(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】複数の再生毛包原基の製造方法、毛包組織含有シートの製造方法、毛髪再生用キット及び発毛促進又は抑制物質をスクリーニングする方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20220621BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20220621BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
C12N5/071 ZNA
C12M3/00 A
C12Q1/02
(21)【出願番号】P 2019537586
(86)(22)【出願日】2018-08-16
(86)【国際出願番号】 JP2018030410
(87)【国際公開番号】W WO2019039376
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2017159661
(32)【優先日】2017-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 淳二
(72)【発明者】
【氏名】景山 達斗
(72)【発明者】
【氏名】清水 亮啓
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-201979(JP,A)
【文献】国際公開第2012/042618(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/115079(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/039278(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/073625(WO,A1)
【文献】景山達斗,福田淳二,微細加工を用いた毛髪再生のための細胞培養皿,加工技術,2016年,Vol. 51, No. 11,p. 36-41
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12M 3/00
C12Q 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
規則的な配置の微小凹部を備えるマイクロ凹版に、
間葉系細胞及び上皮系細胞を含む細胞混合懸濁液を注入することにより前記間葉系細胞及び
前記上皮系細胞を同時に播種し、線維芽細胞増殖因子を含む培地を用いて、前記マイクロ凹版の少なくとも上面及び底面から前記間葉系細胞及び前記上皮系細胞に対して酸素を供給しながら共培養することにより、
前記細胞混合懸濁液に含まれる前記間葉系細胞及び前記上皮系細胞を前記線維芽細胞増殖因子を含む培地中で凝集させて、前記微小凹部内に毛包原基を形成させる工程を備え、
前記マイクロ凹版が酸素透過性を有する材質からなる複数の再生毛包原基の製造方法。
【請求項2】
前記毛包原基形成工程において、さらに、血管を構築しうる細胞を前記間葉系細胞及び前記上皮系細胞と同時に播種する請求項1に記載の複数の再生毛包原基の製造方法。
【請求項3】
前記血管を構築しうる細胞が血管内皮細胞である請求項2に記載の複数の再生毛包原基の製造方法。
【請求項4】
前記線維芽細胞増殖因子が塩基性線維芽細胞増殖因子である請求項1~3のいずれか一項に記載の複数の再生毛包原基の製造方法。
【請求項5】
前記培地中の前記線維芽細胞増殖因子の含有量が1ng/mL以上200ng/mL以下である請求項1~4のいずれか一項に記載の複数の再生毛包原基の製造方法。
【請求項6】
前記培地が前記線維芽細胞増殖因子として多血小板血漿を含む請求項1~5のいずれか一項に記載の複数の再生毛包原基の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の複数の再生毛包原基の製造方法により得られた複数の再生毛包原基を前記微小凹部内に保持された状態で、生体適合性ハイドロゲルに転写する工程を備える毛包組織含有シートの製造方法。
【請求項8】
前記マイクロ凹版における前記微小凹部の密度が20個/cm2以上500個/cm2以下である請求項7に記載の毛包組織含有シートの製造方法。
【請求項9】
前記生体適合性ハイドロゲルがコラーゲンである請求項7又は8に記載の毛包組織含有シートの製造方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法に用いるための毛髪再生キットであって、
規則的な配置の微小凹部を備えるマイクロ凹版と、
線維芽細胞増殖因子と、
を備え、
前記マイクロ凹版が酸素透過性を有する材質からなる毛髪再生用キット。
【請求項11】
さらに、培地を備える請求項10に記載の毛髪再生用キット。
【請求項12】
前記培地が間葉系細胞増殖用培地、上皮系細胞増殖用培地及び血管内皮系細胞増殖用培地からなる群から選択される1種類以上である請求項11に記載の毛髪再生用キット。
【請求項13】
前記線維芽細胞増殖因子が塩基性線維芽細胞増殖因子である請求項10~12のいずれか一項に記載の毛髪再生用キット。
【請求項14】
前記線維芽細胞増殖因子として多血小板血漿を備える請求項10~13のいずれか一項に記載の毛髪再生用キット。
【請求項15】
間葉系細胞及び上皮系細胞に候補物質を接触させる工程1と、
培養容器に、前記候補物質に接触させた前記間葉系細胞及び前記上皮系細胞
を含む細胞混合懸濁液、並びに、対照として前記候補物質に接触させていない間葉系細胞及び上皮系細胞
を含む細胞混合懸濁液をそれぞれ播種し、線維芽細胞増殖因子を含む培地を用いて、酸素を供給しながら共培養することにより、
前記細胞混合懸濁液に含まれる前記間葉系細胞及び前記上皮系細胞を前記線維芽細胞増殖因子を含む培地中で凝集させて、前記培養容器内に候補物質と接触させた毛包原基及び対照毛包原基を形成させる工程2と、
前記候補物質と接触させた毛包原基において、前記対照毛包原基よりも早く毛幹様構造が形成された場合、前記候補物質を発毛促進物質と判断し、前記対照毛包原基よりも遅く毛幹様構造が形成された場合、発毛抑制物質であると判断し、前記対照原基と毛幹様構造が形成された時期が同じ場合、発毛抑制物質及び発毛抑制物質のいずれでもないと判断する工程3と、
を備える発毛促進又は抑制物質をスクリーニングする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の再生毛包原基の製造方法、毛包組織含有シートの製造方法、毛髪再生用キット及び発毛促進又は抑制物質をスクリーニングする方法に関する。
本願は、2017年8月22日に、日本に出願された特願2017-159661号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
臨床応用に足る毛包再生医療の確立には、再生毛包が正常な組織構造を有し、移植部位に適した毛幹を有する毛が、形成、伸長することが必要である。毛等の皮膚付属器を含む外胚葉性付属器官は、通常、胎児期において、上皮系細胞及び間葉系細胞の相互作用により発生する。外胚葉性付属器官の一つである毛包は、個体の生涯にわたって成長及び退行(毛周期)を繰り返し、成長期における毛球部の再生は、毛包器官発生期と同様な分子機構により誘導されることが知られている。また、このような毛周期における毛球部の再生は、間葉系細胞である毛乳頭細胞により誘導されると考えられている。すなわち、成長期において、毛包上皮幹細胞が間葉系細胞である毛乳頭細胞により分化誘導され毛球部が再生される。
【0003】
これまでに毛包再生に向けて間葉系細胞(毛乳頭細胞及び真皮毛根鞘細胞)を置換することによる毛包可変領域の再生、毛包誘導能を有する間葉系細胞による毛包新生、又は上皮系細胞及び間葉系細胞による毛包の再構築等が試みられてきた。
具体的には、例えば、体性に由来する複数の細胞種を、Wntシグナル活性化剤を添加した培養液を備えるスフェロイド容器に播種することで、原始的な毛包器官を形成する方法(例えば、特許文献1参照)が挙げられる。
また、例えば、間葉系細胞から実質的になる第1の細胞集合体と、上皮系細胞から実質的になる第2の細胞集合体と、をゲル内で区画化して配置することで毛包原基を構築し、化学繊維等のガイドを挿入した後、それを移植することで毛包器官を再生する方法(例えば、特許文献2参照)が挙げられる。
【0004】
また、本発明者らはこれまで、複数の再生毛包原基の製造方法を開発してきた(例えば、特許文献3参照)。具体的には、規則的な配置の微小凹部を備えるマイクロ凹版に、間葉系細胞及び上皮系細胞を播種し、当該マイクロ凹版の少なくとも上面及び底面から前記間葉系細胞及び前記上皮系細胞に対して酸素を供給しながら共培養することで、毛包原基を形成させる工程を備える方法である。
一方、最近、多血小板血漿抽出物を含む培養液を用いて間葉系細胞を培養し、該間葉系細胞を生まれつき毛の生えないマウスの皮膚に移植することで、高い毛髪再生能が実現できることが明らかとなった(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開2015-165823号公報
【文献】国際公開第2012/108069号
【文献】国際公開第2017/073625号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Xiao S-E., et al., “As a carrier-transporter for hair follicle reconstitution, platelet-rich plasma promotes proliferation and induction of mouse dermal papilla cells.”, Nature, Scientific Reports, 7: 1125, DOI:10.1038/s41598-017-01105-8, 2017.
【文献】Toyoshima, K., et al., “Fully functional hair follicle regeneration through the rearrangement of stem cells and their niches”, Nat. Commun., vol.3, no.784, 2012.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1では、多血小板血漿抽出物を含む培養液を用いて間葉系細胞のみを培養しており、間葉系細胞及び上皮系細胞を共培養することは検討されておらず、また、多血小板血漿抽出物に含まれる成分のうち、有効な成分については特定されていない。
また、本発明者らは、これまで、特許文献3に示すように、間葉系細胞及び上皮系細胞から構成された毛包原基を大量に製造すべく、酸素透過性に優れた培養容器を用いた培養方法に着目してきた。しかしながら、従来から間葉系細胞又は上皮系細胞それぞれの機能を損なわずに培養するために用いられる培地成分は各種知られているものの、上記培養容器を用いて毛包原基を製造する際に、優れた毛髪再生効率を有する毛包原基を大量に得るために必要な特定の培地成分については知られていない。
よって、上記の従来の製造方法よりも、毛髪再生効率が高く、哺乳動物の毛包組織と類似し、規則的且つ高密度の複数の再生毛包原基を製造可能な方法が求められていた。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、毛髪再生効率が優れており、哺乳動物の毛包組織と類似し、規則的且つ高密度の複数の再生毛包原基の製造方法及び毛髪再生用キットを提供する。また、前記複数の再生毛包原基の製造方法を用いた毛包組織含有シートの製造方法及び発毛促進又は抑制物質をスクリーニングする方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
本発明の第1態様に係る複数の再生毛包原基の製造方法は、規則的な配置の微小凹部を備えるマイクロ凹版に、間葉系細胞及び上皮系細胞を同時に播種し、線維芽細胞増殖因子を含む培地を用いて、前記マイクロ凹版の少なくとも上面及び底面から前記間葉系細胞及び前記上皮系細胞に対して酸素を供給しながら共培養することにより、前記微小凹部内に毛包原基を形成させる工程を備える方法であり、前記マイクロ凹版が酸素透過性を有する材質からなる。
前記毛包原基形成工程において、さらに、血管を構築しうる細胞を前記間葉系細胞及び前記上皮系細胞と同時に播種してもよい。
前記血管を構築しうる細胞が血管内皮細胞であってもよい。
前記線維芽細胞増殖因子が塩基性線維芽細胞増殖因子であってもよい。
前記培地中の前記線維芽細胞増殖因子の含有量が1ng/mL以上500ng/mL以下であってもよい。
前記培地は前記線維芽細胞増殖因子として多血小板血漿を含んでもよい。
【0010】
本発明の第2態様に係る毛包組織含有シートの製造方法は、上記第1態様に係る複数の再生毛包原基の製造方法により得られた複数の再生毛包原基を前記微小凹部内に保持された状態で、生体適合性ハイドロゲルに転写する工程を備える方法である。
前記マイクロ凹版における前記微小凹部の密度が20個/cm2以上500個/cm2以下であってもよい。
前記生体適合性ハイドロゲルがコラーゲンであってもよい。
【0011】
本発明の第3態様に係る毛髪再生用キットは、規則的な配置の微小凹部を備えるマイクロ凹版と、線維芽細胞増殖因子と、を備え、前記マイクロ凹版が酸素透過性を有する材質からなる。
上記第3態様に係る毛髪再生用キットは、さらに、培地を備えてもよい。
前記培地が間葉系細胞増殖用培地、上皮系細胞増殖用培地及び血管内皮系細胞増殖用培地からなる群から選択される1種類以上であってもよい。
前記線維芽細胞増殖因子が塩基性線維芽細胞増殖因子であってもよい。
前記線維芽細胞増殖因子として多血小板血漿であってもよい。
【0012】
本発明の第4態様に係る発毛促進又は抑制物質をスクリーニングする方法は、間葉系細胞及び上皮系細胞に候補物質を接触させる工程1と、培養容器に、前記候補物質に接触させた前記間葉系細胞及び前記上皮系細胞、並びに、対照として前記候補物質に接触させていない間葉系細胞及び上皮系細胞をそれぞれ播種し、線維芽細胞増殖因子を含む培地を用いて、酸素を供給しながら共培養することにより、前記培養容器内に候補物質と接触させた毛包原基及び対照毛包原基を形成させる工程2と、前記候補物質と接触させた毛包原基において、前記対照毛包原基よりも早く毛幹様構造が形成された場合、前記候補物質を発毛促進物質と判断し、前記対照毛包原基よりも遅く毛幹様構造が形成された場合、発毛抑制物質であると判断し、前記対照原基と毛幹様構造が形成された時期が同じ場合、発毛抑制物質及び発毛抑制物質のいずれでもないと判断する工程3と、を備える方法である。
