(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】電解液、フッ化物イオン電池および電解液の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0568 20100101AFI20220621BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20220621BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20220621BHJP
H01M 6/16 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
H01M10/0568
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M6/16 A
(21)【出願番号】P 2018212383
(22)【出願日】2018-11-12
【審査請求日】2021-02-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】中本 博文
(72)【発明者】
【氏名】武川 玲治
(72)【発明者】
【氏名】河村 純一
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-117592(JP,A)
【文献】特開2016-197543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567ー10/569
H01M 6/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化物イオン電池に用いられる電解液であって、
フッ化セシウム
と、ビスフルオロスルホニルアミド(FSA)アニオンを有するアルカリ金属アミド塩と、溶媒
とを含有し、
前記電解液における前記アルカリ金属アミド塩の濃度が、4mol/L以上であり、
水分量が50ppm以上1100ppm以下であ
り、
活性なフッ化物イオンの濃度が、25℃において2.0mM以上である、電解液。
【請求項2】
前記水分量が50ppm以上900ppm以下である、請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
前記溶媒として、グライムを含有する、請求項1
または請求項2に記載の電解液。
【請求項4】
正極活物質層と、負極活物質層と、前記正極活物質層および前記負極活物質層の間に形成された電解質層とを有するフッ化物イオン電池であって、
前記電解質層が、請求項1から請求項
3までのいずれかの請求項に記載の電解液を含有する、フッ化物イオン電池。
【請求項5】
フッ化物イオン電池に用いられる電解液の製造方法であって、
フッ化セシウム
と、ビスフルオロスルホニルアミド(FSA)アニオンを有するアルカリ金属アミド塩と、溶媒
とを含有する前駆溶液を準備する準備工程と、
露点が-90℃以下である不活性雰囲気で、前記前駆溶液に減圧乾燥処理を行い、水分量が50ppm以上1100ppm以下である前記電解液を得る乾燥工程と、
を有
し、
前記電解液における前記アルカリ金属アミド塩の濃度が、4mol/L以上であり、
前記電解液における活性なフッ化物イオンの濃度が、25℃において2.0mM以上である、電解液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電解液、フッ化物イオン電池および電解液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高電圧かつ高エネルギー密度な電池として、例えばLiイオン電池が知られている。Liイオン電池は、Liイオンと正極活物質との反応、および、Liイオンと負極活物質との反応を利用したカチオンベースの電池である。一方、アニオンベースの電池として、フッ化物イオン(フッ化物アニオン)の反応を利用したフッ化物イオン電池が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1、2には、フッ化セシウム(CsF)を含有する電解液を用いたフッ化物イオン電池が開示されている。一方、特許文献3には、CsFを含有する固体電解質材料が開示されている。また、特許文献4には、電解液に用いられる金属塩の一例として、CsFが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-062821号公報
【文献】特開2016-197543号公報
【文献】特開2018-077992号公報
