(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
F02F 3/00 20060101AFI20220621BHJP
F01M 1/06 20060101ALI20220621BHJP
F02D 15/02 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
F02F3/00 F
F02F3/00 301Z
F01M1/06 C
F02D15/02 B
(21)【出願番号】P 2019196545
(22)【出願日】2019-10-29
【審査請求日】2021-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】503116899
【氏名又は名称】株式会社IHI原動機
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅本 義幸
【審査官】齊藤 彬
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第206647181(CN,U)
【文献】米国特許第05179916(US,A)
【文献】特開平11-117779(JP,A)
【文献】特開2003-254153(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105673203(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105927396(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 3/00
F01M 1/06
F02D 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内を摺動可能なピストンを備え、
前記ピストンは、
コンロッドと接続されているピストンスカートと、
前記ピストンスカートの上死点側の外周部と嵌合されるピストン冠と、
前記ピストンスカートの上死点側の外周部または前記ピストン冠の下死点側の内周部の一方に形成され、前記ピストンの周方向に対して傾斜する溝部と、
前記ピストンスカートの上死点側の外周部または前記ピストン冠の下死点側の内周部の他方に形成され、前記溝部と嵌合する突起部と、
前記溝部における前記突起部よりも上死点側および前記突起部によって画成される上ピストン油圧室と、
前記溝部における前記突起部よりも下死点側および前記突起部によって画成される下ピストン油圧室と、
を有する、
エンジン。
【請求項2】
前記ピストンは、前記溝部を横断して貫通する貫通部材を有し、
前記上ピストン油圧室の上死点側または前記下ピストン油圧室の下死点側は、前記貫通部材によって画成される、
請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記ピストンスカートの上死点側には、前記溝部と平行な上傾斜面が形成され、
前記ピストン冠の下死点側には、前記上傾斜面と接触する下傾斜面が形成される、
請求項1または2に記載のエンジン。
【請求項4】
前記上ピストン油圧室および前記下ピストン油圧室と接続される給排油機構は、前記ピストンに設けられ、
前記給排油機構は、押圧されることによって前記給排油機構を作動させる被押圧部を有し、
前記被押圧部は、前記ピストンの摺動に伴い前記エンジン内の押圧部によって押圧される、
請求項1~3のいずれか一項に記載のエンジン。
【請求項5】
前記被押圧部は、前記ピストンの側部に設けられ、前記ピストンの摺動方向と交差する方向に前記押圧部により押圧され、
前記押圧部は、下死点側に進むにつれて、前記ピストンの中心軸に近づく、
請求項4に記載のエンジン。
【請求項6】
前記上ピストン油圧室または前記下ピストン油圧室と接続される給排油機構は、
ハウジングと、
前記ハウジング内を摺動可能なプランジャ本体部を含むプランジャと、
前記ハウジング内に形成され、前記プランジャ側から前記プランジャの摺動方向に沿って順に並ぶ第1ポンプ油圧室および第2ポンプ油圧室と、
前記第1ポンプ油圧室と前記第2ポンプ油圧室とを連通する連通孔と、
前記第2ポンプ油圧室から前記第1ポンプ油圧室に向かう方向に付勢され、前記連通孔を前記第2ポンプ油圧室側から塞ぐ第1ポンプ弁体を含む第1ポンプ逆止弁と、
前記ハウジングにおける前記第2ポンプ油圧室を画成する部分に形成され、前記上ピストン油圧室または前記下ピストン油圧室と接続される第1ポートと、
前記ハウジングにおける前記第1ポンプ油圧室を画成する部分に形成され、供給油路と接続される第2ポートと、
前記第1ポンプ油圧室から前記供給油路に向かう作動油の流れを制限する第2ポンプ逆止弁と、
前記プランジャ本体部の前記第1ポンプ油圧室側に形成され、前記連通孔に挿通可能なプランジャ突起部と、
前記ハウジングにおける前記プランジャ本体部の側面と対向する部分に形成され、排出油路と接続される第3ポートと、
前記プランジャ本体部の前記第1ポンプ油圧室側から前記プランジャ本体部の側面に亘って貫通して形成される貫通路と、
を備える、
プランジャポンプである、
請求項1~5のいずれか一項に記載のエンジン。
【請求項7】
前記上ピストン油圧室または前記下ピストン油圧室と接続される給排油機構は、
前記上ピストン油圧室または前記下ピストン油圧室と連通し前記ピストンにおける下死点側に形成されるピストンポートと、前記ピストンポートを塞ぐピストン弁体を含むピストン逆止弁と、を有する逆止弁部と、
前記ピストンに対して下死点側に設けられる給排油部と、
を備え、
前記給排油部は、
ハウジングと、
前記ハウジング内に形成され、供給油路または排出油路と連通する給排油部油圧室と、
前記給排油部油圧室における上死点側に形成される油圧室開口と、
前記給排油部油圧室から前記油圧室開口に向かう方向に付勢され、前記油圧室開口を前記給排油部油圧室側から塞ぐ給排油部弁体を含み、前記ピストンポートに挿通可能な延在部材と、
を有する、
請求項1~5のいずれか一項に記載のエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶等に用いられるエンジンとして、トランクピストン型のエンジンがある。トランクピストン型のエンジンでは、例えば、特許文献1に開示されているように、シリンダ内を摺動可能なピストンが、コンロッドを介してクランクシャフトと接続されている。ピストンの往復運動のエネルギが、回転エネルギに変換されて、コンロッドを介してクランクシャフトに伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、トランクピストン型のエンジンでは、負荷に応じて圧縮比を変化させることによって、熱効率を向上させることができる。しかしながら、従来の技術では、圧縮比を可変にする仕組みの検討が十分にはなされていなかった。
【0005】
本開示は、上記の課題に鑑み、圧縮比を変化させることが可能なエンジンを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係るエンジンは、シリンダ内を摺動可能なピストンを備え、ピストンは、コンロッドと接続されているピストンスカートと、ピストンスカートの上死点側の外周部と嵌合されるピストン冠と、ピストンスカートの上死点側の外周部またはピストン冠の下死点側の内周部の一方に形成され、ピストンの周方向に対して傾斜する溝部と、ピストンスカートの上死点側の外周部またはピストン冠の下死点側の内周部の他方に形成され、溝部と嵌合する突起部と、溝部における突起部よりも上死点側および突起部によって画成される上ピストン油圧室と、溝部における突起部よりも下死点側および突起部によって画成される下ピストン油圧室と、を有する。
【0007】
ピストンは、溝部を横断して貫通する貫通部材を有し、上ピストン油圧室の上死点側は、貫通部材によって画成されてもよい。
【0008】
ピストンスカートの上死点側には、溝部と平行な上傾斜面が形成され、ピストン冠の下死点側または下ピストン油圧室の下死点側には、上傾斜面と接触する下傾斜面が形成されてもよい。
【0009】
上ピストン油圧室または下ピストン油圧室と接続される給排油機構は、ピストンに設けられ、給排油機構は、押圧されることによって給排油機構を作動させる被押圧部を有し、被押圧部は、ピストンの摺動に伴いエンジン内の押圧部によって押圧されてもよい。
【0010】
被押圧部は、ピストンの側部に設けられ、ピストンの摺動方向と交差する方向に押圧部により押圧され、押圧部は、下死点側に進むにつれて、ピストンの中心軸に近づいてもよい。
【0011】
上ピストン油圧室または下ピストン油圧室と接続される給排油機構は、ハウジングと、ハウジング内を摺動可能なプランジャ本体部を含むプランジャと、ハウジング内に形成され、プランジャ側からプランジャの摺動方向に沿って順に並ぶ第1ポンプ油圧室および第2ポンプ油圧室と、第1ポンプ油圧室と第2ポンプ油圧室とを連通する連通孔と、第2ポンプ油圧室から第1ポンプ油圧室に向かう方向に付勢され、連通孔を第2ポンプ油圧室側から塞ぐ第1ポンプ弁体を含む第1ポンプ逆止弁と、ハウジングにおける第2ポンプ油圧室を画成する部分に形成され、上ピストン油圧室または下ピストン油圧室と接続される第1ポートと、ハウジングにおける第1ポンプ油圧室を画成する部分に形成され、供給油路と接続される第2ポートと、第1ポンプ油圧室から供給油路に向かう作動油の流れを制限する第2ポンプ逆止弁と、プランジャ本体部の第1ポンプ油圧室側に形成され、連通孔に挿通可能なプランジャ突起部と、ハウジングにおけるプランジャ本体部の側面と対向する部分に形成され、排出油路と接続される第3ポートと、プランジャ本体部の第1ポンプ油圧室側からプランジャ本体部の側面に亘って貫通して形成される貫通路と、を備える、プランジャポンプであってもよい。
【0012】
上ピストン油圧室または下ピストン油圧室と接続される給排油機構は、上ピストン油圧室または下ピストン油圧室と連通しピストンにおける下死点側に形成されるピストンポートと、ピストンポートを塞ぐピストン弁体を含むピストン逆止弁と、を有する逆止弁部と、ピストンに対して下死点側に設けられる給排油部と、を備え、給排油部は、ハウジングと、ハウジング内に形成され、供給油路または排出油路と連通する給排油部油圧室と、給排油部油圧室における上死点側に形成される油圧室開口と、給排油部油圧室から油圧室開口に向かう方向に付勢され、油圧室開口を給排油部油圧室側から塞ぐ給排油部弁体を含み、ピストンポートに挿通可能な延在部材と、を有してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本開示のエンジンによれば、圧縮比を変化させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示の第1の実施形態に係るエンジンの概略構成を示す模式図である。
【
図2】本開示の第1の実施形態に係るピストンを示す斜視図である。
