(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】コンクリート表面保護材
(51)【国際特許分類】
C04B 41/71 20060101AFI20220621BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20220621BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20220621BHJP
C09J 7/22 20180101ALI20220621BHJP
E04B 1/62 20060101ALI20220621BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
C04B41/71
C09J201/00
C09J11/08
C09J7/22
E04B1/62 Z
E04G23/02 A
(21)【出願番号】P 2018128478
(22)【出願日】2018-07-05
【審査請求日】2021-04-19
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平子 智章
(72)【発明者】
【氏名】正部 祐季
(72)【発明者】
【氏名】古橋 勝之
(72)【発明者】
【氏名】野口 勝俊
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-128470(JP,A)
【文献】特開平04-164949(JP,A)
【文献】特表2005-538276(JP,A)
【文献】特開平11-130819(JP,A)
【文献】特開2019-035233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/45 - 41/71
C09J 11/08
C09J 7/22
C09J 201/00
E04B 1/62
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着樹脂層中に網目状シートを備え、
前記接着樹脂層は、前記接着樹脂層100質量%に対して
2.5~
5質量%のガラスビーズを含み、
前記網目状シートにおける網目開口率が
67~73%であ
り、
前記接着樹脂層に使用される接着剤は、粘度が400,000~1,000,000mPa・sであることを特徴とする、
コンクリート表面保護材。
【請求項2】
前記接着樹脂層におけるコンクリートに接触する面と反対側の表面に保護シートが設けられた、請求項1に記載のコンクリート表面保護材。
【請求項3】
前記接着樹脂層の10%モジュラスが0.7以下である、請求項1又は2に記載の保護材。
【請求項4】
前記ガラスビーズの平均粒子径が0.05~1.8mmである、請求項1~
3の何れか1項に記載の保護材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート表面保護材に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリートを構成するコンクリートは強アルカリ性を示し、当該強アルカリ性の性質を有することにより、内部の鉄筋が保護される。
【0003】
一方で、コンクリート構造体の耐久性を維持するために使用されるコンクリートの表面保護材は、コンクリートの強アルカリ性に対する耐性を十分に備えている必要がある。
【0004】
コンクリート表面保護材の耐アルカリ性に関して、例えば、東海道新幹線鉄筋コンクリート維持管理標準では、モルタル板にコンクリート保護材を塗装し、飽和水酸化カルシウム水溶液に30日間、半浸漬した後、コンクリート保護材に割れ、膨れ、剥がれ、軟化、溶出がないことを確認する手法により、評価される。
【0005】
上記の評価項目の中でも、特に膨れに関しては、コンクリート表面保護材の性能を論じるうえで課題として指摘されるものである。コンクリート表面保護材に膨れが生じると、外観不良及び/又は表面保護材のはく離を引き起こしてしまう。
【0006】
一方で、かかるコンクリート表面保護材に求められる性質の一つとして、接着樹脂層を形成する接着剤組成物の、優れた左官性がある。一般的に、優れた左官性を維持しつつ、アルカリ条件下での膨れを抑制することは困難であり、双方の性質を高いレベルで備えるコンクリート表面保護材を得ることは、困難であると考えられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような事情に鑑み、本発明の目的とするところは、良好な左官性を有しつつも、アルカリ条件下に曝しても膨れの少ない、コンクリート表面保護材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、コンクリート表面保護材の接着樹脂層にガラスビーズを含ませ、また、接着樹脂層内に所定の網目状シートを介在させることにより、アルカリ条件下においても膨れの少ないコンクリート保護材を得ることができることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、以下のコンクリート表面保護材を提供する。
項1.
接着樹脂層中に網目状シートを備え、
前記接着樹脂層は、前記接着樹脂層100質量%に対して0.5~13質量%のガラスビーズを含み、
前記網目状シートにおける網目開口率が43~73%であることを特徴とする、
コンクリート表面保護材。
項2.
