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特許7092348比較測定機用校正ゲージ及び比較測定機の校正方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】比較測定機用校正ゲージ及び比較測定機の校正方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 21/02 20060101AFI20220621BHJP
   G01B 5/00 20060101ALI20220621BHJP
   G01B 11/02 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
G01B21/02 Z
G01B5/00 P
G01B11/02 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018153720
(22)【出願日】2018-08-17
(65)【公開番号】P2020027090
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】特許業務法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 祐一
(72)【発明者】
【氏名】大西 徹
【審査官】信田 昌男
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-052273(JP,A)
【文献】特開2012-137301(JP,A)
【文献】特開2009-133790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 21/02
G01B 5/00
G01B 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テーブル本体と、前記テーブル本体に移動可能に設けられた保持部とを有するテーブルの前記保持部に取り付けられる比較測定機用校正ゲージであって、
ゲージ本体と、
前記ゲージ本体に設けられた複数の測定用マークと、
前記複数の測定用マークの大きさ及び前記測定用マーク同士の間の距離の少なくとも一方の校正値と
を備える比較測定機用校正ゲージ。
【請求項2】
前記複数の測定用マークは、第1マークと、前記第1マークを中心に略対称に設けられた第2マークと第3マークとを有し、
前記第1マークと前記第2マークとの距離と、前記第1マークと前記第3マークの距離とが異なっている請求項1に記載の比較測定機用校正ゲージ。
【請求項3】
前記複数の測定用マークは、第1マークと、前記第1マークを中心に略対称に設けられた第2マークと第3マークとを有し、
前記第2マークと前記第3マークとの大きさが異なっている請求項1に記載の比較測定機用校正ゲージ。
【請求項4】
前記保持部は、前記テーブル本体に対し、前記第1マークを中心に回転可能である請求項2又は3に記載の比較測定機用校正ゲージ。
【請求項5】
前記テーブルを前記ゲージ本体の厚さ方向に傾斜して支持する支持台をさらに備える請求項1~4のいずれか1項に記載の比較測定機用校正ゲージ。
【請求項6】
前記複数の測定用マークは、前記ゲージ本体に一列に配置された、前記ゲージ本体の厚さ方向に貫通する穴である請求項1~5のいずれか1項に記載の比較測定機用校正ゲージ。
【請求項7】
前記複数の測定用マークは、前記ゲージ本体に放射状に配置された、前記ゲージ本体の表面から突出して設けられた球体である請求項1~5のいずれか1項に記載の比較測定機用校正ゲージ。
【請求項8】
ゲージ本体と、
前記ゲージ本体に設けられた複数の測定マークと、
前記ゲージ本体に対し、所定の変位を与えるテーブルと、
前記複数の測定用マークの大きさ及び前記測定用マーク同士の距離の少なくとも一方の校正値と
を備える比較測定機用校正ゲージを用いて、
前記複数の測定用マークの大きさ又は前記測定用マーク同士の間の距離を測定するステップと、
前記ゲージ本体に対し、所定の変位を与えるステップと、
前記所定の変位を与えた後の、前記複数の測定用マークの大きさ又は前記測定用マーク同士の間の距離を測定するステップと、
前記所定の変位を与える前後の前記複数の測定用マークの大きさ又は前記測定用マーク同士の距離の差と、前記校正値とを比較するステップと
を備える比較測定機の校正方法。
【請求項9】
前記所定の変位を与えるステップは、前記ゲージ本体を回転させる請求項8に記載の比較測定機の校正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比較測定機用校正ゲージ及び比較測定機の校正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被測定物の寸法を測定する方法として、比較測定という手段がある。比較測定は、ゲージブロックやリングゲージなどのマスター(測定基準)を用いて、被測定物との差から被測定物の寸法をダイヤルゲージなどの計測器で割り出す方法である。比較測定では、比較測定機のステージの基準位置に配置したマスターを測定し、その後に、ステージに被測定物を配置し、被測定物の測定を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-052273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ステージに被測定物を配置する際に、被測定物がステージの基準位置からずれて配置されると、測定誤差が生じるため、被測定物の位置ずれによる測定誤差が比較測定機で定めている精度保証範囲内であることを確認する必要がある。しかし、被測定物の位置ずれによる測定誤差が比較測定機の精度保証範囲内であることを確認する方法は、まだ技術的に確立されていない。
【0005】
被測定物の位置ずれによる測定誤差が比較測定機の精度保証範囲内であることを確認できる比較測定機用校正ゲージ及び比較測定機の校正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下の開示の一観点によれば、テーブル本体と、前記テーブル本体に移動可能に設けられた保持部とを有するテーブルの前記保持部に取り付けられる比較測定機用校正ゲージであって、ゲージ本体と、前記ゲージ本体に設けられた複数の測定用マークと、前記複数の測定用マークの大きさ及び前記測定用マーク同士の間の距離の少なくとも一方の校正値とを備える比較測定機用校正ゲージが提供される。
【0007】
