(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】組換えオルフウイルスベクター
(51)【国際特許分類】
C12N 15/863 20060101AFI20220621BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20220621BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20220621BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220621BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
C12N15/863 Z ZNA
A61K35/12
A61K35/76
A61P37/04
C12N5/10
(21)【出願番号】P 2018522854
(86)(22)【出願日】2016-07-15
(86)【国際出願番号】 EP2016066926
(87)【国際公開番号】W WO2017013023
(87)【国際公開日】2017-01-26
【審査請求日】2018-03-19
【審判番号】
【審判請求日】2020-06-03
(31)【優先権主張番号】102015111756.8
(32)【優先日】2015-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】518022178
【氏名又は名称】エバーハルト カール ウニヴェルジテート テュービンゲン メディツィニーシェ ファクルテート
【氏名又は名称原語表記】EBERHARD KARLS UNIVERSITAET TUEBINGEN MEDIZINISCHE FAKULTAET
【住所又は居所原語表記】Geschwister-Scholl-Platz,72074 Tuebingen Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ルツィーハ,ハンス-ヨアヒム
(72)【発明者】
【氏名】アマン,ラルフ
【合議体】
【審判長】福井 悟
【審判官】長井 啓子
【審判官】宮岡 真衣
(56)【参考文献】
【文献】J.Biotech.,vol.83,pp.137-145(2000)
【文献】J.Virol.,vol.85,pp.5897-5909(2011)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
JSTPlus/JST7580/JMEDPlus(JDreamIII)
PubMed
BIOSIS/MEDLINE/EMBASE/CAPlus/WPIDS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)外来遺伝子をコードし、発現する、少なくとも1つのヌクレオチド配列、および、
(2)前記ヌクレオチド配列の発現を制御する少なくとも1つのプロモーター
を含む組換えオルフウイルス(ORFV)ベクターであって、
前記ORFVがD1701
-V株であり、
ORFV D1701
-V株ゲノムの
HindIII断片I/J中の遺伝子/ORF102、103に位置する挿入遺伝子座(IL)2、および、ORFV D1701
-V株ゲノムの
HindIII断片G/D中の遺伝子/ORF114、115、116、117(GIF)に位置するIL3の少なくとも1つに前記ヌクレオチド配列が配置されていることを特徴とするORFVベクター。
【請求項2】
前記ORFVのプロモーターが、初期ORFプロモーターであり、配列番号1(P1)、配列番号2(P2)、配列番号6(VEGF)、配列番号3(最適化「初期」)、配列番号4(7.5kDaプロモーター)および配列番号5(コンセンサス「初期」)から選択されるヌクレオチド配列を含む初期ORFプロモーターであることを特徴とする、請求項1の組換えORFVベクター。
【請求項3】
前記プロモーターが、前記外来遺伝子をコードするヌクレオチド配列より31塩基~10塩基上流側に位置することを特徴とする、請求項1または2の組換えORFVベクター。
【請求項4】
IL2およびIL3の少なくとも1つにおいて、外来遺伝子をコードし、発現する複数のヌクレオチド配列が挿入されていることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項の組換えORFVベクター。
【請求項5】
前記組換えORFVベクターが、別の外来遺伝子をコードし、発現するヌクレオチド配列をさらに含み、該ヌクレオチド配列が、ORFVゲノムのvegf E遺伝子に位置する挿入遺伝子座に挿入されているとともに、初期ORFVプロモーターの制御下にあることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項の組換えORFVベクター。
【請求項6】
