(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】スプリンクラーヘッド
(51)【国際特許分類】
A62C 37/12 20060101AFI20220621BHJP
B05B 1/00 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
A62C37/12
B05B1/00 Z
(21)【出願番号】P 2018083874
(22)【出願日】2018-04-25
【審査請求日】2021-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000199186
【氏名又は名称】千住スプリンクラー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000233826
【氏名又は名称】能美防災株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106220
【氏名又は名称】大竹 正悟
(72)【発明者】
【氏名】菊池 正勝
(72)【発明者】
【氏名】村上 匡史
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-105952(JP,A)
【文献】特開2016-032671(JP,A)
【文献】米国特許第6152236(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0294140(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 37/12
B05B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にノズルを有する本体と、
前記ノズルの出口を閉止する弁体と、
前記弁体が前記出口を閉止するのを維持するとともに低融点合金の溶融により分解作動する感熱分解部と、
前記弁体を前記出口に対して付勢する皿ばね部材と、
前記皿ばね部材が挿通されたセットスクリューとを備えており、
前記弁体は、前記セットスクリューの一端側にある頭部を挿入する凹部を有し、
前記凹部は、前記頭部を挿入する側にある開口部と、前記開口部から挿入した前記頭部が当接可能な当接部とを有するスプリンクラーヘッドにおいて、
前記凹部の内周面は、前記当接部側における前記頭部との隙間よりも、前記開口部側における前記頭部との隙間の方が広くなるように形成されていることを特徴とするスプリンクラーヘッド。
【請求項2】
前記凹部の前記内周面は、前記当接部側に、前記感熱分解部の分解作動時に前記頭部が当接して前記感熱分解部の過度な傾倒を規制する傾倒規制部を有する請求項1記載のスプリンクラーヘッド。
【請求項3】
前記凹部の前記内周面は、前記当接部側から前記開口部側に向かって拡径するテーパー形状である請求項1又は請求項2記載のスプリンクラーヘッド。
【請求項4】
前記開口部は、前記内周面に対して鋭角に広がる斜面部を有する請求項1又は請求項2記載のスプリンクラーヘッド。
【請求項5】
前記ノズルの外周面に沿って立設した爪を有するガイドリングと、
前記ガイドリングに対してピンによって連結されたデフレクターとを有しており、
前記ノズルの前記出口の外周面には、前記出口側に向けて先細りとなるテーパー状の先細り部を有する請求項1~請求項4何れか1項記載のスプリンクラーヘッド。
【請求項6】
前記皿ばね部材は、主皿ばねと、主皿ばねよりもたわみ変形によるたわみ量が小さい補助皿ばねとを重ねて構成した組合せ皿ばねである請求項1~請求項5何れか1項記載のスプリンクラーヘッド。
【請求項7】
前記セットスクリューの前記頭部の高さは、前記皿ばね部材のたわみ変形量以上である請求項1~請求項6何れか1項記載のスプリンクラーヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消火用のスプリンクラーヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
スプリンクラーヘッドは、火災の際に自動的に作動して、消火液としての水を散布する。このためスプリンクラーヘッドは、給水配管に接続されたノズルと、火災の熱によって作動する感熱分解部を備える。火災のない平時では、前記ノズルの出口は弁体により閉止されている。弁体は、感熱分解部を介してノズルの出口を閉止するための荷重が印加されている。さらに弁体と感熱分解部の間には皿ばねが設置されており、皿ばねはノズルの出口を閉止する方向に弁体を押圧している。
