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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】電子銃
(51)【国際特許分類】
   H01J 23/06 20060101AFI20220621BHJP
【FI】
H01J23/06
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017142457
(22)【出願日】2017-07-24
(65)【公開番号】P2019023958
(43)【公開日】2019-02-14
【審査請求日】2020-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】599161890
【氏名又は名称】NECネットワーク・センサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【弁理士】
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100149618
【弁理士】
【氏名又は名称】北嶋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】千葉 徹
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05623183(US,A)
【文献】特開平07-320649(JP,A)
【文献】特開2003-346671(JP,A)
【文献】特開平05-325776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 23/00-25/78
H01J 27/00-27/26
H01J 37/06-37/08
H01J 37/248
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱により電子を放出し得るカソードと、
前記電子の放出を制御し得るグリッドと、
前記カソードの側面の近傍に位置するとともに前記側面の少なくとも一部に空隙又は断熱材料を介して対向する部材面を備え、前記カソードに対し直接的な物理的な接続及び直接的な物理的な接触のいずれもされていない、導電性部材であるカソードシールドと、
を備え、
前記カソードシールドは、前記カソードの、電子放出面の側面に対向する位置に配置され、前記カソードシールドは、熱電子が到達しない位置に設けられた
電子銃。
【請求項2】
前記カソードシールドに、前記カソードに与えられる電位に略等しい電位である第一電位が与えられる、請求項1に記載された電子銃。
【請求項3】
前記カソードシールドがタンタル、モリブテン、モリブテンとレニウムの合金、タングステン及びタングステンとレニウムの合金のうちの少なくとも一つを備える、請求項1又は請求項2に記載された電子銃。
【請求項4】
前記グリッドに与えられる電位がパルス状である、請求項1乃至請求項3のうちのいずれか一に記載された電子銃。
【請求項5】
前記加熱を行うヒータと、前記ヒータの周囲に金属部材とをさらに備える、請求項1乃至請求項4のうちのいずれか一に記載された電子銃。
【請求項6】
前記カソードシールドが前記金属部材に物理的に接触している、請求項5に記載された電子銃。
【請求項7】
前記カソードシールドが前記金属部材に物理的に接続されている、請求項5又は請求項6に記載された電子銃。
【請求項8】
前記接続が溶接によるものである、請求項7に記載された電子銃。
【請求項9】
前記カソードシールドの前記金属部材と近接する部分の近傍に、部材が存在しない部分である部材不在部が形成されている、請求項8に記載された電子銃。
【請求項10】
前記カソードシールドにおける前記部材不在部の端部が、前記金属部材に溶接された請求項9に記載された電子銃。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子を放出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子銃において、カソードの側面から電子が放出されるサイドエミッションが生じると、当該側面から放出された電子が所定の進行方向に進まない悪影響が生じる場合がある。当該悪影響は、具体的には、例えば、電子銃をマイクロ波管に設置した場合に、放出した電子が設定領域を透過する確率が減少することである。
【0003】
サイドエミッションの影響を抑えるためには、導電性部材をカソードの側部近傍に設置することが有効である。
【0004】
電子銃がグリッドを備えない場合は、この導電性部材としてウェネルト電極をカソード側部近傍に設置することにより、サイドエミッションを抑制し得る。しかしながら、電子銃がグリッドを備える場合は、カソードとウェネルト電極との間にグリッドを設置する必要がある。そのため、電子銃がグリッドを備える場合は、ウェネルト電極をカソード側部近傍に設置することが困難である。
