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特許7092759選択的動脈スピン標識MRイメージング法のための計画支援
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】選択的動脈スピン標識MRイメージング法のための計画支援
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20220621BHJP
【FI】
A61B5/055 382
A61B5/055 311
A61B5/055 376
A61B5/055 380
A61B5/055 383
A61B5/055 ZDM
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019524309
(86)(22)【出願日】2017-11-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-12-12
(86)【国際出願番号】 EP2017079514
(87)【国際公開番号】W WO2018091612
(87)【国際公開日】2018-05-24
【審査請求日】2020-11-11
(31)【優先権主張番号】16199252.4
(32)【優先日】2016-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100122769
【弁理士】
【氏名又は名称】笛田 秀仙
(74)【代理人】
【識別番号】100163809
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】ヘレ ミヒャエル ギュンター
(72)【発明者】
【氏名】ボルナート ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ファン デ フェン キム コーネリア カロリーナ
【審査官】伊知地 和之
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-034549(JP,A)
【文献】特開2012-061074(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0240983(US,A1)
【文献】特開2016-027891(JP,A)
【文献】特開2004-016613(JP,A)
【文献】特開2014-014399(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0009155(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MR装置の検査ボリューム内の主磁場内に配置される身体の少なくとも一つの部分のMRイメージングの方法であって、前記方法は、
- 前記身体の前記部分を一つ又はそれより多くのMR血管造影スキャンにかけることによって血管造影MR信号データを取得するステップと、
- 識別された血管のうち少なくと1つの血管の直線セグメントを位置特定するステップと、
- 動脈スピン標識シーケンスのシーケンスパラメータによって、前記直線セグメントを覆う標識領域を規定するステップと、
- 前記直線セグメントについて、前記血管造影MR信号データから定量的血流パラメータを導出するステップであって、前記定量的血流パラメータは、少なくとも、個々の血管の前記血管直径及び前記血管を通る血液の流速を有する、ステップと、
-動脈スピン標識シーケンスの標識効率を、前記動脈スピン標識シーケンスの前記シーケンスパラメータから、及び前記定量的血流パラメータから計算するステップと、
-前記標識効率を最大化することによって前記シーケンスパラメータを最適化するステップであって、前記標識領域の大きさは前記血管直径に関する定量的情報に基づいて適合される、ステップと、
- 前記身体の前記部分を前記動脈スピン標識シーケンスにかけることによって灌流重み付けMR信号データを取得するステップと、
- 前記灌流重み付けMR信号データからMR画像を再構成するステップと
を有する、方法。
【請求項2】
- 前記血管造影MR信号データから血管の視覚化を生成するステップと、
- 前記MR装置のオペレータに前記視覚化を表示するステップと
を更に有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記標識領域のグラフィック表示が前記血管の前記視覚化に重ね合わされる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記定量的血流パラメータ及び/又は前記標識効率は、前記標識領域と空間的に関連して前記オペレータに表示される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記標識効率は、前記動脈スピン標識シーケンスの前記シーケンスパラメータの段階的な対話型調整を実行する前記オペレータによって最大化され、前記標識効率は各調整ステップの後に再計算される、請求項1乃至4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
