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特許7092760核融合炉での使用が意図されているミューオンを発生させるための装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】核融合炉での使用が意図されているミューオンを発生させるための装置
(51)【国際特許分類】
   G21G 4/06 20060101AFI20220621BHJP
   G21B 3/00 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
G21G4/06
G21B3/00 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019527410
(86)(22)【出願日】2017-11-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-09
(86)【国際出願番号】 SE2017051086
(87)【国際公開番号】W WO2018093312
(87)【国際公開日】2018-05-24
【審査請求日】2020-10-29
(31)【優先権主張番号】1651504-1
(32)【優先日】2016-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】519176175
【氏名又は名称】ノロント フュージョン エナジー アクスイェ セルスカプ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】レイフ ホルムリード
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】Leif Holmlid, Sveinn Olafsson,Charged particle energy spectra from laser-induced processes: Nuclear fusion in ultra-dense deuterium D(0),International Journal of Hydrogen Energy,2015年11月14日,Volume 41,Page 1080-1088,https://doi.org/10.1016/j.ijhydene.2015.10.072
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21B 3/00
G21G 4/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミューオンを発生させるための装置において、
前記装置は、超高密度水素アキュムレーターを備え、
前記超高密度水素アキュムレーターは、
気体状態の水素を受け入れるための入口と、
流路によって前記入口から分離されている出口と、
前記入口と前記出口との間の前記流路に沿って配置されている水素移動触媒であって、気体状態から超高密度状態への水素の遷移を生じさせるように選択されている材料組成を有する水素移動触媒と、
蓄積部材の受け入れ部分において前記出口から前記超高密度状態の水素を受け入れ、且つ、前記蓄積部材の蓄積部分において前記超高密度状態の水素を蓄積するための蓄積部材であって、及び、前記受け入れ部分から前記蓄積部分への下向き傾斜表面を実現するように構成されている蓄積部材と、
前記超高密度状態の水素からの負ミューオンの放出を励起又は誘発するようになっている場を、前記蓄積部材の前記蓄積部分に対して提供するように構成されている場供給源とを含む装置。
【請求項2】
前記超高密度水素アキュムレーターは、さらに、前記超高密度状態の水素の漏出を減少させるための、前記受け入れ部分と前記蓄積部分と前記下向き傾斜表面とを取り囲む障壁を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記障壁は、ポリマー、及び、塩基性金属酸化物から成るグループから選択されている材料で作られている外側表面を少なくとも有する、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記超高密度水素アキュムレーターは、さらに、前記蓄積部材と前記場供給源との間に配置されており、且つ、前記出口と前記受け入れ部分とを遮蔽する遮蔽部材を備えている、請求項1~3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記遮蔽部材は、前記場供給源によって提供される場に対して前記蓄積部分を露出させるように構成されている、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記蓄積部材に面する前記遮蔽部材の少なくとも表面が、ポリマー、塩基性金属酸化物、及び、金属から成るグループから選択されている材料で作られている、請求項4又は5に記載の装置。
