(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】細胞培養容器、細胞培養容器の支持治具、及び細胞培養方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20220621BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12N1/00 A
(21)【出願番号】P 2021085555
(22)【出願日】2021-05-20
(62)【分割の表示】P 2016208335の分割
【原出願日】2016-10-25
【審査請求日】2021-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2016070718
(32)【優先日】2016-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 郷史
(72)【発明者】
【氏名】末永 亮
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 貴彦
【審査官】佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-11260(JP,A)
【文献】特開2005-295904(JP,A)
【文献】特開2016-7170(JP,A)
【文献】特開2006-55069(JP,A)
【文献】国際公開第2012/133514(WO,A1)
【文献】特開2004-201689(JP,A)
【文献】米国特許第7560274(US,B1)
【文献】特開2015-116150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
C12N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス透過性を有するプラスチックフィルムからなる
可撓性を有する容器本体と、注入出用ポートとを備え、
前記容器本体は、周辺部がシールされ、容器天面側が
、平坦面とされた天面を有する台地状に膨出した膨出形状を有するとともに、
前記容器本体の底面に細胞培養部となる凹部を複数設け
、
前記凹部は、所定の大きさで開口し、前記凹部の底部に細胞を集めて培養を行うにあたり、前記容器本体内における前記細胞の移動を抑止して、前記細胞が前記凹部に留まるように形成され、
前記プラスチックフィルムは、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、シリコーン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)から選択される熱可塑性樹脂を材料とし、
前記プラスチックフィルムの厚みは、30~200μmであり、可撓性を有しながらも、前記天面側の膨出形状や前記凹部の形状が保たれる形状保持性を有するように構成されている
ことを特徴とする細胞培養容器。
【請求項2】
前記凹部は、開口径が0.3~10mmであり、深さが0.1mm以上である請求項1に記載の細胞培養容器。
【請求項3】
前記底面に占める前記凹部の占有面積が、前記底面の面積に対して30~90%である請求項1又は2に記載の細胞培養容器。
【請求項4】
前記凹部が、開口径が異なる二種以上の凹部を含む請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞培養容器。
【請求項5】
前記プラスチックフィルムの酸素透過度が、5000mL/(m
2・day・atm)以上である請求項1~4のいずれか一項に記載の細胞培養容器。
【請求項6】
前記凹部の肉厚が、前記底面の前記凹部以外の部分の肉厚に比べて薄肉にされた請求項1~5のいずれか一項に記載の細胞培養容器。
【請求項7】
前記凹部を含む前記底面に、細胞低接着処理を施した請求項1~6のいずれか一項に記載の細胞培養容器。
【請求項8】
前記注入出ポートの基端から前記容器本体内に突出するポート閉塞防止片を、前記天面側に位置するように設けた請求項1~7のいずれか一項に記載の細胞培養容器。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の細胞培養容器を支持する治具であって、
前記容器本体の底面側を前記凹部に非接触で支持可能なことを特徴とする細胞培養容器の支持治具。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の細胞培養容器を用いた細胞培養方法であって、
