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特許7092743ヒドロキシル基を含むフッ化ビニリデンコポリマーのフッ素化界面活性剤を含まない水性分散液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】ヒドロキシル基を含むフッ化ビニリデンコポリマーのフッ素化界面活性剤を含まない水性分散液
(51)【国際特許分類】
   C08F 214/22 20060101AFI20220621BHJP
   C08F 220/06 20060101ALI20220621BHJP
   C08F 220/28 20060101ALI20220621BHJP
   C08L 27/16 20060101ALI20220621BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20220621BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20220621BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20220621BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20220621BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20220621BHJP
【FI】
C08F214/22
C08F220/06
C08F220/28
C08L27/16
C08K3/00
C08J7/04 Z CEW
H01M50/403 D
H01M50/426
H01M50/443 B
H01M50/443 E
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2019502007
(86)(22)【出願日】2017-07-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-05
(86)【国際出願番号】 EP2017067482
(87)【国際公開番号】W WO2018011244
(87)【国際公開日】2018-01-18
【審査請求日】2020-06-12
(31)【優先権主張番号】16179636.2
(32)【優先日】2016-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】カレッラ, セレーナ
(72)【発明者】
【氏名】モレーナ, エレナ
(72)【発明者】
【氏名】ビーソ, マウリツィオ
(72)【発明者】
【氏名】ブリナーティ, ジュリオ
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-527097(JP,A)
【文献】特表2016-502586(JP,A)
【文献】特表2016-501950(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 214/22
C08F 220/06
C08F 220/28
C08L 27/16
C08K 3/00- 13/08
C08J 7/00- 7/18
H01M 50/00- 50/77
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性分散液[分散液(D)]であって、フッ化ビニリデン(VDF)モノマーに由来する繰り返し単位および式:
(式中、R1、R2、R3のそれぞれは、互いに等しいかまたは異なり、独立して水素原子もしくはC~C炭化水素基であり、およびROHは、ヒドロキシル基もしくは少なくとも1個のヒドロキシル基と少なくとも1個の酸素原子とを含むC~C炭化水素部分である)の少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する繰り返し単位を含むフッ化ビニリデン(VDF)コポリマー[ポリマー(A)]の粒子を含み、前記ポリマー(A)は、
(i)ポリマー(A)の繰り返し単位の総数に比して、VDFに由来する85.0モル%超の繰り返し単位および前記親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する0.05~10モル%の繰り返し単位を含み;
(ii)ASTM D3835に従って100秒-1の剪断速度および230℃の温度で測定した場合に、少なくとも30キロポアズの溶融粘度を有し;および
(iii)少なくとも5mmol/kgおよび最大で20mmol/kgの量の式-CH-OHの末端基を有し;
ここで前記分散液は、分散液(D)の総重量に比して0から5ppmのフッ素化界面活性剤を含む、水性分散液[分散液(D)]。
【請求項2】
ポリマー(A)は、VDF、およびモノマー(MA)に由来する繰り返し単位からなる、請求項1に記載の分散液(D)。
【請求項3】
ポリマー(A)は、VDF、HFPおよびモノマー(MA)に由来する繰り返し単位からなる、請求項1に記載の分散液(D)。
【請求項4】
前記親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)は、式:
(式中、R1、R2のそれぞれは互いに等しいかまたは異なり、独立して水素原子もしくはC~C炭化水素基であり、R3は水素であり、およびR OHはヒドロキシル基もしくは少なくとも1個のヒドロキシル基と少なくとも1個の酸素原子とを含むC~C炭化水素部分である)に従う、請求項1~3のいずれか一項に記載の分散液(D)。
【請求項5】
R1、R2、R3のそれぞれは水素である、請求項4の記載の分散液(D)。
【請求項6】
前記モノマー(MA)は:
- 式:
のヒドロキシエチルアクリレート(HEA)
- 式:
のいずれかの2-ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)
- 式:
のアクリル酸(AA)
- およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項4又は5に記載の分散液(D)。
【請求項7】
ポリマー(A)は、前記親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)由来の少なくとも0.1モル%の繰り返し単位を含む、および/またはポリマー(A)は、前記親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)由来の最大で7.5モル%の繰り返し単位を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の分散液(D)。
【請求項8】
ポリマー(A)は、前記親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)由来の少なくとも0.2モル%の繰り返し単位を含む、請求項7に記載の分散液(D)。
【請求項9】
ポリマー(A)は、前記親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)由来の最大で5モル%の繰り返し単位を含む、請求項7又は8に記載の分散液(D)。
【請求項10】
ポリマー(A)は、前記親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)由来の最大で3モル%の繰り返し単位を含む、請求項9に記載の分散液(D)。
【請求項11】
ポリマー(A)は、ASTM D3835に従って100秒-1の剪断速度および230℃の温度で測定した場合に、100キロポアズ以下の溶融粘度(MV)を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の分散液(D)。
【請求項12】
ポリマー(A)は、ASTM D3835に従って100秒-1の剪断速度および230℃の温度で測定した場合に、80キロポアズ未満の溶融粘度(MV)を有する、請求項11に記載の分散液(D)。
【請求項13】
ポリマー(A)は、少なくとも5mmol/kgおよび最大で18mmol/kgの量の式-CH-OHの極性末端基を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の分散液(D)。
【請求項14】
ポリマー(A)は、少なくとも5mmol/kgおよび最大で15mmol/kgの量の式-CH-OHの極性末端基を含む、請求項13に記載の分散液(D)。
【請求項15】