【請求項7】
前記超高密度水素アキュムレーターは、さらに、前記蓄積部材の前記蓄積部分内に配置されている、前記超高密度状態の水素を吸収するための金属吸収部材を備える、請求項1~6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記金属吸収部材は、前記装置のための動作温度で液体状態である金属と、前記装置のための動作温度において固体状態である触媒的に活性である金属とから成るグループから選択されている、少なくとも1つの金属で作られている、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記超高密度水素アキュムレーター内に備えられている前記蓄積部材の温度を上昇させるための加熱装置をさらに備える、請求項1~8のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
前記出口は、前記蓄積部材の前記受け入れ部分に配置されている、請求項1~9のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
前記出口は、前記蓄積部材の一体状部分である、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記場供給源は、前記超高密度水素アキュムレーターの前記蓄積部材の前記蓄積部分に照射するように配置されているレーザーである、請求項1~11のいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
前記場供給源は、前記蓄積部材の前記蓄積部分内に蓄積されている前記超高密度状態の水素を照射するように構成されているレーザーであり、
前記超高密度水素アキュムレーター内に備えられている前記蓄積部材は、下面と凹形の上面とを有しており、及び、複数の穴が前記下面から前記凹形の上面に延び,及び、前記複数の穴の各穴は、前記下面上の入口と前記上面上の出口とを有する流路を画定し、及び、前記凹形の上面の最下部分は蓄積部分であり、及び、
前記穴の各々は、気体状態から超高密度状態への水素の遷移を生じさせるように選択されている前記材料組成を有する水素移動触媒を収容し、及び、
障壁が前記上面を取り囲み、及び、
遮蔽部材開口部を有する遮蔽部材が、前記障壁と前記上面と共に、超高密度状態の水素の漏洩を防止するための部分的に密閉された空間を形成し、これと同時に、前記レーザーが前記遮蔽部材開口部を通過して前記蓄積部分を照射することを可能にする、請求項1に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミューオンを発生させるための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
核融合は、化石燃料の燃焼に関連した排気ガスの問題と、従来の核分裂原子力の燃料処理の問題とがない、未来の大規模なエネルギー発生のための候補の1つである。
【0003】
核融合を使用するエネルギー発生の調査研究が、幾つかの並行的な進路を進んでいる。現時点では、大半の努力が、磁気的閉込め核融合(magnetic confinement fusion)と慣性閉込め核融合(inertial confinement fusion)(ICF)のための原子炉を開発することに費やされている。これらの進路の両方は困難な問題点を有し、及び、これらの技術のいずれかを使用する信頼性が高く且つ商業的に存立可能な核融合原子炉が、近い将来において操業状態となる可能性は低い。
【0004】
ミューオン触媒核融合として知られている代替的なプロセスが、1950年代以来知られており、このプロセスは初期においては有望であると見られていた。しかし、各々のミューオンが完全に安定していてさえ、トリチウム-重水素核融合という最も有利な場合においてさえ、「アルファ-スティッキング(alpha-sticking)」として知られている現象のせいで、各々のミューオンは、わずか約100回から約300回だけしか触媒的に反応できなかった。これに加えて、ミューオンは、約2.2μs内に崩壊する不安定な粒子である。
【0005】
例えばプロトン加速器を使用する、ミューオンを生成する既存の方法が、高コストであり、及び、多量のエネルギーがミューオン生成において必要とされる。