルコキシ基含有(メタ)アクリルアミドが含まれる。これらは、1種類で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。メタクリル酸メチルと他の共重合モノマーとの共重合体における共重合モノマー由来の構成単位の割合は、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0066】
アクリル系樹脂の例には、ポリメチルメタクリレートやメタクリル酸メチル・スチレン・アクリルアミド・アクリル酸2-ヒドロキシエチルの共重合体が含まれる。
【0067】
アクリル系樹脂の重量平均分子量は、塗布可能な程度であればよく、例えば1000~50万でありうる。樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによりポリスチレン換算にて測定することができる。
【0068】
アクリル系樹脂の硬化物は、「官能基を有するアクリル系樹脂」の官能基同士が直接反応して得られる硬化物(架橋物)であってもよいし;「官能基を有するアクリル系樹脂」の官能基と、硬化剤の官能基とが反応して得られる硬化物(架橋物)であってもよいが、金属層との密着性に優れる観点から、アクリル系樹脂の硬化剤(好ましくは複素環式化合物、より好ましくはメラミン系樹脂)による硬化物であることが好ましい。
【0069】
「官能基を有するアクリル系樹脂」における官能基の例には、カルボキシル基、ヒドロキシ基、アミノ基、エポキシ基、メチロール基等が含まれる。「官能基を有するアクリル系樹脂」の例には、前述の(メタ)アクリル酸エステルとヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステルの共重合体や、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸の共重合体等が含まれる。硬化剤の例には、メラミン系樹脂等の複素環式化合物やイソシアネート等が含まれる。
【0070】
<金属層>
金属層としては、特に可視光領域で光反射率の高い材料を用いる際に、本発明の効果を有効に得ることができる。
金属層を構成する金属の種類としては、本発明の条件を満たす金属であれば特に制限なく用いることができる。当該金属の種類としては、例えば、銀、金、銅、鉄等を用いることができる。これらのうち、本発明の効果を有効に得て、かつ光源を選択しやすいという観点からは、銀又は金を用いることが好ましい。
【0071】
本発明に係る膜厚測定方法では、金属層における最大光反射率に対する光反射率の割合が40%以下となる波長領域を特定波長領域としたとき、当該特定波長領域における反射干渉光の反射スペクトルと、基準スペクトルとに基づいて、可視光透過膜の膜厚を推定することができる。
【0072】
この特定波長領域は、金属の種類によって異なるが、金属層として、例えば、銀層を用いる場合には、特定波長領域は、約200~330nmとなる。また、金属層としては、例えば、金層を選択した場合には、特定波長領域は、約200~450nmとなる。
【0073】
以下、本発明に係る金属層として好ましく用いることができる銀層について、具体例を挙げて説明する。
銀層は、Ag又はその合金を主成分として含む。Ag又はその合金を主成分として含むとは、銀層を構成する全原子量の合計に対するAg又はその合金の含有量が90原子%以上であることをいう。したがって、Ag又はその合金の含有量は、銀層の全原子量の合計に対して95原子%以上であることが好ましく、99.9原子%以上であることがより好ましい。
【0074】
銀層は、Ag又はその合金以外の他の金属をさらに含んでもよい。他の金属の例には、Al、Cu、Pd、Cr、Cu、Ni、Ti、Mg、Rh、Pt及びAuからなる群より選ばれる少なくとも1種及びその合金が含まれ、好ましくはAlとその合金又はAuとその合金である。
【0075】
銀層は、公知の方法を用いて形成することができ、例えば、スパッタ法や蒸着法などの真空成膜法によって形成することができる。
【0076】
本発明に係る金属層の厚さは特に限られないが、100~150nmとすることが好ましい。金属層の厚さが、100nm未満である場合は、金属層を光が透過して所望の光反射率が得られないことがあるため、100nm以上とすることが好ましい。一方、金属層を150nm以上の膜厚となるように形成しても、光反射率はほとんど変化しないため、経済性の観点から150nm以下が好ましい。
【0077】
<可視光透過膜>
可視光透過膜とは、可視光透過性(透明性)を有する膜のことをいう。具体的には、本明細書でいう「透明性(可視光透過性)」とは、波長550nmの光の透過率が60%以上であることをいい、好ましくは70%以上であり、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは85%以上であり、特に好ましくは90%以上である。波長550nmの光の透過率は、分光光度計(例えば、日立製作所社製、U-4000型)を用いて測定することができる。
また、可視光透過膜は、1層からなるものでもよく、2層以上の層が積層されてなるものでもよい。
本発明に係る可視光透過膜には、可視光透過性を有する膜を制限なく用いることができるが、以下、可視光透過膜として、低屈折率層と高屈折率層が積層された2層構成とした場合に、好ましく用いることができる各層の層構成について説明する。また、低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層することで、増反射膜とすることができる。本発明の膜厚測定方法は、基材上に、金属層及び当該増反射膜をこの順に積層した光反射フィルムを製造する際に、好適に用いることができる。
