(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】炭素材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/168 20170101AFI20220621BHJP
B01J 27/12 20060101ALI20220621BHJP
B01J 27/24 20060101ALI20220621BHJP
B01J 27/14 20060101ALI20220621BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20220621BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20220621BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20220621BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20220621BHJP
【FI】
C01B32/168
B01J27/12 M
B01J27/24 M
B01J27/14 M
H01M4/90 X
H01M4/88 K
B82Y30/00
B82Y40/00
(21)【出願番号】P 2017114132
(22)【出願日】2017-06-09
【審査請求日】2020-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2016119377
(32)【優先日】2016-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000162847
【氏名又は名称】ステラケミファ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130580
【氏名又は名称】小山 靖
(72)【発明者】
【氏名】田路 和幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 義倫
(72)【発明者】
【氏名】横山 幸司
(72)【発明者】
【氏名】平野 一孝
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 良憲
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-508677(JP,A)
【文献】特開2005-325012(JP,A)
【文献】国際公開第2013/089026(WO,A1)
【文献】特開2012-046582(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0282527(US,A1)
【文献】国際公開第2009/148111(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/168
B01J 27/12
B01J 27/24
B01J 27/14
H01M 4/90
H01M 4/88
B82Y 30/00
B82Y 40/00
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラック、単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブを構成する炭素骨格中の炭素原子の一部に、窒素原子と、ホウ素原子及び/又はリン原子とのみが導入されており
、
さらに、前記カーボンブラック、単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブの表面には、炭素-フッ素結合が存在する炭素材料。
【請求項2】
前記窒素原子が、ピリジン型、ピロール型、グラファイト型、酸化型及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項
1に記載の炭素材料。
【請求項3】
カーボンブラック、単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブを構成する炭素原子の一部に、ホウ素原子及び/又はリン原子を導入する炭素材料の製造方法であって、
前記カーボンブラック、単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブにフッ素含有ガスを含むフッ化処理ガスを接触させて、当該カーボンブラック、単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブの表面をフッ素化処理する工程と、
前記フッ素化処理後のカーボンブラック、単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブに対し、ボロン含有ガスを含むホウ化処理ガスを接触させてホウ化処理し、及び/又はリン含有ガスを含むリン化処理ガスを接触させてリン化処理する工程とを含み、
前記フッ素化処理を施す前の前記カーボンブラック、単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブとして、
炭素原子からなる炭素骨格を備え、かつ、当該炭素骨格中の炭素原子の一部が窒素原子で置換された窒素含有のカーボンブラック、単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブ、又は表面にアミノ基が結合された窒素含有のカーボンブラック、単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブを用いる炭素材料の製造方法。
【請求項4】
前記フッ素化処理する工程、並びに前記ホウ化処理及び/又はリン化処理する工程を繰り返し行う請求項
3に記載の炭素材料の製造方法。
【請求項5】
カーボンブラック、単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブを構成する炭素原子の一部に、ホウ素原子及び/又はリン原子を導入する炭素材料の製造方法であって、
前記カーボンブラック、単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブにフッ素含有ガスを含むフッ化処理ガスを接触させて、当該カーボンブラック、単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブの表面をフッ素化処理する工程と、
前記フッ素化処理後のカーボンブラック、単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブに窒素含有ガスを含む窒化処理ガスを加熱しながら接触させて窒化処理する工程と、
前記窒化処理後のカーボンブラック、単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブに対し、ボロン含有ガスを含むホウ化処理ガスを接触させてホウ化処理し、及び/又はリン含有ガスを含むリン化処理ガスを接触させてリン化処理する工程とを含む炭素材料の製造方法。
【請求項6】
