(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】がんを治療するための薬物の調製における、抗PD‐1抗体とVEGFR阻害剤とを組み合わせた使用
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20220621BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220621BHJP
A61K 31/455 20060101ALI20220621BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
A61K39/395 T ZNA
A61P35/00
A61K31/455
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2019540485
(86)(22)【出願日】2017-10-09
(86)【国際出願番号】 CN2017105410
(87)【国際公開番号】W WO2018068691
(87)【国際公開日】2018-04-19
【審査請求日】2020-09-11
(31)【優先権主張番号】201610884688.3
(32)【優先日】2016-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519126343
【氏名又は名称】スゥジョウ サンカディア バイオファーマシューティカルズ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SUZHOU SUNCADIA BIOPHARMACEUTICALS CO., LTD.
(73)【特許権者】
【識別番号】510166892
【氏名又は名称】ジエンス ヘンルイ メデイシンカンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】JIANGSU HENGRUI MEDICINE CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100214259
【氏名又は名称】山本 睦也
(72)【発明者】
【氏名】サン シン
(72)【発明者】
【氏名】カオ ゴウキン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン チャンヨン
(72)【発明者】
【氏名】チャン リャンシャン
(72)【発明者】
【氏名】ヨン グオ
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/085847(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/134605(WO,A1)
【文献】J Clin Oncol.,2016年05月01日,34(13),p. 1448-1454,doi: 10.1200/JCO.2015.63.5995
【文献】Clin Exp Immunol.,2013年,172(3),p. 500-506,doi: 10.1111/cei.12069
【文献】J Clin Oncol.,2016年05月20日,34(15)_suppl,p. 3056 ,doi: 10.1200/JCO.2016.34.15_suppl.3056
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんを治療するための医薬の調製における、抗 PD-1 抗体と VEGFR 阻害剤とを組み合わせた使用、
ここで、前記 VEGFR 阻害剤が VEGFR-2 阻害剤である、
ここで、前記 VEGFR-2 阻害剤がアパチニブ又はその薬学的に許容される塩である、並びに、
ここで、前記 PD-1 抗体の軽鎖可変領域が、それぞれ配列番号4、配列番号5及び配列番号6に示される LCDR1、LCDR2 及び LCDR3 を含み、前記 PD-1 抗体の重鎖可変領域が、それぞれ配列番号1、配列番号2及び配列番号3に示される HCDR1、HCDR2 及び HCDR3 を含む。
【請求項2】