【文献】特開2017-216048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フッ化セシウム(CsF)を含有する電解液は、活性なフッ化物イオンの濃度が低い傾向にある。本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、フッ化セシウム(CsF)を含有する場合であっても、活性なフッ化物イオンの濃度が高い電解液を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために、本開示においては、フッ化物イオン電池に用いられる電解液であって、フッ化セシウムおよび溶媒を含有し、水分量が50ppm以上1100ppm以下である、電解液を提供する。
【0007】
本開示によれば、水分量が所定の範囲にあることで、フッ化セシウム(CsF)を含有する場合であっても、活性なフッ化物イオンの濃度が高い電解液とすることができる。
【0008】
上記開示においては、上記水分量が50ppm以上900ppm以下であってもよい。
【0009】
上記開示においては、活性なフッ化物イオンの濃度が、25℃において2.0mM以上であってもよい。
【0010】
上記開示においては、電解液がアルカリ金属アミド塩をさらに含有していてもよい。
【0011】
上記開示においては、電解液が上記溶媒として、グライムを含有していてもよい。
【0012】
また、本開示においては、正極活物質層と、負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成された電解質層とを有するフッ化物イオン電池であって、上記電解質層が、上述した電解液を含有するフッ化物イオン電池を提供する。
【0013】
本開示によれば、上述した電解液を用いることで、例えば容量特性が良好なフッ化物イオン電池とすることができる。
【0014】
また、本開示においては、フッ化物イオン電池に用いられる電解液の製造方法であって、フッ化セシウムおよび溶媒を含有する前駆溶液を準備する準備工程と、露点が-90℃以下である不活性雰囲気で、上記前駆溶液に減圧乾燥処理を行い、水分量が50ppm以上1100ppm以下である上記電解液を得る乾燥工程と、を有する、電解液の製造方法を提供する。
【0015】
本開示においては、露点が極めて低い環境で、減圧乾燥処理を行い、水分量を所定の範囲に調整することで、活性なフッ化物イオンの濃度が高い電解液を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本開示においては、フッ化セシウム(CsF)を含有する場合であっても、活性なフッ化物イオンの濃度が高い電解液を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本開示におけるフッ化物イオン電池の一例を示す概略断面図である。
【
図2】本開示における電解液の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図3】CsFを含有する電解液に対する
19F-MNR測定の結果である。
【
図4】CsFを含有しない電解液に対する
19F-MNR測定の結果である。
【
図5】CsFを含有する電解液に対する
19F-MNR測定の結果である。
【
図6】水分量および活性F
-の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示における電解液、フッ化物イオン電池および電解液の製造方法について、詳細に説明する。
【0019】
A.電解液
本開示における電解液は、フッ化物イオン電池に用いられる電解液であって、フッ化セシウムおよび溶媒を含有し、水分量が所定の範囲にある。
【0020】
本開示によれば、水分量が所定の範囲にあることで、フッ化セシウム(CsF)を含有する場合であっても、活性なフッ化物イオンの濃度が高い電解液とすることができる。活性なフッ化物イオンの濃度が高いと、電解液のフッ化物イオンの伝導性が向上し、電池特性(例えば容量特性)の向上を図ることができる。
【0021】
ここで、電解液のフッ化物塩(支持塩)として、フッ化セシウム(CsF)を用いると、電解液の水分量が多くなりやすい。これは、CsFが、雰囲気中の水分と容易に反応するためである。また、後述する実施例に示すように、電解液の水分量が多いと、活性なフッ化物イオンの濃度が低くなりやすい。これは、水分によりフッ化物イオン(F-)が失活したためであると推測される。これに対して、本開示においては、電解液の水分量を、従来よりも低くすることで、活性なフッ化物イオンの濃度が高い電解液とすることができる。
【0022】
