(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】ステンレス鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B21B 1/22 20060101AFI20220621BHJP
B21B 3/02 20060101ALI20220621BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20220621BHJP
C23G 1/08 20060101ALI20220621BHJP
C22C 38/58 20060101ALN20220621BHJP
C22C 38/60 20060101ALN20220621BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20220621BHJP
【FI】
B21B1/22 L
B21B1/22 H
B21B3/02
C21D9/46 Q
C21D9/46 R
C23G1/08
C22C38/58
C22C38/60
C22C38/00 302H
C22C38/00 302Z
(21)【出願番号】P 2022507826
(86)(22)【出願日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 JP2021045308
【審査請求日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2021012754
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】西田 修司
(72)【発明者】
【氏名】田 彩子
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-209886(JP,A)
【文献】特開2017-052184(JP,A)
【文献】特開2018-044882(JP,A)
【文献】特開平06-179002(JP,A)
【文献】特開2001-001006(JP,A)
【文献】特開平08-309405(JP,A)
【文献】特開2001-020045(JP,A)
【文献】特開2002-273504(JP,A)
【文献】特開2006-142343(JP,A)
【文献】特開2018-003098(JP,A)
【文献】特開2021-038431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/00-11/00
C21D 9/46
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS B 0681-2:2018に規定される、
コア部のレベル差Skが1.50μm以下であり、
突出山部高さSpkが0.20μm以下であり、
コア部と突出谷部を分ける負荷面積率Smr2が80%以下である表面性状を有し、
白色度が50以上であり、写像性が1%以上である、ステンレス鋼板。
ここで、写像性は、以下の方法により測定する。
JIS K 7374:2007に準拠し、鋼板の圧延方向と直交方向が測定方向となるように、鋼板の圧延方向と光学くし目が直交する条件にて、反射法にて測定角度が60度、光学くしの幅0.25mmの条件で像鮮明度(%)を測定し、得られたC(0.25)を写像性とする。
【請求項2】
請求項1に記載のステンレス鋼板の製造方法であって、
前記ステンレス鋼板は、オーステナイト系ステンレス鋼板またはフェライト-オーステナイト二相系ステンレス鋼板であり、
素材となる冷延焼鈍鋼板を準備する素材鋼板の準備工程と、
前記冷延焼鈍鋼板に研磨を施して、冷延焼鈍研磨鋼板を得る粗面化工程と、
前記冷延焼鈍研磨鋼板にスキンパス圧延を施し、冷延焼鈍研磨スキンパス仕上鋼板を得る平面化工程を有し、
前記粗面化工程では、前記冷延焼鈍鋼板に、該冷延焼鈍鋼板の表面粗さSaを0.20μm以上2.00μm以下に調整する研磨処理を施し、
前記平面化工程では、前記冷延焼鈍研磨鋼板に、表面粗さSaが0.06μm以下のスキンパスロールを用いて伸び率0.10%以上3.00%以下の範囲でスキンパス圧延を施す、ステンレス鋼板の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のステンレス鋼板の製造方法であって、
前記ステンレス鋼板は、フェライト系ステンレス鋼板またはマルテンサイト系ステンレス鋼板であり、
素材となる冷延鋼板を準備する素材鋼板の準備工程と、
前記冷延鋼板に熱処理を施して冷延焼鈍鋼板とし、前記冷延焼鈍鋼板に酸洗を施して冷延焼鈍酸洗鋼板を得る粗面化工程と、
前記冷延焼鈍酸洗鋼板にスキンパス圧延を施し、冷延焼鈍酸洗スキンパス仕上鋼板を得る平面化工程を有し、
前記粗面化工程では、前記冷延鋼板を、750℃以上850℃以下の温度範囲で3時間以上10時間以下保持する熱処理を施して冷延焼鈍鋼板とし、その後、前記冷延焼鈍鋼板に、濃度:15mass%以上30mass%以下、温度:75℃以上95℃以下の硫酸水溶液に30秒以上240秒以下浸漬する酸洗を施し、
前記平面化工程では、前記冷延焼鈍酸洗鋼板に、表面粗さSaが0.06μm以下のスキンパスロールを用いて伸び率0.10%以上3.00%以下の範囲でスキンパス圧延を施す、ステンレス鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼板およびその製造方法に関し、特に、高い白色度と高い写像性を有するステンレス鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼板は、シンク、業務用冷蔵庫の外板や建築物の壁面をはじめとした、人目に触れやすい部材や箇所に幅広く多用される。近年、特に意匠性の観点から、このようなステンレス鋼板に対して高い表面品質が求められている。特に、表面の色調が比較的白く、さらに、表面に反射して写り込んだ人物や物がくっきりと鮮映に見える表面は、落ち着いた見た目であるとして、その需要が高まっている。すなわち、白色度が高く、かつ、写像性が高いステンレス鋼板が求められている。
【0003】
意匠性に重点を置いて提案されたステンレス鋼板として、例えば、特許文献1には、「長手一方向の研磨目をフェライト系ステンレス鋼板の表面に有し、孔食電位が0.6V以上であり、60度光沢度が75以下であり、組成が、C:0.020質量%以下、Si:0.40質量%以下、Mn:0.40質量%以下、Cr:25.00~32.00質量%、Mo:1.00~4.00質量%、P:0.030質量%以下、S:0.020質量%以下、Ni:0.50質量%以下、N:0.020質量%以下を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、耐孔食指数(PI=Cr質量%+3Mo質量%)が30以上である、耐食性に優れたステンレス鋼板。」が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、「少なくとも片面の表面光沢度がJIS Z8741で規定される60度鏡面光沢度で20以下、明度がJIS Z8731で規定されるL*値で70以上であることを特徴とする高い白色度及び防眩性を備えた意匠性ステンレス鋼板。」が開示されている。
【0005】
特許文献3には、「質量%で、C:0.020~0.120%、Si:0.10~1.00%、Mn:0.10~1.00%、Ni:0.01~0.60%、Cr:14.00~19.00%、N:0.010~0.050%、Al:0~0.050%、Ti:0~0.050%、Mo:0~0.50%、Cu:0~0.50%、Co:0~0.10%、V:0~0.20%であり、このうちAl:0.005~0.030%、Ti:0.005~0.030%の群から選ばれる1種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物であり、下記(1)式により定まるγmax値が30~55である化学組成のフェライト系ステンレス鋼板であって、鋼板表面の20度鏡面光沢度が900以上であり、圧延方向の破断伸びが28.0%以上である、フェライト系ステンレス鋼板。
γmax=420C-11.5Si+7Mn+23Ni-11.5Cr-12Mo+9Cu-49Ti-52Al+470N+189 (1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、無添加の元素については0(ゼロ)が代入される。」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-179519号公報
【文献】特開2001-335997号公報
【文献】特開2020-111792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来多く用いられている意匠性の評価指標である光沢度および白色度は、鋼板に入射した光のうち、正反射を起こした光の強度および乱反射を起こした光の強度をそれぞれ指標化したものである。このような指標のみでは、鋼板の意匠性を左右する写像性を評価することはできない。
【0008】
これは、写像性は、鋼板に対して特定の方向から入射した光のうち、正反射を起こす光に関して、その進行方向が集中していると高くなる指標であるためである。従来指標である光沢度は、鋼板に対して特定の方向から入射した光のうち、特定の角度範囲内に反射した光の総量を反映している。そのため、正反射光の反射角度の分散の大小(言い換えれば、正反射光の進行方向の集中度合い)は、正反射光が上記の「特定の角度範囲内」に収まっている限りは光沢度に影響を与えない。
【0009】
しかし、上述した正反射光の反射角度の分散の大小(言い換えれば、正反射光の進行方向の集中度合い)は、鋼板の写像性を大きく左右する。すなわち、正反射光が上記の「特定の角度範囲内」に収まっていても、それら正反射光の角度分散が大きければ(言い換えれば、正反射光の進行方向がばらついていれば)、写像性は低くなり、反対に角度分散が小さければ、写像性は高くなる。
