(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】ナイーブT細胞集団からのHPV抗原特異的T細胞の生成
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0783 20100101AFI20220621BHJP
C40B 40/02 20060101ALI20220621BHJP
A61P 31/20 20060101ALI20220621BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20220621BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20220621BHJP
C12N 5/0786 20100101ALN20220621BHJP
C12N 5/0784 20100101ALN20220621BHJP
A61K 35/51 20150101ALN20220621BHJP
A61K 35/15 20150101ALN20220621BHJP
A61K 35/28 20150101ALN20220621BHJP
【FI】
C12N5/0783
C40B40/02
A61P31/20
A61K35/17 Z
C12N1/00 K
C12N5/0786
C12N5/0784
A61K35/51
A61K35/15 Z
A61K35/15 A
A61K35/28
(21)【出願番号】P 2018522517
(86)(22)【出願日】2016-10-31
(86)【国際出願番号】 US2016059683
(87)【国際公開番号】W WO2017075571
(87)【国際公開日】2017-05-04
【審査請求日】2019-10-18
(32)【優先日】2015-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514262417
【氏名又は名称】チルドレンズ ナショナル メディカル センター
【氏名又は名称原語表記】CHILDREN’S NATIONAL MEDICAL CENTER
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【氏名又は名称】鵜飼 健
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(72)【発明者】
【氏名】ボラード、キャサリン・エム.
(72)【発明者】
【氏名】クルーズ、コンラッド
(72)【発明者】
【氏名】ハンリー、パトリック・ジェイ.
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-501651(JP,A)
【文献】特表2006-524991(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0058909(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0134142(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0014810(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0273053(US,A1)
【文献】特表2014-509841(JP,A)
【文献】特表2004-504057(JP,A)
【文献】特表2015-505852(JP,A)
【文献】特表2015-527070(JP,A)
【文献】国際公開第2015/095895(WO,A1)
【文献】特開2010-142195(JP,A)
【文献】特表2018-509938(JP,A)
【文献】J. Immunother.,2013年01月,Vol.36, No.1,p.66-76
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトパピローマウイルス(HPV)抗原特異的T細胞集団を製造する方法であって、
(a)HPV抗原にナイーブな健常提供者からの単核球をCD14陽性細胞集団及びCD14陰性細胞集団に分割することと;
(b)前記CD14陽性細胞集団の第1の部分を、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)及びIL-4を含む培地で培養して、樹状細胞の第1の集団を生じさせることと;
(c)前記工程(b)で生じた樹状細胞の第1の集団を、2つ以上のHPV抗原に由来するペプチドを含む培地で培養することと;
(d)前記工程(c)からの樹状細胞の第1の集団を、IL-6、IL-1β、TNFα、プロスタグランジンE2、GM-CSF、IL-4及びLPSを含む培地で培養することと;
(e)前記CD14陰性細胞集団を、前記工程(d)からの樹状細胞の第1の集団とともに、
IL-6、IL-7、IL-12及びIL-15を含む培地で培養して、HPV抗原特異的T細胞集団を生じさせることと;
(f)前記工程(e)からのHPV抗原特異的T細胞集団を、前記工程(b)~(d)において得られるCD14陽性細胞集団の第2の部分から生成される樹状細胞の第2の集団ともに、IL-7及びIL-15を含む培地で培養することと;
(g)前記工程(f)からのHPV抗原特異的T細胞集団を、前記工程(b)~(d)において得られるCD14陽性細胞集団の第3の部分から生成される樹状細胞の第3の集団とともに、IL-2及びIL-15を含む培地で培養することと;
(h)前記工程(g)からのHPV抗原特異的T細胞集団を回収することとを含み、
前記回収されたHPV抗原特異的T細胞集団は、CD4
+及びCD8
+ T細胞の混合表現型を含
み、かつ、前記工程(h)で回収されたHPV抗原特異的T細胞集団は、CD27
+
及びCD28
+
T細胞を含む、方法。
【請求項2】
前記2つ以上のHPV抗原は、E1、E2、E3、E4、E5、E6、E7、L1及びL2から構成される群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記2つ以上のHPV抗原はE6及びE7を含む、請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
前記2つ以上のHPV抗原に由来するペプチドは、重複ペプチドライブラリーからのものである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(f)の培地は、さらにIL-6又はIL-12のいずれか一方を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記工程(f)の培地は、さらにIL-6及びIL-12の両者を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記工程(f)の培地はIL-2をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記工程(f)の培地はIL-2をさらに含む、請求項
