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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】ステッチ付き表皮材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D05B 33/00 20060101AFI20220621BHJP
   D05B 15/00 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
D05B33/00
D05B15/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2016212614
(22)【出願日】2016-10-31
(65)【公開番号】P2018068696
(43)【公開日】2018-05-10
【審査請求日】2019-08-29
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100112472
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202223
【弁理士】
【氏名又は名称】軸見 可奈子
(72)【発明者】
【氏名】成河 勝
【審査官】住永 知毅
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-520602(JP,A)
【文献】特開2002-177680(JP,A)
【文献】実開平06-081475(JP,U)
【文献】実開昭61-157487(JP,U)
【文献】特開2000-325683(JP,A)
【文献】特開2011-046311(JP,A)
【文献】特開2017-200575(JP,A)
【文献】特開昭61-173391(JP,A)
【文献】特開平02-237785(JP,A)
【文献】特開2011-212137(JP,A)
【文献】特開2001-224884(JP,A)
【文献】特開2003-326062(JP,A)
【文献】特開平04-348795(JP,A)
【文献】特開平04-089090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B1/00-97/12
B60R13/01-13/04
B25J1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元形状に賦形された表皮材をロボットに持たせて自動ミシンの受部に宛がわせると共に所定のパターンに移動させて、前記自動ミシンにより飾りステッチを形成する飾りステッチ付き表皮材の製造方法であって、
前記自動ミシンには、
前記表皮材に連なる上糸を保持する保持手段と、
前記飾りステッチを形成した後に、前記表皮材に連なる前記上糸を切断する切断手段と、が設けられていて、
前記飾りステッチを形成した後、前記ロボットにより前記表皮材を移動させて、その表皮材に連なる前記上糸を前記保持手段に保持させた状態で、前記切断手段により前記上糸を切断すると共に、次の表皮材が前記自動ミシンの前記受部に宛がわれるまで、前記保持手段による前記上糸の保持を継続し、
前記飾りステッチの縫製を開始してから前記保持手段による前記上糸の保持を解除する飾りステッチ付き表皮材の製造方法。
【請求項2】
前記保持手段が前記上糸を保持する保持力は、前記ロボットによる前記表皮材の移動を許容する強さになっている請求項1に記載の飾りステッチ付き表皮材の製造方法。
【請求項3】
前記自動ミシンには、前記表皮材に連なる前記上糸を前記保持手段に案内するガイド部材が設けられている請求項1又は2に記載の飾りステッチ付き表皮材の製造方法。
【請求項4】
前記自動ミシンには、前記上糸が切れたことを検出する糸切れ検出手段が設けられていて、
前記切断手段により前記上糸を切断し、前記糸切れ検出手段にて前記上糸が切断されたことを検出してから、前記ロボット又は前記ロボットとは別のロボットにより次の表皮材を前記自動ミシンの前記受部に宛がって前記飾りステッチを形成する請求項1乃至3のうち何れか1の請求項に記載の飾りステッチ付き表皮材の製造方法。
【請求項5】
前記糸切れ検出手段には、
前記上糸を送り出す糸送給装置と前記表皮材との間の前記上糸が巻き付けられる回転車と、
前記回転車の回転を検出する回転検出手段と、が設けられている請求項4に記載の飾りステッチ付き表皮材の製造方法。
