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特許7092305芳香族ニトリル化合物の製造方法、及び炭酸エステルの製造方法
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  • 特許-芳香族ニトリル化合物の製造方法、及び炭酸エステルの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】芳香族ニトリル化合物の製造方法、及び炭酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 213/84 20060101AFI20220621BHJP
   C07D 241/24 20060101ALI20220621BHJP
   C07C 69/96 20060101ALI20220621BHJP
   C07C 68/04 20060101ALI20220621BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220621BHJP
【FI】
C07D213/84 Z
C07D241/24
C07C69/96 Z
C07C68/04 A
C07B61/00 300
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018524098
(86)(22)【出願日】2017-06-20
(86)【国際出願番号】 JP2017022602
(87)【国際公開番号】W WO2017221908
(87)【国際公開日】2017-12-28
【審査請求日】2020-04-22
(31)【優先権主張番号】P 2016123945
(32)【優先日】2016-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100156476
【弁理士】
【氏名又は名称】潮 太朗
(72)【発明者】
【氏名】新開 洋介
(72)【発明者】
【氏名】劉 紅玉
(72)【発明者】
【氏名】原田 英文
(72)【発明者】
【氏名】伊佐早 禎則
(72)【発明者】
【氏名】冨重 圭一
(72)【発明者】
【氏名】中川 善直
(72)【発明者】
【氏名】田村 正純
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 公仁
(72)【発明者】
【氏名】並木 泰樹
【審査官】伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102174002(CN,A)
【文献】国際公開第2015/099053(WO,A1)
【文献】FENGCHAO, J. et al.,Jingxi Huagong Zhongjianti,2006年,Vol. 36, No. 6,pp. 22-25
【文献】BING, Y. et al.,Huaxue Yanjiu Yu Yingyong,2001年,Vol. 13, No. 2,pp. 213-215
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C07C
C07B
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族アミド化合物を脱水する脱水反応を含む芳香族ニトリル化合物の製造方法であって、前記脱水反応においてジフェニルエーテルを用い、
前記芳香族アミド化合物が、ピリジンカルボアミドまたはピラジンアミドであり、前記芳香族ニトリル化合物が、シアノピリジンまたはシアノピラジンであり
前記ジフェニルエーテルの沸騰状態で前記脱水反応を行い、
前記ジフェニルエーテルの沸点が前記芳香族ニトリル化合物の沸点および水の沸点より高く、且つ前記芳香族アミド化合物の沸点より低く、
前記脱水反応の反応液温度が170℃~259℃である、
芳香族ニトリル化合物の製造方法。
【請求項2】
減圧下の条件で前記脱水反応を行う請求項1に記載の芳香族ニトリル化合物の製造方法。
【請求項3】
前記脱水反応の反応液温度が170℃以上、230℃未満である、請求項1又は2に記載の芳香族ニトリル化合物の製造方法。
【請求項4】
前記脱水反応において、セシウムを含む触媒を使用する、請求項1~のいずれか1項に記載の芳香族ニトリル化合物の製造方法。
【請求項5】
芳香族ニトリル化合物の存在下で、アルコールと二酸化炭素とを反応させて炭酸エステルと水を生成する炭酸エステル生成反応と共に、該生成した水を該芳香族ニトリル化合物に水和させて芳香族アミド化合物を生成させる水和反応とを含む第1の反応工程と、
前記第1の反応工程の反応系から前記芳香族アミド化合物を分離した後、当該芳香族アミド化合物を、ジフェニルエーテルの存在下で前記ジフェニルエーテルの沸騰状態にて脱水させる脱水反応により、芳香族ニトリル化合物に再生する第2の反応工程とを有し、
前記第2の反応工程で再生した前記芳香族ニトリル化合物の少なくとも一部を、前記第1の反応工程において使用し、
前記芳香族アミド化合物が、ピリジンカルボアミドまたはピラジンアミドであり、前記芳香族ニトリル化合物が、シアノピリジンまたはシアノピラジンであり、
前記ジフェニルエーテルの沸点が前記芳香族ニトリル化合物の沸点および水の沸点より高く、且つ前記芳香族アミド化合物の沸点より低く、
前記脱水反応において、前記芳香族アミド化合物を反応液温度170℃以上~259℃で脱水させる炭酸エステルの製造方法。
【請求項6】
前記脱水反応において、前記芳香族アミド化合物を反応液温度170℃以上、230℃未満で脱水させる、請求項に記載の炭酸エステルの製造方法。
【請求項7】
前記脱水反応において、セシウムを含む触媒を使用する、請求項5又は6に記載の炭酸エステルの製造方法。
【請求項8】
前記炭酸エステル生成反応において、酸化セリウムを含む触媒を使用する、請求項のいずれか1項に記載の炭酸エステルの製造方法。
【請求項9】
前記アルコールが、炭素数1~6のアルコールを含むことを特徴とする請求項のいずれか1項に記載の炭酸エステルの製造方法。
【請求項10】
前記第1の反応工程において、生成する前記芳香族アミド化合物より沸点の高い溶媒を使用する、請求項のいずれか1項に記載の炭酸エステルの製造方法。
【請求項11】