【0003】
こうしたスプリンクラーヘッドには、感熱分解部にボールやリングを用いたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。これらのスプリンクラーヘッドでは、感熱分解部が作動してから水を散布するために必要となる感熱分解部の構成部品の移動量が大きく設定されている。そのため例えば平時において外力を受けた場合でも、弁体がノズルの出口を閉止する荷重が低下しにくく、耐衝撃性に優れるという特徴を有している。
【0004】
そして前記スプリンクラーヘッドが平時に外力を受けると、感熱分解部の構成部品には多少の位置ずれが生じることがある。しかしながら、そのような多少の位置ずれは、スプリンクラーヘッドが作動して散水するために必要となる構成部品の移動量よりも小さく、したがってスプリンクラーヘッドは作動しない。これに対して、火災により低融点合金が溶融した際には、複数個のボールがフレームの段部から外れることによって、感熱分解部を支持していたバランスが崩れる。これによりフレームの段部では感熱分解部を保持できなくなり、感熱分解部がフレームから脱落することで弁体が開放され、スプリンクラーヘッドの作動に至る。
【0005】
また、前述した低融点合金の溶融から感熱分解部が脱落するまでの間、ノズルの出口であるノズル端に対する弁体の閉止状態を維持するために、感熱分解部と弁体の間には弁体をノズル端に付勢する皿ばねが設置されている。この皿ばねは、感熱分解部の構成部品が移動し始めた際に、平板状に潰された皿ばねが山状に復元するまでのたわみ量(変位量)によって、感熱分解部に対して弁体をノズル端に付勢し続けるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、以上のような特許文献1のスプリンクラーヘッドは、感熱分解部に設けられたセットスクリューに皿ばねが挿通されており、皿ばねの荷重(付勢力)を弁体の底面に作用させている。感熱分解部は、部品の寸法誤差や組み付け誤差、火源の位置により半田の溶融し始める部位が変わること等によって、ノズルの中心軸に対して傾きながら分解作動することがある。そのときにセットスクリューが傾くと、ロッジメントが発生するおそれがある。即ち、フレームの中心軸に対して皿ばねの中心軸が偏芯し、これによって皿ばねの縁が筒状のフレームの内側に引っ掛かって係留されるおそれがある。また、分解作動時にセットスクリューが傾くと、デフレクターやデフレクターと連結しているガイドリンクも傾きながらフレームの内側を摺動することがあり、この場合にもデフレクターやガイドリングがフレームの内側に引っ掛かかって係留されてロッジメントが発生するおそれがある。
【0008】
以上のような従来技術を背景になされたのが本発明である。本発明の目的は、スプリンクラーヘッドの作動信頼性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のスプリンクラーヘッドは以下のように構成される。
【0010】
即ち本発明は、内部にノズルを有する本体と、前記ノズルの出口を閉止する弁体と、前記弁体が前記出口を閉止するのを維持するとともに低融点合金の溶融により分解作動する感熱分解部と、前記弁体を前記出口に対して付勢する皿ばね部材と、前記皿ばね部材が挿通されたセットスクリューとを備えており、前記弁体は、前記セットスクリューの一端側にある頭部を挿入する凹部を有し、前記凹部は、前記頭部を挿入する側にある開口部と、前記開口部から挿入した前記頭部が当接可能な当接部とを有するスプリンクラーヘッドについて、前記凹部の内周面は、前記当接部側における前記頭部との隙間よりも、前記開口部側における前記頭部との隙間の方が広くなるように形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、弁体の凹部の内周面の形状が、セットスクリューの頭部との間に隙間が形成される形状としている。より具体的には、凹部の内周面は、凹部の当接部側における前記頭部との隙間よりも、凹部の開口部側における前記頭部との隙間の方が広くなるような形状としている。したがって弁体がノズルを開放する感熱分解部の分解作動の初動時には、セットスクリューの頭部が凹部に深く入り込んでおり、凹部の当接部側では凹部の内周面と頭部との隙間が狭い。このため、感熱分解部の分解作動に伴いセットスクリューが大きく傾倒しようとしても、セットスクリューの頭部が僅かな隙間を移動して凹部の当接部側の内周面に対して当接することで、分解作動の初動時におけるセットスクリューの過剰な傾倒を規制することができる。