【請求項6】
前記表皮材は、エラストマで構成される表地層と、発泡樹脂で構成される裏地層と、を有する積層構造をなす請求項1乃至5のうち何れか1の請求項に記載の飾りステッチ付き表皮材の製造方法。
【請求項7】
ワーク待機部から前記自動ミシンの前記受部までの前記表皮材の運搬を前記ロボットに行わせる、請求項1乃至6のうち何れか1の請求項に記載の飾りステッチ付き表皮材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮材に飾りステッチを形成する飾りステッチ付き表皮材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、三次元形状に成形された表皮材に、ミシンにより飾りステッチを形成する方法が示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-46311号公報(段落[0028]、図3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示される飾りステッチ付き表皮材の製造方法では、飾りステッチの形成が人の手で行われるため、縫い目のばらつきやよたりが起こり易く、不良品が発生するという問題があった。特に、飾りステッチが形成される前に表皮材が三次元形状に賦形されている場合には、不良品の発生の問題が顕著であった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、不良品の発生を低減することが可能な飾りステッチ付き表皮材の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記事情に鑑みてなされた発明の第1態様は、三次元形状に賦形された表皮材に飾りステッチを形成する飾りステッチ付き表皮材の製造方法であって、ロボットに前記表皮材を持たせ、前記ロボットにより前記表皮材を自動ミシンにおいて前記表皮材を受ける受部に宛がい所定のパターンに移動させると共に、前記自動ミシンにより前記飾りステッチを形成する飾りステッチ付き表皮材の製造方法である。
【0007】
発明の第2態様は、前記自動ミシンには、前記飾りステッチを形成した後に、前記表皮材に連なる上糸を切断する切断手段と、前記上糸が切れたことを検出する糸切れ検出手段と、が設けられていて、前記切断手段により前記上糸を切断し、前記糸切れ検出手段にて前記上糸が切断されたことを検出してから、前記ロボット又は前記ロボットとは別のロボットにより次の表皮材を前記自動ミシンの前記受部に宛がって前記飾りステッチを形成する第1態様に記載の飾りステッチ付き表皮材の製造方法である。
【0008】
発明の第3態様は、前記糸切れ検出手段には、前記上糸を送り出す糸送給装置と前記表皮材との間の前記上糸が巻き付けられる回転車と、前記回転車の回転を検出する回転検出手段と、が設けられている第2態様に記載の飾りステッチ付き表皮材の製造方法である。
【0009】
発明の第4態様は、前記自動ミシンには、前記飾りステッチを形成した後に、前記表皮材に連なる上糸を保持する保持手段と、前記表皮材に連なる前記上糸を切断する切断手段と、が設けられていて、前記飾りステッチを形成した後、前記ロボットにより前記表皮材を移動させて、その表皮材に連なる前記上糸を前記保持手段に保持させてから、前記切断手段により前記上糸を切断する第1態様乃至第3態様のうち何れか1の態様に記載の飾りステッチ付き表皮材の製造方法である。
【0010】
発明の第5態様は、次の表皮材が前記自動ミシンの前記受部に宛がわれるまで、前記保持手段による前記上糸の保持を継続し、前記飾りステッチの縫製を開始してから前記保持手段による前記上糸の保持を解除する第4態様に記載の飾りステッチ付き表皮材の製造方法である。
【0011】
発明の第6態様は、前記表皮材は、エラストマで構成される表地層と、発泡樹脂で構成される裏地層と、を有する積層構造をなす第1態様乃至第5態様のうち何れか1の態様に記載の飾りステッチ付き表皮材の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
[発明の第1態様,第6態様]
発明の第1態様では、ロボットと自動ミシンにより表皮材に飾りステッチが形成されるので、人の手で飾りステッチが形成される場合と比較して、縫い目のバラつきやよたりが起こり難くなり、不良品の発生を低減することが可能となる。
【0013】
