(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】増殖とタンパク質生成との分離
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20220621BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20220621BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
C12N1/21
C12P21/02 C
C12N15/09 Z ZNA
(21)【出願番号】P 2018507775
(86)(22)【出願日】2016-04-29
(86)【国際出願番号】 EP2016059597
(87)【国際公開番号】W WO2016174195
(87)【国際公開日】2016-11-03
【審査請求日】2019-04-24
(32)【優先日】2015-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
(32)【優先日】2015-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517377558
【氏名又は名称】エンゲネス・ビオテヒ・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】ENGENES BIOTECH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】マイアホーファー,ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】シュトリートナー,ゲラルト
(72)【発明者】
【氏名】グラーバー,ラインガルト
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルデ,モニカ
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-100197(JP,A)
【文献】Microbiology,2012年,Vol. 158,p. 2753-2764
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
C12P 21/00 - 21/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌ホスト細胞であって、
(i)誘導性プロモーターの制御下にあり、前記細菌ホスト細胞の増殖を阻害するファージ由来のタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、
(ii)前記細菌ホスト細胞に対して異種のRNAポリメラーゼをコードするヌクレオチド配列を含み、そして
(iii)前記RNAポリメラーゼにより認識されるプロモーターの制御下にあり、対象となるタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、
前記細菌ホスト細胞の増殖を阻害するファージ由来のタンパク質をコードするヌクレオチド配列、及び前記RNAポリメラーゼをコードするヌクレオチド配列は、前記ホスト細胞のゲノムに組み込まれ、
前記細菌ホスト細胞の増殖を阻害するファージ由来のタンパク質は、
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質;又は
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列に
90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、そして細菌ホスト細胞RNAポリメラーゼを阻害するタンパク質
である、
細菌ホスト細胞。
【請求項2】
増殖が、転写、DNA複製、及び/又は細胞分裂を阻害することにより阻害される、請求項1記載の細菌ホスト細胞。
【請求項3】
対象となるタンパク質をコードする前記ヌクレオチド配列が、前記ホスト細胞のゲノム内に組み込まれているか、又は、染色対外ベクターに含まれている、請求項1又は2記載の細菌ホスト細胞。
【請求項4】
前記RNAポリメラーゼをコードする前記ヌクレオチド配列が、誘導性又は構成的プロモーターの制御下にある、請求項1~3のいずれか一項記載の細菌ホスト細胞。
【請求項5】
前記RNAポリメラーゼが、バクテリオファージT3 RNAポリメラーゼ、T7バクテリオファージRNAポリメラーゼ、操作された直交性T7 RNAポリメラーゼ、バクテリオファージSP6 RNAポリメラーゼ、又はバクテリオファージXp10 RNAポリメラーゼである、請求項4記載の細菌ホスト細胞。
【請求項6】
前記誘導性プロモーターが、アラビノース、IPTG、トリプトファン、キシロース、ラムノース、ホスファート、又はファージラムダcIタンパク質によりレギュレーションされる、請求項1~5のいずれか一項記載の細菌ホスト細胞。
【請求項7】
前記ホスト細胞が、非機能性アラビノースオペロンを有する、請求項1~6のいずれか一項記載の細菌ホスト細胞。
【請求項8】
E. coliである、請求項1~7のいずれか一項記載の細菌ホスト細胞。
【請求項9】
細菌ホスト細胞の調製物であって、
(i)誘導性プロモーターの制御下にあり、前記細菌ホスト細胞の増殖を阻害するファージ由来のタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、
(ii)前記細菌ホスト細胞に対して異種のRNAポリメラーゼをコードするヌクレオチド配列を含み、
前記細菌ホスト細胞の増殖を阻害するファージ由来のタンパク質をコードするヌクレオチド配列、及び前記RNAポリメラーゼをコードするヌクレオチド配列は、前記ホスト細胞のゲノムに組み込まれ、
前記細菌ホスト細胞の増殖を阻害するファージ由来のタンパク質は、
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質;又は
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列に
90%以上の同一性を有し、そして細菌ホスト細胞RNAポリメラーゼを阻害するアミノ酸配列を有するタンパク質
である、
細菌ホスト細胞の調製物。
【請求項10】
細菌ホスト細胞を、前記細菌ホスト細胞の増殖を阻害するファージ由来のタンパク質をコードするヌクレオチド配列、T7 RNAポリメラーゼをコードするヌクレオチド配列、及び対象となるタンパク質をコードするヌクレオチド配列によりトランスフォーメーションすることを含み、
前記細菌ホスト細胞の増殖を阻害するファージ由来のタンパク質は、
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質;又は
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列に
90%以上の同一性を有し、そして細菌ホスト細胞RNAポリメラーゼを阻害するアミノ酸配列を有するタンパク質
である、
請求項1~8のいずれか一項記載のホスト細胞を製造するための方法。
【請求項11】
対象となるタンパク質を製造するための方法であって、
請求項1~8のいずれか一項記載の細菌ホスト細胞を、適切な条件下において培養することと、前記対象となるタンパク質を得ることとを含む、方法。
【請求項12】
対象となるタンパク質の収量を増大させる方法であって、
請求項1~8のいずれか一項記載の細菌ホスト細胞を、適切な条件下において培養することと、前記対象となるタンパク質を得ることとを含む、
方法。
【請求項13】
前記培養工程が、
(a)細菌細胞を、少なくとも20g/L 細菌乾燥質量(CDM)の密度に増殖させることと、
(b)ホスト細胞の増殖を阻害するファージタンパク質をコードするヌクレオチド配列の発現を誘導することと、
(c)0.05h
-1の初期増殖速度を可能にする一定の直線的供給速度で、細菌細胞に栄養を供給することと、
(d)前記細菌細胞を、少なくとも12時間更に培養することとを含む、請求項11又は12記載の方法。
【請求項14】
対象となるタンパク質の収量を増大させるための方法であって、
細菌ホスト細胞に対して異種のRNAポリメラーゼをコードするヌクレオチド配列と、対象となるタンパク質をコードし、前記RNAポリメラーゼにより認識されるプロモーターの制御下にあるヌクレオチド配列とを含む細菌ホストを、誘導性プロモーターの制御下にあり、前記細菌ホスト細胞の増殖を阻害するファージ由来のタンパク質をコードするヌクレオチド配列によりトランスフォーメーションすることを含み、
前記細菌ホスト細胞の増殖を阻害するファージ由来のタンパク質は、
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質;又は
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列に
90%以上の同一性を有し、そして細菌ホスト細胞RNAポリメラーゼを阻害するアミノ酸配列を有するタンパク質
であり、
前記細菌ホスト細胞の増殖を阻害するファージ由来のタンパク質をコードするヌクレオチド配列、及び前記RNAポリメラーゼをコードするヌクレオチド配列は、前記ホスト細胞のゲノムに組み込まれる、
方法。
【請求項15】
対象となるタンパク質を製造するための方法であって、
適切な条件下において、請求項9記載の調製物を、請求項9で定義されたRNAポリメラーゼにより認識されるプロモーターの制御下にある、対象となるタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列と接触させることを含む、方法。
【請求項16】
対象となるタンパク質が、細胞に毒性であり、生存、細胞増殖、及び/又は細胞分裂に有害に影響する、請求項11~15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
対象となるタンパク質を修飾すること、及び/又は、対象となるタンパク質を少なくとも1つの更なる成分を含む組成物中に配合することを更に含む、請求項11~16のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
前記対象となるタンパク質が、ラベルにより修飾される、請求項17記載の方法。
【請求項19】
対象となる化合物を製造するための方法であって、
請求項1~8のいずれか一項記載の細菌ホスト細胞を培養することと、前記対象となる化合物の製造のために前記細菌ホスト細胞により変換され、及び/又は、使用される化合物を加えることとを含む、方法。
【請求項20】
対象となるタンパク質の製造のための、請求項1~8のいずれか一項記載のホスト細
胞の使用。
【請求項21】
対象となるタンパク質の製造のための、請求項9記載の調製物の使用。
【請求項22】
対象となるタンパク質の収量を増大させるための、請求項1~8のいずれか一項記載のホスト細
胞の使用。
【請求項23】
対象となるタンパク質の収量を増大させるための、請求項9記載の調製物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リコンビナントバイオテクノロジーの分野、特に、タンパク質発現の分野のものである。本発明は、一般的には、製造プロセスにおいて、細菌ホスト細胞の対象となるタンパク質の発現レベルを向上させる方法に関する。本発明は、特に、細菌ホスト細胞の対象となるタンパク質を発現させる能力を、細菌ホスト細胞の増殖を阻害するファージタンパク質を製造プロセス中に発現させることにより、改善することに関する。製造プロセス中に、細菌ホスト細胞の増殖と対象となるタンパク質の製造とを分離することにより、(i)代謝負荷、(ii)酸素要求、(iii)代謝熱発生が減少され、(iv)異種タンパク質発現により生じるストレス応答を避けることにより、ホスト細胞の対象となるタンパク質を生成する能力が向上される。また、本発明は、タンパク質発現のためのホスト細胞、細胞培養技術の使用、また、対象となるタンパク質を生成するためのホスト細胞の培養に関する。
【0002】
対象となるタンパク質(POI)生成の成功は、多くの原核生物ホストの両方により達成されてきた。最も有名な例は、細菌、例えば、Escherichia coli、Bacillus subtilis、Pseudomonas fluorescens、Streptomyces griseus、又はCorynebacterium glutamicumである。一部のタンパク質の収量は、高い割合で容易に達成されるが、多くの他のタンパク質は、比較的低いレベルでのみ生成される。
【0003】
非常に数多くの生物学的医薬品(例えば、抗体又はその機能性フラグメント)は、最近10年で製造され、ますます多くが、ヒトにおける使用の承認に近づいているが、その効率的な製造は、困難な課題のままである。治療的に活性な用量は、多くの場合、投与当たりにミリグラム(mg)オーダーである。このため、相当な量のタンパク質が、活性成分として必要とされ、効率的で、費用対効果の高い製造には価値がある。
【0004】
細菌細胞発現系は、以前から存在しており、これらの種類の分子の製造のための主要なツールの1つでもある。プロセス最適化の重要な目的は、可能な限り最も低いコストで、必要とされる品質を有する生成物の高い収量を達成することである。収量は、多くの場合、特異的な発現構築物又は系の特性により決定される。例えば、高レベルのリコンビナントタンパク質発現は、ホスト細胞の代謝能を上回り、その結果として、多くの場合、効率的なタンパク質生成を損なう、プラスミド喪失、酸素移動の低下、毒性の副生成物の発生、封入対の形成、及び/又はストレス応答のトリガーをもたらす。また、場合により、対象となるタンパク質をコードするmRNAの高発現が、大量のタンパク質をもたらすとは限りないことも公知である。種々のアプローチが、これらの問題に対処するために、科学者により取り組まれてきた。