また、その開示の他の観点によれば、ゲージ本体と、前記ゲージ本体に設けられた複数の測定マークと、前記ゲージ本体に対し、所定の変位を与えるテーブルと、前記複数の測定用マークの大きさ及び前記測定用マーク同士の距離の少なくとも一方の校正値とを備える校正ゲージを用いて、前記複数の測定用マークの大きさ又は前記測定用マーク同士の間の距離を測定するステップと、前記ゲージ本体に対し、所定の変位を与えるステップと、前記所定の変位を与えた後の、前記複数の測定用マークの大きさ又は前記測定用マーク同士の間の距離を測定するステップと、前記所定の変位を与える前後の前記複数の測定用マークの大きさ又は前記測定用マーク同士の距離の差と、前記校正値とを比較するステップとを備える比較測定機の校正方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
以下の開示によれば、比較測定機用校正ゲージは、ゲージ本体と、ゲージ本体に設けられた複数の測定用マークと、複数の測定用マークの大きさ及び測定用マーク同士の間の距離の少なくとも一方の校正値とを備える。また、比較測定機用校正ゲージは、テーブル本体と、テーブル本体に移動可能に設けられた保持部とを有するテーブルの保持部に取り付けられる。
【0009】
この比較測定機用校正ゲージを用いた校正方法では、まず、複数の測定用マークの大きさ又は測定用マーク同士の間の距離を測定する。次いで、ゲージ本体に対し、所定の変位を与え、所定の変位を与えた後の、複数の測定用マークの大きさ又は測定用マーク同士の間の距離を測定する。さらに、所定の変位を与える前後の複数の測定用マークの大きさ又は測定用マーク同士の距離の差と、校正値とを比較する。
【0010】
これにより、被測定物の位置ずれによる測定誤差が比較測定機の精度保証範囲内であることを確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態の比較測定機用校正ゲージを示す斜視図である。
図2】第1実施形態の比較測定機用校正ゲージを示す平面図である。
図3図2の比較測定機用校正ゲージを180°回転させた状態を示す平面図である。
図4図2の比較測定機用校正ゲージを三次元測定機で測定したデータを示すグラフである。
図5図2の比較測定機用校正ゲージの0°-180°線の測定箇所を示す平面図である。
図6図5の比較測定機用校正ゲージを180°回転させた後の0°-180°線の測定箇所を示す平面図である。
図7図2の比較測定機用校正ゲージを使用して得られる比較測定の測定誤差のデータを示すグラフである。
図8図2の比較測定機用校正ゲージが支持台に傾斜して設置された様子を示す斜視図である。
図9】第1実施形態のその他の態様の比較測定機用校正ゲージを示す平面図である。
図10図9の比較測定機用校正ゲージを180°回転させた様子を示す平面図である。
図11】第2実施形態の比較測定機用校正ゲージを示す斜視図である。
図12図11の比較測定機用校正ゲージを上側からみた平面図である。
図13図12の比較測定機用校正ゲージを180°回転させた状態を示す平面図である。
図14図11の比較測定機用校正ゲージをテーブルに設置した様子を示す斜視図である。
図15図14の比較測定機用校正ゲージが設置されたテーブルを傾斜台に設置した様子を示す斜視図である。
図16図16A図14の比較測定機用校正ゲージを0°-180°線に配置した様子を示す平面図、図16B図16Aの比較測定機用校正ゲージを180°回転させた様子を示す平面図である。
図17図17A図14の比較測定機用校正ゲージを45°-225°線に配置した様子を示す平面図、図17B図17Aの比較測定機用校正ゲージを180°回転させた様子を示す平面図である。
図18図18A図14の比較測定機用校正ゲージを90°-270°線に配置した様子を示す平面図、図18B図18Aの比較測定機用校正ゲージを180°回転させた様子を示す平面図である。
図19図19A図14の比較測定機用校正ゲージを135°-315°線に配置した様子を示す平面図、図19B図19Aの比較測定機用校正ゲージを180°回転させた様子を示す平面図である。
図20図12の比較測定機用校正ゲージを使用して得られる比較測定のずれ量のデータを示すグラフである(その1)。
図21図12の比較測定機用校正ゲージを使用して得られる比較測定のずれ量のデータを示すグラフである(その2)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態について、添付の図面を参照して説明する。
1.第1実施形態
(全体構成)
図1図8は第1実施形態の比較測定機用校正ゲージを説明するための図である。図1の斜視図に示すように、第1実施形態の比較測定機用校正ゲージはゲージ本体10を備えている。ゲージ本体10は、平板状基板であり、好適には、アルミニウムを主成分とする金属、又はセラミックスなどから形成される。ゲージ本体10の厚みは、例えば10mm~20mmである。
【0013】
ゲージ本体10の表面には、複数の軸付き球体5が並んで立設している。図1の部分拡大図に示すように、軸付き球体5は、球体12と、球体12の下端に繋がる円柱状の軸部14とから形成される。軸部14は、球体12の下端に繋がる径小部14aと、径小部14aの下端に繋がる径大部14bとから形成される。
【0014】
軸付き球体5の軸部14の径大部14bがゲージ本体10の表面に設けられたねじ穴にねじ止めされている。球体12の直径は、軸部14の径大部14bの直径よりも大きく設定される。このようにして、球体12は垂直方向に延びる軸部14で支持され、ゲージ本体10の表面から上方に離れた位置に配置されている。
【0015】
第1実施形態では、複数の軸付き球体5の球体12が複数の測定用マークの一例である。このように、複数の測定用マークは、ゲージ本体10に放射状に配置された、ゲージ本体10の表面から突出して設けられた球体12である。
【0016】
図2図1の比較測定機用校正ゲージ1を上側からみた平面図である。ゲージ本体10は平面視で八角形状を有する。ゲージ本体10の平面視での形状は、比較測定機のステージ(不図示)に合わせて、丸形状又は四角形状などの各種の形状を採用することができる。例えば、ゲージ本体10のサイズは、比較測定機のステージ内の測定可能範囲の2/3以上のサイズに設定される。ゲージ本体10には、取付穴10aが設けられている。取付穴10aはゲージ本体10の上面から下面まで貫通して形成される。
【0017】
ゲージ本体10から立設する軸付き球体5の球体12は、白色で示された白球体12aと黒色で示された黒球体12bとを含む。白球体12aと黒球体12bとは直径が異なっており、例えば、白球体12aの直径を6mm、黒球体12bの直径を4mmとすることができる。
【0018】
ゲージ本体10には、中心位置を水平方向に通過する0°-180°線が区画されている。また、ゲージ本体10には、0°-180°線から45°で傾いた45°-225°線が区画されている。また、ゲージ本体10には、0°-180°線から90°で傾いた90°-270°線が区画されている。さらに、ゲージ本体10には、0°-180°線から135°で傾いた135°-315°線が区画されている。