【0078】
また、本明細書でいう「低屈折率層」とは、高屈折率層よりも波長550nmの光の屈折率が低い層のことをいう。
また、本明細書でいう「高屈折率層」とは、低屈折率層よりも波長550nmの光の屈折率が高い層のことをいう。
【0079】
(低屈折率層)
低屈折率層は、金属層に隣接して設けられ、例えば、金属層を構成する原子のマイグレーションを抑制する機能を有する。また、低屈折率層上に、後述する高屈折率層を積層することによって、金属層の低波長領域(波長550nm付近)の光の反射率を高めて、反射光の色度を調整する機能をさらに有することができる。
【0080】
低屈折率層は、樹脂を主成分として含む。樹脂を主成分として含むとは、樹脂の含有量が、低屈折率層の全質量に対して50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上であることをいう。低屈折率層に含まれる樹脂としては、上記有機コーティング層に含まれる樹脂と同様のものを用いることができる。
【0081】
中でも、低屈折率層は、上記有機コーティング層と同様に、アクリル系樹脂又はその硬化物を含むことが好ましく、金属層との密着性の観点から、アクリル系樹脂と複素環式化合物(例えばメラミン系樹脂)の混合物、又はアクリル系樹脂の複素環式化合物(例えばメラミン系樹脂)による硬化物を含むことがより好ましい。低屈折率層に含まれるアクリル系樹脂又はその硬化物は、上記有機コーティング層に含まれるアクリル系樹脂又はその硬化物と同様のものを用いることができる。
【0082】
低屈折率層の屈折率は、低屈折率層を構成する材料の種類や組み合わせ、低屈折率層の密度で調整される。低屈折率層が、例えばアクリル系樹脂のメラミン系樹脂による硬化物を含む場合、アクリル系樹脂とメラミン系樹脂との比率によって、屈折率を調整することができる。
【0083】
低屈折率層の厚さは、増反射させる光の波長域によって適切な厚さを選択することが好ましい。例えば、波長550nm付近の光の増反射効果を高める点では、40nm以上80nm以下であることが好ましく、40nm以上70nm以下であることがより好ましい。低屈折率層の厚さは、堀場製分光エリプソメーターUVISELを用いて測定することができる。
【0084】
(高屈折率層)
高屈折率層は、特に低屈折率層と組み合わせることによって、金属層の低波長領域(波長550nm付近)の光の反射率を高めて、反射光の色度を調整する機能を有することができる。
【0085】
高屈折率層は、高屈折率粒子と、樹脂とを含む樹脂層とすることが好ましい。
高屈折率層を構成する高屈折率粒子は、波長550nmの光の屈折率が2.0以上である粒子であることが好ましく、その例には、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化銅等の金属酸化物粒子;硫化亜鉛、硫化マンガン等の金属硫化物粒子;亜鉛、クロム、タングステン等の金属粒子が含まれる。中でも、光触媒作用が少なく、光が長時間照射されたときの変色を抑制しやすい観点では、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、又は硫化亜鉛の粒子がより好ましく、酸化ジルコニウムの粒子がさらに好ましい。
【0086】
高屈折率粒子の平均粒子径は、例えば5~30nmの範囲内とすることが好ましい。
高屈折率粒子の平均粒子径は、以下の手順で測定することができる。まず、光反射フィルムを、樹脂成分を溶解する有機溶剤に溶解させて、高屈折率層から高屈折率粒子を分離回収する。分離回収した高屈折率粒子の平均粒子径を、SEMにより測定する。SEM観察は、日立ハイテクノロジーズ社製s-4800を用いて、倍率50万で行い;得られた画像データから20個の粒子径の平均値を求めて、平均粒子径とする。
【0087】
高屈折率粒子の含有量は、高屈折率層の屈折率が所定の範囲になるように設定されることが好ましく、例えば高屈折率層の全体積に対して1~40体積%の範囲内とすることが好ましく、より好ましくは10~30体積%の範囲内である。
【0088】
高屈折率層を構成する樹脂は、高屈折率粒子の分散性が良好であり、かつ高屈折率粒子と混合して高屈折率層を形成した際に、高屈折率層に適した屈折率を達成する樹脂であればよい。そのような樹脂の例には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンテレフタレートのコポリマー(coPET)、テレフタル酸-シクロヘキサンジメタノール-エチレングリコール共重合体(PETG)等のポリエステル系樹脂;アクリル系樹脂;メラミン系樹脂等の複素環式化合物;ポリビニルアルコール系樹脂、ゼラチン、セルロース類、増粘多糖類等が含まれる。アクリル系樹脂としては、上記有機コーティング層や低屈折率層で用いられるアクリル系樹脂と同様のものを用いることができる。これらの樹脂のうち、硬化性樹脂(例えば有機コーティング層や低屈折率層で用いられる官能基を有するアクリル系樹脂等)は、硬化物であってもよい。即ち、樹脂層は、硬化性樹脂の硬化物を含んでいてもよい。
【0089】
高屈折率層を光反射フィルムの最表面に設ける場合、耐傷性を高める観点などから、高屈折率層を構成する樹脂は、硬化性樹脂の硬化物であることが好ましい。
【0090】
樹脂の含有量は、高屈折率層の全体積に対して60~99体積%、好ましくは70~90体積%とし得る。
【0091】
高屈折率層と低屈折率層の波長550nmの光の屈折率の差は、色度を十分に調整できるようにする観点では、0.35以上であることが好ましく、0.4以上であることがより好ましい。