【0010】
ここで、特許文献1および2に記載のステンレス鋼板は、表面に研磨目を付与することや、表面を酸処理して凹凸を付与することで、防眩性を高めたものである。特許文献1や2に開示された技術によれば、光沢度が低く、白色度が高い鋼板が得られるが、得られる鋼板の写像性は低いという問題がある。
【0011】
また、特許文献3に開示された技術では、光沢度が高く、かつ、写像性が高い鋼板が得られるが、得られる鋼板の白色度は低いという問題がある。
【0012】
このように、ステンレス鋼板の意匠性評価は、従来、主に光沢度および白色度によって行われており、意匠性を大きく左右する写像性については十分な検討がなされていない。さらに、高い白色度と高い写像性を兼備したステンレス鋼板は開発されていない。そのため、高い白色度と高い写像性を兼ね備えた鋼板の開発が求められる。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、白色度が高く、かつ、写像性が高いステンレス鋼板を提供することを目的とする。
【0014】
また、本発明は、上記ステンレス鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【0015】
ここで、白色度は、JIS Z 8722に準拠して測定される明度(L*値)である。具体的には、以下の方法により、白色度を測定する。すなわち、鋼板の圧延方向(L方向)が測定方向となるように、JIS Z 8722:2009に準拠した色測定を行う。なお、視野10度の条件にて、光源にはD65を用いる。表色系にはCIELAB(L*a*b*系)を用い、条件c(de:8°)(SCE条件)にて測定して得られたL*値を白色度とする。
【0016】
写像性は、JIS K 7374に準拠して測定されるC(0.25)である。具体的には、以下の方法により、JIS K 7374:2007に準拠して写像性を測定する。すなわち、鋼板の圧延方向と直交方向(C方向)が測定方向、すなわちL方向と光学くし目が直交する条件にて、反射法にて測定角度が60度、光学くしの幅0.25mmの条件で像鮮明度(%)を測定し、得られたC(0.25)を写像性とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
さて、本発明者らは、上記の目的を達成すべく、鋭意検討を重ね、以下の知見を得た。
まず、高い白色度と高い写像性を有する表面を得るためには、鋼板の表面微細形状において、鋼板表面に、写像性を高める平面部と、白色度を高める凹み部との双方を存在させることが必要である。例えば、平面部中に凹み部を微細に散在させることが有効である。具体的には、以下に示す、JIS B 0681-2:2018に準拠して求められる各表面性状パラメータを、以下に示すそれぞれの範囲内とすればよい。
コア部のレベル差Sk:1.50μm以下
突出山部高さSpk:0.20μm以下
コア部と突出谷部を分ける負荷面積率Smr2:80%以下
【0018】
ここで、上述の各表面性状パラメータは以下のように求められる。
まず、三次元形状データは、各X-Y位置に各位置の高さ(cと置く)が紐づけられたものである。ここで、縦軸に「高さc」をとって、横軸に高さc以上の領域の面積率を意味する「負荷面積率(0~100%)」をとってグラフ化して得た曲線は、負荷曲線と呼称される。負荷曲線上において、負荷面積率の差を40%として引いた負荷曲線の割線の傾斜が最も小さくなる位置は、負荷曲線の中央部分と呼称される。この中央部分(幅40pt%)に対して、縦軸方向の偏差の二乗和が最小になる直線は、等価直線と呼称される。
ここで、等価直線の負荷面積率0%と100%における高さの差が、コア部のレベル差Skである。また、等価直線の負荷面積率0%における高さ以上の高さを有する箇所のみを対象に、当該の各箇所と等価直線の負荷面積率0%における高さとの各高さ差を平均して2倍した値が、突出山部高さSpkである。また、等価直線の負荷面積率100%における高さ以上の高さを有する箇所の面積率(%)が、コア部と突出谷部を分ける負荷面積率Smr2である。
【0019】
つまり、コア部のレベル差Skは、微視的に言えば表面の中で比較的高さが近い部分、巨視的に言えば光の正反射を起こす部分の表面粗さの指標である。Skが低い(Sk値が小さい)ことは、表面の中で比較的高さが近い部分の粗さが小さいことを意味し、すなわち、特定の方向から入射した光の正反射が起こる方向が集中しやすくなることを意味する。特定の方向から入射した光の正反射が起こる方向が集中することは、巨視的に言えば、写像性が高いことを意味する。そのため、Skが低いことは、写像性が高いことの必要条件である。
【0020】
突出山部高さSpkは、微視的に言えば比較的高さが高い部分の表面粗さの指標である。Skが低い表面でもSpkが高いことがある。このことは、上述の光の正反射を起こす部分にうねり成分が多く存在することを意味する。Skが低くても、Spkが高いと、表面の中で比較的高さが近い部分の表面粗さは小さいものの、当該部分の表面うねりが大きい。そのため、Skが低くても、Spkが高いと、特定の方向から入射した光の正反射が起こる方向が集中しにくくなって、巨視的に言えば写像性が低くなる。すなわち、上述のSkが低く、かつ、Spkが低い(Spk値が小さい)ことで、高い写像性が実現される。
【0021】
コア部と突出谷部を分ける負荷面積率Smr2は、微視的に言えば比較的高さが低い部分の面積率の指標である。Smr2が低い(Smr2値が小さい)と、比較的高さが低い部分の面積率が多いことを意味する。Skが低く、かつ、Spkが低い表面において、この比較的高さが低い部分は、微視的に言えば光の乱反射を起こす部分となる。Smr2が低いと、光の乱反射が多く起こり、巨視的に言えば白色度が高くなる。
【0022】
ついで、本発明者らは、上述の表面性状パラメータ(Sk、Spk、Smr2)を所望の範囲とするための、ステンレス鋼板の製造工程について検討した。
【0023】
その結果、本発明者らは、粗面化工程と、平面化工程を、この工程順で、それぞれ適切な条件で実施することが、上述の表面性状パラメータの全てを所望の範囲内とすることに有効であると知見した。
【0024】
まず、粗面化工程を適切な条件で行うことで、ステンレス鋼板の表面を粗くする。この時、鋼板の表面微細形状は、Skが高く、Spkが高くなる。なお、巨視的に言えば、白色度が高く、写像性が低い表面が得られる。
【0025】
次いで、平面化工程を適切な条件で行うことで、鋼板表面の一部を平面化する。これにより、Skが低く、かつ、Spkが低く、かつ、Smr2が低い表面性状を得ることができる。巨視的に言えば、白色度が高く、写像性が高い表面が得られる。
【0026】
粗面化工程において粗面化が不十分であると、SkおよびSpkの増大が不十分となり、平面化工程をいずれの条件で実施しても、白色度が高く、かつ、写像性が高い表面が得られない。これは、粗面化が不十分な場合に、平面化工程で、SkおよびSpkを十分に低くするように平面化すると、Smr2が過度に高くなり、写像性が高いものの白色度が低い表面となり、一方で、Smr2が過度に高くならないように平面化すると、Spkが十分に低くならず、白色度が高いものの写像性が低い表面となるためである。
【0027】
また、適切な粗面化工程を行った後の平面化工程において、平面化が不十分であると、Skおよび/またはSpkが高く、Smr2が低い表面となり、白色度が高いものの写像性が低い表面となる。一方、平面化が過度であると、SkおよびSpkが低く、Smr2が高い表面となり、写像性が高いものの白色度が低い表面となる。なお、Smr2は、粗面化工程ではSkの上昇に伴って高くなるが、平面化の進行に伴い、Skの低下に先駆けて急峻に低下する。その後、Smr2は、それ以上の平面化の進行に応じて再び上昇に転じる。粗面化直後に得られるSmr2が高い表面は、SkおよびSpkが高く、概ね全面が光を強く乱反射させる表面であるから、Smr2が高いものの白色度は高く、写像性は低い表面となる。
【0028】
本発明は、上記の知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
【0029】
[1]JIS B 0681-2:2018に規定される、
コア部のレベル差Skが1.50μm以下であり、
突出山部高さSpkが0.20μm以下であり、
コア部と突出谷部を分ける負荷面積率Smr2が80%以下である表面性状を有し、
白色度が50以上であり、写像性が1%以上である、ステンレス鋼板。
[2]前記[1]に記載のステンレス鋼板の製造方法であって、
前記ステンレス鋼板は、オーステナイト系ステンレス鋼板またはフェライト-オーステナイト二相系ステンレス鋼板であり、
素材となる冷延焼鈍鋼板を準備する素材鋼板の準備工程と、
前記冷延焼鈍鋼板に研磨を施して、冷延焼鈍研磨鋼板を得る粗面化工程と、
前記冷延焼鈍研磨鋼板にスキンパス圧延を施し、冷延焼鈍研磨スキンパス仕上鋼板を得る平面化工程を有し、
前記粗面化工程では、前記冷延焼鈍鋼板に、該冷延焼鈍鋼板の表面粗さSaを0.20μm以上2.00μm以下に調整する研磨処理を施し、
前記平面化工程では、前記冷延焼鈍研磨鋼板に、表面粗さSaが0.06μm以下のスキンパスロールを用いて伸び率0.10%以上3.00%以下の範囲でスキンパス圧延を施す、ステンレス鋼板の製造方法。
[3]前記[1]に記載のステンレス鋼板の製造方法であって、
前記ステンレス鋼板は、フェライト系ステンレス鋼板またはマルテンサイト系ステンレス鋼板であり、
素材となる冷延鋼板を準備する素材鋼板の準備工程と、
前記冷延鋼板に熱処理を施して冷延焼鈍鋼板とし、前記冷延焼鈍鋼板に酸洗を施して冷延焼鈍酸洗鋼板を得る粗面化工程と、
前記冷延焼鈍酸洗鋼板にスキンパス圧延を施し、冷延焼鈍酸洗スキンパス仕上鋼板を得る平面化工程を有し、
前記粗面化工程では、前記冷延鋼板を、750℃以上850℃以下の温度範囲で3時間以上10時間以下保持する熱処理を施して冷延焼鈍鋼板とし、その後、前記冷延焼鈍鋼板に、濃度:15mass%以上30mass%以下、温度:75℃以上95℃以下の硫酸水溶液に30秒以上240秒以下浸漬する酸洗を施し、