【0019】
0°-180°線と90°-270°線との交点であるゲージ本体10の中心位置に白球体P(12a)が配置されている。そして、0°-180°線の中心位置から右方向に4つの白球体12aが間隔を空けて並んで配置されている。また、0°-180°線の中心位置から離れた左方向に3つの黒球体12bが間隔を空けて並んで配置されている。
【0020】
また、45°-225°線の中心位置から斜め右上方向に4つの白球体12aが間隔を空けて並んで配置されている。また、45°-225°線の中心位置から離れた斜め左下方向に3つの黒球体12bが間隔を空けて並んで配置されている。
【0021】
また、90°-270°線の中心位置から上方向に4つの白球体12aが間隔を空けて並んで配置されている。また、90°-270°線の中心位置から離れた下方向に3つの黒球体12bが間隔を空けて並んで配置されている。
【0022】
さらに、135°-315°線の中心位置から斜め左上方向に4つの白球体12aが間隔を空けて並んで配置されている。また、135°-315°線の中心位置から離れた斜め右下方向に3つの黒球体12bが間隔を空けて並んで配置されている。
【0023】
このように、ゲージ本体10に区画された0°-180°線、45°-225°線、90°-270°線及び135°-315°線の各々において、中心位置から一方の方向に白球体12aが並んで配置され、中心位置から離れた他方の方向に黒球体12bが並んで配置されている。以下の説明では、上記した0°-180°線、45°-225°線、90°-270°線及び135°-315°線を測定線とも呼ぶ。
【0024】
比較測定機用校正ゲージ1は、白球体12aの直径が6mmで、黒球体12bの直径が4mmであり、黒球体12bは白球体12aよりも直径が2mm小さい。第2マークとしての黒球体12b及び第3マークとしての白球体12aは、ゲージ本体10の中心位置に配置された第1マークとしての白球体P(12a)に対し略対称に配置されている。対称とは、線対称の意味であり、より具体的には、第2マークと第3マークを通る直線に対し、第1マークの中心を通る垂線を対称軸とする線対称をいう。
【0025】
対称位置にある白球体12aと黒球体12bは、白球体P(12a)との中心間距離が同じに設定されている。ここでいう「同じ」とは、完全に一致する場合に限らず、若干異なる場合も含む。例えば、0°-180°線に注目すると、ゲージ本体10の中心位置に配置された白球体P(12a)の中心と隣の黒球体12bの中心との距離DXは、ゲージ本体10の中心位置に配置された白球体P(12a)の中心と隣の白球体12aの中心との距離DYと同じに設定されている。
【0026】
ここで、図3に示すように、図2の比較測定機用校正ゲージ1を180°回転させると、0°-180°線の左右が反転する。その結果、0°-180°線の右側に黒球体12bが並んで配置され、0°-180°線の左側に白球体12aが並んで配置された状態となる。
【0027】
このように、比較測定機用校正ゲージ1を180°回転させることにより、相互に直径が異なる白球体12aと黒球体12bの配置が入れ替わり、疑似的に位置ずれが発生した状態となる。つまり、比較測定機用校正ゲージ1を180°回転させることにより、被測定物が比較測定機のステージの基準位置から位置ずれして配置された状態を疑似的に再現することができる。
【0028】
本実施形態では、比較測定機用校正ゲージ1を180°回転させることにより、直径が6mmの白球体12aの位置に直径が4mmの黒球体12bが配置され、直径が4mmの黒球体12bの位置に直径が6mmの白球体12aが配置される。このため、被測定物が比較測定機のステージの基準位置から1mm位置ずれして配置された状態を疑似的に再現することができる。第1実施形態では、ゲージ本体10に対して所定の変位を与えるステップは、図2及び図3のように、ゲージ本体10を180°回転させることである。
【0029】
本実施形態の比較測定機用校正ゲージ1の有効性を、高精度な三次元測定機を用いて確認した。具体的には、三次元測定機によって、ゲージ本体10の中心位置(0)と各測定位置の球体の中心との距離を測定し、180°回転前後における測定値を比較した。その結果を図4に示す。図4の縦軸は回転前後での差、横軸は測定位置を示す。
【0030】
図4の横軸の0の位置は、図2の比較測定機用校正ゲージ1の0°-180°線の中心位置に配置された白球体P(12a)(原点)に対応する。また、30、85、140の位置は図2の原点から右側の3つの白球体12aの位置に対応し、-30、-85、-140の位置は図2の原点から左側の3つの黒球体12bの位置に対応する。
【0031】
回転前後での差は、回転前の図2の比較測定機用校正ゲージ1のX方向(0°-180°線)の中心位置(0)から各測定位置までの距離と、180°回転後の図3の0°-180°線の中心位置(0)から各測定位置までの距離との差である。比較測定機用校正ゲージ1のY方向(90°-270°線)についても同様な測定を行い、回転前後での差を算出した。
【0032】
図4に示すように、比較測定機用校正ゲージ1の各測定位置において、ゲージ本体10を180°回転させる前後での距離の測定値の差は0.6μm程度以内であり、精度が2μm±0.25μmであり、この比較測定機用校正ゲージ1を利用できることが確認された。精度は校正した三次元測定機によって算出された値であり、比較測定機の測定精度が±2μmであることを考慮すると、この比較測定機用校正ゲージ1が高精度に作成されていることが分かった。
【0033】
(測定誤差の確認方法)
次に、本実施形態の比較測定機用校正ゲージ1を使用して、比較測定において被測定物の位置ずれによる測定誤差が比較測定機の精度保証範囲内であることを確認する方法について説明する。
【0034】
本実施形態の比較測定機用校正ゲージ1には、白球体12aが配置された各位置では、白球体12aの直径の測定値が校正値として予め付されている。また、黒球体12bが配置された各位置では、黒球体12bの直径の測定値が校正値として予め付されている。
【0035】
まず、比較測定機のステージ(不図示)の基準位置に図2の比較測定機用校正ゲージ1を配置し、比較測定機によって全ての白球体12a及び黒球体12bの座標(X、Y、Z)を検出し、当該座標から、白球体12a及び黒球体12bの直径と、対称位置にある白球体12a及び黒球体12bの中心間距離とを測定する。
【0036】
次いで、比較測定機のステージ上で図2の比較測定機用校正ゲージ1を180°回転させ、前述した図3の比較測定機用校正ゲージ1の状態にする。比較測定機によって回転後の比較測定機用校正ゲージ1の全ての白球体12a及び黒球体12bの座標(X、Y、Z)を検出し、白球体12a及び黒球体12bの直径と、対称位置にある白球体12a及び黒球体12bの中心間距離とを測定する。
