(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】低圧かつ高温で1つ以上の鋼部品を浸炭窒化する方法および設備
(51)【国際特許分類】
C23C 8/34 20060101AFI20220621BHJP
C21D 1/06 20060101ALI20220621BHJP
C21D 1/76 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
C23C8/34
C21D1/06 A
C21D1/76 M
(21)【出願番号】P 2017525942
(86)(22)【出願日】2015-10-12
(86)【国際出願番号】 FR2015052742
(87)【国際公開番号】W WO2016075377
(87)【国際公開日】2016-05-19
【審査請求日】2018-10-04
【審判番号】
【審判請求日】2020-09-23
(32)【優先日】2014-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】518106766
【氏名又は名称】イーシーエム テクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ラピエール, フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ラディノワ, ジェローム
【合議体】
【審判長】平塚 政宏
【審判官】池渕 立
【審判官】井上 猛
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-028541(JP,A)
【文献】特開平11-021631(JP,A)
【文献】国際公開第2014/170022(WO,A1)
【文献】特表2012-533687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C8/00-12/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの鋼部品(PA)を浸炭窒化する方法であって、
前記部品(PA)が、不活性ガスを含む環境において、選択圧力下で、第1の選択温度まで加熱される第1のステップと、
前記加熱された部品(PA)が、前記第1の
選択温度未満の第2の選択温度
の第1の富化チャンバ(CE1)内で
、相窒化によって窒素富化される第2のステップと、
前記窒素富化された部品(PA)が、前記第2の
選択温度よりも適切に高い第3の選択温度で炭化することによって第2の富化チャンバ(CE2)内で炭素富化される第3のステップと、
前記窒素および炭素富化された部品(PA)が、加圧下で焼入れされる第4のステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第1のステップにおいて、前記不活性ガスが、窒素ガスであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1のステップにおいて、前記第1の
選択温度が、800℃と1100℃の間であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2のステップにおいて、前記第2の
選択温度が、700℃と880℃の間であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第2のステップにおいて、前記部品(PA)が、アンモニアによりα相において窒化することにより窒素富化されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第3のステップにおいて、前記第3の
選択温度が、900℃と1100℃の間であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第3のステップにおいて、
前記窒素富化された部品(PA)が、アセチレンにより炭化することによって富化されることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第4のステップにおいて、前記焼入れ
