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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】熱電変換素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/24 20060101AFI20220621BHJP
   H01L 35/34 20060101ALI20220621BHJP
   H01L 35/26 20060101ALI20220621BHJP
   H01L 51/00 20060101ALI20220621BHJP
   H01L 51/30 20060101ALI20220621BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20220621BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20220621BHJP
   C08L 1/00 20060101ALI20220621BHJP
   H01L 35/32 20060101ALN20220621BHJP
【FI】
H01L35/24
H01L35/34
H01L35/26
H01L29/28 100Z
H01L29/28 250Z
H01L29/28 250G
H01L29/28 220A
B82Y30/00
C08L101/12
C08L1/00
H01L35/32 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021000474
(22)【出願日】2021-01-05
(62)【分割の表示】P 2016204657の分割
【原出願日】2016-10-18
(65)【公開番号】P2021073694
(43)【公開日】2021-05-13
【審査請求日】2021-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】八谷 耕一
【審査官】柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-216766(JP,A)
【文献】特表2008-523614(JP,A)
【文献】特開2016-099876(JP,A)
【文献】特開2016-082132(JP,A)
【文献】特開2012-219380(JP,A)
【文献】特開2012-236983(JP,A)
【文献】特開2014-227535(JP,A)
【文献】特開2014-101604(JP,A)
【文献】特開2004-265988(JP,A)
【文献】特開2001-298126(JP,A)
【文献】特開2008-223022(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/24
H01L 35/34
H01L 35/26
H01L 51/00
H01L 51/30
B82Y 30/00
C08L 101/12
C08L 1/00
H01L 35/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性高分子およびセルロースナノファイバを含有する材料からなる熱電変換層を備え、
前記導電性高分子はポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリスチレンスルホナート)であり、
前記材料中の前記導電性高分子とセルロースナノファイバの割合は、質量比で、導電性高分子を100とした時にセルロースナノファイバが1以上10以下である熱電変換素子。
【請求項2】
前記セルロースナノファイバの平均幅が50nm以下で、重合度が300~400である請求項1記載の熱電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は熱電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換素子は、熱エネルギーと電気エネルギーを相互に変換することができる素子である。熱電変換素子をその両端に温度差が生じる環境に設置することで、可動部を必要とせずに熱電変換素子から電力を取り出すことができる。例えば、排熱から電気エネルギーを生み出すことができる。そのため、熱電変換素子を用いた発電技術は、身の周りの未利用のエネルギーを回収して利用するエネルギーハーベスティング技術として、大いに期待されている。