前記平面化工程では、前記冷延焼鈍酸洗鋼板に、表面粗さSaが0.06μm以下のスキンパスロールを用いて伸び率0.10%以上3.00%以下の範囲でスキンパス圧延を施す、ステンレス鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、白色度が高く、かつ、写像性が高いステンレス鋼板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明を、以下の実施形態に基づき説明する。本発明の鋼板表面は、所望とする白色度ならびに写像性を得る観点から、以下のように表面性状パラメータが調整される。
【0032】
コア部のレベル差Sk:1.50μm以下
所望とする写像性を得るためには、コア部のレベル差Skを1.50μm以下とする必要がある。Skが1.50μmを超えると、鋼板の写像性が低下する。Skは、好ましくは1.00μm以下である。また、Skの下限は特に限定されないが、後述のSmr2を所定の範囲内としやすくなる点から、Skは0.30μm以上であることが好ましい。
【0033】
突出山部高さSpk:0.20μm以下
所望とする写像性を得るためには、突出山部高さSpkを0.20μm以下とする必要がある。Spkが0.20μmを超えると、鋼板の写像性が低下する。Spkは、好ましくは0.10μm以下である。また、Spkの下限は特に限定されないが、後述のSmr2を所定の範囲内としやすくなる点から、Spkは0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましい。
【0034】
コア部と突出谷部を分ける負荷面積率Smr2:80%以下
所望とする白色度を得るためには、コア部と突出谷部を分ける負荷面積率Smr2を80%以下とする必要がある。Smr2が80%を超えると、鋼板の白色度が低下する。Smr2は、好ましくは60%以下である。また、Smr2の下限は特に限定されないが、上述のSk、Spkを所定の範囲内としやすくなる点から、Smr2は50%以上であることが好ましい。
【0035】
ここで、Skをはじめとした各表面性状パラメータは、以下のようにして求める。
まず、供試材となる鋼板の表面を、共焦点式レーザー顕微鏡にて、幅94.0μm、長さ70.5μmの範囲を画素数2048×1536の条件で形状測定に供する。得られた形状データは、ノイズを除去し、次いで測定面全面を平面で近似して差分を取る傾斜補正を行う。なお、ノイズとして除去した画素の高さは、周囲の画素の高さをもとに補完してもよい。
【0036】
得られた補正後の形状データより、Sフィルター(ローパスフィルター)およびLフィルター(ハイパスフィルター)を使用せず、ならびに追加の形状補正を行うことなく、JIS B 0681-2:2018に準拠して、当該範囲(視野)の表面性状パラメータ(Sk、Spk、Smr2ならびに後述のSa)を求める。
【0037】
1つの鋼板に対して、上述の測定を無作為に抽出した10視野にて行い、各視野の表面性状パラメータ(Sk、Spk、Smr2、Sa)それぞれの算術平均値を算出し、これを当該鋼板の表面性状パラメータ(Sk、Spk、Smr2、Sa)とする。
【0038】
本発明のステンレス鋼板は、上述した白色度、写像性の測定方法で、50以上の高い白色度と、1%以上の高い写像性を有する。白色度は、好ましくは60以上である。また、写像性は、好ましくは10%以上である。さらに、60以上の白色度と、10%以上の写像性を有することがより好ましい。なお、白色度の上限は特に限定されないが、白色度は70以下が好ましい。また、写像性の上限は特に限定されないが、写像性は60%以下が好ましい。
【0039】
なお、本発明においてステンレス鋼板の厚みは、特に限定されるものではないが、製造性の観点から、0.1mm以上とすることが好適である。また、前記鋼板の厚みは4.0mm以下とすることが好適である。鋼板の厚みは、より好ましくは0.5mm以上、さらに好ましくは1.0mm以上である。また、鋼板の厚みは、より好ましくは3.0mm以下、さらに好ましくは2.0mm以下である。
【0040】
次いで、本発明者らは、上述の粗面化工程および平面化工程を含む、ステンレス鋼板の製造方法について検討した。その結果、本発明者らは、後述するように、鋼成分に応じて好ましい製造方法が異なることを知見した。
【0041】
具体的には、本発明者らは、ステンレス鋼板が、オーステナイト系ステンレス鋼板、フェライト-オーステナイト二相系ステンレス鋼板の場合と、フェライト系ステンレス鋼板、マルテンサイト系ステンレス鋼板の場合とで、好ましい製造方法が異なることを知見した。以下、オーステナイト系ステンレス鋼板またはフェライト-オーステナイト二相系ステンレス鋼板の場合と、フェライト系ステンレス鋼板またはマルテンサイト系ステンレス鋼板の場合について、それぞれ詳細に説明する。
【0042】
<オーステナイト系ステンレス鋼板、フェライト-オーステナイト二相系ステンレス鋼板>
[オーステナイト系ステンレス鋼板、フェライト-オーステナイト二相系ステンレス鋼板の成分組成]
本発明のステンレス鋼板が、オーステナイト系ステンレス鋼板またはフェライト-オーステナイト二相系ステンレス鋼板である場合について説明する。この場合、成分組成は、質量%で、C:0.001~0.150%、Si:0.01~2.00%、Mn:0.01~6.00%、P:0.05%以下、S:0.040%以下、Ni:1.5~22.0%、Cr:16.0~24.0%、Al:0.001~0.300%、N:0.001~0.250%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成とすることが好ましい。
【0043】
また、前記成分組成に、さらに、下記(A群)~(C群)から選ばれる1群または2群以上を含有してもよい。
(A群)Cu:2.00%以下、Co:2.00%以下、Mo:3.00%以下およびW:2.00%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
(B群)Ti:0.50%以下、Nb:1.00%以下、V:0.50%以下およびZr:0.50%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
(C群)B:0.0050%以下、Mg:0.0050%以下、Ca:0.0030%以下、Y:0.20%以下、REM(希土類金属):0.20%以下、Sn:0.50%以下およびSb:0.50%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
【0044】
以下、その理由を説明する。なお、成分組成に関する「%」は、特に断らない限り質量%を意味する。
【0045】
C:0.001~0.150%
Cは、鋼中に固溶して鋼板の強度を高め、製造中の擦り傷を抑制して、鋼板の製造性を高める効果がある。ここで、C含有量が0.001%未満では、この効果が十分には得られない。しかし、C含有量が0.150%を超えると、鋼が過度に硬質化して鋼板の製造性がかえって低下する。そのため、C含有量は0.001~0.150%の範囲とすることが好ましい。C含有量は、より好ましくは0.010%以上であり、さらに好ましくは0.030%以上である。また、C含有量は、より好ましくは0.120%以下であり、さらに好ましくは0.080%以下である。
【0046】
Si:0.01~2.00%
Siは、鋼溶製時に脱酸剤として作用し、鋼板の表面欠陥を招く鋼中の介在物を低減して、鋼板の製造性を高める元素である。また、Siには、鋼板の強度を高め、製造中の擦り傷を抑制して、鋼板の製造性を高める効果がある。これらの効果を得るため、Si含有量を0.01%以上とすることが好ましい。しかし、Si含有量が2.00%を超えると、鋼表面に介在物に起因した欠陥が生成しやすくなって鋼板の製造性がかえって低下する。そのため、Si含有量は0.01~2.00%の範囲とすることが好ましい。Si含有量は、より好ましくは0.10%以上であり、さらに好ましくは0.20%以上である。また、Si含有量は、より好ましくは1.00%以下であり、さらに好ましくは0.70%以下である。
【0047】
Mn:0.01~6.00%
Mnは、鋼板の強度を高め、製造中の擦り傷を抑制して、鋼板の製造性を高める効果がある。この効果を得るため、Mn含有量を0.01%以上とすることが好ましい。しかし、Mn含有量が6.00%を超えると、鋼板にMnSに起因した表面欠陥が生成しやすくなり、鋼板の製造性がかえって低下する。そのため、Mn含有量は0.01~6.00%の範囲とすることが好ましい。Mn含有量は、より好ましくは0.20%以上であり、さらに好ましくは0.30%以上である。また、Mn含有量は、より好ましくは3.00%以下であり、さらに好ましくは2.00%以下であり、さらにより好ましくは0.90%以下である。
【0048】
P:0.05%以下
Pは、鋼を脆化させ、鋼表面に割れが生成しやすくなって鋼板の製造性を低下させる元素である。そのため、Pは、可能な限り低減することが望ましい。よって、P含有量は0.05%以下とすることが好ましい。下限については特に限定されるものではないが、過度の脱Pは製造コストの増加を招く。よって、P含有量は、0.001%以上とすることが好ましい。
【0049】
S:0.040%以下
Sは、MnS等の硫化物系介在物として鋼中に存在して、介在物に起因した表面欠陥を生成しやすくし、鋼板の製造性を低下させる元素である。そのため、Sは、可能な限り低減することが望ましい。特にS含有量が0.040%を超えると、上記の影響が大きくなる。そのため、S含有量は0.040%以下とすることが好ましい。S含有量は、より好ましくは0.020%以下であり、さらに好ましくは0.015%以下である。下限については特に限定されるものではないが、過度の脱Sは製造コストの増加を招く。よって、S含有量は、0.0001%以上とすることが好ましい。
【0050】