前記外来遺伝子が、ウイルス抗原、糖タンパク質(RabG)を含む狂犬病ウイルス抗原、核タンパク質(NP)、赤血球凝集素(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)を含むインフルエンザA抗原、腫瘍抗原、HPV選択的ウイルス性腫瘍抗原、ウイルス性腫瘍抗原、HPV選択的ウイルス性腫瘍関連抗原、ウイルス性腫瘍関連抗原、腫瘍関連抗原、寄生虫抗原、マラリア原虫抗原、および、サイトカインからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項の組換えORFVベクター。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項の組換えORFVベクターを含む哺乳動物細胞。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項の組換えORFVベクターおよび/または請求項7の細胞を含む医薬組成物。
【請求項9】
前記医薬組成物がワクチンであることを特徴とする、請求項8の組成物。
【請求項10】
少なくとも1つの外来遺伝子を発現させるための、請求項1~6のいずれか1項の組換えORFVベクターの使用。
【請求項11】
少なくとも2つの外来遺伝子産物を含むワクチン(多価ワクチン)を製造するための、請求項10の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換えオルフウイルスベクター、該組換えオルフウイルスベクターを含む細胞、本発明の組換えオルフウイルスベクターおよび/または本発明の細胞を含む組成物、外来遺伝子を発現させるための本発明の組換えオルフウイルスベクターの使用、ならびにオルフウイルスベクタープロモーターをコードする核酸分子に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスベクターは、バイオテクノロジーの分野で遺伝物質を標的細胞に導入するために使用される。導入される遺伝物質には、多くの場合、組換えタンパク質を製造するための外来遺伝子がコードされている。したがって、ウイルスベクターは重要なプラットフォーム技術であり、特に、感染症の従来の予防法との併用で使用頻度が増えている組換えワクチンの製造や、例えば腫瘍免疫療法などの新規の革新的な治療概念の開発のための重要なプラットフォーム技術である。
【0003】
オルフウイルス(ORFV)は、ポックスウイルスの1種であり、組換えワクチンの製造において他の技術よりも好適な種々の特性を有している。ORFVは、パラポックス属の代表的なウイルスであり、ポックスウイルス科に属する。ORFVは、エンベロープを有する複雑な二本鎖DNAウイルスであり、毛糸玉のような形態をしており、平均的な大きさは約260×160nmである。ORFVは、GC含量の高い、直鎖状のDNAゲノムを有し、ゲノムサイズは約130~150kbpである。ゲノムの中心領域は、両側に位置するITR領域(「逆方向末端反復配列」)に挟まれており、末端にヘアピン構造を有し、2本のDNA鎖は共有結合で結合している。ゲノムの中心領域には、主にウイルスの増殖や形態形成に関わる必須遺伝子が多く存在しており、これらの遺伝子はポックスウイルス間で高度に保存されている。一方、ITR領域には、いわゆる非保存的病原性遺伝子が存在しており、これらは宿主域、病原性および免疫調節能に大きく影響することから、ウイルスの特徴付けに関与している。
【0004】
ポックスウイルスにおいては、ウイルスの増殖は細胞質でのみ行われ、宿主細胞の表面にウイルスが結合することから始まる。ウイルスと細胞が融合した後、いわゆるウイルスコア、すなわちタンパク質コアが細胞質内に放出される。ウイルスコアには、ウイルスゲノム、ウイルス初期mRNAおよびウイルス転写因子(TF)が含まれている。その後、ポックスウイルス特異的な初期プロモーターの制御下で、ウイルスmRNAが合成され、ウイルス初期遺伝子が発現する。そして、コア構造が分解され、ウイルスDNAが細胞質に放出される。ウイルス転写因子の制御下でのみ起こる「初期」遺伝子の転写とは異なり、これ以降の「中期」遺伝子および「後期」遺伝子の転写は、細胞質に存在する転写因子を利用して行われる。そのため、ポックスウイルスの初期遺伝子の発現においては、「中期」遺伝子および「後期」遺伝子の発現とは異なり、ウイルスDNAの複製もウイルス産生も要しない。
【0005】
ORFVの自然宿主域は極めて狭く、自然宿主の例としては、ヒツジやヤギが挙げられる。感染は、ウイルスが皮膚の病変部から侵入することにより起こる。その後、この皮膚向性ウイルスは、再生能を有する角化細胞でのみ増殖し、その結果、伝染性皮膚炎または伝染性膿疱が生じる。通常緩やかに進行する自己限定的(自然治癒的)なこの感染症では、局所的な皮膚病変または粘膜病変が現れ、主に口腔内および乳房で、大量の多形核顆粒球が浸潤して形成される膿疱が認められる。この病変は、痕跡を残すことなく約4~6週間で治癒する。感染により強力な免疫応答が誘導されるものの、免疫防御の持続期間は長くないため、わずか数週間で再感染する恐れがある。ただし再感染時の臨床症状やウイルス産生は顕著に減弱されている。ORFVにおいては、全身への拡散やウイルス血症が確認された症例はなく、実験的に高用量の感染性ウイルスを静脈内注射した場合も全身への拡散やウイルス血症は確認されなかった。
【0006】
