(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】Fc含有タンパク質を精製する方法
(51)【国際特許分類】
C07K 1/22 20060101AFI20220621BHJP
C07K 1/18 20060101ALI20220621BHJP
C07K 1/20 20060101ALI20220621BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20220621BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220621BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20220621BHJP
【FI】
C07K1/22 ZNA
C07K1/18
C07K1/20
C12N15/13
C12P21/08
C07K16/00
(21)【出願番号】P 2019503247
(86)(22)【出願日】2017-07-21
(86)【国際出願番号】 US2017043384
(87)【国際公開番号】W WO2018018011
(87)【国際公開日】2018-01-25
【審査請求日】2020-06-12
(32)【優先日】2016-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500049716
【氏名又は名称】アムジエン・インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カウォーヤ,ジョン・ケイ
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/143199(WO,A1)
【文献】特表2013-505238(JP,A)
【文献】特表2015-511637(JP,A)
【文献】特表2011-530606(JP,A)
【文献】特表2012-531428(JP,A)
【文献】Analytical Biochemistry,2005年,Vol.345, p.250-257
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fc領域を含むタンパク質を精製する方法であって、
(a)前記タンパク質及び1又は複数の不純物を含む溶液を、温度応答性プロテインA材料と、前記タンパク質が前記材料に結合する温度で接触させる工程と、
(b)6.5~7.5のpHを有し、かつカオトロピック試薬、糖アルコール、無極性アミノ酸、及び塩基性アミノ酸を含む溶出緩衝液により、4℃~25℃の温度で前記材料から前記タンパク質を溶出する工程と
を含み、前記タンパク質は、前記溶液中の1又は複数の不純物から精製される、方法。
【請求項2】
Fc領域を含むタンパク質を、前記タンパク質及び1又は複数の不純物を含む溶液から精製する方法であって、
(a)前記タンパク質を、温度応答性プロテインA材料に、前記タンパク質が前記材料に結合する温度で吸着させる工程と、
(b)6.5~7.5のpHを有し、かつカオトロピック試薬及び糖アルコールを含む溶出緩衝液により、4℃~25℃の温度で前記材料から前記タンパク質を溶出する工程と
を含み、前記糖アルコールに対する前記カオトロピック試薬のモル濃度比は、0.4~4.5である、方法。
【請求項3】
糖アルコールに対するカオトロピック試薬
のモル濃度比は、1.5~2.5である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
糖アルコールに対するカオトロピック試薬
のモル濃度比は、1.8~2.2である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
糖アルコールに対するカオトロピック試薬
のモル濃度比は、0.5~1.5である、請求項
2に記載の方法。
【請求項6】
溶出緩衝液は1又は複数のアミノ酸をさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
溶出緩衝液は、塩基性アミノ酸及び/又は無極性アミノ酸を含む、請求項1~5に記載の方法。
【請求項8】
溶出緩衝液は、アルギニン及びプロリンを含む、請求項1~5に記載の方法。
【請求項9】
前記カオトロピック試薬は、尿素、塩化グアニジン、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、又はチオシアン酸アンモニウムである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
尿素は、2M~4.5Mの濃度で存在する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
尿素は、4Mの濃度で存在する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
糖アルコールは、ソルビトール、マンニトール、キシリトール又はグリセロールである、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
塩基性アミノ酸は、ヒスチジン、リジン、オルニチン又はアルギニンである、請求項1又は7に記載の方法。
【請求項14】
無極性アミノ酸は、アラニン、システイン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン又はバリンである、請求項1又は7に記載の方法。
【請求項15】
溶出緩衝液は、塩をさらに含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
塩は、0.25M~0.8Mの濃度で存在する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
塩は、塩化ナトリウムである、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
溶出緩衝液は、2M~4.5Mの尿素、1M~4.5Mのソルビトール、0.25M~1Mのアルギニン、0.25M~1Mのプロリン、及び0.25M~0.8Mの塩化ナトリウムを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
溶出緩衝液は、4Mの尿素、2.2Mのソルビトール、0.5Mのアルギニン、0.5Mのプロリン、及び0.75Mの塩化ナトリウムを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
材料から前記タンパク質を溶出する工程は、4℃~25℃で行われる、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
材料から前記タンパク質を溶出する工程は、4℃~6℃又は20℃~25℃で行われる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
タンパク質及び1又は複数の不純物を含む前記溶液は、生産バイオリアクターからの回収物又は細胞培養上清又は細胞溶解物である、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記溶出緩衝液は、7.0~7.4のpHを有する、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記糖アルコールは、1M~4.5Mで存在する、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記糖アルコールは、2M~2.5Mの濃度で存在する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
Fc領域を含む前記タンパク質は、抗体又はFc融合タンパク質である、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記Fc融合タンパク質は、少なくとも1つの一本鎖Fvフラグメントを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
Fc領域を含む前記タンパク質は、哺乳動物細胞において組換え的に産生される、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
哺乳動物細胞は、チャイニーズハムスター卵巣細胞である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記温度応答性プロテインA材料は、固相に固定される、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
固相は、ビーズ、樹脂、ゲル、フィルム又は粒子である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記塩基性アミノ酸及び/又は前記無極性アミノ酸は、0.25M~1Mの濃度で存在する、請求項1、7、13及び14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記塩基性アミノ酸及び/又は前記無極性アミノ酸は、0.5Mの濃度で存在する、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
1又は複数の不純物は、宿主細胞タンパク質、宿主細胞DNA、細胞培養タンパク質、又はその組み合わせを含む、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
工程(a)は、10℃以下の温度で行われる、請求項1~34に記載の方法。
【請求項36】
工程(a)は、4℃~6℃の温度で行われる、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記タンパク質を前記材料から溶出する前に、前記結合されたタンパク質を有する前記材料を1又は複数の洗浄溶液で洗浄する工程をさらに含む、請求項1~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記1又は複数の洗浄溶液は、塩化ナトリウムを0.5M~2Mの濃度で含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記材料からの溶出物中の前記Fc領域含有タンパク質の少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%は、単量体型である、請求項1~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記溶出されたFc領域含有タンパク質を1又は複数のクロマトグラフィー工程に供する工程をさらに含む、請求項1~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記1又は複数のクロマトグラフィー工程は、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ミックスモードクロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、金属アフィニティークロマトグラフィー、又はこれらの組み合わせである、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記溶出されたFc領域含有タンパク質を、6.5~7.5のpHを有し、かつカオトロピック試薬、糖アルコール、無極性アミノ酸、及び塩基性アミノ酸を含む移動相を用いるサイズ排除クロマトグラフィーに供する工程をさらに含む、請求項1~41のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2016年7月22日に出願された米国仮特許出願第62/365,943号明細書の利益を主張するものであり、その出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
電子的に提出されたテキストファイルの説明
本願は、ASCIIフォーマットで電子的に提出された配列表を包含し、その配列表は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。2017年7月20日に作成された、コンピュータが読むことができるフォーマットの配列表のコピーは、名称がA-2036-WO-PCT_SeqList_ST25であり、サイズが8.81キロバイトである。
【0003】
本発明は、バイオ医薬品製造の分野に関する。特に、本発明は、精製操作中のFc領域含有タンパク質の凝集を低減又は防止する方法に関する。本発明は又はフ抗体など、除去が困難な混入物から抗体を分離する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
凝集は、依然として、遺伝子組換えによって作られた生物製剤、特に多重特異性抗原結合タンパク質などの免疫グロブリンFc領域を含む融合タンパク質の製造における主要な問題のままである。タンパク質凝集体は、それらの強い免疫原性のために治療薬において許容することができない(Maggio,Journal of Excipients and Food Chemicals,Vol.3(2):45-53,2012;Sauerborn et al.,Trends Pharmacol.Sci.,Vol.31(2):53-59,2010)。タンパク質の凝集は、培地の十分なエアレーションに必要な細胞培養物の激しい振盪の結果として、タンパク質の組換え発現中に生じ得る(Vazquez-Rey and Lang,Biotechnology and Bioengineering,Vol.108(7):1494-1508,2011)。さらに、多くのタンパク質は、アンフォールディングしやすく、その後、極端なpH条件(すなわちpH>9.0又はpH<4.5)に曝露されると凝集する。免疫グロブリンFc領域を含むタンパク質を精製するための典型的な方法は、プロテインAアフィニティー樹脂でタンパク質を捕捉し、その後、低pHの酸性緩衝液(例えば、pH2.7~3.7)で樹脂から溶出することを必要とする(Hari et al.,Biochemistry,Vol.49(43):9328-9338,2010;Ejima et al.,PROTEINS:Structure,Function,and Bioinformatics,Vol.66:954-962,2007)。低pH溶出は、タンパク質の凝集を誘導し、収率を低下させるだけでなく、回収された非凝集タンパク質の長期安定性を損なうこともある。
【0005】
プロテインA樹脂からの低pH溶出の望ましくない影響を回避するために、温度応答性プロテインA樹脂が従来のプロテインA樹脂の代替として開発された。この新しい樹脂は、10℃未満の温度で免疫グロブリンのFc領域に結合するが、高温(例えば、40℃)でFc領域に対する親和性を失う、プロテインAの変異体型から構成される(Koguma et al.,Journal of Chromatography A,Vol.1305:149-153,2013)。温度応答性プロテインA樹脂は、中性pHでカラムを単に加熱することによって樹脂からFc領域含有タンパク質を溶出することを可能にするため、初期には非常に熱心に受け入れられた(Koguma et al.,Journal of Chromatography A,Vol.1305:149-153,2013)。温度応答性プロテインA樹脂によるタンパク質の精製は、安定な分子を生成するが、このアプローチは、カラムローディングから溶出へ30°以上のカラム温度のシフトを必要とし、したがってローディング工程と溶出工程との間に有意な遅延時間を生じるため、実用的ではない。カラム温度の操作に必要とされる時間の遅延は、精製操作に膨大な量のサイクル時間を追加し、それによりこのアプローチを大規模製造プロセス及び発見段階中のタンパク質の大きいパネルのハイスループット精製の両方にとって望ましくないものにする。さらに、温度応答性プロテインA樹脂から溶出されるタンパク質の安定性に与える大きい温度の振れの影響は、依然として未知のままである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Maggio,Journal of Excipients and Food Chemicals,Vol.3(2):45-53,2012
【文献】Sauerborn et al.,Trends Pharmacol.Sci.,Vol.31(2):53-59,2010
【文献】Vazquez-Rey and Lang,Biotechnology and Bioengineering,Vol.108(7):1494-1508,2011
【文献】Hari et al.,Biochemistry,Vol.49(43):9328-9338,2010
【文献】Ejima et al.,PROTEINS:Structure,Function,and Bioinformatics,Vol.66:954-962,2007
【文献】Koguma et al.,Journal of Chromatography A,Vol.1305:149-153,2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、従来のプロテインAクロマトグラフィー法に関連するタンパク質の構造的完全性に対する影響を最小限に抑えるか又は低減する、Fc領域含有タンパク質の効率的な精製方法が当該技術分野で必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、中性pH及び一定温度において、温度応答性プロテインA樹脂からの、結合されたFc領域含有タンパク質の溶出を可能にする緩衝組成物の開発に部分的に基づいている。温度応答性プロテインA樹脂を本明細書に記載の溶出緩衝液と組み合わせて使用する精製スキームは、凝集タンパク質のレベルの低下をもたらし、それによって下流の精製工程の数を減少させる。さらに、そのような精製方法は、本明細書に記載の溶出緩衝液による溶出が温度に依存しない様式で行われ得るため、工業的製造のために容易に拡張可能である。
【0009】
したがって、本発明は、Fc領域を含むタンパク質を精製する方法を提供する。一実施形態では、この方法は、タンパク質及び1又は複数の不純物を含む溶液を、温度応答性プロテインA材料と、タンパク質がこの材料に結合する温度で接触させる工程と、本明細書中に記載の溶出緩衝液により、約35℃未満の温度で材料からタンパク質を溶出する工程とを含み、タンパク質は、溶液中の1又は複数の不純物から精製される。
【0010】
特定の実施形態において、本発明はまた、Fc領域を含むタンパク質を精製中の凝集を低減する方法を提供する。一実施形態では、この方法は、タンパク質を、温度応答性プロテインA材料に、タンパク質がこの材料に結合する温度で吸着させる工程と、本明細書中に記載の溶出緩衝液により、約35℃未満の温度で材料からタンパク質を溶出する工程とを含み、溶出液中の凝集形態のFc領域含有タンパク質の量は、従来のプロテインA材料からの溶出液中の量未満である。いくつかの実施形態では、温度応答性プロテインA材料からの溶出液中の凝集形態のFc領域含有タンパク質の量は、30%未満である。関連するいくつかの実施形態では、温度応答性プロテインA材料からの溶出物中のFc領域含有タンパク質の少なくとも70%は、単量体型である。
【0011】
