(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】光硬化性樹脂組成物、硬化被膜、被膜付き基材およびその製造方法、ならびに基材に対する防曇処理方法
(51)【国際特許分類】
C08F 290/06 20060101AFI20220621BHJP
C09D 175/16 20060101ALI20220621BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
C08F290/06
C09D175/16
B32B27/00 B
(21)【出願番号】P 2020209028
(22)【出願日】2020-12-17
(62)【分割の表示】P 2017046651の分割
【原出願日】2017-03-10
【審査請求日】2020-12-17
(31)【優先権主張番号】P 2016049241
(32)【優先日】2016-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】宮窪 建児
(72)【発明者】
【氏名】亀田 佳憲
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/119425(WO,A1)
【文献】特開2016-008287(JP,A)
【文献】特開2013-228729(JP,A)
【文献】国際公開第2017/010462(WO,A1)
【文献】特開2013-101330(JP,A)
【文献】特開2013-168522(JP,A)
【文献】特開平05-043820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 290/00
C08F 20/00
C08L 33/00
C09D 175/16
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光重合性不飽和基を3個以上有し、かつ、当該光重合性不飽和基1個に対して2
~10個のアルキレンオキサイド変性部位を有するアルキレンオキサイド変性化合物(A)と、
重量平均分子量3,000以下の
フッ素系ポリオキシエチレンエーテルであるポリエーテル変性フッ素系化合物(b2)である化合物(B)と、
光重合開始剤(C)と、
前記アルキレンオキサイド変性化合物(A)とは異なる樹脂成分(D)であって、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂からなり、且つ、硬化時にガラス転移温度(Tg)が300℃以上である樹脂成分(D)と、
を含有
する一方で、リチウム塩は含有せず、
前記アルキレンオキサイド変性化合物(A)の固形分100重量部に対し、前記
成分(
b2)の固形分の含有量は0.1~25重量部であ
り、
光硬化性樹脂組成物の固形分100重量部に対し、前記成分(b2)の固形分の含有量は0.05~15重量部であり、
光硬化性樹脂組成物の固形分100重量部に対し、前記成分(C)の含有量は0.1~10重量部であり、
光硬化性樹脂組成物の固形分100重量部に対し、前記樹脂成分(D)の含有量は5~70重量部であることを特徴とする光硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記成分(b2)は、前記成分(b2)1モルに対して8~12モルのエチレンオキサイド変性部位を有することを特徴とする請求項1に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
無機微粒子を更に含有することを特徴とする請求項1または2に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記光重合性不飽和基を有するアルキレンオキサイド変性化合物(A)が、エチレンオキサイド変性化合物であることを特徴とする請求項1
~3のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記光重合性不飽和基を有するアルキレンオキサイド変性化合物(A)が、エトキシ化ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートおよびエトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1種のアルキレンオキサイド変性化合物であることを特徴とする請求項1
~4のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物により構成されたことを特徴とする硬化被膜。
【請求項7】
前記硬化被膜に対する純水の水滴の接触角が20°以下であることを特徴とする請求項6に記載の硬化被膜。
【請求項8】
JIS K 5600に準拠した鉛筆硬度がH以上であることを特徴とする請求項6または7に記載の硬化被膜。
【請求項9】
請求項6~8のいずれかに記載の硬化被膜を基材上に備えることを特徴とする被膜付き基材。
【請求項10】
請求項1~5のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物を基材の少なくとも一方の面に塗布する塗布工程と、
前記塗布工程の後、光照射により前記光硬化性樹脂組成物を硬化させて硬化被膜を形成する硬化工程と、
を有することを特徴とする被膜付き基材の製造方法。
【請求項11】
請求項1~5のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物を基材の少なくとも一方の面に塗布する塗布工程と、
前記塗布工程の後、光照射により前記光硬化性樹脂組成物を硬化させて硬化被膜を形成する硬化工程と、
を有することを特徴とする基材に対する防曇処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性樹脂組成物、硬化被膜、被膜付き基材およびその製造方法、ならびに基材に対する防曇処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、透明材料として用いられているプラスチックや無機ガラスに対し、光硬化性樹脂組成物により親水性を有する塗膜(以降、硬化被膜とも言う。)を基材上に形成するといった防曇処理が行われている(例えば特許文献1~4)。当該プラスチックや無機ガラスは、表面の温度が露点以下になった場合、表面に曇りが生じ、透明性が損なわれてしまう。これを防止すべく、表面に親水性を付与して水滴を形成しにくくする防曇処理が行われる。