前記フッ素化処理する工程、前記窒化処理する工程、並びに前記ホウ化処理及び/又はリン化処理する工程のうち、少なくとも何れか2つの工程を順次繰り返して行う請求項
5に記載の炭素材料の製造方法。
【請求項7】
前記フッ素化処理を行う前の前記カーボンブラック、単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブとして、炭素原子からなる炭素骨格を備え、かつ、当該炭素骨格中の炭素原子の一部が窒素原子で置換された窒素含有のカーボンブラック、単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブを用いる請求項
5又は
6に記載の炭素材料の製造方法。
【請求項8】
前記窒素原子が、ピリジン型、ピロール型、グラファイト型、酸化型及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項
7に記載の炭素材料の製造方法。
【請求項9】
前記フッ素化処理を行う前のカーボンブラック、単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブとして、表面にアミノ基が結合された窒素含有のカーボンブラック、単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブを用いる請求項
5又は
6に記載の炭素材料の製造方法。
【請求項10】
前記アミノ基が無置換アミノ基、一置換アミノ基及び二置換アミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項
9に記載の炭素材料の製造方法。
【請求項11】
前記フッ素化処理は、前記フッ化処理ガスとして、全体積に対し0.01vol%~100vol%のフッ素含有ガスを含むものを用いて、処理時間1秒~24時間、処理温度0℃~600℃の条件下で行うものである請求項
3~
10の何れか1項に記載の炭素材料の製造方法。
【請求項12】
前記ホウ化処理は、前記ホウ化処理ガスとして、全体積に対し0.01vol%~100vol%のボロン含有ガスを含むものを用いて、処理時間1秒~24時間、処理温度1500℃以下の条件下で行うものである請求項
3~
11の何れか1項に記載の炭素材料の製造方法。
【請求項13】
前記リン化処理は、前記リン化処理ガスとして、全体積に対し0.01vol%~100vol%の
リン含有ガスを含むものを用いて、処理時間1秒~24時間、処理温度1500℃以下の条件下で行うものである請求項
3~
12の何れか1項に記載の炭素材料の製造方法。
【請求項14】
前記窒化処理は、前記窒化処理ガスとして、全体積に対し0.01~100vol%の窒素含有ガスを含むものを用いて、処理時間1秒~24時間の条件下で行うものである請求項
5又は
6に記載の炭素材料の製造方法。
【請求項15】
前記ホウ化処理及び/又はリン化処理後のカーボンブラック、単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブの表面に、炭素-フッ素結合により存在するフッ素原子を除去するための工程を含まない請求項
3又は
4に記載の炭素材料の製造方法。
【請求項16】
前記ホウ化処理、リン化処理及び/又は窒化処理後のカーボンブラック、単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブの表面に、炭素-フッ素結合により存在するフッ素原子を除去するための工程を含まない請求項
5~
10又は
14の何れか1項に記載の炭素材料の製造方法。
【請求項17】
燃料電池用の空気極触媒であって、
請求項1
又は2に記載の炭素材料からなる空気極触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料及びその製造方法に関し、より詳細にはカーボンナノチューブ等の炭素原子からなる炭素骨格を備えた炭素材料に、ホウ素原子及び/又はリン原子が導入された炭素材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単層カーボンナノチューブ(Single-Walled Carbon Nanotubes:SWCNTs)はsp2混成した炭素原子のみからなる中空円筒状の物質であり、その高い導電性及び優れたキャリア輸送特性から様々なエネルギーデバイスや電子デバイスへの応用が期待されている。近年、このような単層カーボンナノチューブに対してホウ素原子を導入することにより、導電率や熱導電率を向上させたホウ素原子含有カーボンナノチューブが提案されている。
【0003】
カーボンナノチューブにホウ素原子を導入する方法としては、化学的気相成長法(CVD法)やアーク放電法が挙げられる。このうち前者としては、炭素含有物とホウ素含有物との混合ガスを、低圧チャンバー内に配置した触媒を有する基材に導き、CVD法により、当該混合ガスから基材上にホウ素ドープカーボンナノチューブを成長させる方法が、下記特許文献1に開示されている。
【0004】
また後者としては、例えば、少なくとも何れかの炭素源にホウ素源を含む第1及び第2の炭素源を準備し、ホウ素含有の炭素源を電気アーク放電源の負極(陰極)に接続し、第2の炭素源を電気アーク放電源の正極(陽極)に接続して、両者の間に放電電流を印加することにより、ホウ素原子を含むカーボンナノチューブを製造する方法が、下記特許文献2に開示されている。
【0005】
しかしながら、上記各特許文献に記載の製造方法は、カーボンナノチューブ製造の際に、ホウ素源を添加することでホウ素原子を含むカーボンナノチューブを製造するものである。そのため、ホウ素原子を含有するカーボンナノチューブのサイズや結晶構造を制御して製造する必要があり、種々の製造条件を制御しなければならず複雑である。また、例えば、金属型カーボンナノチューブや半導体型カーボンナノチューブの様に、既にその構造やサイズにより機能性を高めたカーボンナノチューブに対しては、その機能を維持したままでホウ素原子をドープし、新たな機能を追加することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-222494号公報
【文献】特表2010-520148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、カーボンナノチューブ等の炭素材料に、その特徴ある構造や機能を維持したままホウ素原子及び/又はリン原子を導入した炭素材料及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の窒素含有炭素材料は、前記の課題を解決する為に、炭素材料を構成する炭素原子の一部に、ホウ素原子及び/又はリン原子が導入されているものであることを特徴とする。
【0009】
前記の構成に於いて、前記炭素材料の表面には、炭素-フッ素結合が存在していてもよい。
【0010】
また、前記の構成に於いては、前記ホウ素原子及び/又はリン原子が導入される前の前記炭素材料が、炭素原子からなる炭素骨格を備え、かつ、当該炭素骨格中の炭素原子の一部が窒素原子で置換された窒素含有炭素材料であってもよい。
【0011】
