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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】車両用空気調和装置
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/22 20060101AFI20220621BHJP
   B60H 1/00 20060101ALI20220621BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20220621BHJP
   F25B 5/02 20060101ALI20220621BHJP
   B60L 1/00 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
B60H1/22 651C
B60H1/22 651B
B60H1/22 651A
B60H1/00 103S
B60H1/22 611C
F25B1/00 399Y
F25B5/02 B
F25B5/02 C
F25B5/02 530D
B60L1/00 L
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018124820
(22)【出願日】2018-06-29
(65)【公開番号】P2020001609
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】515134276
【氏名又は名称】サンデン・オートモーティブクライメイトシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮腰 竜
(72)【発明者】
【氏名】石関 徹也
【審査官】町田 豊隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-184109(JP,A)
【文献】特開2014-131914(JP,A)
【文献】特開2018-184108(JP,A)
【文献】特開2014-126226(JP,A)
【文献】特開2013-256288(JP,A)
【文献】特開2014-058254(JP,A)
【文献】特開2013-189118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/22
B60H 1/00
F25B 1/00
F25B 5/02
B60L 1/00
B60L 50/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両走行用の電動モータに電力を供給するバッテリを冷却するバッテリ冷却機能を有する車両用空気調和装置であって、
冷媒を圧縮する圧縮機と、
車室内に供給する空気と冷媒とを熱交換することで、車室内に供給する空気から吸熱する吸熱器と、
バッテリから放出される熱を吸収するバッテリ冷却用吸熱器と、
バッテリが急速充電によって充電されているか否かを判定する急速充電判定手段と、
バッテリの温度を検出するバッテリ温度センサと、
急速充電判定手段によってバッテリが急速充電によって充電されていると判定した場合に、バッテリ冷却用吸熱器によって冷却されるバッテリの温度を、圧縮機の回転数の調整により制御するバッテリ冷却優先制御手段と、
急速充電判定手段によってバッテリが急速充電によって充電されていると判定しなかった場合に、吸熱器において冷却される空気の温度を、圧縮機の回転数の調整により制御する空調優先制御手段と、
空調優先制御手段によって吸熱器において冷却される空気の温度を制御している状態において、バッテリ温度センサによって検出されたバッテリの温度が所定の温度以上の場合に、バッテリ冷却優先制御手段によってバッテリ冷却用吸熱器において冷却されるバッテリの温度を制御する優先制御切替手段と、を備えた
車両用空気調和装置。
【請求項2】
バッテリ冷却優先制御手段によってバッテリの温度を制御している状態で、吸熱器によって車室内に供給する空気を冷却する場合には、吸熱器において冷却される空気の温度を、吸熱器の冷媒流通方向上流側における冷媒の流路の開度の調整によって制御する
請求項1に記載の車両用空気調和装置。
【請求項3】
吸熱器の冷媒流通方向上流側には、冷媒流通路を開閉する流路開閉弁と、冷媒を減圧する膨張弁と、が接続され、
吸熱器において冷却される空気の温度は、流路開閉弁の開度の全開と全閉との切り替えによって制御される
請求項2に記載の車両用空気調和装置。
【請求項4】
吸熱器の冷媒流通方向上流側には、冷媒流通路を開閉する流路開閉弁と、冷媒を減圧する膨張弁と、が接続され、
吸熱器において冷却される空気の温度は、流路開閉弁の互いに異なる二種類の開度の切り替えによって制御される
請求項2に記載の車両用空気調和装置。
【請求項5】
車室内の除湿が必要か否かを判定する除湿判定手段を備え、
流路開閉弁は、除湿判定手段によって車室内の除湿の必要がないと判定され、吸熱器によって冷却される前の空気の温度が、車室内に吹き出す空気の目標の温度である目標吹出温度よりも高い上限空気温度よりも高い場合に開放され、目標吹出温度よりも低い下限空気温度よりも低い場合に閉鎖される
請求項3または4に記載の車両用空気調和装置。
【請求項6】
車室内の除湿が必要か否かを判定する除湿判定手段を備え、
流路開閉弁は、除湿判定手段によって車室内の除湿の必要があると判定され、吸熱器において冷媒と熱交換した後の空気の温度が、吸熱器において冷却される空気の目標の温度である目標冷却空気温度よりも高い上限空気温度よりも高い場合に開放され、目標冷却空気温度よりも低い下限空気温度よりも低い場合に閉鎖される
請求項3または4に記載の車両用空気調和装置。
【請求項7】
バッテリ冷却優先制御手段によってバッテリの温度を制御している状態で、バッテリ冷却用吸熱器における冷媒の吸熱量が不足する場合に、吸熱器の冷媒流通方向上流側における冷媒の流路を閉鎖する空調運転規制手段を備えた
請求項2乃至6のいずれかに記載の車両用空気調和装置。
【請求項8】
空調優先制御手段によって吸熱器において冷却される空気の温度を制御している状態で、バッテリ冷却用吸熱器によってバッテリを冷却する場合には、バッテリ冷却用吸熱器において冷却されるバッテリの温度を、バッテリ冷却用吸熱器の冷媒流通方向上流側における冷媒の流路の開度の調整により制御する
請求項1に記載の車両用空気調和装置。
【請求項9】
バッテリ冷却用吸熱器の冷媒流通方向上流側には、冷媒流通路を開閉する流路開閉弁と、冷媒を減圧する膨張弁と、が接続され、
バッテリ冷却用吸熱器において冷却されるバッテリの温度は、流路開閉弁の開度の全開と全閉との切り替えによって制御される
請求項8に記載の車両用空気調和装置。
【請求項10】