5に記載の方法。
【請求項9】
前記工程(f)の培地はIL-2をさらに含む、請求項
6に記載の方法。
【請求項10】
前記工程(g)の培地は、さらにIL-2若しくはIL-15のいずれか一方、又は両者を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記工程(g)の培地は、IL-2及びIL-15が交互に補充される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記工程(h)で回収されたHPV抗原特異的T細胞集団を、DNA配列情報、前記回収されたHPV抗原特異的T細胞集団の組織適合性の情報、及び前記回収されたHPV抗原特異的T細胞集団が認識するペプチド抗原の情報の少なくとも1つに基づいて、細胞バンクに指標付けすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法によって製造されたHPV抗原特異的T細胞集団を含む組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2015年10月30日に出願された米国仮特許出願第62/248,818号(これを参照により援用する)に基づく優先権を主張するものである。本願は、「Generating virus or other antigen-specific cells for a naive T cell population」と題して2016年3月21日に出願されたPCT/US2016/23413(これは、2015年3月20日に出願された米国仮特許出願第62/135,851号及び第62/135,888号に基づく優先権を主張するものである)の関連出願であり;かつ、「Expansion of CMV-Specific T cells from CMV-Seronegative Donors」と題して2014年10月28日に出願されたPCT/US2014/62698(これは、2013年10月28日に出願された米国仮特許出願第61/896,296号に基づく優先権を主張するものである)の関連出願である。上記文献の全てを参照により援用する。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載
本研究は、Catherine M.Bollard及びElizabeth J.Shpallに対して授与されたアメリカ国立衛生研究所のアメリカ国立がん研究所からの助成金(助成金番号:NCI PO1 CA148600-02)によって一部資金提供を受けた。
【背景技術】
【0003】
発明の属する分野
本発明は、ヒトパピローマウイルス(すなわちHPV)抗原特異的T細胞及び、健常または未感作である提供者のT細胞からそれを製造する方法ならびに、ヒトパピローマウイルスによって引き起こされるかまたはそれに関連する疾患、障害または症状を処置するための、これらのHPV特異的T細胞を使用する細胞に基づく療法に関する。
【0004】
関連技術の記載
現在のT細胞に基づく免疫療法のいくつかは、T細胞及び前駆T細胞を含有する試料から増殖させた、ウイルス及び腫瘍に特異的はT細胞を使用する。ウイルス特異的T細胞は、幹細胞移植後のウイルス感染症に対して有効であることが示された。ウイルス特異的T細胞集団を使用するT細胞に基づく細胞療法は、ウイルス感染細胞からの防護を提供することができ、また、抗ウイルス薬よりも少ない副作用に関連する1。増殖させたウイルス特異集団を使用するT細胞に基づく療法は、ウイルス発現性の悪性腫瘍に対する活性を有しており2、3、循環している白血病性芽球を除去する移植片対白血病効果を誘導した4。
【0005】
これらの免疫療法は、メモリー細胞集団の生成によって生涯にわたる防護を提供するという利点を有する3。メモリーT細胞を有する試料からの細胞は、生体外で簡単に増殖する、というのも、その供給元である提供者は以前にこれらの病原体に遭遇したことがあり、それゆえに生体外で迅速に増殖する既存のメモリーウイルス特異的T細胞が存在するからである5。さらに重要なことには、副作用を最小限としながらこれらのT細胞の治療有効性を媒介するのに単一のHLAの一致で十分であることが研究によって示された。それゆえ、第三者細胞のバンクをそのような製品の市販用途のために生成及び維持することができる。
【0006】
特定のウイルス感染症及びウイルス関連腫瘍については残念なことに、これらの細胞の潜在的供給源の全てが以前に病原体に曝露されたことがあるとは限らない。1つの重要な例はHPVであり、それは、免疫低下状態の宿主におけるHPV感染6~8、及び子宮頸癌のようなHPV関連悪性腫瘍9~14の原因となる。米国において、9種のHPVのうちのいずれかの血清陽性率は女性では約40%、男性では20%に限られる。15それゆえ、ほとんどの提供者はHPV抗原に対して未感作である。このことは、メモリーT細胞の欠如ゆえに、これらの試料からHPV認識T細胞を増殖させる上での障害となる。
【0007】
これらのナイーブ細胞集団からの抗原特異的T細胞、例えば、未曝露/血清陰性である健常提供者からのナイーブT細胞または臍帯血からのT細胞を増殖させることは困難である、というのも、これらのT細胞は生体内で抗原による準備刺激を受けたことがないからである。そのような集団には、容易に増殖できる抗原特異的メモリーT細胞が欠如している。その他の場面において、未感作提供者からのそのような抗原特異的T細胞を増殖させるための提案される方法は、ウイルス、ウイルス感染細胞またはウイルス形質転換細胞を使用する16、17。
【0008】
治療用途のための抗原特異的T細胞を生成するためにウイルスの使用を伴う方法は、臨床上のリスク上昇及び著しい規制上の困難に関連しているため、望ましくない。抗原特異的T細胞を増殖させるためにペプチドの形態での抗原が使用されているのはこのためである18。
【0009】
HPV特異的T細胞を生成することを目的としたこれらのペプチドに基づく方法の適用は、成功例が非常に限られている12。
【0010】
HPVに対して特異的なT細胞を生成する最も成功している試みは、以前にHPV抗原に曝露された患者からの自家細胞を使用するものであった。1つのそのような研究では、1,200倍超の増殖が認められたが、これは、大抵が子宮頸癌患者の8/156及び中咽頭癌の33/52に限られ、健常提供者のたった1/20にすぎず、応答性提供者は以前にHPV抗原に曝露されたことがあると考えられる者であった12。
【0011】
第三者バンクの用途には、HPV抗原に対する以前の曝露とは無関係に健常提供者からHPV特異的T細胞を生成することが必須である。
【発明の概要】
【0012】
本発明に係る方法は、好都合なことに、HPV認識T細胞またはHPV特異的T細胞の迅速かつ堅牢な増殖を可能とし、日和見HPV感染及びHPV関連悪性腫瘍を標的として治療上重要な抗原を認識するT細胞を提供し、そして、生きたウイルスまたはウイルス形質転換細胞の使用を必要としない。ここで本発明者らは、これらの細胞をドナー由来または市販の製品として使用するために臨床適用できる方法でこれらの細胞を製造する新規な方法を教示する。本発明者らは、生体外でナイーブ細胞供給源からT細胞応答を生み出すことにおける経験を活用してHPV認識T細胞またはHPV特異的T細胞を作製した。HPVの免疫学的特性に基づいて本発明者らは、T細胞数の増大を支援すべく、抗原提示樹状細胞を生成するプロセスを改変し、T細胞の増殖に使用するサイトカインの濃度を改変し、そして人工APCを使用した。