本発明の方法において使用される溶出緩衝液は、中性範囲のpH(例えば、約6.5~約7.5のpH)を有し、かつカオトロピック試薬及び糖アルコールを含む。いくつかの実施形態では、カオトロピック試薬及び糖アルコールは、約0.4~約4.5のモル濃度比で存在する。一実施形態では、糖アルコールに対するカオトロピック試薬のモル濃度比は、約1.1~約1.8である。溶出緩衝液中のカオトロピック試薬の濃度は、使用される特定のカオトロピック試薬に応じて約0.4M~約5Mであり得る。いくつかの実施形態では、カオトロピック試薬は、尿素、塩化グアニジン、又はチオシアン酸塩(例えば、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、又はチオシアン酸アンモニウム)であり得る。特定の実施形態では、カオトロピック試薬は、尿素である。他の実施形態では、カオトロピック試薬は、塩化グアニジンである。溶出緩衝液中の糖アルコールの濃度は、約1M~約4.5Mであり得る。特定の実施形態では、糖アルコールは、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、又はグリセロールである。一実施形態では、糖アルコールは、ソルビトールである。一実施形態では、糖アルコールは、マンニトールである。
【0012】
いくつかの実施形態では、本発明の方法において使用される溶出緩衝液は、1又は複数のアミノ酸をさらに含む。アミノ酸は、アラニン、システイン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、もしくはバリンなどの無極性アミノ酸、及び/又はヒスチジン、リシン、オルニチン、もしくはアルギニンなどの塩基性アミノ酸であり得る。特定の実施形態では、溶出緩衝液は、少なくとも1つの無極性アミノ酸及び少なくとも1つの塩基性アミノ酸を含む。例えば、一実施形態では、溶出緩衝液は、プロリン及びアルギニンを含む。溶出緩衝液中のアミノ酸の濃度は、約0.25M~約1Mであり得る。
【0013】
様々な実施形態において、溶出緩衝液は、ナトリウム塩又は塩化物塩などの塩をさらに含み得る。塩は、溶出緩衝液中に約0.1M~約1Mの濃度で存在し得る。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液に含まれる塩は、塩化ナトリウムである。
【0014】
特定の実施形態では、本発明の方法で使用される溶出緩衝液は、約2M~約4.5Mのカオトロピック試薬、約1M~約4.5Mの糖アルコール、約0.25M~約1Mの塩基性アミノ酸、約0.25M~約1Mの無極性アミノ酸、及び約0.25M~約0.8Mの塩を含む。いくつかのそのような実施形態では、カオトロピック試薬は、尿素であり、糖アルコールは、ソルビトールであり、塩基性アミノ酸は、アルギニンであり、無極性アミノ酸は、プロリンであり、及び塩は、塩化ナトリウムである。
【0015】
本発明の方法による温度応答性プロテインA材料からのFc領域含有タンパク質の溶出は、約1℃~約25℃の温度で行われ得る。いくつかの実施形態では、タンパク質の溶出は、タンパク質が温度応答性プロテインA材料に吸着又は結合された同じ又は類似の温度で行われる。例えば、一実施形態では、Fc領域含有タンパク質の溶出は、約10℃未満の温度、例えば約1℃~約6℃の温度で行われる。他の実施形態では、Fc領域含有タンパク質の溶出は、室温、例えば約20℃~約25℃で行われる。
【0016】
本明細書に記載の方法に従って精製することができるFc領域含有タンパク質としては、抗体、Fc融合タンパク質、及び多重特異性抗原結合タンパク質が挙げられる。いくつかの実施形態では、Fc領域含有タンパク質は、抗体である。他の実施形態では、Fc領域含有タンパク質は、少なくとも1つの一本鎖Fvフラグメントを含むFc融合タンパク質などのFc融合タンパク質である。Fc領域含有タンパク質は、例えば、哺乳動物細胞において組換え技術によって産生され得る。このような実施形態では、Fc領域含有タンパク質は、細胞培養上清又は細胞溶解物、例えばバイオリアクターからの回収操作の結果として生成されるものから精製され得る。
【0017】
本発明はまた、サイズ排除クロマトグラフィーが、移動相としてカオトロピック試薬、糖アルコール、及び少なくとも1つのアミノ酸を含む緩衝液と共に使用される場合、完全に組み立てられた抗体をハーフ抗体混入物から効果的に分離することができるという発見に部分的に基づいている。したがって、本発明はまた、抗体をそのハーフ抗体形態から分離する方法を提供する。一実施形態では、本方法は、約6.5~約7.5のpHを有し、かつカオトロピック試薬、糖アルコール、無極性アミノ酸、及び塩基性アミノ酸を含む移動相を使用して、抗体及びそのハーフ抗体形態を含む溶液をゲル濾過マトリックスと接触させる工程と、ゲル濾過マトリックスから溶出画分を収集する工程とを含み、抗体は、溶出画分の1セットで溶出され、ハーフ抗体形態は、溶出画分の別のセットで溶出され、それにより抗体をそのハーフ抗体形態から分離する。本方法の特定の実施形態では、抗体は、多重特異性(例えば、二重特異性)ヘテロ二量体抗体である。
【0018】
中性pH及び一定温度で温度応答性プロテインA樹脂からFc領域含有タンパク質を溶出するための本明細書に記載の溶出緩衝液のいずれかは、抗体をそのハーフ抗体形態から分離するためのサイズ排除クロマトグラフィーにおける移動相として使用され得る。いくつかの実施形態では、移動相は、約2M~約4.5Mのカオトロピック試薬、約1M~約4.5Mの糖アルコール、約0.25M~約1Mの塩基性アミノ酸、及び約0.25M~約1Mの無極性アミノ酸を含む。これら及び他の実施形態では、移動相は、尿素、ソルビトール、アルギニン、及びプロリンを含む。特定の実施形態では、移動相は、約2M~約4.5Mの尿素、約1M~約4.5Mのソルビトール、約0.25M~約1Mのアルギニン、約0.25M~約1Mのプロリン、及び0.25M~約0.8Mの塩化ナトリウムを含む。いくつかの実施形態では、移動相は、約4Mの尿素、約2.2Mのソルビトール、約0.5Mのアルギニン、約0.5Mのプロリン、及び約0.75Mの塩化ナトリウムを含む。移動相のpHは、約6.5~約7.5又は特定の実施形態では約7.0~約7.4であり得る。
【0019】
本方法の特定の実施形態では、移動相は、約0.01ml/分~約0.2ml/分の流量でゲル濾過マトリックスを通過される。他の実施形態では、移動相は、約0.02ml/分~約0.06ml/分の流量でゲル濾過マトリックスを通過される。ゲル濾過マトリックスは、架橋アガロース及び架橋デキストランから構成され得、かつ約10kDa~約600kDaの分画範囲を有し得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】IgG-scFv結合タンパク質の構造。この図は、IgG-scFv結合タンパク質(本明細書中に記載の方法によって精製され得るFc含有タンパク質の例)の概略図を示す。IgG-scFv結合タンパク質は、2つの一本鎖可変フラグメント(scFv)から構成され、その各々は、別のペプチドリンカーを介して第2の抗体の重鎖のカルボキシル末端に融合された、ペプチドリンカーによって連結された第1の抗体由来の可変ドメインを含む。
【
図2】従来のプロテインAカラムから溶出したIgG-scFv結合タンパク質。この図は、IgG-scFv結合タンパク質のプロテインA溶出液プールの試料からのSE-UPLCクロマトグラムを示す。結合タンパク質を、1%酢酸緩衝液(pH2.7)を用いて4℃で従来のプロテインAクロマトグラフィーカラムから溶出した。SEC-UPLCカラムからの溶出液は、凝集ピーク(黒い矢印で示す)及び単量体ピーク(黒い星印で示す)の両方を含んでいた。4つのパネルの各々は、別個の実験である。
【
図3】温度応答性プロテインAクロマトグラフィーカラムから4℃で溶出したIgG-scFv結合タンパク質。この図は、IgG-scFv結合タンパク質のプロテインA溶出液プールの試料からのSE-UPLCクロマトグラムを示す。pH7.2を有し、かつ50mMのHEPES、0.75MのNaCl、0.5Mのアルギニン、0.5Mのプロリン、2.2Mのソルビトール、及び4Mの尿素を含む溶出緩衝液を使用して、温度応答性プロテインAクロマトグラフィーカラムから結合タンパク質を4℃で溶出した。単量体ピークは、黒い星印で示す。3つのパネルの各々は、別個の実験である。
【
図4A】温度応答性プロテインAクロマトグラフィーカラムで精製中のIgG-scFv結合タンパク質のSDS-PAGE。ゲル上の各レーン中の試料は、以下の通りである:Stds=タンパク質スタンダード;フィード=カラムローディング前の清澄化細胞培養上清の試料;FT=カラムフロースルー画分の試料;及び溶出液=pH7.2の、25mMのHEPES、0.75MのNaCl、0.5Mのアルギニン、0.5Mのプロリン、2.2Mのソルビトール、及び4Mの尿素を含む溶出緩衝液により、室温でカラムから結合タンパク質を溶出した後の溶出液プールの試料。
【
図4B】室温で温度応答性プロテインAクロマトグラフィーカラムから溶出したIgG-scFv結合タンパク質。この図は、IgG-scFv結合タンパク質の温度応答性プロテインA溶出液プールの試料のSE-UPLCクロマトグラムを示す。pH7.2を有し、かつ25mMのHEPES、0.75MのNaCl、0.5Mのアルギニン、0.5Mのプロリン、2.2Mのソルビトール、及び4Mの尿素を含む溶出緩衝液を使用して、室温で温度応答性プロテインAクロマトグラフィーカラムから結合タンパク質を溶出した。約14分の保持時間を有するピークは、結合タンパク質の単量体型である。挿入図は、クロマトグラムに示された各ピークの保持時間、ピーク面積及び高さを示す。溶出液プール中に存在するIgG-scFv結合タンパク質の約99%は、単量体型である。
【
図5】一本鎖二重特異性Fv-Fc結合タンパク質の構造。この図は、一本鎖二重特異性Fv-Fc結合タンパク質(本明細書中に記載の方法によって精製され得るFc領域含有タンパク質の例)の概略図を示す。一本鎖二重特異性Fv-Fc結合タンパク質は、第1の抗体からの重鎖及び軽鎖可変ドメインを含有し、第2の抗体からの重鎖及び軽鎖可変ドメインを含有する第2のscFvフラグメントに融合した第1のscFvフラグメントと、そのN末端でペプチドリンカーを介して第1のscFvフラグメントに融合したFc領域とを含む。
【
図6A】174mMの酢酸を用いて従来のプロテインAカラムから溶出した二重特異性Fv-Fc結合タンパク質のSE-HPLCクロマトグラム。二重特異性Fv-Fc結合タンパク質を、174mM(1%)の酢酸(pH2.7)を用いて従来のプロテインAカラムから室温で溶出した。黒い矢印は、結合タンパク質の凝集体に対応するピークを示す。黒い星印は、結合タンパク質の単量体型に対応するピークを示す。挿入図は、クロマトグラムに示された各ピークの保持時間、ピーク面積及び高さを示す。溶出液プール中に存在する二重特異性Fv-Fc結合タンパク質の約39%は、単量体型である。
【
図6B】33mMの酢酸を用いて従来のプロテインAカラムから溶出した二重特異性Fv-Fc結合タンパク質のSE-HPLCクロマトグラム。二重特異性Fv-Fc結合タンパク質を、33mM(0.06%)の酢酸(pH3.7)を用いて従来のプロテインAクロマトグラフィーカラムから室温で溶出した。黒い矢印は、結合タンパク質の凝集体に対応するピークを示す。黒い星印は、結合タンパク質の単量体型に対応するピークを示す。挿入図は、クロマトグラムに示された各ピークの保持時間、ピーク面積及び高さを示す。溶出液プール中に存在する二重特異性Fv-Fc結合タンパク質の約53%は、単量体型である。
【
図7A】温度応答性プロテインAカラムから溶出した二重特異性Fv-Fc結合タンパク質のSE-HPLCクロマトグラム。pH7.2を有し、かつ25mMのHEPES、0.75MのNaCl、0.5Mのアルギニン、0.5Mのプロリン、2.2Mのソルビトール、及び2.5Mの尿素を含む溶出緩衝液を使用して、室温で温度応答性プロテインAクロマトグラフィーカラムから二重特異性Fv-Fc結合タンパク質を溶出した。挿入図は、クロマトグラムに示されたピークの保持時間、ピーク面積及び高さを示す。黒い矢印は、結合タンパク質の凝集体に対応するピークを示す。約15.9分の保持時間を有するピークは、Fv-Fc結合タンパク質の単量体型に対応し、黒い星印で注釈されている。溶出液プール中に存在する二重特異性Fv-Fc結合タンパク質の約75%は、単量体型である。
【
図7B】温度応答性プロテインAカラムから溶出した二重特異性Fv-Fc結合タンパク質のSE-HPLCクロマトグラム。pH7.2を有し、かつ25mMのHEPES、0.75MのNaCl、0.5Mのアルギニン、0.5Mのプロリン、2.2Mのソルビトール、及び4Mの尿素を含む溶出緩衝液を使用して、室温で温度応答性プロテインAクロマトグラフィーカラムから二重特異性Fv-Fc結合タンパク質を溶出した。挿入図は、クロマトグラムに示された各ピークの保持時間、ピーク面積及び高さを示す。黒い矢印は、結合タンパク質の凝集体に対応するピークを示す。約15.9分の保持時間を有するピークは、Fv-Fc結合タンパク質の単量体型に対応し、黒い星印で注釈されている。溶出液プール中に存在する二重特異性Fv-Fc結合タンパク質の約88%は、単量体型である。
【
図7C】温度応答性プロテインAカラム緩衝液からの二重特異性Fv-Fc溶出液のSDS-PAGE。温度応答性プロテインAクロマトグラフィーカラムを用いた二重特異性Fv-Fc結合タンパク質の精製中に異なる試料を採取した。ゲル上の各レーン中の試料は、以下の通りである:Stds=タンパク質スタンダード;フィード=カラムローディング前の清澄化細胞培養上清の試料;FT=カラムフロースルー画分の試料;及び溶出液=pH7.2の、25mMのHEPES、0.75MのNaCl、0.5Mのアルギニン、0.5Mのプロリン、2.2Mのソルビトール、及び4Mの尿素を含む溶出緩衝液により、室温でカラムから結合タンパク質を溶出した後の溶出液プールの試料。
【
図8A】モノクローナル抗体のSE-HPLCクロマトグラムを温度応答性プロテインAカラムから4℃で溶出した。pH7.2を有し、かつ20mMのHEPES、2Mの塩化グアニジン、及び2.2Mのソルビトールを含む溶出緩衝液を用いて、4℃で温度応答性プロテインAクロマトグラフィーカラムから抗体を溶出した。抗体の単量体型に対応するピークは、黒い星印で示す。
【
図8B】
図8Aのクロマトグラムに示されたピークの特徴をまとめた表。モノクローナル抗体のほぼ90%は、溶出液プールにおいて単量体型で回収された。
【
図9A】従来のプロテインA精製後の組換え二重特異性ヘテロ二量体抗体の2つの異なるロットからのLCMSクロマトグラムを示す。148351ダルトンの予測質量を有する完全に組み立てられたヘテロ二量体抗体、及び74355ダルトンの予測質量を有する一方の種のハーフ抗体が両方のロットで検出される。74004ダルトンの予測質量を有する他方の種のハーフ抗体は、検出されない。ハーフ抗体のレベルは、ロット毎に異なる。
【
図9B】従来のプロテインA精製後の組換え二重特異性ヘテロ二量体抗体の2つの異なるロットからのLCMSクロマトグラムを示す。148351ダルトンの予測質量を有する完全に組み立てられたヘテロ二量体抗体、及び74355ダルトンの予測質量を有する一方の種のハーフ抗体が両方のロットで検出される。74004ダルトンの予測質量を有する他方の種のハーフ抗体は、検出されない。ハーフ抗体のレベルは、ロット毎に異なる。
【
図10A】二重特異性ヘテロ二量体抗体(「ヘテロ二量体抗体A」)の従来のプロテインA溶出液プールの試料についてのSE-HPLCクロマトグラムを示す。完全に組み立てられたヘテロ二量体抗体(「完全抗体」)は、分析サイズ排除カラムでハーフ抗体の前に溶出する。クロマトグラムの下の表は、クロマトグラムに示された2つのピークの保持時間及びピーク面積、幅ならびに高さを示す。約72%のハーフ抗体が溶出液プール中に存在する。
【
図10B】二重特異性ヘテロ二量体抗体(「ヘテロ二量体抗体A」)の従来のプロテインA溶出液プールからの試料のSDS-PAGE分析。還元(ゲルの左側)又は非還元(ゲルの右側)条件において示された試料容量を4~20%勾配トリス-グリシンSDSゲル上にロードした。タンパク質スタンダードを中間レーンにロードした。有意な量のハーフ抗体が従来のプロテインAクロマトグラフィーによる精製後に存在する。
【
図11】二重特異性ヘテロ二量体抗体(「ヘテロ二量体抗体A」)調製物の分取SECクロマトグラム。二重特異性ヘテロ二量体抗体調製物を、PBS、pH7.0を含む移動相を用いる分取SECゲル濾過に供した。従来の条件下で操作されたSECは、完全に組み立てられたヘテロ二量体抗体及び他の不完全な断片からハーフ抗体を分離することができない。
【
図12】二重特異性ヘテロ二量体抗体(「ヘテロ二量体抗体A」)の従来のプロテインA溶出液プールの分取SECゲル濾過カラム(2×80ml Superdex 200)からの溶出プロファイル。SECを、pH7.2の、50mMのHEPES、0.75MのNaCl、0.5Mのアルギニン、0.5Mのプロリン、2.2Mのソルビトール、及び4Mの尿素を含む移動相を用いて0.02ml/分の流量で行った。3つの主要なタンパク質ピークが観察される。
【
図13A】そのプロファイルを
図12に示す、SECからの溶出画分のSDS-PAGE分析。3つのピークのそれぞれを通して画分を集めた。「L」=SEC前のロード材料。試料を非還元(
図13A)又は還元(
図13B)条件で4~20%勾配トリス-グリシンSDSゲル上にロードした。ピーク2は、完全に組み立てられた抗体(「F」)を主に含み、ピーク3は、ハーフ抗体(「H」)を主に含む。ピーク1は、より高分子量の凝集体に対応する。50mMのHEPES、0.75MのNaCl、0.5Mのアルギニン、0.5Mのプロリン、2.2Mのソルビトール、及び4Mの尿素を含む移動相をpH7.2で使用するSECは、完全に組み立てられたヘテロ二量体抗体をハーフ抗体から効果的に分離した。
【
図13B】そのプロファイルを
図12に示す、SECからの溶出画分のSDS-PAGE分析。3つのピークのそれぞれを通して画分を集めた。「L」=SEC前のロード材料。試料を非還元(
図13A)又は還元(
図13B)条件で4~20%勾配トリス-グリシンSDSゲル上にロードした。ピーク2は、完全に組み立てられた抗体(「F」)を主に含み、ピーク3は、ハーフ抗体(「H」)を主に含む。ピーク1は、より高分子量の凝集体に対応する。50mMのHEPES、0.75MのNaCl、0.5Mのアルギニン、0.5Mのプロリン、2.2Mのソルビトール、及び4Mの尿素を含む移動相をpH7.2で使用するSECは、完全に組み立てられたヘテロ二量体抗体をハーフ抗体から効果的に分離した。
【
図14A】SEC前の二重特異性ヘテロ二量体抗体を含むロード材料、及び
図12に示すSEC中の3つの主要なタンパク質ピークの各々からの溶出画分の試料からの分析SE-HPLCクロマトグラムを示す。二重特異性ヘテロ二量体抗体(「ヘテロ二量体抗体A」)を含む従来のプロテインAクロマトグラフィーからの溶出液プールを分取SECゲル濾過カラム(2×80ml Superdex 200)にロードした。SECを、pH7.2の、50mMのHEPES、0.75MのNaCl、0.5Mのアルギニン、0.5Mのプロリン、2.2Mのソルビトール、及び4Mの尿素を含む移動相を用いて0.02ml/分の流量で行った。完全に組み立てられたヘテロ二量体抗体は、主にピーク2で溶出し、ハーフ抗体は、主にピーク3で溶出する。より高分子量の凝集体は、ピーク1で溶出する。この移動相で操作されるSECは、完全に組み立てられたヘテロ二量体抗体をハーフ抗体混入物から効果的に分離することができる。
【
図14B】従来のプロテインA溶出液プール、SEC前のロード材料、及びSEC後の最終プールからの組換えヘテロ二量体抗体の試料のSDS-PAGE分析。試料を非還元(ゲルの左側)又は還元(ゲルの右側)条件で4~20%勾配トリス-グリシンSDSゲル上にロードした。
【
図14C】pH7.2の、50mMのHEPES、0.75MのNaCl、0.5Mのアルギニン、0.5Mのプロリン、2.2Mのソルビトール、及び4Mの尿素を含む移動相でのSEC精製後の組換え二重特異性ヘテロ二量体抗体のLCMSクロマトグラム。完全に組み立てられたヘテロ二量体抗体のみが検出可能である。2種のハーフ抗体のいずれも検出できない。SECは、ハーフ抗体混入物を効率よく除去する。
図9A及び9Bと比較されたい。
【
