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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】太陽電池モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/44 20060101AFI20220621BHJP
   H01L 51/46 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
H01L31/04 120
H01L31/04 112Z
H01L31/04 160
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018118404
(22)【出願日】2018-06-22
(65)【公開番号】P2019021913
(43)【公開日】2019-02-07
【審査請求日】2021-02-19
(31)【優先権主張番号】P 2017135360
(32)【優先日】2017-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術/革新的新構造太陽電池の研究開発」委託研究産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【弁理士】
【氏名又は名称】梶谷 美道
(74)【代理人】
【識別番号】100125922
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 章子
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(74)【代理人】
【識別番号】100188813
【弁理士】
【氏名又は名称】川喜田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100184985
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 成康
(72)【発明者】
【氏名】樋口 洋
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-103450(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0228916(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105489772(CN,A)
【文献】国際公開第2018/181744(WO,A1)
【文献】DAO, Quang-Duy et al.,"Study on degradation mechanism of perovskite solar cell and their recovering effects by introducing CH3NH3I layers",Organic Electronics,2017年01月27日,Vol. 43,pp. 229-234,DOI: 10.1016/j.orgel.2017.01.038
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/42-51/48
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に配置され、ユニットセルを含む素子部と、
前記素子部を封止する封止体と、
第1材料と
を備え、
前記素子部および前記第1材料は、前記封止体によって封止された封止空間内に位置し、
前記ユニットセルは、導電性を有する一対の電極と、前記一対の電極の間に位置し、光を電荷に変換する光吸収層とを含み、
前記光吸収層は、組成式AMXで示されるペロブスカイト型化合物を含み、Aは1価のカチオンであり、Mは2価のカチオンであり、Xは1価のアニオンであり、
前記第1材料は、組成式(Q-N-H)Yで示されるアミン誘導体であり、Q、QおよびQは、それぞれ、炭素、水素、窒素および酸素からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む官能基であり、Yはハロゲンであり、
前記封止空間内において、前記第1材料の少なくとも一部は、前記素子部の表面に接触している、太陽電池モジュール。
【請求項2】
基板と、
前記基板上に配置され、ユニットセルを含む素子部と、
前記素子部を封止する封止体と、
第1材料と
を備え、
前記素子部および前記第1材料は、前記封止体によって封止された封止空間内に位置し、
前記ユニットセルは、導電性を有する一対の電極と、前記一対の電極の間に位置し、光を電荷に変換する光吸収層とを含み、
前記光吸収層は、組成式AMXで示されるペロブスカイト型化合物を含み、Aは1価のカチオンであり、Mは2価のカチオンであり、Xは1価のアニオンであり、
前記第1材料は、組成式(Q-N-H)Yで示されるアミン誘導体であり、Q、QおよびQは、それぞれ、炭素、水素、窒素および酸素からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む官能基であり、Yはハロゲンであり、
前記封止空間内において、前記第1材料の少なくとも一部と前記素子部との間は空間である、太陽電池モジュール。
【請求項3】
前記第1材料は、前記封止空間内において、前記封止体の内面または前記素子部の表面に接触している、
請求項に記載の太陽電池モジュール。
【請求項4】
前記封止空間内に配置された充填剤をさらに備える、
請求項1または2に記載の太陽電池モジュール。
【請求項5】
前記Q、QおよびQからなる群から選択される少なくとも1つは炭素原子を含み、前記炭素原子の数は4以下である、
請求項1からのいずれかに記載の太陽電池モジュール。
【請求項6】
前記封止体は、
前記基板と間隔を空けて対向する第1部分と、
前記基板と前記第1部分との間に配置され、前記封止空間を包囲する第2部分とを含む、請求項1からのいずれかに記載の太陽電池モジュール。
【請求項7】
前記第1部分はガラスであり、
前記第2部分は樹脂である、
請求項に記載の太陽電池モジュール。
【請求項8】
前記封止体は、さらに前記基板を封止する、
請求項1からのいずれかに記載の太陽電池モジュール。
【請求項9】
前記第1材料は、組成式AXで示される化合物を含む、
請求項1からのいずれかに記載の太陽電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、AMXで示されるペロブスカイト型結晶構造およびその類似の結晶構造を有する化合物(以下、「ペロブスカイト型化合物」と呼ぶ)を光吸収材料として用いた太陽電池の研究開発が進められている。本明細書では、ペロブスカイト型化合物を用いた太陽電池を「ペロブスカイト太陽電池」と呼ぶ。
【0003】
ペロブスカイト太陽電池は、例えば特許文献1に開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、基板上に複数のペロブスカイト太陽電池が直列接続された太陽電池モジュールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-092293号公報