ORFVは、人獣共通感染症の病原体と考えられており、稀にではあるが、損傷した皮膚からヒトに感染する場合もある。感染後、局所的な結節性腫脹が、通常手指や手に限定的に見られる。また、時にリンパ節の腫脹や発熱も伴う。通常、ORFVによる感染症は、合併症を伴うことなく、無害のまま進行し、後遺症が残ることなく3~8週間で完治する。免疫が低下している患者では、感染が重症化した症例もあるが、シドホビルまたはイミキモドなどの抗ウイルス薬の処置により完治している。
【0007】
ORFVには、組換えワクチンの製造において高い関心が寄せられている。ORFVは、オルソポックスウイルスと比較して、自然宿主の指向性が極めて狭いという特徴があり、ORFVの自然宿主の例としては、ヒツジやヤギが挙げられる。そのため、最も一般的なウイルスベクターであるワクシニアウイルスやアデノウイルスでは、自然感染によりヒト体内で、ベクターに対して抑制的に働く「前免疫」が生じる場合があるが、ORFVベクターに対してこの「前免疫」が生じることはほぼない。さらに、ORFV特異的なベクター免疫は非常に弱く、短期間しか持続しないため、ORFVを利用した、別の病原体に対するワクチンを用いて、ブースター投与および/または追加投与としてのワクチン接種または免疫感作を極めて効果的に行うことができる。
【0008】
ORFVを宿主に投与すると、許容宿主、非許容宿主のいずれにおいても強力な免疫賦活反応が起こる。この免疫賦活反応では、自然免疫機構が顕著に誘導され、インターフェロン、サイトカインやケモカインが分泌される。免疫感作を行った直後に、樹状細胞が注射部位に集積し、次いで、T細胞およびB細胞の活性化を介して、特異的な適応免疫応答が誘導される。主に体液性免疫応答を誘導する不活化ウイルスワクチンや生ベクターワクチンとは異なり、組換えORFVで免疫感作を行うと、細胞性免疫応答と体液性免疫応答とがバランスよく誘導されるという大きな利点がある。また、本発明の組換えORFVを用いることにより、意図しない副作用や炎症反応の原因となりうるアジュバントを使用しなくても済む。さらに、その他の利点としては、(タンパク質や抗生物質に対する不耐が増加傾向にある昨今において)抗生物質を使用せずに、永久細胞株で組換えワクチンの規格化生産が可能であることや、鶏卵を用いてワクチンを製造する必要がなくなることが挙げられる。
【0009】
獣医分野で承認されている弱毒化ORFVワクチンは、使用しているORFVの株名からD1701と呼ばれている。この不活化ワクチンは、Baypamun(Bayer社)やZylexis(Pfizer社)という商品名で知られており、以下のようにして作製される。まず、ヒツジから野生型ウイルスを単離した後、ウシ由来の腎臓培養細胞で複数回にわたって継代培養して適応させ、次いで、ベロ細胞(アフリカミドリザル腎臓細胞)でさらに適応させることにより、ORFVベクターD1701-Vが得られる。D1701-Vはさらに弱毒化されており、免疫が抑制された状態にあるヒツジに感染しても不顕性感染で終息する。
【0010】
従来、組換えORFVベクターは、VEGF遺伝子座を挿入箇所として用いてきた。現在の知識によれば、vegf-e遺伝子はポックスウイルス特異的な「初期」プロモーターの制御下にあり、病原性因子と考えられていることから、VEGF遺伝子座を挿入箇所として利用することで、vegf-e遺伝子が欠失し、ORFVベクターがさらに弱毒化されるという利点が生じると考えられる。また、ORFVを利用した様々な組換えワクチンが製造され、動物モデルでの検証が行われてきた。現在では、例えば、オーエスキー病、狂犬病、ボルナ病、インフルエンザまたは古典的な豚コレラなどの様々な感染症に対して組換えORFVワクチンが用いられている。
【0011】
組換えオルフウイルスが優れた免疫賦活効果を有し、予防的観点から有用であることは、この数年間、様々なウイルス感染症に対するワクチンが数多く構築されていることから明らかである。組換えタンパク質の製造を目的とした、ORFVなどの組換えポックスウイルスの利用に関する概要は、Rzihaら(2000),Generation of recombinant parapoxviruses:non-esssential genes suitable for insertion and expression of foreign genes,Journal or Biotechnology Vol.83,pages137-145,およびButtner and Rziha(2002),Parapoxviruses:From the Lesion to the Viral Genome, J.Vet.Med.B.Vol.49,pages7-16に記載されている。
【0012】
現行の組換えORFVベクターの使用が限られている理由としては、特に、上述の選別過程に時間を要することが挙げられる。特に多価ワクチンの製造はこれまで不可能であった。さらに、公知の組換えORFVベクターでは、外来遺伝子の発現を厳密に制御することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の基礎となる課題は、公知のORFVベクターおよびORFVベクターシステムの欠点を軽減または回避できる、新規の組換えORFVベクターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この課題は、