熱電変換素子を、例えば分散型の自立電源として利用することができれば、大規模センサネットワーク、ウェアラブルエレクトロニクスなどの電源として用いることが可能となる。特に、有機物からなる熱電変換材料を用いた場合には、熱電変換層を印刷パターンで形成できるため、軽量化、低コスト化、大面積による高出力化が可能となる。
【0003】
熱電変換材料の性能はパワーファクタPF(=S2σ)で評価される。ここで、Sはゼーベック係数、σは導電率である。よって、導電率および熱起電力が高く、熱伝導率が低いほど、熱電変換性能が高いことから、熱電変換材料にフォノン散乱を起こす物質を含
有させることが提案されている(特許文献1、2等を参照)。
特許文献3には、熱電変換素子の基板用の耐熱性が高い材料の一例として、セルロースナノファイバが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-241355号公報
【文献】特開2015-38961号公報
【文献】特開2010-199276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1および2に記載されている熱電変換材料の性能は、自立電源として使用するには不十分なものであり、より一層の性能向上が求められている。
この発明の課題は、熱電変換性能の向上が期待できる熱電変換素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明の一態様は、導電性高分子およびセルロースナノファイバを含有する材料からなる熱電変換層を備える熱電変換素子を提供する。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、熱電変換性能の向上が期待できる熱電変換素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の熱電変換素子を示す平面図である。
図2図1のA-A断面図である。
図3】実施形態の熱電変換素子を用いた無線センサ送信装置の一例を説明する斜視図である。
図4】実施例で用いた試験片および試験方法を説明する斜視図である。
図5】実施例の結果から得られた、熱電変換層を構成する材料のセルロースナノファイバ含有量と導電率(相対値)およびゼーベック係数(相対値)との関係を示すグラフである。
図6】実施例の結果から得られた、熱電変換層を構成する材料のセルロースナノファイバ含有量とPF値(相対値)との関係を示すグラフである。
図7図1の熱電変換素子を製造する方法の一例を示す工程図である。
図8図7に示す製造方法で形成された下部電極のパターンを示す平面図である。
図9図7に示す製造方法で形成するレジストパターンを示す平面図である。
図10図7に示す製造方法で使用するメタルマスクの開口パターンを示す平面図である。
図11図7に示す製造方法で、下部電極の上に熱電変換層が形成された状態を示す平面図である。
図12図7に示す製造方法で、上部電極および接続端子を形成するための印刷パターンを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態では、この発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この発明は以下に示す実施形態に限定されない。
この実施形態の熱電変換素子1は、図1および2に示すように、基板2と、基板2上に形成された印刷パターンからなる複数の熱電変換単位10とを有する。熱電変換単位10は、下部電極31と熱電変換層4と上部電極32とで構成されている。熱電変換層4は、p型導電性高分子およびセルロースナノファイバを含有する材料からなる。p型導電性高分子とセルロースナノファイバの割合は、質量比で、p型導電性高分子を100とした時にセルロースナノファイバが1以上30以下である。
【0010】
基板2上には、20列12行に千鳥配置で、120個の熱電変換単位10が形成され、これらが下部電極31により直列に接続されている。基板2の一方の縁部に直列接続の両端が存在し、各位置に外部との接続端子33が形成されている。