【発明の効果】
【0013】
上記態様の複数の再生毛包原基の製造方法及び毛髪再生用キットによれば、毛髪再生効率に優れており、哺乳動物の毛包組織と類似し、規則的且つ高密度の複数の再生毛包原基を提供することができる。また、上記態様の毛包組織含有シートの製造方法によれば、毛髪再生効率が優れており、規則的且つ高密度の毛包組織を備えた毛包組織含有シートを提供することができる。上記態様の発毛促進又は抑制物質をスクリーニングする方法によれば、簡便に発毛促進又は抑制物質をスクリーニングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る複数の再生毛包原基の製造方法の一例を示す概略工程図である。
【
図2】本発明に係る複数の再生毛包原基の製造方法の一例を示す概略工程図である。
【
図3】本発明に係る毛包組織含有シートの製造方法の一例を示す概略工程図である。
【
図4】本発明に係る毛包組織含有シートの製造方法の一例を示す概略工程図である。
【
図5】実施例1におけるマイクロ凹版の作製方法を示す概略工程図である。
【
図6A】実施例1における多血小板血漿溶液を含有する培地(PRPr+)を用いて培養した間葉系細胞及び上皮系細胞の培養3日目での自己凝集の様子を示す顕微鏡像である。スケールバーは100μmを表す。
【
図6B】実施例1における多血小板血漿溶液を含有しない培地(PRPr-)を用いて培養した間葉系細胞及び上皮系細胞の培養3日目での自己凝集の様子を示す顕微鏡像である。スケールバーは100μmを表す。
【
図7A】実施例1におけるPRPr+又はPRPr-条件下で培養した間葉系細胞及び上皮系細胞の培養3日目でのVersicanの相対的な発現量を示すグラフである。グラフにおいて、PRPr-条件下でのVersicanの発現量を1としたときのPRPr+条件下でのVersicanの発現量を示している。
【
図7B】実施例1におけるPRPr+又はPRPr-条件下で培養した間葉系細胞及び上皮系細胞の培養3日目でのNexinの相対的な発現量を示すグラフである。グラフにおいて、PRPr-条件下でのNexinの発現量を1としたときのPRPr+条件下でのNexinの発現量を示している。
【
図7C】実施例1におけるPRPr+又はPRPr-条件下で培養した間葉系細胞及び上皮系細胞の培養3日目でのIgfbp5の相対的な発現量を示すグラフである。グラフにおいて、PRPr-条件下でのIgfbp5の発現量を1としたときのPRPr+条件下でのIgfbp5の発現量を示している。
【
図7D】実施例1におけるPRPr+又はPRPr-条件下で培養した間葉系細胞及び上皮系細胞の培養3日目でのTgfβ2の相対的な発現量を示すグラフである。グラフにおいて、PRPr-条件下でのTgfβ2の発現量を1としたときのPRPr+条件下でのTgfβ2の発現量を示している。
【
図8A】試験例1における実施例1で得られたPRPr+条件下で形成された毛包原基の移植から3週間後のヌードマウスの移植部の様子を示す顕微鏡像である。スケールバーは1000μmを表す。
【
図8B】試験例1における実施例1で得られたPRPr-条件下で形成された毛包原基の移植から3週間後のヌードマウスの移植部の様子を示す顕微鏡像である。スケールバーは1000μmを表す。
【
図9】試験例1における実施例1で得られたPRPr+又はPRPr-条件下で形成された毛包原基の移植から3週間後のヌードマウスの移植部での毛髪再生数を示すグラフである。
【
図10】実施例2における毛包原基での毛幹伸長時期及び毛幹様構造を示す顕微鏡像である。左側は、線維芽細胞成長因子2(FGF2)無添加(FGF2-)条件下で形成された毛包原基での毛幹伸長時期(培養12日目)及び培養23日目での毛包原基の毛幹様構造(矢印)を示す顕微鏡像である。一方、右側は、FGF2添加(FGF2+)条件下で形成された毛包原基での毛幹伸長時期(培養8日目)及び培養10日目での毛包原基の毛幹様構造(矢印)を示す顕微鏡像である。スケールバーはそれぞれ200μmを表す。
【
図11】実施例2におけるFGF2+又はFGF2-条件下で形成された毛包原基の培養10日目でのVersican及びTgfβ2の相対的な発現量を示すグラフである。グラフにおいて、FGF2-条件下でのVersican又はTgfβ2の発現量を1としたときのFGF2+条件下でのVersican又はTgfβ2の発現量を示している。
【
図12】参考例1におけるPRP+(5%、10%及び20%)、並びに、PRP-(0%)条件下で培養した間葉系細胞及び上皮系細胞の培養3日目での自己凝集の様子を示す顕微鏡像である。スケールバーは100μmを表す。
【
図13】参考例1におけるPRP+(5%)又はPRP-(0%)条件下で培養した間葉系細胞及び上皮系細胞の培養3日目でのVersicanの相対的な発現量を示すグラフである。グラフにおいて、PRP-条件下でのVersicanの発現量を1としたときの各条件下でのVersicanの発現量を示している。
【
図14】実施例3におけるFGF2+(1ng/mL、10ng/mL及び40ng/mL)条件下で培養した間葉系細胞及び上皮系細胞の培養3日目でのVersicanの相対的な発現量を示すグラフである。グラフにおいて、FGF2+(1ng/mL)条件下でのVersican(Vcan)の発現量を1としたときの各条件下でのVersican(Vcan)の発現量を示している。
【
図15】実施例3におけるFGF2+(10ng/mL)、FGF2-/PRPr+及びFGF2-/PRPr-条件下で培養した間葉系細胞及び上皮系細胞の培養3日目でのVersicanの相対的な発現量を示すグラフである。グラフにおいて、FGF2-/PRPr-条件下でのVersican(Vcan)の発現量を1としたときの各条件下でのVersican(Vcan)の発現量を示している。
【
図16】実施例4におけるFGF2+(10ng/mL及び40ng/mL)、FGF2-/PRPr+、並びに、FGF2-/PRPr-条件下で培養した間葉系細胞及び上皮系細胞の培養3日目での自己凝集の様子を示す顕微鏡像である。スケールバーは100μmを表す。上の画像は明視野での画像であり、下の画像は暗視野での画像である。
【
図17】実施例4におけるFGF2+(10ng/mL及び40ng/mL)、FGF2-/PRPr+、並びに、FGF2-/PRPr-条件下で培養した間葉系細胞及び上皮系細胞の培養3日目でのVersicanの相対的な発現量を示すグラフである。グラフにおいて、FGF2-/PRPr-条件下でのVersicanの発現量を1としたときの各条件下でのVersicanの発現量を示している。
【
図18】実施例5におけるFGF2+(10ng/mL、50ng/mL及び100ng/mL)条件下で培養した間葉系細胞及び上皮系細胞の培養3日目でのVersican及びWnt10bの相対的な発現量を示すグラフである。
【
図19】試験例2における実施例5で得られたFGF2+(10ng/mL及び100ng/mL)又はFGF2-(0ng/mL)条件下で形成された毛包原基の移植から3週間後のヌードマウスの移植部の様子を示す顕微鏡像である。
【
図20A】実施例6におけるFGF2-(0ng/mL)又はFGF2+(1ng/mL、10ng/mL及び100ng/mL)条件下で培養した間葉系細胞及び上皮系細胞の培養3日目でのWnt10bの相対的な発現量を示すグラフである。
【
図20B】実施例6におけるPDGF-(0ng/mL)又はPDGF+(1ng/mL、10ng/mL及び100ng/mL)条件下で培養した間葉系細胞及び上皮系細胞の培養3日目でのVersicanの相対的な発現量を示すグラフである。
【
図20C】実施例6におけるPDGF-(0ng/mL)又はPDGF+(1ng/mL、10ng/mL及び100ng/mL)条件下で培養した間葉系細胞及び上皮系細胞の培養3日目でのWnt10bの相対的な発現量を示すグラフである。
【
図20D】実施例6におけるVEGF(0ng/mL)又はVEGF(1ng/mL、10ng/mL及び100ng/mL)条件下で培養した間葉系細胞及び上皮系細胞の培養3日目でのVersicanの相対的な発現量を示すグラフである。
【
図20E】実施例6におけるVEGF(0ng/mL)又はVEGF(1ng/mL、10ng/mL及び100ng/mL)条件下で培養した間葉系細胞及び上皮系細胞の培養3日目でのWnt10bの相対的な発現量を示すグラフである。
【
図21】試験例3における実施例7で得られたFGF2+(10ng/mL)条件下で形成された毛包原基の移植から18日目のヌードマウスの移植部の様子を示す顕微鏡像である。
【
図22】試験例4における実施例8で得られたFGF2+(10ng/mL)条件下で形成された毛包原基の移植から14日目のヌードマウスの移植部の様子を示す顕微鏡像である。
【
図23A】試験例5における実施例9で得られたFGF2+(100ng/mL)条件下で形成された毛包原基の移植から16日目のヌードマウスの移植部の様子を示す顕微鏡像である。
【
図23B】試験例5における実施例9で得られたFGF2+(100ng/mL)条件下で形成された毛包原基の移植から50日後のヌードマウスの移植部の様子を示す顕微鏡像である。
【
図23C】試験例5における再生毛髪の表面構造を示す電子顕微鏡像である。
【
図23D】試験例5における移植部での毛周期を示す顕微鏡像である。
【
図24】試験例6における実施例10で得られたFGF2+(100ng/mL)条件下で形成された毛包原基の移植から30日目のヌードマウスの移植部の様子を示す顕微鏡像である。スケールバーは100μmである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
≪複数の再生毛包原基の製造方法≫
本発明の一実施形態に係る複数の再生毛包原基の製造方法は、規則的な配置の微小凹部を備えるマイクロ凹版に、間葉系細胞及び上皮系細胞を同時に播種し、線維芽細胞増殖因子(Fibroblast Growth Factor;FGF)を含む培地を用いて、前記マイクロ凹版の少なくとも上面及び底面から前記間葉系細胞及び上皮系細胞に対して酸素を供給しながら共培養することにより、前記微小凹部内に毛包原基を形成させる工程である。また、前記マイクロ凹版は、規則的な配置の微小凹部からなり、且つ、酸素透過性を有する材質からなる。
【0016】
本実施形態の製造方法によれば、規則的な配置の微小凹部を備えるマイクロ凹版を用いることで、哺乳動物の毛包組織と類似し、規則的且つ高密度で毛包原基を再生することができる。また、培養時に間葉系細胞及び上皮系細胞は、三次元の細胞集合体内で相互接触してシグナル伝達を行っているため、培養時にFGFを含む培地を用いることで、FGFは、直接的に、間葉系細胞を介して間接的に、又はそれら両方の経路で上皮系細胞に作用し、毛包原基における毛髪再生能を増強すると推察される。そのため、形成された毛包原基において、優れた毛髪再生効率を達成することができる。
【0017】
本明細書において、「間葉系細胞」とは、間葉組織由来の細胞又はその細胞を培養して得られる細胞を意味する。例えば、毛乳頭細胞、真皮毛根鞘細胞、発生期の皮膚間葉系細胞、万能細胞(例えば、胚性幹(ES)細胞、胚性生殖(EG)細胞、人工多能性(iPS)幹細胞等)から誘導された毛包間葉系細胞等が挙げられる。
本明細書において、「上皮系細胞」とは、上皮組織由来の細胞及びその細胞を培養して得られる細胞を意味する。例えば、バルジ領域の外毛根鞘最外層細胞、毛母基部の上皮系細胞、万能細胞(例えば、胚性幹(ES)細胞、胚性生殖(EG)細胞、人工多能性(iPS)幹細胞等)から誘導された毛包上皮系細胞等が挙げられる。
上述の間葉系細胞及び上述の上皮系細胞の由来としては、動物であればよく、脊椎動物であることが好ましく、哺乳動物であることがより好ましい。
哺乳動物しては、例えば、ヒト、チンパンジー及びその他の霊長類;イヌ、ネコ、ウサギ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ブタ、ラット(ヌードラットも包含する)、マウス(ヌードマウス及びスキッドマウスも包含する)、モルモット等の家畜動物、愛玩動物及び実験用動物等が挙げられ、これらに限定されない。
中でも、細胞の由来としては、ヒトであることが特に好ましい。
【0018】
本明細書において、「毛包原基」とは、毛包のもととなる組織を意味し、主に、上述の間葉系細胞及び上述の上皮系細胞から構成されている。毛包原基が形成される流れとしては、まず、上皮系細胞が肥厚し、間葉系細胞側に陥入することで、間葉系細胞の細胞集塊(スフェロイド)を包み込む。続いて、間葉系細胞のスフェロイドを包み込んだ上皮性細胞は毛母原基を形成し、間葉系細胞のスフェロイドは毛誘導能を持つ毛乳頭を形成することで、毛母原基及び毛乳頭等からなる毛包原基を形成する。この毛包原基では、毛乳頭が毛母原基に増殖因子を提供しており、毛母原基の分化を誘導し、分化した細胞は毛を形成することができる。
本明細書において、「毛包」とは、表皮が内側に筒状に入り込んだ部分であって、毛を産生する皮膚の付属器官を意味する。
本明細書において、「再生毛包原基」とは、例えば、本実施形態の製造方法等により作製された毛包原基を意味する。
本明細書において、「複数の再生毛包原基」とは、上述の再生毛包原基が複数集まった状態のものを意味する。本実施形態の製造方法では、簡便に、複数の上述の毛包原基が哺乳動物の毛穴の密度と同程度の密度で規則的に整列した複数の再生毛包原基を得ることができる。また、複数の再生毛包原基はそれぞれの毛包原基が分化し、毛包を形成していてもよい。
【0019】
従来では、間葉系細胞のスフェロイドを高密度で規則的な配列で培養した後に、上皮系細胞を後から播種し、間葉系細胞のスフェロイドの周囲を覆わせる方法によって、高密度で規則的な配列の複数の再生毛包原基を得ていた。
これに対し、本実施形態の製造方法では、間葉系細胞及び上皮系細胞を同時に播種し、マイクロ凹版内で、FGFを含む培地を用いて、当該マイクロ凹版の少なくとも上面及び底面から酸素を供給しながら共培養することにより、簡便に、複数の毛包原基が哺乳動物の毛穴の密度と同程度の密度で規則的に整列しており、優れた毛髪再生効率を有する複数の再生毛包原基を得ることができる。
【0020】
本明細書において、「規則的」とは、等間隔で毛包原基が配置されている状態を表しており、哺乳動物の皮膚における毛穴と毛穴との間隔と同程度であればよい。また、哺乳動物の毛穴の密度と同程度の密度とは、特に、哺乳動物がヒトを含む霊長類である場合、具体的には、20個/cm2以上500個/cm2以下であることが好ましく、50個/cm2以上250個/cm2以下であることがより好ましく、100個/cm2以上200個/cm2以下であることがさらに好ましい。密度が上記範囲であることにより、正常な毛包組織の配置をより正確に再現した毛包組織を再生することができる。
