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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】ガス検出方法およびガス検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/16 20060101AFI20220621BHJP
【FI】
G01N27/16 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018134720
(22)【出願日】2018-07-18
(65)【公開番号】P2019023631
(43)【公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2017141769
(32)【優先日】2017-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000250421
【氏名又は名称】理研計器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(74)【代理人】
【識別番号】100078754
【氏名又は名称】大井 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110515
【氏名又は名称】山田 益男
(74)【代理人】
【識別番号】100189083
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 圭介
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】朝田 隆二
(72)【発明者】
【氏名】芝▲崎▼ 克一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊介
【審査官】赤木 貴則
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-175969(JP,A)
【文献】特開2007-232406(JP,A)
【文献】特開2006-250569(JP,A)
【文献】特開2016-223925(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152645(WO,A1)
【文献】特開平05-312748(JP,A)
【文献】特開昭54-024097(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0257289(US,A1)
【文献】特開2006-234834(JP,A)
【文献】特開2007-057295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/24
G01N 25/00-25/72
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々測温抵抗体に固着させた金属酸化物焼結体の担体に触媒を担持させてなる2つのガス検出素子が、同一または連続する通電期間と休止期間とからなるガス検出サイクルを繰り返すよう間欠駆動される接触燃焼式ガスセンサを備えたガス検出装置において実行されるガス検出方法であって、
検出対象ガスの濃度が既知の基準ガスを一方のガス検出素子に対し、シリコーン化合物を吸着および除去し、パラフィン系炭化水素ガス、水素ガス及びアルゴンガスを透過させるとともに溶媒ガスを除去するように構成されたシリコーン除去フィルタを介して供給すると共に当該基準ガスを他方のガス検出素子に対して前記シリコーン除去フィルタを介さずに供給し、1ガス検出サイクルにおいて当該一方のガス検出素子によって取得される2以上の出力データおよび当該他方のガス検出素子によって取得される2以上の出力データによって構成される基準出力変化パターンを予め取得しておき、
1ガス検出サイクルにおいて被検ガスについて前記一方のガス検出素子によって取得される2以上の出力データおよび当該被検ガスについて前記他方のガス検出素子によって取得される2以上の出力データによって構成される出力変化パターンを取得し、
当該出力変化パターンを前記基準出力変化パターンに対照することにより当該被検ガス中の検出対象ガスの種類を特定するガス識別処理を行い、
前記ガス識別処理において、被検ガス中の検出対象ガスが、パラフィン系炭化水素ガス、溶剤ガス、水素ガスおよびアルゴンガスのいずれの種類であるかが識別されることを特徴とするガス検出方法。
【請求項2】
前記ガス識別処理によって被検ガス中の検出対象ガスの種類が特定された後、特定されたガス種に係る基準ガスについての出力データと、被検ガスについて取得された出力変化パターンにおける前記一方のガス検出素子に係る出力データとに基づいて第1の濃度データが取得されると共に、当該基準ガスについての出力データと、当該被検ガスについて取得された出力変化パターンにおける前記他方のガス検出素子に係る出力データとに基づいて第2の濃度データが取得され、第1の濃度データおよび第2の濃度データのうち高い値を示す濃度データが当該検出対象ガスの濃度指示値として出力されることを特徴とする請求項1に記載のガス検出方法。
【請求項3】
前記接触燃焼式ガスセンサにおける前記シリコーン除去フィルタが、通気性を有する支持体にシリカを担持させ更に塩化鉄(III)によりシリコーン化合物の吸着を促進処理したものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガス検出方法。
【請求項4】
前記接触燃焼式ガスセンサにおける前記シリコーン除去フィルタが、通気性を有する支持体にフュームドシリカを担持させたものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガス検出方法。
【請求項5】
各々測温抵抗体に固着させた金属酸化物焼結体の担体に触媒を担持させてなる2つのガス検出素子が、それぞれ、互いに区画された2つの検出室内の各々に配置されると共に、一方の検出室のガス入口に、シリコーン化合物を吸着および除去し、パラフィン系炭化水素ガス、水素ガス及びアルゴンガスを透過させるとともに溶媒ガスを除去するように構成されたシリコーン除去フィルタが配置され、他方の検出室のガス入口には前記シリコーン除去フィルタが配置されていない接触燃焼式ガスセンサと、
前記2つのガス検出素子の各々に対する同一または連続する通電期間と休止期間とからなるガス検出サイクルを繰り返すよう当該2つのガス検出素子の各々を間欠駆動するセンサ駆動部と、
前記2つのガス検出素子の各々よりの出力データを処理する出力処理部と、
検出された検出対象ガスの種類およびその濃度を表示する表示部と
を備えており、
識別対象となる検出対象ガスが、パラフィン系炭化水素ガス、溶剤ガス、水素ガスおよびアルゴンガスであって、
前記出力処理部は、1ガス検出サイクルにおいて、被検ガスについて一方のガス検出素子によって取得される2以上の出力データおよび当該被検ガスについて他方のガス検出素子によって取得される2以上の出力データによって構成される出力変化パターンを、予め取得しておいた検出対象ガスの濃度が既知の基準ガスについての基準出力変化パターンに対照することにより、当該被検ガス中の検出対象ガスの種類を特定するガス識別機能を有することを特徴とするガス検出装置。
【請求項6】