前記接着樹脂層におけるコンクリートに接触する面と反対側の表面に保護シートが設けられた、項1に記載のコンクリート表面保護材
項3.
前記接着樹脂層の10%モジュラスが0.7以下である、項1又は2に記載の保護材。
項4.
前記接着樹脂層に使用される接着剤は、粘度が10,000~1,000,000mPa・sである、項1~3の何れかに記載の保護材。
項5.
前記ガラスビーズの平均粒子径が0.05~1.8mmである、項1~4の何れかに記載の保護材。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコンクリート表面保護材は、良好な左官性を有しつつも、アルカリ条件下に曝しても、膨れが少ない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のコンクリート表面保護材は、接着樹脂層中に網目状シートを備え、前記接着樹脂層は、前記接着樹脂層100質量%中に0.5~13質量%のガラスビーズを含み、前記網目状シートにおける網目開口率が43~73%であることを特徴とする。
【0013】
以下、図面をもとに本発明のコンクリート表面保護材の実施形態について説明する。
【0014】
図1に示すように、本発明のコンクリート表面保護材100は、例えばコンクリート210及び鉄筋220を有して構成されるコンクリート構造物200の保護材として機能するもので、鉄筋コンクリート構造物の、コンクリート表面に設けられる。
【0015】
コンクリート表面保護材100は、接着樹脂層130中に、網目状シート140を備える。網目状シート140は、該網目状シート140をコンクリート構造物200の表面に設けた上に、接着樹脂層130が積層されるという態様であってもよいし、コンクリート構造物200の表面に接着樹脂層130を設けた後に、網目状シート140を設けるという態様であってもよい。但し、コンクリート表面保護材の強度を効果的に発揮するためには、
図1に示すように、第1の接着樹脂層110、網目状シート140、及び第2の接着樹脂層120を、この順に積層したものであることが好ましい。また、接着樹脂層130におけるコンクリート210に接触する面と反対側の表面に保護シート300を設けることも好ましい。例えば、保護シート300は、炭素膜320及び樹脂層310を含むことが好ましい。さらに具体的には、
図1に示すように、炭素膜320、樹脂層310及び接着樹脂層130をこの順に有し、前記接着樹脂層130中に網目状シート140を備えるコンクリート表面保護材とすることも好ましい。
【0016】
コンクリート表面保護材の厚み(但し、保護シートの厚みは除く。)は、1.0mm以上であることが好ましく、1.2mm以上であることがより好ましい。コンクリート表面保護材の厚みが1.0mm以上であることにより、コンクリートとの良好な付着性と、良好な塗布性(左官性)とを得ることができる。一方、コンクリート保護材の厚みは、5mm以下であることが好ましく、3.8mm以下であることがより好ましい。コンクリート保護材の厚みが5mm以下であることにより、良好な付着性と、良好な塗布性(左官性)とを得ることができる。
【0017】
接着樹脂層として、第1の接着樹脂層と第2の接着樹脂層とが設けられる場合においては、コンクリート表面保護材全体の厚みが上記数値範囲内に好ましく設定される限りにおいては、それぞれの接着樹脂層の厚みは、例えば略同じ厚みに設定してもよいし、異なる厚みに設定してもよい。但し、左官塗布時の膜厚を、接着樹脂層の重量で管理するため、作業管理上、各層の樹脂は同量であるほうが良いという理由から、第1の接着樹脂層と第2の接着樹脂層とは、略同じにすることが好ましい。
【0018】
接着樹脂層を形成するための接着剤樹脂組成物としては、コンクリートに接着可能な公知の接着剤を広く採用することが可能であり、特に限定はない。具体的には、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、シリコーン系接着剤、及びゴム系接着剤を例示することができ、より好ましくは、変成シリコーン樹脂と、エポキシ樹脂と、それぞれの樹脂を硬化させるための硬化剤とを含む接着剤樹脂組成物であってよい。また、高湿度環境下での使用を想定し、また、ある程度の低温時でも硬化するという理由から、湿気硬化型の接着剤を使用することが好ましい。
【0019】