バッテリ冷却用吸熱器の冷媒流通方向上流側には、冷媒流通路を開閉する流路開閉弁と、冷媒を減圧する膨張弁と、が接続され、
バッテリ冷却用吸熱器において冷却されるバッテリの温度は、流路開閉弁の互いに異なる二種類の開度の切り替えによって制御される
請求項8に記載の車両用空気調和装置。
【請求項11】
流路開閉弁は、バッテリ温度センサの検出温度が、バッテリの目標の冷却温度である目標バッテリ温度よりも高い上限バッテリ温度よりも高い場合に開放され、目標バッテリ温度よりも低い下限バッテリ温度よりも低い場合に閉鎖される
請求項9または10に記載の車両用空気調和装置。
【請求項12】
空調優先制御手段によって吸熱器において冷却される空気の温度を制御している状態で、吸熱器における冷媒の吸熱量が不足する場合に、バッテリ冷却用吸熱器の冷媒流通方向上流側における冷媒の流路を閉鎖するバッテリ冷却運転規制手段を備えた
請求項8乃至11のいずれかに記載の車両用空気調和装置。
【請求項13】
車室外の空気と冷媒とを熱交換する室外熱交換器を備え、
室外熱交換器は、バッテリ冷却優先制御手段によってバッテリ冷却用吸熱器において冷却されるバッテリの温度を制御している状態で、吸熱器によって車室内に供給する空気を冷却する場合、及び、空調優先制御手段によって吸熱器において冷却される空気の温度を制御している状態で、バッテリ冷却用吸熱器によってバッテリを冷却する場合に、放熱器として機能させる
請求項1乃至12のいずれかに記載の車両用空気調和装置。
【請求項14】
車室内に供給する空気を加熱する放熱器と、
放熱器の空気流通方向上流側または下流側を流通する空気を加熱する空気加熱ヒータと、を備えた
請求項1乃至13のいずれかに記載の車両用空気調和装置。
【請求項15】
バッテリ冷却優先制御手段による圧縮機の回転数の調整と、空調優先制御手段による圧縮機の回転数の調整と、の切り替えは、圧縮機の駆動の停止後に行う
請求項1乃至14のいずれかに記載の車両用空気調和装置。
【請求項16】
車室内の搭乗者に対して車室内の空調及びバッテリの冷却に関する情報を報知する報知手段を備えた
請求項1乃至15のいずれかに記載の車両用空気調和装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電気自動車やハイブリッド車等、走行用の電動モータに電力を供給するバッテリを備えた車両に適用される車両用空気調和装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の車両用空気調和装置では、圧縮機、室内熱交換器、室外熱交換器及び膨張弁を有する冷媒回路を備え、室内熱交換器において冷媒と熱交換した空気を車室内に供給することによって車室内の冷房、暖房、除湿等を行っている。
【0003】
また、前記車両用空気調和装置が搭載される車両としては、電気自動車やハイブリッド車等、駆動源としての電動モータに電力を供給するための走行用バッテリを備えているものがある。走行用バッテリは、車両の走行を継続したり急速充電を行ったりした場合に、熱を放出することで熱を帯びて高温となる場合がある。
【0004】
このため、前記車両では、走行用バッテリを冷却するために、走行用バッテリを冷却水回路に接続するとともに、冷却水回路を水―冷媒熱交換器を介して冷媒回路に接続したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。前記車両では、冷却水回路を流通する冷却水によって走行用バッテリを冷却するとともに、走行用バッテリを冷却して熱を吸収した冷却水を、冷媒回路を流通する冷媒と熱交換させることで放熱させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-43741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記車両用空気調和装置においては、車室内の冷房及び走行用バッテリの冷却を同時に行う場合に、それぞれの負荷が大きくなると、冷却能力が不足する可能性がある。
【0007】
そこで、前記車両用空気調和装置では、車両の走行時において、車室内の冷房負荷に応じて圧縮機の回転数を制御する冷房優先運転を行い、走行用バッテリの急速充電時において、バッテリの冷却負荷に応じて圧縮機の回転数を制御するバッテリ冷却優先運転を行っている。
【0008】
しかし、前記車両用空気調和装置では、車両の走行時に冷房優先運転を行っているため、走行用バッテリの温度が高温となった場合に、走行用バッテリの冷却能力が不足するおそれがある。
【0009】
本発明の目的とするところは、バッテリが高温になることによるバッテリの不具合の発生を防止することのできる車両用空気調和装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の車両用空気調和装置は、前記目的を達成するために、車両走行用の電動モータに電力を供給するバッテリを冷却するバッテリ冷却機能を有する車両用空気調和装置であって、冷媒を圧縮する圧縮機と、車室内に供給する空気と冷媒とを熱交換することで、車室内に供給する空気から吸熱する吸熱器と、バッテリから放出される熱を吸収するバッテリ冷却用吸熱器と、バッテリが急速充電によって充電されているか否かを判定する急速充電判定手段と、バッテリの温度を検出するバッテリ温度センサと、急速充電判定手段によってバッテリが急速充電によって充電されていると判定した場合に、バッテリ冷却用吸熱器によって冷却されるバッテリの温度を、圧縮機の回転数の調整により制御するバッテリ冷却優先制御手段と、急速充電判定手段によってバッテリが急速充電によって充電されていると判定しなかった場合に、吸熱器において冷却される空気の温度を、圧縮機の回転数の調整により制御する空調優先制御手段と、空調優先制御手段によって吸熱器において冷却される空気の温度を制御している状態において、バッテリ温度センサによって検出されたバッテリの温度が所定の温度以上の場合に、バッテリ冷却優先制御手段によってバッテリ冷却用吸熱器において冷却されるバッテリの温度を制御する優先制御切替手段と、を備えている。
【0011】
これにより、バッテリが急速充電によって充電されている場合に、バッテリの冷却が優先され、バッテリが急速充電中でない場合に、車室内の冷房や除湿が優先され、バッテリが急速充電中でない場合であっても、バッテリの温度が所定の温度以上の場合に、バッテリの冷却が優先して実行されることから、バッテリが高温となる状態が抑制される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、バッテリが高温となる状態を抑制することができるので、バッテリの不具合の発生を確実に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態を示す車両用空気調和装置の概略構成図である。
図2】制御系を示すブロック図である。