前記出力処理部は、被検ガス中の検出対象ガスの種類を特定した後、特定されたガス種に係る基準ガスについての出力データと、被検ガスについて取得された出力変化パターンにおける一方のガス検出素子に係る出力データとに基づいて第1の濃度データを取得すると共に、当該基準ガスについての出力データと、当該被検ガスについて取得された出力変化パターンにおける他方のガス検出素子に係る出力データとに基づいて第2の濃度データを取得し、当該第1の濃度データおよび当該第2の濃度データのうち高い値を示す濃度データが検出対象ガスの濃度指示値として当該検出対象ガスのガス種と共に前記表示部に出力する機能をさらに有することを特徴とする請求項5に記載のガス検出装置。
【請求項7】
前記出力処理部は、被検ガスについて取得された出力変化パターンが、予め取得しておいた前記識別対象となる検出対象ガスのいずれにも属さないものである場合に、検出対象ガスの種類を「その他のガス」として前記表示部に出力し、当該被検ガスについて取得された出力変化パターンと出力データの変化の傾向が比較的に近い基準出力変化パターンに係る基準ガスについての出力データと、当該被検ガスについて取得された出力変化パターンにおける一方のガス検出素子に係る出力データとに基づいて第1の濃度データを取得すると共に、当該基準ガスについての出力データと、当該被検ガスについて取得された出力変化パターンにおける他方のガス検出素子に係る出力データとに基づいて第2の濃度データを取得し、当該第1の濃度データおよび当該第2の濃度データのうち高い値を示す濃度データが当該その他のガスの濃度指示値として前記表示部に出力する機能をさらに有することを特徴とする請求項5または請求項6に記載のガス検出装置。
【請求項8】
前記接触燃焼式ガスセンサにおける前記2つのガス検出素子の各々は、前記担体としてZrO 2 またはAl 2 3 が用いられ、前記触媒としてPt、Pd、PtO、PtO 2 、PdOからなる群より選ばれた少なくとも1種のものが用いられてなるものであることを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれかに記載のガス検出装置。
【請求項9】
前記接触燃焼式ガスセンサにおける前記シリコーン除去フィルタが、通気性を有する支持体にシリカを担持させ更に塩化鉄(III)によりシリコーン化合物の吸着を促進処理したものであることを特徴とする請求項5乃至請求項8のいずれかに記載のガス検出装置。
【請求項10】
前記接触燃焼式ガスセンサにおける前記シリコーン除去フィルタが、通気性を有する支持体にフュームドシリカを担持させたものであることを特徴とする請求項5乃至請求項8のいずれかに記載のガス検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触燃焼式ガスセンサを備えたガス検出装置および当該ガス検出装置において実行されるガス検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば可燃性ガスを検出するために用いられる接触燃焼式ガスセンサのある種のものは、金属酸化物焼結体よりなる担体に酸化触媒を担持させてなるガス感応部が、通電により発熱する測温抵抗体の表面に固着されたガス検出素子を備えた構成とされている。
このような接触燃焼式ガスセンサにおいては、被毒物質である例えばヘキサメチルジシロキサンやシリコーンオイルといったシリコーン化合物が測定対象空間の雰囲気中に存在すると、当該被毒物質が酸化触媒の表面に吸着、蓄積されること(被毒)によって、酸化触媒の性能(活性)が劣化して検出感度が徐々に低下する、という問題がある。
【0003】
このような問題に対して、例えば、シリコーン除去フィルタを配置することによってガス検出素子の被毒を防止することが考えられる。このようなシリコーン除去フィルタを備えたガスセンサは、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-250569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようなガスセンサにおいては、目的とする検出対象ガスの一部のもの、例えば溶剤ガスについても、シリコーン除去フィルタによって除去されてしまうため、目的とする検出対象ガスの検出を適正に行うことができない、という問題がある。そして、接触燃焼式ガスセンサによって得られる出力自体からは、検出した検出対象ガス(出力を生じた原因ガス)の種類を識別することはできない。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、ガス検出装置が被毒物質であるシリコーン化合物が存在する環境下において使用される場合であっても、検出対象ガスの種類および濃度を一定の確度で検出することのできるガス検出方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、シリコーン被毒耐久性が高く、検出対象ガスの種類および濃度を一定の確度で検出することのできるガス検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のガス検出方法は、各々測温抵抗体に固着させた金属酸化物焼結体の担体に触媒を担持させてなる2つのガス検出素子が、同一または連続する通電期間と休止期間とからなるガス検出サイクルを繰り返すよう間欠駆動される接触燃焼式ガスセンサを備えたガス検出装置において実行されるガス検出方法であって、
検出対象ガスの濃度が既知の基準ガスを一方のガス検出素子に対し、シリコーン化合物を吸着および除去し、パラフィン系炭化水素ガス、水素ガス及びアルゴンガスを透過させるとともに溶媒ガスを除去するように構成されたシリコーン除去フィルタを介して供給すると共に当該基準ガスを他方のガス検出素子に対して前記シリコーン除去フィルタを介さずに供給し、1ガス検出サイクルにおいて当該一方のガス検出素子によって取得される2以上の出力データおよび当該他方のガス検出素子によって取得される2以上の出力データによって構成される基準出力変化パターンを予め取得しておき、
1ガス検出サイクルにおいて被検ガスについて前記一方のガス検出素子によって取得される2以上の出力データおよび当該被検ガスについて前記他方のガス検出素子によって取得される2以上の出力データによって構成される出力変化パターンを取得し、
当該出力変化パターンを前記基準出力変化パターンに対照することにより当該被検ガス中の検出対象ガスの種類を特定するガス識別処理を行い、
前記ガス識別処理において、被検ガス中の検出対象ガスが、パラフィン系炭化水素ガス、溶剤ガス、水素ガスおよびアルゴンガスのいずれの種類であるかが識別されることを特徴とする。
【0009】
さらにまた、本発明のガス検出方法においては、前記ガス識別処理によって被検ガス中の検出対象ガスの種類が特定された後、特定されたガス種に係る基準ガスについての出力データと、被検ガスについて取得された出力変化パターンにおける前記一方のガス検出素子に係る出力データとに基づいて第1の濃度データが取得されると共に、当該基準ガスについての出力データと、当該被検ガスについて取得された出力変化パターンにおける前記他方のガス検出素子に係る出力データとに基づいて第2の濃度データが取得され、第1の濃度データおよび第2の濃度データのうち高い値を示す濃度データが当該検出対象ガスの濃度指示値として出力されることが好ましい。
【0010】
さらにまた、本発明のガス検出方法においては、前記接触燃焼式ガスセンサにおける前記シリコーン除去フィルタが、通気性を有する支持体にシリカを担持させ更に塩化鉄(III)によりシリコーン化合物の吸着を促進処理したもの、あるいは、通気性を有する支持体にフュームドシリカを担持させたものであることが好ましい。
【0011】