【
図3】本開示の第1の実施形態に係る低圧縮比の場合のピストンを示す断面図である。
【
図4】本開示の第1の実施形態に係る高圧縮比の場合のピストンを示す断面図である。
【
図5】本開示の第1の実施形態に係るピストン冠を示す断面図である。
【
図6】本開示の第1の実施形態に係るピストン冠を示す底面図である。
【
図7】本開示の第1の実施形態に係るピストンスカートを示す上面図である。
【
図8】本開示の第1の実施形態に係るピストンスカートを示す断面図である。
【
図9】本開示の第1の実施形態に係るプランジャポンプの各状態を示す断面図である。
【
図10】本開示の第1の実施形態に係るスプール弁の各状態を示す断面図である。
【
図11】本開示の第1の実施形態に係るプランジャポンプの非作動時の作動機構を示す模式図である。
【
図12】本開示の第1の実施形態に係るプランジャポンプの作動時の作動機構を示す模式図である。
【
図13】変形例に係るプランジャポンプの非作動時の作動機構を示す模式図である。
【
図14】変形例に係るプランジャポンプの作動時の作動機構を示す模式図である。
【
図15】本開示の第2の実施形態に係る低圧縮比の場合のピストンを示す断面図である。
【
図16】本開示の第2の実施形態に係る高圧縮比の場合のピストンを示す断面図である。
【
図17】本開示の第2の実施形態に係るプランジャポンプの各状態を示す断面図である。
【
図18】本開示の第3の実施形態に係る低圧縮比の場合のピストンを示す断面図である。
【
図19】本開示の第3の実施形態に係る高圧縮比の場合のピストンを示す断面図である。
【
図20】本開示の第3の実施形態に係る給排油機構が給油機構として作動する様子を示す断面図である。
【
図21】本開示の第3の実施形態に係る給排油機構が排油機構として作動する様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
<第1の実施形態>
図1~
図14を参照して、本開示の第1の実施形態について説明する。
【0017】
図1は、本開示の第1の実施形態に係るエンジン1の概略構成を示す模式図である。エンジン1は、トランクピストン型のエンジンであり、具体的には、船舶に搭載されるエンジンや発電機を駆動するエンジンである。
図1に示されるように、エンジン1では、クランクケース11の上部にシリンダ12が設けられる。シリンダ12の上部の外周は、ジャケット13により覆われる。シリンダ12の上端には、シリンダカバー14が設けられる。シリンダカバー14には、吸気流路(図示省略)および排気流路(図示省略)が接続されている。
【0018】
シリンダ12内には、ピストン15が設けられている。ピストン15は、シリンダ12内を摺動可能である。ピストン15は、ピストン冠15aと、ピストンスカート15bとを有する。ピストンスカート15bは、ピストンピン16を介してコンロッド17の小端部17aの一端と接続される。コンロッド17の小端部17aは、ピストンスカート15bに対してピストンピン16の中心軸まわりに相対的に回動可能である。
【0019】
コンロッド17の他端には、大端部17bが設けられる。大端部17bは、クランクシャフト18のクランクピン18aと接続される。大端部17bは、クランクシャフト18に対してクランクピン18aの中心軸まわりに相対的に回動可能である。クランクシャフト18のクランクジャーナル18bは、クランクケース11に設けられる軸受部材に軸支されている。クランクシャフト18におけるクランクジャーナル18bに対してクランクピン18a側と逆側には、バランスウェイト19が設けられている。ピストン15が往復移動すると、クランクシャフト18が回転する。ピストン15の往復運動のエネルギが、回転エネルギに変換されて、コンロッド17を介してクランクシャフト18に伝達される。
【0020】
クランクケース11は、クランクシャフト18の軸方向に延在する。
図1では、シリンダ12が1つのみ示されているが、クランクケース11の上部には、複数のシリンダ12が、クランクシャフト18の軸方向に並んで設けられている。クランクケース11の下部には、オイルパン20が接続されている。クランクケース11内で使われる油(作動油または潤滑油等)は、オイルパン20に貯留される。
【0021】
エンジン1では、シリンダ12とシリンダカバー14とピストン15によって燃焼室21が画成される。燃焼室21には、シリンダカバー14を介して吸気が供給される。燃焼室21からシリンダカバー14を介して排気が排出される。
図1では、ピストン15が上死点に位置している状態が実線で示されており、ピストン15が下死点に位置している状態が二点鎖線で示されている。エンジン1の圧縮比εは、以下の式(1)により表される。
【0022】
ε=(Vh+Vc)/Vc ・・・(1)
【0023】
図1に示されるように、式(1)中のVhは、ピストン15が上死点に位置している時と下死点に位置している時の燃焼室21の容積の差に相当する行程容積を示し、式(1)中のVcは、ピストン15が上死点に位置している時の燃焼室21の容積である間隙容積を示す。
【0024】
ピストン15の摺動方向は、シリンダ12の軸方向と一致する。以下では、上死点側を上側とし、下死点側を下側とし、ピストン15の摺動方向を上下方向とも呼ぶ。
【0025】
図2は、本開示の第1の実施形態に係るピストン15を示す斜視図である。ピストン冠15aは、ピストンスカート15bの上部と接続される。具体的には、ピストン冠15aは、ピストンスカート15bの上部の外周部と篏合される。
図2に示されるように、ピストン冠15aの上部には、触火面101が形成される。触火面101は、燃焼室21の下面を画成する。ピストン冠15aの側部には、ピストンリングが嵌められるリング溝102が形成される。ピストンスカート15bの側部には、ピストンピン16が貫通するピン孔103が形成される。ピン孔103の軸方向は、ピストン15の軸方向に直交する。
【0026】
図3は、本開示の第1の実施形態に係る低圧縮比の場合のピストン15を示す断面図である。
図4は、本開示の第1の実施形態に係る高圧縮比の場合のピストン15を示す断面図である。
【0027】
図3に示されるように、ピストンスカート15bの上部の外周部には、ピストン15の周方向に対して傾斜する溝部104が形成される。溝部104は、ピストン15の周方向に間隔を空けて複数設けられる。溝部104は、上から見て反時計回りに進むにつれて上方に傾斜する。例えば、溝部104の内部空間の横断面形状は、矩形である。
図3には、溝部104の幅hと、ピストン15の周方向に対する溝部104の傾斜角θが示されている。ピストン冠15aの下部の内周部には、溝部104と嵌合する突起部105が形成される。突起部105は、ピストン15の周方向に間隔を空けて複数設けられる。突起部105は、溝部104と平行に延びる。例えば、突起部105の横断面形状は、矩形である。
【0028】
突起部105は、溝部104内を当該溝部104の延在方向に摺動可能となっている。突起部105は、上から見て反時計回りに溝部104内を進むにつれて上昇し、上から見て時計回りに溝部104内を進むにつれて下降する。ゆえに、ピストン冠15aがピストンスカート15bに対してピストン15の中心軸まわりに回動することによって、ピストン冠15aのピストンスカート15bに対する上下方向の位置が変化する。
【0029】
溝部104における突起部105よりも上死点側(つまり、上から見て反時計回り方向側)および突起部105によって、上ピストン油圧室106が画成される。溝部104における突起部105よりも下死点側(つまり、上から見て時計回り方向側)および突起部105によって、下ピストン油圧室107が画成される。
【0030】
具体的には、溝部104の内側部の下死点側の端部は閉じており、溝部104の内周部の上死点側の端部は開口している。下ピストン油圧室107は、溝部104の内側面と、突起部105と、ピストン冠15aの内側面とによって画成される。溝部104における突起部105よりも上死点側を貫通部材108が横断して貫通する。例えば、貫通部材108は、上下方向に延びる棒状の部材である。上ピストン油圧室106は、溝部104の内側面と、突起部105と、ピストン冠15aの内側面と、貫通部材108とによって画成される。
【0031】
後述するように、上ピストン油圧室106内の油圧および下ピストン油圧室107内の油圧が調整されることによって、ピストン冠15aのピストンスカート15bに対する上下方向の位置が調整される。それにより、エンジン1の圧縮比が変化する。
【0032】
ピストンスカート15bの上部には、溝部104と平行な上傾斜面109が形成される。ピストン15の周方向に対する上傾斜面109の傾斜角は、ピストン15の周方向に対する溝部104の傾斜角θと一致する。上傾斜面109は、ピストン冠15aの後述する下傾斜面117(具体的には、上傾斜面109と平行な面)と接触する。それにより、ピストン冠15aに入力される燃焼室21内の圧力をピストンスカート15bで受けることができる。
【0033】
上ピストン油圧室106および下ピストン油圧室107と接続される給排油機構として、プランジャポンプ31およびスプール弁32がピストン15に設けられる。給排油機構は、対象となる油圧室への作動油の供給または当該油圧室からの作動油の排出を行う機構である。プランジャポンプ31は、給油機能(つまり、作動油を供給する機能)を有する。プランジャポンプ31が後述する
図9の作動状態になると、プランジャポンプ31による給油が行われる。スプール弁32は、作動油の供給先を上ピストン油圧室106と下ピストン油圧室107との間で切り替える機能と排油機能(つまり、作動油を排出する機能)を有する。スプール弁32が後述する
図10の第1状態になると、作動油の供給先が下ピストン油圧室107となり、スプール弁32が後述する
図10の第2状態になると、作動油の供給先が上ピストン油圧室106となる。
【0034】
プランジャポンプ31およびスプール弁32は、ピストンスカート15bの下部に設けられる。なお、プランジャポンプ31およびスプール弁32の詳細については、後述する。
【0035】
ピン孔103の内周部には、潤滑油供給溝110が形成される。潤滑油供給溝110には、ピストンピン16の潤滑油が供給される。プランジャポンプ31は、供給油路111を介して、潤滑油供給溝110と接続される。油供給源と接続され、油供給源から供給される作動油が流通する油路を供給油路と呼ぶ。供給油路は、油供給源から供給される作動油が流通する油路である。プランジャポンプ31には、潤滑油供給溝110から供給油路111を介して作動油が送られる。
【0036】
プランジャポンプ31は、油路112を介して、スプール弁32と接続される。スプール弁32には、プランジャポンプ31により加圧された作動油が、プランジャポンプ31から油路112を介して送られる。スプール弁32は、油路113を介して、下ピストン油圧室107と接続される。スプール弁32は、油路114を介して、上ピストン油圧室106と接続される。