図15A】pH7.2の、50mMのHEPES、0.75MのNaCl、0.5Mのアルギニン、0.5Mのプロリン、2.2Mのソルビトール、及び4Mの尿素を含む移動相を用いるSECによる精製前(
図15A)及び精製後(
図15B)後の組換え二重特異性ヘテロ二量体抗体BのLCMSクロマトグラムを示す。SEC精製前、調製物は、完全に組み立てられた抗体及びハーフ抗体の両方を含む。SEC精製後、ハーフ抗体を検出することはできない。
【
図15B】pH7.2の、50mMのHEPES、0.75MのNaCl、0.5Mのアルギニン、0.5Mのプロリン、2.2Mのソルビトール、及び4Mの尿素を含む移動相を用いるSECによる精製前(
図15A)及び精製後(
図15B)後の組換え二重特異性ヘテロ二量体抗体BのLCMSクロマトグラムを示す。SEC精製前、調製物は、完全に組み立てられた抗体及びハーフ抗体の両方を含む。SEC精製後、ハーフ抗体を検出することはできない。
【
図16A】pH7.2の、50mMのHEPES、0.75MのNaCl、0.5Mのアルギニン、0.5Mのプロリン、2.2Mのソルビトール、及び4Mの尿素を含む移動相を用いるSECによる精製前(
図16A)及び精製後(
図16B)後の組換え二重特異性ヘテロ二量体抗体CのLCMSクロマトグラムを示す。SEC精製前、調製物は、完全に組み立てられた抗体及びハーフ抗体の両方を含む。SEC精製後、ハーフ抗体を検出することはできない。
【
図16B】pH7.2の、50mMのHEPES、0.75MのNaCl、0.5Mのアルギニン、0.5Mのプロリン、2.2Mのソルビトール、及び4Mの尿素を含む移動相を用いるSECによる精製前(
図16A)及び精製後(
図16B)後の組換え二重特異性ヘテロ二量体抗体CのLCMSクロマトグラムを示す。SEC精製前、調製物は、完全に組み立てられた抗体及びハーフ抗体の両方を含む。SEC精製後、ハーフ抗体を検出することはできない。
【
図17A】pH7.2の、50mMのHEPES、0.75MのNaCl、0.5Mのアルギニン、0.5Mのプロリン、2.2Mのソルビトール、及び4Mの尿素を含む移動相を用いる分取SECゲル濾過カラムの溶出画分からの組換え二重特異性ヘテロ二量体抗体のSDS-PAGE分析。次の異なる流量でSECを行った:0.02ml/分(
図17A)、0.04ml/分(
図17B)、0.06ml/分(
図17C)、0.08ml/分(
図17D)、0.1ml/分(
図17E)、及び0.2ml/分(
図17F)。「F」=完全に組み立てられたヘテロ二量体抗体。「H」=ハーフ抗体。試料を非還元条件で4~20%勾配トリス-グリシンSDSゲル上にロードした。ハーフ抗体の分離効率は、流量の増加と共に減少する。
【
図17B】pH7.2の、50mMのHEPES、0.75MのNaCl、0.5Mのアルギニン、0.5Mのプロリン、2.2Mのソルビトール、及び4Mの尿素を含む移動相を用いる分取SECゲル濾過カラムの溶出画分からの組換え二重特異性ヘテロ二量体抗体のSDS-PAGE分析。次の異なる流量でSECを行った:0.02ml/分(
図17A)、0.04ml/分(
図17B)、0.06ml/分(
図17C)、0.08ml/分(
図17D)、0.1ml/分(
図17E)、及び0.2ml/分(
図17F)。「F」=完全に組み立てられたヘテロ二量体抗体。「H」=ハーフ抗体。試料を非還元条件で4~20%勾配トリス-グリシンSDSゲル上にロードした。ハーフ抗体の分離効率は、流量の増加と共に減少する。
【
図17C】pH7.2の、50mMのHEPES、0.75MのNaCl、0.5Mのアルギニン、0.5Mのプロリン、2.2Mのソルビトール、及び4Mの尿素を含む移動相を用いる分取SECゲル濾過カラムの溶出画分からの組換え二重特異性ヘテロ二量体抗体のSDS-PAGE分析。次の異なる流量でSECを行った:0.02ml/分(
図17A)、0.04ml/分(
図17B)、0.06ml/分(
図17C)、0.08ml/分(
図17D)、0.1ml/分(
図17E)、及び0.2ml/分(
図17F)。「F」=完全に組み立てられたヘテロ二量体抗体。「H」=ハーフ抗体。試料を非還元条件で4~20%勾配トリス-グリシンSDSゲル上にロードした。ハーフ抗体の分離効率は、流量の増加と共に減少する。
【
図17D】pH7.2の、50mMのHEPES、0.75MのNaCl、0.5Mのアルギニン、0.5Mのプロリン、2.2Mのソルビトール、及び4Mの尿素を含む移動相を用いる分取SECゲル濾過カラムの溶出画分からの組換え二重特異性ヘテロ二量体抗体のSDS-PAGE分析。次の異なる流量でSECを行った:0.02ml/分(
図17A)、0.04ml/分(
図17B)、0.06ml/分(
図17C)、0.08ml/分(
図17D)、0.1ml/分(
図17E)、及び0.2ml/分(
図17F)。「F」=完全に組み立てられたヘテロ二量体抗体。「H」=ハーフ抗体。試料を非還元条件で4~20%勾配トリス-グリシンSDSゲル上にロードした。ハーフ抗体の分離効率は、流量の増加と共に減少する。
【
図17E】pH7.2の、50mMのHEPES、0.75MのNaCl、0.5Mのアルギニン、0.5Mのプロリン、2.2Mのソルビトール、及び4Mの尿素を含む移動相を用いる分取SECゲル濾過カラムの溶出画分からの組換え二重特異性ヘテロ二量体抗体のSDS-PAGE分析。次の異なる流量でSECを行った:0.02ml/分(
図17A)、0.04ml/分(
図17B)、0.06ml/分(
図17C)、0.08ml/分(
図17D)、0.1ml/分(
図17E)、及び0.2ml/分(
図17F)。「F」=完全に組み立てられたヘテロ二量体抗体。「H」=ハーフ抗体。試料を非還元条件で4~20%勾配トリス-グリシンSDSゲル上にロードした。ハーフ抗体の分離効率は、流量の増加と共に減少する。
【
図17F】pH7.2の、50mMのHEPES、0.75MのNaCl、0.5Mのアルギニン、0.5Mのプロリン、2.2Mのソルビトール、及び4Mの尿素を含む移動相を用いる分取SECゲル濾過カラムの溶出画分からの組換え二重特異性ヘテロ二量体抗体のSDS-PAGE分析。次の異なる流量でSECを行った:0.02ml/分(
図17A)、0.04ml/分(
図17B)、0.06ml/分(
図17C)、0.08ml/分(
図17D)、0.1ml/分(
図17E)、及び0.2ml/分(
図17F)。「F」=完全に組み立てられたヘテロ二量体抗体。「H」=ハーフ抗体。試料を非還元条件で4~20%勾配トリス-グリシンSDSゲル上にロードした。ハーフ抗体の分離効率は、流量の増加と共に減少する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、凝集タンパク質及びハーフ抗体などの他の混入物のレベルを最小化する、Fc領域を含有するタンパク質(例えば、抗体及びFc融合タンパク質)の精製手順の開発に部分的に基づいている。Fc領域含有タンパク質を精製するための従来の方法は、一般的にプロテインAアフィニティークロマトグラフィーカラムを使用し、これは、結合されたタンパク質をカラムから溶出するために酸性の強い溶液を必要とする。このような酸性溶液は、多くの場合、タンパク質の凝集、不安定性、及びしばしば沈殿を誘導する。温度シフトを用いて中性pHで結合されたタンパク質の溶出を可能にする改変された温度応答性プロテインA樹脂が開発されたが、そのような改変された樹脂は、樹脂温度を上昇させるのにかなりの時間を必要とするため、大規模な製造操作に適さない。
【0022】
本発明者は、従来のプロテインAクロマトグラフィーの低pH溶出緩衝液の使用及び改変された温度応答性プロテインA樹脂に必要とされる高温を回避する、Fc領域含有タンパク質の精製方法を考案した。本発明の精製方法は、カオトロピック試薬、糖アルコール、及び任意選択により1又は複数のアミノ酸を含む溶出緩衝液を使用する。溶出緩衝液の組成は、温度応答性プロテインA樹脂に結合されたタンパク質を、樹脂温度を35℃より高く上昇させることなく、中性pHで樹脂から除去又は溶出させることを可能にする。また、驚くべきことに、この溶出緩衝液は、抗体をそのハーフ抗体形態から効率よく分離するためにサイズ排除クロマトグラフィーにおいて移動相としても使用され得ることがわかった。
【0023】
したがって、一実施形態では、本発明は、タンパク質及び1又は複数の不純物を含む溶液から、Fc領域を含むタンパク質を精製する方法であって、その溶液を、温度応答性プロテインA材料と、この材料にタンパク質が結合する温度で接触させる工程と、本明細書中に記載の溶出緩衝液により、約35℃未満の温度で材料からタンパク質を溶出する工程とを含む方法を提供する。
【0024】
別の実施形態では、本発明は、抗体をそのハーフ抗体形態から分離する方法であって、本明細書に記載の溶出緩衝液の1つを移動相として用いて、抗体及びそのハーフ抗体形態を含む溶液をゲル濾過マトリックスと接触させる工程と、ゲル濾過マトリックスから溶出画分を収集する工程とを含み、抗体は、溶出画分の1セットで溶出され、ハーフ抗体形態は、溶出画分の別のセットで溶出され、それにより抗体をそのハーフ抗体形態から分離する、方法を提供する。
【0025】
本発明の方法は、免疫グロブリンFc領域を含むタンパク質を精製するのに特に適している。本明細書中で使用される場合、「Fc領域を含むタンパク質」又は「Fc領域含有タンパク質」は、免疫グロブリンFc領域のアミノ酸配列に対応する連続したアミノ酸配列を含むタンパク質又はポリペプチドを指す。用語「Fc領域」は、無傷の抗体のパパイン消化によって生成され得る免疫グロブリン重鎖のC末端領域を指す。免疫グロブリンのFc領域は、一般に、2つの定常ドメイン、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含み、任意選択によりCH4ドメインを含む。特定の実施形態では、Fc領域は、IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4免疫グロブリン由来のFc領域である。いくつかの実施形態では、Fc領域は、ヒトIgG1又はヒトIgG2免疫グロブリン由来のCH2及びCH3ドメインを含む。
【0026】
本発明の方法によって精製され得るFc領域含有タンパク質としては、抗体、Fc融合タンパク質、及び多重特異性抗原結合タンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書中で使用される場合、用語「抗体」は、2つの軽鎖ポリペプチド(それぞれ約25kDa)及び2つの重鎖ポリペプチド(それぞれ約50~70kDa)を含む四量体免疫グロブリンタンパク質を指す。用語「軽鎖」又は「免疫グロブリン軽鎖」は、アミノ末端からカルボキシル末端へ単一の免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)及び単一の免疫グロブリン軽鎖定常ドメイン(CL)を含むポリペプチドを指す。免疫グロブリン軽鎖定常ドメイン(CL)は、カッパ(κ)又はラムダ(λ)であり得る。用語「重鎖」又は「免疫グロブリン重鎖」は、アミノ末端からカルボキシル末端へ単一の免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)、免疫グロブリン重鎖定常ドメイン1(CH1)、免疫グロブリンヒンジ領域、免疫グロブリン重鎖定常ドメイン2(CH2)、免疫グロブリン重鎖定常ドメイン3(CH3)、及び任意選択により免疫グロブリン重鎖定常ドメイン4(CH4)を含むポリペプチドを指す。重鎖は、ミュー(μ)、デルタ(Δ)、ガンマ(γ)、アルファ(α)、及びイプシロン(ε)として分類され、抗体のアイソタイプをそれぞれIgM、IgD、IgG、IgA、及びIgEと定義する。IgGクラス及びIgAクラス抗体は、サブクラス、すなわちIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4、ならびにIgA1及びIgA2にそれぞれさらに分けられる。IgG、IgA、及びIgD抗体の重鎖は、3つのドメイン(CH1、CH2、及びCH3)を有し、IgM及びIgE抗体の重鎖は、4つのドメイン(CH1、CH2、CH3、及びCH4)を有する。免疫グロブリン重鎖定常ドメインは、サブタイプを含む任意の免疫グロブリンアイソタイプ由来であり得る。抗体鎖は、CLドメインとCH1ドメインとの間(すなわち軽鎖と重鎖との間)及び抗体重鎖のヒンジ領域間のポリペプチド間ジスルフィド結合を介して連結されている。
【0027】
本発明の方法によって精製され得る抗体としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、及びヒト抗体が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、抗体は、酸感受性抗体である。本明細書中で使用される場合、「酸感受性抗体」とは、酸性条件(例えば、約6未満のpH)で不安定であるか、凝集するか、又は構造的完全性を失う抗体を指す。特定の実施形態では、抗体は、多重特異性(例えば、二重特異性)ヘテロ二量体抗体である。多重特異性ヘテロ二量体抗体は、2つ以上の異なる抗原に特異的に結合することができ、2つの異なる軽鎖及び2つの異なる重鎖を含む抗体を指す。例えば、いくつかの実施形態では、二重特異性ヘテロ二量体抗体は、第1の抗原に特異的に結合する第1の抗体由来の軽鎖及び重鎖、ならびに第2の抗原に特異的に結合する第2の抗体由来の軽鎖及び重鎖を含む(
図9A及び9Bの右側の概略図を参照されたい。ここで、塗りつぶされた記号は、第1の抗原に結合する部位を形成する軽鎖及び重鎖を表し、塗りつぶされていない記号は、第2の抗原に結合する部位を形成する軽鎖及び重鎖を表す)。二重特異性ヘテロ二量体抗体は、2つの軽鎖及び2つの重鎖を同じ細胞中で共発現させるか、又はポリペプチド鎖を別々に発現させ、続いてそれらを組み立てることによって生成することができる。ヘテロ二量体形成を促進するために、ポリペプチド鎖を、例えば「ノブイントゥホール(knobs-into-holes)」法又は電荷対形成法を用いて操作することができる。そのような方法は、当該技術分野で知られており、国際公開第96/027011号パンフレット、Ridgway et al.,Protein Eng.,Vol.9:617-621,1996、Merchant et al.,Nat,Biotechnol.,Vol.16:677-681,1998、国際公開第2009/089004号パンフレット、国際公開第2014/081955号パンフレット、及びGunasekaran et al.,J.Biol.Chem.,Vol.285:19637-19646,2010に記載されており、これらの文献は、全て参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0028】
特定の実施形態では、本発明の方法によって精製される抗体は、モノクローナル抗体である。本明細書で使用される用語「モノクローナル抗体」(又は「mAb」)は、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体を指し、すなわち、集団を構成する個々の抗体は、少量存在し得る自然に発生可能な変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は、非常に特異的であり、通常、異なるエピトープに対する異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、個々の抗原部位又はエピトープに対するものである。モノクローナル抗体は、当該技術分野で知られた任意の手法を用いて、例えば免疫スケジュールの完了後にトランスジェニック動物から採取した脾臓細胞を不死化することによって生成され得る。脾臓細胞は、当該技術分野で知られた任意の手法を用いて、例えばそれらを骨髄腫細胞と融合してハイブリドーマを生成することによって不死化され得る。ハイブリドーマ生成融合手順に使用するための骨髄腫細胞は、好ましくは、非抗体産生性であり、高い融合効率を有し、かつ所望の融合細胞(ハイブリドーマ)のみの増殖を支持する特定の選択培地においてそれらを増殖不可能にする酵素欠損を有する。マウス融合における使用に好適な細胞株の例としては、Sp-20、P3-X63/Ag8、P3-X63-Ag8.653、NS1/1.Ag4 1、Sp210-Ag14、FO、NSO/U、MPC-11、MPC11-X45-GTG1.7及びS194/5XXO Bulが挙げられ、ラット融合において使用される細胞株の例としては、R210.RCY3、Y3-Ag1.2.3、IR983F及び4B210が挙げられる。細胞融合に有用な他の細胞株は、U-266、GM1500-GRG2、LICR-LON-HMy2及びUC729-6である。
【0029】
いくつかの実施形態では、モノクローナル抗体は、ヒト化抗体であり得る。「ヒト化抗体」は、領域(例えば、フレームワーク領域)がヒト免疫グロブリン由来の対応する領域を含むように改変された抗体を指す。一般に、ヒト化抗体は、最初に非ヒト動物で作られたモノクローナル抗体から生成することができる。通常、抗体の非抗原認識部分に由来する、このモノクローナル抗体の特定のアミノ酸残基は、対応するアイソタイプのヒト抗体における対応する残基に相同であるように改変される。ヒト化は、例えば、齧歯類可変領域の少なくとも一部をヒト抗体の対応する領域に置換することにより、種々の方法を用いて行うことができる(例えば、米国特許第5,585,089号明細書及び同第5,693,762号明細書、Jones et al.,Nature,Vol.321:522-525,1986;Riechmann et al.,Nature,Vol.332:323-27,1988;Verhoeyen et al.,Science,Vol.239:1534-1536,1988を参照されたい)。別の種において生成された抗体の軽鎖及び重鎖可変領域のCDRは、コンセンサスヒトフレームワーク領域(FR)に結合することができる。コンセンサスヒトFRを作製するために、いくつかのヒト重鎖又は軽鎖アミノ酸配列由来のFRをアラインして、コンセンサスアミノ酸配列を同定し得る。
【0030】
他の実施形態では、モノクローナル抗体は、完全ヒト抗体であり得る。「完全ヒト抗体」は、ヒト生殖系列の免疫グロブリン配列に由来するか、又はその指標となる可変領域及び定常領域を含む抗体である。完全ヒト抗体は、内因性免疫グロブリン産生の非存在下でヒト抗体のレパートリーを産生することができるトランスジェニック動物(通常、マウス)を免疫化することによって生成することができる。この目的のための抗原は、通常、6個以上の連続するアミノ酸を有し、任意選択によりハプテンなどのキャリアに結合される。例えば、Jakobovits et al.,1993,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:2551-2555、Jakobovits et al.,1993,Nature 362:255-258、及びBruggermann et al.,1993,Year in Immunol.7:33を参照されたい。このような方法の一例では、トランスジェニック動物は、マウスの免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖をコードする内因性マウス免疫グロブリン遺伝子座を無能力化し、マウスのゲノム中に、ヒトの重鎖及び軽鎖タンパク質をコードする遺伝子座を含むヒトゲノムDNAの大きい断片を挿入することによって生産される。次いで、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の完全相補体より少ない相補体を有する部分的に改変された動物を交雑して、所望の免疫系を全て改変した動物を得る。免疫原を投与すると、これらのトランスジェニック動物は、免疫原に対して免疫特異的であるが、マウスでなくヒトの、可変領域を含むアミノ酸配列を有する抗体を産生する。このような方法のさらなる詳細については、例えば、国際公開第96/33735号パンフレット及び国際公開第94/02602号パンフレットを参照されたい。ヒト抗体を作るためのトランスジェニックマウスに関連するさらなる方法は、米国特許第5,545,807号明細書、同第6,713,610号明細書、同第6,673,986号明細書、同第6,162,963号明細書、同第5,939,598号明細書、同第5,545,807号明細書、同第6,300,129号明細書、同第6,255,458号明細書、同第5,877,397号明細書、同第5,874,299及び同第5,545,806号明細書、PCT公報の国際公開第91/10741号パンフレット、国際公開第90/04036号パンフレット、国際公開第94/02602号パンフレット、国際公開第96/30498号パンフレット、国際公開第98/24893号パンフレット、ならびに欧州特許第546073B1号明細書及び欧州特許出願公開第546073A1号明細書に記載されている。
