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特許7092463MFD検査支援システムおよびMFDを用いた検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】MFD検査支援システムおよびMFDを用いた検査方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20220621BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20220621BHJP
   C12Q 1/00 20060101ALI20220621BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
C12M1/34 B
G01N37/00 101
C12Q1/00 Z
C12Q1/04
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2017071441
(22)【出願日】2017-03-31
(65)【公開番号】P2017184737
(43)【公開日】2017-10-12
【審査請求日】2020-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2016072463
(32)【優先日】2016-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000136354
【氏名又は名称】株式会社フコク
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】特許業務法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高畠 大介
(72)【発明者】
【氏名】御子柴 孝晃
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 文章
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-177806(JP,A)
【文献】特開2016-028606(JP,A)
【文献】特開2015-058001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
C12M 1/00-3/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ流路デバイス(MFD)による検査を支援するMFD検査支援システムであって、
前記MFDを収納して培養を行う検査装置と、前記検査装置とネットワークを介して接続可能な判定サーバと、を有し、
前記検査装置は、
前記MFDを前記検査装置の筐体内に収容し、
前記MFDに入れられた所定の薬剤および検体に応じて設定された培養条件で、培養を行い、
前記MFDにおける流路のうち少なくとも前記薬剤が入れられた流路における前記検体の状態の形状的特徴を撮影して、画像データを取得し、
少なくとも、位置情報を含む検体の提供元にかかわる属性情報として、検体の属性データ、検査日時、および検査地の情報と、取得した前記画像データを、前記判定サーバに送信し、
前記判定サーバは、前記検査装置から受信したデータのうち少なくとも前記画像データに基づいて、前記検体の状態の形状的特徴を分析し、前記判定サーバの有する学習機能によって、蓄積された過去の蓄積データに基づいた学習結果により前記位置情報を含む前記検体の提供元にかかわる属性情報における、地域の罹患者数または検体の年齢に基づいて重み付けを行い、前記検体の同定および/または前記薬剤に係る効果の判定を行い、判定結果のデータを、前記検査装置もしくは前記検査装置を使用する検査実行者が所持する情報処理端末に送信し、または、前記情報処理端末から閲覧可能とする、
MFD検査支援システム。
【請求項2】
請求項1に記載のMFD検査支援システムにおいて、
前記検査装置は、前記MFDにおける流路のうち少なくとも前記薬剤が入れられた流路における前記検体の動きを撮影して、前記画像データを取得し、
前記判定サーバは、前記画像データに基づいて、前記検体の状態および前記検体の特定の個体の動きを追尾して前記特定の個体の活発度を分析し、分析結果に基づいて、前記判定を行う、MFD検査支援システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のMFD検査支援システムにおいて、
前記MFDに入れられた前記薬剤は、
前記検体が未知の場合には、前記検体の同定用の薬剤であり、
前記検体が既知の場合には、感受性比較用の薬剤である、
MFD検査支援システム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のMFD検査支援システムにおいて、
前記MFDは、前記薬剤が予め入れられている場合に、前記薬剤に応じた前記培養条件を特定可能である培養条件情報が表示されており、
前記検査装置は、前記MFDの前記培養条件情報を読み取り、読み取った培養条件情報に従った前記培養条件、または予め前記検査装置内に用意されている前記培養条件で、前記培養を行う、MFD検査支援システム。
【請求項5】
請求項4に記載のMFD検査支援システムにおいて、
前記MFDには、前記培養条件情報の表示に代えて、またはこれに加えて、前記培養条件情報を機械読み取り可能なコードが表示されている、および/または、前記コードが前記MFDに備えるメモリチップ上に記録されており、
前記検査装置は、前記MFDから読み取った前記培養条件情報に基づいて前記培養条件を設定する、MFD検査支援システム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のMFD検査支援システムにおいて、
前記撮影の際の撮影条件は、少なくとも、動画または静止画の区分、画像の撮影間隔、投射光の種類の情報を含む、MFD検査支援システム。
【請求項7】
請求項4に記載のMFD検査支援システムにおいて、
