(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】整合回路及び通信装置
(51)【国際特許分類】
H03H 7/38 20060101AFI20220621BHJP
H03F 3/24 20060101ALI20220621BHJP
H01F 17/00 20060101ALI20220621BHJP
H01F 19/06 20060101ALI20220621BHJP
H01F 27/00 20060101ALI20220621BHJP
H01Q 1/50 20060101ALI20220621BHJP
H01P 5/08 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
H03H7/38 A
H03F3/24
H01F17/00 D
H01F19/06
H01F27/00 S
H01Q1/50
H01P5/08 Z
(21)【出願番号】P 2021106220
(22)【出願日】2021-06-28
(62)【分割の表示】P 2020559187の分割
【原出願日】2019-12-02
【審査請求日】2021-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2018234507
(32)【優先日】2018-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 恒
(72)【発明者】
【氏名】石塚 健一
【審査官】橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2015/178204(JP,A1)
【文献】特表2018-509798(JP,A)
【文献】特開2001-185939(JP,A)
【文献】特開平09-307327(JP,A)
【文献】米国特許第05396197(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 7/38
H03F 3/24
H01F 17/00
H01F 19/06
H01F 27/00
H01Q 1/50
H01P 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1入出力ポート、第2入出力ポート、第1コイル、第2コイル、第3コイル及びキャパシタを備え、
前記第1コイルは前記第1入出力ポートと前記第2入出力ポートとの間にシリーズに接続され、
前記第2コイルは、前記第1入出力ポートと前記第2入出力ポートとの間に構成される入出力線路と、グランドと、の間にシャントに接続され、
前記第1コイルと前記第2コイルとは互いに磁界結合し、
前記第3コイルは前記第1コイル及び前記第2コイルの少なくとも一方と磁界結合し、
前記キャパシタは前記第3コイルに接続され、前記キャパシタと前記第3コイルとを含む、前記入出力線路とは異なる閉路が構成され、
前記閉路は直列に挿入される抵抗成分を含む、
ことを特徴とする整合回路。
【請求項2】
第1入出力ポート、第2入出力ポート、第1コイル、第2コイル、第3コイル及びキャパシタを備え、
前記第1コイルは前記第1入出力ポートと前記第2入出力ポートとの間にシリーズに接続され、
前記第2コイルは、前記第1入出力ポートと前記第2入出力ポートとの間に構成される入出力線路と、グランドと、の間にシャントに接続され、
前記第1コイルと前記第2コイルとは互いに磁界結合し、
前記第3コイルは前記第1コイル及び前記第2コイルの少なくとも一方と磁界結合し、
前記キャパシタは前記第3コイルに接続され、前記キャパシタと前記第3コイルとを含む、前記入出力線路とは異なる閉路が構成され、制御電圧に応じて容量が変化する可変容量素子である、
ことを特徴とする整合回路。
【請求項3】
前記第3コイルは前記第2コイルよりも前記第1コイルに強く磁界結合する、
請求項1または請求項2に記載の整合回路。
【請求項4】
通信回路と、アンテナと、前記通信回路と前記アンテナとの間に接続される整合回路と、を備え、
前記整合回路は、
第1入出力ポート、第2入出力ポート、第1コイル、第2コイル、第3コイル及びキャパシタを有し、
前記第1コイルは前記第1入出力ポートと前記第2入出力ポートとの間にシリーズに接続され、
前記第2コイルは、前記第1コイルと前記第2入出力ポートとの間と、グランドと、の間にシャントに接続され、
前記第1コイルと前記第2コイルとは互いに磁界結合し、
前記第3コイルは前記第1コイル及び前記第2コイルの少なくとも一方と磁界結合し、
前記キャパシタは前記第3コイルに接続され、前記キャパシタと前記第3コイルとを含む閉路が構成され、
前記閉路は直列に挿入される抵抗成分を含む、
ことを特徴とする通信装置。
【請求項5】
通信回路と、アンテナと、前記通信回路と前記アンテナとの間に接続される整合回路と、を備え、
前記整合回路は、
第1入出力ポート、第2入出力ポート、第1コイル、第2コイル、第3コイル及びキャパシタを有し、
前記第1コイルは前記第1入出力ポートと前記第2入出力ポートとの間にシリーズに接続され、
前記第2コイルは、前記第1コイルと前記第2入出力ポートとの間と、グランドと、の間にシャントに接続され、
前記第1コイルと前記第2コイルとは互いに磁界結合し、
前記第3コイルは前記第1コイル及び前記第2コイルの少なくとも一方と磁界結合し、
前記キャパシタは前記第3コイルに接続され、前記キャパシタと前記第3コイルとを含む閉路が構成され、制御電圧に応じて容量が変化する可変容量素子である、
ことを特徴とする通信装置。
【請求項6】
前記第3コイルは前記第2コイルよりも前記第1コイルに強く磁界結合する、
請求項4または請求項5に記載の通信装置。
【請求項7】
増幅回路と、アンテナと、前記増幅回路と前記アンテナとの間に接続される整合回路と、を備え、
前記整合回路は、
第1入出力ポート、第2入出力ポート、第1コイル、第2コイル、第3コイル及びキャパシタを有し、
前記第1コイルは前記第1入出力ポートと前記第2入出力ポートとの間にシリーズに接続され、
前記第2コイルは、前記第1コイルと前記第2入出力ポートとの間と、グランドと、の間にシャントに接続され、
前記第1コイルと前記第2コイルとは互いに磁界結合し、
前記第3コイルは前記第1コイル及び前記第2コイルの少なくとも一方と磁界結合し、
前記キャパシタは前記第3コイルに接続され、前記キャパシタと前記第3コイルとを含む閉路が構成され、