接着剤樹脂組成物は、いわゆる1液型の樹脂組成物であってもよいし、いわゆる2液混合型の樹脂組成物の2液混合物であってもよい。1液型の樹脂組成物である場合は、作業が容易であるとともに作業効率も良好であり、さらに、硬化に供する接着剤樹脂組成物の均一性が良好である点で硬化不良が起こりにくく、したがって容易に良好な接着性を得ることができる。2液混合型の樹脂組成物である場合は、コンクリート構造物200の表面における凹凸および/または割れの程度に関わらず接着性が良好であり、さらに、耐候性も良好である点で好ましい。
【0020】
接着剤樹脂組成物が変成シリコーン樹脂と、エポキシ樹脂と、それぞれの樹脂を硬化させるための硬化剤とを含む接着剤樹脂組成物である場合、1液型の例として、接着剤樹脂組成物として、変成シリコーン樹脂と、エポキシ樹脂と、シラノール縮合触媒と、エポキシ硬化剤とを含む混合物が挙げられる。また、2液型の第I剤および第II剤の例としては次のものが挙げられる。第I剤には変成シリコーン樹脂が含まれ、第II剤にはエポキシ樹脂が含まれる。この場合、第I剤にさらにエポキシ硬化剤が含まれ、第II剤にさらにシラノール縮合触媒が含まれる。
【0021】
変成シリコーン樹脂としては特に限定されないが、好ましくは湿気硬化型の変成シリコーン樹脂であり、この場合、加水分解性ケイ素基を有する。加水分解性ケイ素基を有する変成シリコーン樹脂は、ポリエーテル系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマーおよびアクリル系ポリマーからなる群から選ばれるポリマーを主鎖(加水分解性ケイ素基を除く部分)とする。したがって、主鎖は、アルキレンオキサイド成分、オレフィン成分およびアクリル成分からなる群から選ばれるモノマーの重合体であってよく、この重合体は、単独重合体および共重合体を問わない。共重合体である場合、共重合成分としては、アルキレンオキサイド成分、オレフィン成分、アクリル成分、および他のビニル成分からなる群から選ばれてよい。
【0022】
アルキレンオキサイド成分としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどが挙げられる。主鎖は、硬化後の伸びおよび粘性的な取り扱い易さの観点から、主としてプロピレンオキサイド単位から構成されるポリプロピレンオキサイドが好ましい。オレフィン成分としては、イソブチレンが挙げられる。
【0023】
アクリル成分としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5-ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシ-3-メチルブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、2-[(メタ)アクリロイルオキシ]エチル2-ヒドロキシエチルフタル酸、2-[(メタ)アクリロイルオキシ]エチル2-ヒドロキシプロピルフタル酸などが挙げられる。なお、アクリル系ポリマーが、他のビニルモノマー成分が共重合されたものである場合、加水分解性ケイ素基を有するビニルモノマー成分を共重合することにより加水分解性ケイ素基を導入することができる。
【0024】
主鎖がアクリル単位を含んでいることは、耐候性が良好となる点で好ましい。さらに、耐候性の観点からは、主鎖中のアクリル単位の含有量は、5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0025】
加水分解性ケイ素基としては特に限定されないが、ハロゲン化シリル基、アルケニルオキシシリル基、アシロキシシリル基、アミノシリル基、アミノオキシシリル基、オキシムシリル基、アミドシリル基、アルコキシシリル基などが挙げられる。ここで、加水分解性ケイ素基におけるケイ素原子に結合した加水分解性基の数は1以上3以下が好ましい。また、1つのケイ素原子に結合した加水分解性基は1種であってもよく、複数種であってもよい。更に、加水分解性基と非加水分解性基とが1つのケイ素原子に結合していてもよい。加水分解性ケイ素基としては、安定性に優れ、取り扱いが容易である点で、モノアルコキシシリル基、ジアルコキシシリル基、トリアルコキシシリル基などのアルコキシシリル基が好ましい。変成シリコーン樹脂は、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0026】