【0005】
例えば、リコンビナントタンパク質の発現は、利用されるホスト細胞に応じて、対象となるタンパク質をコードする遺伝子量を最適化することにより、適切なプロモーターを使用することにより、又は、対象となるタンパク質をコードする遺伝子のコドン利用を最適化することにより、更に増大させることができる。複数の他のパラメータ、例えば、発現ベクター設計、培地組成、増殖温度、シャペロン共発現、mRNA安定性、翻訳開始、及び後成的プロセスが、ホスト細胞におけるリコンビナントタンパク質の発現レベルに影響を及ぼすことが示されている。
【0006】
しかしながら、ホスト細胞中での高レベルのタンパク質収量は、1種類以上の工程、例えば、フォールディング、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、細胞内への輸送、又は細胞からの放出において制限される場合がある。関与する多くのメカニズムは、未だに完全には理解されておらず、ホスト生物のゲノム全体のDNA配列が利用できる場合であっても、最高水準の現在の知識に基づいて予測することができない。
【0007】
ホスト細胞中でのタンパク質生成についての別の問題は、このようなタンパク質がホスト細胞にとって毒性である可能があることである。したがって、いわゆる、静止(Q)細胞の概念が開発された(国際公開公報第2007/071959号)。Q細胞では、正常な細胞メカニズムを停止(shut down)することができ、毒性のタンパク質の生成が可能となる。Q細胞を停止するために、インドールを加える必要がある。しかしながら、一部の用途には、インドールは、望ましくない場合がある。ホスト細胞の生成機構を対象となるタンパク質生成に向かわせる別の概念は、E. coliにおける単一タンパク質生成(SSP)のみである。いわゆるmRNAインターフェラーゼが発現される。同mRNAインターフェラーゼは、RNAを、ACAヌクレオチド配列において開裂させるが、対象となるタンパク質をコードするmRNAは、ACA塩基トリプレットを欠いている(Suzuki et al. (2007), Nature Protocols 2(7), 1802.1810)。ホスト細胞の代謝能を増殖ではなくリコンビナントタンパク質の生成に向かわせる更なる選択肢は、細胞周期を停止させるRNA干渉を使用することにより、代謝フラックスを生成物形成に向かわせることである(Ghosh et al. (2012), Microbial Cell Factories 11:93)。
【0008】
ホスト細胞中で毒性を有する可能性があるタンパク質も含めて、合理的な量でのタンパク質生成に関する従来技術における種々の問題からすると、過去数年間でなされてきた多くの利点があるにも関わらず、ホスト細胞の能力を改善して、かなりの量のリコンビナントタンパク質(毒性を有する可能性のあるタンパク質を含む)を生成するための、更なる/代替的な方法を特定し、開発するための必要性が未だに存在する。したがって、本発明の基礎をなす技術的課題は、この必要性を応じたものである。
【0009】
本発明は、単純かつ効率的で、工業的手法において使用するのに適した、ホスト細胞におけるリコンビナントタンパク質の収量を増大させるための新規な手段及び方法を、技術的課題に対する解決手段として提供する。これらの手段及び方法が、本明細書において記載され、実施例において証明され、特許請求の範囲に反映される。
【0010】
特に、本発明者らは、ホスト細胞の増殖を対象となるタンパク質の生成から分離する、新規な分子メカニズムを明らかにした。その増殖と異種タンパク質の同時発現とにより生じるホスト細胞の二重負荷が、対象となるタンパク質の収量を減少させる。実際に、対象となるタンパク質の生成中のホスト細胞の増殖は、ホスト細胞に対して過負荷を強い、細胞資源の分布におけるコンフリクトをもたらす。これにより、複数の望ましくない副作用、例えば、毒性の副生成物の生成、酸素移動の低下、及びストレス応答の誘導が引き起こされ、最終的に、転写及び翻訳を拘束する細胞代謝の再配向をもたらし、細胞死に至るおそれがある。細胞合成能が異種タンパク質発現の基礎であるとすれば、ホスト細胞の能力を考慮する必要がある。異種タンパク質発現の望ましくない副作用を減少させ、又は、無効にするために、本発明者らは、対象となるタンパク質の生成をホスト細胞の増殖から分離することにより、ホスト細胞における負荷を相当減少させ、対象となるタンパク質の収量を増大させる発現系を開発してきた。
【0011】
とりわけ、本発明者らは、誘導性プロモーターの制御下において、細菌ホスト細胞の増殖を阻害するファージタンパク質を含むホスト細胞を設計することにより、細菌ホスト細胞の増殖を阻害するファージタンパク質を利用する。これにより、所望の細胞密度に達した時点で、生成プロセスの間に、必要とされる資源が存在する限り、対象となるタンパク質を生成するホスト細胞の能力を維持しながら、ホスト細胞の増殖をオフに切り替えることができるであろう。したがって、酸素消費、栄養要求、及び代謝熱発生が減少され、ストレス応答が避けられるため、対象となるタンパク質の生成のための十分な資源を利用することができる。異種タンパク質発現の更なる課題は、溶解性の低下及びそれによる収量の低下をもたらす、封入対への対象となるタンパク質の包含である。この影響は、Vernet et al.(2010, Protein Expression and Purification, Vol. 77, Issue 1: 104-111)に示されたように、細胞増殖を減少させ、誘導温度を低くすることにより、このため、本発明の増殖分離生成系により避けることができる。
【0012】
細胞増殖を阻害するファージタンパク質は、ホスト細胞の増殖と前記ホスト細胞の対象となるタンパク質の生成とを分離するのに有用であることが、本発明者らにより見出された。実際に、ファージタンパク質は、理想的に、ホスト細胞を停止させる一方で、前記ファージタンパク質に感受性でない発現系は、理想的に完全に、停止したホスト細胞のタンパク質生成機構を利用する。例えば、バクテリオファージT7は、感染後に、E. coliのRNAポリメラーゼを停止するのに、そのタンパク質であるgp0.7及びGp2を使用する。感染後直ちに、バクテリオファージT7の初期ウイルスクラスI遺伝子、例えば、T7 RNAポリメラーゼが、細菌プロモーターの制御下において発現される。同T7 RNAポリメラーゼは、T7プロモーターの制御下において、ウイルス遺伝子に非常に特異的である。中でも、クラスI遺伝子は、Gp0.7である。Gp0.7は、特に、E. coliのRNAポリメラーゼをリン酸化し、初期遺伝子の転写を終了させ、ホストからウイルスにRNAポリメラーゼを切替えさせる。その後、ウイルス遺伝子Gp2が発現され、ホストRNAポリメラーゼのベータサブユニットに結合し、更に、同サブユニットを阻害する。Gp0.7及び/又はGp2は共に、E.coliのRNAポリメラーゼを阻害し、これにより、細胞増殖を阻害し、ウイルスの目的のために、細菌タンパク質合成機構の引継ぎをもたらす。Gp2によるE. coliのRNAポリメラーゼ阻害は、Studier and Moffat(1986, J. Mol. Biol., 189, 113-130)に示されたが、そこでは、細胞増殖における影響は開示されていない。
【0013】
しかも、Gp0.7及びGp2とは別に、更なるこのようなファージタンパク質を利用することができ、本発明者らにより、ホスト細胞の増殖を、このようなファージタンパク質に感受性でない発現系を使用することにより、対象となるタンパク質を生成するその能力から分離するために、ファージタンパク質を使用するそのような概念を示すのに使用された。更なるこのようなファージタンパク質は、例えば、当技術分野において公知であり、本明細書にも記載された、Nun、Gp6、Gp8、又はA*、BacillusファージSPO1 GP40 SPO1 GP40、StaphylococcusファージG1 GP67、Thermus thermophilusファージP23-45 GP39、EnterobacteriaファージPhiEco32 GP79、Xanthomonas oryzaeバクテリオファージXp10 P7タンパク質、EnterobacteriaファージT4 Alcタンパク質、Enterobacteriaファージ T4Asia、又はBacillus subtilis ykzGタンパク質である。
【0014】
本発明者らは、(i)誘導性プロモーターの制御下にあり、細菌ホスト細胞の増殖を阻害するファージタンパク質と、(ii)細菌ホスト細胞に存在しない異種RNAポリメラーゼと、(iii)前記異種RNAポリメラーゼにより認識されるプロモーターの制御下にある対象となるタンパク質とを含む細菌ホスト細胞を生じさせることにより、細胞増殖を阻害し、ホスト細胞の能力を対象となるタンパク質の生成に集中させるのを容易にすることにより、対象となるタンパク質を生成する目的で、この機能的な原理を採用した。
【0015】
本発明者らは、例示的に、NEB10-ベータE. coliホスト細胞を使用した。同ホスト細胞は、アラビノース誘導性プロモーターの制御下にあるバクテリオファージT7タンパク質Gp2を含む。Gp2発現の誘導に基づいて、強力な用量依存性の増殖阻害が観察された。その後、本発明者らは、E. coliのHMS174(DE3)TN7::<T7GFP>株を使用した。同株は、T7プロモーターの制御下にあるGFP遺伝子のゲノムに組み込まれたコピーと、アラビノース誘導性プロモーターの制御下にあるGp2遺伝子をコードする発現ベクターとを含む。本発明者らは、GFPのみを発現するホスト細胞と比較して、GFPの発現がGp2の同時発現に基づいて増大されたことを示すことができた。
【0016】
本明細書で使用する場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、他の方法で明確に示さない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。このため、例えば、「発現カセット(an expression cassette)」への言及は、本明細書で開示された1つ以上の発現カセットを含む。「方法(the method)」への言及は、本明細書で記載された方法を修飾し、又は、置換することができる、当業者に公知の同等の工程及び方法への言及を含む。
【0017】
本開示において引用された全ての刊行物及び特許は、その全体が参照により組み入れられる。参照により組み入れられる情報が本明細書を否定し、又は、本明細書と矛盾する程度において、本明細書が、任意のこのような情報に対して優先されるであろう。特に断りない限り、一連の要素に先立つ「少なくとも」という用語は、この一連中の全ての要素に言及すると理解されたい。当業者であれば、過剰な試行錯誤をすることなく、本明細書で記載された本発明の特定の実施態様に対する多くの均等物を認識し、又は、確認することができるであろう。このような均等物は、本発明に包含されることを意図している。
【0018】
本明細書及び後に続く特許請求の範囲全体を通して、特に断りない限り、「含む(comprise)」という語、及び、変形例、例えば、「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」は、記載された整数もしくは工程又は整数もしくは工程の群を包含するが、任意の他の整数もしくは工程又は整数もしくは工程の群を排除するものではないことを意味すると理解されるであろう。本明細書で使用する場合、「含む(comprising)」という用語は、「含有する(containing)」という用語により置換することができ、又は、場合により、本明細書で使用する場合、「有する(having)」という用語により置換することができる。本明細書で使用する場合、「からなる(consisting of)」は、クレームされた要素において特定されていない、任意の要素、工程、又は成分を除外する。本明細書で使用する場合、「本質的になる(consisting essentially of)」は、特許請求の範囲の基礎となる新規な特徴に実質的に影響を及ぼさない材料又は工程を除外しない。本明細書における各例において、「含む(comprising)」、「本質的になる(consisnting essentially of)」、及び「からなる(consisting of)」という用語はいずれも、他の2つの用語のいずれかにより置き換えることができる。
【0019】
本明細書で使用する場合、「約(about)」又は「およそ(approximately)」という用語は、所定の値又は範囲の、20%以内、好ましくは、10%以内、及びより好ましくは、5%以内を意味する。同用語は、名数も含む。例えば、約20は、20を含む。
【0020】
特に断りない限り、本発明に関連して使用される科学的及び技術的用語は、当業者に一般的に理解される意味を有するであろう。さらに、特に断りない限り、単数形の用語は、複数形を含むであろうし、複数形の用語は、単数形を含むであろう。本発明の方法及び技術は、当技術分野において周知の従来の方法に従って、一般的に行われる。一般的には、本明細書で記載された生化学、酵素学、分子生物学及び細胞生物学、微生物学、遺伝学、ならびに、タンパク質及び核酸の化学及びハイブリダイゼーションに関連して使用される専門用語は、周知であり、当技術分野において一般的に使用される。
【0021】