【0003】
この防曇処理に際しては、防曇性を有する塗料組成物を基材の主表面に設けるという手法が広く用いられている。この防曇性を有する塗料組成物に関して、従来から種々の提案がなされている。中でも、紫外線等の光照射によって硬化可能な光硬化性樹脂組成物は、施工性や塗装作業効率の点で優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-12743号公報
【文献】WO2007/064003号パンフレット
【文献】特開2014-80471号公報
【文献】特開2007-277537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの調べにより、従来の技術においては、高湿度環境下での防曇性能において、さらに改良すべき点があることが明らかとなった。単純に考えれば、防曇性能をさらに向上させたいのならば、硬化被膜の基となる光硬化性樹脂組成物に対して防曇用の添加剤を増量すれば足りるはずである。しかしながら、添加剤を単純に増量すると、今度は硬化被膜の硬度が低下したり、硬化被膜に変質が生じて高湿度環境下にて白化したりするといった問題が生じるおそれがある。そのため、添加剤を単純に増量する以外の手法を創出する必要があるという知見を、本発明者らは見出した。
【0006】
本発明は、高湿度環境下においても比較的高い硬度と防曇性能を安定して発揮可能な光硬化性樹脂組成物およびその関連技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討し、光硬化性樹脂組成物を構成する種々の化合物を選択し、組み合わせる実験を重ねた結果、光重合性不飽和基を有するアルキレンオキサイド変性化合物(A)に対し、従来だと比較的疎水性を有すると考えられていたはずのシリコン系化合物(b1)やフッ素系化合物(b2)を積極的に混合する、ただしシリコン系化合物にしてもフッ素系化合物にしても重量平均分子量を3,000以下とするという条件(さらに非常に好ましくはアルキレンオキサイド(AO)変性部位の数や各成分の含有量の条件、後述のその他の樹脂成分(D)の含有)を課すことにより、上記課題が解決可能となるという知見を得た。
以上の知見に基づいてなされた態様は以下の通りである。
【0008】
本発明の第1の態様によれば、
光重合性不飽和基を有し、かつ、当該光重合性不飽和基1個に対して2個以上のアルキレンオキサイド変性部位を有するアルキレンオキサイド変性化合物(A)と、
重量平均分子量3,000以下のシリコン系化合物(b1)および重量平均分子量3,000以下のフッ素系化合物(b2)から選択される少なくとも1種の化合物(B)と、
光重合開始剤(C)と、
を含有し、
前記アルキレンオキサイド変性化合物(A)の固形分100重量部に対し、前記化合物(B)の固形分の含有量は0.1~25重量部であることを特徴とする光硬化性樹脂組成物が提供される。
【0009】
本発明の第2の態様によれば、
前記光重合性不飽和基を有するアルキレンオキサイド変性化合物(A)が、エチレンオキサイド変性化合物であることを特徴とする第1の態様の光硬化性樹脂組成物が提供される。
【0010】
本発明の第3の態様によれば、
前記光重合性不飽和基を有するアルキレンオキサイド変性化合物(A)が、エトキシ化ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートおよびエトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1種のアルキレンオキサイド変性化合物であることを特徴とする第1または第2の態様の光硬化性樹脂組成物が提供される。
【0011】
本発明の第4の態様によれば、
前記シリコン系化合物(b1)が、ポリエーテル変性シリコン系化合物であることを特徴とする第1~第3のいずれかの態様の光硬化性樹脂組成物が提供される。
【0012】
本発明の第5の態様によれば、
前記フッ素系化合物(b2)が、ポリエーテル変性フッ素系化合物であることを特徴とする第1~第4のいずれかの態様の光硬化性樹脂組成物が提供される。
【0013】
本発明の第6の態様によれば、
前記光重合性不飽和基を有するアルキレンオキサイド変性化合物(A)が、エトキシ化ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートおよびエトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1種の化合物であり、
前記シリコン系化合物(b1)が、ポリエーテル変性シリコン系化合物であり、
前記フッ素系化合物(b2)が、ポリエーテル変性フッ素系化合物であることを特徴とする第1の態様の光硬化性樹脂組成物が提供される。
【0014】
本発明の第7の態様によれば、
さらに、前記光重合性不飽和基を有するアルキレンオキサイド変性化合物(A)とは異なる、光重合性不飽和基を有する樹脂成分(D)を含有することを特徴とする第1~第6の態様のいずれかの光硬化性樹脂組成物が提供される。
【0015】
本発明の第8の態様によれば、
第1~第7のいずれかの態様の光硬化性樹脂組成物により構成されたことを特徴とする硬化被膜が提供される。
【0016】
本発明の第9の態様によれば、
前記硬化被膜に対する純水の水滴の接触角が20°以下であることを特徴とする第8の態様の硬化被膜が提供される。
【0017】
本発明の第10の態様によれば、
JIS K 5600に準拠した鉛筆硬度がH以上であることを特徴とする第8または第9の態様の硬化被膜が提供される。
【0018】
本発明の第11の態様によれば、
第8~第10のいずれかの態様の硬化被膜を基材上に備えることを特徴とする被膜付き基材が提供される。
【0019】
本発明の第12の態様によれば、
第1~第7のいずれかの態様の光硬化性樹脂組成物を基材の少なくとも一方の面に塗布する塗布工程と、
前記塗布工程の後、光照射により前記光硬化性樹脂組成物を硬化させて硬化被膜を形成する硬化工程と、
を有することを特徴とする被膜付き基材の製造方法が提供される。
【0020】
本発明の第13の態様によれば、
第1~第7のいずれかの態様の光硬化性樹脂組成物を基材の少なくとも一方の面に塗布する塗布工程と、
前記塗布工程の後、光照射により前記光硬化性樹脂組成物を硬化させて硬化被膜を形成する硬化工程と、
を有することを特徴とする基材に対する防曇処理方法が提供される。
【0021】