アパチニブの薬学的に許容される塩が、メシル酸塩及び塩酸塩、からなる群より選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記 PD-1 抗体がヒト化抗体である、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記ヒト化抗体軽鎖の配列が、配列番号8に示される配列又はその改変体である、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記改変体が、前記軽鎖の可変領域に 0 から 10 個のアミノ酸置換を有する、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記改変体が、A43S のアミノ酸置換を有する、請求項4に記載の使用。
【請求項7】
前記ヒト化抗体重鎖の配列が、配列番号7に示される配列又はその改変体である、請求項3に記載の使用。
【請求項8】
前記改変体が、前記重鎖の可変領域に 0 から 10 個のアミノ酸置換を有する、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記改変体が、G44R のアミノ酸置換を有する、請求項7に記載の使用。
【請求項10】
前記ヒト化抗体軽鎖の配列が配列番号8に示される配列であり、及び前記重鎖の配列が配列番号7に示される配列である、請求項3に記載の使用。
【請求項11】
前記がんが PD-L1 を発現するがんである、請求項1に記載の使用。
【請求項12】
前記がんが、乳がん、肺がん、肝臓がん、胃がん、腸がん、腎臓がん、黒色腫、非小細胞肺がん、からなる群より選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項13】
前記がんが、非小細胞肺がん、黒色腫、肝臓がん及び腎臓がん、からなる群より選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項14】
VEGFR 阻害剤を含む、がんを治療する
ことを必要とする対象における有害な効果を軽減させるための
医薬組成物、
ここで、前記有害な効果は、請求項1から10の何れか一項で定義する抗 PD-1 抗体によって、前記対象に投与した場合に、引き起こされる、並びに、
ここで、前記VEGFR 阻害剤は請求項1から
2の何れか一項で定義される
、及び前記医薬組成物は前記対象に投与されるものである。
【請求項15】
抗 PD-1 抗体を含む、がんを治療する
ことを必要とする対象における投与されるVEGFR 阻害剤単剤の投与量を減少させるための
医薬組成物、
ここで、前記VEGFR 阻害剤は請求項1から2の何れか一項で定義され、
前記対象に投与されるものである、並びに、
ここで、前記抗 PD-1 抗体は請求項1から10の何れか一項で定義される
、及び前記医薬組成物は前記対象に投与されるものである。
【請求項16】
前記 PD-1 抗体を、1 回につき 100 mg から 1000 mg の投与量で投与する、請求項1に記載の使用。
【請求項17】
前記 PD-1 抗体を、1 回につき 200 mg から 600 mg の投与量で投与する、請求項1に記載の使用。
【請求項18】
前記 VEGFR 阻害剤を、250 mg から 1000 mg の投与量で投与する、請求項1に記載の使用。
【請求項19】
前記 VEGFR 阻害剤を、400 mg から 850 mg の投与量で投与する、請求項1に記載の使用。
【請求項20】
請求項1から2の何れか一項で定義する VEGFR 阻害剤、及び請求項1から10の何れか一項で定義する PD-1 抗体を含む、がんを治療するための医薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がんを治療するための薬物の調製における、抗 PD-1 抗体と VEGFR 阻害剤とを組み合わせた使用に関する。
【背景技術】
【0002】
PD-1 抗体はリンパ球の表面にある PD-1 を特異的に認識して結合し、それが PD-1/PD-L1 シグナル伝達経路の遮断をもたらし、そして次に腫瘍に対する T 細胞の免疫細胞傷害性を活性化し、体の免疫系を調節して in
vivoの腫瘍細胞を取り除く。WO201508584 は、新規抗 PD-1 抗体を開示しているが、これは現在臨床試験中であり、及び一定の抗腫瘍効果を示している。
【0003】