前記MFDには、前記培養条件情報に加え、前記薬剤の情報が表示されており、
前記検査装置は、前記撮影の際に、前記MFDに表示されている前記培養条件情報および前記薬剤の情報の少なくとも一方を前記流路と併せて写し込むように撮影して前記画像データを取得する、MFD検査支援システム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載のMFD検査支援システムにおいて、
前記判定サーバは、前記検査装置から受信したデータ、および前記判定結果に係るデータを、データベースに記録し蓄積する、MFD検査支援システム。
【請求項9】
請求項8に記載のMFD検査支援システムにおいて、
前記判定サーバは、前記検体に対する判定に加え、さらに、前記データベースに蓄積されているデータに基づいて、前記検査装置における再度の検査の必要の有無、または前記検体の提供元に対する治療および/または薬剤の処方の情報を判定する、MFD検査支援システム。
【請求項10】
請求項8に記載のMFD検査支援システムにおいて、
前記判定サーバは、前記検体に対する判定に加えて、さらに、前記検査装置における再度の検査の必要の有無、または前記検体の提供元に対する治療および/または薬剤の処方の情報についての、医師による入力を受け付け、入力された情報を出力する、MFD検査支援システム。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載のMFD検査支援システムにおいて、
前記検査装置は、前記撮影の際の撮影条件の1つとして、被写界深度が前記MFDの流路の流路高さの2分の1以下になるように制御する、MFD検査支援システム。
【請求項12】
マイクロ流路デバイス(MFD)を用いた検査方法であって、
検査実行者により、予め所定の薬剤が入れられたMFDに検体を導入して前記MFDを検査装置に収納する第1の工程と、
前記検査装置により、前記収納された前記MFDを、前記所定の薬剤および前記検体に応じて設定された培養条件で、培養を行う第2の工程と、
前記検査装置により、前記MFDにおける流路のうち少なくとも前記薬剤が入れられた流路における前記検体の状態の形状的特徴を撮影して、画像データを取得し、少なくとも、位置情報を含む検体の提供元にかかわる属性情報として、検体の属性データ、検査日時、および検査地の情報と、前記画像データを、判定サーバに送信する第3の工程と、
前記判定サーバにより、前記検査装置から受信したデータのうち少なくとも前記画像データに基づいて、前記検体の状態の形状的特徴を分析し、前記判定サーバの有する学習機能によって、蓄積された過去の蓄積データに基づいた学習結果により前記位置情報を含む前記検体の提供元にかかわる属性情報における、地域の罹患者数または検体の年齢に基づいて重み付けを行い、前記検体の同定および/または前記薬剤に係る効果の判定を行う第4の工程と、を有する、
MFDを用いた検査方法。
【請求項13】
請求項12に記載のMFDを用いた検査方法において、
前記判定サーバにより、前記第4の工程の判定結果のデータを、前記検査装置もしくは前記検査装置を使用する前記検査実行者が所持する情報処理端末に送信する、または、前記情報処理端末から閲覧可能とする第5の工程を有する、MFDを用いた検査方法。
【請求項14】
請求項12に記載のMFDを用いた検査方法において、
前記第3の工程では、前記検査装置が、前記MFDにおける流路のうち前記薬剤が入れられた流路における前記検体の動きを撮影して、前記画像データを取得し、
前記第3の工程では、前記判定サーバが、前記画像データに基づいて、前記検体の状態および前記検体の特定の個体の動きを追尾して前記特定の個体の活発度を分析し、分析結果に基づいて、前記判定を行う、MFDを用いた検査方法。
【請求項15】
請求項12~14のいずれかに記載のMFDを用いた検査方法において、
前記MFDに入れられた前記薬剤は、
前記検体が未知の場合には、前記検体の同定用の薬剤であり、
前記検体が既知の場合には、感受性比較用の薬剤である、
MFDを用いた検査方法。
【請求項16】
請求項12~15のいずれかに記載のMFDを用いた検査方法において、
前記MFDは、前記薬剤が予め入れられている場合に、前記薬剤に対応する前記培養条件を特定可能である培養条件情報が表示されており、
前記第2の工程では、前記検査装置が、前記MFDの前記培養条件情報を読み取り、読み取った培養条件情報に従った前記培養条件、または予め前記検査装置内に用意された前記培養条件で、前記培養を行う、MFDを用いた検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流路デバイス(MicroFluidic Devices:MFD)を用いた検査技術に関し、特に、MFDを用いて現場で行われた検査のデータに基づいて自動的に判定を行うMFD検査支援システムおよびMFDを用いた検査方法に適用して有効な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生化学分析用基板(バイオチップ)の1つとして、マイクロメートル(μm)レベルの微細な流路を用いて、細菌に対する薬剤の感受性評価や、試薬の分析、反応度評価等を短時間に実行することができるマイクロ流路デバイス/マイクロ流路チップ(以下では「MFD」と総称する場合がある)の開発が進んでいる。
【0003】
MFDを用いた検査方法に関連する技術として、例えば、特開2015-177806号公報(特許文献1)には、被検菌液と抗菌薬との混合液が導入された流路を有するMFDを培養して、流路の観察エリアを顕微鏡等で観察した画像を取得し、これを解析することで被検菌液由来の細菌または真菌の抗菌薬感受性を決定する旨が記載されている。
【0004】
また、バイオチップを利用した検査や診断に関連する技術として、例えば、特表2010-525363号公報(特許文献2)には、バイオチップで行われた反応を分析した結果に対する測定データを記録するバイオ分析装置と、測定データを遠隔診断サーバに送信するユーザ端末機と、遠隔診断サーバとを有する遠隔医療診断システムが記載されている。ここでは、ユーザ端末機上に、測定データに基づいた自体分析により診断結果を出力するソフトウェアからなる仮想医師を有し、遠隔診断サーバは、状況に応じてユーザを仮想医師または医療専門家に連結する旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-177806号公報