本発明によれば、高湿度環境下においても比較的高い硬度と防曇性能を安定して発揮可能な光硬化性樹脂組成物およびその関連技術を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について以下の順序で説明する。
1.光硬化性樹脂組成物
2.被膜付き基材の製造方法(防曇処理方法)
3.本実施形態の効果
【0023】
なお、一般的に、硬化被膜の主表面が防曇性を発揮するには、当該主表面の親水性が大きく関与する。その一方で、本発明においては、重量平均分子量に条件を課しながらも、従来だと比較的疎水性を有すると考えられていたはずのシリコン系化合物やフッ素系化合物を積極的に混合している。その一方で、後述の実施例の項目にて示すように、本発明の一実施例においては硬化被膜の主表面(以降、単に硬化被膜または被膜と称する。)には防曇性はもちろんのこと、水滴の接触角という意味での親水性も備わっている。そのため、少なくとも本実施形態においては、説明の便宜上、当該親水性を含めた上で防曇性と総称する。
また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」はアクリレートおよびメタクリレートを表し、「(メタ)アクリル」はアクリルおよびメタクリルを表し、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイルおよびメタクリロイルを表す。
また、光重合性不飽和基とは、光により重合反応に関与する不飽和基を意味し、「光」は活性光線又は放射線を意味し、例えば可視光線や紫外線、遠紫外線、電子線、X線などを含むものを意味する。
また、本明細書において、シリコン“系”、フッ素“系”とは、一分子単位においてシリコン(Si)やフッ素(F)を含む化合物のことを指す。
また、本明細書において「~」は所定の値以上かつ所定の値以下を指す。
【0024】
<1.光硬化性樹脂組成物>
本実施形態の光硬化性樹脂組成物は、主として以下のものが含有(配合)されてなる。
・光重合性不飽和基を有するアルキレンオキサイド変性化合物(A)
・重量平均分子量3,000以下のシリコン系化合物(b1)および重量平均分子量3,000以下のフッ素系化合物(b2)から選択される少なくとも1種の化合物(B)
・光重合開始剤(C)
以下、本実施形態の光硬化性樹脂組成物を構成する各成分について述べる。
【0025】
アルキレンオキサイド変性化合物(A)
光重合性不飽和基を有するアルキレンオキサイド変性化合物(A)(以下、成分(A)とも言う。)は、光照射により硬化する光重合性不飽和基と、親水性を有するアルキレンオキサイド(AO)変性部位とを有する化合物である。成分(A)は、光硬化性樹脂組成物を塗料として使用する際に主にバインダーとしての役割を果たすものであり、オリゴマー、樹脂でもよい。
【0026】
成分(A)の光重合性不飽和基としては、特に限定されず、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニル基、アリル基などが挙げられるが、後述の実施例が示すように、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)や、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)等が有するアクリロイルオキシ基および/またはアクリロイル基を用いるのが、光硬化性樹脂組成物の硬化性の観点から好ましい。
【0027】
なお、成分(A)の光重合性不飽和基の数は特に制限されないが、硬化被膜の硬度の観点から、成分(A)の一分子(一単位)中において好ましくは2個以上であり、より好ましくは3個以上である。
【0028】
成分(A)の変性部位としては、具体的には、エチレンオキサイド(EO)変性部位、プロピレンオキサイド(PO)変性部位、これらを組み合わせたもの等が挙げられる。なお、先にも述べたように、本発明においては、従来だと比較的疎水性を有すると考えられていたはずの化合物(B)(すなわちシリコン系化合物(b1)やフッ素系化合物(b2))を積極的に混合することにより、防曇性を発揮するものである。その際に、成分(A)として親水性を向上させられるAO変性(特にEO変性)を採用することにより、比較的疎水性を有すると考えられていたはずの化合物(B)と組み合わされ、後述の実施例が示すように、防曇性を顕著に発揮させられる。
【0029】
なお、成分(A)の変性部位の数は、硬化被膜の防曇性の観点から、成分(A)の一分子中において光重合性不飽和基1個あたりに対し、非常に好ましくは2個以上であり、より好ましくは3個以上である。なお、上限については、求められる硬化被膜の硬度に応じて設定すればよいが、例えば10個以下、好ましくは5個以下であるのがよい。
ここでは光重合性不飽和基1個あたりの個数としてAO変性部位を表したが、光重合性不飽和基1モルあたりのモル数として表示しても構わない。例えば、光重合性不飽和基1モルに対し、上記の変性部位は非常に好ましくは2モル以上であり、他の範囲についても同様である。
【0030】
このような成分(A)の例としては、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート(以降、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートをDPHAと称する。)、プロポキシ化DPHA、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート(以降、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートをTMPTAと称する。)、プロポキシ化TMPTA、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの化合物の中でも、硬化被膜の強度、付着性等の観点から、光重合性不飽和基を3個以上有するエトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化DPHA、プロポキシ化DPHA、エトキシ化TMPTA、プロポキシ化TMPTAが好ましく、エトキシ化DPHA、エトキシ化TMPTAがより好ましい。
【0031】