本発明のガス検出装置は、各々測温抵抗体に固着させた金属酸化物焼結体の担体に触媒を担持させてなる2つのガス検出素子が、それぞれ、互いに区画された2つの検出室内の各々に配置されると共に、一方の検出室のガス入口に、シリコーン化合物を吸着および除去し、パラフィン系炭化水素ガス、水素ガス及びアルゴンガスを透過させるとともに溶媒ガスを除去するように構成されたシリコーン除去フィルタが配置され、他方の検出室のガス入口には前記シリコーン除去フィルタが配置されていない接触燃焼式ガスセンサと、前記2つのガス検出素子の各々に対する同一または連続する通電期間と休止期間とからなるガス検出サイクルを繰り返すよう当該2つのガス検出素子の各々を間欠駆動するセンサ駆動部と、前記2つのガス検出素子の各々よりの出力データを処理する出力処理部と、検出された検出対象ガスの種類およびその濃度を表示する表示部とを備えており、
識別対象となる検出対象ガスが、パラフィン系炭化水素ガス、溶剤ガス、水素ガスおよびアルゴンガスであって、
前記出力処理部は、1ガス検出サイクルにおいて、被検ガスについて一方のガス検出素子によって取得される2以上の出力データおよび当該被検ガスについて他方のガス検出素子によって取得される2以上の出力データによって構成される出力変化パターンを、予め取得しておいた検出対象ガスの濃度が既知の基準ガスについての基準出力変化パターンに対照することにより、当該被検ガス中の検出対象ガスの種類を特定するガス識別機能を有することを特徴とする。
【0013】
さらにまた、本発明のガス検出装置においては、前記出力処理部は、下記(1)および(2)のいずれか一方または両方の機能をさらに有することが好ましい。
【0014】
(1)被検ガス中の検出対象ガスの種類を特定した後、特定されたガス種に係る基準ガスについての出力データと、被検ガスについて取得された出力変化パターンにおける一方のガス検出素子に係る出力データとに基づいて第1の濃度データを取得すると共に、当該基準出力パターンにおける出力データと、当該被検ガスについて取得された出力変化パターンにおける他方のガス検出素子に係る出力データとに基づいて第2の濃度データを取得し、当該第1の濃度データおよび当該第2の濃度データのうち高い値を示す濃度データを検出対象ガスの濃度指示値として当該検出対象ガスのガス種と共に前記表示部に出力する機能。
【0015】
(2)被検ガスについて取得された出力変化パターンが、予め取得しておいた前記識別対象となる検出対象ガスのいずれにも属さないものである場合には、検出対象ガスの種類を「その他のガス」として前記表示部に出力すると共に、当該被検ガスについて取得された出力変化パターンと出力データの変化の傾向が比較的に近い基準出力変化パターンに係る基準ガスについての出力データと、当該被検ガスについて取得された出力変化パターンにおける一方のガス検出素子に係る出力データとに基づいて第1の濃度データを取得すると共に、当該基準ガスについての出力データと、当該被検ガスについて取得された出力変化パターンにおける他方のガス検出素子に係る出力データとに基づいて第2の濃度データを取得し、当該第1の濃度データおよび当該第2の濃度データのうち高い値を示す濃度データをこれらのうち高い方の値を当該その他のガスの濃度指示値として前記表示部に出力する機能。
【0016】
さらにまた、本発明のガス検出装置においては、前記接触燃焼式ガスセンサにおけるガス検出素子の各々は、前記担体としてZrO2 またはAl2 3 が用いられ、前記触媒としてPt、Pd、PtO、PtO2 、PdOからなる群より選ばれた少なくとも1種のものが用いられてなるものであることが好ましい。
【0017】
さらにまた、本発明のガス検出装置においては、前記接触燃焼式ガスセンサにおける前記シリコーン除去フィルタが、通気性を有する支持体にシリカを担持させ更に塩化鉄(III)によりシリコーン化合物の吸着を促進処理したもの、あるいは、通気性を有する支持体にフュームドシリカを担持させたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のガス検出方法およびガス検出装置によれば、被毒物質であるシリコーン化合物が存在する環境下において使用される場合であっても、目的とする検出対象ガスについての信頼性の高い出力を少なくとも一方のガス検出素子によって得ることができて、高いシリコーン被毒耐久性が得られる。
そして、1ガス検出サイクルにおいて2つのガス検出素子の各々によって取得されるそれぞれ2以上の出力データ(合計4以上の出力データ)をいわば1セットとする出力データ群により構成された出力変化パターンは、検出対象ガスの種類、例えばパラフィン系炭化水素ガス、溶剤ガス、水素ガスおよびアルゴンガスの4種のグループの各々に特有の、互いに異なるものとなる。また、ガス検出素子が被毒(シリコーン被毒)した場合であっても、各々のガスに係る出力変化パターンは大きく変化しない。従って、本発明のガス検出方法およびガス検出装置によれば、被検ガスについて取得された出力変化パターンを予め取得された基準出力変化パターンに対照することにより検出対象ガスの種類を一定の確度で識別することができる。
【0019】
さらにまた、本発明のガス検出方法およびガス検出装置においては、特定されたガス種に係る基準ガスについての出力データと、被検ガスについて取得された出力変化パターンにおける一方のガス検出素子に係る出力データとに基づいて第1の濃度データが取得されると共に、当該基準ガスについての出力データと、被検ガスについて取得された出力変化パターンにおける他方のガス検出素子に係る出力データとに基づいて第2の濃度データが取得され、これらのうち高い値を示す濃度データが検出対象ガスの濃度指示値として出力される。これにより、本発明のガス検出方法およびガス検出装置によれば、種類が特定された検出対象ガスの濃度についても、一定の確度で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】接触燃焼式ガスセンサの駆動方式の一例を示すタイミングチャートである。
図2】(a)パラフィン系炭化水素ガス、(b)溶剤ガス、(c)水素ガスおよび(d)アルゴンガスの各々の基準ガスについて取得された基準出力変化パターンの一例を示す観念図である。
図3】シリコーン化合物が存在する環境下に所定時間の間曝露させたときの、(a)パラフィン系炭化水素ガス、(b)溶剤ガス、(c)水素ガスおよび(d)アルゴンガスの各々の基準ガスについて取得される出力変化パターンの一例を示す観念図である。
図4】本発明のガス検出装置において用いられる接触燃焼式ガスセンサの一構成例を示す、(a)分解斜視図、(b)一部を省略した状態で示す平面図、(c)断面図である。
図5】ガス検出素子の一例における構成を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0022】
〔ガス検出方法〕
本発明のガス検出方法は、例えば、パラフィン系炭化水素ガス、溶剤ガス、水素ガスおよびアルゴンガスを検出対象ガスとし、被検ガスに含まれる検出対象ガスの種類を特定するガス識別処理を行うことを特徴とする。
【0023】
ガス識別処理は、接触燃焼式ガスセンサによって取得される被検ガスについての出力変化パターンを、予め検出対象ガスの濃度が既知の基準ガスについて取得しておいた基準出力変化パターンに対照することにより行われる。
【0024】
接触燃焼式ガスセンサとしては、各々測温抵抗体に固着させた金属酸化物焼結体の担体に触媒を担持させてなる2つのガス検出素子を備えており、例えば共通の被検ガスが、一方のガス検出素子に対してはシリコーン除去フィルタを介して供給されると共に他方のガス検出素子に対してはシリコーン除去フィルタを介さずに供給される構成のものが用いられる。ガス検出素子の構成およびシリコーン除去フィルタについては、後述する。