したがって、ミューオン触媒核融合を実用的に使用可能なものにするためには、ミューオンを生成するためのより低コストで且つエネルギー効率がより高い方法が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記問題に対処することと、ミューオンを生成するための作動物質として超高密度な水素を使用する、ミューオン触媒核融合によるエネルギー発生を提供することとが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明の第1の態様では、ミューオンを生成するための装置が提供され、この装置は、水素アキュムレーター(hydrogen accumlator)を備え、この水素アキュムレーターは、気体状態の水素を受け入れるための入口と、流路によって入口から分離されている出口と、入口と出口との間の流路に沿って配置されている水素移動触媒であって、気体状態から超高密度状態への水素の遷移を生じさせるように選択されている材料組成を有する水素移動触媒と、蓄積部材の受け入れ部分において出口から超高密度状態の水素を受け入れ、且つ、蓄積部材の蓄積部分において超高密度状態の水素を蓄積する蓄積部材であって、及び、受け入れ部分から蓄積部分への下向き傾斜表面を実現するように構成されている蓄積部材と、超高密度状態の水素からの負ミューオンの放出を励起するようになっている場(field)を、蓄積部材の蓄積部分に対して提供するように構成されている場供給源(field source)とを含む。
【0008】
本出願の文脈において、「水素」は、原子核が単一の陽子を有するあらゆる同位体又は同位体の混合を含むと理解されるべきである。特に、水素は、プロチウム、重水素、トリチウム、及び、これらのあらゆる組合せを含む。
【0009】
「超高密度状態」の水素は、少なくとも本出願の文脈においては、互いに隣接する原子核が互いに1ボーア半径よりも著しく小さい範囲内にある量子材料(量子流体)の形態の水素と理解されるべきである。言い換えると、超高密度状態における原子核-原子核距離は、50pmよりも著しく小さい。以下では、超高密度状態の水素は、H(0)(又は、重水素が特に言及される時には、D(0))と呼ばれるだろう。術語「超高密度状態の水素」と「超高密度水素(ultra-dense hydrogen)」は、本出願全体において同義語として使用されている。
【0010】
「水素移動触媒」は、水素気体分子(H2)を吸収し且つこれらの分子を原子水素に解離する、即ち、反応H2→2Hを触媒することが可能な、任意の触媒である。名称「水素移動触媒」は、この触媒上でこのように形成された水素原子が、その表面上の他の分子に非常に容易に付着し、且つ、したがって、1つの分子から別の分子に移動させられることが可能であるということを含意する。水素移動触媒は、さらに、水素原子が共有結合を再形成することが阻止される場合に、超高密度状態への水素の遷移を生じさせるように構成されてもよい。気体状態から超高密度状態への触媒遷移の背後にある仕組みは極めてよく理解されており、及び、この遷移が、例えば製品として入手可能であるいわゆるスチレン触媒と、イリジウム及び白金のような(純粋に)金属の触媒とを含む、様々な水素移動触媒を使用して実現されることが可能であることが実験によって示されている。水素移動触媒との接触時に、水素移動触媒が気体状態の水素を超高密度状態へ直接的に遷移させなければならないということは必ずしも必要ではないことに留意されたい。この代わりに、気体状態の水素は、最初に稠密状態(dense state)H(1)に遷移させられ、及び、その後で自然発生的に超高密度状態H(0)に遷移させられるだろう。さらに、この後者の場合には、水素移動触媒は、水素が気体状態から超高密度状態に遷移することを引き起こし終わっている。
【0011】
超高密度状態よりも高いエネルギー状態である稠密状態H(1)では、互いに隣接する原子核の間の距離は約150pmである。
【0012】
この超高密度水素が実際に形成され終わっているということが、レーザーを用いて触媒反応の結果を照射することと、その次に、放出された粒子の飛行時間又は速度を測定することとによって判定されることが可能である。こうした判定の一例が、後述の見出し「実験結果」の箇所において、より詳細に説明されるだろう。
【0013】
超高密度水素の特性と、異なるタイプの水素移動触媒を使用する超高密度水素への気体水素の遷移を引き起こすための方法と、超高密度水素の存在と場所を検出するための方法とが、本発明者と他の人々によって広範囲に研究されてきた。これらの研究の結果が、例えば、
S.Badiei,P.U.Andersson,and L.Holmlid,Int.J.Hydrogen Energy 34,487(2009)、
S.Badiei,P.U.Andersson,and L.Holmlid,Int.J.Mass.Spectrom.282.70(2009)、
L.Holmlid,Eur.Phys.J.A 48 (2012)11、及び、
P.U.Andersson,B.Lonn and L.Holmlid,Riview of Scientific Instruments 82,013503(2011)
に発表されている。
【0014】
これらの科学論文の各々が、その全体において本明細書に引例として援用されている。
【0015】
蓄積部材の受け入れ部分から蓄積部分への上記の下向き傾斜表面が、本発明の実施態様によるミューオン生成のための装置が動作のために配置される時に、下向きに傾斜しているということが理解されなければならない。
【0016】