の圧力が、1バールと20バールの間であることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第4のステップにおいて、前記焼入れが、選択ガスを含む環境において実行されることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
鋼部品(PA)を浸炭窒化する設備(IC)であって、i)少なくとも1つの鋼部品(PA)を、第1の選択温度で、不活性ガスを含む環境において、選択圧力下で加熱することに適した、少なくとも1つの加熱チャンバ(CC)と、ii
)α相において窒化することによって、前記加熱された部品(PA)を窒素富化することが可能な、
前記第1の選択温度未満の第2の選択温度の少なくとも1つの第1の富化チャンバ(CE1)と、iii)前記第2の
選択温度よりも適切に高い第3の選択温度で炭化することによって、前記窒素富化された部品(PA)を炭素富化することが可能な、少なくとも1つの第2の富化チャンバ(CE2)と、iv)前記窒素および炭素富化された部品(PA)を、加圧下で焼入れすることに適した少なくとも1つの焼入れチャンバ(CT)と、v)前記チャンバ(CC、CE1、CE2、CT)の各々と制御されて連通し、制御された雰囲気中で前記部品(PA)を一時的に収容できるように構成された伝達ロック(ST)と、vi)前記部品(PA)を一方のチャンバから他方のチャンバに前記伝達ロック(ST)を経由して伝達するように構成された伝達手段(MT)とを含むことを特徴とする設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼部品を強化するよう意図されるある種の熱化学処理に関し、更に具体的には、かかる鋼部品の浸炭窒化に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両およびおそらくは同様に自動車の分野のような、ある種の分野において、ある種の鋼部品の強度、更に正確には、少なくともその耐疲労性を、著しい応力に耐えられるように、および/またはその寿命を延ばすために、強化することは不可欠である。かかる強化は、浸炭窒化によって達成できる。
【0003】
浸炭窒化は、マルテンサイト構造および強化を得るために、焼入れステップの前に鋼表面を炭素および窒素富化することからなる熱化学拡散処理であることが、思い起こされる。窒素の富化は、ここではオーステナイト相で実行され、α相窒化と呼ばれ、炭素富化は、炭化と呼ばれる。α相(またはオーステナイト相)窒化は、窒素の浸透によって鋼の冶金構造の疲労強度および安定性を改善するよう意図される。
【0004】
炭化は、その浸漬される能力を高め、それ故にその表面硬度、ならびにその耐疲労性および耐摩耗性を高めるために、炭素を鋼部品に導入することを含む。
【0005】
焼入れは、非常に高い硬度を有するマルテンサイト構造の出現を引き起こす、液体または気体媒体中での急速冷却である。
【0006】
当業者に知られているように、既知の浸炭窒化処理は、妥協の産物であるので、長い時間がかかり、最適でない冶金学的結果を与える。
【0007】
実際に、既知の浸炭窒化処理は、窒素富化を最適化するために(更に正確には、α相における窒化のアンモニア(NH3)の大部分が、部品に接触する前に分解することを回避するために)比較的低い処理温度(概して約850℃)を使用するが、(高温を必要とする)炭素富化および(比較的低い処理温度のために長くせねばならない)処理時間を犠牲にする。
【発明の概要】
【0008】
それ故に本発明の目的は、状況を改善することである。
【0009】
特に、本発明は、少なくとも1つの鋼部品の浸炭窒化方法であって、
- 各部品が、不活性ガスを含む環境において、選択圧力下で、第1の選択温度まで加熱される第1のステップと、
- 加熱された部品が、第1の温度以下の第2の選択温度で、α相において窒化することによって、第1のチャンバ内で窒素富化される第2のステップと、
- 窒素富化された部品が、第2の温度よりも適切に高い第3の選択温度で炭化することによって第2のチャンバ内で炭素富化される第3のステップと、
- 窒素および炭素富化された部品が、加圧下で焼入れされる第4のステップとを含む方法を提案する。
【0010】