そしてその後は、凹部の開口部側の内周面とセットスクリューの頭部との間の隙間が広がるため、感熱分解部の分解作動によりセットスクリューの頭部が凹部から抜け出る際に、セットスクリューの頭部が凹部の開口部側の内周面に引っ掛かることなく、感熱分解部をスムーズに分解作動させることができる。以上のようにして本発明であれば、感熱分解部の分解作動の初動時におけるセットスクリューの過剰な傾倒を規制でき、その後セットスクリューの頭部が凹部から抜去するまでの間に凹部の開口部側の内周面に引っ掛かることがないので、凹部からスムーズに抜脱することができる。よって、ロッジメントの発生を防ぐことができスプリンクラーヘッドの作動信頼性を高めることができる。
【0012】
前記凹部の前記内周面は、前記当接部側に、前記感熱分解部の分解作動時に前記頭部が当接して前記感熱分解部の過度な傾倒を規制する傾倒規制部を有するものとして構成することができる。本発明によれば、凹部の当接部側の内周面に設けた傾倒規制部が、セットスクリューの頭部と当接して過度な傾倒を規制する。このため分解作動の初動時に弁体の中心軸に対してセットスクリューの中心軸が傾倒することを、より確実に抑制することができる。
【0013】
前記本発明の前記凹部の内周面は、前記当接部側における前記頭部との隙間よりも、前記開口部側における前記頭部との隙間の方が広くなるように形成することができるが、これは様々な態様で構成することができる。その具体例として前記凹部の前記内周面は、前記当接部側から前記開口部側に向かって拡径するテーパー形状として構成することができる。本発明によれば、弁体がノズルを閉止している閉止状態ではセットスクリューの中心軸を弁体の中心軸と同軸に配置することができ、前記分解作動時では凹部から抜けていくセットスクリューに対して、その傾倒を徐々に許容することで、セットスクリューの過度な傾きを抑制しながらセットスクリューをスムーズに分解作動させることができる。
【0014】
前記開口部は、前記内周面に対して鋭角に拡径する斜面部を有するように構成できる。本発明によれば、前記分解作動によりセットスクリューが弁体の凹部から抜け出る際に、斜面部とセットスクリューの頭部と斜面部との間には大きな隙間が形成されるので、セットスクリューの頭部が凹部に引っ掛かることを確実に防ぎ、感熱分解部をスムーズに分解作動させることができる。
【0015】
前記本発明は、前記ノズルの外周面に沿って立設した爪を有するガイドリングと、前記ガイドリングに対してピンによって連結されたデフレクターとを有しており、前記ノズルの前記出口の外周面には、前記出口側に向けて先細りとなるテーパー状の先細り部を有するように構成できる。本発明によれば、ノズルの出口の外周面には先細り部が形成されているため、前記分解作動時にノズルの外周面に沿ってガイドリングの爪が移動した際に、ガイドリングの爪が引っ掛かることでロッジメントが発生することを防ぐことができる。
【0016】
前記皿ばね部材は、主皿ばねと、主皿ばねよりもたわみ変形によるたわみ量が小さい補助皿ばねとを重ねて構成した組合せ皿ばねとして構成できる。主皿ばねは、たわみ変形によるたわみ量が大きいものであり、補助皿ばねは主皿ばねのたわみ変形によるたわみ量を補完するたわみ量を有している。これにより主皿ばねのたわみ量を補助皿ばねのたわみ量で補完することができるため、主皿ばねの高さと外径を大きくしなくても、分解作動時における感熱分解部の構成部品の移動を、主皿ばねと補助皿ばねとを合わせたより大きなたわみ量によって吸収することが可能となる。
【0017】
前記セットスクリューの前記頭部の高さは、前記皿ばね部材のたわみ変形量以上であるように構成できる。これにより皿ばね部材が無荷重時の高さに復元した状態においてもセットスクリューに挿通した状態を維持することができる。したがって前記分解作動時に、感熱分解部とともに皿ばね部材を脱落させることができるので、皿ばね部材が単独で落下することを原因としてロッジメントが発生するのを防止できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のスプリンクラーヘッドによれば、ロッジメントの発生を抑制し、分解作動時の作動信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態によるスプリンクラーヘッドの断面図。
【
図2】
図1のスプリンクラーヘッドに備える散水部の斜視図。
【
図5】
図1のスプリンクラーヘッドに備える補助皿ばねを示す図であり、
図5Aは平面図、