【0037】
作動油の供給先が下ピストン油圧室107となっている場合、加圧された作動油が、スプール弁32から下ピストン油圧室107に油路113を介して送られる。また、スプール弁32には、上ピストン油圧室106から、油路114を介して作動油が送られる。上ピストン油圧室106からスプール弁32に送られた作動油は、スプール弁32から
図1中のクランクケース11内に排出される。
【0038】
プランジャポンプ31により加圧された作動油が下ピストン油圧室107に送られることによって、下ピストン油圧室107が加圧される。また、上ピストン油圧室106内の作動油がスプール弁32により排出されることによって、上ピストン油圧室106が減圧される。それにより、下ピストン油圧室107から上ピストン油圧室106に向かう方向(つまり、上から見て反時計回り方向)の力が、ピストン冠15aの突起部105に作用する。よって、ピストン冠15aが上から見て反時計回り方向に回動し、ピストン冠15aが上側に移動する。このような下ピストン油圧室107の加圧および上ピストン油圧室106の減圧を繰り返し行うことにより、
図4に示されるように、
図3の上下位置に対してピストン冠15aを上側に移動させ、圧縮比を高くすることができる。
【0039】
作動油の供給先が上ピストン油圧室106となっている場合、加圧された作動油が、スプール弁32から上ピストン油圧室106に油路114を介して送られる。また、スプール弁32には、下ピストン油圧室107から、油路113を介して作動油が送られる。下ピストン油圧室107からスプール弁32に送られた作動油は、スプール弁32から
図1中のクランクケース11内に排出される。
【0040】
プランジャポンプ31により加圧された作動油が上ピストン油圧室106に送られることによって、上ピストン油圧室106が加圧される。また、下ピストン油圧室107内の作動油がスプール弁32により排出されることによって、下ピストン油圧室107が減圧される。それにより、上ピストン油圧室106から下ピストン油圧室107に向かう方向(つまり、上から見て時計回り方向)の力が、ピストン冠15aの突起部105に作用する。よって、ピストン冠15aが上から見て時計回り方向に回動し、ピストン冠15aが下側に移動する。このような上ピストン油圧室106の加圧および下ピストン油圧室107の減圧を繰り返し行うことにより、
図3に示されるように、ピストン冠15aを下側に移動させ、圧縮比を低くする(つまり、
図3の圧縮比に戻す)ことができる。
【0041】
図5は、本開示の第1の実施形態に係るピストン冠15aを示す断面図である。
図6は、本開示の第1の実施形態に係るピストン冠15aを示す底面図である。
【0042】
図5および
図6に示されるように、ピストン冠15aの下部には、下から順に第1内周部115と第2内周部116とが形成される。第1内周部115および第2内周部116の中心軸は、ピストン15の中心軸と同軸である。第1内周部115の内径は、第2内周部116の内径よりも大きい。突起部105は、第1内周部115に設けられる。突起部105の幅は、溝部104の幅hと一致する。ピストン15の周方向に対する突起部105の傾斜角は、ピストン15の周方向に対する溝部104の傾斜角θと一致する。
図6の例では、4つの突起部105がピストン15の周方向に等間隔で設けられる。
【0043】
ピストン冠15aの下部には、溝部104と平行な下傾斜面117が形成される。下傾斜面117は、第1内周部115と第2内周部116との段差部に形成される。下傾斜面117は、底面視でピストン15の中心軸と同軸の扇形から第2内周部116より内側の領域を除いた形状を有する。下傾斜面117は、突起部105の上方に位置する。ピストン15の周方向に対する下傾斜面117の傾斜角は、ピストン15の周方向に対する溝部104の傾斜角θと一致する。下傾斜面117は、ピストン15の周方向に間隔を空けて複数設けられる。
図6の例では、4つの下傾斜面117がピストン15の周方向に等間隔で設けられる。
【0044】
図7は、本開示の第1の実施形態に係るピストンスカート15bを示す上面図である。
図8は、本開示の第1の実施形態に係るピストンスカート15bを示す断面図である。
【0045】
図7および
図8に示されるように、ピストンスカート15bの上部には、ピストン15の中心軸と同軸の円筒部118が上方向に延びて形成される。ピストンスカート15bの上部における円筒部118の外側には、円筒部118の外側における他の部分よりも上方に突出する突出部119が形成される。突出部119は、ピストン15の周方向に間隔を空けて複数設けられる。
図7の例では、4つの突出部119がピストン15の周方向に等間隔で設けられる。突出部119は、上面視でピストン15の中心軸と同軸の扇形から円筒部118の外周面より内側の領域を除いた形状を有する。溝部104は、突出部119の外周面(つまり、ピストン15の周方向に沿った側面)に形成される。上傾斜面109は、突出部119の上部に形成される。
【0046】
ピストン冠15aの第2内周部116にピストンスカート15bの円筒部118が篏合する。ゆえに、第2内周部116の内径φdは、円筒部118の外径φd1よりも大きい。ピストン冠15aの第1内周部115にピストンスカート15bの突出部119の外周面が篏合する。ゆえに、第1内周部115の内径φDは、突出部119の外径φD1(つまり、突出部119の外周面の直径)よりも大きい。ピストンスカート15bの上傾斜面109とピストン冠15aの下傾斜面117とは、互いに接触する。
【0047】
ピストンスカート15bの隣り合う突出部119のなす角βは、ピストン冠15aの下傾斜面117の中心角αよりも大きい。それにより、ピストンスカート15bの上傾斜面109とピストン冠15aの下傾斜面117とが互いに接触する状態で、ピストン冠15aの突起部105をピストンスカート15bの溝部104に嵌め合わせることができる。ピストン冠15aの突起部105をピストンスカート15bの溝部104に嵌め合わせた状態で、貫通部材108が溝部104における突起部105よりも上死点側に取り付けられる。それにより、上ピストン油圧室106および下ピストン油圧室107が形成される。上記のように、溝部104における突起部105よりも上死点側を横断して貫通する貫通部材108が設けられることによって、上ピストン油圧室106および下ピストン油圧室107が形成されるようにピストン冠15aをピストンスカート15bに組み付けることが適切に実現される。
【0048】
ピストンスカート15bの下部には、プランジャポンプ31が篏合する穴部120およびスプール弁32が篏合する穴部121が形成されている。穴部120および穴部121は、ピストンスカート15bの下端から上方向に延びて形成される。
【0049】
図9は、本開示の第1の実施形態に係るプランジャポンプ31の各状態を示す断面図である。
図9における上側が上死点側であり、
図9における下側が下死点側である。
図9では、左から順に、プランジャポンプ31の停止状態、プランジャポンプ31の作動状態、プランジャポンプ31の作動状態から停止状態への遷移状態が示されている。
図9に示されるように、プランジャポンプ31は、ハウジング201と、ハウジング201内を摺動可能なプランジャ202とを備える。プランジャ202の摺動方向は、ピストン15の摺動方向と一致する。
【0050】
ハウジング201は、第1筒状部201aと、第2筒状部201bと、蓋部201cとを含む。第1筒状部201aの下部に、プランジャ202が嵌合される。例えば、第1筒状部201aは円筒形であり、プランジャ202は円柱形である。第2筒状部201bは、第1筒状部201aの上部と接続される。例えば、第2筒状部201bは円筒形である。第2筒状部201bの上側の開口は、蓋部201cにより塞がれる。
【0051】
第1筒状部201aの内部には、圧縮バネ203が設けられている。圧縮バネ203は、当該圧縮バネ203の圧縮方向が上下方向となる姿勢で、プランジャ202の上部と当接する。プランジャ202は、圧縮バネ203の復元力によって、下方向に付勢される。プランジャ202の下部は、第1筒状部201aより下方に延びる。プランジャ202の下部には、ローラ204がピン205を介して設けられている。ピン205は、上下方向に直交する方向に延びている。ローラ204は、ピン205の中心軸まわりに回転可能である。
【0052】
ハウジング201内には、第1ポンプ油圧室206および第2ポンプ油圧室207が形成される。第1ポンプ油圧室206および第2ポンプ油圧室207は、プランジャ202側からプランジャ202の摺動方向(つまり、上下方向)に沿って順に並ぶ。具体的には、第1ポンプ油圧室206は第1筒状部201aの内部に形成され、第2ポンプ油圧室207は第2筒状部201bの内部に形成される。
【0053】
第1ポンプ油圧室206と第2ポンプ油圧室207とを連通する連通孔208が、第2筒状部201bの下部に形成される。第2ポンプ油圧室207には、第2ポンプ油圧室207から第1ポンプ油圧室206への作動油の流れを制限する第1ポンプ逆止弁209が設けられる。第1ポンプ逆止弁209は、第1ポンプ弁体209aと、圧縮バネ209bとを含む。圧縮バネ209bは、当該圧縮バネ209bの圧縮方向が上下方向となる姿勢で、第1ポンプ弁体209aと当接する。第1ポンプ弁体209aは、第2ポンプ油圧室207から第1ポンプ油圧室206に向かう方向に圧縮バネ209bによって付勢され、連通孔208を第2ポンプ油圧室207側から塞ぐ。
【0054】
第2筒状部201bには、
図3中の油路112と接続される第1ポート210が形成される。第1筒状部201aにおける第1ポンプ油圧室206を画成する部分には、
図3中の供給油路111と接続される第2ポート211が形成される。第2ポート211と供給油路111との間には、筒状部212および蓋部213が介在している。例えば、筒状部212は円筒形である。筒状部212の第2ポート211側に蓋部213が設けられている。
【0055】
筒状部212の内部は、蓋部213を介して第2ポート211と連通している。筒状部212内には、第1ポンプ油圧室206から供給油路111に向かう作動油の流れを制限する第2ポンプ逆止弁214が設けられる。第2ポンプ逆止弁214は、第2ポンプ弁体214aと、圧縮バネ214bとを含む。圧縮バネ214bは、当該圧縮バネ214bの圧縮方向が筒状部212の軸方向となる姿勢で、第2ポンプ弁体214aと当接する。第2ポンプ弁体214aは、筒状部212内側から供給油路111に向かう方向に圧縮バネ214bによって付勢され、筒状部212の供給油路111側の開口を筒状部212内側から塞ぐ。
【0056】
プランジャポンプ31は、プランジャ202が上方向に押圧されることによって作動する。つまり、プランジャ202は、押圧されることによってプランジャポンプ31を作動させる被押圧部に相当する。プランジャ202が上方向に押圧されていない場合、プランジャポンプ31は、