前記閉路は直列に挿入される抵抗成分を含む、
ことを特徴とする通信装置。
【請求項8】
増幅回路と、アンテナと、前記増幅回路と前記アンテナとの間に接続される整合回路と、を備え、
前記整合回路は、
第1入出力ポート、第2入出力ポート、第1コイル、第2コイル、第3コイル及びキャパシタを有し、
前記第1コイルは前記第1入出力ポートと前記第2入出力ポートとの間にシリーズに接続され、
前記第2コイルは、前記第1コイルと前記第2入出力ポートとの間と、グランドと、の間にシャントに接続され、
前記第1コイルと前記第2コイルとは互いに磁界結合し、
前記第3コイルは前記第1コイル及び前記第2コイルの少なくとも一方と磁界結合し、
前記キャパシタは前記第3コイルに接続され、前記キャパシタと前記第3コイルとを含む閉路が構成され、制御電圧に応じて容量が変化する可変容量素子である、
ことを特徴とする通信装置。
【請求項9】
前記第3コイルは前記第2コイルよりも前記第1コイルに強く磁界結合する、
請求項7または請求項8に記載の通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波回路における整合回路及び整合回路を備える通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話端末等において、RFICとアンテナとの間には、RFICの出力インピーダンスをアンテナの特性インピーダンスに整合させる整合回路が設けられる。または、パワーアンプとアンテナとの間に、パワーアンプの出力インピーダンスをアンテナの特性インピーダンスに整合させる整合回路が設けられる。
【0003】
例えば特許文献1には、シリーズ接続のインダクタとシャント接続のキャパシタとによるLCフィルタ回路で整合回路が構成されている。また、必要に応じて、LCフィルタ回路を多段構成とする場合もある。
【0004】
LCフィルタ回路構成の整合回路は、良好なインピーダンス整合が得られる周波数帯域が狭い。また、インピーダンス整合のために必要な素子数が多いため、損失が大きい傾向がある。
【0005】
一方、オートトランス構造のインピーダンス整合回路が特許文献2に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-84898号公報
【文献】国際公開第2011/090080号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に開示されているオートトランス構造の整合回路においては、オートトランスの寄生リアクタンス成分の値を定めることで、アンテナのインピーダンス周波数特性に追従するようにトランス比を変えることができ、そのことで広帯域に亘ってインピーダンス整合させることができる。
【0008】
このような整合回路を、通信回路とパワーアンプとアンテナとを備えた装置において、例えば通信回路とパワーアンプとの間に適用すると仮定した場合に、例えばパワーアンプで生じる高調波成分が、パワーアンプに接続するアンテナから放射されないように、その高調波成分を抑制するため、整合回路の前段又は後段にローパスフィルタやバンドパスフィルタを設けることが考えられる。
【0009】
このような整合回路を例えばパワーアンプとアンテナとの間に適用する場合に、例えばパワーアンプで生じる高調波成分がアンテナから放射されないように、その高調波成分を抑制するため、整合回路の前段又は後段にローパスフィルタやバンドパスフィルタが設けられることがある。
【0010】
上記フィルタは一般にLC回路で構成されるので、そのフィルタを設けることで、インダクタ及びキャパシタによる損失が必然的に増加する。このように、インピーダンス整合回路とフィルタとを必要とする高周波回路において、信号伝搬ラインにフィルタを挿入することにより損失が増加することは、パワーアンプの出力部とアンテナとの間に設けられる回路に限らず、インピーダンス整合回路とフィルタとを備える高周波回路に共通の課題である。
【0011】
そこで、本発明の目的は、広帯域に亘るインピーダンス整合機能及びフィルタ機能を有する、低損失な整合回路及び整合回路を備える通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(A)本開示の一例としての整合回路は、
第1入出力ポート、第2入出力ポート、第1コイル、第2コイル、第3コイル及びキャパシタを備え、
前記第1コイルは前記第1入出力ポートと前記第2入出力ポートとの間にシリーズに接続され、
前記第2コイルは、前記第1入出力ポートと前記第2入出力ポートとの間に構成される入出力線路と、グランドと、の間にシャントに接続され、
前記第1コイルと前記第2コイルとは互いに磁界結合し、
前記第3コイルは前記第1コイル及び前記第2コイルの少なくとも一方と磁界結合し、
前記キャパシタは前記第3コイルに接続され、前記キャパシタと前記第3コイルとを含む、前記入出力線路とは異なる閉路が構成され、
前記閉路は直列に挿入される抵抗成分を含む、
ことを特徴とする。
【0013】
(B)本開示の一例としての整合回路は、
第1入出力ポート、第2入出力ポート、第1コイル、第2コイル、第3コイル及びキャパシタを備え、
前記第1コイルは前記第1入出力ポートと前記第2入出力ポートとの間にシリーズに接続され、
前記第2コイルは、前記第1入出力ポートと前記第2入出力ポートとの間に構成される入出力線路と、グランドと、の間にシャントに接続され、
前記第1コイルと前記第2コイルとは互いに磁界結合し、
前記第3コイルは前記第1コイル及び前記第2コイルの少なくとも一方と磁界結合し、
前記キャパシタは前記第3コイルに接続され、前記キャパシタと前記第3コイルとを含む、前記入出力線路とは異なる閉路が構成され、制御電圧に応じて容量が変化する可変容量素子である、
ことを特徴とする。
【0014】
(C)本開示の一例としての通信装置は、
通信回路と、アンテナと、前記通信回路と前記アンテナとの間に接続される整合回路と、を備える。または、増幅回路と、アンテナと、前記増幅回路と前記アンテナとの間に接続される整合回路と、を備える。
【0015】
そして、前記整合回路は、
第1入出力ポート、第2入出力ポート、第1コイル、第2コイル、第3コイル及びキャパシタを有し、
前記第1コイルは前記第1入出力ポートと前記第2入出力ポートとの間にシリーズに接続され、