前記溶媒が、ジアルキルベンゼン、アルキルナフタレン、およびジフェニルベンゼンの少なくとも一つを含んでなることを特徴とする、請求項10に記載の炭酸エステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアノピリジン、及びシアノピラジンなどの芳香族ニトリル化合物の製造方法、及び炭酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸エステルとは、炭酸CO(OH)の2原子の水素のうち1原子、あるいは2原子をアルキル基またはアリール基で置換した化合物の総称であり、RO-C(=O)-OR’(R、R’は飽和炭化水素基や不飽和炭化水素基を表す)の構造を持つものである。
【0003】
炭酸エステルは、オクタン価向上のためのガソリン添加剤、排ガス中のパーティクルを減少させるためのディーゼル燃料添加剤等の添加剤として使われるほか、ポリカーボネートやウレタン、医薬・農薬等の樹脂・有機化合物を合成する際のアルキル化剤、カルボニル化剤、溶剤等、あるいはリチウムイオン電池の電解液、潤滑油原料、ボイラー配管の防錆用の脱酸素剤の原料として使われるなど、非常に有用な化合物である。
【0004】
従来の炭酸エステルの製造方法としては、ホスゲンをカルボニルソースとしてアルコールと直接反応させる方法が主流である。この方法は、極めて有害で腐食性の高いホスゲンを用いるため、その輸送や貯蔵等の取扱に細心の注意が必要であり、製造設備の維持管理及び安全性の確保のために多大なコストがかかっていた。また、本方法で製造する場合、原料や触媒中に塩素などのハロゲンが含まれており、得られる炭酸エステル中には、簡単な精製工程では取り除くことのできない微量のハロゲンが含まれる。ガソリン添加剤、軽油添加剤、電子材料向け用途にあっては、腐食の原因となる懸念も存在するため、炭酸エステル中に微量に存在するハロゲンを極微量にするための徹底的な精製工程が必須となる。さらに、最近では、人体に極めて有害なホスゲンを利用することから、本製造方法での製造設備の新設が許可されないなど行政指導が厳しくなされてきており、ホスゲンを用いない新たな炭酸エステルの製造方法が強く望まれている。
【0005】
そこで、アルコールと二酸化炭素から、不均一系触媒を用いて炭酸エステルを直接合成する方法も知られている。この方法において、炭酸エステルの生成量向上のため、水和剤として2-シアノピリジンまたはベンゾニトリルを用いることにより、炭酸エステルの生成量、生成速度を大幅に改善し、常圧に近い圧力下で反応を進行しやすくさせ、且つ、反応速度を速めることが検討されていた(特許文献1、2参照)。しかし、副生するベンズアミド等の処理方法や利用方法に関しても、問題があった。
例えば、ベンゾニトリルと水との反応により生成するベンズアミドの用途は一部の医農薬中間体に限定される。そのため、ベンゾニトリルを水和剤として使用する炭酸エステルの製造においては、副生するベンズアミドをベンゾニトリルに再生して再利用することが望まれ、この再生反応を選択率高く(副生成物が生じると水和剤として再利用が難しくなると考えられるため)、且つ収率高く(収率が低いとベンズアミドの残留量が多くなり、ベンゾニトリルとの分離処理量が多くなり負荷が高くなるため)、行うことが課題となっていた。
【0006】
以上のように、ベンズアミド等からベンゾニトリル等への再生についての問題点があったことに鑑み、強力な試薬を使用せず、且つ、副生物の発生も抑えつつ上記再生を行うための方法が知られている(特許文献3)。
しかしながら、この方法では、アミド化合物の脱水によるニトリルの生成に400時間を要し、24時間で反応が終了する炭酸エステル合成反応とバランス出来ない、すなわち併用出来ないこと、また触媒を固液分離するため、抽出や濾過などが必要で、工程が長く煩雑であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
特許文献1:特開2010-77113号公報
特許文献2:特開2012-162523号公報
特許文献3:WO2015/099053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来技術の問題点に鑑み、本発明の目的は、芳香族アミド化合物、例えば、ピリジンカルボアミドまたはピラジンアミドから、対応する芳香族ニトリル化合物であるシアノピリジンまたはシアノピラジンへの再生において、副生成物の発生を抑えて、目的化合物を高い収率で選択的に得られる脱水反応を可能にする方法を提供することである。また、当該脱水反応の工程数を削減し、かつ常圧に近い圧力下においても、反応速度を大幅に改善して反応時間を短縮できる芳香族ニトリル化合物の製造方法を提供することにある。
本発明のさらなる目的は、上記芳香族ニトリル化合物の製造方法を炭酸エステルの製造方法に適用して、効率的な炭酸エステルの製造方法を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決すべく、本発明者は、芳香族アミド化合物を脱水することによる、シアノピリジン及びシアノピラジンなどの芳香族ニトリル化合物の製造方法について検討した。すなわち、本発明者は、芳香族アミド化合物を脱水する反応条件を検討した結果、生成する芳香族ニトリル化合物より沸点が高く、かつ原料の芳香族アミド化合物より沸点が低いジフェニルエーテルを使用し、反応温度を調整することで、反応速度を大幅に改善して反応時間を短縮できると同時に、副生成物の発生を抑えて、目的化合物を高い収率で選択的に得られ、且つ芳香族ニトリル化合物の回収が容易な脱水反応のプロセスを可能にした。更に、本発明者の考案したこの脱水反応のプロセスでは触媒を固液分離する必要がないことから、当該脱水反応の工程数を削減できることを見出した。なお、上記脱水反応は、ジフェニルエーテルを沸騰させる状態にて進行させることが好ましい。
【0010】
このことにより、芳香族アミド化合物から芳香族ニトリル化合物への脱水反応による再生速度と、芳香族ニトリル化合物を用いたCOとアルコールからの炭酸エステル合成速度とをバランスさせること、すなわち、脱水反応と炭酸エステル合成反応とを一連の商業プロセスとして成立させることが可能となった。このことから、さらに、本発明者は、上記の知見を炭酸エステルの製造方法に適用することについても検討した。すなわち、本発明者らは、アルコールと二酸化炭素から炭酸エステルを直接合成する炭酸エステルの製造方法において、芳香族アミド化合物より沸点の高い溶媒を用いることで、触媒を固液分離することなく、当該反応の工程数を削減して簡素化できることを見出し、ジフェニルエーテルを使用した芳香族アミド化合物から芳香族ニトリル化合物への脱水反応と組み合わせることにより、優れた効果が得られることを確認した。本発明の要旨は、下記の通りである。