【文献】国際公開第2013/031978号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ペロブスカイト太陽電池を備えた太陽電池モジュールにおいて、長時間の使用に伴う、ペロブスカイト太陽電池の性能の低下を抑制することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る太陽電池モジュールは、基板と、前記基板上に配置され、ユニットセルを含む素子部と、前記素子部を封止する封止体と、第1材料と、を備える。前記素子部および前記第1材料は、前記封止体によって封止された空間内に位置する。前記ユニットセルは、導電性を有する一対の電極と、前記一対の電極の間に位置し、光を電荷に変換する光吸収層とを含む。前記光吸収層は、組成式AMXで示されるペロブスカイト型化合物を含み、Aは1価のカチオンであり、Mは2価のカチオンであり、Xは1価のアニオンである。前記第1材料は、組成式(Q-N-H)Yで示されるアミン誘導体であり、Q、QおよびQは、それぞれ、炭素、水素、窒素および酸素からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む官能基であり、Yはハロゲンである。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によると、長時間の使用に伴う太陽電池性能の低下が抑制された太陽電池モジュールが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の太陽電池モジュールの一例を模式的に示す断面図である。
図2】太陽電池モジュールにおける素子部の一例を示す模式的な断面図である。
図3A】第1の変形例の太陽電池モジュールを示す模式的な断面図である。
図3B】第2の変形例の太陽電池モジュールを示す模式的な断面図である。
図3C】第3の変形例の太陽電池モジュールを示す模式的な断面図である。
図4】実施例1および比較例1の太陽電池モジュールの出力維持率を示す図である。
図5】ポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリメチルフェニル)アミン]の構造式を示す図である。
図6】実施例2および比較例2の太陽電池モジュールの出力維持率を示す図である。
図7】実施例3および比較例3の太陽電池モジュールの出力維持率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の基礎となった知見は以下のとおりである。
【0011】
本発明者が検討したところ、ペロブスカイト太陽電池を備えた従来の太陽電池モジュールを長時間動作させたり、光照射される環境下で長時間保管させたりすると、ペロブスカイト太陽電池の性能が低下することが分かった。これは、ペロブスカイト型化合物であるAMX(A2+ )が、温度上昇または光照射によって分解するからと考えられる。Aがアミン誘導体水素化物の場合、AMXが分解すると、下記式(1)に示すように、ハロゲン塩AXがガスとして放出される。このため、光吸収材料であるペロブスカイト型化合物が減少し、電池性能が低下すると推察される。ハロゲン塩AXは、アミン誘導体ハロゲン化水素酸塩である。
ABX ⇔ AX + BX (1)
【0012】
これに対し、本発明者は、以下のことを見出した。ペロブスカイト太陽電池を封止し、かつ、封止された空間内に、例えばAXなどのアミン誘導体ハロゲン化水素酸塩を予め配置しておく。そのことにより、上記式(1)に示す分解反応の平衡を左方向に移動させることができる。その結果、ペロブスカイト型化合物の分解を抑制できる。なお、封止された空間内に充填する材料は、式(1)の平衡を左方向に移動させ得る材料であればよい。例えば、ペロブスカイト型化合物から分解によって放出されるAXと異なるアミン誘導体であってもよい。
【0013】
本開示の一実施形態は、上記の知見に基づくものであり、以下の項目に記載の太陽電池モジュールを含む。
[項目1]
本開示の項目1に係る太陽電池モジュールは、
基板と、
前記基板上に配置され、ユニットセルを含む素子部と、
前記素子部を封止する封止体と、
第1材料と
を備える。
前記素子部および前記第1材料は、前記封止体によって封止された空間内に位置する。
前記ユニットセルは、導電性を有する一対の電極と、前記一対の電極の間に位置し、光を電荷に変換する光吸収層とを含む。
前記光吸収層は、組成式AMXで示されるペロブスカイト型化合物を含み、Aは1価のカチオンであり、Mは2価のカチオンであり、Xは1価のアニオンである。前記第1材料は、組成式(Q-N-H)Yで示されるアミン誘導体であり、Q、QおよびQは、それぞれ、炭素、水素、窒素および酸素からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む官能基であり、Yはハロゲンである。
[項目2]
項目1に記載の太陽電池モジュールにおいて、
前記Q、QおよびQからなる群から選択される少なくとも1つは炭素原子を含み、前記炭素原子の数は4以下であってもよい。
[項目3]
項目1または2に記載の太陽電池モジュールにおいて、
前記第1材料は、前記空間内において、前記封止体の内面または前記素子部の表面に接触してもよい。
[項目4]
項目1から3のいずれかに記載の太陽電池モジュールにおいて、
前記封止体は、
前記基板と間隔を空けて対向する第1部分と、
前記基板と前記第1部分との間に配置され、前記空間を包囲する第2部分とを含んでいてもよい。
[項目5]
項目4に記載の太陽電池モジュールにおいて、
前記第1部分はガラスであり、
前記第2部分は樹脂であってもよい。
[項目6]
項目1から3のいずれかに記載の太陽電池モジュールにおいて、
前記封止体は、さらに前記基板を封止していてもよい。
[項目7]
項目1から6のいずれかに記載の太陽電池モジュールは、
前記空間内に配置された充填剤をさらに備えていてもよい。
[項目8]
項目7に記載の太陽電池モジュールにおいて、
前記第1材料は前記充填剤の内部に位置していてもよい。
[項目9]
項目1から8のいずれかに記載の太陽電池モジュールにおいて、
前記第1材料は、組成式AXで示される化合物を含んでいてもよい。
【0014】
以下、図面を参照して、本開示の実施形態を説明する。なお、本開示は、以下の実施形態に限定されない。以下の説明では、特定の数値及び特定の材料を例示する場合があるが、本開示の効果が得られる限り、他の数値及び他の材料を適用してもよい。
【0015】
図1は、実施形態の太陽電池モジュール100の一例を模式的に示す断面図である。
【0016】
太陽電池モジュール100は、基板1と、素子部2と、封止体3と、第1材料5とを備える。
【0017】
