(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】光硬化性歯科用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 6/61 20200101AFI20220621BHJP
A61K 6/62 20200101ALI20220621BHJP
A61K 6/40 20200101ALI20220621BHJP
A61K 6/889 20200101ALI20220621BHJP
A61K 6/90 20200101ALI20220621BHJP
A61K 6/887 20200101ALI20220621BHJP
A61K 6/831 20200101ALI20220621BHJP
A61K 6/30 20200101ALI20220621BHJP
A61K 6/70 20200101ALI20220621BHJP
【FI】
A61K6/61
A61K6/62
A61K6/40
A61K6/889
A61K6/90
A61K6/887
A61K6/831
A61K6/30
A61K6/70
(21)【出願番号】P 2020517469
(86)(22)【出願日】2018-10-09
(86)【国際出願番号】 EP2018077383
(87)【国際公開番号】W WO2019072787
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2020-09-03
(32)【優先日】2017-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】502289695
【氏名又は名称】デンツプライ デトレイ ゲー.エム.ベー.ハー.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ジラト,フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】メイヤー,マクシミリアン
(72)【発明者】
【氏名】レン,カロリーネ
(72)【発明者】
【氏名】クレー,ヨアヒム・エー
(72)【発明者】
【氏名】エルスナー,オリバー
(72)【発明者】
【氏名】ケンプター,ヨルク
(72)【発明者】
【氏名】ラレヴェ,ジャック
(72)【発明者】
【氏名】ブーズラチ-ゼレリ,マリエム
(72)【発明者】
【氏名】キルシュナー,ジュリー
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-045602(JP,A)
【文献】特表2007-506835(JP,A)
【文献】国際公開第2007/018220(WO,A1)
【文献】特開昭62-228005(JP,A)
【文献】特表2007-506836(JP,A)
【文献】特開平01-308855(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103622837(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)1種以上のラジカル重合性化合物
である(メタ)アクリラート又は(メタ)アクリルアミドモノマーと、
(b)
(i)300~800nmの範囲に光吸収極大を有する光開始剤化合物
であって、1,2-ジケトンである光開始剤化合物、
及び
(ii)共開始剤化合物を含有する重合開始剤系とを含み、
ここで、該共開始剤化合物は、下記式(I):
(R-SO
x
-)
yM
y+ (I)
[式中、
Rは、
芳香族又は脂肪族有機部分を表わし M
y+は、
歯科用組成物に適したカチオンであ
って、
アルカリ金属、アルカリ土類金属、又は下記式(II):
R
1
-I
+
-R
2
(II)
[式中、R
1
及びR
2
は、それぞれ独立して、1~6個の炭素原子を有する1つ以上の直鎖もしくは分岐鎖アルコキシ基により置換されていてもよいフェニル基を表わす]
で示されるヨードニウムイオンであり、
xは、2又は3であり、
yは、1~4の整数であ
る。]
で示されるスルフィナート化合物又はスルホナート化合物である、
光硬化型歯科用組成物。
【請求項2】
共開始剤化合物は、式(I)において、xが2であり、Rが芳香族又は脂肪族有機部分を表わし、式(II)において、R
1
及びR
2
がフェニル基を表わすスルフィナート化合物である、請求項1記載の光硬化型歯科用組成物。
【請求項3】
共開始剤化合物は、式(I)において、xが3であり、Rが芳香族又は脂肪族有機部分を表わし、式(II)において、R
1
及びR
2
が、それぞれ独立して、1~6個の炭素原子を有する直鎖もしくは分岐鎖アルコキシ基により置換されていてもよいフェニル基を表わすスルホナート化合物である、請求項1記載の光硬化型歯科用組成物。
【請求項4】
光開始剤化合物が、カンファーキノン、ベンジル、2,3-ブタンジオン、2,3-ペンタンジオン、2,3-ヘキサンジオン、3,4-ヘキサンジオン、2,3-ヘプタンジオン、3,4-ヘプタンジオン、2,3-オクタンジオン、4,5-オクタンジオンフリル、ビアセチル、1,2-シクロヘキサンジオン、1,2-ナフタキノン及びアセナフタキノンからなる群より選択される1,2-ジケトンである、請求項1~3のいずれか一項記載の光硬化型歯科用組成物。
【請求項5】
光開始剤化合物が、カンファーキノン又はtert-ブチル(tert-ブチルジメチルシリル)-グリオキシラート(DKSi)である、請求項1~4のいずれか一項記載の光硬化型歯科用組成物。
【請求項6】
(メタ)アクリラート又は(メタ)アクリルアミドモノマーが、
アクリル酸、メタクリル酸、
メチルアクリラート、メチルメタクリラート、
エチルアクリラート、エチルメタクリラート、
プロピルアクリラート、プロピルメタクリラート、
イソプロピルアクリラート、イソプロピルメタクリラート、
2-ヒドロキシエチルアクリラート、2-ヒドロキシエチルメタクリラート(HEMA)、
ヒドロキシプロピルアクリラート、ヒドロキシプロピルメタクリラート、