【0013】
その実施形態の1つにおいて、本発明は、HPV抗原特異的T細胞(またはHPV抗原認識T細胞)を生成する堅牢な方法を提供する。生成するHPV認識T細胞は、HPV抗原の単一のエピトープ、単一のHPV抗原の数多くのエピトープ、または異なるHPV抗原上のエピトープを認識し得る。本方法は、樹状細胞、単球、K562細胞、人工抗原提示細胞、PHA芽球、B芽球、リンパ芽球様細胞及びCD3-28芽球などの種々の抗原提示細胞に対して投与されるHPV抗原(複数可)の重複ペプチドライブラリーと、準備刺激用及び増殖用の種々のサイトカイン--限定されないがIL2、IL7、IL15を含む--と、種々の選抜方法(CD45RO除去など)とを採用する。16、17その他の人工または代替の抗原提示細胞を使用してもよい。本発明によって生じた抗原特異的T細胞は、移植後ウイルス感染症及び腫瘍再発を処置するために使用することができる。これらの抗原特異的T細胞及びそれらの前駆体は、好都合なことに、特定の病原体または新生物症状に対するT細胞免疫性を必要とする被験体に後に投与するために預託または貯蔵することができる。
【0014】
本発明は、大半がHPV血清陰性者であってそれゆえウイルス未感作のT細胞集団を有するであろう健常提供者の免疫系から、HPV抗原特異的T細胞を特異的に生成するプロセスを含む。本発明は、移植後及びHPVが問題となる可能性のあるその他のHPV関連悪性腫瘍のような免疫低下状況においてウイルス感染を防止することを目的とする、プロセス及びその用途である。本発明は、ナイーブT細胞から以前に行われたことのない臨床上適切な方法で、ナイーブT細胞から多HPV抗原特異的T細胞を作る。
【0015】
本発明自体はプロセス及び用途であるため、それを他の日和見ウイルス、限定されないが例えば、HHV6及びBKウイルスに対するナイーブ集団からの抗原特異的応答を生み出すことに容易に適用することができる。それは、悪性腫瘍に関連する疾患、限定されないが例えばEBV及びHIVに由来するウイルス特異的抗原を包含すべく拡張することができる。それは、他の細胞産物、リンパ球除去計画及びエピゲノム修飾薬と組み合わせることができる。その他の医学的用途としては、例えば、生着促進及び、移植前の免疫不全患者への療法提供が挙げられる。
【0016】
本発明は、潜在的に異なる抗原提示細胞(樹状細胞、単球、K562細胞、PHA芽球、B芽球、リンパ芽球様細胞及びCD3-28芽球)に対して投与される種々の重複ペプチドライブラリーと、準備刺激用及び増殖用の種々のサイトカイン(限定されないがIL2、IL7、IL15を含む)と、種々の選抜方法(CD45RO除去など)とを使用してHPV特異的T細胞を生成する。その他の人工または代替の抗原提示細胞を同様に使用してもよい。本発明者らはさらに、ナイーブT細胞から作製された上記細胞の第三者バンクを教示するとともに、提供者に対する最良適合者を選択するプロセスを教示する。
【0017】
本発明のプロセスは、安全、単純、迅速かつ再現可能であり、また、種々様々な患者のために医薬品等の製造管理及び品質管理に関する基準(GMP)に準拠してHPV認識T細胞またはHPV特異的T細胞を生じさせるために用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本明細書において開示される方法を用いて健常提供者(n=5)からHPVを認識するT細胞を生成した。それは、無関係な抗原(自己タンパク質アクチン)と比較して特異的にHPV抗原E6及びE7を認識する。細胞単独(CTL)からのバックグラウンド応答を示す。これは、本発明のプロセスによって健常提供者からHPV特異的T細胞が生成することを示している。
【
図2】HPVを認識するT細胞(n=5)は、3つの刺激の後に臨床上適切な数に増殖させることができる。これは、本発明が臨床またはその他の用途のためにHPV認識T細胞またはHPV特異的T細胞を堅牢に作製することができる、ということを示している。
【
図3】HPVを認識するT細胞(n=5)は混合表現型(CD4及びCD8)を有しており、それは、T細胞点滴によるさらに良好な応答を促進することが示されている。細胞はさらに、共刺激受容体CD27及びCD28を発現する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
「補助細胞」は、T細胞によるペプチド抗原の認識に共刺激を提供するかまたは、ペプチド抗原の存在下でT細胞が認識するか準備刺激を受けるかもしくは増殖するのを支援する、K562細胞などの細胞である。補助細胞は、その他の人工または代替の抗原提示細胞であってもよい。
【0020】
「活性化T細胞」または「ATC」は、臍帯血中またはナイーブ免疫細胞を含有する別の試料中の単核球をマイトジェン、例えばフィトヘマグルチニン(PHA)及び/またはインターロイキン(IL)-2に曝露することによって得られる。
【0021】
「抗原」は、免疫系、例えば免疫系の細胞性または液性のアームによって認識される、ポリペプチド、ペプチドまたはグリコペプチドもしくはリポペプチドなどの分子を包含する。「抗原」という用語は、MHC分子に結合するか、クラスIもしくはIIのMHC複合体の一部を形成するか、または抗原提示分子との複合体形成のときに認識される、抗原決定基、例えば、アミノ酸残基6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22個またはそれ以上の長さを有するペプチドを包含する。
【0022】
T細胞抗原/エピトープとは、T細胞における免疫応答によって認識されかつそれを誘発する、抗原またはエピトープ(例えば、主要組織適合性複合体分子(MHC)に結合した抗原またはその一部の提示によりT細胞上のT細胞受容体によって特異的に認識される抗原)のことである。T細胞抗原は、通常はタンパク質またはペプチドである。この用語は、アルファ-ベータT細胞またはガンマ-デルタT細胞によって認識されるペプチド抗原及び、ガンマ-デルタT細胞によって認識され得る脂質、熱ショックタンパク質またはその他のストレス誘発性抗原を包含する。T細胞抗原は、CD8+T細胞応答、CD4+T細胞応答もしくはガンマデルタT細胞応答を刺激する抗原またはこれらの組み合わせを刺激する抗原であり得る。
【0023】
抗原提示細胞(APC)は、免疫系の特異的エフェクター細胞によって認識されることができるペプチド-MHC複合体のかたちで1つ以上の抗原を提示すること、したがって提示されている1つ以上の抗原に対する有効な細胞性免疫応答を誘導することができる、細胞の部類を指す。クラスIまたはIIのMHC分子を発現しているいかなる細胞も潜在的にはペプチド抗原を提示できるが、プロフェッショナルAPCの例は、樹状細胞及びマクロファージである。