図2に示すように、隣り合う下部電極31の間に絶縁層35が形成されている。絶縁層35は熱電変換層4の上面までの高さで形成されている。絶縁層35を挟んだ熱電変換層4の隣に導電層32aが形成されている。導電層32aはn型導電性高分子の代替層である。導電層32aと熱電変換層4との間に絶縁層36が形成されている。基板2の周縁部に絶縁層37が形成されている。
【0011】
下部電極31のパターンは銀ペーストの印刷工程を経て基板2上に形成され、絶縁層35~37はレジストパターンとして形成される。熱電変換層4のパターンは、p型導電性高分子およびセルロースナノファイバを含有する材料を印刷する工程を経て形成される。導電層32aは、上部電極32のパターンを印刷工程を経て形成する際に、銀ペーストを熱電変換層4から隣の下部電極31まで至るように印刷することで形成される。
実施形態の熱電変換素子1は、p型導電性高分子およびセルロースナノファイバを含有する材料からなる熱電変換層4を備えることで、p型導電性高分子を含有しセルロースナノファイバを含有しない材料からなる熱電変換層を備えた熱電変換素子よりも高い熱電性能が得られる。
【0012】
[熱電変換素子の製造]
図1に示す熱電変換素子1の製造方法の一例を以下に説明する。図7は各工程における図1のA-A断面に対応する断面を示す図である。
先ず、厚さ100μmのPETフィルムからなる基板2に、図8に示すパターンで下部電極31を形成する。図7(a)はこの状態を示す断面である。下部電極31は、スクリーン印刷で銀ペーストパターンを厚さ0.5μmで印刷した後に、銀ペーストパターンの上にカーボンペーストパターンを同じ厚さで印刷し、両ペースト層を乾燥させることにより形成する。カーボンペーストパターンは銀ペーストパターンの表面酸化を防止するために形成する。
銀ペーストとしては、例えば、藤倉化成(株)製の「ドータイトFA-333」などが使用できる。カーボンペーストとしては、例えば、藤倉化成(株)製の「ドータイトFC-415」や「FC-413」などが使用できる。
【0013】
次に、図7(b)に示すように、図8の状態の基板2上にフォトレジスト膜Rを塗布する。次に、フォトリソグラフィ工程とエッチング工程を行うことで、図9に示すレジストパターンPを形成する。図7(c)はこの状態を示す断面図である。
次に、図7(d)に示すように、レジストパターンPの上に、図10に示す開口パターンを有する厚さ1mmのメタルマスクMを置き、ゲル状の熱電変換材料(ポリオレフィン系化合物100質量部+セルロースナノファイバ1.0質量部)を印刷する。これにより、基板2上の全ての下部電極31の上に、熱電変換材料からなる印刷パターンを形成する。
【0014】
次に、この状態の基板2を120℃で2時間加熱することで、印刷パターンを乾燥させて、ポリオレフィン系化合物100質量部とセルロースナノファイバ1.0質量部との混合材料からなる熱電変換層4を得る。熱電変換層4の厚さは例えば100μmとする。図11はこの状態を示す平面図であり、図7(e)はこの状態を示す断面図である。
次に、銀ペーストを図12に示すパターンで印刷し、120℃で2時間加熱することで銀ペーストを乾燥させる。この印刷はスクリーン印刷により行い、厚さは例えば0.5μmとする。図7(f)はこの状態を示す断面図である。
基板2の一方の縁部(図12の下端)では、銀ペーストを基板2の端までの長さのパターン32bで印刷する。このパターン32bの先端部(絶縁層上に形成されている部分)を接続端子33として使用する。これにより、上部電極32と接続端子33を形成して、図1および2に示す熱電変換素子1を得る。
【0015】
[応用]
実施形態の熱電変換素子1は、無線センサ送信装置の自立電源として使用できる。
図3に示す無線センサ送信装置5は、回路基板51に形成されたアンテナ回路52およびセンサ端子53と、熱電変換素子1からなる自立電源と、信号処理・送信回路54と、電圧増幅部・バッテリー55と、で構成されている。
上述のように、実施形態の熱電変換素子1は、熱電変換層4がp型導電性高分子とセルロースナノファイバを含有する材料からなるため、吸熱部に付与する熱エネルギーが小さい場合でも、無線センサを駆動させるに十分な電力を供給できる。よって、実施形態の熱電変換素子1を電源として用いた無線センサ送信装置5は、太陽電池が使用できない照明のない場所においても、常時稼動できる自立型無線センサ送信装置として使用できる。
【0016】
[無線センサ送信装置の組み立て]
無線センサ送信装置5の組立方法の一例を以下に説明する。