本発明の方法及び技術は、当技術分野において周知の従来の方法に従って、特に断りない限り、本明細書全体を通して引用され、検討された種々の一般的及びより具体的な参考文献に記載されたように、一般的に行われる。例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N. Y. (2001);Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, J, Greene Publishing Associates (1992, and Supplements to 2002);Handbook of Biochemistry: Section A Proteins, Vol I 1976 CRC Press;Handbook of Biochemistry: Section A Proteins, Vol II 1976 CRC Pressを参照のこと。本明細書で記載された分子生物学及び細胞生物学、タンパク質生化学、酵素学、ならびに、医薬品化学及び製剤化学に関して使用される専門用語ならびにこれらの検査手法及び技術は、周知であり、当技術分野において一般的に使用される。
【0022】
複数の文献が、本明細書の文章全体を通して引用される。(全ての特許、特許出願、科学刊行物、製造仕様書、説明書等を含めた)本明細書で引用された文献はそれぞれ、前記又は下記であるかに関わらず、その内容全体が参照により組み入れられる。本明細書において、本発明が、従来の発明によるこのような開示に新規性があると認めると、解釈されるべきではない。
【0023】
本発明は、一般的には、製造プロセスにおいて、ホスト細胞からの対象となるタンパク質の発現レベルを向上させる方法に関する。本発明は、特に、細菌ホスト細胞の対象となるタンパク質を発現させる能力を、細菌ホスト細胞の増殖を阻害するファージタンパク質を製造プロセス中に発現させることにより、改善することに関する。製造プロセス中に、細菌ホスト細胞の増殖と対象となるタンパク質の製造とを分離することにより、(i)代謝負担、(ii)酸素要求、(iii)代謝熱発生が減少され、(iv)異種タンパク質発現により生じるストレス応答を避けることにより、ホスト細胞の対象となるタンパク質を生成する能力が向上される。また、本発明は、タンパク質発現のためのホスト細胞、細胞培養技術の使用、また、対象となるタンパク質を生成するためにホスト細胞を培養することに関する。
【0024】
したがって、本発明の目的は、細菌ホスト細胞であって、
(i)誘導性プロモーターの制御下にあり、前記細菌ホスト細胞の増殖を阻害するファージ由来のタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、
(ii)前記細菌ホスト細胞に対して異種のRNAポリメラーゼをコードするヌクレオチド配列を含み、
(iii)前記RNAポリメラーゼにより認識されるプロモーターの制御下にあり、対象となるタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む、
細菌ホスト細胞を提供することである。
【0025】
本明細書で使用する場合、「リコンビナントホスト細胞」(又は単に、「ホスト細胞」)という用語は、発現カセット又はベクターを含む核酸が導入されている、すなわち、遺伝子操作されている、任意の原核生物細胞を意味することを意図している。原核生物のホスト細胞の好ましい例は、E. coliである。ただし、Pseudomonas種、Salmonella種、Bacillus種、Lactobacillus種、Corynebacterium種、Microbacterium種、又はActinomycetes種も想定される。このような用語は、特定の主題の細胞のみを意味するのではなく、このような細胞の子孫も意味することを意図していると理解されたい。特定の修飾が変異又は環境影響のいずれかにより世代交代において生じる場合があるため、このような子孫は、実際には、親細胞と同一でなくてもよく、それでも、本明細書で使用される「ホスト細胞」という用語の範囲内に含まれる。リコンビナントホスト細胞は、好ましくは、培養中で増殖された、単離された細胞であることができる。
【0026】
本発明の好ましい実施態様では、細菌ホスト細胞は、E. coliである。
【0027】
当業者であれば、本発明の細菌ホスト細胞を生じさせるために、当技術分野において公知の遺伝子操作技術を知っている。例えば、種々のキットが、ヌクレオチド配列を含む核酸を細菌ゲノム内にランダム又はターゲット化のいずれかにおいて組み込むための、細菌ホスト細胞の遺伝子操作に利用可能である。例えば、Zhang et al. (1998), Nature Genetics 20, 123-128又はSharan et al. (2009), Nature Protocols 4(2), 206-223を参照のこと。当業者であれば、細菌ホスト細胞のトランスフォーメーションのための技術、及び、染色体外エレメント、例えば、プラスミド、コスミド、バクミド等の生成に使用することができる任意の他のクローニング技術を更に知っている。
【0028】
本明細書で使用する場合、ホスト細胞の「増殖」という用語は、細胞分裂による細胞数の増大を意味する。
【0029】
本明細書で使用されるプロモーター配列は、好ましくは、発現カセットのコード配列の開始部近くに挿入され、その発現をレギュレーションする、非コード発現制御配列である。単純化されているが、基本的には正しい方法において、それは、所定のコード配列を転写することができ、遺伝子によりコードされる実際のタンパク質に最終的に翻訳することができるかどうかを決定する、転写因子と呼ばれる種々の特殊なタンパク質とプロモーターとの相互作用である。当業者であれば、任意の適合可能なプロモーターを、ホスト細胞中でのリコンビナント発現に使用することができることを認識するであろう。プロモーター自体の前には、上流の活性化配列、エンハンサー配列、又はそれらの組み合わせが存在することができる。これらの配列は、細胞中において強力な転写活性を示す任意のDNA配列であり、細胞外又は細胞内タンパク質をコードする遺伝子から得られることが、当技術分野において公知である。当業者であれば、終了配列及びポリアデニル化配列が、プロモーターと同じソースから適切に得ることができることも認識するであろう。
【0030】
本明細書で使用する場合、「誘導性プロモーター」という用語は、内因性又は外因性の刺激の存在又は不存在に対する応答において、操作可能に連結されている遺伝子又は機能性RNAの発現をレギュレーションするプロモーターを意味する。このような刺激は、化合物又は環境シグナルであることができるが、これらに限定されない。
【0031】
「操作可能に連結されている」発現制御配列は、発現制御配列が発現カセットと隣接しており、発現制御配列がトランスに、又は、発現カセットの発現を制御する距離において作用する結合を意味する。
【0032】
本明細書で使用する場合、「ヌクレオチド配列」又は「核酸配列」という用語は、1つのデオキシリボース又はリボースから別のものに通常連結している、重合型のヌクレオチド(すなわち、ポリヌクレオチド)を意味する。「ヌクレオチド配列」という用語は、好ましくは、一本鎖及び二本鎖型のDNA又はRNAを含む。本発明の核酸分子は、RNA(リボヌクレオチドを含有)のセンス鎖及びアンチセンス鎖の両方、cDNA、ゲノムDNA、及び合成型、ならびに、上記の混合ポリマーを含むことができる。それらは、当業者に容易に理解されるであろうように、化学的もしくは生化学的に修飾させることができ、又は、非天然もしくは誘導体化ヌクレオチド塩基を含有することができる。このような修飾は、例えば、ラベル、メチル化、1つ以上の天然ヌクレオチドの類似体による置換、ヌクレオチド間修飾、例えば、非荷電結合(例えば、メチルホスホナート、ホスホトリエステル、ホスホラミダート、カルバマート等)、荷電結合(例えば、ホスホロチオアート、ホスホロジチオアート等)、ペンダント部分(例えば、ポリペプチド)、インターカレーター(例えば、アクリジン、ソラレン等)、キレート剤、アルキル化剤、及び修飾結合(例えば、アルファアノマー核酸等)を含む。また、指定された配列に水素結合及び他の化学的な相互作用を介して結合するその能力において、ポリヌクレオチドを模倣する合成分子も含まれる。このような分子は、当技術分野において公知であり、例えば、ペプチド結合が分子の骨格中のホスファート結合を置換するものを含む。
【0033】
これに関して、発現生成物である核酸は、好ましくは、RNAである。一方、細胞内に導入される核酸は、好ましくは、DNA、例えば、ゲノムDNA又はcDNAである。
【0034】
核酸は、任意のトポロジーコンホーメーションにあることができる。例えば、核酸は、一本鎖、二本鎖、三本鎖、四重鎖、部分的に二本鎖、分岐鎖、ヘアピン、環状、又はパッドロック型コンホーメーションであることができる。
【0035】
「ポリペプチド」は、ペプチド結合により互いに連結されたアミノ酸のポリマーを含む分子を意味する。前記用語は、本明細書において、特定の長さの分子に言及することを意味せず、したがって、本明細書において、「タンパク質」という用語と互換的に使用される。本明細書で使用する場合、「ポリペプチド」又は「タンパク質」という用語は、発現カセットもしくはベクターにより発現され、又は、本発明のホスト細胞から単離することができる、「対象となるポリペプチド」又は「対象となるタンパク質」も含む。対象となるタンパク質は、ホスト細胞にとって有害又は毒性でもある可能性があるタンパク質も含む。
【0036】
対象となるタンパク質の例は、酵素、より好ましくは、アミロース分解性酵素、脂質分解性酵素、タンパク質分解性酵素、細胞溶解性酵素、オキシドレダクターゼ、又は植物細胞壁分解酵素、及び最も好ましくは、アミノペプチダーゼ、アミラーゼ、アミログルコシダーゼ、カルボヒドラーゼ、カルボキシペプチダーゼ、カタラーゼ、セルラーゼ、キチナーゼ、クチナーゼ、シクロデキストリングリコシルトランスフェラーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、エステラーゼ、ガラクトシダーゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコシダーゼ、ハロペルオキシダーゼ、ヘミセルラーゼ、インベルターゼ、イソメラーゼ、ラッカーゼ、リガーゼ、リパーゼ、リアーゼ、マンノシダーゼ、オキシダーゼ、ペクチナーゼ、ペルオキシダーゼ、フィターゼ、フェノールオキシダーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ、プロテアーゼ、リボヌクレアーゼ、トランスフェラーゼ、トランスグルタミナーゼ、及びキシラナーゼからなる群より選択される活性を有する酵素である。さらに、対象となるタンパク質は、成長因子、サイトカイン、レセプター、レセプターリガンド、治療タンパク質、例えば、インターフェロン、BMP、GDFタンパク質、繊維芽細胞成長因子、ペプチド、例えば、タンパク質阻害剤、膜タンパク質、膜会合タンパク質、ペプチド/タンパク質ホルモン、ペプチド性トキシン、ペプチド性アンチトキシン、抗体又はその機能性フラグメント、例えば、FabもしくはF(ab)2又は抗体の誘導体、例えば、二重特異性抗体(例えば、scFv)、キメラ抗体、ヒト化抗体、シングルドメイン抗体、例えば、ナノボディもしくはドメイン抗体(dAb)又はアンチカリン等であることもできる。
【0037】
本明細書で使用する場合、「ポリペプチド」は、天然及び非天然の両方のタンパク質、ならびに、それらのフラグメント、変異体、誘導体、及び類似体を包含する。ポリペプチドは、ホスト細胞に対して同種(ネイティブ)又は異種のポリペプチドであることができる。対象となるポリペプチドは、ホスト細胞に対してネイティブなポリペプチドを包含することもできる。同ポリペプチドは、発現がこのポリペプチドをコードする核酸配列に対して外来性である1つ以上の制御配列により制御される、核酸配列によりコードされる。ポリペプチドは、任意の長さのものであることができる。ポリぺプチドは、任意の活性又は生体活性のタンパク質及び/又はペプチドを含む。「ペプチド」は、構造的、及びこのため、生物学的な機能を模倣する、類似物及び模倣物を包含する。
【0038】
ポリペプチドは、二量体、三量体、及びより高次のオリゴマーを更に形成する、すなわち、2つ以上のポリペプチド分子からなることができる。このような二量体、三量体等を形成するポリペプチド分子は、同一でもよいし、又は、同一でなくてもよい。対応するより高次の構造は、結果として、ホモ又はヘテロ二量体、ホモ又はヘテロ三量体等と呼ばれる。
【0039】
さらに、ポリペプチドは、数多くの種類のドメインを含むことができる。同ドメインはそれぞれ、1つ以上の区別できる活性を有する。
【0040】
本発明のタンパク質又は対象となるタンパク質をコードする核酸配列は、任意の原核生物、真核生物、又は他のソースから得ることができる。
【0041】
本明細書で記載されたように、本発明のタンパク質又は対象となるタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、好ましくは、プロモーターによりレギュレーションされる。前記プロモーターは、好ましくは、前記ホスト細胞に対して異種のRNAポリメラーゼにより特異的に転写される。同RNAポリメラーゼの発現は、誘導性であることができる。ただし、前記RNAポリメラーゼは、構成的に発現されていることもできる。
【0042】