素子部2は、基板1上に配置されている。素子部2は、ユニットセルである少なくとも1つのペロブスカイト太陽電池を含む。素子部2は、直列に接続された複数のユニットセルを含んでもよい。各ユニットセルは、導電性を有する一対の電極と、一対の電極の間に位置し、光を電荷に変換する光吸収層とを有する。各ユニットセルは、電極の一方または両方と光吸収層との間にキャリア輸送層をさらに有していてもよい。光吸収層は、光吸収材料として、組成式AMXで示されるペロブスカイト型化合物を含む。Aは1価のカチオンであり、Mは2価のカチオンであり、Xは1価のアニオンである。
【0018】
第1材料5は、ペロブスカイト型化合物AMXの分解反応を抑制する分解抑制剤である。第1材料5は、組成式(Q-N-H)Yで示されるアミン誘導体である。Q、QおよびQは、それぞれ、主として、炭素、水素、窒素および酸素のうちの1つまたは複数の元素から構成されている。Q、QまたはQが炭素原子を含む場合には、その炭素原子の数は4以下であってもよい。Yはハロゲンである。第1材料5は組成式AXで示される化合物を含んでもよい。第1材料5は常温で固体であってもよい。第1材料5の飽和蒸気圧は、室温で0.2Pa以上100Pa以下、例えば1Pa程度であってもよい。
【0019】
封止体3は、素子部2を外部から封止するように配置されている。この例では、基板1と封止体3とによって、封止された空間4が形成されている。
【0020】
封止体3は、基板1と間隔を空けて対向するように配置された第1部分31と、基板1と第1部分31との間の空間を包囲するように配置された第2部分32とを含んでいてもよい。第1部分31は板状部材、第2部分32はシール部材であってもよい。基板1と第1部分31との間隔は、例えば0.1mm以上5mm以下であってもよい。なお、封止体3は、第1部分31および第2部分32が一体化された構造を有していてもよい。
【0021】
封止された空間4の内部には、素子部2および第1材料5が位置している。封止された空間4の内部における第1材料5の設置位置は特に限定しない。例えば、第1材料5を混入させた塗料を、封止された空間4内において、封止体3の第1部分31または第2部分32の内面に塗布してもよいし、素子部2の表面(例えば、各ユニットセルにおける基板1と反対側に配置された電極の上面)に塗布してもよい。あるいは、粉末状の第1材料5を封止された空間4内に封入してもよい。
【0022】
太陽電池モジュール100の機械的強度を向上させるために、封止された空間4の一部または全体に、充填剤を配置してもよい。この場合、第1材料5は、充填剤の内部に位置してもよい。例えば、第1材料5は充填剤内に分散していてもよい。これにより、封止された空間4が充填剤で満たされている場合でも、封止された空間4内に第1材料5を配置することが可能である。充填剤は、エチレン・酢酸ビニル共重合(EVA)樹脂、シリコーン樹脂などの樹脂を含んでもよい。
【0023】
本実施形態によると、封止された空間4内に予め第1材料5が配置されている。したがって、太陽電池モジュール100を長時間動作させることによって生じ得る、ペロブスカイト型化合物の熱分解を抑制できる。具体的には、下記式(1)のペロブスカイト型化合物の分解反応の平衡を左方向に移動させることができる。これによって、ペロブスカイト型化合物の分解による太陽電池性能の低下を抑制できる。
ABX ⇔ AX + BX (1)
【0024】
太陽電池モジュール100は、基板1側から素子部2に入射した光で発電を行うように構成されていてもよい。または、太陽電池モジュール100は、第1部分31から素子部2に入射する光で発電を行うように構成されていてもよい。基板1および第1部分31のうち、少なくとも光入射側に位置する一方が、光透過性を有していればよい。
【0025】
以下、太陽電池モジュール100における各構成要素を説明する。
【0026】
[基板1]
太陽電池モジュール100が、基板1側から入射する光を吸収して発電を行う場合は、基板1として光透過性を有する基板が用いられ得る。基板1は、例えば、波長400nm以上1000nm以下の太陽光に対する透過性を有する。また、ガラス基板と同程度に水を通さない性質を有する。基板1の材料として、例えば透光性絶縁材料が用いられる。このような材料の例として、ガラス、アルミナ、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂が挙げられる。
【0027】
一方、太陽電池モジュール100が、封止体3の第1部分31側から入射する光を吸収して発電を行う場合は、基板1は、ガラス基板程度に水を通さない性質を有していればよく、光透過性を有していなくてもよい。その場合、基板1として、ステンレス鋼板などの金属基板、セラミックス板などの絶縁基板等を用いることができる。
【0028】
[光吸収層]
素子部2を構成する各ユニットセルの光吸収層は、組成式AMXで示されるペロブスカイト構造を有する化合物を光吸収材料として含む。Aは一価のカチオンである。Aの例としては、アルカリ金属カチオンまたは有機カチオンのような一価のカチオンが挙げられる。
【0029】
Aは、R-N-Hで表されるアミン誘導体水素化物を含んでもよい。アミン誘導体水素化物における官能基R、R、Rの一部は、Rb、Cs等の第1族元素で置き換えることも可能である。その場合、第1族元素に置き換える割合である置換率は、例えば20%以下である。
【0030】
官能基R、R、Rは、主として、炭素、水素、窒素および酸素のうちの1つまたは2以上の元素から構成されていてもよい。各官能基R、R、Rが炭素原子を含む場合、その炭素原子の数は4以下であってもよい。これにより、AMXがペロブスカイト構造あるいは、それに類似の構造を取り得る。一例として、R、R、Rは、それぞれ、H、CHまたはNHであってもよい。例えばRおよびRがH、RがCHの場合、Aはメチルアンモニウムの水素化物CHNHとなる。
【0031】
その他のR、R、Rの構造として、下記の例が挙げられる。炭素、水素および窒素のうちの1つまたは複数の元素から構成される化合物として、CH、C、C、C、NH、NHCH、(NHCH、(NHC、NH、(NH、(NH、(NHH、(NH、NH、(NH、(NH、(NH、(NH、(NHH、NH、(NH、(NH、(NH、(NH、(NH、(NH、(NHH等が挙げられる。R、R、Rは、これらの構造異性体であってもよい。R、R、Rは、酸素によるアルコール酸化体であってもよい。R、R、Rがアルコール酸化体である場合の例として、CHOH、COH、COH、COH、NHOH、NHCHOH、NHOHCH、(NHCOH、NHOHNHCH、NHOHNHCOH、(NHC、NHOH(NHC、(NHC、NHOH、NH(OH)、NHH(OH)、NH(OH)、(NHOH、(NHH(OH)、(NH(OH)、(NHHOH、(NH(OH)、(NHOH、NHOH、NH(OH)、NH(OH)、NH(OH)、NHH(OH)、NH(OH)、(NHOH、(NH(OH)、(NH(OH)、(NHH(OH)、(NH(OH)、(NHOH、(NH(OH)、(NHH(OH)、(NH(OH)、(NHOH、(NHH(OH)、(NH(OH)、(NHHOH、(NH(OH)、(NHOH、NHOH、NH(OH)、NH(OH)、NH(OH)、NH(OH)、NH(OH)、NHH(OH)、NH(OH)、(NHOH、(NH(OH)、(NH(OH)、(NH(OH)、(NH(OH)、(NHH(OH)、(NH(OH)、(NHOH、(NH(OH)、(NH(OH)、(NH(OH)、(NHH(OH)、(NH(OH)、(NHOH、(NH(OH)、(NH(OH)、(NHH(OH)、(NH(OH)、(NHOH、(NH(OH)、(NHH(OH)、(NH(OH)、(NHOH、(NHH(OH)、(NH(OH)、(NHHOH、(NH(OH)、(NHOHが挙げられる。R、R、Rは、また、以上に挙げたもののケトン型及びジケトン型酸化体、エステル型酸化体であってもよい。さらに、R、R、Rが環式化合物である場合の例として、ピロールCNH、フランCO、イミダゾールCNNH、ピラゾールCNNH、ピラゾリンCNNH、ピラゾリジンCNHNH、オキサゾールCON、イソオキサゾールCON、ピラジンC、ピリミジンC、トリアジンCおよびこれらのアルコール型酸化体が挙げられる。