【0031】
ヒト由来抗体は又はジディスプレイ技術を用いて生成することができる。ファージディスプレイは、例えば、Dower et al.による国際公開第91/17271号パンフレット、McCafferty et al.,による国際公開第92/01047号パンフレット、及びCaton and Koprowski,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87:6450-6454(1990)に記載されており、これらの各文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。ファージ技術によって生成される抗体は、通常、細菌において、抗原結合フラグメント、例えばFv又はFabフラグメントとして生成され、したがってエフェクタ機能を欠く。エフェクタ機能は、2つの戦略の1つによって導入することができる:フラグメントは、必要に応じて、哺乳動物細胞で発現する完全な抗体へ又はエフェクタ機能を誘発し得る第2の結合部位を有する二重特異性抗体フラグメントへ操作され得る。通常、抗体のFdフラグメント(VH-CH1)及び軽鎖(VL-CL)は、PCRによって別々にクローン化され、コンビナトリアルファージディスプレイライブラリーでランダムに組み換えられ、これは、その後、特定の抗原に結合するために選択され得る。抗体フラグメントは、ファージ表面で発現し、抗原結合によるFv又はFab(したがって抗体フラグメントをコードするDNAを含むファージ)の選択は、パンニングと呼ばれる手順である抗原結合及び再増幅を数ラウンド行うことによって達成される。抗原に特異的な抗体フラグメントは、濃縮され、最終的に単離される。ファージディスプレイ技術はまた、「ガイデッドセレクション(guided selection)」と呼ばれる、齧歯類モノクローナル抗体のヒト化のためのアプローチにおいて使用することができる(Jespers,L.S.,et al.,Bio/Technology 12,899-903(1994)を参照されたい)。このために、マウスモノクローナル抗体のFdフラグメントは、ヒト軽鎖ライブラリーと組み合わせて提示され得、次いで、得られたハイブリッドFabライブラリーは、抗原を用いて選択され得る。これにより、マウスFdフラグメントは、選択を誘導するテンプレートを提供する。続いて、選択されたヒト軽鎖は、ヒトFdフラグメントライブラリーと組み合わされる。得られたライブラリーの選択により、完全にヒトFabが得られる。
【0032】
特定の実施形態では、本発明の方法によって精製されるFc領域を含むタンパク質は、Fc融合タンパク質である。「Fc融合タンパク質」は、異種ポリペプチドに融合又は連結されたFc領域を含有するタンパク質である。一般に、融合タンパク質は、1つのタンパク質(例えば、Fc領域)由来のポリペプチド配列をコードするヌクレオチド配列が、異なるタンパク質由来のポリペプチド配列をコードするヌクレオチド配列とインフレームで付加され、任意選択によりリンカーによって分離される、融合遺伝子から発現する。この融合遺伝子は、その後、組換え宿主細胞によって発現されて、単一の融合タンパク質を産生し得る。Fc領域に融合した異種ポリペプチドは、免疫グロブリンタンパク質以外のタンパク質由来のポリペプチドであり得る。例えば、異種ポリペプチドは、リガンドポリペプチド、受容体ポリペプチド、ホルモン、サイトカイン、成長因子、酵素、又は免疫グロブリンの成分ではない他のポリペプチドであり得る。このようなFc融合タンパク質は、受容体もしくはその断片、又は受容体由来のリガンド、例えば、限定はされないが、以下の受容体のいずれか1つに融合したFc領域を含み得る:TNFRの両形態(p55及びp75と称される)、インターロイキン-1受容体I型及びII型(欧州特許第0460846号明細書、米国特許第4,968,607号明細書、及び米国特許第5,767,064号明細書に記載され、これらの文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、インターロイキン-2受容体、インターロイキン-4受容体(欧州特許第0367566号明細書、及び米国特許第5,856,296号明細書に記載され、これらの文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、インターロイキン-15受容体、インターロイキン-17受容体、インターロイキン-18受容体、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子受容体、顆粒球コロニー刺激因子受容体、オンコスタチン-M及び白血病阻害因子受容体、NF-カッパBの受容体活性化因子(RANK、米国特許第6,271,349号明細書に記載され、この文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、VEGF受容体、EGF受容体、FGF受容体、TRAIL受容体(TRAIL受容体1、2、3及び4を含む)、及びFas又はアポトーシス誘導受容体(AIR)などのデスドメインを含む受容体。Fc融合タンパク質はまた、国際公開第2000/24782号パンフレット(これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されているものなどのペプチボディを含む。
【0033】
他の実施形態では、Fc領域が融合又は連結される異種ポリペプチドは、Fc領域が由来する免疫グロブリン以外の免疫グロブリンタンパク質又はその断片由来のポリペプチドであり得る。例えば、異種ポリペプチドは、Fc領域が得られる抗体と異なる抗体由来の重鎖及び/又は軽鎖可変領域であり得る。特定の実施形態では、Fc融合タンパク質は、少なくとも1つの一本鎖Fvフラグメント(scFvフラグメント)を含む。「一本鎖可変抗体フラグメント」又は「scFvフラグメント」は、抗体のVH及びVL領域を含み、これらの領域は、単一のポリペプチド鎖に存在し、任意選択により、VH及びVL領域間において、Fvが抗原結合のための所望の構造を形成することを可能にするペプチドリンカーを含む(例えば、Bird et al.,Science,Vol.242:423-426,1988、及びHuston et al.,Proc.。Natl.Acad.Sci.USA,Vol.85:5879-5883,1988を参照されたい)。いくつかの実施形態では、Fc融合タンパク質は、2つのscFvフラグメントを含む。他の実施形態では、Fc融合タンパク質は、3つのscFvフラグメントを含む。さらに他の実施形態では、Fc融合タンパク質は、4つのscFvフラグメントを含む。
【0034】
抗体可変領域の1又は複数のscFvフラグメント又は他のフラグメントを含むFc融合タンパク質は、1又は複数の抗原に対する複数の結合部位を有し得る。したがって、このようなFc融合タンパク質としては、米国特許出願公開第20030133939号明細書に記載されている小モジュラー免疫薬剤、国際公開第2007/146968号パンフレットに記載されている一本鎖多価結合タンパク質、国際公開第2014144722号パンフレットに記載されている二重特異性二価scFv-Fc分子、ならびにSpiess et al.,Mol Immunol.,Vol.67:95-106,2015及びKontermann,mAbs,Vol.4:182-197,2012に記載されているIgG-scFv、IgG-Fab、2scFv-IgG、4scFv-IgG、VH-IgG、IgG-VH、及びFab-scFv-Fcなどの種々の二重特異性抗体分子などの多重特異性多価抗原結合タンパク質を挙げることができる。一実施形態では、本発明の方法によって精製されるFc融合タンパク質は、IgG-scFv結合タンパク質である。本明細書中で使用される場合、「IgG-scFv結合タンパク質」は、2つの一本鎖可変フラグメント(scFv)を含み、その各々は、別のペプチドリンカーを介して第2の抗体の重鎖のカルボキシル末端に融合された、ペプチドリンカーによって連結された第1の抗体由来の可変ドメインを含む結合タンパク質である。IgG-scFv結合タンパク質の例を
図1に示す。別の実施形態では、本発明の方法によって精製されるFc融合タンパク質は、Fv-Fc結合タンパク質である。「Fv-Fc結合タンパク質」は、任意選択により、リンカーを介してFc領域に融合した少なくとも1つのscFvフラグメントを含む。特定の実施形態では、Fv-Fc結合タンパク質は、任意選択により、リンカーペプチドを介して互いに融合した2つのscFvフラグメントを含み、これは、次にFc領域のN末端又はC末端に融合する。このような二価Fv-Fc分子は、国際公開第2014144722号パンフレットに記載されており、この文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。このような一本鎖二重特異性Fv-Fc結合タンパク質の一例を
図5に示す。
【0035】
本明細書に記載の方法を使用して精製され得る抗体及びFc融合タンパク質は、1又は複数のタンパク質、例えば、限定はされないが、CD2、CD3、CD4、CD8、CD11a、CD14、CD18、CD19、CD20、CD22、CD23、CD28、CD25、CD33、CD40、CD44、CD52、CD80(B7.1)、CD86(B7.2)、CD147、IL-1α、IL-1β、IL-4、IL-5、IL-8、IL-10、IL-13、IL-2受容体、IL-4受容体、IL-6受容体、IL-13受容体、IL-I8受容体サブユニット、アンジオポイエチン(例えば、アンジオポイエチン-1、アンジオポイエチン-2、又はアンジオポイエチン-4)、PDGF-β、VEGF、TGF、TGF-β2、TGF-β1、EGF受容体、VEGF受容体、FGF受容体、C5相補体、ベータ-クロトー、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)、CGRP受容体、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド1型受容体(PAC1受容体)、IgE、腫瘍抗原、例えば、腫瘍抗原CA125、腫瘍抗原MUC1、PEM抗原、PD-1、LCG(これは、肺癌に関連して発現する遺伝子産物である)、HER-2、腫瘍関連糖タンパク質TAG-72、SK-l抗原、インテグリンアルファ4ベータ7、インテグリンVLA-4、B2インテグリン、TRAIL受容体1、2、3及び4、RANK、RANKリガンド、スクレロスチン、ディックコプフ(Dickkopf)-1(DKK-1)、TLA1、TNF-α、接着分子VAP-l、上皮細胞接着分子(EpCAM)、細胞間接着分子-3(ICAM-3)、ロイコインテグリンアドヘシン、血小板糖タンパク質gp IIb/IIIa、心臓ミオシン重鎖、PCSK9、上皮小体ホルモン、rNAPc2、MHC I、癌胎児性抗原(CEA)、アルファ-フェトプロテイン(AFP)、腫瘍壊死因子(TNF)、CTLA-4(これは、細胞障害性Tリンパ球関連抗原である)、Fc-γ-l受容体、HLA-DR10ベータ、HLA-DR抗原、L-セレクチン、IPN-γ、RSウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、ならびにストレプトコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)に結合し得る。
【0036】
本明細書に記載の方法によって精製され得るFc領域含有タンパク質の他の例としては、限定はされないが、アフリベルセプト(Eylea(登録商標))、アレムツズマブ(Campath(登録商標))、ベバシズマブ(Avastin(登録商標))、セツキシマブ(Erbitux(登録商標))、パニツムマブ(Vectibix(登録商標))、ゲムツズマブ(Mylotarg(登録商標))、エボロクマブ(Repatha(登録商標))、アリロクマブ(Praluent(登録商標))、デノスマブ(Prolia(登録商標))、リツキシマブ(Rituxan(登録商標))、トシツモマブ(Bexxar(登録商標))、イブリツモマブ(Zevalin(登録商標))、トラスツズマブ(Herceptin(登録商標))、エクリズマブ(Soliris(登録商標))、アダリムマブ(Humira(登録商標))、インフリキシマブ(Remicade(登録商標))、エタネルセプト(Enbrel(登録商標))、ダクリズマブ(Zenapax(登録商標))、バシリキシマブ(Simulect(登録商標))、パリビズマブ(Synagis(登録商標))、オマリズマブ(Xolair(登録商標))、アブシキシマブ(Reopro(登録商標))、エファリズマブ(Raptiva(登録商標))、ペムブロリズマブ(Keytruda(登録商標))、ニボルマブ(Opdivo(登録商標))、ナタリズマブ(Tysabri(登録商標))、ブリナツモマブ(Blincyto(登録商標))、及びロミプロスチム(Nplate(登録商標))が挙げられる。
【0037】
精製されるFc領域含有タンパク質は、組換え手段により、すなわちタンパク質を産生するように遺伝子操作された生宿主細胞により産生され得る。タンパク質を産生する細胞を遺伝子操作する方法は、当該技術分野でよく知られている。例えば、Ausabel et al.,eds.(1990),Current Protocols in Molecular Biology(Wiley,New York)を参照されたい。そのような方法は、タンパク質をコードし、それを発現させる核酸を生宿主細胞へ導入することを含む。これらの宿主細胞は、培養で増殖させた原核生物、酵母又は高等真核細胞であり得る。原核生物の宿主細胞としては、グラム陰性又はグラム陽性微生物などの真正細菌、例えば腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、例えばエシェリキア属(Escherichia)、例えば大腸菌(E.coli)、エンテロバクター属(Enterobacter)、エルウィニア属(Erwinia)、クレブシエラ属(Klebsiella)、プロテウス属(Proteus)、サルモネラ属(Salmonella)、例えばサルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、セラチア属(Serratia)、例えばセラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)、及びシゲラ属(Shigella)、ならびにバチルス属(Bacillus)、例えばB.ズブチリス(B.subtilis)、B.エイケニフォルミス(B.licheniformis)、シュードモナス属(Pseudomonas)及びストレプトミセス属(Streptomyces)が挙げられる。サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)又は一般的なパン酵母は、下等真核生物宿主微生物の中で最も一般的に使用される。しかしながら、ピチア属(Pichia)、例えばP.パストリス(P.pastoris)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、クロイベロミセス属(Kluyveromyces)、ヤロウイア属(Yarrowia)、カンジダ属(Candida)、トリコデルマ・レシア(Trichoderma reesia)、ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)、シュヴァンニオミセス属(Schwanniomyces)、例えばシュヴァンニオミセス・オシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis)、ならびに糸状菌、例えばニューロスポラ属(Neurospora)、ペニシリウム属(Penicillium)、トリポクラジウム属(Tolypocladium)、及びアスペルギルス属(Aspergillus)宿主、例えばA.ニドゥランス(A.nidulans)、A.ニガー(A.niger)などの多くの他の属、種及び株が一般に利用可能であり、ここで有用である、特定の実施形態では、組換えタンパク質は、動物細胞、特に哺乳動物細胞において産生される。発現の宿主として利用可能な哺乳動物細胞株は、当該技術分野でよく知られており、限定はされないが、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)から入手可能な不死化細胞株、例えば、限定はされないが、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、例えばCHOK1細胞(ATCC CCL61)、DXB-11、DG-44、及びチャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO、Urlaub et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216,1980);SV40(COS-7、ATCC CRL 1651)によって形質転換されたサル腎臓CV1株;ヒト胎児性腎臓株(懸濁培養液中の増殖用としてサブクローニングされた293又は293細胞(Graham et al.,J.Gen Virol.36:59,1977);ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL 10);マウスセルトリ細胞(TM4、Mather,Biol.Reprod.23:243-251,1980);サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587);ヒト頸癌細胞(HELA、ATCC CCL 2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL 34);バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75);ヒト肝細胞癌細胞(Hep G2、HB 8065);マウス乳癌(MMT 060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Mather et al.,Annals N.Y Acad.Sci.383:44-68,1982);MRC 5細胞又はFS4細胞;哺乳動物骨髄腫細胞、及び多くの他の細胞株が挙げられる。1つの特定の実施形態では、本発明の方法によって精製されるタンパク質は、哺乳動物細胞株、特にCHO細胞株において組換え技術によって産生される。
【0038】