【0005】
上記課題を解決するための方法として、導電性部材であるカソードシールドをカソードの側部に接触させて設置する方法が考えられる。
【0006】
図9は、一般的と考えられる、カソードシールドを備える電子銃である電子銃131yのカソード近傍の構成を表す断面概念図である。
【0007】
電子銃131yは、カソード206と、金属部材211と、カソードシールド221と、ヒータ216とを備える。
【0008】
カソード206は、ヒータ216により加熱され、カソード206周囲の真空空間へ電子を放出する。
【0009】
円筒状の金属部材211とカソード206との間には、円筒状の導電性部材であるカソードシールド221が設置されている。カソードシールド221は、カソード206と金属部材211との間に挟まるか、あるいは、カソード206に溶接されるかにより、カソード206に固定されている。カソード206の側面から放出される電子は、カソードシールド221に流れる。そのため、図9に表す構成は、カソード206の側面から放出される電子の影響を緩和し得る。
【0010】
なお、特許文献1は、ヒータ電源、グリッド電源、コレクタ電源及びヘリックス電源からなるグリッドパルス型進行波管用電源装置を開示する。
【0011】
また、特許文献2は、直流高電圧が印加される金属電極を両端面に接着された円筒形セラミック外囲部品を有する電子銃部を備えた電子管を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】実開平01-142148号公報
【文献】実開昭59-146850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図9に表す電子銃131yにおいては、前述のように、カソード206が導熱性のカソードシールド221に接触している。そのため、ヒータ216からカソード206に供給される熱がカソードシールド221に伝わり、カソードシールド221からの熱放出が生じる。そのため、カソード206の加熱に要するヒータ216への供給電力が増大するという課題がある。
【0014】
本発明は、グリッドを備えるとともに、カソード側面からの電子放出の影響及びヒータへ供給するエネルギーの消費量を抑え得る、電子銃等の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の電子銃は、加熱により電子を放出し得るカソードと、前記電子の放出を制御し得るグリッドと、前記カソードの側面の近傍に位置するとともに前記側面の少なくとも一部に空隙又は断熱材料を介して対向する部材面を備え、前記カソードに対し直接的な物理的な接続及び直接的な物理的な接触のいずれもされていない、導電性部材であるカソードシールドと、を備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電子銃等は、グリッドを備えるとともに、カソード側面からの電子放出の影響及びヒータへ供給するエネルギーの消費量を抑え得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態の電子銃の構成例を表す縦断面概念図である。
図2】本実施形態の電子銃の範囲186の構成例を表す概念図(その1)である。
図3】一体的に構成された部材151とヒータ117とカソード106との組合せの例を表す概念図である。
図4】本実施形態の電子銃の範囲187の構成例を表す概念図である。
図5】本実施形態のカソードシールドの第二の構成例を表す概念図(その1)である。
図6】本実施形態のカソードシールドの第二の構成例を表す概念図(その2)である。
図7】本実施形態のカソードシールドの第二の構成例の設置例を表す概念図である。
図8】本実施形態の電子銃を備えるマイクロ波管の構成例を表す概念図である。
図9】一般的と考えられる電子銃のカソード周辺の構成例を表す概念図である。
図10】本実施形態の電子銃の最小限の構成を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[構成と動作]
図1は、本実施形態の電子銃の例である電子銃131の構成を表す縦断面概念図である。
【0019】
電子銃131は、ヒータ117と、カソード106と、グリッド101と、アノード126と、ウェネルト電極166と、部材146、156、157、158、159a、159b、161a、161b、162a、163a及び163bとを備える。
【0020】
電子銃131は、内部が真空に保たれた状態で、図1に表す開口部136から、主として矢印191aの向きに電子を放出するための装置である。
【0021】
部材156は、絶縁部材である。部材156の形状は、任意であり、例えば、円筒状である。部材156は、例えば、セラミクスで構成されている。
【0022】
部材146、151、157、158、159a、159b、161a、161b、162a、163a及び163bは、導電部材である。