なお、表皮材は、エラストマで構成される表地層と、発泡樹脂で構成される裏地層と、を有する積層構造をなすことが、表皮材の保形性の観点から好ましい(発明の第6態様)。
【0014】
[発明の第2態様、第3態様]
発明の第2態様では、糸切れ検出手段にて上糸の切断が検出されてから、次の表皮材が自動ミシンの受部に宛がわれて飾りステッチが形成されるので、上糸が未切断のまま、次の表皮材に飾りステッチを形成することが防がれる。また、縫製中に上糸が切れてしまう異常が発生したときにも、その異常を検出することが可能となる。
【0015】
なお、糸切れ検出手段は、上糸の移動を直接的に検出するように構成されてもよいし、間接的に検出するように構成されてもよい。後者の例としては、発明の第3態様のように、上糸を送り出す糸送給装置と表皮材との間の上糸が巻き付けられる回転車と、回転車の回転を検出する回転検出手段と、を備える構成が挙げられる。発明の第3態様では、上糸そのものの移動を検出する場合よりも検出精度の向上が図られる。
【0016】
[発明の第4態様]
発明の第4態様では、保持手段で上糸を保持してから、その上糸を切断するので、上糸の切断の安定化が図られる。
【0017】
[発明の第5態様]
発明の第5態様では、飾りステッチの縫製が開始されてから保持手段による上糸の保持が解除されるので、上糸の縫い始めの端部が上糸や下糸に絡まって塊となる、所謂、鳥の巣の防止が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る飾りステッチ付き表皮材が用いられたインストルメントパネルの斜視図
図2】(A)インストルメントパネルの一部破断斜視図、(B)側断面図
図3】自動縫製システムの概略構成図
図4】自動縫製システムのブロック図
図5】自動ミシンを正面から見た図
図6】糸送給装置の概略構成図
図7】滑車の平断面図
図8】釜台及びワークガイドの正面図
図9】(A)糸切断装置の概略構成図、(B)クランプ及びガイド部材を後側から見た図
図10】回転センサがオフ状態のときの糸切れセンサの(A)正面図、(B)側断面図
図11】回転センサがオン状態のときの糸切れセンサの(A)正面図、(B)側断面図
図12】他の実施形態に係る糸切れセンサの正面図
図13】他の実施形態に係るクランプ及びガイド部材を後側から見た図
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に示されるように、本実施形態の飾りステッチ付き表皮材10は、車両110のインストルメントパネル111に用いられる。図2(A)に示されるように、飾りステッチ付き表皮材10は、基材112の表側を向く面に固着されて、インストルメントパネル111の意匠面を構成する。飾りステッチ付き表皮材10は、表皮材11に飾りステッチSが形成されてなる。
【0020】
図2(A)に示されるように、基材112は側面視略L字状をなし、表皮材11も基材112の形状に対応した側面視略L字状をなしている。そして、飾りステッチSは、表皮材11におけるL字のコーナー部分に形成されている。詳細には、表皮材11は、左右方向に延在する天井壁11Tと、天井壁11Tの前端から垂下した前壁11Fと、を有し、飾りステッチSは、天井壁11Tの前端部に形成されている。なお、天井壁11Tは、上側が凸となるように湾曲している。また、前壁11Fは、下方へ向かうに従って前側へひな壇状に迫り出す迫出部11Sを備えている。
【0021】
図2(B)に示されるように、基材112は、合成樹脂で構成されている。表皮材11は、表地層12の裏側に裏地層13が重ねられた積層構造を有している。表地層12は、熱可塑性エラストマ(例えば、TPO)で構成されている。裏地層13は、発泡樹脂(例えば、PPフォームやPEフォーム)で構成されている。これにより、表皮材11の保形性の安定化が図られている。
【0022】
飾りステッチ付き表皮材10は、基材112に対応する三次元形状に賦形された表皮材11に飾りステッチSを形成して得られる。図3には、飾りステッチSを形成するための自動縫製システム100が示されている。自動縫製システム100では、ロボット90が表皮材11をワーク置き台102から取り出し、自動ミシン20において表皮材11を受ける受部である釜台32に宛がう。そして、ロボット90が表皮材11を移動させると共に、自動ミシン20が表皮材11に飾りステッチSを形成する。なお、図4に示されるように、自動縫製システム100において、ロボット90と自動ミシン20は、メイン制御部101により制御される。
【0023】