図9に示される停止状態となる。停止状態では、第1ポンプ逆止弁209および第2ポンプ逆止弁214が閉状態(つまり、作動油の流通が遮断される状態)となる。
【0057】
プランジャ202が上方向に押圧されると、プランジャポンプ31は、
図9に示される作動状態となる。作動状態では、プランジャ202が上方向に移動することにより、第1ポンプ油圧室206が加圧される。ゆえに、第1ポンプ逆止弁209が開状態(つまり、作動油が流通する状態)となり、加圧された作動油が、第2ポンプ油圧室207および第1ポート210を介して油路112に送られる。それにより、加圧された作動油が、油路112を介してスプール弁32に送られる。
【0058】
その後、プランジャ202の押圧が解除されると、プランジャポンプ31は、
図9に示される遷移状態となる。遷移状態では、圧縮バネ203の復元力によって、プランジャ202が下方向に移動することにより、第1ポンプ油圧室206が減圧される。それにより、第1ポンプ逆止弁209が閉状態となり、第2ポンプ逆止弁214が開状態となる。ゆえに、供給油路111から第1ポンプ油圧室206に、第2ポート211を介して作動油が送られる。プランジャポンプ31は、作動状態から遷移状態を経て停止状態に戻る。
【0059】
図10は、本開示の第1の実施形態に係るスプール弁32の各状態を示す断面図である。
図10における上側が上死点側であり、
図10における下側が下死点側である。
図10では、左から順に、スプール弁32の第1状態、スプール弁32の第2状態が示されている。
図10に示されるように、スプール弁32は、ハウジング301と、ハウジング301内を摺動可能なスプール302とを備える。スプール302の摺動方向は、ピストン15の摺動方向と一致する。
【0060】
ハウジング301の下部に、スプール302が嵌合される。例えば、ハウジング301は、下端に開口を有し、上端に底部を有する円筒形である。例えば、スプール302は円柱形である。
【0061】
ハウジング301の内部には、圧縮バネ303が設けられている。圧縮バネ303は、当該圧縮バネ303の圧縮方向が上下方向となる姿勢で、スプール302の上部と当接する。スプール302は、圧縮バネ303の復元力によって、下方向に付勢される。スプール302の下部は、ハウジング301より下方に延びる。スプール302の下部には、ローラ304がピン305を介して設けられている。ピン305は、上下方向に直交する方向に延びている。ローラ304は、ピン305の中心軸まわりに回転可能である。スプール302には、上下方向に間隔を空けて、上から順に環状溝部302a、環状溝部302bが形成されている。環状溝部302a,302bは、スプール302の周方向の全周に亘って形成され、スプール302におけるハウジング301と摺接する部分よりも縮径した部分である。
【0062】
ハウジング301には、ハウジング301の内部と外部とを連通する第1ポート306、第2ポート307、第3ポート308、第4ポート309および第5ポート310が上からこの順に設けられている。第1ポート306および第5ポート310は、
図1中のクランクケース11の内部空間と連通している。第2ポート307は、
図3中の油路113と接続される。第3ポート308は、
図3中の油路112と接続される。第4ポート309は、
図3中の油路114と接続される。
【0063】
スプール302が上方向に押圧されることによって、スプール弁32は、第1状態から第2状態に切り替えられる。つまり、スプール302は、押圧されることによってスプール弁32を作動させる被押圧部に相当する。
【0064】
スプール302が上方向に押圧されていない場合、スプール弁32は、圧縮バネ303の復元力によって、
図10に示される第1状態となる。第1状態では、第2ポート307と第3ポート308とが環状溝部302aを介して連通される。よって、油路112へ送られる加圧された作動油が、第3ポート308、環状溝部302aおよび第2ポート307を介して、油路113へ送られる。それにより、
図3中の下ピストン油圧室107が加圧される。また、第4ポート309と第5ポート310とが環状溝部302bを介して連通される。よって、油路114へ送られる上ピストン油圧室106内の作動油が、第4ポート309、環状溝部302bおよび第5ポート310を介して、
図1中のクランクケース11内に排出される。それにより、
図3中の上ピストン油圧室106が減圧される。ゆえに、ピストン冠15aが上側に移動する。
【0065】
スプール302が上方向に押圧されると、スプール弁32は、
図10に示される第2状態となる。第2状態では、第1ポート306と第2ポート307とが環状溝部302aを介して連通される。よって、油路113へ送られる下ピストン油圧室107内の作動油が、第2ポート307、環状溝部302aおよび第1ポート306を介して、
図1中のクランクケース11内に排出される。それにより、
図3中の下ピストン油圧室107が減圧される。また、第3ポート308と第4ポート309とが環状溝部302bを介して連通される。よって、油路112へ送られる加圧された作動油が、第3ポート308、環状溝部302bおよび第4ポート309を介して、油路114へ送られる。それにより、
図3中の上ピストン油圧室106が加圧される。ゆえに、ピストン冠15aが下側に移動する。
【0066】
図11は、本開示の第1の実施形態に係るプランジャポンプ31の非作動時の作動機構22を示す模式図である。
図12は、本開示の第1の実施形態に係るプランジャポンプ31の作動時の作動機構22を示す模式図である。
図11および
図12では、ピストン15が下死点に位置している状態が示されている。
図11および
図12に示される作動機構22は、プランジャポンプ31を作動させる機構である。なお、
図11および
図12では、プランジャポンプ31の作動機構22が示されているが、スプール弁32の作動も同様の機構により行われ得る。
【0067】
作動機構22は、プランジャポンプ31のプランジャ202を押圧する押圧部としてのアーム22aを有する。アーム22aの一端は、ピン22bを介してクランクケース11と接続される。アーム22aは、クランクケース11に対してピン22bの中心軸まわりに回動可能である。アーム22aの他端(つまり、先端)は、ピストン15の下方に位置している。アーム22aは、ピン22cを介して油圧シリンダ22dと接続されている。アーム22aおよび油圧シリンダ22dは、ピン22cを介して相対的に回動可能である。油圧シリンダ22dを駆動させることにより、アーム22aをピン22bの中心軸まわりに回動させることができる。それにより、アーム22aの先端を上下方向に移動させることができる。
【0068】
プランジャポンプ31の非作動時には、
図11に示されるように、ピストン15が下死点まで降下した際に、アーム22aの先端がプランジャポンプ31のローラ204と接触しない位置に保持されるように、アーム22aの姿勢が制御される。ゆえに、ピストン15が下死点まで降下した際に、プランジャポンプ31のプランジャ202は、アーム22aにより押圧されない。よって、プランジャポンプ31が作動されず、停止状態となる。
【0069】
プランジャポンプ31の作動時には、
図12に示されるように、ピストン15が下死点まで降下した際に、アーム22aの先端がプランジャポンプ31のローラ204と接触する位置に保持されるように、アーム22aの姿勢が制御される。ゆえに、ピストン15が下死点まで降下した際に、プランジャポンプ31のプランジャ202は、アーム22aにより上方向に押圧される。よって、プランジャポンプ31が作動され、作動状態となる。
【0070】
上記のように、プランジャポンプ31の被押圧部としてのプランジャ202は、ピストン15の摺動に伴いエンジン1内の押圧部としてのアーム22aによって押圧される。それにより、ピストン15の運動エネルギを有効に利用して、プランジャポンプ31を作動させることができる。つまり、プランジャポンプ31の駆動源を別途用意することなく、プランジャポンプ31を作動させることができる。なお、プランジャポンプ31以外の給排油機構(例えば、スプール弁32または後述するプランジャポンプ33)の作動を上記と同様の機構により行うことによっても、上記と同様の効果を奏し得る。
【0071】
図13は、変形例に係るプランジャポンプ31の非作動時の作動機構23を示す模式図である。
図14は、変形例に係るプランジャポンプ31の作動時の作動機構23を示す模式図である。
図13および
図14では、ピストン15が下死点に位置している状態が示されている。
図13および
図14に示される作動機構23は、プランジャポンプ31を作動させる機構のうち上記の作動機構22とは異なる機構である。なお、
図13および
図14では、プランジャポンプ31の作動機構23が示されているが、スプール弁32の作動も同様の機構により行われ得る。
【0072】
変形例では、上述した第1の実施形態と異なり、プランジャポンプ31がピストン15の下部の外周部に設けられている。プランジャポンプ31は、プランジャ202の摺動方向が上下方向と交差する方向となる姿勢で、ピストン15に設けられている。プランジャポンプ31のローラ204は、ピストンスカート15bの外周面と面一に、かつ、シリンダ12内に位置している。
【0073】
作動機構23は、プランジャポンプ31のプランジャ202を押圧する押圧部としてのアーム23aを有する。アーム23aの上端は、シリンダ12の外側において、ピン23bを介してシリンダ12と接続される。アーム23aは、シリンダ12に対してピン23bの中心軸まわりに回動可能である。シリンダ12には、シリンダ12の内部と外部とを連通する切り欠き部12aが形成されている。アーム23aの下部におけるシリンダ12の内部側には、カム部23cが形成されている。カム部23cは、プランジャポンプ31の非作動時に、シリンダ12の切り欠き部12a内に位置している。アーム23aは、ピン23dを介して油圧シリンダ23eと接続されている。アーム23aおよび油圧シリンダ23eは、ピン23dを介して相対的に回動可能である。油圧シリンダ23eを駆動させることにより、アーム23aをピン23bの中心軸まわりに回動させることができる。それにより、カム部23cをシリンダ12の径方向に移動させることができる。
【0074】
プランジャポンプ31の非作動時には、
図13に示されるように、ピストン15が下死点まで下降した際に、カム部23cがシリンダ12の切り欠き部12a内に位置するように、アーム23aの姿勢が制御される。ゆえに、ピストン15が下死点まで下降した際に、カム部23cがプランジャポンプ31のローラ204と接触しないので、プランジャポンプ31のプランジャ202は、アーム23aにより押圧されない。よって、プランジャポンプ31が作動されず、停止状態となる。
【0075】
プランジャポンプ31の作動時には、