テトラヒドロフルフリルアクリラート、テトラヒドロフルフリルメタクリラート、
グリシジルアクリラート、グリシジルメタクリラート、
ビス-フェノールAのジグリシジルメタクリラート(「ビス-GMA」)、
グリセロールモノ-及びジ-アクリラート、グリセロールモノ-及びジ-メタクリラート、
エチレングリコールジアクリラート、エチレングリコールジメタクリラート、
ポリエチレングリコールジアクリラート(ここで、繰り返しエチレンオキシド単位の数は2~30である)、ポリエチレングリコールジメタクリラート(ここで、繰り返しエチレンオキシド単位の数は2~30である)、
トリエチレングリコールジメタクリラート「TEGDMA」)、
ネオペンチルグリコールジアクリラート、ネオペンチルグリコールジメタクリラート、
トリメチロールプロパントリアクリラート、トリメチロールプロパントリメタクリラート、
ペンタエリスリトール及びジペンタエリスリトールのモノ-、ジ-、トリ-及びテトラ-アクリラート及びメタクリラート、
1,3-ブタンジオールジアクリラート、1,3-ブタンジオールジメタクリラート、
1,4-ブタンジオールジアクリラート、1,4-ブタンジオールジメタクリラート、
1,6-ヘキサンジオールジアクリラート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリラート、
ジ-2-メタクリロイルオキシエチルヘキサメチレンジカルバマート、
ジ-2-メタクリロイルオキシエチルトリメチルヘキサメチレンジカルバマート、
ジ-2-メタクリロイルオキシエチルジメチルベンゼンジカルバマート、
メチレン-ビス-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバマート、
ジ-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバマート、
メチレン-ビス-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバマート、
ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルベンゼンジカルバマート、
ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバマート、
メチレン-ビス-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバマート、
ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ヘキサメチレンジカルバマート、
ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-トリメチルヘキサメチレンジカルバマート、
ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルベンゼンジカルバマート、
ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバマート、
メチレン-ビス-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバマート、
ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-ヘキサメチレンジカルバマート、
ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-トリメチルヘキサメチレンジカルバマート、
ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルベンゼンジカルバマート、
ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバマート、
メチレン-ビス-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバマート、
ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ヘキサメチレンジカルバマート、
ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-トリメチルヘキサメチレンジカルバマート、
ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルベンゼンジカルバマート、
ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバマート、
メチレン-ビス-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバマート、
2,2’-ビス(4-メタクリルオキシフェニル)プロパン、2,2’ビス(4-アクリルオキシフェニル)プロパン、
2,2’-ビス[4(2-ヒドロキシ-3-メタクリルオキシ-フェニル)]プロパン、2,2’-ビス[4(2-ヒドロキシ-3-アクリルオキシ-フェニル)プロパン、
2,2’-ビス(4-メタクリルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-アクリルオキシエトキシフェニル)プロパン、
2,2’-ビス(4-メタクリルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-アクリルオキシプロポキシフェニル)プロパン、
2,2’-ビス(4-メタクリルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-アクリルオキシジエトキシフェニル)プロパン、
2,2’-ビス[3(4-フェノキシ)-2-ヒドロキシプロパン-1-メタクリラート]プロパン、2,2’-ビス[3(4-フェノキシ)-2-ヒドロキシプロパン-1-アクリラート]プロパン、