図3及び図4に示されるように、ロボット90は、メイン制御部101からの制御信号に従ってロボット制御部90Aにより制御される。ロボット90は、垂直多関節タイプの汎用品であって、複数のアーム構成体91Aからなるアーム91と、各アーム構成体91Aを駆動するアーム駆動部92と、各アーム構成体91Aの位置を検出するための位置センサ93と、アーム91の先端に取り付けられたロボットハンド94と、を有している。ロボットハンド94には、表皮材11を保持するための吸着パッド(図示せず)が固定されている。
【0024】
図4に示されるように、自動ミシン20は、メイン制御部101からの制御信号に従ってミシン制御部20Aにより制御される。図5に示されるように、自動ミシン20は、ミシンフレーム21に、縫い針31を上下に駆動する針駆動機構31K、針駆動機構31Kと協働して縫い目を形成する釜機構32K、表皮材11を送り方向Xに沿って搬送する送り機構33等を取り付けてなる。
【0025】
ミシンフレーム21は、ミシンフレーム21の下部をなして左右方向Yに延在するミシンベッド22と、ミシンフレーム21の上部をなしてミシンベッド22に上方から対向するミシンアーム23と、ミシンベッド22の一端部に立設されてミシンアーム23に連絡するアーム支持部24と、を備え、全体として正面視略コの字状に形成されている。なお、ミシンベッド22及びミシンアーム23が延在する左右方向Yは、自動ミシン20が被縫製物を送る送り方向Xと直交する。
【0026】
針駆動機構31Kは、ミシンアーム23内において左右方向Yに延びる上軸に固定された回転錘(図示せず)と、該回転錘の偏心部に上端が回転自在に連結されたクランクロッド(図示せず)と、該クランクロッドの下端に回転自在に連結された針棒31Bと、針棒31Bの下端に支持された縫い針31と、を備えている。そして、ミシンモータ37(図4参照)の駆動力を受けて上軸が回転すると、その回転が回転錘、クランクロッドを介して上下方向Zの往復運動に変換され、針棒31Bと縫い針31が上下方向Zに往復する。
【0027】
自動ミシン20は、ポスト型ミシンとなっていて、ミシンベッド22から上方へ向けて立設されたポスト25に釜機構32Kを備えている。釜機構32Kは、ポスト25の上端部に固定された釜台32と、ポスト25内で上下方向Zに延びる釜軸(図示せず)と、該釜軸に支持されて釜台32内で該釜軸を中心に回転する水平釜(図示せず)と、を備えている。そして、ミシンベッド22内において左右方向Yに延びる下軸が上述の上軸と共に回転すると、図示しないギアを介して釜軸が回転し、水平釜が回転する。これにより、水平釜と縫い針31が協働して縫い目を形成する。
【0028】
また、自動ミシン20は、総合送りミシン又は上送りミシンとなっていて、図8及び図9(A)に示されるように、送り機構33には、上送り部材34と上押え部材35とが備えられている。上送り部材34は、縫い針31の上下運動に連動して左右方向Yに延びる上送り軸(図示せず)を中心とした楕円の軌跡を描くように駆動され、上下方向Zに移動しながら送り方向Xに移動する。上押え部材35は、上下方向Zに沿って直線状に駆動される。上送り部材34と上押え部材35とは、一方の部材が可動範囲の下端に配置されるときに他方の部材が可動範囲の上端に配置されように、駆動される。
【0029】
なお、詳細には、図8及び図9(A)に示されるように、上送り部材34は、上下方向Zに延在するベース部34Bと、ベース部34Bの下端から送り方向Xの手前側に迫り出す送り脚部34Kと、を有し、送り脚部34Kには、縫い針31が挿通される貫通孔34A(図8参照)が設けられている。また、上押え部材35は、上下方向Zに延在するベース部35Bと、ベース部35Bの下端から二股に分岐して送り方向Xの手前側に迫り出す押え脚部35K,35Kと、を有している。押え脚部35K,35Kは、左右方向Yで上送り部材34の送り脚部34Kを挟むように配置されている。
【0030】
図4及び図6に示されるように、自動ミシン20は、上糸Tのテンションを一定に保つための糸送給装置40を備えている。糸送給装置40は、糸立て台回転装置41と回転制御装置45を備えている。糸立て台回転装置41は、固定ベース41Aと、固定ベース41Aの上に取り付けられた回転ベース42と、回転ベース42を回転駆動する回転駆動源42Mと、を備えている。回転ベース42には、上糸Tが巻回された糸駒44を取り付け可能な糸立て台43が固定されている。そして、回転駆動源42Mにより回転ベース42が回転すると、糸駒44から上糸Tが供給される。