図14に示されるように、ピストン15が下死点まで下降した際に、カム部23cがシリンダ12内に位置するように、アーム23aの姿勢が制御される。ゆえに、ピストン15が下死点まで下降した際に、カム部23cがプランジャポンプ31のローラ204と接触するので、プランジャポンプ31のプランジャ202は、アーム23aにより上下方向と交差する方向に押圧される。よって、プランジャポンプ31が作動され、作動状態となる。
【0076】
ここで、
図14に示されるように、プランジャポンプ31の作動時において、カム部23cは、下死点側に進むにつれて、ピストン15の中心軸に近づく。それにより、ピストン15が下降する際に、プランジャポンプ31のプランジャ202の押し込み量が緩やかに増加する。ゆえに、プランジャ202の押し込み量が急激に変化することが抑制される。よって、上ピストン油圧室106または下ピストン油圧室107の油圧が急激に変化することを抑制することができる。なお、プランジャポンプ31以外の給排油機構(例えば、スプール弁32または後述するプランジャポンプ33)の作動を上記と同様の機構により行うことによっても、上記と同様の効果を奏し得る。
【0077】
上記のように、ピストン15では、ピストンスカート15bの上死点側の外周部には、ピストン15の周方向に対して傾斜する溝部104が形成される。ピストン冠15aの下死点側の内周部には、溝部104と嵌合する突起部105が形成される。上ピストン油圧室106は、溝部104における突起部105よりも上死点側および突起部105によって画成される。下ピストン油圧室107は、溝部104における突起部105よりも下死点側および突起部105によって画成される。それにより、上ピストン油圧室106内の油圧および下ピストン油圧室107内の油圧を調整することによって、ピストン冠15aのピストンスカート15bに対する摺動方向の位置を調整することができる。ゆえに、エンジン1の圧縮比を変化させることができる。
【0078】
なお、ピストン15の周方向に対して傾斜する溝部は、ピストン冠15aの下死点側の内周部に形成されてもよい。その場合、溝部と篏合する突起部は、ピストンスカート15bの上死点側の外周部に形成される。また、その場合、溝部を横断して貫通する貫通部材は、溝部における突起部よりも下死点側を横断して貫通し得る。それにより、ピストン冠15aの溝部をピストンスカート15bの突起部に嵌め合わせた状態で、貫通部材を溝部に取り付けることにより、上ピストン油圧室および下ピストン油圧室が形成されるようにピストン冠15aをピストンスカート15bに組み付けることが適切に実現される。
【0079】
<第2の実施形態>
図15~
図17を参照して、本開示の第2の実施形態について説明する。
【0080】
図15は、本開示の第2の実施形態に係る低圧縮比の場合のピストン25を示す断面図である。
図16は、本開示の第2の実施形態に係る高圧縮比の場合のピストン25を示す断面図である。ピストン25は、上述したピストン15と同様に、エンジン1のシリンダ12内を摺動可能である。
【0081】
図15に示されるように、ピストン25では、上述したピストン15と比較して、上ピストン油圧室106および下ピストン油圧室107と接続される給排油機構が異なる。具体的には、下ピストン油圧室107と接続される給排油機構として、プランジャポンプ33Lが設けられる。上ピストン油圧室106と接続される給排油機構として、プランジャポンプ33Rが設けられる。プランジャポンプ33Lおよびプランジャポンプ33Rは互いに同様の構成要素を有する。なお、以下では、プランジャポンプ33Lおよびプランジャポンプ33Rを特に区別しない場合、プランジャポンプ33とも呼ぶ。プランジャポンプ33は、給油機能と排油機能とを併せ持つ。プランジャポンプ33が後述する
図17の第1作動状態になると、プランジャポンプ33による排油が行われる。プランジャポンプ33が後述する
図17の第2作動状態になると、プランジャポンプ33による給油が行われる。
【0082】
プランジャポンプ33Lおよびプランジャポンプ33Rは、ピストンスカート15bの下部に設けられる。なお、プランジャポンプ33の詳細については、後述する。
【0083】
潤滑油供給溝110と接続される供給油路111は、分岐してプランジャポンプ33Lおよびプランジャポンプ33Rとそれぞれ接続される。プランジャポンプ33Lおよびプランジャポンプ33Rには、潤滑油供給溝110から供給油路111を介して作動油が送られる。プランジャポンプ33Lは、油路113を介して、下ピストン油圧室107と接続される。プランジャポンプ33Lは、排出油路122と接続される。プランジャポンプ33Rは、油路114を介して、上ピストン油圧室106と接続される。プランジャポンプ33Rは、排出油路123と接続される。
【0084】
ピストン冠15aを上側に移動させる場合(つまり、圧縮比を増大させる場合)、プランジャポンプ33Lに給油を行わせ、プランジャポンプ33Rに排油を行わせる。それにより、プランジャポンプ33Lにより加圧された作動油は、プランジャポンプ33Lから油路113を介して下ピストン油圧室107に送られる。また、プランジャポンプ33Rには、上ピストン油圧室106から、油路114を介して作動油が送られる。上ピストン油圧室106からプランジャポンプ33Rに送られた作動油は、排出油路123を介して
図1中のクランクケース11内に排出される。それにより、ピストン冠15aが上側に移動する。このような下ピストン油圧室107の加圧および上ピストン油圧室106の減圧を繰り返し行うことにより、
図16に示されるように、
図15の上下位置に対してピストン冠15aを上側に移動させ、圧縮比を高くすることができる。
【0085】
ピストン冠15aを下側に移動させる場合(つまり、圧縮比を低下させる場合)、プランジャポンプ33Lに排油を行わせ、プランジャポンプ33Rに給油を行わせる。それにより、プランジャポンプ33Rにより加圧された作動油は、プランジャポンプ33Rから油路114を介して上ピストン油圧室106に送られる。また、プランジャポンプ33Lには、下ピストン油圧室107から、油路113を介して作動油が送られる。下ピストン油圧室107からプランジャポンプ33Lに送られた作動油は、排出油路122を介して
図1中のクランクケース11内に排出される。それにより、ピストン冠15aが下側に移動する。このような上ピストン油圧室106の加圧および下ピストン油圧室107の減圧を繰り返し行うことにより、
図15に示されるように、ピストン冠15aを下側に移動させ、圧縮比を低くする(つまり、
図15の圧縮比に戻す)ことができる。
【0086】
図17は、本開示の第2の実施形態に係るプランジャポンプ33Lの各状態を示す断面図である。
図17における上側が上死点側であり、
図17における下側が下死点側である。
図17では、左から順に、プランジャポンプ33Lの停止状態、プランジャポンプ33Lの第1作動状態、プランジャポンプ33Lの第2作動状態、プランジャポンプ33Lの作動状態から停止状態への遷移状態が示されている。第1作動状態では、プランジャポンプ33Lは排油機構として機能する。第2操作状態では、プランジャポンプ33Lは給油機構として機能する。
【0087】
なお、
図17では、2つのプランジャポンプ33のうちプランジャポンプ33Lの構成および各状態が例示されている。ただし、プランジャポンプ33Rの構成はプランジャポンプ33Lの構成と同様であり、プランジャポンプ33Rの状態もプランジャポンプ33Lと同様に停止状態、第1作動状態、第2作動状態および遷移状態の間で切り替えられる。プランジャポンプ33Rの各状態は、
図17中の油路113および排出油路122をそれぞれ油路114および排出油路123に置き換えたものである。
【0088】
図17に示されるように、プランジャポンプ33Lは、ハウジング401と、ハウジング401内を摺動可能なプランジャ本体部402aを含むプランジャ402とを備える。プランジャ402の摺動方向は、ピストン25の摺動方向と一致する。
【0089】
ハウジング401は、第1筒状部401aと、第2筒状部401bとを含む。第1筒状部401aの下部に、プランジャ本体部402aが嵌合される。例えば、第1筒状部401aは円筒形であり、プランジャ本体部402aは円柱形である。第2筒状部401bは、第1筒状部401aの上部と接続される。例えば、第2筒状部401bは、上側に底部を有し、下側に開口を有する円筒形である。
【0090】
第1筒状部401aの内部には、圧縮バネ403が設けられている。圧縮バネ403は、当該圧縮バネ403の圧縮方向が上下方向となる姿勢で、プランジャ本体部402aの上部と当接する。プランジャ本体部402aは、圧縮バネ403の復元力によって、下方向に付勢される。プランジャ本体部402aの下部は、第1筒状部401aより下方に延びる。プランジャ本体部402aの下部には、ローラ404がピン405を介して設けられている。ピン405は、上下方向に直交する方向に延びている。ローラ404は、ピン405の中心軸まわりに回転可能である。プランジャ本体部402aの上部には、上方向に延びるプランジャ突起部402bが形成される。
【0091】
ハウジング401内には、第1ポンプ油圧室406および第2ポンプ油圧室407が形成される。第1ポンプ油圧室406および第2ポンプ油圧室407は、プランジャ402側からプランジャ402の摺動方向(つまり、上下方向)に沿って順に並ぶ。具体的には、第1ポンプ油圧室406は第1筒状部401aの内部に形成され、第2ポンプ油圧室407は第2筒状部401bの内部に形成される。
【0092】
第1ポンプ油圧室406と第2ポンプ油圧室407とを連通する連通孔408が、第1筒状部401aの上部に形成される。第2ポンプ油圧室407には、第2ポンプ油圧室407から第1ポンプ油圧室406への作動油の流れを制限する第1ポンプ逆止弁409が設けられる。第1ポンプ逆止弁409は、第1ポンプ弁体409aと、圧縮バネ409bとを含む。圧縮バネ409bは、当該圧縮バネ409bの圧縮方向が上下方向となる姿勢で、第1ポンプ弁体409aと当接する。第1ポンプ弁体409aは、第2ポンプ油圧室407から第1ポンプ油圧室406に向かう方向に圧縮バネ409bによって付勢され、連通孔408を第2ポンプ油圧室407側から塞ぐ。連通孔408は、プランジャ402のプランジャ突起部402bと対向している。プランジャ突起部402bは、連通孔408に挿通可能である。
【0093】
第2筒状部401bには、
図15中の油路113と接続される(つまり、下ピストン油圧室107と接続される)第1ポート410が形成される。第1筒状部401aにおける第1ポンプ油圧室406を画成する部分には、
図15中の供給油路111と接続される第2ポート411が形成される。第1筒状部401aにおけるプランジャ本体部402aの側面と対向する部分には、
図15中の排出油路122と接続される第3ポート412が形成される。
【0094】