【0037】
図5には、説明を簡易にするために、図2の比較測定機用校正ゲージ1において、0°-180°線に配置された白球体12a及び黒球体12bのみが示されている。図5に示すように、0°-180°線の2点間距離DAの位置A1、B1での測定を例に挙げて説明する。まず、回転前の比較測定機用校正ゲージ1の2点間距離DAの位置A1の白球体12a、及び位置B1の黒球体12bの座標を検出する。2点間距離DAの設計値は60mmである。
【0038】
次いで、比較測定機のステージ上で図2の比較測定機用校正ゲージ1を180°回転させ、前述した図3の比較測定機用校正ゲージ1の状態にする。これにより、相互に直径が異なる白球体12aと黒球体12bの配置が入れ替わり、疑似的に位置ずれが発生した状態となる。
【0039】
図6には、図5の比較測定機用校正ゲージ1を180°回転させた状態が示されている。図6の2点間距離DAの位置A1、B1に注目すると、位置A1に黒球体12bが配置され、位置B1に白球体12aが配置される。すなわち、白球体12aと黒球体12bが入れ替わって配置された状態となる。比較測定機用校正ゲージ1の2点間距離DAの位置A1の黒球体12b、及び位置B1の白球体12aの座標を検出する。
【0040】
次いで、得られた各座標から、回転前後における白球体12aと黒球体12bの直径及び中心間距離とを測定する。回転前後における白球体12aと黒球体12bの直径をそれぞれ校正値と比較することによって、被測定物の位置ずれによる測定誤差が精度保証範囲内であることを確認することができる。また、回転前後の中心間距離の差を算出することによって、0°-180°線の距離DAにおける位置ずれによる測定誤差が精度保証範囲内であることを確認することができる。
【0041】
図5の0°-180°線の2点間距離DBを有する2つの位置A2,B2、及び2点間距離DCを有する2つの位置A3,B3においても同様な測定手順で比較測定を行うことにより、各位置での被測定物の位置ずれ、及び距離DB、DCにおける位置ずれによる測定誤差を求めることができる。2点間距離DBの設計値は170mmである。また、2点間距離DCの設計値は280mmである。
【0042】
さらに、図2で説明した比較測定機用校正ゲージ1の45°-225°線、90°-270°線及び135°-315°線の各々についても、同様な測定手順により、回転前後での比較測定差分値と校正値との差を算出する。これにより、比較測定機のステージの測定可能範囲の全方向での位置ずれによる測定誤差を求めることができる。
【0043】
以上により、比較測定機のステージに対し、0°-180°線のX軸と、90°-270°線のY軸の1軸の変位、45°-225°線及び35°-315°線のX-Y軸の2軸の変位を与えたときの測定誤差を求めることができる。
【0044】
なお、比較測定機用校正ゲージ1を180°回転させる際に、比較測定機のステージ上に図2の比較測定機用校正ゲージ1を直接配置して回転させてもよい。あるいは、後述する第2実施形態で説明するように、テーブル本体と、テーブル本体に移動可能に設けられた保持部とを有するテーブル(不図示)を比較測定機のステージ上に配置してもよい。比較測定機用校正ゲージ1をテーブルの保持部に配置し、保持部の回転により比較測定機用校正ゲージ1を回転させてもよい。
【0045】
第1実施形態の例では、比較測定機は、被測定物がステージの基準位置から1mmの位置ずれが生じた際に、測定誤差が±0.002mm(2μm)以下になるような精度保証をする場合を示している(図7の精度保証範囲)。
【0046】
実際に図1に示す比較測定機用校正ゲージを作製し、比較測定機の精度誤差を確認できることを検証した。比較測定機用校正ゲージの白球体と黒球体の座標を検出し、180°回転前後の中心間距離を比較した。その結果を図7に示す。図7の縦軸は回転前後における中心間距離の差(mm)、横軸は測定箇所を示す。図7に示すように、図2の比較測定機用校正ゲージ1の0°-180°線、45°-225°線、及び135°-315°線の3つの測定箇所では、回転前後での差が比較測定機の精度保証範囲(±0.002mm)に入っており、これらの3つの測定箇所では精度保証内であることが分かる。
【0047】
一方、図2の比較測定機用校正ゲージ1の90°-270°線の2点間距離DC(設計値:280mm)では、回転前後での差が0.0025mm(2.5μm)程度であり、比較測定機の精度保証範囲(±0.002mm)から外れている。よって、この測定箇所は、精度保証外であるため、比較測定機の校正が必要になる。
【0048】
図8には、図1の比較測定機用校正ゲージ1が支持台16に取り付けられた様子が示されている。支持台16は上面が傾斜面となっており、この傾斜面に図1の平板状の比較測定機用校正ゲージ1を配置する。これにより、比較測定機用校正ゲージ1は支持台16の傾斜面と同じ傾斜角度で傾いて配置される。
【0049】
比較測定機用校正ゲージ1を傾けた状態で、前述した180°回転させる測定手順で比較測定機用校正ゲージ1を比較測定することにより、比較測定機のステージに対し、X軸、Y軸、Z軸を含む3軸の変位を与えたときの測定誤差を確認することができる。支持台16を前述したテーブル(不図示)に取り付けてもよい。すなわち、比較測定機用校正ゲージ1を、支持台16を介してテーブルに固定する。これにより、比較測定機用校正ゲージ1を傾けた状態で、テーブルの保持部の回転により比較測定機用校正ゲージ1を回転させることができる。
【0050】
以上のように、第1実施形態の比較測定機用校正ゲージ1は、ゲージ本体10の中心位置に配置された白球体P(12a)(第1マークの一例)と、白球体P(12a)に対して略対称に配置された黒球体12b(第2マークの一例)と、当該黒球体12bと大きさが異なる白球体12a(第3マークの一例)とを有する。
【0051】
比較測定機用校正ゲージ1を180°回転させることによって、白球体12aと黒球体12bとの配置が入れ替わり、疑似的に位置ずれが発生した状態となる。したがって、回転前後における白球体12aと黒球体12bの中心間距離を比較することによって、白球体12aと黒球体12bを結ぶ軸間における位置ずれによる測定誤差を確認することができる。さらに、比較測定機用校正ゲージ1は、白球体12aと黒球体12bの直径の校正値が付されているので、測定値を当該校正値と比較することによって、測定箇所における位置ずれによる測定誤差を確認することができる。
【0052】
第1実施形態の比較測定機用校正ゲージ1で使用されるゲージ本体10は、X方向及びY方向に均等に延びる平板状基板である。このため、比較測定機のステージの測定可能範囲に対応するように比較測定機用校正ゲージ1を設置し、180°回転させることで、多くの測定点を測定できるため、比較測定機の校正を短時間で行うことができる。
【0053】