【0011】
(1)芳香族アミド化合物を脱水する脱水反応を含む芳香族ニトリル化合物の製造方法であって、前記脱水反応においてジフェニルエーテルを用いる芳香族ニトリル化合物の製造方法。
(2)前記脱水反応において、ジフェニルエーテルを用い、且つ前記ジフェニルエーテルの沸騰状態で前記脱水反応を行う上記(1)に記載の芳香族ニトリル化合物の製造方法。
(3)前記ジフェニルエーテルの沸点が前記芳香族ニトリル化合物の沸点および水の沸点より高く、且つ前記芳香族アミド化合物の沸点より低い、上記(2)に記載の芳香族ニトリル化合物の製造方法。
(4)減圧下の条件で前記脱水反応を行う上記(1)~(3)のいずれかに記載の芳香族ニトリル化合物の製造方法。
(5)前記脱水反応の反応液温度が170℃以上、230℃未満である、上記(1)~(4)のいずれかに記載の芳香族ニトリル化合物の製造方法。
(6)前記芳香族アミド化合物が、ピリジンカルボアミドまたはピラジンアミドを含み、前記芳香族ニトリル化合物が、シアノピリジンまたはシアノピラジンを含む、上記(1)~(5)のいずれかに記載の芳香族ニトリル化合物の製造方法。
(7)前記脱水反応において、セシウム(Cs)を含む触媒を使用する、上記(1)~(6)のいずれかに記載の芳香族ニトリル化合物の製造方法。
(8)芳香族ニトリル化合物の存在下で、アルコールと二酸化炭素とを反応させて炭酸エステルと水を生成する炭酸エステル生成反応と共に、該生成した水を該芳香族ニトリル化合物に水和させて芳香族アミド化合物を生成させる水和反応とを含む第1の反応工程と、
前記第1の反応工程の反応系から前記芳香族アミド化合物を分離した後、当該芳香族アミド化合物を、反応液温度170℃以上、230℃未満で脱水させる脱水反応により、芳香族ニトリル化合物に再生する第2の反応工程とを有し、
前記第2の反応工程で再生した前記芳香族ニトリル化合物の少なくとも一部を、前記第1の反応工程において使用することを特徴とする炭酸エステルの製造方法。
(9)芳香族ニトリル化合物の存在下で、アルコールと二酸化炭素とを反応させて炭酸エステルと水を生成する炭酸エステル生成反応と共に、該生成した水を該芳香族ニトリル化合物に水和させて芳香族アミド化合物を生成させる水和反応とを含む第1の反応工程と、
前記第1の反応工程の反応系から前記芳香族アミド化合物を分離した後、当該芳香族アミド化合物を、ジフェニルエーテルの存在下で脱水させる脱水反応により、芳香族ニトリル化合物に再生する第2の反応工程とを有し、
前記第2の反応工程で再生した前記芳香族ニトリル化合物の少なくとも一部を、前記第1の反応工程において使用することを特徴とする炭酸エステルの製造方法。
(10)前記芳香族アミド化合物が、ピリジンカルボアミドまたはピラジンアミドを含み、前記芳香族ニトリル化合物が、シアノピリジンまたはシアノピラジンを含む、上記(8)又は(9)に記載の炭酸エステルの製造方法。
(11)前記脱水反応において、セシウム(Cs)を含む触媒を使用する、上記(8)~(10)のいずれかに記載の炭酸エステルの製造方法。
(12)前記炭酸エステル生成反応において、酸化セリウム(CeO)を含む触媒を使用する、上記(8)~(11)のいずれかに記載の炭酸エステルの製造方法。
(13)前記アルコールが、炭素数1~6のアルコールを含むことを特徴とする上記(8)~(12)のいずれかに記載の炭酸エステルの製造方法。
(14)前記第1の反応工程において、生成する前記芳香族アミド化合物より沸点の高い溶媒を使用する、上記(8)~(13)のいずれかに記載の炭酸エステルの製造方法。
(15)前記溶媒が、ジアルキルベンゼン、アルキルナフタレン、およびジフェニルベンゼンの少なくとも一つを含んでなることを特徴とする、上記(14)に記載の炭酸エステルの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように本発明によれば、ピリジンカルボアミド(ピコリンアミド及びニコチンアミド等)およびベンズアミドなどの芳香族アミド化合物から、シアノピリジンおよびシアノピラジンなどへの芳香族ニトリル化合物の製造(再生)を効率的に行うことができる。すなわち、上記再生のための芳香族アミド化合物の脱水反応において、副生成物の発生を抑え、目的化合物を高い収率で選択的に得るとともに、常圧に近い圧力などの穏やかな反応条件下においても、反応速度を向上させることができる。このため、本発明によれば、芳香族ニトリル化合物を再生する脱水反応の反応時間を、従来の方法に比べて大幅に短縮させることが可能になる。
また、本発明によれば、上述のように芳香族ニトリル化合物を製造することにより、効率的な炭酸エステルの製造方法をも実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】炭酸エステルの製造装置の1例である。
図2図1の製造装置の各工程における各物質の状態を示すチャートである。
図3】実施例および比較例におけるニトリルとピリジンの収率(生成率)の比を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0015】
<1.芳香族ニトリル化合物の製造方法>
ピリジンカルボアミド(2-ピリジンカルボアミド、3-ピリジンカルボアミド、又は4-ピリジンカルボアミド)及びピラジンアミドなどの芳香族アミド化合物を脱水することによる、シアノピリジン及びシアノピラジンなどの芳香族ニトリル化合物の本発明の製造方法は、例えば塩基性金属酸化物を担持した触媒とジフェニルエーテルの存在下で、芳香族アミド化合物を脱水反応させて、芳香族ニトリル化合物を生成するものである。
【0016】
【化1】
【化2】
【0017】
ここで、本発明の上記脱水反応で用いられる触媒は、塩基性となるアルカリ金属(K、Li、Na、Rb、Cs)の酸化物を含む。特に、上記反応で用いられる触媒として、Na、K、Rb、およびCsの少なくともいずれかの酸化物を含むものを用いることが好ましい。また、上記触媒の担体としては、一般的に触媒担体となる物質を用いることができるが、様々な担体を検討した結果、SiO、ZrOのいずれか1種又は2種に担持した触媒を用いた場合に、特に高い性能を示すことが判明した。