Ni:1.5~22.0%
Niは、鋼板の耐食性の向上に寄与し、鋼板の意匠性が腐食によって低下することを防止する元素である。この効果を得るため、Ni含有量を1.5%以上とすることが好ましい。しかし、Ni含有量が22.0%を超えると、精錬工程が複雑となり、鋼の製造性が低下する。そのため、Ni含有量は1.5~22.0%の範囲とすることが好ましい。Ni含有量は、より好ましくは2.0%以上であり、さらに好ましくは8.0%以上である。また、Ni含有量は、より好ましくは15.0%以下であり、さらに好ましくは10.5%以下である。
【0051】
Cr:16.0~24.0%
Crは、鋼板の耐食性の向上に寄与し、鋼板の意匠性が腐食によって低下することを防止する元素である。しかし、Cr含有量が24.0%を超えると、熱間圧延時に表面に肌荒れが生じやすくなって鋼板の製造性が低下する。そのため、Cr含有量は16.0~24.0%の範囲とすることが好ましい。Cr含有量は、より好ましくは22.0%以下であり、さらに好ましくは20.0%以下であり、さらにより好ましくは18.0%以下である。
【0052】
Al:0.001~0.300%
Alは、Siと同様に脱酸剤として作用し、鋼板の表面欠陥を招く鋼中の介在物を低減して、鋼板の製造性を高める元素である。この効果を得るため、Al含有量を0.001%以上とすることが好ましい。しかし、Al含有量が0.300%を超えると、鋼表面に介在物に起因した欠陥が生成しやすくなって鋼板の製造性が低下する。そのため、Al含有量は0.300%以下とすることが好ましい。Al含有量は、より好ましくは0.100%以下であり、さらに好ましくは0.050%以下であり、さらにより好ましくは0.010%以下である。
【0053】
N:0.001~0.250%
Nは、Cと同様に、鋼中に固溶して鋼板の強度を高め、製造中の擦り傷を抑制して、鋼板の製造性を高める効果がある。ここで、N含有量が0.001%未満では、この効果が十分には得られない。しかし、N含有量が0.250%を超えると、鋼が過度に硬質化して鋼板の製造性がかえって低下する。そのため、N含有量は0.001~0.250%の範囲とすることが好ましい。N含有量は、より好ましくは0.005%以上であり、さらに好ましくは0.010%以上である。また、N含有量は、より好ましくは0.200%以下であり、さらに好ましくは0.080%以下であり、さらにより好ましくは0.050%以下である。
【0054】
以上を基本成分とすることが好ましいが、本発明では、さらに以下に述べる成分を含有させることができる。
【0055】
Cu:2.00%以下
Cuは、鋼板の強度を高める効果がある。この効果は、Cu含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。よって、Cuを含有させる場合、Cu含有量は0.01%以上とすることが好ましい。Cu含有量は、より好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.10%以上である。しかし、Cu含有量が2.00%を超えると、鋼中にε-Cu相が多く含まれるようになり、これが腐食の起点となって、鋼板の耐食性が低下する。そのため、Cuを含有させる場合、Cu含有量は2.00%以下とすることが好ましい。Cu含有量は、より好ましくは0.50%以下、さらに好ましくは0.20%以下である。
【0056】
Co:2.00%以下
Coは、鋼板の強度を高める効果がある。この効果は、Co含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。よって、Coを含有させる場合、Co含有量は0.01%以上とすることが好ましい。Co含有量は、より好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.10%以上である。しかし、Co含有量が2.00%を超えると、鋼板が脆化する。そのため、Coを含有させる場合、Co含有量は2.00%以下とすることが好ましい。Co含有量は、より好ましくは0.50%以下、さらに好ましくは0.20%以下である。
【0057】
Mo:3.00%以下
Moは、鋼板の耐食性を向上させる元素である。この効果は、Mo含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。よって、Moを含有させる場合、Mo含有量は0.01%以上とすることが好ましい。Mo含有量は、より好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.10%以上、さらにより好ましくは0.15%以上である。しかし、Mo含有量が3.00%を超えると、鋼板が脆化する。そのため、Moを含有させる場合、Mo含有量は3.00%以下とすることが好ましい。Mo含有量は、より好ましくは0.80%以下、さらに好ましくは0.60%以下、さらにより好ましくは0.45%以下である。
【0058】
W:2.00%以下
Wは、鋼板の耐食性を向上させる元素である。この効果は、W含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。よって、Wを含有させる場合、W含有量は0.01%以上とすることが好ましい。W含有量は、より好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.10%以上である。しかし、W含有量が2.00%を超えると、鋼板が脆化する。そのため、Wを含有させる場合、W含有量は2.00%以下とすることが好ましい。W含有量は、より好ましくは0.50%以下、さらに好ましくは0.20%以下である。
【0059】
Ti:0.50%以下
Tiは、鋼板の耐食性を向上させる元素である。この効果は、Ti含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。よって、Tiを含有させる場合、Ti含有量は0.01%以上とすることが好ましい。Ti含有量は、より好ましくは0.02%以上、さらに好ましくは0.03%以上である。しかし、Ti含有量が0.50%を超えると、鋼板が脆化する。そのため、Tiを含有させる場合、Ti含有量は0.50%以下とすることが好ましい。Ti含有量は、より好ましくは0.30%以下、さらに好ましくは0.10%以下である。
【0060】
Nb:1.00%以下
Nbは、Tiと同様に、鋼板の耐食性を向上させる効果がある。この効果は、Nb含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。よって、Nbを含有させる場合、Nb含有量は0.01%以上とすることが好ましい。Nb含有量は、より好ましくは0.02%以上、さらに好ましくは0.03%以上である。しかし、Nb含有量が1.00%を超えると、鋼板が脆化する。そのため、Nbを含有させる場合、Nb含有量は1.00%以下とすることが好ましい。Nb含有量は、より好ましくは0.50%以下、さらに好ましくは0.20%以下である。
【0061】
V:0.50%以下
Vは、TiやNbと同様に、鋼板の耐食性を向上させる効果がある。この効果は、V含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。よって、Vを含有させる場合、V含有量は0.01%以上とすることが好ましい。V含有量は、より好ましくは0.02%以上、さらに好ましくは0.03%以上である。しかし、V含有量が0.50%を超えると、鋼板が脆化する。そのため、Vを含有させる場合、V含有量は0.50%以下とすることが好ましい。V含有量は、より好ましくは0.20%以下、さらに好ましくは0.10%以下である。
【0062】
Zr:0.50%以下
Zrは、TiやNbと同様に、鋼板の耐食性を向上させる効果がある。この効果は、Zr含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。よって、Zrを含有させる場合、Zr含有量は0.01%以上とすることが好ましい。Zr含有量は、より好ましくは0.02%以上、さらに好ましくは0.03%以上である。しかし、Zr含有量が0.50%を超えると、鋼板が脆化する。そのため、Zrを含有させる場合、Zr含有量は0.50%以下とすることが好ましい。Zr含有量は、より好ましくは0.20%以下、さらに好ましくは0.10%以下である。
【0063】
B:0.0050%以下
Bは、熱間圧延時の鋼板の端部割れを防止し、鋼板の生産性を向上させる元素である。この効果は、B含有量が好ましくは0.0002%以上で得られる。よって、Bを含有させる場合、B含有量は0.0002%以上とすることが好ましい。B含有量は、より好ましくは0.0003%以上、さらに好ましくは0.0005%以上である。しかし、B含有量が0.0050%を超えると、熱間加工性が低下し、鋼板の製造性の低下を招く。そのため、Bを含有させる場合、B含有量は0.0050%以下とすることが好ましい。B含有量は、より好ましくは0.0030%以下、さらに好ましくは0.0020%以下である。
【0064】
Mg:0.0050%以下
Mgは、溶鋼中でAlとともにMg酸化物を形成し、脱酸剤として作用する。この効果は、Mg含有量が好ましくは0.0005%以上で得られる。よって、Mgを含有させる場合、Mg含有量は0.0005%以上とすることが好ましい。Mg含有量は、より好ましくは0.0010%以上である。一方、Mg含有量が0.0050%を超えると、鋼板が脆化する。そのため、Mgを含有する場合、Mg含有量は0.0050%以下とすることが好ましい。Mg含有量は、より好ましくは0.0030%以下である。
【0065】
Ca:0.0030%以下
Caは、溶鋼中で酸化物を形成し、脱酸剤として作用する。この効果は、Ca含有量が好ましくは0.0003%以上で得られる。よって、Caを含有させる場合、Ca含有量は0.0003%以上とすることが好ましい。Ca含有量は、より好ましくは0.0005%以上、さらに好ましくは0.0007%以上である。しかし、Ca含有量が0.0030%を超えると、鋼中にCaSが多く生成し、これが腐食の起点となって、鋼板の耐食性が低下する。そのため、Caを含有させる場合、Ca含有量は0.0030%以下とすることが好ましい。Ca含有量は、より好ましくは0.0025%以下、さらに好ましくは0.0015%以下である。