前記容器本体の底面側を前記凹部に非接触で支持して、前記凹部の底部に細胞を集めて培養することを特徴とする細胞培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の細胞を効率良く培養するための細胞培養容器、細胞培養容器の支持治具、及び細胞培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬品の生産や、遺伝子治療、再生医療、免疫療法などの分野において、細胞(組織、微生物、ウイルスなどを含む)を人工的な環境下で効率良く大量に培養・分化誘導することが求められている。
【0003】
このような細胞培養にあっては、培地中の細胞密度を適正な範囲に維持することが必要である。すなわち、細胞の増殖に伴い培地中の細胞密度が高くなっていくと、増殖に必要な培地成分の枯渇や、細胞自身の代謝産物の蓄積などにより細胞の成長が阻害され、細胞の増殖効率が低下してしまう。また、培地中の細胞密度が低すぎても、細胞を効率良く増殖・分化誘導させることができない。このため、細胞をある程度の規模で培養する場合には、通常、培地中の細胞密度が適性に維持されるように、継代を繰り返しながら培養を行っている。
【0004】
従来、継代培養に際しては、ウェルプレートやフラスコなどが培養容器として用いられることが多い。例えば、ウェルプレートを用いて、適度の細胞密度となるように、培地とともに細胞を個々のウェルに加えて培養を開始し、ウェル内で細胞を十分に増殖させてからフラスコに移し替え、細胞の増殖に合わせて培地を追加して培養するとともに、一定量に増殖した時点で、より容量の大きいフラスコに移し替えて、さらに培地を追加することにより、継代を繰り返して細胞を大量に培養することが知られている(例えば、特許文献1[0027]段落など参照)。
【0005】
なお、特許文献2には、フラスコタイプの培養容器として、直方体などの多面体形状に形成された容器の一面に、複数の凹部が凹設されたフラスコタイプの培養容器が提案されている。特許文献2では、第1培養面に複数凹設された第1培養部となる凹部でシングルセルの合一による凝集塊を形成し、これを容器内の第2培養面に形成された第1培養部よりも面積が広い第2培養部に移して、より大きな凝集塊となるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-241159号公報
【文献】特開2006-55069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このようにして継代培養を行うにあたっては、ウェルプレートの個々のウェルに細胞を加える際や、ウェルプレートからフラスコに細胞を移し替える際に、ピペッティング操作を何回も繰り返す必要がある。また、継代のたびに新たなフラスコなどの培養容器に細胞を移さなければならず、煩雑な作業が強いられるばかりか、細菌やウイルスなどのコンタミネーションのリスクも高くなってしまうという問題がある。
【0008】
また、特許文献2のようなフラスコタイプの培養容器では、開口部を閉塞する蓋を外して、開口部を開放したときにしかガス交換が行われない。このため、培養中の細胞に十分な量の酸素を供給できないだけでなく、ガス交換に際してもコンタミネーションのリスクが避けられないという問題もある。さらに、実験室レベルを超えて、ある程度の規模で細胞を大量に培養するには、容量が限られているフラスコタイプの培養容器は不向きである。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたものであり、培養時の細胞密度を適性に維持しながら、コンタミネーションのリスクを低減しつつ、同一の容器内で効率良く細胞を培養・分化誘導するための細胞培養容器、細胞培養容器の支持治具、及び細胞培養方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る細胞培養容器は、ガス透過性を有するプラスチックフィルムからなる可撓性を有する容器本体と、注入出用ポートとを備え、前記容器本体は、周辺部がシールされ、容器天面側が、平坦面とされた天面を有する台地状に膨出した膨出形状を有するとともに、前記容器本体の底面に細胞培養部となる凹部を複数設け、前記凹部は、所定の大きさで開口し、前記凹部の底部に細胞を集めて培養を行うにあたり、前記容器本体内における前記細胞の移動を抑止して、前記細胞が前記凹部に留まるように形成され、前記プラスチックフィルムは、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、シリコーン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)から選択される熱可塑性樹脂を材料とし、前記プラスチックフィルムの厚みは、30~200μmであり、可撓性を有しながらも、前記天面側の膨出形状や前記凹部の形状が保たれる形状保持性を有する構成としてある。