- 前記血管造影MR信号データからMR血管造影図を再構成するステップと、
-前記MR血管造影図のセグメント化によって血管を自動的に識別するステップと
を更に有する、請求項1乃至5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
- 前記識別される血管のうちの少なくとも1つの直線セグメントを配置するステップと、
- 前記標識領域が前記配置される直線セグメントを覆うように前記動脈スピン標識シーケンスの前記シーケンスパラメータを決定するステップと
を更に有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記定量的血流パラメータは、前記配置される直線セグメントについて導出される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記定量的血流パラメータを導出するとき、識別される血管の病理学的状態が考慮される、請求項6乃至8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記標識領域から撮像領域までの血液の通過時間が、前記血管造影MR信号データから推定され、前記動脈スピン標識シーケンスの前記シーケンスパラメータは、前記推定される通過時間に基づいて決定され、前記標識領域から、前記灌流重み付けMR信号データが取得される前記撮像領域まで標識血液が流れることを可能にする、請求項1乃至9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
検査ボリューム内に主磁場を生成するための少なくとも1つの主磁石コイルと、前記検査ボリューム内の異なる空間方向にスイッチング磁場傾斜を生成するための多数の傾斜コイルと、前記検査ボリューム内にRFパルスを生成するため、及び/又は前記検査ボリューム内に位置される患者の身体からMR信号を受信するための少なくとも1つのRFコイルと、RFパルスの連続時間及びスイッチング磁場傾斜を制御するための制御ユニットと、前記受信MR信号からMR画像を再構成するための再構成ユニットとを有する、MR装置であって、前記MR装置は、
- 前記身体の前記部分を一つ又はそれより多くのMR血管造影スキャンにかけることによって血管造影MR信号データを取得するステップと、
- 識別された血管のうち少なくと1つの血管の直線セグメントを位置特定するステップと、
- 動脈スピン標識シーケンスのシーケンスパラメータによって、前記直線セグメントを覆う標識領域を規定するステップと、
- 前記直線セグメントについて、前記血管造影MR信号データから定量的血流パラメータを導出するステップと、
-前記動脈スピン標識シーケンスの標識効率を、前記動脈スピン標識シーケンスの前記シーケンスパラメータから、及び前記定量的血流パラメータから計算するステップであって、前記定量的血流パラメータは、少なくとも、個々の血管の前記血管直径及び前記血管を通る血液の流速を有する、ステップと、
-前記標識効率を最大化することによって前記シーケンスパラメータを最適化するステップであって、前記標識領域の大きさは前記血管直径に関する定量的情報に基づいて適合される、ステップと、
- 前記身体の前記部分を前記動脈スピン標識シーケンスにかけることによって灌流重み付けMR信号データを取得するステップと、
- 前記灌流重み付けMR信号データからMR画像を再構成するステップと
を実行するように構成される、MR装置。
【請求項12】
MR装置上で実行されるコンピュータプログラムであって、前記コンピュータプログラムは、
- MR血管造影スキャンを実行することによって血管造影MR信号データを取得し、
- 識別された血管のうち少なくと1つの血管の直線セグメントを位置特定するステップと、
- 動脈スピン標識シーケンスのシーケンスパラメータによって、前記直線セグメントを覆う標識領域を規定するステップと、
- 前記直線セグメントについて、前記血管造影MR信号データから定量的血流パラメータを導出し、前記定量的血流パラメータは、少なくとも、個々の血管の前記血管直径及び前記血管を通る血液の流速を有し、
-動脈スピン標識シーケンスの標識効率を、前記動脈スピン標識シーケンスの前記シーケンスパラメータから、及び前記定量的血流パラメータから計算し、
-前記標識効率を最大化することによって前記シーケンスパラメータを最適化し、前記標識領域の大きさは前記血管直径についての定量的情報に基づいて適合され、
