(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】骨質評価用マーカーおよびその用途
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20220621BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220621BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20220621BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20220621BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20220621BHJP
C12N 15/115 20100101ALI20220621BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20220621BHJP
C12Q 1/6874 20180101ALI20220621BHJP
C12Q 1/6872 20180101ALI20220621BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/53 D
G01N27/62 V
C07K16/18
C07K14/47
C12N15/115
C12N15/09 200
C12Q1/6874
C12Q1/6872
(21)【出願番号】P 2018084245
(22)【出願日】2018-04-25
【審査請求日】2021-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2017088883
(32)【優先日】2017-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江頭 健二
(72)【発明者】
【氏名】片岡 伸介
(72)【発明者】
【氏名】平野 久
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-261920(JP,A)
【文献】特開2007-178356(JP,A)
【文献】斎藤充,骨粗鬆症における病態の多様性,日本老年医学会雑誌,2013年08月27日,第50巻第2号,第140-143頁
【文献】Patrick PROVOST et al,Coactosin-like protein, a human F-actin-binding protein : critical role of lysine-75,Biochemical Journal,2001年12月01日,359,255-263
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の
(1)である、骨リモデリング評価用マーカー。
(1)Coactosin-like protei
n
【請求項2】
請求項1に記載の骨リモデリング評価用マーカーと、さらに下記(
2)~(4)、(10)~(14)、(18)~(21)および(25)~(27)からなる群より選ばれる少なくとも1つ
である骨リモデリング評価用
マーカーとを含む、
骨リモデリング評価用マーカーセット。
(2)Rho GDP-dissociation inhibitor 2
(3)Galectin-3-binding protein
(4)Guanine nucleotide-binding protein G(i)subunit alpha-2
(10)Heterogeneous nuclear ribonucleoprotein D0
(11)Prothrombin
(12)SPARC-like protein 1
(13)Myeloblastin
(14)Actin-related protein 3
(18)Collagen alpha-2(VI)chain
(19)CD9 antigen
(20)Ceruloplasmin
(21)Heterogeneous nuclear ribonucleoprotein U
(25)L-lactate dehydrogenase B chain
(26)Peroxiredoxin-5,mitochondrial
(27)Fructose-bisphosphate aldolase A
【請求項3】
請求項1に記載の骨リモデリング評価用マーカー又は請求項2に記載の骨リモデリング評価
用マーカーセットと、下記(5)~(9)、(15)~(17)、(22)~(24)および(28)~(30)からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、骨微細構造評価用マーカーとを含む、骨質評価用マーカーセット。
(5)Ubiquitin-conjugating enzyme E2 L3
(6)GTP-binding nuclear protein Ran
(7)Peptidyl-glycine alpha-amidating mon
ooxygenase
(8)Inter-alpha-trypsin inhibitor heavy
chain H1
(9)Macrophage-capping protein
(15)Myosin-7B
(16)Antithrombin-III
(17)Chromobox protein homolog 3
(22)Pyruvate kinase isozymes M1/M2
(23)Moesin
(24)Granulins
(28)Actin-related protein 2
(29)Transforming protein RhoA
(30)Transaldolase
【請求項4】
請求項1
に記載の骨リモデリング評価用マーカー、請求項2に記載の骨リモデリング評価用マーカーセットを構成するマーカー、又は請求項3に記載の骨質評価用マーカーセットを構成するマーカーと特異的に結合する、骨質評価用抗体またはアプタマー。
【請求項5】
請求項1