第2ポート411と供給油路111との間には、筒状部413が介在している。例えば、筒状部413は円筒形である。筒状部413の内部は、第2ポート411および供給油路111とそれぞれ連通している。筒状部413内には、第1ポンプ油圧室406から供給油路111に向かう作動油の流れを制限する第2ポンプ逆止弁414が設けられる。第2ポンプ逆止弁414は、第2ポンプ弁体414aと、圧縮バネ414bとを含む。圧縮バネ414bは、当該圧縮バネ414bの圧縮方向が筒状部413の軸方向となる姿勢で、第2ポンプ弁体414aと当接する。第2ポンプ弁体414aは、筒状部413内側から供給油路111に向かう方向に圧縮バネ414bによって付勢され、筒状部413の供給油路111側の開口を筒状部413内側から塞ぐ。
【0095】
プランジャ本体部402aには、貫通路402cが、プランジャ本体部402aの上部からプランジャ本体部402aの側面に亘って貫通して形成される。プランジャ本体部402aの側面における貫通路402cの開口402dの周方向位置(具体的には、プランジャ402の周方向の位置)は、第3ポート412の周方向位置と対応する(具体的には、略一致する)。
【0096】
プランジャポンプ33Lは、プランジャ402が上方向に押圧されることによって作動する。つまり、プランジャ402は、押圧されることによってプランジャポンプ33Lを作動させる被押圧部に相当する。プランジャ402が上方向に押圧されていない場合、プランジャポンプ33Lは、
図17に示される停止状態となる。停止状態では、第1ポンプ逆止弁409および第2ポンプ逆止弁414が閉状態となる。
【0097】
プランジャ402が上方向に押圧され、プランジャ402が停止状態から距離h1だけ上昇すると、プランジャポンプ33Lは、
図17に示される第1作動状態となる。第1作動状態では、プランジャ本体部402aと一体にプランジャ突起部402bが上方向に移動することにより、第1ポンプ弁体409aがプランジャ突起部402bによって押し上げられる。それにより、第1ポンプ逆止弁409が開状態となる。第1作動状態では、貫通路402cの開口402dと第3ポート412との間で上下位置が略一致する。ゆえに、貫通路402cの開口402dと、第3ポート412とが連通される。よって、油路113と排出油路122とが、第2ポンプ油圧室407、第1ポンプ油圧室406および貫通路402cを介して、連通される。ゆえに、作動油が、油路113から排出油路122へ、第2ポンプ油圧室407、第1ポンプ油圧室406および貫通路402cを介して送られ、排出油路122を通って排出される。それにより、
図15中の下ピストン油圧室107が減圧される。
【0098】
プランジャ402が上方向に押圧され、プランジャ402が停止状態から距離h1よりも長い距離h2だけ上昇すると、プランジャポンプ33Lは、
図17に示される第2作動状態となる。第2作動状態では、プランジャ本体部402aと一体にプランジャ突起部402bが上方向に移動することにより、第1ポンプ弁体409aがプランジャ突起部402bによって押し上げられる。それにより、第1ポンプ逆止弁409が開状態となる。第2作動状態では、第1作動状態と異なり、貫通路402cの開口402dの上下位置は、第3ポート412の上下位置よりも高くなる。ゆえに、貫通路402cの開口402dと、第3ポート412とは連通しない。よって、第1ポンプ油圧室406で加圧された作動油が、第2ポンプ油圧室407および第1ポート410を介して油路113に送られる。それにより、
図15中の下ピストン油圧室107が加圧される。
【0099】
第1作動状態または第2作動状態の後、プランジャ402の押圧が解除されると、プランジャポンプ33Lは、
図17に示される遷移状態となる。遷移状態では、圧縮バネ403の復元力によって、プランジャ402が下方向に移動することにより、第1ポンプ油圧室406が減圧される。それにより、第1ポンプ逆止弁409が閉状態となり、第2ポンプ逆止弁414が開状態となる。ゆえに、供給油路111から第1ポンプ油圧室406に、第2ポート411を介して作動油が送られる。プランジャポンプ33Lは、作動状態(具体的には、第1作動状態または第2作動状態)から遷移状態を経て停止状態に戻る。
【0100】
なお、プランジャポンプ33を作動させる作動機構としては、上述した
図11、
図12中の作動機構22または
図13、
図14中の作動機構23が用いられ得る。ここで、作動機構によるプランジャ402の押し込み量(つまり、停止状態からのプランジャ402の移動距離)を変えることによって、プランジャポンプ33の作動状態を、第1作動状態と第2作動状態との間で切り替えることができる。プランジャ402の押し込み量は、例えば、プランジャポンプ33の作動時における作動機構22のアーム22aの先端または作動機構23のカム部23cの位置を調整することによって、調整され得る。
【0101】
上記のように、ピストン25では、上ピストン油圧室106または下ピストン油圧室107と接続される給排油機構は、プランジャポンプ33である。プランジャポンプ33は、連通孔408に挿通可能なプランジャ突起部402bと、ハウジング401におけるプランジャ本体部402aの側面と対向する部分に形成される第3ポート412と、プランジャ本体部402aの第1ポンプ油圧室406側からプランジャ本体部402aの側面に亘って貫通して形成される貫通路402cとを備える。ゆえに、プランジャポンプ33は、上述したように、給油機能と排油機能とを併せ持つ。それにより、ピストン25内の油圧供給先(つまり、上ピストン油圧室106または下ピストン油圧室107)への作動油の供給と排出とを1つのプランジャポンプ33により実現することができる。ゆえに、例えば各ピストン油圧室に対して給油機構および排油機構(例えば、リリーフ弁)のペアをそれぞれ設けた場合と比較して、ピストン25の部品点数が増大することが抑制される。よって、ピストン25の製造コストを低減することができる。
【0102】
ここで、
図17に示されるように、ピストン25では、プランジャ本体部402aの側面における貫通路402cの開口402dと、プランジャ突起部402bの先端との間の上下方向(つまり、プランジャ402の摺動方向)の長さL1は、第3ポート412と、連通孔408との間の上下方向の長さL2よりも長い。それにより、貫通路402cの開口402dと第3ポート412との間で上下位置が略一致する第1作動状態において、プランジャ突起部402bの先端の上下位置を連通孔408の上下位置よりも上にすることができる。ゆえに、第1作動状態において、連通孔408を塞ぐ第1ポンプ弁体409aまでプランジャ突起部402bの先端が届かない状況を抑制することができる。よって、第1作動状態において、第1ポンプ弁体409aをプランジャ突起部402bによって押し上げ、第1ポンプ逆止弁409を開状態にすることが適切に実現される。それにより、第1作動状態において、油路113と排出油路122を連通させることが適切に実現される。また、プランジャ402が第1作動状態に対してさらに上昇する第2作動状態においても、第1ポンプ弁体409aをプランジャ突起部402bによって押し上げ、第1ポンプ逆止弁409を開状態にすることが適切に実現される。
【0103】
また、
図17に示されるように、プランジャ本体部402aの側面における貫通路402cの開口402dと、プランジャ本体部402aの側面における上端部(つまり、第1ポンプ油圧室406側の端部)との間の上下方向(つまり、プランジャ402の摺動方向)の長さL3は、第3ポート412と第2ポート411との間の上下方向の長さL4よりも短い。それにより、貫通路402cの開口402dと第3ポート412との間で上下位置が略一致する第1作動状態において、プランジャ本体部402aの側面における上端部の上下位置を第2ポート411の上下位置よりも下にすることができる。ゆえに、第1作動状態において、第2ポート411がプランジャ本体部402aの側面により塞がれる状況を抑制することができる。
【0104】
ここで、第1作動状態から停止状態への遷移状態において、第2ポンプ逆止弁414が閉状態となったままプランジャ402が下方向に移動すると、第1ポンプ油圧室406が過剰に低圧となってしまい、プランジャ402を下方向に移動させる力として圧縮バネ403の復元力が不足する場合がある。ゆえに、第1作動状態において、第2ポート411がプランジャ本体部402aの側面により塞がれないようにすることによって、遷移状態において、第1ポンプ油圧室406が過剰に低圧となることを抑制し、プランジャ402を下方向に適切に移動させることができる。また、プランジャ402が第1作動状態に対してさらに上昇する第2作動状態においても、第2ポート411がプランジャ本体部402aの側面により塞がれる状況を抑制することができるので、第2作動状態から停止状態への遷移状態において、プランジャ402を下方向に適切に移動させることができる。
【0105】
<第3の実施形態>
図18~
図21を参照して、本開示の第3の実施形態について説明する。
【0106】
図18は、本開示の第3の実施形態に係る低圧縮比の場合のピストン35を示す断面図である。
図19は、本開示の第3の実施形態に係る高圧縮比の場合のピストン35を示す断面図である。ピストン35は、上述したピストン15と同様に、エンジン1のシリンダ12内を摺動可能である。
【0107】
図18に示されるように、ピストン35では、上述したピストン15と比較して、上ピストン油圧室106および下ピストン油圧室107と接続される給排油機構が異なる。具体的には、下ピストン油圧室107と接続される給排油機構として、給排油機構34Lが設けられる。上ピストン油圧室106と接続される給排油機構として、給排油機構34Rが設けられる。給排油機構34Lおよび給排油機構34Rは互いに同様の構成要素を有する。なお、以下では、給排油機構34Lおよび給排油機構34Rを特に区別しない場合、給排油機構34とも呼ぶ。給排油機構34Lは、ピストン35の下部に設けられる逆止弁部34Laと、ピストン35の外部における逆止弁部34Laの下方に設けられる給排油部34Lbとを備える。給排油機構34Rは、ピストン35の下部に(つまり、下死点側に)設けられる逆止弁部34Raと、ピストン35の外部における逆止弁部34Raの下方に(つまり、下死点側に)設けられる給排油部34Rbとを備える。
【0108】
各給排油機構34は、給油機能と排油機能とを併せ持つ。
図18および
図19では、給排油機構34Lが給油機構として作動し、給排油機構34Rが排油機構として作動する状態が例示されている。給排油機構34Lが後述する
図20のように作動すると、下ピストン油圧室107への給油が行われる。給排油機構34Rが後述する
図21のように作動すると、上ピストン油圧室106からの排油が行われる。なお、給排油機構34Lおよび給排油機構34Rの詳細については、後述する。
【0109】