- 前記動脈スピン標識シーケンスを実行することによって灌流重み付けMR信号データを取得し、
- 前記灌流重み付けMR信号データからMR画像を再構成する
ための命令を有する、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気共鳴(MR)の分野に関する。それは、診断目的のためのMRイメージング法及びMR装置と関連して特定の用途を見いだし、それを特に参照して記載されるであろう。
【背景技術】
【0002】
二次元又は三次元画像を形成するために磁場と核スピンとの間の相互作用を利用する画像形成MR法は、軟組織のイメージングについて、多くの点で他のイメージング方法に対して優れており、電離放射線を必要とせず、通常侵襲的ではないため、今日、特に医療診断の分野において広く使用される。
【0003】
一般にMR法によれば、検査されるべき患者の身体は、強く均一な磁場B 内に配置され、磁場の方向は同時に測定が関係する座標系の軸(通常z軸)を規定する。磁場B は、定義される周波数(いわゆるラーモア周波数又はMR周波数)の電磁交流磁場(RF磁場)の印加によって励起され得る(スピン共鳴)磁場強度に依存して、個々の核スピンに対して異なるエネルギーレベルを生成する。巨視的な観点から、個々の核スピンの分布は、適切な周波数の電磁パルス(RFパルス)の印加によって平衡状態から外れて偏向される全体的な磁化を生じるが、このRFパルスの対応する磁場Bはz軸に対して垂直に延在するので、磁化は、z軸のまわりに歳差運動を行う。歳差運動は円錐の表面を表し、その開口角はフリップ角と呼ばれる。フリップ角の大きさは、印加される電磁パルスの強度及び持続時間に依存している。いわゆる90°パルスの場合、磁化はz軸から横断面へ偏向される(フリップ角90°)。
【0004】
RFパルスの終了後、磁化は、最初の時定数T1(スピン格子又は縦緩和時間)でz方向の磁化が再び形成される元の平衡状態に緩和して戻り、z方向に垂直な方向における磁化は、第2のより短い時定数T2(スピン - スピン又は横緩和時間)で緩和する。横方向磁化及びその変化は、磁化の変化がz軸に垂直な方向に測定される態様で、MR装置の検査ボリューム内に配置され、配向される受信RFコイルによって検出することができる。横方向磁化の減衰は、同じ信号位相を有する秩序状態から全ての位相角が一様に分布する状態への遷移を促進する局所的な磁場の不均一性によって引き起こされるRF励起の後に起こるディフェージングを伴う。ディフェージングは、リフォーカスRFパルス(例えば180°パルス)によって補償することができる。これにより、受信コイルにエコー信号(スピンエコー)が発生する。
【0005】
体内での空間分解能を実現するために、3つの主軸に沿って延在する時変磁場傾斜が一様な磁場B に重ね合わされ、スピン共鳴周波数の線形空間依存性をもたらす。受信コイルでピックアップされる信号は、体内の異なる位置に関連し得る異なる周波数の成分を含む。受信コイルを介して得られた信号データは、空間周波数領域に対応しており、k空間データと呼ばれる。 k空間データは通常、異なる位相エンコーディングから取得される複数のラインを含む。各線は、多数のサンプルを収集することによってデジタル化される。k空間データのセットは、フーリエ変換によってMR画像に変換される。
【0006】
灌流は、血流による患者の組織への酸素及び栄養素の送達を指し、最も基本的な生理学的パラメータの1つである。灌流障害は、医学的障害及び死亡の多くの主な原因を占めている。組織灌流の測定のためのいくつかのMRイメージング法が当該技術分野において知られている。例えば、MRイメージングで監視することができる拡散性トレーサを適用することができる。そのようなトレーサとしては、例えば、フッ素化ハロカーボン、重水素化水、17 O-水、及び13 C標識炭化水素が挙げられる。しかしながら、磁気的に標識される内因性の血液水は灌流MRイメージングのためのトレーサとしても使用することができる。これを達成するために、動脈血水の縦方向磁化は、それが組織の磁化とは異なるように操作することができる。そのような方法は、通常、動脈スピン標識(ASL)灌流MRイメージングと呼ばれる(例えば、米国特許第6,564,080 B1号参照)。
【0007】
ASLイメージングでは、流入する動脈血中の水プロトンの空間的に選択的な反転又は飽和が血流を標識するために使用される。標識血液から発生するMR信号振幅は、標識されていない血液と比較して減少するか又は負になる。標識付けされる血液が撮像領域内の組織に達すると、それは灌流される組織から発生するMR信号を減衰させる。制御(すなわち、標識されていない)画像から標識画像をボクセル毎に減算することにより、撮像される組織に流れ込んだ標識血液の量の尺度が得られる。この量は組織灌流と密接に関係している。標識画像及び制御画像のMR信号強度の差は、通常、組織のMR信号の数パーセントであり、したがって、ASL差のMR画像は、ある程度まで画像ノイズの影響を受けている。典型的には、信号対雑音比(SNR)を高めるために、ASL取得の数回の繰り返し(10乃至50)が平均化される。