【文献】特表2010-525363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、特許文献1に記載された技術を用いることで、細菌または真菌の抗菌薬に対する感受性を簡易かつ迅速に検査、確認することができるとされる。また、特許文献2に記載されたような技術を適用することで、検査結果について、検査の現場での仮想医師による判断、または遠隔診断サーバを介した医療専門家による判断を受けることが可能であり、現場での医療活動を支援することができると考えられる。
【0007】
一方で、このように簡便かつ迅速に行うことができる細菌等の検査が実際に行われる現場は、病院等の医療施設や研究施設等に限らず、様々な場所で行われる場合があり得る。例えば、僻地や孤島、戦場、伝染病の蔓延地域など、十分な環境や設備が備わっていない場所で使用されることも考えられる。また、空港等の非医療施設で使用されることも考えられる。これらの現場では、専門医等が不在である可能性も高いことから、MFDを用いた検査の実行はより簡易かつ迅速に行うことができる必要がある。一方で、検査結果に対して適切な判定を行い、判定内容やこれに基づく対応内容を現場に適切に通知・指示することができる必要もある。
【0008】
そこで本発明の目的は、現場でのMFDを用いた検査の実行を支援するとともに、検査結果に対する判定内容やこれに基づく対応内容を現場に適切に通知・指示することを可能とするMFD検査支援システムおよびMFDを用いた検査方法を提供することにある。
【0009】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、以下のとおりである。
【0011】
本発明の代表的な実施の形態によるMFD検査支援システムは、検体と、所定の薬剤と、が入れられたMFDを収納して所定の培養条件で培養する検査装置と、前記検査装置とネットワークを介して接続可能な判定サーバと、を有し、前記MFDには、前記検体が未知の場合は前記薬剤として検体同定用の薬剤が導入されており、前記検体が既知の場合は前記薬剤として感受性比較用の薬剤が導入されており、また、前記薬剤が予め封入されている場合は、対応する前記培養条件を特定することができる培養条件情報が表示されている。
【0012】
また、前記検査装置は、予め設定されている複数の培養条件の中から選択された前記培養条件、または、前記MFDに表示されている前記培養条件情報により特定される前記培養条件で、収納した前記MFDを培養し、培養中の前記MFDの所定の観察エリアを撮影して、取得した画像データ、前記画像データを撮影したときの機材や倍率等の撮影状況データ、前記薬剤のデータ、および前記培養条件のデータ、さらに前記検体の提供元に係る属性データが入力されている場合には前記属性データ(以下ではこれらを「培養情報」と総称する場合がある)を、必要に応じて前記判定サーバに送信する。
【0013】
そして、前記判定サーバは、前記検査装置から受信した各データのうち少なくとも前記画像データに基づいて、前記検体に対する判定として、前記検体の同定および/または前記薬剤に係る効果の判定を行い、判定結果を前記検査装置または前記検査装置を使用する検査実行者が所持する情報処理端末に送信し、または前記情報処理端末から閲覧可能とする。
【発明の効果】
【0014】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0015】
すなわち、本発明の代表的な実施の形態によれば、現場でのMFDを用いた検査の実行を支援するとともに、検査結果に対する判定内容やこれに基づく対応内容を現場に適切に通知・指示することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施の形態であるMFD検査支援システムの構成例について概要を示した図である。
図2】本発明の一実施の形態におけるMFDの主要部の例について概要を示した斜視図である。
図3】(a)、(b)は、本発明の一実施の形態におけるMFDによる検査において流路付近の状態を撮影した画像データの例を示した図である。
図4】本発明の一実施の形態における処理の流れの例について概要を示した処理フロー図である。
図5】本発明の一実施の形態における判定サーバの検査データ蓄積DBのデータ構成の例について概要を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一部には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。一方で、ある図において符号を付して説明した部位について、他の図の説明の際に再度の図示はしないが同一の符号を付して言及する場合がある。
【0018】
<システム構成>
図1は、本発明の一実施の形態であるMFD検査支援システムの構成例について概要を示した図である。本実施の形態のMFD検査支援システム1では、現場において検査実行者2がMFD40を用いて行う検査を支援するとともに、検査結果のデータをインターネット等のネットワーク20を介して判定サーバ10に送信する。そして、判定サーバ10での判定結果や対応内容を検査実行者2に通知・指示することで、検査実行者2がその後の対応を適切に行うことを可能とするシステムである。
【0019】
検査が行われる現場は、例えば、僻地や孤島、戦場、伝染病の蔓延地域など、十分な環境や設備が備わっていない場所も含む様々な場所であってよい。また、検査実行者2は、必ずしも専門的知識を備えた医師等である必要はない。
【0020】