本明細書で使用する場合、「細菌ホスト細胞の増殖」という用語は、ホスト細胞が、細菌ホスト細胞の増殖を阻害するファージタンパク質を発現せず、前記細菌ホスト細胞に対して異種のRNAポリメラーゼをコードするヌクレオチド配列を含み、前記RNAポリメラーゼにより認識されるプロモーターの制御下にあり、対象となるタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むホスト細胞と比較して、その増殖において少なくとも損なわれていることを意味する。特に、前記ファージタンパク質を発現しなくても、このようなホスト細胞は、誘導性プロモーターの制御下にあり、前記細菌ホスト細胞の増殖を阻害するファージ由来のタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む。実際に、このようなホスト細胞は、例えば、先に記載された増殖の喪失を決定するための好ましい参照細胞である。すなわち、増殖の喪失が決定される必要がある場合、当業者であれば、前記ファージタンパク質の発現が誘導された場合の本発明のホスト細胞を、前記ファージタンパク質の発現が誘導されない場合に対して、容易に比較することができる。
【0043】
「細菌ホスト細胞の増殖」が本明細書で記載されたように阻害される場合、増殖は、好ましくは、転写、DNA複製、及び/又は細胞分裂を含む。したがって、ファージタンパク質、特に、本明細書で記載された1つ以上のファージタンパク質は、転写、DNA複製、及び/又は細胞分裂を阻害する。
【0044】
本明細書で言及された場合、「ファージタンパク質」は、(バクテリオ)ファージ由来のタンパク質である。ファージは、細菌に感染し、前記細菌中で複製することができる。細菌に感染し、前記細菌中で複製する際に、ファージは、前記細菌のタンパク質合成機構を完全に利用するために、前記細菌の増殖を、例えば、転写、DNA複製、及び/又は細胞分裂を阻害することにより阻害する、1つ以上のタンパク質を有する場合がある。
【0045】
したがって、本発明は、例えば、ホストの転写を停止させることにより、細菌ホスト細胞の増殖の阻害を達成する任意のファージタンパク質により実施することができる。この場合、細菌ホスト細胞は、誘導性プロモーターの制御下にあり、前記細菌ホスト細胞の転写を停止させるファージ由来のタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む。本明細書で使用する場合、「ホスト転写停止」という用語は、細菌ホスト細胞の転写阻害に関する。ホスト転写を停止させるのに使用することができるタンパク質は、本明細書に記載され、例えば、Gp2、GP0.7、Nun、Gp6、Gp8、A*、YkzGイプシロン-サブユニットである。ただし、ホスト転写停止を達成する更なるタンパク質も、本発明を実施するのに使用することができる。このようなタンパク質は、例えば、BacillusファージSPO1 GP40 SPO1 GP40、StaphylococcusファージG1 GP67、Thermus thermophilusファージP23-45 GP39、EnterobacteriaファージPhiEco32 GP79、Xanthomonas oryzaeバクテリオファージXp10 P7タンパク質、EnterobacteriaファージT4 Alcタンパク質、Enterobacteriaファージ T4Asiaタンパク質である。
【0046】
例示的に、
図1と合わせて実施例1に、細菌ホスト細胞のRNAポリメラーゼを阻害するファージタンパク質Gp2の誘導された発現によるホスト細胞転写の阻害により、誘導分子であるアラビノースの機能としてホスト細胞の増殖が阻害されることが証明されている。
【0047】
したがって、本発明のファージタンパク質は、好ましくは、
(i)細菌ホスト細胞のRNAポリメラーゼを阻害するタンパク質であって、前記タンパク質が、
(a)配列番号:1に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質、もしくは、細菌ホスト細胞のRNAポリメラーゼを阻害するそのフラグメント、又は
(b)配列番号:1に示されるアミノ酸配列に対して40%以上、例えば、50%、60%、70%、80%、又は90%の同一性を有し、細菌ホスト細胞のRNAポリメラーゼを阻害するアミノ酸配列を有するタンパク質である、タンパク質、
(ii)細菌ホスト細胞のRNAポリメラーゼを阻害するタンパク質であって、前記タンパク質が、
(a)配列番号:2に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質、もしくは、細菌ホスト細胞のRNAポリメラーゼを阻害するそのフラグメント、又は
(b)配列番号:2に示されるアミノ酸配列に対して40%以上、例えば、50%、60%、70%、80%、又は90%の同一性を有し、細菌ホスト細胞のRNAポリメラーゼを阻害するアミノ酸配列を有するタンパク質である、タンパク質、
(iii)細菌ホスト細胞のRNAポリメラーゼをリン酸化するタンパク質であって、前記タンパク質が、
(a)配列番号:3に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質、もしくは、細菌ホスト細胞のRNAポリメラーゼをリン酸化するそのフラグメント、又は
(b)配列番号:3に示されるアミノ酸配列に対して40%以上、例えば、50%、60%、70%、80%、又は90%の同一性を有し、細菌ホスト細胞のRNAポリメラーゼをリン酸化するアミノ酸配列を有するタンパク質である、タンパク質、
(iv)細菌ホスト細胞のDNA複製を阻害するタンパク質であって、前記タンパク質が、
(a)配列番号:4に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質、もしくは、細菌ホスト細胞のDNA複製を阻害するそのフラグメント、又は
(b)配列番号:4に示されるアミノ酸配列に対して40%以上、例えば、50%、60%、70%、80%、又は90%の同一性を有し、細菌ホスト細胞のDNA複製を阻害するアミノ酸配列を有するタンパク質である、タンパク質、
(v)細菌ホスト細胞のDNA複製を阻害するタンパク質であって、前記タンパク質が、
(a)配列番号:5に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質、もしくは、細菌ホスト細胞のDNA複製を阻害するそのフラグメント、又は
(b)配列番号:5に示されるアミノ酸配列に対して40%以上、例えば、50%、60%、70%、80%、又は90%の同一性を有し、細菌ホスト細胞のDNA複製を阻害するアミノ酸配列を有するタンパク質である、タンパク質、
(vi)細菌ホスト細胞のDNA複製を阻害するタンパク質であって、前記タンパク質が、
(a)配列番号:6に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質、もしくは、細菌ホスト細胞のDNA複製を阻害するそのフラグメント、又は
(b)配列番号:6に示されるアミノ酸配列に対して40%以上、例えば、50%、60%、70%、80%、又は90%の同一性を有し、細菌ホスト細胞のDNA複製を阻害するアミノ酸配列を有するタンパク質である、タンパク質、
(vii)細菌ホスト細胞のRNAポリメラーゼを阻害するタンパク質であって、前記タンパク質が、
(a)配列番号:7に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質、もしくは、細菌ホスト細胞のRNAポリメラーゼを阻害するそのフラグメント、又は
(b)配列番号:7に示されるアミノ酸配列に対して40%以上、例えば、50%、60%、70%、80%、又は90%の同一性を有し、細菌ホスト細胞のRNAポリメラーゼを阻害するアミノ酸配列を有するタンパク質である、タンパク質、
(viii)ホスト転写を停止させるタンパク質であって、前記タンパク質が、
(a)配列番号:8、9、10、11、12、13、14に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質、もしくは、ホスト転写を停止させるそのフラグメント、又は
(b)配列番号:8、9、10、11、12、13、もしくは14に示されるアミノ酸配列に対して40%以上、例えば、50%、60%、70%、80%、又は90%の同一性を有し、ホスト転写を停止させるアミノ酸配列を有するタンパク質である、タンパク質である。
【0048】
本発明の更に好ましい実施態様では、前記細菌ホスト細胞の増殖を阻害するファージ由来のタンパク質をコードする前記ヌクレオチド配列、前記RNAポリメラーゼをコードする前記ヌクレオチド配列、対象となるタンパク質をコードする前記ヌクレオチド配列は、前記ホスト細胞のゲノム内に組み込まれているか、又は、染色体外ベクターに含まれている。
【0049】
本明細書で使用する場合、「ベクター」という用語は、本発明の遺伝子又は対象となるタンパク質をコードする遺伝子を含む発現カセットを挿入し、又は、クローニングすることができる核酸配列を意味する。さらに、ベクターは、ホスト細胞の選択を付与する抗生物質抵抗性遺伝子をコードすることができる。好ましくは、ベクターは、発現ベクターである。
【0050】
ベクターは、ホスト細胞における自律複製が可能である(例えば、ベクターは、ホスト細胞中で機能する複製起点を有する)。ベクターは、直線状、環状、又はスーパーコイル状の構成を有することができ、特定の目的で他のベクター又は他の材料と複合体化させることができる。
【0051】
本発明の遺伝子又は対象となるタンパク質をコードする遺伝子を含む発現カセットを発現させるのに本明細書で使用されるベクターは、通常、発現カセットのエレメントとして、転写を駆動させるのに適した転写制御エレメント、例えば、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、転写停止又は終了シグナルを含有する。ポリペプチドの適切な発現のために、適切な転写制御エレメント、好ましくは、例えば、リボソームをリクルートするのに適した5’キャップ構造をもたらす5’非翻訳領域及び翻訳プロセスを終了させる停止コドン等が、ベクター中に含まれる。特に、選択マーカー遺伝子として機能するヌクレオチド配列及び対象となるタンパク質をコードするヌクレオチド配列を、適切なプロモーターに存在する転写エレメントの制御下で転写することができる。選択マーカー遺伝子の得られた転写物及び対象となるタンパク質の得られた転写物は、実質的なレベルのタンパク質発現(すなわち、翻訳)及び適切な翻訳終了を容易にする、機能性翻訳エレメントを有する。
【0052】
ベクターは、ポリリンカー(複数のクローニング部位)、すなわち、分子クローニングに使用される多くのプラスミドに標準的な機構である、多くの制限部位を含有するDNAの短いセグメントを含むことができる。複数のクローニング部位は、典型的には、5超、10、15、20、25、又は、25超の制限部位を含有する。MCS内の制限部位は、典型的には、固有である(すなわち、それらは、その特定のプラスミド内で1回のみ生じる)。MCSは、一般的には、分子クローニング又はサブクローニングに関与する手法の間に使用される。
【0053】
ある種のベクターは、プラスミドである。同プラスミドは、更なるDNAセグメントをリガーゼにより又は制限フリークローニングにより導入することができる、環状の二本鎖DNAループを意味する。他のベクターは、コスミド、細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)、又はミニ染色体を含む。別の種類のベクターは、ウイルスベクターである。この場合、更なるDNAセグメントを、ウイルスゲノム内にライゲーションすることができる。
【0054】
本発明は、更に、ホスト細胞ゲノム内に組み込まれ、これにより、ホスト細胞ゲノムと共に複製することができる、ベクターに関する。発現ベクターは、所定の制限部位を含むことができる。同制限部位は、トランスフェクション前に、ベクター核酸の直線化に使用することができる。当業者であれば、ゲノム内に組み込む方法を知っている。例えば、直線化制限部位を配置する方法が重要である。前記制限部位により、ベクター核酸が開裂され、直線化される箇所が決定され、このため、構築物がホスト細胞のゲノム内に組み込まれる際の発現カセットの順序/配列が決定されるためである。
【0055】
本発明によれば、抗生物質抵抗性遺伝子は、対応する遺伝子産物を発現させることによる選択利点(例えば、抗生物質に対する抵抗性)によりトランスフォーメーションされた細胞を提供する遺伝子を意味する。遺伝子産物は、遺伝子産物が抵抗性を付与する抗生物質が細胞培養培地にアプライされた場合、抗生物質抵抗性遺伝子を発現していない細胞と区別することができる特徴(すなわち、細胞選択)を、抗生物質抵抗性遺伝子を発現している細胞に付与する。遺伝子産物による細胞への抵抗性は、種々の分子メカニズム(例えば、薬剤の不活性化、排出の増大)により付与することができる。
【0056】
本発明の遺伝子又は対象となるタンパク質をコードする遺伝子を含む発現カセットは、DNA構築物として発現ベクター内に挿入される。このDNA構築物は、合成DNA分子、ゲノムDNA分子、cDNA分子、又はそれらの組み合わせから、リコンビナントに構成することができる。DNA構築物は、好ましくは、当技術分野において公知の標準的な技術に従って、種々のフラグメントを互いにライゲーションすることにより構成される。
【0057】
本発明の遺伝子又は対象となるタンパク質をコードする遺伝子を含む発現カセットは、発現ベクターの一部であることができる。好ましくは、発現ベクターは、DNAベクターである。ベクターは、適宜、対象となるタンパク質をコードする遺伝子及び抗生物質抵抗性遺伝子の適切な発現を容易にする配列を含む。これらの配列は、典型的には、本明細書で記載された、プロモーター配列、転写開始部位、転写終了部位、及びポリアデニル化機能を含むが、これらに限定されない。
【0058】