前記第2コイルは、前記第1入出力ポートと前記第2入出力ポートとの間に構成される入出力線路と、グランドと、の間にシャントに接続され、
前記第1コイルと前記第2コイルとは互いに磁界結合し、
前記第3コイルは前記第1コイル及び前記第2コイルの少なくとも一方と磁界結合し、
前記キャパシタは前記第3コイルに接続され、前記キャパシタと前記第3コイルとを含む閉路が構成され、
前記閉路は直列に挿入される抵抗成分を含む、
ことを特徴とする。
【0016】
(D)本開示の一例としての通信装置は、
通信回路と、アンテナと、前記通信回路と前記アンテナとの間に接続される整合回路と、を備える。または、増幅回路と、アンテナと、前記増幅回路と前記アンテナとの間に接続される整合回路と、を備える。
【0017】
そして、前記整合回路は、
第1入出力ポート、第2入出力ポート、第1コイル、第2コイル、第3コイル及びキャパシタを有し、
前記第1コイルは前記第1入出力ポートと前記第2入出力ポートとの間にシリーズに接続され、
前記第2コイルは、前記第1入出力ポートと前記第2入出力ポートとの間に構成される入出力線路と、グランドと、の間にシャントに接続され、
前記第1コイルと前記第2コイルとは互いに磁界結合し、
前記第3コイルは前記第1コイル及び前記第2コイルの少なくとも一方と磁界結合し、
前記キャパシタは前記第3コイルに接続され、前記キャパシタと前記第3コイルとを含む、前記入出力線路とは異なる閉路が構成され、制御電圧に応じて容量が変化する可変容量素子である、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、広帯域に亘るインピーダンス整合機能及び所定の減衰極を有する低挿入損失な整合回路及び整合回路を備える通信装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は第1の実施形態に係る整合回路の回路図である。
【
図2】
図2(A)、
図2(B)、
図2(C)は、第1の実施形態に係る別の整合回路101Bの回路図である。
【
図3】
図3(A)は、
図1に示した第1コイルL1及び第2コイルL2で構成されるオートトランスの構成を示す回路図である。
図3(B)は、
図3(A)に示す回路の等価回路図である。
【
図4】
図4は第1の実施形態の別の整合回路101Cの回路図である。
【
図5】
図5(A)、
図5(B)、
図5(C)は、それぞれ整合回路101Aa,101Ab,101Acの回路図である。
【
図6】
図6は、キャパシタCと第3コイルL3とを含む閉路による共振回路の作用効果を示す図であり、第1入出力ポートP1と第2入出力ポートP2との間の挿入損失の周波数特性図である。
【
図7】
図7は、キャパシタCと第3コイルL3とを含む閉路による共振回路の作用効果を示す図であり、第1入出力ポートP1と第2入出力ポートP2との間の挿入損失の周波数特性図である。
【
図8】
図8(A)、
図8(B)、
図8(C)は、整合回路101Aを備える通信装置の主要部の構成を示す回路図である。
【
図9】
図9は第2の実施形態に係る整合回路素子12の斜視図である。
【
図10】
図10は、整合回路素子12を備える整合回路102の回路図である。
【
図14】
図14は第3の実施形態に係る通信装置203の回路図である。
【
図15】
図15は、可変容量素子VCと第3コイルL3とを含む閉路による共振回路の作用効果を示す図であり、
図14における第1入出力端子E1と第2入出力端子E2との間の挿入損失の周波数特性図である。
【
図16】
図16(A)は第4の実施形態に係る通信装置204Aの回路図である。
図16(B)は第4の実施形態に係る通信装置204Bの回路図である。
図16(C)は第4の実施形態に係る通信装置204Cの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、本発明に係る整合回路及び通信装置の幾つかの態様について列挙する。
【0021】
本発明に係る第1の態様の整合回路は、
第1入出力端子、第2入出力端子、第1コイル、第2コイル、第3コイル及びキャパシタを備え、
前記第1コイルは前記第1入出力端子と前記第2入出力端子との間にシリーズに接続され、
前記第2コイルは、前記第1入出力端子と前記第2入出力端子との間に構成される入出力線路と、グランドと、の間にシャントに接続され、
前記第1コイルと前記第2コイルとは互いに磁界結合し、
前記第3コイルは前記第1コイル及び前記第2コイルの少なくとも一方と磁界結合し、
前記キャパシタは前記第3コイルに接続され、前記キャパシタと前記第3コイルとを含む、前記入出力線路とは異なる閉路が構成され、
前記閉路は直列に挿入される抵抗成分を含む、
ことを特徴とする。
【0022】
上記構成によれば、先ず第1コイルと第2コイルでオートトランスが構成され、キャパシタと第3コイルとを含む閉路が、キャパシタのキャパシタンスと第3コイルのインダクタンスとで所定周波数で共振する共振回路として作用し、この共振回路がオートトランスに磁界結合する。そのため、上記オートトランスによるインピーダンス整合の周波数依存性を大きく変化させることなく、つまり、整合特性を保ったまま、上記共振周波数を減衰極とする、挿入損失の周波数特性をもたせることができる。そして、第3コイルは上記オートトランスに磁界結合するので、オートトランスの前段又は後段に、LCフィルタを単に挿入した回路構成に比べて、素子による損失の増加を低減できる。また、上記閉路による共振回路の共振のQ値を所定値に低下させることができ、そのことで減衰極の周波数帯域幅を定めることができる。
【0023】
本発明に係る第2の態様の整合回路は、
第1入出力端子、第2入出力端子、第1コイル、第2コイル、第3コイル及びキャパシタを備え、
前記第1コイルは前記第1入出力端子と前記第2入出力端子との間にシリーズに接続され、
前記第2コイルは、前記第1入出力端子と前記第2入出力端子との間に構成される入出力線路と、グランドと、の間にシャントに接続され、
前記第1コイルと前記第2コイルとは互いに磁界結合し、
前記第3コイルは前記第1コイル及び前記第2コイルの少なくとも一方と磁界結合し、
前記キャパシタは前記第3コイルに接続され、前記キャパシタと前記第3コイルとを含む、前記入出力線路とは異なる閉路が構成され、制御電圧に応じて容量が変化する可変容量素子である、
ことを特徴とする。
【0024】