本発明は、超高密度水素を蓄積することと、この蓄積された超高密度水素に摂動場(perturbing field)(純粋に電気的又は磁気的な場を含む電磁場のような)を受けさせることとによって、従来の方法を使用することに比べて、より低コストで且つより高いエネルギー効率でミューオンが発生させられることが可能であるという認識に基づいている。本発明は、さらに、超高密度水素の1つ又は複数の供給場所と蓄積部分との間の下向き傾斜表面を提供することによって、超高密度水素が蓄積されることが可能であることを実現している。この認識によって、重力と供給気体流とが、供給場所から蓄積部分に超高密度水素を移動させるように協働し、及び、この蓄積部分では、したがって、超高密度水素が蓄積され,及び、ミューオンを生成するようにレーザー照射のような摂動場を受けさせられることが可能である。
【0017】
本発明による装置の実施態様では、水素アキュムレーターは、超高密度状態の水素が蓄積部分から離れて受け入れ部分から漏出することを減少させるための、受け入れ部分と蓄積部分と下向き傾斜表面とを取り囲む、水素流障壁をさらに備えてもよい。
【0018】
超高密度水素の超流体特性によって、超高密度水素は、蓄積部分から離れて上方に流れるだろう。上述の水素流障壁の存在が、超高密度水素の超流体特性に起因する超高密度水素の漏出を防止するか,又は、少なくとも大きく減少させることが可能である。したがって、漏出超高密度水素に対する蓄積超高密度水素の比率が増大させられることが可能であり、このことは、より効率が高いミューオン発生を実現する。
【0019】
上記障壁は、有利であることに、超高密度水素の漏洩を助けることがない材料で作られている、周囲区域に面する外側表面を少なくとも有する。こうした材料の例が、様々なポリマー、ガラス、及び、酸化アルミニウムのような塩基性金属酸化物である。
【0020】
様々な実施態様では、水素アキュムレーターは、さらに、蓄積部材と場供給源との間に配置されており且つ出口と受け入れ部分とを遮蔽する遮蔽部材を備えてもよい。
【0021】
遮蔽部材を備えることが、超高密度水素の漏出をさらに減少させ、及び、少なくとも、そうでない場合には水素移動触媒がレーザー照射にさらされることになる実施態様において、水素移動触媒をさらに保護するだろう。
【0022】
さらに、この遮蔽部材は、有利なことに、蓄積部分を,場供給源によって与えられる場に対して露出させるように配置されてもよい。上述した摂動場がレーザー照射の形で与えられる実施態様では、遮蔽部材は、蓄積部分内の蓄積された超高密度水素にレーザー照射が当たることを可能にするように、蓄積部分の上方で開口していてもよい。
【0023】
障壁に関して上述したように、少なくとも、蓄積部材に面する遮蔽部材の表面が、超高密度水素の漏洩を低減させるように、ポリマー及び塩基性金属酸化物から成るグループから選択されている材料で作られてもよい。
【0024】
さらに、様々な実施態様では、水素アキュムレーターは、水素蓄積部材の蓄積部分内に配置されている、超高密度状態の水素を吸収するための金属吸収部材をさらに備えてもよい。
【0025】
これによって、超流体の超高密度水素は蓄積部分内に保持されることが可能であり、このことがミューオンのより効率的な発生を実現する。
【0026】
有利であることに、金属吸収部材は、その装置のための動作温度で液体状態である金属と、その装置のための動作温度において固体状態である触媒的に活性である金属とから成るグループから選択されている、少なくとも1つの材料で作られていてもよい。
【0027】
金属吸収部材に適している材料の例が、Ga又はKのような、液体であるか又は容易に溶融される金属と、Pt又はNi等のような固体の触媒的に活性である金属とを含む。
【0028】
様々な実施態様では、本発明の装置は、さらに、水素アキュムレーター内に備えられている蓄積部材の温度を上昇させるための加熱装置を備えてもよい。
【0029】
蓄積部材の温度を上昇させることによって、超高密度水素は、超流体から通常の流体へ遷移させられることが可能であり、このことが、超流体の漏出によって蓄積部材から漏洩する超高密度水素の量を減少させるだろう。
【0030】
実施態様によっては、さらに、出口が蓄積部材の受け入れ部分に配置されてもよい。さらに、この出口は、蓄積部材の一体状の部分であってもよい。
【0031】
水素移動触媒は、有利なことに、多孔性であってもよく、したがって、気体状態の水素はその細孔の中を通って流れることが可能である。このことが、水素気体と水素移動触媒との間の大きな接触面積を実現するだろう。しかし、これと同時に、細孔を通る流れは、到達可能な流量と、したがって恐らくは超高密度水素の生成速度とを制限するだけだろう。
【0032】
本発明者は、水素移動触媒の細孔の中を通過する流れが、気体状態から超高密度状態への水素の遷移を生じさせるためには、必ずしも必要ではないということと、水素移動触媒が、以前に考えられていたものに比べて、より長い距離において、且つ、より効率的に、この遷移を生じさせることが可能であるということとを発見している。したがって、水素気体は、水素移動触媒の中を通って流れるように強制されるというよりもむしろ、水素移動触媒の表面上を流れることが可能にされるだろう。