N,N’-ジエチル-1,3-ビスアクリルアミド-プロパン(BADEP)、1,3-ビスアクリルアミド-プロパン(BAP)、1,3-ビスアクリルアミド-2-エチル-プロパン(BAPEN)、N,N’-(2E)-2-ブテン-1,4-ジイルビス[N-2-プロペン-1-イル-2-プロペンアミド](BAABE)、N,N-ジ(シクロプロピルアクリルアミド)プロパン(BCPBAP)及びN,N’-(2-ヒドロキシ-1,3-プロパンジイル)ビス[N-2-プロペン-1-イル-2-プロペンアミド](DAAHP)
からなる群より選択される、請求項1~5のいずれか一項記載の光硬化型歯科用組成物。
【請求項7】
(メタ)アクリラートモノマーが、
アクリル酸、2-ヒドロキシエチルメタクリラート(HEMA)、
ビス-フェノールAのジグリシジルメタクリラート(「ビス-GMA」)、及び
トリエチレングリコールジメタクリラート「TEGDMA」)、
からなる群より選択される、請求項1~6のいずれか一項1記載の光硬化型歯科用組成物。
【請求項8】
歯科用組成物が、1種以上のラジカル重合性化合物に基づいて、0.05~5mol% 共開始剤化合物を含む、請求項1~7のいずれか一項記載の光硬化型歯科用組成物。
【請求項9】
歯科用組成物が、1種以上のラジカル重合性化合物に基づいて、0.05~5mol% 光開始剤化合物を含む、請求項1~8のいずれか一項記載の光硬化型歯科用組成物。
【請求項10】
共開始剤化合物が、2つ以上のパートの歯科用組成物の固体パート又は1つ以上のパートの歯科用組成物のpH6~8を有する流体パートに収容されている、請求項1~9のいずれか一項記載の光硬化型歯科用組成物。
【請求項11】
光硬化型歯科用組成物が、歯科用複合材、歯科用ガラスアイオノマーセメント、歯科用セメント及び歯科用印象材料からなる群より選択される、請求項1~10のいずれか一項記載の光硬化型歯科用組成物。
【請求項12】
さらに、更なる共開始剤として、追加の電子供与体(iii)を含む、請求項1~11のいずれか一項記載の光硬化型歯科用組成物。
【請求項13】
光硬化型歯科用組成物における、
(i)300~800nmの範囲に光吸収極大を有する光開始剤化合物
であって、1,2-ジケトンである光開始剤化合物と、
(ii)共開始剤化合物とを含有し、
ここで、該共開始剤化合物は、下記式(I):
(R-SO
x
-)
yM
y+ (I)
[式中、
Rは、
芳香族又は脂肪族有機部分を表わし、
M
y+は、
歯科用組成物に適したカチオンであ
って、
アルカリ金属、アルカリ土類金属、又は下記式(II):
R
1
-I
+
-R
2
(II)
[式中、R
1
及びR
2
は、それぞれ独立して、1~6個の炭素原子を有する1つ以上の直鎖もしくは分岐鎖アルコキシ基により置換されていてもよいフェニル基を表わす]
で示されるヨードニウムイオンであり、
xは、2又は3であり、
yは、1~4の整数であ
る。]
で示されるスルフィナート化合物又はスルホナート化合物である、
重合開始剤系の使用。
【請求項14】
共開始剤化合物は、式(I)において、xが2であり、Rが芳香族又は脂肪族有機部分を表わし、式(II)において、R
1
及びR
2
がフェニル基を表わすスルフィナート化合物である、請求項13記載の使用。
【請求項15】
共開始剤化合物は、式(I)において、xが3であり、Rが芳香族又は脂肪族有機部分を表わし、式(II)において、R
1
及びR
2
が、それぞれ独立して、1~6個の炭素原子を有する直鎖もしくは分岐鎖アルコキシ基により置換されていてもよいフェニル基を表わすスルホナート化合物である、請求項13記載の使用。
【請求項16】
光開始剤化合物が、カンファーキノン、ベンジル、2,3-ブタンジオン、2,3-ペンタンジオン、2,3-ヘキサンジオン、3,4-ヘキサンジオン、2,3-ヘプタンジオン、3,4-ヘプタンジオン、2,3-オクタンジオン、4,5-オクタンジオンフリル、ビアセチル、1,2-シクロヘキサンジオン、1,2-ナフタキノン及びアセナフタキノンからなる群より選択される1,2-ジケトンである、請求項13~15のいずれか一項記載の使用。
【請求項17】
光硬化型歯科用組成物が、歯科用複合材、歯科用ガラスアイオノマーセメント、歯科用セメント及び歯科用印象材料からなる群より選択される、請求項13~16のいずれか一項記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、光開始剤化合物と特定のスルフィナート又はスルホナート共開始剤との組み合わせを含有する特定の重合開始剤系を含む、光硬化性歯科用組成物に関する。また、本発明は、光硬化性歯科用組成物における重合開始剤系の使用に関する。本発明の特定の重合開始剤系は、酸性媒体中で高い安定性を有する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
スルフィナート化合物を含有する重合性組成物は、EP-A第0408357号、US-A第2005/070624号、EP-A第0237233号及びUS-A第2009/137697号から公知である。
【0003】
歯の修復には、一般的に、フリーラジカル及び/又はカチオン重合性樹脂を含有する光硬化性歯科用組成物が関与する。フリーラジカル重合性樹脂を含有する歯科用組成物の光硬化には、可視光に露光されると、フリーラジカルを生成する光開始剤系が関与する。フリーラジカルは、典型的には、2つの経路:
(1)光開始剤化合物がエネルギー吸収による励起を受け、続いてその化合物の1種以上のラジカルへの分解を伴う(NorrishタイプI)又は
(2)光開始剤化合物が励起を受け、その励起された光開始剤化合物が、エネルギー移動又は酸化還元反応のいずれかにより、第2の化合物と相互作用して、それらの化合物のどちらかからフリーラジカルを形成する(NorrishタイプII)、
のいずれかにより生成することができる。
【0004】