先ず、アンテナ回路52およびセンサ端子53が形成された回路基板51の上に信号処理・送信回路54と電圧増幅部・バッテリー55を設置する。次に、この状態の回路基板51を、熱電変換素子1の上部に貼り付ける。次に、熱電変換素子1を電源コントローラに接続して、全体を筐体に格納する。
【0017】
[材料について]
<セルロースナノファイバ>
セルロースナノファイバとしては、 木質パルプなどを原料とし、リファイナーや高圧ホモジナイザなどによる機械処理、 あるいはTEMPO酸化などの薬品処理によって得られたもので、平均幅が数~20nm、平均長さが0.5~数μm、重合度が300~500の繊維状物質を使用できる。最大幅は500nm以下で、平均幅は50nm以下で、平均繊維長は0.5μmで、重合度は300~400であることが好ましい。
【0018】
<導電性高分子の例示>
熱電変換層の構成材料として、 セルロースナノファイバとともに含有させる導電性高分子としては、共役系の分子構造を有する高分子化合物(共役系高分子)を用いることができる。
共役系高分子としては、ポリチオフェン系化合物、ポリピロール系化合物、ポリアニリン系化合物、ポリアセチレン系化合物、ポリ(p-フェニレン)系化合物、ポリ(p-フェニレンビニレン)系化合物(PPV系化合物)、ポリ(p-フェニレンエチニレン)系化合物、ポリ(p-フルオレニレンビニレン)系化合物、ポリアセン系化合物、ポリフェナントレン系化合物が挙げられる。これらは、p型導電性高分子(p型半導体特性を有する導電性高分子)である。
また、上記高分子化合物のモノマーに置換基が導入された誘導体からなる繰り返し単位を有する共役系高分子も挙げられる。
n型導電性高分子(n型半導体特性を有する導電性高分子)である共役系高分子は、現時点では不安定な物質が多い。
【0019】
<添加剤>
熱電変換層の構成材料としては、 導電性高分子とセルロースナノファイバ以外に、 添加剤が挙げられる。
つまり、使用する導電性高分子の種類によっては、熱硬化性樹脂などのバインダを添加する必要がある。また、導電性を高めるために、CNT(カーボンナノチューブ)分散体やエチレングリコール、ジメチルスルホキシド、n-メチルピロリドンあるいはジメチルホルムアミド、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテルなどの極性高沸点溶媒を添加することもできる。
熱電変換層の構成材料がこのような添加剤を含有する場合でも、導電性高分子とセルロースナノファイバの割合は、質量比で、導電性高分子を100とした時にセルロースナノファイバが1以上30以下であることが好ましい。
【0020】
<基板>
基板の種類は特に限定されないが、電極の形成や熱電変換層の形成時に影響を受けにくい基板を使用することが好ましい。プラスチック製基板、ガラス製基板、透明セラミックス製基板、金属製基板のいずれを使用してもよい。
コストや柔軟性の観点から、プラスチックフィルムを使用することが好ましい。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレン-2,6-フタレンジカルボキシレート、ビスフェノールAとイソおよびテレフタル酸との重合で得られるポリエステルフィルムなどのポリエステルフィルム、ポリシクロオレフィンフィルム、ポリイミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリフェニルスルフィドフィルムなどが挙げられる。
【0021】
これらのうち、入手の容易性、100℃以上の耐熱性、加工性、経済性および効果の観点から、市販のポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、各種ポリイミドやポリカーボネートフィルムが好ましい。印刷工程を考えると、例えば、片面に接着しやすい加工が施されたシート使用することが好ましい。
【0022】
[一態様の作用、効果について]
この発明の一態様(第一態様)の熱電変換素子によれば、熱電変換層が、導電性高分子およびセルロースナノファイバを含有する材料からなることにより、導電性高分子による電気的特性はそのままで、熱電変換層の三次元構造が最適化されるとともに熱伝導性が低くなることが期待できる。これに伴い、熱電変換素子のPFが向上することにより、少ない温度差で無線センサを駆動させるに十分な電力が供給可能になることが期待できる。