さらに前記の構成に於いては、前記窒素原子が、ピリジン型、ピロール型、グラファイト型、酸化型及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0012】
また前記の構成に於いては、前記ホウ素原子及び/又はリン原子が導入される前の前記炭素材料が、その表面にアミノ基が結合された窒素含有炭素材料であってもよい。
【0013】
さらに前記の構成に於いては、前記アミノ基が無置換アミノ基、一置換アミノ基及び二置換アミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
また前記の構成に於いては、前記ホウ素原子及び/又はリン原子が導入される前の前記炭素材料が、カーボンナノコイル、グラファイト、カーボンブラック、ダイヤモンドライクカーボン、炭素繊維、グラフェン、非晶質カーボン、フラーレン、カーボンナノチューブ及びダイヤモンドからなる群より選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0015】
また前記の構成に於いて、前記窒素含有炭素材料は、カーボンナノコイル、グラファイト、カーボンブラック、ダイヤモンドライクカーボン、炭素繊維、グラフェン、非晶質カーボン、フラーレン、カーボンナノチューブ及びダイヤモンドからなる群より選ばれる少なくとも1種の炭素材料において、当該炭素材料の炭素骨格中における炭素原子の一部が前記窒素原子で置換されたものであってもよい。
【0016】
また前記の構成に於いて、前記窒素含有炭素材料は、カーボンナノコイル、グラファイト、カーボンブラック、ダイヤモンドライクカーボン、炭素繊維、グラフェン、非晶質カーボン、フラーレン、カーボンナノチューブ及びダイヤモンドからなる群より選ばれる少なくとも1種の炭素材料の表面にアミノ基が結合されたものであってもよい。
【0017】
本発明の炭素材料の製造方法は、前記の課題を解決する為に、炭素材料を構成する炭素原子の一部に、ホウ素原子及び/又はリン原子を導入する炭素材料の製造方法であって、前記炭素材料にフッ素含有ガスを含むフッ化処理ガスを接触させて、当該炭素材料の表面をフッ素化処理する工程と、前記フッ素化処理後の炭素材料に対し、ボロン含有ガスを含むホウ化処理ガスを接触させてホウ化処理し、及び/又はリン含有ガスを含むリン化処理ガスを接触させてリン化処理する工程とを含むことを特徴とする。
【0018】
前記の構成に於いては、前記フッ素化処理する工程、並びに前記ホウ化処理及び/又はリン化処理する工程を繰り返し行うことができる。
【0019】
また、本発明の他の炭素材料の製造方法は、前記の課題を解決する為に、炭素材料を構成する炭素原子の一部に、ホウ素原子及び/又はリン原子を導入する炭素材料の製造方法であって、前記炭素材料にフッ素含有ガスを含むフッ化処理ガスを接触させて、当該炭素材料の表面をフッ素化処理する工程と、前記フッ素化処理後の炭素材料に窒素含有ガスを含む窒化処理ガスを加熱しながら接触させて窒化処理する工程と、前記窒化処理後の炭素材料に対し、ボロン含有ガスを含むホウ化処理ガスを接触させてホウ化処理し、及び/又はリン含有ガスを含むリン化処理ガスを接触させてリン化処理する工程とを含むことを特徴とする。
【0020】
前記の構成に於いて、前記フッ素化処理する工程、前記窒化処理する工程、並びに前記ホウ化処理及び/又はリン化処理する工程のうち、少なくとも何れか2つの工程を順次繰り返して行うことができる。
【0021】
前記の構成に於いては、前記フッ素化処理を行う前の前記炭素材料として、炭素原子からなる炭素骨格を備え、かつ、当該炭素骨格中の炭素原子の一部が窒素原子で置換された窒素含有炭素材料を用いることができる。
【0022】
さらに、前記の構成に於いては、前記窒素原子が、ピリジン型、ピロール型、グラファイト型、酸化型及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0023】
また前記の構成に於いては、前記フッ素化処理を行う前の炭素材料として、表面にアミノ基が結合された窒素含有炭素材料を用いることができる。
【0024】
さらに前記の構成に於いては、前記アミノ基が無置換アミノ基、一置換アミノ基及び二置換アミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0025】
また前記の構成に於いては、前記フッ素化処理を行う前の前記炭素材料として、カーボンナノコイル、グラファイト、カーボンブラック、ダイヤモンドライクカーボン、炭素繊維、グラフェン、非晶質カーボン、フラーレン、カーボンナノチューブ及びダイヤモンドからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0026】
また前記の構成に於いては、前記窒素含有炭素材料として、カーボンナノコイル、グラファイト、カーボンブラック、ダイヤモンドライクカーボン、炭素繊維、グラフェン、非晶質カーボン、フラーレン、カーボンナノチューブ及びダイヤモンドからなる群より選ばれる少なくとも1種の炭素材料において、当該炭素材料の炭素骨格中における炭素原子の一部が前記窒素原子で置換されたものを用いることが好ましい。
【0027】
また前記の構成に於いては、前記窒素含有炭素材料として、カーボンナノコイル、グラファイト、カーボンブラック、ダイヤモンドライクカーボン、炭素繊維、グラフェン、非晶質カーボン、フラーレン、カーボンナノチューブ及びダイヤモンドからなる群より選ばれる少なくとも1種の炭素材料の表面にアミノ基が結合されたものを用いることが好ましい。
【0028】
また、前記の構成に於いては、前記フッ素化処理は、前記フッ化処理ガスとして、全体積に対し0.01vol%~100vol%のフッ素含有ガスを含むものを用いて、処理時間1秒~24時間、処理温度0℃~600℃の条件下で行うものであることが好ましい。
【0029】
さらに、前記の構成に於いては、前記ホウ化処理は、前記ホウ化処理ガスとして、全体積に対し0.01vol%~100vol%のボロン含有ガスを含むものを用いて、処理時間1秒~24時間、処理温度1500℃以下の条件下で行うものであることが好ましい。
【0030】
また、前記の構成に於いては、前記リン化処理は、前記リン化処理ガスとして、全体積に対し0.01vol%~100vol%のボロン含有ガスを含むものを用いて、処理時間1秒~24時間、処理温度1500℃以下の条件下で行うものであることが好ましい。
【0031】
また、前記の構成に於いては、前記窒化処理は、前記窒化処理ガスとして、全体積に対し0.01~100vol%の窒素含有ガスを含むものを用いて、処理時間1秒~24時間の条件下で行うものであることが好ましい。
【0032】
また、前記の構成に於いては、前記ホウ化処理及び/又はリン化処理後の炭素材料の表面に、炭素-フッ素結合により存在するフッ素原子を除去するための工程を含まなくてもよい。
【0033】
また、前記の構成に於いては、前記ホウ化処理、リン化処理及び/又は窒化処理後の炭素材料の表面に、炭素-フッ素結合により存在するフッ素原子を除去するための工程を含まなくてもよい。
【0034】