また、AO変性部位を有しているオリゴマー、樹脂も、成分(A)として用いることができる。そのようなオリゴマー、樹脂としては、例えば、AO変性部位を有するウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレートおよびエポキシ(メタ)アクリレート等のオリゴマー、樹脂が挙げられる。このようなオリゴマー、樹脂は、上記に列挙したEO付加化合物および/またはPO付加化合物を重合して得られるほか、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレートおよびエポキシ(メタ)アクリレート等のオリゴマー、樹脂に、上記に列挙したようなEO付加化合物および/またはPO付加化合物を付加重合して得ることが出来る。また、上記に列挙したEO付加化合物および/またはPO付加化合物以外のAO付加化合物を重合して得られるAO変性部位を有するウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレートおよびエポキシ(メタ)アクリレート等のオリゴマー、樹脂のほか、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレートおよびエポキシ(メタ)アクリレート等のオリゴマー、樹脂に、上記に列挙したEO付加化合物および/またはPO付加化合物以外のAO付加化合物を付加重合して得られたものでも良い。
なお、これらのオリゴマー、樹脂の中でも、硬化被膜の強度や付着性等の観点から、EO変性ウレタン(メタ)アクリレートが好ましい。このようなEO変性ウレタン(メタ)アクリレートとしては、例えば、ポリイソシアネート、ポリオールおよびヒドロキシ(メタ)アクリレートからなるウレタン(メタ)アクリレートであって、前記反応物のうち少なくとも1種類がEO変性部位を有するもの、または(メタ)アクリレート基を有するイソシアネートおよびポリオールからなるウレタン(メタ)アクリレートであって、前記反応物のうち少なくとも1種類がEO変性部位を有するものが挙げられる。
また、このような成分(A)は、ガラス転移温度(Tg)が、-60℃~60℃であるものが好ましく、-60℃~30℃であるものがより好ましい。ガラス転移温度は、示差走査熱量測定装置(DSC)により測定できる。
これらの成分(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
化合物(B)
本実施形態の化合物(B)は、重量平均分子量3,000以下のシリコン系化合物(b1)および重量平均分子量3,000以下のフッ素系化合物(b2)から選択される少なくとも1種の化合物である。なお、そのような化合物であれば特に限定はなく、オリゴマー、樹脂を採用しても構わない。
【0033】
先にも述べたように、本発明においては、従来だと比較的疎水性を有すると考えられていたはずのシリコン系化合物(b1)やフッ素系化合物(b2)を積極的に混合する。ただし、その際に、本実施形態においては、重量平均分子量についての条件を課す。具体的には、シリコン系化合物(b1)やフッ素系化合物(b2)を、比較的低分子量であるところの重量平均分子量(Mw)3,000以下とする。後述の実施例の項目が示すように、Mwが3,000以下かそうでないかで、防曇性の発揮度合いに大きな差異が生じる。この条件により、組成としては比較的疎水性を有する化合物(B)であっても、疎水性をある程度抑えつつも、上記のアルキレンオキサイド変性化合物すなわち成分(A)との組み合わせにより、顕著な防曇性(そして親水性)を発揮することが可能となる。
以下、化合物(B)であるところのシリコン系化合物(b1)やフッ素系化合物(b2)について説明する。以降、化合物(B)のことを成分(B)とも称し、同様にシリコン系化合物(b1)、フッ素系化合物(b2)のことを単に成分(b1)、成分(b2)とも称する。
【0034】
シリコン系化合物(b1)
成分(b1)としては、Mwが3,000以下であれば特に限定はなく、公知のレべリング剤を使用しても構わない。成分(b1)としては、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリメチルハイドロジエンシロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリメチルフェニルシロキサン、ポリエーテル変性ポリメチルハイドロジエンシロキサン等が挙げられる。
【0035】
なお、後述の実施例の項目が示すように、成分(b1)は、ポリエーテル構造を有する化合物すなわちポリエーテル変性シリコン系化合物であるのが好ましく、分子内にポリオキシアルキレン基を有するものが好ましい。ポリオキシアルキレン基としては、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基が挙げられ、ポリオキシエチレン基がより好ましい。
【0036】
成分(b1)の市販品としては、例えば「BYK-345」(ポリエーテル変性シロキサン、Mw:1,500)、「BYK-347」(ポリエーテル変性シロキサン、Mw:1,000)、「BYK-349」(ポリエーテル変性シロキサン、Mw:1,500)(全てビッグケミー・ジャパン株式会社製)などが挙げられる。
【0037】
成分(b1)の固形分の配合量は、硬化被膜の親水性・硬度の観点から、アルキレンオキサイド変性化合物(A)の固形分100重量部に対し、0.1~25重量部が非常に好ましく、0.1~15重量部がより好ましく、0.5~10重量部がさらに好ましい。
なお、光硬化性樹脂組成物の固形分100重量部に対して換算した場合、成分(b1)の固形分の配合量は、0.05~15重量部が非常に好ましく、0.05~10重量部がより好ましく、0.1~5重量部がさらに好ましい。
【0038】
フッ素系化合物(b2)
成分(b2)としても、Mwが3,000以下であれば特に限定はなく、公知のレべリング剤を使用しても構わない。成分(b2)としては、例えば、パーフルオロアルケニルポリオキシエチレンエーテル、パーフルオロアルケニルカルボン酸塩、パーフルオロアルケニルスルホン酸塩、パーフルオロアルケニルリン酸エステル、パーフルオロアルケニルベタイン等のパーフルオロアルケニル基を主鎖又は側鎖に有するフッ素系レベリング剤;パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエーテル、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルベタイン等のパーフルオロアルキル基を主鎖又は側鎖に有するフッ素系レベリング剤、等が挙げられる。
【0039】