アパチニブは、世界で最初の、進行性胃がんの経口による抗血管新生作用の治療薬であり、VEGFR-2 に対して選択性が高く、強力な抗血管新生作用を示す。セカンドライン治療を受けた後の転移性胃/胃食道接合部がん患者における、アパチニブの多施設無作為化二重盲検プラセボ対照第 III 相臨床試験では、プラセボと比較した場合、アパチニブ単独で全生存の中央値を 1.8 カ月、無増悪生存期間の中央値を 0.8 カ月延長できること、及び有害事象はコントロールできること、が示された(Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Phase III Trial of apatinib in Patients With Chemotherapy-Refractory Advanced or Metastatic Adenocarcinoma of the Stomach or Gastroesophageal Junction. J Clin Oncol, 2016 Feb 16)。アパチニブの構造式は式(I)に示す通りである。
【化1】
【0004】
CN101676267A は、例えばメシル酸塩、塩酸塩等の、アパチニブの一連の塩を開示している。CN101675930A に開示された前臨床の動物実験はまた、例えばオキサリプラチン、5-Fu、ドセタキセル及びドキソルビシン等の細胞傷害性薬物と併用したアパチニブが治療効果を有意に改善し得ることを示している。
【0005】
現在のところ、PD-1 抗体と VEGFR 阻害剤の併用は、商用では承認されていないが、複数の PD-1 抗体(他社製)と VEGFR 阻害剤(例えば、スニチニブ、ソラフェニブ等)が第 II/III 相臨床試験にあり、及びそれらの適応症は、悪性肝がん(ソラフェニブと PD-1 抗体の併用)及び転移性腎細胞がん(スニチニブと PD-1 抗体の併用)である。予備段階の結果は、両薬物の 2 剤併用が有効であり、単一薬物よりも優れていること、を示している。
【0006】
WO2015119930 は、PD-1 抗体をアキシチニブと併用して使用することを開示しており、そして WO2015088847 は、PD-1 抗体をパゾパニブと併用して使用することを開示している。しかしながら、ソラフェニブ、スニチニブ、アキシチニブ及びパゾパニブ等を含むこれらの VEGFR 阻害剤の作用機序は、アパチニブのそれとは異なる。アパチニブは、 VEGFR-2 に対して最も強い阻害効果を有するが、他のキナーゼに対しては、ほとんど又は全く阻害しない、すなわち、アパチニブは VEGFR-2 に対して高度に選択的である。したがって、アパチニブによって治療される疾患もまた、前述の薬物とは異なり、アパチニブが PD-1 と相乗的に作用することができるかどうか、及びその有効性を改善することができるかどうかについては、更に研究する必要がある。更に、PD-1 単独投与の現在の臨床試験(進行性固形腫瘍患者を対象とした抗 PD-1 抗体 SHR-1210 の第 I 相試験(Phase I study of the anti-PD-1 antibody SHR-1210 in patients with advanced solid tumors.)(2017):e15572-e15572)によると、PD-1 抗体単独で治療した場合、毛細血管の血管腫の発生率は 79.3 % と高く、甲状腺機能低下症の発生率は 29.3 %、掻痒の発生率は 19.0 %、及び下痢の発生率は 10.3 % である。このような高い有害な効果の発生率は、がん患者の精神的健康及び生活の質に対して間違いなく負担となる;従って、薬物投与中の有害な効果を軽減することは非常に重要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、がんを治療するための薬物の調製における、抗 PD-1 抗体と VEGFR 阻害剤とを組み合わせた使用を提供する。
【0008】
好ましくは、前記VEGFR 阻害剤は VEGFR-2阻害剤である。
【0009】
本発明の好ましいVEGFR 阻害剤は、CN101676267A に開示されている試験方法によって、VEGFR キナーゼに対して 100 nM 未満の IC50 を有し、EGFR、HER2、FGFR に対して阻害活性を有さない(IC50 > 10000 nM)VEGFR 阻害剤である。特に好ましい VEGFR 阻害剤は、VEGFR-2 キナーゼについて 50 nM 未満、好ましくは 20 nM 未満、より好ましくは 10 nM 未満、最も好ましくは 5 nM 未満の IC50 を有する VEGFR-2阻害剤であり、そして VEGFR-1 又は VEGFR-3 に対するそれらの阻害効果は弱く、例えば、その IC50 は20 nM より大きい、好ましくは 50 nM より大きい。