図5Bは断面図。
【
図6】
図1のスプリンクラーヘッドのシリンダーの周辺の拡大断面図。
【
図7】
図1のスプリンクラーヘッドの作動過程を示す断面図。
【
図8】
図1のスプリンクラーヘッドにおける弁体の凹部の変形例を示す断面図。
【
図9】
図8のスプリンクラーヘッドに備える散水部の断面図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のスプリンクラーヘッドSの一実施形態について図面を参照しつつ説明する。スプリンクラーヘッドSは、本体1、フレーム2、弁体3、散水部4、組合せ皿ばね5(皿ばね部材)、感熱分解部6を備えている。
【0021】
本体1は、円筒状に形成されており、その内部にはノズル11が形成されている。本体1の外周の上端側には給水配管(図示略)に接続されるネジ部12が設けられており、その内面側にはノズル11が伸長しており、その下端にはノズル11の「出口」となるノズル端11aが形成されている。ノズル端11aは弁体3と当接しており、平時(閉止状態)においては弁体3により閉止されている。本体1の外周の中間部分にはフランジ部1aが突出しており、フランジ部1aの内縁部にはフレーム2と接続されるネジ部13が形成されている。ノズル11の出口側の外周面には、先細り部11bが形成されている。先細り部11bはノズル端11aに向かって先細りする形状となっている。これにより後述のガイドリング42の引っ掛かりを防止できる。
【0022】
フレーム2は、円筒状に形成されており、その上端にはネジ部21が設けられ前述の本体1のネジ部13に対して螺合接続される。フレーム2の下端の内周には内向きに突出する環状の段部22が形成され、段部22には後述のボール61が係止する。フレーム2はノズル11の出口側の外周を取り囲むように配置される。
【0023】
弁体3は、円盤状に形成されており、ノズル端11aと当接することで、ノズル端11aを閉止している。弁体3のノズル11と対向する面には、ノズル11の内部に入り込む突起31が形成されている。その反対面には「凹部」としての凹み32が形成されている。凹み32には後述するセットスクリュー64が挿通される。
【0024】
凹み32は、
図3で示すように、セットスクリュー64の頭部64Bの先端部が当接可能な当接部32aと、セットスクリュー64の頭部64Bの外周面と対向する内周面32bと、セットスクリュー64の挿入側端部となる開口部32cとを有している。凹み32の内周面32bは、当接部32aの側から開口部32cの側に向かって拡径するテーパー状に形成されている。したがって内周面32bとセットスクリュー64の頭部64Bの外周面との隙間は、当接部32aの側から開口部32cの側に向かうに従い大きくなる。これにより分解作動の初動時にセットスクリュー64が過度に傾くことを抑えてロッジメントの発生を抑制できる。また、セットスクリュー64の頭部64Bが凹み32から抜けるように変位するにつれて、内周面32bとの引っかかりがなくなるため、スムーズに頭部64Bを凹み32から抜脱することができる。
【0025】
内周面32bには、セットスクリュー64の頭部64Bの外周面と対向位置する傾倒規制部32b1が形成されている。傾倒規制部32b1は、セットスクリュー64の頭部64Bと当接して過度な傾倒を規制することができる。このため分解作動の初動時に弁体3の中心軸に対してセットスクリュー64の中心軸が傾倒することを、より確実に抑制することができる。なお、傾倒規制部32b1は、少なくとも分解作動時に傾倒する頭部64Bと当接可能であるように頭部64Bと対向位置していればよい。したがって平時における傾倒規制部32b1と頭部64Bとの間には、隙間を有していてもよい。
図3はその隙間を有する例を示している。この場合には、スプリンクラーヘッドSの組立時に頭部64Bが内周面32bに対して引っ掛からないことを確実にして、本体1とフレーム2を正しく組み立てることができる。他方、組立上の問題がなければ傾倒規制部32b1と頭部64Bとは部分的に又は全周に亘って接触していてもよい。
【0026】
弁体3の突起31の基端外周には、ノズル端11aが当接する円環状の当接面33が形成されている。弁体3は、
図2で示すように円盤状のデフレクター41に取付けられており、デフレクター41は弁体3に対して回転可能である。
【0027】
弁体3とノズル端11aとの間にはシール部材としてフッ素樹脂製の止水シートが設置されている(図示略)。止水シートは、弁体3の当接面33またはノズル端11aに貼付される。止水シートはこれに換えてフッ素樹脂によるコーティング層として設けてもよい。