歯科用組成物に使用するのに有用な光開始剤について、光放射線のラジカル形成への変換を示す量子収率は、高い必要がある。歯科用組成物の更なる成分による光の吸収又は遮蔽により、光開始剤による吸収に利用可能なエネルギーの量が制限されるためである。したがって、典型的な歯科用組成物の重合では、重合性基の約70%の変換しか期待することができないため、重合した歯科用組成物の機械的強度は最適ではなく、未反応モノマーが、重合した歯科用組成物から浸出する場合がある。浸出モノマーは、有害な影響を有する場合がある。この問題を軽減するために、ポリマーネットワーク中に含まれやすい多官能性モノマーがしばしば使用される。
【0005】
加えて、光開始剤には、歯科用組成物に包含される場合、高い耐酸性、溶解性、熱安定性及び貯蔵安定性が要求されている。
【0006】
最後に、歯科用組成物は、通常、(メタ)アクリラート又は(メタ)アクリルアミドモノマーを含有することを考えると、フリーラジカル光硬化は、酸素の存在により阻害される場合がある。酸素阻害は、増殖していくラジカルと酸素分子とが素早く反応して、ペルオキシルラジカルを生じることによる。ペルオキシルラジカルは、炭素-炭素不飽和二重結合に対してそれほど反応性ではないため、いかなる光重合反応も開始せず又は関与しない。酸素阻害により、早すぎる連鎖停止、したがって、不完全な光硬化がもたらされる場合がある。それにもかかわらず、接着剤層の上面におけるある程度の酸素阻害は、隣接する修復剤への結合に必要である。
【0007】
したがって、光開始剤系は、歯科材料の品質に重大な影響を及ぼす。従来から、カンファーキノンが、任意選択的に、第三級アミン又は2、4、6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィナートと組み合わせて(Irgacure(登録商標)TPO)、光開始剤系として頻繁に使用されている。しかしながら、アクリラート含有組成物中のアミンの存在により、得られる光硬化組成物に黄変が生じ、望ましくない臭気が発生し、連鎖移動反応のために硬化した組成物が軟化してしまう場合があるため、多くの場合、安定剤を使用する必要がある。さらに、芳香族アミンの使用により、毒物学的懸念が生じる。
【0008】
さらに、光開始剤系の光活性化は、患者の口内での歯科用組成物の重合の間に軟組織の損傷を回避するために、十分に長い波長で開始することができることが望ましい。したがって、光開始剤系は、400~800nmの範囲の所望の波長の光を効率的に吸収する発色団を含有する必要がある。しかしながら、光開始剤系の吸収係数の上昇により、光開始剤系の着色が強くなり、それにより、光硬化前の歯科用組成物の着色が強くなる。したがって、重合後の歯科用組成物中で開始剤系の着色が消失するように、発色団が、重合中に効率的に分解されること、いわゆる、「光漂白」が必要である。また、重合中の発色団が分解すると、未重合層を覆う既重合層中に存在する光開始剤系により、活性化光が歯科用組成物の未重合層から遮蔽されないので、歯科用組成物の硬化の深さを向上させるのにも有用であろう。
【0009】
従来の光硬化性歯科用組成物において、典型的には、有機ホスフィン化合物が、例えば、US第3534122A号、US第5,545,676A号、WO第1999062460A1号及びWO第2017/017155A1号に開示されているように、共開始剤として含有される。
【0010】
スルフィナート化合物は、典型的には、例えば、EP第1938781A1号、EP第1502569A1号、US第20060247330A1号及びUS第20030018098A1号に開示されているように、酸化還元硬化性歯科用組成物中の還元剤として使用される。
【0011】
しかしながら、これまで、スルフィナート化合物又はスルホナート化合物は、光硬化性歯科用組成物中における共開始剤として使用されていなかった。
【0012】
スルフィナート化合物は、樹脂マトリックス中における塩の溶解性又は分散性を提供するカチオンを必要とする塩である。樹脂マトリックスの疎水性を考慮すると、適切なカチオンは、高い分子量を有する。カチオンは、ポリマーネットワークに組み込まれないであろうため、硬化後の歯科用組成物は、相当量の浸出性共開始剤由来カチオンを含有するであろうし、このカチオンにより、毒物学的懸念が生じる場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
発明の概要
1種以上のラジカル重合性化合物を含み、酸性媒体中での改善された安定性、高い変換率を含む高い重合効率及び組成物の適切な作業時間を提供するのに適合し得る良好な硬化速度を提供し、一方で、着色の問題が存在しない光硬化性歯科用組成物を提供することが本発明の課題である。さらに、好ましくは、浸出の問題も、低減され又は回避されるべきである。
【0014】
さらに、光硬化性歯科用組成物中における特定の重合開始剤系の使用を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、
(a)1種以上の重合性化合物と、
(b)(i)300~800nmの範囲に光吸収極大を有する光開始剤化合物及び
(ii)共開始剤化合物を含有する重合開始剤系と
を含み、
ここで、前記共開始剤化合物は、下記式(I):
(R-SOx
-)yMy+ (I)
[式中、
Rは、有機部分を表わし、
My+は、カチオンであり、
xは、2又は3であり、
yは、1~4の整数であり、
ただし、xが2である場合には、Mx+は、下記式(II):
R1-I+-R2 (II)
[式中、R1及びR2は、それぞれ独立に、有機部分を表わす]
で示されるヨードニウムイオンである]
で示されるスルフィナート化合物又はスルホナート化合物である、
光硬化性歯科用組成物を提供する。
【0016】
さらに、本発明は、光硬化性歯科用組成物における、
(i)300~800nmの範囲に光吸収極大を有する光開始剤化合物と、
(ii)共開始剤化合物と
を含有し、
ここで、前記共開始剤化合物は、下記式(I):
(R-SOx
-)yMy+ (I)
[式中、
Rは、有機部分を表わし、
My+は、カチオンであり、
xは、2又は3であり、
yは、1~4の整数であり、
ただし、xが2である場合には、Mx+は、下記式(II):
R1-I+-R2 (II)
[式中、R1及びR2は、それぞれ独立に、有機部分を表わす]
