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特許7092488鉄筋部材、及び鉄筋部材を使用した鉄筋コンクリート構造物
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  • 特許-鉄筋部材、及び鉄筋部材を使用した鉄筋コンクリート構造物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】鉄筋部材、及び鉄筋部材を使用した鉄筋コンクリート構造物
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/12 20060101AFI20220621BHJP
   E01D 1/00 20060101ALI20220621BHJP
   E04C 5/02 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
E01D19/12
E01D1/00 C
E04C5/02
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017216850
(22)【出願日】2017-11-10
(65)【公開番号】P2019085836
(43)【公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】591205536
【氏名又は名称】JFEシビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】特許業務法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 泰邦
(72)【発明者】
【氏名】塩田 啓介
(72)【発明者】
【氏名】神田 恭太郎
(72)【発明者】
【氏名】内藤 仁志
(72)【発明者】
【氏名】今塩 宏之
(72)【発明者】
【氏名】有薗 和樹
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-021434(JP,A)
【文献】特開2016-079585(JP,A)
【文献】特開2017-031584(JP,A)
【文献】特開平08-232270(JP,A)
【文献】特開昭56-041951(JP,A)
【文献】特開2003-138658(JP,A)
【文献】特開2017-150179(JP,A)
【文献】特開平08-113917(JP,A)
【文献】特開2004-076475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 19/12
E01D 1/00
E04C 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣合って配置された2つの主筋を含む複数の主筋と、
隣合う前記2つの主筋の側面の間を連結する複数の配力筋と、を有し、格子状に形成された鉄筋部材であって、
前記2つの主筋の延びる方向において一方の端部における前記2つの主筋の間隔は、
前記2つの主筋の延びる方向において他方の端部における前記2つの主筋の間隔よりも広い、鉄筋部材。
【請求項2】
前記2つの主筋及び前記複数の配力筋は、
表面が同一面となるように形成される、請求項1に記載の鉄筋部材。
【請求項3】
前記2つの主筋のそれぞれの一方の端部における断面積は、
前記2つの主筋のそれぞれの他方の端部における断面積よりも大きい、請求項1又は2に記載の鉄筋部材。
【請求項4】
前記2つの主筋のそれぞれの中央部における断面積は、
前記2つの主筋のそれぞれの他方の端部における断面積よりも大きい、請求項3に記載の鉄筋部材。
【請求項5】
前記2つの主筋のそれぞれの一方の端部における断面積は、
前記2つの主筋のそれぞれの中央部における断面積以下である、請求項3又は4に記載の鉄筋部材。
【請求項6】
前記複数の主筋は、
それぞれが互いに平行でない、請求項1~5の何れか1項に記載の鉄筋部材。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載の鉄筋部材が埋め込まれた床版を備え、
前記床版は、
下部構造によって支持される被支持部に前記鉄筋部材の前記2つの主筋の端部が位置する様に前記鉄筋部材が配筋された、鉄筋コンクリート構造物。
【請求項8】
請求項1~6の何れか1項に記載の鉄筋部材が埋め込まれた床版を備え、
前記床版は、
両端に下部構造により支持される被支持部を備え、