(1)外来遺伝子をコードし、発現する、少なくとも1つのヌクレオチド配列、および、
(2)前記ヌクレオチド配列の発現を制御する少なくとも1つのプロモーター
を含む組換えオルフウイルス(ORFV)ベクターであって、下表に記載の領域に位置する、ORFVゲノム内の挿入遺伝子座(IL)1、IL2およびIL3の少なくとも1つに前記ヌクレオチド配列が挿入されていることを特徴とするORFVベクターの提供により解決される。
【0015】
本発明において、オルフウイルス(ORFV)は、Parapoxvirus ovis種に該当するすべてのウイルスおよびウイルス株を指すが、特にD1701株を指す。
【0016】
本発明において、組換えORFVベクターとは、生体細胞への外来遺伝子の導入および/または生体細胞における外来遺伝子の発現が可能な構成を有する、ORFVゲノムをベースとするベクターを指す。
【0017】
本発明において、外来遺伝子とは、ORFVゲノムに由来しない遺伝子またはオープンリーディングフレーム(ORF)を指す。
【0018】
本発明において、プロモーターとは、本発明のORFVベクター内の外来遺伝子の発現を調節可能な核酸部分を指す。好ましくは、プロモーターとは、ORFプロモーター、すなわち野生型ORFVゲノムに存在するプロモーターもしくはこれに由来するプロモーター、またはポックスウイルスプロモーター、CMVプロモーターなどの人工的なプロモーターを指す。
【0019】
本発明の組換えORFVベクターにおける、ORFVゲノムの挿入遺伝子座IL1、IL2およびIL3の位置は、ORFVゲノムの制限酵素断片、ORFV遺伝子もしくはオープンリーディングフレーム(ORF)またはヌクレオチド番号などの様々な形式で規定することができる。
【0020】
従来の形式によれば、IL1、IL2およびIL3の位置は、制限酵素切断地図およびこれらの挿入領域が含まれる制限酵素断片により記載される。例えば、ORFVのD1701株の制限酵素切断地図は、Cottone et al.(1998),Analysis of genomic rearrangement and subsequent gene deletion of the attenuated Orf virus strain D1701,Virus Research,Vol.56,pages 53-67に記載されている。この文献の内容は本開示の一部をなす。ここで、本発明において、例えば、IL1に関する「HindIII断片C、KpnI断片G、BamHI断片C/G、EcoRI断片B」という記載は、この挿入遺伝子座IL1が、HindIII断片CからEcoRI断片Bにわたっていることを意味する。IL2は、HindIII断片I/JからEcoRI断片A/Eにわたっている。IL3は、HindIII断片G/DからEcoRI断片Dにわたっている。
【0021】
IL1に関する「006、007(dUTPase)、008(G1Li-Ank)、009(G2L)」という記載は、この挿入遺伝子座IL1が、遺伝子番号またはORF番号006から遺伝子番号またはORF番号009までの領域であることを意味する。括弧内の記載は、現時点で明らかになっている、当該遺伝子がコードしている遺伝子産物または当該遺伝子によりコードされている酵素活性である。
【0022】
本発明において、IL1は、ヌクレオチド番号400位~600位(500±100位)からヌクレオチド番号1800位~3000位(2,400±600位)までの領域である。
【0023】
上記のIL1に関する記述は、上記表中のIL2およびIL3にも適用される。
【0024】
本発明で記載されているヌクレオチド番号は、本発明者らが様々なORFV株において複数の分析を行った上で規定したものである。D1701株またはその変異体に関して検討した結果、以下の位置が特に好適であることが判明した。
IL1:ヌクレオチド番号496位~2,750位、496位~1,912位および511位~2,750位
IL2:ヌクレオチド番号5,2112位~7,736位
IL3:ヌクレオチド番号15,656位~17,849位
【0025】
本発明者らは、新たに発見した上記の挿入遺伝子座に外来遺伝子を挿入することにより、該外来遺伝子をORFVゲノムに安定して組み込むことができることを見出した。これは予想外のことであった。というのも、これまでのところ、これらの挿入遺伝子座に相当するゲノム領域は、ウイルスの増殖に必要であるものの、外来遺伝子の発現には適さないと考えられていたからである。
【0026】
しかし、挿入遺伝子座の選択によって遺伝子発現を制御できることは、本発明のORFVベクターの大きな利点であることが分かった。例えば、挿入遺伝子座としてIL2を用いることにより、外来遺伝子の発現量は、これまで使用されてきたVEGF遺伝子座における外来遺伝子の発現量の1/2に抑えられる。さらに、プロモーターの選択により、外来遺伝子の発現強度および発現時期を狙い通りに変更することができる。
【0027】
上記により、本発明の基礎となる課題は完全に達成される。
【0028】
本発明の組換えORFVベクターの好ましい一実施形態において、ORFVはD1701株である。
【0029】