【0011】
また、本発明に係る細胞培養容器の支持治具は、上記の細胞培養容器を支持する治具であって、前記容器本体の前記底面側を前記凹部に非接触で支持可能な構成としてある。
【0012】
また、本発明に係る細胞培養方法は、上記の細胞培養容器を用いた細胞培養方法であって、前記容器本体の前記底面側を前記凹部に非接触で支持して、前記凹部の底部に細胞を集めて培養する方法としてある。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、培養時の細胞密度を適性に維持しながら、コンタミネーションのリスクを低減しつつ、同一の容器内で効率良く細胞を培養することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る細胞培養容器の概略を示す説明図であり、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は底面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る細胞培養容器の変形例の概略を示す説明図であり、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は底面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る細胞培養容器の使用例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0016】
図1に示す細胞培養容器1は、ガス透過性を有するプラスチックフィルムからなる容器本体2と、培地や細胞などが流通可能な管状の部材からなる注入出用ポート3とを備えている。
【0017】
容器本体2は、周辺部がシールされ、その天面2a側が台地状に膨出した膨出形状を有しており、平坦面とされた天面2aの縁が傾斜して周辺部に連なるように形成されている。これとともに、容器本体2の底面2bには、細胞培養部となる凹部4が複数設けられている。
【0018】
容器本体2の底面2aに設ける凹部4は、容器本体2内における細胞の移動を抑止して、培養中の細胞が一つの凹部4に留まるようにするために、開口径(直径)Dが0.3~10mmであるのが好ましく、より好ましくは0.3~5mm、さらに好ましくは0.5~4mm、特に好ましくは0.5~2mmであり、深さdが0.1mm以上であるのが好ましい。凹部4の開口径は、全ての凹部4で同一としてもよく、例えば、底面2bを複数の領域に分割して、それぞれの領域ごとに凹部4の開口径を異ならせるなどして、底面2aに設ける凹部4が、開口径が異なる二種以上の凹部を含んでいてもよい。
例えば、本実施形態では、容器本体2の天面2a側を台地状に膨出させて、天面2aの縁が傾斜して周辺部に連なるように形成している。このようにすると周辺部側の高さが低くなるので、培地とともに培養対象の細胞を容器本体2に注入した際に、細胞を含む培地の量が周辺部側で少なくなり、培地中を沈降する細胞数も少なくなる。そうすると、全ての凹部4の開口径を同一にすると、周辺部側の凹部4に沈降して入る細胞数が少なくなってしまうため、全ての凹部4に同じ程度の数の細胞が沈降して入ってくるように、周辺部側では凹部4の開口径を大きくするのが好ましい。
【0019】
また、
図1に示す細胞培養容器1では、凹部4の底部に細胞が集まり易くなるように、凹部4の形状を球冠状としているが、凹部4の形状は、これに限定されない。凹部4の底部に細胞が集まり易くするには、凹部4の直径Dに対する深さdの比d/Dを0.05~1とするのが好ましい。
【0020】
また、底面2bに占める凹部4の占有面積は、底面2bの凹部4以外の部分に細胞が滞留してしまうのを避けるために、成形性が損なわれない範囲でできるだけ大きくするのが好ましく、具体的には、底面2bの面積に対して30~90%であるのが好ましい。凹部4の配列は、図示するような千鳥状として、底面2bに占める凹部4の占有面積ができるだけ大きくなるようにするのが好ましいが、必要に応じて格子状に配列してもよい。
【0021】
また、容器本体2の大きさは特に限定されないが、例えば、縦50~500mm、横50~500mmとするのが好ましい。
【0022】
このような細胞培養容器1は、例えば、次のようにして製造することができる。
まず、容器本体2の天面2a側となる天面側プラスチックフィルムと、容器本体2の底面2b側となる底面側プラスチックフィルムとを用意する。そして、天面側プラスチックフィルムを、その周辺部を残して台地状に膨出するように成形する。一方、底面側プラスチックフィルムには、複数の凹部4を所定の配列で成形する。これらは、一般的な真空成形や圧空成形などによって形成することが可能であり、金型などを適宜調整することで、膨出形状や椀状凹部4の形状が所望の形状となるように成形することができる。