ポリマー(A)は、少なくとも5mmol/kgおよび最大で12mmol/kgの量の式-CH-OHの極性末端基を含む、請求項14に記載の分散液(D)。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の分散液(D)を製造する方法であって、何らかのフッ素化界面活性剤を添加せずに、過硫酸塩無機開始剤の存在下、最高で80℃の温度で、少なくとも20バールの圧力下において、VDFおよび前記親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)の乳化重合を含む方法。
【請求項17】
請求項1~15のいずれか一項に記載の分散液(D)、粉末状電極材料、および任意選択的に導電性付与添加剤および/または粘度調整剤を含む水性電極形成組成物。
【請求項18】
請求項1~15のいずれか一項に記載の分散液(D)、少なくとも1つの非電気活性無機充填材、および任意選択的に、1つもしくは2つ以上の追加の添加剤を含む水性コーティング組成物[組成物(AC)]。
【請求項19】
前記非電気活性無機充填材は、天然および合成シリカ、ゼオライト、アルミナ、チタニア、金属炭酸塩、ジルコニア、リン酸ケイ素およびケイ酸塩からなる群から選択される、請求項18に記載の組成物(AC)。
【請求項20】
粘度調整剤、消泡剤および非フッ素化界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1つの追加の添加剤を含む、請求項18または19に記載の組成物(AC)。
【請求項21】
前記非フッ素化界面活性剤は、非イオン性乳化剤及びアニオン性界面活性剤からなる群から選択される、請求項20に記載の組成物(AC)。
【請求項22】
非イオン性乳化剤が、アルコキシル化アルコールである、請求項21に記載の組成物(AC)。
【請求項23】
アルコキシル化アルコールが、エトキシレートアルコール、プロポキシル化アルコール又は混合エトキシル化/プロポキシル化アルコールである、請求項22に記載の組成物(AC)。
【請求項24】
アニオン性界面活性剤が、脂肪酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩又はアリールアルキルスルホン酸塩である、請求項21に記載の組成物(AC)。
【請求項25】
アルキルスルホン酸塩が、ドデシル硫酸ナトリウムである、請求項24に記載の組成物(AC)。
【請求項26】
前記組成物(AC)は:
(i)5~25重量%の量にある、上で詳述した分散液(D);
(ii)70~95重量%の量にある、少なくとも1つの非電気活性無機充填材;
(iii)0~5重量%の量にある、1つまたは2つ以上の追加の添加剤
を混合すること;および
任意選択的に、30~80重量%の範囲内に固体含量を調整するために水を添加することによって得られる、請求項18~25のいずれか一項に記載の組成物(AC)。
【請求項27】
前記組成物(AC)は:
(i)5~25重量%の量にある、上で詳述した分散液(D);
(ii)70~95重量%の量にある、少なくとも1つの非電気活性無機充填材;
(iii)0~5重量%の量にある、1つまたは2つ以上の追加の添加剤
を混合すること;および
任意選択的に、40~60重量%の範囲内に固体含量を調整するために水を添加することによって得られる、請求項26に記載の組成物(AC)。
【請求項28】
電気化学電池に使用するために好適である複合セパレーターの製造方法であって、下記の:
(i)多孔質基材を提供する工程;
(ii)請求項18~27のいずれか一項に記載の組成物(AC)を提供する工程;
(iii)コーティング組成物層を提供するために前記組成物(AC)を前記多孔質基材の少なくとも1つの表面上に塗布する工程;および
(iv)前記複合セパレーターを提供するために、少なくとも60℃の温度で前記コーティング組成物層を乾燥させる工程
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年7月15日に出願された欧州特許出願公開第16179636.2号に対する優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、フッ化ビニリデンポリマー水性分散液、その調製方法および例えば電極および/または複合セパレーターなどの電気化学電池成分を製造するためのその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
フッ化ビニリデン(VDF)ポリマーは、電極および/または複合セパレーターを製造するためのバインダーとして、および/または例えば電池、好ましくは二次電池および電気二重層キャパシターなどの非水性型電気化学デバイスでの使用のための多孔性セパレーターのコーティングとして好適であることが当技術分野において知られている。
【0004】
この使用分野のために市場において入手可能な主要材料は、極性基の組込みによって修飾され得る、および一般にN-メチルピロリドンまたはN-メチルピロリドンと例えばアセトン、酢酸プロピル、メチルエチルケトンおよび酢酸エチルなどの希釈溶剤との混合物を含む溶剤系中での溶解によって処理されるVDFポリマー粉末である。典型的な材料は、例えば、電池内のバインダーとして使用された場合に、改良された熱安定性を有してさらに卓越した粘着力を提供する、フッ化ビニリデン(VDF)モノマーおよび少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー由来の繰り返し単位を含む直鎖状半結晶性コポリマーを提供する2010年1月27日出願の欧州特許第2147029(A)号明細書(SOLVAY SOLEXIS SPA)において開示されている。
【0005】
VDFポリマーの有機溶剤中への溶解に基づく技術が追求されてきたが、経済的および環境的両方の観点から駆動されて、水系分散液への関心が高まっている。電極形成もしくはセパレーター形成法において水系ポリマー組成物を効果的に使用するためには、例えば、粉末状電極材料もしくは充填剤と混合する前および後のとりわけ十分な安定性、好適なフィルム形成性ならびに標準技術によって必要とされる支持体(例えば、金属コレクター)上に有益に塗布するためおよび一様な層を生成するための加工処理特性を有する系を開発することが重要である。最も重要なことには、これらのバインダー系は、終結した粒子内の適正な接着力および乾燥後の支持体への同一物への適正な接着を提供しなければならない。
【0006】
さらに、VDFポリマー粉末の分野では、一般に、高分子量がこの使用分野にとって有益であると認識されてきた。注目すべきことに、1997年8月27日出願の欧州特許第0791973(A)号明細書(KUREHA)は、例えば電池や電極二重層キャパシターなどの非水性型電気化学デバイスにおいて使用するために好適な電極を提供するためのバインダー液であって、従来型レベルより高い固有粘度(および従って重合度)を有するフッ化ビニリデンポリマーを有機溶剤中に溶解させることによって形成されるバインダー液に関する。電極形成組成物は、粉末状電極材料をバインダー液中に分散させることによって形成され、導電性基材上に塗布され、その後に乾燥させられ、従来型レベルより少量のフッ化ビニリデンポリマー材料で粉末状電極材料を保持し、非水性電解質溶液に対して良好に耐性である複合電極層が形成される。
【0007】
従ってこの分野では、電極活物質および/または複合セパレーターの無機充填剤との粘着力を提供する顕著な能力、金属コレクター、セパレーター多孔性基材への接着を保証する能力、液体電極液に対する安定性/非溶解および電気化学反応を妨害する可能性がある化学物質(例えば、十分な電気化学安定性を有していないフルオロ界面活性剤)による汚染の防止を含む二次電池のための構成成分の分野において使用されるために必要な全ての特性を有すると同時に、さらに調製中および流延中の剪断安定性、容認可能な貯蔵寿命を含む、加工処理のための適正な特性を有するVDFポリマーの水性分散液に対する探索が継続されている。
【0008】
現在、VDF分散液を製造するための技術は、一般に、結果として生じた分散液から除去するのが概して困難であり、電気化学デバイス部品内の汚染物質として有害な作用を有する可能性があるフッ素化乳化剤の存在下での水性乳化重合法に基づいている。それらを含んでいない安定性のVDFポリマー分散液を自由に提供できるようにVDFの乳化重合におけるフルオロ界面活性剤を減少もしくは排除さえするための試みは知られているが、それらの技術は、末端基化学を通したポリマー鎖の自己安定化に基づくと理解されている。従って分子量の増加は、鎖末端の全濃度を減少させ、従って安定化現象の欠如をもたらすであろう。
【0009】