【0066】
Y:0.20%以下
Yは、熱間圧延時の鋼板の端部割れを防止し、鋼板の生産性を向上させる元素である。この効果は、Y含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。よって、Yを含有させる場合、Y含有量は0.01%以上とすることが好ましい。Y含有量は、より好ましくは0.02%以上である。しかし、Y含有量が0.20%を超えると、熱間加工性が低下し、鋼板の製造性の低下を招く。そのため、Yを含有させる場合、Y含有量は0.20%以下とすることが好ましい。Y含有量は、より好ましくは0.05%以下である。
【0067】
REM:0.20%以下
REM(Rare Earth Metals:希土類金属)は、熱間圧延時の鋼板の端部割れを防止し、鋼板の生産性を向上させる元素である。この効果は、REM含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。よって、REMを含有させる場合、REM含有量は0.01%以上とすることが好ましい。REM含有量は、より好ましくは0.02%以上である。しかし、REM含有量が0.20%を超えると、熱間加工性が低下し、鋼板の製造性の低下を招く。そのため、REMを含有させる場合、REM含有量は0.20%以下とすることが好ましい。REM含有量は、より好ましくは0.05%以下である。なお、本明細書においてREMとは、周期表の第3族に属する元素(ただしYを除く)を意味する。また、ここでいうREM含有量は、これらの元素の合計含有量である。
【0068】
Sn:0.50%以下
Snは、熱間圧延時の鋼板の肌荒れを防止し、鋼板の生産性を向上させる元素である。この効果は、Sn含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。よって、Snを含有させる場合、Sn含有量は0.01%以上とすることが好ましい。Sn含有量は、より好ましくは0.03%以上である。しかし、Sn含有量が0.50%を超えると、鋼板が脆化する。そのため、Snを含有させる場合、Sn含有量は0.50%以下とすることが好ましい。Sn含有量は、より好ましくは0.20%以下である。
【0069】
Sb:0.50%以下
Sbは、熱間圧延時の鋼板の肌荒れを防止し、鋼板の生産性を向上させる元素である。この効果は、Sb含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。よって、Sbを含有させる場合、Sb含有量は0.01%以上とすることが好ましい。Sb含有量は、より好ましくは0.03%以上である。しかし、Sb含有量が0.50%を超えると、鋼板が脆化する。そのため、Sbを含有させる場合、Sb含有量は0.50%以下とすることが好ましい。Sb含有量は、より好ましくは0.20%以下である。
【0070】
上記以外の成分の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
【0071】
[オーステナイト系ステンレス鋼板、フェライト-オーステナイト二相系ステンレス鋼板の製造方法]
次に、本発明のステンレス鋼板が、オーステナイト系ステンレス鋼板またはフェライト-オーステナイト二相系ステンレス鋼板である場合の製造方法について説明する。この場合の一実施形態に係る製造方法は、素材となる鋼板の準備工程と、粗面化工程と、平面化工程を有する。
【0072】
具体的には、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼板またはフェライト-オーステナイト二相系ステンレス鋼板の一実施形態に係る製造方法は、上記の成分組成を有する冷延焼鈍鋼板を準備する素材鋼板の準備工程と、前記冷延焼鈍鋼板に研磨を施して、冷延焼鈍研磨鋼板を得る粗面化工程と、前記冷延焼鈍研磨鋼板にスキンパス圧延を施し、冷延焼鈍研磨スキンパス仕上鋼板を得る平面化工程を有する。そして、前記粗面化工程では、前記冷延焼鈍鋼板に、該冷延焼鈍鋼板の表面粗さSaを0.20μm以上2.00μm以下に調整する研磨処理を施し、前記平面化工程では、前記冷延焼鈍研磨鋼板に、表面粗さSaが0.06μm以下のスキンパスロールを用いて伸び率0.10%以上3.00%以下の範囲で圧延するスキンパス圧延を施す。
【0073】
(素材鋼板の準備工程)
素材鋼板の準備工程は、素材となる鋼板を準備する工程である。素材鋼板は、特に限定されないが、例えば上記のような成分組成を有する素材鋼板を以下のようにして準備すればよい。
例えば、一態様としては、転炉、電気炉、真空溶解炉等の溶解炉で溶鋼を溶製し、上記の成分組成に調整した溶鋼を得る。ついで、溶鋼を、連続鋳造法または造塊-分塊法等により、鋼素材(鋼スラブ)とする。ついで、鋼素材に、熱間圧延を施して熱延鋼板とする。ついで、上記の熱延鋼板に、熱延板焼鈍を施して熱延焼鈍鋼板とする。得られた熱延焼鈍鋼板に、必要に応じて、ソルトバス浸漬や酸洗、ショットブラスト、表面研削等を行って脱スケール処理を施す。また、上記の熱延焼鈍鋼板に、必要に応じて、スキンパス圧延を施してもよい。
ついで、上記の熱延焼鈍鋼板に冷間圧延を施して、冷延鋼板とし、得られた冷延鋼板に冷延板焼鈍を施して冷延焼鈍鋼板とする。得られた冷延焼鈍鋼板に、必要に応じて、ソルトバス浸漬や酸洗、ショットブラスト、表面研削等を行って脱スケール処理を施し、素材鋼板とする。
【0074】
なお、上記の熱間圧延、熱延板焼鈍および冷間圧延、冷延板焼鈍の条件については特に限定されず、常法に従えばよい。例えば、熱間圧延については、鋼素材を、1150~1350℃に加熱し、該温度範囲で30分~24時間保持したのち、または、鋼素材が鋳造直後で前記温度域にあれば加熱することなくそのままで、圧延を施す。なお、熱間圧延率は特に限定されず、要求される最終製品の厚みなどに応じ、適宜調整すればよい。また、熱延板焼鈍については、熱延鋼板を1000~1300℃の温度範囲に加熱し、該温度範囲で5秒~24時間保持する。冷間圧延については、クラスターミルを用いるのが好ましい。また、冷間圧延率は、特に限定されるものではないが、鋼板の表面形状平滑化の観点から、40%以上とすることが好ましい。また、冷延板焼鈍については、冷延鋼板を1000~1200℃の温度範囲に加熱し、該温度範囲で5秒~24時間保持する。
【0075】
(粗面化工程)
次いで、粗面化工程では、上記のようにして準備した素材鋼板の表面に研磨処理を施し、冷延焼鈍研磨鋼板を得る。この研磨処理では、鋼板の表面粗さSaを0.20~2.00μmに調整することが重要である。研磨処理の方法としては、例えば、a)研磨紙で表面をこする、b)回転させた砥石を鋼板に接触させながら砥石を動かす、c)回転させた研磨ベルトに鋼板を接触させながら鋼板を動かす、d)一対の回転ブラシの間に鋼板を通す、などの方法が挙げられる。いずれも、研磨材(研磨紙や砥石、研磨ベルトなどに付着させる砥粒の硬さや粒度など)や、鋼板に対する研磨材の押し付け圧力、研磨速度(例えば、研磨ベルトやブラシの回転速度によって調整できる、鋼板に接触する研磨材と鋼板との相対速度)などを変更することで、表面粗さSaを調整することができる。
なお表面粗さSaは、上述の共焦点式レーザー顕微鏡を用いた表面粗さパラメータ算出方法による。表面粗さSaは、JIS B 0681-2:2018に規定される表面性状パラメータの一種であり、算術平均高さを表すものである。算術平均高さとは、表面の平均面に対する各点の高さの差の絶対値の平均であり、表面粗度を評価する際に一般的に利用されるパラメータである。表面粗さSaの詳細な測定方法は、実施例に記載するとおりである。
【0076】
研磨後の表面粗さSa:0.20μm以上2.00μm以下
研磨処理では、研磨後の表面粗さSaは0.20~2.00μmの範囲に調整する。研磨後の表面粗さSaが0.20μm未満であると、後述の平面化工程にて、いずれの条件で平面化を行っても、白色度が高く、かつ、写像性が高い表面が得られない。すなわち、後述の平面化工程において、スキンパス圧延の伸び率が小さな条件では、白色度が高いものの写像性が低い表面となる。一方で、スキンパス圧延の伸び率を大きくするに従い、白色度が低く写像性が低い表面、次いで、写像性が高いものの白色度が低い表面、となり、いずれにしても白色度が高く、かつ、写像性が高い表面が得られない。研磨後の表面粗さSaが2.00μmを超えると、後述の平面化工程にて、写像性が高い表面を得るために必要なスキンパス圧延の伸び率が過度に高くなり、製造性が悪くなる。従って、研磨後の表面粗さSaは0.20μm以上2.00μm以下とする。
【0077】
(平面化工程)
次いで、平面化工程では、上記のようにして得られた冷延焼鈍研磨鋼板にスキンパス圧延を施す。このスキンパス圧延では、前記冷延焼鈍研磨鋼板を、表面粗さSaを0.06μm以下としたスキンパスロールを用いて伸び率0.10%以上3.00%以下の範囲で圧延することが重要である。なお、スキンパスロールの表面粗さSaは、スキンパスロール表面を供試材とした、上述の共焦点式レーザー顕微鏡を用いた表面粗さパラメータ算出方法による。また、スキンパスロールの表面粗さSaは、上述の粗面化工程と同様に、JIS B 0681-2:2018に規定されるパラメータである。また、スキンパスロールのロール径および圧延時の鋼板速度は特に限定されないが、例えば、ロール径800~900mmのスキンパスロールを用いて、鋼板速度を40~50mpmとする。また、スキンパス圧延時には、鋼板に張力をかけてもよい。張力は特に限定されないが、例えば、20kgf/mm2以上30kgf/mm2以下とする。
【0078】
スキンパスロールの表面粗さSa:0.06μm以下