また、第1実施形態の比較測定機用校正ゲージ1で使用されるゲージ本体10は、安価なアルミニウムを主成分とする金属から形成できるため、低コストで製造することができる。ゲージ本体10は、超低熱膨張セラミックスから形成してもよい。あるいは、ゲージ本体10は、比較測定機に使用されている鉄などの金属や樹脂でも形成可能である。比較測定機とゲージ本体10とを同じ材料から形成することにより、温度が変化した際の変形量が同じになる。
【0054】
なお、前述した図2及び図3では、比較測定機用校正ゲージ1を180°回転させて、相互に直径が異なる白球体12aと黒球体12bとの配置を入れ替えることで、疑似的に位置ずれを発生させている。この手法の他に、比較測定機のステージの上にX方向及びY方向に移動可能な保持部を備えたテーブル(不図示)を設けてもよい。
【0055】
この場合は、比較測定機のステージ上のテーブルに配置された図2の比較測定機用校正ゲージ1に対して1回目の比較測定を行う。次いで、比較測定機用校正ゲージ1を回転させずに、テーブルの保持部の移動により比較測定機用校正ゲージ1をX方向及びY方向に所定の位置ずれ量になるように移動させて位置ずれを発生させた後に、2回目の比較測定を行う。1回目の測定結果と、1回目に対し位置ずれを生じさせた状態で測定した2回目の測定結果を得ることによって、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0056】
(第1実施形態のその他の態様)
図9及び図10は第1実施形態のその他の態様の比較測定機用校正ゲージを示す平面図である。前述した図1図3では、測定用マークとして、ゲージ本体10に形成された軸付き球体5の白球体12a及び黒球体12bを使用している。図9に示すように、第1実施形態のその他の態様の比較測定機用校正ゲージ1aでは、球体の代わりに、複数の凸部17がゲージ本体10の表面から立設して設けられている。凸部17としては、円柱体や直方体などが使用される。
【0057】
図9では前述した図5と同様に、説明を簡易にするために、0°-180°線の複数の凸部17のみが示されている。図9に示すように、その他の態様の比較測定機用校正ゲージ1aでは、複数の凸部17の平面視での直径(大きさ)は同じに設定される。また、ゲージ本体10の中心位置に配置された第1凸部17a(第1マークの一例)に対して略対称になるように、第2凸部17b(第2マークの一例)と第3凸部17c(第3マークの一例)が配置される。
【0058】
そして、第1凸部17aの中心と第2凸部17bの中心との距離DEと、第1凸部17aの中心と第3凸部17cの中心との距離DFとが異なっている。例えば、距離DEは距離DFよりも1mm程度長く設定される。このため、図10に示すように、図9の比較測定機用校正ゲージ1aを180°回転させると、黒色で示された第2凸部17bと白色で示された第3凸部17cとの配置が入れ替わり、疑似的に位置ずれが発生した状態となる。比較測定機用校正ゲージ1aには、第1凸部17a及び第2凸部17bが配置された各位置では、中心との各距離が校正値として予め付されている。
【0059】
その他の態様の比較測定機用校正ゲージ1aを使用する場合の測定手順は、まず、図9の回転前の比較測定機用校正ゲージ1aの第2凸部17bの中心と第3凸部17cとの中心との第1距離DG1を算出する。さらに、図10に示すように、比較測定機用校正ゲージ1aを180°回転させた後に、第3凸部17cの中心と第2凸部17bの中心との第2距離DG2を算出する。さらに、第1距離DG1の測定値と第2距離DG2の測定値の差を算出して、距離の比較測定差分値を取得する。
【0060】
そして、この比較測定差分値と校正値との差を算出することにより、同様に比較測定機の測定誤差を求めることができる。その他の態様の比較測定機用校正ゲージに付される校正値は、0°-180°線の上記した測定位置では、三次元測定機で測定した回転前後での第1距離DG1(図9)と第2距離DG2(図10)との差である。
【0061】
また同様に、0°-180°線の他の2点間距離(図5)を有する各位置で同様な測定手順で測定が行われる。さらに、他の測定線においても同様な測定手順で測定が行われ、各位置での測定誤差が求められる。
【0062】
このように、その他の態様の比較測定機の校正方法は、複数の測定用マークの距離を測定するステップと、ゲージ本体10に所定の変位を与えるステップと、変位を与えた後の複数の測定用マークの距離を測定するステップと、変位を与える前後の複数の測定用マークの距離の差と校正値とを比較するステップとを有する。
【0063】
第1実施形態の比較測定機用校正ゲージ1及び校正方法は、接触式又は非接触式の比較測定機及び比較測定を用いる工作機械などに適用することができる。
【0064】
2.第2実施形態
(全体構成)
図11図19は第2実施形態の比較測定機用校正ゲージを説明するための図である。図11の斜視図に示すように、第2実施形態の比較測定機用校正ゲージ2は、一方向に延びる短冊状のゲージ本体20を備えている。ゲージ本体20は平面視で長手状の長方形であり、長手方向と直交する幅方向の断面は四角形である。
【0065】
第2実施形態の比較測定機用校正ゲージ2で使用されるゲージ本体20は、熱膨張係数が小さい材料から形成される。好適な一例としては、室温付近(20℃~30℃程度)で熱膨張係数がほぼゼロであるネクセラ(超低熱膨張セラミックス)が使用される。このため、室温付近で2℃~3℃程度で測定雰囲気の温度が変化してもゲージ本体20の寸法変化が少ないため、測定誤差を小さくすることができる。測定雰囲気の温度変化による測定誤差が問題にならない場合は、ゲージ本体20をアルミニウムなどの金属、又はアルミナなどの一般的なセラミックスなどから形成してもよい。
【0066】
また、ゲージ本体20には7つの第1~第7開口穴(H1~H7)が間隔を空けて配置されている。第1~第7開口穴(H1~H7)はゲージ本体20の上面から下面まで貫通して形成される。第2実施形態では、ゲージ本体20に設けられた7つの第1~第7開口穴(H1~H7)が測定用マークの一例である。このように、複数の測定用マークは、ゲージ本体20に一列に配置された、ゲージ本体20の厚さ方向に貫通する穴である。
【0067】
ゲージ本体20の中心位置に第4開口穴H4が配置され、第4開口穴H4の右側に第3開口穴H3、第2開口穴H2及び第1開口穴H1が間隔を空けて配置されている。また、ゲージ本体20の中心位置に配置された第4開口穴H4の左側に第5開口穴H5、第6開口穴H6及び第7開口穴H7が間隔を空けて配置されている。
【0068】
図12図11の比較測定機用校正ゲージ2を上側からみた平面図である。図12に示すように、第2実施形態の比較測定機用校正ゲージ2では、第1~第7開口穴(H1~H7)の直径HDは同じに設定されている。また、第4開口穴H4の中心と第3開口穴H3の中心との距離D1と、第4開口穴H4の中心と第5開口穴H5の中心との距離D2とが相互に異なって配置されている。