1999年3月9日出願の米国特許第5880204号明細書(ALLIED SIGNAL INC)は、第1の半結晶性ブロックおよび第2の非晶質ブロックを有するブロックコポリマーの粒子を含む室温で融合可能な水性フルオロポリマー分散液であって、第1および第2ブロックは一般にVDFもしくはCTFEコポリマーであり、第2ブロックは、とりわけ例えばアクリル酸などの酸であってよいいわゆる「キュアサイト・プロバイダー(cure-site provider)」を含むフルオロポリマー分散液について開示している。一般に、フルオロポリマーは、全体として、10,000~1,000,000(従って、低分子量~高分子量の範囲に及ぶ)のMwを有する。これらの分散液は、床磨き剤として有用であると教示されている。一般に、ラテックスは、界面活性剤の非存在下において、比較的に低い重合温度でレドックス開始系を使用して調製される。
【0010】
2013年1月24日出願の国際公開第2013/010936号パンフレット(SOLVAY SPECIALTY POLYMERS ITALY SPA)は:(A)フッ化ビニリデン(VDF)および好ましくはAAである少なくとも1つの(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する繰り返し単位を含む少なくとも1つのフッ化ビニリデン(VDF)ポリマー[ポリマー(F)]を含む水性ラテックス、(B)少なくとも1つの粉末状電極材料、および(C)任意選択的に、水性組成物の総重量に基づいて10重量%未満の少なくとも1つの有機溶剤(S)を含む水性組成物であって、水性ラテックス中のポリマー(F)は、ISO13321に従って測定して、1μm未満の平均一次粒径を有する一次粒子の形態下にある水性組成物に関する。この文献はさらに、前記水性組成物を使用する電極の製造方法、前記水性組成物で少なくとも1つの表面上にコートされた金属基材を含む電極および非水性型電気化学デバイスを製造するための前記電極の使用に関する。ラテックスは、マイクロエマルジョンもしくはフルオロ界面活性剤の存在下で、20~70バールおよび60~135℃、好ましくは90~130℃の温度での水性乳化重合によって調製される。
【0011】
2015年4月30日出願の国際公開第2015/059155号パンフレット(SOLVAY SA)は:(a)フッ化ビニリデン(VDF)、好ましくはAAである少なくとも1つの水素化モノマーおよび任意選択的にVDFとは異なる少なくとも1つの他のフッ素化モノマーに由来する繰り返し単位を含む少なくとも1つのフルオロポリマー[ポリマー(F)]を含む水性ラテックス、および、その中に均質に分散した、(b)硫黄からなる少なくとも1つの粉末状電極材料、(c)少なくとも1つの粉末状導電性材料を含む電極形成組成物であって、ここで水性ラテックス中のポリマー(F)は、ISO13321に従って測定して、1μm未満の平均一次粒径を有する一次粒子の形態下にある電極形成組成物に向けられる。この文献はさらに、前記組成物の製造方法およびリチウム硫黄電池用の正極の製造方法での前記組成物の使用に関する。ラテックスは、場合によりマイクロエマルジョンもしくはフルオロ界面活性剤の存在下で、20~70バールおよび60~135℃、好ましくは90~130℃の温度での水性乳化重合によって調製される。
【0012】
2008年10月30日出願の国際公開第2008/129041号パンフレット(SOLVAY SOLEXIS SPA)は、フッ化ビニリデン(VDF)モノマーおよびポリマー鎖内に統計学的に分布している少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー由来の繰り返し単位を含む直鎖状半結晶性コポリマーならびにアクリルモノマーの段階的付加と結び付けられた懸濁重合によるその製造方法に向けられる。
【0013】
2013年8月22日出願の国際公開第2013/120858号パンフレット(SOLVAY SPECIALTY POLYMERS ITALY SPA)は、電気化学電池のための複合セパレーターを製造するための方法であって、下記の工程:
(i)1つの基材層を提供する工程;
(ii)
- 少なくとも1つのVDFポリマーラテックスを含む水性ラテックス、および
- 少なくとも1つの非電気活性無機充填材を含むコーティング組成物を提供する工程:
(iii)コーティング組成物層を提供するために前記コーティング組成物を前記基材層の少なくとも1つの表面上に塗布する工程;および
(iv)前記コーティング組成物層を乾燥させる工程を含む方法に向けられる。
【0014】
2014年6月26日出願の国際公開第2014/095907号パンフレット(SOLVAY SPECIALTY POLYMERS ITALY SPA)は、緻密なフィルムの製造方法であって、カルボン酸基および少なくとも1つのPAOを含むVDFフルオロポリマーの固体組成物を提供する工程;および前記混合物を溶融相中で加工処理し、それにより電気化学デバイス内の緻密なセパレーターとして使用できる緻密なフィルムを提供する工程を含む方法に関する。
【0015】
当技術分野においては、Li電池用途における改良された性能を有するが、それでも適切な貯蔵寿命および加工処理性を提供する実質的なラテックス安定性を有する極性修飾VDFポリマーの水性分散液が持続的に不足している。
【発明の概要】
【0016】
本出願人は現在、上記に規定した課題の解決策が、フッ化ビニリデン(VDF)モノマーに由来する繰り返し単位および式:
(式中、R1、R2、R3のそれぞれは、互いに等しいかまたは異なり、独立して水素原子もしくはC~C炭化水素基であり、およびROHは、ヒドロキシル基もしくは少なくとも1個のヒドロキシル基を含むC~C炭化水素部分である)の少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する繰り返し単位を含むフッ化ビニリデン(VDF)コポリマー[ポリマー(A)]の粒子を含む水性分散液[分散液(D)]であって、前記ポリマー(A)は、
(i)ポリマー(A)の繰り返し単位の総数に比して、VDFに由来する85.0モル%超の繰り返し単位および前記親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する0.05~10モル%の繰り返し単位を含み;
(ii)ASTM D3835に従って100秒-1の剪断速度および230℃の温度で測定した場合に、少なくとも30キロポアズ(kPoise)の溶融粘度を有し;および
(iii)少なくとも5mmol/kgおよび最大で20mmol/kgの式-CH-OHの量の末端基を有し;
ここで前記分散液(D)はフッ素化界面活性剤を実質的に含んでいない前記分散液(D)によって提供されることを見出した。
【0017】
本発明は、前記分散液(D)の製造方法であって、何らかのフッ素化界面活性剤を添加せずに、過硫酸塩無機開始剤の存在下、最高で80℃の温度で、少なくとも20バールの圧力下において、VDFおよび前記親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)の乳化重合を含む方法にさらに関する。
【0018】
本出願人は、驚くべきことに、この製造方法が、電気化学電池成分の使用分野において抜群の挙動を提供できるように、結果として生じる修飾VDFポリマーの高分子量を達成しながら、フッ素化界面活性剤の非存在下で適正な貯蔵寿命および加工処理性を保証できるように凝固に対する十分な安定性を有する分散液を生成することを可能にすることを見出した。
【発明を実施するための形態】
【0019】
ポリマー(A)は、フッ化ビニリデン(VDF)および少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)由来の繰り返し単位を含む。
【0020】
ポリマー(A)は、上で詳述したように、VDFおよびモノマー(MA)とは異なる少なくとも1つの他のコモノマー(C)由来の繰り返し単位をさらに含み得る。
【0021】
コモノマー(C)は、水素化コモノマー[コモノマー(H)]もしくはフッ素化コモノマー[コモノマー(F)]のいずれかであり得る。
【0022】
用語「水素化コモノマー[コモノマー(H)]」は、本明細書ではフッ素原子を含まないエチレン性不飽和コモノマーを意味することが意図されている。
【0023】
好適な水素化コモノマー(H)の非限定的な例としては、とりわけ、エチレン、プロピレン、例えば酢酸ビニルなどのビニルモノマー、ならびにスチレンおよびp-メチルスチレンのようなスチレンモノマーが挙げられる。
【0024】
用語「フッ素化コモノマー[コモノマー(F)]」は、本明細書では少なくとも1個のフッ素原子を含むエチレン性不飽和コモノマーを意味することが意図されている。
【0025】
コモノマー(C)は、好ましくは、フッ素化コモノマー[コモノマー(F)]である。
【0026】
好適なフッ素化コモノマー(F)の非限定的な例としては、とりわけ、下記が挙げられる:
(a)C~Cフルオロ-および/またはパーフルオロオレフィン、例えばテトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ペンタフルオロプロピレンおよびヘキサフルオロイソブチレン;
(b)C~C水素化モノフルオロオレフィン、例えばフッ化ビニル、1,2-ジフルオロエチレンおよびトリフルオロエチレン;
(c)式CH=CH-Rf0(式中、Rf0は、C~Cパーフルオロアルキル基である)のパーフルオロアルキルエチレン;
(d)クロロ-および/またはブロモ-および/またはヨード-C~Cフルオロオレフィン、例えばクロロトリフルオロエチレン(CTFE);
(e)式CF=CFORf1(式中、Rf1は、C~Cフルオロ-もしくはパーフルオロアルキル基、例えば-CF、-C、-Cである)の(パー)フルオロアルキルビニルエーテル;
(f)式CF=CFOX(式中、Xは、1個以上のエーテル基を有するC~C12オキシアルキル基もしくはC~C12(パー)フルオロオキシアルキル基、例えばパーフルオロ-2-プロポキシ-プロピル基である)の(パー)フルオロ-オキシアルキルビニルエーテル;
(g)式CF=CFOCFORf2(式中、Rf2は、C~Cフルオロ-もしくはパーフルオロアルキル基、例えば-CF、-C、-Cもしくは1個以上のエーテル基を有するC~C(パー)フルオロオキシアルキル基、例えば-C-O-CFである)のフルオロアルキル-メトキシ-ビニルエーテル;
(h)式:
(式中、Rf3、Rf4、Rf5、Rf6のそれぞれは、互いに等しいかまたは異なり、独立して、フッ素原子、任意選択的に1個以上の酸素原子を含むC~Cフルオロ-もしくはパー(ハロ)フルオロアルキル基、例えば-CF、-C、-C、-OCF、-OCFCFOCFである)のフルオロジオキソール。
【0027】
最も好ましいフッ素化コモノマー(F)は、テトラフルオロエチレン(TFE)、トリフルオロエチレン(TrFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)およびフッ化ビニルであり、これらの中ではHFPが最も好ましい。
【0028】
少なくとも1つのコモノマー(C)(好ましくはHFP)が存在する場合は、ポリマー(A)は、典型的にはポリマー(A)の繰り返し単位の総モルに比して、前記コモノマー(C)に由来する0.05モル%~14.5モル%、好ましくは1.0モル%~13.0モル%の繰り返し単位を含む。
【0029】
しかし、ポリマー(A)内のフッ化ビニリデン由来の繰り返し単位の量は、例えば耐薬品性、耐候性および耐熱性などのフッ化ビニリデン樹脂の極めて優れた特性を損傷させることがないように、少なくとも85.0モル%、好ましくは少なくとも86.0モル%、より好ましくは少なくとも87.0モル%であることが必要である。例えば、ポリマー(A)が85.0モル%未満の量のVDF単位しか含まない場合は、対応するポリマーは電極液相として使用される液体溶剤中に溶解するであろうから、電池用の複合セパレーターを製造するためのコーティング組成物を調製するためにポリマー(A)を使用することはできない。
【0030】
用語「少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)」という用語は、ポリマー(A)が、上述したように1つもしくは2つ以上の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する繰り返し単位を含み得ることを意味するものと理解されている。本明細書の残りの部分においては、「親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)」および「モノマー(MA)」という表現は、本発明のためには、複数形および単数形の両方、すなわち1つもしくは2つ以上の両方の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)を指すものと理解されている。
【0031】
所定の実施形態によると、ポリマー(A)は、本質的にVDFおよびモノマー(MA)に由来する繰り返し単位からなる。
【0032】
他の実施形態によると、ポリマー(A)は、本質的にVDF、HFPおよびモノマー(MA)に由来する繰り返し単位からなる。
【0033】
ポリマー(A)は、さらにその物理化学的特性に影響を与えることも損傷させることもない、例えば欠陥、末端基などの他の成分をさらに含み得る。
【0034】
親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)は、好ましくは、式:
(式中、R1、R2、ROHは、それぞれ上で定義したものと同じ意味を有し、R3は水素であり;より好ましくは、R1、R2、R3のそれぞれは水素であるが、ROHは上で詳述した意味と同一の意味を有する)を含む。
【0035】
親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)の非限定的な例は、とりわけ、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;ヒドロキシエチルヘキシル(メタ)アクリレートである。
【0036】
モノマー(MA)は、より好ましくは、とりわけ:
- 式:
のヒドロキシエチルアクリレート(HEA)
- 式:
のいずれかの2-ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)
- 式:
のアクリル酸(AA)
- およびそれらの混合物から選択される。
【0037】
より好ましくは、モノマー(MA)は、AAおよび/またはHEA、いっそうより好ましくはAAである。
【0038】
ポリマー(A)中の(MA)モノマー繰り返し単位の量の決定は、任意の好適な方法によって実施することができる。とりわけ、酸-塩基滴定法(例えば、アクリル酸含有量を決定するために良好に適している)、NMR法(側鎖に脂肪族水素を有する(MA)モノマー(例えば、HPA、HEA)を定量するために適切である)、ポリマー(A)の製造中に供給された全(MA)モノマーおよび未反応の残留(MA)モノマーに基づく重量差を挙げることができる。
【0039】
ポリマー(A)は、前記親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)由来の好ましくは少なくとも0.1モル%、より好ましくは少なくとも0.2モル%の繰り返し単位を含む、および/またはポリマー(A)は、前記親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)由来の好ましくは最大で10モル%、より好ましくは最大で7.5モル%、いっそうより好ましくは最大で5モル%、最も好ましくは最大で3モル%の繰り返し単位を含む。
【0040】
一般に、ポリマー(A)の粒子は、1μm未満の平均一次粒径を有する。本発明のためには、用語「一次粒子」は、エマルジョン(すなわち、ラテックス)からのポリマーの単離を行わずに、水性乳化重合に直接的に由来するポリマー(A)の一次粒子を意味することが意図されている。従って、ポリマー(A)の一次粒子は、ポリマー(A)の水性ラテックスの濃縮および/または凝固、ならびにそれぞれの粉末を産生するためのその後の乾燥および均質化などのそのようなポリマー製造の回収および状態調節工程によって得ることができる凝集物(すなわち、一次粒子の収集物)とは区別できることが意図されている。
【0041】
従って本発明の分散液(D)は、粉末を分散させることによって調製できる水性スラリーから水性媒体中のポリマーを区別することができる。水性スラリー中に分散したポリマーもしくはコポリマーの粉末の平均粒径は、典型的には、ISO 13321に従って測定して1μmより大きい。
【0042】
好ましくは、ISO 13321に従って測定して、分散液(D)中のポリマー(A)の粒子の平均一次粒径は、20nm超、より好ましくは30nm超、いっそうより好ましくは50nm超である、および/または600nm未満、より好ましくは400nm未満およびいっそうより好ましくは350nm未満である。
【0043】
上述したように、ポリマー(A)は、ASTM D3835に従って100秒-1の剪断速度および230℃の温度で測定した場合に、少なくとも30キロポアズの溶融粘度(MV)を有する。ポリマー(A)のMVは特別には限定されないが、一般に、電気化学的用途における最適特性を保証するためには、100キロポアズ以下、好ましくは80キロポアズ未満が適正であろうと理解されている。
【0044】