【0023】
部材156と、157、158、159a、159b、161a、161b、163a及び163bの各々とは、電子銃131を真空装置に装着した場合に電子銃131の内部を真空に保ち得るように、隙間が生じないように組まれている。
【0024】
なお、図1に表す範囲186の例は、図2を参照して後述する。
【0025】
ヒータ117は、外部から、部材158及び部材162a及び159aを介して供給される電力により、カソード106を加熱する。
【0026】
カソード106の温度は、ヒータ117による加熱により、約1000度に上昇する。加熱されたカソード106は、周囲の真空空間に電子を放出する。
【0027】
カソード106には、図示しない第一電源から、部材159a及び151を介して、直流の第一電位が与えられる。当該第一電位は、部材159aを介して、部材146にも与えられる。
【0028】
ウェネルト電極166は、カソード106が放出した電子が開口部136を効率的に通過するように集束させるための電極である。ウェネルト電極166には、図示しない第二電源から部材161aを介して、第二電位が与えられる。
【0029】
ウェネルト電極166はグリッド101に接続されている。前記第二電位は、ウェネルト電極166に、電子を集束させると同時に、グリッド101を駆動する電位でもある。グリッド101にパルス状に変動する電位を与える場合は、ウェネルト電極166には、前記第二電位として、パルス状に変動する電位が与えられる。
【0030】
アノード126には、図示しない第三電源により、部材163aを介して、直流の第三電位が与えられる。カソード106が放出した電子は、当該第三電位と前述の第一電位との差である第一電圧により、開口部136の向きに進行する。そして、当該電子の一部は、開口部136を通り抜け、主として矢印191aの向きにさらに進行する。
【0031】
グリッド101は、例えば、導電材料から構成される網目のような構造をしている。カソード106から、前記第二電位により、グリッド101を通り抜けて矢印191aの向きに進行する電子の進行速度を制御する。当該制御は、例えば、電子の進行のオン/オフである。
【0032】
図2は、図1に表す電子銃131の、範囲186の構成例を表す概念図である。
【0033】
電子銃131は、範囲186に、カソード106と、カソードシールド121と、部材146、151、162a及び162bと、ヒータ117とを備える。
【0034】
ヒータ117は、部材162aを介して外部から供給される電力によりカソード106を加熱する。なお、ヒータ117の部材162aに接続されていない他方の端子は、導電部材である部材162bを介して部材151に接続されている。ヒータ117への電力供給は、前記部材162aを介して外部が供給する電位と、部材151に供給される前記第一電位との差により生じる。
【0035】
ヒータ117の周囲には絶縁材118が形成されている。絶縁材118は例えばアルミナである。
【0036】
カソード106は、仕事関数の低いことから電子を放出しやすい、高融点金属を基体とする含浸型カソードである。カソード106は、例えば、タングステンやタングステンとオスミウム、イリジウムなどの複合材料である。
【0037】
カソード106は、ヒータ117による加熱により、1000度程度の温度に到達する。加熱されたカソード106は、周囲の真空空間に電子を放出する。カソード106から放出される電子は、主として面193eから放出されるが、側面193cからも放出される。側面193cは、カソード106の側面のうち、面193eに近い部分である。
【0038】
絶縁材118の周囲には、部材151が設置される。部材151は、カソード106を保持するための部材である。部材151は、カソード106に接触している。部材151は、当該接触により、図1に表す部材159aを介して与えられる前記第一電位を、カソード106に与える部材でもある。
【0039】
部材151は、例えば、円筒状の高融点金属で構成される。部材151は、例えば、モリブテン、モリブテンとレニウムの合金、タンタル、タングステン又はタングステンとレニウムの合金を備える。
【0040】
部材151の外側には、部材146が設けられる。部材146は、ヒータ117が発する熱が外部に放出されるのを緩和するためのものである。部材146は、例えば、円筒状である。部材146は、例えば、空間を介して設置された複数の金属を備える。部材146の構成例は、図4を参照して後述する。
【0041】
図2に表す部材146の右方には導電性部材であるカソードシールド121が設けられる。
【0042】
カソードシールド121は、例えば、モリブテン、モリブテンとレニウムの合金、タンタル、タングステン、タングステンとレニウムの合金等の高融点金属を備える。カソードシールド121に高融点金属を用いることにより、カソード106からの放射熱による変形等のダメージを抑えることができる。また、カソードシールド121に高融点金属を用いると、カソード106からの放射熱により、カソードシールド121が溶融、分解することがなく、また、カソードシールド121の高温での蒸気圧も低くなる。そのため、カソードシールド121に高融点金属を用いることは、汚染物質の放出を抑え得る。