上記構成によれば、先ず第1コイルと第2コイルでオートトランスが構成され、キャパシタと第3コイルとを含む閉路が、キャパシタのキャパシタンスと第3コイルのインダクタンスとで所定周波数で共振する共振回路として作用し、この共振回路がオートトランスに磁界結合する。そのため、上記オートトランスによるインピーダンス整合の周波数依存性を大きく変化させることなく、つまり、整合特性を保ったまま、上記共振周波数を減衰極とする、挿入損失の周波数特性をもたせることができる。そして、第3コイルは上記オートトランスに磁界結合するので、オートトランスの前段又は後段に、LCフィルタを単に挿入した回路構成に比べて、素子による損失の増加を低減できる。また、制御電圧によって減衰極の周波数を定めることができる。
【0025】
本発明に係る第3の態様の整合回路では、前記第3コイルは前記第2コイルよりも前記第1コイルに強く磁界結合する。この構造によれば、減衰極での減衰量が大きくなる。
【0026】
本発明に係る第4の態様の通信装置は、
通信回路と、アンテナと、前記通信回路と前記アンテナとの間に接続された整合回路と、を備え、
前記整合回路は、
第1入出力端子、第2入出力端子、第1コイル、第2コイル、第3コイル及びキャパシタを有し、
前記第1コイルは前記第1入出力端子と前記第2入出力端子との間にシリーズに接続され、
前記第2コイルは、前記第1コイルと前記第2入出力端子との間と、グランドと、の間にシャントに接続され、
前記第1コイルと前記第2コイルとは互いに磁界結合し、
前記第3コイルは前記第1コイル及び前記第2コイルの少なくとも一方と磁界結合し、
前記キャパシタは前記第3コイルに接続され、前記キャパシタと前記第3コイルとを含む閉路が構成され、
前記閉路は直列に挿入される抵抗成分を含む、
ことを特徴とする。
【0027】
上記構成によれば、通信回路と、この通信回路の出力インピーダンスより低インピーダンスのアンテナとをインピーダンス整合させるとともに、所定周波数帯域を減衰させる特性をもたせることができる。また、上記閉路による共振回路の共振のQ値を所定値に低下させることができ、そのことで減衰極の周波数帯域幅を定めることができる。
【0028】
本発明に係る第5の態様の通信装置は、
通信回路と、アンテナと、前記通信回路と前記アンテナとの間に接続された整合回路と、を備え、
前記整合回路は、
第1入出力端子、第2入出力端子、第1コイル、第2コイル、第3コイル及びキャパシタを有し、
前記第1コイルは前記第1入出力端子と前記第2入出力端子との間にシリーズに接続され、
前記第2コイルは、前記第1コイルと前記第2入出力端子との間と、グランドと、の間にシャントに接続され、
前記第1コイルと前記第2コイルとは互いに磁界結合し、
前記第3コイルは前記第1コイル及び前記第2コイルの少なくとも一方と磁界結合し、
前記キャパシタは前記第3コイルに接続され、前記キャパシタと前記第3コイルとを含む、前記入出力線路とは異なる閉路が構成され、制御電圧に応じて容量が変化する可変容量素子である、
ことを特徴とする。
【0029】
上記構成によれば、通信回路と、この通信回路の出力インピーダンスより低インピーダンスのアンテナとをインピーダンス整合させるとともに、所定周波数帯域を減衰させる特性をもたせることができる。また、制御電圧によって減衰極の周波数を定めることができる。
【0030】
本発明に係る第6の態様の通信装置では、前記第3コイルは前記第2コイルよりも前記第1コイルに強く磁界結合する。この構造によれば、減衰極での減衰量が大きくなる。
【0031】
本発明に係る第7の態様の通信装置は、
増幅回路と、アンテナと、前記増幅回路と前記アンテナとの間に接続される整合回路と、を備え、
前記整合回路は、
第1入出力端子、第2入出力端子、第1コイル、第2コイル、第3コイル及びキャパシタを有し、
前記第1コイルは前記第1入出力端子と前記第2入出力端子との間にシリーズに接続され、
前記第2コイルは、前記第1コイルと前記第2入出力端子との間と、グランドと、の間にシャントに接続され、
前記第1コイルと前記第2コイルとは互いに磁界結合し、
前記第3コイルは前記第1コイル及び前記第2コイルの少なくとも一方と磁界結合し、
前記キャパシタは前記第3コイルに接続され、前記キャパシタと前記第3コイルとを含む閉路が構成され、
前記閉路は直列に挿入される抵抗成分を含む、
ことを特徴とする。
【0032】
上記構成によれば、通信回路と、この通信回路の出力インピーダンスより低インピーダンスの増幅回路とをインピーダンス整合させるとともに、所定周波数帯域を減衰させる特性をもたせることができる。また、上記閉路による共振回路の共振のQ値を所定値に低下させることができ、そのことで減衰極の周波数帯域幅を定めることができる。
【0033】
本発明に係る第8の態様の通信装置は、
増幅回路と、アンテナと、前記増幅回路と前記アンテナとの間に接続される整合回路と、を備え、
前記整合回路は、
第1入出力端子、第2入出力端子、第1コイル、第2コイル、第3コイル及びキャパシタを有し、
前記第1コイルは前記第1入出力端子と前記第2入出力端子との間にシリーズに接続され、
前記第2コイルは、前記第1コイルと前記第2入出力端子との間と、グランドと、の間にシャントに接続され、
前記第1コイルと前記第2コイルとは互いに磁界結合し、
前記第3コイルは前記第1コイル及び前記第2コイルの少なくとも一方と磁界結合し、
前記キャパシタは前記第3コイルに接続され、前記キャパシタと前記第3コイルとを含む、前記入出力線路とは異なる閉路が構成され、制御電圧に応じて容量が変化する可変容量素子である、
ことを特徴とする。
【0034】
上記構成によれば、通信回路と、この通信回路の出力インピーダンスより低インピーダンスの増幅回路とをインピーダンス整合させるとともに、所定周波数帯域を減衰させる特性をもたせることができる。また、制御電圧によって減衰極の周波数を定めることができる。
【0035】
本発明に係る第9の態様の通信装置では、前記第3コイルは前記第2コイルよりも前記第1コイルに強く磁界結合する。この構造によれば、減衰極での減衰量が大きくなる。
【0036】