【0028】
散水部4は、
図2、
図3で示すように、デフレクター41、ガイドリング42、ピン43を備えている。散水部4は、フレーム2の内周とノズル11の出口側の外周の間の内部空間に収容される。
【0029】
デフレクター41は、前述の弁体3と一体に組み込まれており、デフレクター41の中心穴には弁体3の凹み32を形成する円筒状の周壁34が挿通されている。デフレクター41の周縁には複数のスリット45が形成されており、このスリット45の形状により散水パターンをコントロールしている。またデフレクター41の周縁にはピン43が挿通されて固定される穴が複数設置されている。
【0030】
ガイドリング42は、リング状に形成されており、内周径はノズル11の出口側の外周径よりも大きい。ガイドリング42の外周径は、フレーム2の内周径よりも僅かに小さく、またフレーム2の段部22の内周径よりも大きい。ガイドリング42はフレーム2の内周面に沿って摺動可能であり、スプリンクラーヘッドSの作動時には段部22に係留される。ガイドリング42には、ピン43が挿通される穴が複数設置されており、その位置はデフレクター41に設置されたピン43が挿通される穴の位置に対応している。ガイドリング42の上部には、ガイドリング42をフレーム2の段部22に付勢するコイルスプリング49が設置されている(
図1)。
【0031】
また、ガイドリング42の内周部には、ノズル11の外周に沿って複数の爪42aが形成されている。
図2で示すように、本実施形態では3つの爪42aを設ける例を示している。爪42aが近接して配置されるノズル11の出口側の外周は先細り部11bとなっており、ガイドリング42が傾いて摺動した場合において、爪42aの先端が先細り部11bに引っ掛からないように構成している。
【0032】
ピン43は、細い棒状に形成されており、一端側には鍔部48が形成されている。ピン43は、前述のデフレクター41とガイドリング42の穴に挿通され、鍔部48が無い他端側からガイドリング42、デフレクター41の順に挿通される。挿通後、ピン43の他端側をカシメ加工によりデフレクター41に固定設置する。これにより、ガイドリング42はピン43に沿って摺動可能になる。
【0033】
組合せ皿ばね5は、弁体3と感熱分解部6の間に設置される。組合せ皿ばね5は、弁体3に接している主皿ばね51と、感熱分解部6に接している補助皿ばね52とを有している。両方の主皿ばね51と補助皿ばね52の中央にはそれぞれ貫通穴51C、52Cが設けられており、貫通穴51C、52Cには後述するセットスクリュー64の頭部64Bが挿通される。
【0034】
本実施形態において、補助皿ばね52の外径は主皿ばね51の外径よりも大きい。補助皿ばね52の外径は、ガイドリング42の外径およびフレーム2の段部22の内周径よりも小径である。
図1において、主皿ばね51および補助皿ばね52の外周と、フレーム2の内周面は離間した状態にある。
【0035】
主皿ばね51は、円環状の外周部51Aと、その内周から中心に向かって片持ち梁状に伸長するばね片部51Bから構成されている。外周部51Aは荷重を受ける機能を有し、ばね片部51Bはたわみ(変位量)として機能するように構成されている。ばね片部51Bは、図示のように6か所設置されており、ほぼ同じ幅(平行)に形成されており、その基端部は円弧状に広がる弧状縁として形成されている。ばね片部51Bの先端どうしの間隔(主皿ばね51の内径)は、セットスクリュー64の頭部64Bの外径よりも僅かに大径となっている。また、主皿ばね51は、外周側から中心に向かうに従って高くなるように形成されている。
【0036】
補助皿ばね52は、主皿ばね51と同様に外周部52Aと短ばね片部52Bから構成されている。短ばね片部52Bは主皿ばね51のばね片部51Bよりも短く、たわみ量が少ない。短ばね片部52Bは4箇所設置されており、ほぼ同じ幅(平行)に形成されており、その基端部は円弧状に広がる弧状縁として形成されている。短ばね片部52Bの先端どうしの間隔(補助皿ばね52の内径)は、セットスクリュー64の頭部64Bの外径よりも僅かに大径となっている。
【0037】