【0010】
本発明の好ましい態様において、前記VEGFR-2阻害剤はアパチニブ又はその薬学的に許容される塩である。
【0011】
前記 PD-1 抗体は公知であり、好ましくは前記 PD-1 抗体の軽鎖可変領域は、それぞれ配列番号4、配列番号5及び配列番号6に示される LCDR1、LCDR2 及び LCDR3 を含む。
【0012】
前記 PD-1 抗体の重鎖可変領域が、それぞれ配列番号1、配列番号2及び配列番号3に示される HCDR1、HCDR2 及び HCDR3 を含む。
【0013】
ここで、上記の CDR 配列を以下の表に示す:
【表1】
【0014】
好ましくは、前記 PD-1 抗体はヒト化抗体である。
【0015】
好ましい前記ヒト化抗体軽鎖の配列は、配列番号8に示される配列又はその改変体であり;前記改変体は、好ましくは、前記軽鎖の可変領域に 0 から 10 個のアミノ酸置換を有し; より好ましくは、A43S のアミノ酸変化を有する。
【0016】
前記ヒト化抗体重鎖の配列は、配列番号7に示される配列又はその改変体であり;前記改変体は、好ましくは、前記重鎖の可変領域に 0 から 10 個のアミノ酸置換を有し; より好ましくは、G44Rのアミノ酸変化を有する。
【0017】
特に好ましくは、前記ヒト化抗体軽鎖の配列は、配列番号8に示される配列であり、そして前記重鎖の配列は、配列番号7に示される配列である。
【0018】
前述のヒト化抗体重鎖及び軽鎖の配列は以下の通りである:
重鎖
【化2】
軽鎖
【化3】
【0019】
本発明の好ましい実施形態において、前記VEGFR 阻害剤はまた、MP-0250、DE-120、ALN-VSP、アフリベルセプト、アネコルタブ、BI-695502、ベバシズマブ、PF-06439535、カルボキシアミドトリアゾール、バヌシズマブ、RG-7716、ベバシズマブ類似体、ナビシキシズマブ、ラニビズマブ、ラニビズマブ類似体、コンベルセプト、IBI-302、BI-836880、ARQ-736、RPI-4610、LMG-324、PTC-299、ABT-165、AG-13958、ブロルシズマブ、PAN-90806、バタラニブ、ODM-203、アルチラチニブ、TG-100572、OPT-302、TG-100801、CEP-7055、TAS-115、イロラセルチブ、フォレチニブ、JNJ-26483327、メタチニブ、R-1530、タフェチニブ、ボロラニブ、ドナフェニブ、スブチニブ、レゴラフェニブ、VGX-100、ENMD-2076、アンロチニブ、ニンゲチニブ、テセバチニブ、タニビルマブ、ルシタニブ、セジラニブ、キアウラニブ、IMC-3C5、グレサチニブ、KRN-633、イクルクマブ、PF-337210、RAF265、プクイチニブ、SU-014813、チボザニブ、フルクインチニブ、シトラバチニブ、ペガプタニブ、パゾパニブ、バンデタニブ、アキシチニブ、スルファチニブ、ラムシルマブ、プリチデプシン、オランチニブ、アラシズマブ・ペゴル、テラチニブ、ポナチニブ、カボザンチニブ、レンバチニブ、ブリバニブ・アラニネート、リニファニブ、からなる群より選択されることもある。
【0020】
本発明の使用において、前記がんは、好ましくは、PD-L1 を発現するがんである;より好ましくは、乳がん、肺がん、胃がん、腸がん、腎臓がん、肝臓がん、黒色腫、非小細胞肺がんである;最も好ましくは、非小細胞肺がん、黒色腫及び腎臓がん、腸がんであり、前記腸がんには結腸がん、結腸直腸がん等が含まれる。アパチニブは、投与する場合、薬学的に許容される塩の形態で投与されるのが好ましく、前記薬学的に許容される塩は、メシル酸塩及び塩酸塩、からなる群より選択されることがある。
【0021】
具体的には、投与する場合、前記 PD-1 抗体は、0.5-30 mg/kg、好ましくは 2-10 mg/kg、より好ましくは 2-6 mg/kg、最も好ましくは 3 mg/kg の投与量で投与することがある;それは、1 から 3 週間毎に 1 回、好ましくは 2 週間毎に 1 回投与することがある。成人の場合、固定投与量、例えば 1 回につき 100-1000 mg 、好ましくは 200-600 mg を使用することもある。前記 VEGFR 阻害剤の投与量は、3-200 mg/kg であることがある。成人の場合、固定投与量、例えば 100-1000 mg、250-1000 mg、好ましくは 400-850 mg、100-500 mgを使用することもあり、1 日 1 回投与することがある。
【0022】