【0092】
高屈折率層の屈折率nHは、ポリエチレンテレフタレート基材上に、厚さ100nmの高屈折率層Eを形成して測定用サンプルを得る以外は前述と同様にして測定することができる。
【0093】
高屈折率層の厚さdHは、増反射させる光の波長域によって適切な厚さを選択することが好ましい。例えば、波長550nm付近の光の増反射効果を高める点では、30nm以上80nm以下であることが好ましく、40nm以上70nm以下であることがより好ましい。高屈折率層の厚さは、堀場製分光エリプソメーターUVISELを用いて測定することができる。
【0094】
高屈折率層は、金属層への水分の透過を抑制するバリアー層として機能させることも好ましい。高屈折率層をバリアー層としての機能させる場合、低屈折率層よりも水蒸気透過率が低いことが好ましい。
【0095】
<光反射フィルムの製造方法>
本発明に係る上記光反射フィルムは、任意の公知の方法で製造することができる。例えば基材上に、以下の様に、有機コーティング層、金属層、低屈折率層、及び必要に応じて高屈折率層をこの順に積層して製造され得る。
【0096】
(金属層の形成)
金属層の形成は、真空成膜法により行うことができる。真空成膜法の例には、真空蒸着法(抵抗加熱式、電子ビーム加熱式)、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト真空蒸着法及びスパッタ法が含まれる。これらの中でも、真空蒸着法又はスパッタ法が好ましく、生産効率を低下させることなく成膜速度を調整しやすい点から、真空蒸着法がより好ましい。
【0097】
即ち、蒸着温度(原料を入れたるつぼの加熱温度)は、例えば900℃以上とすることが好ましく、1000℃以上とすることがより好ましい。チャンバー内へのガスの供給流量は、チャンバー内の圧力を所定の範囲(好ましくは4×10-2Pa近傍)に維持した状態で、200mL/分以上とすることが好ましく、300mL/分以上とすることがより好ましい。チャンバー内に供給するガスの組成は、例えばキセノンガスとアルゴンガスの混合ガスの場合、キセノンガスの割合を多くすることが好ましい。
【0098】
チャンバー内に供給するガスは、希ガスであることが好ましく、アルゴンガス、キセノンガス又は窒素ガスであり得る。
【0099】
(有機コーティング層及び低屈折率層の形成)
有機コーティング層及び低屈折率層の形成は、いずれも樹脂組成物を塗布した後、乾燥又は硬化させて行うことができる。有機コーティング層及び低屈折率層を形成するときの硬化は、熱硬化であっても光硬化であってもよいが、熱硬化であることが好ましい。
【0100】
樹脂組成物の塗布は、例えばグラビアコート法、スピンコート法及びバーコート法等により行うことができる。
【0101】
有機コーティング層及び低屈折率層を形成するための熱硬化性の樹脂組成物は、官能基を有するアクリル系樹脂と、溶剤とを含み、必要に応じて硬化剤(熱硬化剤)をさらに含み得る。
【0102】
溶剤の例には、前述の樹脂を良好に分散できるものであればよく、例えば非プロトン性溶剤であることが好ましい。非プロトン性溶剤の例には、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン等の炭化水素溶媒;塩化メチレン、トリクロロエタン等のハロゲン炭化水素溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類等が含まれる。
【0103】
硬化剤の例には、メラミン系樹脂や、ポリイソシアネート、エポキシ化合物等が含まれる。硬化剤の含有量は、前述の硬化性樹脂に対して0.1~15質量%程度とし得る。
【0104】
(高屈折率層の形成)
高屈折率層の形成は、高屈折率粒子と、樹脂とを含む樹脂組成物を塗布した後、乾燥又は硬化させて行ってもよい。高屈折率層を形成するための硬化は、熱硬化であっても光硬化であってもよいが、耐傷性を高める観点では、光硬化であることが好ましい。
【0105】
高屈折率層を形成するための光硬化性の樹脂組成物は、エチレン性二重結合を有する光硬化性モノマー又はオリゴマーと、光重合開始剤とを含み、必要に応じて溶剤をさらに含み得る。
【0106】
エチレン性不飽和二重結合を有する光硬化性モノマーの例には、(メタ)アクリル酸エステルモノマー又はオリゴマーが含まれ、具体的には(メタ)アクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが含まれる。
【0107】
光ラジカル重合開始剤の例には、ベンゾイン系、アセトフェノン系、ベンゾフェノン系、ヒドロキシベンゾフェノン系、ミヒラーズケトン系、α-アミロキシムエステル系、チオキサントン系の光ラジカル重合開始剤が含まれる。光ラジカル重合開始剤の含有量は、光硬化性の樹脂組成物の全質量に対して0.1~15質量%程度、好ましくは1~10質量%とし得る。光ラジカル重合開始剤は、必要に応じて光増感剤とともに用いられてもよい。
【0108】
光照射に用いる光源は、特に限定されず、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプ等を用いることができる。
光照射強度は、樹脂組成物の組成にもよるが、光ラジカル重合開始剤の活性化に有効な波長領域の照射強度が0.1~1000mW/cm2となるようにすることが好ましい。
光照射時間は、樹脂組成物が硬化するのに十分な時間であればよいが、例えば照射強度と照射時間の積として表される積算光量が10~5000mJ/cm2となるように設定され得る。
【0109】
<光反射フィルムの用途>