また、補助皿ばね52は、外周側から中心に向かうに従って高くなるように形成されている。補助皿ばね52の無荷重時の自由高さは、主皿ばね51のそれよりも小さい。上記より補助皿ばね52は主皿ばね51と比較して大径となっている。このため補助皿ばね52が、その内側傾斜面52Dによって主皿ばね51の外縁を支持することで、主皿ばね51がたわみ変形する動作を安定させることができる。したがって補助皿ばね52は主皿ばね51の「支持部材」としての機能を有する。また、補助皿ばね52は主皿ばね51と比較して、無荷重時の自由高さが平坦に近い形状となっている。補助皿ばね52は、主皿ばね51を安定して保持する「支持部材」としての機能を有する。このため補助皿ばね52の無荷重時の自由高さが平坦に近くたわみ量が主皿ばね51よりも少ないので、補助皿ばね52による主皿ばね51に対する支持が腰高とならず、安定して主皿ばね51を支持することができる。さらに、補助皿ばね52の板厚は主皿ばね51の板厚よりも厚く形成されており、主皿ばね51よりも補助皿ばね52のたわみ量を小さくすることができる。また補助皿ばね52の無荷重時の外径は後述のスライダー62の外径よりも小さく形成されている。
【0038】
主皿ばね51と補助皿ばね52は、お互いの外縁側が接するように組み合わされ、それらの貫通穴51C、52Cにはセットスクリュー64の頭部64Bが挿通される。これにより主皿ばね51の外縁と、補助皿ばね52の外周部52Aの漏斗状ないしすり鉢状の内側傾斜面52Dとの間の摩擦抵抗により、主皿ばね51と補助皿ばね52に荷重を印加する際、または荷重を除去する際に中心軸の位置ずれを防止することができる。したがって、主皿ばね51と補助皿ばね52には均等に荷重が付与され、過負荷による破損や荷重の偏りによるスプリンクラーヘッドSの作動不良を防止することができる。
【0039】
主皿ばね51は弁体3側に設置されており、補助皿ばね52は感熱分解部6側に設置されている。このような構成にすると、補助皿ばね52のたわみ量が少ないのでスプリンクラーヘッドSの作動時に、セットスクリュー64の頭部64Bが補助皿ばね52に挿通された状態のままで、補助皿ばね52を感熱分解部6とともにフレーム2の外に脱落させることができる。これにより作動過程において補助皿ばね52の外周縁がフレーム2の内周と干渉するのを防止できる。
【0040】
感熱分解部6は、複数のボール61、スライダー62、バランサー63、セットスクリュー64、プランジャー65、シリンダー66を備えている。
【0041】
複数のボール61は、鋼製の球体であり、本実施形態では同じサイズのものを8つ使用する。ボール61は円盤状のスライダー62の周縁に形成された凹みに収容されている。ボール61の外周下部はフレーム2の段部22に係止され、スライダー62がボール61を上方から押圧している。これにより各ボール61にはスプリンクラーヘッドSの中心軸側に移動する力が常時作用している。
【0042】
スライダー62は、円盤状に形成されており、前述のようにバランサー63側と対向する面の周縁にボール61と同数の8つの凹みが形成されている。8つの凹みは、スライダー62の周方向に沿って均等間隔で設置されており、これにより8つのボール61に印加される荷重が均一となる。荷重が均一となることで一部の部品へ荷重が集中することを防いで部品の損傷を防止するとともに、荷重の不均一によるスライダー62の傾きを防ぐことができる。これによりスライダー62上に設置された組合せ皿ばね5によるノズル端11aを閉止する荷重は、ノズル11の中心に印加される。したがってノズル端11aには組合せ皿ばね5による荷重が弁体3を介して均一に印加され、ノズル11からの水漏れを防止できる。
【0043】
バランサー63は、円筒状に形成されており、外周面上部が、ボール61の内側に設置され、その側面に形成された段部63Aによりボール61の移動を阻止している。スライダー62とバランサー63は中央に貫通穴を有している。スライダー62の貫通穴にはセットスクリュー64の脚部が挿通され、バランサー63の貫通穴にはプランジャー65が挿通されている。
【0044】
セットスクリュー64は、頭部64Bと脚部64Cとを有する。頭部64Bは、前述の凹み32と、主皿ばね51の貫通穴51Cと、補助皿ばね52の貫通穴52Cに挿通されている。セットスクリュー64の頭部64Bの先端部は球面状に形成されている。脚部64Cの先端側は牡ネジ64Aとなっており、スライダー62の貫通穴に挿通された後、プランジャー65の内周に設置された牝ネジ65Aと螺合される。
【0045】