図3】運転切替制御処理を示すフローチャートである。
図4】運転切替制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1乃至図4は、本発明の一実施形態を示すものである。
【0015】
本発明の車両用空気調和装置1は、例えば電気自動車やハイブリッド車等、電動モータの駆動力によって走行可能な車両に適用されるものである。
【0016】
車両は、走行用の電動モータと、電動モータに供給する電力が蓄えられる走行用のバッテリBと、を有している。
【0017】
バッテリBは、車両の走行時において電動モータに電力を供給したり、充電したりする際に熱を放出する。バッテリBは、供給を受ける電力の電圧及び電流の一方または両方を上昇させることによって充電を短時間で行う急速充電が可能であり、急速充電の際に特に放熱量が大きくなる。バッテリBは、例えば、10℃~30℃の範囲での使用が望ましく、50℃以上の高温となると劣化が促進されることになる。このため、バッテリBは、必要に応じて冷却し、所定の温度T1(例えば、50℃)未満を維持する必要がある。
【0018】
この車両用空気調和装置1は、バッテリBを冷却するためのバッテリ冷却機能を有している。車両用空気調和装置1は、図1に示すように、車両の車室内に設けられる空調ユニット10と、車室内および車室外にわたって設けられる冷媒回路20と、バッテリBから放出された熱を吸収する熱媒体を流通させるための熱媒体回路30と、を備えている。
【0019】
空調ユニット10は、車室内に供給する空気を流通させるための空気流通路11を有している。空気流通路11の一端側には、車室外の空気を空気流通路11に流入させるための外気吸入口11aと、車室内の空気を空気流通路11に流入させるための内気吸入口11bと、が設けられている。また、空気流通路11の他端側には、空気流通路11を流通した空気を、搭乗者の足元に向かって吹き出させる図示しないフット吹出口、搭乗者の上半身に向かって吹き出させる図示しないベント吹出口、及び、車両のフロントガラスの車室内側の面に向かって吹き出させる図示しないデフ吹出口、が設けられている。
【0020】
空気流通路11内の一端側には、空気流通路11の一端側から他端側に向かって空気を流通させるためのシロッコファン等の室内送風機12が設けられている。
【0021】
空気流通路11の一端側には、外気吸入口11a及び内気吸入口11bの一方を開放して他方を閉鎖することが可能な吸入口切換えダンパ13が設けられている。吸入口切換えダンパ13は、内気吸入口11bを閉鎖して外気吸入口11aが開放する外気供給モードと、外気吸入口11aを閉鎖して内気吸入口11bを開放する内気循環モードと、外気吸入口11aと内気吸入口11bとの間に位置させることで外気吸入口11aと内気吸入口11bとをそれぞれ開放する内外気吸入モードと、を切換えることが可能である。
【0022】
空気流通路11における室内送風機12の空気流通方向下流側には、空気流通路11を流通する空気を冷却及び除湿するための吸熱器14が設けられている。また、空気流通路11における吸熱器14の空気流通方向下流側には、空気流通路11を流通する空気を加熱するための放熱器15が設けられている。
【0023】
放熱器15は、空気流通路11の直交方向一方側に配置され、空気流通路11の直交方向他方側には、放熱器15を迂回する放熱器バイパス流通路11cが形成される。空気流通路11における放熱器15の空気流通方向下流側には、車室内に供給する空気を加熱するための空気加熱ヒータ16が設けられている。
【0024】
空気流通路11における吸熱器14と放熱器15との間には、吸熱器14を通過した空気のうち、放熱器15によって加熱される空気の割合を調整するためのエアミックスダンパ17が設けられている。エアミックスダンパ17は、放熱器15及び放熱器バイパス流通路11cの空気流通方向上流側において、放熱器バイパス流通路11c及び放熱器15の一方の空気流通方向上流側を閉鎖して他方を開放したり、放熱器バイパス流通路11c及び放熱器15の両方を開放し、放熱器15の空気流通方向上流側の開度を調整したりする。エアミックスダンパ17は、空気流通路11における放熱器15の空気流通方向上流側を閉鎖して放熱器バイパス流通路11cを開放した状態で開度が0%となり、空気流通路11における放熱器15の空気流通方向上流側を開放し、放熱器バイパス流通路11cを閉鎖した状態で開度が100%となる。
【0025】
冷媒回路20は、前記吸熱器14、前記放熱器15、冷媒を圧縮するための圧縮機21、冷媒と車室外の空気とを熱交換するための室外熱交換器22、吸熱器14に流入する冷媒と吸熱器14から流出する冷媒とを熱交換するための内部熱交換器23、冷媒回路20を流通する冷媒と熱媒体回路30を流通する熱媒体とを熱交換するためのバッテリ冷却用吸熱器としての熱媒体熱交換器24、全閉と全開との間で弁開度の調整が可能な電子式の第1膨張弁25a、吸熱器14及び熱媒体熱交換器24の出口における冷媒の温度変化に応じて弁開度が調整される機械式の第2及び第3膨張弁25b,25c、冷媒の流路を開閉するための流路開閉弁としての第1乃至第5電磁弁26a,26b,26c,26d,26e、冷媒の流路における冷媒の流通方向を規制するための逆止弁27、気体の冷媒と液体の冷媒を分離して液体の冷媒が圧縮機21に吸入されることを防止するためのアキュムレータ28を有し、これらは例えばアルミニウム管や銅管によって接続されている。冷媒回路20を流通する冷媒としては、例えば、R-134a等が用いられる。
【0026】
室外熱交換器22は、冷媒と熱交換する空気の流通方向が車両の前後方向となるように、エンジンルーム等の車室外に配置されている。室外熱交換器22の近傍には、車両の停止時に車室外の空気を前後方向に流通させるための室外送風機22dが設けられている。室外熱交換器22は、冷媒を放熱または吸熱させるための本体部22aと、放熱させた冷媒を流入させて液体状の冷媒から気体状の冷媒を分離するためのレシーバ部22bと、レシーバ部22bから流出した液体の冷媒を過冷却の状態とするための過冷却部22cと、を有している。
【0027】