【0021】
図1は、本発明に係る複数の再生毛包原基の製造方法の一例を示す概略工程図である。
図1を参照しながら、本実施形態の製造方法を構成する工程について、以下に詳細を説明する。
【0022】
[毛包原基形成工程]
本実施形態の製造方法における毛包原基形成工程は、間葉系細胞及び上皮系細胞から毛包原基を微小凹部内に形成させる工程である。具体的には、まず、間葉系細胞1及び上皮系細胞2を含む細胞混合懸濁液を調製する。このとき、間葉系細胞1及び上皮系細胞2の混合比は、間葉系細胞:上皮系細胞=1:2~2:1であることが好ましく、1:1.5~1.5:1であることがより好ましく、1:1であることがさらに好ましい。
【0023】
次いで、調製した細胞混合懸濁液をマイクロ凹版4の微小凹部内に注入する。播種する細胞数はマイクロ凹版4の微小凹部5の大きさに応じて適宜調整すればよい。このとき、播種する細胞が多いほど、毛包原基の形成効率が高く、毛包原基の大きさも大きくなる。
【0024】
次いで、FGFを含む培地8aを用いて、酸素を供給しながら共培養する。培養時間は、1日以上5日以下(好ましくは、3日)とすることができ、培養温度は25℃以上40℃未満(好ましくは、37℃)とすることができる。
【0025】
酸素を供給しながら培養する方法としては、マイクロ凹版に酸素を直接吹きかける等して供給しながら培養する方法や、酸素透過性を有する材質からなるマイクロ凹版を用いて培養する方法等が挙げられる。中でも、マイクロ凹版の全面から細胞に対して酸素を供給でき、得られた毛包原基が優れた毛髪再生効率を達成できることから、酸素透過性を有する材質からなるマイクロ凹版を用いて培養する方法が好ましい。
【0026】
本実施形態の製造方法において、毛包原基が形成される流れとしては、まず、上皮系細胞2が肥厚し、間葉系細胞1側に陥入することで、間葉系細胞1のスフェロイドを包み込む。続いて、間葉系細胞1のスフェロイドを包み込んだ上皮性細胞2は毛母原基を形成し、間葉系細胞1のスフェロイドは毛誘導能を持つ毛乳頭を形成する。これにより、毛母原基及び毛乳頭等からなる毛包原基6が形成される。この毛包原基6では、毛乳頭が毛母原基に増殖因子を提供しており、毛母原基の分化を誘導し、分化した細胞は毛を形成することができる。さらに、本実施形態の製造方法において、毛包原基が分化し、毛包を形成していてもよい。
【0027】
毛包原基形成工程において、さらに、血管を構築しうる細胞を間葉系細胞及び上皮系細胞と同時に播種してもよい。
この場合、毛包原基形成工程は、マイクロ凹版に、間葉系細胞、上皮系細胞及び血管を構築しうる細胞を含む細胞混合懸濁液を播種し、FGFを含む培地を用いて、マイクロ凹版の少なくとも上面及び底面から酸素を供給しながら共培養することにより、微小凹部内に毛包原基を形成させる工程である。
【0028】
細胞混合懸濁液が、さらに、血管を構築しうる細胞を含むことで、内部に毛細血管構造を有する複数の再生毛包原基が得られる。得られた複数の再生毛包原基において、毛細血管構造を有することで、各毛包原基内部に栄養成分等を充分に供給することができ、毛髪再生効率をより向上させることができる。さらに、得られた複数の再生毛包原基を移植に用いた場合において、毛包原基内部の毛細血管構造と移植体の血管とが連通し、栄養成分を得ることにより、移植部において、高い毛包誘導能を発揮することができる。
【0029】
なお、本明細書において、「血管を構築し得る細胞」とは、血管を構築することができる細胞を意味する。例えば、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞等が挙げられ、これらの細胞を1種単独、又は、2種以上を組み合わせて含有していてもよい。
中でも、血管を構築し得る細胞としては、血管内皮細胞であることが好ましい。
血管を構築しうる細胞の由来としては、上述の間葉系細胞及び上述の上皮系細胞の由来として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0030】
図2は、本発明に係る複数の再生毛包原基の製造方法の一例を示す概略工程図である。
図2を参照しながら、本実施形態の製造方法を構成する工程について、以下に詳細を説明する。
【0031】
血管を構築し得る細胞を用いる場合、毛包原基形成工程において、まず、間葉系細胞1、上皮系細胞2及び血管を構築し得る細胞3を含む細胞混合懸濁液を調製する。このとき、間葉系細胞1、上皮系細胞2及び血管を構築し得る細胞3の混合比は、間葉系細胞:上皮系細胞:血管を構築し得る細胞=2:2:1~8:8:1であることが好ましく、4:4:1であることが特に好ましい。
【0032】
細胞混合懸濁液が間葉系細胞1、上皮系細胞2及び血管を構築し得る細胞3を含む場合での、毛包原基が形成される流れとしては以下に示すとおりである。
まず、上皮系細胞2が肥厚し、間葉系細胞1側に陥入することで、間葉系細胞1及び血管を構築し得る細胞3のスフェロイドを包み込み、上皮系細胞2、間葉系細胞1及び血管を構築し得る細胞3からなる混合スフェロイド6aが形成される。続いて、混合スフェロイド6a内に置いて、上皮性細胞2は毛母原基を形成し、間葉系細胞1及び血管を構築し得る細胞3のスフェロイドは毛誘導能を持つ毛乳頭を形成する。これにより、毛母原基及び毛乳頭等からなる毛包原基6bが形成される。この毛包原基6bでは、毛乳頭が毛母原基6bに増殖因子を提供しており、毛母原基6bの分化を誘導し、分化した細胞は毛を形成することができる。また、このとき、毛包原基6bの間葉系細胞側、すなわち毛乳頭の内部では、血管を構築し得る細胞3が毛細血管構造7を構築している。さらに、本実施形態の製造方法において、毛包原基6bが分化し、毛包を形成していてもよい。
【0033】
(マイクロ凹版)
毛包原基を形成させる際に使用するマイクロ凹版4は、複数の微小凹部5が規則的に配置されているものが好ましい。マイクロ凹版4は、市販のものを用いてもよいし、後述の実施例1に記載の方法等で作製してもよい。また、マイクロ凹版4における微小凹部5の密度は、20個/cm2以上500個/cm2以下であることが好ましく、50個/cm2以上250個/cm2以下であることがより好ましく、100個/cm2以上200個/cm2以下であることがさらに好ましい。密度が上記範囲であることにより、哺乳動物の毛穴(特に、ヒトを含む霊長類の毛穴)の密度と同程度の密度で毛包原基が配置された状態で培養することができる。後述するとおり、この規則的な配置且つ高密度の毛包原基をそのままの配置を保ちながら、被験動物の毛包欠損部に移植することで、正常な毛包組織の配置をより正確に再現した毛包組織を再生することができる。また、複数の再生毛包原基の上記密度は、移植に用いた場合における治療的に有効量であると考えられる。
【0034】
また、微小凹部の開口形状について、特別な限定はない。例えば、円形状、四角状、六角状、ライン状等であってもよく、中でも、毛穴に近い形状であるという観点から、円形状であることが好ましい。
微小凹部の開口部の直径及び深さについて、間葉系細胞及び上皮系細胞を含む混合細胞集塊(以下、「混合スフェロイド」とも呼ぶ。)を収容し培養できる大きさであれば特別な限定はないが、直径については、哺乳動物の毛穴と同程度の大きさであってよく、例えば、20μm以上1mm以下であってよい。また、深さについては、毛包組織含有シートの移植後の被験動物の皮膚への定着の観点から、1mm以下であってよい。
得られる毛包原基の配置及び大きさは、マイクロ凹版の微小凹部の開口形状、直径及び深さ等に依存するため、被験動物の種類、移植する部位等に合わせて、適宜マイクロ凹版の微小凹部を調製すればよい。
【0035】
マイクロ凹版の材質は、細胞培養に適したものであればよく、特別な限定はない。例えば、透明なガラス、ポリマー材等が挙げられる。中でも、酸素透過性を有するポリマー材が好ましい。酸素透過性を有するポリマー材として具体的には、例えば、フッ素樹脂、シリコンゴム(例えば、ポリジメチルシロキサン(poly(dimethylsiloxane):PDMS)等)等が挙げられる。これらの材質を単独で使用してもよいし、組み合わせて使用してもよい。
【0036】
本明細書において、「酸素透過性」とは、分子状の酸素を透過し、マイクロ凹版の微小凹部内まで到達させる性質を表している。具体的な酸素透過率としては、約100cm3/m2・24h・atm以上5000cm3/m2・24h・atm以下であってよく、約1100cm3/m2・24h・atm以上3000cm3/m2・24h・atm以下であってよく、約1250cm3/m2・24h・atm以上2750cm3/m2・24h・atm以下であってよい。なお、「24h」は24時間を意味し、「atm」とは、気圧をの単位を意味する。すなわち、上記単位「cm3/m2・24h・atm」は、1気圧の環境下において、24時間で透過する酸素の1m2あたりの容量(cm3)を表している。酸素透過率が上記範囲である材質からなるマイクロ凹版を使用することにより、十分な量の酸素を混合スフェロイドに供給でき、毛包原基を形成することができる。
【0037】
(培地)
・FGF
本実施形態の製造方法で用いられる培地は、FGFを含むものである。
また、培地に含まれるFGFは、FGFのみからなるものであってもよく、又は、FGFを主成分とした混合物であってもよい。
FGFとして具体的には、例えば、FGF1(酸性FGF、aFGF)、FGF3、FGF2(塩基性FGF、bFGF)、FGF3、FGF4、FGF5、FGF6、FGF7、FGF8、FGF9、FGF10等が挙げられる。培地は、これらのFGFを1種含んでもよく、2種以上組み合わせて含んでいてもよい。
中でも、FGFとしては、FGF2(塩基性FGF、bFGF)であることが好ましい。
FGFがFGFを主成分とした混合物である場合、具体的には、例えば、多血小板血漿(Platelet Rich Plasma;PRP)等が挙げられる。
なお、本明細書において、「多血小板血漿(Platelet Rich Plasma;PRP)」とは、その一般的な意味において用いられる広い範囲の用語であり、末梢血よりも高い濃度の血小板が血漿に再懸濁されたものである。典型的には、50万個/mm3以上120万個/mm3以下の血小板を含む。
【0038】
また、一般に、「血小板」は、止血機序に関与し、いくつかの血液凝集因子を分泌する。血小板はまた、創傷治療に関与するいくつかのサイトカインも分泌する。このサイトカインは、血小板の分泌顆粒のうちα顆粒から放出される成長因子群である。サイトカインとしては、FGF(特に、FGF2)が主成分として挙げられるが、その他に具体的には、例えば、PDGF、TGF-β、VEGF、PF-4/β-TG等が挙げられる。
ここで、「PDGF」とは血小板由来増殖因子(Platelet derived growth factor)のことであり、血管新生、すなわち既に存在する微少血管から新たな血管を形成する作用を有する。
「TGF-β」とは、形質転換成長因子β (Transforming growth fac or β)を意味する。
「VEGF」とは、血管内皮細胞増殖因子(Vascular endothelial growth factor)を意味する。
「PF-4/β-TG」とは、血小板第4因子(platelet factor-4)/β-トロンボグロブリン(β-thromboglobulin)を意味し、ともに血小板の活性化に伴い循環血中に放出されるものである。
PRPは、FGFを含む各種成長因子を分泌することから、PRPを含む培地を用いて毛包原基を培養することで、これらの成長因子が毛包原基に作用し、優れた毛髪再生効率を達成することができる。
【0039】
また、PRPは後述の実施例に示す方法を用いることで、調製することができる。本実施形態において、培地に含まれるPRPは、活性化状態のPRP(PRP-releasate;PRPr)であることが好ましい。PRPは、カルシウムイオンを含む溶液と接触させることでPRPrとすることができる。
【0040】
培地中のFGFの含有量としては、0.1ng/mL以上500ng/mL以下であることが好ましく、1ng/mL以上200ng/mL以下であることがより好ましく、1ng/mL以上100ng/mL以下であることがさらに好ましく、10ng/mL以上100ng/mL以下であることが特に好ましい。培地中のFGFの含有量が上記範囲であることにより、得られる毛包原基はより優れた毛髪再生効率を達成することができる。特に、治療を必要とする患者から採取された間葉系細胞及び上皮系細胞を用いて、自家移植するための毛包原基を製造する場合には、10ng/mL以上200ng/mL以下程度の高濃度のFGF含有量とすることで、移植部において、優れた毛髪再生効率を達成することができる。
【0041】
また、培地に含まれるFGFを主成分とした混合物がPRPrである場合、培地中のPRPrの含有量は、PRPr中のFGF等の含有成分の量により、適宜調整することができる。なお、一般的に、PRPr中にFGFは250ng/mL程度含まれる。培地中のPRPrの含有量としてより具体的には、例えば1質量%以上15質量%以下であってもよく、3質量%以上10質量%以下であってもよく、4.5質量%以上6.5質量%以下であってもよい。培地中のPRPrの含有量が上記範囲であることにより、FGFの含有量を上記範囲とすることができ、得られる毛包原基はより優れた毛髪再生効率を達成することができる。
【0042】
・培地
本実施形態の製造方法において用いられる培地は、特別な限定はなく、細胞の生存増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン)等を含む基本培地であればよい。
【0043】
培地に含まれる無機塩は、細胞の浸透圧平衡の維持を助けるために、および膜電位の調節を助けるためのものである。
無機塩としては、特別な限定はなく、例えば、カルシウム、銅、鉄、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、亜鉛等の塩が挙げられる。塩は、通常、塩化物、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、及び重炭酸塩の形で用いられる。
【0044】
一般的に、培地の重量オスモル濃度は、例えば200mOsm/kg以上400mOsm/kg以下であればよく、例えば290mOsm/kg以上350mOsm/kg以下、例えば280mOsm/kg以上310mOsm/kg以下であればよく、例えば280mOsm/kg以上300mOsm/kg未満(具体的には、280mOsm/kg)であればよい。