に記載の骨リモデリング評価用マーカー、請求項2に記載の骨リモデリング評価用マーカーセットを構成するマーカー、又は請求項3に記載の骨質評価用マーカーセットを構成するマーカーと特異的に結合する分子が結合している固相化担体を含む、マイクロアレイ。
【請求項6】
前記分子が、請求項4に記載の抗体またはアプタマーである、請求項
5に記載のマイクロアレイ。
【請求項7】
被検者由来の生体試料における、請求項1
に記載の骨リモデリング評価用マーカーの量を測定することを含む、骨質の評価のための
骨リモデリング評価用マーカーの検出方法。
【請求項8】
被検者由来の生体試料における、請求項2に記載の骨リモデリング評価用マーカーセットを構成するマーカーの量を測定することを含む、骨質の評価のための骨リモデリング評価用マーカーセットの検出方法。
【請求項9】
被検者由来の生体試料における、請求項3に記載の骨質評価用マーカーセットを構成するマーカーの量を測定することを含む、骨質の評価のための骨質評価用マーカーセットの検出方法。
【請求項10】
候補物質投与済みの被検者に由来の生体試料における、請求項1
に記載の骨リモデリング評価用マーカーの量を測定することを含む、候補物質の骨質に対する効果を確認するための骨
リモデリング評価用マーカーの検出方法。
【請求項11】
医療措置終了後の被検者に由来の生体試料における請求項1
に記載の骨リモデリング評価用マーカーの量を測定することを含む、医療措置の骨質に対する効果を確認するための骨
リモデリング評価用マーカーの検出方法。
【請求項12】
被検者由来の生体試料における、請求項1
に記載の骨リモデリング評価用マーカーの量を測定することを含む、歯槽骨疾患、骨粗鬆症または糖尿病診断のための骨
リモデリング評価用マーカーの検出方法。
【請求項13】
生体試料が、唾液、歯垢、舌苔、または歯肉滲出液である、請求項
7~
12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
測定は、請求項
4に記載の抗体またはアプタマー、あるいは請求項
5または
6に記載のマイクロアレイを用いた測定である、請求項
7~
13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記測定は、質量分析法、ELISA、またはウエスタンブロット法である分析法による測定である、請求項
7~
14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
請求項
4に記載の抗体またはアプタマー、あるいは請求項
5または
6に記載のマイクロアレイを含む、骨質評価用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨質評価用マーカーおよびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
骨折やそれに伴う寝たきりは、生活の質を損なう大きな社会問題である。骨強度の低下は、骨折の原因のうち重要なものとされている。2000年に米国国立衛生研究所(NIH)で開かれたコンセンサス会議において、骨強度が骨密度および骨質の2つの要因から規定され、骨質の要素として骨リモデリング、骨微細構造が挙げられている。糖尿病患者では骨密度が高いにも関わらず骨折リスクが高く、糖尿病により骨質が低下することが知られており(非特許文献1)、骨強度の70%は骨密度により規定され、30%は骨質から特定されるとの報告もある(非特許文献2)。これらのことから、骨質の役割が新たに注目されるようになってきた。
【0003】
現在、骨質を把握するツールが開発されつつある。骨の微細構造を把握するツールとしては、X線CTによる骨構造解析が挙げられる。また、骨リモデリングを把握するツールとしては血液中、尿中の骨代謝マーカーの測定などが挙げられる。
【0004】
非特許文献3には、歯周病患者の唾液中のMIP-1α(Macrophage Inflammatory Protein 1 alpha)が骨リモデリングに関わるバイオマーカーの可能性があることが記載されている。非特許文献4には、骨形成と骨吸収の連携には、多細胞からなるユニット内の細胞小器官等様々なシグナルが関わることが記載されている。特許文献1~4には唾液等から採取される種々の特定の物質が、それぞれ、骨吸収、骨量減少、骨密度、破骨細胞の骨吸収活性のマーカーとなり得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表平10-507829号公報
【文献】特表2016-507236号公報
【文献】特表2012-506551号公報
【文献】特表2012-523002号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】神田省吾ほか「歯槽骨骨密度評価装置の臨床的評価.」 THE JOURNAL OF THE ACADEMY OF CLINICAL DENTISTRY 32.1-2(2012):65-70.
【文献】Yamaguchi,Toru and Toshitsugu Sugimoto.“Bone metabolism and fracture risk in type 2 diabetes mellitus.”BoneKEy reports 1.2(2012).
【文献】Al-Sabbagh,Mohanad,et al.“Bone remodeling-associated salivary biomarker MIP-1α distinguishes periodontal disease from health.”Journal of periodontal research 47.3(2012):389-395.