で示されるヨードニウムイオンである]
で示されるスルフィナート化合物又はスルホナート化合物である、重合開始剤系の使用を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、驚くべきことに、本発明の式(I)のスルフィナート化合物又はスルホナート化合物が、光開始剤化合物(i)のための非常に効率的な共開始剤として作用するという認識に基づいている。それにより、重合開始剤系(ii)は、酸性媒体中での高い安定性、改善された重合効率、高い硬化速度を提供し、光硬化性歯科用組成物の着色問題が生じない。したがって、放射線への低減された暴露で大量の光硬化性歯科用組成物を光硬化させることができる。さらに、カチオン種の浸出は、適切なスルフィナート塩の選択により、好ましくは、低減し又は回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、光開始剤としてのカンファーキノンの存在下でのメタクリラート樹脂(ビスGMA/TEGDMA/メタクリル酸:63/27/10%w/w)の光重合プロファイルを示す(大気下;厚み=1.4mm;Smartlite Focus 300mW・cm
-2):(1)CQ/亜鉛イソプロピルスルフィナート(0.5/1%w/w)、(2)CQ/亜鉛イソプロピルスルフィナート/Iod(0.5/1/1%w/w)、(3)CQ/EDB(0.5/1%w/w)、(4)CQ(0.5%)。照射は、t=5秒の時点で開始する。
【
図2】
図2は、光開始剤としてのカンファーキノンの存在下でのメタクリラート樹脂(ビスGMA/TEGDMA:70/30%w/w又はビスGDMA/TEGDMA/2-ヒドロキシエチルメタクリラート:63/27/10%w/w又はビスGMA/TEGDMA/メタクリル酸:63/27/10%w/w)の光重合プロファイルを示す(大気下;厚み=1.4mm;Smartlite Focus 300mW・cm
-2):(1)ビスGMA/TEGDMA(70/30%w/w)中のCQ/MeSP/Iod(0.5/1/1%w/w)、(2)2-ヒドロキシエチルメタクリラート/ビスGMA/TEGDMA(10/63/27%w/w)中のCQ/MeSP/Iod(0.5/1/1%w/w)、(3)メタクリル酸/ビスGMA/TEGDMA(10/63/27%w/w)中のCQ/MeSP/Iod(0.5/1/1%w/w)、(4)ビスGMA/TEGDMA(70/30%w/w)中のCQ/EDB(0.5/1%w/w)。照射は、t=5秒の時点で開始する。
【
図3】
図3は、(1)PI(1%w)、(2)PI/スルフィナート(1/1%w/w)、(3)PI/EDB(1/1%w/w)、(4)PI/スルフィナート/Iod(1/1/1%w/w)の存在下、Smartlite Focus(300mW・cm
-2)への露光下でのメタクリラート官能基(メタクリル酸/ビスGMA/TEGDMA:10/63/27%w/w)の光重合プロファイルを示す;サンプル厚み=1.4mm;大気下;(A)PI=CQ、(B)PI=PPD。PI=光開始剤。
【
図4】
図4は、光開始剤としてのカンファーキノンの存在下でのメタクリラート官能基(ビスGMA/TEGDMA:70/30%w/w)の光重合プロファイルを示す(大気下;厚み=1.4mm;Smartlite Focus 300mW・cm
-2):(1)CQ/EDB(0.5/1%w/w)、(2)CQ/ブチルナフタレンスルフィナート/Iod(0.5/1/1%w/w)。照射は、t=5秒の時点で開始する。
【
図5】
図5は、光開始剤としてのカンファーキノンの存在下でのメタクリラート官能基(ビスGMA/TEGDMA:70/30%w/w又はビスGMA/TEGDMA/2-ヒドロキシエチルメタクリラート:63/27/10%w/w又はビスGMA/TEGDMA/メタクリル酸:63/27/10%w/w)の光重合プロファイルを示す(大気下;厚み=1.4mm;Smartlite Focus 300mW.cm
-2):(1)ビスGMA/TEGDMA(70/30%w/w)中のCQ/AcABS/Iod(0.5/1/1%w/w)、(2)2-ヒドロキシエチルメタクリラート/ビスGMA/TEGDMA(10/63/27%w/w)中のCQ/AcABS/Iod(0.5/1/1%w/w)、(3)メタクリル酸/ビスGMA/TEGDMA(10/63/27%w/w)中のCQ/AcABS/Iod(0.5/1/1%w/w)、(4)ビスGMA/TEGDMA(70/30%w/w)中のCQ/EDB(0.5/1%w/w)。照射は、t=5秒の時点で開始する。
【
図6】
図6は、重合前後のサンプルの写真を示す(大気下;厚み=1.4mm;Smartlite Focus(300mW.cm
-2);照射115秒):(1)メタクリル酸/ビスGMA/TEGDMA(10/63/27%w/w)中のCQ/亜鉛イソプロピルスルフィナート/Iod(0.5/1/1%w/w)、(2)メタクリル酸/ビスGMA/TEGDMA(10/63/27%w/w)中のCQ/MeSP/Iod(0.5/1/1%w/w)、(3)ビスGMA/TEGDMA(70/30%w/w)中のCQ/ブチルナフタレンスルフィナート/Iod(0.5/1/1%w/w)。
【
図7】
図7は、光開始剤としてのカンファーキノンの存在下でのメタクリラート樹脂(ビスGMA/TEGDMA:70/30%w/w又はビスGMA/TEGDMA/2-ヒドロキシエチルメタクリラート:63/27/10%w/w又はビスGMA/TEGDMA/メタクリル酸:63/27/10%w/w)の光重合プロファイルを示す(大気下;厚み=1.4mm;Smartlite Focus 300mW・cm
-2):(1)2-ヒドロキシエチルメタクリラート/ビスGMA/TEGDMA(10/63/27%w/w)中のCQ/ヨードニウムスルフィナート(0.5/1%w/w)、(2)ビスGMA/TEGDMA(70/30%w/w)中のCQ/ヨードニウムスルフィナート(0.5/1%w/w)、(3)メタクリル酸/ビスGMA/TEGDMA(10/63/27%w/w)中のCQ/ヨードニウムスルフィナート(0.5/1%w/w)、(4)ビスGMA/TEGDMA(70/30%w/w)中のCQ/EDB(0.5/1%)、(5)メタクリル酸/ビスGMA/TEGDMA(10/63/27%w/w)中のCQ(0.5%w)。照射は、t=5秒の時点で開始する。