なお、後述の実施例の項目が示すように、成分(b2)は、ポリエーテル構造を有する化合物すなわちポリエーテル変性フッ素系化合物が好ましく、パーフルオロアルケニル基を主鎖又は側鎖に有するものが好ましい。
さらに分子内にポリオキシアルキレン基を有するものが好ましい。ポリオキシアルキレン基としては、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基が挙げられ、ポリオキシエチレン基がより好ましい。
【0040】
成分(b2)の市販品としては、例えば「フタージェント250」(パーフルオロアルケニルポリオキシエチレンエーテル、Mw:1,800、平均EOモル数:22)、「フタージェント251」(パーフルオロアルケニルポリオキシエチレンエーテル、Mw:1,500、平均EOモル数:8)、「フタージェント212M」(パーフルオロアルケニルポリオキシエチレンエーテル、Mw:1,500、平均EOモル数:12)、「フタージェント215M」(パーフルオロアルケニルポリオキシエチレンエーテル、Mw:1,500、平均EOモル数:15)(全て株式会社ネオス製)などが挙げられる。
なお、ここで言う平均EOモル数とは、各化合物1モルに対して付加されたEOの平均モル数である。
【0041】
成分(b2)の固形分の配合量は、硬化被膜の親水性・硬度の観点から、アルキレンオキサイド変性化合物(A)の固形分100重量部に対し、0.1~25重量部が非常に好ましく、0.1~15重量部がより好ましく、0.5~10重量部がさらに好ましい。
なお、光硬化性樹脂組成物の固形分100重量部に対して換算した場合、成分(b1)の固形分の配合量は、0.05~15重量部が非常に好ましく、0.05~10重量部がより好ましく、0.1~5重量部がさらに好ましい。
【0042】
なお、上記の成分(B)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合は、(b1)を2種以上選択するケース、(b2)を2種以上選択するケース、(b1)および(b2)をそれぞれ1種以上選択して2種以上とするケースがあるが、そのいずれでも構わない。
また、成分(b1)および成分(b2)をそれぞれ1種以上選択して2種以上とする際は、(b1)および(b2)の合計の固形分の配合量は、硬化被膜の親水性・硬度の観点から、アルキレンオキサイド変性化合物(A)の固形分100重量部に対し、0.1~25重量部が非常に好ましく、0.1~15重量部がより好ましく、0.5~10重量部がさらに好ましい。
なお、光硬化性樹脂組成物の固形分100重量部に対して換算した場合、成分(b1)および(b2)の合計の固形分の配合量は、0.05~15重量部が非常に好ましく、0.05~10重量部がより好ましく、0.1~5重量部がさらに好ましい。
【0043】
光重合開始剤(C)
本実施形態の光重合開始剤(C)(以降、成分(C)と称する。)は、光照射によりラジカル又はカチオンを発生して、光重合性不飽和基を有する成分(A)および任意に用いる後述のその他の樹脂成分(D)を硬化させるものである。成分(C)は、特に限定されず、公知のものを用いることができ、例えば、ベンゾイン系光重合開始剤、アセトフェノン系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤などを用いることができる。
【0044】
ベンゾイン系光重合開始剤としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等が挙げられる。
【0045】
アセトフェノン系光重合開始剤としては、ベンジルジメチルケタール(別名、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン)、ジエトキシアセトフェノン、4-フェノキシジクロロアセトフェノン、4-t-ブチル-ジクロロアセトフェノン、4-t-ブチル-トリクロロアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-(4-ドデシルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン等が挙げられる。
【0046】
ベンゾフェノン系光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0047】
チオキサントン系光重合開始剤としては、チオキサントン、2-クロルチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン等が挙げられる。
【0048】
なお、上記の成分(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0049】
成分(C)の配合量は、光硬化性樹脂組成物の固形分100重量部に対して、好ましくは0.1~10重量部、より好ましくは3~6重量部である。配合量がこの範囲内であれば、光硬化性樹脂組成物を硬化させるときの速度(硬化速度)を適度な大きさに保つことができる。
【0050】
その他の樹脂成分(D)
上記の成分(A)~(C)に加え、その他の樹脂成分(D)(以降、成分(D)と称する。)を新たに含有しても構わない。このとき、光重合性不飽和基を有するアルキレンオキサイド変性化合物(A)とは異なる、光重合性不飽和基を有する成分(D)を含有することが、光重合の度合いを増大させ、ひいては硬化被膜の強度を向上させるという点で好ましい。
【0051】
成分(D)としては、特に限定されないが、例えばウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート等の光重合性不飽和基を有するモノマーを重合して得られる樹脂が挙げられ、好ましくはウレタン(メタ)アクリレート樹脂である。
【0052】
なお、成分(D)の光重合性不飽和基の数は特に制限されないが、硬化被膜の硬度の観点から、成分(D)の一分子中において好ましくは2個以上であり、より好ましくは3個以上(一例としてはウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー)である。
【0053】
成分(D)の配合量は、硬化被膜の親水性、防曇性、硬度、付着性のバランスの観点から、光硬化性樹脂組成物の固形分100重量部に対して0~80重量部が好ましく、5~70重量部がより好ましい。