【0032】
Bは2価のカチオンである。Bは、例えば、遷移金属または第13族元素から第15族元素の2価のカチオンである。さらに具体的には、Bの例として、Pb2+、Ge2+、Sn2+が挙げられる。一例として、Bは、Pb2+、Sn2+またはこれらの混合であってもよい。BがPb2+、Sn2+、およびPb2+とSn2+との混合のいずれかである場合、Pb2+およびSn2+の少なくとも一方の一部は他の元素に置換されていてもよい。置換元素としては、Bi、Sb、In、Ge、Ni等が挙げられる。
【0033】
Xはハロゲンアニオンなどの1価のアニオンである。Xは、Cl、Br、Iのいずれかのアニオンまたはこれらのうち2以上のアニオンの混合でもよい。
【0034】
A、M、Xのそれぞれのサイトは、複数種類のイオンによって占有されていてもよい。ペロブスカイト構造を有する化合物の具体例としては、CHNHPbI、CHCHNHPbI、NHCHNHPbI、CHNHPbBr、CHNHPbCl、CsPbI、CsPbBrが挙げられる。
【0035】
[封止体3の第1部分31]
第1部分31は、例えば、基板1と間隔を空けて対向するように配置された板状部材である。
【0036】
太陽電池モジュール100が、基板1側から入射する光を吸収して発電を行う場合は、板状部材は、ガラス基板程度に水を通さない性質を有していればよく、光透過性を有していなくてもよい。板状部材として、例えば、ステンレス鋼板などの金属基板、ガラス基板、セラミックス板などの絶縁基板が挙げられる。
【0037】
太陽電池モジュール100が、基板1と反対側から入射する光を吸収して発電を行う場合は、板状部材は、光透過性と、ガラス基板と同程度に水を通さない性質とを有する。板状部材は、例えば、波長400nm以上1000nm以下の太陽光に対する透過性を有してもよい。また、板状部材として、ガラス基板、プラスチック基板等の透明基板が挙げられる。
【0038】
[封止体3の第2部分32]
第2部分32は、例えば、基板1と第1部分31との間に位置するシール部材である。
【0039】
シール部材の上端および下端の一方は、基板1の周縁部と接し、他方は、第1部分31である板状部材の周縁部に接していてもよい。これによって、基板1と、板状部材およびシール部材を含む封止体3とで、外部から封止された空間4を太陽電池モジュール100内に形成することができる。
【0040】
シール部材は、例えば、ガスを通さない性質であるガスバリア性を有する。また、シール部材は、例えば、基板1および第1部分31の両方に対して高い接着性を有する。シール部材の材料として、ポリイソブチレン、イソブチレンとイソプレンの共重合体等の樹脂材料が挙げられる。
【0041】
シール部材は、積層構造を有していてもよい。シール部材は、例えば、第1樹脂層と、第1樹脂層の内側に配置された、第1樹脂層よりもガスバリア性の高い第2樹脂層とを含む2層構造を有していてもよい。これにより、シール部材のガスバリア性をさらに高めることが可能である。第1樹脂層の材料として、例えば、ポリイソブチレン、イソブチレンとイソプレンの共重合体等の接着性の高い材料が挙げられる。第2樹脂層の材料として、例えば、第1樹脂層の材料よりも接着性に劣るがガスバリア性に優れる樹脂材料を用いてもよい。このような樹脂材料として、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロフルオロエチレン、塩素化天然ゴム等が挙げられる。
【0042】
[第1材料5]
第1材料5は、組成式(Q-N-H)Yで表されるアミン誘導体ハロゲン化水素酸塩である。Yはハロゲンである。Yは、例えば、ヨウ素、臭素または塩素であってもよい。官能基Q、Q、Qは、主として、炭素、水素、窒素および酸素のうちの1つまたは2以上の元素から構成されている。Q、Q、Qが炭素原子を含む場合、その炭素原子の数は4以下であってもよい。Q、Q、Qの構造としては、H、CH、C、C、C、NH、NHCH、(NHCH、(NHC、NH、(NH、(NH、(NHH、(NH、NH、(NH、(NH、(NH、(NH、(NHH等が挙げられる。あるいは、これらの構造異性体があってもよい。さらに、Q、Q、Qが酸素によるアルコール酸化体である場合の例として、CHOH、COH、COH、COH、NHOH、NHCHOH、NHOHCH、(NHCOH、NHOHNHCH、NHOHNHCOH、(NHC、NHOH(NHC、(NHC、NHOH、NH(OH)、NHH(OH)、NH(OH)、(NHOH、(NHH(OH)、(NH(OH)、(NHHOH、(NH(OH)、(NHOH、NHOH、NH(OH)、NH(OH)、NH(OH)、NHH(OH)、NH(OH)、(NHOH、(NH(OH)、(NH(OH)、(NHH(OH)、(NH(OH)、(NHOH、(NH(OH)、(NHH(OH)、(NH(OH)、(NHOH、(NHH(OH)、(NH(OH)、(NHHOH、(NH(OH)、(NHOH、NHOH、NH(OH)、NH(OH)、NH(OH)、NH(OH)、NH(OH)、NHH(OH)、NH(OH)、(NHOH、(NH(OH)、(NH(OH)、(NH(OH)、(NH(OH)、(NHH(OH)、(NH(OH)、(NHOH、(NH(OH)、(NH(OH)、(NH(OH)、(NHH(OH)、(NH(OH)、(NHOH、(NH(OH)、(NH(OH)、(NHH(OH)、(NH(OH)、(NHOH、(NH(OH)、(NHH(OH)、(NH(OH)、(NHOH、(NHH(OH)、(NH(OH)、(NHHOH、(NH(OH)、(NHOH等が挙げられる。また、第1材料5は、以上に挙げたもののケトン型酸化体、エステル型酸化体等であってもよい。さらに、Q、Q、Qが環式化合物である場合の例として、ピロールCNH、フランCO、イミダゾールCNNH、ピラゾールCNNH、ピラゾリンCNNH、ピラゾリジンCNHNH、オキサゾールCON、イソオキサゾールCON、ピラジンC、ピリミジンC、トリアジンCおよびこれらのアルコール型酸化体が挙げられる。
【0043】
第1材料5は、上記に例示したようなアミン誘導体を少なくとも1つ含んでいればよく、2種類以上のアミン誘導体ハロゲン化水素酸塩を含んでいてもよい。第1材料5は、例えば、ペロブスカイト型化合物AMXの分解によって生じるアミン誘導体AXを含んでいてもよい。