本発明の方法は、溶液中の1又は複数の不純物から標的タンパク質(例えば、Fc領域含有タンパク質)を精製又は分離するために使用することができる。本明細書中で使用される場合、「タンパク質を精製する」とは、標的タンパク質と異なり、最終タンパク質組成物から排除することが望ましい物質の量を減少させるプロセスを指す。このような不純物又は混入物としては、タンパク質(例えば、可溶性もしくは不溶性タンパク質、又はタンパク質の断片、例えばハーフ抗体などの目的タンパク質の望ましくない断片)、脂質(例えば、細胞壁物質)、エンドトキシン、ウイルス、核酸(例えば、染色体又は染色体外DNA、t-RNA、rRNA、もしくはmRNA)、又はこれらの組み合わせ、あるいは目的の標的Fc領域含有タンパク質と異なる任意の他の物質を挙げることができる。いくつかの実施形態では、不純物又は混入物は、目的のFc領域含有タンパク質を産生した宿主細胞に由来し得る。例えば、いくつかの実施形態では、不純物又は混入物は、宿主細胞タンパク質、宿主細胞核酸(DNAもしくはRNA)、又は目的のFc領域含有タンパク質を発現する原核もしくは真核宿主細胞の他の細胞成分である。いくつかの実施形態では、不純物又は混入物は、宿主細胞に由来せず、例えば、不純物又は混入物は、細胞培養培地又は増殖培地からのタンパク質もしくは他の物質、緩衝液、又は培地添加物であり得る。他の実施形態では、不純物又は混入物は、タンパク質分解断片又はタンパク質の組み立てられていない成分(例えば、軽鎖、重鎖、半分子又はその断片)などのFc領域含有タンパク質の望ましくない形態であり得る。本明細書で使用される用語「不純物」は、単一の望ましくない物質、又はいくつかの望ましくない物質の組合せを含み得る。混入タンパク質及び核酸(例えば、宿主細胞タンパク質及び核酸)を検出する好適な方法は、当業者に知られている。このような方法としては、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、ゲル電気泳動法、及び定量的ポリメラーゼ連鎖反応法が挙げられるが、これらに限定されない。サイズ排除高速液体クロマトグラフィー及びキャピラリー電気泳動法を使用して、Fc領域含有タンパク質の高分子量種(例えば、凝集体)及び低分子量種(断片、組み立てられていない成分)を測定することができる。
【0039】
標的Fc領域含有タンパク質が精製され得る溶液は、タンパク質と、その存在が望ましくない1又は複数の不純物又は混入物とを含有する任意の溶液であり得る。タンパク質及び1又は複数の不純物を含有する溶液は、標的タンパク質が産生された細胞培養物から生じた任意の溶液を含み得る。例えば、タンパク質を産生するために組換え手段によって改変された宿主細胞を培養すると、Fc領域含有タンパク質は、細胞内、細胞周辺腔で産生されるか、又は培地中に直接分泌され得る。タンパク質が細胞内で産生される場合、細胞は、当業者に知られた方法により溶解されて、Fc領域含有タンパク質を含有する細胞溶解物を生成することができる。したがって、一実施形態では、精製されるFc領域含有タンパク質を含む溶液は、細胞培養溶解物である。いくつかの実施形態では、本明細書中に記載の精製方法の前に、宿主細胞、溶解断片、及び他の大きい粒子は、例えば、遠心分離、精密濾過、又は限外濾過により、細胞培養溶解物から除去され得る。他の実施形態では、組換えタンパク質は、宿主細胞によって培養培地中に分泌される。このような実施形態では、組換え宿主細胞及び他の粒子状物質を、Fc領域含有タンパク質を含有する細胞培養培地から、例えばタンデンシャルフロー濾過又は遠心分離によって分離して、細胞培養上清を生成することができる。したがって、いくつかの実施形態では、精製されるFc領域含有タンパク質を含む溶液は、細胞培養上清である。細胞培養溶解物、細胞培養上清、又はFc領域含有タンパク質を含有する他の溶液は、本発明の精製方法に先立って、微細な粒子状物質及び可溶性凝集物を除去するためにさらに清澄化され得る。いくつかの実施形態では、溶液の清澄化は、約0.1μm~約0.5μmの細孔径を有する膜、好ましくは約0.22μmの細孔径を有する膜で溶液を濾過することによって達成することができる。
【0040】
特定の実施形態では、Fc領域含有タンパク質及び1又は複数の不純物を含有する溶液は、タンパク質を発現する宿主細胞が培養されているバイオリアクターからの回収流又はプールである。「回収流」又は「回収プール」は、Fc領域含有タンパク質から細胞、細胞破片、又は他の大きい粒子を分離する1又は複数の操作が行われた溶液を指す。このような操作としては、凝集、遠心分離、及び種々の形態の濾過(例えば、デプス濾過、タンジェンシャルフロー精密濾過、及びタンジェンシャルフロー限外濾過)など、宿主細胞培養物から組換えタンパク質を回収するための当業者に知られた標準的な操作が挙げられる。いくつかの実施形態では、タンパク質及び1又は複数の不純物を含有する溶液は、工業規模のバイオリアクター(例えば、生産バイオリアクター)からの回収流又は回収プールである。工業規模のバイオリアクターは、通常、500リットルを超える、特に2,000リットル~20,000リットルの体積の組換えタンパク質を生産する。1つの特定の実施形態では、本発明の方法によって精製される1又は複数の不純物及びタンパク質を含む溶液は、約2,000リットル以上の容量を有する生産バイオリアクターからの回収流又は回収プールである。
【0041】
特定の実施形態では、本発明の方法は、精製されるタンパク質を含む溶液を温度応答性プロテインA材料と接触させる工程を含む。「温度応答性プロテインA材料」は、タンパク質のFc領域に結合する能力が温度と共に変化するように改変された、プロテインAの変異型、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)株に見出される細胞壁タンパク質を指す。このような温度応答性プロテインA変異体は、米国特許第8,198,409号明細書に記載されており、この文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態では、温度応答性プロテインA材料は、低温、例えば約0~約15℃でのFc領域結合能が、より高い温度、例えば約35℃以上でのFc領域結合能と異なる変異型プロテインAを含む。特定の実施形態では、温度応答性プロテインA材料は、下記の表1に列挙する配列のいずれかのアミノ配列を含む変異型プロテインAを含む。一実施形態では、変異型プロテインAは、配列番号1のアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、変異型プロテインAは、配列番号2のアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、変異型プロテインAは、配列番号4のアミノ酸配列を含む。さらに別の実施形態では、変異型プロテインAは、配列番号6のアミノ酸配列を含む。
【0042】
【0043】
温度応答性プロテインA材料は、例えば、ペプチド合成又は組換え技術によって合成的に作製することができる。あるいは、温度応答性プロテインA材料は、例えば、Nomadic Bioscience Co.,Ltd.(Byzen Pro(登録商標)温度応答性プロテインA樹脂)から商業的に入手することができる。いくつかの実施形態では、温度応答性プロテインA材料は、固相に固定化される。固相としては、ビーズ、樹脂、ゲル、粒子、膜、チューブ、プレート、及びフィルムを挙げることができるが、これらに限定されない。一実施形態では、温度応答性プロテインAが固定される固相は、ビーズ、特に磁気ビーズである。別の実施形態では、温度応答性プロテインAが固定される固相は、樹脂である。温度応答性プロテインA材料がビーズ、樹脂、粒子、又は容器に充填しやすい他の固相に固定化される特定の実施形態では、温度応答性プロテインA材料を含む固相は、カラムなどの容器に充填又はロードされる。
【0044】
固相を製造できる好適な材料としては、ガラス、シリカ(例えば、シリカゲル)、アガロース、デキストラン、及びセルロースなどの多糖類(例えば、多糖マトリックス)、ポリアクリルアミド、メチルメタクリレート及びポリスチレン-ジビニルベンゼンコポリマーなどの有機ポリマーが挙げられる。温度応答性プロテインA材料を種々の固相に固定化する方法は、当業者に知られており、官能性カップリング基(例えば、カルボキシル基又はチオール基)で固相の材料を活性化する方法、ならびに米国特許出願公開第2015/0218208号明細書及び同第2013/0317172号明細書に記載される他の方法を挙げることができる。
【0045】
本明細書中で使用される場合、Fc領域含有タンパク質を含む溶液を温度応答性プロテインA材料と接触させるか、又はFc領域含有タンパク質を温度応答性プロテインA材料に吸着させることは、Fc領域含有タンパク質が材料に結合するような条件下でタンパク質を温度応答性プロテインA材料と混合することを意味する。特に、Fc領域含有タンパク質は、温度応答性プロテインA材料と、タンパク質が材料に結合する温度、例えば約0℃~約15℃、約1℃~約12℃、又は約2℃~約8℃の温度で混合される。いくつかの実施形態では、Fc領域含有タンパク質は、約10℃以下の温度で温度応答性プロテインA材料と接触されるか又はそれに吸着される。特定の実施形態では、Fc領域含有タンパク質は、約1℃~約6℃の温度で温度応答性プロテインA材料と接触されるか又はそれに吸着される。一実施形態では、Fc領域含有タンパク質は、約4℃の温度で温度応答性プロテインA材料と接触されるか又はそれに吸着される。
【0046】
特定の実施形態では、温度応答性プロテインA材料は、精製されるFc領域含有タンパク質を含む溶液と接触させる前に好適な緩衝液で平衡化され得る。このような好適な平衡化緩衝液の1つは、pH7.2のリン酸緩衝食塩水である。他の好適な平衡化緩衝液としては、pH約5~約9、好ましくはpH約6.0~約8.0、より好ましくはpH約6.5~約7.5で生理食塩濃度(例えば、150mMのNaCl)を含む約0.5mM~約100mMの濃度のトリス、BIS、及びHEPESが挙げられる。
【0047】
Fc領域含有タンパク質が温度応答性プロテインA材料に結合されると、材料から溶出させる前に、任意選択により、結合された材料を1又は複数の洗浄溶液で洗浄することができる。通常、1又は複数の洗浄溶液は、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、又は塩化ナトリウムなどの塩を含む中性pH(例えば、約6.5~約7.5)の緩衝液である。洗浄溶液中の塩の好適な濃度は、約0.1M~約2M、約0.5M~約2M、約0.75M~約1.5M、又は約0.2M~約0.6Mである。特定の実施形態では、1又は複数の洗浄溶液は、約0.5M~約2Mの濃度の塩化ナトリウムを含む。いくつかの実施形態では、1又は複数の洗浄溶液は、約0.1M~約0.8Mの濃度の塩化ナトリウムを含む。一実施形態では、1又は複数の洗浄溶液は、pH約7~約7.5で、約10~約25mMのリン酸緩衝液及び約0.1M~約0.8MのNaClを含む。別の実施形態では、1又は複数の洗浄溶液は、pH約7~約7.5で約20~約50mMのトリス緩衝液及び約0.1M~約0.8MのNaClを含む。
【0048】
1又は複数の洗浄緩衝液はまた、Fc領域含有タンパク質と温度応答性プロテインA材料との結合相互作用に大きい影響を及ぼすことなく、温度応答性プロテインA材料からの不純物の除去を促進する他の成分を含み得る。このような追加の成分としては、二価カチオン(例えば、カルシウム、マグネシウム、及びニッケル)、洗剤(例えば、ポリソルベート20もしくはポリソルベート80)、又はポリマー(例えば、ポリエチレングリコール)が挙げられ得る。特定の実施形態では、1又は複数の洗浄溶液の温度は、Fc領域含有タンパク質が温度応答性プロテインA材料に吸着される温度と同じ温度(例えば、0℃~15℃)である。他の実施形態では、1又は複数の洗浄溶液の温度は、約15℃~25℃である。さらに他の実施形態では、1又は複数の洗浄溶液の温度は、25℃を超えず、すなわち、1又は複数の洗浄溶液の温度は、25℃以下、例えば約1℃~約25℃である。
【0049】
Fc領域含有タンパク質が温度応答性プロテインA材料に結合し、結合された材料が任意選択で上記のように洗浄されると、Fc領域含有タンパク質は、本明細書に記載の溶出緩衝液を使用して温度応答性プロテインA材料から除去される。通常、温度応答性プロテインA樹脂からFc領域含有タンパク質を溶出させるには、樹脂の温度を35℃以上に上昇させる必要がある。米国特許第8,198,409号明細書、及びKoguma et al.,Journal of Chromatography A,Vol.1305:149-153,2013を参照されたい。しかしながら、以下に詳細に記載する溶出緩衝液の組成は、温度応答性プロテインA樹脂に結合されたタンパク質を樹脂から、樹脂の温度を35℃超に上昇させることなく中性pHで除去させることができる。したがって、特定の実施形態では、本発明の方法は、温度応答性プロテインA材料から、結合されたFc領域含有タンパク質を約35℃未満の温度で溶出する工程を含む。例えば、いくつかの実施形態では、タンパク質は、約1℃~約34℃、約4℃~約32℃、約10℃~約30℃、又は約15℃~約25℃の温度で温度応答性プロテインA材料から溶出される。特定の実施形態では、タンパク質は、約30℃未満の温度、例えば約1℃~約25℃の温度で温度応答性プロテインA材料から溶出される。いくつかの実施形態では、タンパク質は、約20℃~約25℃の温度で温度応答性プロテインA材料から溶出される。他の実施形態では、タンパク質は、約15℃~約22℃の温度で温度応答性プロテインA材料から溶出される。特定の実施形態では、タンパク質は、約10℃未満の温度、例えば約1℃~約8℃の温度で温度応答性プロテインA材料から溶出される。いくつかの実施形態では、タンパク質は、約1℃~約6℃の温度で温度応答性プロテインA材料から溶出される。他の実施形態では、タンパク質は、約2℃~約8℃の温度で温度応答性プロテインA材料から溶出される。いくつかの実施形態では、タンパク質は、温度応答性プロテインA材料から、タンパク質が材料に結合された温度と同じ温度で溶出される(すなわち、材料の温度は、吸着工程と溶出工程との間で変わらない)。
【0050】
いくつかの実施形態では、Fc領域含有タンパク質は、以下に詳細に記載する溶出緩衝液により、温度応答性プロテインA材料から定組成溶出され得る。代替の実施形態では、Fc領域含有タンパク質は、直線勾配(例えば、本明細書に記載される洗浄溶液に類似した組成を有する溶液の100%で開始し、以下に詳細に記載する溶出緩衝液の100%で終わる)を用いて、温度応答性プロテインA材料から溶出され得る。
【0051】
温度応答性プロテインA材料からFc領域含有タンパク質を除去するために使用される溶出緩衝液は、通常、約6.5~約7.5のpHの緩衝溶液である。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液のpHは、約6.8~約7.5である。他の実施形態では、溶出緩衝液のpHは、約7.2~約7.5である。特定の一実施形態では、溶出緩衝液のpHは、約7.0~約7.4である。緩衝液が、緩衝液のpHを目標pH範囲に維持できることを条件として、いかなる緩衝液も使用することができる(例えば、pKa値が6~8の緩衝液)。本発明の方法における溶出緩衝液の成分として使用することができる、中性pH範囲に緩衝する好適な緩衝剤としては、限定はされないが、HEPES(N-[2-ヒドロキシエチル]ピペラジン-N’-[2-エタンスルホン酸])、トリス、リン酸塩、クエン酸塩、MES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)、BES(N、N-ビス[2-ヒドロキシエチル]-2-アミノエタンスルホン酸)、PIPES(ピペラジン-N、N’-ビス(2-エタンスルホン酸))、トリシン(N-トリス[ヒドロキシメチル]メチルグリシン)、ビシン(N、N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン)、TES(N-トリス[ヒドロキシメチル]メチル-2-アミノエタンスルホン酸)、TAPSO(3-[N-トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)、ビス-トリス(ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ-トリス(ヒドロキシメチル)メタン)、及びMOPS(3-[N-モルホリノ]プロパンスルホン酸)が挙げられる。緩衝剤は、約5mM~約200mM、約10mM~約150mM、約15mM~約100mM、約20mM~約75mM、又は約25mM~約50mMの濃度で存在し得る。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、HEPES緩衝剤を例えば約15mM~約100mMの濃度で含む。他の実施形態では、溶出緩衝液は、トリス緩衝剤を例えば約15mM~約50mMの濃度で含む。
【0052】
種々の実施形態では、溶出緩衝液は、カオトロピック試薬を含む。「カオトロピック試薬」は、水分子間の水素結合ネットワークを破壊し、水素結合、ファンデルワールス力、及び疎水性相互作用などの非共有結合力によって媒介される分子内相互作用に影響を及ぼすことにより、高分子の構造の秩序を低下させることができる物質である。理論に束縛されるものではないが、溶出緩衝液中のカオトロピック試薬の存在は、Fc領域含有タンパク質の構造を緩和して、温度応答性プロテインA材料からの解放を促進するように作用すると考えられる。溶出緩衝液中に含まれ得る好適なカオトロピック試薬としては、限定はされないが、ブタノール、エタノール、プロパノール、塩化グアニジン、酢酸リチウム又は過塩素酸リチウム、塩化マグネシウム、フェノール、ドデシル硫酸ナトリウム、尿素、チオ尿素、及びチオシアン酸塩(例えば、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸アンモニウム又はチオシアン酸カリウム)が挙げられる。特定の実施形態では、溶出緩衝液は、カオトロピック試薬として、尿素、塩化グアニジン、又はドデシル硫酸ナトリウムを含む。他の実施形態では、溶出緩衝液は、カオトロピック試薬として、尿素、塩化グアニジン、又はチオシアン酸塩を含む。さらに他の実施形態では、溶出緩衝液は、カオトロピック試薬として、尿素又は塩化グアニジンを含む。カオトロピック試薬は、使用される具体的なカオトロピック試薬に応じて約0.4M~約5.0M、約0.5M~約2.5M、約0.8M~約1.2M、約2M~約4.5M、又は約3M~約4.2Mの濃度で溶出緩衝液中に存在し得る。特定の実施形態では、溶出緩衝液は、尿素を例えば約2M~約4.5Mの濃度で含む。他の実施形態では、溶出緩衝液は、尿素を約3M~約4.2Mの濃度で含む。特定の一実施形態では、溶出緩衝液は、尿素を約4Mの濃度で含む。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、塩化グアニジンを例えば約0.5M~約2.5Mの濃度で含む。他の実施形態では、溶出緩衝液は、塩化グアニジンを約0.8M~約1.2Mの濃度で含む。特定の実施形態では、溶出緩衝液は、塩化グアニジンを約1Mの濃度で含む。他の特定の実施形態では、溶出緩衝液は、塩化グアニジンを約2Mの濃度で含む。
【0053】
特定の実施形態では、溶出緩衝液は、カオトロピック試薬に加えて糖アルコールを含む。「糖アルコール」は、糖から誘導される有機化合物であり、一般式HOCH2(CHOH)nCH2OH(式中、nは、通常、1~22以上で変化する)による構造を有する。溶出緩衝液に含めることができる糖アルコールの例としては、限定はされないが、グリセロール、エリトリトール、トレイトール、アラビトール、キシリトール、リビトール、マンニトール、ソルビトール、ガラクチトール、フシトール、イジトール、ボレミトール、イソマルト、マルチトール、ラクチトール、マルトトリイトール、及びマルトテトライトールを挙げることができる。特定の実施形態では、溶出緩衝液は、糖アルコールとしてソルビトール、マンニトール、キシリトール、又はグリセロールを含む。一実施形態では、溶出緩衝液中の糖アルコールは、ソルビトールである。別の実施形態では、溶出緩衝液中の糖アルコールは、マンニトールである。糖アルコールは、選択される具体的な糖アルコールに応じて約1M~約4.5M、約1.5M~約4M、又は約2M~約2.5Mの濃度で溶出緩衝液中に存在し得る。特定の実施形態では、溶出緩衝液は、例えば、約1M~約4.5M、より好ましくは約2M~約2.5Mの濃度でソルビトールを含む。一実施形態では、溶出緩衝液は、約2.2Mの濃度でソルビトールを含む。