【0031】
回転制御装置45は、略鉛直に配置されたベース板46と、ベース板46の前方で上下方向に移動する動滑車48と、を備えている。具体的には、ベース板46の前面の上部には、1対の定滑車47,47が回転自在に取り付けられていて、動滑車48は、1対の定滑車47,47に横方向で挟まれるように配置されている。そして、糸駒44から供給された上糸Tが、1対の定滑車47,47に上側から掛けられると共に、それら1対の定滑車47,47の間の上糸Tが動滑車48に下側から掛けられている。
【0032】
図7に示されるように、動滑車48は、大径部48Aと、大径部48Aに前側から重なる小径部48Bと、それら大径部48Aと小径部48Bの中心部同士を連絡する連絡軸部48Cと、を備えている。そして、小径部48Bの外周面に形成された糸掛け溝48Mに上糸Tが掛けられている。
【0033】
大径部48Aと小径部48Bとの間には、ベース板46に固定された1対の支持シャフト46S,46Sが受容されている。そして、1対の支持シャフト46S,46Sの間に連絡軸部48Cが挟まれている。これらにより、動滑車48の前後方向及び横方向の移動が規制されている。なお、図6に示されるように、1対の支持シャフト46S,46Sは、ベース板46の上端と下端とから前方に突出した1対の突壁46T,46Tに差し渡されている。また、ベース板46には、動滑車48との干渉を避けるために、上下方向に延びる長孔46Aが形成されている。
【0034】
図6に示されるように、回転制御装置45は、回転スイッチ49A、停止スイッチ49B及び異常検知スイッチ49Cを上から順番に備えている。これらのスイッチ49A~49Cは、動滑車48の上下方向の位置を検出する。ここで、動滑車48が回転スイッチ49Aと停止スイッチ49Bとの間に配置された状態のときに、上糸Tのテンションが適切になる。そして、3つのスイッチ49A~49Cのうち一番上に配置された回転スイッチ49Aが動滑車48を検出すると、回転制御装置45は、糸立て台回転装置41の回転駆動源42Mを回転させる。すると、上糸Tがたわみ、動滑車48が下方へ移動する。また、3つのスイッチ49A~49Cのうち真ん中に配置された停止スイッチ49Bが動滑車48を検出すると、回転制御装置45は、糸立て台回転装置41の回転駆動源42Mを停止させる。すると、上糸Tが張って、動滑車48が上方へ移動する。このように、回転制御装置45は、動滑車48の位置を回転スイッチ49Aと停止スイッチ49Bの間に配置することで、上糸Tのテンションが適切となるように糸立て台回転装置41を制御する。
【0035】
なお、3つのスイッチ49A~49Cのうち一番下に配置された異常検知スイッチ49Cが動滑車48を検出すると、回転制御装置45は、回転駆動源42Mの異常回転が発生したと判断する。この場合、回転制御装置45は、糸立て台回転装置41を緊急停止させると共に、ミシン制御部20Aにエラー発生信号を送信する。
【0036】
各スイッチ49A~49Cによる動滑車48の検出は以下のようにして行われる。即ち、図7に示されるように、回転スイッチ49Aは、光センサで構成されていて、前後方向で対向する発光素子49Hと受光素子49Jを備えている。発光素子49Hと受光素子49Jとの間には、動滑車48の大径部48Aが通過可能な空間が設けられている。動滑車48が回転スイッチ49Aに近づいて、発光素子49Hから出射された光が大径部48Aにより遮られ、受光素子49Jにより検出されなくなると、回転スイッチ49Aがオンになり糸立て台43の回転が開始される。そして、動滑車48が回転スイッチ49Aから離れて発光素子49Hからの光が受光素子49Jにより検出されると、回転スイッチ49Aはオフとなるが、糸立て台43は回転し続ける。
【0037】
回転スイッチ49Aと同様に、停止スイッチ49Bも光センサで構成されていて、前後方向で対向する発光素子と受光素子(共に図示せず)を備えている。停止スイッチ49Bの発光素子と受光素子との間には、動滑車48の大径部48Aが通過可能な空間が設けられている。動滑車48が停止スイッチ49Bに近づいて、停止スイッチ49Bの発光素子から出射された光が大径部48Aにより遮られ、受光素子により検出されなくなると、停止スイッチ49Bがオンとなり糸立て台43の回転が停止する。そして、動滑車48が停止スイッチ49Bから離れて発光素子からの光が受光素子により検出されると、停止スイッチ49Bはオフとなるが、糸立て台43の回転は停止したままとなる。このように、本実施形態では、回転スイッチ49A及び停止スイッチ49Bのオン動作によって、回転制御装置45における動滑車48の位置を一定範囲に収め、上糸Tのテンションが大きく変動しないようにする。