本発明において、用語「組み合わせ・併用(combination)」は、2 種類の薬物を順次に、又は同時に投与する様々な状況等での投与方式である。本明細書において、いわゆる「同時に(simultaneously)」とは、同じ投与サイクルの中で、PD-1 抗体及び VEGFR 阻害剤を投与すること、例えば 2 日以内又は 1 日以内に、2 種類の薬物を投与することを指す。いわゆる「順次に(sequentially)」投与することには、それぞれ異なる投与周期で、PD-1 抗体及び VEGFR 阻害剤を投与することが含まれる。これらの投与方式は、全て本発明に記載の併用投与に属する。
【0023】
本発明の好ましい態様において、前記 PD-1 抗体を、注射により、例えば皮下又は静脈内に、投与し、そして前記 PD-1 抗体を、注射の前に注射可能な形態に製剤化する。前記 PD-1 抗体の特に好ましい注射可能な形態は、PD-1 抗体、緩衝液、安定化剤を含み、そして任意選択的に界面活性剤を含む、注射剤又は凍結乾燥粉末剤である。前記緩衝液は、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液及びリン酸緩衝液のうちの 1 つ以上から選択されることがある。前記安定剤は、糖又はアミノ酸、好ましくは、スクロース、ラクトース、トレハロース及びマルトース等の二糖から選択されることがある。前記界面活性剤は、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン・ソルビタン脂肪酸エステル、からなる群より選択され、好ましくは、前記ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルはポリソルベート 20、40、60 又は 80、最も好ましくは、ポリソルベート 20 である。PD-1 抗体の好ましい注射可能な形態は、PD-1 抗体、酢酸緩衝液、トレハロース及びポリソルベート 20 を含む。
【0024】
本発明は、腫瘍を治療するための医薬として、上記のような VEGFR と組み合わせた上記のような抗 PD-1 抗体を提供する。
【0025】
本発明は、薬物の有害な効果を軽減するための医薬として、上記のような VEGFR と組み合わせた上記のような抗 PD-1 抗体を提供する。好ましくは、前記薬物の有害な効果は、抗 PD-1 抗体又は VEGFR 阻害剤によって引き起こされる効果から選択される。
【0026】
本発明は、単独で投与される抗 PD-1 抗体の投与量、及び/又は単独で投与されるVEGFR 阻害剤の投与量を減少させるための医薬として、上記のような VEGFR と組み合わせた上記のような抗 PD-1 抗体を提供する。
【0027】
本発明は、上記のような抗 PD-1 抗体及び上記のようなVEGFR 阻害剤を患者に投与することを含む、腫瘍/がんを治療するための方法を提供する。
【0028】
本発明は、上記のような PD-1 抗体を上記のようなVEGFR 阻害剤と併用して患者に投与することを含む、単独で投与される PD-1 抗体又は VEGFR 阻害剤のいずれかの投与量を減少させる方法を提供する。
【0029】
好ましくは、PD-1 と併用して投与するとき、前記 VEGFR 阻害剤は、単独で投与する投与量の 10 % から 100 %、好ましくは、10 % から 75 %、より好ましくは 75 %、50 %、25 %、12.5 % の投与量で投与する。
【0030】
好ましくは、VEGFR 阻害剤と併用して投与するとき、前記 PD-1 抗体は、単独で投与する投与量の 10 % から 100 %、好ましくは、10 % から 50 % の投与量で投与する。
【0031】
本発明の好ましい実施形態では、前記 PD-1 抗体を前記 VEGFR 阻害剤と併用して投与する場合、前記抗 PD-1 抗体及び/又は免疫によって媒介される薬物の有害な効果を軽減することができる;好ましくは、前記有害な効果は、血管に関連した有害な効果、腺機能低下、皮膚への有害な効果、呼吸器系への有害な効果、肝臓に関連した有害な効果、内分泌に関連した有害な効果、消化器系への有害な効果、腎臓に関連した有害な効果、及び疲労、発熱、からなる群より選択される;好ましい血管に関連した有害な効果は、血管腫、血管炎、リンパ管腫、からなる群より選択される;前記腺機能低下は、甲状腺機能低下症、副甲状腺機能低下症、膵機能低下、前立腺機能低下、からなる群より選択される;前記皮膚への有害な効果は、掻痒、じんましん、発疹、中毒性表皮壊死症、からなる群より選択される;前記呼吸器への有害な効果は、肺炎、気管支炎、慢性閉塞性肺疾患、肺線維症、からなる群より選択される;前記肝臓に関連した有害な効果は、肝炎及び肝機能障害、からなる群より選択される;前記内分泌に関連した有害な効果は、I 