この場合、宿主に感染しても不顕性感染で終息する弱毒化ベクターが使用されるという利点がある。本発明において、D1701株には、D1701-BおよびD1701-Vを含むD1701のすべての変異株が包含される。
【0030】
本発明の組換えORFVベクターの好ましい別の実施形態において、前記プロモーターはORFVプロモーターであり、さらに好ましくは初期ORFVプロモーターであり、該初期ORFVプロモーターは、配列番号1(P1)、配列番号2(P2)、配列番号6(VEGF)、配列番号3(最適化「初期」)、配列番号4(7.5kDaプロモーター)および配列番号5(コンセンサス「初期」)から選択されるヌクレオチド配列を含むことが好ましい。
【0031】
この場合、外来遺伝子の高レベル発現および発現の標的制御が可能なプロモーターが使用されるという利点がある。P1およびP2は、本発明者らが新たに開発したプロモーターである。これら以外のプロモーターは、ワクシニアウイルス由来のプロモーターであり、他との関連で、Davidson and Moss(1989),Structure of Vaccinia virus late promoters,J.Mol.Biol.,Vol.210,pages 771-784、Yang et al.(2011),Genome-wide analysis of the 5′and 3′ends of Vaccinia Virus early mRNAs delineates regulatory sequences of annotated and anomalous transcripts,J.Virology,Vol.85,Nr.12,S.5897-5909、およびBroyles(2003),Vaccinia virus transcription,J.gene.Virol.,Vol.84,Nr.9,S.2293-2303に記載されている。本発明者らは、P2の発現活性がP1よりも有意に高いことを見出した。プロモーターP1はワクシニアウイルスのコンセンサス配列と100%一致するが、一方P2はそうではないため、これは予想外であった。ORFV(パラポックス属)において「最適化された」ワクシニアウイルス(オルソポックス属)プロモーターによる発現が低いという結果は、矛盾があり想定外である。さらに、プロモーターP2により高発現が得られることも予想外である。
【0032】
本発明の組換えORFVベクターのさらに好ましい一実施形態において、前記プロモーターは、外来遺伝子をコードするヌクレオチド配列より上流のヌクレオチド番号28±10位~-13±10位に位置する。
【0033】
この場合、外来遺伝子の高レベル発現および発現制御が可能な領域に前記プロモーターが配置されているという利点がある。
【0034】
本発明の組換えORFVベクターのさらに好ましい一実施形態において、IL1、IL2およびIL3の少なくとも1つに、外来遺伝子をコードし、発現する複数のヌクレオチド配列、好ましくは2、3または4以上のヌクレオチド配列が挿入されている。
【0035】
この場合、本発明の1つの組換えORFVベクターによって、複数の外来遺伝子を発現させることができるという利点がある。この一実施形態は、複数の異なる抗原構造に対する免疫が同時に誘導される多価ワクチンの製造に特に適している。いずれの挿入遺伝子座においても、複数の外来遺伝子、好ましくは、2、3または4以上の外来遺伝子を発現させることができる。
【0036】
本発明の好ましい構成において、前記組換えORFVベクターは、別の外来遺伝子をコードし、発現するヌクレオチド配列をさらに含み、該ヌクレオチド配列は、ORFVゲノムのvegf E遺伝子に位置する挿入遺伝子座に挿入されており、好ましくは初期ORFVプロモーターの制御下にある。
【0037】
この場合、先行技術で既に報告があり、十分に特性が明らかになっている挿入遺伝子座が使用されるという利点がある。vegf遺伝子座を用いることにより、遺伝子発現の標的制御が可能である。vegf遺伝子座で外来遺伝子を発現させることにより、IL2またはそれ以外の新規の遺伝子座で発現させる場合よりも、高い発現が得られる。
【0038】
本発明の好ましい一実施形態において、組換えORFVベクターの外来遺伝子は、
-ウイルス抗原、好ましくは、糖タンパク質(RabG)を含む狂犬病ウイルス抗原;核タンパク質(NP)、赤血球凝集素(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)を含むインフルエンザA抗原;
-腫瘍抗原、好ましくは、HPV選択的ウイルス性腫瘍抗原を含むウイルス性腫瘍抗原;
-HPV選択的ウイルス性腫瘍関連抗原などのウイルス性腫瘍関連抗原を含む腫瘍関連抗原;
-寄生虫抗原、好ましくは、マラリア原虫抗原;および
-サイトカイン
からなる群から選択される。
【0039】
この場合、非常に重要な抗原、特にワクチン製造において非常に重要な抗原が、本発明の組換えORFVウイルスにより発現可能な状態であるという利点がある。
【0040】
本発明の別の主題は、本発明のORFVベクターを含む生体細胞、好ましくは哺乳動物細胞、さらに好ましくはベロ細胞に関する。
【0041】