本発明に係る光反射フィルムは、各種用途の反射部材、例えば液晶表示装置用バックライトユニットの光反射フィルム、プロジェクションテレビの反射鏡及びランプリフレクター等として用いることができる。中でも、本発明の光反射フィルムは、長時間光照射されたときの変色を抑制できる点から、液晶表示装置用バックライトユニットの光反射フィルム、特に発光ダイオード素子(LED)を光源とする液晶表示装置用バックライトユニットの光反射フィルムとして好ましく用いられる。
【0110】
[膜厚測定システム]
本発明の膜厚測定システムは、基材と、当該基材上に形成された金属層と、当該金属層上に形成された可視光透過膜とを備える光反射フィルムにおける可視光透過膜の膜厚測定システムである。本発明の膜厚測定システムにより、上述した本発明の膜厚測定方法を実現できる。
【0111】
本発明の膜厚測定システム100は、反射スペクトルの測定装置40と、膜厚を求める演算装置50と、を備えるものである(
図7)。
測定装置40は、光反射フィルムにおける可視光透過膜側に光照射し、可視光透過膜表面で反射した第1反射光と、金属層表面で反射した第2反射光と、を含む反射干渉光の反射スペクトルを測定する。
演算装置50は、金属層における最大光反射率に対する光反射率の割合が40%以下となる波長領域を特定波長領域としたとき、当該特定波長領域における反射干渉光の反射スペクトルと、基準スペクトルとに基づいて、可視光透過膜の膜厚を推定するものである。具体的な膜厚の測定方法は上述したとおりである。
【0112】
[光反射フィルムの製造システム]
本発明の光反射フィルムの製造システムは、基材と、当該基材上に形成された金属層と、当該金属層上に形成された可視光透過膜とを備える光反射フィルムの製造システムである。本発明の光反射フィルムの製造システム、上述した本発明の膜厚測定方法用いて光反射フィルムの製造を行うものである。
【0113】
本発明の光反射フィルムの製造システム200は、第1の膜形成装置20と、第2の膜形成装置30と、反射スペクトルの測定装置40と、膜厚を求める演算装置50と、膜形成条件を調整する制御装置60と、を備えるものである(
図7)。測定装置40及び演算装置50は、上記膜厚測定システムと同様のものである。
【0114】
第1の膜形成装置20は、基材上に金属層の形成を行う装置である。第1の膜形成装置は、金属層の形成を行うことができる公知の装置を用いることができ、例えば、真空蒸着法(抵抗加熱式、電子ビーム加熱式)、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト真空蒸着法及びスパッタ法等を行う装置が挙げられる。
【0115】
第2の膜形成装置30は、金属層上に可視光透過膜の形成を行う装置である。第2の膜形成装置は、可視光透過膜の形成を行うことができる公知の装置を用いることができ、例えば、グラビアコート法、スピンコート法及びバーコート法等を行うことができる塗布装置が挙げられる。
【0116】
制御装置60は、測定装置40によって推定した可視光透過膜の膜厚に基づいて、第2の膜形成装置30の膜形成条件を調整する。
例えば、測定装置40で推定した膜厚が、所望の膜厚よりも厚かった場合、第2の膜厚測定装置で塗布する塗布液を希釈したり、塗布液の量を減らすことによって、膜厚を薄くすることができる。
また、例えば、測定装置40で推定した膜厚が、所望の膜厚よりも薄かった場合、第2の膜厚測定装置で塗布する塗布液の濃度を濃くしたり、塗布液の量を増やすことによって、膜厚を厚くすることができる。
このような調整を行うことによって、所望の厚さで膜厚が形成できるように、第2の膜形成装置における膜形成条件を調整することができる。
【0117】
また、本発明の光反射フィルムの製造システムは、上記に限られず、必要に応じて、さらに、他の装置を備えるものとしてもよい。
例えば、第1の膜形成装置と、第2の膜形成装置との間に、金属層の屈折率n2及び消衰係数k2を測定するための測定装置を設け、第2の膜形成装置の前に、屈折率n2及び消衰係数k2を測定できるようにしてもよい。これにより、実際に測定する可視光透過膜の屈折率n2及び消衰係数k2が正確に分かるため、膜厚の測定精度を高めることができる。
【0118】
また、第2の膜形成装置の後に第3の膜形成装置を設け、第3の膜形成装置で可視光透過膜をさらにもう1層形成できるようにしてもよい。
【0119】
[光反射フィルムの製造方法]
本発明の光反射フィルムの製造方法は、光反射フィルムの製造システムの各装置を用いて、金属層を形成する工程、可視光透過膜を形成する工程、反射スペクトルの測定工程、膜厚を測定する工程、膜形成条件を調整する工程と、を有するものである。
【0120】
以上で説明した本発明の実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。すなわち、本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【実施例】
【0121】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0122】
[実施例1]
基材上に金属層及び可視光透過膜を形成した光反射フィルムを作製し、本発明の膜厚測定方法によって膜厚を測定した。また、各測定結果及び評価結果は、表Iに示した。
また、後述する光の反射率、屈折率及び消衰係数の測定は、全て室温(25℃)で行った。
【0123】
1.光反射フィルムの構成層の材料の調製
可視光透過膜として、低屈折率層及び高屈折率層を形成した。低屈折率層及び高屈折率層を形成する際に用いた低屈折率層用溶液及び高屈折率層用溶液は、次のとおりである。
【0124】
(1)低屈折率層用溶液