【0025】
本発明のガス検出方法においては、接触燃焼式ガスセンサにおける2つのガス検出素子の各々に対する同一または連続する通電期間と休止期間とからなるガス検出サイクルを繰り返すよう、各々のガス検出素子が間欠駆動されることが好ましい。具体的には、本発明のガス検出方法においては、2つのガス検出素子の各々に対して同時に通電されても、交互に通電されても、いずれであってもよいが、例えば図1に示されるように、2つのガス検出素子の各々に対して交互に通電されて連続する通電期間Te1,Te2と休止期間Tdとからなるガス検出サイクルTcを繰り返すよう、各々のガス検出素子が間欠駆動されることが好ましい。
【0026】
接触燃焼式ガスセンサの動作条件を示すと、各々のガス検出素子に対する印加電圧は、例えば0.50~1.20Vの範囲内の大きさ、例えば1.0Vである。また、各々のガス検出素子に対する通電期間(通電時間)Te1,Te2は、例えば0.5~2秒間、例えば1秒間であることが好ましく、休止期間(通電休止時間)Tdは、例えば例えば1秒間以上、例えば3秒間であることが好ましい。
このような接触燃焼式ガスセンサの駆動方式によれば、ガス検出装置の省消費電力化を図ることができると共に、ガス検出素子に対する無通電時間が短いため、ガス検出素子に対する長時間の暖機処理を行うことなしに、安定した出力を得ることができる。特に、2つのガス検出素子の各々に対して交互に通電される場合には、共通の電源回路(図示せず)によってガス検出素子およびガス検出素子の両方を駆動することができるため、ガス検出装置の消費電力の低減化を図ることができる。
【0027】
ガス識別処理において用いられる基準ガスについての基準出力変化パターンは、次のようにして取得されるものである。
1ガス検出サイクルにおける各々のガス検出素子に対する通電期間Te1,Te2内において、基準ガスを作用させることにより得られる各々のガス検出素子からのガス検知信号を例えば所定時間間隔毎にサンプリングすることによって、各々のガス検出素子についてそれぞれ2以上の出力データを取得する。そして、取得された4以上の出力データを1セットとするデータ群が基準出力変化パターンとして取得される。基準出力変化パターンを構成する出力データの数は特に限定されるものではないが、ガス識別処理の信頼性の観点から、基準出力変化パターンは、各々のガス検出素子についてそれぞれ3以上(合計6以上)の出力データにより構成されることが好ましい。
【0028】
基準出力変化パターンは、上述したパラフィン系炭化水素ガス、溶剤ガス、水素ガスおよびアルゴンガスに大別した4種の基準ガスの各々について取得される。
パラフィン系炭化水素ガスは、具体的には炭素数1~6のパラフィン系炭化水素ガスであって、これらのガスについての基準出力変化パターンは、互いに類似した傾向を示すので、本発明においては、同一のガス種として分類される。また、溶剤ガスについても同様に、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、トルエンなどの芳香族炭化水素類およびその他の溶剤ガスについての基準出力変化パターンは、互いに類似した傾向を示すので、本発明においては、同一のガス種として分類される。
基準出力変化パターンの一例における観念図を図2に示す。図2(a)は、パラフィン系炭化水素ガスについての基準出力変化パターンを示す図、(b)は溶剤ガスについての基準出力変化パターンを示す図、(c)は水素ガスについての基準出力変化パターンを示す図、(d)はアルゴンガスについての基準出力変化パターンを示す図である。
【0029】
これらの基準出力変化パターンは、例えば図1に示す駆動方式によって接触燃焼式ガスセンサを駆動したとき、2つのガス検出素子の各々について、1通電期間例えば1秒間の時間内において、ガス検出素子より得られるガス検知信号を例えば0.25秒間の時間間隔毎(図1におけるt1~t8の時点)にサンプリングすることによって取得されたものである。
図2(a)~(d)における縦軸は、基準ガスについてサンプリングされた出力値から、エアを導入したときに同様にしてサンプリングされた出力値を減算して得られるスパン出力値である。また、a1~a4は、基準ガスまたはエアがシリコーン除去フィルタを介して供給された一方のガス検出素子に係る出力データ、b1~b4は、基準ガスまたはエアがシリコーン除去フィルタを介さずに供給された他方のガス検出素子に係る出力データである。
【0030】
図2(a)に示されるように、例えばメタンなどのパラフィン系炭化水素ガスは、シリコーン除去フィルタを透過するため、2つのガス検出素子の各々についてスパン出力値のレベルが十分に高い出力データa1~a4,b1~b4が取得される。すなわち、パラフィン系炭化水素ガスは、一方のガス検出素子および他方のガス検出素子の両方によって検出される。パラフィン系炭化水素ガスに係る基準出力変化パターンおいては、一方のガス検出素子および他方のガス検出素子のいずれについても、通電期間の前期においてスパン出力値が低く、後期においてスパン出力値が急増して変化する傾向(急増変化傾向)を示す。
【0031】
また、図2(b)に示されるように、例えばトルエンなどの芳香族炭化水素類、アルコール類、ケトン類などの溶剤ガスは、シリコーン除去フィルタによって除去されてしまうため、一方のガス検出素子に係る出力データa1~a4のスパン出力値は実質的に「0」となり、他方のガス検出素子について、スパン出力値のレベルが十分に高い出力データb1~b4が取得される。すなわち、溶剤ガスは、一方のガス検出素子によっては実質的に検出されず、他方のガス検出素子のみによって検出される。そして、溶剤ガスに係る基準出力変化パターンおいては、他方のガス検出素子についてスパン出力値が経時的に一旦増加した後、スパン出力値が経時的に減少していく傾向(山型変化傾向)を示す。
【0032】
さらにまた、図2(c)に示されるように、水素ガスは、シリコーン除去フィルタを透過するため、一方のガス検出素子および他方のガス検出素子の各々について、スパン出力値のレベルが十分に高い出力データa1~a4,b1~b4が取得される。すなわち、水素ガスは、一方のガス検出素子および他方のガス検出素子の両方によって検出される。そして、水素ガスに係る基準出力変化パターンにおいては、一方のガス検出素子および他方のガス検出素子のいずれについても、スパン出力値が経時的に減少していく傾向(漸減変化傾向)を示す。
【0033】
さらにまた、図2(d)に示されるように、アルゴンガスは、シリコーン除去フィルタを透過するため、一方のガス検出素子および他方のガス検出素子の各々について、スパン出力値のレベルが十分に高い出力データa1~a4,b1~b4が取得される。すなわち、アルゴンガスは、一方のガス検出素子および他方のガス検出素子の両方によって検出される。そして、アルゴンガスに係る基準出力変化パターンにおいては、一方のガス検出素子および他方のガス検出素子のいずれについても、スパン出力値が経時的に増加していく傾向(漸増変化傾向)を示す。
【0034】
上述したように、接触燃焼式ガスセンサにおいては、被毒物質であるシリコーン化合物が酸化触媒の表面に吸着、蓄積されること(被毒)によって、検出感度が徐々に低下する。然るに、一方のガス検出素子に係る2以上の出力データおよび他方のガス検出素子に係る2以上の出力データの4以上のデータ群によって構成される出力変化パターンにおいては、例えばシリコーン被毒によりガス検出素子の出力の大きさ自体は小さくなっても、出力変化パターンの形態は変化せず、基本的に同様であることが見出された。図3は、シリコーン化合物が存在する環境下に所定時間の間曝露させたときの、(a)パラフィン系炭化水素ガス、(b)溶剤ガス、(c)水素ガスおよび(d)アルゴンガスの各々の基準ガスについて取得される出力変化パターンの一例を示す観念図である。