加水分解性ケイ素基を有する変成シリコーン樹脂の数平均分子量は、たとえば、1,000以上500,000以下、1,000以上100,000以下、10,000以上30,000以下、4,000以上500,000以下、または4,000以上30,000以下である。変成シリコーン樹脂の数平均分子量が1,000以上であることにより、接着剤樹脂組成物の硬化時間を短縮することが可能であり、また、硬化後の接着強度が良好となる。また、変成シリコーン樹脂の数平均分子量が500,000以下であることにより、接着剤樹脂組成物の粘度が適切なものとなり、コンクリート表面保護材をコンクリート表面に設ける際の作業性が良好となる。
【0027】
シラノール縮合触媒は、変成シリコーン樹脂組成物を短時間で硬化させるために用いられる。シラノール縮合触媒としては、ポリ(ジアルキルスタノキサン)ジシリケート化合物、モノアルキル錫エステルおよびジアルキル錫エステルなどの錫触媒、有機チタネートなどが挙げられる。
【0028】
モノアルキル錫エステルとしては、例えば、ブチルスズトリス(2-エチルヘキサノエート)などが挙げられ、ジアルキル錫エステルとしては、例えば、ジブチル錫アセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクトエート、ジブチル錫ジオレート、ジブチル錫ジメトキシド、ジブチル錫ジフェノキシド、ジブチル錫ジアセチルアセトナート、ジブチル錫アセトアセテート、オクタン酸第1錫などが挙げられる。有機チタネートとしては、例えば、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラメチルチタネート、テトラ(2-エチルヘキシルチタネート)トリエタノールアミンチタネートなどのチタンアルコキシド類、チタンテトラアセチルアセトナート、チタンエチルアセトアセテート、オクチレングリコレートなどのチタンキレート類などが挙げられる。シラノール縮合触媒は、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0029】
接着剤樹脂組成物中のシラノール縮合触媒の含有量は、変成シリコーン樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、1質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。シラノール縮合触媒が変成シリコーン樹脂100質量部に対して0.1質量部以上であることにより、接着剤樹脂の硬化時間を短縮することが可能である。一方、シラノール縮合触媒が変成シリコーン樹脂100質量部に対して10質量部以下であることにより、接着剤樹脂の接着強度などの物性を好適に維持することができる。
【0030】
エポキシ樹脂としては特に限定されず、エポキシ基を有する樹脂であればよい。具体的には、不飽和の脂肪族化合物、脂環式化合物、芳香族化合物、および複素環式化合物からなる群から選ばれる化合物にグリシジル基が結合したものが挙げられる。中性化抑制効果の観点からは、芳香族化合物を含むものであることが好ましい。
【0031】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型およびこれらの水添化物などのビスフェノール型エポキシ樹脂;ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フタル酸ジグリシジルエステル型エポキシ樹脂などのエステル型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型およびクレゾールノボラック型などのノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂およびこれらの水添化物;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂などのトリスフェノール型の多官能エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート型、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン型、テトラグリシジルメタキシレンジアミン型、ヒダントイン型などの含窒素環型多官能エポキシ樹脂;ナフタレン型などの縮環型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;エーテルエステル型エポキシ樹脂;3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートなどの脂環式構造を有するエポキシ樹脂;ウレタン型エポキシ樹脂;ポリブタジエンおよびアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などのゴム骨格を有するゴム変成エポキシ樹脂などを用いることができる。エポキシ樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