本発明の燃料電池用の空気極触媒は、前記の課題を解決する為に、燃料電池用の空気極触媒であって、前記炭素材料からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、炭素材料にフッ素含有ガスを含むフッ化処理ガスを接触させて、当該炭素材料の表面をフッ素化処理し、フッ素基を導入して反応足場を形成する。次いで、ボロン含有ガスを含むホウ化処理ガスを接触させてホウ化処理することにより、反応足場においてホウ素原子を導入することができる。あるいは、リン含有ガスを含むリン化処理ガスを接触させてリン化処理することにより、反応足場においてリン原子を導入することができる。即ち、本発明によれば、カーボンナノチューブ等の炭素材料の製造の際に、ホウ素源やリン源を添加することでホウ素原子又はリン原子を含む炭素材料を製造するものではないので、出発原料である炭素材料の構造や機能を維持した状態で、当該炭素材料に対しホウ素原子及び/又はリン原子を含有させることが可能になる。また、炭素材料に対するホウ素原子及び/又はリン原子の導入は気相中で行われるので、例えば、基板上に垂直配向された単層カーボンナノチューブの配向膜に対しても、当該単層カーボンナノチューブの垂直配向特性を阻害することなくホウ素原子及び/又はリン原子の導入が可能になる。これにより、単層カーボンナノチューブの電子状態を変化させ、電界放出特性やガス貯蔵性、電子移動性等に一層優れたものを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る炭素材料の製造方法を説明するための説明図である。
【
図2】前記実施の形態1において、出発原料として窒素含有炭素材料を用いた場合の炭素材料の製造方法を説明する説明図である。
【
図3】本実施例1に係るホウ素含有単層カーボンナノチューブにおける酸素還元活性を表すグラフである。
【
図4】本実施例4に係るホウ素及び窒素含有単層カーボンナノチューブにおける酸素還元活性を表すグラフである。
【
図5】本実施例6に係るリン及び窒素含有単層カーボンナノチューブにおける酸素還元活性を表すグラフである。
【
図6】比較例1に係る未処理の単層カーボンナノチューブにおける酸素還元活性を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1について、以下に説明する。
図1は、本発明の実施の形態1に係る炭素材料の製造方法を説明するための説明図である。
図2は、本実施の形態1の炭素材料の製造方法において、出発原料として窒素含有炭素材料を用いた場合の製造プロセスを表す説明図である。
【0038】
実施の形態1に係る炭素材料は、
図1及び
図2に示すように、出発原料である炭素材料の表面をフッ素化処理する工程と、当該フッ素化処理後の炭素材料をホウ化処理及び/又はリン化処理する工程とを少なくとも含む製造方法により製造することができる。
【0039】
前記出発原料である炭素材料としては、例えば、炭素原子からなる炭素骨格を備えるものが挙げられ、好ましくは炭素原子が環状に結合した環状骨格を備える炭素材料やダイヤモンド等が挙げられる。炭素原子の環状骨格を備える炭素材料としては、例えば、カーボンナノコイル、グラファイト、カーボンブラック、ダイヤモンドライクカーボン、炭素繊維、グラフェン、非晶質カーボン、フラーレン、カーボンナノチューブ等が挙げられる。さらに、前記カーボンナノチューブとしては、6角網目のチューブ(グラフェンシート)が1枚の構造である単層カーボンナノチューブ(SWNT:Single Wall Carbon Nanotube)や、多層のグラフェンシートから構成されている多層カーボンナノチューブ(MWNT:Maluti Wall Carbon Nanotube)、フラーレンチューブ、バッキーチューブ、グラファイトフィブリルが挙げられる。尚、「炭素骨格」とは、水素原子及び置換基を含まない骨組みであって、全て炭素原子からなるものを意味する。
【0040】
また、前記出発原料である炭素材料としては、例えば、炭素原子からなる炭素骨格を備え、かつ、当該炭素骨格中の炭素原子の一部が窒素原子で置換された窒素含有炭素材料や、アミノ基が表面に結合した窒素含有炭素材料を用いることもできる(
図2参照)。置換により導入される窒素原子(窒素種)の種類としては特に限定されず、例えば、ピリジン型、ピロール型、グラファイト型、酸化型又はこれらの組み合わせからなるものが挙げられる。
【0041】
前記フッ素化処理を行う工程は、炭素材料に少なくともフッ素含有ガスを含むフッ化処理ガスを接触させることにより、気相中でその表面をフッ素化処理する工程である。当該工程は、具体的には、
図1及び
図2に示すように、炭素材料の表面に炭素-フッ素結合によるフッ素基を導入するものである。従って、例えば、炭素六角網面のエッジ部分に水酸基、カルボニル基、カルボキシル基等の含酸素官能基を付与する酸化処理とは異なる。
【0042】
前記フッ化処理ガスとしては、全体積に対し好ましくは0.01~100vol%、より好ましくは0.1~80vol%、さらに好ましくは1~50vol%のフッ素含有ガスを含むものが用いられる。フッ素含有ガスの濃度を0.01vol%以上にすることにより、炭素材料表面のフッ素化が不十分となるのを防止することができる。
【0043】
前記フッ素含有ガスとはフッ素原子を含む気体を意味し、本実施の形態に於いてはフッ素原子を含むものであれば特に限定されない。そのようなフッ素含有ガスとしては、例えば、フッ化水素(HF)、フッ素(F2)、三フッ化塩素(ClF3)、四フッ化硫黄(SF4)、三フッ化ホウ素(BF3)、三フッ化窒素(NF3)、フッ化カルボニル(COF2)等が挙げられる。これらは単独で、又は二種以上を混合して用いてもよい。
【0044】
前記フッ化処理ガスには不活性ガスが含まれていてもよい。不活性ガスとしては特に限定されないが、フッ素含有ガスと反応して炭素材料のフッ素化処理に悪影響を与えるもの、炭素材料と反応して悪影響を与えるもの、及び当該悪影響を与える不純物を含むものは好ましくない。具体的には、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン等が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。また、不活性ガスの純度としては特に限定されないが、該悪影響を与える不純物については100ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、1ppm以下であることが特に好ましい。
【0045】
尚、フッ化処理ガス中には酸素原子を含むガスを含まないことが好ましい。酸素原子を含むガスを含有させることにより、炭素材料の表面に水酸基やカルボキシル基等が導入され、炭素材料に大きなダメージを与える場合があるからである。尚、酸素原子を含むガスとは、酸素ガスや硝酸ガスを意味する。
【0046】
フッ素化処理を行う際の処理温度は特に限定されないが、好ましくは0℃~600℃の範囲内であり、より好ましくは10℃~400℃、更に好ましくは25℃~350℃である。処理温度を0℃以上にすることにより、フッ素化処理を促進させることができる。その一方、処理温度を600℃以下にすることにより、形成した炭素-フッ素結合からフッ素原子の脱離を抑制し、処理効率の低減を防止することができる。また、炭素材料に熱変形が生じ、歩留まりの低下を抑制することができる。