【0035】
図3(a)に示されるように、例えばメタンなどのパラフィン系炭化水素ガスに係る出力変化パターンおいては、一方のガス検出素子および他方のガス検出素子のいずれについても、スパン出力値の大きさ自体は小さくなっているものの、通電期間の前期において出力値が低く、後期において出力値が急増して変化する傾向を示す。
また、図3(b)に示されるように、例えばトルエンなどの芳香族炭化水素類、アルコール類、ケトン類などの溶剤ガスに係る出力変化パターンおいては、シリコーン除去フィルタを介さずにガスが供給される他方のガス検出素子についてのスパン出力値が経時的に一旦増加した後、スパン出力値が経時的に減少していく傾向(山型変化傾向)を示す。
さらにまた、図3(c)に示されるように、水素ガスに係る出力変化パターンにおいては、一方のガス検出素子および他方のガス検出素子のいずれについても、スパン出力値が経時的に減少していく傾向(漸減変化傾向)を示す。
さらにまた、図3(d)に示されるように、アルゴンガスに係る出力変化パターンにおいては、一方のガス検出素子および他方のガス検出素子のいずれについても、スパン出力値が経時的に増加していく傾向(漸増変化傾向)を示す。
【0036】
以上のように、2つのガス検出素子の各々において取得される4以上のデータ群によって構成される出力変化パターンは、検出対象ガス(原因ガス)の種類によって固有の形態、すなわちパラフィン系炭化水素ガス、溶剤ガス、水素ガスおよびアルゴンガスの4種のガスの各々に特有の、互いに異なるものとなる。さらに、出力変化パターンは、例えばシリコーン被毒によりガス検出素子の出力の大きさ自体は小さくなっても、出力変化パターンの形態は変化せず、基本的に同様である。
従って、本発明のガス検出方法においては、被検ガスについて接触燃焼式ガスセンサによって取得される出力変化パターンの形態(変化の傾向)が、いずれのガス種に係る基準ガス出力変化パターンの形態と一致または類似するかを判定するガス識別処理を行うことによって、被検ガス中の検出対象ガスの種類を特定することができる。
【0037】
以下、被検ガスについて取得された出力変化パターンの判定方法について、例えば、図2に示す基準出力変化パターンのように、被検ガスについて取得された出力変化パターンが、一方のガス検出素子によって順次に取得される4つの出力データa1~a4および他方のガス検出素子によって順次に取得される4つの出力データb1~b4の8つのデータ群によって構成される場合を例に挙げて説明する。また、一方のガス検出素子によって取得される4つの出力データa1~a4の各々のスパン出力値をそれぞれRa1~Ra4、他方のガス検出素子によって取得される4つの出力データb1~b4の各々のスパン出力値をそれぞれRb1~Rb4とする。
【0038】
被検ガスについて取得された出力変化パターンの判定は、例えば、以下に示す(1)~(4)の判定処理を順次に行うことによってなされる。
(1)被検ガス中の検出対象ガスがパラフィン系炭化水素ガスであるか否かの判定処理
(2)当該検出対象ガスが溶剤ガスであるか否かの判定処理
(3)当該検出対象ガスが水素ガスであるか否かの判定処理
(4)当該検出対象ガスがアルゴンガスであるか否かの判定処理
【0039】
(1)被検ガス中の検出対象ガスがパラフィン系炭化水素ガスであるか否かの判定処理
この判定処理においては、被検ガスについて取得された出力変化パターンにおける一方のガス検出素子に係る出力データa1~a4について、以下の出力変化パターン判定式(1)を満足する場合に、検出対象ガスが『パラフィン系炭化水素ガス』であると特定される。この出力変化パターン判定式(1)は、パラフィン系炭化水素ガスに係る基準出力変化パターンにおける上述した「急増変化傾向」を数式化したものである。
出力変化パターン判定式(1):Ra4>Ra1、かつ、Ra1/Ra4<0.2
【0040】
(2)被検ガス中の検出対象ガスが溶剤ガスであるか否かの判定処理
この判定処理は、上記(1)の判定処理によって、被検ガス中の検出対象ガスがパラフィン系炭化水素ガスでないことが確認された場合に行われる。
この判定処理においては、被検ガスについて取得された出力変化パターンにおける一方のガス検出素子に係る出力データa1~a4および他方のガス検出素子に係る出力データb1~b4について、以下の出力変化パターン判定式(2)を満足する場合に、検出対象ガスが『溶剤ガス』であると特定される。この出力変化パターン判定式(2)は、溶剤ガスに係る基準出力変化パターンにおける上述した「山型変化傾向」を数式化したものである。
出力変化パターン判定式(2):Ra4/Rb4<0.2
【0041】
(3)被検ガス中の検出対象ガスが水素ガスであるか否かの判定処理
この判定処理は、上記(2)の判定処理によって、被検ガス中の検出対象ガスがパラフィン系炭化水素ガスでも、溶剤ガスでもないことが確認された場合に行われる。
この判定処理においては、被検ガスについて取得された出力変化パターンにおける一方のガス検出素子に係る出力データa1~a4および他方のガス検出素子に係る出力データb1~b4について、以下の出力変化パターン判定式(3)を満足する場合に、検出対象ガスが『水素ガス』であると特定される。この出力変化パターン判定式(3)は、水素ガスに係る基準出力変化パターンにおける上述した「漸減変化傾向」を数式化したものである。
出力変化パターン判定式(3):Ra2>Ra3>Ra4、かつ、Rb2>Rb3>Rb4
【0042】
(4)被検ガス中の検出対象ガスがアルゴンガスであるか否かの判定処理
この判定処理は、上記(3)の判定処理によって、被検ガス中の検出対象ガスがパラフィン系炭化水素ガス、溶剤ガスおよび水素ガスのいずれでもないことが確認された場合に行われる。
この判定処理においては、被検ガスについて取得された出力変化パターンにおける一方のガス検出素子に係る出力データa1~a4および他方のガス検出素子に係る出力データb1~b4について、以下の出力変化パターン判定式(4a)~(4d)のすべてを満足する場合に、検出対象ガスが『アルゴンガス』であると特定される。この出力変化パターン判定式(4a)~(4d)は、アルゴンガスに係る基準出力変化パターンにおける上述した「漸増変化傾向」を数式化したものである。
出力変化パターン判定式(4a):Ra1<Ra2<Ra3<Ra4
出力変化パターン判定式(4b):Rb1<Rb2<Rb3<Rb4
出力変化パターン判定式(4c):Ra1/Ra4>0.2
出力変化パターン判定式(4d):Ra4/Rb4>0.5
【0043】
上記の判定処理(1)~(4)によって、被検ガス中の検出対象ガスがパラフィン系炭化水素ガス、溶剤ガス、水素ガスおよびアルゴンガスのいずれでもないことが確認された場合には、例えば、被検ガスが互いに同一のまたは異なるガス種に属する複数の検出対象ガスの混合ガスや前述の基準ガスとベースガスの種類が異なるガスなどの『その他のガス』であると特定される。
【0044】
そして、本発明のガス検出方法においては、被検ガス中の検出対象ガスの種類が特定された後、当該検出対象ガスの濃度を算出するガス濃度算出処理が行われる。