さらに、ポリマー(A)は、PIANCA,Maurizio,et al.End Groups in fluoropolymers.Journal of Fluorine Chemistry.1999,vol.95,p.71-84に従ってH-NMRによって決定した場合に、少なくとも5mmol/kgの式-CH-OHの極性末端基の量を含むことが必要とされる。
【0045】
本出願人は、驚くべきことに、適切なコロイド安定性を保証するために分散液(D)中で必要とされるように、高分子量と極性末端基との間の精密な平衡が満たされるべきであることを見出した。
【0046】
好ましい実施形態では、ポリマー(A)は、少なくとも5mmol/kg、および/または有益には最大で18mmol/kg、好ましくは最大で15mmol/kg、いっそうより好ましくは最大で12mmol/kgの式-CH-OHの極性末端基の量を含む。
【0047】
ポリマー(A)が少なくとも5mmol/kgおよび最大で10mmol/kgの式-CH-OHの極性末端基の量を含んだ場合は、極めて優れた結果が得られている。
【0048】
典型的には、ポリマー(A)は、式-CH-OHの極性末端基に加えて、-CFHおよび-CFCHのいずれかの基を含む非極性末端基を含む。
【0049】
ポリマー(A)中の式-CH-OH、-CFHおよび-CFCHのいずれかの末端基の総量は、有益には70mmol/kg以下、好ましくは67mmol/kg以下、いっそうより好ましくは65mmol/kg以下である。上に示した範囲内の式-CH-OH、-CFHおよび-CFCH内の末端基の総量は、本明細書により企図される使用分野のために必要とされるように、直鎖状構造および高分子量を有するポリマー(A)の代表的な量である。
【0050】
上記のように、分散液(D)は、フッ素化界面活性剤を実質的に含んでいない。
【0051】
分散液(D)中のフッ素化界面活性剤の量と組み合わせた表現「実質的に含んでいない」は、何らかの有意な量の前記フッ素化界面活性剤の存在を排除すると解釈すべきであり、例えば、分散液(D)の総重量に比して、フッ素化界面活性剤が5ppm未満、好ましくは3ppm未満、より好ましくは1ppm未満の量で存在することを必要とする。
【0052】
上で詳述した水性乳化重合法は、典型的には少なくとも1つのラジカル開始剤の存在下で実施される。
【0053】
重合圧は典型的には、20~70バール、好ましくは25~65バールの範囲に及ぶ。
【0054】
過硫酸塩ラジカル開始剤の選択は特別には限定されないが、水性乳化重合法のために好適なラジカル開始剤は、重合法を開始および/または加速することができる化合物から選択され、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムおよび過硫酸アンモニウムが含まれるがそれらに限定されないと理解されている。
【0055】
上に定義した1つ以上のラジカル開始剤は、水性媒体の重量に基づいて、有益には0.001重量%~20重量%の範囲内の量で上に定義された水性媒体に添加されてよい。
【0056】
上述のように、本方法は、本明細書で下記の式(III):
f§(X(M (III)
(式中、
-Rf§は、任意選択的に、1個以上のカテナリーもしくは非カテナリー酸素原子を含む、C~C16(パー)フルオロアルキル鎖、および(パー)フルオロポリオキシアルキル鎖から選択され、
-Xは、-COO、-PO および-SO から選択され、
-Mは、NH およびアルカリ金属イオンから選択され、および
-kは、1もしくは2である)
を満たすフッ素化界面活性剤(FS)を添加せずに実施される。
【0057】
その存在が分散液(D)中で実質的に回避されるフッ素化界面活性剤(FS)の非限定的例は、下記である:
(a)CF(CFn0COOM’(式中、nは4~10、好ましくは5~7の範囲の整数であり、好ましくはnは6に等しく、M’はNH、Na、LiもしくはK、好ましくはNHを表す);
(b)T-(CO)n1(CFXO)m1CFCOOM’’(式中、TはCl原子または式C2x+1-x’Clx’Oのパーフルオロアルコキシド基(式中、xは1~3の範囲の整数であり、x’は0もしくは1である)を表し、nは1~6の範囲の整数であり、mは0~6の範囲の整数であり、M’’はNH、Na、LiもしくはKを表し、XはFもしくは-CFを表す);
(c)F-(CFCFn2-CH-CH-ROM’’’(式中、Rはリンもしくは硫黄原子であり、好ましくはRは硫黄原子であり、M’’’はNH、Na、LiもしくはKを表し、nは2~5の範囲の整数であり、好ましくはnは3に等しい);
(d)A-Rbf-B二官能性フッ素化界面活性剤(式中、AおよびBは、互いに等しいかまたは異なり、式-(O)CFX’’-COOM(式中、MはNH、Na、LiもしくはKを表し、好ましくはMはNHを表し、X’’はFもしくは-CFであり、pは0もしくは1に等しい整数である)を有し、Rbfは、A-Rbf-Bの数平均分子量が300~1800の範囲内にあるような二価の(パー)フルオロアルキルもしくは(パー)フルオロポリエーテル鎖である);および
(e)それらの混合物。
【0058】
水性電極形成組成物は、上で詳述したように、粉末状電極材料(電池もしくは電気二重層キャパシター用の活物質)、および任意選択的添加剤、例えば、導電性付与添加剤および/または粘度調整剤を分散液(D)中に添加して分散させる工程によって得ることができる。
【0059】
さらに本発明の目的は、従って、上で詳述したような分散液(D)、粉末状電極材料、および任意選択的に、導電性付与添加剤および/または粘素修飾剤を含む水性電極形成組成物である。
【0060】
粘度調整剤の中では、本発明の水性組成物からの粉末状電極材料の沈降を防ぐため、または遅くするために増粘剤が添加されてもよい。好適な増粘剤の非限定的な例としては、とりわけ、例えば部分中和されたポリ(アクリル酸)もしくはポリ(メタクリル酸)、カルボキシル化メチルセルロースのようなカルボキシル化アルキルセルロースなどの有機増粘剤、さらにモンモリロナイトおよびベントナイトのような天然粘土、ラポナイトのような人造粘土、ならびにシリカおよびタルクのようなその他などの無機増粘剤が挙げられる。
【0061】
リチウムイオン電池用正極を形成する場合、活物質は、一般式LiMY(式中、Mは、Co、Ni、Fe、Mn、Cr、およびVなどの少なくとも1つの遷移金属種を表し;およびYは、例えばOもしくはSなどのカルコゲンを表す)で表される金属カルコゲン化物複合体を含むことができる。これらの中でも、一般式LiMO(式中、Mは、上述と同じである)で表されるリチウム系複合金属酸化物を用いることが好ましい。それらの好ましい例としては:LiCoO、LiNiO、LiNiCo1-x(0<x<1)およびスピネル構造化LiMnを挙げることができる。
【0062】
リチウム電池用の負極を形成する場合、活物質は、好ましくは炭素質材料、例えば、黒鉛、活性炭または(フェノール樹脂、ピッチなどの炭化によって得られる)炭素質材料を含み得る。炭素質材料は、好ましくは約0.5~100μmの平均径を有する粒子の形態で用いられてよい。
【0063】
特に、限定的な導電性を示す例えばLiCoOなどの活物質を用いる場合、本発明の電極形成組成物の塗布および乾燥により形成された結果として生じる複合電極層の導電性を改善するために、導電性付与添加剤が添加されてもよい。その例としては、例えばカーボンブラック、グラファイト微粉末および繊維などの炭素質材料、ならびにニッケルおよびアルミニウムなどの金属の微粉末および繊維が挙げられる。
【0064】
電気二重層キャパシター用の活物質は、好ましくは0.05~100μmの平均粒子(または繊維)直径および100~3,000m/gの比表面積を有する、すなわち、電池用の活物質のものと比べて比較的小さい粒子(または繊維)直径および比較的大きい比表面積を有する粒子または繊維、例えば、活性炭、活性炭繊維、シリカもしくはアルミナ粒子を含み得る。
【0065】
正極用の好ましい電極形成組成物は、以下:
(a)総重量(a)+(b)+(c)に比して、1~10重量%、好ましくは2~9重量%、より好ましくは約3重量%の量にあるポリマー(A);
(b)総重量(a)+(b)+(c)に比して、2~10重量%、好ましくは4~6重量%、より好ましくは約5重量%の量にある導電性付与添加剤としてのカーボンブラック;
(c)80~97重量%、好ましくは85~94重量%、より好ましくは約92重量%の量にある、粉末状電極材料、好ましくは上で詳述した一般式LiMYによって表される複合金属カルコゲニド
を含む。
【0066】
コーティングセパレーターのために好適である水性コーティング組成物は、上で詳述したように、非電気活性無機充填材および任意選択的添加剤を分散液(D)中に添加して分散させることによって得ることができる。
【0067】
さらに本発明の目的は、従って、上で詳述したように、分散液(D)、少なくとも1つの非電気活性無機充填材、および任意選択的に、1つもしくは2つ以上の追加の添加剤を含む水性コーティング組成物[組成物(AC)]である。