【0045】
炭水化物としては、特別な限定はなく、例えば、グルコース、ガラクトース、マルトース、フルクトース等が挙げられる。
一般的に、培地中の炭水化物(好ましくは、D-グルコース)の濃度としては、0.5g/L以上2g/Lであることが好ましい。
【0046】
アミノ酸としては、特別な限定はなく、例えば、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-システイン、L-シスチン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、L-グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリン、及びその組み合わせ等が挙げられる。
一般的に、培地に含まれるグルタミンの濃度は0.05g/L以上1g/L以下(通常、0.1g/L以上0.75g/L以下)である。培地に含まれるグルタミン以外の各アミノ酸は、0.001g/L以上1g/L(通常、0.01g/L以上0.15g/L以下)である。アミノ酸は合成由来でもよい。
【0047】
ビタミンとしては、特別な限定はなく、例えば、チアミン(ビタミンB1)、リボフラビン(ビタミンB2)、ナイアシンアミド(ビタミンB3)、D-パントテン酸ヘミカルシウム、(ビタミンB5)、ピリドキサール/ピリドキサミン/ピリドキシン(ビタミンB6)、葉酸(ビタミンB9)、シアノコバラミン(ビタミンB12)、アスコルビン酸(ビタミンC)、カルシフェロール(ビタミンD2)、DL-αトコフェロール(ビタミンE)、ビオチン(ビタミンH)、メナジオン(ビタミンK)、塩化コリン、myo-イノシトール、等が挙げられる。
【0048】
培地は、さらに抗生物質、血清、成長因子、又はホルモンを含んでいてもよい。
【0049】
抗生物質としては、例えば、ゲンタマイシン、アンフォテリシン、アンピシリン、ミノマイシン、カナマイシン、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタシン、タイロシン、オーレオマイシン等、通常の動物細胞の培養に用いられるものが挙げられる。これらの抗生物質を単独で含んでいてもよく、複数組み合わせて含んでいてもよい。
一般的に、培地に含まれる抗生物質の濃度は、特別な限定はなく、例えば0.1μg/mL以上100μg/mL以下であればよい。
【0050】
血清としては、例えば、FBS/FCS(Fetal Bovine Serum/Fetal Calf Serum)、NCS(Newborn Calf serum)、CS(Calf Serum)、HS(Horse Serum)等が挙げられ、これらに限定されない。
一般的に、培地に含まれる血清の濃度は、例えば2質量%以上10質量%以下であればよい。
【0051】
成長因子として上述のFGF以外のものを含んでいてもよく、具体的には、例えば、細胞増殖因子、細胞接着因子等が挙げられ、これらに限定されない。
成長因子としてより具体的には、例えば、上皮成長因子(Epidermal growth factor;EGF)、インスリン様成長因子-1(Insulin-like growth factor-1;IGF-1)、マクロファージ由来成長因子(Macrophage-derived growth factor;MDGF)、血小板由来成長因子(Platelet-derived growth factor;PDGF)、血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)等が挙げられる。これらの成長因子を単独で含んでいてもよく、複数組み合わせて含んでいてもよい。
一般的に、培地に含まれる成長因子の濃度は、特別な限定はなく、例えば1ng/mL以上10μg/mL以下であればよい。
【0052】
ホルモンとしては、例えば、インスリン、グルカゴン、トリヨードチロニン、副腎皮質ホルモン(ハイドロコーチゾン等)等が挙げられる。これらのホルモンを単独で含んでいてもよく、複数組み合わせて含んでいてもよい。
一般的に、培地に含まれるホルモンの濃度は、特別な限定はなく、例えば1ng/mL以上10μg/mL以下であればよい。
【0053】
また、成長因子及びホルモンを含む培地添加剤として、ウシ脳下垂体抽出物(Bovine Pituitary Extract;BPE)を用いてもよい。
【0054】
中でも、本実施形態の製造方法で用いられる培地としては、間葉系細胞増殖用培地及び上皮系細胞増殖用培地を混合したものであることが好ましい。
間葉系細胞増殖用培地及び上皮系細胞増殖用培地の混合比としては、容量比で、間葉系細胞増殖用培地:上皮系細胞増殖用培地=1:2~2:1であることが好ましく、1:1.5~1.5~1であることがより好ましく、1:1であることがさらに好ましい。
【0055】
間葉系細胞増殖用培地としては、任意の抗生物質及び任意の血清、並びに、必要に応じて、任意の成長因子及び任意のホルモンを添加した公知の基本培地を用いればよい。
公知の基本培地(任意の抗生物質及び任意の血清、並びに、必要に応じて、任意の成長因子及び任意のホルモン等は不含)として具体的には、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)、Minimum Essential Medium(MEM)、RPMI-1640、Basal Medium Eagle(BME)、DMEM:Nutrient Mixture F-12(DMEM/F-12)、Glasgow MEM(G-MEM)等が挙げられる。
また、任意の抗生物質及び任意の血清、並びに、必要に応じて、任意の成長因子及び任意のホルモンを含む公知の基本培地として具体的には、例えば、毛乳頭細胞増殖培地(Follicle Dermal Papilla Cell Growth Medium;DPCGM)(Promo Cell社製)等が挙げられる。
【0056】
上皮系細胞増殖用培地としては、塩化カルシウムを含み、無血清であって、上皮成長因子、並びに、必要に応じて任意の抗生物質及び任意のホルモンを添加した公知の上皮系細胞用基本培地を用いればよい。
上皮系細胞用基本培地(上皮成長因子、並びに、必要に応じて任意の抗生物質及び任意のホルモン不含)としてより具体的には、例えば、HuMedia-KB2(クラボウ社製)、角化細胞基本培地2(Keratinocyte Basal Medium 2)(Promo Cell社製)、EpiLife(登録商標) Medium(Thermo Fisher SCIENTIFIC社製)等が挙げられる。
また、上皮成長因子、任意の抗生物質、及び任意のホルモンを含む上皮系細胞増殖用培地としては、例えば、HuMedia-KG2(クラボウ社製)、角化細胞増殖培地2(Keratinocyte Growth Medium 2)(Promo Cell社製)等が挙げられる。
【0057】
本実施形態の製造方法において、細胞混合懸濁液が間葉系細胞、上皮系細胞及び血管を構築し得る細胞を含む場合、培地としては、間葉系細胞増殖用培地、上皮系細胞増殖用培地及び血管内皮細胞増殖用培地を混合したものを用いることが好ましい。
間葉系細胞増殖用培地、上皮系細胞増殖用培地及び血管内皮細胞増殖用培地の混合比としては、容量比で、間葉系細胞増殖用培地:上皮系細胞増殖用培地:血管内皮細胞増殖用培地=1:1:1であることが好ましい。
【0058】
血管内皮細胞増殖用培地としては、血管内皮細胞増殖因子、並びに、必要に応じて任意の成長因子、任意の抗生物質、任意の血清、及び任意のホルモンを添加した公知の血管内皮細胞用基本培地を用いればよい。
血管内皮細胞用基本培地(血管内皮細胞増殖因子、並びに、必要に応じて任意の成長因子、任意の抗生物質、任意の血清、及び任意のホルモン不含)としてより具体的には、例えば、EBM-2 Basal Medium(Lonza社製)、内皮細胞基本培地(Endothelial Cell Basal Medium)(Promo Cell社製)、内皮細胞基本培地2(Endothelial Cell Basal Medium2)(Promo Cell社製)等が挙げられる。
また、血管内皮細胞増殖因子、任意の成長因子、任意の抗生物質、任意の血清、及び任意のホルモンを含む血管内皮細胞増殖用培地としては、例えば、EGM2(Lonza社製)、内皮細胞増殖培地(Endothelial Cell Growth Medium)(Promo Cell社製)、内皮細胞増殖培地2(Endothelial Cell Growth Medium 2)(Promo Cell社製)等が挙げられる。
【0059】
≪毛包組織含有シートの製造方法≫
本発明の一実施形態に係る毛包組織含有シートの製造方法は、上述の複数の再生毛包原基の製造方法により得られた複数の再生毛包原基を、前記微小凹部内に保持された状態で、生体適合性ハイドロゲルに転写する工程を備える方法である。
【0060】
本実施形態の製造方法によれば、簡便に、規則的且つ高密度の毛包組織含有シートを得ることができる。また、得られた毛包組織含有シート内の毛包組織は、優れた毛髪再生効率を有するものである。
【0061】
図3は、本発明に係る毛包組織含有シートの製造方法の一例を示す概略工程図である。
図3を参照しながら、本実施形態の製造方法を構成する工程について、以下に詳細を説明する。
【0062】
[転写工程]
本実施形態の製造方法における転写工程は、マイクロ凹版の微小凹部内に形成された毛包原基を、微小凹部内に保持しながら、生体適合性ハイドロゲルに転写する工程である。
また、転写工程において用いられる毛包原基の形成方法については、上述の複数の再生毛包原基の製造方法に記載の方法と同様の方法が挙げられる。
【0063】
転写工程として具体的には、まず、微小凹部5内の培地8aを除去し、生体適合性ハイドロゲル9を含む溶液を添加して、生体適合性ハイドロゲル9をゲル化させる。溶液中の生体適合性ハイドロゲル9の濃度は、必要とするゲルの硬さに応じて、適宜調整することができる。また、ゲル化させるための時間についても、必要とするゲルの硬さに応じて、適宜調整することができる。ゲル化させる温度等の条件については、特別な限定はなく、例えば37℃のC02インキュベーター内で培養する方法等が挙げられる。
次いで、マイクロ凹版から毛包原基6を含むゲル化した生体適合性ハイドロゲル9を取り外すことで、毛包組織含有シート10が得られる。
【0064】
得られた毛包組織含有シート10において、毛包原基6(又は毛包)が生体適合性ハイドロゲル9上に規則的且つ哺乳動物の毛穴の密度と同程度の密度で配置されていることが好ましい。規則的とは、等間隔で毛包原基6が配置されている状態を表しており、哺乳動物の皮膚における毛穴と毛穴との間隔と同程度であればよい。また、哺乳動物の毛穴の密度と同程度の密度とは、特に、哺乳動物がヒトを含む霊長類である場合、具体的には、20個/cm2以上500個/cm2以下であることが好ましく、50個/cm2250個/cm2以下であることがより好ましく、100個/cm2200個/cm2以下であることがさらに好ましい。密度が上記範囲であることにより、正常な毛包組織の配置をより正確に再現した毛包組織を再生することができる。また、毛包組織含有シートにおける毛包原基の上記密度は、移植に用いた場合における治療的に有効量であると考えられる。
【0065】
転写工程において、内部に毛細血管構造を有する毛包原基を用いてもよい。
この場合、転写工程は、内部に毛細血管構造を有する毛包原基を、生体適合性ハイドロゲルに転写する工程である。
【0066】
内部に毛細血管構造を有する毛包原基を用いた場合、得られた毛包組織含有シートは各毛包原基の内部に毛細血管構造を有する。そのため、毛包組織含有シートを移植に用いた場合において、毛包原基内部の毛細血管構造と移植体の血管とが連通し、栄養成分を得ることにより、移植部において、高い毛包誘導能を発揮することができる。
【0067】
図4は、本発明に係る毛包組織含有シートの製造方法の一例を示す概略工程図である。
図4を参照しながら、本実施形態の製造方法を構成する工程について、以下に詳細を説明する。
【0068】
内部に毛細血管構造を有する毛包原基を用いた場合での、転写工程の流れとしては以下に示すとおりである。
まず、微小凹部5内の培地8bを除去し、生体適合性ハイドロゲル9を含む溶液を添加して、生体適合性ハイドロゲル9をゲル化させる。溶液中の生体適合性ハイドロゲル9の濃度は、必要とするゲルの硬さに応じて、適宜調整することができる。また、ゲル化させるための時間についても、必要とするゲルの硬さに応じて、適宜調整することができる。ゲル化させる温度等の条件については、特別な限定はなく、例えば37℃のC02インキュベーター内で培養する方法等が挙げられる。
次いで、マイクロ凹版から毛包原基6bを含むゲル化した生体適合性ハイドロゲル9を取り外すことで、毛包組織含有シート10が得られる。
【0069】
得られた毛包組織含有シート10において、毛包原基6b(又は毛包)が生体適合性ハイドロゲル9上に規則的且つ哺乳動物の毛穴の密度と同程度の密度で配置されていることが好ましい。規則的とは、等間隔で毛包原基6bが配置されている状態を表しており、哺乳動物の皮膚における毛穴と毛穴との間隔と同程度であればよい。また、哺乳動物の毛穴の密度と同程度の密度とは、上述に記載の密度と同様である。
【0070】
(生体適合性ハイドロゲル)
本明細書において、「生体適合性ハイドロゲル」とは、生体への適合性を有するゲルであって、高分子が化学結合によって網目構造をとり、その網目に多量の水を保有した物質を意味する。より具体的には、天然物由来の高分子や合成高分子の人工素材に架橋を導入してゲル化させたものをいう。
【0071】
天然物由来の高分子としては、ゲル化する細胞外マトリックス成分等が挙げられる。ゲル化する細胞外マトリックス成分としては、例えば、コラーゲン(I型、II型、III型、V型、XI型等)、マウスEHS腫瘍抽出物(IV型コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン等を含む)より再構成された基底膜成分(商品名:マトリゲル)、フィブリン、グリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、プロテオグリカン等を例示することができる。その他天然物由来の高分子として、ゼラチン、寒天、アガロース等を使用することもできる。それぞれのゲル化に至適な塩等の成分、その濃度、pH等を選択しハイドロゲルを作製することが可能である。また、これらの天然物由来の高分子を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0072】