本発明の別の主題は、本発明のORFVベクターおよび/または本発明の細胞を含む組成物、好ましくは医薬組成物に関する。前記医薬組成物は、ワクチンであることが好ましく、多価ワクチンであることがさらに好ましい。
【0042】
本発明のORFVベクターの特性、利点、特徴およびさらに別の発展形態は、本発明の細胞および本発明の組成物にも同様に適用される。
【0043】
本発明の別の主題は、少なくとも1つの外来遺伝子を発現させるための、本発明の組換えORFVベクターの使用に関し、好ましくは、1つの外来遺伝子産物を含むワクチン(1価ワクチン)を少なくとも1つ発現させるための、本発明の組換えORFVベクターの使用に関し、さらに好ましくは、少なくとも2つの外来遺伝子産物を含むワクチン(多価ワクチン)を発現させるための、本発明の組換えORFVベクターの使用に関する。
【0044】
この場合、「少なくとも」とは、外来遺伝子の数として、2、3、4、5、6、7、8、9などが包含されることを意味する。
【0045】
本発明の組換えORFVベクターの特徴、利点、特性およびさらに別の発展形態は、本発明の使用にも同様に適用される。
【0046】
本発明の別の主題は、配列番号1(P1)および配列番号2(P2)で示されるヌクレオチド配列から選択されるヌクレオチド配列を含むORFVプロモーターをコードする核酸分子に関し、好ましくは、該ヌクレオチド配列を含む初期ORFVプロモーターをコードする核酸分子に関する。
【0047】
本発明の核酸分子は、組換えORFVベクターにおける外来遺伝子の発現に特に適した新規のORFVプロモーターをコードしている。このようなプロモーターにより、初期遺伝子の極めて高い発現が誘導される。
【0048】
当然のことながら、上述した特徴および以下に述べる特徴は、個々の事例で示した組み合わせだけでなく、本発明の範囲から逸脱しない限りは、他の組み合わせまたは単独でも使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
以下に、実施形態により本発明についてさらに説明する。本発明のさらなる特徴、利点および特性は、以下の説明により明らかになるであろう。以下の実施形態は単なる例示であり、本発明の範囲を限定するものではない。本発明の説明に際して、以下に示す添付の図面を参照する。
【
図1】ORFV D1701-V DNAゲノムのHindIII制限酵素断片地図である。網掛けの四角は、それぞれ挿入位置IL1、IL2、IL3およびvegfを示す。ITRLは、ゲノム末端の逆方向末端反復配列を示す。
【
図2】遺伝子導入プラスミドpD1-GFP-D2Cherryの概略図である。このベクターには、人工的な初期プロモーターP1(黒矢印、上部)の制御下にあるAcGFP遺伝子(縞状の網掛け部)および人工的な初期プロモーターP2(黒矢印、右側)の制御下にあるmCherry遺伝子(格子状の網掛け部)が示されている。この2つの蛍光遺伝子の下流には、それぞれポックスウイルス特異的な初期転写終止モチーフT5NT(黒色)が存在する。この2つの蛍光遺伝子の間には、スペーサー(Sp)が配置されている。複数のマルチクローニングサイト(MCS1~MCS6)が存在し、これらを用いることにより、蛍光標識遺伝子と所望の外来遺伝子とを入れ替えることができる。この2つの蛍光遺伝子は、ORFVゲノムのORF117/118領域と相同性を有する下流のフランキング領域と、ORFVゲノムのORF114領域と相同性を有する上流のフランキング領域に挟まれており、相同組換えによりD1701-Vゲノムの遺伝子座
IL3への標的組込みが可能である。
【
図3】種々の蛍光組換体の発現解析結果である。(A,a)6ウェルプレート上のD1701-V-D2Cherry感染ベロ細胞の蛍光顕微鏡像。所望の組換体の選別は、Cherry遺伝子由来の赤色蛍光を呈するプラークを複数選び、各プラークのウイルスを増殖させることにより行った。4つのプラークを精製した後、D1701-V-D2Cherryの均一性をPCR分析により確認した。(A,b)フローサイトメトリーによるCherryの発現解析。この図は、フローサイトメーターによる、D1701-V-D2Cherry感染ベロ細胞(MOI=1.0)の発現解析の代表的な結果である。48時間後、単一細胞に分離された生細胞のうち約45%がCherryを発現していた。非感染のベロ細胞をネガティブコントロールとした。(B)組換体D1701-V-GFP-D2Cherryの蛍光発現。ベロ細胞にD1701-V-GFP-D2Cherry(MOI=0.5)を感染させた。感染後48時間の蛍光画像を上段に示す(拡大倍率:20倍)。24時間後の蛍光発現を下段に示す(拡大倍率:63倍)。蛍光顕微鏡法により、AcGFP発現(GFP)、mCherry発現(mCherry)および同一細胞における両方の蛍光発現(重ね合わせ)のイメージングを行った。さらに、同じ細胞を用いて顕微鏡の透過光によるイメージングも行った(透過光)。(C)組換体D1701-V-D1GFP-D2Cherryの蛍光発現。ベロ細胞にD1701-V-D1GFP-P2Cherry(MOI=1.0)を感染させ、フローサイトメーターで遺伝子の発現を調べた。24時間後、単一細胞に分離された生細胞のうち約25%がmCherryとGFPの両方を発現していた。非感染のベロ細胞をネガティブコントロールとした。
【