【0008】
ASL技術は、個々の栄養動脈を通して灌流を測定するために適用され得る(「選択的」ASLと呼ばれる)。この場合、血液水プロトンの標識に使用される空間選択的プリペアレーションシーケンスは、単一の血管又は多数の選択血管内の血液のみを標識するように制限される標識領域において核磁化を励起する。
【0009】
関心動脈を最適に標識し、他の隣接血管を標識しないために、選択的ASL技術において慎重な計画が必要とされる。通常、例えば飛行時間型MR血管造影法(TOF)による事前取得MR血管造影図は、血管構造を視覚化するために使用される。これは、例えば標識領域を関心動脈の上に置くことによって、選択的標識の位置を空間的に定義するために血管マップとしての役割を果たす(Helleら、医療における磁気共鳴、2010年、64巻、777乃至786頁参照)。選択的標識化の最適化される局在化とは別に、選択的標識化の効率、特に血管径及び血流速度のような標識に使用されるべき血管系の解剖学的パラメータ及び血流力学的パラメータを含む血流パラメータを制御する多くの他の影響を与えるファクタが存在する。これらのパラメータは、血管の位置、局所的な血管内腔などによって変わる可能性がある。そのような影響は、使用されるASLシーケンスの異なるシーケンスパラメータ及び最終的な画質に影響を与える可能性がある。しかしながら、臨床診療においては、上記のパラメータを考慮することにより、選択的ASLにおける計画は時間のかかるプロセスとなる。これは、標識領域が通常使用されるMR装置のグラフィカルユーザインターフェースにおいて十分に視覚化されていないという事実にもよる。さらに、上述の血流パラメータは、ASLシーケンスの計画中にオペレータにとって利用可能ではない。したがって、標識領域の位置決めは、ユーザの事前知識及び全体的な計画プロセスならびに最終的な画像品質に影響を与えるASL技術の経験に基づいて行われる。
【0010】
JMRI 38(2013)1111?1118(D1)におけるJohnstonらによる論文「擬似連続動脈スピン標識を用いたブタの脳血流定量化」は、PCASLパラメータは標識されるべき血液の速度に関して調整されることを述べている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述から、改良されるASL MRイメージング法に対する必要性があることは容易に理解される。したがって、本発明の目的は、ASL MRイメージングセッションの計画を容易にし、灌流重み付けMRイメージングにおける画質を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、MR装置の検査ボリューム内の主磁場内に置かれた身体の少なくとも一部分のMRイメージングの方法が開示される。この方法は、
- 検査される身体の部分を1回以上のMR血管造影スキャンにかけることによって血管造影MR信号データを取得するステップと、
- 血管造影MR信号データから定量的血流パラメータを導出するステップと、
- ASLシーケンスのシーケンスパラメータから、及び定量的血流パラメータからASLシーケンスの標識効率を計算するステップと、
- 標識効率を最大化することによってシーケンスパラメータを最適化するステップと、
- 身体の部分をASLシーケンスにかけることによって灌流及び重み付けMR信号データを取得するステップと、
- 灌流重み付けMR信号データからMR画像を再構成するステップと
を有する。
【0013】
本発明によれば(従来のASL MRイメージングにおけるように)、身体の部分は、実際の撮像領域の外側で血液水プロトンを励起することによって血液を標識するための(パルス、連続、又は擬似連続)プリペアレーションを含むASLシーケンスにかけられる。 ASLシーケンスは、撮像領域からMR信号を取得するステップをさらに含み、撮像領域への標識血液の流入は、取得されるMR信号データから最終的に再構成されるMR画像の画像コントラストを変える。プリペアレーションは、血液が撮像領域に流れ込む上流領域(標識領域)内の血液水プロトンの核磁化を励起(すなわち反転又は飽和)させるように制御されるRFパルス及びスイッチング磁場傾斜の生成によって行われる。MR信号は、標識血液が撮像領域に到達した瞬間に、通過時間の後、撮像領域から取得される。好ましくは、MR信号データは、標識モードにおける撮像領域の外側での事前プリペアレーションの後に取得され、さらなるMR信号データは、制御モードにおける事前プリペアレーションなしに取得される。これは従来のASL手法に対応し、上述のように、制御モードで取得されるMR画像から標識モードで取得されるMR画像を差し引くことにより、撮像領域における組織灌流の尺度が得られる。