【0044】
[素子部2]
素子部2は、ユニットセルであるペロブスカイト太陽電池を有していればよく、その構成は特に限定しない。以下、素子部2の構成の一例を説明する。
【0045】
図2は、本実施形態における素子部2の一例を示す模式的な断面図である。
【0046】
素子部2は、基板1に支持されており、直列に接続された複数のユニットセル20を含む。図2では、分かりやすさのため、ユニットセル20の1つを破線で示している。ここでは、3つのユニットセル20を示しているが、ユニットセル20の個数は特に限定されない。
【0047】
素子部2は、基板1上に順次積層された第1電極膜12、第1半導体膜13、第2半導体膜14、第3半導体膜15および第2電極膜16を含む。第1半導体膜13、第2半導体膜14と第3半導体膜15とは、光起電力を発生する接合を形成している。
【0048】
この例では、基板1が光透過性を有し、基板1側から素子部2に入射する光を吸収して発電させる。この場合、例えば、第1半導体膜13から各ユニットセル20の電子輸送層23が形成され、第2半導体膜14から各ユニットセル20の光吸収層24が形成され、第3半導体膜15から各ユニットセル20のホール輸送層25が形成されうる。具体的には、第1電極膜12および第1半導体膜13は、それぞれ、第1分割溝17によって複数の第1電極22および複数の電子輸送層23に分割されている。第2半導体膜14および第3半導体膜15は、それぞれ、第2分割溝18によって複数の光吸収層24および複数のホール輸送層25に分割されている。第2電極膜16は、第3分割溝19によって複数の第2電極26に分割されている。なお、第3分割溝19は、第2半導体膜14および第3半導体膜15にも形成されていてもよい。第1分割溝17、第2分割溝18、第3分割溝19は、例えばストライプ状に延びていてもよい。これらの溝は、互いに略平行に形成されていてもよい。
【0049】
複数のユニットセル20のそれぞれは、図2に破線で示すように、基板1上に、第1電極22、電子輸送層23、光吸収層24、ホール輸送層25および第2電極26がこの順で積層された構造を有する。基板1の法線方向から見て、第1電極22および電子輸送層23と重なるように第2分割溝18が配置されている。第2分割溝18内には、隣接するユニットセルの第2電極26が配置されている。第1電極22は、第2分割溝18内において、電子輸送層23を介して、隣接するユニットセル20の第2電極26と電気的に接続されている。すなわち、第2分割溝18は、ユニットセル接続用溝として機能する。
【0050】
このように、各ユニットセル20は、接合を形成する電子輸送層23、光吸収層24およびホール輸送層25と、出力端子である第1電極22および第2電極26とを有する独立した太陽電池である。あるユニットセル20の第1電極22は、両側に隣接するユニットセル20のうちの一方のユニットセル20の第2電極26と電気的に接続され、そのユニットセル20の第2電極26は、隣接するユニットセル20のうちの他方のユニットセル20の第1電極22と電気的に接続されている。このようにして、複数のユニットセル20は直列に接続されている。
【0051】
また、素子部2は、電力を取り出すための一対の電力線6に接続されている。一対の電力線6の一方は、複数のユニットセル20からなる接続体の一方の端部に位置するユニットセル20の第1電極22に、例えば第2電極膜16を介して電気的に接続されている。他方の電力線6は、上記接続体の他方の端部に位置するユニットセル20の第2電極26に電気的に接続されている。これらの電力線6は、封止体によって封止された空間4の内部から外部に延びている。
【0052】
第1電極22は、導電性および光透過性を有する。第1電極22の材料として、フッ素ドープ酸化錫、インジウム錫酸化物等の透明導電材料が挙げられる。第1電極22のシート抵抗は、例えば40Ω/□以下であってもよく、10Ω/□以下であってもよい。また、基板1としてガラス基板を用いる場合、基板1と第1電極22との積層体の光線透過率は、波長450nm以上900nm以下の範囲において85%以上であってもよい。
【0053】
第1電極22のヘイズ率を高くすることで、太陽電池性能をさらに高めることが可能である。電子輸送層23の厚さにもよるが、第1電極22のヘイズ率は10%程度(例えば8%以上15%以下)であってもよい。これにより、太陽電池性能を確保しつつ、電子輸送層23で第1電極22の凹凸をより確実に覆うことができる。
【0054】
第2電極26は、導電性を有する。第2電極26は光透過性を有しなくてもよい。第2電極26の材料として、第1電極22と同様の透明導電材料の他に、Au、C、Al等の導電材料を用いてもよい。
【0055】
電子輸送層23、光吸収層24およびホール輸送層25の材料は特に限定しない。電子輸送層23の材料として、例えばアナターゼ型酸化チタン、酸化錫などが挙げられる。光吸収層24の材料として、上述したペロブスカイト型化合物を含む光吸収材料が挙げられる。ホール輸送層25の材料として、例えば2,2’,7,7’-tetrakis(N,N’-di-p-methoxyphenylamine)-9-9’-spirobifluorene(Spiro-OMeTAD)などが挙げられる。
【0056】
第1分割溝17は、第1電極膜12および第1半導体膜13の一部を除去することによって形成されている。第1分割溝17は、第1電極膜12および第1半導体膜13が吸収する波長の光を用いたスクライブによって形成され得る。例えば、YAGレーザ(波長165nm)を第1電極膜12および第1半導体膜13に照射することで、第1分割溝17を形成してもよい。第1分割溝17の幅は、例えば20μm以上150μm以下であってもよい。
【0057】
第2分割溝18は、第2半導体膜14および第3半導体膜15の一部を除去することによって形成されている。第2分割溝18の底面において、第1半導体膜13が露出している。第2分割溝18内では、第1半導体膜13と第2電極膜16とが直接接触し、電気的に接続される。第2分割溝18を形成する方法としては、レーザー光を集光して照射するレーザースクライブ、硬化処理をした金属刃で削り取るメカニカルスクライブ等がある。一例として、より長い波長の光を吸収する第2半導体膜14および第3半導体膜15の除去をメカニカルスクライブで行い、その後の第1半導体膜13への不純物添加処理等をレーザースクライブで行ってもよい。第2分割溝18の幅は、例えば150μm以上300μm以下である。
【0058】
第3分割溝19は、第2半導体膜14、第3半導体膜15および第2電極膜16の一部を除去することによって形成されていてもよい。なお、第3分割溝19は、第2電極膜16を分割していればよく、第2半導体膜14、第3半導体膜15またはその両方は第3分割溝19によって分割されていなくてもよい。第3分割溝19は、第1分割溝または第2分割溝と同様の手法によって形成することができる。第3分割溝19の幅は、例えば30μm以上50μm以下である。