【0047】
フッ素化処理の処理時間(反応時間)は特に限定されないが、好ましくは1秒~24時間の範囲内であり、より好ましくは1分~12時間、さらに好ましくは1分~9時間である。処理時間を1秒以上にすることにより、炭素材料表面のフッ素化が不十分となるのを防止することができる。その一方、処理時間を24時間以下にすることにより、製造時間の長期化による製造効率の低下を防止することができる。
【0048】
フッ素化処理を行う際の圧力条件としては特に限定されず、加圧下、又は減圧下で行ってもよい。経済上・安全上の観点からは、常圧で行う方が好ましい。フッ素化処理を行うための反応容器としては特に限定されず、固定床、流動床等の従来公知のものを採用することができる。
【0049】
炭素材料に対するフッ化処理ガスの接触方法としては特に限定されず、例えば、当該フッ化処理ガスのフロー下で接触させることができる。
【0050】
前記ホウ化処理を行う工程は、フッ素化処理後の炭素材料に少なくともボロン含有ガスを含むホウ化処理ガスを接触させることにより、気相中でホウ素原子を炭素材料に導入する工程である。より具体的には、フッ素基の結合により反応足場としている炭素原子とホウ化処理ガスとの反応により、炭素骨格中または表面に当該ホウ素原子を導入する工程である。
【0051】
前記ホウ化処理ガスとしては、全体積に対し好ましくは0.01~100vol%、より好ましくは0.1~80vol%、さらに好ましくは1~50vol%のボロン含有ガスを含むものが用いられる。ボロン含有ガスの濃度を0.01vol%以上にすることにより、炭素材料表面のホウ化が不十分となるのを防止することができる。
【0052】
前記ボロン含有ガスとはホウ素原子を含む気体を意味し、本実施の形態に於いてはホウ素原子を含むものであれば特に限定されない。そのようなボロン含有ガスとしては、例えば、三フッ化ホウ素(BF3)、三塩化ホウ素(BCl3)、三臭化ホウ素(BBr3)、ボラン(例えば、BH3、B2H6、B4H10等)又はそれらの誘導体等が挙げられる。これらは単独で、又は二種以上を混合して用いてもよい。
【0053】
前記ホウ化処理ガスには不活性ガスが含まれていてもよい。不活性ガスとしては特に限定されないが、ボロン含有ガスと反応して炭素材料のホウ化処理に悪影響を与えるもの、炭素材料と反応して悪影響を与えるもの、及び当該悪影響を与える不純物を含むものは好ましくない。具体的には、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン等が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。また、不活性ガスの純度としては特に限定されないが、該悪影響を与える不純物については100ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、1ppm以下であることが特に好ましい。
【0054】
尚、ホウ化処理ガス中には酸素原子を含むガスを含まないことが好ましい。酸素原子を含むガスを含有させることにより、炭素材料の表面に水酸基やカルボキシル基等が導入され、炭素材料に大きなダメージを与える場合があるからである。尚、酸素原子を含むガスとは、酸素ガスや硝酸ガスを意味する。
【0055】
ホウ化処理を行う際の処理温度は1500℃以下であり、好ましくは100℃~1500℃、より好ましくは200℃~1000℃の範囲である。処理温度を1500℃以下にすることにより、炭素材料に熱変形が生じ、歩留まりの低下を抑制することができる。
【0056】
ホウ化処理の処理時間(反応時間)は1秒~24時間の範囲内であり、好ましくは1分~12時間、より好ましくは1分~9時間である。処理時間を1秒以上にすることにより、炭素材料表面のホウ素化が不十分となるのを防止することができる。その一方、処理時間を24時間以下にすることにより、製造時間の長期化による製造効率の低下を防止することができる。
【0057】
ホウ化処理を行う際の圧力条件としては特に限定されず、加圧下、又は減圧下で行ってもよい。経済上・安全上の観点からは、常圧で行う方が好ましい。ホウ化処理を行うための反応容器としては特に限定されず、固定床、流動床等の従来公知のものを採用することができる。
【0058】
炭素材料に対するホウ化処理ガスの接触方法としては特に限定されず、例えば、当該ホウ化処理ガスのフロー下で接触させることができる。
【0059】
前記リン化処理を行う工程は、フッ素化処理後の炭素材料に少なくともリン含有ガスを含むリン化処理ガスを接触させることにより、気相中でリン原子を炭素材料に導入する工程である。前記リン化処理を行う工程は、フッ素化処理後の炭素材料に少なくともリン含有ガスを含むリン化処理ガスを接触させることにより、フッ素基の導入により形成された反応足場に、気相中でリン原子を導入する工程である。
【0060】
前記リン化処理ガスとしては、全体積に対し好ましくは0.01~100vol%、より好ましくは0.1~80vol%、さらに好ましくは1~50vol%のリン含有ガスを含むものが用いられる。リン含有ガスの濃度を0.01vol%以上にすることにより、炭素材料表面のリン化が不十分となるのを防止することができる。
【0061】
前記リン含有ガスとはリン原子を含む気体を意味し、本実施の形態に於いてはリン原子を含むものであれば特に限定されない。そのようなリン含有ガスとしては、例えば、三フッ化リン(PF3)、五フッ化リン(PF5)、三塩化リン(PCl3)、三臭化リン(PBr3)、ホスフィン等が挙げられる。これらは単独で、又は二種以上を混合して用いてもよい。
【0062】
前記リン化処理ガスには、前記ホウ化処理ガスの場合と同様、不活性ガスが含まれていてもよい。不活性ガスの種類についても、リン含有ガスと反応して炭素材料のリン化処理に悪影響を与えるもの、炭素材料と反応して悪影響を与えるもの、及び当該悪影響を与える不純物を含むものは好ましくない。不活性ガスの具体例としては、前記ホウ化処理ガスの場合と同様である。また、不活性ガスの純度についても、前記ホウ化処理ガスの場合と同様である。
【0063】
尚、リン化処理ガス中には酸素原子を含むガスを含まないことが好ましい。酸素原子を含むガスを含有させることにより、炭素材料の表面に水酸基やカルボキシル基等が導入され、炭素材料に大きなダメージを与える場合があるからである。尚、酸素原子を含むガスとは、酸素ガスや硝酸ガスを意味する。
【0064】
リン化処理を行う際の処理温度は1500℃以下であり、好ましくは100℃~1500℃、より好ましくは200℃~1200℃の範囲である。処理温度を1500℃以下にすることにより、炭素材料に熱変形が生じ、歩留まりの低下を抑制することができる。
【0065】
リン化処理の処理時間(反応時間)は1秒~24時間の範囲内であり、好ましくは1分~12時間、より好ましくは1分~9時間である。処理時間を1秒以上にすることにより、炭素材料表面のリン化が不十分となるのを防止することができる。その一方、処理時間を24時間以下にすることにより、製造時間の長期化による製造効率の低下を防止することができる。