型糖尿病、II 型糖尿病、低血糖症、からなる群より選択される;前記腎に関連した有害な効果は、腎炎及び腎不全、からなる群より選択される;前記消化器系への有害な効果は、下痢、悪心、嘔吐、腸炎、便秘、からなる群より選択される;より好ましくは、薬物の有害な効果は、血管腫、甲状腺機能低下症、副甲状腺機能低下症、掻痒、肺炎、肝炎、肝機能障害、I 型糖尿病、腎炎、腎不全、からなる群より選択される。
【0032】
本発明は、上記のような前記VEGFR 阻害剤と前記 PD-1 抗体とを含む医薬キット又は医薬パッケージを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】腫瘍を有するマウスにおける MC38(PD-L1)異種移植片の相対体積に対する、抗体及び化合物を投与した効果。
【
図2】MC38(PD-L1)異種移植片を有する腫瘍を有するマウスの体重に対する、抗体及び化合物を投与した効果。* はブランク対照群に対して p<0.05 を示す。
【
図3】腫瘍を有するマウスにおける MC38(PD-L1)異種移植片‐腫瘍重量に対する、抗体及び化合物を投与した効果。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明を実施例と併せて以下に更に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0035】
<実施例1: PD-L1 遺伝子を導入したマウス大腸がん細胞 MC-38(PD-L1)異種移植片を担持するヒト PD-1 トランスジェニック C57 マウスに対する、単独又は併用して投与した PD-1 抗体及びメシル酸アパチニブの効果>
【0036】
1. 研究目的
試験動物としてヒト PD-1 トランスジェニック・マウスを使用し、ヒト PD-1 トランスジェニックC57マウスに対する PD-1 抗体とアパチニブとの併用の効果を評価した。ここで、前記トランスジェニック・マウスは PD-L1 遺伝子を導入したマウス大腸がん細胞 MC-38(PD-L1)を担持する。
【0037】
2. 試験抗体及び化合物
前記 PD-1 抗体を、WO2015085847 に開示された方法に従って調製した。そこでは、前記抗体に関する対応するコード名が H005-1 であり、そして重鎖及び軽鎖の配列が、本発明における配列番号7及び配列番号8に示されているものである。ロット番号:P1512、200 mg/バイアル、使用前に 20 mg/ml に製剤化。
【0038】
メシル酸アパチニブは、CN101676267A に開示された方法に従って調製した。ロット番号:668160401;分子量:493.58;純度:99.60 %。
【0039】
3. 実験動物
ヒト PD-1 トランスジェニック C57 マウスを、SPF、異なる体重、雄 50 % 及び雌 50 % で、英国のアイシスイノベーション社(IsisInnovation Limited)から購入した。
【0040】
4. 薬物の調製
PD-1 抗体(3 mg/kg):PD-1 抗体原液(20 mg/ml)を PBS で 0.3 mg/ml の濃度に調整し、腹腔内注射量は 0.2 ml/マウスとした。
【0041】
アパチニブ(200 mpk):400 mg のアパチニブを 20 mlの 0.5 % NaCMC に溶解し、20 mg/ml に調整し、そして強制経口投与によりマウス当たり 0.2 ml で投与した。
【0042】
溶媒ビヒクルを、0.5 % CMC に溶解し、0.3 mg/ml に調整した HIgG(3mpk)とし、腹腔内注射用の容量は 0.2 ml/マウスとした。
【0043】
5. 試験方法
5.1 C57 マウスを 5 日よりも長い間、実験室環境に馴化させた。
【0044】
5.2 腫瘍細胞の移植
1 日前に、ヒト PD-1 トランスジェニック C57 マウスの皮膚に準備を行い、そして 6 月 12 日に、MC38(PD-L1)細胞(5 × 106/マウス)を右側腹部に皮下接種し、そして腫瘍を 8 日間大きくさせた。前記腫瘍が 142.17 ± 13.30 mm3 に達したとき、その動物を各群 8 匹のマウスとして 4 つの群に無作為に割り当てた(d0)(各群中には 4 匹の雄マウス及び 4 匹の雌マウス)。