給排油部34Lbおよび給排油部34Rbは、ピストン35の下方に位置する支持台41に設けられる。支持台41における逆止弁部34Laの下方には、上方向に延びるシリンダ部42が設けられている。給排油部34Lbは、シリンダ部42と嵌合する。シリンダ部42の側部には、シリンダ部42の内部と外部とを連通するポート42aが設けられている。支持台41における逆止弁部34Raの下方には、上方向に延びるシリンダ部43が設けられている。給排油部34Rbは、シリンダ部43と嵌合する。シリンダ部43の側部には、シリンダ部43の内部と外部とを連通するポート43aが設けられている。
【0110】
支持台41には、シリンダ部42の内部空間およびシリンダ部43の内部空間と切替弁44とを連通する油路41aが形成されている。油路41aは、シリンダ部42の底部で当該シリンダ部42の内部空間と接続され、シリンダ部43の底部で当該シリンダ部43の内部空間と接続される。
【0111】
切替弁44は、油圧ポンプ45と接続されている。切替弁44の動作を制御することによって、油圧ポンプ45からシリンダ部42の内部空間(具体的には、シリンダ部42の底部と給排油部34Lbの底部との間の空間)およびシリンダ部43の内部空間(具体的には、シリンダ部43の底部と給排油部34Rbの底部との間の空間)へ油路41aを介して作動油が供給される状態と、シリンダ部42の内部空間およびシリンダ部43の内部空間から油路41aを介して作動油が排出される状態とを切り替えることができる。
【0112】
シリンダ部42の内部空間およびシリンダ部43の内部空間へ作動油が供給されると、給排油部34Lbおよび給排油部34Rbが上昇する。シリンダ部42の内部空間およびシリンダ部43の内部空間から作動油が排出されると、給排油部34Lbおよび給排油部34Rbが下降する。給排油部34Lbおよび給排油部34Rbの上下位置を調整することによって、給排油機構34Lおよび給排油機構34Rを、作動可能である状態と非作動である状態との間で切り替えることができる。
【0113】
具体的には、給排油部34Lbおよび給排油部34Rbの内部空間がそれぞれシリンダ部42のポート42aおよびシリンダ部43のポート43aと連通する場合、給排油機構34Lおよび給排油機構34Rが作動可能となる。給排油部34Lbおよび給排油部34Rbの内部空間がそれぞれシリンダ部42のポート42aおよびシリンダ部43のポート43aと連通しない場合、給排油機構34Lおよび給排油機構34Rが非作動となる。
図18および
図19では、給排油機構34Lおよび給排油機構34Rが作動可能である状態が示されている。
【0114】
シリンダ部42のポート42aおよびシリンダ部43のポート43aは、切替弁46を介して油圧ポンプ45と接続されている。切替弁46の動作を制御することによって、ポート42aが油圧ポンプ45と接続されポート43aが排出口と接続される状態と、ポート43aが油圧ポンプ45と接続されポート42aが排出口と接続される状態とを切り替えることができる。
図18および
図19では、ポート42aが油圧ポンプ45と接続されポート43aが排出口と接続される状態が示されている。この状態では、給排油機構34Lが給油機構として作動し、給排油機構34Rが排油機構として作動する。
【0115】
図18に示される状態では、油圧ポンプ45から給排油部34Lbへ、供給油路としてのポート42aを介して作動油が供給される。給排油機構34Lの作動時には、後述するように、給排油部34Lbの内部空間と逆止弁部34Laの内部空間とが連通する。逆止弁部34Laは、油路113を介して、下ピストン油圧室107と接続される。下ピストン油圧室107には、加圧された作動油が、給排油機構34Lから油路113を介して送られる。加圧された作動油が給排油機構34Lから下ピストン油圧室107に送られることによって、下ピストン油圧室107が加圧される。
【0116】
給排油機構34Rの作動時には、後述するように、給排油部34Rbの内部空間と逆止弁部34Raの内部空間とが連通する。逆止弁部34Raは、油路114を介して、上ピストン油圧室106と接続される。給排油部34Rbには、上ピストン油圧室106から、油路114を介して作動油が送られる。給排油部34Rbの内部空間はシリンダ部43のポート43aと接続されている。ゆえに、給排油部34Rbに送られた作動油は、排出油路としてのポート43aを介して排出される。それにより、上ピストン油圧室106が減圧される。
【0117】
このような下ピストン油圧室107の加圧および上ピストン油圧室106の減圧を繰り返し行うことにより、
図19に示されるように、
図18の上下位置に対してピストン冠15aを上側に移動させ、圧縮比を高くすることができる。
【0118】
図18および
図19に示される状態と異なり、ポート43aが油圧ポンプ45と接続されポート42aが排出口と接続される状態になるように切替弁46の動作を制御した場合、給排油機構34Lが排油機構として作動し、給排油機構34Rが給油機構として作動する。つまり、この場合には、給排油機構34Lにより下ピストン油圧室107からの排油が行われ、給排油機構34Rにより上ピストン油圧室106への給油が行われる。上ピストン油圧室106の加圧および下ピストン油圧室107の減圧を繰り返し行うことにより、
図18に示されるように、ピストン冠15aを下側に移動させ、圧縮比を低くする(つまり、
図18の圧縮比に戻す)ことができる。
【0119】
図20は、本開示の第3の実施形態に係る給排油機構34Lが給油機構として作動する様子を示す断面図である。
図20における上側が上死点側であり、
図20における下側が下死点側である。
【0120】
図20に示されるように、逆止弁部34Laは、ピストン35の下部に(つまり、下死点側に)形成されるピストンポート501aを含むポート部材501と、ピストンポート501aを塞ぐピストン弁体502aを含むピストン逆止弁502とを有する。
【0121】
ポート部材501は、ピストン35の下部に設けられる。例えば、ポート部材501は、上端に開口を有し、下端に底部を有する円筒形である。ポート部材501の下部は、ピストン35の下端より下方に延びる。ポート部材501の上側の開口は、カバー503により覆われる。ポート部材501の底部に、ポート部材501の内部と外部とを連通するピストンポート501aが形成される。ピストンポート501aは上下方向に延びている。ポート部材501の下端には、給排油部34Lbとの接触面501bが形成されている。例えば、接触面501bは、球面状である。
【0122】
ポート部材501およびカバー503によって、ポート部油圧室504が画成される。ポート部材501の側部には、ポート部油圧室504と
図18中の油路113とを連通するポート501cが形成される。ゆえに、ピストンポート501aは、ポート部油圧室504、ポート501cおよび油路113を介して、下ピストン油圧室107と連通する。
【0123】
ピストン逆止弁502は、ポート部油圧室504内に設けられる。ピストン逆止弁502は、ピストン35内からピストン35外へのピストンポート501aを介した作動油の流れを制限する。ピストン逆止弁502は、ピストン弁体502aと、圧縮バネ502bとを含む。圧縮バネ502bは、当該圧縮バネ502bの圧縮方向が上下方向となる姿勢で、ピストン弁体502aと当接する。ピストン弁体502aは、ピストン35内側から(具体的には、ポート部油圧室504から)ピストンポート501aに向かう方向に圧縮バネ502bによって付勢され、ピストンポート501aをピストン35内側から塞ぐ。ピストン弁体502aのリフト量は、カバー503の下部から下方に延びる突起部503aによって制限される。
【0124】
給排油部34Lbは、ハウジング511と、ハウジング511内を移動可能であり上下方向に延びる延在部材512とを有する。ハウジング511は、底部511aと、外側筒状部511bと、内側筒状部511cとを含む。例えば、外側筒状部511bおよび内側筒状部511cは円筒形である。外側筒状部511bは、上下方向に延びる。外側筒状部511bの下側の開口は底部511aにより塞がれる。内側筒状部511cは、外側筒状部511bの内周部に嵌合する。内側筒状部511cは、外側筒状部511b内を上下方向(つまり、ピストン35の摺動方向)に摺動する。
【0125】
外側筒状部511bの内部には、圧縮バネ513が設けられている。圧縮バネ513は、当該圧縮バネ513の圧縮方向が上下方向となる姿勢で、内側筒状部511cの下部と当接する。内側筒状部511cは、圧縮バネ513の復元力によって、上方向に付勢される。内側筒状部511cの上端部は、外側筒状部511bの上端部よりも上側に位置する。内側筒状部511cは、外側筒状部511bの上端部により係止され、外側筒状部511bに対して上方向に抜け出ないようになっている。
【0126】
ハウジング511内には、
図18中の供給油路としてのポート42aと連通する給排油部油圧室514が形成される。具体的には、給排油部油圧室514は、内側筒状部511cの下部、外側筒状部511bの内周部および底部511aの上部により画成される。底部511aには、給排油部油圧室514とポート42aとを接続する油路515が形成される。底部511aの上部には、上方向に延びる筒部516が形成されている。油路515は、筒部516内を通って給排油部油圧室514と接続される。
【0127】
給排油部油圧室514の上部(つまり、上死点側)には、油圧室開口517が形成される。具体的には、内側筒状部511cの下部には、弁座518が設けられる。油圧室開口517は、弁座518によって画成される。つまり、油圧室開口517は、内側筒状部511cの下部に形成される。
【0128】
内側筒状部511cの内部には、圧縮バネ519が設けられている。圧縮バネ519は、当該圧縮バネ519の圧縮方向が上下方向となる姿勢で、延在部材512の拡径部512aの下部と当接する。延在部材512は、圧縮バネ519の復元力によって、上方向に付勢される。延在部材512は、内側筒状部511cの上側の開口を通過してハウジング511の外部まで延びる。延在部材512は、内側筒状部511cの上端部により係止され、内側筒状部511cに対して上方向に抜け出ないようになっている。内側筒状部511cの上端部には、シーリング部材520が設けられている。
【0129】
延在部材512の下端には、給排油部弁体512bが設けられる。給排油部弁体512bは、弁座518より下方に位置しており、油圧室開口517を給排油部油圧室514側から塞ぐ。給排油部弁体512bは、圧縮バネ519の復元力によって、上方向に付勢される。ゆえに、給排油部弁体512bは、給排油部油圧室514内から給排油部油圧室514外への油圧室開口517を介した作動油の流れを制限する。
【0130】
給排油機構34Lは、給排油部34Lbが逆止弁部34Laにより下方向に押圧されることによって作動する。
図20に示される例では、時刻T11において、ピストン35が下降しているものの、逆止弁部34Laは給排油部34Lbと接触していない。この時、ピストン逆止弁502は閉状態であるので、ポート部油圧室504の油圧は保持されている。また、油圧室開口517は、給排油部弁体512bにより閉じられている。