発現カセットは、エンハンサー及び/又はイントロンを含むことができる。通常、イントロンは、オープン・リーディング・フレームの5’端に配置される。したがって、イントロンを、発現速度を向上させるために、対象となるポリペプチドを発現させる発現カセットに含ませることができる。前記イントロンは、プロモーター及び/又はプロモーター/エンハンサーエレメントと、発現されるポリペプチドのオープン・リーディング・フレームの5’端との間に位置することができる。複数の適切なイントロンが、本発明と合わせて使用することができる技術水準において公知である。
【0059】
ホスト中に存在する本発明の発現カセット又はベクターは、ホストのゲノム内に組み込まれているか、又は、染色体外的に何らかの状態で維持されているかのいずれかであることができる。
【0060】
さらに、発現カセットは、適切な転写終了部位を含むことができる。これは、上流プロモーターから第2の転写ユニットに続く転写と同様に、プロモーター閉塞又は転写干渉としても公知の現象である、下流プロモーターの機能を阻害することができる。このイベントは、原核生物及び真核生物の両方において説明されている。2つの転写ユニット間の転写終了シグナルの適切な配置は、プロモーター閉塞を防止することができる。転写終了部位は、特徴がはっきりしており、発現ベクター中へのその包含は、遺伝子発現における複数の有益な効果を有することが示されている。
【0061】
本明細書で使用される「5’」及び「3’」という用語は、遺伝要素の位置及び/又はイベントの方向(5’から3’)、例えば、5’から3’方向に進行する、RNAポリメラーゼによる転写又はリボソームによる翻訳の方向のいずれかに関連するヌクレオチド配列の特徴を説明するのに使用される慣例を意味する。類義語は、上流(5’)及び下流(3’)である。慣例的に、ヌクレオチド配列、遺伝子マップ、ベクターカード、及びRNA配列は、左から右に向かって、5’から3’で描かれるか、又は、5’から3’方向が、矢印で示される。この場合、矢じりは、3’方向を示す。したがって、この慣例に従った場合、5’(上流)は、左側に向かって示された遺伝要素を示し、3’(下流)は、右側に向かって示された遺伝要素を示す。
【0062】
本明細書で使用する場合、「発現」という用語は、ヌクレオチド配列の転写を意味する。前記ヌクレオチド配列は、好ましくは、タンパク質をコードする。したがって、前記用語は、(ヌクレオチド配列からの転写産物としての)mRNAの生成、及び、対応する遺伝子産物、例えば、ポリペプチド又はタンパク質を生成するこのmRNAの翻訳も含む。
【0063】
RNAポリメラーゼは、有利に、前記RNAポリメラーゼをコードするヌクレオチド配列を含む細菌ホスト細胞に対して異種である。「異種」は、RNAポリメラーゼが前記細菌ホスト細胞において本来存在しない、すなわち、前記RNAポリメラーゼをコードするヌクレオチド配列が前記細菌ホスト細胞中に本発明の教示に従って当技術分野において公知の手段及び方法により導入されない限り、前記細菌ホスト細胞が前記RNAポリメラーゼを本来含まないことを意味する。このため、RNAポリメラーゼは、理想的には、前記細菌ホスト細胞の増殖を阻害するファージタンパク質に対して感受性でない。好ましくは、RNAポリメラーゼは、バクテリオファージT3 RNAポリメラーゼ、T7バクテリオファージRNAポリメラーゼ、操作された直交性T7 RNAポリメラーゼ、バクテリオファージSP6 RNAポリメラーゼ、又はバクテリオファージXp10 RNAポリメラーゼである。更なるRNAポリメラーゼ、例えば、操作された直交性T7ポリメラーゼが、Temme et al. (2012), Nucleic Acids Research 40(17), 8773-8781に記載されている。
【0064】
本発明の好ましい実施態様では、RNAポリメラーゼをコードするヌクレオチド配列は、誘導性又は構成的プロモーターの制御下にある。誘導性プロモーターの例は、前記細菌ホスト細胞の増殖を阻害するファージ由来のタンパク質をコードするヌクレオチド配列を制御する誘導性プロモーターに関して、本明細書で記載されている。これらの誘導性プロモーターは、本明細書において以下で記載されたように、RNAポリメラーゼを制御する誘導性プロモーターについての好ましい例でもある。
【0065】
好ましくは、前記細菌ホスト細胞の増殖を阻害するファージ由来のタンパク質をコードするヌクレオチド配列を制御する誘導性プロモーターは、アラビノース、IPTG、トリプトファン、キシロース、ラムノース、ホスファート、又はファージラムダcIタンパク質によりレギュレーションされる。
【0066】
前記細菌ホスト細胞の増殖を阻害するファージ由来のタンパク質をコードするヌクレオチド配列を制御する誘導性プロモーター、又は、前記RNAポリメラーゼをコードするヌクレオチド配列を制御する誘導性プロモーターに関して、同じ誘導性プロモーターが適用されるのが好ましい。好ましい例は、本明細書で記載されている。この好ましい実施態様により、増殖とタンパク質生成とを分離するために、ファージタンパク質とRNAポリメラーゼとの発現を同時に誘導することが可能となる。ただし、当然、異なる誘導性プロモーターを、本発明の教示に従って使用することもできる。
【0067】
細菌ホスト細胞の好ましい実施態様では、前記ホスト細胞は、非機能性アラビノースオペロンを有する。
【0068】
また、本発明は、細菌ホスト細胞の調製物であって、
(i)誘導性プロモーターの制御下にあり、前記細菌ホスト細胞の増殖を阻害する、本明細書で定義されたファージ由来のタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、
(ii)前記細菌ホスト細胞に対して異種のRNAポリメラーゼをコードするヌクレオチド配列を含む、
細菌ホスト細胞の調製物も提供する。
【0069】
本明細書で使用する場合、「細菌ホスト細胞の調製物」は、有利には、インタクトな生きた細菌ホスト細胞を含まないが、前記ヌクレオチド配列が調製物が得られる前記細菌ホスト細胞に対して異種のRNAポリメラーゼにより認識されるプロモーターの制御下にある、対象となるタンパク質をコードするヌクレオチド配列を転写し、翻訳する能力を有する、任意の調製物である。このような調製物は、例えば、細菌ホスト細胞の穏和な溶解により、又は、機械的力、例えば、このような細菌ホスト細胞をフレンチプレスに供することにより調製することができる。
【0070】
本発明は、細菌ホスト細胞を、本明細書で定義された前記細菌ホスト細胞の増殖を阻害するファージ由来のタンパク質をコードするヌクレオチド配列、T7 RNAポリメラーゼをコードするヌクレオチド配列、及び対象となるタンパク質をコードするヌクレオチド配列によりトランスフォーメーションすることを含む、本明細書で記載されたホスト細胞を製造するための方法を更に含む。
【0071】
本明細書で使用する場合、「トランスフォーメーションすること」という用語は、ヌクレオチド配列を導入することにより、ホスト細胞のゲノム型を修飾することを意味する。ヌクレオチド配列は、必ずしも異なるソースに由来する必要はないが、いつかは、それが導入される細胞に対して外部にあるであろう。
【0072】
更なる態様では、本発明は、対象となるタンパク質を製造するための方法であって、本明細書で記載された細菌ホスト細胞を、適切な条件下において培養することと、前記対象となるタンパク質を得ることとを含む、方法を含む。
【0073】
本発明のホスト細胞中において、ポリペプチドを生成するための数多くの適切な方法が、当技術分野に存在する。適宜、生成されたタンパク質は、確立された技術により、培養培地、培養されたホスト細胞のライゼートから、又は、単離された(生物学的)膜から収集される。例えば、特に、対象となるタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む発現カセットは、PCRにより合成することができ、発現ベクター内に挿入することができる。その後に、細胞を、発現ベクターによりトランスフォーメーションすることができる。その後、細胞は、所望のタンパク質を生成/発現するように培養される。同タンパク質は、単離され、精製される。例えば、生成物は、ホスト細胞及び/又は培養培地から、従来の手法により回収することができる。同手法は、細胞溶解、ホスト細胞の破砕、遠心分離、ろ過、超ろ過、抽出、エバポレーション、噴霧乾燥、又は沈殿を含むが、これらに限定されない。精製は、当技術分野において公知の各種の手法により行うことができる。同手法は、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、親和性、疎水性、等電点電気泳動、及びサイズ排除)、電気泳動手法(例えば、調製的等電点電気泳動)、差動的溶解性(例えば、硫酸アンモニウム沈殿)、又は抽出を含むが、これらに限定されない。
【0074】
「対象となるタンパク質を単離すること」は、導入されたベクターの発現中又は同発現後における、生成された対象となるタンパク質の分離を意味する。発現産物としてタンパク質又はペプチドの場合、前記タンパク質又はペプチドは、機能性タンパク質に必要かつ十分な配列とは別に、更なるN末端又はC末端アミノ酸配列を含むことができる。このようなタンパク質は、融合タンパク質と呼ばれる。
【0075】
対象となるポリペプチドが本発明のホスト細胞中で発現される場合、前記ホスト細胞の好ましいコドン利用の頻度に合致するように、前記ヌクレオチド配列のコドン利用を適合させることにより、前記ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を修飾する必要がある場合がある。本明細書で使用する場合、「好ましいコドン利用の頻度」は、所定のアミノ酸を指定するヌクレオチドコドンの利用において、本発明のホスト細胞により示される優先度を意味する。遺伝子における特定のコドンの利用頻度を決定するために、遺伝子中のそのコドンの出現回数が、遺伝子中の同じアミノ酸を指定する全てのコドンの出現総回数により割られる。同様に、ホスト細胞により示される好ましいコドン利用の頻度は、ホスト細胞により発現される数多くの遺伝子における好ましいコドン利用の頻度を平均化することにより算出することができる。この分析は、ホスト細胞により高度に発現される遺伝子に限定されるのが好ましい。ホスト細胞により利用される合成遺伝子に好ましいコドン利用の頻度のパーセント偏差は、まず、ホスト細胞の頻度から、1つのコドンの利用頻度のパーセント偏差を決定し、続けて、全てのコドン全体の平均偏差を得ることにより算出される。本明細書で定義されたように、この計算は、固有のコドン(すなわち、ATG及びTGG)を含む。
【0076】
タグは、対象となるタンパク質の特定及び/又は精製を可能にするのに使用することができる。したがって、対象となるタンパク質は、タグを含むのが好ましい。したがって、対象となるタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、好ましくは、前記対象となるタンパク質をコードするヌクレオチド配列に、インフレームに有利に遺伝子融合されたタグもコードする。前記タグは、前記対象となるタンパク質のC末端又はN末端に存在することができる。本発明に使用することができるタグの例は、HAT、FLAG、c-myc、ヘマグルチニン抗原、His(例えば、6×His)タグ、flagタグ、strepタグ、strepIIタグ、TAPタグ、キチン結合ドメイン(CBD)、マルトース結合タンパク質、免疫グロブリンA(IgA)、His-6タグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)タグ、インテイン及びストレプトアビジン結合タンパク質(SBP)タグを含むが、これらに限定されない。
【0077】
更なる実施態様では、本発明は、対象となるタンパク質の収量を増大させる方法であって、本明細書で定義された細菌ホスト細胞を、適切な条件下において培養することと、前記対象となるタンパク質を得ることとを含む、方法を提供する。
【0078】
本明細書で使用する場合、「収量」という用語は、例えば、リコンビナントホスト細胞から収集される、対象となるタンパク質の量を意味する。収量の増大は、ホスト細胞による対象となるタンパク質又はモデルタンパク質の生成量又は分泌量の増大によることができる。収量は、mg タンパク質/g ホスト細胞のバイオマス(乾燥細胞重量又はウェット細胞重量として測定)により表現することができる。本明細書で使用する場合、「力価」という用語は、同様に、生成された対象となるタンパク質又はモデルタンパク質の量を意味し、g タンパク質/L 培養ブロス(細胞を含む)として表現される。収量の増大は、その増殖が生成プロセス中に一時的に阻害されたリコンビナントホスト細胞から得られた収量を、その増殖が修飾されていないホスト細胞から得られた収量と比較した場合に決定することができる。
【0079】
例示的に、
図3と合わせて実施例3において、ファージタンパク質Gp2の誘導された発現により、モデルタンパク質GFPの発現の増大がもたらされることが証明される。
【0080】
好ましくは、本明細書で記載された方法は、下記の培養工程
(a)細菌細胞を、少なくとも20g/L 細菌乾燥質量(CDM)の密度に増殖させることと、
(b)ホスト細胞の増殖を阻害するファージタンパク質をコードするヌクレオチド配列の発現を誘導することと、
(c)0.05h-1の初期増殖速度を可能にする一定の直線的供給速度で、細菌細胞に栄養を供給することと、
(d)前記細菌細胞を、少なくとも12時間更に培養することとを含む。
【0081】
更に好ましい実施態様では、本発明は、対象となるタンパク質の収量を増大させるための方法であって、