低屈折率層用溶液用の原料として、アクリル系樹脂(日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社製の熱硬化形アクリルメラミン樹脂系クリヤー塗料「スーパーラック5000」)を準備した。次いで、当該原料1質量部に対し、トルエン58部、シクロヘキサノン25部、2-ブタノン16部をディスパー撹拌して混ぜ合わせ、固形分1%の低屈折率層用溶液を調製した。
【0125】
(2)高屈折率層用溶液
高屈折率層用溶液の原料として、酸化チタン含有樹脂溶液(トーヨーケム(株)製、UV硬化型アクリル系樹脂と酸化チタン粒子とを含む分散液TYT90)を準備した。次いで、当該原料1量部に対し、2-ブタノン99部をディスパー撹拌しながら混ぜあわせ、固形分1%の高屈折率層用溶液を調製した。
【0126】
2.可視光透過膜の反射率、屈折率n1及び消衰係数k1の測定
<サンプル1の作製>
厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)基材上に、上記低屈折率層用溶液をグラビアコート法により塗布した後乾燥し、厚さが50nmの低屈折率層L1を形成し、サンプル1を得た。
【0127】
<サンプル2の作製>
厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)基材上に、上記高屈折率層用溶液をグラビアコート法により塗布した後乾燥し、厚さが50nmの高屈折率層Hを形成し、サンプル2を得た。
【0128】
<サンプル3の作製>
厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)基材上に、スパッタ法で厚さが50nmのSiO2膜(低屈折率層L2)を形成し、サンプル3を得た。
【0129】
<反射率の測定>
サンプル1~3の各可視光透過膜について、波長550nmでの光の反射率を、分光光度計(U4100、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いてそれぞれ測定した。これにより、低屈折率層L1、高屈折率層H及び低屈折率層L2の波長550nmでの光の反射率を測定した。
【0130】
<屈折率n1及び消衰係数k1の測定>
上記のサンプル1~3について、屈折率n1及び消衰係数k1を、株式会社堀場製作所の分光エリプソメーターUVISELを用いて、エリプソメトリー法によってそれぞれ測定した。これにより、低屈折率層L1、高屈折率層H及び低屈折率層L2について、それぞれ、屈折率n1及び消衰係数k1を測定した。
ここで、屈折率n1及び消衰係数k1は、200~1200nmの波長範囲で測定した。
【0131】
3.光反射フィルムの作製と評価
<膜厚測定方法1:光反射フィルム1の作製と膜厚測定>
(金属層の形成)
厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製、製品名「ルミラーT60」)上に、上記低屈折率層用溶液1をグラビアコート法により塗布した後、乾燥させて、厚さ100nmのアンカー層を設けた。このアンカー層上に、銀(Ag)を真空蒸着法により積層して、厚さ100nmの銀層からなる金属層を作製した。
【0132】
(金属層の反射率測定)
真空蒸着釜を大気圧に開放後、金属層(銀層)に光照射し、当該金属層の反射干渉光の反射スペクトルを、分光光度計(U4100、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて測定した。
【0133】
(特定波長領域の波長範囲決定)
上記得られた金属層(銀層)の反射スペクトルから、当該金属層における最大光反射率に対する光反射率の割合が40%以下となる波長領域を、特定波長領域と決定した(
図3)。特定波長領域は、200~330nmであった。
【0134】
(低屈折率層L1の形成)
次いで、この金属層(銀層)上に、グラビアロールコート法により低屈折率層用溶液を狙い膜厚50.5nmで塗布し、130℃で乾燥及び硬化させて、有機層である低屈折率層L1を形成した。これにより、光反射フィルム1を得た。
【0135】
(膜厚測定)
特定波長領域(200~330nm)の光源としてはL7893(浜松ホトニクス社製)を用いて、膜厚測定システムとしてはF20-UV(フィルメトリクス社製)を用いて、光反射フィルム1の低屈折率層L1(可視光透過膜)側に光照射を行い、低屈折率層L1表面で反射した第1反射光と、金属層表面で反射した第2反射光と、を含む反射干渉光の反射スペクトルを実測した。
また、あらかじめエリプソメトリー法によって得た、低屈折率層L1の屈折率n1及び消衰係数k1と、金属層の屈折率n2及び消衰係数k2とを、光学干渉式膜厚計算ソフトFILMesaure(フィルメトリクス社製)に入力し、低屈折率層L1の反射干渉光の反射スペクトルを、膜厚2nmごとにシミュレーションし、基準スペクトルを作成した。ここで、金属層の屈折率n2及び消衰係数k2は、光学薄膜設計ソフトのEssential Macleod(Thin Film Center Inc.製)に標準装備されているデータを用いた。
そして、実測した反射スペクトルと、シミュレーションした基準スペクトルとに基づいて、膜厚を推定した。具体的には、基準スペクトルのうち、実測した反射スペクトルと最も一致度が高い基準スペクトルを判定し、当該基準スペクトルの膜厚を低屈折率層L1の膜厚と判断した。膜厚は50nmであった。
【0136】
また、シミュレーションにより作成した基準スペクトルの例を
図5及び
図6に示す。
図5は、特定波長領域において、膜厚30~60nmを膜厚5nmごとにシミュレーションした基準スペクトルを示している。また、