【0066】
リン化処理を行う際の圧力条件としては特に限定されず、加圧下、又は減圧下で行ってもよい。経済上・安全上の観点からは、常圧で行う方が好ましい。リン化処理を行うための反応容器としては特に限定されず、固定床、流動床等の従来公知のものを採用することができる。
【0067】
炭素材料に対するリン化処理ガスの接触方法としては特に限定されず、例えば、当該リン化処理ガスのフロー下で接触させることができる。
【0068】
尚、フッ素化処理後の炭素材料に対し、ホウ素原子及びリン原子の双方を導入したい場合には、ホウ化処理及びリン化処理の双方を行えばよい。このとき、ホウ化処理とリン化処理の処理順序は特に限定されず任意である。
【0069】
ここで、ホウ化処理及び/又はリン化処理後の炭素材料の表面には、炭素-フッ素結合によりフッ素原子が存在している場合がある。そのため、処理後の炭素材料の分散媒への分散性を維持することを目的とする場合には、前記フッ素原子を除去する工程を含まないことが好ましい。前記フッ素原子が存在している場合、炭素材料には極性が付与されており、当該炭素材料同士が分散媒中で凝集・沈殿するのを防止することができる。すなわち、本実施の形態の炭素材料であると、分散媒中へ均一に分散させることができ、結果、高い分散安定性を持った炭素材料の分散液を得ることができる。尚、炭素材料の分散媒への分散性を維持しない場合には、従来公知の方法により前記フッ素原子を除去する工程を行ってもよい。
【0070】
前記分散媒としては特に限定されないが、本実施の形態に於いては極性溶媒が好ましい。前記極性溶媒としては特に限定されず、例えば、水や有機溶媒、又はこれらの混合溶液が挙げられる。前記有機溶媒としては特に限定されず、例えば、2-プロパノール、エタノール等のアルコール、DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)、THF(テトラヒドロフラン)、シクロヘキサン、イオン液体等が挙げられる。これらの有機溶媒のうち、本実施の形態に於いてはアルコールが炭素材料の分散性を高くすることができる。また、本実施の形態においては、各種無機材料、各種金属材料、各種カーボン材料などの分散媒にも添加することができ、この様な場合であっても使用時の取扱い性に優れ、分散性も良好である。本実施の形態においては、前記分散媒を単独で、あるいはこれらを混合して用いてもよい。
【0071】
また、本実施の形態に係る炭素材料の分散液には、分散剤としての界面活性剤は添加されないことが好ましい。これにより、炭素材料と分散媒のみからなる分散液を提供できる。更に、界面活性剤中に混入しているアルカリ金属や有機物等が分散液中に含まれるのを防止することができる。
【0072】
尚、本実施の形態1の炭素材料の製造方法は、前記ホウ化処理及び/又はリン化処理を終えた後に、さらに前記フッ素化処理、並びにホウ化処理及び/又はリン化処理を繰り返し行ってもよい。これにより、炭素材料に一層多くのフッ素基を導入して反応足場を形成することができ、当該反応足場により多くのホウ素原子及び/又はリン原子を導入することが可能になる。フッ素化処理、並びにホウ化処理及び/又はリン化処理の繰り返し回数は特に限定されない。
【0073】
以上より、実施の形態1に係る炭素材料の製造方法であると、炭素骨格中の炭素原子の一部にホウ素原子及び/又はリン原子が導入された炭素材料を得ることができる。そして、当該製造方法により得られた炭素材料は、炭素骨格の構造欠陥を生じさせることなく、ホウ素原子及び/又はリン原子が当該炭素骨格中または表面に導入されたものである。また、本実施の形態の炭素材料は、例えば、ホウ素原子及び/又はリン原子が導入された単層カーボンナノチューブ等の場合には、その表面の荷電状態やキャリア輸送特性を適切に制御可能となり、電気二重層キャパシタの分極性電極や有機薄膜型太陽光発電セルの活性層、燃料電池の空気極等への応用が可能となる。尚、燃料電池の空気極への応用としては、具体的には、空気極の触媒として用いることが考えられる。
【0074】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係る炭素材料の製造方法について、以下に説明する。
実施の形態2に係る炭素材料の製造方法は、フッ素化処理の工程の直後であって、ホウ化処理及び/又はリン化処理の前に、フッ素化処理後の炭素材料に対し窒化処理を行う点が異なる。
【0075】
前記窒化処理を行う工程は、フッ素化処理後の炭素材料に少なくとも窒素含有ガスを含む窒化処理ガスを接触させることにより、気相中で窒素原子を当該炭素材料に導入する工程である。当該工程は、処理温度に応じて、炭素材料に対する窒素原子の導入形態を変化させることができる(詳細については後述する)。
【0076】
前記窒化処理ガスとしては窒素含有ガスを含むものであれば特に限定されないが、当該窒素含有ガスが、窒化処理ガスの全体積に対し好ましくは0.01~100vol%、より好ましくは0.1~80vol%、さらに好ましくは1~50vol%含むものが用いられる。窒素含有ガスの濃度を0.01vol%以上にすることにより、炭素材料の窒化が不十分となるのを防止することができる。
【0077】
前記窒素含有ガスとは窒素原子を含む気体を意味し、本実施の形態に於いては窒素原子を含むものであれば特に限定されない。そのような窒素含有ガスとしては、例えば、アンモニア(NH3)、ジアゼン(N2H2)、ヒドラジン(N2H4)、塩化アンモニウム(NH4Cl)、N3H8、アミン化合物等が挙げられる。これらは単独で、又は二種以上を混合して用いてもよい。また、これらの化合物が常温において液体や固体である場合には、後述の処理温度の範囲内で加熱して気化することにより窒化処理が行われる。
【0078】
尚、前記アミン化合物としては特に限定されず、例えば、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン等が挙げられる。さらに、第1級アミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン等が挙げられる。第2級アミンとしては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン等が挙げられる。第3級アミンとしては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン等が挙げられる。
【0079】
窒化処理ガスには不活性ガスが含まれていてもよい。不活性ガスとしては特に限定されないが、前記窒素含有ガスと反応して炭素材料の窒化処理に悪影響を与えるもの、炭素材料と反応して悪影響を与えるもの、及び当該悪影響を与える不純物を含むものは好ましくない。具体的には、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン等が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。また、不活性ガスの純度としては特に限定されないが、該悪影響を与える不純物については100ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、1ppm以下であることが特に好ましい。