【0014】
本発明は、選択的ASL技術において個々の動脈をうまく標識するために、標識効率、したがって最終的な画質に影響を与える定量的血流パラメータを考慮することが重要であるという洞察に基づいている。例えば、血管直径についての定量的情報は、それに応じて標識領域のサイズを適合させるために使用され得る。血管セグメント内の血流速度に関する定量的情報は、例えば血流方向の傾斜強度、標識パルス間隔、標識期間などのような、ASLシーケンスの特定の標識パラメータを適合させるために使用することができる。さらに、関心血管セグメントの病理学的状態に関する情報(例えば、狭窄、閉塞、プラーク、解剖など)は、血管の病理学的変化による最適以下の標識効率を回避するために考慮され得る。血管内の物体(例えば、血管拡張後のステントなど)に関する情報は、標識化のために血管の特定の部分を除外するために使用することができる。
【0015】
本発明によれば、血管造影MR信号データは、選択的標識プロシージャを計画するために最初に取得される。血管造影MR信号データから定量的血流パラメータを自動的に導出し、これらのパラメータを使用してASLシーケンスのシーケンスパラメータ及び導出される定量的血流パラメータからASLシーケンスの標識効率を計算することが本発明の要旨である。 標識効率は、標識領域を通過する血液水スピンの全磁化のうちの標識される(飽和又は反転される)割合として定義することができる。本発明は、標識効率が、(磁場傾斜強度、磁場傾斜スイッチングのタイミング、RFパルスの持続時間/振幅を含む)ASLシーケンスのパラメータ及び(血流速度、流れの方向、血管直径を含む)血流パラメータに依存するという洞察に基づく。本発明によれば、計算される標識効率は、ASLシーケンスのパラメータが適切であるかの指標として使用される。
【0016】
本発明は、例えばMR装置のグラフィカルユーザインタフェースを介して標識するためにオペレータによって選択される血管内の特定の位置に従って血流パラメータを提示することによって、ASLシーケンスの計画プロセス中にMR装置のオペレータに効率的な支援を提供することができる。血流パラメータとASLシーケンスの重要な標識パラメータとの自動相関は、実際の標識効率を提供する。シーケンスパラメータは、例えば定量的情報(血流パラメータ及び/又は結果として生じる標識効率)の視覚化によって、及び標識領域(例えば、標識磁場傾斜強度でスケーリングされる標識領域の大きさ)を(対話的に)適応することによって、標識効率を最大にすることによって最適化される。これにより、従来技術と比較してASL MRイメージングにおける計画プロセスがより容易かつより直感的になる。同時に、本発明の技術は、好ましいASL方法又は選択性アプローチを選択することにおいてオペレータに十分な自由度を提供し、選択的標識を特定の条件(例えば、変更される血管構造、小児血行動態など)に適応させる。結果として、本発明は、臨床的な日常的測定における選択的ASL技術の使用を容易にし、様々な患者群にわたって最適な画質をもたらす。
【0017】
本発明の好ましい実施形態では、定量的血流パラメータ及び標識効率は、ASLシーケンスのシーケンスパラメータによって定義される標識領域によって覆われている血管セグメントについて計算される。標識化が行われる血管セグメントの定量的血流パラメータは、シーケンスパラメータを最適化するための基礎として標識効率を評価することに関連している。
【0018】
好ましくは、シーケンスパラメータの対話型最適化のために、血管造影MR信号データから血管の視覚化が生成され、視覚化がMR装置のオペレータに表示される。対話型計画及び最適化プロセスは、血管の視覚化に重ね合わされる標識領域を図示することによって容易にすることができ、定量的血流パラメータ及び/又は標識効率は標識領域と空間的に関連してオペレータに直感的に表示される。次いで、例えば、ASLシーケンスのシーケンスパラメータの段階的な対話型調整を実行するオペレータによって標識効率を最大化することができ、標識効率は各調整ステップの後に再計算される。
【0019】
さらなる好ましい実施形態では、導出される定量的血流パラメータは、ASLスキャンの自動計画のための入力パラメータとして使用することができる。 MR血管造影図は血管造影MR信号データから再構成され、血管はMR血管造影図のセグメンテーションによって自動的に識別される。次のステップとして、十分な長さの識別される血管のうちの少なくとも1つの直線セグメントを見つけることができ、定量的血流パラメータは、配置される直線セグメントについて導出され、それからASLシーケンスのシーケンスパラメータは、標識領域が、配置される直線部分をカバーしており、標識効率は最適になるように決定される。同時に、血管造影用MR信号データから、標識領域から撮像領域までの血液の通過時間が推定され、その推定される通過時間に基づいてASLシーケンスのシーケンスパラメータが決定され、標識領域から灌流重み付けMR信号データが取得される撮像領域まで標識血液が流れることは可能になる。