部品の温度は、α相窒化が実行される温度よりも熱いので、窒化ガスが接触して即時に分解されることが従って回避され、それ故に、窒素を富化するために遥かに利用できるようにされる。その上、このことは、部品内での窒素の良好な拡散を可能にし、それ故にその濃度を高める。加えて、炭化が、α相窒化の温度よりも高い温度で実行されるので、部品の炭素富化は、従って更に効率的であり、かつ速い。最後に、炭素富化ステップは、窒素富化ステップが実行されるチャンバと異なるチャンバ内で実行されるので、このことは、炭素および窒素富化ステップの間で温度を非常に急速に変化させることを可能にする。
【0011】
本発明による方法は、個別にまたは組み合わせて用いられ得る、他の特徴を含んでも良く、特に、
- 第1のステップにおいて、不活性ガスは、窒素ガス(またはN2)であっても良い、
- 第1のステップにおいて、圧力は、約1バールと約1.5バールの間であっても良い。しかしながら圧力は、著しく低いこともあり得、例えば第2および第3のステップにおいて使用される低圧と同様であり得る、
- 第1のステップにおいて、第1の温度は、約800℃と約1100℃の間であり得る、
- 第2のステップにおいて、第2の温度は、約700℃から約880℃に設定されても良い、
- 第2のステップにおいて、部品は、アンモニアによりα相において窒化することにより窒素富化されても良い、
- 第3のステップにおいて、第3の温度は、約900℃と約1100℃の間であっても良い、
- 第3のステップにおいて、炭素部品は、アセチレンにより炭化することによって富化され得る、
- 第4のステップにおいて、焼入れ圧力は、約1バールと約20バールの間であっても良い、
- 第4のステップにおいて、焼入れは、選択ガスを含む環境において実行され得る。
【0012】
本発明は、鋼部品の浸炭窒化のための設備であって、
- 少なくとも1つの鋼部品を、選択された第1の温度で、不活性ガスを含む環境において、選択圧力下で加熱することに適した、少なくとも1つの加熱チャンバと、
- 第1の温度以下の第2の選択温度で、α相において窒化することによって、加熱された部品を窒素富化することに適した、少なくとも1つの第1の富化チャンバと、
- 第2の温度よりも適切に高い第3の選択温度で炭化することによって窒素で富化された部品を炭素富化することに適した少なくとも1つの第2の富化チャンバと、
- 窒素および炭素富化された部品を、加圧下で焼入れすることに適した少なくとも1つの焼入れチャンバと、
- 各チャンバと制御されて連通し、制御された雰囲気が広がる環境において部品を一時的に収容できるように構成された伝達ロックと、
- 部品を一方のチャンバから他方のチャンバに伝達ロックを経由して伝達するように構成された伝達手段とを含む設備も提案する。
【0013】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および添付図面を検討すれば、現れるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明による浸炭窒化設備の代表的な実施態様を概略的かつ機能的に示す図である。
【
図2】本発明による浸炭窒化方法を実施するフローチャートの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の特定の目的は、高温かつ低圧で鋼で作られた部品PAの浸炭窒化を可能にするよう意図された方法および関連施設ICを提供することである。
【0016】
以下において、鋼部品PAが、おそらく自動車タイプの車両に適合するよう意図されることが、非限定的な例として検討される。例えば鋼部品は、ギヤボックス部品、伝達部品または種々のギヤであっても良い。しかし本発明は、この用途に限定されない。本発明は、機器、装置、システム(および特には、いかなるタイプであれ、車両)、または(おそらく工業タイプの)設備に装備するよう意図されたいかなる鋼部品にも関係する。従って本発明は、特に航空分野におけるある種の伝達要素、ならびに一般的に摩耗および疲労で機械的応力を受ける部品にも関する。
【0017】
鋼部品PAを浸炭窒化する方法は、第1、第2、第3および第4のステップを少なくとも含む。
【0018】
かかる方法は、
図1に限定なしで示されるタイプの浸炭窒化設備ICによって実施できる。
【0019】
図1に示されたように、本発明による浸炭窒化設備ICは、少なくとも1つの加熱チャンバCCと、少なくとも1つの第1の富化チャンバCE1と、少なくとも1つの第2の富化チャンバCE2と、少なくとも1つの焼入れチャンバCTと、伝達チャンバSTと、伝達手段MTとを含む。