【0043】
カソードシールド121は、例えば、図2に表す、カソードシールド121の面193aと、部材146の面193bとの接触により固定される。カソードシールド121は、後述のように、部材146に溶接等により接合されていても構わない。カソードシールド121は、前記接触又は前記接合により、部材146に電気的及び熱的に接続される。前述のように、部材146にはカソード106に与えられる電位である第一電位が与えられているので、カソードシールド121の電位は第一電位である。
【0044】
かつ、カソード106の側面193cは、カソードシールド121の部材面193dの近傍に位置するとともに、部材面193dに対向している。これにより、カソードシールド121と部材面193dとの間に電位差(電界)が生じなくなる。そのため、側面193cから熱電子が放出されても、当該電子は、部材面193dからカソードシールド121に到達しない。
【0045】
カソード106とカソードシールド121との間には空隙194が設けられる。さらに、カソード106とカソードシールド121とは、いずれの部分においても、物理的な接触も物理的な接続もされていない。そのため、カソード106とカソードシールド121との熱的接続は、カソード106とカソードシールド121とが物理的に接触又は接続されている場合と比較して緩和される。
【0046】
空隙194の幅は、例えば、0.2mm近傍である。空隙の幅は、例えば、0.1mm乃至1.0mmである。
【0047】
側面193cから放出される電子を抑える観点からは空隙194の幅は小さい方がよい。空隙194が小さいことは、空隙194内の電位が、カソードシールド121及びカソード106の電位である第一電位からずれるのを防ぎ得る。空隙194が小さく、空隙194内が前記第一電位に保たれた場合には、側面193cからの電子の放出が抑制され得る。
【0048】
また、カソード106の熱をカソードシールド121に伝わりにくくする観点からは、空隙194の幅は大きい方がよい。
【0049】
さらに、空隙194の幅が極端に小さいと、カソード106とカソードシールド121の熱膨張率の差や、カソードシールド121の変形等により、カソード106とカソードシールド121とが接触する場合が想定され得る。カソード106とカソードシールド121とが接触すると、カソード106からカソードシールド121への熱流出が急増する。
【0050】
前述の空隙194の幅は、上記観点から定められたものである。
【0051】
なお、カソード106の面のうち、側面193c以外の側面から放出される電子は、部材146等を構成する導電部材と同電位であるため、矢印191aの向きには進行しない。また、カソード106の面193fから放出された電子のほとんどは、前述の第一電圧により、カソード106に吸収される。
【0052】
部材151は、円筒状の高融点金属で構成される。部材151は、例えば、モリブテン、モリブテンとレニウムの合金、又は、タンタルを備える。
【0053】
部材146は、ヒータ117が発する熱が外部に放出されるのを緩和するためのものである。部材146は、例えば、円筒状である。部材146は、例えば、空間を介して設置された複数の金属を備える。部材146の構成例は、図4を参照して後述する。
【0054】
図2に表す部材151とヒータ117と絶縁材118とカソード106とは、一体的に構成されていても構わない。
【0055】
図3は、一体的に構成された部材151とヒータ117と絶縁材118とカソード106との組合せの例を表す概念図である。部材151a、ヒータ117a及び絶縁材118aの各々は、この順に、図2に表す部材151、ヒータ117及び絶縁材118の各々の例である。
【0056】
図3に表す円筒状の部材151aの右方にはカソード106が接続され、固定されている。そして、部材151aとカソード106の面193fとで囲まれた部分には、線状の導電部材が巻かれたヒータ117aとが形成される。ヒータ117aの一方の端部近傍の導電部分である部材162bは、部材151aに接続されている。一方、ヒータ117aの他方の端部は、図2に表す部材162aに接続されている。ヒータ117aの周囲には、絶縁材118aが、部材151aとカソード106の面193fとで囲まれた部分に充填されるように形成されている。絶縁材118aは、例えば、アルミナである。
【0057】
図4は、図2に表す電子銃131の、範囲187の構成例を表す概念図である。
【0058】
部材146は、部材146aと、部材146cとを備える。部材146aと部材146cとの間には、空間146bが設けられている。部材146は、部材146aと部材146cとの間に空間146bを備えることにより、図2に表すヒータ117が発し、部材146cに伝わった熱が、部材146aに伝わるのを抑制する。