【0131】
時刻T11の後の時刻T12において、逆止弁部34Laが給排油部34Lbと接触する。この時、ポート部材501の接触面501bが内側筒状部511cのシーリング部材520と接触するとともに、延在部材512の上端とピストン逆止弁502のピストン弁体502aとが、接触して互いに押し合う。それにより、ピストン逆止弁502がピストンポート501aに対して相対的に上昇するので、ピストン逆止弁502が開状態となる。さらに、延在部材512が油圧室開口517に対して相対的に下降するので、油圧室開口517が給排油部弁体512bにより開放される。ゆえに、油路113とポート42aとが連通する。
【0132】
このように油路113とポート42aとが連通した状態は、時刻T12の後、ピストン35が下死点まで到達する時刻T13を経て、逆止弁部34Laが給排油部34Lbから離れる(つまり、給排油部34Lbと接触しない状態となる)位置までピストン35が上昇する時刻T14までの間、維持される。ゆえに、時刻T12から時刻T14までの間、加圧された作動油が、給排油機構34Lから油路113に送られる。それにより、
図18中の下ピストン油圧室107が加圧される。
【0133】
図21は、本開示の第3の実施形態に係る給排油機構34Rが排油機構として作動する様子を示す断面図である。
図21における上側が上死点側であり、
図21における下側が下死点側である。
【0134】
上述したように、給排油機構34Rの構成は、給排油機構34Lの構成と同様である。ただし、給排油機構34Rでは、逆止弁部34Raのポート501cは、
図18中の油路114と連通する。ゆえに、ピストンポート501aは、ポート部油圧室504、ポート501cおよび油路114を介して、上ピストン油圧室106と連通する。また、給排油部34Rbのハウジング511内に形成される給排油部油圧室514は、
図18中の排出油路としてのポート43aと連通する。具体的には、ハウジング511の底部511aに形成される油路515は、給排油部油圧室514とポート43aとを接続する。
【0135】
給排油機構34Rは、給排油部34Rbが逆止弁部34Raにより下方向に押圧されることによって作動する。
図21に示される例では、時刻T21において、ピストン35が下降しているものの、逆止弁部34Raは給排油部34Rbと接触していない。この時、ピストン逆止弁502は閉状態であるので、ポート部油圧室504の油圧は保持されている。また、油圧室開口517は、給排油部弁体512bにより閉じられている。
【0136】
時刻T21の後の時刻T22において、逆止弁部34Raが給排油部34Rbと接触する。この時、ポート部材501の接触面501bが内側筒状部511cのシーリング部材520と接触するとともに、延在部材512の上端とピストン逆止弁502のピストン弁体502aとが、接触して互いに押し合う。それにより、ピストン逆止弁502がピストンポート501aに対して相対的に上昇するので、ピストン逆止弁502が開状態となる。さらに、延在部材512が油圧室開口517に対して相対的に下降するので、油圧室開口517が給排油部弁体512bにより開放される。ゆえに、油路114とポート43aとが連通する。
【0137】
このように油路114とポート43aとが連通した状態は、時刻T22の後、ピストン35が下死点まで到達する時刻T23を経て、逆止弁部34Raが給排油部34Rbから離れる(つまり、給排油部34Rbと接触しない状態となる)位置までピストン35が上昇する時刻T24までの間、維持される。ゆえに、時刻T22から時刻T24までの間、作動油が、油路114からポート43aへ給排油機構34Rを介して送られ、ポート43aを通って排出される。それにより、
図18中の上ピストン油圧室106が減圧される。
【0138】
上記のように、ピストン35では、上ピストン油圧室106または下ピストン油圧室107と接続される給排油機構は、給排油機構34である。給排油機構34は、上ピストン油圧室106または下ピストン油圧室107と連通するピストンポート501aと、ピストンポート501aを塞ぐピストン弁体502aを含むピストン逆止弁502とを有する逆止弁部(具体的には、逆止弁部34La,34Ra)を備える。また、給排油機構34は、ハウジング511と、ハウジング511内に形成される給排油部油圧室514と、給排油部油圧室514に形成される油圧室開口517と、油圧室開口517を給排油部油圧室514側から塞ぐ給排油部弁体512bを含み、ピストンポート501aに挿通可能な延在部材512とを有する給排油部(具体的には、給排油部34Lb,34Rb)を備える。ゆえに、摺動体としてのピストン35への外部の油供給源(具体的には、油圧ポンプ45)からの給油、および、ピストン35から外部への排油を、給排油機構34を介して行うことができる。よって、摺動体としてのピストン35の給排油(つまり、給油および排油)を適切に行うことができる。
【0139】
ここで、例えば、ピストン35の摺動に伴い伸縮する給排油機構(例えば、テレスコ管を含む機構)を利用することによって、ピストン35への外部の油供給源からの給油、および、ピストン35から外部への排油を行うことが考えられる。しかしながら、この場合、装置全体が大型化するおそれがある。ピストン35の給排油機構として給排油機構34を用いることによって、装置全体の大型化が抑制される。さらに、ピストン35の給排油機構として給排油機構34を用いることによって、給排油機構における部品間の摺動部分を低減することができる。
【0140】
また、給排油機構34では、ハウジングは、外側筒状部511bと、当該外側筒状部511b内をピストン15の摺動方向(具体的には、上下方向)に摺動する内側筒状部511cとを含む。内側筒状部511cは、下側から上側に向かう方向に付勢される。内側筒状部511cにおける上側の端部は、外側筒状部511bにおける上側の端部よりも上側に位置する。給排油部油圧室514は、内側筒状部511cにおける下側と、外側筒状部511bの内周部により画成される。油圧室開口517は、内側筒状部511cにおける上側に形成される。延在部材512は、内側筒状部511cにおける上側の開口を通過してハウジング511の外部まで延びる。それにより、延在部材512の上端とピストン弁体502aとが接触して互いに押し合うことによってピストン逆止弁502および油圧室開口517が開放された状態を、内側筒状部511cが外側筒状部511b内を摺動する間(例えば、
図20中の時刻T12から時刻T14までの間または
図21中の時刻T22から時刻T24までの間)継続させることができる。ゆえに、ピストン35への外部の油供給源からの給油、および、ピストン35から外部への排油をより適切に行うことができる。
【0141】
また、給排油機構34では、内側筒状部511cにおける上側には、シーリング部材520が設けられている。それにより、逆止弁部と給排油部との接触(例えば、逆止弁部34Laと給排油部34Lbとの接触または逆止弁部34Raと給排油部34Rbとの接触)において、逆止弁部または給排油部が損傷することを抑制することができる。
【0142】
なお、給排油機構34は、給排油部油圧室514と連通する油路を、供給油路と排出油路との間で切り替える切替弁(例えば、
図18中の切替弁46)を有することが好ましい。それにより、1つの給排油機構34で給油機能と排油機能とを賄うことができるので、部品点数を低減することができる。
【0143】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0144】
上記では、船舶用のトランクピストン型のエンジン1について説明した。しかしながら、本開示に係るエンジンは、船舶以外の他の用途で用いられるトランクピストン型のエンジン(例えば、車両用のトランクピストン型のエンジン等)であってもよい。
【0145】
上記では、各図面を参照して、各構成要素の形状および配置について説明したが、本開示に係るエンジンは、上記の例に特に限定されない。例えば、溝部104の内部空間の横断面形状および突起部105の横断面形状は、矩形以外の形状(例えば、円、楕円もしくは多角形またはこれらを組み合わせた形状)であってもよい。また、例えば、溝部104は、上から見て時計回りに進むにつれて上方に傾斜していてもよい。また、例えば、ピストン冠15aに形成される突起部105および下傾斜面117の数は、上記の例に特に限定されない。また、例えば、ピストンスカート15bに形成される溝部104、上傾斜面109および突出部119の数は、上記の例に特に限定されない。また、例えば、プランジャポンプ31、スプール弁32、プランジャポンプ33および給排油機構34の各部材は、複数の部材によって形成されてもよい。また、プランジャポンプ31、スプール弁32、プランジャポンプ33および給排油機構34において互いに接続する部材同士は、一体的に形成されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本開示は、エンジンに利用することができる。
【符号の説明】
【0147】
1:エンジン 12:シリンダ 15,25,35:ピストン 15a:ピストン冠 15b:ピストンスカート 16:ピストンピン 17:コンロッド 21:燃焼室 22,23:作動機構 31:プランジャポンプ 32:スプール弁 33,33L,33R:プランジャポンプ 34,34L,34R:給排油機構 34La,34Ra:逆止弁部 34Lb,34Rb:給排油部 101:触火面 102:リング溝 103:ピン孔 104:溝部 105:突起部 106:上ピストン油圧室 107:下ピストン油圧室 108:貫通部材 109:上傾斜面 110潤滑油供給溝 111:供給油路 117:下傾斜面 201:ハウジング 202:プランジャ 301:ハウジング 302:スプール 401:ハウジング 402:プランジャ 402a:プランジャ本体部 402b:プランジャ突起部 402c:貫通路 402d:開口 406:第1ポンプ油圧室 407:第2ポンプ油圧室 408:連通孔 409:第1ポンプ逆止弁 409a:第1ポンプ弁体 409b:圧縮バネ 410:第1ポート 411:第2ポート 412:第3ポート 413:筒状部 414:第2ポンプ逆止弁 414a:第2ポンプ弁体 414b:圧縮バネ 501:ポート部材 501a:ピストンポート 501b:接触面 501c:ポート 502:ピストン逆止弁 502a:ピストン弁体 502b:圧縮バネ 503:カバー 503a:突起部 504:ポート部油圧室 511:ハウジング 511a:底部 511b:外側筒状部 511c:内側筒状部 512:延在部材 512a:拡径部 512b:給排油部弁体 513:圧縮バネ 514:給排油部油圧室 515:油路 516:筒部 517:油圧室開口 518:弁座 519:圧縮バネ 520:シーリング部材