【0020】
伝達ロックSTは、アクセスが制御され、処理される(鋼の)各部品PAが導入される入力ESと、アクセスが制御され、処理された部品PAが抜き出される出力SSとを含む。例えば、入力ESおよび出力SSは、各々が、密閉され、電気的に、または空気圧で制御され、密閉されたインタフェースを提供する単一の引き戸または引き違い戸を含む。この伝達ロックSTは、チャンバCC、CE1、CE2およびCTの各々と制御されて連通し、酸化を回避するために、制御された雰囲気が広がる環境において一方のチャンバから他方へのその各伝達中に、部品PAを一時的に収容できるように構成される。
【0021】
この制御された雰囲気は、真空であっても、好ましくは約2ミリバールと約50ミリバールの間で選択されても良く、不活性であっても良い(例えば、窒素ガス(またはN2)のような不活性ガスによって定義される)。
【0022】
各部品PAは、好ましくは処理される1つ以上の部品を収容できるプレート上に設置されることが、注目されるであろう。以下において、説明に役立つ実施例として、1つの部品PAのみが、一度に処理されることが考慮されるべきである。
【0023】
(各)加熱チャンバCCは、部品PAを、不活性ガスを含む環境において、選択圧力P1下で、選択された第1の温度T1で加熱するように配設される。加熱チャンバは、例えば密閉され、電気的に、または空気圧で制御され、密閉されたインタフェースに伝達ロックSTを提供する単一の引き戸または引き違い戸のようなアクセス制御手段を含む。
【0024】
例えば、不活性ガスは、窒素ガス(またはN2)であっても良い。同様に、例えば圧力P1は、大気圧と実質的に等しくても良い。従って、例えば約1バールと約1.5バールの間であっても良い。しかしながら更に経済的な応用例において、この圧力P1は、富化チャンバCE1およびCE2内で使用される低圧(概して数ミリバール)と同様(または同一)であっても良い。
【0025】
第1の温度T1は、好ましくは約800℃と約1100℃の間である。例えば、1050℃に等しいように選択され得る。
【0026】
(各)第1の富化チャンバCE1は、第1の温度T2以下に選択される第2の温度T2(すなわちT2≦T1)で、α相において窒化することによって加熱チャンバCC内で加熱された部品PAを低圧下で窒素富化するように配設される。好ましくは、この第2の温度T2は、第1の温度T2よりも適切に低い(すなわちT2<T1)。第1の富化チャンバCE1は、例えば密閉され、電気的に、または空気圧で制御され、密閉されたインタフェースに伝達ロックSTを提供する単一の引き戸または引き違い戸のようなアクセス制御手段を含む。
【0027】
第2の温度T2は、好ましくは約700℃と約880℃の間である。例えば、830℃に等しいように選択され得る。
【0028】
例えば、α相において窒化することにより窒素富化を達成するために、気体アンモニア(またはNH3)が、使用され得る。このガスは、第1の富化チャンバCE1内部で雰囲気を構成する。
【0029】
(各)第2の富化チャンバCE2は、第2の温度T2よりも適切に高く選択される第3の温度T3(すなわちT3>T2)で炭化することによって第1の富化チャンバCE1内で窒素富化された部品PAを低圧下で炭素富化するように配設される。第2の富化チャンバCE2は、例えば密閉され、電気的に、または空気圧で制御され、密閉されたインタフェースに伝達ロックSTを提供する単一の引き戸または引き違い戸のようなアクセス制御手段を含む。
【0030】
好ましくは、第3の温度T3は、約900℃と約1100℃の間に設定される。例えば、1050℃に等しいように選択され得る。
【0031】
例えば、炭化によって炭素富化を達成するために、アセチレン(またはC2H2)ガスが、使用され得る。このガスは、第2の富化チャンバCE2内部で雰囲気を構成する。しかしながら、他の炭化ガス、および特にプロパンが使用され得る。
【0032】
(各)焼入れチャンバCTは、第1のCE1および第2の富化チャンバ内で窒素および炭素富化された部品PAを加圧下で焼入れするように配設される。この焼入れは、好ましくは室温に近い第4の選択温度T4で、大気圧以上である圧力P2下で実行される。焼入れチャンバCTは、例えば密閉され、電気的に、または空気圧で制御され、密閉されたインタフェースに伝達ロックSTを提供する単一の引き戸または引き違い戸のようなアクセス制御手段を含む。