【0068】
「非電気活性無機充填材」という用語は、本明細書においては、電気化学電池用電気絶縁セパレーターの製造に適する電気非伝導性の無機充填材を意味することが意図されている。
【0069】
本発明によるセパレーターにおける非電気活性無機充填材は、典型的には、ASTM D257に従って20℃で測定して、少なくとも0.1×10Ω(オーム)cm、好ましくは少なくとも0.1×1012Ωcmの電気抵抗率(p)を有する。適切な非電気活性無機充填材の非限定的な例としては、とりわけ、天然および合成シリカ、ゼオライト、アルミナ、チタニア、金属炭酸塩、ジルコニア、シリコンリン酸塩およびケイ酸塩などが挙げられる。典型的には、非電気活性無機充填材は、ISO 13321に従って測定して、0.01μm~50μmの平均サイズを有する粒子の形態下にある。
【0070】
組成物(AC)中の任意選択的添加剤には、とりわけ、上で詳述したように、粘度調整剤、消泡剤、非フッ素化界面活性剤などが含まれる。
【0071】
非フッ素化界面活性剤の中では、例えばとりわけアルコキシル化アルコール、例えばエトキシレートアルコール(ethoxylates alcohol)、プロポキシル化アルコール、混合エトキシル化/プロポキシル化アルコールなどの非イオン性乳化剤;とりわけ脂肪酸塩、アルキルスルホン酸塩(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム)、アルキルアリールスルホン酸塩、アリールアルキルスルホン酸塩などを含むアニオン性界面活性剤を挙げることができる。
【0072】
組成物(AC)は、分散液(D)から、例えば、(i)分散液(D)を上で詳述した任意選択的添加剤を用いて調製する工程、(ii)分散液(D)をとりわけ限外濾過、噴霧化などの標準技術を通して上昇させる工程、(iii)乳化重合から得られた分散液(D)をそのままで使用する工程、(iv)分散液(D)を水で、または上記の技術の組合わせを通して希釈する工程によって得ることができる。
【0073】
一般に、組成物(AC)は:
(i)5~25重量%の量にある、上で詳述した分散液(D);
(ii)70~95重量%の量にある、少なくとも1つの非電気活性無機充填材;
(iii)0~5重量%の量にある、1つまたは2つ以上の追加の添加剤
を混合すること;および
任意選択的に、30~80重量%、好ましくは40~60重量%の範囲内で固体含量を調整するために水を添加することによって得られる。
【0074】
組成物(AC)の固形分は、とりわけポリマー(A)および非電気活性無機充填材を含む、それの全ての非揮発性成分の累積であると理解されている。
【0075】
本発明のさらにまた別の目的は、電気化学電池内で使用するためにとりわけ好適である複合セパレーターの製造方法であって、下記の:
(i)多孔質基材を提供する工程;
(ii)上で詳述した分散液(D)、少なくとも1つの非電気活性無機充填材、および任意選択的に、少なくとも1つもしくは2つ以上の追加の添加剤、すなわち上で詳述した組成物(AC)を含む水性コーティング組成物を提供する工程;
(iii)コーティング組成物層を提供するために前記組成物(AC)を前記多孔質基材の少なくとも1つの表面上に塗布する工程;および
(iv)前記複合セパレーターを提供するために、少なくとも60℃の温度で前記コーティング組成物層を乾燥させる工程
を含む方法である。
【0076】
「セパレーター」という用語は、本明細書では電気化学電池の異極性の電極を電気的および物理的に隔ててそれらの間に流れるイオンに対して透過性である多孔質ポリマー材料を意味することが意図されている。
【0077】
「電気化学電池」という用語は、本明細書では正極、負極および液体電解質を含む電気化学電池であって、単層もしくは多層セパレーターが前記電極の一方の少なくとも1つの表面に付着している電気化学電池を意味することが意図されている。
【0078】
電気化学電池の非限定的な例としては、とりわけ、電池、好ましくは二次電池および電気二重層キャパシターが挙げられる。
【0079】
本発明のためには、「二次電池」は、再充電可能な電池を意味することが意図されている。二次電池の非限定的な例としては、とりわけ、アルカリもしくはアルカリ土類二次電池が挙げられる。
【0080】
本発明の方法から得られる複合セパレーターは、有益には電気化学電池において使用するために好適な電気絶縁複合セパレーターである。
【0081】
本発明の方法の工程(iii)では、組成物(AC)は、典型的には、流延、スプレーコーティング、ロールコーティング、ドクターブレーディング、スロットダイコーティング、グラビアコーティング、インクジェット印刷、スピンコーティングおよびスクリーン印刷、ブラシ、スキージー、フォームアプリケーター、カーテンコーティング、真空コーティングから選択される技術によって多孔質基材の少なくとも1つの表面上に塗布される。
【0082】
好適な多孔質基材の非限定的例としては、とりわけ、無機材料、有機材料および天然型材料から製造された、および特に不織繊維(綿、ポリアミド,ポリエステル、ガラス)、ポリマー(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリ(塩化ビニル))および所定の繊維性天然型物質(例えば、アスベスト)から製造された多孔質膜が挙げられる。
【0083】
有益な結果は、多孔質支持体がポリオレフィン多孔質支持体、例えば、ポリエチレンもしくはプロピレン多孔質支持体であった場合に得られている。
【0084】
本発明の方法の工程(iv)では、コーティング組成物層は、好ましくは60℃~200℃、好ましくは70℃~180℃の間に含まれる温度で乾燥させられる。
【0085】
参照により本明細書に組み込まれるいずれかの特許、特許出願および刊行物の開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合は、本記載が優先するものとする。
【0086】
以下では、本発明を単に例示する目的で提供されるが、本発明の範囲を限定する意図はない以下の実施例を参照して本発明についてより詳細に説明する。
【0087】
極性末端基の決定
末端基を決定するためには、PIANCA,Maurizio,et al.End Groups in fluoropolymers.Journal of Fluorine Chemistry.1999,vol.95,p.71-84に記載された技術に従ってH-NMR技術が使用されてきた。この目的で、約20mgのポリマーを0.7mLのヘキサジュウテロアセトン中に溶解させた。H-NMRスペクトルは、とりわけ、-CH-OH末端基に関連する14Hzと同等であるJカップリングF-Hを伴う3.78ppmにある三重項を解明した。
【0088】
総平均モノマー(MA)含有量の決定
フッ化ビニリデン(VDF)ポリマー中の総平均モノマー(MA)含有量は、酸-塩基滴定法によって決定した。
【0089】
1.0gのポリマー試料を温度が70℃のアセトン中に溶解させた。次に、ポリマーの凝固を回避するために水(5mL)を強力な撹拌下で滴下した。次に酸性度が完全に中和されるまで0.01Nの濃度を有する水性NaOHでの滴定を約-170mVでの中性転移(neutrality transition)により実施した。
【0090】
溶融粘度の決定
分子量の改善を証明するために、溶融粘度(ASTM D3835に従って)を測定した。本試験は、1mmのダイ直径を用いて230℃である形状(L/D=20)にあるキャピラリーレオメーターRheograph 2003において実施した。剪断速度η(エータ)の測定は、100秒-1で実施した。
【0091】
実施例1
水性VDF-HFP-AAポリマーラテックス - ポリマーAの製造
50rpmで作動するバッフルおよびスターラーを装備した容量21リットル(lt.)の水平反応器オートクレーブ内に、13.5リットルの脱イオン水を導入した。温度を80℃にさせ、それぞれ99:1のモル比にあるVDF/HFPガス状混合物モノマーを供給することによって、全試行を通して35バール超の圧力を一定に維持した。250mLの100g/Lの過硫酸アンモニウム(APS)水溶液を15分間かけて添加し(1L/時)、ランの全持続期間にわたり60mL/時の流動速度で持続的に添加した;さらに50mLのアクリル酸(AA)溶液(50g/Lのアクリル酸水溶液)をモノマー250gが消費される毎に供給した。
【0092】
4500gの混合物を供給したら、混合物の供給を中断し、次に、反応温度を一定に保持しながら、圧力を12バールまで低下させた。最終反応時間は223分間であった。
【0093】
反応器を室温に冷却し、ラテックスを回収した。