接着剤組成物中のエポキシ樹脂の含有量は、変成シリコーン樹脂100質量部に対し、1質量部以上100質量部以下であることが好ましく、2質量部以上80質量部以下であることがより好ましい。変成シリコーン樹脂100質量部に対してエポキシ樹脂の含有量が1質量部以上であることにより、硬化後の接着樹脂層において良好な靭性を得ることができる。また、エポキシ樹脂の含有量が100質量部以下であることにより、硬化後の接着樹脂層において良好な弾性を得ることができる。
【0033】
エポキシ硬化剤としては、たとえばアミン化合物が挙げられる。アミン化合物としては、N,N-ジメチルプロピルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族3級アミン類、N-メチルピペリジン、N,N’-ジメチルピペラジンなどの脂環族3級アミン類、ベンジルジメチルアミン、ジメチルアミノメチルフェノール、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの芳香族3級アミン類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミン、トリメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、テトラメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン類、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソフォロンジアミン、ノルボルデンジアミンなどの脂環式ジアミン類、ジアミノジフェニルメタン、メタフェニレンジアミンなどの芳香族ジアミン類が挙げられる。
上記以外にも、エポキシ硬化剤としては、ポリアミド樹脂;2-エチル-4-メチルイミダゾールなどのイミダゾール類;無水フタル酸などのカルボン酸無水物などの化合物が挙げられる。
【0034】
さらに、エポキシ硬化剤としては、活性アミンがブロックされており、水分などの所定の条件下で活性化するケチミンなどの潜在型硬化剤であってもよい。たとえばケチミンは、水分がない状態では安定に存在するが、水分の存在によって一般に一級アミンとなり、エポキシ樹脂と反応する。具体的には、2,5,8-トリアザ-1,8- ノナジエン、2,10- ジメチル-3,6,9- トリアザ-2,9- ウンデカジエン、2,10- ジフェニール-3,6,9- トリアザ-2,9- ウンデカジエン、3,11- ジメチル-4,7,10-トリアザ-3,10-トリデカジエン、3,11-ジエチル-4,7,10-トリアザ-3,10-トリデカジエン、2,4,12,14-テトラメチル-5,8,11-トリアザ-4,11-ペンタデカジエン、2,4,20,22-テトラメチル-5,12,19- トリアザ-4,19-トリエイコサジエン、2,4,15,17-テトラメチル-5,8,11,14- テトラアザ-4,14-オクタデカジエンなどが挙げられる。
エポキシ硬化剤は、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0035】
接着剤樹脂組成物中のエポキシ硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対し、20質量部以上60質量部以下であることが好ましく、30質量部以上50質量部以下であることがより好ましい。あるいは、エポキシ硬化剤として潜在型硬化剤を用いる場合は、活性化により生じる活性アミノ基の総モル数に対する、エポキシ樹脂のエポキシ基の総モル数(エポキシ基の総モル数/活性アミノ基の総モル数)は、0.8以上1.2以下であることが好ましく、0.9以上1.1以下であることがより好ましい。上記下限値以上であることは、硬化膜の弾性率の観点で好ましく、上記上限値以下であることは、貯蔵安定性の点で好ましい。
【0036】