【0038】
異常検知スイッチ49Cは回転スイッチ49Aや停止スイッチ49Bと同様の構成となっているので、異常検知スイッチ49Cの構成に関する説明については省略する。回転スイッチ49Aや停止スイッチ49Bの場合と同様に、回転制御装置45は、異常検知スイッチ49Cのオン動作により、動滑車48が異常検知スイッチ49Cの近くにあることを検出し、自動縫製システム100を停止する。
【0039】
図8に示されるように、自動ミシン20には、表皮材11を受ける釜台32に対する表皮材11を位置決めするワークガイド61が備えられている。ワークガイド61は、自動ミシン20の釜台32に表皮材11が宛がわれるときには、その表皮材11との干渉を避けるために釜台32から離れた場所に配置され、縫製が開始されるときに、ワークガイド駆動部62(図4参照)により駆動されて釜台32の近傍に配置される。詳細には、ワークガイド61は、表皮材11の前壁11Fに対向配置されて表皮材11におけるL字のコーナー部分に突き当てられる。そして、表皮材11の被縫製部分が縫い針31の下方に配置される。
【0040】
図4に示されるように、自動ミシン20は、表皮材11に飾りステッチSを形成した後に表皮材11に連なる上糸Tを切断する糸切断装置50を備えている。図9(A)に示されるように、糸切断装置50は、上糸Tを切断するためのカッター51と、上糸Tを保持するためのクランプ52と、を縫い針31の後側に備えている。カッター51は、例えば、ヒートカッターで構成されている。クランプ52は、図9(B)に示されるように、左右方向Yに接離する1対の可動部52A,52Aを有し、それら1対の可動部52A,52Aによって上糸Tを挟持する。なお、1対の可動部52A,52Aは、クランプ駆動部52K(図4参照)により駆動される。
【0041】
図9(A)に示されるように、糸切断装置50は、クランプ52と縫い針31との間に、上糸Tをクランプ52に案内するためのガイド部材53を備えている。図9(B)に示されるように、ガイド部材53には、ガイド部材53の下端から上方へ向けて切欠部54が形成されている。切欠部54は、上方へ向かうに従って幅狭となる絞り部54Aと、絞り部54Aから上方に延設された線状部54Bと、からなる。ガイド部材53のうち絞り部54Aに臨む部分の両側部には、左右方向Yで互いに近づくに従って上方へ向かうように湾曲した円弧状案内部55が形成されている。また、線状部54Bは、クランプ52の1対の可動部52A,52Aに左右方向Yで挟まれるように配置される。そして、ロボット90が表皮材11を上方に移動させて、縫い針31の針孔を通過して表皮材11に連なる上糸Tがガイド部材53の下端に当たると、その上糸Tが円弧状案内部55によって線状部54Bに案内される。これにより、上糸Tがクランプ52の1対の可動部52A,52Aの間に案内される。
【0042】
ところで、自動ミシン20では、糸切断装置50により上糸Tが切断されない状態で次の表皮材11が釜台32に宛がわれると、表皮材11に連なる上糸Tが次の表皮材11に縫われるという問題が生じ得る。このような問題を解決するために、自動ミシン20は、糸切断装置50により上糸Tが切断されたことを確認するための糸切れセンサ70を備えている(図4参照)。
【0043】
図5及び図10(A)に示されるように、糸切れセンサ70は、糸送給装置50と縫い針31との間の上糸Tが巻き付けられて上糸Tの移動に伴って回転する回転車71と、回転車71の回転を検出する回転センサ75と、を備えている。詳細には、糸切れセンサ70は、1対のサイド壁76,76の間に配置されていて、各サイド壁76には、糸挿通孔76Aが貫通形成されている。そして、一方のサイド壁76の糸挿通孔76Aを通過した上糸Tが回転車71に巻き付けられて、他方のサイド壁76の糸挿通孔76Aを通過する。
【0044】
図10(B)に示されるように、回転車71は、径方向外側に張り出した鍔部72と張出片73を軸方向にずらして備えている。そして、回転車71のうち軸方向で鍔部72と張出片73との間に挟まれた部分に、上糸Tが、例えば、1回巻き付けられている。張出片73は、扇形状をなして、回転車71の周方向の一部に配置されている(図10(A)参照)。なお、本実施形態では、張出片73は半円状に形成されている。
【0045】