そのようにして得られたVDF-HFP-AAポリマーは、98.3モル%のVDF、約1.0モル%のHFPおよび0.7モル%のアクリル酸(AA)モノマーを含有していた。
【0094】
そのようにして得られた水性ラテックスは、24.8重量%の固形分を有していた。
VDF-HFP-AAポリマーは、ISO 13321に従って測定して、243nmの平均一次粒径を有する粒子の形態下で水性ラテックス中に分散させると、153.6℃の融点(ASTM D3418に従って測定)、67キロポアズのMV(230℃/100秒-1)および下記:-CFH:35mmol/kg;-CF-CH:19mmol/kg;-CHOH:8mmol/kgのような末端基の含量を有することが見いだされた。
【0095】
比較例1
水性VDF-AAポリマーラテックス - ポリマーA’の製造
50rpmで作動するバッフルおよびスターラーを装備した容量21リットル(lt.)の水平反応器オートクレーブ内に13.5リットルの脱イオン水を導入した。VDFガス状モノマーを供給することによって、温度を90℃にさせ、全試行を通して20バール超の圧力で一定に維持した。15mLの100g/Lの過硫酸アンモニウム(APS)水溶液を5分間かけて添加し(200mL/時)、同時に22mLのアクリル酸(AA)の溶液(40g/Lのアクリル酸水溶液)を225gのポリマーが合成される毎に供給した。
【0096】
30分後に、追加量のAPS溶液をランの全持続期間にわたり240mL/時の流動速度で添加した。4500gの混合物を供給したら、混合物の供給を中断し、次に、反応温度を一定に保持しながら、圧力を12バールまで低下させた。最終反応時間は164分間であった。
【0097】
反応器を室温に冷却し、ラテックスを回収した。そのようにして得られたVDF-AAポリマーは、99.55モル%のVDF、0.45モル%のアクリル酸(AA)モノマーを含有していた。
【0098】
そのようにして得られた水性ラテックスは、24.2重量%の固形分を有していた。
VDF-AAポリマーは、ISO 13321に従って測定して、189nmの平均一次粒径を有する粒子の形態下で水性ラテックス中に分散させると、160℃の融点(ASTM D3418に従って測定)、23キロポアズのMV(230℃/100秒-1)を有することが見いだされた。
【0099】
実施例2
水性VDF-HFP-AAポリマーラテックス - ポリマーBの製造
50rpmで作動するバッフルおよびスターラーを装備した容量21リットル(lt.)の水平反応器オートクレーブ内に13.5リットルの脱イオン水を導入した。温度を75℃にさせ、それぞれ99:3のモル比でVDF/HFPガス状混合物モノマーを供給することによって、全試行を通して35バール超の圧力で一定に維持した。290mLの100g/Lの過硫酸アンモニウム(APS)水溶液を17分間かけて添加し(1L/時)、ランの全持続期間にわたり60mL/時の流動速度で持続的に添加した;さらに50mLのアクリル酸(AA)溶液(50g/Lのアクリル酸水溶液)を250gのモノマーが消費される毎に供給した。4500gの混合物を供給したら、混合物の供給を中断し、次に、反応温度を一定に保持しながら、圧力を12バールまで低下させた。最終反応時間は318分間であった。
【0100】
反応器を室温に冷却し、ラテックスを取り出した。そのようにして得られたVDF-HFP-AAポリマーは、96.13モル%のVDF、約2.97モル%のHFPおよび0.9モル%のアクリル酸(AA)モノマーを含有していた。
【0101】
そのようにして得られた水性ラテックスは、24.0重量%の固形分を有していた。VDF-HFP-AAポリマーは、ISO 13321に従って測定して、287nmの平均一次粒径を有する粒子の形態下で水性ラテックス中に分散させると、144℃の融点(ASTM D3418に従って測定)、31キロポアズのMV(230℃/100秒-1)および下記:-CFH:35mmol/kg;-CF-CH:23mmol/kg;-CHOH:5mmol/kgのような末端基の含量を有することが見いだされた。
【0102】
比較例2
水性VDF-HFP-AAポリマーラテックス - ポリマーB’の製造
50rpmで作動するバッフルおよびスターラーを装備した容量21リットル(lt.)の水平反応器オートクレーブ内に、13.5リットルの脱イオン水を導入した。温度を90℃にさせ、それぞれ99:3のモル比でVDF/HFPガス状混合物モノマーを供給することによって、全試行を通して30バール超の圧力で一定に維持した。250mLの100g/Lの過硫酸アンモニウム(APS)水溶液を15分間かけて添加し(1L/時)、同時に50mLのアクリル酸(AA)の溶液(50g/Lのアクリル酸水溶液)を250gのポリマーが合成される毎に供給した。
【0103】
30分後に、APS溶液をランの全持続期間にわたり240mL/時の流動速度で供給した。
【0104】
4500gの混合物を供給したら、混合物の供給を中断し、次に、反応温度を一定に保持しながら、圧力を12バールまで低下させた。最終反応時間は125分間であった。
【0105】
反応器を室温に冷却し、ラテックスを回収した。そのようにして得られたVDF-HFP-AAポリマーは、96.13モル%のVDF、約2.97モル%のHFPおよび0.9モル%のアクリル酸(AA)モノマーを含有していた。
【0106】
そのようにして得られた水性ラテックスは、25.4重量%の固形分を有していた。VDF-HFP-AAポリマーは、ISO 13321に従って測定して、220nmの平均一次粒径を有する粒子の形態下で水性ラテックス中に分散させると、141℃の融点(ASTM D3418に従って測定)、22キロポアズのMV(230℃/100秒-1)を有することが見いだされた。
【0107】
実施例3
水性VDF-HFP-AAポリマーラテックス - ポリマーCの製造
50rpmで作動するバッフルおよびスターラーを装備した容量21リットルの水平反応器オートクレーブ内に、13.5リットルの脱イオン水を導入した。温度を75℃にさせ、次に、6.1バールのデルタPが得られるまでHFPガス状モノマーを装填した。それぞれ87.5:12.5のモル比でVDF/HFPガス状混合物モノマーを供給することによって、全試行を通して35バールの圧力を一定に維持した。250mLの100g/Lの過硫酸アンモニウム(APS)水溶液を15分間かけて添加し(1L/時)、次に過硫酸アンモニウム(APS)水溶液を試行の全持続期間にわたり60mL/時の流動速度で持続的に添加した;さらに50mLのアクリル酸(AA)溶液(50g/Lのアクリル酸水溶液)を250gのポリマーが合成される毎に供給した。
【0108】
4500gの混合物を供給したら、混合物の供給を中断し、次に、反応温度を一定に保持しながら、圧力を12バールまで低下させた。最終反応時間は326分間であった。
【0109】
反応器を室温に冷却し、ラテックスを取り出した。そのようにして得られたVDF-HFP-AAポリマーは、86.72モル%のVDF、約12.38モル%のHFPおよび0.9モル%のアクリル酸(AA)モノマーを含有していた。
【0110】
そのようにして得られた水性ラテックスは、25.6重量%の固形分を有していた。VDF-HFP-AAポリマーは、ISO 13321に従って測定して、273nmの平均一次粒径を有する粒子の形態下で水性ラテックス中に分散させると、89℃の融点(ASTM D3418に従って測定)、48.6キロポアズのMV(230℃/100秒-1)および下記:-CFH:29mmol/kg;-CF-CH:10mmol/kg;-CHOH:7mmol/kgのような末端基の含量を有することが見いだされた。
【0111】
比較例3
水性VDF-HFP-AAポリマーラテックス - ポリマーC’の製造
50rpmで作動するバッフルおよびスターラーを装備した容量21リットルの水平反応器オートクレーブ内に、13.5リットルの脱イオン水を導入した。温度を90℃にさせ、それぞれ87.5:12.5のモル比でVDF/HFPガス状混合物モノマーを供給することによって、全試行を通して30バールの圧力で一定に維持した。250mLの100g/Lの過硫酸アンモニウム(APS)水溶液を15分間かけて添加し(1L/h)、同時に50mLのアクリル酸(AA)の溶液(50g/Lのアクリル酸水溶液)を250gのポリマーが合成される毎に供給した。
【0112】
点火から30分後に、APS溶液を試行の全持続期間にわたり240mL/時の流動速度で過硫酸アンモニウム(APS)の溶液の添加を再開した。
【0113】
4500gの混合物を供給したら、混合物の供給を中断し、次に、反応温度を一定に保持しながら、圧力を12バールまで低下させた。最終反応時間は141分間であった。
【0114】