冷媒回路20の構成について具体的に説明すると、圧縮機21の冷媒吐出側には、放熱器15の冷媒流入側を接続することにより、冷媒流通路20aが形成されている。放熱器15の冷媒流出側には、室外熱交換器22の冷媒流入側を接続することにより、冷媒流通路20bが形成されている。冷媒流通路20bには、第1膨張弁25aが設けられている。室外熱交換器22における本体部22aの冷媒流出側には、レシーバ部22bの冷媒流入側を接続することにより冷媒流通路20cが形成されている。冷媒流通路20cには、第1電磁弁26aが設けられている。また、室外熱交換器22におけるレシーバ部22bの冷媒流出側には、過冷却部22cの冷媒流入側が接続されている。過冷却部22cの冷媒流出側には、内部熱交換器23の高圧冷媒流入側を接続することにより、冷媒流通路20dが形成されている。内部熱交換器23の高圧冷媒流出側には、吸熱器14の冷媒流入側を接続することにより、冷媒流通路20eが形成されている。冷媒流通路20eには、内部熱交換器23側から順に、逆止弁27、第2電磁弁26b、第2膨張弁25bが設けられている。吸熱器14の冷媒流出側には、内部熱交換器23の低圧冷媒流入側を接続することにより、冷媒流通路20fが形成されている。内部熱交換器23の低圧冷媒流出側には、圧縮機21の冷媒吸入側を接続することにより、冷媒流通路20gが形成されている。冷媒流通路20gには、アキュムレータ28が設けられている。また、冷媒流通路20bにおける放熱器15と第1膨張弁25aとの間には、室外熱交換器22を迂回し、冷媒流通路20eにおける逆止弁27と第2電磁弁26bとの間を接続することにより、冷媒流通路20hが形成されている。冷媒流通路20hには、第3電磁弁26cが設けられている。冷媒流通路20cにおける室外熱交換器22の本体部22aと第1電磁弁26aとの間には、冷媒流通路20gにおける内部熱交換器23とアキュムレータ28との間を接続することにより、冷媒流通路20iが形成されている。冷媒流通路20iには、第4電磁弁26dが設けられている。また、冷媒流通路20eにおける逆止弁27と第2電磁弁26bとの間には、熱媒体熱交換器24の冷媒流入側を接続することにより、冷媒流通路20jが形成されている。冷媒流通路20jには、冷媒流通路20e側から順に、第5電磁弁26e、第3膨張弁25cが設けられている。熱媒体熱交換器24の冷媒流出側には、冷媒流通路20gにおけるアキュムレータ28と圧縮機21の冷媒吸入側との間を接続することにより、冷媒流通路20kが形成されている。
【0028】
熱媒体回路30は、前記熱媒体熱交換器24、熱媒体を圧送するための熱媒体ポンプ31、バッテリB、を有し、これらは例えばアルミニウム管や銅管によって接続されている。熱媒体回路30を流通する熱媒体としては、例えば、エチレングリコール等の不凍液が用いられる。
【0029】
具体的に説明すると、熱媒体ポンプ31の熱媒体吐出側には、熱媒体熱交換器24の熱媒体流入側を接続することにより、熱媒体流通路30aが形成されている。熱媒体熱交換器24の熱媒体流出側には、バッテリBの熱媒体流入側を接続することにより、熱媒体流通路30bが形成されている。バッテリBの熱媒体流出側には、熱媒体ポンプ31の熱媒体吸入側を接続することにより、熱媒体流通路30cが形成されている。
【0030】
また、この車両用空気調和装置1は、車室内の温度及び湿度を設定された温度及び湿度とする制御、バッテリBを所定の温度以下に冷却するための制御を行うためのコントローラ40を備えている。
【0031】
コントローラ40は、CPU、ROM,RAMを有している。コントローラ40は、入力側に接続された装置からの入力信号を受信すると、CPUが、入力信号に基づいてROMに記憶されたプログラムを読み出すとともに、入力信号によって検出された状態をRAMに記憶したり、出力側に接続された装置に出力信号を送信したりする。
【0032】
コントローラ40の入力側には、図2に示すように、圧縮機21、車室外の温度Tamを検出するための外気温度センサ41、車室内の温度Trを検出するための内気温度センサ42、空気流通路11に流入する空気の温度Tiを検出するための吸気温度センサ43、吸熱器14において冷却された後の空気の温度Teを検出するための冷却空気温度センサ44、放熱器15において加熱された後の空気の温度Tcを検出するための加熱空気温度センサ45、車室内の湿度Rhを検出するための内気湿度センサ46、室外熱交換器22において熱交換した後の冷媒の温度Thexを検出するための冷媒温度センサ47、日射量Tsを検出するための例えばフォトセンサ式の日射センサ48、車両の速度Vを検出するための速度センサ49、冷媒回路20の高圧側の圧力Pdを検出するための圧力センサ50、熱媒体回路30において熱媒体熱交換器24から流出した熱媒体の温度を検出するためのバッテリ温度センサとしての熱媒体温度センサ51、搭乗者による車室内の設定温度Tsetの設定や空調の運転内容の切換えに関する設定を行うための設定操作部52、バッテリB、が接続されている。
【0033】
コントローラ40の出力側には、図2に示すように、空気加熱ヒータ16、圧縮機21、第1膨張弁25a、第1乃至第5電磁弁26a,26b,26c,26d,26e、車室内の温度や運転状態等の情報を表示するための液晶ディスプレイ等の報知手段としての表示部53が接続されている。
【0034】
以上のように構成された車両用空気調和装置1では、空調ユニット10及び冷媒回路20を用いて車室内の空気の温度及び湿度を調節する。具体的には、車両用空気調和装置1は、車室内の温度を低下させる冷房運転と、車室内の湿度を低下させると共に温度を低下させる除湿冷房運転と、車室内の温度を上昇させる暖房運転と、車室内の湿度を低下させると共に温度を上昇させる除湿暖房運転と、を行う。
【0035】
また、この車両用空気調和装置1は、冷媒回路20及び熱媒体回路30を用いてバッテリBを冷却するバッテリ冷却運転を行う。
【0036】
例えば、冷房運転と同時にバッテリ冷却運転を行う場合には、空調ユニット10において、室内送風機12を駆動させるとともに、エアミックスダンパ17を0%に設定する。また、冷媒回路20においては、第1膨張弁25aを全開、第1及び第2電磁弁26a,26bを開放、第3及び第4電磁弁26c,26dを閉鎖、第5電磁弁26eを開放した状態で圧縮機21を駆動させる。さらに、熱媒体回路30においては、熱媒体ポンプ31を駆動させる。
【0037】
これにより、冷媒回路20において、圧縮機21から吐出された冷媒は、図1の実線の矢印で示すように、冷媒流通路20a、放熱器15、冷媒流通路20b、室外熱交換器22の本体部22a、冷媒流通路20c、レシーバ部22b、過冷却部22c、冷媒流通路20d、内部熱交換器23の高圧側、冷媒流通路20eの順に流通する。冷媒流通路22eを流通する冷媒の一部は、吸熱器14、冷媒流通路20f、内部熱交換器23の低圧側、冷媒流通路20gの順に流通して圧縮機21に吸入される。また、冷媒流通路22eを流通するその他の冷媒は、冷媒流通路20j、熱媒体熱交換器24、冷媒流通路20k,20gの順に流通して圧縮機21に吸入される。
【0038】
また、熱媒体回路30において、熱媒体ポンプ31から吐出された熱媒体は、図1の破線の矢印で示すように、熱媒体流通路30a、熱媒体熱交換器24、熱媒体流通路30b、バッテリB、熱媒体流通路30cの順に流通して熱媒体ポンプ31に吸入される。
【0039】
冷媒回路20を流通する冷媒は、エアミックスダンパ17の開度が0%であるため放熱器15において放熱することなく、室外熱交換器22において放熱し、吸熱器14において吸熱する。