【文献】Sims,Natalie A.,and T.John Martin.“Coupling the activities of bone formation and resorption:a multitude of signals within the basic multicellular unit.”BoneKEy reports 3(2014):1-10.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、X線CTによる方法では、X線による被爆の懸念があり、また、血液中および尿中の骨代謝マーカーの測定による方法では、採血、採尿の肉体的・精神的苦痛を伴い、これらの方法を骨質の予防的ツールとして利用するのは改善の余地がある。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡易に、かつ、客観的に骨質を評価可能な新規の骨質評価用マーカーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは下記の〔1〕~〔17〕を提供する。
〔1〕以下の(1)~(30)からなる群より選ばれる少なくとも1つである、骨質評価用マーカー。
(1)Coactosin-like protein
(2)Rho GDP-dissociation inhibitor 2
(3)Galectin-3-binding protein
(4)Guanine nucleotide-binding protein G(i)subunit alpha-2
(5)Ubiquitin-conjugating enzyme E2 L3
(6)GTP-binding nuclear protein Ran
(7)Peptidyl-glycine alpha-amidating monooxygenase
(8)Inter-alpha-trypsin inhibitor heavy chain H1
(9)Macrophage-capping protein
(10)Heterogeneous nuclear ribonucleoprotein D0
(11)Prothrombin
(12)SPARC-like protein 1
(13)Myeloblastin
(14)Actin-related protein 3
(15)Myosin-7B
(16)Antithrombin-III
(17)Chromobox protein homolog 3
(18)Collagen alpha-2(VI)chain
(19)CD9 antigen
(20)Ceruloplasmin
(21)Heterogeneous nuclear ribonucleoprotein U
(22)Pyruvate kinase isozymes M1/M2
(23)Moesin
(24)Granulins
(25)L-lactate dehydrogenase B chain
(26)Peroxiredoxin-5,mitochondrial
(27)Fructose-bisphosphate aldolase A
(28)Actin-related protein 2
(29)Transforming protein RhoA
(30)Transaldolase
〔2〕前記(1)~(4)、(10)~(14)、(18)~(21)および(25)~(27)からなる群より選ばれる少なくとも1つを含み、骨リモデリング評価用である、〔1〕に記載のマーカー。
〔3〕前記(5)~(9)、(15)~(17)、(22)~(24)および(28)~(30)からなる群より選ばれる少なくとも1つを含み、骨微細構造評価用である、〔1〕に記載のマーカー。
〔4〕前記(1)~(4)、(10)~(14)、(18)~(21)および(25)~(27)からなる群より選ばれる少なくとも1つと、前記(5)~(9)、(15)~(17)、(22)~(24)および(28)~(30)からなる群より選ばれる少なくとも1つとを含む、〔1〕に記載のマーカー。
〔5〕〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載のマーカーと特異的に結合する、骨質評価用抗体またはアプタマー。
〔6〕〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載のマーカーと特異的に結合する分子が結合している固相化担体を含む、マイクロアレイ。
〔7〕前記分子が、〔5〕に記載の抗体またはアプタマーである、〔6〕に記載のマイクロアレイ。
〔8〕被検者由来の生体試料における、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載のマーカーの量を測定することを含む、骨質の評価のための骨質評価用マーカーの検出方法。
〔9〕マーカーは、〔2〕に記載のマーカーを含み、骨質の評価は骨リモデリングの評価を含む、〔8〕に記載の方法。
〔10〕マーカーは、〔3〕に記載のマーカーを含み、骨質の評価は骨微細構造の評価を含む、〔8〕または〔9〕に記載の方法。
〔11〕骨質が低下している被検者に候補物質を投与し、少なくとも投与後の被検者由来の生体試料における〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載のマーカーの量を測定することを含む、候補物質の骨質に対する効果を確認するための骨質評価用マーカーの検出方法。
〔12〕骨質が低下している被検者に医療措置を行い、少なくとも措置終了後の被検者由来の生体試料における〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載のマーカーの量を測定することを含む、医療措置の骨質に対する効果を確認するための骨質評価用マーカーの検出方法。
〔13〕被検者由来の生体試料における、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載のマーカーの量を測定することを含む、歯槽骨疾患、骨粗鬆症または糖尿病診断のための骨質評価用マーカーの検出方法。
〔14〕生体試料が、唾液、歯垢、舌苔、または歯肉滲出液である、〔8〕~〔13〕のいずれか1項に記載の方法。
〔15〕測定は、〔5〕に記載の抗体またはアプタマー、あるいは〔6〕または〔7〕に記載のマイクロアレイを用いた測定である、〔8〕~〔14〕のいずれか1項に記載の方法。
〔16〕前記測定は、質量分析法、ELISA、またはウエスタンブロット法である分析法による測定である、〔8〕~〔15〕のいずれか1項に記載の方法。