【0023】
次に、上記のように成形された天面側プラスチックフィルムと底面側プラスチックフィルムとを重ね合せるとともに、所定の位置に注入出用ポート3を形成する管状の部材を挟んで周辺部を熱融着によりシールし、必要に応じて周辺部をトリミングする。これにより、
図1に示すような細胞培養容器1を製造することができる。
【0024】
容器本体2を形成するプラスチックフィルムのガス透過性は、JIS K 7126のガス透過度試験方法に準拠して、試験温度37℃で測定した酸素の透過度が、5000mL/(m2・day・atm)以上であるのが好ましい。
また、当該プラスチックフィルムは、細胞培養の進行状況や細胞の状態などを確認できるように、一部又は全部が透明性を有しているのが好ましい。
【0025】
容器本体2を形成するプラスチックフィルムに用いる材料としては、所望のガス透過性を有していれば特に限定されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、シリコーン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などの熱可塑性樹脂が挙げられる。これらは単層で用いても、同種又は異種の材料を積層して用いてもよいが、周辺部をシールする際の熱融着性を考慮すると、シーラント層として機能する層を有しているのが好ましい。
【0026】
また、可撓性を有しながらも、天面2a側の膨出形状や凹部4の形状が保たれる適度の形状保持性を有するように、容器本体2を形成するのに用いるプラスチックフィルムの厚みは、30~200μmであるのが好ましい。
【0027】
また、注入出用ポート3は、培地や細胞などが流通可能な管状の部材からなるのは前述した通りであるが、注入出用ポート3を形成する管状の部材は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリスチレン系エラストマー、FEPなどの熱可塑性樹脂を用いて、射出成形、押出成形などにより、所定の形状に成形することができる。
【0028】
また、注入出用ポート3には、容器本体2の天面2a側と底面2b側との貼り付きによってポートが閉塞してしまうのを避けるために、その基端から容器本体2内に突出するポート閉塞防止片を設けることができる。このようなポート閉塞防止片を設ける場合には、底面2bに設けた凹部4への細胞の沈降の妨げにならないように、容器本体2の天面2a側に位置するように設けるのが好ましい。
【0029】
このような細胞培養容器1を用いて細胞培養を行うには、注入出用ポート3に接続された液送チューブを介して閉鎖系を維持しつつ、培地とともに培養対象の細胞を容器本体2に注入する。そして、容器本体2に注入された細胞は、培地中を沈降して各凹部4の底部に集められる。
【0030】
ここで、二枚のプラスチックフィルムを重ねて周辺部をシールしただけの平パウチ状の容器では、容器内が内容液で満たされていくにつれて周辺部が持ち上がるように底面が変形する。これに対して、本実施形態にあっては、容器本体2の天面2a側が膨出形状を有しており、注入量を考慮して天面2a側の膨出形状を設計することで、培地とともに培養対象の細胞を注入する際の底面2bの変形を抑制することができる。これによって、底部2bに設けられた凹部4が傾いたりすることなく、それぞれの凹部4に均一に細胞を収容することが可能となる。
【0031】
培地中を沈降する細胞が、各凹部4の底部に集まり易くなるように、凹部4を含む底面2bには、細胞低接着処理を施して細胞が接着し難くするのが好ましい。細胞低接着処理としては、例えば、プラズマ処理などの表面処理によってプラスチックフィルムの表面に親水性を付与する処理、リン脂質ポリマー、界面活性剤、アルブミンのようなタンパク質などをコーティングしてプラスチックフィルムの表面に細胞接着性タンパクが吸着するのを阻害する処理などが挙げられる。
【0032】
また、底面2bの凹部4以外の部分、特に、底面2bの周辺部側に、細胞が滞留してしまうのを避けて、凹部4の底部に細胞がより集まり易くするために、容器本体2は、
図2に示すように、その底面2a側も天面2a側と同様に台地状に膨出した膨出形状を有しているのが好ましい。このようにすることで、底部2bの縁が傾斜して周辺部に連なるように形成され、底面2bの周辺部側に細胞が滞留してしまうのを避けることができる。さらに、容器本体2の底面2b側も膨出形状を有するようにすることは、培地とともに培養対象の細胞を注入する際の底面2bの変形を抑制する上でも好ましい。