一方、本願発明者は、電解液の水分量を低くしすぎても、活性なフッ化物イオンの濃度が低くなるという知見を得た。その理由は、完全には明らかではないが、フッ化物イオン(F-)が不安定なため、CsFからの乖離が生じにくくなったためであると推測される。あるいは、例えば、真空乾燥を行った場合、水分の揮発と同時に、フッ化物イオン(F-)の揮発も不可避的に生じてしまう可能性も考えられる。これに対して、本開示においては、電解液の水分量を、低くしすぎないことで、活性なフッ化物イオンの濃度が高い電解液とすることができる。
【0023】
1.フッ化セシウム
本開示における電解液は、フッ化物塩として、フッ化セシウムを含有する。電解液は、フッ化物塩として、フッ化セシウムのみを含有していてもよく、他のフッ化物イオンを含有していてもよい。後者の場合、電解液は、フッ化物塩として、フッ化セシウムを主成分として含有することが好ましい。全てのフッ化物塩におけるフッ化セシウムの割合は、例えば70重量%以上であり、80重量%以上であってもよく、90重量%以上であってもよい。なお、フッ化物塩とは、アニオンがF-である化合物をいう。
【0024】
電解液におけるフッ化セシウムの濃度は、例えば0.1mol/L以上であり、0.3mol/L以上であってもよく、0.5mol/L以上であってもよい。一方、フッ化セシウムの濃度は、例えば6mol/L以下であり、3mol/L以下であってもよい。
【0025】
2.溶媒
本開示における溶媒は、フッ化セシウムの少なくとも一部を溶解する溶媒である。本開示における溶媒は、フッ化セシウムを全て溶解してもよく、フッ化セシウムの一部のみを溶解してもよい(解け残りが存在していてもよい)。
【0026】
溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の鎖状カーボネート、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシメタン、1,3-ジメトキシプロパン等の鎖状エーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル、スルホラン等の環状スルホン、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の鎖状スルホン、γ-ブチロラクトン等の環状エステル、アセトニトリル等のニトリル、および、これらの任意の混合物が挙げられる。
【0027】
また、鎖状エーテルの他の例としては、グライムが挙げられる。グライムは、グリコールエーテル類に分類される化合物である。中でも、上記グライムは、一般式R1-O(CH2CH2O)n-R2(R1およびR2は、それぞれ独立に、炭素数4以下のアルキル基、または、炭素数4以下のフルオロアルキル基であり、nは2以上10以下である)で表されることが好ましい。
【0028】
上記一般式において、R1およびR2は、互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。また、R1またはR2の炭素数は、例えば4以下であり、4、3、2、1のいずれであってもよい。炭素数4以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基が挙げられる。また、フルオロアルキル基は、アルキル基の水素の一部または全部をフッ素に置換した基である。また、上記一般式において、nは、通常、2以上であり、3以上であってもよい。一方、nは、例えば10以下であり、8以下であってもよく、5以下であってもよい。
【0029】
グライムの具体例としては、ジエチレングリコールジエチルエーテル(G2)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(G3)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(G4)、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテルが挙げられる。
【0030】
溶媒の他の例としては、イオン液体が挙げられる。イオン液体のカチオンとしては、例えば、ピペリジニウム骨格カチオン、ピロリジニウム骨格カチオン、イミダゾリウム骨格カチオン、アンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオンが挙げられる。
【0031】
イオン液体のアニオンとしては、例えば、ビスフルオロスルホニルアミド(FSA)アニオン、ビストリフルオロメタンスルホニルアミド(TFSA)アニオン等に代表されるアミドアニオン、ヘキサフルオロホスフェートアニオン、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェートアニオン等に代表されるホスフェートアニオン、テトラフルオロボレート(TFB)アニオン、トリフレートアニオンが挙げられる。
【0032】
3.その他の化合物