【0020】
これまで説明してきた本発明の方法は、検査ボリューム内に主磁場を発生するための少なくとも1つの主磁石コイルと、検査ボリューム内の異なる空間方向にスイッチング磁場傾斜を発生させるための多数の傾斜コイルと、検査ボリューム内にRFパルスを生成するため、及び/又は検査ボリューム内に位置される患者の身体からMR信号を受信するための少なくとも1つのRFコイルと、RFパルスの連続時間及びスイッチング磁場傾斜を制御するための制御ユニットと、受信されるMR信号からMR画像を再構成するための再構成ユニットとを含むMR装置によって実行されることができる。本発明の方法は、好ましくは、MR装置の再構成ユニット及び/又は制御ユニットの対応するプログラミングによって実施される。
【0021】
本発明の方法は、現在臨床的に使用されるほとんどのMR装置において有利に実施することができる。この目的のために、MR装置は本発明の上記方法ステップを実行するようにMR装置が制御されるコンピュータプログラムを利用することのみが必要である。コンピュータプログラムは、MR装置の制御ユニットにインストールするためにダウンロードされるように、データキャリア上に存在してもよく、データネットワーク内に存在してもよい。
【0022】
添付の図面は、本発明の好ましい実施形態を開示している。しかしながら、図面は例示の目的でのみ設計されており、本発明の範囲を定義するものとして設計されるのではないことを理解される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の方法を実施するためのMR装置を示す。
図2】本発明の第1の実施形態による、ASLスキャンを対話的に計画するための重ね合わされる標識領域及び血管を伴うMR血管造影図を示す。
図3】本発明の第2の実施形態によるASLスキャンを対話的に計画するための重ね合わされる標識領域及び血管を有するMR血管造影図を示す。
図4】本発明の第3の実施形態による、ASLスキャンの自動計画のために配置される直線血管セグメント及び血管を伴うMR血管造影図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1を参照すると、MR装置1が示される。この装置は、検査ボリュームを通してz軸に沿って実質的に均一で時間的に一定の主磁場B が生成されるように、超伝導又は抵抗性主磁石コイル2'を有する。この装置はさらに、シミングコイル2の(一次、二次、該当する場合は三次)のセットを有し、セット2'の個々のシミングコイルを通る電流は、検査ボリューム内のB偏差を最小にする目的で制御可能である。
【0025】
磁気共鳴生成及び操作システムは、MRイメージングを行うため、核磁気スピンを反転又は励起し、磁気共鳴を誘導し、磁気共鳴をリフォーカスし、磁気共鳴を操作し、磁気共鳴を空間的に及びその他の方法でエンコードし、スピンを飽和させる。
【0026】
最も具体的には、傾斜パルス増幅器3が検査ボリュームのx、y及びz軸に沿って全身傾斜コイル4、5及び6のうちの選択されるものに電流パルスを印加する。デジタルRF周波数送信器7は、送信/受信スイッチ8を介してRFパルス又はパルスパケットをボディRFコイル9に送信し、RFパルスを検査ボリューム内に送信する。典型的なMRイメージングシーケンスは、互いに組み合わされる短い期間のRFパルスセグメントのパケットから構成されており、加えられた磁場傾斜の何れも核磁気共鳴の選択される操作を達成する。 RFパルスは、飽和させ、共鳴を励起し、磁化を反転させ、共鳴をリフォーカスし、又は共鳴を操作し、検査ボリューム内に位置決めされる身体10の部分を選択するために使用される。 MR信号は、ボディRFコイル9によってもピックアップされる。
【0027】
パラレルイメージングによって身体10の限られた領域のMR画像を生成するために、ローカルアレイRFコイル11、12、13のセットが、イメージングのために選択される領域に隣接して配置される。アレイコイル11、12、13は、ボディコイルRF送信によって誘導されるMR信号を受信するために使用することができる。
【0028】
結果として生じるMR信号は、ボディRFコイル9及び/又はアレイRFコイル11、12、13によってピックアップされ、好ましくは前置増幅器(図示せず)を含む受信器14によって復調される。受信器14は、送信/受信スイッチ8を介してRFコイル9、11、12、13に接続される。
【0029】