【0059】
部材146a及び146cの各々は、例えば、高融点金属である。部材146a及び146cの各々は、例えば、モリブテン、モリブテンとレニウムの合金、タンタル、タングステン、又は、タングステンとレニウムの合金を備える。部材146a及び146c各々は、例えば、金属の板を円筒状に丸めて接合することにより形成される。
【0060】
カソードシールド121は、部材146aに接触し又は接続され、固定されている。
【0061】
図5及び図6は、図1に表すカソードシールド121の第二の例であるカソードシールド121aの構成を表す概念図である。
【0062】
図5は、カソードシールド121aの上面図である。図6(a)は、カソードシールド121aを、図5に表す線199aで切断した場合を想定した断面図である。図6(b)は、カソードシールド121aを、図5に表す線199bで切断した場合を想定した断面図である。
【0063】
カソードシールド121aには、部材が存在しない部分である上面不在部171a乃至171dが形成されている。上面不在部171a乃至171dは、後述のように、図4に表す部材146aとカソードシールド121aとの、図5に表す上方(図面の手前側)からの溶接を容易にするための部材不在部である。
【0064】
図7は、図1に表すカソードシールド121として図5及び図6に表すカソードシールド121aを用いた電子銃の、図2に表す矢印191aの逆向きを見た場合に相当する図である。
【0065】
カソードシールド121aは、部材146aに、位置195a乃至195hの各々において溶接される。あるいは、カソードシールド121aは、部材146aに、位置195a乃至195hから選択した一つ以上の位置において溶接されても構わない。
【0066】
カソードシールド121aは、上面不在部171a乃至171dの存在により、図4に表す部材146aとカソードシールド121aとの、図7に表す上方(図7の手前側)からの溶接が容易である。
【0067】
図8は、図1に表す電子銃131を備えるマイクロ波管の例であるマイクロ波管201の構成例を表す概念図である。
【0068】
マイクロ波管201は、電子銃131と、へリックス17と、集束装置15と、コレクタ16と、導体部材26と、絶縁体19b、19cとを備える。
【0069】
電子銃131の開口部136から放出された電子は、へリックス17及びコレクタ16の向きに進行する。
【0070】
集束装置15は、例えば、電子銃131と同心円的に配置された円筒形の磁石である。当該磁石は例えば永久磁石である。図8に表す集束装置15は、二組以上の円筒形の磁石から構成されている。なお、集束装置15を構成する磁石の数は、二つに限らず任意である。
【0071】
集束装置15は、発生する磁界により、電子銃131から放出された電子の進行方向を制御する。当該制御は、螺旋状のへリックス17で覆われたへリックス17近傍の真空空間を、電子がコレクタ16方向に進行するようにするものである。
【0072】
へリックス17は、内部が中空の管状の細長い導体が螺旋状に成型されたものである。へリックス17の入力部61からは、マイクロ波がその中空の管内に入力される。入力されたマイクロ波は、出力部62に向けて、へリックス17の管内をへリックス17の螺旋形状に沿って進む。そして、マイクロ波は、へリックス17の管内を進む際に、電子銃131から放出されへリックス17近傍の空間を通過する電子との間でエネルギーの相互作用を起こす。そして、当該相互作用により当該マイクロ波は増幅される。増幅されたマイクロ波は、出力部62から出力される。
【0073】
へリックス17は、図示しない第四電源により第四電位に保たれている。当該第四電位は、開口部136からコレクタ16に向かう電子流を調整するためのものである。
【0074】
コレクタ16には、図示しない第五電源により第五電位が印加されている。開口部136から放出された電子は、当該第五電位により生じる電圧により、衝突する電子を吸収する。衝突した電子のエネルギーは熱に変換される。変換された熱はコレクタ16の表面から外部に放出される。
【0075】
絶縁体19bは、円筒状であり、電子銃131のアノードと導体部材26とを絶縁する。絶縁体19bは、また、他の部材とともに、へリックス周囲等を真空に封止する。絶縁体19bは、例えば、セラミクスである。
【0076】
導体部材26は、へリックス17の周囲を覆っている。そして、導体部材26は、他の部材とともに、へリックス周囲等を真空に封止する。
【0077】
絶縁体19cは、例えば円筒状であり、コレクタ16と導体部材26とを絶縁する。絶縁体19cは、また、他の部材とともに、へリックス周囲等を真空に封止する。絶縁体19cは、例えば、セラミクスである。
[効果]