本開示における電解液は、フッ化セシウムおよび溶媒のみを含有していてもよく、さらに他の化合物を含有していてもよい。他の化合物としては、例えば、アルカリ金属アミド塩が挙げられる。
【0033】
アルカリ金属アミド塩は、通常、アルカリ金属のカチオンと、アミドアニオンとを有する。アミドアニオンとは、第二級アミン(R1R2NH)からプロトン引き抜いたアニオンをいう。
【0034】
アルカリ金属としては、例えば、Li、Na、K、Rb、Csが挙げられる。一方、アミドアニオンとしては、例えば、スルホニルアミドアニオンおよびシリルアミドアニオンが挙げられる。スルホニルアミドアニオンは、アミドアニオンにおけるN(アニオン中心)と、スルホニル基のSとが結合したアニオンである。スルホニルアミドアニオンは、スルホニル基を一つ有していてもよく、二つ有していてもよい。スルホニル基は、アルキル基(例えば、炭素数4以下)、フルオロアルキル基(例えば、炭素数4以下)またはフッ素と結合していることが好ましい。スルホニルアミドアニオンとしては、例えば、ビスフルオロスルホニルアミド(FSA)アニオン、ビストリフルオロメタンスルホニルアミド(TFSA)アニオンが挙げられる。
【0035】
シリルアミドアニオンは、アミドアニオンにおけるN(アニオン中心)と、シリル基のSiとが結合したアニオンである。シリルアミドアニオンは、シリル基を一つ有していてもよく、二つ有していてもよい。シリル基は、アルキル基(例えば、炭素数4以下)、フルオロアルキル基(例えば、炭素数4以下)またはフッ素と結合していることが好ましい。シリルアミドアニオンとしては、例えば、ビストリメチルシリルアミド(TMSA)アニオン、ビストリフルオロメチルシリルアミドアニオン、ビストリフルオロシリルアミドアニオン、ビストリエチルシリルアミドアニオン、ビスtertブチルジメチルシリルアミドアニオン、トリメチルシリルトリフルオロメチルシリルアミドアニオンが挙げられる。また、アミドアニオンは、N(アニオン中心)に結合する二つの官能基が同じである対称アミドアニオンであることが好ましい。
【0036】
電解液におけるアルカリ金属アミド塩の濃度は、例えば0.5mol/L以上であり、2.5mol/L以上であってもよく、4mol/L以上であってもよい。一方、アルカリ金属アミド塩の濃度は、例えば8mol/L以下であり、6mol/L以下であってもよい。また、アルカリ金属アミド塩(A)に対するフッ化セシウム(B)のモル比(B/A)は、例えば0.02以上であり、0.05以上であってもよい。一方、モル比(B/A)は、例えば1.5以下であり、1以下であってもよい。また、本開示における電解液は、溶媒としてグライムを含有し、さらにアルカリ金属アミド塩を含有することが好ましい。
【0037】
4.電解液
本開示における電解液は、水分量が所定の範囲にある。電解液における水分量は、通常、50ppm以上であり、75ppm以上であってもよく、100ppm以上であってもよく、200ppm以上であってもよい。一方、電解液における水分量は、通常、1100ppm以下であり、1000ppm以下であってもよく、900ppm以下であってもよく、800ppm以下であってもよい。電解液における水分量は、カールフィッシャー測定機により求めることができる。
【0038】
電解液は、活性なフッ化物イオン(活性F-)の濃度が高いことが好ましい。25℃における活性F-の濃度は、例えば1.5mM以上であり、2.0mM以上であってもよく、2.5mM以上であってもよく、3.0mM以上であってもよい。例えば容量特性が良好なフッ化物イオン電池が得られるからである。一方、25℃における活性F-の濃度は、例えば10mM以下である。なお、本開示におけるM(モーラー)は、mol/Lと同義である。
【0039】
なお、F(HF)x
-アニオンは、F-がHFから解離しにくい。そのため、活物質を十分にフッ化することが難しい場合がある。なお、xは0より大きい実数であり、例えば0<x≦5を満たす。そのため、電解液は、F(HF)x
-アニオンを実質的に含有しないことが好ましい。電解液に存在する全アニオンに対するF(HF)x
-アニオンの割合は、例えば0.5mol%以下であり、0.3mol%以下であってもよく、0mol%であってもよい。
【0040】
本開示における電解液の製造方法は、特に限定されないが、例えば後述する「C.電解液の製造方法」に記載する方法を採用することができる。また、本開示における電解液は、フッ化物イオン電池に用いられる。フッ化物イオン電池については、後述する「B.フッ化物イオン電池」において、詳細に説明する。
【0041】
B.フッ化物イオン電池
図1は、本開示におけるフッ化物イオン電池の一例を示す概略断面図である。
図1に示されるフッ化物イオン電池10は、正極活物質層1と、負極活物質層2と、正極活物質層1および負極活物質層2の間に形成された電解質層3と、正極活物質層1の集電を行う正極集電体4と、負極活物質層2の集電を行う負極集電体5と、これらの部材を収納する電池ケース6とを有する。本開示においては、電解質層3が、上述した電解液を含有する。