【0040】
空気流通路11を流通する空気は、吸熱器14において吸熱する冷媒と熱交換することによって目標吹出温度TAOまで冷却されて車室内に吹き出される。
【0041】
また、熱媒体回路30を流通する熱媒体は、熱媒体熱交換器24において吸熱する冷媒と熱交換することによって冷却され、バッテリBにおいてバッテリBから放出された熱を受けて加熱される。
【0042】
バッテリBは、熱媒体熱交換器24において冷却された熱媒体によって冷却される。
【0043】
また、例えば、車室内の温度及び湿度を低下させる除湿冷房運転では、冷房運転時における冷媒回路20の冷媒の流路において、空調ユニット10のエアミックスダンパ17の開度を0%よりも大きい開度に設定する。
【0044】
これにより、冷媒回路20を流通する冷媒は、放熱器15及び室外熱交換器22において放熱し、吸熱器14において吸熱する。
【0045】
空気流通路11を流通する空気は、吸熱器14において吸熱する冷媒と熱交換することによって除湿されるとともに冷却され、放熱器15において目標吹出温度TAOまで加熱されて車室内に吹き出される。
【0046】
また、例えば、車室内の湿度を低下させるとともに温度を上昇させる除湿暖房運転では、冷房運転時における冷媒回路20の冷媒の流路において、第1膨張弁25aを全開よりも小さい所定の弁開度とする。また、空調ユニット10のエアミックスダンパ17の開度を0%よりも大きい開度に設定する。
【0047】
これにより、冷媒回路20を流通する冷媒は、放熱器15において放熱し、室外熱交換器22及び吸熱器14において吸熱する。
【0048】
空調ユニット10の空気流通路11を流通する空気は、吸熱器14において吸熱する冷媒と熱交換することによって除湿されるとともに冷却され、放熱器15において目標吹出温度TAOまで加熱されて吹出される。
【0049】
ここで、冷房運転または除湿冷房運転と同時にバッテリ冷却運転を行う場合等、吸熱器14及び熱媒体熱交換器24において同時に冷媒に吸熱させる場合には、冷媒が吸収した熱を確実に放出させるため、室外熱交換器22を放熱器として機能させる。
【0050】
また、コントローラ40は、空調ユニット10及び冷媒回路20による空調運転の開始および停止、冷媒回路20及び熱媒体回路30によるバッテリ冷却運転の開始及び停止を切り換える運転切替制御処理を行う。この時のコントローラ40の動作を図3及び図4のフローチャートを用いて説明する。
【0051】
(ステップS1)
ステップS1においてCPUは、急速充電判定手段として、バッテリBが急速充電による充電中であるか否かを判定する。バッテリBが急速充電による充電中であると判定した場合にはステップS2に処理を移し、バッテリBが急速充電による充電中であると判定しなかった場合には、ステップS15に処理を移す。
ここで、バッテリBが急速充電による充電中であるか否かは、バッテリBに供給される電力の電圧や電流の検出値に基づいて判定される。
【0052】
(ステップS2)
ステップS1においてバッテリBが急速充電による充電中であると判定した場合に、ステップS2においてCPUは、バッテリBの冷却が必要であるか否かを判定する。バッテリBの冷却が必要であると判定した場合にはステップS3に処理を移し、バッテリBの冷却が必要であると判定しなかった場合にはステップS10に処理を移す。
ここで、バッテリBの冷却が必要であるか否かは、熱媒体温度センサ51によって検出される熱媒体回路30を流通する熱媒体の温度Twに基づいて判定される。
【0053】
(ステップS3)
ステップS2においてバッテリBの冷却が必要であると判定した場合に、ステップS3においてCPUは、冷房運転や除湿冷房運転等の車室内の空調が必要であるか否かを判定する。車室内の空調が必要であると判定した場合にはステップS4に処理を移し、車室内の空調が必要であると判定しなかった場合にはステップS8に処理を移す。
ここで、車室内の空調が必要であるか否かは、搭乗者によって設定された設定温度Tsetと内気温度センサ42によって検出された温度Trとの差異や、内気湿度センサ46によって検出された湿度Rhに基づいて判定される。
【0054】
(ステップS4)
ステップS3において車室内の空調が必要であると判定した場合に、ステップS4においてCPUは、バッテリ冷却優先制御手段として、車室内の空調に対してバッテリBの冷却を優先するバッテリ冷却優先モードで空調運転及びバッテリ冷却運転を行う。
ここで、バッテリ冷却優先モードでは、第5電磁弁26eを開放し、熱媒体温度センサ51によって検出された熱媒体の温度Twが目標熱媒体温度TWOとなるように圧縮機21の回転数を制御する。
また、バッテリ冷却優先モードでは、第2電磁弁26bの開閉によって吸熱器14における冷媒の流通を調整することによって吸熱器14における冷媒の温度を制御する。
バッテリ冷却優先モードにおいて、コントローラ40は、除湿判定手段として車室内の除湿の必要があるか否かを判定し、車室内の除湿の必要がないと判定した場合に、吸気温度センサ43によって検出された空気流通路11に流入する空気の温度Tiに基づいて第2電磁弁26bの開閉動作を制御する。第2電磁弁26bは、車室内の除湿の必要がないと判定した場合に、吸気温度センサ43によって検出された温度Tiが目標吹出温度TAOよりも所定温度γ1高くなると冷媒流通路20eを開放し、吸気温度センサ43によって検出された温度Tiが目標吹出温度TAOよりも低い下限値(例えば、3℃)以下になった時に冷媒流通路20eを閉鎖する。
また、バッテリ冷却優先モードにおいて、コントローラ40は、除湿判定手段として車室内の除湿の必要であるか否かを判定し、車室内の除湿が必要であると判定した場合に、冷却空気温度センサ44によって検出された空気のTeに基づいて第2電磁弁26bの開閉動作を制御する。第2電磁弁26bは、車室内の除湿の必要があると判定した場合に、冷却空気温度センサ44によって検出された温度Teが吸熱器において冷却される空気の目標の温度である目標冷却空気温度TEOよりも所定温度γ2高くなると冷媒流通路20eを開放し、冷却空気温度センサ44によって検出された温度Teが目標冷却空気温度TEOよりも低い下限値(例えば、2℃)以下になった時に冷媒流通路20eを閉鎖する。
車室内の除湿が必要であるか否かの判定は、設定操作部52に対する除湿の実行または実行の解除の切り替えの入力に基づいて行う。
【0055】
(ステップS5)
ステップS5においてCPUは、バッテリBの冷却能力が不足しているか否かを判定する。バッテリBの冷却能力が不足していると判定した場合にはステップS6に処理を移し、バッテリBの冷却能力が不足していると判定しなかった場合にはステップS7に処理を移す。
バッテリBの冷却能力が不足している状態とは、圧縮機21の回転数NCが所定回転数(例えば、4000rpm)よりも大きく、且つ、熱媒体温度センサ51によって検出された熱媒体の温度Twが目標熱媒体温度TWOよりも所定温度α高い状態が所定時間以上継続する状態である。