【0033】
様々な態様では、さらに、場供給源は、蓄積部材の蓄積部分内に蓄積されている超高密度状態の水素を照射するように構成されているレーザーであってもよく、及び、水素アキュムレーター内に含まれる蓄積部材は下面と凹形の上面とを有してもよく、及び、複数の穴が下面から凹形の上面に延び,及び、この複数の穴の各穴は、下面上の入口と上面上の出口とを有する流路を画定し、及び、凹形の上面の最下部は蓄積部分であり、及び、各穴は、気体状態から超高密度状態への水素の遷移を生じさせるように選択された材料組成を有する水素移動触媒を収容してもよい。さらに、障壁が上面を取り囲んでもよく、及び、遮蔽部材開口部を有する遮蔽部材が、障壁と上面と共に、超高密度状態の水素の漏洩を防止するための部分的に密閉された空間を形成し、これと同時に、このことが、レーザーが遮蔽部材開口部を通過して蓄積部分に照射されることを可能にする。
【0034】
さらに、本発明の様々な実施態様による,ミューオンを発生させるための装置が、有利には、さらに水素容器を備える核融合炉内に含まれてもよく、及び、この装置は、水素容器内での核融合を触媒するために、水素容器に衝突する負ミューオンを発生させるように構成されている。
【0035】
要約すると、本発明は、ミューオンを発生させるための装置に関し、この装置は、入口と、流路によってこの入口から分離されている出口と、入口と出口との間の流路に沿って配置されている水素移動触媒と、蓄積部材の受け入れ部分において、出口からの超高密度状態の水素を受け入れるための、且つ、蓄積部材の蓄積部分において超高密度状態の水素を蓄積するための蓄積部材とを含む。この蓄積部材は、受け入れ部分から蓄積部分への下向きに傾斜する表面を有する。この装置は、さらに、障壁及び遮蔽材のような、超流体の高密度材料を取り扱うための幾つかの高度な機能を有する。この装置は、さらに、超高密度状態の水素からの負ミューオンの放出を励起するようになっている場を蓄積部材の蓄積部分に対して提供するように構成されている、レーザーのような場供給源を含む。
【0036】
以下では、本発明のこれらの態様と他の態様とを、本発明の例示的な実施形態を示す添付図面を参照しながら、より詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の実施形態によるミューオン発生装置を含む核融合炉の概略的なブロック図である。
図2】本発明によるミューオンを発生させるための装置の例示的な実施形態の分解組立斜視図である。
図3】負ミューオンの発生を検出するための例示的な測定装置の略図である。
図4図3に示されている装置に類似した装置を使用して得られる測定値の図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1は、本発明の実施形態によるミューオン発生装置を使用するミューオン触媒核融合のための核融合炉を機能的に示す概略的なブロック図である。
【0039】
核融合炉1が、ミューオン発生装置10と、水素気体(例えば、プロチウム、重水素、及び、トリチウムの適切な混合であってよい)を収容する容器3と、蒸発器5と、発電機7とを備える。
【0040】
図1に概略的に示されているように、ミューオン発生装置10によって発生させられたミューオンは、容器3内でのそれ自体は公知である核融合反応にしたがって核融合を触媒するために使用される。容器3内の核融合反応から生じる熱が、蒸発器内で水のようなプロセス流体を蒸発させるために使用される。結果的に得られた蒸気のような蒸気相プロセス流体が発電機7を駆動するために使用され、電気エネルギーの出力を生じさせる。熱だけが必要とされる場合には、発電機は不要である。
【0041】
図2は、本発明による、ミューオンを発生させるための装置の例示的な実施形態の略図である。以下では、この装置は、通例、「ミューオン発生装置」と呼ばれるだろう。
【0042】
図2を参照すると、ミューオン発生装置10は、水素アキュムレーター13と、本明細書ではレーザー(図2には示されていないが、レーザービーム15を示すブロック矢印で示されている)の形態である場供給源とを備える。図2に概略的に示されているように、水素アキュムレーター13は、水素気体取入口部材17と、蓄積部材19と、この図ではガスケットの形である障壁21と、遮蔽部材23とを備える。
【0043】
図2に示されているように、蓄積部材19は,下面25と、凹形の上面27とを有する。図2に示されている特定の例では、この凹形の上面27は概ね円錐形であり、且つ、丸い頂点を有する。複数の穴29(図面の錯綜を避けるために、穴の1つだけが参照番号で示されている)が、蓄積部材19を通過して下面25から上面27に延び,及び、対応する複数の水素移動触媒プラグ31(図面の錯綜を避けるために、触媒プラグの1つだけが参照番号で示されている)がこれらの穴29によって収容されている。