以降、図を参照して幾つかの具体的な例を挙げて、本発明を実施するための複数の形態を示す。各図中には同一箇所に同一符号を付している。要点の説明又は理解の容易性を考慮して、実施形態を説明の便宜上分けて示すが、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせは可能である。第2の実施形態以降では第1の実施形態と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には逐次言及しない。
【0037】
《第1の実施形態》
図1は第1の実施形態に係る整合回路の回路図である。
図1に示す整合回路101Aは、第1入出力ポートP1、第2入出力ポートP2、第1コイルL1、第2コイルL2、第3コイルL3及びキャパシタCを備える。第1コイルL1は第1入出力ポートP1と第2入出力ポートP2との間にシリーズに接続され、第2コイルL2は、第1入出力ポートP1と第2入出力ポートP2との間に構成される入出力線路SLと、グランドと、の間にシャントに接続されている。そして、第1コイルL1と第2コイルL2とは互いに磁界結合する。第3コイルL3は第1コイルL1及び第2コイルL2の少なくとも一方と磁界結合する。キャパシタCは第3コイルL3に接続され、キャパシタCと第3コイルL3とを含む閉路が構成されている。
【0038】
図1において、第1コイルL1と第2コイルL2との結合係数をk12、第1コイルL1と第3コイルL3との結合係数をk13、第2コイルL2と第3コイルL3との結合係数をk23、でそれぞれ表している。
【0039】
上記第1入出力ポートP1、第2入出力ポートP2、第1コイルL1及び第2コイルL2によってオートトランスが構成されている。
【0040】
図2(A)、
図2(B)、
図2(C)は、第1の実施形態に係る別の整合回路101Bの回路図である。これら整合回路101Bは等価的に同じ回路である。
図1に示した整合回路101Aとは、キャパシタCと第3コイルL3とを含む閉路が接地されている点で異なる。整合回路101Bは、第3コイルL3と第1コイルL1との間に生じる寄生容量及び第3コイルと第2コイルL2との間に生じる寄生容量の少なくとも一方が特性に影響を与える。これら寄生容量がある程度小さければ、整合回路101Bは整合回路101Aと等価的に同じ回路である。
【0041】
図3(A)は
図1に示した第1コイルL1及び第2コイルL2で構成されるオートトランスの構成を示す回路図である。
図3(B)は、
図3(A)に示す回路の等価回路図である。ここで、第1コイルL1の自己インダクタンスをL1、第2コイルL2の自己インダクタンスをL2、第1コイルL1と第2コイルL2との結合係数をk12、第1コイルL1と第2コイルL2との結合により生じる相互インダクタンスをMで表すと、
M = k12√(L1*L2) であり、トランス比は (L1 + L2 + 2M) : L2
で表される。したがって、例えば、(L1 + L2 + 2M) : L2=50:3であれば、整合回路101Aの第1入出力ポートP1に接続される回路のインピーダンスが50Ω、第2入出力ポートP2に接続される回路のインピーダンスが3Ωであるとき、整合回路101Aは入出力間を適正にインピーダンス整合する。また、このようなトランス比であるため、第1入出力ポートP1に接続される回路のインピーダンスが第2入出力ポートP2に接続される回路のインピーダンスより高い場合に、第1コイルL1の自己インダクタンスL1と第2コイルL2の自己インダクタンスL2を変えることなく、第1コイルL1と第2コイルL2との結合係数k12を調整するだけでも適正にインピーダンス整合することが可能となる。
【0042】
図4は第1の実施形態の別の整合回路101Cの回路図である。整合回路101Aと整合回路101Cとでは、入出力線路SLに対する第2コイルL2の接続位置が異なる。または、第1入出力ポートP1と第2入出力ポートP2とを交換した関係ということもできる。
【0043】
図1、
図2(A)、
図2(B)、
図2(C)に示した整合回路101A,101Bは、キャパシタCと第3コイルL3とを含む閉路が、キャパシタCのキャパシタンスと第3コイルL3のインダクタンスとで所定周波数で共振する共振回路として作用する。第3コイルL3は第1コイルL1及び第2コイルL2の少なくとも一方に磁界結合することで、上記共振回路はオートトランスに磁界結合する。この共振回路の結合による作用効果を
図5(A)、
図5(B)、
図5(C)、
図6、
図7を参照して説明する。
【0044】
図5(A)、
図5(B)、
図5(C)は、それぞれ整合回路101Aa,101Ab,101Acの回路図である。整合回路101Aa,101Ab,101Acは、第1コイルL1、第2コイルL2、第3コイルL3の結合の関係が異なる。いずれも、第1コイルL1と第2コイルL2とは結合する。
図5(A)に示す例では、第3コイルL3は第1コイルL1と結合する。換言すると、第3コイルL3は第2コイルL2よりも第1コイルL1と強く結合する。
図5(B)に示す例では、第3コイルL3は第2コイルL2と結合する。換言すると、第3コイルL3は第1コイルL1よりも第2コイルL2と強く結合する。
図5(C)に示す例では、第3コイルL3は第1コイルL1及び第2コイルL2と結合する。
【0045】
図6は、キャパシタCと第3コイルL3とを含む閉路による共振回路の作用効果を示す図であり、第1入出力ポートP1と第2入出力ポートP2との間の挿入損失の周波数特性図である。IL0は、キャパシタCと第3コイルL3とを含む閉路が無い整合回路(比較例)の特性であり、ILcは、
図5(C)に示した整合回路101Acの特性である。
【0046】
整合回路101Acのフィルタ特性は、基本波1.71GHz~1.91GHzを通過させ、2倍波3.42GHzを減衰させることを目的としている。
図6中のマーカーm1,m2は通過周波数帯域の周波数1.71GHz~1.91GHzを表し、マーカーm3は減衰域の中心周波数3.42GHzを表す。
【0047】
ここで、第1コイルL1の自己インダクタンスをL1、第2コイルL2の自己インダクタンスをL2、第3コイルL3の自己インダクタンスをL3、キャパシタCのキャパシタンスをC、第1コイルL1と第2コイルL2との結合係数をk12、第1コイルL1と第3コイルL3との結合係数をk13、第2コイルL2と第3コイルL3との結合係数をk23で表すと、それらの値は次のとおりである。
【0048】
[整合回路101Ac]
L1=2.4nH
L2=0.5nH
L3=0.6nH
C=14.3pF
k12=0.5
k13=0.6
k23=0.6
そのときの各周波数での挿入損失は次のとおりである。