前記細菌ホスト細胞に対して異種のRNAポリメラーゼをコードするヌクレオチド配列及び対象となるタンパク質をコードするヌクレオチド配列、及び、前記RNAポリメラーゼにより認識されるプロモーターの制御下にある、対象となるタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む細菌ホストを、誘導性プロモーターの制御下にあり、前記細菌ホスト細胞の増殖を阻害するファージ由来のタンパク質をコードするヌクレオチド配列によりトランスフォーメーションすることを含む、方法を含む。
【0082】
対象となるタンパク質を製造するための方法は、適切な条件下において、本明細書で記載された調製物を、本明細書で定義されたRNAポリメラーゼにより認識されるプロモーターの制御下において、対象となるタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むヌクレオチドと接触させることを含む。
【0083】
さらに、本明細書で記載された方法は、細胞にとって毒性であり、生存、細胞増殖、及び/又は細胞分裂に有害に作用する、対象となるタンパク質に関する。
【0084】
本明細書で使用する場合、「毒性」という用語は、対象となるタンパク質又はその誘導体もしくはその前駆体がその発現に基づいてホスト細胞に有害な影響を有するか、又は、ホスト細胞に有害な影響を有する誘導体に代謝されることを意味する。有害な影響の例は、増殖阻害である。同用語は、ホスト細胞の死も含む。
【0085】
更なる実施態様では、本発明の方法は、対象となるタンパク質を修飾すること、及び/又は、対象となるタンパク質を少なくとも1つの更なる成分を含む組成物中に配合することを含む。
【0086】
本明細書で使用する場合、「対象となるタンパク質を修飾すること」という用語は、別のタンパク質との融合、ラベルの付加、対象となるタンパク質のトランケート、翻訳後修飾の付加、例えば、アセチル化、グルコシル化、ビオチン化、酸化、ヌクレオチド付加、アミド化、アミノ酸付加、アルキル化、パルミトイル化等、対象となるタンパク質の架橋、対象となるタンパク質の化学修飾、例えば、ペグ化、アミンのスルフヒドリルへの変換、スルフヒドリル基の保護等であることができるが、これらに限定されない。「ラベル」は、蛍光ラベル、生体発光ラベル、放射線ラベル、酵素ラベル等であることができる。
【0087】
本明細書において、本発明の方法は、対象となるタンパク質を、対象となるタンパク質への化合物の包含により修飾するのに使用することができることも想定される。前記化合物の包含は、対象となるタンパク質をラベルするのに使用することができる。これは、タンパク質の構造分析に特に有用であることができる。前記化合物の例は、C12、N15、D2O、又はそれらの任意の組み合わせである。本発明の方法は、前記化合物が対象となるタンパク質の生成に専ら使用され、細胞性タンパク質の生成には使用されないであろうという利点を提供する。したがって、対象となるタンパク質をラベルするのに、ラベル化合物をほとんど必要としないであろう。
【0088】
さらに、本発明の方法は、対象となるタンパク質を、対象となるタンパク質への非標準アミノ酸の包含により修飾するのに使用することができる。このような非標準アミノ酸の一例は、フルオロアミノ酸(例えば、4-フルオロ-L-スレオニン)である。同フルオロアミノ酸は、対象となるタンパク質をフッ化するのに使用することができる。非標準アミノ酸は、その非標準的類似物による1つ以上の非標準アミノ酸の残基特異的置換によりタンパク質全体に、又は、対象となるタンパク質のコード配列内にインフレームにアンバー停止コドンを挿入することにより部位特異的に、包含させることができる。前記アンバー停止コドンは、直交tRNAにより(例えば、ミスアシル化サプレッサーtRNAにより)認識される。そしてここで、前記直交tRNAは、直交tRNAシンターゼによる非標準アミノ酸により主に荷電される。
【0089】
本明細書で使用する場合、「対象となるタンパク質を組成物中に配合すること」という用語は、例えば、対象となるタンパク質が、対象となるタンパク質を分解、変性、過酷環境から、もしくは、プロテアーゼにより加水分解されるのを保護し、又は、対象となるタンパク質を希釈し、又は、患者に対して薬剤として投与された場合、対象となるタンパク質の薬学的活性を改善し、又は、製造プロセスにおいて有利である等の、1つ以上の成分と混合されることを意味する。
【0090】
本発明の好ましい実施態様では、前記対象となるタンパク質は、ラベルにより修飾される。
【0091】
本明細書で使用する場合、「ラベル」という用語は、タグ、例えば、ビオチン、StrepタグII、FLAGタグ、HAタグ、Mycタグ、ポリ(His)タグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合タンパク質(MBP)、キチン結合ドメイン(CBD)等、又は、蛍光プローブ、例えば、GFP、RFP、BFP、YFP、mCherry、FITC、TRITC、DyLight Fluors、PE、量子ドット、Alexa fluors等、又は、酵素、例えば、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ等、又は、活性部位プローブ、例えば、デスチオビオチン-FPセリンヒドロラーゼプローブ等であることができるが、これらに限定されない。
【0092】
対象となる化合物を製造するための方法は、本明細書で記載された細菌ホスト細胞を培養することと、前記対象となる化合物の製造のために前記細菌ホスト細胞により変換され、及び/又は、使用される化合物を加えることとを含む。
【0093】
本明細書で使用する場合、「対象となる化合物」という用語は、プラスチック用の前駆体又は構築ブロック分子、例えば、ビシクロ[3.2.0]-ヘプタ-2-エン-6-オンのラクトンへの変換、アルコール、例えば、プロキラルカルボニル化合物のキラルへの変換、フェルラ酸のコニフェリルアルデヒドへの、コニフェリルアルコールへの変換、又は、オイゲノールのフェルラ酸への、コニフェリルアルコールへの、バニリンへの変換であることができるが、これらに限定されない。
【0094】
さらに、本発明は、対象となるタンパク質の製造のための、本明細書で記載されたホスト細胞又は調製物の使用に関する。
【0095】
更なる実施態様では、本発明は、対象となるタンパク質の収量を増大させるための、本明細書で記載されたホスト細胞又は調製物の使用に関する。
【0096】
更なる実施態様では、本発明は、ホスト細胞中で対象となるタンパク質の収量を増大させるための、本明細書で記載されたファージタンパク質をコードするヌクレオチド配列の使用に関する。
【0097】
本明細書で記載されたファージタンパク質の使用において、対象となるタンパク質がT7プロモーターの制御下にある場合、前記ホスト細胞は、T7 RNAポリメラーゼをコードするヌクレオチド配列を含む。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【
図1】Gp2の誘導された発現により、E. coliのNEB10-ベータ株のホスト細胞増殖が、用量依存的方法で阻害される。 アラビノース誘導性プロモーターの制御下にあるGp2コード配列を、低コピーf-プラスミドpKLJ12(Jones and Keasling (1998), Biotechnol Bioengineer 59: 659-665)中にクローニングした。プラスミドpKLJ12+Gp2を、araD139変異を含むE. coliのNEB10-ベータ株にトランスフォーメーションした。その結果として、NEB10-ベータは、誘導物質であるアラビノースを代謝することができない。種々の濃度でのアラビノースの添加、及びこれによるGp2の発現により、用量依存性方法における増殖阻害が生じる。
【
図2】アラビノースの添加は、ホスト細胞増殖に影響を有しない。 ホスト細胞増殖におけるアラビノース化合物の任意の影響を除外するために、Gp2発現カセットのリボソーム結合部位を欠いているプラスミドpKLJ12+Gp2の派生物を利用した。その結果として、Gp2の発現を誘導することができず、このため、増殖の差は、アラビノースの有無により観察されなかった。
【
図3-1】Gp2の誘導された発現により、モデルタンパク質GFPの発現レベルが向上する。 T7プロモーターの制御下にあるGFPコード配列及びIPTG誘導性プロモーターの制御下にあるT7 RNAポリメラーゼを含むE. coliのHMS174(DE3)TN7::<T7GFP>株を、アラビノース誘導性プロモーターの制御下にあるGp2コード配列を有するプラスミドpKLJ12+Gp2によりトランスフォーメーションした。3回の連続的な実験から、ホスト細胞は、IPTG及びアラビノースにより誘導され、T7 RNAポリメラーゼ及びGp2を発現し、IPTGのみによって誘導されるため、T7 RNAポリメラーゼを発現するが、Gp2を発現しないホスト細胞と比較して、より高い程度にGFPを発現したことが示された。
【
図3-2】Gp2の誘導された発現により、モデルタンパク質GFPの発現レベルが向上する。 T7プロモーターの制御下にあるGFPコード配列及びIPTG誘導性プロモーターの制御下にあるT7 RNAポリメラーゼを含むE. coliのHMS174(DE3)TN7::<T7GFP>株を、アラビノース誘導性プロモーターの制御下にあるGp2コード配列を有するプラスミドpKLJ12+Gp2によりトランスフォーメーションした。3回の連続的な実験から、ホスト細胞は、IPTG及びアラビノースにより誘導され、T7 RNAポリメラーゼ及びGp2を発現し、IPTGのみによって誘導されるため、T7 RNAポリメラーゼを発現するが、Gp2を発現しないホスト細胞と比較して、より高い程度にGFPを発現したことが示された。
【
図4】ベクターを含まないpKLJ12+Gp2インサートからのGp2発現により、GFP発現が増大する。 T7プロモーターの制御下にあるGFPコード配列及びIPTG誘導性プロモーターの制御下にあるT7 RNAポリメラーゼを含むE. coliのHMS174(DE3)TN7::<T7GFP>株を、Gp2発現カセットを含むpKLJ12+Gp2インサートによりトランスフォーメーションした。3回の内2回において、Gp2発現カセットのトランスフォーメーションにより、IPTG誘導後3時間で、GFP発現の増大がもたらされた。
【
図5-1】細菌ホスト細胞の増殖を阻害する、例示的であるが、好ましい(ファージ)タンパク質のアミノ酸配列。
【
図5-2】細菌ホスト細胞の増殖を阻害する、例示的であるが、好ましい(ファージ)タンパク質のアミノ酸配列。
【
図6】Gp2発現を欠いている参照発酵プロセス 参照発酵プロセスにおいて、Gp2は発現されず、このため、細胞は、予想されたとおり、モデルタンパク質GFPの生成中に増殖し続ける。その結果として、総CDM(細胞乾燥質量)及びリコンビナントタンパク質を含まないCDMは、発酵プロセス全体を間に増大する。GFPの誘導された発現により、発酵プロセス全体を間に、特異的可溶性GFP及び総可溶性GFPの両方の一定の増大がもたらされる。
【
図7】増殖とタンパク質生成とがGp2発現により分離された発酵プロセス例。 この発酵プロセス例において、Gp2の発現により、細胞の増殖が停止される。その結果として、リコンビナントタンパク質を含まないCDMは、11時間の時点でのGp2発現の誘導に基づいて一定のままである。一方、総CDMは、リコンビナントGFPの生成により、中程度に増大する。特異的可溶性GFP及び総可溶性GFPは両方とも、細胞の増殖を停止させたにも関わらず、一連の発酵プロセスの間に増大する。
【
図8】Gp2の発現により、GFPの発現レベルと、上清中の可溶性ホスト細胞タンパク質(HCP)に対するGFPの割合とが増大する。 クーマシー染色されたSDS PAGEゲルから、ゲノム組込み誘導性Gp2タンパク質を含まない標準的な系(E. coli BL21(DE3))と比較して、ゲノム組込み誘導性Gp2タンパク質を含む増殖分離系(E. coli BL21(DE3))を使用した、上清(S)中の可溶性GFPの増大が示される。さらに、上清中のHCP(リゾチームを除く)に対するGFPの相対量は、標準的な系と比較して、増殖分離系を使用することにより、相当高い。加えて、GFPの可溶性は、標準的な系と比較して、増殖分離系を使用することにより改善される。
【
図9】参照プロセススキーム.0.1mM IPTGによる誘導。
【
図10】供給-バッチ培養ならびにアラビノース及びIPTGによる誘導戦略のプロセススキーム。
【
図11】BL21(DE3)::TN7(Gp2ΔAra)pET30(HIV1-プロテアーゼ)及びBL21(DE3)pET30(HIV1-プロテアーゼ)の浸透フラスコ培養のSDS page分析。 参照株及びモデル株培養の誘導及び非誘導サンプルの比較。HIV1-プロテアーゼバンドは、11kDaに位置する。
【
図12】BL21(DE3)pET30a(HIV1-プロテアーゼ)及びBL21(DE3):TN7<GP2ΔAra>pET30a(HIV1-プロテアーゼ)株の増殖及び生成物形成の動力学。 (A)参照発酵プロセス:指数的供給速度μ=0.10h
-1での21時間供給における、20μmol IPTG/g CDMによる誘導。(B)モデル発酵プロセス:指数的供給(μ=0.20h
-1)を11時間で直線的供給に切り替えた供給における0.1M アラビノース+20μmol IPTG/gによる誘導。
【
図13】BL21(DE3)pET30(HIV1-プロテアーゼ)による参照プロセス発酵のSDS page分析。
【
図14-1】SDS PAGE分析:BL21(DE3)::TN7(Gp2ΔAra)pET30(HIV1-プロテアーゼ)の培養。
【
図14-2】SDS PAGE分析:BL21(DE3)::TN7(Gp2ΔAra)pET30(HIV1-プロテアーゼ)の培養。
【