【0054】
再び、理論に束縛されるものではないが、糖アルコールの存在は、カオトロピック試薬の存在下でFc領域含有タンパク質が完全にアンフォールディングするのを妨げると考えられる。したがって、いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、温度応答性プロテインA材料から離れるようにFc領域含有タンパク質の構造を緩和するが、完全にアンフォールディングすることを妨げることと、タンパク質の基本的な天然の構造を失うこととの間のバランスをとる特定の濃度比でカオトロピック試薬及び糖アルコールを含む。このような実施形態では、糖アルコールに対するカオトロピック試薬のモル濃度比は、約0.4~約4.5、約0.8~約4、約1~約2、約1.5~約2.5、又は約1.8~約2.2である。特定の実施形態では、溶出緩衝液は、尿素及びソルビトールを含み、ソルビトールに対する尿素のモル濃度比は、約1~約2.5、又はより好ましくは約1.1~約1.8である。他の実施形態では、溶出緩衝液は、塩化グアニジン及びソルビトールを含み、ソルビトールに対する塩化グアニジンのモル濃度比は、約0.5~約1.5、又はより好ましくは約0.5~約0.9である。
【0055】
特定の実施形態では、溶出緩衝液は、1又は複数のアミノ酸をさらに含み得る。例えば、いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、塩基性アミノ酸、無極性アミノ酸、又は塩基性アミノ酸及び無極性アミノ酸の両方をさらに含み得る。理論に束縛されるものではないが、塩基性アミノ酸は、Fc領域含有タンパク質と温度応答性プロテインA材料との電荷相互作用を調節することにより、温度応答性プロテインA材料からのFc領域含有タンパク質の解離を促進する一方、無極性アミノ酸は、Fc領域含有タンパク質と温度応答性プロテインA材料との疎水性相互作用を調節することにより、温度応答性プロテインA材料からのFc領域含有タンパク質の解離を促進すると考えられる。本明細書中で使用される場合、「塩基性アミノ酸」は、親水性であり、そのpKa未満のpH値で正電荷を有するD又はL形態の極性アミノ酸である。溶出緩衝液における使用に好適な塩基性アミノ酸の例としては、限定はされないが、アルギニン、オルニチン、リシン、及びヒスチジンが挙げられる。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、アルギニンを含む。他の実施形態では、溶出緩衝液は、リシンを含む。塩基性アミノ酸は、溶出緩衝液中に約0.1M~約1.5M、約0.25M~約1M、又は約0.3M~約0.8Mの濃度で存在し得る。特定の実施形態では、溶出緩衝液は、塩基性アミノ酸(例えば、アルギニン)を約0.5Mの濃度で含む。
【0056】
本明細書において「非極性アミノ酸」と互換的に使用される「無極性アミノ酸」は、疎水性官能基を含有し、中性pHで電荷を有さないD又はL形態のアミノ酸を指す。溶出緩衝液における使用に好適な無極性アミノ酸の例としては、限定はされないが、アラニン、システイン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、及びバリンが挙げられる。特定の実施形態では、溶出緩衝液は、プロリンを含む。無極性アミノ酸は、溶出緩衝液中に約0.1M~約1.5M、約0.25M~約1M、又は約0.3M~約0.8Mの濃度で存在し得る。特定の実施形態では、溶出緩衝液は、無極性アミノ酸(例えば、プロリン)を約0.5Mの濃度で含む。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、少なくとも1つの塩基性アミノ酸と少なくとも1つの無極性アミノ酸とを含む。このような実施形態では、塩基性アミノ酸及び無極性アミノ酸は、溶出緩衝液中に同じ濃度で存在し得る。例えば、塩基性アミノ酸及び無極性アミノ酸は、それぞれ溶出緩衝液中に約0.25M~約1M、より好ましくは約0.3M~約0.8Mの濃度で存在し得る。特定の実施形態では、塩基性アミノ酸及び無極性アミノ酸は、それぞれ溶出緩衝液中に約0.5Mの濃度で存在する。一実施形態では、溶出緩衝液は、アルギニン及びプロリンを含む。別の実施形態では、溶出緩衝液は、リシン及びプロリンを含む。
【0057】
いくつかの実施形態では、本発明の方法において使用される溶出緩衝液は、1又は複数の塩をさらに含み得る。「塩」は、酸及び塩基の中和反応から生じるイオン性化合物を指す。塩は、通常、塩の全体的な正味電荷がゼロであるように同数のカチオン及びアニオンからなる。溶出緩衝液中に含めるのに好適な塩としては、限定はされないが、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、塩化ナトリウム及び硫酸ナトリウムなどのナトリウム塩;酢酸カリウム、クエン酸カリウム、塩化カリウム及び硫酸カリウムなどのカリウム塩;ならびに塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化ニッケル、塩化カリウム及び塩化アンモニウムなどの塩化物塩が挙げられる。特定の実施形態では、溶出緩衝液は、塩化ナトリウムを含む。他の実施形態では、溶出緩衝液は、塩化カリウムを含む。塩は、約0.1M~約1M、約0.25M~約0.8M、約0.5M~約1M、又は約0.5M~約0.8Mの濃度で溶出緩衝液中に含まれ得る。一実施形態では、塩(例えば、塩化ナトリウム)は、約0.75Mの濃度で溶出緩衝液中に存在する。
【0058】
特定の実施形態では、本発明の方法で使用される溶出緩衝液は、約6.5~約7.5のpHを有し、かつ約5mM~約200mMの緩衝剤、約0.4M~約5Mのカオトロピック試薬、約1M~約4.5Mの糖アルコール、約0.1M~約1.5Mの無極性アミノ酸、約0.1M~約1.5Mの塩基性アミノ酸、及び約0.1M~約1Mの塩を含む。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、約7.0~約7.4のpHを有し、かつ約15mM~約100mMの緩衝剤、約2M~約4.5Mのカオトロピック試薬、約1M~約4.5Mの糖アルコール、約0.25M~約1Mの無極性アミノ酸、約0.25M~約1Mの塩基性アミノ酸、及び約0.25M~約0.8Mの塩を含む。他の実施形態では、溶出緩衝液は、約7.0~約7.4のpHを有し、かつ約15mM~約100mMの緩衝剤、約0.5M~約2.5Mのカオトロピック試薬、約1M~約4.5Mの糖アルコール、約0.25M~約1Mの無極性アミノ酸、約0.25M~約1Mの塩基性アミノ酸、及び約0.25M~約0.8Mの塩を含む。特定の実施形態では、溶出緩衝液は、約7.0~約7.4のpHを有し、かつ約15mM~約100mMの緩衝剤、約2M~約4.5Mのカオトロピック試薬、約2M~約2.5Mの糖アルコール、約0.25M~約1Mの無極性アミノ酸、約0.25M~約1Mの塩基性アミノ酸、及び約0.25M~約0.8Mの塩を含む。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、約7.0~約7.4のpHを有し、かつ約15mM~約100mMの緩衝剤、約0.5M~約2.5Mのカオトロピック試薬、約2M~約2.5Mの糖アルコール、約0.25M~約1Mの無極性アミノ酸、約0.25M~約1Mの塩基性アミノ酸、及び約0.25M~約0.8Mの塩を含む。
【0059】
上記の溶出緩衝組成物のいずれについても、緩衝剤は、HEPES又はトリスであり得、カオトロピック試薬は、尿素又は塩化グアニジンであり得、糖アルコールは、ソルビトール又はマンニトールであり得、無極性アミノ酸は、プロリンであり得、塩基性アミノ酸は、アルギニン又はリシンであり得、及び塩は、ナトリウム塩、例えば塩化ナトリウムであり得る。例えば、特定の実施形態では、溶出緩衝液は、約6.5~約7.5のpHを有し、かつ約15mM~約100mMのHEPES、約2M~約4.5Mの尿素、約1M~約4.5Mのソルビトール、約0.25M~約1Mのプロリン、約0.25M~約1Mのアルギニン、及び約0.25M~約0.8Mの塩化ナトリウムを含む。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、約7.0~約7.4のpHを有し、かつ約20mM~約75mMのHEPES、約3M~約4.2Mの尿素、約2M~約2.5Mのソルビトール、約0.3M~約0.8Mのプロリン、約0.3M~約0.8Mのアルギニン、及び約0.5M~約1Mの塩化ナトリウムを含む。一実施形態では、溶出緩衝液は、約7.2のpHを有し、かつ約25mMのHEPES、約4Mの尿素、約2.2Mのソルビトール、約0.5Mのプロリン、約0.5Mのアルギニン、及び約0.75Mの塩化ナトリウムを含む。別の実施形態では、溶出緩衝液は、約7.2のpHを有し、かつ約50mMのHEPES、約4Mの尿素、約2.2Mのソルビトール、約0.5Mのプロリン、約0.5Mのアルギニン、及び約0.75Mの塩化ナトリウムを含む。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、約6.5~約7.5のpHを有し、かつ約15mM~約100mMのトリス、約2M~約4.5Mの尿素、約1M~約4.5Mのソルビトール、約0.25M~約1Mのプロリン、約0.25M~約1Mのアルギニン、及び約0.25M~約0.8Mの塩化ナトリウムを含む。他の実施形態では、溶出緩衝液は、約6.5~約7.5のpHを有し、かつ約15mM~約100mMのHEPES、約2M~約4.5Mの尿素、約1M~約4.5Mのマンニトール、約0.25M~約1Mのプロリン、約0.25M~約1Mのアルギニン、及び約0.25M~約0.8Mの塩化ナトリウムを含む。さらに他の実施形態では、溶出緩衝液は、約6.5~約7.5のpHを有し、かつ約15mM~約100mMのトリス、約2M~約4.5Mの尿素、約1M~約4.5Mのマンニトール、約0.25M~約1Mのプロリン、約0.25M~約1Mのアルギニン、及び約0.25M~約0.8Mの塩化ナトリウムを含む。
【0060】
特定の実施形態では、溶出緩衝液は、約6.5~約7.5のpHを有し、かつ約15mM~約100mMのHEPES、約0.5M~約2.5Mの塩化グアニジン、約1M~約4.5Mのソルビトール、約0.25M~約1Mのプロリン、約0.25M~約1Mのアルギニン、及び約0.25M~約0.8Mの塩化ナトリウムを含む。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、約6.5~約7.5のpHを有し、かつ約15mM~約100mMのトリス、約0.5M~約2.5Mの塩化グアニジン、約1M~約4.5Mのソルビトール、約0.25M~約1Mのプロリン、約0.25M~約1Mのアルギニン、及び約0.25M~約0.8Mの塩化ナトリウムを含む。他の実施形態では、溶出緩衝液は、約6.5~約7.5のpHを有し、かつ約15mM~約100mMのHEPES、約0.5M~約2.5Mの塩化グアニジン、約1M~約4.5Mのマンニトール、約0.25M~約1Mのプロリン、約0.25M~約1Mのアルギニン、及び約0.25M~約0.8Mの塩化ナトリウムを含む。さらに他の実施形態では、溶出緩衝液は、約6.5~約7.5のpHを有し、かつ約15mM~約100mMのトリス、約0.5M~約2.5Mの塩化グアニジン、約1M~約4.5Mのマンニトール、約0.25M~約1Mのプロリン、約0.25M~約1Mのアルギニン、及び約0.25M~約0.8Mの塩化ナトリウムを含む。
【0061】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、精製手順中に生じ得るFc領域含有タンパク質の凝集を低減又は排除する。したがって、本発明はまた、Fc領域を含むタンパク質の精製中の凝集を低減する方法を含む。一実施形態では、本方法は、Fc領域含有タンパク質を、温度応答性プロテインA材料に、この材料にタンパク質が結合する温度で吸着させる工程と、約6.5~約7.5のpHを有し、かつカオトロピック試薬、糖アルコール、無極性アミノ酸、及び塩基性アミノ酸を含む溶出緩衝液により、約35℃未満の温度で材料からタンパク質を溶出する工程とを含み、溶出物中の凝集形態のFc領域含有タンパク質の量は、従来のプロテインA材料からの溶出液中の量未満である。
【0062】
本明細書中で使用される場合、Fc領域含有タンパク質の「凝集形態」は、非共有結合相互作用によって共に保持されたタンパク質の複数分子又は単量体からなるタンパク質の多量体型を指す。Fc領域含有タンパク質の「単量体型」は、全ての成分及び鎖を含む、タンパク質の単一の完全分子を含むタンパク質の形態を指す。例えば、抗体単量体又は抗体の単量体型は、ジスルフィド結合によって連結された2本の軽鎖及び2本の重鎖からなる。同様に、IgG-scFv結合タンパク質の単量体型は、ジスルフィド結合によって連結された2本の軽鎖及び2本の改変重鎖を含み、各改変重鎖は、そのカルボキシル末端に融合した一本鎖可変フラグメントを含む。IgG-scFv結合タンパク質の単量体型を
図1に示す。
図5に示す一本鎖二重特異性Fv-Fc結合などの一本鎖Fc領域含有タンパク質では、単量体型は、一本鎖ポリペプチドである。
【0063】
本明細書に記載の精製方法のいくつかの実施形態では、温度応答性プロテインA材料からの溶出物中のFc領域含有タンパク質のかなりの割合が単量体型である。例えば、本明細書に記載の溶出緩衝液による溶出から生じる温度応答性プロテインA材料からの溶出物中のFc領域含有タンパク質の少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%は、単量体型である。特定の実施形態では、材料からの溶出物中のFc領域含有タンパク質の少なくとも70%は、単量体型である。いくつかの実施形態では、材料からの溶出物中のFc領域含有タンパク質の少なくとも80%は、単量体型である。他の実施形態では、材料からの溶出物中のFc領域含有タンパク質の少なくとも90%は、単量体型である。
【0064】
本明細書に記載の精製方法の特定の実施形態では、本明細書に記載の溶出緩衝液を用いた温度応答性プロテインA材料からの溶出物中の凝集形態のFc領域含有タンパク質の量は、従来のプロテインA材料からの溶出液中の凝集形態のFc領域含有タンパク質の量未満である。本明細書中で使用される場合、「従来のプロテインA材料」は、酸性条件下(例えば、約6未満のpH)でタンパク質のFc領域に対する親和性を失う、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)株で見出されたプロテインAの天然又は野生型の形態を指す。従来のプロテインA材料としては、MabSelect SuRe(商標)樹脂(GE Healthcare)、Captiv A(登録商標)樹脂(Repligen)、Thermo Fisher、GenScript、及びBio-RadからのプロテインA樹脂などの市販のプロテインA樹脂が挙げられる。従来のプロテインA材料からタンパク質を溶出するための一般的な条件としては、約2.5~約4のpHの酢酸緩衝液などの酸性溶出緩衝液の使用が挙げられる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の溶出緩衝液を用いた温度応答性プロテインA材料からの溶出物中の凝集形態のFc領域含有タンパク質の量は、約2.5~約4のpHを有する酢酸緩衝液(例えば、1%酢酸)を用いた従来のプロテインA材料からの溶出液中の凝集形態のFc領域含有タンパク質の量未満である。
【0065】
本明細書に記載の溶出緩衝液を用いた温度応答性プロテインA材料からの溶出物中の凝集形態のFc領域含有タンパク質の量は、好ましくは、50%未満、45%未満、40%未満、35%未満、30%未満、25%未満、20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、又は1%未満である。特定の実施形態では、温度応答性プロテインA材料からの溶出物中のFc領域含有タンパク質の30%未満が凝集形態である。いくつかの実施形態では、温度応答性プロテインA材料からの溶出物中のFc領域含有タンパク質の20%未満が凝集形態である。他の実施形態では、温度応答性プロテインA材料からの溶出物中のFc領域含有タンパク質の10%未満が凝集形態である。
【0066】
タンパク質の凝集形態及び単量体型を検出及び定量する方法は、当業者に知られており、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー法、例えば実施例に記載されるものを挙げることができる。他の好適な方法としては、沈降速度分析超遠心分離、非対称フロー式フィールドフローフラクショネーション、及び動的光散乱法が挙げられる。例えば、Gabrielson et al.,Journal of Pharmaceutical Sciences,Vol.96:268-279,2007を参照されたい。
【0067】
本発明の方法の特定の実施形態では、温度応答性プロテインA材料からの溶出後、Fc領域含有タンパク質をさらなる精製工程に供することができる。例えば、いくつかの実施形態では、温度応答性プロテインA材料から溶出したFc領域含有タンパク質は、1又は複数のさらなるクロマトグラフィー工程に供される。そのようなさらなるクロマトグラフィー工程としては、イオン交換クロマトグラフィー(例えば、カチオン交換クロマトグラフィー又はアニオン交換クロマトグラフィー)、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ミックスモードクロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー(例えば、ゲル濾過クロマトグラフィー)、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、金属アフィニティークロマトグラフィー、又はこれらの組み合わせを挙げることができる。さらなるクロマトグラフィー工程は、標的タンパク質がクロマトグラフィー材料に結合し、不純物がフロースルーする結合及び溶出モード、又は不純物がクロマトグラフィー材料に結合し、標的タンパク質がフロースルーするフロースルーモードで行うことができる。いくつかの実施形態では、温度応答性プロテインA材料から溶出したFc領域含有タンパク質は、カチオン交換クロマトグラフィーに供される。他の実施形態では、温度応答性プロテインA材料から溶出したFc領域含有タンパク質は、アニオン交換クロマトグラフィーに供される。特定の実施形態では、温度応答性プロテインA材料から溶出したFc領域含有タンパク質は、疎水性相互作用クロマトグラフィーに供される。さらに他の実施形態では、温度応答性プロテインA材料から溶出したFc領域含有タンパク質は、ミックスモードクロマトグラフィーに供される。特定の他の実施形態では、温度応答性プロテインA材料から溶出されたFc領域含有タンパク質は、以下にさらに詳細に記載するサイズ排除クロマトグラフィー法などのサイズ排除クロマトグラフィー(例えば、ゲル濾過クロマトグラフィー)に供される。
【0068】
本発明の方法のクロマトグラフィー工程に続いて、ウイルス不活化工程、ウイルス濾過工程、及び/又は限外濾過/透析濾過工程などの追加の工程を行うことができる。例えば、いくつかの実施形態では、洗剤又はUV不活化方法を使用するウイルス不活化工程は、温度応答性プロテインA材料からの溶出液プール又は溶出液を用いて行われ得る。一実施形態では、温度応答性プロテインA材料から溶出したFc領域含有タンパク質は、洗剤ウイルス不活化工程に供される。Triton X-100(例えば、1%v/vの濃度で)などの洗剤を温度応答性プロテインA材料からの溶出液プール又は溶出液に添加し、中性pHで約30分~約60分間インキュベートして、存在するあらゆるウイルスを不活化することができる。