スキンパスロールの表面粗さSaが0.06μmを超えると、鋼板表面におけるロール転写部が粗くなり、スキンパス圧延後の鋼板の写像性が高くならない。従って、スキンパスロールの表面粗さSaは0.06μm以下とする。なお、スキンパスロールの表面粗さSaは小さいほど好適であり、その下限は特に限定されないが、コストや研磨負荷の観点からは、スキンパスロールの表面粗さSaは、一例として0.01μm以上とすることができる。
【0079】
スキンパス圧延の伸び率:0.10%以上3.00%以下
スキンパス圧延の伸び率が0.10%未満であると、鋼板表面のSkならびにSpkが高くなり、所望の写像性が得られない。一方、スキンパス圧延の伸び率が3.00%を超えると、鋼板表面のSmr2が高くなり、所望の白色度が得られない。従って、スキンパス圧延の伸び率は0.10%以上3.00%以下とする。なお、スキンパス圧延は1パスで行ってもよく、複数パスで行ってもよい。スキンパス圧延を複数パスで行った場合には、複数パスにより総計した伸び率を上述の範囲とする。また、スキンパス圧延の伸び率(スキンパス伸び率)(%)は下記式により算出される。
スキンパス伸び率(%)=(スキンパス圧延後の鋼板長さ)/(スキンパス圧延前の鋼板長さ)×100-100
【0080】
<フェライト系ステンレス鋼板、マルテンサイト系ステンレス鋼板>
[フェライト系ステンレス鋼板、マルテンサイト系ステンレス鋼板の成分組成]
本発明のステンレス鋼板が、フェライト系ステンレス鋼板またはマルテンサイト系ステンレス鋼板である場合について説明する。この場合、成分組成は、質量%で、C:0.001~0.500%、Si:0.01~2.00%、Mn:0.01~2.00%、P:0.05%以下、S:0.040%以下、Ni:0.01%以上1.50%未満、Cr:10.5~30.0%、Al:0.001~6.5%、N:0.001~0.250%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成とすることが好ましい。
【0081】
また、前記成分組成に、さらに、上述の(A群)~(C群)から選ばれる1群または2群以上を含有してもよい。
【0082】
以下、その理由を説明する。
【0083】
C:0.001~0.500%
Cは、鋼中に固溶して鋼板の強度を高め、製造中の擦り傷を抑制して、鋼板の製造性を高める効果がある。ここで、C含有量が0.001%未満では、この効果が十分には得られない。しかし、C含有量が0.500%を超えると、鋼表面に炭化物に起因した欠陥が生成しやすくなって鋼板の製造性がかえって低下する。そのため、C含有量は0.001~0.500%の範囲とすることが好ましい。C含有量は、フェライト系ステンレス鋼板の場合、より好ましくは0.010%以上であり、さらに好ましくは0.030%以上である。また、C含有量は、フェライト系ステンレス鋼板の場合、より好ましくは0.150%以下であり、さらに好ましくは0.050%以下である。C含有量は、マルテンサイト系ステンレス鋼板の場合、より好ましくは0.050%以上である。また、C含有量は、マルテンサイト系ステンレス鋼板の場合、より好ましくは0.40%以下である。
【0084】
Si:0.01~2.00%
Siは、鋼溶製時に脱酸剤として作用し、鋼板の表面欠陥を招く鋼中の介在物を低減して、鋼板の製造性を高める元素である。また、Siには、鋼板の強度を高め、製造中の擦り傷を抑制して、鋼板の製造性を高める効果がある。これらの効果を得るため、Si含有量を0.01%以上とすることが好ましい。しかし、Si含有量が2.00%を超えると、鋼表面に介在物に起因した欠陥が生成しやすくなって鋼板の製造性がかえって低下する。そのため、Si含有量は0.01~2.00%の範囲とすることが好ましい。Si含有量は、より好ましくは0.10%以上であり、さらに好ましくは0.20%以上である。また、Si含有量は、より好ましくは1.00%以下であり、さらに好ましくは0.70%以下である。
【0085】
Mn:0.01~2.00%
Mnは、鋼板の強度を高め、製造中の擦り傷を抑制して、鋼板の製造性を高める効果がある。この効果を得るため、Mn含有量を0.01%以上とすることが好ましい。しかし、Mn含有量が2.00%を超えると、鋼板にMnSに起因した表面欠陥が生成しやすくなり、鋼板の製造性がかえって低下する。そのため、Mn含有量は0.01~2.00%の範囲とすることが好ましい。Mn含有量は、より好ましくは0.20%以上であり、さらに好ましくは0.30%以上である。また、Mn含有量は、より好ましくは1.00%以下であり、さらに好ましくは0.90%以下である。
【0086】
P:0.05%以下
Pは、鋼を脆化させ、鋼表面に割れが生成しやすくなって鋼板の製造性を低下させる元素である。そのため、P含有量は0.05%以下とすることが好ましい。P含有量は、より好ましくは0.04%以下である。ただし、Pを製造過程において結晶粒界に偏析させた場合には、Pは、酸洗による鋼板の粗面化を促進する効果を有する。この効果得るためには、P含有量を0.01%以上とすることが好ましく、0.02%以上とすることがより好ましい。
【0087】
S:0.040%以下
Sは、MnS等の硫化物系介在物として鋼中に存在して、介在物に起因した表面欠陥を生成しやすくし、鋼板の製造性を低下させる元素である。そのため、Sは、可能な限り低減することが望ましい。特にS含有量が0.040%を超えると、上記の影響が大きくなる。そのため、S含有量は0.040%以下とすることが好ましい。S含有量は、より好ましくは0.020%以下であり、さらに好ましくは0.015%以下である。下限については特に限定されるものではないが、過度の脱Sは製造コストの増加を招く。よって、S含有量は、0.0001%以上とすることが好ましい。
【0088】
Ni:0.01%以上1.50%未満
Niは、鋼板の靱性向上に寄与し、製造過程における鋼板の破断を抑制して、鋼板の製造性を向上させる元素である。この効果を得るため、Ni含有量を0.01%以上とすることが好ましい。しかし、Ni含有量が1.50%以上になると、製造過程における脱スケール工程が困難となり、鋼の製造性が低下する。そのため、Ni含有量は0.01%以上1.50%未満の範囲とすることが好ましい。Ni含有量は、より好ましくは0.05%以上である。また、Ni含有量は、より好ましくは1.00%未満であり、さらに好ましくは0.30%未満である。
【0089】
Cr:10.5~30.0%
Crは、鋼板の耐食性の向上に寄与し、鋼板の意匠性が腐食によって低下することを防止する元素である。しかし、Cr含有量が30.0%を超えると、熱間圧延時に表面に肌荒れが生じやすくなって鋼板の製造性が低下する。そのため、Cr含有量は10.5~30.0%の範囲とすることが好ましい。Cr含有量は、フェライト系ステンレス鋼板の場合、より好ましくは12.0%以上であり、さらに好ましくは16.0%以上である。また、Cr含有量は、フェライト系ステンレス鋼板の場合、より好ましくは22.0%以下であり、さらに好ましくは18.0%以下である。Cr含有量は、マルテンサイト系ステンレス鋼板の場合、より好ましくは17.0%以下であり、さらに好ましくは14.0%以下である。
【0090】
Al:0.001~6.5%
Alは、Siと同様に脱酸剤として作用し、鋼板の表面欠陥を招く鋼中の介在物を低減して、鋼板の製造性を高める元素である。この効果を得るため、Al含有量を0.001%以上とすることが好ましい。しかし、Al含有量が6.5%を超えると、鋼が脆化して表面に割れが生成しやすくなって鋼板の製造性が低下する。そのため、Al含有量は0.001~6.5%の範囲とすることが好ましい。Al含有量は、より好ましくは0.600%以下であり、さらに好ましくは0.060%以下である。
【0091】
N:0.001~0.250%
Nは、Cと同様に、鋼中に固溶して鋼板の強度を高め、製造中の擦り傷を抑制して、鋼板の製造性を高める効果がある。ここで、N含有量が0.001%未満では、この効果が十分には得られない。しかし、N含有量が0.250%を超えると、鋼が過度に硬質化して鋼板の製造性がかえって低下する。そのため、N含有量は0.001~0.250%の範囲とすることが好ましい。N含有量は、より好ましくは0.005%以上であり、さらに好ましくは0.010%以上である。また、N含有量は、より好ましくは0.080%以下であり、さらに好ましくは0.050%以下である。
【0092】
以上を基本成分とすることが好ましいが、本発明では、さらに、上述の(A群)~(C群)から選ばれる1群または2群以上を含有してもよい。なお、上述の(A群)~(C群)から選ばれる1群または2群以上を含有する場合の各元素の好ましい含有量の範囲およびその理由は、上述したものと同様であるので、ここでは省略する。
【0093】
上記以外の成分の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
【0094】
[フェライト系ステンレス鋼板、マルテンサイト系ステンレス鋼板の製造方法]
次に、本発明のステンレス鋼板が、フェライト系ステンレス鋼板またはマルテンサイト系ステンレス鋼板である場合の製造方法について説明する。この場合の一実施形態に係る製造方法は、素材鋼板となる鋼板の準備工程と、粗面化工程と、平面化工程を有する。
【0095】
具体的には、本発明のフェライト系ステンレス鋼板またはマルテンサイト系ステンレス鋼板の一実施形態に係る製造方法は、上記の成分組成を有する冷延鋼板を準備する素材鋼板の準備工程と、前記冷延鋼板に熱処理を施して冷延焼鈍鋼板とし、前記冷延焼鈍鋼板に酸洗を施して冷延焼鈍酸洗鋼板を得る粗面化工程と、前記冷延焼鈍酸洗鋼板にスキンパス圧延を施し、冷延焼鈍酸洗スキンパス仕上鋼板を得る平面化工程を有する。そして、前記粗面化工程では、前記冷延鋼板を、750℃以上850℃以下の温度範囲で3時間以上10時間以下保持する熱処理を施して冷延焼鈍鋼板とし、その後、前記冷延焼鈍鋼板に、濃度:15mass%以上30mass%以下、温度:75℃以上95℃以下の硫酸水溶液に30秒以上240秒以下浸漬する酸洗を施して冷延焼鈍酸洗鋼板を得る。前記平面化工程では、前記冷延焼鈍酸洗鋼板に、表面粗さSaが0.06μm以下のスキンパスロールを用いて伸び率0.10%以上3.00%以下の範囲でスキンパス圧延を施す。