【0044】
図2の例示的な実施形態では、蓄積部材19の下面25は、さらに水素気体取入口部材17によって画定されている、水素気体のための入口チャンバー33の蓋を形成する。蓄積部材19を通過して形成されている穴29の各々は、入口チャンバー23から水素気体を受け入れるための入口35と、蓄積部材19の上面27上の受け入れ部分39に超高密度水素を供給するための出口37とを有する。
【0045】
蓄積部材19の上面27の円錐形の形状によって、受け入れ部分39に対して供給される超高密度水素は、主として、蓄積部材19の上面27によって形成される「窪み(bowl)」の底部において蓄積部分41に向かって流れる傾向がある。
【0046】
(超高密度水素の超流体状態と通常の流体状態との間の遷移温度より低い温度における)超高密度水素の超流体挙動によって、受け入れ部分39に対して供給される超高密度水素の一部分が、蓄積部分41から離れる形で上方に流れるだろう。この流れは、障壁21によって妨害され、及び、さらには遮蔽部材23によっても妨害される。
【0047】
蓄積部分41内の超高密度水素の量をさらに増大させるために、水素蓄積部材13は、追加的に、蓄積部分41内に配置されている超高密度水素保持部材43も備える。「発明の概要」セクションでさらに詳細に上述したように、この超高密度水素保持部材43は、超高密度水素を吸収することが可能である液体金属又は固体金属で作られているだろう。
【0048】
凹形上面27の様々な異なる形状が想定可能であるということに留意されたい。例えば、1つ又は複数の受け入れ部分29から蓄積部分41に向かう傾斜表面部分が存在する限りは、この凹形上面27は必ずしも回転対称性である必要はない。
【0049】
蓄積部分41内に蓄積された超高密度水素は、場供給源(レーザービーム15によって示されている)を使用する摂動場を受けさせられる。図2の例示的な実施形態では、場供給源はレーザーであり、及び、したがって、摂動場はレーザー照射の形態で供給される。
【0050】
当業者は、本発明が、上述した好ましい実施形態だけに限定されることはないということを理解する。これとは反対に、多くの変更と変形とが,添付されている特許請求項の範囲内で可能である。
【0051】
特許請求項では、術語「備える(comprising)」が他の要素又は段階を排除することはなく、及び、不定冠詞「a」又は「an」は複数を排除することがない。互いに異なる従属特許請求項において特定の測定値が示されているという単なる事実は、これらの測定値の組合せが利用されることが不可能であるということを示すものではない。
【0052】
理論的論考
「超高密度水素とミューオン発生」
超高密度水素H(0)は、室温において量子材料である。このことは、D(0)の構造と、さらにそのプロチウムアナログp(0)との詳細な研究を伴う、幾つかの科学論文において説明されている。室温において超流体性と超伝導性の両方であることが示されている。通常に測定された2.3pm以下の非常に短いp-p及びD-D距離の故に、H(0)の密度は非常に高い。
【0053】
通常(軌道角運動量I)のリュードベリ物質(Rydberg matter)は、その結合電子に関してI>0を有するが、この超高密度物質は、I=0、及び、結合電子に関するスピン量子数であるs>0(1,2,3,4,…)を有する。したがって、超高密度物質構造を与える電子は、軌道運動を持たず、スピン運動だけを有する。この電子スピン運動は、軌道半径rq=h/2mec=0.192pmと光速度c(「ツィッターベベーグング(Zitterbewegung)」)とを有する電荷の運動と解釈されてもよい。このスピン運動は、H原子を中心としており、及び、通常のリュードベリ物質に関する平面クラスターの場合と同様に、H-H対に関する平面構造を与えるだろう。このことは、d=2.9l20である通常のリュードベリ物質における原子間距離が、直接測定値によって確認されるように、超高密度物質に関してd=2.9s2qによって置き換えられるということを意味する。この場合に、2.9は、通常のリュードベリ物資に関して数値的に決定されており且つラジオ波分光法によって実験によって確認されている定数である。これは、さらに、可視発光分光法(visible emission spectroscopy)によって超高密度水素に関して確認されている。ボーア半径がa0として示されている。スピン回転電子電荷(spin-circling electronic charge)が、通常のリュードベリ物質と同様であるが著しくより大きな結合エネルギーを伴う形で、物質を強く結合した状態に保つ、必要とされる原子核の遮蔽を実現する。
【0054】