【0069】
本発明はまた、抗体をそのハーフ抗体形態から分離する方法を提供する。実施例5に記載するように、驚くべきことに、中性pH及び一定温度で温度応答性プロテインA樹脂からFc領域含有タンパク質を溶出するための本明細書に記載の溶出緩衝液をサイズ排除クロマトグラフィーの移動相として使用して、抗体をそのハーフ抗体形態から効率よく分離できることがわかった。したがって、特定の実施形態では、本発明は、抗体をそのハーフ抗体形態から分離する方法であって、約6.5~約7.5のpHを有し、かつカオトロピック試薬、糖アルコール、無極性アミノ酸、及び塩基性アミノ酸を含む移動相を使用して、抗体及びそのハーフ抗体形態を含む溶液をゲル濾過マトリックスと接触させる工程と、ゲル濾過マトリックスから溶出画分を収集する工程とを含み、抗体は、溶出画分の1で溶出され、ハーフ抗体形態は、溶出画分の別のセットで溶出され、それにより抗体をそのハーフ抗体形態から分離する、方法を含む。
【0070】
「ハーフ抗体」は、一般に、一本の軽鎖ポリペプチド及び一本の重鎖ポリペプチドを含む目的抗体の形態を指す(
図9A及び9Bの左側の概略図を参照されたい)。ハーフ抗体(「半分子」と互換的に使用される)は、一般に、抗体の2本の重鎖ポリペプチド間の組み立ての不完全性又は相互作用の崩壊(例えば、2本の重鎖のヒンジ領域間のポリペプチド間ジスルフィド結合形成の崩壊)から生じる。特定の実施形態では、それらのハーフ抗体形態から分離される抗体は、多重特異性(例えば、二重特異性)ヘテロ二量体抗体である。このような実施形態では、2種のハーフ抗体が二重特異性ヘテロ二量体抗体の組換え産生から生じ得、一方のハーフ抗体は、第1の抗原に結合し、もう一方のハーフ抗体は、第2の抗原に結合する。本発明の方法は、ハーフ抗体の一方又は両方の種を、完全に組み立てられた抗体から分離することができる。
【0071】
抗体をそのハーフ抗体形態から分離する方法のいくつかの実施形態では、方法は、精製される抗体及びそのハーフ抗体形態を含む溶液をゲル濾過マトリックスと接触させる工程を含む。ゲル濾過マトリックスは、一般に、カラム又は他の容器に充填することができる架橋ポリマーで作られた多孔性ビーズから構成される。本発明の方法における使用に好適な様々な種類のゲル濾過マトリックスは、市販されており、限定はされないが、SEPHADEX(架橋デキストラン及びエピクロルヒドリン)などのデキストランをベースとしたゲル、SEPHACRYL(アリルデキシトランとN、N’-メチレンビスアクリルアミドの架橋コポリマー)などのポリアクリルアミドをベースとしたゲル;SUPEROSE(高度架橋アガロース)又はSEPHAROSE(架橋アガロース)などのアガロースをベースとしたゲル、及びSUPERDEX(架橋デキストラン及び架橋アガロース)などの2種のゲルから調製された複合体ゲルが挙げられる。特定の実施形態では、ゲル濾過マトリックスは、架橋アガロース及び架橋デキストランを含む。例えば、一実施形態では、ゲル濾過マトリックスは、SUPERDEX 200ゲル濾過マトリックスなどのSUPERDEXゲル濾過マトリックス(GE Healthcare)である。ゲル濾過マトリックスの分画範囲は、約5kDa~約5000kDa、約10kDa~約1500kDa、又は約10kDa~約600kDaであり得る。いくつかの実施形態では、本発明の方法で使用されるゲル濾過マトリックスの分画範囲は、約10kDa~約600kDaである。
【0072】
完全に組み立てた抗体をハーフ抗体から分離するサイズ排除クロマトグラフィーの移動相は、中性pH及び一定温度で温度応答性プロテインA樹脂からFc領域含有タンパク質を溶出するための本明細書に記載の溶出緩衝液のいずれかであり得る。特定の実施形態では、移動相は、約6.5~約7.5のpHを有し、かつカオトロピック試薬、糖アルコール、無極性アミノ酸、及び塩基性アミノ酸を含む。移動相は、一般に、約6.5~約7.5のpHの緩衝溶液である。いくつかの実施形態では、移動相のpHは、約6.8~約7.5である。他の実施形態では、移動相のpHは、約7.2~約7.5である。特定の一実施形態では、移動相のpHは、約7.0~約7.4である。このpH範囲で緩衝する好適な緩衝剤及び濃度は、上で詳細に記載されている。いくつかの実施形態では、移動相は、HEPES緩衝剤を例えば約15mM~約100mMの濃度で含む。他の実施形態では、移動相は、トリス緩衝剤を例えば約15mM~約50mMの濃度で含む。
【0073】
移動相において使用されるカオトロピック試薬は、上記の濃度のいずれかのカオトロピック試薬のいずれかであり得る。例えば、移動相におけるカオトロピック試薬は、尿素、塩化グアニジン、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、又はチオシアン酸アンモニウムであり得る。特定の一実施形態では、移動相は、カオトロピック試薬として尿素を含む。このような実施形態では、尿素は、約2M~約4.5Mの濃度で移動相中に存在する。いくつかの実施形態では、移動相は、約3M~約4.2Mの濃度で尿素を含む。他の実施形態では、尿素は、移動相中に約4Mの濃度で存在する。
【0074】
移動相はまた、糖アルコールを含むことが好ましく、これは、溶出緩衝液中に含めるための上記したもののいずれかであり得る。いくつかの実施形態では、移動相は、糖アルコールとしてソルビトール、マンニトール、キシリトール、又はグリセロールを含む。一実施形態では、移動相中の糖アルコールは、ソルビトールである。別の実施形態では、移動相中の糖アルコールは、マンニトールである。糖アルコールは、選択される具体的な糖アルコールに応じて約1M~約4.5M、約1.5M~約4M、又は約2M~約2.5Mの濃度で移動相中に存在し得る。特定の実施形態では、移動相は、例えば、約1M~約4.5M、より好ましくは約2M~約2.5Mの濃度でソルビトールを含む。一実施形態では、移動相は、約2.2Mの濃度でソルビトールを含む。
【0075】
特定の実施形態では、移動相は、本発明の溶出緩衝液に含めるための上記したものなどの1又は複数のアミノ酸をさらに含み得る。例えば、いくつかの実施形態では、移動相は、塩基性アミノ酸、無極性アミノ酸、又は塩基性アミノ酸及び無極性アミノ酸の両方をさらに含み得る。特定の実施形態では、移動相は、ヒスチジン、リシン、オルニチン、及びアルギニンから選択される塩基性アミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、移動相は、アルギニンを含む。他の実施形態では、移動相は、リシンを含む。塩基性アミノ酸は、移動相中に約0.1M~約1.5M、約0.25M~約1M、又は約0.3M~約0.8Mの濃度で存在し得る。特定の実施形態では、移動相は、塩基性アミノ酸(例えば、アルギニン)を約0.5Mの濃度で含む。
【0076】
いくつかの実施形態では、移動相は、アラニン、システイン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、及びバリンから選択される無極性アミノ酸を含む。特定の実施形態では、移動相は、プロリンを含む。無極性アミノ酸は、移動相中に約0.1M~約1.5M、約0.25M~約1M、又は約0.3M~約0.8Mの濃度で存在し得る。特定の実施形態では、移動相は、無極性アミノ酸(例えば、プロリン)を約0.5Mの濃度で含む。いくつかの実施形態では、移動相は、少なくとも1つの塩基性アミノ酸と少なくとも1つの無極性アミノ酸とを含む。このような実施形態では、塩基性アミノ酸及び無極性アミノ酸は、移動相中に同じ濃度で存在し得る。例えば、塩基性アミノ酸及び無極性アミノ酸は、それぞれ移動相中に約0.25M~約1M、より好ましくは約0.3M~約0.8Mの濃度で存在し得る。特定の実施形態では、塩基性アミノ酸及び無極性アミノ酸は、それぞれ移動相中に約0.5Mの濃度で存在する。一実施形態では、移動相は、アルギニンとプロリンとを含む。別の実施形態では、移動相は、リシン及びプロリンを含む。
【0077】
いくつかの実施形態では、ハーフ抗体から完全抗体を分離するためのサイズ排除クロマトグラフィーに基づく方法において使用される移動相は、本発明の溶出緩衝液に含めるための上記した塩のいずれかなどの1又は複数の塩をさらに含み得る。特定の実施形態では、移動相は、塩化ナトリウムを含む。他の実施形態では、移動相は、塩化カリウムを含む。塩は、約0.1M~約1M、約0.25M~約0.8M、約0.5M~約1M、又は約0.5M~約0.8Mの濃度で移動相中に含まれ得る。一実施形態では、塩(例えば、塩化ナトリウム)は、約0.75Mの濃度で移動相中に存在する。
【0078】
特定の実施形態では、本発明の方法で使用される移動相は、約6.5~約7.5のpHを有し、かつ約5mM~約200mMの緩衝剤、約0.4M~約5Mのカオトロピック試薬、約1M~約4.5Mの糖アルコール、約0.1M~約1.5Mの無極性アミノ酸、約0.1M~約1.5Mの塩基性アミノ酸、及び約0.1M~約1Mの塩を含む。いくつかの実施形態では、移動相は、約7.0~約7.4のpHを有し、かつ約15mM~約100mMの緩衝剤、約2M~約4.5Mのカオトロピック試薬、約1M~約4.5Mの糖アルコール、約0.25M~約1Mの無極性アミノ酸、約0.25M~約1Mの塩基性アミノ酸、及び約0.25M~約0.8Mの塩を含む。他の実施形態では、移動相は、約7.0~約7.4のpHを有し、かつ約15mM~約100mMの緩衝剤、約2M~約4.5Mのカオトロピック試薬、約2M~約2.5Mの糖アルコール、約0.25M~約1Mの無極性アミノ酸、約0.25M~約1Mの塩基性アミノ酸、及び約0.25M~約0.8Mの塩を含む。上記の移動相組成物のいずれについても、緩衝剤は、HEPES又はトリスであり得、カオトロピック試薬は、尿素又は塩化グアニジンであり得、糖アルコールは、ソルビトール又はマンニトールであり得、無極性アミノ酸は、プロリンであり得、塩基性アミノ酸は、アルギニン又はリシンであり得、及び塩は、ナトリウム塩、例えば塩化ナトリウムであり得る。例えば、特定の実施形態では、移動相は、約6.5~約7.5のpHを有し、かつ約15mM~約100mMのHEPES、約2M~約4.5Mの尿素、約1M~約4.5Mのソルビトール、約0.25M~約1Mのプロリン、約0.25M~約1Mのアルギニン、及び約0.25M~約0.8Mの塩化ナトリウムを含む。いくつかの実施形態では、移動相は、約7.0~約7.4のpHを有し、かつ約20mM~約75mMのHEPES、約3M~約4.2Mの尿素、約2M~約2.5Mのソルビトール、約0.3M~約0.8Mのプロリン、約0.3M~約0.8Mのアルギニン、及び約0.5M~約1Mの塩化ナトリウムを含む。一実施形態では、移動相は、約7.2のpHを有し、かつ約25mMのHEPES、約4Mの尿素、約2.2Mのソルビトール、約0.5Mのプロリン、約0.5Mのアルギニン、及び約0.75Mの塩化ナトリウムを含む。別の実施形態では、移動相は、約7.2のpHを有し、かつ約50mMのHEPES、約4Mの尿素、約2.2Mのソルビトール、約0.5Mのプロリン、約0.5Mのアルギニン、及び約0.75Mの塩化ナトリウムを含む。
【0079】
いくつかの実施形態では、移動相は、約6.5~約7.5のpHを有し、かつ約15mM~約100mMのトリス、約2M~約4.5Mの尿素、約1M~約4.5Mのソルビトール、約0.25M~約1Mのプロリン、約0.25M~約1Mのアルギニン、及び約0.25M~約0.8Mの塩化ナトリウムを含む。他の実施形態では、移動相は、約6.5~約7.5のpHを有し、かつ約15mM~約100mMのHEPES、約2M~約4.5Mの尿素、約1M~約4.5Mのマンニトール、約0.25M~約1Mのプロリン、約0.25M~約1Mのアルギニン、及び約0.25M~約0.8Mの塩化ナトリウムを含む。さらに他の実施形態では、移動相は、約6.5~約7.5のpHを有し、かつ約15mM~約100mMのトリス、約2M~約4.5Mの尿素、約1M~約4.5Mのマンニトール、約0.25M~約1Mのプロリン、約0.25M~約1Mのアルギニン、及び約0.25M~約0.8Mの塩化ナトリウムを含む。
【0080】
ゲル濾過マトリックスを通した移動相の流量は、抗体とそのハーフ抗体形態との間の分離をさらに高めるように調節することができる。実施例5に記載したように、移動相の流量を増加させると、完全に組み立てられた抗体とハーフ抗体との間の分離効率が低下した。したがって、特定の実施形態では、より遅い流量とすることが好ましい。いくつかの実施形態では、移動相の流量は、約0.01ml/分~約0.2ml/分の流量でゲル濾過マトリックスに適用される。他の実施形態では、移動相の流量は、約0.02ml/分~約0.06ml/分の流量でゲル濾過マトリックスに適用される。
【0081】
抗体及びそのハーフ抗体形態を含む溶液が、本明細書中に記載される移動相と共にゲル濾過マトリックスを移動するにつれ、溶出画分が収集される。画分のタンパク質含量は、UV吸収、例えば280nmを用いてモニターすることができ、完全に組み立てられた抗体を含む溶出画分を集めることができる一方、より高分子量の凝集体及びハーフ抗体を含む画分を廃棄することができる。
図12に示すように、サイズ排除クロマトグラフィーを本発明の方法により操作すると、抗体の凝集体及び他のより高分子量の混入物の凝集体が最初にゲル濾過マトリックスから溶出し、続いて完全に組み立てられた抗体が溶出し、その後、ハーフ抗体が溶出する。溶出画分からの試料を、実施例5に記載するように、SDS-PAGE及び/又は分析SE-HPLCによって分析して、完全に組み立てられた抗体に対する画分の濃縮及びハーフ抗体の除去を確認することができる。
【0082】
ハーフ抗体から抗体を分離するためのサイズ排除クロマトグラフィーに基づく方法(例えば、ゲル濾過クロマトグラフィーに基づく方法)は、1又は複数の精製手順又は他の単位操作後に行うことができる。例えば、サイズ排除クロマトグラフィーに基づく方法は、抗体、特に多重特異性ヘテロ二量体抗体の精製プロセスにおける第2又は第3の完成度を高めるクロマトグラフィーであり得る。いくつかの実施形態では、サイズ排除クロマトグラフィーに基づく方法は、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー精製工程に続いて行われる。したがって、抗体及びそのハーフ抗体形態を含有する溶液は、プロテインAクロマトグラフィーからの溶出液プール又は流出流である。プロテインAクロマトグラフィーは、従来のプロテインAクロマトグラフィーであり得る。あるいは、プロテインAクロマトグラフィーは、本明細書に記載のプロテインAクロマトグラフィー法であり得る。温度応答性プロテインA材料からFc領域含有タンパク質、例えば抗体を除去するために本発明の方法において使用される溶出緩衝液は、ゲル濾過クロマトグラフィーに基づく方法において使用される移動相と同じ組成を有するため、これらの2つの精製手順は、連続して使用することができる。したがって、特定の実施形態では、本発明は、(i)抗体及び1又は複数の不純物(例えば、そのハーフ抗体形態)を含む溶液を、温度応答性プロテインA材料と、抗体が材料に結合する温度で接触させる工程と、(ii)約6.5~約7.5のpHを有し、かつカオトロピック試薬、糖アルコール、無極性アミノ酸、及び塩基性アミノ酸を含む溶出緩衝液により、約35℃未満の温度で抗体を材料から溶出する工程と、(iii)移動相として溶出緩衝液を使用して、温度応答性プロテインA材料からの溶出物をゲル濾過マトリックスと接触させる工程と、(iv)抗体を含むゲル濾過マトリックスからの溶出画分を収集する工程とを含む、抗体を精製する方法を提供する。特定の実施形態では、精製する抗体は、多重特異性ヘテロ二量体抗体である。温度応答性プロテインAクロマトグラフィー工程及びゲル濾過クロマトグラフィー工程は、温度応答性プロテインAクロマトグラフィーからの溶出物流が、いかなる保持タンクも介在せずにゲル濾過マトリックス上に直接ロードされるように連続的に操作され得る。いくつかの実施形態では、洗剤又はUVウイルス不活化工程は、任意選択により、温度応答性プロテインAクロマトグラフィー工程とゲル濾過クロマトグラフィー工程との間に組み込むことができる。
【0083】
実施された実験及び達成された結果を含む以下の実施例は、例示の目的のみのために提供されるものであり、添付の特許請求の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0084】
実施例1.IgG-scFv結合タンパク質の精製
この実施例は、従来のプロテインAクロマトグラフィー、又は本発明のアフィニティークロマトグラフィー法を用いる、Fc領域含有タンパク質の1タイプであるIgG-scFv結合タンパク質の精製を記載する。IgG-scFv結合タンパク質は、ペプチドリンカーを介して第2の抗体の重鎖のカルボキシル末端に融合された、第1の抗体由来の重鎖及び軽鎖可変ドメインをそれぞれ含有する2つの一本鎖可変フラグメント(scFv)を含む。得られる分子は、免疫グロブリンFc領域のアミノ末端側に位置する第1の標的に対する2つの抗原結合ドメイン、及びFc領域のカルボキシル末端側に位置する第2の標的に対する2つの抗原結合ドメインを有する四価結合タンパク質である。IgG-scFv結合タンパク質の単量体型を
図1に示す。
【0085】
比較のために、IgG-scFv結合タンパク質を、従来のプロテインAアフィニティーーを用いて精製した。IgG-scFv結合タンパク質を発現する細胞を含有する細胞培養培地100~250mlを、細胞及び細胞破片を沈殿させるために、4℃で15分間、低速遠心分離(600rpm)に供した。得られた清澄化上清溶液を0.22ミクロンフィルターに通して、微粒子及び可溶性凝集体を除去した。清澄化し、濾過した溶液を、MabSelect SuRe(商標)樹脂(GE Healthcare)を含有するカラムに1ml/分の流量及び4℃の温度でロードした。pH7.2の0.5MのNaClを含有するリン酸緩衝生理食塩水でカラムを洗浄した後、結合されたIgG-scFv結合タンパク質を、pH2.7の174mM(1%)酢酸溶液を用いて4℃の温度で従来のプロテインA樹脂から溶出した。溶出液プールの試料を、Superdex 200分析ゲル濾過カラムを使用するサイズ排除-超高速液体クロマトグラフィー(SE-UPLC)によって分析した。4つの独立した実験の結果を
図2に示す。1つの実験では、タンパク質を、pH7.2に中和することなく、低pH酢酸緩衝液で溶出した(
図2の上部パネル)。第2の実験では、タンパク質を低pH酢酸緩衝液で溶出し、直ちにpH7.2に中和した(
図2の2番目のパネル)。第3の実験では、タンパク質を低pH酢酸緩衝液で溶出し、中和することなく、低pH酢酸緩衝液で8週間保存した(
図2の3番目のパネル)。第4の実験では、タンパク質を低pH酢酸緩衝液で溶出し、低pH酢酸緩衝液で8週間保存した後、pH7.2に中和した(
図2の下部パネル)。
【0086】
SE-UPLCプロファイルによって示すように、IgG-scFv結合タンパク質は、クロマトグラムにおける単量体ピーク(黒い星印によって示す)の前に溶出する複数のピーク(黒い矢印によって示す)からも明らかなように、従来のプロテインAアフィニティーカラムからの低pH溶出の間に凝集する傾向が高い。酸曝露及び低pHから中性pHへのpHジャンプは、いずれもIgG-scFv結合タンパク質の凝集を誘導し、pHジャンプは、酸曝露単独よりも大きい有害作用を有する。従来のプロテインAカラムのローディング及び溶出も室温で行い、
図2に示したものと同様の結果を得た(データは示さず)。
【0087】