一方の被支持部から他方の被支持部に向かう支間方向に前記2つの主筋が延びるように、前記複数の鉄筋部材が配筋され、
記床版の前記一方の被支持部は、
前記複数の鉄筋部材の何れかの前記鉄筋部材の前記一方の端部が位置し、
前記床版の前記他方の被支持部は、
前記複数の鉄筋部材の何れかの前記鉄筋部材の前記他方の端部が位置
前記支間方向において隣合う前記複数の鉄筋部材は、
前記一方の端部と前記他方の端部とが重なって配置される、鉄筋コンクリート構造物。
【請求項9】
前記床版は、
前記一方の被支持部を含む第1領域と、
前記他方の被支持部を含む第2領域と、
前記支間方向において前記第1領域と前記第2領域との間に位置する第3領域と、を備え、
前記第3領域に位置する前記鉄筋部材の前記2つの主筋のそれぞれの断面積は、
前記第2領域に位置する前記鉄筋部材の前記2つの主筋のそれぞれの断面積よりも大きい、請求項8に記載の鉄筋コンクリート構造物。
【請求項10】
前記床版は、
前記一方の被支持部を含む第1領域と、
前記他方の被支持部を含む第2領域と、
前記支間方向において前記第1領域と前記第2領域との間に位置する第3領域と、を備え、
前記第3領域に位置する前記複数の主筋のそれぞれの断面積は、
前記第1領域に位置する前記複数の主筋のそれぞれの断面積よりも大きい、請求項8又は9に記載の鉄筋コンクリート構造物。
【請求項11】
前記鉄筋部材は、
前記床版の表面に沿って配置されている、請求項8~10の何れか1項に記載の鉄筋コンクリート構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート構造に使用する鉄筋部材に関し、特に鉄筋部材の構造及びその鉄筋部材を使用した鉄筋コンクリート構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄筋コンクリート構造による構造物を構築、補修、補強するときには、工場において加工された格子形状を有する平板状の鉄筋部材を現場に搬入して現場で構造物の所定の位置に設置する技術が考案されている。
【0003】
このような従来の鉄筋部材の施工は、格子状の鉄筋部材を構造物の梁、床、又は柱等の構造物の表面に沿って所定の距離を持って配置し、その上からモルタル等の充填材を吹き付ける。充填材は、鉄筋部材と構造物との間の空間に充填され、さらに鉄筋部材からの充填材の厚さが所定の寸法になる様に鉄筋部材を覆う。このような構造により、棒鋼などの鉄筋を現場で技能者により組み立てる工程や、工場で鉄筋の溶接作業を行う工程が不要となり、鉄筋組み立て時の手間やコストを抑えるとともに技能者の確保が不要となる。また、格子状の鉄筋部材により鉄筋コンクリート構造の耐荷重性能を向上させている。
【0004】
特許文献1に開示されている鉄筋部材は、例えば鉄筋コンクリート構造物のスラブに適用され、主筋がスラブの一方の端部から他方の端部に向かって延びている。スラブの一方の端部と他方の端部とは同じ幅に形成されている。スラブに適用された鉄筋部材の主筋は、所定の間隔をおいて平行に配置され、スラブの一方の端部から他方の端部までを繋ぐように配置される。スラブの一方の端部と他方の端部とは、例えば鉄筋コンクリート構造物の柱や壁等の下部構造により支持される部位である。スラブの上面に荷重がかかった場合、スラブは下部構造に両端を支持され、スラブの中央部は荷重により撓む。鉄筋部材は、このスラブの撓みによる引っ張り応力に対し抵抗するように配置される。鉄筋部材の主筋は、スラブの両端を繋ぐように配置されることにより、スラブが下部構造により支持される部位の間を繋ぐため、スラブの上面に荷重がかかったときの引っ張り応力に対抗することができ、スラブの強度及び剛性を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-79585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示されている鉄筋部材を例えば両端が異なる幅のスラブに適用した場合、主筋が所定の間隔で平行に配置されているため、主筋がスラブの両端を繋ぐことができない。特に特許文献1に開示されている鉄筋部材は、主筋間の幅が均等な格子状に形成されているため、スラブの一方の端部と他方の端部とを主筋で繋ぐように配置するためには、複数の鉄筋部材を主筋が延びる方向を変えて配置する必要がある。このようにスラブに鉄筋部材を配置した場合、鉄筋部材が重なる部分ができるため、コンクリートのかぶり厚さを確保するため鉄筋部材が重なる部分のスラブ表面を凸させるか、又はスラブ全体にわたってコンクリートを厚く打たなければならず構造物の重量が増加するという課題があった。また、スラブの断面において鉄筋の密度が均一でなくなるため、コンクリートを設置する場合にコンクリートが流動しにくく、施工が困難であるという課題があった。