ホストコンピュータ15は、シミングコイル2 'ならびに傾斜パルス増幅器3及び送信器7を通る電流を制御して、エコープレーナイメージング(EPI)、エコーボリュームイメージング、グラジエント及びスピンエコーイメージング、高速スピンエコーイメージングなどの複数のMRイメージングシーケンスのいずれかを生成する。選択されるシーケンスに対して、受信器14は各RF励起パルスに続いて迅速に連続して単一又は複数のMRデータラインを受信する。データ取得システム16は受信信号のアナログ - デジタル変換を行い、各MRデータラインをさらなる処理に適したデジタルフォーマットに変換する。現代のMR装置では、データ取得システム16は生の画像データの取得に特化した別個のコンピュータである。
【0030】
最終的に、デジタル生画像データは、フーリエ変換又はSENSE又はSMASHのような他の適切な再構成アルゴリズムを適用する再構成プロセッサ17によって画像表現に再構成される。 MR画像は、患者を通る平面スライス、平行平面スライスのアレイ、三次元ボリュームなどを表すことができる。次いで、画像は画像メモリに記憶され、スライス、投影、又は画像表現の他の部分を、例えば結果のMR画像の人が読める表示を提供するビデオモニタ18を介して視覚化のための適切なフォーマットに変換するためにアクセスされ得る。
【0031】
本発明によれば、例えば患者の脳内の血液灌流を調べるためにASL灌流イメージングが適用される。ホストコンピュータ15及び再構成プロセッサ17は、典型的にはソフトウェアによって、上記及び下記の本発明の方法を実行するように構成される。
【0032】
本発明による脳の選択的ASL MR検査を計画し、実行するためのワークフローを、図2乃至図4を参照して以下に説明する。
【0033】
図2に示される実施形態は、個々に選択される血管内の血液スピンを飽和又は反転させるための標識領域として単一のディスク形状スポットを使用する「超選択的」ASL(Helleら、医療における磁気共鳴、2010年、64巻、777乃至786頁参照)に基づく選択的動脈スピン標識に関する。最初に、頸部のMR血管造影スキャンが血管造影MR信号データを取得するために行われる。従来の飛行時間(TOF)血管造影法は、患者の脈管構造のイメージングのために使用される。対応する血管造影図の視覚化は、二次元最大強度投影画像として図2a及び図2bに示される。選択的ASLシーケンスの有効標識領域は、血管造影図上に標識領域21のグラフィック表示を重ね合わせることによってオペレータに提示される。標識領域の直径、厚さ及び配向は、標識化のために適用されるべき磁場傾斜のモーメントに従って視覚化される。 ASLシーケンスのこれらのパラメータはオペレータによって対話的に調整することができる。オペレータは、MR装置1のグラフィカルユーザインタフェースを使用して血管造影図において関心血管の上に標識領域の視覚化を対話的に配置する。標識によって覆われる血管のセグメントを解析するために血管セグメンテーションアルゴリズムが使用され、定量的血流パラメータ(血流速度、血管直径)は、標識領域内に位置する血管造影図のボクセルから導出される。続いて、特定の血管セグメントにおける標識効率は、ASLシーケンスのシーケンスパラメータに従って、及び導出される定量的血流パラメータに従って計算される。定量的血流パラメータ及び標識効率は、標識領域21の視覚化と空間的に関連してテキストボックス22に表示される。オペレータによるシーケンスパラメータの何れかの変更又は標識領域21の再配置は、標識効率の再計算をもたらすので、オペレータが標識領域21のための最良の位置を見つけることは容易になる。オペレータは対話的に標識領域21を移動させ、最適な(ある意味で十分な)標識効率が達成されるまで、ASLシーケンスのパラメータを修正する。これは、変化した動脈血管系(プラークなど)を有する患者にとって特に重要である。図2aに示す実施形態では、標識領域は首の右椎骨動脈のセグメント上に配置される。選択されるセグメント内の血管直径及び血流速度は、適用されるASLシーケンスのパラメータ設定を考慮に入れて、結果として得られる標識効率とともにテキストボックス22内でユーザに提示される。図2bから分かるように、標識領域の傾斜は、血管セグメントが、この場合、ディスク形状の標識領域に対して垂直になるので、改善された標識効率をもたらす。最後に、ASLシーケンスは対話的に最適化されるシーケンスパラメータで開始される。灌流重み付けMR信号データが取得され、MR画像が灌流重み付けMR信号データから再構成される。
【0034】