【0024】
「対照」は、試験試料または試験被験体との比較目的のために用いられる、基準としての試料または被験体である。陽性対照は、予期される応答を測るものであり、陰性対照は、応答が全く予期されないかまたはバックグラウンド応答が予期される場合の試料の基準点を提供するものである。
【0025】
「臍帯血」は、当該技術分野におけるその通常の意味を有し、出産後に胎盤中及び臍帯中に残存して造血幹細胞を含有している血液を指す。臍帯血は、新鮮なものであっても、凍結保存されたものであっても、臍帯血バンクから得たものであってもよい。
【0026】
「サイトカイン」という用語は、当該技術分野におけるその通常の意味を有する。本発明において使用するサイトカインの例としては、IL-2、IL-7及びIL-15が挙げられる。
【0027】
「樹状細胞」または「DC」という用語は、様々なリンパ組織及び非リンパ組織において見受けられる形態学的に類似した細胞型の多様な集団を表す。Steinman,Ann.Rev.Immunol.9:271-296(1991)を参照のこと。19本発明のいくつかの実施形態には、臍帯血に由来する樹状細胞及び樹状細胞前駆体が関係する。
【0028】
「エフェクター細胞」という用語は、抗原に結合することができるかあるいは抗原を認識することができかつ免疫応答を媒介することができる、細胞を表す。抗原特異的T細胞は、エフェクター細胞である。
【0029】
「ヒトパピローマウイルス」は、ヒトに感染するパピローマウイルス科のDNAウイルスである。少なくとも170種の亜型が知られており、その多くが性的接触によって伝染する。16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、68、73及び82型は、発癌性「高リスク」性感染症HPVであり、子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)、外陰上皮内腫瘍(VIN)、陰茎上皮内腫瘍(PIN)及び/または肛門上皮内腫瘍(AIN)の発症につながり得る。6、8、20~22
【0030】
HPVは尋常性疣贅に関係する-HPV2型及び4型(最も一般的);また、1、3、26、29及び57型なども。癌及び生殖器異形成-「高リスク」HPV型は、癌、特に子宮頸癌に関係し、何らかの外陰部、膣、陰茎、肛門の癌及び何らかの中咽頭の癌の原因となる可能性もある。「低リスク」型は、疣贅またはその他の症状に関係する。高リスク:16、18(大部分の子宮頸癌の原因);また、31、33、35、39、45、52、58、59なども。足底疣贅(ミルメシア)-HPV1型(最も一般的);2、3、4、27、28及び58型なども。肛門性器疣贅(尖圭コンジローマまたは性器疣贅)-HPV6型及び11型(最も一般的);また、42、44型なども。低リスク:6、11(最も一般的);また、13、44、40、43、42、54、61、72、81、89なども。扁平疣贅-HPV3型、10型及び28型。ブッチャーズ疣贅-HPV7型。ヘック病(限局性上皮肥厚)-HPV13型及び32型。6、8、20~22
【0031】
「浸潤リンパ球」は、特定の生体区画または組織、粘膜層(例えば、上皮、粘膜固有層)または皮膚層(例えば、角質層、透明層、顆粒層、有棘層、基底層及び真皮)の中に進入したものである。これらには、新生物、腫瘍または、子宮頸癌、肛門癌、陰茎癌、中咽頭癌、外陰癌もしくは膣癌に浸潤しているものを含む。それは、扁平上皮乳頭腫、内反性乳頭腫、尿路上皮乳頭腫、乳管内乳頭腫または疣贅、例えば足底疣贅もしくは陰部疣贅に浸潤したリンパ球を包含する。浸潤リンパ球によって認識される抗原は、特定組織におけるHPV関連症状に対する特異性を有するT細胞を誘導するように選択され得る。
【0032】
「単離された」という用語は、物質に普通に結び付いている成分から分離されることを意味し、例えば、単離された臍帯血単核球は、臍帯血の赤血球、血漿及び/またはその他の成分から分離されたものであることができる。
【0033】
「mucosa(粘膜)」すなわちmucous membrane(粘膜)は、それらの一般的な解剖学的及び生理学的な意味を有する。これらは、眼粘膜、鼻粘膜、嗅粘膜、口腔粘膜、気管支粘膜及び声帯ひだの内層、食道粘膜、胃粘膜、腸粘膜、肛門粘膜、陰茎粘膜ならびに、膣粘膜及び子宮の粘膜である子宮内膜を包含する。粘膜はHPVによる感染を受けやすい。
【0034】
「ナイーブ」T細胞またはその他の免疫エフェクター細胞とは、抗原または、抗原提示細胞を活性化することのできるペプチド抗原を提示している抗原提示細胞に対して、曝露がなされたことのないもののことである。
【0035】
本願の趣意範囲内において、「ペプチドライブラリー」または「重複ペプチドライブラリー」とは、全体としてタンパク質抗原、とりわけ日和見ウイルスのタンパク質抗原の部分的または完全な配列を網羅する、ペプチドの複合混合物のことである。混合物の中で連続したペプチドは互いに重複し、例えば、ペプチドライブラリーは、ライブラリー内の隣のペプチドと11アミノ酸残基だけ重複しておりなおかつタンパク質抗原の全長または抗原の選択部分に及ぶことができる、長さ15アミノ酸のペプチドから構成され得る。ペプチドライブラリーは市販されており、特定の抗原のためにあつらえてもよい。抗原提示細胞を接触させるか、投与するか、または負荷させる方法は、周知であり、Ngo,et al.(2014)の参照により援用する。23
【0036】
「前駆細胞」という用語は、別の種類の細胞へと分化、成熟あるいは形質転換されることができる細胞を指す。例えば、「T細胞前駆細胞」は、T細胞へと分化することができ、「樹状前駆細胞」は、樹状細胞へと分化することができる。
【0037】
「被験体」は、脊椎動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトである。哺乳動物としては、限定されないが例えば、ヒト、サル、ウマ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ、ネズミ、その他の家畜、競技用動物または愛玩動物が挙げられる。「被験体」は、抗原特異的T細胞を必要とする者、例えば、リンパ球減少症を有する者、免疫系切除を受けた者、移植及び/もしくは免疫抑制計画を受けている者、新生児などの未感作もしくは発達途中の免疫系を有する者、または臍帯血もしくは幹細胞の移植を受けている者を包含する。
【0038】
HPV16のE6/E7に特異的なT細胞の生成
HPV16-E6(タンパク質ID P03126)及びHPV16-E7(P03129)の重複ペプチドライブラリー(11アミノ酸だけ重複している15量体)をJPT Peptide Technologies(Berlin,Germany)から購入した。ペプチドをジメチルスルホキシド(DMSO)(Sigma-Aldrich,St.Louis,MO)で戻した。
【0039】