【0007】
本発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、両端の幅が異なる領域に鉄筋部材を埋め込む場合に、鉄筋部材を埋め込む領域の両端を繋ぐ様に主筋を配置でき、各断面における鉄筋密度のばらつきを小さくできる鉄筋部材、及びその鉄筋部材を使用した鉄筋コンクリート構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る鉄筋部材は、隣合って配置された2つの主筋を含む複数の主筋と、隣合う前記2つの主筋の側面の間を連結する複数の配力筋と、を有し、格子状に形成された鉄筋部材であって、前記2つの主筋の延びる方向において一方の端部における前記2つの主筋の間隔は、前記2つの主筋の延びる方向において他方の端部における前記2つの主筋の間隔よりも広い。
【0009】
本発明に係る鉄筋コンクリート構造物は、上記の鉄筋部材が埋め込まれた床版を備え、前記床版は、下部構造によって支持される被支持部に前記鉄筋部材の前記2つの主筋の端部が位置する様に前記鉄筋部材が配筋されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る鉄筋部材、及び、その鉄筋部材を使用した鉄筋コンクリート構造物によれば、鉄筋部材を埋め込む領域の両端の幅が異なるような場合であっても、主筋が両端を繋ぐように配置できる。そのため、鉄筋コンクリート構造物は、耐荷重性能を確保しながら、鉄筋部材を効率的に配置できる。これにより、鉄筋コンクリート構造物の表面が一部突出したり、鉄筋部材を覆う充填材を所定の厚みよりも大きくする必要がなくなる。よって、施工後の鉄筋コンクリート構造物の表面を平坦にすることができ、かつ、施工後の鉄筋コンクリート構造物の全体の寸法及び重量を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態1に係る鉄筋部材を適用した橋梁の模式図である。
図2図1の床版の平面図である。
図3図2のA部の拡大図である。
図4図2のB部の拡大図である。
図5図2のC部の拡大図である。
図6】比較例の鉄筋部材を適用した床版の模式図である。
図7】本発明の実施の形態2に係る橋梁の床版の平面図である。
図8】本発明の実施の形態2に係る床版の鉄筋部材が重なっている部分の断面図である。
図9】本発明の実施の形態2に係る床版の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。各図において、同一の符号を付した部位については、同一の又はこれに相当する部位を表すものであって、これは明細書の全文において共通している。また、明細書全文に表れている構成要素の形態は、あくまで例示であって、本発明は明細書内の記載のみに限定されるものではない。特に構成要素の組み合わせは、各実施の形態における組み合わせのみに限定するものではなく、他の実施の形態に記載した構成要素を別の実施の形態に適用することができる。さらに、添字で区別等している複数の同種の部位について、特に区別したり、特定したりする必要がない場合には、添字を省略して記載する場合がある。また、図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものとは異なる場合がある。
【0013】
本発明に係る鉄筋部材は、鉄筋コンクリート構造物のスラブ、床版等に使用されるものである。また、鉄筋部材は、トンネルの覆工コンクリート、水門、水路などの土木構造物にも使用される。さらに、鉄筋部材は、新設の鉄筋コンクリート構造物に埋め込まれるだけでなく、既設の鉄筋コンクリート構造に対する後打ちコンクリートに埋め込まれて使用されるものである。
【0014】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る鉄筋部材10を適用した橋梁100の模式図である。本発明の鉄筋コンクリート構造物は、例えば橋梁であり、実施の形態1においては橋梁を例として説明するが、鉄筋コンクリート構造物は、橋梁のみに限定されるものではない。橋梁100は、橋脚90上に支承91を備え、橋脚90及び支承91を下部構造としている。橋梁100は、2つの橋脚90に備えられた支承91の上に上部構造として床版92を渡して構成されている。図1は、一方の支承91Aの中央と他方の支承91Bの中央とを結ぶ線を含む鉛直断面を示している。