このような環境で検査を行うには、現場で必要とされる機器等は可能な限りシンプルであるのが望ましい。本実施の形態では、現場において検体および所定の薬剤を入れたMFD40を検査のために培養する機器として検査装置30を用いる。この検査装置30は、その機能として少なくとも、MFD40を収納して所定の培養条件に基づいて培養する機能、および培養の履歴を撮影して画像データとして記録する機能を有する。検査装置30が、スマートフォンやタブレット型端末、ノート型PC等の携帯端末50、およびこれに導入されたアプリケーションと連携することで、一部の機能を携帯端末50により実行する構成としてもよい。
【0021】
図1の例では、検査装置30は、ボックス型の形状を有する専用の可搬型の機器であり、MFD40を挿入する挿入口31を有する。検査実行者2は、MFD40を挿入口31へ挿入することで検査装置30に収納することができる。なお、このような収納手段はあくまで一例であり、例えば開閉蓋によるもの等、他の構成についても適宜採用することができる。
【0022】
特許文献1等に示されるように、MFD40の流路を観察した画像を解析することで、細菌に対する薬剤の感受性評価等の分析を行うことができる。本実施の形態においても、MFD40の流路の所定の観察エリアの画像データを取得することで検査を行う。このため、検査装置30は、収納したMFD40の流路を撮影して画像データを取得することができるカメラ32を備えているのが望ましい。検査装置30が、カメラ32を備える場合、前記観察エリアの画像データを一括で撮影できることが望ましいが、前記観察エリアにおける各流路を、個別に、且つ、同時に撮影できる複数のカメラを備えるものであってもよい。
【0023】
検査装置30がカメラ32を備えていない場合でも、例えば、カメラ機能を有するスマートフォン等の携帯端末50を用いて、検査装置30に収納されている状態、または検査装置30から取り出した状態で、MFD40を撮影する構成としてもよい。この場合、検査装置30には、携帯端末50のレンズ部分に接続して利用できる接写用レンズを備えていることが望ましい。また、撮影を行った携帯端末50等の機材の種類や倍率等の撮影状況データ等を加えた培養情報を画像データに添付するのが望ましい。
【0024】
なお、図1の例では、説明の便宜上、カメラ32が検査装置30の筐体の外側に設置されているかのように記載されているが、実際には検査装置30の内部で培養中のMFD40の流路を撮影することができる位置に設置されている。また、カメラ32(または携帯端末50)は、培養中のMFD40の流路を所定の時間間隔で撮影して、静止画の連続として画像データを取得するものであってもよいし、動画として画像データを取得するものであってもよい。また、検査装置30は、前記撮影において、位相差観察画像または暗視野観察画像を提供できる光学系ユニットを内蔵するものであることが更に好ましい。
【0025】
検査装置30は、さらに、ネットワーク20に接続して判定サーバ10に検査データや画像データを送信することができる通信機能を有している。検査装置30自身が無線・有線の通信によりネットワーク20に直接接続する機能を有していてもよい。または、自身はネットワーク20に直接接続する機能を備えず、当該機能を有する図示しない通信モジュールや、携帯端末50と接続して、これらを介して通信を行う構成であってもよい。
【0026】
また、図示しない外部インタフェースや、キーボード、操作ボタン、ディスプレイやタッチパネル等の入出力装置等を介して、データの入出力や情報の表示などができる機能を有していてもよい。例えば、MFD40を用いて検査を行う検体(被験者)の属性情報や、MFD40の培養条件等の各種の設定情報を検査実行者2が入力・指示できるようにしてもよい。
【0027】
MFD40には、対象のMFD40に係る情報をデータ化したものが電子データやコード等の機械読み取り可能な形式で予め記録されているメモリチップ41および/またはバーコード42を有しているのが望ましい。メモリチップ41は、例えば、不揮発性の半導体メモリを有するICチップや磁気記録チップ等により構成される。また、バーコード42は、公知の一次元や二次元のバーコード等を適宜用いることができる。
【0028】
MFD40に係る情報としては、例えば、MFD40のシリアル番号や製造日等の識別情報が含まれる。また、MFD40に予め所定の薬剤が封入されている場合には、その薬剤データ、デフォルトの培養条件データ、画像の撮影条件データ等が含まれ得る。
【0029】
培養条件データは、検査装置30がMFD40を培養する際の条件を制御するための情報であり、例えば、温度や湿度、培養時間等が含まれる。これらの培養条件の組み合わせやパターンが予め検査装置30に複数設定されており、その中のいずれかを指定するものであってもよい。検査装置30がメモリチップ41またはバーコード42からこれらの情報を読み取ることができる場合は、読み取った内容に基づいて、図示しない温度や湿度の調節機構、温度計や湿度計、タイマー等の装置により培養環境を設定・制御する。
【0030】
撮影条件データは、MFD40の画像を撮影する際の条件を制御するための情報であり、例えば、培養状況に応じた撮影方法(静止画、動画)や撮影タイミング、撮影間隔、撮影時間、投射光の種類(紫外線、赤外線、可視光等)等が含まれる。検査装置30がメモリチップ41またはバーコード42からこれらの情報を読み取ることができる場合は、読み取った内容に基づいて、カメラ32を設定・制御して撮影を行う。撮影条件データは、前記観察エリアの個別の流路を選択して画像を撮影させる際の制御情報を含んでもよい。
【0031】
検査装置30は、培養情報として、薬剤データや培養条件データに加えて、取得可能な場合には、検体(被験者)の属性データや検査日時、図示しない内蔵のGPS(Global Positioning System)センサ等により取得した検査地等の情報について、撮影した画像データと関連付けて、ネットワーク20を介して判定サーバ10に送信する。
【0032】
このとき、例えば、これらのデータのうちMFD40に内挿された薬剤や、この薬剤に適する培養条件などの培養情報については、予め、MFD40の所定の観察エリアであって、流路とともに写し込みが可能な領域にテキストやバーコード(二次元コード)等によって表示しておくことができる。また、培養(検査)の際に取得した培養情報については、バーコード(二次元コード)等に変換して、MFD40の画像データに合成し、重ね合わせることができる。これにより、検査装置30がメモリチップ41またはバーコード42から情報を読み取る機能を有さないものであっても、画像データとともに判定サーバ10に送信することができる。