【0049】
―――――――――――――――――――――――――――――――――
1.71GHz 1.91GHz 3.42GHz
―――――――――――――――――――――――――――――――――
整合回路101Ac -0.8dB -1.1dB -39.7dB
比較例 -1.3dB -1.3dB -6.0dB
―――――――――――――――――――――――――――――――――
このように、キャパシタCと第3コイルL3とを含む閉路による共振回路の結合によって、減衰域での減衰量を-30dBより大きくできる。
【0050】
図7は、キャパシタCと第3コイルL3とを含む閉路による共振回路の作用効果を示す図であり、第1入出力ポートP1と第2入出力ポートP2との間の挿入損失の周波数特性図である。ILaは、
図5(A)に示した整合回路101Aaの特性であり、ILbは、
図5(B)に示した整合回路101Abの特性であり、ILcは、
図5(C)に示した整合回路101Acの特性である。整合回路101Aa,101Abの要素の値は次のとおりである。整合回路101Acについては既に示したとおりである。
【0051】
[整合回路101Aa]
L1=3.0nH
L2=0.5nH
L3=0.2nH
C=6.4pF
k12=0.7
k13=0.7
k23=0
[整合回路101Ab]
L1=3.9nH
L2=1.6nH
L3=0.6nH
C=20.5pF
k12=0.4
k13=0
k23=0.5
各整合回路の各周波数での挿入損失は次のとおりである。
【0052】
――――――――――――――――――――――――――――――――――
1.71GHz 1.91GHz 3.42GHz
――――――――――――――――――――――――――――――――――
整合回路101Aa -0.8dB -0.9dB -35.7dB
整合回路101Ab -2.2dB -2.0dB -33.7dB
整合回路101Ac -0.8dB -1.1dB -39.7dB
――――――――――――――――――――――――――――――――――
このように、第3コイルL3が第2コイルL2よりも第1コイルL1に強く磁界結合する整合回路101Aaは、整合回路101Abに比べて減衰極での減衰量が大きい。また、第3コイルL3が第1コイルL1及び第2コイルL2に磁界結合する整合回路101Acは、整合回路101Aa,101Abに比べて減衰帯域の周波数幅が広く且つ減衰量が大きい。
【0053】
図8(A)、
図8(B)、
図8(C)は、整合回路101Aを備える通信装置の主要部の構成を示す回路図である。
【0054】
図8(A)に示す通信装置201Aでは、整合回路101Aの第1入出力ポートP1にRFIC(集積化された高周波信号回路)が接続されていて、整合回路101Aの第2入出力ポートP2にアンテナANTが接続されている。RFICの入出力インピーダンスは50Ωであり、アンテナANTの特性インピーダンスは3Ωである。整合回路101Aは50:3でインピーダンス変換するように、第1コイルL1、第2コイルL2の自己インダクタンス及び相互インダクタンスが定められている。また、RFICから出力される送信信号、又はRFICへ入力される受信信号、の通過周波数帯域の信号を通過させ、2倍波などの高調波の歪み成分を遮断する。ただし、アンテナの特性インピーダンスは3Ωに限らず、例えば1~50Ωの内のいずれかの値をとるものであってもよい。その際には、整合回路のインピーダンス変換比はその値に応じて調整する。
【0055】
図8(B)に示す通信装置201Bでは、整合回路101Aの第1入出力ポートP1に、送信信号を電力増幅するパワーアンプPAが接続されていて、整合回路101Aの第2入出力ポートP2にアンテナANTが接続されている。パワーアンプPAの出力インピーダンスは10Ωであり、アンテナANTの特性インピーダンスは3Ωである。整合回路101Aは10:3でインピーダンス変換するように、第1コイルL1、第2コイルL2の自己インダクタンス及び相互インダクタンスが定められている。また、パワーアンプPAから出力される送信信号の通過周波数帯域の信号を通過させ、主にパワーアンプPAで発生する2倍波などの高調波の歪み成分を遮断する。
【0056】
図8(C)に示す通信装置201Cでは、整合回路101Aの第1入出力ポートP1にアンテナANTが接続されていて、整合回路101Aの第2入出力ポートP2に、送信信号を電力増幅するパワーアンプPAが接続されていている。パワーアンプPAの出力インピーダンスは3Ωであり、アンテナANTの特性インピーダンスは10Ωである。整合回路101Aは、第1入出力ポートP1:第2入出力ポートP2、のインピーダンス変換比が、10:3となるように、第1コイルL1、第2コイルL2の自己インダクタンス及び相互インダクタンスが定められている。また、パワーアンプPAから出力される送信信号の通過周波数帯域の信号を通過させ、主にパワーアンプPAで発生する2倍波などの高調波の歪み成分を遮断する。このように、パワーアンプPAの出力インピーダンスがアンテナANTの特性インピーダンスより高い場合には、第1コイルL1と第2コイルL2との接続関係が異なる。
【0057】
上記パワーアンプの出力インピーダンスは例えば1~10Ωの内のいずれかの値をとるものであってもよい。また、アンテナの特性インピーダンスは例えば1~50Ωの内のいずれかの値をとるものであってもよい。その際には、整合回路のインピーダンス変換比はその値に応じて調整する。
【0058】
《第2の実施形態》
第2の実施形態では整合回路素子の例を示す。
図9は第2の実施形態に係る整合回路素子12の斜視図である。
図10は、この整合回路素子12を備える整合回路102の回路図である。
【0059】
図9に表れているように、整合回路素子12は、後に示すコイル導体パターンが形成された絶縁性基材を含む複数の絶縁性基材の積層体であり、表面実装型のチップ部品として構成されている。この積層体の外面に、第1入出力端子E1、第2入出力端子E2、グランド端子Eg、外部接続端子E3が形成されている。この整合回路素子12の内部には、
図10に示すように、第1コイルL1、第2コイルL2及び第3コイルL3を備える。第1コイルL1は第1入出力端子E1と第2入出力端子E2との間にシリーズに接続されている。第2コイルL2は、第1入出力端子E1と第2入出力端子E2との間に構成される入出力線路SLと、グランド端子Egと、の間にシャントに接続されている。第1コイルL1と第2コイルL2とは互いに磁界結合し、第3コイルL3は第1コイルL1及び第2コイルL2の少なくとも一方と磁界結合する。