【0018】
本発明の上記脱水反応にて使用される触媒の製造法について、下記に例を挙げると、担体がSiOの場合、市販の粉末または球状のSiOを使用でき、活性金属を均一に担持できるよう、100mesh(0.15mm)以下に整粒し、水分を除去するために、予備焼成を空気中700℃で1時間行うことが好ましい。また、SiOにも様々な性状のものがあるが、表面積が大きいものほど、活性金属を高分散にでき、芳香族ニトリル化合物の生成量が向上することから好ましい。具体的には、300m/g以上の表面積が好ましい。ただし、調製後の触媒の表面積は、SiOと活性金属との相互作用等により、SiOのみの表面積よりも低下することがある。その場合、製造後の触媒の表面積が、150m/g以上となることが好ましい。活性種となる金属酸化物の担持は、インシピエントウェットネス(Incipient wetness)法や蒸発乾固法等の含浸法によって、担持することができる。
【0019】
触媒の前駆体となる金属塩は、水溶性であればよく、アルカリ金属であれば例えば、炭酸塩、炭酸水素塩、塩化物塩、硝酸塩、ケイ酸塩などの各種化合物を用いることができる。塩基性金属の前駆体水溶液を担体に含浸した後、乾燥、焼成することで触媒として用いることができ、焼成温度は、使用する前駆体にもよるが、400~600℃が好ましい。
【0020】
また、触媒の担持量は適宜設定すれば良いが、例えば全触媒重量を基準にアルカリ金属酸化物の金属換算担持量を、0.1~1.5mmol/g程度、特に0.1~1mmol/g程度で設定することが好ましい。担持量がこれより多くなると活性が低下するおそれがある。また、反応時の触媒使用量についても、適宜設定すればよい。
【0021】
さらに、本発明において用いられる触媒としては、SiO、ZrOのいずれか1種又は2種から成る担体上に、1種あるいは2種以上のアルカリ金属酸化物のみを担持した触媒が好ましいが、上記の元素以外に触媒製造工程等で混入する不可避的不純物を含んでも構わない。しかし、できるだけ不純物が混入しないようにするのが望ましい。
【0022】
ここで本発明において用いられる、活性種となる金属酸化物を担体上に担持した触媒は、粉体、または成型体のいずれの形態であってもよく、成型体の場合には球状、ペレット状、シリンダー状、リング状、ホイール状、顆粒状などいずれでもよい。
【0023】
次に、触媒を用いた本発明の芳香族ニトリル化合物の製造方法においては、反応形式は特に制限されず、回分式反応器、半回分式反応器、連続槽型反応器や管型反応器のような流通式反応器のいずれを用いてもよい。また、触媒は、固定床、スラリー床等のいずれも適用することができる。
【0024】
本発明の芳香族ニトリル化合物の製造方法では、脱水反応により生成する副生水を除去しながら行うことが望ましく、例えば、還流や蒸留、ゼオライト等の脱水剤を系内に設置して、副生水を除去しながら反応を行うことが望ましい。本発明者が鋭意検討した結果、減圧装置を取り付けた反応蒸留装置を用いて、反応管に触媒、芳香族アミド化合物、およびジフェニルエーテルを入れて、減圧により反応液温度をコントロールし、ジフェニルエーテルを還流させて反応液から副生水を系外に留去しながら反応を進めることで、芳香族ニトリル化合物の生成量を向上させることが可能である。
【0025】
ジフェニルエーテルは、約259℃という高い沸点を有する物質であり、上記脱水反応に好適に用いられる。
【0026】
反応条件は、脱水反応速度とジフェニルエーテルの沸点、並びに、反応の際に副生するピリジンや経済性の観点で選択するのが望ましい。
【0027】
本発明の芳香族ニトリル化合物の製造方法における通常の反応条件としては、反応液温度は170~230℃、圧力は常圧(101.3(kPa)(760Torr))~減圧下(13.3(kPa)(100Torr))、時間は数時間~100時間程度で行うことができるが、特にこれらに制限されるものではない。
例えば、反応液温度は、好ましくは180~228℃であり、より好ましくは190~210℃である。反応圧力は、好ましくは1.33~60(kPa)(10~450Torr)であり、より好ましくは13.3~53.3(kPa)(100~400Torrである。また、反応時間は、好ましくは4~24時間であり、より好ましくは8~24時間である。
【0028】
また、脱水剤としてモレキュラーシーブを使用する場合は、種類・形状には特に制限されるものはないが、例えば、3A、4A、5A等一般的に吸水性の高いもので、球状やペレット状のものを使用できる。例えば東ソー製ゼオラムが好適に使用出来る。また、事前に乾燥させておくことが好ましく、300~500℃で1時間程乾燥することが好ましい。
【0029】
【化3】
【化4】
【0030】
芳香族アミド化合物の脱水反応では、上記のような、芳香族アミド化合物の分解によって芳香族カルボン酸を経由しピリジンやピラジンが副生することが考えられる。しかしながら、本発明の反応条件を用いた脱水反応後の反応液には、未反応の芳香族アミド化合物、生成物である芳香族ニトリル化合物、およびジフェニルエーテルが含まれ、上記式に示される副生物はほとんど生成しない。
【0031】
各物質の融点は、110℃(2-ピコリンアミド)、24℃(2-シアノピリジン)、190℃(ピラジンアミド)、19℃(シアノピラジン)、28℃(ジフェニルエーテル)であり、また、沸点は275℃(2-ピコリンアミド)、215℃(2-シアノピリジン)、357℃(ピラジンアミド)、87℃/6mmHg(シアノピラジン)、100℃(水)、259℃(ジフェニルエーテル)であることから、反応相は、触媒が固体である以外は、すべて液体となっている。減圧装置を取り付けた反応蒸留装置を用い、蒸留塔の温度を反応圧力における水の沸点より高く且つ、ジフェニルエーテルの沸点より低く加熱し、反応液を反応圧力におけるジフェニルエーテルの沸点以上且つ、2-ピコリンアミドの沸点より低い温度となるように加熱することで、反応系中に一部気化したジフェニルエーテルは、冷却器で冷却され、反応管に戻り、副生水は、反応液から効率的に系外に留去される。このため、ニトリル再生反応が高速に進行し、脱水反応の時間を大幅に短縮することが可能となる。
なお、ジフェニルエーテルの沸点は、芳香族ニトリル化合物の沸点および水の沸点より高く、且つ芳香族アミド化合物の沸点より低いといえるのであり、このような反応物質間の沸点の関係を満たすジフェニルエーテルを採用することにより、脱水反応の効率化と芳香族ニトリル化合物の回収が容易に可能となる。