【0033】
例えば、焼入れ圧力P2は、約1バールから約20バールであっても良い。例えば、従って僅かな合金を含む鋼に関して約15バールに等しいように選択されても良い。
【0034】
焼入れ圧力の増加は、部品PAを更に強度に焼入れすることを可能にするが、より大きな変形を引き起こすことが注目されるであろう。それ故に圧力の選択は、鋼の硬度と、得るように意図される変形および硬度の間の妥協である。
【0035】
焼入れは、例えば窒素またはヘリウムのような選択されたガスを含む環境において浸漬によって実行され得る。従って焼入れガスは、焼入れチャンバCT内部の雰囲気を構成する。
【0036】
焼入れは、あるいは、例えば油またはポリマーのような選択された液体を含む環境における浸漬によって達成され得る。
【0037】
伝達手段MTは、部品PAを一方のチャンバから他方のチャンバに伝達ロックSTを経由して伝達するように配設される。伝達手段MTは、例えば少なくとも1つの部品PAを支持することに適したプレートを含み、部品PAの伝達を可能にするために、伝達ロックST内に固定して据え付けられ、(伝達ロックSTの入力ESおよび出力SSを経由して)外部と、更に種々のチャンバCC、CE1、CE2およびCTと連通するレール上に平行移動可能に取り付けられる(好ましくは電気的な)モータ付きキャリッジを含む。
【0038】
本発明による方法の第1のステップは、一旦少なくとも1つの部品PAが伝達手段MTを経由して加熱チャンバCC内に据え付けられると(
図1の矢印F1およびF2)、実行される。この据え付けは、
図2の代表的なフローチャートのサブステップ20に対応する。
【0039】
この第1のステップにおいて、部品PAは、(上述のように、例えば窒素ガスのような)不活性ガスを含む環境において、(必要ならば大気圧と実質的に等しい)選択された圧力P1下で、選択された第1の温度T1まで加熱される。
【0040】
不活性雰囲気中の、低圧下でのかかる加熱は、部品PAの加熱速度を、真空下での加熱の場合よりも実質的に速くさせることを可能にする。例えば、部品PAの温度を不活性雰囲気中で、約1バールで約1050℃まで上昇させるためには、約1時間かかり、他方で真空下では約1時間15分かかる。このことは、加熱チャンバCCが、更に迅速に片付けられることを可能にする。
【0041】
第1のステップは、
図2の代表的なフローチャートのサブステップ20に対応する。
【0042】
本発明による方法の第2のステップは、一旦部品PAが加熱チャンバCC内で第1の温度T1まで加熱され、次に第1の富化チャンバCE1内に伝達手段MTを経由して据え付けられると(
図1の矢印F2、F3およびF4)、実行される。
【0043】
この第2のステップにおいて、加熱された部品PAは、(第1の温度T1以下の、好ましくはT1よりも適切に低い)第2の選択温度T2でα相において窒化することにより低圧(概して数ミリバール)下で窒素富化される。
【0044】
部品PAの温度T1は、好ましくは、窒化がα相において実行される温度T2よりも当初は熱いので、接触して即時に窒化ガスが分解することを回避し、それ故にこのガスを窒素富化で更に利用できるようにする。更に、このことは、部品PA内のより良好な窒素拡散、およびそれ故にフィックの法則に従って、その濃度増加を可能にする。
【0045】
アンモニアが窒化ガスとして使用される時、部品PAの最大窒素富化が、約800℃と約850℃の間で予期されることが注目されるであろう。実際に約900℃から、99%のアンモニアは、雰囲気中で即時に分解し、部品PAを窒素富化するためにもはや利用できない。
【0046】
α相における窒化期間が、約10分に等しくても良いことも注目されるであろう。この期間は、部品PA内に導入するよう望まれる窒素量によって決まる。
【0047】
α相における窒化の終了時に、部品PAの温度は、α相における窒化温度T2が、T1よりも適切に低いので、T1よりも僅かに低くなった。例えば、T1が1050℃に等しく、α相における窒化温度が830℃に等しいならば、富化された窒素富化部品PAの温度は、α相窒化の10分後に約1010℃である。
【0048】
第2のステップは、
図2の代表的なフローチャートのサブステップ30に対応する。
【0049】