【0060】
第1コイルL1は、一端が第1入出力端子E1に接続されていて、他端が第2入出力端子E2に接続されている。第2コイルL2は、一端が第2入出力端子E2に接続されていて、他端がグランド端子Egに接続されている。
【0061】
前記第3コイルL3は、一端がグランド端子Egに接続されていて、他端が外部接続端子E3に接続されている。
【0062】
図10に示すように、第1入出力端子E1は第1入出力ポートP1に接続され、第2入出力端子E2は第2入出力ポートP2に接続され、グランド端子Egはグランドに接続される。また、外部接続端子E3とグランドとに間にはキャパシタCが接続される。
【0063】
図11は整合回路素子12の各層の平面図である。整合回路素子12は、絶縁性基材S1~S11を含む複数の絶縁性基材を備える。
図11において、絶縁性基材S1は最下層の絶縁性基材であり、絶縁性基材S11は最上層の絶縁性基材である。これら絶縁性基材は非磁性体セラミック基材又は非磁性体樹脂基材である。絶縁性基材S2~S10には各種導体パターンが形成されている。また、絶縁性基材S3,S5,S7,S9,S10には、破線の円形で示すビア導体が形成されている。上記「コイル導体パターン」には、絶縁性基材の表面に形成された導体パターンだけでなく、層間接続導体をも含む。「層間接続導体」はビア導体だけでなく、
図9、
図11に表れているように、積層体の端面に形成される端面電極も含む。
【0064】
図11において、絶縁性基材S2,S3に形成されている導体パターンL2a,L2b及びビア導体によって第2コイルL2が構成されている。また、絶縁性基材S4~S7に形成されている導体パターンL1a~L1d及びビア導体によって第1コイルL1が構成されている。さらに、絶縁性基材S8~S10に形成されている導体パターンL3a~L3c及びビア導体によって第3コイルL3が構成されている。
【0065】
このように、第1コイルL1、第2コイルL2及び第3コイルL3は共通の巻回軸を有する。また、第1コイルL1は共通の巻回軸方向に第2コイルL2と第3コイルL3とで挟まれる位置関係にある。
【0066】
上記構成によれば、第1コイルL1と第2コイルL2とが高い結合度で結合するので、結合に寄与しないインダクタンス成分(漏れインダクタンス)による周波数依存性が抑制される。また、第1コイルL1は第2コイルL2及び第3コイルL3にそれぞれ位置的に近接しているので、それぞれ高い結合係数で結合する。そして、第2コイルL2と第3コイルL3とは位置的に離れているので、両者の結合係数は抑制される。さらに、第2コイルL2のコイル径は、第1コイルL1のコイル径に比べて小さい。これによって、位置的に離れた第2コイルL2と第3コイルL3との結合がさらに抑制される。つまり、
図10に示した結合係数k23は結合係数k12,k13より小さい。
【0067】
図11に示す整合回路素子を用いることによって、
図5(A)に示した整合回路101Aaを構成できる。この整合回路の挿入損失の周波数特性は
図7におけるILaで示すように、減衰極での減衰量が大きい。また、挿入損失が|3dB|以下(挿入損失が-3dB以下)の場合を「信号の通過状態」、|3dB|を超える(挿入損失が-3dBより大きい)場合を「信号の遮断状態」とすると、通過帯域が広い。具体的には通過帯域の上限は2.465GHzである。そのため、例えば、減衰させたい帯域近傍に、通過させたい帯域がある場合などに効果的である。
【0068】
図12は、
図11とは別構成の整合回路素子12の各層の平面図である。この整合回路素子12は、絶縁性基材S1~S11を含む複数の絶縁性基材を備えている。
図12において、絶縁性基材S2~S5に形成されている導体パターンL1a~L1d及びビア導体によって第1コイルL1が構成されている。また、絶縁性基材S6,S7に形成されている導体パターンL2a,L2b及びビア導体によって第2コイルL2が構成されている。さらに、絶縁性基材S8~S10に形成されている導体パターンL3a~L3c及びビア導体によって第3コイルL3が構成されている。つまり、
図12に示す例では、第2コイルL2は共通の巻回軸方向に第1コイルL1と第3コイルL3とで挟まれる位置関係にあり、第2コイルL2は、第1コイルL1及び第3コイルL3にそれぞれ位置的に近接しているので、それぞれ高い結合係数で結合する。そして、第1コイルL1と第3コイルL3とは位置的に離れているので、両者の結合は抑制される。また、第1コイルL1のコイル径は第2コイルL2のコイル径に比べて小さい。これによって、位置的に離れた第1コイルL1と第3コイルL3との結合がさらに抑制される。その他の構成は、
図11に示した整合回路素子と同様である。
【0069】
図12に示す整合回路素子を用いることによって、
図5(B)に示した整合回路101Abを構成できる。この整合回路の挿入損失の周波数特性は
図7におけるILbで示したとおりである。
【0070】
図13は、
図11、
図12とは別構成の整合回路素子12の各層の平面図である。この整合回路素子12は、絶縁性基材S1~S11を含む複数の絶縁性基材を備えている。
図13において、絶縁性基材S2,S3,S6,S7に形成されている導体パターンL1a,L1b,L1c,L1d及びビア導体によって第1コイルL1が構成されている。また、絶縁性基材S4,S5に形成されている導体パターンL2a,L2b及びビア導体によって第2コイルL2が構成されている。さらに、絶縁性基材S8~S10に形成されている導体パターンL3a~L3c及びビア導体によって第3コイルL3が構成されている。つまり、
図13に示す例では、第2コイルL2は共通の巻回軸方向に第1コイルL1で挟まれる位置関係にあり、かつ、第2コイルL2は第3コイルL3から離れた位置関係にある。その他の構成は、
図11に示した整合回路素子と同様である。
【0071】
上記構成によれば、第1コイルL1と第2コイルL2とは位置的に近接しているので、両者は高い結合係数で結合する。同様に、第1コイルL1と第3コイルL3とは位置的に近接しているので、両者は高い結合係数で結合する。また、第1コイルL1、第2コイルL2、第3コイルL3のコイル径がそれぞれ等しいので、上記結合係数はいずれも高い。つまり、