〔17〕〔5〕に記載の抗体またはアプタマー、あるいは〔6〕または〔7〕に記載のマイクロアレイを含む、骨質評価用キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、骨微細構造、骨リモデリング等の骨質をより簡便に、かつ、客観的に判定することができる。本発明を利用して、医者の診断に先だって骨質の評価を行えば、骨質と関連する健康変動のチェッカーとして利用することができ、健康維持に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔骨質、骨リモデリング、骨微細構造〕
本発明において骨質とは、骨密度と共に骨強度を規定する因子である。骨質は、骨リモデリング、骨微細構造により制御されることから、骨質の評価は、骨リモデリングの評価または骨微細構造の評価によることが好ましく、両評価によることがより好ましい。本発明において骨リモデリングとは、骨吸収と骨形成のバランスであり、骨吸収速度、骨形成速度、骨石灰化速度等の要因により評価され得る。本発明において骨微細構造とは、骨の海綿質の構造である。海綿質には適切な幅、間隔を有する適切な数の骨梁が形成され、これにより骨の強度が保持されている。
【0012】
〔骨質評価用マーカー〕
本発明の骨質評価用マーカーは、以下のタンパク質(1)~(30)からなる群から選択される少なくとも1つである。
(1)Coactosin-like protein(COTL1)
(2)Rho GDP-dissociation inhibitor 2(ARHGDIB)
(3)Galectin-3-binding protein(LGALS3BP)
(4)Guanine nucleotide-binding protein G(i)subunit alpha-2(GNAI2)
(5)Ubiquitin-conjugating enzyme E2 L3(UBE2L3)
(6)GTP-binding nuclear protein Ran(ARA24)
(7)Peptidyl-glycine alpha-amidating monooxygenase(PAM)
(8)Inter-alpha-trypsin inhibitor heavy chain H1(ITIH1)
(9)Macrophage-capping protein(CAPG)
(10)Heterogeneous nuclear ribonucleoprotein D0(HNRPD)
(11)Prothrombin(THRB)
(12)SPARC-like protein 1(SPRL1)
(13)Myeloblastin(PRTN3)
(14)Actin-related protein 3(ARP3)
(15)Myosin-7B(MYH7B)
(16)Antithrombin-III(ANT3)
(17)Chromobox protein homolog 3(CBX3)
(18)Collagen alpha-2(VI)chain(CO6A2)
(19)CD9 antigen(CD9)
(20)Ceruloplasmin(CERU)
(21)Heterogeneous nuclear ribonucleoprotein U(HNRPU)
(22)Pyruvate kinase isozymes M1/M2(KPYM)
(23)Moesin(MOES)
(24)Granulins(GRN)
(25)L-lactate dehydrogenase B chain(LDHB)
(26)Peroxiredoxin-5,mitochondrial(PRDX5)
(27)Fructose-bisphosphate aldolase A(ALDOA)
(28)Actin-related protein 2(ARP2)
(29)Transforming protein RhoA(RHOA)
(30)Transaldolase(TALDO)
【0013】
骨質が正常な被検者由来の生体試料中の(1)~(30)の量は、骨質が低下している被検者由来の生体試料中の当該タンパク質の量と異なる傾向にある。そのため、上記(1)~(30)は、骨質評価マーカーとして有用である。
【0014】
(1)、(2)、(4)、(5)、(6)、(9)、(10)、(13)、(14)、(15)、(17)、(19)、(21)、(22)、(23)、(25)、(26)、(27)、(28)、(29)、および(30)は、骨質が低下している被検者において健常者と比較して増加する傾向にある。
(3)、(7)、(8)、(11)、(12)、(16)、(18)、(20)、および(24)は、骨質が低下している被検者において健常者と比較して低下する傾向にある。
【0015】
本発明の骨質評価用マーカーは上記の(1)~(30)からなる群から選択される1つでもよいし、2つ以上の組み合わせでもよく、2つ以上の組み合わせが好ましい。骨質評価用マーカーは、上記(1)~(4)、(10)~(14)、(18)~(21)および(25)~(27)からなる群より選ばれる少なくとも1つ、並びに、(5)~(9)、(15)~(17)、(22)~(24)および(28)~(30)からなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。これにより、以下説明するように骨リモデリング評価および骨微細構造評価の両方を行うことができる。
【0016】
骨質評価用マーカーが上記(1)~(4)、(10)~(14)、(18)~(21)および(25)~(27)からなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことにより、被検者の骨リモデリングを評価できる。被検者由来の生体試料中の(1)、(10)~(11)および(25)~(27)の量は骨吸収速度の、(2)、(12)および(18)の量は被検者の骨形成速度の、(3)~(4)、(13)~(14)、および(19)~(21)の量は骨石灰化速度の、それぞれ指標となり得る。(1)~(4)、(10)~(14)、(18)~(21)および(25)~(27)からなる群より選ばれる少なくとも1つは、(1)~(4)、(10)~(14)、(18)~(21)および(25)~(27)からなる群より選ばれる2以上の組み合わせが好ましく、(1)、(10)、(11)および(25)~(27)からなる群より選ばれる少なくとも1つと、(2)、(12)および(18)からなる群より選ばれる少なくとも1つと、(3)、(4)、(13)、(14)および(19)~(21)からなる群より選ばれる少なくとも1つの組み合わせがより好ましい。これにより、被検者の骨吸収速度、骨形成速度、および骨石灰化速度から選ばれる少なくとも2つを評価でき、骨リモデリングをより具体的に評価することができる。