【0033】
具体的には、例えば、薬剤のデータや培養条件、撮影条件等のデータが記録されているバーコード42からこれらを読み取り、読み取ったデータに基づいて検査装置30内で培養を行う。そして、検査装置30が、培養状況や撮影状況のデータを二次元コードに変換した画像を生成し、所定の観察エリアを撮影した画像に電子的に重ね合わせて画像データとし、この画像データのみを判定サーバ10に送信する。
【0034】
検査装置30がこのような画像合成機能を有さない場合は、例えば、予め用意された専用の画像合成・送信アプリケーションを内蔵したスマートフォン等の携帯端末50に画像データを読み込んで合成処理を行い、合成済みの画像データを携帯端末50から判定サーバ10に送信するようにしてもよい。さらに、画像合成機能を有さない検査装置30においては、予め設定された記号等をスタンプ等によって所定の観察エリアの空白部に表示・記載し、これを流路とともに写し込むようにしてもよい。このように、MFD40の撮影画像に併せて重畳して合成または写し込む構成とすることにより、検査装置30の構成をより簡略化し、多数の現場に幅広く設置されるよう促進することができる。
【0035】
検査装置30がメモリチップ41またはバーコード42から情報を読み取ることができ、また、検体(被験者)の属性データや検査日時、検査地等の情報の入力を受け付けることができる場合、すなわち、これらの情報をデータとして取り扱うことができる場合は、撮影した画像データに関連付けて判定サーバ10に送信すればよい。関連付けに際しては、例えば、MFD40のシリアル番号等をキーにテキストデータ等として関連付けてもよいし、画像データに対してメタデータとして付加してもよい。
【0036】
判定サーバ10は、各現場に設置された検査装置30から取得した検査結果のデータを蓄積するとともに、検体の同定や薬効の判定、治療・処方の判定等の処理を行うサーバシステムである。得られた判定結果や現場での対応内容の情報は、検査結果のデータと併せて記録するとともに、検査実行者2(具体的には、例えば検査装置30または携帯端末50)に通知・指示する。
【0037】
判定サーバ10は、例えば、データセンター等に設置されたサーバ機器やクラウドコンピューティング環境上に構築された仮想サーバ等により構成されたサーバシステムである。そして、図示しないOS(Operating System)やDBMS(DataBase Management System)、Webサーバプログラム等のミドルウェア上で稼働するソフトウェアプログラムとして実装されたデータ取得部11、判定部12、および結果応答部13などの各部を有する。また、検査データ蓄積データベース(DB)14、および処方データDB15などの各データベースを有する。
【0038】
データ取得部11は、ネットワーク20を介して各現場の検査装置30や携帯端末50等から送信される検査データや画像データを受信し、検査データ蓄積DB14に記録・蓄積する機能を有する。判定部12は、検査データ蓄積DB14に記録されたデータに基づいて、検査内容に対して判定し、結果を出力する機能を有する。ここでは、判定部12が過去に検査データ蓄積DB14に蓄積されたデータとのマッチング等によって自動的に検体のウィルス種等を同定したり、薬剤の薬効を判定したり等の一次判定を行う。必要に応じて、異なる培養条件での再度の検査を指示するようにしてもよい。このとき、例えば、過去の蓄積データに基づいて、地域における罹患者数、被験者の年齢等の特定のデータに重み付けを行い、再検査に用いる薬剤、すなわちMFD40の選定や培養条件を設定する等、判定部12に学習機能を持たせることが好ましい。
【0039】
さらに、上記の一次判定の結果に基づいて、必要に応じて、処方データDB15に予め登録されている薬剤の処方のデータを参照し、処方に係る情報を取得してこれを指示する等の二次判定を行ってもよい。判定部12による自動的な判定に限らず、専門的知識を備えた医師等に検査データや画像データ、判定結果等の情報を提示して、判断結果や対応内容の指示の入力を受け付けるものであってもよい。
【0040】
結果応答部13は、判定部12での判定結果等の情報を現場に応答する機能を有する。検査装置30や携帯端末50に対して、電子メールやその他の手段によりデータを送信して通知するようにしてもよい。また、携帯端末50等を介した検査実行者2からのアクセスを受けて判定結果等を画面表示させたり、データを送信したりする構成としてもよい。
【0041】
さらに、検査データ蓄積DB14等のデータに対する外部システムやユーザ等からのアクセス要求に対して、その許否の判定や参照範囲の制限等のアクセス制御を行うインタフェース機能(図示しない)を有していてもよい。例えば、専門的知識を備えた医師等に対して、特定の検体(被験者)のものに限らず、検査データ蓄積DB14に蓄積された検査結果のデータを参照・閲覧可能となるようにしてもよい。また、特定のウィルス種等に関するデータに限定して、政府やマスコミ、他の医療機関等に情報を開示できるようにしてもよい。
【0042】
検査データ蓄積DB14に蓄積された検査結果のデータによれば、例えば、特定の流行性疾患について、流行地域、流行疾病の型、当該疾病に対して薬効の高い薬剤情報を迅速に得ることができるので、当該疾病の早い段階での流行予測、薬効の高い予防薬や処方薬の選定及びその生産調整を行うことが可能になる。
【0043】
<MFD>
図2は、MFD40の主要部の例について概要を示した斜視図である。図2の例に示すMFD40は、例えば、検体を含む試験液(検体が細菌である場合、細菌懸濁液ともいう)を導入する導入口43と、そこから分岐した4本の流路44と、各流路44に対応したポケット部45および排出口46の各構成を有する。図2の例では、便宜上、凹状の溝等が全て露出した状態で示されているが、実際は、導入口43および排出口46以外の部分は全て樹脂等により覆われて封止されている。なお、MFD40の構成は上記のようなものに限られず、一般的に用いられているものも含む他の構成のMFDを適宜用いることができる。また、図2の例では、上記の構成を1セット備える例を示しているが、1つのMFD40に上記の構成を複数セット備えているものであってもよい。