【0042】
本開示によれば、上述した電解液を用いることで、例えば容量特性が良好なフッ化物イオン電池とすることができる。
【0043】
1.電解質層
本開示における電解質層は、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成される層である。本開示においては、電解質層が、上述した電解液を含有する。電解質層の厚さは、特に限定されるものではない。
【0044】
2.正極活物質層
本開示における正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含有する層である。また、正極活物質層は、正極活物質の他に、導電材およびバインダーの少なくとも一方をさらに含有していてもよい。
【0045】
本開示における正極活物質としては、例えば、金属単体、合金、金属酸化物、および、これらのフッ化物が挙げられる。正極活物質に含まれる金属元素としては、例えば、Cu、Ag、Ni、Co、Pb、Ce、Mn、Au、Pt、Rh、V、Os、Ru、Fe、Cr、Bi、Nb、Sb、Ti、Sn、Znが挙げられる。中でも、正極活物質は、Cu、CuFx、Fe、FeFx、Ag、AgFxであることが好ましい。なお、上記xは、0よりも大きい実数である。また、正極活物質の他の例として、炭素材料、および、そのフッ化物が挙げられる。炭素材料としては、例えば、黒鉛、コークス、カーボンナノチューブが挙げられる。また、正極活物質のさらに他の例として、ポリマー材料が挙げられる。ポリマー材料としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリチオフェンが挙げられる。
【0046】
導電材としては、所望の電子伝導性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば炭素材料が挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、グラフェン、フラーレン、カーボンナノチューブが挙げられる。一方、バインダーとしては、化学的、電気的に安定なものであれば特に限定されるものではないが、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系バインダーが挙げられる。
【0047】
また、正極活物質層における正極活物質の含有量は、容量の観点からはより多いことが好ましく、例えば30重量%以上であり、50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましい。また、正極活物質層の厚さは、特に限定されるものではない。
【0048】
3.負極活物質層
本開示における負極活物質層は、少なくとも負極活物質を含有する層である。また、負極活物質層は、負極活物質の他に、導電材およびバインダーの少なくとも一方をさらに含有していてもよい。
【0049】
本開示における負極活物質としては、例えば、金属単体、合金、金属酸化物、および、これらのフッ化物が挙げられる。負極活物質に含まれる金属元素としては、例えば、La、Ca、Al、Eu、Li、Si、Ge、Sn、In、V、Cd、Cr、Fe、Zn、Ga、Ti、Nb、Mn、Yb、Zr、Sm、Ce、Mg、Pbが挙げられる。中でも、負極活物質は、Mg、MgFx、Al、AlFx、Ce、CeFx、Ca、CaFx、Pb、PbFxであることが好ましい。なお、上記xは、0よりも大きい実数である。また、負極活物質として、上述した炭素材料およびポリマー材料を用いることもできる。
【0050】
導電材およびバインダーについては、上述した「2.正極活物質層」に記載した材料と同様の材料を用いることができる。また、負極活物質層における負極活物質の含有量は、容量の観点からはより多いことが好ましく、例えば30重量%以上であり、50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましい。また、負極活物質層の厚さは、特に限定されるものではない。
【0051】
4.その他の構成
本開示におけるフッ化物イオン電池は、上述した正極活物質層、負極活物質層および電解質層を少なくとも有するものである。さらに通常は、正極活物質層の集電を行う正極集電体、および、負極活物質層の集電を行う負極集電体を有する。集電体の形状としては、例えば、箔状、メッシュ状、多孔質状が挙げられる。また、フッ化物イオン電池は、正極活物質層および負極活物質層の間に、セパレータを有していてもよい。より安全性の高い電池を得ることができるからである。
【0052】
5.フッ化物イオン電池