【0015】
床版92は、橋梁100の上を通る自動車等の荷重を直接受ける部材である。床版92は、橋梁100上の物体から荷重を受けると支承91A、91Bを支点として両端支持梁として撓む。床版92は、撓んで上面側の断面においては圧縮応力が発生し、下面側の断面においては引っ張り応力が発生する。鉄筋部材10は、支承91Aと支承91Bとの間で発生する引っ張り応力に対抗するものである。以下、支承91Aと支承92Bとの間を支間と呼ぶ。また、一方の支承91から他方の支承91に向かう方向を支間方向と呼ぶ。
【0016】
図2は、図1の床版92の平面図である。図1の橋梁100の床版92は、一方の支承91Aに支持される部分である被支持部93Aと他方の支承91Bに支持される部分である被支持部93Bとを有する。被支持部93Aと被支持部93Bとは、床版92の平面部に対し垂直上方から見た時に幅が異なっている。つまり、被支持部93Aの幅寸法W1に対し被支持部93Bの幅寸法W2が小さくなっている。鉄筋部材10は、床版92の形状に従って平面部の全域にわたって配置されている。
【0017】
鉄筋部材10は、一方の端部21Aから他方の端部21Bに向かって延びる主筋20を複数備える。主筋20は、一方の端部21Aから他方の端部21Bに向かって直線状に延びている。また、鉄筋部材10は、隣合った主筋20の間を接続するように配力筋22を備える。配力筋22は、主筋20に交わる方向に直線状に延びている。主筋20と配力筋22とは、表面が同一面を形成しており、鉄筋部材10は、主筋20と配力筋22とにより格子形状が形成された一枚の鋼板である。鉄筋部材10は、主筋20とそれと交わる方向に延びる配力筋22とが表面が同一面となるように形成されている。そのため、従来の断面が円形の鉄筋を縦横に組み合わせた鉄筋コンクリート構造物と比較して、厚み方向の寸法を小さくしたまま同等の強度が得られるという利点がある。
【0018】
図2に示される様に、主筋20は、床版92の一方の被支持部93Aと他方の被支持部93Bとを繋ぐ様に配置されている。床版92の一方の被支持部93Aの幅寸法W1は、床版92の他方の被支持部93Bの幅寸法W2よりも大きい。そのため、主筋20の一方の端部21Aにおける主筋20同士の間隔は、他方の端部21Bにおける主筋20同士の間隔よりも広い。言い換えると、床版92は、被支持部93Bから被支持部93Aに向かって幅が徐々に広がる様に形成されており、床版92に配筋された鉄筋部材10の主筋20の間隔も床版92の幅の変化に従って広がっている。また、支間方向に直交する各断面において、主筋20同士の間隔は均等であるのが望ましい。なお、主筋20同士の間隔とは、主筋20の中心線同士の間隔、すなわち主筋20のピッチ寸法を指す。
【0019】
図2において、床版92の両端部に示されている一点鎖線は、支承線P、Qである。支承線P、Qは、床版92を支持する支承91の床版92の平面視における位置を示すものである。配力筋22は、被支持部93A、93Bの支承線P、Qに略平行に均等な間隔をおいて複数設けられている。配力筋22は、隣合う主筋20の間を連結し、床版92に発生する引っ張り応力のうち支間方向に交わる方向の引っ張り応力に対抗する。なお、実施の形態1において、床版92の両端の支承線P、Qは平行になっているが、この形態に限定されるものではない。床版92の支承線P、Qが平行でなくとも、主筋20が支承線Pと支承線Qとを繋ぐ様に配置されていればよい。つまり、床版92に埋め込まれた鉄筋部材10の主筋20の両端部が床版92の被支持部93A、93Bに位置する様に配筋されていればよい。
【0020】
図3は、図2のA部の拡大図である。図4は、図2のB部の拡大図である。図5は、図2のC部の拡大図である。図3は、鉄筋部材10の一方の端部21Aにおける主筋20A及び配力筋22を示すものである。図4は、鉄筋部材10の他方の端部21Bにおける主筋20B及び配力筋22を示すものである。A部の主筋20Aの幅寸法aは、B部の主筋20Bの幅寸法bに対し大きく形成されている。実施の形態1においては、A部における主筋20Aの幅寸法aは、例えば20mmで形成されている。また、B部における主筋20Bの幅寸法bは、例えば7mmで形成されている。鉄筋部材10は、全域にわたって厚みが一定になっているため、A部における主筋20Aの断面積は、B部における主筋20Bの断面積よりも大きい。実施の形態1において、鉄筋部材10の厚みは例えば6mmで形成されているため、A部における主筋20Aの断面積は120mmであり、B部における主筋20Bの断面積は42mmである。また、鉄筋部材10の支間方向の中央部、つまり図2のC部の主筋20も主筋20Aで構成されており、A部と同じ断面積を有する。