セットスクリュー64の頭部64Bの高さは、積層された複数枚の組合せ皿ばね5の自由高さよりも大きくなるように形成されており、組合せ皿ばね5を重ね合わせた際にガイドの役割を果たす。セットスクリュー64の頭部64Bの高さが低い場合、組立時に組合せ皿ばね5が必要以上に潰れて機能しなくなるおそれがあることから、そのようなことがない程度にセットスクリュー64の頭部64Bの高さを設定することで、安定した状態で組合せ皿ばね5を保持することが可能となる。さらに、スプリンクラーヘッドSの作動時(感熱分解部6の分解作動時)に、セットスクリュー64の頭部64Bが主皿ばね51と補助皿ばね52に挿通された状態のままで、主皿ばね51と補助皿ばね52を感熱分解部6とともにフレーム2の外に脱落させることができる。これによりスプリンクラーヘッドSの作動過程において、主皿ばね51と補助皿ばね52の外周縁がフレーム2の内周と干渉するのを防止できる。また、前述のようにセットスクリュー64の頭部64Bが挿通される弁体3の凹み32の内周面32bはテーパー形状であるため、スプリンクラーヘッドSが作動するときのセットスクリュー64の傾きを抑えてロッジメントの発生を抑制することができる。
【0046】
プランジャー65は、円筒状に形成されており、上端の内周には前述の牝ネジ65Aが形成されている。プランジャー65の上端はバランサー63の上端を超える長さを有している。プランジャー65の下端には、
図6で示すように鍔部65Bが形成されており、鍔部65Bの上面にはリング状の低融点合金67が載置されている。この低融点合金67を覆うようにシリンダー66が設置されている。
【0047】
鍔部65Bの内側には、プランジャー65の下端から牝ネジ65Aに続く穴65Cが形成されている。穴65Cの内径は牝ネジ65Aの呼び径よりも大きく、プランジャー65の外周径と穴65Cの内周径の間には薄肉部65Dが設置される。薄肉部65Dは、牝ネジ65Aや鍔部65Bと比較して断面積が小さく熱伝導効率が良くないので、鍔部65B側で吸収した熱を牝ネジ65A側に伝わりにくくしている。また薄肉部65Dの強度を補うために穴65Cに樹脂製のキャップを挿入して構成してもよい。
【0048】
シリンダー66は、銅または銅合金にて形成されており、シリンダー66の表面から吸収した熱を低融点合金67に伝わりやすくしている。シリンダー66は低融点合金67が収容される凹み66Aを有しており、凹み66Aの中央にプランジャー65が挿通される貫通穴が設置されている。凹み66Aの縁には外部に向かって拡張された円盤部66Bが設置されており、円盤部66Bの外縁はフレーム2の方向に立設された側面部66Cとなっている。側面部66Cには長穴状の開口部66Dが複数設置されている。開口部66Dを通過して外部の気流が凹み66Aの外周面に到達することができ、火災の際には凹み66Aの内部に収容された低融点合金67に気流からの熱が伝わりやすくなっている。
【0049】
凹み66Aとバランサー63の下端の間には、リング状の断熱材68が設置され、断熱材68によってシリンダー66に伝わった火災の熱がバランサー63に伝搬するのを阻止している。前述の穴65Cを断熱材68の位置まで形成することができ、これにより断熱効果がさらに向上する。
【0050】
図6において、断熱材68と凹み66Aの間には、円盤状の感熱板69が設置されている。感熱板69は銅や銅合金にて形成され、表面で吸収した熱を凹み66Aの内部の低融点合金67に伝わりやすくしている。
【0051】
次に、
図1のスプリンクラーヘッドSの動作を
図7により説明する。
図7A~
図7Dは、スプリンクラーヘッドSの作動過程を示す図である。
【0052】
(a)スプリンクラーヘッドSの監視状態においては、本体1のノズル11には加圧された消火水が供給されており、弁体3には消火水の圧力が加えられている(
図7A)。
【0053】
(b)火災が発生し、その熱気流がシリンダー66に当たると熱が低融点合金67に伝わる。そして、低融点合金67が周囲から加熱されて溶融し始めると、溶融した低融点合金67はプランジャー65とシリンダー66の凹み66Aとの間に形成された隙間から流出してその体積が減少する(
図7B)。
【0054】
低融点合金67が溶融して凹み66Aの外部に流出すると、シリンダー66は低融点合金67の流出量に対応して降下する。シリンダー66が降下すると、シリンダー66の上に設置されている断熱材68及びバランサー63が降下する(
図7B)。
【0055】
バランサー63が降下すると、バランサー63とスライダー62との間の間隙が広がり、中心軸方向(内側)に付勢されているボール61がバランサー63の段部63Aを越えて内側に移動し、フレーム2の段部22とボール61との係合が解かれる。
【0056】