【
図8】
図8は、重合前後のサンプルの写真を示す(大気下;厚み=1.4mm;Smartlite Focus(300mW.cm
-2);照射115秒):(1)2-ヒドロキシエチルメタクリラート/ビスGMA/TEGDMA(10/63/27%w/w)中のCQ/ヨードニウムスルフィナート(0.5/1%w/w)、(2)ビスGMA/TEGDMA(70/30%w/w)中のCQ/ヨードニウムスルフィナート(0.5/1%w/w)、(3)メタクリル酸/ビスGMA/TEGDMA(10/63/27%w/w)中のCQ/ヨードニウムスルフィナート(0.5/1%w/w)、(4)ビスGMA/TEGDMA(70/30%w/w)中のCQ/EDB(0.5/1%w/w)。
【
図9】
図9は、光開始剤としてのカンファーキノンの存在下でのメタクリラート樹脂(ビスGMA-TEGDMA又はビスGMA-TEGDMA/2-ヒドロキシエチルメタクリラート:90/10%w/w又はビスGMA-TEGDMA/メタクリル酸:90/10%w/w)の光重合プロファイルを示す(大気下;厚み=1.4mm;Smartlite Focus 300mW.cm
-2):(1)ビスGMA/TEGDMA(70/30%w/w)中のCQ/p-トルエンスルホナート/Iod(0.5/1/1%w/w);(2)2-ヒドロキシエチルメタクリラート/ビスGMA/TEGDMA(10/63/27%w/w)中のCQ/p-トルエンスルホナート/Iod(0.5/1/1%w/w);(3)メタクリル酸/ビスGMA/TEGDMA(10/63/27%w/w)中のCQ/p-トルエンスルホナート/Iod(0.5/1/1%w/w);(4)ビスGMA/TEGDMA(70/30%w/w)中のCQ/EDB(0.5/1%w/w)。照射は、t=5秒の時点で開始する。
【
図10】
図10は、光開始剤としてのカンファーキノンの存在下でのメタクリラート樹脂(ビスGMA-TEGDMA又はビスGMA-TEGDMA/2-ヒドロキシエチルメタクリラート:90/10%w/w)の光重合プロファイルを示す(大気下;厚み=1.4mm;Smartlite Focus(300mW・cm
-2):(1)ビスGMA/TEGDMA(70/30%w/w)中のCQ/ヨードニウムスルホナート(0.5/1%w/w);(2)2-ヒドロキシエチルメタクリラート/ビスGMA/TEGDMA(10/63/27%w/w)中のCQ/ヨードニウムスルホナート(0.5/1%w/w);(3)ビスGMA/TEGDMA(70/30%w/w)中のCQ/EDB(0.5/1%w/w)。照射は、t=5秒の時点で開始する。
【
図11】
図11は、重合前後のサンプルの写真を示す(大気下;厚み=1.4mm;Smartlite Focus(300mW・cm
-2);照射115秒)。CQ(0.5%w/w);Iod(1%w/w);スルホナート(1%w/w)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
好ましい実施態様の詳細な説明
「重合」又は「重合性」という用語は、多くのより小さい分子、例えば、ラジカル重合性又はカチオン重合性化合物の形態にあるモノマーを共有結合させることにより組み合わせて、より大きい分子、すなわち、高分子又はポリマーを形成することに関する。モノマーは、直鎖高分子のみを形成するように組み合わせることができ又はそれらは、架橋ポリマーと一般に呼ばれる三次元高分子を形成するよう組み合わせることができる。重合性モノマー変換率がより高い場合、多官能性モノマーの量を減少させることができ又は浸出の問題を軽減することができる。
【0020】
「光硬化性」という用語は、例えば、化学線、例えば、紫外線(UV)、可視光線又は赤外線で照射されると、架橋ポリマーネットワークにラジカル重合し及び/又はカチオン重合するであろう歯科用組成物をいう。「化学線」は、光化学作用を発生可能であり、少なくとも150nmであり、かつ1250nmを含んでそれ以下、典型的には、少なくとも300nmであり、かつ750nmを含んでそれ以下の波長を有することができる、あらゆる電磁線である。
【0021】
「ラジカル重合性」という用語を化合物(a)と接続して本明細書で使用する場合、ラジカル重合可能なあらゆる化合物を意味する。典型的には、化合物(a)は、重合性二重結合、好ましくは、1つ以上の炭素-炭素二重結合により、ラジカル重合可能である。重合性二重結合の例は、ビニル、共役ビニル、アリル、アクリル、メタクリル及びスチリルを含む。より好ましくは、重合性二重結合は、アクリル、メタクリル及びスチリルからなる群から選択される。アクリル及びメタクリルは、(メタ)アクリロイル又は(メタ)アクリルアミドとすることができる。最も好ましくは、化合物(a)について、重合性二重結合は、アクリル又はメタクリルである。
【0022】
「カチオン重合性」という用語は化合物(a)と接続して本明細書で使用する場合、カチオン重合可能なあらゆる化合物を意味する。典型的には、化合物(a)は、炭素-炭素二重結合を有する官能基、例えば、ビニルエーテル基の存在によりカチオン重合可能である。
【0023】
「重合開始剤系」という用語は、(i)光開始剤化合物及び(ii)共開始剤化合物を含む系をいう。任意選択的に、重合開始剤系は、さらに、(iii)電子供与体を含むことができる。
【0024】
化合物(i)と接続して使用される「光開始剤」という用語は、例えば、光化学過程において、典型的には、光への露光又は別の化合物、例えば、共開始剤化合物(ii)及び/もしくは電子供与体(iii)との相互作用によって、フリーラジカルを形成することにより活性化される化合物をいう。
【0025】