単球は、MACSビーズ(Miltenyi Biotec,San Diego,CA)を使用するCD14選抜によってPBMCから単離し、24ウェルプレート(1×106細胞/ウェル)においてDC培地[CellGenix培地(CellGenix GmbH,Freiburg,Germany)及び1%アラニルグルタミン(GlutaMAX;Gibco Life Technologies,Grand Island,NY)]中で800U/mLの顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)(R&D Systems,Minneapolis,MN)及び1000U/mLのIL-4(R&D Systems)と共に培養した。
【0040】
DCには、3日目にGM-CSF及びIL-4を供給した。5日目の朝、1mlの培地をウェルから除去し、1μLのペプチド混合物(E6及びE7)を各ウェルに加えた。少なくとも1時間後の5日目の午後、1ウェルあたり1mLのDC培地を以下の終濃度のサイトカインと共に加えることによってDCを成熟させた:100ng/mLのIL-6(R&D Systems)、10ng/mLのIL-1β(R&D Systems)、10ng/mLのTNFα(R&D Systems)、1μg/mLのプロスタグランジンE2(R&D Systems)、800U/mLのGM-CSF、1000U/mLのIL-4、及び30ng/mLのLPS。
【0041】
7日目にDCを採取し、1×105細胞/mLでCTL培地[45%のクリック培地(Irvine Scientific,Santa Ana,CA)、45%のRPMI-1640(HyClone,Logan,UT)、10%のヒトAB血清(Gemini BioProducts,West Sacramento,CA)及び1%のGlutaMAX]の中に再懸濁させた。CD14陰性PBMCを解凍し、1×106細胞/mLでCTL培地中に再懸濁させた。10ng/mLのIL-6、10ng/mLのIL-7(R&D Systems)、10ng/mLのIL-12(R&D Systems)及び10ng/mLのIL-15(R&D Systems)を含んだCTL培地中で、1:10(DC:CD14-)の比でのペプチド負荷DCにより細胞を刺激した。
【0042】
初回刺激から9~12日後にT細胞を採取し、計数を行い、CTL培地中1×106細胞/mL(24ウェルプレートのウェル1つにつき1×106細胞/mL)の濃度で、新たに調製したペプチド負荷DCとIL-7とIL-15とで(あるいは、IL-7とIL-12とIL-15とで、またはIL-6とIL-7とIL-12とIL-15とで)再度刺激した。必要に応じて細胞培養物にIL-2(R&D Systems)を補充した。
【0043】
2回目の刺激から7日後にT細胞を採取し、計数を行い、2.5×105/mLで再懸濁させ、新たに調製したペプチド負荷DCとIL-2とIL-15とで3回目の刺激を行った。必要に応じて細胞培養物にIL-2またはIL15(R&D Systems)を交互に補充した。あるいは、上記の他の抗原提示細胞-ペプチド負荷もされたもの-を細胞に与える。
【0044】
この方法によって生じたHPV特異的T細胞を、
図1~3に示すとおり評価した。これらの図は、本明細書において開示される方法によって、HPVに感染していない健常提供者から得られかつHPVのE6及びE7抗原を認識する細胞からT細胞が生成する、ということを示している。これらの細胞は、本明細書に記載のとおり増殖させることができ、混合表現型(CD4及びCD8)を有する細胞表面マーカーを呈する。混合表現型は、T細胞点滴によるさらに良好な応答を促進することが示されている。細胞はさらに、共刺激受容体CD27及びCD28を発現する。
【0045】
混合CD4+CD8+細胞表面マーカーの発現は、感染性病原体、例えば過去の潜伏性の高持続性レベルの感染性病原体に対する適応免疫応答の誘導に関連付けられている。CD4+CD8+T細胞は、抗ウイルス免疫応答に関与するT細胞集団の認知幅を広げる(Nacimbene,et al.,Blood 2004 104:478-486)。本明細書に記載の方法は、HPVを認識する数多くの混合CD4+CD8+T細胞を生成し、また、他の細胞表面表現型を有するT細胞よりも抗HPV免疫性の優れるエフェクターとしての役割を果たす潜在性を有し得る。
【0046】
CD4+、CD45RO+及びCD27+T細胞マーカーの発現は、HPVの持続性の低下及びHPV感染に対する抵抗性と関係がある(Rodriguez,et al.,Int J Cancer.2011 Feb 1;128(3):597-607)。本明細書において開示される方法によって生じたHPV特異的T細胞は、持続性HPV感染を有するかまたはそれに罹患するリスクがある被験体を防護するために使用される潜在性を有し得る。リスクがあるこれらの被験体としては、例えば、喫煙者、タバコ喫煙者もしくは噛みタバコ使用者、中咽頭癌のリスクが高く口腔衛生状態が悪い者、弱化した免疫系(HIVのような疾患を含む)を有する者、免疫抑制薬もしくは免疫抑制計画を受けている者、例えば、癌患者または、輸血もしくは組織移植を受けている被験体、及び子宮頸癌のより高いリスクを有する者(多くの子供を有する女性、経口避妊薬を(特に長期間)使用している女性を含む)が挙げられる。慢性炎症を特徴とする疾患、障害もしくは症状を有する被験体、または老齢個体(例えば、50、60、70または80歳以上)も、持続性HPV感染のリスクが正常被験体よりも高い。
【0047】
本明細書において開示される方法によって生成するT細胞はさらに、
図3に示すように、共刺激受容体CD27及びCD28を高い頻度またはレベルで含有する。
【0048】
CD27を発現しているT細胞は、CD27を介して共刺激されることができる。ウイルスは、宿主免疫系を逃れる手段としてCD27の発現を調節することが知られている。CD27を発現しているT細胞の生成は、急性または持続性のウイルス感染の間のこれらの細胞によるウイルス特異的免疫性の誘導のための手段を提供する(Welten,et al.,J Virol.2013 Jun;87(12):6851-65)。本明細書において開示される方法は、HPV抗原を認識しかつCD27+である、CD27を介した共刺激が可能となる数多くのT細胞を生じさせる。T細胞持続性は、CD27共刺激によって促進され、また、被験体(例えば、HPVに感染したかまたは持続性HPV感染を有する者)の養子免疫療法の臨床上の有効性を向上させ得る。生体内でのCD27介在性ヒトT細胞生存を説明する機序としては、例えば、生体内での、抗アポトーシス分子の上方制御、指令下でのCD4支援、及びCD8+T細胞によるオートクリンIL-2産生が挙げられる(Song,et al.,Oncoimmunology,2012 Jul 1;1(4):547-549)。
【0049】
CD28を発現しているT細胞は、抗ウイルスT細胞応答のエフェクター段階の間にCD28を介して共刺激されることができる。CD28を発現しないかまたはCD28受容体が遮断されたT細胞は、ウイルスに対して低い応答を呈し、その結果、アポトーシスが増加し、ウイルスクリアランスが低下する(Dolfi,et al.,J Immunol.2011 Apr 15;186(8):4599-608)。本明細書において開示される方法は、HPV抗原を認識しかつCD28+である、CD28を介した共刺激が可能となる数多くのT細胞を生じさせる。