導電性高分子およびセルロースナノファイバを含有する材料中の導電性高分子とセルロースナノファイバの割合は、質量比で、導電性高分子を100とした時にセルロースナノファイバが1以上30以下であることが好ましく、1以上20以下であることがより好ましく、1以上15以下であることがさらに好ましい。
【0023】
[好ましい態様について]
第一態様の熱電変換素子は、さらに下記の構成(a)~(e)の少なくともいずれかを有することが好ましい。
(a)導電性高分子およびセルロースナノファイバを含有する材料中の導電性高分子とセルロースナノファイバの割合は、質量比で、導電性高分子を100とした時にセルロースナノファイバが1以上30以下である。
(b)前記セルロースナノファイバの平均幅は50nm以下で、重合度は300~400である。
(c)導電性高分子およびセルロースナノファイバを含有する材料中の導電性高分子とセルロースナノファイバの割合は、質量比で、導電性高分子を100とした時にセルロースナノファイバが1以上10以下である。
【0024】
(d)導電性高分子が、ポリチオフェン系化合物、ポリピロール系化合物、ポリアニリン系化合物、ポリアセチレン系化合物、ポリ(p-フェニレン)系化合物、ポリ(p-フェニレンビニレン)系化合物、ポリ(p-フェニレンエチニレン)系化合物、ポリ(p-フルオレニレンビニレン)系化合物、ポリアセン系化合物、ポリフェナントレン系化合物、およびこれらの化合物のモノマーに置換基が導入された誘導体からなる繰り返し単位を有する共役系高分子から選択される少なくとも一つを有する。
(e)熱電変換層は、導電性高分子の分散液にセルロースナノファイバを含む混合液をゲル化して得られた材料を印刷することで形成されている。
【0025】
この発明の第二態様の熱電変換素子は、下記の構成(f)を有する。
(f)基板と、前記基板上に形成された複数の熱電変換単位と、を有し、前記複数の熱電変換単位は直列接続され、前記熱電変換単位は、基板上に形成された下部電極と、前記下部電極上に形成された熱電変換層と、前記熱電変換層上および隣接する前記下部電極上に渡って形成された上部電極と、を有し、前記熱電変換層は導電性高分子およびセルロースナノファイバを含有する材料からなり、前記直列接続の両端にそれぞれ外部との接続端子を有する。
【0026】
第二態様の熱電変換素子は、さらに前記構成(a)~(e)の少なくともいずれかを有することが好ましい。
この発明の第三態様として、前記第二態様の熱電変換素子を備えた無線センサ用電源が挙げられる。
この発明の第四態様として、前記第一態様または第二態様の熱電変換素子からなる自立電源と、信号処理・送信回路と、電圧増幅部・バッテリーと、アンテナ回路およびセンサ端子が形成された回路基板と、を有する無線センサが挙げられる。
【実施例
【0027】
[熱電変換材料の熱電性能の評価]
<熱電変換材料の調製>
導電性高分子として、ポリチオフェン系化合物を含むコーティング剤であるヘレウス株式会社の「Clevios H1000(水分散液)」を用意した。ポリチオフェン系化合物はp型導電性高分子であり、このコーティング剤の主成分は「ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリスチレンスルホナート)」である。
セルロースナノファイバとしては、最大幅500nm以下、平均幅50nm以下、平均繊維長0.5μm、重合度の中央値が350であるものを、中越パルプ工業(株)から入手した。
【0028】
サンプルNo.1~No.6用として、セルロースナノファイバを質量比でポリチオフェン系化合物100に対して1~40の各比率で含有するゲル状の熱電変換材料を調製した。すなわち、セルロースナノファイバを質量比でPH1000の有効成分100に対して各比率となる量だけ添加し、ジエチレングリコールモノメチルエーテルをPH1000に対して5体積%となるように添加した後、攪拌しながら加温して水分を蒸発させることにより、セルロースナノファイバ含有量が異なるゲル状の熱電変換材料を得た。
また、サンプルNo.7用としては、PH1000からなりセルロースナノファイバを含有しないゲル状の熱電変換材料を調製した。すなわち、PH1000に対してジエチレングリコールモノメチルエーテルを5体積%となるように添加した後、攪拌しながら加温して水分を蒸発させることによりゲル状の熱電変換材料を得た。
【0029】