【0069】
図12の例では、第4開口穴H4と第3開口穴H3との距離D1の設計値は35±0.01μmであり、第4開口穴H4と第5開口穴H5との距離D2の設計値は36±0.01μmであり、距離が1mm程度異なっている。
【0070】
第4開口穴H4と第2開口穴H2との距離D3は70±0.01μmであり、第4開口穴H4と第6開口穴H6との距離D4は71±0.01μmとなり、同様に距離が1mm程度異なっている。
【0071】
第1開口穴H1の中心と第2開口穴H2の中心との距離、及び第6開口穴H6の中心と第7開口穴H7の中心との距離は、第3開口穴H3と第4開口穴H4との距離D1(35±0.01mm)よりも5mm長い40mmに設定されている。よって、第4開口穴H4と第1開口穴H1との距離D5は110±0.01μmであり、第4開口穴H4と第7開口穴H7との距離D6は111±0.01μmとなり、同様に距離が1mm程度異なっている。
【0072】
第2実施形態の比較測定機用校正ゲージ2は、後述するように比較測定機の測定可能範囲内で45°ずつ回転させた位置で順次測定される。このため、ゲージ本体20の長さは、比較測定機のステージの測定可能範囲のサイズに合わせて調整される。例えば、比較測定機のステージ内の測定可能範囲の2/3以上の長さ、具体的にはゲージ本体20の長さが270mm程度、幅が40mm程度に設定してもよい。
【0073】
また、第1~第7開口穴(H1~H7)では、ゲージ本体20の表面及び裏面に穴の内壁から外側に広がるようにリング状の傾斜面が設けられており、内部の直径HDが20±0.01mm、表面及び裏面での直径が28±0.01mmに設定される。
【0074】
このように、第4開口穴H4の右側の第1~第3開口穴(H1~H3)と、第4開口穴H4の左側の第5~第7開口穴(H5~H7)とは、第4開口穴H4の中心からの距離が1mm程度異なって配置されている。
【0075】
以上のように、第2実施形態の比較測定機用校正ゲージ2は、ゲージ本体20を備えている。そして、ゲージ本体20の中心位置に配置された第4開口穴H4が第1マークの一例である。
【0076】
第4開口穴H4に対して略対称に配置された第3開口穴H3と第5開口穴H5が第1マークに対して略対称に配置された第2マークと第3マークの一例である。あるいは、第1マークに対して略対称に配置された第2マークと第3マークは、第2開口穴H2と第6開口穴H6とであってもよく、あるいは、第1開口穴H1と第7開口穴H7とであってもよい。
【0077】
ここで、図13に示すように、図12の比較測定機用校正ゲージ2を180°回転させると、第4開口穴H4の左側に第1~第3開口穴(H1~H3)が配置され、第4開口穴H4の右側に第5~第7開口穴(H5~H7)が配置される。
【0078】
このように、図12の比較測定機用校正ゲージ2を180°回転させることにより、第4開口穴H4からの距離が相互に異なる第1~第3開口穴(H1~H3)と第5~第7開口穴(H5~H7)との配置が入れ替わり、疑似的に位置ずれが発生した状態となる。つまり、比較測定機用校正ゲージ2を180°回転させることにより、被測定物が比較測定機のステージの基準位置から位置ずれして配置された状態を疑似的に再現することができる。
【0079】
図14には、図12の比較測定機用校正ゲージ2がテーブル30に設置された様子が示されている。テーブル30は、テーブル本体32と、テーブル本体32に移動可能に設けられた保持部34とを有する。また、保持部34の上に、対向する一対の挟持部36が連結され、比較測定機用校正ゲージ2が一対の挟持部36の一方で押圧されて固定されている。
【0080】
保持部34は、テーブル本体32に対し、比較測定機用校正ゲージ2の第4開口穴H4(第1マークの一例)を中心に回転可能である。保持部34に連結された回転つまみ38を回転させることにより、保持部34の回転により比較測定機用校正ゲージ2を回転させることができる。
【0081】
図15には、図14の比較測定機用校正ゲージ2が固定されたテーブル30が支持台40に設置された様子が示されている。支持台40は、水平方向に配置された水平板42と、水平板42から所定の傾斜角度で傾いた傾斜板44とを備え、傾斜板44が支持柱46によって水平板42に連結されている。支持台40はテーブル30をゲージ本体20の厚さ方向に傾斜して支持する。
【0082】
比較測定機用校正ゲージ2が固定されたテーブル30を支持台40の傾斜板44に設置することにより、比較測定機用校正ゲージ2を支持台40の傾斜板44と同じ傾斜角度に傾けることができる。これにより、比較測定機のステージに対し、X軸、Y軸、Z軸を含む3軸の変位を与えたときの測定誤差を確認することができる。
【0083】
(測定誤差の確認方法)
次に、第2実施形態の比較測定機用校正ゲージ2を使用して、比較測定において被測定物の位置ずれによる測定誤差が比較測定機の精度保証範囲内であることを確認する方法について説明する。比較測定機用校正ゲージ2は、高精度な三次元測定機によって予め測定された第1~第7開口穴(H1~H7)の直径、中心位置からの距離(D1~D6)、距離のマスター差分値が、校正値として付されている。
【0084】
まず、図16Aの比較測定機用校正ゲージ2が固定されたテーブル30を比較測定機のステージ(不図示)にX方向(0°-180°線)を向くように配置し、比較測定機により第1~第7開口穴(H1~H7)の座標を検出し、直径、及び前述した図12の回転前の比較測定機用校正ゲージ2の6つの距離(D1~D6)を算出する。
【0085】
さらに、図16Bに示すように、比較測定機のステージ上のテーブル30の保持部34を回転させることで、比較測定機用校正ゲージ2を180°回転させる。第2実施形態においても、ゲージ本体20に所定の変位を与えるステップは、ゲージ本体を180°回転させることである。これにより、前述した図12及び図13で説明したように、中心位置の第4開口穴H4からの距離が相互に異なる第1~第3開口穴(H1~H3)と第5~第7開口穴(H5~H7)との配置が入れ替わり、疑似的に位置ずれが発生した状態となる。図16Bの180°回転後の第1~第7開口穴(H1~H7)の座標を検出し、直径、及び前述した図13の回転後の比較測定機用校正ゲージ2の6つの距離(D1~D6)を算出する。
【0086】
さらに、比較測定機用校正ゲージ2の0°―180°線の各位置(-111mm,-71mm,-36mm,35mm,70mm,110mm)における第1比較測定差分値を取得する。すなわち、図12の回転前の比較測定機用校正ゲージ2の距離D6と、図13の回転後の比較測定機用校正ゲージ2の距離D5との差を算出する。この差分値が図12の-111mmの位置の第1比較測定差分値となる。
【0087】