【0050】
本発明に係るプロセスの範囲は幅広い。例えば、それを用いて同種異系の幹細胞移植後におけるHPV関連の症状を防止することができ、または、それを用いて子宮頸癌のようなHPV悪性腫瘍の再発を防止することができる。これより、本発明の具体的かつ非限定的な実施形態についてさらに記載する。
【0051】
一実施形態において、本発明は、HPV抗原特異的T細胞を生じさせるプロセスであって、(a)ナイーブ免疫細胞を含有する任意の細胞供給源からの単核球を数個の部分に分割することと;(b)上記の試料の一部を、PHAまたは別のマイトジェンと、IL-2とで刺激して、次回の刺激中に抗原提示機能を提供するATCすなわち活性化T細胞(「ATC」)を生じさせ、場合によってATCを放射線または別の薬剤で処理してその増殖を抑制することと;(c)T細胞及びT細胞前駆細胞(例えば、非付着性細胞、CD3+細胞、CD14-細胞)を樹状細胞及び樹状前駆細胞(例えば、付着性細胞、CD11C+またはCD14+細胞)から分離することと;(d)T細胞及びT細胞前駆細胞を凍結保存あるいは保管することと;(e)第2の部分の中の樹状細胞及び樹状前駆細胞を、樹状細胞を生成及び成熟させるサイトカイン(複数可)またはその他の薬剤(複数可)と、少なくとも1つのHPVペプチド抗原またはHPV抗原混合物とによって分化させて、少なくとも1つのHPVペプチド抗原を提示する抗原提示樹状細胞を生じさせ、場合によって上記抗原提示樹状細胞を、その増殖を抑制するのに十分な放射線または別の薬剤で処理することと;(f)IL-6、IL-7、IL-12及びIL-15の任意の組み合わせまたは全ての存在下で、(d)からの凍結保存あるいは保管されたT細胞及びT細胞前駆細胞を、(e)で生じた前記樹状抗原提示細胞で刺激して、少なくとも1つのHPVペプチド抗原を認識する抗原特異的T細胞を生じさせることと;(g)少なくとも1つのHPVペプチド抗原の存在下、場合によっては潜在的な人工もしくは代替の抗原提示細胞または、IL-2及び/もしくはIL-15の存在下にあるその他の補助細胞の存在下で、(f)によって生じた抗原特異的T細胞を(b)のATCで刺激し;場合によって(g)を1回以上繰り返することと;(h)少なくとも1つのペプチド抗原を認識する抗原特異的T細胞を回収することとを含む、当該プロセスを含む。
【0052】
HPV抗原を認識するT細胞は、細胞表面マーカーに基づいてさらに単離または精製してもよい。T細胞表現型としては、例えば、以下のマーカーのうちの1つ以上を有する細胞が挙げられる:CD4+、CD8+、CD4+/CD25+、CD45RO+、CD27+、CD28+及び/またはPD1。T細胞表現型としては、例えば、CD4+CD8+;CD27+CD28+ならびに、CD4+、CD45RO+及びCD27+が挙げられる。望ましくない表現型を有する細胞は、当該技術分野において既知の方法を用いて所望のHPV認識T細胞から除去または分離され得る。
【0053】
本発明に係る方法では、T細胞認識性HPV抗原を生成するために生ウイルスを使用する必要はない。上記の例では、いずれかのT細胞を生じさせるのにHPVの系統もいかなる生きたウイルスも使用しなかった。抗原はJPTからのものであった:E6及びE7抗原を使用した。それにもかかわらず、本明細書に記載の方法は、ウイルス感染細胞溶解物、完全ウイルスタンパク質及び、HPV抗原をコードするプラスミドまたはDNA配列またはウイルスベクターなど、他の供給源からのHPV抗原を使用して実施することができる。
【0054】
上記実施形態において記載したプロセスはさらに、(a)の前に、ナイーブT細胞を含有する単核球を分離することを含み得る。このプロセスで使用する単核球は、HPV抗原に対して未感作であるかまたは特定のHPV系統もしくは特定のHPV抗原に対して未感作である、臍帯血、幹細胞またはその他の細胞供給源から得られ得る。したがって、このプロセスで使用する単核球は、少なくとも1つのHPVペプチド抗原に対して未感作である造血幹細胞から;または、幹細胞、前駆T細胞、もしくは免疫系が少なくとも1つのHPVペプチド抗原に対して未感作である被験体からのT細胞を含有する試料から得られ得る。
【0055】
本発明に係るプロセスは、(b)上記試料の第1の部分をPHAとIL-2とで刺激して活性化T細胞(「ATC」)を生じさせることを含み得る。これらのATCは、後の使用のために凍結保存あるいは預託されていてもよいし、即時に使用してもよい。好ましくは、ATCも抗原特異的T細胞も凍結保存させる必要なく、ATCを新鮮な状態で使用し、(f)で生じた抗原特異的T細胞と混合する。例えば、(b)で調製したPHA芽球は、(f)で生じた抗原特異的T細胞に2回目の刺激を提供するプロセスの開始から14~16日後に使用することができる。
【0056】
当業者であれば、本発明に係るプロセスにおいて使用するための適切な数の細胞を選択し得、そのようなプロセスは、(b)において、およそ百万~2千万個、好ましくは5百万~1千5百万個、最も好ましくはおよそ8百万~1千2百万個の単核臍帯血細胞をPHAとIL-2とで刺激することを含む。当業者であれば、細胞の数またはその他のプロセス条件を必要に応じて調節して、HPVペプチド抗原を認識するT細胞を生じさせるプロセスをスケールアップまたはスケールダウンし得る。本発明に係るプロセスにおいて、(b)は、PHA芽球の代わりにT芽球、B芽球、リンパ芽球様細胞またはCD3-CD28芽球を活性化T細胞として生じさせることを含み得る。
【0057】
そのようなプロセスは、細胞培養用のプレートまたは装置に第2の部分の中の細胞が付着するのに十分な条件下でプラスチック付着により第2の部分を培養することと、その後にT細胞及びT細胞前駆細胞を細胞培養用のプレートまたは装置から移すことと、固形培地に付着した樹状細胞及び樹状前駆細胞を回収することとによって樹状細胞及び樹状前駆細胞から分離された、T細胞及び/またはT細胞前駆細胞を使用してもよい。あるいは、これらの2つの細胞集団は、各集団を特異的に認識する抗体の使用、CD14に基づく選抜(例えば、MACビーズを使用するもの)、またはその他の既知の細胞選別方法によって、磁気的に分離してもよい。別々の細胞集団は、後の使用のために凍結保存あるいは預託してもよいし、T細胞または樹状細胞を生じさせるために即時に使用してもよい。これらの集団はまた、本明細書において記載されている、ペプチド抗原を負荷した成熟樹状細胞または抗原特異的T細胞を生じさせる後の処理ステップの後に、凍結保存あるいは預託してもよい。
【0058】
本発明のプロセスでは、(e)において樹状細胞及び樹状前駆細胞を、樹状細胞の分化及び維持に必要な、IL-4及びGM-CSFを非限定的に含むサイトカインの存在下で増殖させることができ;また、(e)においてIL-4及びGM-CSFと一緒に、限定されないが次のLPS、TNF-α、IL-1β、IL-6、PGE-1、PGE-2及びその他の免疫賦活剤(例えば、オリゴヌクレオチド)のうちの1つ以上から構成される群から選択される樹状細胞成熟性のサイトカインまたは薬剤を使用して、樹状細胞及び樹状前駆細胞を成熟化に供してもよい。