ガス濃度算出処理においては、ガス識別処理によって、被検ガス中の検出対象ガスの種類が、識別対象となる上述したパラフィン系炭化水素ガス、溶剤ガス、水素ガスおよびアルゴンガスに大別した4種のいずれかのものであると特定された場合には、特定されたガス種に係る基準ガスについての出力データと、被検ガスについて一方のガス検出素子によって取得された出力データとに基づいて第1の濃度データが取得される。また、当該基準ガスについての出力データと、被検ガスについて他方のガス検出素子によって取得された出力データとに基づいて第2の濃度データが取得される。
ここに、濃度データの取得に際して用いられる基準ガスについての出力データは、基準出力変化パターンにおける時間的に最後に取得された出力データであって、図2を参照すると、パラフィン系炭化水素ガスおよび水素ガスについては、一方のガス検出素子に係る出力データa4のスパン出力値、溶剤ガスについては、他方のガス検出素子に係る出力データb4のスパン出力値、アルゴンガスについては、一方のガス検出素子に係る出力データa4のスパン出力値および他方のガス検出素子に係る出力データb4のスパン出力値のうち高い値を示すスパン出力値が用いられる。また、被検ガスについて取得された出力データについても同様に、濃度データの取得に際して、出力変化パターンにおける時間的に最後に取得された2つのガス検出素子の各々の出力データが用いられる。
【0045】
一方、ガス識別処理によって、被検ガスが『その他のガス』であると特定された場合には、被検ガスについて取得された出力変化パターンと比較的に近い出力データの変化の傾向を示す基準出力変化パターンに係る基準ガスについての出力データ(スパン出力値)と、被検ガスについて取得された出力変化パターンにおける一方のガス検出素子によって時間的に最後に取得された出力データに係るスパン出力値とに基づいて第1の濃度データが取得される。また、当該基準ガスについての出力データ(スパン出力値)と、被検ガスについて他方のガス検出素子によって時間的に最後に取得された出力データに係るスパン出力値とに基づいて第2の濃度データが取得される。
【0046】
そして、2つのガス検出素子の各々に係る濃度データのうち高い値を示すものがガス種の特定された検出対象ガスの濃度指示値として特定されたガス種と共に表示部に出力される。
【0047】
以下、上記のガス検出方法が実行されるガス検出装置について説明する。
【0048】
本発明のガス検出装置は、携帯型のものとして構成されていても、定置型のものとして構成されていても、いずれであってもよいが、後述するように、本発明のガス検出装置によれば、省消費電力化が図られたものとして構成することができるため、本発明のガス検出装置は、電池駆動による携帯型のものとして構成される場合に有用なものとなる。
【0049】
本発明のガス検出装置は、接触燃焼式ガスセンサと、当該接触燃焼式ガスセンサを駆動するセンサ駆動部と、当該接触燃焼式ガスセンサよりのガス検知信号を処理する出力処理部と、検出された検出対象ガスの種類およびその濃度を表示する表示部とを備えている。検出対象ガスの濃度が当該検出対象ガスについて設定された基準値(警報点)を超えた時に警報を発する警報部を備えた構成とされていてもよい。
【0050】
図4は、本発明のガス検出装置において用いられる接触燃焼式ガスセンサの一構成例を示す、(a)分解斜視図、(b)一部を省略した状態で示す平面図、(c)断面図である。
この接触燃焼式ガスセンサ10は、熱遮蔽板としても機能する仕切り板18によって互いに区画された2つの検出室Sa,Sbが内部に形成されたケース11と、2つの検出室Sa,Sbの各々に、それぞれ配置された2つのガス検出素子20a,20bとを備えている。
【0051】
ケース11は、一端側開口が例えば金属焼結体よりなる消炎フィルタ12によって閉塞された例えば円筒状のものであって、ケース11の他端側開口には、ガス検出素子20a,20bを支持するベース部材15が当該他端側開口を気密に閉塞するよう設けられている。
ベース部材15の一面上には、ケース11の内部空間を2分する平板状の仕切り板18が設けられており、仕切り板18を挟んだ両側に、それぞれガス検出素子20a,20bが配置されている。各々のガス検出素子20a,20bは、仕切り板18に沿って例えば水平に延びる姿勢でその両端がリード16の先端部に固定されている。各々のリード16は、ベース部材15を気密に貫通して軸方向外方に突出して延びるよう設けられている。
【0052】
各々のガス検出素子20a,20bは、図5に示すように、通電により発熱する測温抵抗体21と、測温抵抗体21に固着されたガス感応部22とにより構成されている。
【0053】
測温抵抗体21は、耐熱性および耐食性を有する抵抗線がコイル状に巻回されてなるコイル部を有するヒータにより構成されている。
測温抵抗体21を構成する材料としては、例えば白金またはその合金を用いることができる。
【0054】
ガス感応部22は、金属酸化物焼結体からなる担体に酸化触媒が担持されて構成されている。
担体を構成する金属酸化物としては、例えば、ZrO2 (ジルコニア)、Al2 3 (アルミナ)、SiO2 (シリカ)、ゼオライトなどを用いることができる。
酸化触媒としては、例えば、Pt、Pd、PtO、PtO2 、PdOからなる群より選ばれた少なくとも1種のものを用いることができる。
ガス感応部22における酸化触媒の含有割合は、例えば10~30wt%である。
【0055】
ガス検出素子20a,20bの構成例を示すと、測温抵抗体21を構成する抵抗線の素線径がφ0.005~φ0.020mm、コイル部の外径が0.08~0.30mm、巻回数が6~15ターン、コイル部の長さが0.10~0.40mmである。
ガス感応部22の最大外径Dが0.10~0.50mm、ガス感応部22の長さLが0.10~0.50mmである。また、ガス感応部22とリード16との最接近距離(ピッチ)pが0.10~0.50mmである。
【0056】
而して、この接触燃焼式ガスセンサ10においては、一方の検出室Saのガス入口に、シリコーン化合物を吸着除去するシリコーン除去フィルタ25が設けられており、これにより、例えば共通の被検ガスが、一方のガス検出素子20aに対してはシリコーン除去フィルタ25を介して供給されると共に他方のガス検出素子20bに対してはシリコーン除去フィルタ25を介さずに供給される構成とされている。
【0057】
シリコーン除去フィルタ25は、例えばパルプシートなどの通気性を有する支持体にシリカを担持させ更に塩化鉄(III)によりシリコーン化合物の吸着を促進処理したものや、支持体にフュームドシリカを担持させたものなどが用いられることが好ましい。これにより、一方のガス検出素子20aがシリコーン化合物によって被毒することを確実に回避することができると共に、例えばパラフィン系炭化水素ガスや水素ガスといった検出対象ガスを透過させることができる。なお、目的とする検出対象ガスの一部のもの例えば溶剤ガスは、シリコーン化合物と類似した吸着特性を有することから、シリコーン除去フィルタ25によって除去されることとなる。
このようなシリコーン除去フィルタ25は、例えば、パルプシートを支持体として、液材を含浸・乾燥することにより作製することができる。液材としては、例えば水を溶媒とするシリカを主体とした分散液であって、塩化鉄(III)水和物を含むものが用いられる。塩化鉄(III)水和物の含有割合は、例えば0.3~3wt%である。シリカとしてフュームドシリカが用いられる場合には、液材は塩化鉄(III)水和物を含むものである必要はない。
シリコーン除去フィルタ25の厚みは、例えば1.0mm程度である。
【0058】