感熱分解部6が分解作動してその構成部品が移動するまでの間、即ちボール61が段部22から外れて組合せ皿ばね5及び感熱分解部6が降下するまでの間に、主皿ばね51と補助皿ばね52が無荷重状態に復元するまでのたわみ変形により、弁体3はノズル端11aに圧接されてノズル11の閉止状態を維持することができる。即ち、主皿ばね51と補助皿ばね52が平板状に圧縮された有荷重状態から無荷重状態に復元するまでのたわみ量(変位量)が残っている間、弁体3への荷重を印加し続けて、感熱分解部6が完全に落下するまで弁体3がノズル11を塞ぐことができる。このように主皿ばね51と補助皿ばね52を備えるスプリンクラーヘッドSによれば、それらの組合せにより得られる大きなたわみ量によって、分解作動時における感熱分解部6の構成部品の移動量を吸収することができ、低融点合金67の溶融からスプリンクラーヘッドSが作動に至るまでの間に弁体3をノズル端11aに安定して保持することができる。
【0057】
ここで主皿ばね51は弁体3と接しており、補助皿ばね52はスライダー62と接している。感熱分解部6が傾いて作動した場合(
図7B参照)、補助皿ばね52はスライダー62の傾きに従い、主皿ばね51と補助皿ばね52の軸芯がずれてしまうが、主皿ばね51の外縁が補助皿ばね52の外周部52Aの内側傾斜面52Dに接しているので、その摩擦抵抗により主皿ばね51の過度な軸芯のずれを抑制することができる。主皿ばね51のばね片部51Bは弁体3の底面に突出する周壁34の先端に接しており、主皿ばね51と補助皿ばね52の荷重を安定して弁体3に付与することができる。また上記に加えて弁体3の凹み32の内周面32bがテーパー状になっており、セットスクリュー64が過度に傾くことを防止している。
【0058】
(c)弁体3の下に配置されていた感熱分解部6が落下すると、組合せ皿ばね5および弁体3が降下する(
図7C)。その際、主皿ばね51と補助皿ばね52は、感熱分解部6のセットスクリュー64の頭部64Bが挿通された状態のままで降下する。主皿ばね51は補助皿ばね52に続いてセットスクリュー64の頭部64Bが挿通された状態のままフレーム2の外に降下する。主皿ばね51の外径は補助皿ばね52よりも小径なのでフレーム2の内周との干渉を避けることができる。
【0059】
また、弁体3の降下に伴って、弁体3に取り付けられているデフレクター41、デフレクター41に取り付けられているガイドリング42とピン43が降下する。ピン43が降下すると、その上部にある鍔部48がガイドリング42に係止され、ガイドリング42はフレーム2の段部22に係止され、弁体3及びデフレクター41がピン43によりフレーム2から吊り下げられた状態になる。このとき、ガイドリング42が傾いた状態でフレーム2の内部を下方へ移動する場合、ノズル11の先細り部11bにより爪42aの先端が干渉せずに移動できる。
【0060】
(d)以上のようにして弁体3が降下するとノズル11は開放され、加圧された消火水がデフレクター41に衝突して四方へ飛散され火災を消火する(
図7D)。
【0061】
実施形態の変形例
【0062】
前記実施形態では内周面32bがテーパー形状の凹み32を例示したが、
図8、
図9の変形例で示すように、凹み32の開口部32cに内周面32bに対して鋭角に広がる斜面部32c1を設けるようにしてもよい。これにより、作動過程において、組合せ皿ばね5がたわみ変形している状態のときはセットスクリュー64の頭部64Bが凹み32によって傾きを抑制された状態とし、感熱分解部6が脱落する際には、頭部64Bとの隙間が大きくなる斜面部32c1によってスムーズに脱落させることができる。
【0063】
前記実施形態の組合せ皿ばね5は、主皿ばね51と補助皿ばね52により構成する例を示したが、主皿ばね51のたわみ量に十分な余裕がある場合には、補助皿ばね52に代えて平ワッシャーで構成することもできる。
【符号の説明】
【0064】
S スプリンクラーヘッド
1 本体
1a フランジ部
2 フレーム
3 弁体
4 散水部
5 組合せ皿ばね
6 感熱分解部
11 ノズル
11a ノズル端(出口)
11b 先細り部
13 ネジ部
21 ネジ部
22 段部
31 突起
32 凹み(凹部)
32a 当接部
32b 内周面
32b1 傾倒規制部
32c 開口部
32c1 斜面部
33 当接面
34 周壁
41 デフレクター
42 ガイドリング
42a 爪
43 ピン
51 主皿ばね
51A 外周部
51B ばね片部
51C 貫通穴
52 補助皿ばね
52A 外周部
52B 短ばね片部
52C 貫通穴
52D 内側傾斜面
61 ボール
62 スライダー
63 バランサー
63A 段部
64 セットスクリュー
64A 牡ネジ
64B 頭部
64C 脚部
65 プランジャー
65A 牝ネジ
65B 鍔部
66 シリンダー
67 低融点合金
68 断熱材
69 感熱板