また、合成高分子としては、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリエチレンオキシド、poly(II-hydroxyethylmethacrylate)/polycaprolactone等が挙げられる。また、これらの合成高分子を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0073】
中でも、生体適合性ハイドロゲルは、天然物由来の高分子であることが好ましく、ゲル化する細胞外マトリックス成分であることがより好ましく、コラーゲン(特に、I型コラーゲン)であることがさらに好ましい。コラーゲンを含有することにより、より皮膚に近しい組成となり、高い毛包再生効率を実現できる。
【0074】
生体適合性ハイドロゲルを含む溶液は、Ham’s Nutrient Mixtures F-10又はHam’s Nutrient Mixtures F-12等の無血清培地や、生体適合性ハイドロゲル再構成用の緩衝液(例えば、水酸化ナトリウム、炭酸水水素ナトリウム、HEPES-Bufferからなる緩衝液等)等を含んでいてもよい。
【0075】
本実施形態の製造方法において、生体適合性ハイドロゲルをゲル化させる際に、ゲルの強度を補強するために、支持体を内包させてもよい。
支持体の材質としては、移植後に、毛包原基の上皮系細胞側の部分と被験動物側の上皮系細胞との連結を促進させることができるものであれば、特別な限定はない。支持体の材質として具体的には、例えば、ナイロン等のポリマーや合成又は天然の生体吸収可能なポリマーより作られた繊維、ステンレス等の金属繊維、炭素繊維、及びガラス繊維等の化学繊維、並びに天然の動物繊維(生体由来の毛髪等)や植物繊維等を挙げられる。支持体の材質としてより具体的には、例えば、ナイロン糸やステンレス線等を挙げられる。
支持体の直径及び長さは、再生対象となる部分により適宜設計することができる。直径は、例えば、5μm以上100μm以下であってよく、20μm以上50μm以下であってよい。また、長さは、例えば、1mm以上10mm以下であってよく、4mm以上6mm以下であってよい。
【0076】
≪複数の再生毛包原基の移植方法≫
本発明の一実施形態に係る複数の再生毛包原基の移植方法は、上述の複数の再生毛包原基の製造方法により得られた複数の毛包原基を、前記微小凹部の規則的な配置を保ちながら、被験動物の毛包欠損部に移植する工程を備える方法である。
【0077】
本実施形態の移植方法によれば、簡便に、規則的且つ高密度の毛包組織を再生することができる。また、本実施形態の移植方法において用いられる複数の再生毛包原基は、優れた毛髪再生効率を有するものである。さらに、本実施形態の移植方法において、内部に毛細血管構造を有する複数の再生毛包原基を用いる場合、移植後、毛包原基内部の毛細血管構造と被験動物(移植体)の血管とが連通し、栄養成分を得ることにより、移植部において、高い毛包誘導能を発揮することができる。
【0078】
[移植工程]
毛包原基は、例えば、上述の微小凹部と同様の規則的な配置である複数のチップ、ニードル、又はノズルを有するマルチピペットを用いて吸引する。次いで、被験動物の毛包欠損部に規則的な配置のまま毛包原基を移植する。規則的な配置を保つことにより、正常な毛包組織の配置をより正確に再現した毛包組織を再生することができる。マルチピペットは手動のものでもよく、全自動のものでもよい。
なお、被験動物としては、ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物であることが好ましく、ヒトであることがより好ましい。
【0079】
本明細書において、「マルチピペット」とは、複数のチップ、ニードル又はノズルを先端に有し、上述の微小凹部と同様の規則的な配置でチップ、ニードル又はノズルが備えられており、毛髪原基を吸引及び排出できるものであれば、特別な限定はない。材質は、細胞に有害なものでなければ特別な限定はなく、また、マルチピペットに装着するチップ、ニードル又はノズルの先端の口径は、マイクロ凹版の微小凹部に差し込むことができる程度の大きさであれば、特別な限定はない。
【0080】
また、移植深度としては、再生対象となる部位により適宜変更することができる。例えば0.05mm以上5mm以下であってよく、例えば0.1mm以上1mm以下であってよく、例えば0.3mm以上0.5mm以下であってよい。
また、移植する部位としては、被験動物の真皮層内に移植することが好ましく、毛包形成及びその後の毛髪再生効率が優れることから、真皮及び皮下組織の境界面より上方とすることがより好ましい。また、移植創上端部に毛包原基の上皮系細胞成分の上端部が露出するよう移植深度を調節すると、さらに被験動物の上皮系細胞との連続性を高めることができるため、好ましい。
【0081】
≪毛包組織含有シートの移植方法≫
本実施形態の毛包組織含有シートは、当業者に公知の方法で対象となる部位に移植することができる。例えば、シャピロ式植毛術やチョイ式植毛器を用いた植毛、空気圧を利用したインプランター等を使用し、移植することができる。シャピロ式植毛術とは、移植部位をマイクロメス等で移植創を作った後に、ピンセットを用いて移植する方法である。
本実施形態の毛包組織含有シートの大きさは、被験動物の年齢、性別、症状、治療部位、治療時間等を勘案して適宜調節される。
【0082】
また、移植深度及び移植部位としては、上述の複数の再生毛包原基の移植方法に記載のものと同様のものが挙げられる。
本実施形態の毛包組織含有シートにおいて、皮膚接合用のテープやバンド、縫合等により、毛包組織含有シートと移植対象部位とを固定してもよい。
【0083】
本実施形態の毛包組織含有シートにおいて、上述の支持体を内包している場合は、再生毛包原基を移植後しばらくして、被験動物の上皮系細胞と毛包原基の上皮系細胞由来の側との連続性が確保された後、移植部位より抜くことができる。移植後の状態により適宜設定することができるが、例えば、移植後3日以上7日以下で移植部位から抜くことが好ましい。又は、支持体が、自然と移植部位より抜けるまで放置することもできる。生体吸収性の材料の支持体は、自然と移植部位より抜けるか、分解又は吸収されるまで放置することができる。
【0084】
また、本実施形態の毛包組織含有シートにおいて、上述の支持体を内包している場合は、毛包原基の上皮系細胞由来の細胞が、支持体に沿って伸長する。これにより、移植後の被験動物側の上皮系細胞と毛包原基の上皮系細胞側との連続性を向上させることができる。特に、支持体が移植部位の表皮より外に維持される場合には、被験動物側の上皮系細胞が、異物を排除するように、支持体に沿って移植部位の内側へ伸長するため、連続性をさらに向上させることができる。さらに、意図した方向へ毛包形成を促すことができる。その結果、毛包原基からの毛髪再生効率を向上させることができるとともに、発毛方向の制御も可能となる。
【0085】
≪毛包組織の再生治療方法≫
一実施形態において、本発明は、治療的に有効量の上述の製造方法により得られた複数の再生毛包原基を含む毛包再生治療剤を提供する。
また、一実施形態において、本発明は、治療的に有効量の上述の製造方法により得られた毛包組織含有シートを含む毛包再生治療剤を提供する。
また、一実施形態において、本発明は、前記毛包再生治療剤を含む、医薬組成物を提供する。
また、一実施形態において、本発明は、前記毛包再生治療剤を含む、医薬組成物を製造するための上述の製造方法により得られた複数の再生毛包原基の使用を提供する。
また、一実施形態において、本発明は、前記毛包再生治療剤を含む、医薬組成物を製造するための上述の製造方法により得られた毛包組織含有シートの使用を提供する。
また、一実施形態において、本発明は、上述の製造方法により得られた複数の再生毛包原基の有効量を、治療を必要とする患者に移植することを含む、疾患や事故等による表皮の欠損又は脱毛等の毛髪欠損部位の治療方法を提供する。
また、一実施形態において、本発明は、上述の製造方法により得られた毛包組織含有シートの有効量を、治療を必要とする患者に移植することを含む、疾患や事故等による表皮の欠損又は脱毛等の毛髪欠損部位の治療方法を提供する。
【0086】
本実施形態の毛包組織の再生治療方法において、移植対象となる組織としては、毛包を再生し、さらに毛髪を再生したい体表皮であれば、特別な限定はなく、例えば、頭皮等が挙げられる。
また、適用可能な疾患としては、脱毛を伴う任意の疾患であって、例えば男性型脱毛症(Androgenetic Alopecia:AGA)、女子男性型脱毛症(Female Androgenetic Alopecia:FAGA)、分娩後脱毛症、びまん性脱毛症、脂漏性脱毛症、粃糠性脱毛症、牽引性脱毛症、代謝異常性脱毛症、圧迫性脱毛症、円形脱毛症、神経性脱毛症、抜毛症、全身性脱毛症、症候性脱毛症等が挙げられ、これらに限定されない。
【0087】
治療対象としては、特別な限定はなく、哺乳動物が好ましい、哺乳動物としては、例えば、霊長類(例えばヒト、サル、チンパンジー等)、げっ歯類(例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター等)、有蹄類(例えばウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等)、及び愛玩動物(例えばイヌ、ネコ、ウサギ等)が挙げられ、中でも、ヒトが好ましい。
【0088】
≪毛髪再生用キット≫
本発明の一実施形態に係る毛髪再生用キットは、マイクロ凹版と、FGFと、を備える。また、前記マイクロ凹版は、規則的な配置の微小凹部を備え、且つ、酸素透過性を有する材質からなる。
【0089】
本実施形態の毛髪再生用キットによれば、規則的な配置の微小凹部を備えるマイクロ凹版を用いることで、哺乳動物の毛包組織と類似し、規則的且つ高密度で毛包原基を再生することができる。また、培養時にFGFを含む培地を用いることで、形成された毛包原基において、優れた毛髪再生効率を達成することができる。
【0090】
本実施形態の毛髪再生用キットが備えるマイクロ凹版及びFGFとしては、上述の複数の再生毛包原基の製造方法において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0091】
本実施形態の毛髪再生用キットは、さらに、培地を備えていてもよい。
前記培地としては、上述の複数の再生毛包原基の製造方法において例示されたものと同様のものが挙げられる。
中でも、本実施形態の毛髪再生用キットが備える培地としては、間葉系細胞増殖用培地、上皮系細胞増殖用培地及び血管内皮系細胞増殖用培地からなる群から選択される1種類以上であることが好ましい。
本実施形態の毛髪再生用キットを用いて複数の再生毛包原基の製造するために、間葉系細胞及び上皮系細胞のみを用いる場合は、間葉系細胞増殖用培地及び上皮系細胞増殖用培地であることが好ましい。
本実施形態の毛髪再生用キットを用いて複数の再生毛包原基の製造するために、間葉系細胞、上皮系細胞及び血管を構築し得る細胞を用いる場合は、間葉系細胞増殖用培地、上皮系細胞増殖用培地及び血管内皮系細胞増殖用培地であることが好ましい。
前記間葉系細胞増殖用培地、前記上皮系細胞増殖用培地及び前記血管内皮系細胞増殖用培地としては、上述の複数の再生毛包原基の製造方法において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0092】
本実施形態の毛髪再生用キットは、さらに、生体適合性ハイドロゲルを備えていてもよい。該生体適合性ハイドロゲルを備えることで、毛包組織含有シートを製造することができる。
前記生体適合性ハイドロゲルとしては、上述の毛包組織含有シートの製造方法において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0093】
本実施形態の毛髪再生用キットは、さらに、得られた複数の再生毛包原基又は毛包組織含有シートを移植するために使用する器具等を備えていてもよい。
前記器具として具体的には、例えば、ピンセット、マルチピペット等が挙げられ、これらに限定されない。
本実施形態の毛髪再生用キットは、さらに、支持体を備えていてもよい。
支持体としては、上述の毛包組織含有シートの製造方法において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0094】
≪発毛促進又は抑制物質をスクリーニングする方法≫
本発明の一実施形態に係る発毛促進又は抑制物質をスクリーニングする方法は、以下の工程1~3を備える方法である。
工程1:間葉系細胞及び上皮系細胞に候補物質を接触させる工程
工程2:培養容器に、前記候補物質に接触させた前記間葉系細胞及び前記上皮系細胞、並びに、対照として前記候補物質に接触させていない間葉系細胞及び上皮系細胞をそれぞれ播種し、線維芽細胞増殖因子を含む培地を用いて、酸素を供給しながら共培養することにより、前記培養容器内に候補物質と接触させた毛包原基及び対照毛包原基を形成させる工程
工程3:前記候補物質と接触させた毛包原基において、前記対照毛包原基よりも早く毛幹様構造が形成された場合、前記候補物質を発毛促進物質と判断し、前記対照毛包原基よりも遅く毛幹様構造が形成された場合、発毛抑制物質であると判断し、前記対照原基と毛幹様構造が形成された時期が同じ場合、発毛抑制物質及び発毛抑制物質のいずれでもないと判断する工程
【0095】
本実施形態のスクリーニング方法によれば、目視又は顕微鏡等による観察を行うことで、簡便に発毛促進又は抑制物質をスクリーニングすることができる。
本実施形態のスクリーニング方法を構成する各工程について、以下に詳細を説明する。
【0096】
[工程1 ]
工程1は、間葉系細胞及び上皮系細胞に候補物質を接触させる工程である。
間葉系細胞及び上皮系細胞としては、上述の複数の再生毛包原基の製造方法において例示されたものと同様のものが挙げられる。
また、間葉系細胞及び上皮系細胞に加えて、さらに、血管を構築し得る細胞も同時に候補物質に接触させてもよい。
血管を構築し得る細胞としては、上述の複数の再生毛包原基の製造方法において例示されたものと同様のものが挙げられる。
また、本明細書において、「候補物質」には、例えば、有機又は無機の化合物(特に、低分子量の化合物) 、タンパク質、ペプチド等が含まれる。
【0097】
接触時間については、特別な限定はなく、工程1の後に続く、工程2及び工程3においても、候補物質の存在下で行ってもよい。
接触条件としては、特別な限定はなく、細胞混合懸濁液中の各細胞が生存可能な条件であればよい。具体的には、例えば、25℃以上40℃未満(好ましくは、37℃)の温度で、5%CO2環境下等が挙げられる。
【0098】
[工程2]