センサ駆動部は、2つのガス検出素子20a,20bの各々を、当該ガス検出素子20a,20bの各々に対する同一のまたは連続する通電期間と休止期間とからなるガス検出サイクルを繰り返すよう、間欠駆動する機能を有する。センサ駆動部は、上述したように、2つのガス検出素子の各々に対して同時に通電されても、交互に通電されても、いずれであってもよいが、2つのガス検出素子の各々に対して交互に通電されて連続する通電期間Te1,Te2と休止期間Tdとからなるガス検出サイクルTcを繰り返すよう、各々のガス検出素子が間欠駆動されることが好ましい(図1参照。)。
【0059】
出力処理部は、上述したように、1ガス検出サイクルにおいて、被検ガスについて一方のガス検出素子20aによって取得される2以上の出力データおよび当該被検ガスについて他方のガス検出素子20bによって取得される2以上の出力データによって構成される出力変化パターンを、予め取得しておいた基準出力変化パターンに対照することにより、当該被検ガス中の検出対象ガスの種類を特定するガス識別機能を有する。
例えば、被検ガスが前述の4つのガス種のいずれかに属する検出対象ガスの単ガスであれば、前述の出力変化パターン判定式から、検出対象ガスの種類が特定される。一方、被検ガスが互いに同一のまたは異なるガス種に属する複数の検出対象ガスの混合ガスや、前述の基準ガスとベースガスの種類が異なるものである場合は、前述の出力変化パターン判定式から、『その他のガス』であるとガス種が識別されて表示部に出力されることとなる。
【0060】
また、出力処理部は、上述したように、被検ガス中の検出対象ガスの種類を特定した後、特定されたガス種に係る基準ガスについてのスパン出力値と、被検ガスについて取得された出力変化パターンにおける一方のガス検出素子20aによって時間的に最後に取得された出力データとに基づいて第1の濃度データを取得する。また、当該基準ガスについてのスパン出力値と、当該出力変化パターンにおける他方のガス検出素子20bによって時間的に最後に取得された出力データに係るスパン出力値とに基づいて第2の濃度データを取得する。そして、これらの濃度データのうち高い値を示すものを検出対象ガスの濃度指示値として特定されたガス種と共に表示部に出力する機能をさらに有する。
【0061】
さらにまた、出力処理部は、被検ガスについて取得された出力変化パターンが、予め取得しておいた前述の4つのガス種のいずれにも属さないものである場合には、検出対象ガスの種類を「その他のガス」として表示部に出力すると共に、被検ガスについて取得された出力変化パターンと出力データの変化の傾向が比較的近い基準出力変化パターンに係る基準ガスについての出力データと、被検ガスについて取得された出力変化パターンにおける一方のガス検出素子に係る出力データとに基づいて第1の濃度データを取得する。また、当該基準ガスについての出力データと、被検ガスについて取得された出力変化パターンにおける他方のガス検出素子に係る出力データとに基づいて第2の濃度データを取得する。そして、これらの濃度データうち高い値を示すものを当該その他のガスの濃度指示値として表示部に出力する機能をさらに有する。
【0062】
而して、上記のガス検出装置においては、接触燃焼式ガスセンサ10における一方の検出室Saのガス入口に、シリコーン除去フィルタ25が設けられた構成とされている。このため、上記のガス検出装置によれば、被毒物質であるシリコーン化合物が存在する環境下において使用される場合であっても、検出対象ガスの種類に拘わらず、一方のガス検出素子20aおよび他方のガス検出素子20bの少なくとも一方によって十分に信頼性の高い出力データが得られ、当該ガス検出装置を高いシリコーン被毒耐久性を有するものとして構成することができる。
そして、1ガス検出サイクルにおいて2つのガス検出素子の各々によって取得されるそれぞれ2以上の出力データ(合計4以上の出力データ)をいわば1セットとする出力データ群により構成された出力変化パターンは、検出対象ガスの種類、例えばパラフィン系炭化水素ガス、溶剤ガス、水素ガスおよびアルゴンガスの4種の各々に特有の、互いに異なるものとなる。また、ガス検出素子が被毒(シリコーン被毒)した場合であっても、各々のガスに係る出力変化パターンは大きく変化しない。
従って、上記のガス検出方法および当該ガス検出方法が実行されるガス検出装置によれば、被検ガスについて取得された出力変化パターンを予め取得された基準出力変化パターンに対照することにより検出対象ガスの種類を一定の確度で識別することができる。
【0063】
また、特定されたガス種に係る基準ガスについてのスパン出力値と、被検ガスについて取得された出力変化パターンにおける一方のガス検出素子20aによって時間的に最後に取得された出力データに係るスパン出力値とに基づいて第1の濃度データが取得されると共に、当該基準ガスについてのスパン出力値と、被検ガスについて取得された出力変化パターンにおける他方のガス検出素子20bによって時間的に最後に取得された出力データに係るスパン出力値とに基づいて第2の濃度データが取得され、これらの濃度データのうち高い値を示すものが検出対象ガスの濃度指示値として出力される。これにより、種類が特定された検出対象ガスの濃度についても、一定の確度で検出することができる。
【0064】
また、上記のガス検出装置においては、高いシリコーン被毒耐久性が得られるので、ガス検出素子におけるガス感応部を構成する担体の量を可及的に低減してガス検出素子自体をサイズの小さいものとして構成することができるようになる。従って、ガス検出素子の熱容量を低減させることができるため、ガス検出装置の省消費電力化を図ることができる、という付随的な効果が得られる。
さらにまた、上記のガス検出装置によれば、2つのガス検出素子20a,20bの各々に対して交互に通電されることにより、省消費電力化を図ることができると共に、ガス検出素子20a,20bに対する無通電時間が短いため、ガス検出素子20a,20bに対する長時間の暖機処理を行うことなしに、安定した出力を得ることができる。しかも、2つのガス検出素子20a,20bを駆動させる電源回路は一つでよいため、このような構成とされることによっても、ガス検出装置の消費電力の低減化を図ることができる。
【0065】
以下、本発明の効果を確認するために行った実験例について説明する。
【0066】
〔実験例1〕
図4および図5に示す構成に従って、接触燃焼式ガスセンサ(A)を作製した。この接触燃焼式ガスセンサ(A)の仕様を以下に示す。
【0067】
<ガス検出素子>
測温抵抗体:材質;10%Rh-90%Pt、素線径;φ0.012mm、コイル部の外径;0.18mm、巻回数;8ターン、コイル部の長さ;0.20mm
担体:材質;ジルコニア(75wt%)とアルミナ(10wt%)との焼結体
酸化触媒:材質;パラジウム、含有割合;14wt%
ガス感応部の最大外径D:0.35mm
ガス感応部の長さL:0.35mm
ガス感応部とリードとの最接近距離(ピッチ)p:0.3mm
<シリコーン除去フィルタ>
材質:パルプシートにシリカを担持させ、塩化鉄(III)によりシリコーン化合物の吸着を促進処理したもの
厚み:約1mm
【0068】
また、シリコーン除去フィルタとして、パルプシートに親水性フュームドシリカ(日本アエロジル社製の「アエロジル380」)を担持させたものを用いたことの他は接触燃焼式ガスセンサ(A)と同一の仕様を有する接触燃焼式ガスセンサ(B)を作製した。
【0069】
接触燃焼式ガスセンサ(A),(B)の各々について、2つのガス検出素子の各々に対する連続する通電期間と休止期間とからなるガス検出サイクルを繰り返すよう各々のガス検出素子を間欠駆動して試験ガスを作用させ、各々のガス検出素子に対する1通電期間内において、ガス検出素子より得られるガス検知信号を例えば0.25秒間の時間間隔毎にサンプリングすることによって取得された、2つのガス検出素子の各々についてそれぞれ4の出力データ(合計8の出力データ)によって構成された、試験ガスについての出力変化パターンを取得した。ここに、ガス検出素子に対する印加電圧を1.0V、ガス検出素子に対する通電期間を1秒間、休止期間を3秒間とした。また、試験用ガスとしては、濃度50%LELのメタンガスを用いた。