本実施形態の電子銃においては、導電性部材であるカソードシールドの部材面は、カソードと略等電位であり、かつ、カソードの側面に対向して、当該側面の近傍に位置する。そのため、前記側面からの電子の放出は抑制される。従い、前記電子銃は、前記カソードシールドにより、前記側面から放出される電子の影響を抑え得る。当該影響には、カソード側面から放出された電子が所定の進行方向に進まないことによる悪影響が含まれる。また、当該影響には、カソード側面から放出された電子によるグリッドのダメージが含まれ得る。
【0078】
前記部材面と前記側面とは非接触であり、前記カソードシールドと前記カソードとは非接触である。そのため、前記電子銃は、前記カソードシールドとカソードとが接触している場合と比較して、前記カソードからの熱の流出を抑え得る。従い、前記カソードシールドは、ヒータに供給する電力を抑え得る。
【0079】
背景技術の項で説明した一般的と考えられる方法では、カソードシールドとカソードとの熱膨張の差により変形が生じ、カソードシールドとカソードとの熱的接続状態が変化しやすい。このことは、たとえ、カソードとカソードシールドとを溶接したとしても生じる場合がある。その理由は、前記熱膨張の差により、溶接部分等に割れや変形が生じ得るためである。
【0080】
カソードシールドとカソードとの熱的接続状態が変化すると、カソードの温度が変化しやすくなる。そのため、ヒータに供給する電力を細かく制御する必要があるが、そのような制御は困難な場合が多い。
【0081】
本実施形態のカソードシールドとカソードとの間には空隙がある。そのため、空隙の大きさを、熱膨張によりカソードシールドとカソードとが接触しない程度に設定することにより、本実施形態の電子銃は、カソードシールドとカソードとの熱的接続状態の変化を抑えることを可能にし得る。そのため、前記電子銃は、ヒータに供給する電力の制御の要求精度を緩和し得る。
【0082】
以上の説明においては、カソードシールドが、ヒータ周囲の部材に固定された例を説明した。しかしながら、カソードシールドを固定する部材は、ヒータ周囲の部材に限らず任意である。
【0083】
また、カソードシールドの形状は、カソード側面に対向する部材面を備え、前記カソードに対し物理的な接続及び物理的な接触のいずれもされていない限りにおいて任意である。
【0084】
また、以上の説明においては、カソードシールドとカソードとの間に空隙が設けられた例を説明したが、カソードシールドとカソードとの間に断熱材料を備えても構わない。 図10は、本実施形態の電子銃の最小限の構成である電子銃131xの構成を表す図である。
【0085】
電子銃131xは、カソード106xと、図示しないグリッドと、カソードシールド121xとを備える。
【0086】
カソード106xは、加熱により電子を放出し得る。
【0087】
前記グリッドは、前記電子の放出を制御し得る。
【0088】
カソードシールド121xは、カソード106xの側面193cxの近傍に位置する。それととともに、カソードシールド121xは、側面193cxの少なくとも一部に空隙又は断熱材料を介して対向する部材面193dxを備え、カソード106xに対し直接的な物理的な接続及び直接的な物理的な接触のいずれもされていない。
【0089】
カソードシールド121xの部材面193dxは、カソード106xの側面193cxに対向しており、側面193cxの近傍に位置する。そのため、側面193cxからの電子の放出は抑制される。そのため、前記カソードシールドは、側面193cxから放出される電子の影響を抑え得る。
【0090】
また、部材面193dxと側面193cxとは非接触であり、カソードシールド121xは、カソード106xと物理的な接続及び物理的な接触のいずれもされていない。そのため、電子銃131xは、カソードシールドがカソードと接触している場合と比較して、カソード106xからの熱の流出を抑え得る。そのため、電子銃131xは、ヒータに供給するエネルギーの消費量を抑え得る。
【0091】
そのため、電子銃131xは、前記構成により、[発明の効果]の項に記載した効果を奏する。
【0092】
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の基本的技術的思想を逸脱しない範囲で更なる変形、置換、調整を加えることができる。例えば、各図面に示した要素の構成は、本発明の理解を助けるための一例であり、これらの図面に示した構成に限定されるものではない。
【0093】
また、前記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記述され得るが、以下には限られない。
【0094】
(付記A1)
加熱により電子を放出し得るカソードと、
前記電子の放出を制御し得るグリッドと、
前記カソードの側面の近傍に位置するとともに前記側面の少なくとも一部に空隙又は断熱材料を介して対向する部材面を備え、前記カソードに対し直接的な物理的な接続及び直接的な物理的な接触のいずれもされていない、導電性部材であるカソードシールドと、
を備える、電子銃。
【0095】
(付記A2)