【0044】
MFD40による検査の詳細な原理については公知技術と同様であるため、説明は省略する。本実施の形態では、例えば、各ポケット部45および対応する流路44には、比較のため、薬剤が導入されていないもの(標準流路)と、それぞれ異なる条件の薬剤が導入されているものとを有する。導入口43から導入された試験液の検体は、各流路44上でそれぞれの薬剤等と反応する。その際の標準流路における検体の状態と、薬剤と反応する他の流路44での検体の状態とを、流路44付近の所定の観察エリアを撮影した画像データに基づいて比較することで、薬剤の効果の有無を判定する。なお、検体がある程度予想できるものであり、薬剤に対する反応が明確に出るものである場合は、必ずしも標準流路を使用する必要はない。また、同様に検体がある程度予想できるものである場合には、標準流路における検体の形状、形態、動作の画像の代わりに、判定サーバに保管されている既知の画像を比較に用いることができる。
【0045】
なお、検体の提供元となる検査対象は人間に限られず、家畜やペット等の生物や、樹木や作物等の植物、土壌や海水等であってもよい。また、MFD40のポケット部45に導入される薬剤は、上述したように予め所定の薬剤が封入されていてもよいし、状況に応じた薬剤(例えば、判定サーバ10から指示されたもの等)を検査時に排出口46(薬剤導入口)から導入するようにしてもよい。
【0046】
図3は、MFD40による検査において流路44付近の状態を撮影した画像データの例を示した図である。図3(a)、(b)いずれの画像も、MFD40における4本の流路44の状態を示しており、左端の流路44が薬剤の効果がない標準流路であり、左から右の流路44ほど薬剤の効果が大きい状態であることを示している。また、培養情報が変換された二次元コード等のバーコード47が合成されている状態を示している。
【0047】
図3(a)の例では、検体の形状的差異に基づいて薬剤の効果の有無を判定する例を示している。ここでは、薬剤の効果がない標準流路内では丸まった形状の菌に対し、他の薬剤の効果のある流路44内では、左側から順に右側に行くに従って、細胞分裂が阻害されて菌が分裂できないまま増殖が進行するため棒状に伸びる→菌の細胞膜が伸長に耐えられなくなり破裂(溶菌)して消滅する、という形状的な差異が認められる。このような形状的な差異や変化を、判定サーバ10の判定部12において画像処理により判定することで、薬剤の効果の有無や、これに基づく菌種の同定等を行うことができる。
【0048】
一方、図3(b)の例では、検体の活発度、すなわち動きの程度の差異に基づいて薬剤の効果の有無を判定する例を示している。したがって、判定に用いる画像データは、動きを判定できるよう、動画または短い間隔での静止画の連続撮影により取得したものであり、図中の例では便宜上そのうちの1フレームを示している。薬剤の効果がない標準流路内では活発に動いている状態の菌に対し、薬剤の効果のある他の流路44内では、粒子形状は変わらないが、薬剤の効果が大きくなるにしたがって次第に菌が動かなくなるという差異が見られる。図3(a)の場合と同様に、このような活発度の差異や変化を、判定サーバ10の判定部12において画像処理により判定することで、薬剤の効果の有無や、これに基づく菌種の同定等を行うことができる。
【0049】
<処理の流れ>
図4は、本実施の形態のMFD検査支援システム1における処理の流れの例について概要を示した処理フロー図である。まず、各種の現場において、検査実行者2が、検体の提供元(被験者等)から生体組織等を検体として取得する(S01)。そして、検査実行者2は、取得した検体の内容に応じて検査に使用するMFD40を選択する(S02)。例えば、検体が未知の場合は、検体同定用の薬剤が封入されたMFD40を選択する(または検体同定用の薬剤をMFD40に導入する)。一方、検体が既知の場合は、感受性比較用の薬剤が封入されたMFD40を選択する(または感受性比較用の薬剤をMFD40に導入する)。
【0050】
検体同定用の薬剤には、例えば、グラム陰性菌またはグラム陽性菌用薬剤を用いることができる。この場合、最初の検査(1次検査)の結果に基づいて検体である菌種を大まかに分類し、さらに、分類されたそれぞれの菌種用の薬剤を封入したMFD40による再度の検査(2次検査)を行うことで、詳細な菌種を同定することができる。また、検体同定用の薬剤として抗原抗体反応用試薬を用いてもよい。この場合、1次検査の結果に基づいてウィルス種を同定することができる。
【0051】
一方、感受性比較用の薬剤には、例えば、緑膿菌用薬剤を用いることができる。この場合、緑膿菌であることが分かっていても、緑膿菌には多様な亜種が存在する。したがって、どの薬剤が効果を有するかの感受性を調べるため、複数種類の緑膿菌用薬剤、および濃度を変えた緑膿菌用薬剤を用いる。これにより、検体に対して感受性が高い、すなわち効果の高い薬剤の種類および分量を知ることができる。
【0052】
使用するMFD40が選択されると、これに検体(および必要に応じて薬剤)を導入してMFD40を準備し、検査装置30に挿入して、所定の培養条件で培養を行う(S03)。現場での手順や検査装置30の構成をシンプルにするため、所定の培養条件は、検査装置30に予め設定されている複数の中から選択して用いるようにするのが望ましい。検査実行者2が培養条件を入力・選択してもよいが、その場合でも、検査実行者2が把握し易いように、使用するMFD40上に培養条件を特定する情報が表示・記載されているのが望ましい。さらに、培養条件を特定する情報が、MFD40のメモリチップ41やバーコード42に記録、表示されており、検査装置30がこれを読み取って、その内容に従って培養条件を自ら設定して培養を行うものであればより望ましい。
【0053】