接着剤樹脂組成物中には、必要に応じて、他の添加剤をさらに含んでいてもよい。他の添加剤としては、脱水剤、エポキシシランカップリング剤、酸化防止剤、充填材、可塑剤、タレ防止剤、紫外線吸収剤、顔料、溶剤、及び香料などが挙げられる。
【0037】
上述の接着剤樹脂組成物としては、さらに水が加えられた、非加熱または加熱されたものが用いられてよい。加熱される場合、たとえば40度以上80度以下の温度とすることができる。上記下限値以上であることは、短時間で十分な接着力を得る点で好ましい。上記上限値以下であることは、保護シートの損傷を防ぐ点で好ましい。
【0038】
接着剤樹脂組成物の粘度は、JIS K6833に準拠し、23℃、50%RHにおける初期粘度が10,000mPa・S以上1,000,000mPa・S以下であることが好ましく、50000mPa・S以上800000mPa・S以下であることがより好ましい。尚、初期粘度とは、BS型粘度計のローター7を使用し、回転数10rpmで測定した粘度とする。接着剤樹脂組成物の粘度が10,000mPa・S以上であることにより、適度な粘性となり施工性の点で好ましい。また、接着剤樹脂組成物の粘度が1,000,000mPa・S以下であることにより、コンクリート構造物200表面の凹凸への接着樹脂層の密着性が良好となり接着性の点で好ましい。さらに、接着樹脂組成物が網目状シート140に入り込みやすく、その結果、脱泡不良による外観不良や、接着樹脂組成物の未充填による付着力の低下を無くすことができる。
【0039】
接着樹脂層に含まれるガラスビーズを構成する成分としては、特に限定はない。具体的には、ソーダ石灰、二酸化ケイ素、アルミナ、酸化ナトリウム、酸化カルシウム、酸化鉄、酸化カリウム、及びパーライトからなる群より選択される一種以上を例示することが可能である。
【0040】
ガラスビーズの平均粒子径は0.05mm以上であることが好ましく、0.075mm以上であることがより好ましい。かかる構成を採用することにより、良好な左官性を得ることができる。一方、ガラスビーズの平均粒子径は、1.8mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であることがより好ましい。かかる構成を採用することにより、良好な左官性を得ることができる。尚、本明細書においてガラスビーズの平均粒子径は、画像解析法により得られる値であると定義される。
【0041】
ガラスビーズの形状は特に限定はない。具体的には、球形中空形状,中実形状(中空状態ではなく、密実なもの)を例示することができる。
【0042】
接着樹脂層におけるガラスビーズの含有量は、接着樹脂層100質量%中に、0.5質量%以上であり、好ましくは、1.0質量%以上である。ガラスビーズの含有量が0.5質量%に満たない場合、ガラスビーズを含有していない状態と同様となってしまう。一方、接着樹脂層におけるガラスビーズの含有量は、接着樹脂層100質量%中に、13質量%以下であり、好ましくは10質量%以下である。ガラスビーズの含有量が13質量%を超えてしまうと、粘度が上がりすぎてしまい,良好な左官性が失われてしまう。
【0043】
接着剤樹脂組成物として湿気硬化型接着剤を採用する場合、接着剤樹脂組成物中に含まれガラスビーズの含有量と、接着剤樹脂組成物が硬化した後の接着樹脂層に含まれているガラスビーズの含有量とは、ほぼ等しくなる。
【0044】
硬化後の接着樹脂層の10%モジュラスは、0.2以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。かかる構成を採用することにより、幅が広く,動きのあるひび割れにも追従することができるという効果を得ることができる。また、硬化後の接着樹脂層の10%モジュラスは、0.7以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましい。かかる構成を採用することにより、接着樹脂層の硬化物の弾性によって、施工後のコンクリート表面保護材に繰り返し応力が加わったとしても、コンクリート表面保護材のひび割れを効果的に抑制できるという効果を得ることができる。尚、本明細書において10%モジュラスは、JIS K6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム―引張特性の求め方」に準拠した10%伸長時の応力(10%モジュラス)をいう。
【0045】