【0059】
本発明のいくつかの実施形態では、(f)において、もしくは(f)の前に、T細胞もしくはT細胞前駆細胞を処理してCD45RA陽性細胞を増殖させてもよいし;または、(f)において、もしくは(f)の前に、T細胞及びT細胞前駆細胞を処理してCD45RO陽性細胞を除去してもよい。特定のマーカーを有するその他のT細胞を処理して、特定の細胞表面表現型、例えば本明細書に記載のそれらの表現型のいずれかを有するHPV認識T細胞を増殖または除去してもよい。
【0060】
本発明に係るプロセスにおいて、少なくとも1つの抗原は、HPVタンパク質またはHPV抗原の全体にわたる一連の重複するペプチドを含み得る。いくつかの実施形態では、院内で、もしくは医原的に罹患するか、または病院(例えば、院内感染)において被験体に伝染するか、または本発明の特定の形態によって(例えば、粘膜もしくは皮膚との直接接触または性的接触によって)伝染する、日和見HPVの少なくとも1つの抗原を認識するように、抗原特異的T細胞が選抜され得る。少なくとも1つのペプチド抗原は、HPVの抗原またはペプチドライブラリー、例えば、HPV E1~E5の抗原もしくはペプチドライブラリー;HPV E6もしくはE7の抗原もしくはペプチドライブラリー;HPV L1もしくはL2の抗原もしくはペプチドライブラリー;またはそれらの混合物を含み得る。
【0061】
少なくとも1つのペプチド抗原は、HPVに感染した部位、組織または細胞から単離されたT細胞によって認識されるものであり得る。
【0062】
本発明の別の実施形態は、本発明に係るプロセスによって生じた抗原特異的T細胞を含む組成物に関する。そのような抗原特異的T細胞は、1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたはそれ以上のHPV株、血清型、抗原またはエピトープを認識し得る。そのような組成物は、ナイーブ免疫細胞を含有する試料を大部分が非限定的に含んでいることが好ましい、種々の細胞供給源から単離された単核球と、これと同じ供給源に由来する抗原提示細胞、例えば細胞樹状細胞やPHA芽球(それは、PHAまたは別のマイトジェンやIL-2を中に含有する)と、上記細胞の生存能を維持する培地と、任意での、K562細胞、またはその他のT細胞を共刺激する非自家細胞(人工または代替の抗原提示細胞を包含する)とを含み得、場合により上記細胞は、増殖を防止すべく処理されたものである。
【0063】
別の実施形態では、組成物は、樹状細胞及び樹状前駆細胞(例えば、付着性細胞、CD11C+またはCD14+細胞)から分離された、HPVペプチド抗原に対して未感作であるT細胞及びT細胞前駆細胞(例えば、非付着性細胞、CD3+細胞、CD14-細胞)と;培養期間の様々な時点においてIL-2、IL-6、IL-7、IL-12及びIL-15のうちの少なくとも1つを非限定的に含むサイトカインと;上記T細胞及びT細胞前駆細胞の生存能を維持する培地とを含み得る。
【0064】
本発明の他の実施形態は、実施形態1のプロセスによって生じたHPVペプチド抗原を認識するT細胞の1つ以上の試料を、貯蔵用または凍結用の培地と組み合わせて収容する、バンクまたは細胞貯蔵設備であって;場合によって、前記1つ以上の試料が、完全もしくは部分的なDNA配列情報、主要組織適合性及び/もしくは副組織適合性の抗原もしくはマーカーを含めて当該1つ以上の試料の組織適合性について記載する情報、及び/または当該1つ以上の試料が含有または認識するペプチド抗原についての情報を含む前記1つ以上の試料の供給源について記載する情報によって関連付けられるか同定されるかまたは指標付けされる、当該バンクまたは細胞貯蔵設備を含む。そのような抗原特異的T細胞バンクは、実施形態1のプロセスによって生じた、凍結保存あるいは保管された生HPV抗原特異的T細胞の多数の試料を含み得る。
【0065】
本発明の別の実施形態は、キットであって、樹状細胞及び樹状前駆細胞(例えば、付着性細胞、CD11C+またはCD14+細胞)から分離された、HPVペプチド抗原に対して未感作であるT細胞及びT細胞前駆細胞(例えば、非付着性細胞、CD3+細胞、CD14-細胞)と;IL-2、IL-6、IL-7、IL-12及びIL-15のうちの少なくとも1つを非限定的に含むサイトカインと;上記T細胞及びT細胞前駆細胞の生存能を維持する培地と;上記T細胞及びT細胞前駆細胞から分離された樹状細胞または樹状前駆細胞と;上記樹状細胞または樹状前駆細胞の生存能を維持する培地と;場合によって増殖を防止すべく処理された、K562細胞、人工もしくは代替の抗原提示細胞、またはその他のT細胞を共刺激する非自家細胞と、少なくとも1つのHPVペプチド抗原、またはHPVペプチドの混合物とを含む、当該キットを構成する。
【0066】
上記の記載は、特定の実施形態を開示するものである。当業者には理解されようことであるが、本明細書において記載された手法、方法、技法、材料、装置などは、当業者によって理解されるとおり別の実施形態で具現化されてもよく、本願は、そのような変化形態を包含し含むことを意図している。したがって、この記載は例示的なものであり、また、以下の特許請求の範囲を限定するものとして解釈されるべきでない。本明細書中の引用文献は、とりわけ言及した主題または同一もしくは隣接する段落もしくは節における主題を具体的に説明することを目的として、参照により援用される。
以下に、本願の出願当初の請求項を実施の態様として付記する。
[1] HPV抗原特異的T細胞を生じさせるプロセスであって、
(a)ナイーブ免疫細胞を含有する任意の細胞供給源からの単核球を数個の部分に分割することと;
(b)前記の試料の第1の部分を、PHAまたは別のマイトジェンと、IL-2とで刺激して、次回の刺激中に抗原提示機能を提供するATCすなわち活性化T細胞(「ATC」)を生じさせ、場合によって前記ATCを放射線または別の薬剤で処理してその増殖を抑制することと;
(c)T細胞及びT細胞前駆細胞を樹状細胞及び樹状前駆細胞から分離することと;
(d)前記T細胞及びT細胞前駆細胞を凍結保存あるいは保管することと;
(e)第2の部分の中の前記樹状細胞及び樹状前駆細胞を、樹状細胞を生成及び成熟させるサイトカイン(複数可)またはその他の薬剤(複数可)と、少なくとも1つのHPVペプチド抗原またはHPV抗原混合物とによって分化させて、少なくとも1つのHPVペプチド抗原を提示する抗原提示樹状細胞を生じさせ、場合によって前記抗原提示樹状細胞を、その増殖を抑制するのに十分な放射線または別の薬剤で処理することと;
(f)IL-7及びIL-15の存在下で、(d)からの前記凍結保存あるいは保管されたT細胞及びT細胞前駆細胞を、(e)で生じた前記樹状抗原提示細胞で刺激して、前記少なくとも1つのHPVペプチド抗原を認識する抗原特異的T細胞を生じさせることと;
(g)前記少なくとも1つのHPVペプチド抗原の存在下で、場合によってK562細胞またはその他の補助細胞の存在下、IL-2及び/またはIL-15の存在下で、(f)によって生じた抗原特異的T細胞を(b)の前記ATCで刺激し;場合によって(g)を1回以上繰り返することと;