また、このような成分(D)は、ガラス転移温度(Tg)が、80℃以上であるものが好ましく、220℃以上であるものがより好ましく、300℃以上であるものがさらに好ましい。ガラス転移温度は、示差走査熱量測定装置(DSC)により測定できる。
これらの成分(D)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0054】
その他の成分(E)
本実施形態においては、必要に応じて、上述した成分以外のその他の添加剤を含有させてもよい。その他の添加剤として、粘度を所定の範囲に調整する観点から、有機溶剤を含有させてもよく、有機溶剤としては、従来公知のものを用いることができる。例えば、芳香族炭化水素類(例:キシレン、トルエンなど)、ケトン類(例:メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなど)、エステル類(例:酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルなど)、アルコール類(例:イソプロピルアルコール、ブタノールなど)、グリコールエーテル類(例:プロピレングリコールモノメチルエーテルなど)などの各種有機溶剤が挙げられる。これらの有機溶剤は、1種単独で、あるいは2種以上を併用して用いることができる。
【0055】
また、その他の添加剤として、重合禁止剤、非反応性希釈剤、艶消し剤、消泡剤、沈降防止剤、レベリング剤、分散剤、熱安定剤、紫外線吸収剤などを、本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。ただし、ゴーグルやヘッドライトへの防曇性の付与という用途を想定すると、所定の添加剤(例えばリチウム塩などの帯電防止剤)を含有させない方が、塗料の安定性低下や、防曇性低下のおそれを排するという意味でも好ましい。
【0056】
また、硬化被膜の硬度向上および収縮の抑制を目的として、無機微粒子を含有させても良い。無機微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、酸化錫、酸化鉄、酸化チタン、酸化インジウム、酸化ジルコニウム、酸化バナジウム、酸化セリウム、酸化アンチモン、インジウムドープ酸化錫等の微粒子が挙げられる。これらの無機微粒子の中でも、硬化被膜の硬度向上と透明性を高く保つ観点から、シリカが好ましく、コロイダルシリカがより好ましい。
無機微粒子は、表面修飾されていてもよく、例えば、表面に光重合性不飽和基を有していても良い。このような無機微粒子は、光硬化性樹脂組成物の硬化時に、光重合性不飽和基が成分(A)や成分(D)と共に重合することによって、硬化被膜に組み込まれるため、無機微粒子が硬化被膜から脱落し難く、長期間に渡って効果を発揮することができる。
【0057】
無機微粒子の粒子径の上限は、硬化被膜の透明性を高く保つ観点から、100nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましく、20nm以下がさらに好ましい。また、無機微粒子の粒子径の下限は、1nm以上が好ましい。
無機微粒子の配合量は、光硬化性樹脂組成物の固形分100重量部に対して、0.1~60重量部が好ましい。
無機微粒子の市販品としては、例えば「IPA-ST」、「MEK-ST」、「MEK-AC2140Z」、「PGM-AC-2140Y」(以上、日産化学工業株式会社製)、「ELCOM V-8804」(日揮触媒化成株式会社製)、「NANOBYK-3650」、「NANOBYK-3651」、「NANOBYK-3652」(以上、ビックケミー・ジャパン株式会社製)などが挙げられる。
【0058】
<2.被膜付き基材の製造方法(防曇処理方法)>
本実施形態の硬化被膜は、上記の光硬化性樹脂組成物を用いた上で、主に以下の工程により作製される。
・上記の光硬化性樹脂組成物を準備する準備工程
・上記の光硬化性樹脂組成物を基材の少なくとも一方の面に塗布する塗布工程
・塗布工程の後、光照射により光硬化性樹脂組成物を硬化させて硬化被膜を形成する硬化工程
【0059】
なお、上記各工程の具体的な手法としては、公知の方法を適宜利用しても構わない。
例えば、光硬化性樹脂組成物を準備する際には、先に述べた各(A)~(E)成分を、一度にあるいは任意の順序で攪拌容器に添加し、公知の攪拌・混合手段で各成分を混合して、溶剤中に分散または溶解させればよい。攪拌・混合手段としては、ハイスピードディスパー、サンドグラインドミル、バスケットミル、ボールミル、三本ロール、ロスミキサー、プラネタリーミキサーなどが挙げられる。
【0060】
また、光硬化性樹脂組成物を塗布する基材としては、特に限定されないが、例えば、トリアセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ジアセチルセルロース、アセテートブチレートセルロース、ポリエーテルサルホン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、その他ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテル、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、(メタ)アクリルニトリル、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)等のフィルム、シート、成形体が挙げられる。
【0061】
塗布工程においては、光硬化性樹脂組成物の種類や組成、基材の種類などに応じて適宜変更することができる。例えば、スプレーコート法、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法やエクストルージョンコート法などが挙げられる。
【0062】
上記の塗布工程において、基材の一方の主面上に光硬化性樹脂組成物を塗布して塗膜を形成する。このときの塗膜の厚さ(光硬化性樹脂組成物の塗布厚)は、特に限定されないが、硬化被膜の強度の観点から、例えば、後述の硬化工程後の硬化被膜の厚さが少なくとも1μm以上、好ましくは3μm以上となるように調整する。一方、硬化被膜の厚さの上限値は、特に限定されないが、塗装作業性の観点から、例えば100μm以下、好ましくは30μm以下となるように、塗膜の厚さを調整するとよい。
【0063】