図4】種々の組換体の蛍光強度を測定した結果である。(A)ベロ細胞にGFP発現組換体(MOI=約1.5)を感染させ、24時間後に、フローサイトメーターで平均蛍光強度を測定した。非感染のベロ細胞をネガティブコントロールとした。M1は、全非感染細胞のうち99.39%が検出された領域(前方の第1の曲線部)である。一方、M2領域においては、GFP陽性細胞が検出された。感染後のGFP陽性細胞集団は、GFP発現組換体と一致した(38.2%~40.0%)。GFP強度は、D1701-V-D1GFP感染細胞(実線)が最も低く、D1701-V-D2GFP感染細胞(一点鎖線)が最も高かった。(B)ベロ細胞にmCherry発現組換体(MOI=約3.0)を感染させ、24時間後に、フローサイトメトリーで平均蛍光強度を測定した。非感染のベロ細胞をネガティブコントロールとした。M1は、全非感染細胞のうち99.47%が検出された領域(前方の第1の曲線部)である。一方、M2領域においては、Cherry陽性細胞が検出された。感染後のmCherry陽性細胞集団は、GFP発現組換体と一致した(62.5%~63.3%)。D1701-V-Cherry感染細胞(破線)のmCherry強度は、D1701-V-D2Cherry感染細胞(青線)またはD1701-V2Cherry感染細胞(赤線)より有意に低かった。(C+D)これらのグラフは、D1701-V-GFP(C)またはD1701-V-Cherry(D)に関する種々の蛍光組換体の蛍光強度をパーセントで示したものである。データは、独立して行った少なくとも3回の実験の平均値で示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
実施形態
1.ORFVゲノム
ORFVゲノムは、全長約138kB、GC含量約64%の直鎖状二本鎖DNAからなり、130~132個の遺伝子を含む。ORFVゲノムの構成は、他のポックスウイルスと類似している。ORFVゲノムの中心領域は、ポックスウイルス科のウイルス間で高度に保存されている必須遺伝子を含む。ORFVゲノムの遺伝子のうち88個の遺伝子は、コードポックスウイルス亜科全体で保存されている遺伝子である。ゲノムの末端領域には、in vitroでのウイルス増殖に必須ではないが、ウイルスの病原性および指向性において重要なウイルス遺伝子が存在する。
【0051】
細胞培養における増殖に適応したD1701ウイルスは、逆方向末端反復配列(ITR)が他のオルフウイルスより顕著に長い。この適応変化により、vegf-e遺伝子を含む複数の遺伝子の欠失や重複が生じている。ウシ由来のBK-KL3A細胞で増殖させたD1701-Bは、ベロ細胞内での増殖に適応した結果、ウイルスゲノム内に3つの挿入遺伝子座IL1、IL2およびIL3が追加された。このウイルスは現在D1701-Vと称されている。この構造を
図1に示す。
【0052】
2.ポックスウイルスプロモーター
ポックスウイルスは、「初期」プロモーター、「中期」プロモーターおよび「後期」プロモーターを含む。これらのプロモーターは、それぞれ複数の特徴的な配列特性を有する。以下に、VACVを例に挙げてさらに説明する。VACVの「初期」プロモーターは、16または15ヌクレオチド長の重要領域からなり、この重要領域と7ヌクレオチド長のイニシエーター領域との間に、11ヌクレオチド長のスペーサー領域が存在する。この重要領域は、アデニン含量が高く、一方、スペーサー領域はチミン含量が高い。転写は、ごく稀に例外もあるが、常にプリン塩基から開始される。上記の重要領域内のヌクレオチドの置換によっては、プロモーター活性が劇的に低下する場合があり、プロモーター活性が完全に消失する場合もある。VACVの7.5kDaの初期プロモーターの置換解析により、最適化された重要領域が示されるとともに、「初期」ポックスウイルスプロモーターのコンセンサス配列(表1に示す)が推定された。「中期」プロモーターは、約14ヌクレオチド長のAT含量の高いコア配列、続いて10~11ヌクレオチド長のスペーサー領域、続いて短いイニシエーター領域から構成される。「後期」プロモーターは、上流に位置する約20ヌクレオチド長のAT含量の高い領域からなる構造を有し、転写開始点との間に、高度に保存されている配列-1 TAAAT +4を含む約6ヌクレオチド長のスペーサー領域が存在する。
【表1】
【0053】
3.組換えORFVベクターの製造
本発明者らは、組換え多価ORFVベクターの新たな製造方法を模索してきた。ORFVは、ベロ培養細胞に適応する過程で、ゲノム内で複数の欠失が生じている。欠失の生じた領域が複数の外来遺伝子の組込みに適しているかどうかを検討した(
図1A)。
【0054】
そこで、他のプラスミドと共に、
IL3領域と相同性を有する部位を含む遺伝子導入プラスミドpDel2を設計した(
図2)。プラスミドpDel2への複数の外来遺伝子のクローニングは、複数のMCS(マルチクローニングサイト)を用いることで可能である。さらに、プラスミドpDel2は、複数の外来遺伝子をそれぞれ人工的な初期ORFVプロモーターの制御下に配し、ポックスウイルス特異的な初期転写終止モチーフT5NTで制限することにより、これら複数の外来遺伝子を同時に組み込むことができるように設計されている(
図2)。
【0055】