図10(B)に示されるように、回転センサ75は、回転車71の軸方向で対向する発光素子75Hと受光素子75Jを備えている。発光素子75Hと受光素子75Jとの間には、回転車71の張出片73が通過可能な空間が形成されている。ここで、上述したように、張出片73は、回転車71の周方向の一部に配置されている。従って、回転車71が回転すると、発光素子75Hからの光が受光素子75Jにより受光されて回転センサ75がオンとなる状態(図11(A)及び図11(B)に示す状態)と、発光素子75Hから受光素子75Jに向けて出射された光が張出片73によって遮られて回転センサ75がオフとなる状態(図10(A)及び図10(B)に示す状態)と、に変化する。
【0046】
ここで、糸切断装置50によって上糸Tが切断されている場合、飾りステッチSが形成された表皮材11をロボット90が移動させても、糸送給装置50と縫い針31との間の上糸Tは移動しない。このとき、回転車71は回転せず、回転センサ75のオン/オフ状態は変化しない。一方、糸切断装置50によって上糸Tが切断されていない場合には、飾りステッチSが形成された表皮材11をロボット90が移動させたときに、糸送給装置50と縫い針31との間の上糸Tが移動する。このとき、回転車71は回転し、回転センサ75のオン/オフ状態が周期的に変化する。このように、本実施形態では、回転センサ75のオン/オフ状態が周期的に変化するか否かによって、上糸Tが切断されたか否かを知ることが可能となる。なお、糸切れセンサ70は、縫製の途中で上糸Tが事故により切れたときにも、その上糸Tの切断を検出することができる。
【0047】
自動縫製システム100の構成に関する説明は以上である。なお、本実施形態では、カッター51が本発明の「切断手段」に相当し、クランプ52が本発明の「保持手段」に相当する。また、糸切れセンサ70が本発明の「糸切れ検出手段」に相当し、回転センサ75が本発明の「回転検出手段」に相当する。
【0048】
次に、自動縫製システム100を用いた飾りステッチ付き表皮材10の製造方法について説明する。飾りステッチ付き表皮材10を製造するには、まず、三次元形状に賦形された表皮材11をワーク置き台102の所定位置にセットする(図3参照)。ワーク置き台102への表皮材11のセットが完了すると、ロボット90が表皮材11を保持して自動ミシン20において表皮材11を受ける受部である釜台32に宛がって表皮材11の被縫製部分を縫い針31の下方に配置させる。
【0049】
表皮材11が自動ミシン20の釜台32に宛がわれると、自動ミシン20が縫製を開始すると共に、ロボット90が表皮材11を所定のパターンに移動させて、表皮材11に飾りステッチSを形成する。具体的には、ロボット90は、表皮材11のL字のコーナー部分が釜台32の上に宛がわれた状態から、表皮材11を自動ミシン20の送り方向Xに移動させる。このとき、表皮材11のL字のコーナー部分は、自動ミシン20のワークガイド61に突き当てられるので、表皮材11の被縫製部分が縫い針31の下方に配置された状態を保ち易くなる(図8参照)。
【0050】
表皮材11に飾りステッチSが形成されると、自動ミシン20が縫製を終了し、ロボット90が表皮材11を釜台32の上から外す。このとき、自動ミシン20は、図示しない下糸切断装置により下糸を切断する。次いで、ロボット90が表皮材11を縫い針31の後側に移動させると共に、自動ミシン20がクランプ52により縫い針31の針孔を通過して表皮材11に連なる上糸Tを保持する。そして、自動ミシン20は、クランプ52により上糸Tを保持した状態で、カッター51により表皮材11とクランプ52との間の上糸Tをクランプ52に近いところで切断する。このように、本実施形態では、クランプ52で上糸Tを保持してから、その上糸Tを切断するので、上糸Tの切断の安定化が図られる。
【0051】
上糸Tの切断が終了すると、ロボット90は、表皮材11を所定のワーク回収場所に運んでその表皮材11を放し、ワーク置き場102から次の表皮材11を保持して自動ミシン20による飾りステッチSの形成を開始する。ここで、上糸Tが切断されていない場合には、ロボット90が表皮材11をワーク回収場所へ運ぶときに、表皮材11と一緒に上糸Tが移動する。そして、糸切れセンサ70が上糸Tの未切断を検出して異常を知らせる。なお、次述するように、ロボット90が表皮材11をワーク回収場所へ運ぶときに、上糸Tはクランプ52に保持されている。しかしながら、クランプ52の保持力は、ロボット90による表皮材11の移動を妨げない程度に小さくなっている。