【0056】
(ステップS6)
ステップS5においてバッテリBの冷却能力が不足していると判定した場合に、ステップS6においてCPUは、空調運転規制手段として、空調運転を停止し、ステップS7に処理を移す。
ここで、空調運転の停止とは、第2電磁弁26bを閉鎖して吸熱器14に対する冷媒の流入を規制することである。
【0057】
(ステップS7)
ステップS7においてCPUは、空調運転に対してバッテリ冷却運転を優先するバッテリ冷却優先運転を行っている旨の表示を表示部53に行い、ステップS23に処理を移す。
【0058】
(ステップS8)
ステップS3において車室内の空調が必要であると判定しなかった場合に、ステップS8においてCPUは、空調運転を行うことなくバッテリ冷却運転のみを実行するバッテリ冷却単独モードでバッテリ冷却運転のみを行う。
ここで、バッテリ冷却単独モードでは、熱媒体温度センサ51によって検出される熱媒体の温度Twが目標熱媒体温度TWOとなるように圧縮機21の回転数を制御し、第2電磁弁26bを閉鎖した状態を保持する。
【0059】
(ステップS9)
ステップS9においてCPUは、バッテリ冷却運転のみを行うバッテリ冷却単独運転を行っている旨の表示を表示部53に行い、運転切替制御処理を終了する。
【0060】
(ステップS10)
ステップS2においてバッテリBの冷却が必要であると判定しなかった場合に、ステップS10においてCPUは、車室内の空調が必要であるか否かを判定する。車室内の空調が必要であると判定した場合にはステップS11に処理を移し、車室内の空調が必要であると判定しなかった場合にはステップS13に処理を移す。
ここで、車室内の空調が必要であるか否かは、搭乗者によって設定された設定温度Tsetと内気温度センサ42によって検出された温度Trとの差異や、内気湿度センサ46によって検出された湿度Rhに基づいて判定される。
【0061】
(ステップS11)
ステップS10において車室内の空調が必要であると判定した場合に、ステップS11においてCPUは、バッテリ冷却運転を行うことなく空調運転のみを行う空調単独モードで空調運転のみを行う。
ここで、空調単独モードでは、冷却空気温度センサ44によって検出される空気の温度Teが目標冷却空気温度TEOとなるように圧縮機21の回転数を制御し、第5電磁弁26eを閉鎖した状態を保持する。
【0062】
(ステップS12)
ステップS12においてCPUは、空調運転のみを行う空調単独運転を行っている旨の表示を表示部53に行い、ステップS23に処理を移す。
【0063】
(ステップS13)
ステップS10において車室内の空調が必要であると判定しなかった場合に、ステップS13においてCPUは、空調運転及びバッテリ冷却運転を停止し、ステップS14に処理を移す。
ここで、空調運転及びバッテリ冷却運転の停止とは、第2電磁弁26bを閉鎖して吸熱器14に対する冷媒の流入を規制するとともに、第5電磁弁26eを閉鎖して熱媒体熱交換器24に対する冷媒の流入を規制することである。
【0064】
(ステップS14)
ステップS14においてCPUは、空調運転及びバッテリ冷却運転を停止している旨の表示を表示部53に行い、運転切替制御処理を終了する。
【0065】
(ステップS15)
ステップS1においてバッテリBが急速充電による充電中であると判定しなかった場合に、ステップS15においてCPUは、車室内の空調が必要であるか否かを判定する。車室内の空調が必要であると判定した場合にはステップS16に処理を移し、車室内の空調が必要であると判定しなかった場合にはステップS22に処理を移す。
ここで、車室内の空調が必要であるか否かは、搭乗者によって設定された設定温度Tsetと内気温度センサ42によって検出された温度Trとの差異や、内気湿度センサ46によって検出された湿度Rhに基づいて判定される。
【0066】
(ステップS16)
ステップS15において車室内の空調が必要であると判定した場合に、ステップS16においてCPUは、バッテリBの冷却が必要であるか否かを判定する。バッテリBの冷却が必要であると判定した場合にはステップS17に処理を移し、バッテリBの冷却が必要であると判定しなかった場合にはステップS11に処理を移す。
ここで、バッテリBの冷却が必要であるか否かは、熱媒体温度センサ51によって検出される熱媒体回路30を流通する熱媒体の温度に基づいて判定される。
【0067】
(ステップS17)
ステップS16においてバッテリBの冷却が必要であると判定した場合に、ステップS17においてCPUは、空調優先制御手段として、バッテリBの冷却に対して車室内の空調を優先する空調優先モードで空調運転及びバッテリ冷却運転を行う。
ここで、空調優先モードでは、第2電磁弁26bを開放するとともに、冷却空気温度センサ44によって検出された空気の温度Teが目標冷却空気温度TEOとなるように圧縮機21の回転数を制御する。
また、空調優先モードでは、第5電磁弁26eの開閉によって熱媒体熱交換器24における冷媒の流通を調整することによって熱媒体熱交換器24における冷媒の温度を制御する。空調優先モードにおいて、第5電磁弁26eは、熱媒体温度センサ51によって検出された熱媒体の温度Twが目標バッテリ温度としての目標熱媒体温度TWOよりも所定温度(例えば、5℃)高くなった時(上限バッテリ温度)に冷媒流通路20jを開放し、熱媒体温度センサ51によって検出された熱媒体の温度Twが目標熱媒体温度TWOよりも所定温度(例えば、5℃)低くなった時(下限バッテリ温度)に冷媒流通路20jを閉鎖する。
【0068】
(ステップS18)
ステップS18においてCPUは、車室内の空調の能力が不足しているか否かを判定する。車室内の空調の能力が不足していると判定した場合にはステップS19に処理を移し、車室内の空調の能力が不足していると判定しなかった場合にはステップS20に処理を移す。
車室内の空調の能力が不足しているとは、圧縮機21の回転数NCが所定回転数(例えば、4000rpm)よりも大きく、且つ、冷却空気温度センサ44によって検出された空気の温度Teが目標冷却空気温度TEOよりも所定温度β高い状態が所定時間以上継続する状態である。
【0069】
(ステップS19)
ステップS18において車室内の空調の能力が不足していると判定した場合に、ステップS19においてCPUは、バッテリ冷却運転規制手段として、バッテリ冷却運転を停止し、ステップS20に処理を移す。
ここで、バッテリ冷却運転の停止とは、第5電磁弁26eを閉鎖して熱媒体熱交換器24に対する冷媒の流入を規制することである。
【0070】
(ステップS20)