【0021】
床版92の上面に荷重がかかった場合、支承91Aと支承91Bとの中央部に最も大きな曲げモーメントがかかる。従って、床版92は、中央部に支間方向の最大応力が発生するため、鉄筋部材10の主筋20は、その最大応力に対抗する必要がある。実施の形態1においては、床版92の中央部に太い主筋20Aが配置されており、必要な強度が確保されている。
【0022】
図2に示される様に、実施の形態1においては、鉄筋部材10の端部21Aから支間方向の全長の5/8の区間は、太い主筋20Aで構成されており、残りの端部21B側の部分は、細い主筋20Bで構成されている。このように構成されることにより、主筋20間のピッチ寸法が小さい端部21Bにおいても、主筋20間の開口部の幅が中央部と同様に確保される。実施の形態1においては、中央部の主筋20間の開口部の幅は、最小48.2mmであり、B部における主筋20間の開口部の幅wは、最小50.2mmである。主筋20間の開口部の幅wを所定の幅以上確保することにより、床版92にコンクリート等の充填材を流し込む際に、充填材の流動を妨げることがない。また、B部における主筋20Bは断面積が小さいが、床版92の被支持部93A、93Bにおいては、曲げモーメントが小さく発生する応力も小さいため、断面積が小さくても必要な強度が確保されている。
【0023】
なお、床版92にかかる曲げモーメントにより発生する応力の観点からは、鉄筋部材10の一方の端部21Aの主筋20の断面積は、中央部の主筋20の断面積以下に構成しても良い。一方の端部21Aに発生する応力は、他方の端部21Bと同様に中央部よりも小さいため、端部21Aの主筋20の断面積を小さくすることにより、断面における鉄筋の密度を小さくすることができ、床版92の重量を小さくすることができる。
【0024】
主筋20及び配力筋22は、格子形状の開口部24に突出する突起部25、26をそれぞれ備える。突起部25は、主筋20の側面から開口部24側に突出しており、1本の主筋20の中心線について対称に設けられている。また、突起部26は、配力筋22の側面から開口部24側に突出しており、配力筋22の中心線について対称に設けられている。突起部25、26は、開口部24に充填されるモルタル等の充填材と噛み合い、鉄筋部材10と充填材とが一体となることにより、床版92の強度が確保される。実施の形態1において、突起部25、26の突出量は、例えば5mmに設定されている。
【0025】
図6は、比較例の鉄筋部材110を適用した床版192の模式図である。床版192も、実施の形態1の床版92と同様に、図1に示される様に橋脚90A上の支承91A及び橋脚90B上の支承91B上に支持されている。従来の鉄筋部材110においては、主筋120と配力筋122とが直交して構成され、主筋120はそれぞれ等間隔に平行に配置されている。床版192の一方の被支持部193Aと他方の被支持部193Bとが異なる幅で構成されている場合、従来の鉄筋部材110は、一方の被支持部193Aから延び他方の被支持部193Bに至らない主筋120Aが発生してしまう。床版192の上面に荷重がかかり、曲げモーメントにより中央部に引っ張り応力が発生した場合に、被支持部193Aから被支持部193Bまで繋がれていない主筋120Aは、引っ張り応力に対抗することができず、コンクリートに引っ張り応力が負担される。特に図6中の領域Dは、引っ張り応力に対する強度が低い。
【0026】
また、比較例の鉄筋部材110を床版192に適用し、主筋120を支承線Pから支承線Qに至るようにするには、以下のように鉄筋部材110を配置する。例えば、床版192の一方の側面195Aに主筋120を沿わせて配置する鉄筋部材110と、床版192の他方の側面195Bに主筋120を沿わせて配置する鉄筋部材110と、の2枚の鉄筋部材110を床版192に配置する。この場合、床版192に配置された2枚の鉄筋部材110は一部重なることになるため、床版192の厚みが大きくなる部分が発生する。
【0027】
一方、実施の形態1に係る鉄筋部材10においては、全ての主筋20の一方の端部が支承線P上にあり、他方の端部が支承線Q上にある。このように配置されているため、平面視において台形である床版92の全面に主筋20が均等に配置される。そして、床版92は、各部において必要な強度が確保でき、床版92の厚さも大きくすることなく鉄筋部材10を配筋することができる。
【0028】
実施の形態2.