工程2は、培養容器内に候補物質と接触させた毛包原基及び対照毛包原基を形成させる工程である。
工程2として具体的には、まず、培養容器に、候補物質と接触させた間葉系細胞及び上皮系細胞の細胞混合懸濁液を注入する。また、対照として、候補物質とさせていない間葉系細胞及び上皮系細胞の細胞混合懸濁液も準備し、培養容器に注入する。
培養容器の材質は、細胞培養に適したものであればよく、特別な限定はない。例えば、透明なガラス、ポリマー材等が挙げられる。中でも、より短時間で毛包原基を形成できることから、酸素透過性を有するポリマー材が好ましい。酸素透過性を有するポリマー材として具体的には、例えば、フッ素樹脂、シリコンゴム(例えば、ポリジメチルシロキサン(poly(dimethylsiloxane):PDMS)等)等が挙げられる。これらの材質を単独で使用してもよいし、組み合わせて使用してもよい。
【0099】
次いで、播種された混合細胞を、FGFを含む培地を用いて、酸素を供給しながら共培養する。培養時間は、1日以上14日以下(好ましくは、8日程度)であってよく、培養温度は25℃以上40℃未満(好ましくは、37℃)であってよい。
後述の実施例に示すように、FGFの添加有無にかかわらず、培養から3日程度で毛包原基が形成される。さらに、培養を続けることで、FGFを含まない培地を用いた毛包原基では、毛幹様構造が形成されるまで培養開始から12日程度要する。これに対し、FGFを含有する培地を用いた毛包原基では、毛幹様構造が形成されるまで培養開始から8日程度と短時間で形成される。また、培養容器内というin vitro試験系において、毛包原基が毛幹様構造を形成し得ることは、今回、本発明者らが初めて見出したことである。
【0100】
使用するFGF及び培地としては、上述の複数の再生毛包原基の製造方法において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、FGFとしては、FGF2(塩基性FGF、bFGF)であることが好ましい。
【0101】
[工程3]
工程3は、前記毛包原基における毛幹様構造の形成状態から前記候補物質を発毛促進物質又は発毛抑制物質であると判断する工程である。
候補物質と接触していない毛包原基(以下、「対照毛包原基」と称する場合がある)において毛幹様構造が形成されたタイミングと比較することで、候補物質を発毛促進物質又は発毛抑制物質と判断することができる。具体的には、候補物質と接触させた毛包原基において、対照毛包原基よりも早く毛幹様構造が形成された場合には、候補物質が発毛促進物質であると判断できる。一方、候補物質と接触させた毛包原基において、対照毛包原基よりも遅く毛幹様構造が形成された場合又は毛幹様構造が形成されていない場合、候補物質が発毛抑制物質であると判断できる。また、候補物質と接触させた毛包原基において、対照毛包原基と同程度の培養日数で毛幹様構造が形成された場合には、候補物質は、発毛促進作用及び発毛抑制作用のいずれも有しないと判断できる。
【0102】
また、対照毛包原基を作製していない場合には、培養日数によって、判断することができる。具体的には、培養開始から3日以上14日以下における毛包原基について、目視又は顕微鏡等による観察を行うことで、毛幹様構造の形成有無を確認する。毛幹様構造が形成されたタイミングが培養開始から3日以上8日未満である場合、候補物質が発毛促進物質であると判断できる。一方、毛幹様構造が形成されたタイミングが培養開始から9日以上14日以下、又は、毛幹様構造が形成されていない場合、候補物質が発毛抑制物質であると判断できる。また、毛幹様構造が形成されたタイミングが培養開始から8日程度である場合、候補物質は、発毛促進作用及び発毛抑制作用のいずれも有しないと判断できる。
【0103】
さらに、毛包原基における発毛に関連するマーカー遺伝子(例えば、Versican遺伝子、Nexin遺伝子、Igfbp5遺伝子、Tgfβ2遺伝子等)の発現量をRT-PCR等により確認してもよい。毛幹様構造の形成有無と、前記マーカー遺伝子の発現量とから、より正確に、候補物質を発毛促進物質又は発毛抑制物質と判断することができる。
【実施例】
【0104】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0105】
[実施例1]複数のマウス再生毛包原基の製造(活性型PRPの添加)
1.マイクロ凹版の作製
マイクロ凹版の作製方法の概略図を
図5に示す。具体的には、CADソフト(V Carve Pro 6.5)を用いて、作製するマイクロ凹版のパターンをコンピューターで設計した。続いて、切削機を用いて、設計したパターン通りにオレフィン系基板を切削することで、パターンをもつ凹鋳型を作製した(工程(I))。この凹鋳型にエポキシ樹脂(クリスタルリジン:日新レジン社製)を流しこみ(工程(II))、1日硬化させた後(工程(III))、離型することで、パターンをもつ凸鋳型を形成した(工程(IV))。続いて、形成した凸鋳型を6cmディッシュ底面に固定し、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を流し込み(工程(V))、固化した(工程(VI))。続いて、離型することで、PDMSに規則的なパターンが形成されたマイクロ凹版を作製した(工程(VII))。なお、マイクロ凹版のパターンデザインは、日本人の頭髪の平均毛包密度に合わせて作製した。マイクロ凹版のサイズとして具体的には、高さ1cm、2cm×2cm四方の容器の底面に直径約1mm、高さ500μmのウェルが約100ウェル/cm
2の密度で配置された容器が得られた。
【0106】
2.多血小板血漿(活性型PRP)の調製
次に、多血小板血漿(Platelet Rich Plasma;PRP)を調製した。具体的には、まず、吸引麻酔下で妊娠マウスを開腹し、26G注射針を心臓に突き刺し、約1mLの血液をシリンジに採取した(この時、シリンジにあらかじめ血液抗凝固剤ACD-A液を0.1mL加えておいた)。なお、血液抗凝固剤ACD-A液の組成は、2.2wt%クエン酸Na、0.8wt%クエン酸2水和物及び2.2wt%グルコースである。続いて、採取した血液を1560×gで10分間遠心することで、沈殿した赤血球を除去し、上清を得た。さらに、得られた上清を2340×gで10分間遠心することで、PRPを回収した。回収したPRPと10wt%の塩化カルシウム溶液を7:1で混合し、ゲルを形成させた。形成したゲルを16100×gで10分遠心することで、活性型PRP(PRP-releasate;PRPr)溶液を回収した。
【0107】
3.毛包原基の形成
(1)間葉系細胞及び上皮系細胞の採取
胎齢18日齢のC57BL/6マウス胎児より背部皮膚を採取し、豊島らが報告した方法(非特許文献2)を一部改変した方法を用いて、間葉系細胞及び上皮系細胞を採取した。より具体的には、妊娠マウスC57BL/6jjclの子宮内の胎齢18日齢のマウス胎児の背部皮膚を採取し、Dispase(登録商標)II(Wako社製)による処理を4℃で30rpmの振盪条件で1時間行い、上皮層と間葉層とを分離した。次いで、上皮層は100U/mLのコラゲナーゼ(Wako社製)による処理を2時間、さらにトリプシンによる処理を10分行い、上皮系細胞を単離した。一方、間葉層は100U/mLのコラゲナーゼ(Wako社製)による処理を2時間行い、間葉系細胞を単離した。
【0108】
(2)毛包原基形成工程
続いて、ポロキサマー処理したマイクロ凹版に、採取した上皮系細胞及び間葉系細胞の細胞混合懸濁液を、それぞれの細胞が4×103cells/ウェルずつ(全細胞数8×103cells/ウェル)となるように注入し、3日間培養した。使用した培地(以下、「PRPr+」と称する場合がある)の組成は、以下の表1に示すとおりである。また、対照として、活性型PRP(PRPr)溶液を含有せず、間葉系細胞培養培地と上皮系細胞培地とを1:1で混合した培地(以下、「PRPr-」と称する場合がある)を用いて、同様に3日間培養した。培地交換は毎日行った。
【0109】
【0110】
(3)観察結果
培養開始から3日目に、倒立型位相差顕微鏡(IX-71、MI-IBC OLYMPUS社製)を用いて観察した。結果を
図6A(PRPr+)及び
図6B(PRPr-)に示す。
【0111】
図6A及び
図6Bから、PRPrの添加有無にかかわらず、播種した2種類の細胞は、1つの凝集体を形成した後、3日間の培養中に凝集体内で同種細胞同士が集合しあい、毛包原基を形成した。
【0112】
(4)Versican遺伝子、Nexin遺伝子、Igfbp5遺伝子及びTgfβ2遺伝子のRT-PCR解析
(2)でPRPr+又はPRPr-条件下で形成された毛包原基について、発毛に関連するマーカー遺伝子(Versican遺伝子、Nexin遺伝子、Igfbp5遺伝子及びTgfβ2遺伝子)の発現を評価した。
【0113】
(4-1)RNA抽出
まず、PRPr+又はPRPr-条件下で形成された毛包原基をそれぞれ15mLチューブに回収し、各毛包原基が沈殿したら、1mLの溶液となるように上澄みの培地を除去した。次いで、1mLとなった各毛包原基を含む溶液を1.5mLマイクロチューブに移しかえた。
次いで、4℃、5000rpmで、3分間遠心した。この操作は、残存する培地を捨てるため、各毛包原基を沈殿させると同時に、遠心分離機内の予冷のために行った。次いで、上清(培地)を捨てた後、Buffer RLTを350μL加え、よくピペッティングした。次いで、ピペッティング後の溶液をQIA Shredderスピンカラムに回収し、4℃、10000rpmで、2分間遠心した。次いで、QIA Shredderスピンカラムの上部を捨て、コレクションチューブ内の溶液に70%エタノールを350μL加え、RNeasyスピンカラムに移した。次いで、4℃、10000rpmで、15秒間遠心した。次いで、コレクションチューブ内の濾液を捨て、Buffer RW1を700μL加え、4℃、10000rpmで、15秒間遠心した。次いで、コレクションチューブ内の濾液を捨て、Buffer RPEを500μL加え、4℃、10000rpmで、15秒間遠心した。次いで、コレクションチューブ内の濾液を捨て、Buffer RPEを500μL加え、4℃、10000rpmで、2分間遠心した。次いで、新しい2mLコレクションチューブに遠心後のカラムを移し、4℃、10000rpmで、1分間遠心した。これは、残存するBuffer RPEを除去するために行った。次いで、1mLマイクロチューブに遠心後のカラムを移し、RNase free waterを30μL加え、4℃、10000rpmで、1分間遠心した。次いで、遠心後のカラムが設置された1mLマイクロチューブに、再度RNase free waterを30μL加え、4℃、10000rpmで、1分間遠心し、RNA溶解液を得た。
【0114】
(4-2)RT-PCR
次いで、得られたRNA溶解液のRNA濃度を測定し、それぞれ150μg/mLとなるように希釈した。次いで、RNA希釈液を65℃で、5分間インキュベートし、その後氷上で冷却した。次いで、マイクロチューブに下記表2に示す組成の溶液を加え、透明フィルムで覆った。表2において、RNAとは、PRPr+又はPRPr-条件下で形成された毛包原基のRNA溶解液を示す。
【0115】
【0116】
次いで、サーマルサイクラーにセットし、しっかり閉まっていることを確認した。次いで、37℃で15分間、98℃で5分間の逆転写反応を行い、PRPr+条件下で形成された毛包原基のRNAの逆転写産物であるcDNA、及びPRPr-条件下で形成された毛包原基のRNAの逆転写産物であるcDNAをそれぞれ得た。
【0117】
次いで、マイクロチューブに下記表3に示す組成の溶液を加え、透明フィルムで覆った。表3において、DNAとは、PRPr+条件下で形成された毛包原基のRNAの逆転写産物であるcDNA、及びPRPr-条件下で形成された毛包原基のRNAの逆転写産物であるcDNAを示す。さらに、PCRで用いたプライマーの塩基配列について、表4に示す。
【0118】
【0119】
【0120】
次いで、サーマルサイクラーにセットし、しっかり閉まっていることを確認した。次いで、95℃で4分間、(95℃で5秒間、60℃で60秒間)×45サイクル、72℃で10分間のプロトコールにてPCRを行った。コントロールとして、GAPDHの発現量を測定した。結果を
図7A(Versican)、
図7B(Nexin)、
図7C(Igfbp5)及び
図7D(Tgfβ2)に示す。なお、
図7A~
図7Dにおいて、PRPr-条件下での各遺伝子の発現量を1としたときのPRPr+条件下での各遺伝子の発現量を示している。
【0121】
図7A~
図7Dから、PRPr-条件下で形成された毛包原基と比較して、PRPr+条件下で形成された毛包原基では、Versican、TGFβ2、Nexin及びIgfbp5のいずれの遺伝子の発現も上昇していた。
このことから、PRPrが毛包原基の培養において毛髪再生を促進する可能性が示唆された。
【0122】
[試験例1]ヌードマウスを用いた皮下移植試験1
(1)ヌードマウスへの皮下移植
実施例1で得られたPRPr+条件下で形成された毛包原基をヌードマウス皮内にパッチ法を用いて移植した。動物の飼育及び動物実験は、横浜国立大学動物実験委員会の指針に遵守して行った。対照として、PRPr-条件下で形成された毛包原基についても同様に移植した。
具体的には、まず、ヌードマウスにイソフルラン吸引麻酔を行い、背部をイソジンで消毒した。次いで、Vランスマイクロメス(日本アルコン社製)を用いて、皮膚表皮層から真皮層下部に至る移植創を形成した。次いで、実施例1で得られたPRPr+条件下で形成された毛包原基各30個/1箇所、又はPRPr-条件下で形成された毛包原基各30個/1箇所を合計3箇所(合計90個)の移植創に挿入した。移植から3週間後のヌードマウスの移植部での再生毛髪の様子を
図8A(PRPr+)及び
図8B(PRPr-)に示す。
【0123】
図8A及び
図8Bから、PRPr+条件下で形成された毛包原基を移植した移植部では、黒い毛が大量に形成されていた。また、PRPr-条件下で形成された毛包原基を移植した移植部と比較して、毛の再生数が多い様子が観察された。また、PRPr+又はPRPr-のいずれの条件下で形成された毛包原基を移植した移植部においても、再生された毛髪はキューティクル構造を有する形態的に正常な毛が形成されていた。
【0124】
また、移植部の皮膚を採取し、コラゲナーゼ溶液に1時間浸漬させた後、再生した毛髪をばらばらにほぐし、再生した毛髪の本数を計測した。結果を
図9に示す。
【0125】
図9から、毛髪の再生本数は、PRPr+条件下で形成された毛包原基では、約42本であったのに対し、PRPr-条件下で形成された毛包原基では約24本であり、約1.75倍程度多かった。