反応器を室温に冷却し、ラテックスを取り出した。そのようにして得られたVDF-HFP-AAポリマーは、86.7モル%のVDF、約12.4モル%のHFPおよび0.9モル%のアクリル酸(AA)モノマーを含有していた。
【0115】
そのようにして得られた水性ラテックスは、23.8重量%の固形分を有していた。VDF-HFP-AAポリマーは、ISO 13321に従って測定して、340nmの平均一次粒径を有する粒子の形態下で水性ラテックス中に分散させると、81.2℃の融点(ASTM D3418に従って測定)、14キロポアズのMV(230℃/100秒-1)を有することが見いだされた。
【0116】
比較例4
水性VDF-HFP-AAポリマーラテックス - ポリマーD’の製造
50rpmで作動するバッフルおよびスターラーを装備した容量21リットルの水平反応器オートクレーブ内に、13.5リットルの脱イオン水を導入した。温度を90℃にさせ、次に、10.6バールのデルタPが得られるまでHFPガス状モノマーを装填した。35バールの圧力を、それぞれ78.5:21.5のモル比でVDFおよびHFPガス状混合物モノマーを供給することによって全試行を通して一定に維持した。220mLの100g/Lの過硫酸アンモニウム(APS)水溶液を13分間かけて添加し(1L/時)、次に過硫酸アンモニウム(APS)水溶液を試行の全持続期間にわたり60mL/時の流動速度で持続的に添加した;さらに50mLのアクリル酸(AA)溶液(50g/Lのアクリル酸水溶液)を250gのポリマーが合成される毎に供給した。
【0117】
重合の温度は、450gの転換後に75℃へ低下させた。
【0118】
4500gの混合物を供給したら、混合物の供給を中断し、次に、反応温度を一定に保持しながら、圧力を12バールまで低下させた。最終反応時間は269分間であった。
【0119】
反応器を室温に冷却し、ラテックスを取り出した。
そのようにして得られたVDF-HFP-AAポリマーは、77.8モル%のVDF、約21.3モル%のHFPおよび0.9モル%のアクリル酸(AA)モノマーを含有していた。
【0120】
そのようにして得られた水性ラテックスは、25.7重量%の固形分を有していた。VDF-HFP-AAポリマーは、ISO 13321に従って測定して、292nmの平均一次粒径を有する粒子の形態下で水性ラテックス中に分散させると、-21.1℃のTg(ASTM D3418に従って測定)、40キロポアズのMV(230℃/100秒-1)および158.1のムーニー粘度(Mooney)((1+10’)@121℃)および下記:-CFH:25mmol/kg;-CF-CH:37mmol/kg;-CHOH:7mmol/kgのような末端基の含量を有することが見いだされた。
【0121】
比較例5
水性VDF-HFP-AAポリマーラテックス - ポリマーD’’の製造
50rpmで作動するバッフルおよびスターラーを装備した容量21リットルの水平反応器オートクレーブ内に、13.5リットルの脱イオン水を導入した。温度を90℃にさせ、次に、8.8バールのデルタPが得られるまでHFPガス状モノマーを装填した。それぞれ78.5:21.5のモル比でVDF/HFPガス状混合物モノマーを供給することによって、全試行を通して30バール超の圧力で一定に維持した。250mLの100g/Lの過硫酸アンモニウム(APS)水溶液を15分間かけて添加し(1L/時)、同時に50mLのアクリル酸(AA)の溶液(50g/Lのアクリル酸水溶液)を250gのポリマーが合成される毎に供給した。
【0122】
点火から30分後に、試行の全持続期間にわたり240mL/時の流動速度で過硫酸アンモニウム(APS)の溶液の添加を再開した。
【0123】
4500gの混合物を供給したら、混合物の供給を中断し、次に、反応温度を一定に保持しながら、圧力を12バールまで低下させた。最終反応時間は285分間であった。
【0124】
反応器を室温に冷却し、ラテックスを取り出した。
そのようにして得られたVDF-HFP-AAポリマーは、77.8モル%のVDF、約21.3モル%のHFPおよび0.9モル%のアクリル酸(AA)モノマーを含有していた。
【0125】
そのようにして得られた水性ラテックスは、24重量%の固形分を有していた。
VDF-HFP-AAポリマーは、ISO 13321に従って測定して、285nmの平均一次粒径を有する粒子の形態下で水性ラテックス中に分散させると、-15.9℃のTg(ASTM D3418に従って測定)、23キロポアズのMV(230℃/100秒-1)および63.3のムーニー粘度(Mooney)((1+10’)@121℃)および下記:-CFH:68mmol/kg;-CF-CH:15mmol/kg;-CHOH:38mmol/kgのような末端基の含量を有することが見いだされた。
【0126】
本明細書では、ラテックスの特性を表1に要約した:
【0127】
【0128】
被覆セパレーターの調製
エマルジョンポリマーは、Liイオン電池のための複合セパレーターを提供できるように、ポリオレフィン多孔質支持体上の高温耐性コーティングを作り出すためのセラミック粒子用のバインダーとして使用した。Baikowski製の87重量%のアルミナCR6、10重量%のラテックス、2重量%の界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム、SDS)および1重量%の消泡剤BYK-023からなる第1混合物を調製した。次にスラリー中で50重量%の固形分を達成するまで前記混合物に水を加え、このスラリーを惑星型混合システムを使用することによって1,000rpmで20分間にわたり混合した。引き続いて、この水性スラリーに規定量のVDFポリマーラテックスを加え、生じた混合物を1,000rpmでさらに2~10分間にわたり混合した。そのようにして得られたコーティング組成物は、30μmのブレード高さに設定した流延ナイフを使用して多孔質ポリオレフィン基質上に流延した。30分間にわたり、温度70℃の換気式オーブン内で乾燥させることによって、被覆セパレーターが得られた。
【0129】
ドライラミネーション
セパレーターは、溶剤を全く添加せずに負極でラミネートした。使用した負極は、2重量%のSOLEF(登録商標)PVDF5130(ポリマーバインダー)、Imerys製の3重量%のSuperC65カーボンブラック(電子伝導材料)およびUmicore製の95重量%の酸化コバルトリチウムD10(負極活物質)を含む組成物から入手し、40%の多孔性を有していた。負極表面上へのセパレーターのラミネーションは、以下の圧力、時間および温度の条件:50MPa、15分間および70℃で作動する水圧式フラットプレスを使用して実施した。ラミネーション後、ASTM D903規格に従って180°の角度および10mm/分の剥離速度での剥離試験を適用することによって接着強さを評価した。
【0130】
【0131】
複合セパレーターの特性解析:EC:DMC中での48時間後の湿性接着
ウエットラミネーションは、炭酸アルキル混合物溶剤が添加された負極へのセパレーターの湿性接着の評価である。11cm×8cmの寸法を有する試験片の形態下にある上に詳述したように調製した被覆セパレーターおよび上で詳述した同一負極は、55℃で一晩かけて乾燥させることによって予備状態調節した。500μLの炭酸エチレン(EC)および炭酸プロピレン(PC)のEC:DMC(1:1)の混合物を負極表面上に注ぎ、セパレーターをその一番上に置いた。負極-セパレーター組立体は、2枚以内のPTFEシートのコーヒーバッグ中に真空密閉し、次に85℃、1MPa、5分間で水圧式フラットプレスを用いて加圧した。コーヒーバッグの開封直後に、ASTM D903に従って、セパレーターを180°の剥離角度および10mm/分の剥離速度で負極から剥離した。結果は以下の表に要約した。
【0132】
【0133】
膨潤
ポリマーの膨潤は、炭酸塩混合物中への浸漬後の成形ポリマー試料の重量の増加を測定することによって評価した。成形試験片は、凝固格子のポリマー粉末をフラットプレスのステンレス鋼製フレーム内に直接的に装填することによる圧縮成形によって得た。使用したステンレス鋼製フレームは、直径25mmおよび厚さ1.5mmを備える5片の円形試料を得られるように設計した。試料は、+60℃のTでポリマーを溶融させ、室温で冷却することによって入手した。
【0134】
円形ポリマー試料(Φ=25mm;厚さ1.5mm)を一晩かけて55℃で乾燥させ、次に乾燥重量および乾燥厚さを測定した後にEC(炭酸エチレン):DMC(炭酸ジメチル)1:1混合物中に浸漬した。重量は、膨潤剤への浸漬から最高取り込みに到達するまでの様々な時間間隔で測定した。結果は、下記に要約した:
【0135】
【0136】
比較の材料D’およびD’’については過度の膨潤もしくは溶解が発生した。