【0096】
フェライト系ステンレス鋼、および、マルテンサイト系ステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼、および、フェライト-オーステナイト二相系ステンレス鋼に比べて、酸洗によって容易に表面を粗面化することが可能である。そのため、冷延板焼鈍、冷延焼鈍板酸洗、スキンパス圧延、からなる一般的な製造工程の各工程を適切な条件で実施することにより、一般的な製造工程に対して研磨などの工程を追加すること無く、本発明を実現することができる。
【0097】
また、前記粗面化工程においては、特に、Pを活用することが好ましい。すなわち、フェライト系ステンレス鋼、および、マルテンサイト系ステンレス鋼では、冷延鋼板の熱処理(焼鈍)を適切な条件で実施することで、冷延焼鈍鋼板の鋼組織中の結晶粒界近傍に鋼中のPを偏析させることができる。さらに、Pが粒界に偏析した冷延焼鈍鋼板を適切な条件で酸洗することにより、鋼板表面の中でも結晶粒界近傍を優先的に酸洗溶液へと溶出させることができるため、特に容易に鋼板表面の粗面化を行うことができる。
【0098】
(素材鋼板の準備工程)
素材鋼板の準備工程は、素材となる鋼板を準備する工程である。素材鋼板は、特に限定されないが、例えば上記のような成分組成を有する素材鋼板を以下のようにして準備すればよい。
例えば、一態様としては、転炉、電気炉、真空溶解炉等の溶解炉で溶鋼を溶製し、上記の成分組成に調整した溶鋼を得る。ついで、溶鋼を、連続鋳造法または造塊-分塊法等により、鋼素材(鋼スラブ)とする。ついで、鋼素材に、熱間圧延を施して熱延鋼板とする。ついで、上記の熱延鋼板に、熱延板焼鈍を施して熱延焼鈍鋼板とする。得られた熱延焼鈍鋼板に、必要に応じて、酸洗、ショットブラスト、表面研削等を行って脱スケール処理を施す。また、上記の熱延焼鈍鋼板に、必要に応じて、スキンパス圧延を施してもよい。
ついで、上記の熱延焼鈍鋼板に冷間圧延を施して、冷延鋼板とし、これを素材鋼板とする。
【0099】
なお、上記の熱間圧延、熱延板焼鈍および冷間圧延の条件については特に限定されず、常法に従えばよい。例えば、熱間圧延については、鋼素材を、1050~1250℃に加熱し、該温度範囲で30分~24時間保持したのち、または、鋼素材が鋳造直後で前記温度域にあれば加熱することなくそのままで、圧延を施す。なお、熱間圧延率は特に限定されず、要求される最終製品の厚みなどに応じ、適宜調整すればよい。また、熱延板焼鈍については、熱延鋼板を750~850℃の温度範囲に加熱し、該温度範囲で1時間~24時間保持する、あるいは、熱延鋼板を900~1100℃の温度範囲に加熱し、該温度範囲で10秒~5分間保持する。冷間圧延については、クラスターミルを用いるのが好ましい。また、冷間圧延率は、特に限定されるものではないが、鋼板の表面形状平滑化の観点から、40%以上とすることが好ましい。
【0100】
(粗面化工程)
次いで、粗面化工程では、上記のようにして準備した素材鋼板に熱処理(焼鈍)、次いで酸洗を施し、冷延焼鈍酸洗鋼板を得る。この熱処理では、素材鋼板を750℃以上850℃以下の温度範囲に加熱し、該温度範囲で3時間以上10時間以下保持することが重要である。さらに、その後の酸洗では、得られた冷延焼鈍鋼板を、75℃以上95℃以下の温度範囲に保持した15mass%以上30mass%以下の濃度の硫酸水溶液に30秒以上240秒以下浸漬することが重要である。
【0101】
熱処理(焼鈍)の保持温度:750℃以上850℃以下
粗面化工程では、まず、冷延鋼板に熱処理(焼鈍)を施し、鋼組織中の結晶粒界にPを偏析させる。熱処理の保持温度が750℃未満であると、結晶が十分には成長せず、Pの偏析サイトとなる結晶粒界の形成が不十分となる。一方、熱処理の保持温度が850℃を超えると、Pの鋼中拡散が起こりやすくなり、Pが結晶粒内へも拡散し、Pが結晶粒界に偏析しなくなる。従って、熱処理の保持温度は、750℃以上850℃以下とする。熱処理の保持温度は、好ましくは810℃以上である。また、熱処理の保持温度は、好ましくは840℃以下である。なお、熱処理の保持温度は、保持中、一定であってもよく、また、上記の温度範囲内にあれば、保持中、常に一定としなくてもよい。
【0102】
熱処理(焼鈍)の保持時間:3時間以上10時間以下
熱処理の保持時間が3時間未満の場合、結晶粒界へのP偏析が不十分となる。一方、熱処理の保持時間が10時間を超えると、その後の酸洗で表面欠陥を招く粗大な炭窒化物が鋼中に形成して、製造性が低下する。従って、熱処理の保持時間は、3時間以上10時間以下(180分以上600分以下)とする。熱処理の保持時間は、好ましくは6時間以上である。また、熱処理の保持時間は、好ましくは8時間以下である。なお、熱処理の保持温度範囲での保持後の冷却は、そのまま炉冷してもよいし、該温度範囲よりも低温域において温度保持を行ってもよい。
【0103】
ついで、上記の冷延焼鈍鋼板に、酸洗を施して冷延焼鈍酸洗鋼板を得る。そして、この酸洗では、冷延焼鈍鋼板を、75℃以上95℃以下の温度範囲に保持した15~30mass%の硫酸水溶液に30秒以上240秒以下浸漬することが重要である。なお、本酸洗の前後には、酸洗減量が5g/m2以下である条件内で他の酸洗を行ってもよく、例えば、前記硫酸水溶液への浸漬後に、スマット除去を目的に、硝酸とフッ酸の混合水溶液への浸漬を行ってもよい。また、前記硫酸水溶液への浸漬後に、不動態化を目的に、硝酸水溶液への浸漬、ならびに、硝酸水溶液中での鋼の電解を行ってもよい。
【0104】
硫酸水溶液の温度:75℃以上95℃以下
硫酸水溶液の温度が75℃未満であると、酸洗による粗面化が不十分となり、後述の平面化工程にて、いずれの条件で平面化を行っても、白色度が高く、かつ、写像性が高い表面が得られない。一方、硫酸水溶液の温度が95℃を超えると、後述の平面化工程にて、写像性が高い表面を得るために必要なスキンパス圧延の伸び率が過度に高くなり、製造性が悪くなる。従って、酸洗を施す際の硫酸水溶液の温度は75℃以上95℃以下とする。
【0105】
硫酸水溶液の濃度:15mass%以上30mass%以下
硫酸水溶液の濃度が15mass%未満であると、酸洗による粗面化が不十分となり、後述の平面化工程にて、いずれの条件で平面化を行っても、白色度が高く、かつ、写像性が高い表面が得られない。また、硫酸水溶液の濃度が30mass%を超えると、かえって酸洗溶液への鋼の溶出が抑制され、酸洗による粗面化が不十分となり、後述の平面化工程にて、いずれの条件で平面化を行っても、白色度が高く、かつ、写像性が高い表面が得られない。従って、酸洗を施す際の硫酸水溶液の濃度は15mass%以上30mass%以下とする。なお、硫酸水溶液中には、FeイオンやCrイオンをはじめとした、酸洗溶液としての不可避的不純物を含んでいてもよい。
【0106】
硫酸水溶液への浸漬時間:30秒以上240秒以下
硫酸水溶液への浸漬時間が30秒未満であると、酸洗による粗面化が不十分となり、後述の平面化工程にて、いずれの条件で平面化を行っても、白色度が高く、かつ、写像性が高い表面が得られない。一方、硫酸水溶液への浸漬時間が240秒を超えると、後述の平面化工程にて、写像性が高い表面を得るために必要なスキンパス圧延の伸び率が過度に高くなり、製造性が悪くなる。従って、酸洗を施す際の硫酸水溶液への浸漬時間は30秒以上240秒以下とする。
【0107】
(平面化工程)
次いで、平面化工程では、上記のようにして得られた冷延焼鈍酸洗鋼板にスキンパス圧延を施す。このスキンパス圧延では、前記冷延焼鈍酸洗鋼板を、表面粗さSaを0.06μm以下としたスキンパスロールを用いて伸び率0.10%以上3.00%以下の範囲で圧延することが重要である。なお、スキンパスロールの表面粗さSaは、上述したとおり、共焦点式レーザー顕微鏡を用いた表面粗さパラメータ算出方法による。また、スキンパスロールの表面粗さSaは、上述したとおり、JIS B 0681-2:2018に規定されるパラメータである。また、スキンパスロールのロール径および圧延時の鋼板速度は特に限定されないが、例えば、ロール径800~900mmのスキンパスロールを用いて、鋼板速度を40~50mpmとする。また、スキンパス圧延時には、鋼板に張力をかけてもよい。張力は特に限定されないが、例えば、20kgf/mm2以上30kgf/mm2以下とする。
【0108】
スキンパスロールの表面粗さSa:0.06μm以下
スキンパスロールの表面粗さSaが0.06μmを超えると、鋼板表面におけるロール転写部が粗くなり、スキンパス圧延後の鋼板の写像性が高くならない。従って、スキンパスロールの表面粗さSaは0.06μm以下とする。なお、スキンパスロールの表面粗さSaは小さいほど好適であり、その下限は特に限定されないが、コストや研磨負荷の観点からは、スキンパスロールの表面粗さSaは、一例として0.01μm以上とすることができる。
【0109】
スキンパス圧延の伸び率:0.10%以上3.00%以下
スキンパス圧延の伸び率が0.10%未満であると、鋼板表面のSkならびにSpkが高くなり、所望の写像性が得られない。一方、スキンパス圧延の伸び率が3.00%を超えると、鋼板表面のSmr2が高くなり、所望の白色度が得られない。従って、スキンパス圧延の伸び率は0.10%以上3.00%以下とする。なお、スキンパス圧延は1パスで行ってもよく、複数パスで行ってもよい。スキンパス圧延を複数パスで行った場合には、複数パスにより総計した伸び率を上述の範囲とする。また、スキンパス圧延の伸び率(スキンパス伸び率(%))は上述の式により算出される。
【0110】
本発明のステンレス鋼板は、上述の製造方法により好適に製造される。本発明のステンレス鋼板は、オーステナイト系ステンレス鋼板、フェライト-オーステナイト二相系ステンレス鋼板、フェライト系ステンレス鋼板、マルテンサイト系ステンレス鋼板のいずれであってもよい。特に、フェライト系ステンレス鋼板、マルテンサイト系ステンレス鋼板では、一般的な製造工程の各工程を適切な条件で実施することで、一般的な製造工程に対して研磨などの工程を追加する必要がない利点がある。