【0059】
なお、第2電極26に導電性および光透過性を有する材料を用いることで、素子部2を、第2電極26側から入射した光で発電を行うように構成してもよい。この場合、第1半導体膜13から各ユニットセル20のホール輸送層が形成され、第2半導体膜14から各ユニットセル20の光吸収層が形成され、第3半導体膜15から各ユニットセル20の電子輸送層が形成されてもよい。
【0060】
素子部2は、例えば次のようにして製造され得る。
【0061】
まず、基板1上に、第1電極膜12および第1半導体膜13をこの順で形成する。この後、レーザースクライブによる処理により、第1電極膜12および第1半導体膜13に第1分割溝17を形成することで、第1電極膜12および第1半導体膜13を短冊状に切断する。続いて、第1半導体膜13上に、第2半導体膜14および第3半導体膜15をこの順で形成する。この後、メカニカルスクライブにより、第2半導体膜14および第3半導体膜15に第2分割溝18を形成する。次いで、第3半導体膜15上に第2電極膜16を形成する。続いて、第2半導体膜14、第3半導体膜15および第2電極膜16に第3分割溝19を形成する。この後、第2電極膜16に電力線6を接着する。このようにして、素子部2が形成される。
【0062】
[太陽電池モジュールの変形例]
図3Aおよび図3Bは、それぞれ、本実施形態の第1の変形例および第2の変形例に係る太陽電池モジュール200、300を例示する模式的な断面図である。
【0063】
太陽電池モジュール200、300は、素子部2で生成された電力を外部に取り出すための一対の電力線6を備えている点で、図1に示す太陽電池モジュール100と異なる。図3Aおよび図3Bでは、一対の電力線6のうちの一方のみが示されている。一方の電力線6は、素子部2における直列に接続された複数のユニットセルのうち一方の端部に位置するユニットセルの正極に接続されている。他方の電力線6は、直列に接続された複数のユニットセルのうち他方の端部に位置するユニットセルの負極に接続されている。
【0064】
各電力線6は、封止された空間4内から太陽電池モジュール200、300の外部まで延びている。図3Aに示すように、電力線6は、第2部分(例えばシール部材)32を突き抜けて外部に延びていてもよい。あるいは、図3Bに示すように、電力線6は、第1部分(例えば板状部材)31に設けられた開口部を通って外部に延びていてもよい。この場合、封止された空間4の気密性を保つために、開口部の周辺部を樹脂などで封止してもよい。例えば、板状部材の外側に、開口部を覆うように端子ボックスを接着し、樹脂でポッティングしてもよい。
【0065】
電力線6は、導電性を有する。電力線6の材料として、Cu、Al等の金属材料が挙げられる。
【0066】
図3Cは、本実施形態の第3の変形例に係る太陽電池モジュール400を例示する模式的な断面図である。
【0067】
太陽電池モジュール400は、封止体7が、素子部2のみでなく、素子部2を支持する基板1も封止する点で、太陽電池モジュール100と異なる。太陽電池モジュール400では、封止体7で形成された、封止された空間4内に、基板1、素子部2および第1材料5が位置する。
【0068】
このような封止体7は、例えば、間隔を空けて互いに対向するように配置された第1の板状部材71および第2の板状部材73と、シール部材72とを含んでもよい。シール部材72は、第1の板状部材71および第2の板状部材73の間に、封止された空間4を包囲するように配置されている。シール部材72の上端および下端の一方は、第1の板状部材71の周縁部と接し、他方は、第2の板状部材73の周縁部とを接していてもよい。
【0069】
<実施例1および比較例1>
実施例1および比較例1の太陽電池モジュールを作製し、太陽電池モジュールの動作時間と出力特性との関係を調べた。
【0070】
[実施例1]
まず、実施例1の太陽電池の構成および作製方法を説明する。
【0071】
実施例1の太陽電池モジュールは、図3Aに示した太陽電池モジュール200と実質的に同じ構造を有する。また、素子部2は、図2を参照しながら説明した構造を有する。実施例1の太陽電池モジュールにおける各構成要素の材料および厚さを以下に示す。
基板1:ガラス基板、200×200mm、厚さ:1mm
第1電極22:フッ素ドープSnO層(表面抵抗:8Ω/□)、厚さ:800nm
電子輸送層23:アナターゼ型TiO、厚さ:10nm
光吸収層24:CHNHPbI、厚さ:500nm
ホール輸送層25:Spiro-OMeTAD、厚さ:500nm
第2電極26:Au、厚さ:200nm
封止体3の第1部分31:ガラス基板
封止体3の第2部分32:ブチルゴム(イソプレン・イソブテン共重合体、平均分子量約10000)
電力線6:Al、厚さ200μm、幅3mm
【0072】
実施例1の太陽電池の作製方法は以下の通りである。
【0073】
まず、基板1であるガラス基板の表面に、第1電極膜12としてフッ素ドープ酸化錫膜、および、第1半導体膜13としてTiO膜をスパッタリング法で形成した。次いで、レーザースクライブ(波長:16μm)により、第1電極膜12および第1半導体膜13に、幅50μmの第1分割溝17を形成した。
【0074】
次に、ペロブスカイト型化合物であるCHNHPbIの原材料となるメチルアンモニウムヨウ化水素酸塩CHNHIとヨウ化鉛PbIとをそれぞれ0.07モル秤量し、ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと記す)100mLに溶解させることで、第1塗布液を作製した。得られた第1塗布液を10mL、スピンコート法(2000rpm、2分間)で、第1半導体膜13であるTiO膜の上面に付与した。次いで、トルエンに浸漬し、120℃で60分間加熱することによって、第2半導体膜14として、厚さが500nmのCHNHPbI膜を形成した。
【0075】
さらに、0.06mol/L-Spiro-OMeTADのクロロベンゼン溶液82mLに、1.8mol/Lリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(以下、LiTFSIと記す)のアセトニトリル溶液0.4mL、1.6mol/L-CoPFのアセトニトリル溶液0.4mL、tert-ブチルピリジン2.5mLを加えて、第2塗布液を作製した。第2塗布液を5mL、スピンコート(1500rpm、30秒)で、第2半導体膜14の上面に付与した。これにより、第3半導体膜15として、厚さが500nmのSpiro-OMeTADを主成分とする膜を形成した。
【0076】
続いて、メカニカルスクライブにより、第2半導体膜14および第3半導体膜15に、幅200μmの第2分割溝18を形成した。
【0077】
次に、第2電極膜16として、真空蒸着法により厚さ200nmのAu膜を形成した。
【0078】
この後、メカニカルスクライブにより、第2半導体膜14、第3半導体膜15および第2電極膜16に、幅50μmの第3分割溝19を形成し、素子部2を得た。
【0079】