【0017】
骨質評価用マーカーが(5)~(9)、(15)~(17)、(22)~(24)および(28)~(30)からなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことにより、被検者の骨微細構造を評価できる。被検者由来の生体試料中の、(5)、(6)、(15)、(22)、(23)および(28)~(30)の量は骨梁間隔の、(7)、(8)、(16)および(17)の量は骨梁幅の、(9)および(24)の量は骨梁数の、それぞれ指標となり得る。(5)~(9)、(15)~(17)、(22)~(24)および(28)~(30)からなる群より選ばれる少なくとも1つは、(5)~(9)、(15)~(17)、(22)~(24)および(28)~(30)からなる群より選ばれる2以上の組み合わせがより好ましく、(5)、(6)、(15)、(22)、(23)および(28)~(30)からなる群より選ばれる少なくとも1つと、(7)、(8)、(16)および(17)からなる群より選ばれる少なくとも1つと、(9)および(24)からなる群より選ばれる少なくとも1つの組み合わせがさらに好ましい。これにより、被検者の骨梁間隔、骨梁幅および骨梁数から選ばれる少なくとも2つを評価でき、骨微細構造をより具体的に評価することができる。
【0018】
本発明において評価とは、健常者と比較した際の低下(劣化)の有無の評価(判定)、正常または異常の評価(判定)、将来的な低下(劣化)リスクの評価(判定)が挙げられる。本発明における評価は、通常、いわゆる医師による医療行為における診断に対し予備的に示される指標である。骨質は、歯槽骨の骨質、骨粗鬆症、糖尿病等の各疾患と相関していることから、本発明の骨質評価用マーカーは、これらの評価のために利用することができる。
【0019】
〔抗体、アプタマー、マイクロアレイ〕
本発明の抗体およびアプタマーは、上記骨質評価用マーカーの各ペプチドに特異的に結合する抗体およびアプタマーである。これを用いることにより、上記マーカーによる骨質評価を簡便かつ容易に行うことができる。抗体またはアプタマーは、常法により作製することができる。
【0020】
本発明のマイクロアレイ(タンパク質アレイまたは核酸アレイ)は、上記骨質評価用マーカーと特異的に結合する分子が担体上に固相化されているマイクロアレイである。これを用いることにより、上記マーカーによる骨質評価を簡便かつ容易に行うことができる。
【0021】
骨質評価用マーカーと特異的に結合する分子としては、骨質評価用マーカーのタンパク質の少なくとも一部と特異的に結合する分子(例えば、前述の抗体、アプタマー)、上記タンパク質をコードする核酸の少なくとも一部と特異的に結合する分子(例えば、DNA、RNA、PNA等、該核酸とハイブリダイズし得るプローブ)が挙げられる。担体は、上記骨質評価用マーカーであるタンパク質を固定化可能であればよく、特に限定されないが、材料としては例えば、ガラス、シリコンなどの無機材料、ニトロセルロースなどの有機材料が挙げられる。担体の形状としては、例えば、膜、ビーズ、チップ、ロッド、プレートが挙げられる。
【0022】
マイクロアレイの製造方法は特に限定されず、上記マーカー、抗体またはアプタマーを担体に物理的吸着、官能基を利用した共有結合等の任意の手法により固定化して製造すればよい。固定化の際には、マイクロアレイヤー、スポッター等の機器を用いることができる。
【0023】
〔骨質評価用マーカーの検出方法〕
本発明の骨質評価用マーカーの検出方法は、被検者由来の生体試料中の骨質評価用マーカーの量を測定することを含む方法である。本発明の方法は、被検者の骨質の評価、候補物質の骨質に対する効果の確認、医療措置の骨質に対する効果の確認のために行うことができる。
【0024】
-被検者の骨質の評価-
被検者の骨質の評価のために骨質評価用マーカーを検出する場合、本発明の方法は、被検者の生体試料中の骨質評価用マーカーの量を測定することを含む。
【0025】
生体試料としては、被検者から採取可能な生体試料であれば特に限定されないが、例えば、唾液、歯垢、舌苔、歯肉滲出液、血液(全血、血漿、血清等)、尿、汗、涙等の体液、細胞、組織が挙げられる。このうち、非侵襲的かつ常時採取可能な生体試料が好ましく、唾液、歯垢、舌苔、または歯肉滲出液がより好ましい。これにより、被検者の負担を軽減できる。
【0026】
被検者は、通常は哺乳類である。哺乳類としては、例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタ等が挙げられ、好ましくはヒトである。被検者の性別、年齢、健康状態は特に限定されない。
【0027】
骨質評価用マーカーの量は、通常は生体試料中のマーカーの含有量であるが、含有量に限定されずタンパク質の発現量、タンパク質をコードする遺伝子の発現量でもよい。骨質評価用マーカーが前記(1)~(30)からなる群より選ばれる2以上の組み合わせである場合、それぞれの含有量であることが好ましい。骨質評価用マーカーの量の測定は、上記の抗体、アプタマー、マイクロアレイを利用することが好ましく、測定方法としては例えば、質量分析法、RIA(ラジオイムノアッセイ)、免疫測定法(例えば、ELISA(酵素結合免疫吸着法)、ECLIA(電気化学発光免疫測定法)、蛍光標識抗体法、放射線標識抗体法)、イムノブロット法(例えば、ウエスタンブロット法)、表面プラズモン共鳴法等が挙げられる。
【0028】
質量分析法においては、各種の質量分析装置を利用することができる。例えば、LC-MS、LC-MS/MS、GC-MS、FAB-MS、EI-MS、CI-MS、FD-MS、MALDI-MS、ESI-MS、HPLC-MS、FT-ICR-MS、CE-MS、ICP-MS、Py-MS、TOF-MS等がある。これらのいずれも利用可能である。