図15】BL21(DE3)::TN7(Gp2ΔAra)pET30(HIV1-プロテアーゼ)[モデルプロセス、緑色]とBL21(DE3)pET30a(HIV1-プロテアーゼ)[参照プロセス、赤色]とによる、HIV1-プロテアーゼ生成収量の比較。 (A、C、E)生成された総HIV1-プロテアーゼ、可溶性HIV1-プロテアーゼ、及び不溶性HIV1-プロテアーゼの比較;(B、D)総CDM及び正味CDMの比較;(F)総HIV1-プロテアーゼは、両方の系により生成された。
【
図16】HCDバイオリアクター供給-バッチ培養における増殖分離タンパク質発現について確立された供給プロファイル。 増殖曲線及び増殖速度の理論的傾向、一定のグルコースに基づく計算から、培養全体を
【
図17】BL21(DE3)::TN7(Gp2ΔAra)pET30(GFPmut3.1)のHCD培養のSDS page分析。 指数的供給(μ=0.17h
-1)を15時間で直線的供給に切り替えた供給における20μmol IPTG/g CDM及び0.1M アラビノースによる誘導。GFPバンドは、27kDaに位置する。
【
図18】BL21(DE3):TN7<GP2ΔAra>pET30a(GFPmut3.1)株のHCD培養の増殖及び生成物形成の動力学。 指数的供給(μ=0.20h
-1)を15時間で直線的供給に切り替えた供給における0.1M アラビノース+20μmol IPTG/gによる誘導。
【
図19】増殖分離系のHCD培養の間の時間当たり(A)及び総(B)O
2消費及びCO
2形成。 指数的供給速度μ=0.17h
-1での15時間供給における、0.1M アラビノース+20μmol IPTG/g CDMによる誘導。供給培地に、(NH
4)
2SO
4を加えた。
【
図20】BL21(DE3)::TN7(Gp2ΔAra)pET30(GFPmut3.1)のHCDと非HCD培養との間のGFPmut3.1生成収量の比較。 (A、C、E)生成された総GFPmut3.1、可溶性GFPmut3.1、及び不溶性GFPmut3.1の比較。(B、D)総CDM及び正味CDMの比較;(F)総GFPmut3.1は生成された。
【実施例】
【0099】
以下の実施例により、本発明が証明されるが、本発明の範囲を限定すると解釈されない。
【0100】
実施例1:ホスト細胞のRNAポリメラーゼ阻害によりホスト細胞の増殖が阻害される
ホスト細胞の増殖におけるホスト細胞のRNAポリメラーゼ阻害の影響を評価するために、アラビノース誘導性プロモーターの制御下にあるGp2コード配列を、低コピーf-プラスミドpKLJ12(Jones and Keasling (1998), Biotechnol Bioengineer 59: 659-665)中にクローニングした。同プラスミドは、ホスト細胞に対して小さな負荷のみを構成し、安定して維持される。タンパク質Gp2は、酵素のベータ-サブユニットに結合することにより、ホスト細胞のRNAポリメラーゼを阻害するのが公知である。プラスミドpKLJ12+Gp2を、araD139変異を含むE. coliのNEB10-ベータ株にトランスフォーメーションした。その結果として、NEB10-ベータは、誘導物質であるアラビノースを代謝することができない。0時間の時点において、複数の培養物を植菌し、Gp2発現を、1.5%、0.1%、又は0.001% アラビノースの添加により、2時間後に誘導した。細菌の増殖を、OD600nm値を決定することにより測定した。種々の濃度でのアラビノースの添加、及びこれによるGp2の発現により、アラビノースが加えられなかった細菌培養物と比較して、用量依存性方法における増殖阻害が生じた(
図1)。ホスト細胞増殖におけるアラビノース化合物の任意の影響を除外するために、Gp2発現カセットのリボソーム結合部位を欠いているプラスミドpKLJ12+Gp2の派生物を利用した。その結果として、Gp2の発現を誘導することができず、このため、増殖の差は、アラビノースの有無により観察されなかった(
図2)。
【0101】
実施例2:Gp2コード発現カセットのホスト細胞中への組込み
ホスト細胞集団におけるGp2タンパク質の安定した発現を付与するために、Gp2コード発現カセットを、TN7遺伝子座において、相同組換えにより、NEB10-ベータのゲノムに組み込んだ。挿入された配列は、アラビノースプロモーターの制御下にあるGp2遺伝子、レギュレータ、ターミネータ、及びアンピシリン抵抗性遺伝子を含んだ。最後に、50bp オーバーハングを、挿入エレメントにPCRにより付加した。直線状のPCR産物を、NEB10-ベータホスト細胞内に、pSIMヘルパープラスミドと共に、同時にトランスフォーメーションした。同プラスミドは、ホスト細胞ゲノムへのPCR産物の組込みを媒介するタンパク質のヒートショック誘導発現を付与する。ライゲーションの成功後に、pSIMプラスミドを、ホスト細胞から取り出すことができる(Sharan et al., 2009, Nat Protoc. 4(2):206-23)。
【0102】
実施例3:E. coliにおけるGp2の誘導された発現によりモデルタンパク質GFPの発現が増大する
T7プロモーターの制御下にあるGFPコード配列及びIPTG誘導性プロモーターの制御下にあるT7 RNAポリメラーゼを含むE. coliのHMS174(DE3)TN7::<T7GFP>株を、アラビノース誘導性プロモーターの制御下にあるGp2コード配列を有するプラスミドpKLJ12+Gp2によりトランスフォーメーションした。培養物の植菌後約2時間で、IPTGを加えて、T7 RNAポリメラーゼの発現を誘導することにより、GFPの発現を誘導する。植菌の約3時間後、Gp2を発現させるために、アラビノースを加えた。3回の連続的な実験から、ホスト細胞は、IPTG及びアラビノースにより誘導され、T7 RNAポリメラーゼ及びGp2を発現し、IPTGのみによって誘導されるため、T7 RNAポリメラーゼを発現するが、Gp2を発現しないホスト細胞と比較して、より高い程度にGFPを発現したことが示された。IPTGを加えなかった2つのサンプルにおいて、アラビノースの有無に関わらず、GFPが、プロモーターの漏出性のために、わずかに発現された(
図3)。
【0103】
実施例4:ベクターを含まないpKLJ12+Gp2インサートからのGp2発現によりGFP発現が増大する
T7プロモーターの制御下にあるGFPコード配列及びIPTG誘導性プロモーターの制御下にあるT7 RNAポリメラーゼを含むE. coliのHMS174(DE3)TN7::<T7GFP>株を、Gp2発現カセットを含むpKLJ12+Gp2インサートによりトランスフォーメーションした。3回の内2回において、Gp2発現カセットのトランスフォーメーションにより、IPTG誘導後3時間で、GFP発現の増大がもたらされた(
図4)。
【0104】
実施例5:モデルタンパク質GFPの収量におけるGp2発現の影響を評価した、発酵プロセス例の説明
培養モード及びプロセス分析
細胞を、標準的な制御ユニットを備えた12L(8L 正味容量、4L バッチ容量)コンピュータ制御バイオリアクター(MBR;Wetzikon, CH)中で増殖させる。pHを、25% アンモニア水(ACROS Organics)の添加により、7.0±0.05の設定点に維持する。温度を、37℃±0.5℃に設定する。酸素制限を避けるために、溶存酸素レベルを、攪拌速度及び通気速度制御により、30%超飽和で安定させる。蛍光測定を、工業環境におけるオンライン測定のために特別に設計された多波長分光蛍光光度計、BioView(登録商標)(DELTA Light & Optics, Lyngby, Denmark)を使用して行う。発泡を、消泡剤懸濁液(PBG2000)を0.5ml/l 培地の濃度で添加により抑制する。植菌のために、深冷凍結された(-80℃)ワーキング・セル・バンクバイアルを融解させ、1ml(光学密度OD600=1)を、バイオリアクターに無菌で移す。培養物がバッチ培地 4L中に22.5g 細菌乾燥質量に増殖し、定常段階に入った時点で、供給を開始する。供給段階の開始について、培養温度を、30℃に下げる。供給培地を、十分な成分で提供し、363g 細菌乾燥質量を更に得た(4倍加)。
【0105】
参照プロセス(
図6)において、(標準的な)発現系であるE. coliのBL21(DE3)pET30a GFPmut3.1を使用した。供給段階における増殖速度を、0.1h
-1に設定し、3回の倍加を経過した後の供給開始誘導によるリコンビナント遺伝子発現を、バイオリアクターに対して直接1回パルスすることにより、CDM1g当たりに20μmol IPTGで行った。
【0106】
ゲノム組込み誘導性Gp2タンパク質を含有する(標準的な)発現系であるE. coliのBL21(DE3)pET30a GFPmut3.1によるプロセスにおいて(
図7)、供給段階における増殖速度を、指数的な基質供給による3回の倍加の間、0.2h
-1に設定した。その後、細胞乾燥質量1g当たりに20μmol IPTG及び10mmol アラビノースによる誘導を行い、培地供給を、直線的供給に切り替え、初期増殖速度0.05h
-1で、更に16時間培養する。基質供給を、基質タンク中の重量減少の重畳フィードバック制御についての指数的増殖アルゴリズムx=x
o.e
μtに従ってポンプ速度を増大させることにより制御する。
【0107】
培地組成
本研究に使用された最少培地は、1リットル当たりに、3g KH2PO4及び6g K2HPO4*3H2Oを含有する。これらの濃度により、必要とされる緩衝能が提供され、P及びKのソースとしても機能する。生じる細菌乾燥質量1グラムに関して、他の成分:クエン酸ナトリウム(三ナトリウム塩*2H2O;ACROS organics) 0.25g、MgSO4
*7H2O 0.10g、CaCl2
*2H2O 0.02g、微量元素溶液 50μl、及びグルコース*H2O 3gを加える。集団の初期増殖を加速させるために、複合成分であるイーストエキストラクト 0.15gを、最少培地に加えて、バッチ培地を得る。供給段階について、最少培地 8Lを、供給段階において生じた363g 生物学的乾燥質量の量に応じて調製する。この場合、P塩を、1リットル当たりに、再度加える。微量元素溶液:FeSO4
*7H2O 40.0、MnSO4
*H2O 10.0、AlCl3
*6H2O 10.0、CoCl2(Fluka) 4.0、ZnSO4
*7H2O 2.0、Na2MoO2
*2H2O 2.0、CuCl2
*2H2O 1.0、H3BO3 0.50を、5N HCl(g/L)中に調製した。
【0108】
オフライン分析
光学密度(OD)を、600nmで測定する。細菌乾燥質量を、細胞懸濁液 10mLの遠心分離、蒸留水中の再懸濁、続けて、遠心分離、及び予め秤量されたビーカーに移すための再懸濁により決定する。ついで、同ビーカーを、105℃で24時間乾燥させ、再度秤量する。細菌増殖の進行を、細胞乾燥質量の総量(総CDM)を算出することにより決定する。
【0109】
リコンビナントタンパク質GFPの含量を、ELISA及びSDS-PAGEゲルにおけるバンドの濃度測定定量を使用する電気泳動タンパク質定量により決定した。可溶性リコンビナント生成物を、GFP-ELISAにより定量する。一方、封入体中のリコンビナント生成物を、SDS-PAGEゲル電気泳動により決定する。
【0110】
加えて、上清及び封入体を、SDS-PAGEゲル電気泳動を使用して分析した。クーマシー染色されたSDS PAGEゲルから、標準的な系と比較して、増殖分離系を使用した、上清中の可溶性GFPの増大が示される。さらに、上清中のHCPに対するGFPの相対量は、標準的な系と比較して、増殖分離系を使用することにより、相当高い。加えて、GFPの可溶性は、増殖が分離されていない標準的な系(BL21(DE3)pET30a GFPmut3.1)と比較して、増殖分離系を使用することにより改善される(
図8)。
【0111】
実施例6:増殖分離系を使用するHIV-1プロテアーゼの生成
開発された増殖分離プロセスの適応性を証明するために、別のリコンビナントタンパク質が必要であった。その目的で、HIV-1プロテアーゼを、増殖分離系及びモデルプロセスを証明するための第2のモデルタンパク質として選択した。HIV-1プロテアーゼは、E. coliに非常に毒性であるため、生成するのが困難である(Korant and Rizzo, (1991), Biomed Biochim Acta 50: 643-6)。ヒト免疫不全ウイルス1型由来のこのアスパラギン酸プロテアーゼのE. coliにおける過剰発現は、通常、そのタンパク質分解活性に関連する可能性がある、生成細胞における中毒作用に見舞われる(Fernandez et al., (2007), Biotechnol Lett 29: 1381-6)。その結果として、このタンパク質は、一般的には、微生物系において発現させるのが困難である。レトロウイルスタンパク質は、ポリタンパク質前駆体として合成され、特異的なプロテアーゼにより処理される(Volonte et al., (2011), Microb Cell Fact 10: 53)。これらの前駆体は、Gag及びGag-Polポリペプチドである。同ポリペプチドは、HIV-1プロテアーゼにより、成熟タンパク質にタンパク質分解的に処理される(Kohl et al., (1988), Proc Natl Acad Sci U S A 85: 4686-90)。
【0112】
HIV-1プロテアーゼは、HI-ウイルスによりコードされ、これにより、ウイルスの成熟に重要な役割を果たす。HIV-1プロテアーゼは、後天性免疫不全症候群(AIDS)の可能性のある処置の開発に魅力的なターゲットである。細菌培養系において大量のHIV-1プロテアーゼを発現させることができる系の有効性は、このタンパク質を大量に得ることの究極の目的である(Volonte et al., (2011), Microb Cell Fact 10: 53)。