ステップS20においてCPUは、優先制御切替手段として、熱媒体温度センサ51によって検出された熱媒体の温度Twが所定の温度T1(例えば、50℃)未満であるか否かを判定する。熱媒体温度センサ51によって検出された熱媒体の温度Twが所定の温度T1未満であると判定した場合にはステップS21に処理を移し、熱媒体温度センサ51によって検出された熱媒体の温度Twが所定の温度T1未満であると判定しなかった場合にはステップS4に処理を移す。
ここで、熱媒体温度センサ51によって検出された熱媒体の温度Twが所定の温度T1未満でると判定しなかった場合とは、熱媒体の温度Twが所定の温度T1以上の状態で、バッテリBが劣化したり故障したりする可能性があるため、冷却の必要がある状態であることを示している。
【0071】
(ステップS21)
ステップS20において熱媒体温度センサ51によって検出された熱媒体の温度Twが所定の温度T1未満であると判定した場合に、ステップS21においてCPUは、バッテリ冷却運転に対して空調運転を優先する空調優先運転を行っている旨の表示を表示部53に行い、ステップS23に処理を移す。
【0072】
(ステップS22)
ステップS15において車室内の空調が必要であると判定しなかった場合に、ステップS22においてCPUは、バッテリBの冷却が必要であるか否かの判定を行う。バッテリBの冷却が必要であると判定した場合にはステップS8に処理を移し、バッテリBの冷却が必要であると判定しなかった場合にはステップS13に処理を移す。
ここで、バッテリBの冷却が必要であるか否かは、熱媒体温度センサ51によって検出される熱媒体回路30を流通する熱媒体の温度に基づいて判定される。
【0073】
(ステップS23)
ステップS23においてCPUは、放熱器15における放熱量が不足しているか否かを判定する。放熱器15における放熱量が不足していると判定した場合にはステップS24に処理を移し、放熱器15における放熱量が不足していると判定しなかった場合にステップS25に処理を移す。
ここで、放熱器15における放熱量が不足しているとは、加熱空気温度センサ45によって検出された放熱器15において加熱された後の空気の温度Tcが目標加熱空気温度TCOよりも所定温度α低い状態が所定時間継続している状態である。
【0074】
(ステップS24)
ステップS23において放熱器15における放熱量が不足していると判定した場合に、ステップS24においてCPUは、空気加熱ヒータ16を駆動し、運転切替制御処理を終了する。
【0075】
(ステップS25)
ステップS23において放熱器15における放熱量が不足していると判定しなかった場合に、ステップS25においてCPUは、空気加熱ヒータ16の駆動を停止し、運転切替制御処理を終了する。
【0076】
このように、本実施形態の車両用空気調和装置によれば、空調優先モードで吸熱器14によって冷却される空気の温度Teを制御している状態において、熱媒体温度センサ51によって検出された熱媒体の温度Twが所定の温度T1以上の場合に、バッテリ冷却優先モードで熱媒体熱交換器24によって冷却される熱媒体の温度Twを制御する。
【0077】
これにより、バッテリBが高温となる状態を抑制することができるので、バッテリBの不具合の発生を確実に防止することが可能となる。
【0078】
また、バッテリ冷却優先モードで熱媒体熱交換器24において冷却される熱媒体の温度を制御している状態で、吸熱器14によって車室内に供給する空気を冷却する場合には、吸熱器14において冷却される空気の温度を、吸熱器14の冷媒流通方向上流側における冷媒の流路の開度の調整によって制御する。
【0079】
これにより、バッテリBの冷却を主に行っている状態においても空調運転を継続することが可能となるので、車室内の快適性の低下を抑制することが可能となる。
【0080】
また、吸熱器14の冷媒流通方向上流側には、冷媒流通路20eを開閉する第2電磁弁26bと冷媒を減圧する第2膨張弁25bと、が接続され、バッテリ冷却優先モードでの吸熱器14において冷却される空気の温度Teは、第2電磁弁26bの開度の全開と全閉との切り替えによって制御される。
【0081】
これにより、第2電磁弁26bの開閉の切り替えのみで吸熱器14において冷却される空気の温度Teを制御することができるので、簡単な制御の構成となり、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0082】
また、第2電磁弁26bは、車室内の除湿が必要ない場合に、吸気温度センサ43の検出温度Tiが車室内に吹き出す目標の温度である目標吹出温度TAOよりも高い上限空気温度よりも高い場合に開放され、目標吹出温度TAOよりも低い下限空気温度よりも低い場合に閉鎖される。
【0083】
また、第2電磁弁26bは、車室内の除湿が必要な場合に、冷却空気温度センサ44の検出温度Teが吸熱器14において冷却される空気の目標の温度である目標冷却空気温度TEOよりも高い上限空気温度よりも高い場合に開放され、目標冷却空気温度TEOよりも低い下限空気温度よりも低い場合に閉鎖される。
【0084】
これにより、第2電磁弁26bの開閉動作の発生の頻度を低減することが可能となり、第2電磁弁26bの寿命を長期化させることが可能となる。
【0085】
また、バッテリ冷却優先モードで熱媒体熱交換器24において冷却される熱媒体の温度Twを制御している状態で、熱媒体熱交換器24における冷媒の吸熱量が不足する場合には、吸熱器14の冷媒流通方向上流側における冷媒流通路20eを閉鎖する。
【0086】
これにより、車室内に供給する空気を冷却するための冷却能力を、バッテリBを冷却するための冷却能力として用いることが可能となるので、バッテリBを確実に冷却することが可能となる。
【0087】
また、空調優先モードで吸熱器14において冷却される空気の温度Teを制御している状態で、熱媒体熱交換器24によって熱媒体回路30を流通する熱媒体を冷却する場合には、熱媒体熱交換器24において冷却される熱媒体の温度Twを、熱媒体熱交換器24の冷媒流通方向上流側における冷媒の流路の開度の調整により制御する。
【0088】
これにより、車室内の冷房を主に行っている状態においてもバッテリBの冷却を継続することが可能となるので、バッテリBの温度の上昇を抑制することが可能となる。
【0089】
また、熱媒体熱交換器24の冷媒流通方向上流側には、冷媒流通路20jを開閉する第5電磁弁26eと、冷媒流通路20jを流通する冷媒を減圧する第3膨張弁25cと、が接続され、空調優先モードでの熱媒体熱交換器24において冷却される熱媒体の温度Twは、第5電磁弁26eの開度の全開と全閉との切り替えによって制御される。
【0090】
これにより、第5電磁弁26eの開閉の切り替えのみで熱媒体熱交換器24において冷却される熱媒体の温度Twを制御することができるので、簡単な制御の構成となり、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0091】