前記カソードシールドに、前記カソードに与えられる電位に略等しい電位である第一電位以下の電位が与えられる、付記A1に記載された電子銃。
【0096】
(付記A3)
前記カソードシールドに、前記第一電位が与えられる、付記A2に記載された電子銃。
【0097】
(付記A4)
前記カソードシールドがタンタル、モリブテン、モリブテンとレニウムの合金、タングステン及びタングステンとレニウムの合金のうちの少なくとも一つを備える、付記A1乃至付記A3のうちのいずれか一に記載された電子銃。
【0098】
(付記A7)
前記カソードシールドが第二導電性部材に物理的に接触している、付記A1乃至付記A6のうちのいずれか一に記載された電子銃。
【0099】
(付記A8)
前記カソードシールドが第三導電性部材に物理的に接続されている、付記A1乃至付記A7のうちのいずれか一に記載された電子銃。
【0100】
(付記A9)
前記電子を通過させるための開口部が設けられ、前記カソードとの間に第一電圧を印加し得るアノードをさらに備える、付記A1乃至付記A8のうちのいずれか一に記載された電子銃。
【0101】
(付記A10)
前記グリッドに与えられる電位がパルス状である、付記A1乃至付記A9のうちのいずれか一に記載された電子銃。
【0102】
(付記A11)
前記加熱を行うヒータをさらに備える、付記A1乃至付記A10のうちのいずれか一に記載された電子銃。
【0103】
(付記A12)
前記ヒータの周囲に金属部材を備える、付記A11に記載された電子銃。
【0104】
(付記A13)
前記カソードシールドが前記金属部材に物理的に接触している、付記A12に記載された電子銃。
【0105】
(付記A14)
前記カソードシールドが前記金属部材に物理的に接続されている、付記A12又は付記A13に記載された電子銃。
【0106】
(付記A15)
前記接続が溶接によるものである、付記A14に記載された電子銃。
【0107】
(付記A16)
前記カソードシールドの前記金属部材と近接する部分の近傍に、部材が存在しない部分である部材不在部が形成されている、付記A12乃至付記A15のうちのいずれか一に記載された電子銃。
【0108】
(付記A17)
前記カソードシールドにおける前記部材不在部の端部が、前記金属部材に溶接された付記A16に記載された電子銃。
【0109】
(付記A18)
前記金属部材が、第一部材と、前記第一部材よりも外側に位置する第二部材とを備える、付記A12に記載された電子銃。
【0110】
(付記A19)
前記第一部材と前記第二部材との間に空間が設けられている、付記A18に記載された電子銃。
【0111】
(付記A20)
前記カソードシールドが、前記第二部材と物理的に接触している、付記A18又は付記A19に記載された電子銃。
【0112】
(付記A21)
前記カソードシールドが、前記第二部材に物理的に接続されている、付記A18乃至付記A20に記載された電子銃。
【0113】
(付記A22)
前記接続が溶接によるものである、付記A21に記載された電子銃。
【0114】
(付記A23)
前記カソードシールドの前記第二部材と近接する部分の近傍に、部材が存在しない部分である部材不在部が形成されている、付記A18乃至付記A22のうちのいずれか一に記載された電子銃。
【0115】
(付記A24)
前記カソードシールドにおける前記部材不在部の端部が、前記第二部材に溶接された付記A23に記載された電子銃。
【0116】
(付記B1)
付記A1乃至付記A24のうちのいずれか一に記載された電子銃と、
前記電子銃が放出する電子がへリックスの近傍を通過する確率を向上させ得る集束装置と、
近傍を通過する電子により、入力されたマイクロ波を増幅し得る前記へリックスと、
前記電子銃が放出する電子に前記へリックスの近傍を通過させ得るコレクタと
を備えるマイクロ波管。
【符号の説明】
【0117】
15 集束装置
16 コレクタ
17 へリックス
19b、19c 絶縁体
26 導体部材
61 入力部
62 出力部
106、106x、206 カソード
117 ヒータ
146、146a、146c、151、156、157、158、159a、159b、161a、161b、162a、162b、163a、163b 部材
117、117a、216 ヒータ
118、118a 絶縁材
121、121a、121x カソードシールド
126 アノード
131、131x、131y 電子銃
136 開口部
146b、152 空間
166 ウェネルト電極
171a、171b、171c、171d 上面不在部
186、187 範囲
191a 矢印
193a、193b、193e、193f 面
193c、193cx 側面
193d、193dx 部材面
194 空隙
195a、195b、195c、195d、195e、195f、195g、195h 位置
199a、199b 線
201 マイクロ波管
211 金属部材
221 カソードシールド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10