(h)少なくとも1つのペプチド抗原を認識する抗原特異的T細胞を回収することとを含む、前記プロセス。
[2] (a)の前に、ナイーブT細胞を含有する単核球を分離することをさらに含む、[1]に記載のプロセス。
[3] 前記単核球が臍帯血から得られるものである、[1]に記載のプロセス。
[4] 前記単核球が、前記少なくとも1つのHPVペプチド抗原に対して未感作である造血幹細胞から得られるものである、[1]に記載のプロセス。
[5] 前記単核球が、幹細胞、前駆T細胞、または免疫系が前記少なくとも1つのHPVペプチド抗原に対して未感作である被験体からのT細胞を含有する試料から得られるものである、[1]に記載のプロセス。
[6] (b)が、前記試料の第1の部分をPHAとIL-2とで刺激して活性化T細胞(「ATC」)を生じさせることを含む、[1]に記載のプロセス。
[7] (b)において、およそ百万~2千万個、好ましくは5百万~1千5百万個、最も好ましくはおよそ8百万~1千2百万個の単核臍帯血細胞をPHAとIL-2とで刺激することを含む、[1]に記載のプロセス。
[8] (b)が、PHA芽球の代わりにT芽球、B芽球、リンパ芽球様細胞またはCD3-CD28芽球を活性化T細胞として生じさせることを含む、[1]に記載のプロセス。
[9] T細胞及びT細胞前駆細胞が、細胞培養用のプレートまたは装置に前記第2の部分の中の細胞が付着するのに十分な条件下でプラスチック付着により前記第2の部分を培養することと、その後にT細胞及びT細胞前駆細胞を前記細胞培養用のプレートまたは装置から移すことと、固形培地に付着した樹状細胞及び樹状前駆細胞を回収することとによって前記樹状細胞及び樹状前駆細胞から分離される、[1]に記載のプロセス。
[10] (e)において前記樹状細胞及び樹状前駆細胞を、樹状細胞の分化及び維持に必要な、IL-4及びGM-CSFを非限定的に含むサイトカインの存在下で増殖させる、[1]に記載のプロセス。
[11] (e)においてIL-4及びGM-CSFと一緒に、LPS、TNF-α、IL-1β、IL-6、PGE-1、PGE-2及びその他の免疫賦活剤のうちの1つ以上から構成される群から選択される樹状細胞成熟性のサイトカインまたは薬剤を使用して、前記樹状細胞及び樹状前駆細胞を成熟化に供する、[1]に記載のプロセス。
[12] (f)において、または(f)の前に、前記T細胞またはT細胞前駆細胞を処理してCD45RA陽性細胞を増殖させる、[1]に記載のプロセス。
[13] (f)において、または(f)の前に、前記T細胞及びT細胞前駆細胞を処理してCD45RO陽性細胞を除去する、[1]に記載のプロセス。
[14] 前記少なくとも1つの抗原が、HPVのタンパク質または抗原の全体にわたる一連の重複するペプチドを含む、[1]に記載のプロセス。
[15] 院内で、もしくは医原的に罹患するか、または病院もしくは院内感染において被験体に伝染する、日和見HPVの少なくとも1つの抗原を、前記抗原特異的T細胞が認識する、[1]に記載のプロセス。
[16] 前記少なくとも1つのペプチド抗原が、HPVの抗原またはペプチドライブラリーを含む、[1]に記載のプロセス。
[17] 前記少なくとも1つのペプチド抗原が、HPV E1~E5の抗原またはペプチドライブラリーを含む、[1]に記載のプロセス。
[18] 前記少なくとも1つのペプチド抗原が、HPV E6またはE7の抗原またはペプチドライブラリーを含む、[1]に記載のプロセス。
[19] 前記少なくとも1つのペプチド抗原が、HPV L1またはL2の抗原またはペプチドライブラリーを含む、[1]に記載のプロセス。
[20] 前記少なくとも1つのペプチド抗原が、HPVに感染した部位、組織または細胞から単離されたT細胞によって認識されるものである、[1]に記載のプロセス。
[21] [1]に記載のプロセスによって生じる、抗原特異的T細胞を含む組成物。
[22] 種々の細胞供給源から単離された単核球と、
これと同じ前記供給源に由来する抗原提示細胞と、
前記細胞の生存能を維持する培地と、
任意での、K562細胞、またはその他のT細胞を共刺激する非自家細胞と
を含み、場合により前記細胞が、増殖を防止すべく処理されたものである、組成物。
[23] 組成物であって、
i.樹状細胞及び樹状前駆細胞から分離された、HPVペプチド抗原に対して未感作であるT細胞及びT細胞前駆細胞と、
ii.培養期間の様々な時点においてIL-2、IL-6、IL-7、IL-12及びIL-15のうちの少なくとも1つを非限定的に含むサイトカインと、
iii.前記T細胞及びT細胞前駆細胞の生存能を維持する培地と
を含む、前記組成物。
[24] 少なくともHPVエピトープを認識し、かつ細胞表面表現型CD4
+
CD8
+
を有する、[1]に記載のプロセスによって生じたT細胞。
[25] 少なくともHPVエピトープを認識し、かつ細胞表面表現型CD4
+
、CD45RO
+
及びCD27
+
を有する、[1]に記載のプロセスによって生じたT細胞。
[26] 少なくともHPVエピトープを認識し、かつ細胞表面表現型CD27
+
及びCD28
+
を有する、[1]に記載のプロセスによって生じたT細胞。
[27] HPVによる感染を防止または処置するための、[1]に記載のプロセスによって生じたT細胞の用途。
[28] [1]に記載のプロセスによって生じたHPVペプチド抗原を認識するT細胞の1つ以上の試料を、貯蔵用または凍結用の培地と組み合わせて収容する、バンクまたは細胞貯蔵設備であって;場合によって、前記1つ以上の試料が、
完全もしくは部分的なDNA配列情報、
主要組織適合性及び/もしくは副組織適合性の抗原もしくはマーカーを含めて前記1つ以上の試料の組織適合性について記載する情報、及び/または
前記1つ以上の試料が含有または認識するペプチド抗原についての情報
を含む前記1つ以上の試料の供給源について記載する情報によって関連付けられるか同定されるかまたは指標付けされる、前記バンクまたは細胞貯蔵設備。
[29] [1]に記載のプロセスによって生じた、凍結保存あるいは保管された生HPV抗原特異的T細胞の多数の試料を含む、抗原特異的T細胞バンク。
[30] キットであって、
i.樹状細胞及び樹状前駆細胞から分離された、HPVペプチド抗原に対して未感作であるT細胞及びT細胞前駆細胞と、
ii.IL-2、IL-6、IL-7、IL-12及びIL-15のうちの少なくとも1つを非限定的に含むサイトカインと、
iii.前記T細胞及びT細胞前駆細胞の生存能を維持する培地と;
iv.前記T細胞及びT細胞前駆細胞から分離された樹状細胞または樹状前駆細胞と、 v.前記樹状細胞または樹状前駆細胞の生存能を維持する培地と;
vi.場合によって増殖を防止すべく処理された、K562細胞、またはその他のT細胞を共刺激する非自家細胞と、
vii.少なくとも1つのHPVペプチド抗原、またはHPVペプチドの混合物と
を含む、前記キット。
【0067】
参考文献
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