培養中は、検査装置30のカメラ32により、自動的にMFD40の流路44付近の静止画や動画、連続撮影した静止画等の画像データを取得する。もしくは、検査実行者2が携帯端末50を利用して撮影を行う。また、検体の提供元に係る属性データ等を入手することができ、さらに検査装置30に入力することができる場合は、検査実行者2は、これらのデータを入力しておく。例えば、被験者の年齢や性別、検査地等の情報を入力することができる。
【0054】
検査装置30での培養が完了すると、検査結果として、薬剤データ、培養条件データ、取得している場合は検体の提供元に係る属性データ(すなわち、培養情報)と、MFD40の画像データとを関連付けて、判定サーバ10へ送信する(S04)。上述したように、培養情報は、バーコード(二次元コード)に変換して、MFD40の画像データに対して電子的に合成するようにしてもよい。データを受信した判定サーバ10では、データ取得部11がこれらを検査データ蓄積DB14に記録・蓄積する(S11)。そして、判定部12により検査結果に対して1次判定を行う(S12_1)。
【0055】
1次判定では、例えば、上述の図3に示したように、画像データに基づいて薬剤の効果の有無とその程度を判定し、菌種やウィルス種を同定する。および/または、検体に対して有効な薬剤、すなわち処方する薬剤およびその分量等を特定する。判定結果は、検査データ蓄積DB14に反映しておく。
【0056】
その後、必要に応じて、さらに治療や処方、再検査等の現場での対応内容を判定するための2次判定を行うようにしてもよい(S12_2)。例えば、上記の1次判定において菌種やウィルス種の同定ができなかった場合、さらに、判定部12により、検査データ蓄積DB14に蓄積されている、過去の判定結果において同定された菌種やウィルス種と、薬剤の種別や効果との対応関係に基づいてマッチングを行って、同定等の判定を行ってもよい。さらに、検体の提供元(被験者等)に係る属性データの情報や、検査地の情報等もマッチングの対象とすることで、マッチングの精度をより向上させることも可能である。
【0057】
同定ができた場合は、処方データDB15に予め登録されている薬剤の処方のデータを参照し、処方に係る情報を取得してこれを指示するようにしてもよい。2次判定でも同定できなかった場合は、判定結果として、現場での再度の検査(2次検査)を指示するようにしてもよい。このとき、例えば、マッチングにおいて最も近いと判定されたものにおける薬剤や培養条件を2次検査で用いるように指示してもよい。
【0058】
また、2次判定の際には、上記のような自動的な判定に限らず、当該分野の専門的知識を備えた医師等に検査データ蓄積DB14の内容等を提示して、治療や処方の内容や、2次検査の要否等の指示の入力を受け付けるようにしてもよい。医師等は、例えば、図示しないPC等の情報処理端末を用いてネットワーク20やLAN(Local Area Network)等のネットワークを介して判定サーバ10にアクセスし、検査データ蓄積DB14の内容の閲覧や、指示内容の入力等を行うことができる。
【0059】
その後、結果応答部13は、判定結果を検査実行者2に通知する(S13)。検査装置30に対して判定結果を通知し、図示しないディスプレイ等に表示させてもよいし、検査実行者2の携帯端末50に対して電子メールやその他の手段により通知するようにしてもよい。
【0060】
現場では、判定結果を取得すると(S05)、その内容、すなわち同定された菌種やウィルス種の情報や、薬剤の効果等の情報、または、判定サーバ10や専門医等により指示された治療内容や処方等の情報に基づいて、検査実行者2が適切な治療や薬剤の処方等の医療行為を実行する(S06)。判定サーバ10や専門医等により再度の検査(2次検査)が指示された場合は、指定された他の薬剤および培養条件等に基づいて2次検査を行う。この場合、上述したステップS01またはステップS02に戻って再度同様の検査を繰り返す。
【0061】
<データ構成>
図5は、判定サーバ10の検査データ蓄積DB14のデータ構成の例について概要を示した図である。検査データ蓄積DB14は、各現場の検査装置30において行われた検査の内容とその結果データ、およびこれに対する判定結果の情報を保持するテーブルである。例えば、MFDシリアル番号、製造日、薬剤データ、培養条件データ、画像データ、判定結果、データ公開可否、検査日時、検査地情報、検査実行者情報、検査対象種別、被験者年齢、および被験者性別などの各項目を有する。
【0062】
MFDシリアル番号の項目は、対象の検査に用いられたMFD40を一意に識別するシリアル番号の情報を保持する。また、製造日の項目は、当該MFD40が製造された日付の情報を保持する。これらの情報は、例えば、MFD40のメモリチップ41やバーコード42に記録されている。
【0063】
薬剤データの項目は、対象の検査に用いられた薬剤の種類や濃度等の情報を保持する。
図2の例に示すようにMFD40に複数の流路44があり、同時に複数の薬剤を用いることができる場合は、各薬剤の情報をそれぞれ保持する。培養条件データの項目は、対象の検査で検査装置30に設定された培養条件の内容に係る情報を保持する。画像データの項目は、対象の検査において検査装置30や携帯端末50により撮影されたMFD40の流路44付近の画像データに係る情報を保持する。画像データ自体を保持していてもよいし、画像データはファイルとしてハードディスク上に記録しておき、そのファイル名やパスの情報を保持するようにしてもよい。
【0064】
判定結果の項目は、対象の検査の結果に対して判定サーバ10または専門医により判定された結果の情報を保持する。例えば、菌種やウィルス種の同定の結果や、薬剤の効力、治療や処方の内容、2次検査の指示等に係る情報が含まれ得る。データ公開可否の項目は、対象の検査に係るデータを外部に開示することができるか否かを特定するコード値やフラグ等の情報を保持する。開示できる場合にどの項目をどの範囲まで開示してもよいかというアクセス制御に係る情報を保持していてもよい。
【0065】