【0045】
5.3 投与量と投与方法
PD-1 抗体を腹腔内注射、Q2D*7(2 日毎に 1 回、合計 7 回)、アパチニブを強制経口投与、QD*14(14 日間 1 日 1 回)。具体的な薬物投与計画を表1に示す。
【0046】
5.4 異種移植片の体積及びマウスの体重の測定
腫瘍体積及び体重を週に 2 回測定し、データを記録した。
【0047】
5.5 統計
Excel 2003 統計ソフトウェアを使用した:平均は avg により算出した;SD 値は STDEV によって計算した;SEM 値は STDEV/SQRT によって計算した;群間の差を示す P 値は TTEST によって計算する。
腫瘍体積(V)を計算するための式は:V=1/2 × L(長い方)× L(短い方)
2 である。
相対的体積 (RTV) = VT/V0
腫瘍抑制率(%)= (CRTV - TRTV)/CRTV(%)
ここで、V0 及び VT は、それぞれ実験開始時及び実験終了時の腫瘍体積である。CRTV 及び TRTV は、それぞれ実験終了時のブランク対照群及び実験群の相対的腫瘍体積である。
【0048】
6. 試験結果
この実験の結果では、 PD-1 抗体を、Q2D*7 で、腹腔内に注射した。化合物アパチニブを、QD*14 で、強制経口投与により投与した。21 日目、PD-1 抗体の腫瘍抑制率(3mpk)は 20.40 % であり、アパチニブ単独投与群(200mpk)の腫瘍抑制率は 35.67 % であった;PD-1 抗体(3mpk)+ アパチニブ(200mpk)の併用による腫瘍抑制率は 63.07 %(HIgG 対照群とは有意に異なる)であった。HIgG 対照群と比較して、他の投与群(単独投与)との間には有意差はなかった。その実験結果から、PD-1 抗体(3mpk)+ アパチニブ(200mpk)の併用群の有効性は、単独で投与した PD-1 抗体、及び単独で投与したアピニチニブのそれよりも優れている。各群のマウスの体重は正常であり、この薬がはっきりとした副作用を示さなかったことを示している。具体的なデータを表1と
図1-3に示す。
【0049】
<実施例2:進行性悪性腫瘍の治療における、メシル酸アパチニブと併用した抗 PD-1 抗体の臨床試験>
【0050】
組み入れ基準(Inclusion criteria):(1)進行性悪性腫瘍;(2)一次、二次、又はそれ以上の化学療法が効果無し;(3)測定可能な病変;(4)ECOG スコア 0-1。
【0051】
試験薬物:市販のメシル酸アパチニブの錠剤;実施例1の PD-1 抗体。
【0052】
投与方法:2017 年 9 月 20 日までに、合計 31 人の被験者をスクリーニングし、30 人の被験者を登録した(14 人の被験者は治療を中止し、16 人の被験者はまだ投与群に入っていた)。
【0053】
番号 001-005 の被験者への投与方法は、PD-1 抗体を静脈内注射、3 mg/kg 、2 週間毎に 1 回;アパチニブを経口投与、500 mg、1 日 1 回;番号 006-010 の被験者への投与方法は、PD-1 抗体を静脈内注射、200 mg、2 週間毎に 1 回;アパチニブを経口投与、125 mg、1 日 1 回;番号 011-031 の被験者への方法は、PD-1 抗体を静脈内注射、200 mg、2 週間毎に 1 回;アパチニブを経口投与、250 mg、1 日 1 回。
【0054】
臨床転帰(Clinical Outcome):有効性に関しては、第 6 週目には、有効性評価のための 24 例の評価可能なデータがあり、DCR は 83.3 %(20/24)であった;第 12 週目には、有効性評価のための 19 例の評価可能なデータがあり、DCR は 63.2 %(12/19)であった;第 18 週目には、有効性評価のための 10 例の評価可能なデータがあり、DCR は 70 %(7/10)であった;第 24 週目には、有効性評価のための 5 例の評価可能なデータがあり、DCR は 80 %(4/5)であった;現在、2 例の肝細胞がん被験者がいて、24 週間の PR の効果、及び 6 ヶ月以上の PFS である。24 例の評価可能なデータの中で、4 例が PR に関して最適な有効性を示し、15 例が SD に関して、及び 5 例が PD に関して最適な有効性を示した。ORR はわずか 16.7 % であったが、DCR は 79 % と高く、疾病管理率は高く、そしてある被験者では、PFS が 6 か月以上であった。