本明細書で使用する場合、「電子供与体」という用語は、光化学過程において、電子を供与が可能な化合物を意味する。適切な例には、例えば、非共有電子対を有するヘテロ原子を有する有機化合物、例えば、アミン化合物又はGe、Si及びSnの有機ヒドリドが含まれる。好ましい電子供与体は、Ge、Si及びSnの有機ヒドリドである。
【0026】
本発明は、光硬化性歯科用組成物に関する。光硬化性歯科用組成物は、歯科用複合材、歯科用ガラスアイオノマーセメント、歯科用セメント又は歯科用印象材とすることができる。
【0027】
重合性化合物(a)
光硬化性歯科用組成物は、(a)1種以上の重合性化合物を含む。該化合物は、ラジカル重合性又はカチオン重合性とすることができる。
【0028】
前記1種以上のラジカル重合性化合物(a)は、好ましくは、ラジカル重合性N置換アルキルアクリル又はアクリル酸アミドモノマー又は(メタ)アクリラート化合物とすることができる。
【0029】
ラジカル重合性N置換アルキルアクリル又はアクリル酸アミドモノマーは、好ましくは、下記式(X)、(XI)及び(XII):
【化1】
のうちの1つにより特徴付けられる化合物から選択することができる。
【0030】
式(X)、(XI)及び(XII)において、R20、R21及びR22は、独立に、水素原子又はC1~C8アルキル基を表わし、Aは、1~10個の炭素原子を有する二価の置換又は非置換有機残基を表わし、ここで、前記有機残基は、1~3つの酸素及び/又は窒素原子を含有することができ、Zは、飽和で少なくとも三価の置換又は非置換C1~C8炭化水素基を表わし、飽和で少なくとも三価の置換又は非置換環状C3~C8炭化水素基を表わし、nは、少なくとも3である。
【0031】
好ましくは、前記1種以上のラジカル重合性化合物(a)は、ビスアクリルアミド、例えば、N,N’-ジエチル-1,3-ビスアクリルアミド-プロパン(BADEP)、1,3-ビスアクリルアミド-プロパン(BAP)、1,3-ビスアクリルアミド-2-エチル-プロパン(BAPEN)、N,N’-(2E)-2-ブテン-1,4-ジイルビス[N-2-プロペン-1-イル-2-プロペンアミド](BAABE)、N,N-ジ(シクロプロピルアクリルアミド)プロパン(BCPBAP)及びN,N’-(2-ヒドロキシ-1,3-プロパンジイル)ビス[N-2-プロペン-1-イル-2-プロペンアミド](DAAHP)を含む。
【0032】
代替的に又は付加的に、前記1種以上のラジカル重合性化合物(a)について、(メタ)アクリラート化合物は、メチルアクリラート、メチルメタクリラート、エチルアクリラート、エチルメタクリラート、プロピルアクリラート、プロピルメタクリラート、イソプロピルアクリラート、イソプロピルメタクリラート、2-ヒドロキシエチルアクリラート、2-ヒドロキシエチルメタクリラート(HEMA)、ヒドロキシプロピルアクリラート、ヒドロキシプロピルメタクリラート、テトラヒドロフルフリルアクリラート、テトラヒドロフルフリルメタクリラート、グリシジルアクリラート、グリシジルメタクリラート、ビス-フェノールAのジグリシジルメタクリラート(「ビス-GMA」)、グリセロールモノ-及びジ-アクリラート、グリセロールモノ-及びジ-メタクリラート、エチレングリコールジアクリラート、エチレングリコールジメタクリラート、ポリエチレングリコールジアクリラート(ここで、繰り返しエチレンオキシド単位の数は、2~30で変動する)、ポリエチレングリコールジメタクリラート(ここで、繰り返しエチレンオキシド単位の数は、2~30で変動する)、特に、トリエチレングリコールジメタクリラート「TEGDMA」)、ネオペンチルグリコールジアクリラート、ネオペンチルグリコールジメタクリラート、トリメチロールプロパントリアクリラート、トリメチロールプロパントリメタクリラート、ペンタエリスリトール及びジペンタエリスリトールのモノ-、ジ-、トリ-及びテトラ-アクリラート及びメタクリラート、1,3-ブタンジオールジアクリラート、1,3-ブタンジオールジメタクリラート、1,4-ブタンジオールジアクリラート、1,4-ブタンジオールジメタクリラート、1,6-ヘキサンジオールジアクリラート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリラート、ジ-2-メタクリロイルオキシエチルヘキサメチレンジカルバマート、ジ-2-メタクリロイルオキシエチルトリメチルヘキサメチレンジカルバマート、ジ-2-メタクリロイルオキシエチルジメチルベンゼンジカルバマート、メチレン-ビス-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバマート、ジ-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバマート、メチレン-ビス-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバマート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-トリメチルヘキサメチレンジカルバマート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルベンゼンジカルバマート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバマート、メチレン-ビス-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバマート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ヘキサメチレンジカルバマート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-トリメチルヘキサメチレンジカルバマート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルベンゼンジカルバマート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバマート、メチレン-ビス-