【0029】
上述の本発明の抗体、アプタマー、マイクロアレイを用いる免疫測定法による測定の一例を以下に示す。生体試料を必要に応じて希釈した後、抗体、アプタマーまたはマイクロアレイを添加してインキュベーションする。次に、蛍光発光物質、化学発光物質または酵素を結合させた2次抗体等の標識物質を加えインキュベーションする。検出はそれぞれの基質を加えた後、標識物質の量を直接または間接的に計測し、マーカーの量を得る。
【0030】
生体試料中の成分の同定は、次のように行うことができる。例えば、LC-MS法で成分の同定を行う場合、「標準となる化合物」のデータと比較して行うことができる。
また、LC-MS/MS法で成分の同定を行う場合、「標準となる化合物」および「一般公開データベース(UniProtKB)」等の既知のデータと比較して行うことができる。成分に既知のデータが存在しない場合、MS/MS分析を行うことで未知の成分を同定することができる。
【0031】
評価においては、各成分の含有量を変数とする多変量解析を行ってもよい。多変量解析としては例えば、ロジスティック回帰分析、重回帰分析、主成分分析、独立成分分析、因子分析、判別分析、数量化理論、クラスター分析、コンジョイント分析および多次元尺度構成法(MDS)がある。
【0032】
本発明の方法においては、通常、被検者由来の生体試料におけるマーカーの量の測定値から骨質の評価を行う。骨質の評価は、基準値との比較により行えばよい。基準値としては例えば、骨質が正常であることが予め確認済みの健常者の生体試料におけるマーカーの量の測定値が挙げられる(基準値における生体成分は、通常、被検者由来の生体成分と同じ成分である)。その場合、被検者由来の生体試料における(3)、(7)、(8)、(11)、(12)、(16)、(18)、(20)、および(24)からなる群より選ばれる少なくとも1つの量が基準値より低い場合には、骨質が低下(劣化)していると評価され、基準値と同等以上である場合には、骨質が正常であると評価される。被検者由来の生体試料における(1)、(2)、(4)、(5)、(6)、(9)、(10)、(13)、(14)、(15)、(17)、(19)、(21)、(22)、(23)、(25)、(26)、(27)、(28)、(29)、および(30)からなる群より選ばれる少なくとも1つの量が基準値より高い場合には、骨質が異常であると評価され、基準値と同等以下である場合には、骨質が正常であると評価される。
【0033】
マーカーとして、(1)~(4)、(10)~(14)、(18)~(21)および(25)~(27)からなる群より選ばれる少なくとも1つのマーカーを用いることにより、骨リモデリング評価を行うことができる。被検者由来の生体試料中のマーカーの量の測定値から骨リモデリングの評価を行う場合にも、通常は、基準値との比較が行われる。基準値としては例えば、骨リモデリングが正常であることが予め確認済みの健常者の測定値が挙げられる。その場合、被検者由来の生体試料における(3)、(11)、(12)、(18)、および(20)からなる群より選ばれる少なくとも1つの量が基準値より低い場合には、骨リモデリングが低下(劣化)していると評価され、基準値と同等以上である場合には、骨リモデリングが正常になされていると評価される。被検者由来の生体試料における(1)、(2)、(4)、(10)、(13)、(14)、(19)、(21)、(25)、(26)、および(27)からなる群より選ばれる少なくとも1つの量が基準値より高い場合には、骨リモデリングが異常であると評価され、基準値と同等以下である場合には、骨リモデリングが正常になされていると評価される。
【0034】
マーカーとして、(5)~(9)、(15)~(17)、(22)~(24)および(28)~(30)からなる群より選ばれる少なくとも1つのマーカーを用いることにより、骨微細構造の評価を行うことができる。被検者由来の生体試料中のマーカーの量の測定値から骨微細構造の評価を行う場合にも、通常は、基準値との比較が行われる。基準値としては例えば、骨微細構造が正常であることが予め確認済みの健常者の測定値が挙げられる。その場合、被検者由来の生体試料における(7)、(8)、(16)、および(24)からなる群より選ばれる少なくとも1つの量が基準値より低い場合には、骨微細構造が劣化していると評価され、基準値と同等以上である場合には、骨微細構造が正常であると評価される。被検者由来の生体試料における(5)、(6)、(9)、(15)、(17)、(22)、(23)、(28)、(29)、および(30)からなる群より選ばれる少なくとも1つの量が基準値より高い場合には、骨微細構造が劣化していると評価され、基準値と同等以下である場合には、骨微細構造が正常であると評価される。
【0035】
骨質は、歯槽骨の骨質、骨粗鬆症、糖尿病等の疾患と相関していることから、本発明の方法は、歯槽骨疾患、骨粗鬆症または糖尿病診断(通常は、いわゆる医療行為における医師等の診断の予備的指標の提供)のために行ってもよい。これらの場合、骨質が低下していると評価される場合は、歯槽骨疾患、骨粗鬆症または糖尿病に罹患している可能性が高いと診断され、骨質が正常であると評価される場合は、歯槽骨疾患、骨粗鬆症または糖尿病に罹患している可能性は低いと診断され得る。
【0036】
-候補物質の骨質に対する効果の確認-
候補物質の骨質に対する効果の確認のために骨質評価用マーカーを検出する場合、本発明の方法は、骨質が低下している被検者に候補物質を投与し、少なくとも投与後の被検者由来の生体試料における上記マーカーの量を測定することを含む。
【0037】
候補物質は特に限定されず、骨質に対する効果の確認が求められる物質であればよい。動植物、微生物等生物由来の成分(抽出物、精製物)でもよく、人工的に製造された成分でもよく、また、化合物でもよいし組成物でもよい。
【0038】
生体試料の具体例および好ましい例は上記の骨質の評価のための本発明の方法の場合と同様である。被検者は、骨質が低下している被検者であり、骨質が低下していることが予め他の方法により(例えば、医師の診断により)確認されている被検者が好ましい。被検者は、ヒトに限定されず、ヒト以外の哺乳類(例えばマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ等の実験動物)でもよい。