図12の回転前の比較測定機用校正ゲージ2の距離D4と、図13の回転後の比較測定機用校正ゲージ2の距離D3との差を算出する。この差分値が図12の-71mmの位置の第1比較測定差分値となる。
【0088】
図12の回転前の比較測定機用校正ゲージ2の距離D2と、図13の回転後の比較測定機用校正ゲージ2の距離D1との差を算出する。この差分値が図12の-36mmの位置の第1比較測定差分値となる。
【0089】
図12の回転前の比較測定機用校正ゲージ2の距離D1と、図13の回転後の比較測定機用校正ゲージ2の距離D2との差を算出する。この差分値が図12の35mmの位置の第1比較測定差分値となる。
【0090】
図12の回転前の比較測定機用校正ゲージ2の距離D3と、図13の回転後の比較測定機用校正ゲージ2の距離D4との差を算出する。この差分値が図12の70mmの位置の第1比較測定差分値となる。
【0091】
図12の回転前の比較測定機用校正ゲージ2の距離D5と、図13の回転後の比較測定機用校正ゲージ2の距離D6との差を算出する。この差分値が図12の110mmの位置の第1比較測定差分値となる。
【0092】
校正値(差分値)と、比較測定機により算出した第1比較測定差分値との差を算出する。これにより、比較測定機用校正ゲージ2の0°―180°線の各位置(-111mm,-71mm,-36mm,35mm,70mm,110mm)での比較測定機の測定誤差が得られ、X軸の1軸の測定誤差を確認できる。また、前述した図16A及び図16Bで測定した第1~第7開口穴(H1~H7)の直径の測定値と校正値とを比較することによって、0°―180°線の第1~第7開口穴(H1~H7)の位置における測定誤差を確認できる。
【0093】
次に、図17Aに示すように、図16Bの比較測定機用校正ゲージ2を第1開口穴H1が右上側に配置されるように45°―225°線に配置する。次いで、図17Aの比較測定機用校正ゲージ2を比較測定機により第1~第7開口穴(H1~H7)の座標を検出し、直径、及び、図12の回転前の6つの距離(D1~D6)を算出する。
【0094】
その後に、図17Bに示すように、比較測定機のステージ上で図17Aの比較測定機用校正ゲージ2を180°回転させ、180°回転後の第1~第7開口穴(H1~H7)の座標を検出し、直径、及び前述した図13の回転後の6つの距離(D1~D6)を算出する。
【0095】
そして、前述した図16A及び図16Bでの測定手順と同じ方法により、45°-225°線の各位置(-111mm、-71mm、-36mm、35mm、70mm、110mm)における第2比較測定差分値をそれぞれ取得する。第2比較測定差分値と上記校正値(差分値)との差を算出することによって、45°―225°線の各位置(-111mm、-71mm、-36mm、35mm、70mm、110mm)での比較測定機の測定誤差が得られる。
【0096】
次に、図18Aに示すように、図17Bの比較測定機用校正ゲージ2を第7開口穴H7が上側に配置されるように90°-270°線に配置する。前述した図16Aでの測定手順と同じ方法により、比較測定機用校正ゲージ2を比較測定機で測定することにより、直径、及び図12の回転前の6つの距離(D1~D6)を算出する。
【0097】
その後に、図18Bに示すように、比較測定機のステージ上で図18Aの比較測定機用校正ゲージ2を180°回転し、前述した図16Bでの測定手順と同様に、比較測定機により、直径、及び前述した図13の回転後の6つの距離(D1~D6)を算出する。
【0098】
さらに、前述した図16A及び図16Bでの測定手順と同じ方法により、90°-270°線の各位置(-111mm、-71mm、-36mm、35mm、70mm、110mm)における第3比較測定差分値をそれぞれ取得する。第3比較測定差分値と上記校正値(差分値)との差を算出する。これにより、90°―270°線の各位置(-111mm、-71mm、-36mm、35mm、70mm、110mm)での比較測定機の測定誤差が得られる。
【0099】
次に、図19Aに示すように、図18Bの比較測定機用校正ゲージ2を135°-315°線に配置する。前述した図16Aでの測定手順と同じ方法により、比較測定機用校正ゲージ2を比較測定機で測定することにより、直径、及び図12の回転前の比較測定機用校正ゲージ4の6つの距離(D1~D6)を算出する。その後に、図19Bに示すように、比較測定機のステージ上で図19Aの比較測定機用校正ゲージ2を180°回転し、前述した図16Bでの測定手順と同様に、比較測定機により、直径、及び前述した図13の回転後の6つの距離(D1~D6)を算出する。
【0100】
さらに、前述した図16A及び図16Bでの測定手順と同じ方法により、135°-315°線の各位置(-111mm、-71mm、-36mm、35mm、70mm、110mm)における第4比較測定差分値をそれぞれ取得する。第4比較測定差分値と上記校正値(差分値)との差を算出する。これにより、135°―315°線の各位置(-111mm、-71mm、-36mm、35mm、70mm、110mm)での比較測定機の測定誤差が得られる。
【0101】
135°-315°線に配置された比較測定機用校正ゲージ2を、上記の手順で測定した測定結果を図20に示す。図20は、横軸が原点(中心)からの各位置、縦軸が比較測定機の測定誤差(mm)を示すグラフである。第2実施形態の例においても、比較測定機は、被測定物がステージの基準位置から1mmの位置ずれが生じた際に、測定誤差が±0.002mm(2μm)以下になるような精度保証をする場合を示してしている(図20の精度保証範囲)。
【0102】
図20では、比較測定機用校正ゲージ2の原点(中心)をテーブル30の保持部34の回転中心から0.9mm程度ずらした「オフセットあり」のときと、回転中心と一致させた「オフセットなし」のときのデータが示されている。
【0103】
図20に示すように、「オフセットなし」でのデータ(□)では、原点(中心)からの全ての位置で測定誤差が比較測定機の精度保証範囲(±0.002mm)に入っている。よって、比較測定機用校正ゲージ2がオフセットなしでテーブル30に設置される場合は、135°-315°線での全ての測定箇所で比較測定機が精度保証内であることが分かる。
【0104】
一方、「オフセットあり」でのデータ(○)では、原点から-111mm、-71mmの位置、及び110mmの各位置で比較測定機の精度保証範囲(±0.002mm)から外れている。オフセット分だけ位置ずれが大きくなり、測定条件が厳しくなったため、精度範囲外となったと考えられる。
【0105】
比較測定機用校正ゲージ2の原点をテーブル30の保持部34の回転中心に一致するように設置することにより、所定の位置ずれが生じた条件を再現でき、比較測定機本体の測定誤差を正確に測定することができる。
【0106】