なお、本発明において接着剤樹脂組成物を塗布するとは、塗布法によって接着剤樹脂組成物層を設けることに限定されず、浸漬法、スプレー法などによって接着剤樹脂組成物層を設けることも含む。塗布法としては、ロール、ヘラ、コテなどを用いた塗布、しごき塗り、刷毛塗り、流し塗りなどの方法を包含する。ロールを用いて塗布する場合、ゴム製または金属性のロールを用いることができ、さらに、2本ロールまたは3本ロールの態様で塗布することができる。
【0046】
網目状シートは、該網目状シートを水平に設置し、上方から俯瞰した網目状シート全体の面積に対する網目の開口面積の割合(以下、網目開口率という。)が、43~73%であり、50~70%であることが、より好ましい。網目開口率が43%に満たない場合、メッシュの開口部に存在する接着性樹脂組成物量が少なくなり、付着強度が低下してしまう。一方、網目開口率が73%を超えると、接着剤樹脂組成物の面積が大きく、耐アルカリ性試験における水の影響を受けやすくなるため、膨れが発生してしまう。
【0047】
網目状シートの素材としては、公知の繊維を使用することが可能であり、特に限定はない。具体的には、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、及びバサルト繊維からなる群より選択される一種以上を使用することが可能である。
【0048】
網目状シートの具体的態様としては、メッシュ、織布、編布(網)および不織布が挙げられ、これらの中から1種を単独で、または2種以上の組み合わせで用いることができる。この中でも、剥落防止能の観点から、メッシュが好ましい。本明細書においてメッシュとは、複数本の連続繊維束が交差積層し、その交差部分において繊維束同士が好ましくは接着された構造を持つ基材を指すものと定義される。具体的には、2軸メッシュ(格子状メッシュ)、3軸メッシュ、4軸メッシュ、5軸メッシュ、およびそれ以上の多軸メッシュ(多次元メッシュ)が挙げられ、剥落防止能をより好ましく得る観点からは、3軸以上の多軸メッシュであることが好ましい。3軸メッシュは、経方向、斜方向、逆斜方向の3方向に、具体的には繊維束の交差角が60度となるように積層した多軸メッシュであることが好ましい。より具体的には、組布(登録商標)が挙げられる。
【0049】
網目状シートにおける網目のピッチに関しては、網目開口率が43~73%の範囲に収まるように適宜設定すればよく、特に限定はない。具体的には、3~15mmとすることが好ましく、5~12mmとすることがより好ましい。網目状シートの目付量に関しても同様に、網目開口率が43~73%の範囲に収まるように適宜設定すればよく、30~100g/m2であること好ましく、40~90g/m2であることがより好ましい。
【0050】
網目状シートの厚みは特に限定されないが、例えば、0.01~1mmであって良い。かかる構成を作用することにより、下限値以上であれば、はく落防止性能で優れ、上限値以下であることは、メッシュの両側に配置される樹脂組成物の一体性が良好となるという効果を得ることができる。
【0051】
本発明のコンクリート表面保護材には、さらに、保護シートを設けることも好ましい。保護シートは、接着剤樹脂組成物で貼り付けができ,接着剤樹脂組成物表面を被覆できるものであれば特に限定はない。具体的には、樹脂層及び炭素膜を含んで構成される態様を挙げることができる。さらに具体的には、炭素膜、樹脂層、接着樹脂層をこの順に有し、前記接着樹脂層中に網目状シートを備えるコンクリート表面保護材とすることが、好ましい。
【0052】
樹脂層の材質としては樹脂であればよく、たとえば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、及びポリプロピレンなどからなる群より選択される1種以上を使用することができる。
【0053】
樹脂層の膜厚は、1μm以上1000μm以下であることが好ましく、10μm以上500μm以下であることがより好ましい。樹脂層の膜厚が1μm以上とすることにより、コンクリートの中性化を抑制することができる。また、樹脂層の膜厚が1000μm以下とすることにより、保護シートのコンクリート構造物への良好な接着施工性を得ることができる。
【0054】
樹脂層の、JIS K7197に準拠した線膨張率は、10×10-5/K以下であることが好ましく、5×10-5/K以下であることが、より好ましい。上記上限値以下であることにより、樹脂層自体の割れを防止し、当該割れに追随する炭素膜のひび割れを抑制しやすくなる。
【0055】