なお、このような態様とする場合、前述したようにして細胞培養容器1を製造する際に、底面側プラスチックフィルムを、その周辺部を残して膨出するように成形するとともに、膨出させた部位に凹部4を成形するようにすればよい。
【0033】
このように、本実施形態の細胞培養容器1によれば、容器本体2に注入された細胞は、培地中を沈降して各凹部4の底部に集まり、細胞密度が高められた状態で、効率良く培養・分化誘導することができる。そして、容器本体2は、ガス透過性を有するプラスチックフィルムからなるため、培養中の細胞に十分な量の酸素を供給できる。特に、本実施形態にあっては、前述したようにして底面側プラスチックフィルムに凹部4を成形する際に、当該プラスチックフィルが延伸されて、凹部4の肉厚が、底面2bの凹部4以外の部分の肉厚に比べて薄肉となるようにするのが好ましく、これにより凹部4のガス透過性を高めて、凹部4に集められた細胞により十分な酸素を供給することができる。
【0034】
また、細胞培養容器1を用いて細胞培養を行うにあたっては、CO
2インキュベータなどの培養器内で、所定の条件下で細胞を培養することができる。このとき、細胞培養容器1は、
図3に示すように、その底面2b側を凹部4に非接触で支持可能な治具10を介して、培養器内の架台に設置するのが好ましい。このようにすることで、凹部4が潰れたりして変形するのを確実に防止して、凹部4に集められた培養中の細胞が、凹部4の周囲に流出してしまわないようにすることができるだけでなく、底面2bからのガス透過性を最大限に高めることができる。
【0035】
細胞培養容器1の底面2b側を凹部4に非接触で支持可能な治具10としては、例えば、当該凹部4が非接触で挿通可能な径の穿孔又は凹部を、当該凹部4の配列に対応させて複数設けた平板状の治具や、当該凹部4の間に当該凹部4と非接触となるように網目状に線材を組んだ金網状の治具などが挙げられる。
【0036】
そして、凹部4の底部に集められた細胞が一定以上に増殖して、その細胞密度が培養に適した範囲を超えたときには、細胞培養容器1の天地を逆にして天面2aを培養面として利用することで、培養面積を拡大することができる。これにより、同一の容器内で適正な細胞密度を維持しながら、細胞培養を継続することが可能となる。
なお、培養対象の細胞が足場依存性の細胞である場合には、細胞培養容器1の天地を逆にする際に、必要に応じて、細胞を凹部4の底面から剥離するための酵素溶液を容器本体2に注入するが、この場合であっても、注入出用ポート3に接続された液送チューブを介して閉鎖系を維持しつつ、かかる酵素溶液を容器本体2に注入することができる。
【0037】
また、細胞の培養には、通常、数日~数週間の期間を要し、その期間中に、必要に応じて、培地の追加や、培地交換を行わなければならないが、注入出用ポート3に接続された液送チューブを介して培地の追加や、培地交換をすることで、閉鎖系を維持したまま、これらの作業を容易に行うことができる。さらに、培養終了後は、注入出用ポート3に接続された液送チューブを介して閉鎖系を維持したまま、細胞培養容器1内の細胞を回収することもできる。
【0038】
以上のように、本実施形態の細胞培養容器1を用いて細胞培養を行うことで、継代を行うことなく閉鎖系を維持したまま培養時の細胞密度を適正に維持して、細胞を効率的に増殖させることが可能になる。また、煩雑な移し替え作業が不要であり、コンタミネーションのリスクを低減しつつ、同一の容器内で効率良く細胞を培養することができる。
【0039】
さらに、プラスチックフィルムを用いて容器本体2を形成しているため、その容量を大きくしても軽量であり、嵩張ることもないので、大量の細胞培養に適しており、容器本体2には、予め十分な量の培地を注入しておくこともできる。しかも、クランプなどを用いて容器本体2のサイズを調整することも可能であり、細胞数、培地量に応じてフレキシブルに対応することができる。これに対して、特許文献2のようなフラスコタイプの培養容器では、サイズの異なる容器に取り換えて対応しなければならない。
【0040】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
【0041】
例えば、前述した実施形態では、容器本体2は長方形状とされており、その短辺側の一辺に注入出用ポート3を備えているが、これに限定されない。容器本体2の形状は、正方形状、楕円形状、円形状などとする場合もあり、必要に応じて種々の形状とすることができる。注入出用ポート3を備える位置やその数も適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、種々の細胞を効率良く培養する技術として利用できる。
【符号の説明】
【0043】
1 細胞培養容器
2 容器本体
2a 天面
2b 底面
3 注入出用ポート
4 凹部
10 治具