【0080】
ここで、炭素材料に窒素原子を導入する際の導入形態は、窒化処理工程での処理温度により制御することができる。より詳細には、窒化処理の処理温度を、好ましくは25℃以上、300℃未満、より好ましくは50℃~250℃、さらに好ましくは100℃~200℃の範囲で行うことにより、フッ素化処理後の炭素材料表面にアミノ基を導入すると共に、前記炭素骨格中の炭素原子の一部を窒素原子に置換することができる。この場合、処理温度を25℃以上にすることにより、炭素材料表面にアミノ基の導入が不十分となることを防止することができる。また、処理温度を好ましくは300℃以上、1500℃以下、より好ましくは400℃~1500℃、さらに好ましくは400℃~1200℃の範囲で行うことにより、炭素材料表面にアミノ基を導入することなく、前記炭素骨格中の炭素原子のみを一部窒素原子に置換することができる。この場合、処理温度を1500℃以下にすることにより、炭素材料に熱変形が生じ、歩留まりの低下を抑制することができる。
【0081】
ここで、炭素材料表面に導入される前記アミノ基としては、無置換アミノ基(NH2基)、一置換アミノ基及び二置換アミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。一置換アミノ基としては炭素数1~10のモノアルキルアミノ基、より具体的には、メチルアミノ基(NHCH3基)、エチルアミノ基(NHC2H5基)等が好ましい。また、二置換アミノ基としては炭素数1~10のジアルキルアミノ基、より具体的には、ジメチルアミノ基(N(CH3)2基)、ジエチルアミノ基(N(C2H5)2基)等が好ましい。
【0082】
炭素骨格中の炭素原子の一部を置換することにより導入された窒素原子(窒素種)は、主としてピリジン型、又はピリジン型とピロール型とからなる。より詳細には、例えば、窒化処理の処理温度が25℃より大きく、1500℃以下の場合では、主としてピリジン型及びピロール型である。また、前記窒素原子は、炭素骨格中に、その構造欠陥が発生するのを抑制しつつ導入されている。尚、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により、炭素材料の炭素骨格中に窒素原子を導入した場合には、グラファイト型とピリジン型からなる。
【0083】
窒化処理の処理時間(反応時間)は特に限定されないが、好ましくは1秒~24時間の範囲内であり、より好ましくは2分~6時間、さらに好ましくは30分~4時間である。処理時間を1秒以上にすることにより、炭素材料への窒素原子の導入が不十分となるのを防止することができる。その一方、処理時間を24時間以下にすることにより、製造時間の長期化による製造効率の低下を防止することができる。
【0084】
ここで、窒化処理は、フッ素化処理後の炭素材料を反応容器から取り出すことなく、少なくとも窒素含有ガスを含む窒化処理ガスを当該反応容器に導入して連続的に行ってもよい。これにより、煩雑な作業を省略することができ、処理時間の短縮が図れる。さらに、フッ素化処理後の炭素材料が大気中の水分や酸素の影響を受けずに窒素原子を当該炭素材料に導入することができる。
【0085】
窒化処理を行う際の圧力条件としては特に限定されず、加圧下、又は減圧下で行ってもよい。経済上、安全上の観点からは、常圧で行う方が好ましい。窒化処理を行うための反応容器としては特に限定されず、固定床、流動床等の従来公知のものを採用することができる。
【0086】
炭素材料に対する窒化処理ガスの接触方法としては特に限定されず、例えば、当該窒化処理ガスのフロー下で接触させることができる。
【0087】
ここで、窒化処理後の炭素材料の表面には、炭素-フッ素結合によりフッ素原子が存在している場合がある。そのため、実施の形態1の場合と同様、炭素材料の分散媒への分散性を維持することを目的とする場合には、前記フッ素原子を除去する工程を含まないことが好ましい。但し、炭素材料の分散媒への分散性を維持しない場合には、従来公知の方法により前記フッ素原子を除去する工程を行ってもよい。前記分散媒としては特に限定されず、実施の形態1で述べたのと同様のものを用いることができる。
【0088】
尚、本実施の形態2の炭素材料の製造方法は、前記ホウ化処理及び/又はリン化処理を終えた後に、さらに前記フッ素化処理、窒化処理並びにホウ化処理及び/又はリン化処理のうち、少なくとも任意の2つの処理を順次繰り返し行ってもよい。これにより、例えば、フッ素化処理及び窒化処理を繰り返し行った場合には、ホウ化処理及び/又はリン化処理後の炭素材料に対し、さらに多くの窒素原子を導入することが可能になる。また、例えば、フッ素化処理、並びにホウ化処理及び/又はリン化処理を繰り返し行った場合には、さらに多くのホウ素原子及び/又はリン原子を、炭素材料に導入することが可能になる。フッ素化処理、窒化処理並びにホウ化処理及び/又はリン化処理のうち、任意の少なくとも2つの処理の繰り返し回数及び順序は、特に限定されない。
【0089】
以上より、本実施の形態の製造方法であると、炭素骨格中の炭素原子の一部に窒素原子、並びにホウ素原子及び/又はリン原子が導入され、あるいは炭素骨格中の炭素原子の一部が窒素原子に置換され、並びに炭素骨格中または表面にホウ素原子及び/又はリン原子が導入されると共に、当該炭素材料の表面にアミノ基が導入された炭素材料を得ることができる。そして、当該製造方法により得られた炭素材料は、炭素骨格の構造欠陥を生じさせることなく、窒素原子、並びにホウ素原子及び/又はリン原子が当該炭素骨格中または表面に導入されたものである。また、本実施の形態2の炭素材料は、例えば、窒素原子、並びにホウ素原子及び/又はリン原子が導入された単層カーボンナノチューブ等の場合には、その表面の荷電状態やキャリア輸送特性を適切に制御可能となり、電気二重層キャパシタの分極性電極や有機薄膜型太陽光発電セルの活性層、燃料電池の空気極等への応用が可能となる。尚、燃料電池の空気極への応用としては、具体的には、空気極の触媒として用いることが考えられる。
【実施例】
【0090】
(実施例1)
PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)容器(容量5mL)に単層カーボンナノチューブ(10mg)を導入し、本容器を電解研磨されたSUS316L製チャンバー(容量30mL)に設置した。更に、チャンバー内を窒素に真空置換し、窒素気流(20mL/min)下、4℃/minで250℃に昇温して、2時間の恒温処理を行った。
【0091】
次に、窒素でフッ素ガスを20vol%に希釈したフッ化処理ガスに真空置換し、流量25mL/minで前記チャンバー内に流した。更に、チャンバーを4℃/minで250℃に昇温して、4時間フッ素化処理をした。その後、チャンバー内を窒素に真空置換し、窒素気流(20mL/min)の下、室温まで放冷し、フッ素化処理後の単層カーボンナノチューブを取り出した。
【0092】
次に、フッ素化処理後の単層カーボンナノチューブを電気管状炉内に入れ、処理温度を600℃にした。その後、窒素でBF3ガスを1.0vol%に希釈したホウ化処理ガスを流し、ホウ化処理を行った。処理時間は1時間とした。その後、窒素に真空置換し、窒素気流(250mL/min)の下、室温まで放冷して、ホウ素原子が導入された単層カーボンナノチューブを製造した。