なお、ここでは、基板1であるガラス基板(200×200mm)上に、175×175mmのサイズの素子部2を形成した。素子部2は、ガラス基板の周縁部(幅:12.5mm)の内側に形成した。また、素子部2は、直列に接続された35個のユニットセルを有するように各分割溝を形成した。
【0080】
次いで、素子部2の端部に、アルミニウムからなる電力線6を銀ペーストで接着した。このようにして、基板1上に、実施例1の太陽電池素子を形成した。
【0081】
続いて、素子部2が形成された基板1と、第1部分31となる板状部材であるガラス基板とを、約1mmの間隔を空けて対向させた。1mmの間隔を確保した状態で、基板1と板状部材との間隔に、第1材料5としてメチルアンモニウムヨウ化水素酸塩CHNHIの粉末100mgを入れた。
【0082】
次いで、第2部分32となるシール部材として、基板1と板状部材との間に、素子部2を包囲するように、ホットメルトブチルゴムを注入した。シール部材は、基板1の周縁部と板状部材の周縁部とを接合するように配置した。シール部材の幅は5mmとした。このようにして、基板1、板状部材およびシール部材によって密封された、封止された空間4を形成した。電力線6は、封止された空間4の内部から、シール部材を貫通して外部に取り出した。このようにして、実施例1の太陽電池モジュールを作製した。
【0083】
[比較例1]
基板1と封止体3の第1部分31との間に、第1材料5としてメチルアンモニウムヨウ化水素酸塩CHNHIを配置しなかった点以外は、実施例1と同様の方法で比較例1の太陽電池モジュールを作製した。第1材料5以外の構成要素は、実施例1と同様とした。
【0084】
[光電変換特性の評価]
実施例1および比較例1の太陽電池モジュールを2個ずつ作製し、これらの光電変換特性の評価を行った。ここでは、太陽電池モジュールを400日間、室温の大気中に設置し、光強度が1kW/mである疑似太陽光照射の条件下で、太陽電池モジュールの出力変化を計測した。
【0085】
図4は、実施例1および比較例1の太陽電池モジュールの出力維持率を示す図である。図4に示す実施例1および比較例1における出力維持率は、それぞれ、2個の太陽電池モジュールの出力維持率の平均値である。ここで、「出力維持率」は、太陽電池モジュールを作製した直後の出力に対する、所定時間経過後の太陽電池モジュールの出力の割合である。
【0086】
図4に示す結果から分かるように、封止された空間4に第1材料5が配置されていない比較例1の太陽電池モジュールでは、400日間経過後に出力が50%程度まで低下していた。これに対し、第1材料5を封止された空間4に配置した実施例1の太陽電池モジュールでは、400日間経過後も出力の低下がほとんどみられなかった。これは、素子部2が配置された封止された空間4内に、第1材料5を入れておくことで、太陽電池モジュールを長時間動作または保管することによるペロブスカイト型化合物の分解を抑制できたためと考えられる。
【0087】
<実施例2及び比較例2>
次に、実施例2および比較例2の太陽電池モジュールを作製し、太陽電池モジュールの動作時間と出力特性との関係を調べた。実施例2および比較例2の太陽電池モジュールは、光吸収層24及びホール輸送層25の材料が、実施例1および比較例1の太陽電池モジュールとそれぞれ異なる。
【0088】
実施例2および比較例2の太陽電池モジュールにおいて、吸収層24の材料は、(Cs0.05Rb0.025(NHCHNH0.768(CHNH0.157)Pb(I0.975Br0.025の化学式で示されるペロブスカイト型化合物であり、ホール輸送層25の材料はポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリメチルフェニル)アミン](以下、PTAAと記す。)である。PTAAの構造式を図5に示す。
【0089】
[実施例2]
まず、実施例2の太陽電池の構成および作製方法を説明する。
【0090】
実施例2の太陽電池モジュールは、図3Aに示した太陽電池モジュール200と実質的に同じ構造を有する。また、素子部2は、図2を参照しながら説明した構造を有する。実施例2の太陽電池モジュールにおける各構成要素の材料および厚さを以下に示す。
基板1:ガラス基板、200×200mm、厚さ:1mm
第1電極22:フッ素ドープSnO層(表面抵抗:8Ω/□)、厚さ:800nm
電子輸送層23:アナターゼ型TiO、厚さ:10nm
光吸収層24:(Cs0.05Rb0.025(NHCHNH0.768(CHNH0.157)Pb(I0.975Br0.025、厚さ:500nm
ホール輸送層25:PTAA、厚さ:50nm
第2電極26:Au、厚さ:200nm
封止体3の第1部分31:ガラス基板
封止体3の第2部分32:ブチルゴム(イソプレン・イソブテン共重合体、平均分子量約10000)
電力線6:Al、厚さ200μm、幅3mm
【0091】
実施例2の太陽電池の作製方法は以下の通りである。
【0092】
まず、基板1であるガラス基板の表面に、第1電極膜12としてフッ素ドープ酸化錫膜、および、第1半導体膜13としてTiO膜をスパッタリング法で形成した。次いで、レーザースクライブ(波長:16μm)により、第1電極膜12および第1半導体膜13に、幅50μmの第1分割溝17を形成した。
【0093】
次に、ペロブスカイト型化合物である(Cs0.05Rb0.025(NHCHNH0.768(CHNH0.157)Pb(I0.975Br0.025の原材料となるヨウ化セシウムCsI 0.005モル、ヨウ化ルビジウムRbI 0.0025モル、ホルムアミジニウムヨウ化水素酸塩NHCHNHI 0.0768モル、メチルアンモニウムヨウ化水素酸塩CHNHI 0.0157モル、メチルアンモニウム臭化水素酸塩CHNHBr 0.0025モルを秤量し、DMSO 130mLに溶解させることで、第1塗布液を作製した。得られた第1塗布液を10mL、スピンコート法(2000rpm、2分間)で、第1半導体膜13であるTiO膜の上面に付与した。次いで、トルエンに浸漬し、120℃で60分間加熱することによって、第2半導体膜14として、厚さが500nmの(Cs0.05Rb0.025(NHCHNH0.768(CHNH0.157)Pb(I0.975Br0.025膜を形成した。
【0094】
さらに、PTAA粉1gをトルエン溶液100mLに溶解し、1.8mol/L LiTFSIのアセトニトリル溶液4.8mL、tert-ブチルピリジン0.6mLを加えて、第2塗布液を作製した。第2塗布液を5mL、スピンコート(1500rpm、30秒)で、第2半導体膜14の上面に付与した。これにより、第3半導体膜15として、厚さが50nmのPTAAを主成分とする膜を形成した。
【0095】
続いて、メカニカルスクライブにより、第2半導体膜14および第3半導体膜15に、幅200μmの第2分割溝18を形成した。
【0096】
次に、第2電極膜16として、真空蒸着法により厚さ200nmのAu膜を形成した。
【0097】
この後、メカニカルスクライブにより、第2半導体膜14、第3半導体膜15および第2電極膜16に、幅50μmの第3分割溝19を形成し、素子部2を得た。
【0098】