【0113】
参照発酵プロセス
培養のバッチ段階を、37℃の温度で行い、ワーキング・セル・バンク(WCB) 1mLを植菌した。実験に応じて、2種類のモデルタンパク質を含有する下記株を、このプロセススキームに使用した。
・BL21(DE3)pET30(GFPmut3.1)
・BL21(DE3)pET30(HIV1-プロテアーゼ)
【0114】
バッチ段階を、11時間~13時間後に完了させた(溶存酸素におけるピークにより示す)。供給段階を、その直後に開始した。指数的供給段階において、発現されたリコンビナントタンパク質の封入体形成を減少させ、より良好なO2溶解性を達成するために、温度を、30℃に下げた。供給バッチプロセスの増殖速度(μ)を、指数的基質供給により、0.10h-1で一定に、4世代の間維持した。細胞乾燥質量(CDM)が4L バッチ容量において22.5g CDMで、バッチ段階の終了に達した後に、供給を開始した。
【0115】
IPTG(20μmol/g CDM)の1回のパルスによる誘導を、供給段階における第3世代の後(供給開始後21時間)で行った。サンプリング手法を、1世代の間に継続した。参照プロセススキームの概観を、
図9に示す。
【0116】
発酵プロセス/増殖分離生成系
培養のバッチ段階を、37℃の一定温度で行い、WCB 1mLを植菌した。下記系を、このプロセススキームにより培養した。
・BL21(DE3)::TN7(Gp2ΔAra)pET30(GFPmut3.1)
・BL21(DE3)::TN7(Gp2ΔAra)pET30(HIV1-プロテアーゼ)
【0117】
バッチ段階を、11時間~13時間後に完了させた。供給段階を、その直後に開始した。指数的供給段階において、発現されたリコンビナントタンパク質のより良好な溶解性を達成し、より良好な酸素移動速度(OTR)を達成するために、温度を、30℃に下げた。増殖速度を、μ=0.20h
-1で一定に維持した。リコンビナントタンパク質生成を、第3世代の後(供給開始後21時間)に、0.1M アラビノース(Gp2)及び20μmol IPTG/g CDM(対象となる遺伝子-GOI)の1回のパルスにより誘導した。第4世代の間、サンプリングを行った。直線的供給プロファイルを、μ=0.050h
-1の初期増殖速度で開始し、実験の経過において、μ=0.025h
-1に低下させて適用した。サンプリング手法を、1世代の間継続した。参照プロセススキームの概観を、
図10に示す。
【0118】
Escherichia coliにおけるHIV-1プロテアーゼ生成
本プラットホームプロセスの広い適応性を証明するために、別のリコンビナントタンパク質についての実験が必要である。その目的で、E. coliにおいて生成することが困難なタンパク質であるHIV-1プロテアーゼを、ベンチマーク実験に選択した。
【0119】
参照株BL21(DE3)pET30a(HIV1-プロテアーゼ)及びモデル株BL21(DE3)::TN7(Gp2ΔAra)pET30(HIV1-プロテアーゼ)のバイオリアクター培養を行う前に、標準的な振とうフラスコ培養を、リコンビナントタンパク質が生成されるかどうかを証明するのに行った。HIV1-プロテアーゼのバンドは、リゾチームのバンドの下の、11kDaに位置する。下記一次方程式を、HIV1-プロテアーゼの定量に使用した。
y=0.0007x R2=0.9708
【0120】
図11によれば、両株は、HIV1-プロテアーゼを不溶型で生成することができた。増殖分離系による生成により、濃度69μg/mLで生成された。一方、参照系では、5μg/mL 不溶性HIV1-プロテアーゼのみが生成された。その結果として、BL21(DE3)::TN7(Gp2ΔAra)pET30(HIV1-プロテアーゼ)は、参照株より、13倍多いHIV1-プロテアーゼを生成することができた。
【0121】
両株ともにモデルタンパク質を生成することができたため、両方の系のラボスケール培養を行った。BL21(DE3)pET30a(HIV1-プロテアーゼ)を、参照系として使用した。発酵プロセスを、上記に従って行った。平行して、増殖分離系による新規なプラットホームプロセスを、
図10に記載されたように、BL21(DE3)::TN7(Gp2ΔAra)pET30(HIV1-プロテアーゼ)により行った。増殖速度μ=0.20h
-1を、指数的供給段階の間に適用した。
【0122】
図12のグラフAに示されたように、標準的なプロセスについてのHIV-1プロテアーゼの最大特異的濃度は、11.8mg/g CDMであり、タンパク質の可溶性発現を伴わなかった。0.3g/Lで得られた体積収量も、非常に低い。この結果から、HIV-1プロテアーゼが低収量で、発現が困難なタンパク質のグループに属するという記述が確認される(Volonte et al., (2011), Microb Cell Fact 10: 53;Woersdoerfer et al., (2011), Science 331: 589-92)。グラフBは、モデルプロセスにおいて、CDMの増殖が誘導後に停止し、正味のCDMが減少しなかったことを示している。プロセス終了時に、増殖分離系により、合計233.5g CDMが生成された。これと比較して、参照プロセスでは、331.92g CDMが生成された。モデルプロセスでは、CDMが30%少なく生成された。タンパク質生成の誘導後、モデルプロセスでは、参照系と比較して、塩基も155.2g少なく消費した。
図13は、参照プロセスのSDS page分析を示す。下記一次方程式を、参照プロセス発酵の定量に使用した。
y=0.0006x R
2=0.9981
【0123】
図13によれば、参照系は、HIV1-プロテアーゼを不溶型(IB)でのみ生成することができた。タンパク質発現段階の開始時に、BL21(DE3)pET30(HIV1-プロテアーゼ)は、1mL当たりに2μg 不溶性HIV1-プロテアーゼを生成した。第4世代の最後に、参照プロセスにより、1mL当たりに19μg 不溶性HIV1-プロテアーゼを生成した。
【0124】
図14は、増殖分離プロセス発酵のSDS page分析を表わす。下記一次方程式を、HIV1-プロテアーゼの定量に使用した。
y=0.0009x R
2=0.9611
【0125】
図14によれば、増殖分離系は、HIV1-プロテアーゼを、可溶型(S)及び不溶型(IB)で生成することができた。タンパク質生成段階の開始時に、BL21(DE3)::TN7(Gp2ΔAra)pET30(HIV1-プロテアーゼ)は、79% 可溶性及び21% 不溶性HIV1-プロテアーゼを発現させた。可溶性タンパク質の割合は、延長されたプロセス経過により低下した。第4世代の終了時(供給開始後27時間)に、12%が可溶性として発現され、88%が不溶性HIV1-プロテアーゼとして発現された。
【0126】
これらの実験結果の概要を、
図15に示す。グラフAに表わされたように、増殖分離系は、HIV1-プロテアーゼを、47mg/g CDMの濃度で生成することができた。一方、参照プロセスでは、12mg/g CDMの濃度で、総HIV1-プロテアーゼが生成された。このため、BL21(DE3)::TN7(Gp2ΔAra)pET30(HIV1-プロテアーゼ)は、BL21(DE3)pET30a(HIV1-プロテアーゼ)と比較して、CDM1グラム当たりに、ほぼ4倍多いHIV1-プロテアーゼを生成した。グラフCによれば、モデルプロセスにより、可溶性HIV1-プロテアーゼが、プロセス終了時に、濃度9mg/gで生成された。一方、参照株は、HIV1-プロテアーゼを、可溶型で生成することができなかった。グラフFから分かるように、モデルプロセスにより、HIV1-プロテアーゼが、総量11gで生成された。一方、参照プロセスでは、総量4gにしか達さなかった。まとめると、モデルプロセスにより、参照プロセスと比較して、約3倍多くHIV1-プロテアーゼが生成された。
図15のグラフDに、生成されたリコンビナント生成物(X-P)を含まない、算出された正味のCDM(g)が示される。X-Pは、総CDM生成(グラフB)と比較して、一定のままであった。増殖分離系の誘導後に、26g CDMが、プロセスの終了までに構成された。一方、参照系は、生成段階の間に、122g CDMを生成した。まとめると、増殖分離系は、参照系と比較して、282%多くHIV1-プロテアーゼを生成し、約30%少なくCDMを生成した。
【0127】
実施例7:増殖分離系を使用する高細胞密度培養(HCDC)
非HCDバイオリアクター培養からの結果から、増殖分離発現系では、増殖速度μ=0.2h
-1を酸素制限のリスクなしに維持するのが困難であるため、HCD培養に重要な誘導前の増殖速度を変動させることができる必要があることが示された。高すぎる増殖速度により、特に、指数的供給段階の間に、最適以下の条件がもたらされるであろう。誘導時点で濃度60g/L CDMを達成するように、HCDプロセスを計画した。行われたHCDCが、非HCDCと比較して、半HCDCにおけるのと匹敵する特異的量のタンパク質及びより高い生産性を達成するように、増殖分離系の能力のみを示す必要があるため、GFPmut3.1のみを、モデルタンパク質として使用した。HCD発酵計画を、
図16に示す。バッチを、37℃の温度で行い、16時間後に完了させた。指数的供給段階(μ=0.17h
-1)を、バッチ段階終了直後に開始し、約2世代の間継続した。供給培地に、硫酸アンモニウムも加えて、非窒素制限条件を保証した。その後、第1の直線的供給プロファイルを適用し、1世代の間継続した。供給段階の開始後15時間で、タンパク質生成を、0.1M アラビノース+20μmol IPTG/g CDMで誘導した。生成段階の間に、第2の直線的供給プロファイルを適用した。同プロファイルを、約1世代の間継続した。算出された増殖速度を、開始時にμ=0.050h
-1から開始し、プロセスの終了時にμ=0.020h
-1に低下させた。タンパク質発現段階を、33時間継続した。得られた低増殖速度の意図は、同株に対して、POIを発現させるのに必要がされるのに十分なグルコースを供給することであった。
【0128】
図17に、増殖分離系のHCD培養のSDS page分析を示す。33時間のタンパク質生成後、BL21(DE3)::TN7(Gp2ΔAra)pET30(GFPmut3.1)は、63% 可溶性GFP及び37% 不溶性GFPを生成することができた。同生成は、増殖分離系プロセスの非HCD培養と比較した改善であり、HCDCへの規模拡大が発現されたタンパク質の溶解性に著しい影響を有さないことを示す。
【0129】
図18に、増殖分離系のHCDCにおける結果を示す。BL21(DE3)::TN7(Gp2ΔAra)pET30(GFPmut3.1)は、CDM1g当たりに、268.4mg 可溶性GFP及び157.6mg 不溶性GFPを生成することができた。生成段階の間に、総量279.5g GFPが生成され、その内の176.1gが可溶型であった。本プロセスにより、濃度30g/L GFPが生成された。同濃度は、増殖分離系の非HCDCと比較して、300%増大している。タンパク質発現の誘導後、正味のCDMは停止し、少なくとも一定に維持された。これは、増殖分離系の非HCDCからの結果と一致する。
【0130】
HCDモデル発酵プロセスにおけるタンパク質生成中の総O
2消費及び総CO
2形成の分析により、増殖分離系は、増殖分離系の非HCDCに匹敵する高さの量の総CO
2を形成することが示された。
図19のグラフAから分かるように、タンパク質生成の誘導後、BL21(DE3)::TN7(Gp2ΔAra)pET30(GFPmut3.1)のO
2消費及びCO
2形成は、一定のままであった。これは、HCDプロセスが代謝的にも活性であることを示す。
【0131】
図20に、増殖分離系のHCDと非HCD培養との間の結果の概要を示す。グラフAに、BL21(DE3)::TN7(Gp2ΔAra)pET30(GFPmut3.1)の非HCDCにより、CDM1g当たりに、480.18mg GFPを生成することができたことが示される。同生成は、全ての行われた培養の中で最も高い特異的濃度である。HCDプロセスは、CDM1g当たりに、426mg GFPで、比較可能な高い特異的濃度に達した。さらに、HCDCプロセスにより、7%多い可溶型の特異的GFPを生成することができた。グラフDから分かるように、両培養の間に、正味のCDMの増殖は、タンパク質発現の誘導後に停止し、減少した。誘導時に、HCDCプロセスにより、濃度57g/L CDMが達成され、非HCDCプロセスと比較して、216%多いグロスCDMが生成された。非HCDCでは、誘導時に22g/Lが達成された(グラフB)。増殖分離系のHCDCは、総量280g GFPを生成した。同生成は、該系の非HCDCと比較して、243%の増大である(グラフF)。グラフBに示された総生成CDM及びグラフFに示された正味生成CDMを考慮して、HCDCにより、非HCDCと比較して、243%多いGFPが、300%多い正味CDMで生成された。グラフDに、生成されたリコンビナントタンパク質(X-P)を含まない算出された正味CDM(g)を表わす。正味CDMの減少から、両系の誘導後に、ほぼ専らリコンビナントGFPmut3.1が生成されることが証明された。
【0132】
非HCDとHCDプロセスとの間での総生成GFPと正味生成CDMとの比較により、増殖分離系は、規模を拡大したHCDプロセスにおいても、生成されたGFPと正味CDMとの間に直線関係を示されることが示される。また、増殖分離系のHCD培養は、非常に高いCDM濃度での、更なるHCDC発酵についての高い可能性を有することも証明される。誘導前に最大100g/LのCDM濃度での培養により、莫大な量のGFPが生成されるであろう。
【配列表】