図6は、特定波長領域において、膜厚50~60nmを膜厚2nmごとにシミュレーションした基準スペクトルを示している。
【0137】
(評価:エリプソメトリー法による膜厚測定)
上記本発明の膜厚測定方法とは別に、光反射フィルム1の低屈折率層L1について、フィルメトリクス社製の膜厚測定システム(F20-UV)を用いて、エリプソメトリー法によって膜厚を測定した。膜厚は51nmであった。この膜厚は、本発明の膜厚測定方法で得た膜厚とほぼ同じであった。
【0138】
<膜厚測定方法2:光反射フィルム2の膜厚測定>
光反射フィルム1の低屈折率層L1上に、さらに、グラビアコート法により高屈折率層用溶液を塗布した後乾燥させて、積算光量400mJ/cm2のUVを照射して、狙い膜厚75.5nmの高屈折率層Hを形成した。これにより、銀層、低屈折率層L1及び高屈折率層Hがこの順に積層された光反射フィルム2を得た。
特定波長領域(200~330nm)の光源としてはL7893(浜松ホトニクス社製)を用いて、膜厚測定システムとしてはF20-UV(フィルメトリクス社製)を用いて、光反射フィルム2の高屈折率層H(可視光透過膜)側に光照射を行い、高屈折率層H表面で反射した第1反射光と、金属層表面で反射した第2反射光と、を含む反射干渉光の反射スペクトルを実測した。また、当該反射干渉光には、実際には、低屈折率層L1と高屈折率層Hとの界面でも反射した反射光も含まれている。この低屈折率層L1と高屈折率層Hの界面の反射光と、高屈折率層Hと空気との界面の反射光とが、干渉して強めあい又は弱めあうことで得られる反射スペクトルの形状は、高屈折率層Hの膜厚に依存して変化する。反射スペクトル形状を、膜厚測定システム上で確認しながら高屈折率層Hの膜厚計算に用いた。
【0139】
また、あらかじめエリプソメトリー法によって得た、高屈折率層Hの屈折率n1及び消衰係数k1と、金属層の屈折率n2及び消衰係数k2とを、光学干渉式膜厚計算ソフトFILMesaure(フィルメトリクス社製)に入力し、低屈折率層L1の反射干渉光の反射スペクトルを、膜厚2nmごとにシミュレーションし、基準スペクトルを作成した。ここで、金属層の屈折率n2及び消衰係数k2は、光学薄膜設計ソフトのEssential Macleod(Thin Film Center Inc.製)に標準装備されているデータを用いた。
そして、実測した反射スペクトルと、シミュレーションした基準スペクトルとに基づいて、膜厚を推定した。具体的には、基準スペクトルのうち、実測した反射スペクトルと最も一致度が高い基準スペクトルを判定し、当該基準スペクトルの膜厚を高屈折率層Hの膜厚と判断した。膜厚は75nmであった。
【0140】
また、シミュレーションにより作成した基準スペクトルの例を
図8及び
図9に示す。
図8は、特定波長領域において、膜厚20~50nmを膜厚5nmごとにシミュレーションした基準スペクトルを示している。また、
図9は、特定波長領域において、膜厚40~50nmを膜厚2nmごとにシミュレーションした基準スペクトルを示している。
【0141】
(評価:エリプソメトリー法による膜厚測定)
上記本発明の膜厚測定方法とは別に、光反射フィルム2の高屈折率層Hについて、フィルメトリクス社製の膜厚測定システム(F20-UV)を用いて、エリプソメトリー法によって膜厚を測定した。膜厚は76nmであった。この膜厚は、本発明の膜厚測定方法で得た膜厚とほぼ同じであった。
【0142】
<膜厚測定方法3:光反射フィルム3の膜厚測定>
光反射フィルム1の作製において、低屈折率層L1を、スパッタ法で形成したSiO2膜である低屈折率層L2に変更した以外は同様にして、光反射フィルム3を作製した。ここで、SiO2膜を形成する際の狙い膜厚は、60.5nmとした。
膜厚測定方法1において、基準スペクトルの作成で、低屈折率層L2の屈折率n1及び消衰係数k1を用いたこと以外は同様にして、低屈折率層L2の膜厚を測定した。膜厚は60nmであった。
【0143】
(評価:エリプソメトリー法による膜厚測定)
低屈折率層L2について、フィルメトリクス社製の膜厚測定システム(F20-UV)を用いて、エリプソメトリー法によって膜厚を測定した。膜厚は61nmであった。この膜厚は、本発明の膜厚測定方法で得た膜厚とほぼ同じであった。
【0144】
<膜厚測定方法4:光反射フィルム4の膜厚測定>
上記光反射フィルム3の低屈折率層L2上に、さらに、グラビアコート法により高屈折率層用溶液を塗布した後乾燥させて、積算光量400mJ/cm2のUVを照射して、狙い膜厚74nmの高屈折率層Hを形成した。
膜厚測定方法2と同様の方法で、高屈折率層Hの膜厚を測定した。膜厚は75nmであった。
【0145】
(評価:エリプソメトリー法による膜厚測定)
高屈折率層Hについて、フィルメトリクス社製の膜厚測定システム(F20-UV)を用いて、エリプソメトリー法によって膜厚を測定した。膜厚は74nmであった。この膜厚は、本発明の膜厚測定方法で得た膜厚とほぼ同じであった。
【0146】
<膜厚測定方法5:光反射フィルム5の膜厚測定>
厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製、製品名「ルミラーT60」)上に、上記低屈折率層用溶液をグラビアコート法により塗布した後乾燥させて、厚さ100nmのアンカー層を設けた。このアンカー層上に、金(Au)を真空蒸着法により積層して、厚さ100nmの金層からなる金属層を作製した。
【0147】
(金属層の反射率測定)
真空蒸着釜を大気圧に開放後、金属層(金層)に光照射し、当該金属層の反射干渉光の反射スペクトルを、分光光度計(U4100、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて測定した。