<試験片の作成>
先ず、片面に接着しやすい加工が施されている厚さ100μmのPETフィルムを、幅5mm×長さ25mmの小片に切り出した。次に、上述方法で得られた各熱電変換材料を、各小片の加工が施された面に塗布した後、室温での乾燥と120℃で4時間の加熱処理を行うことで、PETフィルム上に熱電変換層を形成した。
これにより、5mm×25mm×1~10μmの熱電変換層4がPETフィルム(基板2)上に形成されたNo.1~No7の各試験片6を得た。
【0030】
<導電率:σ>
No.1~No.7の各試験片について熱電変換層の表面抵抗率(Ω/□)を、(株)三菱化学アナリテック製の抵抗率計「ロレスタGP」を用いて測定した。また、各試験片の熱電変換層の厚さ(cm)を触針型膜厚計で測定した。そして、これらの測定値から導電率(S/cm)を算出した。各試験片のσ(導電率)値をNo.7のσ値で除算することでNo.7の値を基準とした相対値を得た。
【0031】
<ゼーベック係数:S>
図4に示すように、No.1~No.7の各試験片について、各試験片6の熱電変換層4の表面に、銀ペースト7を用いて二本の銀ワイヤ8の一端を接着した。各銀ワイヤ8の接着位置は、試験片6の幅方向中央で、所定距離L(20mm)だけ離れた位置である。
次に、ペルチェ素子を用い、室温/窒素ガス雰囲気下で、基板2の裏面から一方の銀ワイヤ8の接着位置を加熱し、他方の銀ワイヤ8の接着位置を冷却することで、熱電変換層4に温度差を与えた。そして、二本の銀ワイヤ8の他端を電圧計に接続して、計測される電圧が2mVとなる温度差を調べた。この温度差と電位差(2mV)とからゼーベック係数(S)を算出した。各試験片のS値をNo.7のS値で除算することでNo.7の値を基準とした相対値を得た。
【0032】
<熱電性能:PF>
このようにして得られた導電率σの相対値とゼーベック係数Sの相対値を用い、PF=S2 σの関係式に従って、室温におけるPF値(相対値)を算出した。
以上の結果を表1に示す。また、この結果から得られた熱電変換層を構成する材料のセルロースナノファイバ含有量(相対値)と導電率およびゼーベック係数(相対値)との関係を図5に、セルロースナノファイバ含有量とPF値(相対値)との関係を図6にグラフで示す。
【0033】
【表1】
【0034】
この結果から以下のことが分かる。
セルロースナノファイバを質量比でポリチオフェン系化合物100に対して1以上30以下の割合で含有する材料からなる熱電変換層を有するNo.1~5 の試験片では、ポリチオフェン系化合物からなる(セルロースナノファイバを含有しない)熱電変換層を有するNo.7の試験片の1.2倍以上のPF値が得られた。
また、セルロースナノファイバを質量比でポリチオフェン系化合物100に対して1以上10以下の割合で含有する材料からなる熱電変換層を有するNo.1~3の試験片では、ポリチオフェン系化合物からなる(セルロースナノファイバを含有しない)熱電変換層を有するNo.7の試験片の1.4倍以上のZT値が得られた。つまり、ポリチオフェン系化合物100に対して1以上10以下の割合でセルロースナノファイバを添加することで、熱電変換層としたときの熱電性能をセルロースナノファイバを含有しない場合の1.4倍以上にすることができる。
【0035】
なお、セルロースナノファイバの添加量がポリチオフェン系化合物100に対して1の割合の場合でも、無添加の場合よりも導電率が高くなった理由は、セルロースナノファイバが微細なため、これを核としてポリチオフェン系化合物(導電性高分子)のネットワークパス(三次元構造)が形成されたためと推定される。
以上のことから、ポリチオフェン系化合物およびセルロースナノファイバを含有する材料からなる熱電変換層は、質量比でポリチオフェン系化合物100に対してセルロースナノファイバを1以上30以下の割合で含有することが好ましく、1以上10以下の割合で含有することがより好ましいことが分かる。
【符号の説明】
【0036】
1 熱電変換素子
10 熱電変換単位
2 基板
31 下部電極
32 上部電極
33 接続端子
4 熱電変換層
5 無線センサ送信装置
51 回路基板
52 アンテナ回路
53 センサ端子
54 信号処理・送信回路
55 電圧増幅部・バッテリー
6 試験片
7 銀ワイヤ
8 銀ペースト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12