接触燃焼式ガスセンサ(A),(B)の各々によって取得された出力変化パターンは、通電期間の前期において出力値が低く、後期において出力値が急増して変化する傾向を示すものであった。従って、前述の出力変化パターン判定式から、試験ガスが『パラフィン系炭化水素ガス』であると識別されることとなる。
また、特定されたガス種に係る基準ガスについてのスパン出力値と、取得された出力変化パターンにおける、一通電期間内において時間的に最後に取得された各々のガス検出素子に係る出力データとに基づいて濃度データを取得した。試験ガスの濃度指示値として出力される、値の高い方の濃度データを下記表1に示す。
【0070】
次いで、上記の接触燃焼式ガスセンサに、濃度20ppmのオクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)を20分間作用させることにより接触燃焼式ガスセンサ(A),(B)の被毒処理を行った後、上記と同様にして、試験ガスについての出力変化パターンを取得した。接触燃焼式ガスセンサ(A),(B)の各々によって取得された出力変化パターンは、一方のガス検出素子および他方のガス検出素子のいずれについても、スパン出力値の大きさ自体は小さくなっているものの、通電期間の前期において出力値が低く、後期において出力値が急増して変化する傾向を示すものであった。従って、前述の出力変化パターン判定式から、被毒処理後においても、試験ガスが『パラフィン系炭化水素ガス』であることを識別することが可能であることが理解される。
また、上記と同様にして、試験ガスの濃度指示値を取得した。結果を下記表1に示す。
【0071】
〔実験例2〕
試験用ガスとして濃度50%LELのイソプロピルアルコール(IPA)を用いたことの他は、実験例1と同様にして、2つのガス検出素子の各々についてそれぞれ4の出力データ(合計8の出力データ)によって構成された、試験ガスについての出力変化パターンを取得した。接触燃焼式ガスセンサ(A),(B)の各々によって取得された出力変化パターンは、一方のガス検出素子のスパン出力値が実質的に「0」であり、他方のガス検出素子についてスパン出力値が経時的に一旦増加した後、スパン出力値が経時的に減少していく傾向(山型変化傾向)を示すものであった。従って、前述の出力変化パターン判定式から、試験ガスが『溶剤ガス』であると識別されることとなる。
また、特定されたガス種に係る基準ガスについてのスパン出力値と、取得された出力変化パターンにおける、一通電期間内において時間的に最後に取得された各々のガス検出素子に係る出力データとに基づいて濃度データを取得した。試験ガスの濃度指示値として出力される、高い値を示す濃度データを下記表1に示す。
【0072】
次いで、実験例1と同様にして被毒処理を行った後、試験ガスについての出力変化パターンを取得した。接触燃焼式ガスセンサ(A),(B)の各々によって取得された出力変化パターンは、一方のガス検出素子のスパン出力値が実質的に「0」であり、他方のガス検出素子についてスパン出力値が経時的に一旦増加した後、スパン出力値が経時的に減少していく傾向(山型変化傾向)を示すものであった。従って、前述の出力変化パターン判定式から、被毒処理後においても、試験ガスが『溶剤ガス』であることを識別することが可能であることが理解される。
また、上記と同様にして、被毒処理後の試験ガスの濃度指示値を取得した。結果を下記表1に示す。
【0073】
〔実験例3〕
試験用ガスとして濃度50%LELの水素ガスを用いたことの他は、実験例1と同様にして、2つのガス検出素子の各々についてそれぞれ4の出力データ(合計8の出力データ)によって構成された、試験ガスについての出力変化パターンを取得した。接触燃焼式ガスセンサ(A),(B)の各々によって取得された出力変化パターンは、一方のガス検出素子および他方のガス検出素子のいずれについても、スパン出力値が経時的に減少していく傾向(漸減変化傾向)を示すものであった。従って、前述の出力変化パターン判定式から、試験ガスが『水素ガス』であると識別されることとなる。
また、特定されたガス種に係る基準ガスについてのスパン出力値と、取得された出力変化パターンにおける、一通電期間内において時間的に最後に取得された各々のガス検出素子に係る出力データとに基づいて濃度データを取得した。試験ガスの濃度指示値として出力される、高い値を示す濃度データを下記表1に示す。
【0074】
次いで、実験例1と同様にして被毒処理を行った後、試験ガスについての出力変化パターンを取得した。接触燃焼式ガスセンサ(A),(B)の各々によって取得された出力変化パターンは、一方のガス検出素子および他方のガス検出素子のいずれについても、スパン出力値が経時的に減少していく傾向(漸減変化傾向)を示すものであった。従って、前述の出力変化パターン判定式から、被毒処理後においても、試験ガスが『水素ガス』であることを識別することが可能であることが理解される。
また、上記と同様にして、被毒処理後の試験ガスの濃度指示値を取得した。結果を下記表1に示す。
【0075】
〔実験例4〕
試験用ガスとして濃度50vol%のアルゴンガスを用いたことの他は、実験例1と同様にして、2つのガス検出素子の各々についてそれぞれ4の出力データ(合計8の出力データ)によって構成された、試験ガスについての出力変化パターンを取得した。接触燃焼式ガスセンサ(A),(B)の各々によって取得された出力変化パターンは、一方のガス検出素子および他方のガス検出素子のいずれについても、スパン出力値が経時的に増加していく傾向(漸増変化)を示すものであった。従って、前述の出力変化パターン判定式から、試験ガスが『アルゴンガス』であると識別されることとなる。
また、特定されたガス種に係る基準ガスについてのスパン出力値と、取得された出力変化パターンにおける、一通電期間内において時間的に最後に取得された各々のガス検出素子に係る出力データとに基づいて濃度データを取得した。試験ガスの濃度指示値として出力される、高い値を示す濃度データを下記表1に示す。
【0076】
次いで、実験例1と同様にして被毒処理を行った後、試験ガスについての出力変化パターンを取得した。接触燃焼式ガスセンサ(A),(B)の各々によって取得された出力変化パターンは、一方のガス検出素子および他方のガス検出素子のいずれについても、スパン出力値が経時的に増加していく傾向(漸増変化)を示すものであった。従って、前述の出力変化パターン判定式から、被毒処理後においても、試験ガスが『アルゴンガス』であることを識別することが可能であることが理解される。
また、上記と同様にして、被毒処理後の試験ガスの濃度指示値を取得した。結果を下記表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
表1に示す結果から明らかなように、被毒処理後においても、検出対象ガスの種類を一定の確度で識別することができると共に目的とする検出対象ガスをガス種に拘わらず一定の確度で検出することができることが確認された。
【符号の説明】
【0079】
10 接触燃焼式ガスセンサ
11 ケース
12 消炎フィルタ
15 ベース部材
16 リード
18 仕切り板
20a 一方のガス検出素子
20b 他方のガス検出素子
21 測温抵抗体
22 ガス感応部
25 シリコーン除去フィルタ
Sa 一方の検出室
Sb 他方の検出室
図1
図2
図3
図4
図5