超高密度物質の形成の仕組みは、より高い通常のリュードベリ物質準位(Rydberg matter level)(I=1-3)の形成で始まり、この準位は、触媒表面において自然発生的に形成される。このことは、超高密度水素が、より低エネルギーの超高密度状態に低下する通常のリュードベリ物資準位I=1-3から形成されるということを示唆する。レーザー衝突によって、又は、他の場誘起プロセス(field induction process)によって、H(0)において自然発生的に生じる核過程は、依然として完全には理解されていない。しかし、幾つかの異なる段階が、別々に研究されている。例えば、レーザーはH(0)におけるs=2からs=1への遷移を誘発する。ミューオン触媒核融合のために必要とされる負ミューオンを与える全過程が、超高密度水素粒子HN(0)で始まり、及び、
【数1】
であることが提案されている。
前式中では、
【数2】
は「準中性子(quasi-neutron)」(pe)(陽子+電子(proton+electron))から形成される反中性子である。形成される中間子は全てのタイプのK中間子とπ中間子であり、及び、3つのK中間子が各々のHN(0)粒子から形成される可能性が高いが、この理由は、このことがクォークの数を保存するからである。概して、クォークの数は中間子形成段階においてほぼ無変化であるが、クォークの数を保存しないさらなるπ中間子の対生成も可能である。示されている過程は非常に発熱性が高く、各々の対の陽子から放出される粒子に対して100MeVよりも著しく高い電子ボルトを与える。このことは、温度のような条件に応じて1対の重陽子につき4-14MeVの出力を有する、通常のD+D核融合に対して比較されなければならない。
【0055】
触媒変換(catalytic conversion)
水素気体を超高密度水素に変換するための触媒プロセスは、市販のいわゆるスチレン触媒、即ち、(プラスチック製造のために)エチレンベンゼンからスチレンを生成するために化学産業で使用されているタイプの固体触媒を使用してもよい。このタイプの触媒は、いわゆるプロモーター(promoter)として、幾つかの異なる添加物、特にカリウム(K)を含む、多孔性のFe-O材料から作られる。この触媒の機能は、幾つかの異なるグループによって詳細に研究されている。
【0056】
この触媒は、炭素-炭素二重結合が形成されるようにエチルベンゼンから水素原子を分離するように、及び、その次に、触媒表面から容易に熱によって脱着する水素分子に対して、このように放出された水素原子を組み合わせるように設計されている。この反応は可逆的であり、水素分子がその触媒に加えられる場合には、その水素分子は、その触媒の表面上で脱着させられた水素原子に対して解離させられる。これは、水素移動触媒における一般的なプロセスである。我々は、この仕組みを超高密度水素を生成するために使用し、このことは、水素分子中の共有結合が触媒内の水素の吸収の後に形成されることが可能にされないことを必要とする。
【0057】
触媒中のカリウムプロモーターは、超高密度水素のより高効率的な形成を実現する。カリウム(及び、例えば他のアルカリ性金属)が、いわゆる環状リュードベリ原子K*を容易に形成する。こうした原子では、価電子はイオンコア(ion core)の周囲のほぼ環状の軌道上にあり、ボーア軌道に非常に類似した軌道上にある。数百℃において、リュードベリ状態が表面において形成されるだけでなく、さらには、リュードベリ物質(RM)と呼ばれる形態の、リュードベリ状態のKN *の小さなクラスターも形成される。
【0058】
クラスターKN *は、触媒表面において、その励起エネルギーの一部分を水素原子に移動させる。この過程は、界面層(surface phase)における熱的衝突中に生じる。この過程は、脱着過程中にKN *形成、即ち、クラスター形成も生じさせる、通常のプロセスにおけるクラスターKN *(Hはプロトン、重陽子、又は、トリトンを示す)の形成を生じさせる。水素原子が共有結合を形成することが可能であるならば、分子H2は、この代わりに、触媒表面を去り、及び、超高密度材料が形成されることが不可能である。RM材料では、電子は、ゼロよりも大きい軌道角運動量を常に有するので、いわゆるs軌道上には存在しない。このことは、原子上の電子がH2内の通常の共有シグマ(σ)結合を形成するためにs軌道上になければならないので、共有結合が形成されることが不可能であるということを示唆する。RMの形態における水素に関する最低のエネルギーが、150ピコメートル(pm)の結合距離を有する、H(1)と呼ばれる金属(稠密(dense))水素である。水素材料は、主として赤外放射の放出によってこの準位に低下する。その次に、稠密水素は、スピン準位に応じて0.5-5pmの結合距離を有する、H(0)と呼ばれる超高密度水素に自発的に変換される。この材料は、電子対(クーパー対)と原子核対(プロトン対、重陽子対、又は、トリトン対、又は、混合対)との両方を含むことがある量子材料(量子流体)である。幾つかの実験で確認されているように、これらの材料は室温において超流体性と超伝導性との両方である。
【0059】
実験結果
以下では、実験装置を示す図3と、類似の実験装置を使用して行われた測定の結果を示す図4とを参照して、図2に概略的に示されている装置10のようなミューオン発生装置を特徴付ける結果が示されている。
【0060】