【0032】
反応後の系内に存在する各物質の沸点が、上述のようにそれぞれ異なることから、蒸留することで容易に分離することが可能である。
【0033】
<2.芳香族ニトリル化合物を用いた炭酸エステルの製造方法>
上記の通り、芳香族アミド化合物から芳香族ニトリル化合物への脱水反応による再生において、強力な試薬を使用せず、副生物の発生を抑えて目的化合物を高い収率で選択的に得ること、及び反応速度を大幅に向上させて反応時間を大幅に短縮することができた。このことにより、芳香族アミド化合物から芳香族ニトリル化合物への脱水反応による再生速度と、芳香族ニトリル化合物を用いたCOとアルコールからの炭酸エステル合成速度とをバランス、すなわち併用させることが可能になり、これらの反応を一連の商業プロセスとして成立させることが可能となった。このことから、本発明者は、この知見を炭酸エステルの製造方法に応用することで、以下に説明する炭酸エステルの製造方法に想到することができた。
【0034】
(第1の反応工程)
本発明の炭酸エステルの製造方法における第1の反応工程は、例えばCeO等の固体触媒と芳香族ニトリル化合物との存在下、アルコールと二酸化炭素を直接反応させて炭酸エステルを生成する反応(炭酸エステル生成反応)を含む。
【0035】
本工程では、アルコールと二酸化炭素を反応させると炭酸エステルの他に水も生成するが、芳香族ニトリル化合物が存在することで、生成した水との水和反応により芳香族アミド化合物を生成し、生成した水を反応系から除去又は低減することで、炭酸エステルの生成を促進させることが可能となる。例えば、下記式に示す通りである。
【0036】
【化5】
【0037】
(アルコール)
ここで、アルコールとしては、第一級アルコール、第二級アルコール、第三級アルコールの一種又は二種以上から選ばれたいずれのアルコールも用いることができる。例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、1-ノナノール、アリルアルコール、2-メチル-1-プロパノール、シクロヘキサンメタノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオールを用いると、生成物の収率が高く、反応速度も速いので好ましい。この時、生成する炭酸エステルはそれぞれ、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジプロピル、炭酸ジイソプロピル、炭酸ジブチル、炭酸ジペンチル、炭酸ジヘキシル、炭酸ジヘプチル、炭酸ジオクチル、炭酸ジノナン、炭酸ジアリル、炭酸ジ2-メチル-プロピル、炭酸ジシクロヘキサンメチル、炭酸ジベンジル、炭酸エチレン、1,2-炭酸プロピレン、1,3-炭酸プロピレンとなる。
得られる炭酸エステルを炭酸ジアリールの原料として使用する場合は、アルコールとして、炭素数が1~6のアルコールを用いることが好ましく、炭素数2~4のアルコールを用いることがより好ましい。
また、一価または二価のアルコールを用いることが好ましい。
【0038】
(炭酸エステル製造触媒)
また、炭酸エステルを製造する第1の反応工程においては、CeO及びZrOのいずれか一方、又は双方の固体触媒を使用することが好ましい。例えば、CeOのみ、ZrOのみ、CeOとZrOの混合物、あるいはCeOとZrOの固溶体や複合酸化物等が好ましく、特にCeOのみの使用が好ましい。また、CeOとZrOの固溶体や複合酸化物は、CeOとZrOの混合比が50:50を基本とするが、混合比は適宜、変更可能である。
【0039】
ここで、第1の反応工程で用いられる触媒は、粉体、または成型体のいずれの形態であってもよく、成型体の場合には球状、ペレット状、シリンダー状、リング状、ホイール状、顆粒状などいずれでもよい。
【0040】
(二酸化炭素)
また、本発明で用いる二酸化炭素は、工業ガスとして調製されたものだけでなく、各製品を製造する工場や製鉄所、発電所等からの排出ガスから分離回収したものも用いることができる。
【0041】
(炭酸エステル生成反応における溶媒)
炭酸エステル生成反応においては、生成するアミド化合物よりも沸点の高い溶媒を用いることが好ましい。より好ましくは、炭酸エステル生成反応における溶媒は、ジアルキルベンゼン、アルキルナフタレン、およびジフェニルベンゼンの少なくとも一つを含んでおり、具体例として、ジアルキルベンゼン、アルキルナフタレン、およびジフェニルベンゼン等の成分を含む、バーレルプロセス油B28AN、およびバーレルプロセス油B30(松村石油製)等が挙げられる。
【0042】
(蒸留分離)
反応後に、主生成物である炭酸エステル、副生成物である芳香族アミド化合物、未反応の芳香族ニトリル化合物、CeO等の固体触媒の蒸留分離を行い、生成物を回収することが出来る。
【0043】
(第2の反応工程)
次に、本発明における第2の反応工程においては、第1の反応工程で副生した芳香族アミド化合物を、炭酸エステル生成反応後の系から分離した後、脱水反応によって、芳香族ニトリル化合物を製造する。第2の反応工程は、上述した芳香族ニトリル化合物の製造方法に相当するものであるため、詳細については、省略する。
【0044】
(芳香族ニトリル化合物の再利用)
第2の反応工程で再生された芳香族ニトリル化合物は、第1の反応工程(水和反応)に再利用することができる。
【0045】
本発明によれば、上述のように、芳香族アミド化合物の脱水反応において、生成する芳香族ニトリル化合物より沸点が高く、かつ原料の芳香族アミド化合物より沸点が低いジフェニルエーテルを使用し、反応液温度を調整することにより、触媒を固液分離する工程を不要にするとともに、芳香族ニトリル化合物の回収が容易となる。炭酸エステル生成反応においても、芳香族カルボアミドより沸点が高い溶媒を使用することで、触媒を固液分離する工程が不要となる。このように、本発明においては、触媒の固液分離を必要とせずに、蒸留分離のみにより各成分を分離させつつ一連の反応を進行させることが可能であり、詳細に後述するように効率的なプロセスを実現できる。
【0046】
<3.炭酸エステルの製造装置>
次に、以下に具体例を示して、本発明において用いられる製造装置を更に詳細に説明する。図1は好適な設備の一例である。また、図2は、図1における本設備での各工程における各物質の状態を概略的に示す図である。
【0047】
(第1の反応工程)