【0052】
次の表皮材11が自動ミシン20の釜台32に宛がわれ、自動ミシン20が縫製を開始する。ここで、次の表皮材11が自動ミシン20の釜台32に宛がわれるまで、自動ミシン20は、クランプ52による上糸Tの保持を継続する。自動ミシン20は、次の表皮材11に上糸Tが一縫い又は二縫いされてから、クランプ52による上糸Tの保持を解除する。このように、本実施形態では、次の表皮材11に対する縫製が開始されてからクランプ52による上糸Tの保持が解除されるので、上糸Tの縫い始めの端部が上糸Tや下糸に絡まって塊となること、即ち、鳥の巣の発生が防がれる。
【0053】
自動縫製システム100では、上記した動作が繰り返されて、複数の表皮材11に順次飾りステッチSを形成する。そして、複数の飾りステッチ付き表皮材10が順次製造される。
【0054】
本実施形態の飾りステッチ付き表皮材10の製造方法では、ロボット90と自動ミシン20により表皮材11に飾りステッチSが形成されるので、人の手で飾りステッチSが形成される場合と比較して、飾りステッチSの縫い目のばらつきやよたりが起こり難くなり、不良品の発生を低減することが可能となる。
【0055】
また、本実施形態では、糸切れセンサ70にて上糸の切断が検出されてから、次の表皮材11が自動ミシン20の釜台32に宛がわれて飾りステッチSの形成が開始されるので、上糸Tが未切断のまま、次の表皮材11に飾りステッチSが形成されることが防がれる。また、縫製中に上糸Tが切れてしまう異常が発生したときにも、その異常を検出することが可能となる。しかも、上糸Tの切断の検出は、上糸Tが巻き付けられた回転車71の回転を検出することにより行われるので、上糸Tそのものの移動を検出する場合と比較して、検出精度の向上が図られる。
【0056】
[他の実施形態]
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0057】
(1)上記実施形態では、飾りステッチ付き表皮材10は、インストルメントパネル111に用いられていたが、例えば、ドアトリム、ピラーガーニッシュ、コンソールボックス等の車両用内装材に用いられてもよい。
【0058】
(2)上記実施形態では、飾りステッチSがシングルタイプのものであったが、ダブルステッチや様々な形態のものであってもよい。
【0059】
(3)上記実施形態では、自動ミシン20がポスト型ミシンであったが、表皮材11の形状によっては、平ベッドミシンであってもよい。
【0060】
(4)上記実施形態において、糸切れセンサ70の回転車71が複数の張出片73を備える構成としてもよい(図12(A)及び図12(B)参照)。この場合、複数の張出片73は、回転車71の周方向に等間隔に配置されることが好ましい。なお、張出片73は、図12(A)に示されるように、扇形状であることが好ましいが、矩形状(図12(B)参照)や三角形状であってもよい。
【0061】
(5)上記実施形態において、カッター51は、ヒートカッターに限られるものでなく、上糸Tを挟んで切断する鋏タイプのものであってもよい。
【0062】
(6)上記実施形態において、ガイド部材53は、クランプ52に一体に設けられてもよいし、クランプ52と別体に設けられてもよい。ガイド部材53は、クランプ52に上糸Tを誘導するための誘導部(上記実施形態の切欠部54)を備えていればよく、例えば、図13(A)又は図13(B)に示す切欠部54を備える構成であってもよい。なお、図13(A)の例では、切欠部54の絞り部54Aが台形状に形成されている。図13(B)の例では、切欠部54の全体が三角形状の絞り部54Aで構成されている。
【0063】
(7)上記実施形態において、ロボット90は、1台用意されていたが、2台のロボット又は3台以上のロボットが用意されていてもよい。その場合、ロボットは、順繰りに表皮材11を自動ミシン20の釜台32に宛がって飾りステッチSを形成するようにする。
【符号の説明】
【0064】
10 飾りステッチ付き表皮材
11 表皮材
20 自動ミシン
40 糸送給装置
50 糸切断装置
51 カッター
52 クランプ
70 糸切れセンサ
71 回転体
75 回転センサ
90 ロボット
100 自動縫製システム
S 飾りステッチ
T 上糸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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