図3を参照すると、この実験装置は、真空チャンバー51と、図2を参照して上述したミューオン発生装置10と、トロイダルコイル53と、コレクター55とを備える。蓄積部分41とコイルとの間の第1の距離d1と、蓄積部分41とコレクター55との間の第2の距離d2とが存在する。図3に概略的に示されているように、真空チャンバー51は、レーザービーム15の通過を可能にするための窓54を有する。レンズ56が、ミューオン発生装置10の蓄積部分41にレーザービーム15を集束させるために、真空チャンバー51の内側に備えられている。
【0061】
真空チャンバー51内のD2気体圧力は、一定不変のポンピングを用いて約100Pa(1mbar)である。
【0062】
この実験装置では、ミューオン発生装置内に含まれている場供給源は、数ナノ秒の範囲内のパルス長さを有するパルス状レーザーである。可視レーザー光と赤外レーザー光の両方が互いに類似した挙動を与える。典型的な実験のために使用されるパルスエネルギーは、約200-400mJである。典型的な10Hzのパルス繰返し数の場合には、このことは、真空チャンバーの外側における、2-4Wだけのレーザーパワーを意味する。ミューオン発生装置における有効レーザーパワーは、ビーム操作鏡内と、真空チャンバー壁内のガラス窓54内と、集束レンズ56内とにおける、反射による損失を原因として、幾分かより低い。
【0063】
レーザービームは、通常は、焦点距離40-50mmのレンズ56を使用してミューオン発生装置の蓄積部分41上に集束させられるが、集束は重要ではない。
【0064】
トロイダルコイル53を使用するレーザー誘起核過程からの電流を直接的に測定する変流器を用いて、実験が行われてきた。ワイヤーは、直径数cmのトロイド上に、約20巻回のワイヤーを伴う形で、フェライトトロイダル磁心の周りに巻き付けられている。発生装置上のレーザー誘起核過程からの電荷のパルスが、コイル内の誘起電流として観察される。これは、例えば、相対論的速度で移動する粒子を用いる電子加速器において、パルス電流を測定する標準的な方法である。この実験では、このコイルを通過するビームが、さらに、ホイルコレクター(foil collector)55 追加的に観察される。このことは、絶対的な校正(calibration)が可能であることを意味する。
【0065】
図3に概略的に示されている装置に類似した装置を使用する幾分か単純化された測定の場合に関して、図4が、図3のコイル53のようなコイルから得られた第1の信号57と、図3のコレクターのようなコレクターから得られた第2の信号59とを示す。約1mのコイル53とコレクター55との間の既知の距離と、約3nsの測定された遅延とが、光速に近い速度で移動する荷電粒子を示す。コイルが荷電粒子に起因する信号を与えるだけなので、光子は、その信号を与える粒子として除外される。
【0066】
図4の信号の曲線の形状は、12nsの崩壊に関する時間定数を用いて崩壊系列における中間子に関して計算された曲線形状にかなり一致する。これは、荷電K中間子K±に関する特徴的な崩壊時間である。幾つかの公表されている研究でも、26及び52nsの特徴的な崩壊時間が測定されており、これは、荷電π中間子Π±と中性長寿命K中間子(neutral long-lived kaon)
【数3】
の崩壊を示す。全てのこれらの粒子が、より著しく長寿命のミューオンμ±に崩壊することがよく知られており、及び、このより著しく長寿命のミューオンは、図4におけるコイル内とコレクターにおいて主として観察される粒子である。関連する論文が、
L.Holmlid, Int.J.Modern Phys.E 24(2015)1550026、
L.Holmlid, Int.J.Modern Phys.E 24(2015)1550080、
L.Holmlid, Int.J.Modern Phys.E 25(2016)1650085
を含む。
【0067】
ミューオンが形成されることを確認するために、さらに、幾つかの公開された研究が、ミューオンの崩壊と、電子-陽電子対の生成を含む、物質とのミューオンの相互作用とをすでに直接的に測定している。2.2μsにおける自由ミューオンの直接崩壊時間(direct decay time)と、原子核のような他の粒子とのミューオンの相互作用に起因する、わずかにより短い崩壊時間とが、すでに測定されている。
関連した論文が、
L.Holmlid and S.Olafsson, Int.J.Hydr.Energy 40(2015)10559-10567、
L.Holmlid and S.Olafsson, Rev.Sci.Instrum.86,083306 (2015)、
L.Holmlid and S.Olafsson, Int.J.Hydrogen Energy 41(2016)1080-1088、
S.Olafsson and L.Holmlid,Bull.Am.Phys.Soc.2016/4/16.BAPS.2016.APR.E9.9、を含む。
図1
図2
図3
図4