本発明による方法の第3のステップは、一旦部品PAが第1の富化チャンバCE1内で窒素富化され、次に第2の富化チャンバCE2内に伝達手段MTを経由して据え付けられると(
図1の矢印F4、F5およびF6)、実行される。
【0050】
この第3のステップにおいて、すでに窒素富化された部品PAは、(第2の温度T2よりも適切に高い)第3の選択温度T3で炭化することにより、低圧(概して数ミリバール)下で炭素富化される。第3の炭化温度T3が高いほど、部品PAの炭素富化は、効率的かつ迅速である。例えば、炭化によって0.4mmのいわゆるE650深度を得るためには、第3の炭化温度T3が900℃に等しい時、約210分の処理がかかり、他方で第3の炭化温度が1050℃に等しい時、15分しかかからない。
【0051】
しかしながら、1100℃を超える第3の炭化温度T3を使用することは、粒子の拡大により鋼の冶金の強度な劣化を誘発するので、勧奨されないことに注目されるであろう。その上、950℃を超える第3の炭化温度T3に関して、粒子の拡大を防止するために、(例えばニオブのような)合金化元素を部品PAの鋼に初期に添加することが好ましい。
【0052】
第3のステップの期間が、約15分(アセチレン効率の良い炭化に10分、次に窒素下での部品PA内の完全な炭素拡散に5分)に等しくても良いことも注目されるであろう。この期間は、部品PA内の所望の加工深度によって決まる。
【0053】
炭化終了時に、炭化温度T3は、第1の富化チャンバCE1の出口に示す温度よりも適切に高いので、部品PAの温度は、T3に等しくなった。
【0054】
第3のステップは、
図2の代表的なフローチャートのサブステップ40に対応する。
【0055】
本発明による方法の第4のステップは、一旦部品PAが第1のCE1および第2のCE2富化チャンバ内で窒素および炭素富化され、次に焼入れチャンバCT内に伝達手段MTを経由して据え付けられると(
図1の矢印F6、F7およびF8)、実行される。
【0056】
この第4のステップにおいて、窒素および炭素富化された部品PAは、圧力P2下で急速に焼入れ(または冷却)される。第4の焼入れ温度T4は、例えば室温で、概して約20℃である。
【0057】
使用される焼入れ圧力P2は、好ましくは約1バールと約20バールの間である。第2および第3のステップで使用される低圧の値よりも遥かに高いこれらの値は、冷却速度を増加させることを可能にする。非常に速い速度は、マルテンサイトを形成し、部品PAの硬度を実質的に増加させるために、窒素および炭素富化オーステナイトを変形することを可能にする。
【0058】
焼入れの期間が、約2分と約5分の間であり得ることが注目されるであろう。この期間は、処理される部品PAの寸法および鋼の初期化学組成によって主に決まる。
【0059】
第4のステップは、
図2の代表的なフローチャートのサブステップ50に対応する。
【0060】
焼入れ終了時に、部品PAは、加熱チャンバCCから、次に伝達ロックSTから(その出力SSを経由して)、伝達手段MTを経由して出される(
図1の矢印F8およびF9)。
【0061】
本発明による浸炭窒化設備ICは、処理時間が加熱時間よりも著しく短い、第1の富化チャンバCE1の事実上継続的な供給を可能にするために、少なくとも1つの他の加熱チャンバCC、および/または多数の部品PAの並列処理のために、および/または追加の窒素富化のために、少なくとも1つの更なる第1の富化チャンバCE1、および/または幾つもの部品PAを並行して処理するために、および/または追加の炭素富化を実行するために、少なくとも1つの更なる第2の富化チャンバCE2、および/または多数の部品PAを並行して処理するために、少なくとも1つの他の焼入れチャンバCTを任意に含んでも良いことも注目されるであろう。特に、部品PAの表面で高い窒素濃度を得るために、炭化後にα相において第2の窒化を実行することを検討することが可能である。
【0062】
本発明は、幾つもの利点を有し、その中には、
- 従来の浸炭窒化と比較して処理時間の著しい減少、
- ガス消費の著しい減少、
- 浸炭窒化設備を制御するために必要である技術者数の減少、
- ジャストインタイム生産の可能性、
- 部品内の窒素含有量の著しい増加、および従ってその機能特性(および主にその疲労強度)の改善、
- 事実上、同一の特性を示す部品を得ること、
- 処理費用の減少がある。