第1の反応工程においては、炭酸エステル反応器1(第1の反応部)に、CeO及びZrOのいずれか一方又は双方の固体触媒(固相)、アルコール(1-ブタノール(BuOH);液相)、2-シアノピリジン(2-CP;液相)、溶媒であるバーレルプロセス油(B28AN;液相)、および、昇圧ブロワー(図示せず)を介して供給される二酸化炭素(CO;気相)を充填する。固体触媒は反応前に新規に充填、あるいは触媒分離塔2から回収した固体触媒(CeO;固相)を使用することができる。また、2-シアノピリジンは反応開始時には新品を使用するが、脱水剤分離塔3およびアミド分離塔4で分離・精製された未反応の2-シアノピリジン19(気相)と、水分離塔7で精製された、2-ピコリンアミドから再生された2-シアノピリジン22(液相)を再利用できる。
【0048】
本発明において用いられる炭酸エステルの直接合成装置では、CeO及びZrOのいずれか一方又は双方の固体触媒を用いており、合成装置として、回分式反応器、半回分式反応器や連続槽型反応器、管型反応器のような流通反応器のいずれを用いてもよい。
【0049】
(反応液温度)
炭酸エステル反応器1における反応液温度としては、50~300℃とすることが好ましい。反応液温度が50℃未満の場合は、反応速度が低く、炭酸エステル合成反応、2-シアノピリジンによる水和反応共にほとんど進行せず、炭酸エステルの生産性が低い傾向がある。また反応液温度が300℃を超える場合は、各反応の反応速度は高くなるが、炭酸エステルの分解や変性が生じやすく、2-ピコリンアミドがアルコールと反応しやすくなるため、炭酸エステルの収率が低くなる傾向がある。さらに好ましくは100~150℃である。但し、この温度は固体触媒の種類や量、原料(アルコール、2-シアノピリジン)の量や比により異なると考えられるため、適宜最適条件を設定することが望ましい。好ましい反応液温度が100~150℃であることから、炭酸エステル反応器の前段で、原料(アルコール、2-シアノピリジン)をスチーム等で予備加熱することが望ましい。
【0050】
(反応圧力)
炭酸エステル反応器1における反応圧力としては、0.1~20MPa(絶対圧)とすることが好ましい。反応圧力が0.1MPa(絶対圧)未満の場合は、減圧装置が必要となり、設備が複雑且つコスト高になるだけでなく、減圧にするための動力エネルギーが必要となり、エネルギー効率が悪くなる。また反応圧力が20MPaを超える場合は、2-シアノピリジンによる水和反応が進行しにくくなって炭酸エステルの収率が悪くなるばかりでなく、昇圧に必要な動力エネルギーが必要となり、エネルギー効率が悪くなる。また、炭酸エステルの収率を高くする観点から、反応圧力は0.5~15MPa(絶対圧)がより好ましく、1.0~10MPa(絶対圧)がさらに好ましい。
【0051】
(2-シアノピリジンの用量)
また水和反応に用いる2-シアノピリジンは、原料のアルコールとCOとの反応で副生する水の理論モル量の0.2倍以上5倍以下のモル量で、反応前に予め反応器中に導入することが望ましい。より望ましくは、2-シアノピリジンのモル量は、原料のアルコールとCOとの反応で副生する水の理論モル量の0.5倍以上3倍以下、特に望ましくは0.8倍以上1.5倍以下である。2-シアノピリジンのモル量が少な過ぎる場合には、水和反応に寄与する2-シアノピリジンが少ないために炭酸エステルの収率が悪くなる恐れがある。一方、原料のアルコールに比べて過剰なモル量の2-シアノピリジンを導入した場合は、2-シアノピリジンの副反応が増えるため好ましくない。さらに、固体触媒に対するアルコール及び2-シアノピリジンの量は、固体触媒の種類や量、アルコールの種類や2-シアノピリジンとの比により異なると考えられるため、適宜最適条件を設定することが望ましい。
【0052】
(反応生成物の分離)
反応生成物の分離は全て蒸留で行われる。炭酸エステル反応器1での反応後の反応液10は、触媒分離塔2に送られ、触媒分離塔2の塔底から触媒と溶媒、ここではバーレルプロセス油(B28AN)(液相;11)を回収し、塔頂からはCO(12)と、BuOH、炭酸ジブチル(DBC)、2-シアノピリジン、2-ピコリンアミドの混合物(13)を回収する。回収した触媒と溶媒およびCOは炭酸エステル反応器1にリサイクルする。
【0053】
触媒分離塔2から回収した混合物(13)は、脱水剤分離塔3に送られ、脱水剤分離塔3の塔底から2-シアノピリジン、および2-ピコリンアミドの混合物(14)を回収し、塔頂からはBuOH、およびDBC(15)を回収する。
【0054】
脱水剤分離塔3で塔底から回収された混合物(14)はアミド分離塔4に送られ、アミド分離塔の塔底から2-ピコリンアミド(18)を回収し、塔頂からは2-シアノピリジン(19)を回収する。回収された2-シアノピリジンは炭酸エステル反応器1にリサイクルする。塔底から回収された18はニトリル再生反応器6に送られる。
【0055】
脱水剤分離塔3で塔頂から回収されたBuOH、およびDBC(15)は、炭酸エステル回収塔5に送られ、炭酸エステル回収塔の塔底からDBC(16)を回収し、塔頂からはBuOH(17)を回収する。回収されたBuOHは炭酸エステル反応器1にリサイクルする。
【0056】
アミド分離塔4で回収された2-ピコリンアミド(2-PA;18)は、2-シアノピリジンへの再生のため、ニトリル再生反応器6(第2の反応部)へ移送する。
【0057】
(第2の反応工程)
第2の反応工程においては、ニトリル再生反応器6にて、2-ピコリンアミドの脱水反応により2-シアノピリジン(2-CP)が生成される。本発明において用いられる製造装置(ニトリル再生反応器6)は、塩基性金属酸化物を担持した触媒とジフェニルエーテルの存在下で、2-ピコリンアミドを脱水反応させて、2-シアノピリジンを生成する装置である。反応形式としては特に制限されず、回分式反応器、半回分式反応器、連続槽型反応器や管型反応器のような流通式反応器のいずれを用いてもよい。また、触媒は、固定床、スラリー床等のいずれも適用することができる。ニトリル再生反応器6の温度は、反応形式に応じて変更可能であるが、減圧装置を取り付けた反応蒸留装置を用い、蒸留塔の温度が、反応圧力における水の沸点より高く且つ、ジフェニルエーテルの沸点より低くなるように加熱し、反応液を、反応圧力におけるジフェニルエーテルの沸点以上且つ、2-ピコリンアミドの沸点より低い温度となるように加熱することで、反応系中に一部気化したジフェニルエーテルは、冷却器で冷却され、反応管に戻り、副生水は、反応液から効率的に系外に留去される。このため、ニトリル再生反応が高速に進行する。