なお、ここでは、基板1であるガラス基板(200×200mm)上に、175×175mmのサイズの素子部2を形成した。素子部2は、ガラス基板の周縁部(幅:12.5mm)の内側に形成した。また、素子部2は、直列に接続された35個のユニットセルを有するように各分割溝を形成した。
【0099】
次いで、素子部2の端部に、アルミニウムからなる電力線6を銀ペーストで接着した。このようにして、基板1上に、実施例2の太陽電池素子を形成した。
【0100】
続いて、素子部2が形成された基板1と、第1部分31となる板状部材であるガラス基板とを、約1mmの間隔を空けて対向させた。1mmの間隔を確保した状態で、基板1と板状部材との間隔に、第1材料5としてメチルアンモニウムヨウ化水素酸塩CHNHIの粉末100mgを入れた。
【0101】
次いで、第2部分32となるシール部材として、基板1と板状部材との間に、素子部2を包囲するように、ホットメルトブチルゴムを注入した。シール部材は、基板1の周縁部と板状部材の周縁部とを接合するように配置した。シール部材の幅は5mmとした。このようにして、基板1、板状部材およびシール部材によって密封された、封止された空間4を形成した。電力線6は、封止された空間4の内部から、シール部材を貫通して外部に取り出した。このようにして、実施例2の太陽電池モジュールを作製した。
【0102】
[比較例2]
基板1と封止体3の第1部分31との間に、第1材料5としてメチルアンモニウムヨウ化水素酸塩CHNHIを配置しなかった点以外は、実施例2と同様の方法で比較例2の太陽電池モジュールを作製した。第1材料5以外の構成要素は、実施例2と同様とした。
【0103】
[光電変換特性の評価]
実施例2および比較例2の太陽電池モジュールを1個ずつ作製し、これらの光電変換特性の評価を行った。ここでは、太陽電池モジュールを26日間、室温の大気中に設置し、光強度が1kW/mである疑似太陽光照射の条件下で、太陽電池モジュールの出力変化を計測した。
【0104】
図6は、実施例2および比較例2の太陽電池モジュールの出力維持率を示す図である。
【0105】
図6に示す結果から分かるように、封止された空間4に第1材料5が配置されていない比較例2の太陽電池モジュールでは、26日間経過後に出力が90%程度まで低下していた。これに対し、第1材料5を封止された空間4に配置した実施例2の太陽電池モジュールでは、26日間経過後も出力の低下がほとんどみられなかった。これは、素子部2が配置された封止された空間4内に、第1材料5を入れておくことで、太陽電池モジュールを長時間動作または保管することによるペロブスカイト型化合物の分解を抑制できたためと考えられる。
【0106】
<実施例3及び比較例3>
次に、実施例2及び比較例2に対して、封止空間4にシリコーン樹脂を充填した
実施例3および比較例3の太陽電池モジュールを作製し、太陽電池モジュールの動作時間と出力特性の関係を調べた。実施例3および比較例3の太陽電池モジュールは、封止された空間4内にシリコーン樹脂が充填されている点で、実施例2および比較例2の太陽電池モジュールとそれぞれ異なる。実施例3および比較例3の太陽電池モジュールのそれ以外の構造は、実施例2および比較例2の太陽電池モジュールと同じであるため説明を省略する。
【0107】
[実施例3]
以下に、実施例3の太陽電池モジュールの作製方法を説明する。ただし、素子部2の端部に、アルミニウムからなる電力線6を銀ペーストで接着することにより太陽電池素子を形成する工程までは実施例2と同様であるので、説明を省略する。
【0108】
封止体3の第1部分31となる板状部材であるガラス基板の中央に、18cm角、厚さ0.5mmの低温架橋型シリコーン樹脂(信越シリコーン株式会社製)のシートを置いた。
【0109】
さらに低温架橋型シリコーン樹脂のシート上に第1材料5としてメチルアンモニウムヨウ化水素酸塩CHNHIの粉末100mgを撒いた後、素子部2と低温架橋型シリコーン樹脂のシートとが接触するように、低温架橋型シリコーン樹脂のシート上に太陽電池素子を置いた。
【0110】
真空ラミネート装置(株式会社エヌ・ピー・シー製 LM30×30)を用いて、板状部材、低温架橋型シリコーン樹脂のシート、および太陽電池素子を真空中で60℃、10分間に加熱することによって、低温架橋型シリコーン樹脂を架橋して固定した。
【0111】
次いで、封止体3の第2部分32であるシール部材として、基板1と板状部材との間に、素子部2を包囲するように、ホットメルトブチルゴムを注入した。シール部材は、基板1の周縁部と板状部材の周縁部とを接合するように配置した。シール部材の幅は5mmとした。このようにして、基板1、板状部材およびシール部材によって密封された封止された空間4を形成した。電力線6は、封止された空間4の内部から、シール部材を貫通して外部に取り出した。このようにして、実施例3の太陽電池モジュールを作製した。
【0112】
[比較例3]
低温架橋型シリコーン樹脂のシート上に第1材料5としてメチルアンモニウムヨウ化水素酸塩CHNHIの粉末100mgを撒かなかった点以外は、実施例3と同様の方法で比較例3の太陽電池モジュールを作製した。第1材料5以外の構成要素は、実施例3と同様とした。
【0113】
[光電変換特性の評価]
実施例3および比較例3の太陽電池モジュールを1個ずつ作製し、これらの光電変換特性の評価を行った。ここでは、太陽電池モジュールを26日間、室温の大気中に設置し、光強度が1kW/mである疑似太陽光照射の条件下で、太陽電池モジュールの出力変化を計測した。
【0114】
図7は、実施例3および比較例3の太陽電池モジュールの出力維持率を示す図である。
【0115】
図7に示す結果から分かるように、封止された空間4に第1材料5が配置されていない比較例3の太陽電池モジュールでは、26日間経過後に出力が94%程度まで低下していた。これに対し、第1材料5を封止空間4に配置した実施例3の太陽電池モジュールでは、26日間経過後も出力の低下がほとんどみられなかった。これは、素子部2が配置された封止された空間4内に、第1材料5を入れておくことで、太陽電池モジュールを長時間動作または保管することによるペロブスカイト型化合物の分解を抑制できたためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本開示の太陽電池は、屋根上に設置する太陽電池、及びメガソーラーといわれるような大規模な太陽電池に利用できる。また、フォトディテクターとして、あるいはイメージセンシングにも利用できる。
【符号の説明】
【0117】
1 基板
2 素子部
3、7 封止体
4 封止された空間
5 第1材料
6 電力線
12 第1電極膜
13 第1半導体膜
14 第2半導体膜
15 第3半導体膜
16 第2電極膜
17 第1分割溝
18 第2分割溝
19 第3分割溝
20 ユニットセル
22 第1電極
23 電子輸送層
24 光吸収層
25 ホール輸送層
26 第2電極
31 第1部分
32 第2部分
71 第1の板状部材
72 シール部材
73 第2の板状部材
100、200、300、400 太陽電池モジュール
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7