具体的な結果を表2、表3及び表4に示す。加えて、固形腫瘍(胃がん、胃食道接合部腺がん、肝臓がん等)の治療におけるアパチニブ単独の投与量は、通常、最大 850 mg/日である(アパチニブに関する指示書参照)。しかしながら、本発明の実施形態において、アパチニブと PD-1 抗体との併用によって、アパチニブの投与量を 125 mg/日まで減少させることが可能になり、アパチニブ単独投与と比較した場合、有効性が増し、及び安全性もより優れたものになる。安全性に関しては、9 月 20 日までに、11 件の重篤な有害事象(serious adverse events (SAE))が 8 例の被験者で報告され、SAE の発生率は 26.7 %(8/30)であった。7 件の SAE が番号 001-005 の被験者(初回試験のアパチニブの投与量が高かった、500 mg)で観察されて、これが、重篤な有害事象の大部分を占めていた。しかしながら、投与量を調整することによって投与計画を変更すると、良好な抗腫瘍効果を維持することができ、そして又高投与量のアパチニブによって引き起こされる有害な効果を有意に減少させることができる、ことが見出された。更に、この臨床試験において、驚くべきことに、アパチニブと PD-1 抗体との併用は、PD-1 抗体単独と比較した場合、悪性腫瘍の治療において血管腫に関連した有害な効果をほとんど見られない、ことが見出された。血管腫は、併用療法に対して不忍容であったために、PD-1 抗体のみを投与した 1 例の被験者においてのみ観察された。
【0055】
<実施例3:進行性非小細胞肺がんの治療におけるメシル酸アパチニブと併用した抗 PD-1 抗体の第 II 相臨床試験>
【0056】
組み入れ基準(Inclusion criteria):(1)進行性非小細胞肺がん;(2)一次、二次、又はそれ以上の化学療法が効果無し;(3)測定可能な病変;(4)ECOG スコア 0-1。
【0057】
試験薬物:市販のメシル酸アパチニブの錠剤;実施例1の PD-1 抗体。
【0058】
投与方法: PD-1 抗体、2 週間毎に 1 回、静脈内投与、各回 200 mg;メシル酸アパチニブ経口投与、1 日 1 回、各回 250 mg 又は 375 mg 又は 500 mg。
【0059】
臨床の結果(Clinical results):7 月 28 日までに、合計 15 例の被験者をスクリーニングし、そのうち 12 例を登録した。合計 12 例の被験者が、少なくとも 1 サイクルの投与観察を完了し、10 例の患者(10/12)は、疾患が安定した状態であり、1 例の患者は、部分的に寛解した。詳細は表5を参照のこと。更に、驚くべきことに、メシル酸アパチニブと PD-1 抗体の併用の間、メシル酸アパチニブと PD-1 抗体の併用は、 PD-1 抗体を単独で投与した場合と比較して、有効性を高め、有害な効果を低減させること、が見出された。この試験では、よく見られた有害な効果は、通常、グレード I から II であり、PD-1 抗体に関連した、又は免疫に関連した有害な効果(例えば、毛細血管血管腫等)の発生率は、わずか 8 %(1 例)であり、甲状腺機能低下症はわずか 8 %(1 例)であり、消化管での有害な効果(例えば、下痢等)及び皮膚での有害な効果(例えば、掻痒等)は観察されなかった;2017 年に発表された ASCOreport では、固形腫瘍の治療のために単独で投与した PD-1 抗体は、第 I 相臨床試験(進行性固形腫瘍患者を対象とした抗 PD-1 抗体 SHR-1210 の第 I 相試験(Phase I study of the anti-PD-1 antibody SHR-1210 in patients with advanced solid tumors.)(2017):e15572-e15572)において、79.3 % もの毛細血管血管腫の発生率を示し、甲状腺機能低下症の発生率は 29.3 %、掻痒の発生率は 19.0 %、下痢の発生率は 10.3 % であった、ことが報告されている。したがって、メシル酸アパチニブと PD-1 抗体の併用は、(化学療法が効果を示さなかった)非小細胞肺がんの腫瘍増殖を軽減又は抑制することができるだけでなく、PD-1 抗体に関連した又は免疫を介した有害な効果を減少させ、患者の生活の質を改善する。
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【配列表】