本開示におけるフッ化物イオン電池は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよいが、二次電池であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば車載用電池として有用だからである。また、本開示におけるフッ化物イオン電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型および角型が挙げられる。
【0053】
C.電解液の製造方法
図2は、本開示における電解液の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2においては、まず、フッ化セシウムおよび溶媒を含有する前駆溶液を準備する(準備工程)。次に、露点が-90℃以下である不活性雰囲気で、前駆溶液に減圧乾燥処理を行い、水分量が所定の範囲にある電解液を得る(乾燥工程)。
【0054】
本開示においては、露点が極めて低い環境で、減圧乾燥処理を行い、水分量を所定の範囲に調整することで、活性なフッ化物イオンの濃度が高い電解液を得ることができる。後述する比較例に記載するように、露点が極めて低い環境で電解液を作製しても、CsFが雰囲気中の水分と反応しやすいため、水分量は1500ppm程度になってしまう。そのような電解液を用いても、フッ化物イオン電池を作製すること自体は可能である。これに対して、本開示においては、さらに減圧乾燥処理を行い、従来に比べて徹底的に水分量を除去することにより、活性なフッ化物イオンの濃度が高い電解液を得ることができる。
【0055】
1.準備工程
本開示における準備工程は、フッ化セシウムおよび溶媒を含有する前駆溶液を準備する工程である。
【0056】
前駆溶液は、フッ化セシウムおよび溶媒のみを含有していてもよく、さらに他の化合物を含有していてもよい。これらの事項については、上記「A.電解液」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0057】
また、前駆溶液は、他者から購入して準備してもよく、自ら作製して準備してもよい。後者の場合、フッ化セシウムを溶媒に溶解させる溶解工程を行うことで、前駆溶液を得ることができる。また、溶解工程では、必要に応じて撹拌処理を行うことが好ましい。
【0058】
溶解工程における露点は、低いことが好ましい。溶解工程における露点は、例えば-75℃以下であり、-85℃以下であってもよく、-95℃以下であってもよい。また、溶解工程における雰囲気は、不活性雰囲気であることが好ましい。不活性雰囲気としては、アルゴン等の希ガス雰囲気、窒素雰囲気が挙げられる。不活性雰囲気におけるO2濃度は、例えば5ppm以下であり、3ppm以下であってもよく、1ppm以下であってもよく、0.5ppm以下であってもよい。
【0059】
前駆溶液における水分量は、例えば2000ppm以下であり、1800ppm以下であってもよく、1600ppm以下であってもよい。一方、前駆溶液における水分量は、低いことが好ましいが、通常の露点での処理では、例えば1500ppm未満にすることは難しい。
【0060】
2.乾燥工程
本開示における乾燥工程は、露点が-90℃以下である不活性雰囲気で、前駆溶液に減圧乾燥処理を行い、水分量が50ppm以上1100ppm以下である電解液を得る工程である。
【0061】
溶解工程における露点は、低いことが好ましく、通常は-90℃以下であり、-95℃以下である。このような露点が極めて低い環境は、一般的な露点環境とは異なり、特殊な露点環境であるといえる。また、-95℃以下の露点環境を実現するためには、グローブボックス等の設備の制約が多くなる。また、不活性雰囲気としては、アルゴン等の希ガス雰囲気、窒素雰囲気が挙げられる。不活性雰囲気におけるO2濃度は、例えば5ppm以下であり、3ppm以下であってもよく、1ppm以下であってもよく、0.5ppm以下であってもよい。
【0062】
本開示においては、露点が極めて低い環境で、減圧乾燥処理を行う。減圧の程度は、大気圧未満であればよいが、真空であることが好ましい。真空は、低真空(100Pa以上50kPa以下)であってもよく、中真空(0.1Pa以上100Pa未満)であってもよく、高真空(10-5Pa以上0.1Pa未満)であってもよく、超高真空(10-5Pa以下)であってもよい。
【0063】
減圧乾燥処理の処理時間は、例えば15分間以上であり、3時間以上であってもよく、30時間以上であってもよい。一方、減圧乾燥処理の処理時間は、例えば170時間以下である。
【0064】
3.電解液
本開示により得られる電解液については、上記「A.電解液」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0065】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0066】