図10に示した結合係数k12,k13,k23はいずれも高い。
【0072】
図13に示す整合回路素子を用いることによって、
図5(C)に示した整合回路101Acを構成できる。この整合回路の挿入損失の周波数特性は
図7におけるILcで示すように、減衰周波数帯域が広く、かつ減衰極での減衰量が大きい。
【0073】
《第3の実施形態》
第3の実施形態では減衰極周波数を可変とした整合回路について示す。
【0074】
図14は第3の実施形態に係る通信装置203の回路図である。
図14に示す通信装置203は、整合回路103、RFIC及びアンテナANTを備える。整合回路103は、整合回路素子12と可変容量素子VCとで構成される。可変容量素子VCは外部から与えられる制御電圧に応じた容量となる素子である。例えば、可変容量ダイオードやMEMS(Micro Electro Mechanical System)構造のキャパシタである。RFICは可変容量素子VCに制御電圧を与える。その他の構成は第2の実施形態で
図10に示したとおりである。
【0075】
図15は、可変容量素子VCと第3コイルL3とを含む閉路による共振回路の作用効果を示す図であり、
図14における第1入出力端子E1と第2入出力端子E2との間の挿入損失の周波数特性図である。挿入損失特性IL1は可変容量素子VCのキャパシタンスを最も大きくしたときの特性であり、挿入損失特性IL3は可変容量素子VCのキャパシタンスを最も小さくしたときの特性であり、挿入損失特性IL2は可変容量素子VCのキャパシタンスを中程度にしたときの特性である。
【0076】
本実施形態によれば、可変容量素子VCに対する制御電圧の設定によって、減衰極周波数(減衰周波数帯域の中心周波数)を3.0GHzから4.1GHzまで定めることができる。このようにして、減衰させるべき不要な周波数成分に応じて可変容量素子VCに対する制御電圧を定めることで、その不要な周波数成分を効果的に抑制できる。
【0077】
《第4の実施形態》
第4の実施形態では、キャパシタCと第3コイルL3とを含む閉路の構成がこれまで示したものとは異なる整合回路及びそれを備える通信装置について示す。
【0078】
図16(A)は第4の実施形態に係る通信装置204Aの回路図である。この通信装置204Aは、パワーアンプPA、整合回路104A及びアンテナANTを備える。整合回路104Aは、整合回路素子12、キャパシタC及び抵抗素子Rで構成される。その他の構成は第2の実施形態で
図10に示したとおりである。
【0079】
図16(B)は第4の実施形態に係る通信装置204Bの回路図である。この通信装置204Bは、パワーアンプPA、整合回路104B及びアンテナANTを備える。整合回路104Bは整合回路素子14及び抵抗素子Rで構成される。整合回路素子14はキャパシタCを内蔵する。また、整合回路素子14は外部接続端子E3を備える。外部接続端子E3とグランドとの間には抵抗素子Rが接続される。その他の構成は第2の実施形態で
図10に示したとおりである。
【0080】
図16(C)は第4の実施形態に係る通信装置204Cの回路図である。この通信装置204Cは、パワーアンプPA、整合回路104C及びアンテナANTを備える。整合回路104Cは整合回路素子14で構成される。整合回路素子14はキャパシタCを内蔵する。また、整合回路素子14は外部接続端子E3を備える。外部接続端子E3はグランドに接続される。その他の構成は第2の実施形態で
図10に示したとおりである。
【0081】
図16(B)、
図16(C)に示すキャパシタCは、例えば
図9に示した積層体の内部に所定間隔をおいて設けられた一対の平面状導体パターンによって構成される。このキャパシタCは第3コイルL3と外部接続端子E3との間に接続される。
【0082】
図16(A)、
図16(B)に示した通信装置の構成によれば、キャパシタCと第3コイルL3とを含む閉路中に抵抗成分を積極的に含む構成であるので、上記閉路による共振回路の共振のQ値を所定値に低下させることができ、そのことで減衰極の周波数帯域幅を定めることができる。
【0083】
また、
図16(C)に示した通信装置の構成によれば、整合回路104Cの素子数が少なく、回路を簡素化することができ、通信装置204Cを小型化できる。
【0084】
最後に、上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。当業者にとって変形及び変更が適宜可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変更が含まれる。
【0085】
例えば、第1の実施形態に限らず、それ以降の各実施形態で示した整合回路や整合回路素子についても、
図4に示したように、インピーダンス変換比に応じて、第2コイルL2の一端を、第1入出力ポートP1又は第1入出力端子E1と第1コイルL1との間に接続してもよい。
【0086】
また、
図16(B)に示した例以外でも、キャパシタCを整合回路素子に一体的に設けてもよい。
【0087】
また、上記閉路による共振回路の共振のQ値を定めるための抵抗素子Rを可変抵抗素子としてもよい。または、抵抗値の異なる複数の抵抗素子とそれを選択するスイッチ回路とを設けてもよい。つまり、制御信号によって抵抗値を定めることによって上記閉路による共振回路の共振のQ値を可変としてもよい。
【0088】
また、
図11~13に示した例では、第1コイルL1、第2コイルL2、第3コイルL3のいずれも巻回数が1ターン以上のコイルを形成する例を示したが、1ターンに満たない導体パターンでコイルが構成されてもよい。
【符号の説明】
【0089】
ANT…アンテナ
C…キャパシタ
E1…第1入出力端子
E2…第2入出力端子
E3…外部接続端子
Eg…グランド端子
L1…第1コイル
L1a,L1b,L1c,L1d…導体パターン
L2…第2コイル
L2a,L2b…導体パターン
L3…第3コイル
L3a,L3b,L3c…導体パターン
P1…第1入出力ポート
P2…第2入出力ポート
PA…パワーアンプ
R…抵抗素子
S1~S11…絶縁性基材
SL…入出力線路
VC…可変容量素子
12,14…整合回路素子
101A,101B,101C…整合回路
101Aa,101Ab,101Ac…整合回路
102,103…整合回路
104A,104B…整合回路
201A,201B,201C…通信装置
203…通信装置
204A,204B…通信装置