ここで、オーステナイト系ステンレス鋼板またはフェライト-オーステナイト二相系ステンレス鋼板の組織は、オーステナイト相の単相組織でもよく、フェライト相とオーステナイト相から構成されてもよく、オーステナイト相と加工誘起マルテンサイト相から構成されてもよい。また、フェライト相、オーステナイト相および加工誘起マルテンサイト相以外の残部として、体積率で1%以下の介在物および析出物を含有していてもよいし、含有していなくてもよい。
また、フェライト系ステンレス鋼板またはマルテンサイト系ステンレス鋼板の組織は、フェライト相の単相組織でもよく、マルテンサイト相の単相組織でもよく、フェライト相とマルテンサイト相の複合組織でもよく、マルテンサイト相とオーステナイト相の複合組織(この場合、オーステナイト相の面積率は10%以下)でもよく、フェライト相とマルテンサイト相とオーステナイト相の複合組織(この場合、オーステナイト相の面積率は10%以下)でもよい。また、フェライト相、マルテンサイト相およびオーステナイト相以外の残部として、体積率で5%以下の介在物および析出物を含有していてもよいし、含有していなくてもよい。また、上記の介在物および析出物としては、例えば、金属間化合物、炭化物、窒化物、酸化物、および硫化物からなる群より選択される1種または2種以上が挙げられる。なお、各相の同定は、常法に従い行うことができる。
【実施例】
【0111】
(実施例1)
表1に示した成分組成を有する鋼(残部はFeおよび不可避的不純物)を、100kg鋼塊に溶製した後、該鋼塊を1250℃で1時間加熱し、ついで、熱間圧延を行って、板厚:3.5mmの熱延鋼板とした。この熱延鋼板に、1200℃で1分間保持する熱延板焼鈍を施して熱延焼鈍鋼板とし、ついで、この熱延焼鈍鋼板の表裏面を研削してスケールを除去した。ついで、上記の熱延焼鈍鋼板に、クラスターミルによる冷間圧延を施して、板厚1.0mmの冷延鋼板とした。得られた冷延鋼板を水素25vol%-窒素75vol%の混合雰囲気中で1100℃に1分間保持して得られた冷延焼鈍鋼板を、素材鋼板とした。
【0112】
得られた素材鋼板を、表2に記載の各番手のエメリー紙で乾式研磨仕上げして、冷延焼鈍研磨鋼板とした(粗面化工程)。得られた冷延焼鈍研磨鋼板および素材鋼板の表面形状を、(株)キーエンス製の共焦点式レーザー顕微鏡VK250/260を用いて上述の方法で測定し、(株)キーエンス製のマルチファイル解析アプリケーションVK-H1XMを用いて、上述の方法で表面粗さSaを解析した。なお、測定には、150倍の対物レンズを用い、測定上下限および明るさは自動設定とし、RPD(Real Peak Detection)方式にて高さピッチ0.08μmの測定条件を用いた。なお、RPD方式とは、特定の高さピッチで測定し、各高さで得られたレーザー光の反射強度データから、真の焦点高さを演算で検出する方式である。また、解析におけるノイズ除去には、閾値を5000としたDCL補正、高さカットレベルを強としたスパイク除去補正を用いた。得られた各試験片の表面粗さSaを表2に併記した。ただし、試験No.1-18、1-25については、素材鋼板の表面粗さSaを併記した。
【0113】
次いで、冷延焼鈍研磨鋼板および素材鋼板に、表2に記載の表面粗さSaを有するスキンパスロールを用いて表2に記載の伸び率となる条件で張力をかけずにスキンパス圧延を施し、冷延焼鈍研磨スキンパス仕上鋼板を得た(平面化工程)。ただし、試験No.1-19、1-26については、スキンパス圧延を行わなかった。
【0114】
かくして得られた鋼板について、上述の測定方法および解析方法により、各種表面パラメータ(Sk、Spk、およびSmr2)を評価した。結果を表2に示す。
【0115】
また、かくして得られた鋼板を用いて、上述の方法により、(i)白色度、(ii)写像性を測定し、以下の基準により評価した。評価結果を表2に併記する。なお、白色度の評価には、コニカミノルタ製のCM-600dを用いた。
(i)白色度
◎(合格、特に優れる):60以上
〇(合格):50以上60未満
×(不合格):50未満
(ii)写像性
◎(合格、特に優れる):10%以上
〇(合格):1%以上10%未満
×(不合格):1%未満
【0116】
【0117】
【0118】
表2に示したように、発明例ではいずれも、上記(i)および(ii)の要求特性を満足していた。
【0119】
一方、比較例ではいずれも、上記(i)および(ii)の要求特性のうちの少なくとも1つを満足していなかった。
【0120】
すなわち、試験No.1-13、1-20の比較例は、スキンパス伸び率が適正範囲に満たなかったために、Skが高く、写像性が1%未満となった。
試験No.1-14、1-21の比較例は、スキンパス伸び率が適正範囲を超えたために、Smr2が高く、白色度が50未満となった。
試験No.1-15、1-22の比較例は、スキンパスロールの表面粗さSaが適正範囲を超えたために、Spkが高く写像性が1%未満となった。
試験No.1-16、1-23の比較例は、研磨後の試験片の表面粗さSaが適正範囲に満たず、かつ、スキンパス伸び率が比較的小さかったために、Spkが高く写像性が1%未満となった。
試験No.1-17、1-24の比較例は、研磨後の試験片の表面粗さSaが適正範囲に満たず、かつ、スキンパス伸び率が比較的大きかったためになかったために、Smr2が高く、白色度が50未満となった。
試験No.1-18、1-25の比較例は、粗面化処理を施さなかったため、Smr2が高く、白色度が50未満となった。
試験No.1-19、1-26の比較例は、平面化処理を施さなかったため、SkとSpkがいずれも高く、写像性が1%未満となった。
【0121】
(実施例2)
表3に示した成分組成を有する鋼(残部はFeおよび不可避的不純物)を、100kg鋼塊に溶製した後、該鋼塊を1200℃で1時間加熱し、ついで、熱間圧延を行って、板厚:3.5mmの熱延鋼板とした。この熱延鋼板に、C鋼、D鋼およびG鋼は800℃で8時間保持、E鋼およびH鋼は950℃で1分間保持、F鋼は1050℃で2分間保持する熱延板焼鈍を施して熱延焼鈍鋼板とし、ついで、この熱延焼鈍鋼板の表裏面を研削してスケールを除去した。ついで、上記の熱延焼鈍鋼板に、クラスターミルによる冷間圧延を施して、板厚1.0mmの冷延鋼板とし、この冷延鋼板を素材鋼板とした。
【0122】
得られた素材鋼板を、表4に記載の各条件で熱処理(焼鈍)した後、表4に記載の各条件で硫酸水溶液中に浸漬して酸洗した後、表面に流水をかけながら脱脂綿で擦ってスマットの多くを除去した。その後、2mass%のフッ酸と10mass%の硝酸の混合水溶液中に3秒間浸漬した後、表面に流水をかけながら脱脂綿で擦ってスマットを完全に除去した(粗面化工程)。なお、前記混合水溶液に浸漬する処理では、酸洗減量が5g/m2以下であることを確認した。
【0123】
次いで、表4に記載の表面粗さSaを有するスキンパスロールを用いて表4に記載の伸び率となる条件でスキンパス圧延を施し、冷延焼鈍酸洗スキンパス仕上鋼板を得た(平面化工程)。ただし、試験No.2-24、2-34については、スキンパス圧延を行わなかった。
【0124】
かくして得られた鋼板について、上述の方法により、各種表面パラメータ(Sk、Spk、およびSmr2)を評価した。結果を表4に併記する。
【0125】
また、かくして得られた鋼板を用いて、実施例1と同じ方法および基準により、(i)白色度、(ii)写像性を評価した。評価結果を表4に併記する。
【0126】
【0127】
【0128】
表4に示したように、発明例ではいずれも、上記(i)および(ii)の要求特性を満足していた。
【0129】
一方、比較例ではいずれも、上記(i)および(ii)の要求特性のうちの少なくとも1つを満足していなかった。
【0130】
すなわち、試験No.2-17、2-27の比較例は、冷延鋼板の焼鈍温度が適正範囲に満たなかったために、Smr2が高く、白色度が50未満となった。
試験No.2-18、2-28の比較例は、冷延鋼板の焼鈍温度が適正範囲を超えたために、Smr2が高く、白色度が50未満となった。
試験No.2-19、2-29の比較例は、冷延鋼板の焼鈍時間が適正範囲に満たなかったために、Smr2が高く、白色度が50未満となった。
試験No.2-20、2-30の比較例は、冷延焼鈍鋼板の酸洗に用いた硫酸水溶液の温度が適正範囲に満たなかったために、Smr2が高く、白色度が50未満となった。
試験No.2-21、2-31の比較例は、冷延焼鈍鋼板の酸洗に用いた硫酸水溶液の濃度が適正範囲に満たなかったために、Smr2が高く、白色度が50未満となった。
試験No.2-22、2-32の比較例は、冷延焼鈍鋼板の酸洗における浸漬時間が適正範囲に満たなかったために、Smr2が高く、白色度が50未満となった。
試験No.2-23、2-33の比較例は、スキンパスロールの表面粗さSaが適正範囲を超えたために、Spkが高く写像性が1%未満となった。
試験No.2-24、2-34の比較例は、平面化処理を施さなかったため、SkとSpkがいずれも高く、写像性が1%未満となった。
試験No.2-25、2-35の比較例は、スキンパス伸び率が適正範囲に満たなかったために、Skが高く、写像性が1%未満となった。
試験No.2-26、2-36の比較例は、スキンパス伸び率が適正範囲を超えたために、Smr2が高く、白色度が50未満となった。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明のステンレス鋼板は、エレベータの内板やシンクの天板、インテリアなどの落ち着いた色調が要求される耐食部材への適用に好適である。
【要約】
白色度が高く、かつ、写像性が高いステンレス鋼板を提供する。
JIS B 0681-2:2018に規定される、コア部のレベル差Skが1.50μm以下であり、突出山部高さSpkが0.20μm以下であり、コア部と突出谷部を分ける負荷面積率Smr2が80%以下である表面性状を有し、白色度が50以上であり、写像性が1%以上である、ステンレス鋼板。