上記の手順で45°-225°線に配置された比較測定機用校正ゲージ2を測定し、温度変化の影響を確認した結果を図21に示す。図21の縦軸及び横軸は、図20と同じである。図21では、測定中の180°回転前後に温度が2℃程度変化する「温度ドリフトあり」のときと、測定中に温度が変化しない「温度ドリフトなし」のときのデータが示されている。
【0107】
図21に示すように、45°-225°線での「温度ドリフトなし」でのデータ(□)では、原点から全ての位置で測定誤差が比較測定機の精度保証範囲(±0.002mm)に入っている。また、45°-225°線での「温度ドリフトあり」でのデータ(○)においても、原点から全ての位置で測定誤差が比較測定機の精度保証範囲(±0.002mm)に入っている。
【0108】
よって、「温度ドリフトあり」、「温度ドリフトなし」に係らず、45°-225°線での全ての測定箇所で比較測定機が精度保証内であることが分かる。上記の結果から、第2実施形態の比較測定機用校正ゲージ2のゲージ本体20は、超低熱膨張セラミックスから形成されるため、測定中に室温付近で温度が変化しても、測定誤差を安定して測定できることが確認できた。
【0109】
以上のように、第2実施形態の比較測定機用校正ゲージ2では、図12で説明したように、ゲージ本体20に7つの開口穴(H1~H7)が配置されている。中心位置に配置された第4開口穴H4の右側に第3開口穴H3、第2開口穴H2及び第1開口穴H1が配置され、第4開口穴H7の左側に第5開口穴H5、第6開口穴H6及び第7開口穴H7が配置されている。第4開口穴H4の中心と第3開口穴H3の中心との距離D1と、第4開口穴H4の中心と第5開口穴H5の中心との距離D2とが1mm程度異なって配置されている。
【0110】
このため、図13で説明したように、図12の比較測定機用校正ゲージ2を180°回転させると、第4開口穴H4からの距離が相互に異なる第1~第3開口穴(H1~H3)と第5~第7開口穴(H5~H7)との配置が入れ替わり、疑似的に位置ずれが発生した状態となる。
【0111】
第2実施形態の比較測定機用校正ゲージ2を使用して比較測定機の測定誤差を確認するには、前述した図16A及び図16Bで説明したように、図12の「-111mm」の位置を例に挙げると、まず、比較測定機により図12の距離D6を算出する。さらに、図12の比較測定機用校正ゲージ2を180°回転させた後に、比較測定機により図13の距離D5を算出する。さらに、図12の距離D6と図13の距離D5との差を算出して比較測定差分値を得る。
【0112】
そして、比較測定差分値と校正値(差分値)の差を算出することにより、「-111mm」の位置での比較測定のずれ量が得られる。この測定手順を前述した4つの測定線の各位置で繰り返して遂行することにより、比較測定機のステージの測定可能範囲の4つの測定線の各位置での位置ずれによる測定誤差を求めることができる。
【0113】
以上のように、第2実施形態の比較測定機の校正方法は、複数の測定用マークの距離を測定するステップと、ゲージ本体20に所定の変位を与えるステップと、変位を与えた後の複数の測定用マークの距離を測定するステップと、変位を与える前後の複数の測定用マークの距離の差と校正値とを比較するステップとを有する。
【0114】
また、第2実施形態の比較測定機用校正ゲージ2は、ゲージ本体20として、室温付近で熱膨張係数がほぼゼロである超低熱膨張セラミックスを使用する。このため、ゲージ本体20は測定中に温度が変化しても熱による膨張が発生しないため、金属などからなるゲージ本体10を使用する場合に比べ、高精度で測定誤差を求めることができる。
【0115】
また、第2実施形態の比較測定機用校正ゲージ2は、短冊状のゲージ本体20を使用するため、コンパクトであり、取り回しが容易である。
【0116】
なお、前述した図12及び図13では、比較測定機用校正ゲージ2を180°回転させて、原点からの距離が相互に異なる開口穴の配置を入れ替えることで、疑似的に位置ずれを発生させている。この手法の他に、前述した図14で説明したように、比較測定機のステージの上にX方向及びY方向に移動可能な保持部34を備えたテーブル30を設けてもよい。
【0117】
この場合は、前述した図16Aで比較測定機のステージ上のテーブル30に配置された比較測定機用校正ゲージ2に対して一回目の比較測定を行う。次いで、比較測定機用校正ゲージ2を回転させずに、テーブル30の保持部34の移動によって比較測定機用校正ゲージ2をX方向及びY方向に所定の位置ずれ量になるように移動させて位置ずれを発生させた後に、2回目の比較測定を行う。
【0118】
また、前述した図12では、測定用マークとして、ゲージ本体20に第1~第7開口穴(H1~H7)を形成したが、開口穴の代わりに、凸部を使用し、ゲージ本体20の表面に凸部と凹部を交互に並べて配置してもよい。凸部として、例えば、球体、又は直方体などのブロックが使用される。前述したような測定手順で、ゲージ本体20上に並んだ凸部同士の距離を測定することに基づいて、同様に比較測定機の測定誤差を求めることができる。
【0119】
あるいは、前述した図12において、中心位置に配置された第4開口穴H4の中心と第3開口穴H3の中心との距離D1と、第4開口穴H4の中心と第5開口穴H5の中心との距離D2とを同じに設定し、開口穴H3の直径が開口穴H5の直径と異なるようにしてもよい。
【0120】
第4開口穴H4に対して略対称に配置された第2開口穴H2と第6開口穴H6、及び第1開口穴H1と第7開口穴H7とにおいてもそれぞれ同じ関係に設定される。この態様の比較測定機用校正ゲージでは、180°回転させると、各位置の開口穴が直径の異なる開口穴に入れ替わるため、疑似的に位置ずれが発生した状態となる。
【0121】
この態様での測定手順は、図12の-36mmの位置を例に挙げると、図12の回転前の第5開口穴H5の直径HDの測定値と、図13の回転後の第3開口穴H3の直径HDの測定値との差を算出して比較測定差分値を取得する。そして、比較測定差分値と校正値との差を算出することにより、測定誤差を求めることができる。
【0122】
第2実施形態の比較測定機用校正ゲージ2及び校正方法は、接触式又は非接触式の比較測定機及び比較測定を用いる工作機械などに適用することができる。
【符号の説明】
【0123】
1,1a,2 比較測定機用校正ゲージ
5 軸付き球体
10,20 ゲージ本体
10a 取付穴
12 球体
12a 白球体
12b 黒球体
14 軸部
14a 径小部
14b 径大部
16,40 支持台
30 テーブル
32 テーブル本体
34 保持部
36 挟持部
38 回転つまみ
42 水平板
44 傾斜板
46 支持柱
D1~D6 距離
H1 第1開口穴
H2 第2開口穴
H3 第3開口穴
H4 第4開口穴
H5 第5開口穴
H6 第6開口穴
H7 第7開口穴
P ゲージ本体の中心位置の白球体
図1
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