以下に実施例を示して、本開示をさらに具体的に説明する。なお、試料作製および評価は、露点-95℃以下、O2濃度0.5ppm以下、Ar雰囲気下のグローブボックス内にて行った。
【0067】
[実施例1-1~1-5、比較例1-1、1-2]
テトラグライム(キシダ化学製、水分量40ppm以下)に、リチウムビスフルオロスルホニルアミド(LiFSA、キシダ化学製)およびフッ化セシウム(CsF、関東化学製)を、それぞれ、4.5Mおよび0.92Mとなるように秤量し、混合した。得られた混合物をフッ素樹脂製密封容器内にて30℃で撹拌し、前駆溶液を得た。その後、60℃~80℃にて、前駆溶液に対して時間を変えて真空乾燥(20Pa~2000Pa)することで、電解液を得た。
【0068】
[比較例1-3]
真空乾燥を行わなかったこと以外は、実施例1-1と同様にして電解液を得た。すなわち、前駆溶液を測定サンプルとした。
【0069】
[実施例2-1、比較例2-1]
フッ化セシウムの濃度を、0.46Mに変更したこと以外は、実施例1-1と同様にして前駆溶液を得た。その後、上記と同様に時間を変えて真空乾燥することで、電解液を得た。
【0070】
[実施例3-1、3-2]
フッ化セシウムの濃度を、0.62Mに変更したこと以外は、実施例1-1と同様にして前駆溶液を得た。その後、上記と同様に時間を変えて真空乾燥することで、電解液を得た。
【0071】
[実施例4-1、4-2、比較例4-1]
フッ化セシウムの濃度を、1.4Mに変更したこと以外は、実施例1-1と同様にして前駆溶液を得た。その後、上記と同様に時間を変えて真空乾燥することで、電解液を得た。
【0072】
[評価]
(水分量測定)
各実施例および各比較例で得られた電解液の水分量を測定した。測定には、カールフィッシャー測定機(平沼産業製、AQUACOUNTER AQ-2200)を用い、測定誤差をなくすため3回以上実施した。また、測定日が前回測定から1日以上空いた際にはカールフィッシャー液を交換し、測定前に比較材で測定精度を確保することで、できるだけ同一条件とした。
【0073】
(NMR測定)
各実施例および各比較例で得られた電解液に対して、19F-MNR測定を行った。測定には、NMR装置(Bruker製AVANCE III 600、5mm TCI cryoprobe)を用い、25℃、同一サンプル量の条件とした。
【0074】
代表的な結果として、実施例1-3の結果を
図3に示す。また、参考用データとして、CsFを用いないこと以外は実施例1-3と同様にして作製した電解液に対する
19F-MNR測定の結果を
図4に示す。
図3では、-185ppm付近にピークが確認され、
図4では、このピークは確認されなかった。このピークは、CsFが存在する時に確認されるため、CsF由来のF
-(活性F
-)のピークであることが確認された。実施例1-3に対する
19F-MNR測定の高ppm側の結果を
図5に示す。
図5に示すように、55ppm付近にピークが確認され、このピークは、FSA由来のF
-のピークである。さらに、
図3および
図4に示されるように、実施例1-3で得られた電解液では、CsFおよびFSAに由来するピークのみが確認され、例えば分解物および弗酸等の不純物に由来するピークは確認されなかった。
【0075】
また、活性なフッ化物イオン(活性F
-)の濃度は、以下のようにして求めた。すなわち、FSAのシグナル(55ppm付近にピークを有するシグナル)の積分値(面積)、およびCsF由来のF
-(活性F
-)のシグナル(-185ppm付近にピークを有するシグナル)の積分値(面積)を求める。これらの積分比を求め、その積分比にFSA濃度(既知濃度)を乗じることで、活性F
-濃度を求めた。
活性F
-の濃度(M)=FSA濃度(M)×(活性F
-の積分値)/{(FSAの積分値)/2}
その結果を表1および
図6に示す。
【0076】
【0077】
表1および
図6に示されるように、水分量が1100ppmを越える場合、活性なフッ化物イオンの濃度が低かった。これは、水分によりフッ化物イオン(F
-)が失活したためであると推測される。一方、水分量が50ppm未満である場合も、活性なフッ化物イオンの濃度が低かった。これは、フッ化物イオン(F
-)が不安定なため、CsFからの乖離が生じにくくなったためであると推測される。あるいは、フッ化物イオン(F
-)の揮発が顕著になった可能性も考えられる。これに対して、水分量が所定の範囲にある場合、活性なフッ化物イオンの濃度を高くできることが確認された。
【符号の説明】
【0078】
1 … 正極活物質層
2 … 負極活物質層
3 … 電解質層
4 … 正極集電体
5 … 負極集電体
6 … 電池ケース
10 … フッ化物イオン電池