【0148】
(特定波長領域の波長範囲決定)
上記得られた金属層(金層)の反射スペクトルから、当該金属層における最大光反射率に対する光反射率の割合が40%以下となる波長領域を、特定波長領域と決定した(
図3)。特定波長領域は、200~450nmであった。
【0149】
(低屈折率層L2の形成)
次いで、この金属層(金層)上に、低屈折率層L2としてSiO2膜をスパッタ法で形成し、光反射フィルム5を作製した。狙い膜厚は60.5nmで設定した。
【0150】
膜厚測定方法3において、基準スペクトルの作成で、金層の屈折率n2及び消衰係数k2を用いたこと以外は同様にして、低屈折率層L2の膜厚を測定した。膜厚は60nmであった。ここで、金層の屈折率n2及び消衰係数k2は、光学薄膜設計ソフトのEssential Macleod(Thin Film Center Inc.製)に標準装備されているデータを用いた。
【0151】
(評価:エリプソメトリー法による膜厚測定)
低屈折率層L2について、フィルメトリクス社製の膜厚測定システム(F20-UV)を用いて、エリプソメトリー法によって膜厚を測定した。膜厚は62nmであった。この膜厚は、本発明の膜厚測定方法で得た膜厚とほぼ同じであった。
【0152】
<膜厚測定方法6:光反射フィルム6の膜厚測定>
上記光反射フィルム5の低屈折率層L2上に、さらに、グラビアコート法により高屈折率層用溶液を塗布した後乾燥させて、積算光量400mJ/cm2のUVを照射して、狙い膜厚76.0nmの高屈折率層Hを形成し、光反射フィルム6を得た。
次いで、膜厚測定方法2において、金層の屈折率n2及び消衰係数k2を用いたこと以外は同様の方法で、高屈折率層Hの膜厚を測定した。膜厚は75nmであった。ここで、金層の屈折率n2及び消衰係数k2は、光学薄膜設計ソフトのEssential Macleod(Thin Film Center Inc.製)に標準装備されているデータを用いた。
【0153】
(評価:エリプソメトリー法による膜厚測定)
高屈折率層Hについて、フィルメトリクス社製の膜厚測定システム(F20-UV)を用いて、エリプソメトリー法によって膜厚を測定した。膜厚は77nmであった。この膜厚は、本発明の膜厚測定方法で得た膜厚とほぼ同じであった。
【0154】
<膜厚測定方法7:光反射フィルム7の膜厚測定>
厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製、製品名「ルミラーT60」)上に、上記低屈折率層用溶液をグラビアコート法により塗布した後乾燥させて、厚さ100nmのアンカー層を設けた。このアンカー層上に、アルミニウム(Al)を真空蒸着法により積層して、厚さ100nmのアルミニウム層からなる金属層を作製した。
【0155】
(金属層の反射率測定)
真空蒸着釜を大気圧に開放後、金属層(アルミニウム層)に光照射し、当該金属層の反射干渉光の反射スペクトルを、分光光度計(U4100、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて測定した。
【0156】
(特定波長領域の波長範囲決定)
上記得られた金属層(アルミニウム層)の反射スペクトルから、200~1400nmの波長領域において、当該金属層における最大光反射率に対する光反射率の割合が40%以下となる波長領域を探した。しかし、アルミニウム層は当該波長領域で高い反射率があるため、当該波長領域内では、本発明に係る特定波長領域となる領域は存在しなかった。そこで、比較例として、当該金属層における最大光反射率に対する光反射率の割合が40%以上である領域のうち200~380nmを、比較例の特定波長領域として特定し、以下の膜厚測定を行った。
【0157】
(低屈折率層L2の形成)
次いで、この金属層(アルミニウム層)上に、低屈折率層L2としてSiO2膜をスパッタ法で形成した。狙い膜厚は50.0nmで設定した。
【0158】
膜厚測定方法3において、基準スペクトルの作成で、金属層であるアルミニウム層の屈折率n2及び消衰係数k2を用いたこと以外は同様にして、低屈折率層L2の膜厚を測定した。膜厚は60nmであった。ここで、アルミニウム層の屈折率n2及び消衰係数k2は、光学薄膜設計ソフトのEssential Macleod(Thin Film Center Inc.製)に標準装備されているデータを用いた。
ここで、特定波長領域において、シミュレーションにより基準スペクトルを作成したが、膜厚ごとのスペクトル形状の差が小さいため、正確な膜厚を測定することが困難であった。
【0159】
(評価:エリプソメトリー法による膜厚測定)
低屈折率層L2について、フィルメトリクス社製の膜厚測定システム(F20-UV)を用いて、エリプソメトリー法によって膜厚を測定した。膜厚は49nmであった。この膜厚は、本発明の膜厚測定方法で得た膜厚とは差が11nmであった。
【0160】
(高屈折率層Hの形成)
上記低屈折率層L2上に、さらに、グラビアコート法により高屈折率層用溶液を塗布した後乾燥させて、積算光量400mJ/cm2のUVを照射して、狙い膜厚79.0nmの高屈折率層Hを形成し、光反射フィルム7を得た。
次いで、膜厚測定方法2と、アルミニウム層の屈折率n2及び消衰係数k2を用いたこと以外は同様の方法で、高屈折率層Hの膜厚を測定した。膜厚は75nmであった。アルミニウム層の屈折率n2及び消衰係数k2は、光学薄膜設計ソフトのEssential
Macleod(Thin Film Center Inc.製)に標準装備されているデータを用いた。