第2の一連の実験において、温度応答性プロテインA樹脂、及びカラムの温度を室温より高く上昇させずに温度応答性プロテインA樹脂から結合タンパク質を溶出させることができる特定の溶出緩衝液を使用して、IgG-scFv結合タンパク質を精製した。温度応答性プロテインA(TR-ProA)カラムを調製するために、約25mlの懸濁TR-ProA樹脂(Byzen Pro(登録商標)、Nomadic Bioscience Co.,LTD.)を15mlカラムに充填し、最終体積を15ミリリットルにした。カラムを5カラム容量の溶液A(リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、pH7.2)で洗浄した。次いで、カラムを溶液B(0.5MのNaClを含有するPBS)で洗浄し、続いて10カラム容量の水で濯いだ。次いで、濯いだカラムを、pH7.2の、25又は50mMのHEPES、0.75MのNaCl、0.5Mのアルギニン、0.5Mのプロリン、2.2Mのソルビトール、及び4Mの尿素を含有する15カラム容量の溶出緩衝液で洗浄した。次いで、カラムを溶液Aで平衡化した。
【0088】
IgG-scFv結合タンパク質を含有する種々の容量(10ml~250ml)の清澄化及び濾過した培養培地を4℃、1ml/分の流量でTR-ProAカラムにロードした。10カラム容量の溶液Bで洗浄した後、結合されたIgG-scFv結合タンパク質を5~10カラム容量の溶出緩衝液により4℃又は室温で溶出した。溶出後、製造業者の使用説明書に従ってカラムを再生した。溶出液プールの試料を、Superdex 200分析ゲル濾過カラムを用い、SE-UPLCによって分析した。溶出を4℃で行った3回の独立した実験の結果を
図3に示す。1つの実験では、タンパク質を4℃で溶出緩衝液により溶出し、37℃で7日間保存した後、SE-UPLC分析を行った(
図3の上部パネル)。第2の実験では、タンパク質を4℃で溶出緩衝液により溶出し、-80℃で7日間保存した後、SE-UPLC分析を行った(
図3の2番目のパネル)。第3の実験では、タンパク質を4℃で溶出緩衝液により溶出し、室温で7日間保存した後、SE-UPLC分析を行った(
図3の3番目のパネル)。結果は、IgG-scFv結合タンパク質が、溶出緩衝液を用いて低温でTR-ProA樹脂から単量体型で溶出され得ることを示す。結合タンパク質の凝集は、単量体ピーク(黒い星印で示す)の前にゲル濾過分析カラムから溶出するピークが存在しないことからも明らかなように、完全に除かれた。さらに、溶出条件は、溶出されたIgG-scFvタンパク質のその後の温度安定性に影響を与えなかった。溶出したタンパク質を種々の温度で7日間保存した結果、溶出したタンパク質の凝集又は分解は観察されなかった。
【0089】
TR-ProAカラムを用いたIgG-scFv結合タンパク質の精製を、4℃ではなく室温で溶出を行った以外には上記と同じローディング及び溶出条件を用いて繰り返した。ローディング前の清澄化培養培地の試料、ローディング中のカラムフロースルー溶液、及び溶出液プールをSDS-PAGEによって分析した。SDS-PAGE分析の結果は、IgG-scFv結合タンパク質が溶出液プール中で濃縮され、多くの混入タンパク質が除去されたことを示す(
図4A)。TR-ProA溶出液プールの試料もサイズ排除-高速液体クロマトグラフィー(SE-HPLC)によって分析した。
図4BのSE-HPLCクロマトグラムに示すように、TR-ProA溶出液プール中に存在するIgG-scFv結合タンパク質の99%は、単量体型であり、検出可能な凝集体はなかった。
【0090】
まとめると、この実施例における実験の結果は、複数鎖IgG-scFv結合タンパク質などのFc領域含有タンパク質を中性pHで温度応答性プロテインA樹脂から溶出することができ、従来のプロテインAクロマトグラフィーからの低pH溶出で通常生じるタンパク質の凝集を低減又は排除し得ることを示す。さらに、結果は、カオトロピック試薬、糖アルコール、及びアミノ酸を含む溶出緩衝液により、温度応答性プロテインA樹脂からタンパク質を溶出するのに一般に必要とされる35℃を超える温度に上昇させることなく、温度応答性プロテインA樹脂からのFc領域含有タンパク質の溶出が可能になることを示す。
【0091】
実施例2.一本鎖二重特異性Fv-Fc結合タンパク質の精製
この実施例は、従来のプロテインAクロマトグラフィー又は本発明のアフィニティークロマトグラフィー方法を使用して、Fc領域含有タンパク質の第2のタイプの、国際公開第2014144722号パンフレット(これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されているような一本鎖二重特異性Fv-Fc結合タンパク質の精製を記載する。一本鎖二重特異性Fv-Fc結合タンパク質は、第1の抗体からの重鎖及び軽鎖可変ドメインを含有し、第2の抗体からの重鎖及び軽鎖可変ドメインを含有する第2のscFvフラグメントに融合した第1のscFvフラグメントと、そのN末端でペプチドリンカーを介して第1のscFvフラグメントのC末端に融合したFc領域とを含む。二重特異性Fv-Fc結合タンパク質の単量体型を
図5に示す。
【0092】
最初の一連の実験において、二重特異性Fv-Fc結合タンパク質を、従来のプロテインAアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製した。二重特異性Fv-Fc結合タンパク質を発現する細胞を含有する細胞培養培地を、600rpm、4℃で15分間遠心分離した。上清を除去し、0.22ミクロンフィルターで濾過した。次いで、清澄化した細胞培養上清を、MabSelect SuRe(商標)プロテインA樹脂(GE Healthcare)を含有するカラムにロードし、実施例1に記載の方法により洗浄した。カラムを洗浄した後、結合された二重特異性Fv-Fc結合タンパク質を、pH2.7の174mM(1%)酢酸溶液又はpH3.7の33mM(0.06%)酢酸溶液を使用して従来のプロテインA樹脂から室温で溶出した。溶出液プールの試料をSE-HPLCにより分析した。
【0093】
図6Aは、174mM(1%)酢酸溶液を溶出緩衝液として用いた場合の溶出液プールのSE-HPLCプロファイルを示す一方、
図6Bは、より低濃度の酢酸溶液を溶出緩衝液として用いた場合の溶出液プールのSE-HPLCプロファイルを示す。両方の溶出条件下では、結合タンパク質単量体のピーク(黒い星印で示す)よりも短い保持時間を有する複数のピーク(黒い矢印で示す)からも明らかなように、二重特異性Fv-Fc結合タンパク質のかなりの凝集が観察された。174mM(1%)酢酸溶液を溶出緩衝液として使用した場合、二重特異性Fv-Fc結合タンパク質の単に39%が単量体型で回収された。溶出緩衝液中の酢酸の濃度を減少させると、結合タンパク質の単量体型の回収が改善されたが、溶出液プール中の結合タンパク質の単に53%が単量体型であり、相当量の凝集が依然として観察された。したがって、二重特異性Fv-Fc結合タンパク質は、従来のプロテインAクロマトグラフィーに必要とされる典型的な低pH溶出条件下で特に凝集しやすい。
【0094】
第2の一連の実験では、温度応答性プロテインA樹脂(Byzen Pro(登録商標)、Nomadic Bioscience Co.,LTD.)と、カオトロピック試薬、糖アルコール、無極性アミノ酸、及び塩基性アミノ酸を含む溶出緩衝液とを用いて、実施例1に記載のようにして二重特異性Fv-Fc結合タンパク質を精製した。この溶出緩衝液により、通常、温度応答性プロテインA樹脂からタンパク質の溶出するために必要な工程である、カラムの温度を上昇させることなく、温度応答性プロテインA(TR-ProA)樹脂から結合タンパク質を溶出することが可能になった。具体的には、二重特異性Fv-Fc結合タンパク質を含有する清澄化した細胞培養上清を1ml/分の流量及び4℃の温度でTR-ProAカラムにロードした。10カラム容量の、0.5MのNaClを含有するPBSで洗浄した後、結合された二重特異性Fv-Fc結合タンパク質を5~10カラム容量の溶出緩衝液1又は溶出緩衝液2により室温で溶出した。溶出緩衝液1は、pH7.2で25mMのHEPES、0.75MのNaCl、0.5Mのアルギニン、0.5Mのプロリン、2.2Mのソルビトール、及び2.5Mの尿素を含有した。溶出緩衝液2は、pH7.2で25mMのHEPES、0.75MのNaCl、0.5Mのアルギニン、0.5Mのプロリン、2.2Mのソルビトール、及び4Mの尿素を含有した。溶出液プールの試料をSE-HPLC及びSDS-PAGEにより分析した。
【0095】
図7Aは、室温での溶出緩衝液1による結合タンパク質の溶出から得られた溶出液プールのSE-HPLCプロファイルを示す一方、
図7Bは、室温での溶出緩衝液2による結合タンパク質の溶出から得られた溶出液プールのSE-HPLCプロファイルを示す。両方のプロファイルからわかるように、実施例1に記載のIgG-scFv結合タンパク質で得られた結果と同様に、二重特異性Fv-Fc結合タンパク質は、30℃未満の温度で両方の溶出緩衝液を用いてTR-ProA樹脂から実質的に単量体型で溶出され得る。両方の溶出条件下において、Fv-Fc結合タンパク質の凝集は、低pH緩衝液を用いた従来のプロテインAクロマトグラフィーカラムからの溶出で生じる凝集と比較して大きく減少した(
図6A及び6B中の黒い矢印で示すピークを
図7A及び7B中のピークと比較されたい)。さらに、
図7Aのプロファイルと
図7Bのプロファイルとの比較は、溶出緩衝液中のカオトロピック試薬(例えば、尿素)の濃度を2.5Mから4Mに増加させると、溶出液プール中に回収された単量体Fv-Fc結合タンパク質の割合が75%から88%に増加し、さらに溶出液プール中に存在する凝集結合タンパク質の量が減少することを示す。TR-ProA樹脂及び溶出緩衝液2による二重特異性Fv-Fc結合タンパク質の精製前、精製中、及び精製後の試料のSDS-PAGE分析の結果を
図7Cに示す。結果は、Fv-Fc結合タンパク質が溶出液プールにおいて濃縮されていることを示す。
【0096】
この実施例に記載した実験の結果は、二重特異性Fv-Fc結合タンパク質などの一本鎖Fc融合タンパク質が、結合されたタンパク質を従来のプロテインA樹脂から溶出するのに必要とされる低pH条件中に凝集する傾向があることを示す。このような結合タンパク質の凝集は、温度応答性プロテインA樹脂と、カオトロピック試薬、糖アルコール、無極性アミノ酸、及び塩基性アミノ酸を含む溶出緩衝液とを使用することによって大きく低減される。重要なことに、溶出緩衝液の組成は、温度を35℃より高く上昇させることなく、結合タンパク質を温度応答性プロテインA樹脂から実質的に単量体型で除去することを可能にする。
【0097】
実施例3.温度応答性プロテインA樹脂からのFc領域含有タンパク質の溶出のための緩衝液
この実施例に記載する実験は、異なる溶出緩衝液について、樹脂の温度を室温より高く上昇させることなく、結合されたFc領域含有タンパク質を温度応答性プロテインA(TR-ProA)樹脂から除去する能力を調べるために設計された。実施例1に記載のIgG-scFv結合タンパク質、又は実施例2に記載の一本鎖二重特異性Fv-Fc結合タンパク質を発現する細胞からの清澄化細胞培養上清を温度応答性プロテインA樹脂(Byzen Pro(登録商標)、Nomadic Bioscience Co.,LTD.)のカラムに4℃でロードし、0.5MのNaClを含有するPBS溶液で洗浄した。結合された結合タンパク質を、以下の表2に列挙した溶出緩衝液の1つを使用して4℃でカラムから溶出した。溶出液プール中に単量体として回収された結合タンパク質の割合を、SE-HPLCを用いて測定した。結果を以下の表2に示す。
【0098】
【0099】
結果は、カオトロピック試薬(例えば、尿素)の含有により、結合タンパク質の単量体型の溶出及び回収が大きく増強されることを示す。
【0100】
実施例4.モノクローナル抗体の精製
この実施例は、温度応答性プロテインA樹脂を使用するモノクローナル抗体の精製を記載する。抗体を発現する細胞からの清澄化細胞培養上清を温度応答性プロテインA樹脂(Byzen Pro(登録商標),Nomadic Bioscience Co.,LTD.)のカラムに4℃でロードし、0.5MのNaClを含有するPBS溶液で洗浄した。結合された抗体を、20mMのHEPES、2Mの塩化グアニジン、及び2.2Mのソルビトールを含み、かつpH7.2を有する溶出緩衝液により4℃でカラムから溶出した。溶出液プールの試料をSE-HPLCによって分析し、その結果を
図8A及び8Bに示す。モノクローナル抗体は、カオトロピック試薬(例えば、塩化グアニジン)及び糖アルコール(ソルビトール)のみを約0.9のモル濃度比で含む溶出緩衝液を使用して、低温で温度応答性プロテインA樹脂から溶出され得る。溶出液プールにおいて、抗体のほぼ90%が単量体型で回収された。
【0101】
実施例5.ハーフ抗体の完全抗体からの分離
ハーフ抗体は、抗体の2本の重鎖ポリペプチド間の組み立ての不完全性又は相互作用の崩壊(例えば、2本の重鎖のヒンジ領域間のポリペプチド間ジスルフィド結合形成の崩壊)から生じる。ハーフ抗体は、一般に、一本の軽鎖ポリペプチド及び一本の重鎖ポリペプチドから構成される。所望の完全抗体を含む調製物からハーフ抗体を除去することは、いくつかの理由で重要である。ハーフ抗体の存在は、全抗体生成濃度を減少させ、用量再現性を減少させ、かつ生成物の均質性を低下させる。さらに、ハーフ抗体は、標的への結合に関して完全抗体と競合し得、完全抗体の効力を低下させ得る。
【0102】
ハーフ抗体は、完全抗体と類似した特性を有するため、ハーフ抗体を完全抗体から分離することは困難であり得る。例えば、ハーフ抗体及び完全抗体の両方は、類似のFc領域を含み、したがってプロテインAアフィニティークロマトグラフィーを使用して効率的に分離することができない。ハーフ抗体は、完全抗体と類似の等電点、軸比、及び流体力学的半径を有し、したがって、これらの特徴に基づく分離方法は、一般に適切ではない。さらに、ハーフ抗体は、自己会合し、完全抗体と会合する傾向があり、それらの除去をより困難にする。
【0103】
従来のプロテインAアフィニティークロマトグラフィーによる精製後でも、抗体、特にヘテロ二量体抗体の組換え調製物において、ハーフ抗体の存在が多くの場合に観察される(
図9A及び9B)。ヘテロ二量体抗体は、第1の標的に結合する第1の抗体からの軽鎖及び重鎖、ならびに第2の標的に結合する第2の抗体からの軽鎖及び重鎖を含む抗体である。したがって、これらの二重特異性ヘテロ二量体抗体の組換え産生から2種のハーフ抗体が生じ得、一方のハーフ抗体は、第1の標的に結合し、もう一方のハーフ抗体は、第2の標的に結合する。ハーフ抗体の存在及びレベルは、ヘテロ二量体抗体の組換え産生の異なるロットと異なり得(
図9A及び9B)、完全に組み立てられたヘテロ二量体抗体の全収率は、ハーフ抗体を除去するために必要とされる工程の数及び性質のために非常に低いことができる(データは示さず)。
【0104】
二重特異性ヘテロ二量体抗体(ヘテロ二量体抗体A)を発現する細胞を含有する細胞培養培地を、細胞及び細胞破片を沈殿させるために、4℃で15分間、低速遠心分離(600rpm)に供した。得られた清澄化上清溶液を0.22ミクロンフィルターに通して、微粒子及び可溶性凝集物を除去した。清澄化し、濾過した溶液を、MabSelect SuRe(商標)樹脂(GE Healthcare)を含有するカラムに1ml/分の流量及び4℃の温度でロードした。pH7.2の0.5MのNaClを含有するリン酸緩衝生理食塩水でカラムを洗浄した後、結合された抗体を、pH2.7の174mM(1%)酢酸溶液を用いて4℃の温度で従来のプロテインA樹脂から溶出した。溶出液プールの試料をSE-HPLC(
図10A)及びSDS-PAGE(
図10B)によって分析した。SE-HPLC及びSDS-PAGE分析によって示されるように、プロテインA溶出液プールは、相当量(約72%)のハーフ抗体を含有していた。
【0105】
プロテインA溶出液プール中に残存するハーフ抗体を除去するために、従来の条件下で操作される分取サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)工程を評価した。具体的には、プロテインA溶出液プールを、pH7.0のリン酸緩衝化生理食塩水を含む移動相を用いて1ml/分の流量でSuperdex 200分取ゲル濾過カラムにロードした。
図11に示すように、これらの条件下で操作されたSECは、完全に組み立てられたヘテロ二量体抗体をハーフ抗体から分離することができなかった。PBS含有移動相の分取SECカラムに通す流量を0.01ml/分まで低下させても、分離は改善されなかった(データは示さず)。
【0106】
実験を繰り返したが、PBSを含む従来の移動相を、実施例1に記載の特有の溶出緩衝液と同様の組成を有する移動相で置き換えた。完全に組み立てられたヘテロ二量体抗体及びハーフ抗体を含むプロテインA溶出液プールを、50mMのHEPES、0.75MのNaCl、0.5Mのアルギニン、0.5Mのプロリン、2.2Mのソルビトール、及び4Mの尿素を含むpH7.2の移動相を使用して、Superdex 200分取ゲル濾過カラム(2×80ml)にロードした。3つの異なるタンパク質ピークが分取ゲル濾過カラムからの溶出中に観察された(
図12)。様々な画分を溶出中に回収し、分析SE-HPLC及びSDS-PAGEによって分析した。SDS-PAGE分析により、ピーク2は、完全に組み立てられた抗体を主に含むが、ピーク3は、大部分がハーフ抗体からなることを明らかになった(
図13A及び13B)。ピーク1は、より高分子量の凝集体に対応した。驚くべきことに、SECにおけるこの特有の移動相の使用により、完全に組み立てられた抗体及びより高い分子量の凝集体からのハーフ抗体の分離が可能になった(
図14A~14C)。
【0107】
異なる標的抗原に対して特異性を有する2つの他の二重特異性ヘテロ二量体抗体を用いて、上記の特有の移動相を用いる分取SECプロセスを繰り返した。SEC精製前のヘテロ二量体抗体B及びヘテロ二量体抗体Cの両方の調製物は、ハーフ抗体混入物を含有していた(
図15A及び16A)。しかし、50mMのHEPES、0.75MのNaCl、0.5Mのアルギニン、0.5Mのプロリン、2.2Mのソルビトール、及び4Mの尿素を含むpH7.2の移動相を用いてSECで精製した後、完全に組み立てられたヘテロ二量体抗体は、所望の完全に組み立てられたヘテロ二量体抗体のみが残るようにハーフ抗体から分離することができた(
図15B及び16B)。
【0108】
別の一連の実験において、SECを用いたハーフ抗体分離の効率に対する流量の影響を評価した。組換え二重特異性ヘテロ二量体抗体の調製物を、Superdex 200分取ゲル濾過カラム(2×80ml)、及び50mMのHEPES、0.75MのNaCl、0.5Mのアルギニン、0.5Mのプロリン、2.2Mのソルビトール、及び4Mの尿素を含むpH7.2の移動相を用いて、0.02ml/分~0.2ml/分の範囲の流量でSECに供した(
図17A~17F)。結果は、ハーフ抗体が、流量がより小さくなると完全に組み立てられた抗体からより効率よく分離され、最適な分離が約0.02ml/分~約0.06ml/分の流量で起こることを示す(
図17A~17F)。
【0109】
まとめると、この実施例に記載の実験データは、カオトロピック試薬、糖アルコール、及びアミノ酸を含む移動相をSECゲル濾過カラムで使用することにより、完全に組み立てられた抗体からハーフ抗体混入物及び高分子量凝集体を効率よく分離できることを示している。この方法は、組換え抗体調製物、特に多重特異性ヘテロ二量体抗体調製物からこれらの問題のある混入物を除去するための強力な1段法を提供する。
【0110】
本明細書において議論され引用された全ての刊行物、特許、及び特許出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。開示した本発明は、記載された特定の方法論、プロトコール、及び材料に限定されず、これらは変化し得ることが理解される。また、本明細書で使用される用語が、特定の実施形態を説明するためのものに過ぎず、添付の特許請求の範囲を限定することを意図していないことも理解される。
【0111】
当業者であれば、単なる日常的な実験により、本明細に記載した本発明の特定の実施形態に対する多くの均等物を認識し、又は確認することができるであろう。このような均等物は、添付の特許請求の範囲に包含されるものとする。
【配列表】