【0093】
(実施例2)
本実施例においては、先ず実施例1と同様にして単層カーボンナノチューブのフッ素化処理を行った。次に、フッ素化処理後の単層カーボンナノチューブを電気管状炉内に入れ、処理温度を100℃にした。その後、窒素でNH3ガスを1.0vol%に希釈した窒化処理ガスを流し、窒化処理を行った。処理時間を1時間とした。その後、窒素に真空置換し、窒素気流(250mL/min)の下、室温まで放冷して、アミノ基が表面に導入されると共に、炭素骨格中の炭素原子の一部が窒素原子に置換された窒素含有単層カーボンナノチューブ(窒素含有炭素材料)を製造した。
【0094】
さらに、窒化処理後のアミノ基が表面に導入された窒素含有単層カーボンナノチューブを電気管状炉内に入れ、処理温度を600℃にした。その後、窒素でBF3ガスを1.0vol%に希釈したホウ化処理ガスを流し、ホウ化処理を行った。処理時間は1時間とした。その後、窒素に真空置換し、窒素気流(250mL/min)の下、室温まで放冷して、ホウ素原子が導入された単層カーボンナノチューブを製造した。
【0095】
(実施例3)
本実施例においては、出発原料として前記実施例1の単層カーボンナノチューブに代えて、炭素骨格中の炭素原子の一部が窒素原子に置換された窒素含有単層カーボンナノチューブを用いた。それ以外は、前記実施例1と同様にして、ホウ素原子が導入された単層カーボンナノチューブを製造した。
【0096】
(実施例4)
本実施例においては、出発原料として前記実施例2の単層カーボンナノチューブに代えて、炭素骨格中の炭素原子の一部が窒素原子に置換された窒素含有単層カーボンナノチューブを用いた。それ以外は、前記実施例2と同様にして、ホウ素原子が導入された単層カーボンナノチューブを製造した。
【0097】
(実施例5)
本実施例においては、出発原料として前記実施例1の単層カーボンナノチューブに代えて、カーボンブラックを用いた。それ以外は、前記実施例1と同様にして、ホウ素原子が導入されたカーボンブラックを製造した。
【0098】
(実施例6)
本実施例においては、先ず実施例2と同様にして単層カーボンナノチューブのフッ素化処理及び窒化処理を順次行った。次に、窒化処理後の窒素含有単層カーボンナノチューブを電気管状炉内に入れた。その後、窒素でPF5ガスを1.0vol%に希釈したリン化処理ガスを流し、リン化処理を行った。リン化処理の処理温度600℃、処理時間は1時間とした。その後、窒素に真空置換し、窒素気流(250mL/min)の下、室温まで放冷して、リン原子が導入された単層カーボンナノチューブを製造した。
【0099】
(比較例1)
本比較例においては、実施例1の出発原料である単層カーボンナノチューブ、すなわち、フッ素化処理、窒化処理、ホウ化処理及びリン化処理の何れも行っていない単層カーボンナノチューブを用いた。
【0100】
(比較例2)
本比較例においては、フッ素化処理を行わずにホウ化処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、本比較例について単層カーボンナノチューブを製造した。
【0101】
(比較例3)
本比較例においては、フッ素化処理及び窒化処理を行わずにリン化処理を行ったこと以外は、実施例6と同様にして、本比較例について単層カーボンナノチューブを製造した。
【0102】
(元素分析)
実施例1~4及び6で得られたそれぞれの単層カーボンナノチューブ、実施例5で得られたカーボンブラック、並びに比較例1の未処理の単層カーボンナノチューブについて、X線光電子分光法(株式会社島津製作所KRATOS AXIS-HSi)を用いて元素分析を行った。また、各実施例の単層カーボンナノチューブ及びカーボンブラックにおけるホウ素原子、リン原子及び窒素原子の原子組成百分率についても算出した。また、同様の元素分析を比較例1~3の単層カーボンナノチューブに対しても行った。結果を下記表1及び表2に示す。
【0103】
【0104】
【0105】
(酸素還元反応の触媒活性)
実施例1、4及び6に係る単層カーボンナノチューブ並びに比較例1の未処理の単層カーボンナノチューブについて、それぞれの酸素還元反応(oxygen reduction reaction:ORR)の触媒活性を評価した。具体的には、燃料電池実用化推進協議会(FCCJ)プロトコルに従い、実施例1、4又は6でそれぞれ作製した単層カーボンナノチューブの試料(20mg)、5%Nafion水溶液100μl、混合溶媒25ml(水:IPA(Isopropyl Alcohol)=6ml:19ml)となる様混合し、30分以上超音波分散した懸濁液を調製した。この懸濁液8μlをグラッシーカーボン電極(直径:4mm)上に滴下し、室温下で十分に乾燥させたものを作用極として用いた3電極式の評価セルについて、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行った。CV測定は、先ず、評価セルを温度25℃に制御し、窒素ガスをバブリングした状態で行った。次に、同じ温度下で、酸素ガスをバブリングした状態でも行った。尚、同様の評価を比較例1の未処理の単層カーボンナノチューブに対しても行った。結果を
図3~
図6に示す。
【0106】
尚、CV測定の測定条件は、下記の通りとした。
・電解液:0.1M HClO4水溶液
・掃引速度:50mV/sec
・電位掃引範囲(電位窓):0.05~1.2V(vs.RHE)
・参照極:RHE
・対極:白金線
【0107】
(結果)
表1から分かる通り、実施例1~4の単層カーボンナノチューブ、並びに実施例5のカーボンブラックでは、各々ホウ素原子が導入されていることが確認された。但し、実施例2においては、単層カーボンナノチューブに対し窒化処理を行ったにも関わらず窒素原子が確認されなかった。これは、窒化処理後、炭素材料の表面に結合していたアミノ基が、ホウ化処理の過程で除去されたためと考えられる。また、実施例6の単層カーボンナノチューブにおいては、リン原子のみが導入されていることが確認され、窒素原子の存在は確認されなかった。この点についても、実施例2の場合と同様、リン化処理の過程で、炭素材料の表面に結合していたアミノ基が除去されたためと考えられる。
【0108】
また、ORR触媒活性については、
図3~
図5から分かる通り、窒素ガスのバブリングをしている場合と比較して、酸素ガスをバブリングしている場合の方が、酸素還元に伴う電流が流れていることが確認された。また、
図6から分かる通り、フッ素化処理等を行っていない未処理の単層カーボンナノチューブにおいては、窒素ガスバブリング時と酸素ガスバブリング時における差が見られず、酸素還元に伴う電流が流れていないことが確認された。これにより、ホウ素原子又はリン原子の導入が単層カーボンナノチューブの電子状態を変化させ、ORR触媒活性を向上させたものと推察される。本実施例に係る単層カーボンナノチューブやカーボンブラックを、例えば、燃料電池の空気極の触媒材料に用いた場合、当該空気極において酸素還元反応が大幅に促進させることが可能になり、電池性能の向上が図れる。