ここで、特定波長領域において、シミュレーションにより基準スペクトルを作成したが、膜厚ごとのスペクトル形状の差が小さいため、正確な膜厚を測定することが困難であった。
【0161】
(評価:エリプソメトリー法による膜厚測定)
高屈折率層Hについて、フィルメトリクス社製の膜厚測定システム(F20-UV)を用いて、エリプソメトリー法によって膜厚を測定した。膜厚は80nmであった。この膜厚と、本発明の膜厚測定方法で得た膜厚との差は、5nmであった。
【0162】
<膜厚測定方法8:光反射フィルム2の比較例に係る膜厚測定>
膜厚測定方法2において、光反射フィルム2を作製した後に、フィルムを切断し断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影して、スケールによって厚さを計測した。断面を観察したところ、低屈折率層L1と高屈折率層Hとの界面がぼやけて観察された。そのため、おおよそ界面であると考えられる位置からの膜厚の目安値を測定し、それを膜厚とした。得られた膜厚は低屈折率層L1が狙い膜厚50.5nmに対して60nmの計測値であり、高屈折率層Hが狙い膜厚75.5nmに対して85nmの計測値であった。
【0163】
(評価:エリプソメトリー法による膜厚測定)
上記膜厚測定方法2で測定した光反射フィルム2の低屈折率層L1の膜厚は51nmであり、高屈折率層Hの膜厚は76nmである。これらは、比較例に係る膜厚測定方法で測定した膜厚と比較して、低屈折率層L1の膜厚は9nm、高屈折率層Hの膜厚は9nmの差があった。透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察で測定した膜厚と、エリプソメトリー法による膜厚測定方法で測定した膜厚との差は、参考値として表Iに示す。
【0164】
【0165】
<実施例1のまとめ>
本発明に係る膜厚測定方法では、金属層の最大光反射率に対する光反射率の割合が40%以下となる波長領域を特定波長領域に設定し、光反射フィルムの反射干渉光の反射スペクトルと、基準スペクトルに基づいて膜厚を推定することで、精度よく膜厚を測定できた。本発明に係る方法で測定した膜厚は、エリプソメトリー法で測定した膜厚とほぼ同じであり、同程度の精度であることがわかった。また、当該特定波長領域では、金属層の光反射率が低いため、金属層表面の反射光強度に対する可視光透過膜表面で反射光強度の割合が高くなり、可視光透過膜の膜厚を精度よく測定することができた。
【0166】
一方で、比較例(膜厚測定方法7)に係る膜厚測定方法では、200~1400nmの波長領域では、高い反射率があるため、当該波長領域内では、本発明に係る特定波長領域となる領域は存在しなかった。また、200~380nmを比較例に係る特定波長領域として設定し、膜厚を測定しようと試みたが、シミュレーションにより基準スペクトルを作成すると、膜厚ごとのスペクトル形状の差が小さいため、正確な膜厚を測定することが困難であった。
【0167】
[実施例2]
<光反射フィルムの製造方法1>
本発明に係る膜厚測定方法を用いた光反射フィルムの製造システム(
図7参照)によって、ロールtoロール方式で光反射フィルムの製造を行った。この光反射フィルムの製造工程は、測定した可視光透過膜の膜厚に基づいて、可視光透過膜を形成する工程における膜形成条件を調整する工程を有するものである。
【0168】
上記膜厚測定方法1と同様の方法で、金属層の形成まで行った。
次いで、この金属層(銀層)上に、グラビアロールコート法により低屈折率層用溶液を狙い膜厚50.5nmで塗布し、130℃で乾燥及び硬化させて、有機層である低屈折率層L1を形成した。
ここで、低屈折率層L1を形成した光反射フィルムを、当該光反射フィルムの搬送過程で、上記膜厚測定方法1と同様の方法で膜厚を測定したところ、狙い膜厚50.5nmに対して58nmという値が得られた。すぐに塗布液である低屈折率層用溶液を2-ブタノンで1.2倍に希釈して、当該塗布液を用いて塗布を再開した。塗布再開後に得られた光反射フィルムを、再度上記膜厚測定方法1と同様の方法で膜厚を測定したところ51nmという値が得られた。
【0169】
<実施例2のまとめ>
本発明の膜厚測定方法を用いた光反射フィルムの製造システムによって、ロールtoロール方式で可視光透過膜を備えた光反射フィルムを製造する際に、可視光透過膜の製膜工程を長時間ストップせずに、膜厚測定しつつ可視光透過膜の製膜をすることができた。これにより、製造時間のロスを軽減しつつ、所望の膜厚の可視光透過膜が積層された光反射フィルムを製造することができる。
【0170】
また、従来の方法では、膜厚確認用に可視光透過膜を別途成膜した光反射フィルムを作製し、当該可視光透過膜の膜厚を測定すること等を行っていたが、通常、その膜厚確認用として可視光透過膜を形成した部分は製品としては使えない部分となり、原材料のロスがあった。本技術を活用すると、例えば、ロールtoロール方式のライン上で、製品となる可視光透過膜に直接光照射して膜厚を測定できるので、原材料ロスを抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0171】
本発明は、膜厚を測定する際の原材料ロス及び膜厚測定時間ロスを抑制でき、かつ測定精度の高い、金属層上に形成された可視光透過膜の膜厚測定方法等を提供することができることから、光反射フィルムの製造方法に好適に利用される。
【符号の説明】
【0172】
10 光反射フィルム
11 基材
12 金属層
13 低屈折率層
14 高屈折率層
15 可視光透過膜
20 第1の膜形成装置
30 第2の膜形成装置
40 反射スペクトルの測定装置
50 演算装置
60 制御装置
100 膜厚測定システム
200 光反射フィルムの製造システム