炭素膜としては、種々の炭素膜が用いられるが、中性化抑制効果の観点、さらには酸素および/または水蒸気の透過を抑制する観点から好ましくはダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜である。DLC膜は、ダイヤモンド構造(sp3結合)とグラファイト構造(sp2結合)とを両方含む非晶質の膜である。また、水素を含んでもよいし、含まなくてもよい。ダイヤモンド構造とグラファイト構造との混在比率、および水素の含有率は特に限定されない。より具体的には、ta-C、a-C、ta-C:H、およびa-C:Hが挙げられる。
【0056】
炭素膜のひび割れを効果的に抑制することができる接着樹脂層とするために、たとえば、ナノインデンテーション法で測定した硬さが1GPa以上の炭素膜とすることも好ましい。なお、ナノインデンテーション法とは、圧子(例えばナノオーダーの針)を材料表面に押込み、荷重と変位量とから微小領域の硬さ、ヤング率等を測定する方法である。一例として次のように測定することができる。Hysitron社製Triboscopeを使用し、ベルコビッチ型圧子と呼ばれる三角錘型ダイヤモンド製圧子を試料表面に直角に当て、炭素膜表面から炭素膜の膜厚の10%の押込み量まで徐々に荷重を印加後、荷重を0にまで徐々に戻す。この時の最大荷重Pを圧子接触部の投影面積Aで除した値P/Aを硬度として算出する。
【0057】
炭素膜の膜厚は、0.01μm以上1μm以下とすることが好ましく、0.02μm以上0.5μm以下とすることがより好ましい。炭素膜の膜厚を0.01μm以上とすることにより、コンクリートの中性化を抑制することができる。また、炭素膜の膜厚を1μm以下とすることにより、保護シートの炭素膜のひび割れの発生を抑制することができる。
【0058】
保護シートは、樹脂層を基材とし、種々の気相成膜法によって炭素膜を形成することによって製造することができる。たとえば気相成膜法の具体例としては、プラズマCVD法およびスパッタ法などが挙げられる。さらに、プラズマCVD法としては、大気圧プラズマCVD法、および高真空下でのプラズマCVD法を挙げることができる。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例】
【0060】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0061】
(膨れ評価試験<耐アルカリ性試験>)
各実施例及び比較例に関して、下記表1に示される接着剤をモルタル試験片(70×70×t20 mm)に塗布することにより第1の接着樹脂層を設け、その上に、同じく下記表1に示されるビニロン製の網目状シートを乗せ、さらにその上に、第2の接着樹脂層を形成した。さらにその上に,非晶質炭素膜を蒸着したプラスチック製シートを貼り付けた。形成されたコンクリート表面保護材の厚みは1.7mmであった。得られたコンクリート表面保護材を被覆したモルタルを、水酸化カルシウム飽和溶液中に30日間半浸漬した。浸漬後、割れ、膨れ、剥がれ、溶出がないことを確認した。
【0062】
(左官性評価試験)
各実施例及び比較例に関して、下記表1に示される接着剤を、へら及びこてを使用し、JISコンクリート平板(60×600×400mm)に左官することにより、伸び、キレ、糸曳き、脱泡のしやすさを評価した。評価方法としては、伸び、キレ、及び糸曳きをまとめて左官性とし、土木作業に従事経験のある有識者に、3点を最高得点として点数付けを実施した。脱泡についても同様に脱泡性として点数付けを行い,左官性と脱泡性の合計点が6点になった条件を左官性が良いものとした。
【0063】
(付着性評価試験)
JSCE K531‐1999「表面保護材の付着強さ試験方法」によってコンクリート保護材の付着強さ試験を行った。モルタル試験片にコンクリート表面保護材料を施工した後、28日間養生し、付着性試験を行った。
【0064】
【0065】
表1に示すとおり、各実施例のコンクリート表面保護材は、良好な左官性を有しつつ、アルカリ条件下に曝しても膨れが少なかった。一方で、各比較例のコンクリート表面保護材は、上記性質の何れかにおいて、十分な性能が得られなかった。
【符号の説明】
【0066】
100 コンクリート表面保護材
110 第1の接着樹脂層
120 第2の接着樹脂層
130 接着樹脂層
140 網目状シート
200 コンクリート構造物
210 コンクリート
220 鉄筋
300 保護シート
310 樹脂層
320 炭素膜