【0039】
骨質評価用マーカーの量の定義およびその測定の、具体例および好ましい例は、上記の骨質の評価のための本発明の方法の場合と同様である。
【0040】
本発明の方法においては、通常、被検者に候補物質を投与し、少なくとも投与後の生体試料におけるマーカーの量の測定値から、候補物質の骨質に対する効果を確認する。確認は、少なくとも投与後の生体試料について行えばよく、投与期間終了後、投与期間の途中の各生体試料について行うことができ、投与期間投与終了までの間に2回以上行ってもよい。候補物質の骨質に対する効果の確認は、基準値との比較により行えばよい。基準値としては例えば、投与前の当該被検者由来の生体試料におけるマーカーの量の測定値、骨質が正常または異常であることが明らかな他の個体由来の生体試料におけるマーカーの量が挙げられる(基準値における生体試料は、通常、被検者由来の生体試料と同じである)。基準値が投与前の当該被検者由来の生体試料におけるマーカーの量である場合、投与後の被検者由来の生体試料における(3)、(7)、(8)、(11)、(12)、(16)、(18)、(20)、および(24)から選ばれる少なくとも1つの量が基準値より低いまたは同等である場合には、候補物質の骨質改善効果は低い可能性があることが確認され、基準値よりも高い場合には、候補物質の骨質改善効果が高い可能性があることが確認される。被検者由来の生体試料における(1)、(2)、(4)、(5)、(6)、(9)、(10)、(13)、(14)、(15)、(17)、(19)、(21)、(22)、(23)、(25)、(26)、(27)、(28)、(29)、および(30)からなる群より選ばれる少なくとも1つの量が基準値より高いまたは同等である場合には、候補物質の骨質改善効果は低い可能性があることが確認され、基準値より低下した場合には、候補物質の骨質改善効果が高い可能性があることが確認される。
【0041】
マーカーとして(1)~(4)、(10)~(14)、(18)~(21)および(25)~(27)からなる群より選ばれる少なくとも1つのマーカーを用いることにより、候補物質の骨リモデリングに対する効果の評価を行うことができる。マーカーとして(5)~(9)、(15)~(17)、(22)~(24)および(28)~(30)からなる群より選ばれる少なくとも1つのマーカーを用いることにより、候補物質の骨微細構造に対する効果の評価を行うことができる。また、骨質は、歯槽骨の骨質、骨粗鬆症、糖尿病等の疾患と相関していることから、本発明の方法は、歯槽骨疾患、骨粗鬆症または糖尿病治療、予防、症状の改善または改善効果に対する候補物質の効果の評価のために行ってもよい。
【0042】
-医療措置の骨質に対する効果の確認-
医療措置の骨質に対する効果の確認のために骨質評価用マーカーを検出する場合、本発明の方法は、骨質が低下している被検者に医療措置を実施し、少なくとも実施後の被検者由来の生体試料における上記マーカーの量を測定することを含む。
【0043】
医療措置は特に限定されず、骨質に対する効果の確認が求められる措置であればよい。例えば、投薬、候補物質の投与、外科的措置が挙げられる。生体試料、被検者の具体例および好ましい例、骨質評価用マーカーの量の定義およびその測定の具体例および好ましい例は、上記の候補物質の骨質に対する効果の確認のための本発明の方法の場合と同様である。
【0044】
本発明の方法においては、通常、被検者に医療措置を実施し、少なくとも実施後の生体試料におけるマーカーの量の測定値から、医療措置の骨質に対する効果を確認する。確認は、少なくとも医療措置実施後の生体試料について行えばよく、実施期間終了後、実施期間の途中の各生体試料について行うことができ、実施期間終了までの間に2回以上行ってもよい。医療措置の骨質に対する効果の確認は、基準値との比較により行えばよい。基準値としては例えば、実施前の当該被検者由来の生体試料におけるマーカーの量の測定値、骨質が正常または異常であることが明らかな他の個体由来の生体試料におけるマーカーの量が挙げられる(基準値における生体試料は、通常、被検者由来の生体試料と同じである)。基準値が実施前の当該被検者由来の生体試料におけるマーカーの量である場合、実施後の被検者由来の生体試料における(3)、(7)、(8)、(11)、(12)、(16)、(18)、(20)、および(24)からなる群より選ばれる少なくとも1つの量が基準値より低いまたは同等である場合には、医療措置の骨質改善効果は低い可能性があることが確認され、基準値よりも高い場合には、医療措置の骨質改善効果が高い可能性があることが確認される。被検者由来の生体試料における(1)、(2)、(4)、(5)、(6)、(9)、(10)、(13)、(14)、(15)、(17)、(19)、(21)、(22)、(23)、(25)、(26)、(27)、(28)、(29)、および(30)からなる群より選ばれる少なくとも1つの量が基準値より高いまたは同等である場合には、医療措置の骨質改善効果は低い可能性があることが確認され、基準値より低下した場合には、医療措置の骨質改善効果が高い可能性があることが確認される。
【0045】
マーカーとして(1)~(4)、(10)~(14)、(18)~(21)および(25)~(27)からなる群より選ばれる少なくとも1つのマーカーを用いることにより、医療措置の骨リモデリングに対する効果の評価を行うことができる。マーカーとして(5)~(9)、(15)~(17)、(22)~(24)および(28)~(30)からなる群より選ばれる少なくとも1つのマーカーを用いることにより、医療措置の骨微細構造に対する効果の評価を行うことができる。また、骨質は、歯槽骨の骨質、骨粗鬆症、糖尿病等の疾患と相関していることから、本発明の方法は、歯槽骨疾患、骨粗鬆症または糖尿病治療、予防、症状の改善または改善効果に対する医療措置の効果の評価のために行ってもよい。
【0046】
〔本発明の骨質評価用キット〕
本発明の骨質評価用キットは、上記抗体、アプタマーまたはマイクロアレイを含む。
【0047】
キットは、骨質評価用マーカーの量の測定の際に用いる試薬を更に含んでいてもよい。