以上のことから、多血小板血漿を含む培地で培養した毛包原基が高い毛包誘導能を有することが示された。
【0126】
[実施例2]複数のマウス再生毛包原基の製造(FGFの添加)
続いて、PRPr内に豊富に含まれる毛髪再生因子である線維芽細胞成長因子2(Fibroblast Growth Factor 2;FGF2)に着目し、毛包原基への添加による毛包誘導能の向上について検討した。なお、FGF2は、脱毛症治療法の一つであるHARG治療にも用いられている。また、一般的に、PRPr中にFGF2は250ng/mL程度含まれており、実施例1で毛包原基の形成時に使用された培地中のFGF2濃度は約15ng/mLであった。
【0127】
1.毛包原基の形成
(1)間葉系細胞及び上皮系細胞の採取
実施例1の「3.(1)」と同様の方法を用いて、マウス胎児から間葉系細胞及び上皮系細胞を採取した。
【0128】
(2)毛包原基形成工程
続いて、96ウェルマイクロプレート(住友ベークライト社製、Primesurface(登録商標) 96U Plate)に、採取した上皮系細胞及び間葉系細胞の細胞混合懸濁液を、それぞれの細胞が1.5×103cells/ウェルずつ(全細胞数3×103cells/ウェル)となるように注入し、培養した。使用した培地(以下、「FGF2+」と称する場合がある)の組成は、以下の表5に示すとおりである。また、対照として、繊維芽細胞成長因子2(FGF2)を含有せず、間葉系細胞培養培地と上皮系細胞培地とを1:1で混合した培地(以下、「FGF2-」と称する場合がある)を用いて、同様に培養した。培地交換は2~3日おきに行った。
【0129】
【0130】
(3)観察結果
培養開始から毎日、倒立型位相差顕微鏡(IX-71、MI-IBC OLYMPUS社製)を用いて観察した。結果を
図10に示す。
図10において、FGF2不含培地を用いて培養した間葉系細胞及び上皮系細胞については、培養23日目の顕微鏡像を示す。一方、FGF2含有培地を用いて培養した間葉系細胞及び上皮系細胞については、培養10日目の顕微鏡像を示す。
【0131】
培養3日目には、FGF2の添加有無にかかわらず、播種した2種類の細胞は、1つの凝集体を形成した後、3日間の培養中に凝集体内で同種細胞同士が集合しあい、毛包原基を形成した(図示せず)。
その後、FGF2+条件下で形成された毛包原基では、培養8日目に毛幹様構造の形成が観察された。一方、FGF2-条件下で形成された毛包原基では、培養12日目に同様の毛幹様構造の形成が観察された。
以上のことから、in vitro試験系において、FGF2の添加により毛包原基での毛髪再生が促進され、早期に毛幹様構造が観察されたと考えられる。in vitro試験系において、この毛包原基での毛幹様構造の形成は、非常に興味深い現象である。よって、発毛因子であるFGFにより毛幹様構造の形成が促進されたことから、発毛剤の評価ツール等、発毛促進作用又は発毛抑制作用を有する候補化合物のスクリーニングへの応用も期待できる。
【0132】
(4)Versican遺伝子及びTgfβ2遺伝子のRT-PCR解析
(2)でFGF2+又はFGF2-条件下で形成された毛包原基(培養10日目)について、発毛に関連するマーカー遺伝子(Versican遺伝子及びTgfβ2遺伝子)の発現を評価した。
【0133】
(4-1)RNA抽出
実施例1の(4-1)と同様の方法を用いて、RNA溶解液を調製した。
【0134】
(4-2)RT-PCR
(4-1)で得られたRNA溶解液について、実施例1の(4-2)と同様方法を用いて、RT-PCRを行い、FGF2+条件下で形成された毛包原基のRNAの逆転写産物であるcDNA、及びFGF2-条件下で形成された毛包原基のRNAの逆転写産物であるcDNAをそれぞれ得た。得られたcDNAについて、上記表3に示す組成の溶液を加え、さらに、上記表4に示すVersican遺伝子、Tgfβ2遺伝子及びGAPDH遺伝子のプライマーを用いて、PCRを行った。結果を
図11に示す。
【0135】
図11から、FGF2-条件下で形成された毛包原基と比較して、FGF2+条件下で形成された毛包原基では、Versican及びIgfbp5のいずれの遺伝子の発現も上昇していた。
このことから、FGF2が毛包原基の培養において毛髪再生を促進する可能性が示唆された。
【0136】
[参考例1]複数のマウス再生毛包原基の製造(不活性PRPの添加)
1.マイクロ凹版の作製
実施例1の「1.」と同様の方法を用いて、マイクロ凹版を作製した。
【0137】
2.多血小板血漿(不活性型PRP)の調製
次に、多血小板血漿(不活性型PRP)(以下、単に、「PRP」と称する場合がある)を調製した。具体的には、まず、吸引麻酔下で妊娠マウスを開腹し、26G注射針を心臓に突き刺し、約1mLの血液をシリンジに採取した(この時、シリンジにあらかじめ血液抗凝固剤ACD-A液を0.1mL加えておいた)。なお、血液抗凝固剤ACD-A液の組成は、2.2wt%クエン酸Na、0.8wt%クエン酸2水和物及び2.2wt%グルコースである。続いて、採取した血液を1560×gで10分間遠心することで、沈殿した赤血球を除去し、上清を得た。さらに、得られた上清を2340×gで10分間遠心することで、PRP(不活性型PRP)を回収した。
【0138】
3.毛包原基の形成
(1)間葉系細胞及び上皮系細胞の採取
実施例1の「3.(1)」と同様の方法を用いて、マウス胎児から間葉系細胞及び上皮系細胞を採取した。
【0139】
(2)毛包原基形成工程
続いて、ポロキサマー処理したマイクロ凹版に、採取した上皮系細胞及び間葉系細胞の細胞混合懸濁液を、それぞれの細胞が4×103cells/ウェルずつ(全細胞数8×103cells/ウェル)となるように注入し、3日間培養した。使用した培地の組成は、以下の表6に示すとおりである。また、対照として、多血小板血漿溶液を含有せず、間葉系細胞培養培地と上皮系細胞培地とを1:1で混合した培地(以下、「PRP-」又は「PRP-(0%)」と称する場合がある)を用いて、同様に3日間培養した。培地交換は毎日行った。
【0140】
【0141】
(3)観察結果
培養開始から3日目に、倒立型位相差顕微鏡(IX-71、MI-IBC OLYMPUS社製)を用いて観察した。結果を
図12に示す。
【0142】
図12から、PRP+では、いずれの濃度においても毛包原基の形成が阻害され、1つの球状の組織体を形成していた。球状の組織体のサイズはPRPの添加濃度に依存することから、血小板等が上皮系細胞及び間葉系細胞からなる組織体を形成したと推察された。
【0143】
(4)Versican遺伝子のRT-PCR解析
(2)においてPRP+(5%)条件下で形成された組織体又はPRP-条件下で形成された毛包原基(培養3日目)について、発毛に関連するマーカー遺伝子(Versican遺伝子)の発現を評価した。
【0144】
(4-1)RNA抽出
実施例1の(4-1)と同様の方法を用いて、RNA溶解液を調製した。
【0145】
(4-2)RT-PCR
(4-1)で得られたRNA溶解液について、実施例1の(4-2)と同様方法を用いて、RT-PCRを行い、PRP+(5%)条件下で形成された組織体のRNAの逆転写産物であるcDNA、及び、PRP-条件下で形成された毛包原基のRNAの逆転写産物であるcDNAをそれぞれ得た。得られたcDNAについて、上記表3に示す組成の溶液を加え、さらに、上記表4に示すVersican遺伝子及びGAPDH遺伝子のプライマーを用いて、PCRを行った。結果を
図13に示す。
【0146】
図13から、PRP+(5%)条件下で形成された組織体、及び、PRP-条件下で形成された毛包原基でのVersican遺伝子の発現を比較した結果、PRP+(5%)条件下で形成された組織体では、Versican遺伝子の発現はほとんど向上しなかった。これは、PRPに含まれる血小板が活性化していないためであると推察された。
【0147】
実施例1ではカルシウム溶液と接触させることで活性型PRPが得られたことから、活性型PRPを用いることで、毛包原基の毛髪再生能を向上できることが明らかとなった。
【0148】
[実施例3]複数のマウス再生毛包原基の製造(FGFの添加量の検討1)
1.マイクロ凹版の作製
実施例1の「1.」と同様の方法を用いて、マイクロ凹版を作製した。
【0149】
2.多血小板血漿(活性型PRP)の調製
実施例1の「2.」と同様の方法を用いて、多血小板血漿(活性型PRP(PRPr))溶液を調製した。
【0150】
3.毛包原基の形成
(1)間葉系細胞及び上皮系細胞の採取
実施例1の「3.(1)」と同様の方法を用いて、マウス胎児から間葉系細胞及び上皮系細胞を採取した。
【0151】
(2)毛包原基形成工程
続いて、ポロキサマー処理したマイクロ凹版に、採取した上皮系細胞及び間葉系細胞の細胞混合懸濁液を、それぞれの細胞が4×103cells/ウェルずつ(全細胞数8×103cells/ウェル)となるように注入し、3日間培養した。使用した培地の組成は、以下の表7に示すとおりである。また、対照として、FGF2を含有せず、間葉系細胞培養培地と上皮系細胞培地とを1:1で混合した培地(以下、「FGF2-/PRPr-」と称する場合がある)、及び、FGF2を含有せず、活性型PRP溶液と間葉系細胞培養培地と上皮系細胞培地とを表7に示す混合比で混合した培地(以下、「FGF2-/PRPr+」と称する場合がある)を用いて、同様に3日間培養した。培地交換は毎日行った。
【0152】
【0153】
(3)Versican遺伝子のRT-PCR解析
(2)において各条件下で形成された毛包原基(培養3日目)について、発毛に関連するマーカー遺伝子(Versican遺伝子)の発現を評価した。
【0154】
(3-1)RNA抽出
実施例1の(4-1)と同様の方法を用いて、RNA溶解液を調製した。
【0155】
(3-2)RT-PCR
(3-1)で得られたRNA溶解液について、実施例1の(4-2)と同様方法を用いて、RT-PCRを行い、各条件下で形成された毛包原基のRNAの逆転写産物であるcDNAをそれぞれ得た。得られたcDNAについて、上記表3に示す組成の溶液を加え、さらに、上記表4に示すVersican遺伝子及びGAPDH遺伝子のプライマーを用いて、PCRを行った。結果を
図14(FGF2+のみ)及び
図15(FGF2-/PRPr-、FGF2-/PRPr+及びFGF2+(10ng/mL))に示す。なお、
図14及び
図15において、「Vcan」とは、Versicanの略称である。
【0156】
図14から、FGF2含有量が10ng/mLの条件下で培養した毛包原基のVersican遺伝子の発現が最も高い値を示した。
また、
図15から、FGF2+(10ng/mL)条件下で培養した毛包原基は、FGF2-/PRPr+条件下で培養した毛包原基よりもVersican遺伝子の発現が高く、3倍以上の発現量であった。
以上のことから、PRPrに含まれる含有成分のうち、FGF2が毛包再生の促進への寄与が高いことが示唆された。
【0157】
[実施例4]毛細血管構造を有する複数の再生毛包原基の製造
1.マイクロ凹版の作製
実施例1の「1.」と同様の方法を用いて、マイクロ凹版を作製した。
【0158】
2.多血小板血漿(活性型PRP)の調製
実施例1の「2.」と同様の方法を用いて、多血小板血漿(活性型PRP(PRPr))溶液を調製した。
【0159】
3.毛包原基の形成
(1)間葉系細胞及び上皮系細胞の採取
実施例1の「3.(1)」と同様の方法を用いて、マウス胎児から間葉系細胞及び上皮系細胞を採取した。
【0160】
(2)血管内皮細胞の準備
RFP遺伝子導入ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(RFP-HUVEC)(以下、単に「血管内皮細胞」と称する場合がある。)はコンフルエントになるまで培養しておいた。
【0161】
(3)毛包原基形成工程
続いて、ポロキサマー処理したマイクロ凹版に、上皮系細胞、間葉系細胞及び血管内皮細胞の細胞混合懸濁液を、上皮系細胞及び間葉系細胞がそれぞれ4×103cells/ウェルずつ、並びに、血管内皮細胞が1×103cells/ウェル(全細胞数9×103cells/ウェル)となるように注入し、3日間培養した。使用した培地の組成は、以下の表8に示すとおりである。また、対照として、FGF2を含有せず、間葉系細胞培養培地と上皮系細胞培地とを1:1で混合した培地(以下、「FGF2-/PRPr-」と称する場合がある)、及び、FGF2を含有せず、活性型PRP溶液と間葉系細胞培養培地と上皮系細胞培地とを表8に示す混合比で混合した培地(以下、「FGF2-/PRPr+」と称する場合がある)を用いて、同様に3日間培養した。培地交換は毎日行った。
【0162】
【0163】
(4)観察結果
培養開始から3日目に、倒立型蛍光顕微鏡(DP-71、OLYMPUS社製)を用いて観察した。結果を
図16に示す。
【0164】
図16から、FGF2及びPRPrの添加の有無にかかわらず、播種した3種類の細胞は、1つの凝集体を形成した。さらに、3日間の培養中に凝集体内で同種細胞同士が集合しあい、血管網を有する毛包原基が形成された(
図16の上の画像、参照)。なお、血管網は、毛包原基の間葉系細胞の凝集体内にのみ形成されていた(
図16の下の画像、参照)。
【0165】
(5)Versican遺伝子のRT-PCR解析
(3)において各条件下で形成された毛包原基(培養3日目)について、発毛に関連するマーカー遺伝子(Versican遺伝子)の発現を評価した。
【0166】
(5-1)RNA抽出
実施例1の(4-1)と同様の方法を用いて、RNA溶解液を調製した。
【0167】
(5-2)RT-PCR
(5-1)で得られたRNA溶解液について、実施例1の(4-2)と同様方法を用いて、RT-PCRを行い、各条件下で形成された毛包原基のRNAの逆転写産物であるcDNAをそれぞれ得た。得られたcDNAについて、上記表3に示す組成の溶液を加え、さらに、上記表4に示すVersican遺伝子及びGAPDH遺伝子のプライマーを用いて、PCRを行った。結果を
図17に示す。
【0168】
図17から、FGF2-/PRPr+、並びに、FGF2+(10ng/mL及び40ng/mL)条件下で培養した毛包原基は、FGF2-/PRPr-条件下で培養した毛包原基と比較して、Versican遺伝子の発現量が高かった。特に、FGF2+(10ng/mL)条件下で培養した毛包原基でのVersican遺伝子の発現量が最も高かった。
【0169】
[実施例5]複数のマウス再生毛包原基の製造(FGFの添加量の検討2)
マウス胎児から採取された細胞では毛髪再生能が高く、成体に成長するほどその能力が落ちることが報告されている。そこで、マウス成体から採取された細胞を用いて、毛包原基を製造する場合でのFGFの添加量を検討した。
【0170】
1.マイクロ凹版の作製