新規の人工的な初期ORFVプロモーターP1およびP2のヌクレオチド配列を設計した。
【0056】
最初の実験として、遺伝子座
IL3が外来遺伝子の安定した組込みに適しているかどうかを検討する必要があった。そこで、mCherry蛍光マーカー遺伝子を、プロモーターP2の制御下に配置されるようにpDel2遺伝子導入プラスミドにクローニングした。次いで、得られたプラスミドを、D1701-VrVで感染させたベロ細胞にトランスフェクトした。新たに産生された組換えウイルスの選別は、蛍光顕微鏡で赤色蛍光を発する細胞を確認することにより目視で行った。選択した複数のプラークを精製して得られた均一な組換体D1701-V-D2-Cherryを培養した(
図3A,a)。
【0057】
D1701-VrVの遺伝子座
IL3にmCherry遺伝子が適切に組み込まれていることを、特異的なPCR分析およびサザンブロットハイブリダイゼーションにより確認した。また、mCherry遺伝子が適切に発現することも、蛍光分析およびウエスタンブロット分析、さらにフローサイトメトリーにより確認することができた(
図3A,b)。
【0058】
本実験において、感染後の初期相で高い発現が確認された。この組換体をin vitroで複数回継代培養して、外来遺伝子がORFVゲノムに安定して組み込まれていることを確認した。
【0059】
さらに、AcGFP遺伝子がvegf-e遺伝子に組み込まれ、mCherry遺伝子が遺伝子座
IL3に組み込まれた組換体D1701-V-GFP-D2-Cherryを作製し、異なる挿入遺伝子座に存在する2つの蛍光遺伝子が同時に初期発現することを確認した(
図3B)。
【0060】
さらに、同じ遺伝子座IL3に別の外来遺伝子も同時に安定して組み込むことができるかどうかを検討する必要があった。そこで、mCherry遺伝子がP2の制御下に配置されている遺伝子導入プラスミドpDel2に、AcGFP遺伝子を、P1プロモーターの制御下に配置されるようにクローニングした。先に記載したD1701-V-P2-Cherryの選別と同様にして、相同組換体D1701-V-D1-GFP-D2-Cherryの選別および精製を行った。
【0061】
この実験においても、PCRおよびサザンブロット解析により、2つの外来遺伝子が遺伝子座
IL3に適切に組み込まれていることが確認された。蛍光顕微鏡による観察とフローサイトメトリーにより、2つの外来遺伝子の発現が確認された(
図3C)。
【0062】
発現解析を行い、プロモーターP1とP2との活性強度の比較、さらにプロモーターP
vegfとの活性強度の比較を行った。プロモーターP2による遺伝子発現が最も高く、プロモーターP1による遺伝子発現が最も低いことが示された(
図4A+
図4C)。P1はワクシニアウイルスのコンセンサス配列と100%一致しているが、P2はそうではないため、この結果は予想外であった。
【0063】
さらに、第1の外来遺伝子とは別のプロモーターの制御下にある第2の外来遺伝子の組込みは、第1の外来遺伝子の発現強度に影響を与えないことも確認された。第1の遺伝子が組み込まれる挿入遺伝子座と第2の遺伝子が組み込まれる挿入遺伝子座が同一であるか異なるかは結果に影響を与えなかった。P2の制御下にあるmCherry遺伝子がVEGF遺伝子座に組み込まれた組換体と、P2の制御下にあるmCherry遺伝子が遺伝子座
IL3に組み込まれた組換体とを比較して、挿入領域が及ぼす影響を調べた。VEGF遺伝子座における遺伝子発現は、遺伝子座
IL3における遺伝子発現の約2倍の強度であることが示された(
図4B+
図4D)。
【0064】
以上を総括すると、オルフウイルスベクターD1701-Vは多価組換体の製造に極めて適していることが確認された。複数の外来遺伝子を、例えば、新たに発見された挿入遺伝子座IL1、IL2およびIL3、または公知の挿入遺伝子座VEGFを介することにより、オルフウイルスゲノムへ安定して組み込むことができた。外来遺伝子の発現強度は、プロモーター、挿入遺伝子座の両方によって決定される。P2の制御下にある外来遺伝子をVEGF遺伝子座に組み込んだ場合に、最も高い遺伝子発現が得られることが分かった。
【0065】
本発明者らは、マーカー外来遺伝子、挿入領域およびプロモーターの種類および組合せがそれぞれ異なる種々のベクターをさらに作製した(表2)。
【表2】
【0066】
上掲の表は、本発明につながる研究の過程で作製された蛍光性組換えORFVベクターの概要を示したものである。各組換体における挿入領域(遺伝子座)および外来遺伝子の発現制御に用いたプロモーター(Pvegf、P1、P2)を表に示した。また、外来遺伝子の発現強度も示した(非常に高い=++++~低い=+)。
【0067】
本発明は、新規の組換えORFVを利用したワクチンを開発するための様々なオプションを提供するものである。本発明により、複数の抗原を同時に発現する組換体の作製が可能である。このような組換体の作製は、複数のワクチンを組み合わせた万能ワクチン、またはそれぞれ異なる腫瘍抗原を対象とした複数の治療用腫瘍ワクチンに相当する万能ワクチンの製造において、大きな利点となりうる。さらに、抗原とサイトカインとを標的手法により同時に組み込むことにより、免疫応答に影響を与えることも可能である。
【配列表】