次に実施の形態2に係る鉄筋部材210及び橋梁200について説明する。実施の形態2に係る橋梁200は、実施の形態1に係る橋梁100に複数の鉄筋部材210を配筋した場合について説明する。実施の形態2では、実施の形態1に対する変更点を中心に説明する。実施の形態2に係る鉄筋部材210及び橋梁200の各部については、各図面において同一の機能を有するものは実施の形態1の説明で使用した図面と同一の符号を付して表示するものとする。
【0029】
図7は、実施の形態2に係る橋梁200の床版292の平面図である。図7の床版292は、実施の形態1と同様に2つの橋脚90に備えられた支承91の上に上部構造として渡されている。図7の床版292は、一方の支承291Aに支持される部分である被支持部293Aと他方の支承291Bに支持される部分である被支持部293Bとを有する。被支持部293Aと被支持部293Bとは、床版292の平面部に対し垂直上方から見た時に幅が異なっている。つまり、被支持部293Aの幅寸法W3に対し被支持部293Bの幅寸法W4が小さくなっている。鉄筋部材210は、床版292の形状に従って平面部の全域にわたって複数枚配置されている。
【0030】
床版292には、領域Rと領域Sの2つの領域がある。床版292の一方の側面295A側に位置する領域Rは、一方の被支持部293A側の幅が広く他方の被支持部293B側が狭くなっている。床版292の他方の側面295B側に位置する領域Sは、一方の被支持部293A側の幅と他方の被支持部293B側の幅とが同じであり、平行四辺形になっている。
【0031】
図7に示される様に、領域Sは、平行四辺形の領域であり、格子状の鉄筋部材210E、210F、210G、210Hが並べられている。鉄筋部材210Eと鉄筋部材210Fとは、支間方向に並べられており、支間方向中央部において鉄筋部材210Eと鉄筋部材210Fとは重なりあっている。また、鉄筋部材210Gと鉄筋部材210Hも、同様に支間方向に並べられており、支間方向中央部において鉄筋部材210Gと鉄筋部材210Hとは重なりあっている。鉄筋部材210E、210F、210G、210Hは、主筋220が床版292の側面295Bと平行になっており、主筋220同士も平行に並んでいる。領域Sは、平行四辺形であるため、従来の鉄筋部材110のように主筋220が全て平行に並べられている鉄筋部材210E、210F、210G、210Hであってもよい。鉄筋部材210E、210F、210G、210Hの全ての主筋220は、一方の端部が支承線P上にあり、他方の端部が支承線Q上にあるように配筋されている。そのため、領域Sは全ての領域において必要な強度を確保することができる。
【0032】
領域Rは、一方の被支持部293A側の幅と他方の被支持部293B側の幅とが異なっており、台形になっている。領域Rには、格子状の鉄筋部材210A、210B、210C、210Dが並べられている。鉄筋部材210Aと鉄筋部材210Bとは、支間方向に並べられており、支間方向中央部において鉄筋部材210Aと鉄筋部材210Bとは重なり会っている。また、鉄筋部材210Cと鉄筋部材210Dも、同様に支間方向に並べられており、支間方向中央部において鉄筋部材210Cと鉄筋部材210Dとは重なりあっている。鉄筋部材210Aは、それぞれ一方の被支持部293A側にある端部221AAが他方の被支持部293B側にある端部221ABよりも幅が広く形成されている。言い換えると、鉄筋部材210Aは、被支持部293B側から被支持部293A側に向かって幅が徐々に広がる様に形成されている。なお、鉄筋部材210B、210C、210Dも鉄筋部材210Aと同様に形成されている。