実施例1の「1.」と同様の方法を用いて、マイクロ凹版を作製した。
【0171】
2.毛包原基の形成
(1)間葉系細胞及び上皮系細胞の採取
豊島らが報告した方法(非特許文献2)を一部改変した方法を用いて、成体マウスの顎鬚毛包から間葉系細胞及び上皮系細胞を採取した。
【0172】
(2)毛包原基形成工程
続いて、ポロキサマー処理したマイクロ凹版に、採取した上皮系細胞及び間葉系細胞の細胞混合懸濁液を、それぞれの細胞が1×104cells/ウェルずつ(全細胞数2×104cells/ウェル)となるように注入し、3日間培養した。使用した培地の組成は、以下の表9に示すとおりである。また、対照として、FGF2を含有せず、間葉系細胞培養培地と上皮系細胞培地とを1:1で混合した培地(以下、「FGF2-」と称する場合がある)を用いて、同様に3日間培養した。培地交換は毎日行った。
【0173】
【0174】
(3)Versican遺伝子及びWnt10b遺伝子のRT-PCR解析
(2)において各条件下で形成された毛包原基(培養3日目)について、毛髪再生効率の指標であって、間葉系細胞のマーカー遺伝子である(Versican遺伝子)、及び、毛髪再生効率の指標であって、上皮系細胞のマーカー遺伝子(Wnt10b遺伝子)の発現を評価した。
【0175】
(3-1)RNA抽出
実施例1の(4-1)と同様の方法を用いて、RNA溶解液を調製した。
【0176】
(3-2)RT-PCR
(3-1)で得られたRNA溶解液について、実施例1の(4-2)と同様方法を用いて、RT-PCRを行い、各条件下で形成された毛包原基のRNAの逆転写産物であるcDNAをそれぞれ得た。得られたcDNAについて、上記表3に示す組成の溶液を加え、さらに、上記表4に示すVersican遺伝子のプライマー、及び、以下の表10に示すWnt10b遺伝子のプライマーを用いて、PCRを行った。代表的な結果として、10ng/mL、50ng/mL及び100ng/mLのFGF2条件下で培養した毛包原基での各遺伝子の相対的な発現量を
図18に示す。なお、
図18において、「Vcan」とは、Versicanの略称である。
【0177】
【0178】
図18から、FGF2含有量が高くなるほど、毛包原基のVersican遺伝子及びWnt10b遺伝子の発現が高まる傾向が示された。
また、
図18から、FGF2+(100ng/mL)条件下で培養した毛包原基は、FGF2+(10ng/mL)条件下で培養した毛包原基よりもVersican遺伝子及びWnt10b遺伝子の発現が高く、3倍以上の発現量であった。
以上のことから、成体から採取された細胞を用いた場合には、FGF2をより多く添加することが有効であることが示唆された。
【0179】
[試験例2]ヌードマウスを用いた皮下移植試験2
(1)ヌードマウスへの皮下移植
実施例5で得られた毛包原基のうち、FGF2+(10ng/mL及び100ng/mL)条件下で形成された毛包原基をそれぞれヌードマウス皮内に、試験例1と同様に、パッチ法を用いて移植した。対照として、FGF2-(0ng/mL)条件下で形成された毛包原基についても同様に移植した。
移植から3週間後のヌードマウスの移植部での再生毛髪の様子を
図19に示す。
【0180】
図19から、FGF2-(0ng/mL)条件下で形成された毛包原基を移植した移植部では、発毛が確認されなかったのに対し、FGF2+(10ng/mL及び100ng/mL)条件下で形成された毛包原基では、黒い毛が大量に形成されていた。また、FGF2の添加濃度が高いほど、毛髪の再生数が多い様子が観察された。
また、図示しないが、実施例5と同様の方法を用いて、FGF2+(200ng/mL)条件下で形成された毛包原基をヌードマウス皮内に移植した結果、毛髪の再生が確認された。
【0181】
[実施例6]複数のマウス再生毛包原基の製造(PRPr中の有効成分の検討)
PRPr中には、FGF以外にも各種サイトカインが含まれることが知られている。そこで、FGFの代わりに、PDGF又はVEFGを添加した培地を用いて、毛包原基を製造する場合でのマーカー遺伝子の発現量を検討した。
【0182】
1.マイクロ凹版の作製
実施例1の「1.」と同様の方法を用いて、マイクロ凹版を作製した。
【0183】
2.毛包原基の形成
(1)間葉系細胞及び上皮系細胞の採取
実施例1の「3.(1)」と同様の方法を用いて、マウス胎児から間葉系細胞及び上皮系細胞を採取した。
【0184】
(2)毛包原基形成工程
続いて、ポロキサマー処理したマイクロ凹版に、採取した上皮系細胞及び間葉系細胞の細胞混合懸濁液を、それぞれの細胞が4×103cells/ウェルずつ(全細胞数8×103cells/ウェル)となるように注入し、3日間培養した。使用した培地の組成としては、間葉系細胞培養培地(DMEM+10%FBS+1%P/S)と上皮系細胞培養培地(HuMedia-KG2培地(倉敷紡績社製))とを1:1で混合した培地に、FGF、PDGF又はVEGFをそれぞれ0ng/mL、1ng/mL、10ng/mL又は100ng/mLとなるように添加した培地を用いた。培地交換は毎日行った。
【0185】
(3)Versican遺伝子及びWnt10b遺伝子のRT-PCR解析
(2)において各条件下で形成された毛包原基(培養3日目)について、毛髪再生効率の指標であって、間葉系細胞のマーカー遺伝子である(Versican遺伝子)、及び、毛髪再生効率の指標であって、上皮系細胞のマーカー遺伝子(Wnt10b遺伝子)の発現を評価した。
【0186】
(3-1)RNA抽出
実施例1の(4-1)と同様の方法を用いて、RNA溶解液を調製した。
【0187】
(3-2)RT-PCR
(3-1)で得られたRNA溶解液について、実施例1の(4-2)と同様方法を用いて、RT-PCRを行い、各条件下で形成された毛包原基のRNAの逆転写産物であるcDNAをそれぞれ得た。得られたcDNAについて、上記表3に示す組成の溶液を加え、さらに、上記表4に示すVersican遺伝子のプライマー、及び、上記表10に示すWnt10b遺伝子のプライマーを用いて、PCRを行った。結果を
図20A~20Eに示す。
【0188】
図20A~20Eから、PRPrに含まれる成分であるFGF2、PDGF及びVEGFのいずれも毛髪再生に関わるVersican遺伝子及びWnt10b遺伝子の発現向上に寄与することが明らかとなった。
【0189】
[実施例7]複数のマウス再生毛包原基の製造(ヒト毛乳頭細胞の使用)
1.マイクロ凹版の作製
実施例1の「1.」と同様の方法を用いて、マイクロ凹版を作製した。
【0190】
2.毛包原基の形成
(1)間葉系細胞の準備及び上皮系細胞の採取
実施例1の「3.(1)」と同様の方法を用いて、マウス胎児から上皮系細胞を採取した。間葉系細胞として、ヒト毛乳頭細胞(PromoCell社製)を用いた。
【0191】
(2)毛包原基形成工程
続いて、ポロキサマー処理したマイクロ凹版に、採取した上皮系細胞及び間葉系細胞の細胞混合懸濁液を、それぞれの細胞が4×103cells/ウェルずつ(全細胞数8×103cells/ウェル)となるように注入し、3日間培養した。使用した培地の組成としては、ヒト毛乳頭細胞増殖培地(Follicle Dermal Papilla Cell Growth Medium;DPCGM)(Promo cell社製)と上皮系細胞培地(HuMedia-KG2培地(倉敷紡績社製))とを1:1で混合した培地に、FGFを10ng/mLとなるように添加した培地を用いた。培地交換は毎日行った。培養開始から3日後に、毛包原基が形成されていることが確認された。
【0192】
[試験例3]ヌードマウスを用いた皮下移植試験3
(1)ヌードマウスへの皮下移植
実施例7で得られた毛包原基をヌードマウス皮内に、試験例1と同様に、パッチ法を用いて移植した。移植から18日目のヌードマウスの移植部での再生毛髪の様子を
図21に示す。
【0193】
図21から、間葉系細胞としてヒト毛乳頭細胞を用いて形成された毛包原基を移植した移植部において、毛髪の再生が観察された。また、移植開始から、少なくとも半年にわたり毛周期が維持されることが確認された(図示せず)。
【0194】
[実施例8]複数のマウス再生毛包原基の製造(ヒト細胞系の使用)
1.マイクロ凹版の作製
実施例1の「1.」と同様の方法を用いて、マイクロ凹版を作製した。
【0195】
2.毛包原基の形成
(1)間葉系細胞及び上皮系細胞の準備
間葉系細胞として、ヒト毛乳頭細胞(PromoCell社製)を用いた。また、上皮系細胞として、ヒト表皮ケラチノサイト(CELLnTEC社製)を用いた。
【0196】
(2)毛包原基形成工程
続いて、ポロキサマー処理したマイクロ凹版に、採取した上皮系細胞及び間葉系細胞の細胞混合懸濁液を、それぞれの細胞が1×104cells/ウェルずつ(全細胞数2×104cells/ウェル)となるように注入し、3日間培養した。使用した培地の組成としては、DPCGM(Promo cell社製)と上皮系細胞培地(HuMedia-KG2培地(倉敷紡績社製))とを1:1で混合した培地に、FGFを10ng/mLとなるように添加した培地を用いた。培地交換は毎日行った。培養開始から3日後に、毛包原基が形成されていることが確認された。
【0197】
[試験例4]ヌードマウスを用いた皮下移植試験4
(1)ヌードマウスへの皮下移植
実施例8で得られた毛包原基をヌードマウス皮内に、試験例1と同様に、パッチ法を用いて移植した。移植から14日目のヌードマウスの移植部での再生毛髪の様子を
図22に示す。
【0198】
図22から、間葉系細胞及び上皮系細胞としてヒト由来の細胞を用いて形成された毛包原基を移植した移植部において、毛髪の再生が観察された。なお、色素細胞(メラノサイト)を含まないため、白毛が再生された。
【0199】
[実施例9]複数のマウス再生毛包原基の製造(ヒト脱毛症患者由来の毛乳頭細胞の使用)
1.マイクロ凹版の作製
実施例1の「1.」と同様の方法を用いて、マイクロ凹版を作製した。
【0200】
2.毛包原基の形成
(1)間葉系細胞及び上皮系細胞の準備
実施例1の「3.(1)」と同様の方法を用いて、マウス胎児から上皮系細胞を採取した。ヒト脱毛症患者から承諾を得て、ヒト脱毛症患者の正常頭皮片を採取し、当該正常頭皮片から毛乳頭細胞を分離し、間葉系細胞として用いた。
【0201】
(2)毛包原基形成工程
続いて、ポロキサマー処理したマイクロ凹版に、採取した上皮系細胞及び間葉系細胞の細胞混合懸濁液を、それぞれの細胞が1×104cells/ウェルずつ(全細胞数2×104cells/ウェル)となるように注入し、3日間培養した。使用した培地の組成としては、DPCGM(Promo cell社製)と上皮系細胞培地(HuMedia-KG2培地(倉敷紡績社製))とを1:1で混合した培地に、FGFを100ng/mLとなるように添加した培地を用いた。培地交換は毎日行った。培養開始から3日後に、毛包原基が形成されていることが確認された。
【0202】
[試験例5]ヌードマウスを用いた皮下移植試験5
(1)ヌードマウスへの皮下移植
実施例9で得られた毛包原基をそれぞれヌードマウス皮内に、試験例1と同様に、パッチ法を用いて移植した。移植から16日目のヌードマウスの移植部での再生毛髪の様子を
図23Aに、移植から50日後のヌードマウスの移植部での再生毛髪の様子を
図23Bに示す。
【0203】
図23A及び
図23Bから、間葉系細胞としてヒト毛乳頭細胞を用いて形成された毛包原基を移植した移植部において、毛髪の再生が観察された。
また、移植から50日後のヌードマウスの移植部に再生された毛髪の電子顕微鏡像を
図23Cに示す。
図23Cから、再生毛髪は、ヒト生体の毛髪と類似したキューティクル構造を有することが確認された。
さらに、移植から13日目、50日目、60日目及び78日目までのヌードマウスの移植部での再生毛髪の様子を
図23Dに示す。
図23Dから、移植部において、移植から少なくとも78日目まで毛周期が維持されることが確認された。
以上のことから、脱毛症患者の正常頭皮由来の毛乳頭細胞を用いても、毛髪が再生できることが確かめられた。
【0204】
[実施例10]複数のマウス再生毛包原基の製造(ヒト脱毛症患者由来の細胞系の使用)
1.マイクロ凹版の作製
実施例1の「1.」と同様の方法を用いて、マイクロ凹版を作製した。
【0205】
2.毛包原基の形成
(1)間葉系細胞及び上皮系細胞の準備
ヒト脱毛症患者から承諾を得て、ヒト脱毛症患者の正常頭皮片を採取し、当該正常頭皮片から毛乳頭細胞及び表皮ケラチノサイトを分離し、それぞれ間葉系細胞及び上皮系細胞として用いた。
【0206】
(2)毛包原基形成工程
続いて、ポロキサマー処理したマイクロ凹版に、採取した上皮系細胞及び間葉系細胞の細胞混合懸濁液を、それぞれの細胞が1×104cells/ウェルずつ(全細胞数2×104cells/ウェル)となるように注入し、3日間培養した。使用した培地の組成としては、DPCGM(Promo cell社製)と上皮系細胞培地(HuMedia-KG2培地(倉敷紡績社製))とを1:1で混合した培地に、FGFを100ng/mLとなるように添加した培地を用いた。培地交換は毎日行った。培養開始から3日後に、毛包原基が形成されていることが確認された。
【0207】
[試験例6]ヌードマウスを用いた皮下移植試験6
(1)ヌードマウスへの皮下移植
実施例10で得られた毛包原基をヌードマウス皮内に、試験例1と同様に、パッチ法を用いて移植した。移植から30日目のヌードマウスの移植部での再生毛髪の様子を
図24に示す。
【0208】
図24から、間葉系細胞としてヒト毛乳頭細胞を、上皮系細胞としてヒト表皮ケラチノサイトを用いて形成された毛包原基を移植した移植部において、毛髪の再生が観察された。
以上のことから、脱毛症患者の正常頭皮由来の毛乳頭細胞及び表皮ケラチノサイトを用いても、毛髪が再生できることが確かめられた。
【産業上の利用可能性】
【0209】
本実施形態の複数の再生毛包原基の製造方法及び毛髪再生用キットによれば、毛髪再生効率が優れており、哺乳動物の毛包組織と類似し、規則的且つ高密度の複数の再生毛包原基を得ることができる。また、前記複数の再生毛包原基の製造方法を用いることで、毛髪再生効率が優れており、規則的且つ高密度の毛包組織を備えた毛包組織含有シートを製造することができる。得られた毛包組織含有シートは、頭皮等の体表皮への移植に好適に用いられる。また、前記複数の再生毛包原基の製造方法を用いることで、簡便に発毛促進又は抑制物質をスクリーニングすることができる。
【符号の説明】
【0210】
1…間葉系細胞、2…上皮系細胞、3…血管を構築し得る細胞、4…マイクロ凹版、5…微小凹部、6,6b…毛包原基、6a…混合スフェロイド、7…毛細血管構造、8a,8b…FGFを含む培地、9…生体適合性ハイドロゲル、10…毛包組織含有シート。
【配列表】