図3に示す実施形態は、標識面にわたって標識効率の変調を用いる「血管エンコード」ASLを使用する選択的ASLに関する(Wongら、医療における磁気共鳴、2007年、58巻、1086乃至1091頁参照)。図2に示す実施形態のように、この方法は首のMR血管造影スキャンで始まる。標識領域31の視覚化は、MR装置1のグラフィカルユーザインタフェースにおいてオペレータに提示される。図3に見られるように、血管エンコードASLの標識平面31は、2つ以上の動脈を含む。標識平面31の厚さは、ASLシーケンスのシーケンスパラメータによって定義される標識傾斜モーメントに従って視覚化され、オペレータによって対話的に調整することができる。標識平面31によってカバーされる血管造影図内の血管系のセグメントを解析するために血管セグメンテーションアルゴリズムが使用され、定量的血流パラメータ(血流速度、血管直径)はそれぞれ、標識領域31内に配置される血管造影図のボクセルから導出される。続いて、特定の血管セグメントにおける標識効率が、ASLシーケンスのシーケンスパラメータ及び導出される定量的血流パラメータに従って計算される。定量的血流パラメータ及び標識効率は、標識平面31を通過する対応する血管と空間的に関連してテキストボックス32に表示される。オペレータは、標識平面31を通過する血管について最適化された平均標識効率が得られるまで、標識平面31の位置及び方向ならびにASLシーケンスのさらなるパラメータを対話式に調整し得る。これは、標識プロシージャ中にそれぞれの血流方向に対して垂直な方向にスイッチされるASLシーケンスの磁場傾斜の傾斜強度を適合させることによって標識平面31にわたる標識効率の変調を含み得る。最後に、ASLシーケンスは対話的に最適化されるシーケンスパラメータで開始される。灌流重み付けMR信号データが取得され、MR画像が灌流重み付けMR信号データから再構成される。
【0035】
図4に示す実施形態は、「超選択的」ASL(Helleら、医療における磁気共鳴、2010年、64巻、777乃至786頁参照)に基づく選択的ASLの完全自動化計画に関する。図2及び図3に示す実施形態のように、この方法は首のMR血管造影スキャンで始まる。血管造影法で視覚化される首の動脈を自動的に識別する血管セグメンテーションアルゴリズムが適用される。セグメンテーションは領域成長アルゴリズムに基づくことができ、単一の血管の識別は、例えば解剖学的アトラスを使用することによって、及び専用の解剖学的モデルを使用することによって実行することができる。識別される動脈は、それぞれICA(内頸動脈)、VA(椎骨動脈)、及びBA(脳底動脈)の両方のような主要な脳栄養血管であり得る。他の関心血管は、外頸動脈(ECA)、眼動脈(OA)などであり得る。識別される動脈のそれぞれについて、理想的な血管構造の解剖学的モデルからの識別される血管の偏差を決定することによって、又は血管造影MR信号データから導出される指向性血流情報を使用することによって、それぞれの血管内腔の直線セグメントがセグメント化される。図4は、左ICA42に配置される直線状のセグメント41を示している。狭窄した血管の変化の存在などの病理学的状態は、セグメント化される血管及びそれぞれの血流速度を理想的な血管の状態を表す解剖学的モデルと比較することによって、識別される血管のそれぞれについて検査することができる。さらに、病院のデータベースに保存される患者固有の情報を使用することができる。直線状の血管セグメント41が識別される血管の各々に対して配置されると、例えば血管造影図の強度情報に基づいて血管内腔の個々の直径が推定される。次のステップとして、超選択的ASLにおける標識領域の大きさは、それぞれの標識領域が配置される直線部分41を覆うように、推定血管直径に従ってシーケンスの対応する磁場傾斜の強度を設定することによって自動的に適応される。定量的血流パラメータ(血流方向、血流速度、血流方向)は、配置されるセグメント41内の血管造影図のボクセルについての血管造影MR信号データから導き出される。ASLシーケンスのRFパルスの強度及び時間間隔並びに(血流の方向における)標識磁場傾斜の強度は、識別された血管セグメント41の各々における個々の血流速度に従って自動的に適応され、 それぞれの標識領域をクロスする血液水スピンにとって最適な標識効率を達成する。(病理学的状態を含む)識別される血管の利用可能なデータは、標識領域から撮像領域への血液の平均通過時間の大まかな推定を可能にする。 ASLシーケンスのシーケンスパラメータ(標識持続時間及び標識後遅延)は、推定通過時間に基づいて決定され、標識される血液が標識領域から、灌流重み付けMR信号データが最終的に得られる撮像領域まで流れることを可能にする。ASLシーケンスは、その後、完全に自動的に最適化されるシーケンスパラメータで開始される。灌流重み付けMR信号データが取得され、MR画像が灌流重み付けMR信号データから再構成される。
【0036】
本発明の手法は、ASL技術に基づく脳の選択的MR灌流検査に特によく適している。しかしながら、本発明の手法は、他の器官、例えば腹部又は心臓のMRイメージングにおける灌流測定のための用途を見出すことができる。
図1
図2
図3
図4