【0058】
2-シアノピリジン(22)は反応中に水分離塔7から回収しても良いし、反応終了後にそのまま蒸留し回収しても良い。回収した2-シアノピリジン22は、炭酸エステル反応器1に送液され、炭酸エステルの製造に再利用される。
【0059】
上述のように、本発明においては、固液分離を必要とせずに、蒸留分離のみで反応生成物、および再利用する化合物を分離することが可能である。このため、本発明によれば、装置の簡素化を図りつつ、少ない製造工程で効率的に炭酸エステルを製造することが可能である。
【0060】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。まず、シアノピリジンの製造方法の実施例及び比較例について説明する。
【0061】
(実施例1)
担体となるSiO(富士シリシア製、CARiACT、G-6、表面積:535m/g)を100mesh以下に整粒し、700℃で約1時間、予備焼成した。その後、アルカリ金属としてCsを担持するために、最終的にCs金属担持量が0.5mmol/gとなるようにCsCO(和光純薬工業製)を用いて水溶液を調製し、SiOに含浸させた。その後、110℃で約6時間乾燥、500℃で約3時間焼成して、CsO/SiO触媒を得た。なお、NaO/SiO触媒は、CsO/SiO触媒と同様の製造方法により製造した。
【0062】
次に、反応器として3つ口丸底フラスコを用い、磁気撹拌子、上記CsO/SiO触媒(1.0g(Cs:0.5mmol)、2-ピコリンアミド(2-PA、6.1g(50mmol)、東京化成工業製)、ジフェニルエーテル(212.5g(1.25mol)、東京化成工業製)を導入した。
さらに反応器に、温度計と、蒸留塔としての第一の空冷管とを取り付け、第一の空冷管上端には温度計を取り付けたト字管を取り付け、ト字管には第二の空冷管、受器、真空ポンプを接続し、反応蒸留装置とした。なお、第一の空冷管にはリボンヒーターを巻き温度調整可能にした。また、冷却トラップは液体窒素で冷却し、気化したピリジンの回収を可能とした。
引き続き上記反応蒸留装置の圧力を、真空ポンプで13.3kPa(100Torr)に減圧し、第一の空冷管の温度が、反応圧力における水の沸点より高く、且つ、ジフェニルエーテルの沸点より低い60℃となるように第一の空冷管を加熱し、反応液を、反応圧力におけるジフェニルエーテルの沸点以上、且つ、2-ピコリンアミドの沸点より低い184℃で沸騰状態に維持した。このように温度を調整することで、反応系中に一部気化したジフェニルエーテルを第一の空冷管で冷却して反器に戻し、副生水は反応器に戻すことなく系外に留去させて、反応を行った。反応開始は反応液が沸騰し始めた時間とし、24時間反応させた。
反応後、反応系を室温まで冷却し、反応液をサンプリングし、エタノールで2倍に希釈し、内部標準物質として1-ヘキサノールを加え、GC-MS(ガスクロマトグラフ-質量分析計)で定性分析、FID-GCで定量分析した。その結果、表1に示すように、2-シアノピリジンが生成した。2-シアノピリジンの収率は35.7mol%であり、副生物のピリジンの生成率は0.3mol%に抑えられた。
【0063】
(実施例2~5、7、および8)
実施例2~5、7、および8においては、反応液中の2-ピコリンアミドの濃度、触媒種、反応液への添加物の種類、反応液温度、反応圧力、第一の空冷管の温度、および反応時間の少なくともいずれかが実施例1と異なる条件下で、2-ピコリンアミドから2-シアノピリジンを製造した(表1参照)。その結果、2-シアノピリジンの収率、および副生物であるピリジンの生成率は、表1に示す結果となった。
【0064】
(実施例6)
実施例6においては、2-ピコリンアミドの代わりにピラジンアミド(Sigma-Aldrich製)を用い、反応液温度、反応圧力、第一の空冷管の温度、および反応時間が実施例1と異なる条件下で、ピラジンアミドからシアノピラジンを製造した(表1参照)。その結果、シアノピラジンの収率、および副生物であるピラジンの生成率は、表1に示す結果となった。
【0065】
(比較例1~17)
比較例1~6においては、反応液への添加物の種類、反応液温度、反応圧力、第一の空冷管の温度、反応時間、および脱水方法の少なくともいずれかが実施例1~8とは異なる条件下で、2-ピコリンアミドから2-シアノピリジン、またはピラジンアミドからシアノピラジンを製造した(表1参照)。ただし、比較例4以外の比較例の反応装置には、反応管にモレキュラーシーブ4A(300℃で1時間事前乾燥)を充填したソックスレー抽出器、リービッヒ冷却器を接続したものを使用し、冷却器の温度は10℃に、磁気撹拌装置は600rpmに設定し、Arガスで冷却器、ソックスレー抽出管、試験管内をパージした後、反応を行った。その結果、2-シアノピリジン等の収率、および副生物であるピリジン等の生成率は、表1に示す結果となった。
【0066】
上述の実施例1~8、及び比較例1~17の結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0067】
以上のように、反応液への添加物としてジフェニルエーテルを用いた実施例1~8の脱水反応においては、目的の化合物である芳香族ニトリル化合物が高い収率で得られており、副生成物であるピリジン等の発生も抑えられた。特に、反応液温度を170~230℃の範囲に調整した実施例1~6においては、ニトリル化合物の高い収率と副生成物の低減とを両立できることが確認された。
これに対し、ジフェニルエーテルを使用せず、実施例と異なる反応条件下で行われた各比較例においては、芳香族ニトリル化合物の収率が低い結果が示された(実施例と、比較的高い収率の比較例との結果を示す図3参照)。また、一部の比較例ではピリジンの発生が抑制されているものの、これらの比較例においてもニトリル収率が低い値にとどまった。比較例1においては、ニトリル収率が高いものの、必要な反応時間が長すぎる点で実施例に劣る結果となった。
【0068】
なお、触媒の評価のために、上述の脱水反応において用いられ得る触媒の種類のみを変更した比較対象実験を行った。この比較対象実験においては、反応液への添加物の種類が実施例1等とは異なり、反応液への添加物の沸点に応じた反応条件下で実験を行った。その結果を表2に示す。
【表2】
【0069】