また、第5電磁弁26eは、熱媒体温度センサ51の検出温度Twが、熱媒体の目標の冷却温度である目標熱媒体温度TWOよりも高い上限熱媒体温度よりも高い場合に開放され、目標熱媒体温度TWOよりも低い下限熱媒体温度よりも低い場合に閉鎖される。
【0092】
これにより、第5電磁弁26eの開閉動作の発生の頻度を低減することが可能となり、第5電磁弁26eの寿命を長期化させることが可能となる。
【0093】
また、空調優先モードで吸熱器14において冷却される空気の温度Teを制御している状態で、吸熱器14における冷媒の吸熱量が不足する場合に、熱媒体熱交換器24の冷媒流通方向上流側における冷媒流通路20jを閉鎖する。
【0094】
これにより、バッテリBを冷却するための冷却能力を、車室内に供給する空気を冷却するための冷却能力として用いることが可能となるので、車室内に供給する空気を確実に冷却することが可能となる。
【0095】
また、室外熱交換器22は、バッテリ冷却優先モードで熱媒体熱交換器24において冷却される熱媒体の温度Twを制御している状態で、吸熱器14によって車室内に供給する空気を冷却する場合、及び、空調優先モードで吸熱器14において冷却される空気の温度Teを制御している状態で、熱媒体熱交換器24によって熱媒体回路30を流通する熱媒体を冷却する場合に、放熱器として機能させる。
【0096】
これにより、室外熱交換器22において冷媒を確実に放熱させることで、吸熱器14及び熱媒体熱交換器24において確実に吸熱させることができるので、バッテリB及び車室内の冷房における冷却能力の不足を抑制することが可能となる。
【0097】
また、放熱器15において冷媒と熱交換した空気を加熱する空気加熱ヒータ16を備えている。
【0098】
これにより、放熱器15において不足する放熱量を補うことができるので、車室内に供給する空気を必要な温度まで確実に加熱することが可能となる。
【0099】
また、バッテリ冷却優先モードによる圧縮機21の回転数の調整と、空調優先モードによる圧縮機21の回転数の調整と、の切り替えは、圧縮機21の駆動の停止後に行う。
【0100】
これにより、圧縮機21の回転数の急激な変化を抑制することができるので、圧縮機21の駆動回路の不具合の発生を防止することが可能となる。
【0101】
また、車室内の搭乗者に対して車室内の空調及びバッテリの冷却に関する情報を報知する表示部53を備えている。
【0102】
これにより、車室内の冷房の効きが悪い状態を、搭乗者に報知することができるので、誤って機器が故障している判断が搭乗者によってなされることを防止することが可能となる。
【0103】
尚、前記実施形態では、空調優先モードで、車室内に供給する空気を冷却するとともに、熱媒体回路30を流通する熱媒体を冷却している状態で、熱媒体の温度が所定温度T1以上の場合に、空調優先モードからバッテリ冷却優先モードに切り替えるようにしたものを示している。熱媒体の温度Twが所定温度T1となった場合に、空調優先モードからバッテリ冷却優先モードへの切り替える他、外気温や日射量に応じて異なる温度で空調優先モードからバッテリ冷却優先モードへの切り替えてもよい。
【0104】
また、前記実施形態では、バッテリ冷却優先モードにおいて、吸熱器14によって冷却される空気の温度Teの制御を、機械式の第2膨張弁25bの冷媒流通方向上流側に設けられた第2電磁弁26bの開度の全開と全閉との切り替えによって行うものを示したが、これに限られるものではない。例えば、機械式の第2膨張弁25bと第2電磁弁26bの代りに、吸熱器14の冷媒流通方向上流側に弁開度が可変の電子膨張弁を設け、バッテリ冷却優先モードにおいて、吸熱器14によって冷却される空気の温度Teの制御を、電子膨張弁の弁開度の調整によって行ってもよい。
【0105】
また、前記実施形態では、空調優先モードにおいて、熱媒体熱交換器24によって冷却される熱媒体の温度Twの制御を、第5電磁弁26eの開度の全開と全閉との切り替えによって行うものを示したが、これに限られるものではない。例えば、機械式の第3膨張弁25cと第5電磁弁26eの代りに、熱媒体熱交換器24の冷媒流通方向上流側に弁開度が可変の電子膨張弁を設け、空調優先モードにおいて、熱媒体熱交換器24によって冷却される熱媒体の温度Twの制御を、電子膨張弁の弁開度の調整によって行ってもよい。
【0106】
また、前記実施形態では、空調運転及びバッテリ冷却運転のそれぞれの運転状態を表示部53に表示することによって、空調運転及びバッテリ冷却運転のそれぞれの運転状態を搭乗者に報知するようにしたものを示したが、これに限られるものではない。例えば、スピーカからの音声によって、空調運転及びバッテリ冷却運転のそれぞれの運転状態を搭乗者に報知するようにしてもよい。
【0107】
また、前記実施形態では、熱媒体回路30を流通する熱媒体を介して、冷媒回路20を流通する冷媒によってバッテリBを冷却するものを示したが、これに限られるものではない。例えば、冷媒回路20を流通する冷媒によって直接的にバッテリBを冷却するようにしてもよい。
【0108】
また、前記実施形態では、空気加熱ヒータ16を、空気流通路11における放熱器15の冷媒流通方向下流側に配置し、放熱器15において加熱した後の空気を空気加熱ヒータ16によって加熱するようにしたものを示したが、これに限られるものではない。空気加熱ヒータは、空気流通路11における放熱器15の冷媒流通方向上流側に配置し、放熱器15において加熱される前の空気を空気加熱ヒータによって加熱するようにしてもよい。
【0109】
また、前記実施形態では、バッテリ冷却優先モードにおいて、吸熱器14によって冷却される空気の温度Teの制御を、第2電磁弁26bの全開と全閉との切り替えによって行うものを示したが、第2電磁弁26bの全開と全閉の切り替えに限られるものではない。例えば、電磁弁の弁開度の全開及び全閉を除く異なる二種類の弁開度を互いに切り替えることによって吸熱器14によって冷却される空気の温度Teの制御を行ってもよい。
【0110】
また、前記実施形態では、空調優先モードにおいて、熱媒体熱交換器24によって冷却される熱媒体の温度Twの制御を、第5電磁弁26eの全開と全閉との切り替えによって行うものを示したが、第5電磁弁26eの全開と全閉の切り替えに限られるものではない。例えば、電磁弁の弁開度の全開及び全閉を除く異なる二種類の弁開度を互いに切り替えることによって熱媒体熱交換器24によって冷却される熱媒体の温度Twの制御を行ってもよい。
【符号の説明】
【0111】
1…車両用空気調和装置、11…空気流通路、14…吸熱器、15…放熱器、16…空気加熱ヒータ、20…冷媒回路、21…圧縮機、22…室外熱交換器、24…熱媒体熱交換器、25b…第2膨張弁、25c…第3膨張弁、26b…第2電磁弁、26e…第5電磁弁、30…熱媒体回路、40…コントローラ、44…冷却空気温度センサ、45…加熱空気温度センサ、51…熱媒体温度センサ、53…表示部、B…バッテリ。
図1
図2
図3
図4