試薬は、測定方法によって適宜選択することが出来、例えば、マーカーに結合した核酸や抗体を定量するための標識物質(例えば、抗体、核酸プローブ、その他の親和性リガンド)が挙げられる。
【0048】
キットは、被検者から生体試料をサンプリングする際に用いる用具、例えばガムを更に含んでいてもよい。ガムは、刺激唾液採取用に通常用いられているガム(パラフィンガム等)であればよい。
【実施例】
【0049】
実施例1.骨質に関与するタンパク質の同定
1-1)2型糖尿病モデルマウスの飼育
8週齢の雄性2型糖尿病モデルマウスKK/TaJcl(日本クレア)9匹を搬入し、蒸留水、市販のペレットエサ(CE-2、日本クレア)を自由摂取させて12週間飼育し、20週齢時に麻酔下で腹部大静脈からの採血により安楽死した。糖尿病の発症を確認するため、採血した血液サンプルにおけるHbA1c値(NGSP,%)を測定した。
【0050】
1-2-1)マウス歯槽骨の骨リモデリング解析
1-1)で飼育したマウスについて19週齢時にテトラサイクリン、その5日後にカルセインを皮下投与した。カルセイン投与の3日後に歯槽骨検体を採取、蛍光試薬投与時に形成中の骨に取り込まれたテトラサイクリン、カルセインを蛍光顕微鏡で検出、蛍光強度から骨形成速度(mm3/mm2/year)、骨吸収速度(mm2/mm2/year)、骨石灰化速度(μm/day)を算出した。
【0051】
1-2-2)歯槽骨の微細構造解析
1-1)で採取した歯槽骨をX線CTにより撮影し、TRI/3D-BON(ラトックシステムエンジニアリング社)を用いて、下顎歯槽骨の骨構造パラメータ解析を実施し、骨梁幅Tb.Th(μm)、骨梁間隔Tb.sp(μm)、骨梁数Tb.N(1/mm)を計測した。
【0052】
1-2-3)骨リモデリング、骨微細構造と相関するタンパク質の探索
1-2-2)の解析で用いた歯槽骨から抽出したタンパク質1μgをLC-MS/MS(Ultimate3000 RSLC Nano system:ダイオネクス社、LTQ Orbitrap Velos:Thermo Fisher Scientific社)に供し、プロテオーム解析を実施した。解析ソフトProgenesis(Nonlinear Dinamics社)を用いて、LC-MS/MSにより検出したMSピークのIon Intensity、すなわち定量値を取得した。
【0053】
さらに、MASCOTソフトウェアを用いてタンパク質データベースUniprotにデータを照会し、定量したMSピークに由来するタンパク質を同定、各タンパク質の定量値を算出した。
【0054】
骨中に同定できたタンパク質の中で、その定量値が、骨形成速度(mm3/mm2/year)、骨吸収速度(mm2/mm2/year)、骨石灰化速度(μm/day)、骨梁幅Tb.Th(μm)、骨梁間隔Tb.sp(μm)、骨梁数Tb.N(1/mm)と相関するタンパク質をそれぞれ探索した。
【0055】
結果1-1
表1に示す通り、9個体のうち日本糖尿病学会が糖尿病の診断指標のひとつとして定める基準6.5%を上回る個体すなわち糖尿病発症は4個体、未発症は5個体であった。
【0056】
【0057】
結果1-2
歯槽骨から抽出したタンパク質のプロテオーム解析から893個のタンパク質を同定し、それらのタンパク質定量値と、骨リモデリング指標定量値(骨形成速度、骨吸収速度、骨石灰化速度)および微細構造指標定量値(骨梁幅、骨梁間隔、骨梁数)をピアソンの相関分析法により解析した。相関解析のp値がp<0.05である場合に有意に相関すると判断した。
【0058】
その結果、表2に示すとおり、骨リモデリング指標である、骨形成速度、骨吸収速度、骨石灰化速度と相関するタンパク質として、COTL1、ARHGDIB、LGALS3BP、GNAI2、HNRPD、THRB、SPRL1、PRTN3、ARP3、CO6A2、CD9、CERU、HNRPU、LDHB、PRDX5、ALDOAを、骨微細構造に関する指標である、骨梁幅、骨梁間隔、骨梁数と相関するタンパク質としてUBE2L3、ARA24、PAM、ITIH1、CAPG、MYH7B、ANT3、CBX3、KPYM、MOES、GRN、ARP2、RHOA、TALDOを見出した。
【0059】
【0060】
実施例2.糖尿病患者唾液における骨質関連タンパク質解析
骨関連の疾患を有さない6名の健常者と糖尿病患者7名から安静時唾液を500μl採取し、唾液中の主要タンパクをアフィニティーカラムで除去した後、1μgのLC-MS/MS(Ultimate3000 RSLC Nano system:ダイオネクス社、LTQ Orbitrap Velos:Thermo Fisher Scientific社)に供し、プロテオーム解析を実施した。解析ソフトProgenesis(Nonlinear Dinamics社)を用いて、LC-MS/MSにより検出したMSピークのIon Intensity、すなわち定量値を取得した。
【0061】
さらに、MASCOTソフトウェアを用いてタンパク質データベースUniprotにデータを照会し、定量したMSピークに由来するタンパク質を同定、各タンパク質の定量値を算出した。
【0062】
得られた定量値について健常者、糖尿病患者で2群間比較(Student t-test)を行った。
【0063】
結果2.
表3~7から、健常者と糖尿病患者の各唾液中における結果1-2にて見いだされたタンパク質(表2)発現量の2群間比較の結果、p値が0.1未満(p<0.1)であり、統計学的有意に変動していることが見出された。
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
実施例1および2の結果は、本発明のバイオマーカーである各タンパク質(表2)の唾液中の量が骨質と密接に関連すること、および、実際に骨質が低下している糖尿病患者の唾液で変動することを示している。
【0070】
歯槽骨の骨密度は腰椎や大腿骨の骨密度測定の代替として活用可能であることが知られており(非特許文献4)、歯槽骨は骨折を伴い易い腰椎、大腿骨の状態も反映することも判断できる。したがって、実施例1および2の結果は、被検体の口腔内から採取した検体中に、本発明のバイオマーカーの量を検出することにより全身の骨の骨質の良し悪しを判定できることを示している。