検査日時、検査地情報、および検査実行者情報の各項目は、それぞれ、対象の検査が行われた日時、検査地または検査地域を特定するコード値等の情報、および検査実行者2を特定する氏名やID等の情報を保持する。また、検査対象種別、被験者年齢、および被験者性別の各項目は、それぞれ、対象の検査における検体の提供元の種別(人間、家畜、作物、等)、検査対象の種別が人間である場合にその被験者の年齢、および性別の情報を保持する。
【0066】
なお、上記の図5に示したテーブルのデータ構成(項目)はあくまで一例であり、同様のデータを保持・管理することが可能な構成であれば、他のテーブル構成やデータ構成であってもよい。
【0067】
以上に説明したように、本発明の一実施の形態であるMFD検査支援システム1によれば、現場において検査実行者2は、検体と所定の薬剤が導入されたMFD40を検査装置30に挿入して培養し、検査結果を判定サーバ10に送信するという一例の作業を簡易かつ迅速に行うことができる。また、検査装置30をシンプルに構成することができるため、より一層現場を選ばずに検査を実行することが可能となる。また、判定サーバ10における判定結果や対応内容を検査実行者2に通知・指示することで、専門的知識を備えていない検査実行者2であっても、その後の対応を適切に行うことが可能となる。
【0068】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、上記の実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、上記の実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0069】
例えば、本実施の形態では、検体が未知の場合は、検体同定用の薬剤が封入されたMFDにて、菌種の同定を行った後、改めて、同定された菌種に対応した感受性比較用の薬剤が封入されたMFDにて、同定された菌種に対して、薬効の高い薬剤の選定を行うことになるが、MFDの流路数を増やすこと(流路数が多いMFDを用いること)により、菌種の同定から薬効の高い薬剤の選定(感受性検査)まで、検査装置内で同時または連続して行うこととしてもよい。
【0070】
また、検査装置は、判定サーバからの命令信号を受けて、撮影条件を制御可能な機構を有するものであってもよい。その場合、検査装置は、検査初期において、動画または連続した複数の静止画として画像データを取得して判定サーバに送信する。この判定サーバまたは当該分野の専門的知識を備えた者(以下、併せて、判定サーバ等という)は、検査装置から取得した画像データに基づいて、MFDにおける各流路内の特定の個体(少なくとも1つの細菌など)を選定する。判定サーバ等は、当該特定の個体の形状、状態、動作が明確に判定できる撮影条件を検査装置に送信する。撮影条件を受信した検査装置は、受信した撮影条件に基づいて、撮影条件を制御して、当該特定の個体について、好適な画像を取得することができる。なお、検査装置が、好ましい撮影条件を自律的に制御できる機能を有する場合には、検査装置は、判定サーバ等が選択した特定の個体について、自律的に撮影条件を制御して、当該特定の個体について、好適な画像を取得することができる。これにより、撮影者の技能の優劣に寄らず、動きの速い菌種や菌径の小さな菌種などについても、逐次、明瞭な撮影画像を取得することができ、精度の高い判定が可能になる。
【0071】
上記のように、判定サーバ側から検査装置の撮影条件をリアルタイムで制御して、特定の個体を追尾して撮影する機構を有してもよい。検体のうちの特定の個体の細菌に動きや成長等の変化がある場合にも、その変化が画像で追尾され、短時間で判定可能である。上記特定の個体を追尾して撮影する場合の撮影条件の設定は、対象の菌種などに応じて対応付けるように制御される。
【0072】
また、検査装置に内蔵するカメラについて、被写界深度を、使用するMFDの流路高さの1/2以下(例えば、20μm以下)に予め設定しておくことで、一般的な細菌性疾病の原因細菌の検体同定、感受性評価において、後方(流路高さ方向)に重なる撮影対象外の細菌と撮影対象の細菌とを明確に区別することができるので、カメラの焦点調整を簡略化することができる。ここで、流路高さとは、観察(撮影)方向に沿う、流路の内寸をいう。上記被写界深度の設定は、対象の菌種などに応じて対応付けるように制御される。
【0073】
例えば、本実施の形態では、MFD40を用いて現場で行われた検査に対する判定結果を、当該現場の検査実行者2に対して通知し、フィードバックする構成としているが、現場にフィードバックする構成に限られない。例えば、海外渡航に際して、移動元の拠点(空港や港等)に設置された検査装置30で、移動者から移動前に取得した検体を培養し、検査結果を判定サーバ10に送信して判定を行う。そして、判定結果に基づいて移動許否を判定し、その情報を予め移動先の拠点へ通知しておくようにしてもよい。これにより、移動先の拠点では、移動不許可が通知されている移動者の移動を水際規制することができる。
【0074】
また、本実施の形態では、主として、細菌に対する検査を例に説明したが、ウィルスにも適用可能であることはいうまでもない。また、上述したMFD40は、一般に、流路高さがマイクロメートル(μm)レベルの流路44を用いて培養(検査)を行うものであるが、流路高さが数十~数百ナノメートルレベルの流路44を有するMFD40にも転用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、MFDを用いて現場で行われた検査のデータに基づいて自動的に判定を行うMFD検査支援システムおよびMFDを用いた検査方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0076】
1…MFD検査支援システム、2…検査実行者、10…判定サーバ、11…データ取得部、12…判定部、13…結果応答部、14…検査データ蓄積DB、15…処方データDB、20…ネットワーク、30…検査装置、31…挿入口、32…カメラ、40…MFD、41…メモリチップ、42…バーコード、43…導入口、44…流路、45…ポケット部、46…排出口、47…バーコード、
50…携帯端末
図1
図2
図3
図4
図5