硬化工程においては、塗布工程後の基材に対して光を照射し、基材上の塗膜を硬化させ、硬化被膜を形成する。光の種類、照射手法等々については特に限定はないが、硬化速度、照射装置の入手のし易さ、価格などの面から、紫外線照射が好ましく、例えば高圧水銀ランプにより塗膜に対して紫外線を照射するという手法を採用しても構わない。紫外線で硬化させる方法としては、200~500nmの波長域の光を発する高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ等を用いて、100~3000mJ/cm2ほど照射する方法などが挙げられる。
【0064】
なお、必要に応じ、上記の各工程以外の工程(例えば乾燥工程や洗浄工程等)を行っても構わない。例えば、塗布工程と光照射工程との間に、光硬化性樹脂組成物を乾燥させる乾燥工程を設けてもよい。乾燥方法としては、例えば、減圧乾燥または加熱乾燥、さらにはこれらの乾燥方法を組み合わせる方法などが挙げられる。
【0065】
なお、上記の硬化被膜は、基材の片面もしくは両面のどちらに形成されても良い。また、基材と本発明の被膜の間に他の層が形成されていても良い。
【0066】
上記の各工程を経て作製された本実施形態における硬化被膜は、優れた防曇性を有しており、さらに、水滴の接触角という意味での親水性も備わっている。この親水性についての規定の一具体例を挙げると、厚さ100μmのPETフィルム上に、上記の光硬化性樹脂組成物により構成された塗膜を形成し、高圧水銀ランプを用いて紫外線を200mJ/cm2の照射量となるように照射し、塗膜を硬化させて形成された厚さ3~4μmの硬化被膜表面に純水を滴下した際、着滴から10秒後の接触角が20°以下とするのが好ましい。
また、JIS K 5600に準拠した鉛筆硬度(詳しくは実施例の項目にて後述)がH以上であるのが好ましい。
【0067】
なお、被膜付き基材の製造方法は、別の視点で見ると、基材に対して防曇処理を行う方法と見ることもできる。基材に対する防曇処理方法の具体的な各工程は、上記に挙げた各工程と同様である。
【0068】
<3.本実施形態の効果>
本実施形態によれば、主として以下の効果を奏する。
すなわち、従来の技術においては、高湿度環境下における防曇性能においてさらに改良すべき点があるところ、添加剤を単純に増量するのではなく、上記の本実施形態の構成、すなわち、光重合性不飽和基を有するアルキレンオキサイド変性化合物に対し、従来だと比較的疎水性を有すると考えられていたはずのシリコン系化合物やフッ素系化合物を積極的に混合する、ただしシリコン系化合物にしてもフッ素系化合物にしても重量平均分子量を3,000以下とするという条件(さらに非常に好ましくはAO変性部位の数や各成分の含有量の条件、上記の成分(D)の含有)を課すことにより、高湿度環境下においても硬化被膜の変質の発生を抑えつつ防曇性能を発揮可能となり、硬度についても非常に満足いく値が得られる。また、密着性や透明性についても十分である。
つまり、本実施形態ならば、高湿度環境下においても比較的高い硬度と防曇性能を安定して発揮可能となる。
【0069】
本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、例えば本発明の適用用途の一例としては、車両のヘッドランプカバー、ゴーグル、眼鏡等の内側や浴室鏡の表面に適用することが可能である。
【0070】
なお、本実施形態においては、成分(A)において光重合性不飽和基1個に対して2個以上のアルキレンオキサイド変性部位を有すること、成分(A)の固形分100重量部に対して、成分(B)が0.1~25重量部であることが、非常に好ましい例であることを述べた。その一方、以下の構成も本発明の効果を奏する。
「光重合性不飽和基を有するアルキレンオキサイド変性化合物(A)と、
重量平均分子量3,000以下のシリコン系化合物(b1)および重量平均分子量3,000以下のフッ素系化合物(b2)から選択される少なくとも1種の化合物(B)と、
光重合開始剤(C)と、
を含有することを特徴とする光硬化性樹脂組成物、またはその関連技術。」
なお、上記の構成に対し、本実施形態で挙げた好適例等を組み合わせてももちろん構わない。また、成分(A)、(b1)、(C)の組み合わせに対し、本実施形態で挙げた所定の好適例等を適用しても構わないし、上記の組み合わせに適用したもの以外の好適例等を成分(A)、(b2)、(C)の組み合わせに対して適用しても構わない。
【実施例】
【0071】
次に、本発明について実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されない。
【0072】
[実施例1~17]
基材として、PETフィルム(東洋紡株式会社製「コスモシャインA4300」、縦200mm×横150mm×厚み100μm)を準備した。続いて、以下の表に記載のように調製した光硬化性樹脂組成物をPETフィルムの一方の主面に塗布し、塗膜を形成した。このとき、得られる硬化被膜の膜厚(ドライ膜厚)が3~4μmとなるように、塗膜の厚さを調整して塗布した。続いて、高圧水銀ランプを用いて、塗膜に対して紫外線を照射した(照射量:200mJ/cm
2)。照射により塗膜を硬化させ、本実施例の光硬化性樹脂組成物の硬化被膜付きフィルムを作製した。また、後述の(4)密着性を調べるべく、PETフィルムの代わりにポリカーボネートの成形体(タキロン株式会社製「PC1600」)に対しても上記の硬化被膜を設けた。
なお、各実施例において、以下の表に示すように光硬化性樹脂組成物における化合物や分量を変えた。
【表1】
上記の表における各化合物について以下に説明する。以下、特記の無い場合は固形分100%とする。なお、表中のEOはエチレンオキサイド変性のことであり、EOの前の数値は、光重合前(硬化前)の成分(A)1モルあたりに対して付加したEOのモル数である。また、Mwは重量平均分子量のことである。
また、成分(A)および成分(D)のガラス転移温度(Tg)は、次のように測定した。まず、各成分97重量部に対して、光開始剤としてIRGACURE-184(1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、BASFジャパン株式会社製)3重量部を添加し攪拌した樹脂組成物を、アルミニウム製容器に流し入れ、高圧水銀ランプを用いて紫外線を照射し(照射量:250mJ/cm
2)硬化させて、厚さ1mmの試験片を作成した。この試験片10mgに対し、電気冷却システムDSC(リガク株式会社製「DSC8231」)により、100ml/分の窒素雰囲気下、10℃/分で昇温させたときのガラス転移点のオンセット温度から求めた。
【0073】
アルキレンオキサイド変性化合物(A)
・ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)の24EO変性物(光重合性不飽和基1個あたりのアルキレンオキサイド基数:4、Tg:-7℃)
・SR499、SR502、SR9035(以上、サートマー・ジャパン株式会社製:トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)のEO変性物。なお、光重合性不飽和基1個あたりのアルキレンオキサイド基数は、SR499が2、SR502が3、SR9035が5であり、Tgは、SR499が10℃、SR502が-11℃、SR9035が-35℃)
いずれもEO変性部位を有している。
【0074】
シリコン系化合物(b1)
・BYK-345、BYK-347、BYK-349(以上、ビックケミー・ジャパン株式会社製)
いずれも、ポリエーテル変性シリコン系化合物であるところのポリエーテル変性シロキサンであり、かつ重量平均分子量(Mw)は3,000以下である。
【0075】
フッ素系化合物(b2)
・フタージェント250、フタージェント251、フタージェント212M、フタージェント215M(以上、株式会社ネオス製)
いずれも、ポリエーテル変性フッ素化合物であるところのフッ素系ポリオキシエチレンエーテルであり、かつ重量平均分子量は3,000以下である。
【0076】
光重合開始剤(C)
・IRGACURE 184D(1-ヒドロキシ-シクロへキシル-フェニル-ケトン)、IRGACURE TPO(2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド)(以上、BASFジャパン株式会社製)
【0077】
その他の樹脂成分(D)
・アートレジン3320HA(根上工業株式会社製:ウレタンアクリレート樹脂、Tg:300℃以上)
【0078】
その他の化合物(E)
・溶剤(固形分0%、酢酸ブチル)
【0079】
[比較例1~8]
本比較例においては、以下の表に示すように、各化合物における試薬を変更した。なお、比較例1においては成分(A)を使用しておらず、比較例2においては成分(B)を使用していない。
【表2】
その他、実施例と異なるところは、詳しくは以下の通りである。なお、上記の表および以下に記載の無い内容は、実施例と同様とする。
【0080】
化合物(A)に対する比較例
・NKエステルA-DPH(新中村化学工業株式会社製、Tg:300℃以上)すなわちEO変性部位が無いもの(比較例3に該当)
【0081】
化合物(B)すなわちシリコン系化合物(b1)やフッ素系化合物(b2)に対する比較例
・ポリフローNo.75(共栄社化学株式会社製)すなわちアクリルポリマーであって上記の(b1)や(b2)に該当しないもの(比較例4に該当)
・BYK-361N(ビックケミー・ジャパン株式会社製)すなわちアクリル系重合物であって上記の(b1)や(b2)に該当しないもの(比較例5に該当)
・TSF-4440(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製)すなわちシリコン系化合物ではあるがMwが3,000を超えているもの(比較例6に該当)
・BYK-333(ビックケミー・ジャパン株式会社製)すなわちシリコン系化合物ではあるがMwが3,000を超えているもの(比較例7に該当)
・フッ素系ポリオキシエチレンエーテルのオリゴマー(固形分37%)すなわちフッ素系化合物ではあるがMwが3,000を超えているもの(比較例8に該当)
【0082】
[特性評価]
得られた被膜付きフィルムを用いて、下記に記載の試験条件に準拠して、各種特性を評価した。
以下、各特性の評価方法について述べる。
【0083】
(1)防曇性
塗膜表面に呼気を2秒程度吹きかけ、その曇り具合を目視にて評価した。本実施例では、○以上を合格とした。
○:まったく曇らない
△:僅かに曇る
×:曇る
【0084】
(2)接触角が示すところの親水性
硬化被膜に純水1μlを滴下し、着滴してから10秒後の接触角を、接触角計(協和界面科学株式会社製、「DropMaster DM500」)にて測定した。接触角が20°以下になるものを合格とした。
【0085】
(3)硬度
JIS K 5600に準拠して荷重750gで鉛筆硬度試験を行い、光硬化性樹脂組成物の硬化被膜の鉛筆硬度を測定し、評価した。本実施例では、鉛筆硬度がH以上であれば、十分な硬度を有しており、耐擦傷性に優れているものと評価し合格とした。
【0086】
(4)密着性
JIS K 5400に記載されている碁盤目試験の方法に準じて、光硬化性樹脂組成物の硬化被膜上にカッターで1mm幅、100マスの傷を入れ、碁盤目を付けた試験片を作製し、セロテープ(登録商標)(商品名、ニチバン株式会社製)を試験片に貼り付けた後、このセロテープ(登録商標)を速やかに、基盤面に対して45度斜め上方の方向に引っ張って剥離させ、残った碁盤目の被膜数を数え、この数を付着性の指標とした。
【0087】
(5)透明性
{ヘイズ(HZ)}
JIS K7136に準拠して光硬化性樹脂組成物の硬化被膜付きフィルムのヘイズ(HZ)を測定し、評価した。本実施例では、ヘイズが1%以下であれば、透明性に優れているものと評価した。なお、ヘイズは、ヘイズメーター(日本電色工株式会社製、「NDH4000」)を用いて測定した。
【0088】
{全光線透過率(TT)}
また、同じく透明性に関し、全光線透過率(TT)を調べた。具体的には、JIS K7361に準拠して光硬化性樹脂組成物の硬化被膜付きフィルムの全光線透過率(TT)を測定し、評価した。本実施例では、全光線透過率が90%以上であれば、透過率が高いものと評価した。なお、全光線透過率は、ヘイズメーター(日本電色工業株式会社製、「NDH4000」)を用いて測定した。
【0089】
[実施例および比較例についての評価]
まず、各実施例においては、評価における全ての項目(硬度含め)において満足のいく結果となっていた。特に、(1)防曇性および(2)接触角が示すところの親水性においては著しく優れた結果となっていた。その中でも成分(b1)を使用した例の方が、総合的に評価したときに優れた結果をもたらす傾向があるため、成分(A)、(b1)、(C)の組み合わせが好ましいとも言える。
その一方、各比較例の全てにおいて(1)防曇性および(2)接触角が示すところの親水性の項目だと良好な結果が得られなかった。
【0090】
以上の結果、各実施例において、高湿度環境下においても比較的高い硬度と防曇性能を安定して発揮可能となっていた。