以上のように、本発明の脱水反応の触媒として、CsO、RbO、KO、NaOを用いた場合、特に、芳香族ニトリル化合物が高い収率で、かつ選択的に得られることが確認された。
【0070】
(実施例9)
反応器として5Lの3つ口丸底フラスコを用い、磁気撹拌子、CsO/SiO触媒(10g、Cs:5mmol)、2-ピコリンアミド(61g(0.5mol)、東京化成工業製)、ジフェニルエーテル(2125g(12.5mol)、東京化成工業製)を導入し、さらに実施例1と同様の装置を組み、反応蒸留装置とした。
引き続き実施例2と同じ反応条件で反応を行い、2-シアノピリジンが38.5g含まれる反応液を得た。
反応蒸留装置をそのまま使用し、反応液を圧力1.3kPaで蒸留し、2-シアノピリジンを33.5g得た。FID-GCで分析したところ、純度は99.9%であった。
【0071】
以上のように、生成する芳香族ニトリル化合物より沸点が高く、かつ原料の芳香族アミド化合物より沸点が低いジフェニルエーテルを使用し、圧力コントロールにより反応液温度を調整することで、反応速度を大幅に改善して反応時間を短縮できると同時に、目的化合物が高い収率で、選択的に得られ、かつ容易に芳香族ニトリル化合物を回収できることが確認された。
【0072】
(実施例20)
次に、シアノピリジンを用いた炭酸エステルの製造(炭酸エステル生成反応)の実施例について説明する。2-シアノピリジンは、実施例9の方法で得られたものを使用した。まず、CeO(Solvay製:HSA20)を600℃で空気雰囲気下、3時間焼成し、粉末状の固体触媒を得た。そこで、190mlのオートクレーブ(反応器)に磁気攪拌子、上記固体触媒(0.17g(1mmol))、ブタノール(7.4g(100mmol)和光純薬工業製)、溶媒であるバーレルプロセス油B-28AN(5g)、及び2-シアノピリジン(5.2g(50mmol))を導入し、COでオートクレーブ内の空気を3回パージした後、5MPaになるようCOを導入した。そのオートクレーブをバンドヒーター、ホットスターラーにより132℃まで攪拌しながら昇温し、目的の温度に達した時間を反応開始時間とした。反応中に圧力は8MPaに達した。このように、反応液温度を132℃として24時間反応させた後、オートクレーブを水冷し、室温まで冷えたら減圧して、アセトンで2倍に希釈し、内部標準物質の1-ヘキサノールを加え、FID-GCで分析した。このようにして、炭酸ジブチルを得た。
【0073】
(実施例21~53)
実施例21~53では、溶媒の有無、種類、および量、反応時間、アルコール(基質)の種類と濃度、触媒の種類と量の少なくともいずれかが実施例20とは異なる条件下で、2-シアノピリジンを用いて、アルコールとCOから炭酸エステルを得た。具体的には、実施例21~24および47においては溶媒の種類および量、実施例25~28においては反応時間、実施例29~32および48においては原料のアルコール/2-シアノピリジンの値、実施例33~36においては触媒量、実施例37~40においては触媒の種類、実施例41~46においては反応液温度、実施例49および50においては反応圧力、実施例41~53においては原料のアルコール種類と量などが、実施例20と異なる。
【0074】
上述の炭酸エステルの製造の実施例の結果を以下の表3に示す。
【表3】
【0075】
以上のように、実施例20~53においては、芳香族シアノ化合物による副生水の水和反応と炭酸エステル生成反応とを同時に進行させつつ、24時間以下という短い反応時間において、炭酸エステルをいずれも良好な収率で得ることが確認された。
【0076】
(実施例54)
次に、炭酸エステル反応液からの触媒回収の実施例について説明する。図1に示した製造装置を用いて、炭酸エステルの製造を行った。まず、CeO(第一稀元素化学工業製:不純物濃度0.02%以下)を600℃で空気雰囲気下、3時間焼成し、粉末状の固体触媒を得た。そこで、攪拌器付きの1.9Lのオートクレーブ(反応器)に上記固体触媒(1.72g(10mmol))、ブタノール(74.1g(1mol))和光純薬工業製)、溶媒であるバーレルプロセス油B-28AN(50g)、及び2-シアノピリジン(52.1g(0.5mol))を導入し、COでオートクレーブ内の空気を3回パージした後、5MPaになるようCOを導入した。そのオートクレーブをセラミックヒーターにより132℃まで攪拌しながら昇温し、目的の温度に達した時間を反応開始時間とした。反応中に圧力は8MPaに達した。
このように、反応液温度を132℃として24時間反応させた後、復圧し、2.7kPaに減圧した蒸留塔の中間部に反応液を導入し、単蒸留により、蒸留塔の塔頂からBuOH、炭酸ジブチル、2-シアノピリジン、および2-ピコリンアミドの混合物を、蒸留塔の下部から触媒とバーレルプロセス油を回収した。
攪拌器付きの1.9Lのオートクレーブ(反応器)に上記で回収した触媒と溶媒、ブタノール(74.1g(1mol))和光純薬工業製)、及び2-シアノピリジン(52.1g(0.5mol))を導入し、COでオートクレーブ内の空気を3回パージした後、5MPaになるようCOを導入した。そのオートクレーブをセラミックヒーターにより132℃まで攪拌しながら昇温し、目的の温度に達した時間を反応開始時間とした。反応中に圧力は8MPaに達した。24時間の反応後、オートクレーブを水冷し、室温まで冷えたら減圧して反応液の一部を取り、アセトンで2倍に希釈し、内部標準物質の1-ヘキサノールを加え、FID-GCで分析した。その結果、炭酸ジブチルの収率は54mol%であった。
更に図1に示した順番に沿って反応液の蒸留を行い、炭酸ジブチル40gを得た。FID-GCで分析したところ、純度は99.9%であった。
このように、使用済みの触媒を回収して再度、炭酸エステル生成反応に用いても、高い収率で炭酸エステルが生成されることが確認された。
【0077】
以上のように、炭酸エステル生成反応においても、芳香族カルボアミドより沸点が高い溶媒を使用することで、触媒を固液分離する工程が不要となり、蒸留分離のみにより各成分を分離させることが可能であり、効率的なプロセスを実現できることを確認できた。
【0078】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0079】
1 炭酸エステル反応器
2 触媒分離塔
3 脱水剤分離塔
4 アミド分離塔
5 炭酸エステル回収塔
6 ニトリル再生反応器
7 水分離塔
8 減圧ポンプ
図1
図2
図3