【0033】
鉄筋部材210Aは、複数の主筋220を備える。主筋220は、実施の形態1に係る鉄筋部材10と同様に、一方の端部221AAから他方の端部221ABに向かって直線状に延びている、また、鉄筋部材210Aは、隣合った主筋220の間を接続するように配力筋222を備える。配力筋222は、主筋220に交わる方向に直線状に延びている。主筋220と配力筋222とは、表面が同一面を形成しており、鉄筋部材210Aは、主筋220と配力筋222とにより格子状の一枚の板を形成している。なお、鉄筋部材210B、210C、210Dも鉄筋部材210Aと同様な形状に形成されている。
【0034】
鉄筋部材210Aの主筋220は、間隔が鉄筋部材210Aの幅の変化に従って広がっている。これは、鉄筋部材210B、210C、210Dにおいても同様である。なお、主筋220同士の幅とは、主筋220の中心線同士の間隔、すなわち主筋220のピッチ寸法を指す。
【0035】
鉄筋部材210Aの支間方向に並べられている鉄筋部材210Bは、一方の端部221BAが鉄筋部材210Aの他方の端部221ABと同じ幅に形成されている。鉄筋部材210Aの他方の端部221ABと鉄筋部材210Bの一方の端部221BAとは、重ね合わされており、幅及び主筋220のピッチが合うように形成されている。従って、床版292の平面視においては、鉄筋部材210Aと鉄筋部材210Bとは、見た目上は支承線Pから支承線Qに至るまで一枚の鉄筋部材であるように並べられている。更に言うと、主筋220の支間方向におけるピッチの変化率は、鉄筋部材210Aと鉄筋部材210Bとで同じになるように設定されている。また、鉄筋部材210Cと鉄筋部材210Dも、鉄筋部材210Aと鉄筋部材210Bとの関係と同じ様に設定されている。
【0036】
鉄筋部材210Aは、一方の端部221AA側の主筋220の幅寸法に対し、他方の端部221AB側の主筋220の幅寸法が大きく形成されている。また、鉄筋部材210Bは、一方の端部221BA側の主筋220の幅寸法が、他方の端部221BB側の主筋220の幅寸法よりも大きく形成されている。つまり、床版292の一方の被支持部293Aを含む領域を第1領域とし、他方の被支持部293Bを含む領域を第2領域とし、支間方向において第1領域と第2領域との間に位置する領域を第3領域とすると、第3領域に位置する主筋220の幅寸法が第1領域及び第2領域と比較して広く形成されている。すなわち、第3領域の主筋220は、断面積が第1領域及び第2領域の主筋220よりも大きい。
【0037】
実施の形態2に係る床版292においては、第1領域は、床版292の一方の被支持部293A側の1/5の領域であり、第2領域は、床版292の他方の被支持部293B側の1/5の領域である。第1領域及び第2領域は、支承91A及び支承91Bに支持されている部位であるため、床版292に荷重がかかった場合であっても、大きな曲げモーメントがかからない。一方、第3領域は、支承91Aと支承91Bとの間の中央部に位置するため、最も大きな曲げモーメントが係る部位である。そのため、第3領域の主筋220の断面積を大きくすることにより、床版292は大きな荷重に対し強度を十分確保できる。また、第2領域は、主筋220の間隔が狭いが、主筋220の幅を第3領域の主筋220よりも小さく構成しているため、主筋220の間の開口部の幅を大きくとることができる。
【0038】
図8は、実施の形態2に係る床版292の鉄筋部材210A、210Bが重なっている部分の断面図である。図8は、床版292の支間方向に沿った鉛直方向の断面を一例として示している。鉄筋部材210Bは、床版292の一方の被支持部293A側の端部221BAに曲げ加工が施され、段差が形成されている。鉄筋部材210Bの端部221BAが鉄筋部材210Aの端部221ABと重ね合わされ、重ね合わせた部分以外の鉄筋部材210Aと鉄筋部材210Bとは、同一面上に配置される。この状態で鉄筋部材210Aと鉄筋部材210Bとは、モルタル、コンクリート等の充填材70中に埋め込まれる。このように構成されることにより、床版292に複数枚の鉄筋部材210を配置した場合に、鉄筋部材210を覆うモルタル等の充填材に段差や凸部を設けることなく鉄筋部材210を配筋することができる。なお、鉄筋部材210Cと鉄筋部材210D、鉄筋部材210Eと鉄筋部材210F、及び鉄筋部材210Gと鉄筋部材210Hも同様に重ね合わせられている。
【0039】
図9は、実施の形態2に係る床版292の変形例を示す図である。図9の床版392は、図7の床版292よりも大きく、鉄筋部材A-1~A-18の18枚の鉄筋部材を割り付けて配筋したものである。鉄筋部材A-1~A-18は、鉄筋部材10、210A~210Dと同様に床版392の一方の被支持部393A側が他方の被支持部393B側に対し幅が広い格子状に形成されている。そして、鉄筋部材A-1~A-18は、被支持部393B側から被支持部393A側に向かって主筋間のピッチ寸法が徐々に広がる様に形成されているものである。
【0040】
図9に示される様に、サイズの大きい床版に鉄筋部材を配置する場合、複数枚を組み合わせて適用する必要がある。鉄筋部材A-1~A-18は、製造上及び運搬の都合により大きさが所定範囲内に限定されるため、複数枚を組み合わせて床版392に適用している。図7においては、支間方向に鉄筋部材210を並べる場合、鉄筋部材210Aと鉄筋部材210Bとを一対一で重ねて配置していた。しかし、図9においては、一枚の鉄筋部材に対し支間方向に向かって隣合う鉄筋部材が2つ以上になる箇所がある。例えば、鉄筋部材A-1に対しては、鉄筋部材A-4及び鉄筋部材A-5が隣合っている。このように構成されることにより、床版392の幅方向においても複数の鉄筋部材が重ね合わされているため、広い幅の床版392であっても十分な強度を確保することができる。
【符号の説明】
【0041】
10 鉄筋部材、20 主筋、20A 主筋、20B 主筋、21A 端部、21B 端部、22 配力筋、24 開口部、25 突起部、26 突起部、70 充填材、90 橋脚、90A 橋脚、90B 橋脚、91 支承、91A 支承、91B 支承、92 床版、93A 被支持部、93B 被支持部、100 橋梁、110 鉄筋部材、120 主筋、120A 主筋、122 配力筋、192 床版、193A 被支持部、193B 被支持部、195A 側面、195B 側面、200 橋梁、210 鉄筋部材、210A 鉄筋部材、210B 鉄筋部材、210C 鉄筋部材、210D 鉄筋部材、210E 鉄筋部材、210F 鉄筋部材、210G 鉄筋部材、210H 鉄筋部材、220 主筋、221AA 端部、221AB 端部、221BA 端部、221BB 端部、222 配力筋、291A 支承、291B 支承、292 床版、293A 被支持部、293B 被支持部、295A 側面、295B 側面、392 床版、393A 被支持部、393B 被支持部、A 幅寸法、A-1~A-18 鉄筋部材、B 幅寸法、D 領域、P 支承線、Q 支承線、R 領域、S 領域、W1 幅寸法、W2 幅寸法、W3 幅寸法、W4 幅寸法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9