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバマート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-ヘキサメチレンジカルバマート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-トリメチルヘキサメチレンジカルバマート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルベンゼンジカルバマート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバマート、メチレン-ビス-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバマート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ヘキサメチレンジカルバマート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-トリメチルヘキサメチレンジカルバマート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルベンゼンジカルバマート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバマート、メチレン-ビス-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバマート、2,2’-ビス(4-メタクリルオキシフェニル)プロパン、2,2’ビス(4-アクリルオキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス[4(2-ヒドロキシ-3-メタクリルオキシ-フェニル)]プロパン、2,2’-ビス[4(2-ヒドロキシ-3-アクリルオキシ-フェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-メタクリルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-アクリルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-メタクリルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-アクリルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-メタクリルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-アクリルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス[3(4-フェノキシ)-2-ヒドロキシプロパン-1-メタクリラート]プロパン及び2,2’-ビス[3(4-フェノキシ)-2-ヒドロキシプロパン-1-アクリラート]プロパンからなる群を挙げることができ、当該群より選択することができる。ラジカル重合性成分の他の適切な例は、イソプロペニルオキサゾリン、ビニルアザラクトン、ビニルピロリドン、スチレン、ジビニルベンゼン、ウレタンアクリラート又はメタクリラート、エポキシアクリラート又はメタクリラート及びポリオールアクリラート又はメタクリラートである。
【0033】
好ましくは、前記1種以上のラジカル重合性化合物(a)は、1つ又は2つのラジカル重合性基、より好ましくは、2つのラジカル重合性基、例えば、ビスアクリルアミド、例えば、BADEP、BAP、BAPEN、BAABE、BCPBAP及びDAAHPを含有する。
【0034】
光硬化性歯科用組成物全体に対する前記1種以上のラジカル重合性化合物(a)の配合割合は、5~80重量%であるのが好ましい。より好ましくは、配合割合は、10~60重量%である。
【0035】
適切なカチオン重合性化合物は、ビニルエーテル化合物から選択することができる。
【0036】
重合開始剤系(b)
光硬化性歯科用組成物は、さらに、重合開始剤系(b)を含む。
【0037】
重合開始剤系(b)は、(i)300~800nm、特に、350~500nmの範囲に光吸収極大を有する光開始剤化合物を含む。重合開始剤系(b)は、(i)1種の光開始剤化合物又は2種以上の光開始剤化合物の混合物を含むことができる。
【0038】
適切な1,2-ジケトン光開始剤化合物(i)は、カンファーキノン、ベンジル、2,2’-3,3’-及び4,4’-ジヒドロキシルベンジル、2,3-ブタンジオン、2,3-ペンタンジオン、2,3-ヘキサンジオン、3,4-ヘキサンジオン、2,3-ヘプタンジオン、3,4-ヘプタンジオン、2,3-オクタンジオン、4,5-オクタンジオンフリル、ビアセチル、1,2-シクロヘキサンジオン、1,2-ナフタキノン及びアセナフタキノンからなる群より選択することができる。カンファーキノンが好ましい。
【0039】
代替的に又は付加的に、光開始剤化合物(i)は、下記式(V)を有するSi-又はGe-アシル化合物から選択することができ、
X-R
9
(V)
[式中、
Xは、下記式(VI)の基であり、
【化2】
[式中、
M
*は、Si又はGeであり、
R
10は、置換もしくは非置換のヒドロカルビル又はヒドロカルビルカルボニル基を表わし、
R
11は、置換もしくは非置換のヒドロカルビル又はヒドロカルビルカルボニル基を表わし、
R
12は、置換又は非置換ヒドロカルビル基を表わし、
R
9は、i)Xと同じ意味を有し、その結果、式(V)の化合物は、対称又は非対称であることができ又は
ii)下記式(VII)の基である:
【化3】
[式中、
Yは、単結合、酸素原子又は基NR’(式中、R’は、置換又は非置換のヒドロカルビル基を表わす)を表わし、
R
13は、置換又は非置換のヒドロカルビル基、トリヒドロカルビルシリル基、モノ(ヒドロカルビル-カルボニル)ジヒドロカルビルシリル基又はジ(ヒドロカルビル-カルボニル)モノ-ヒドロカルビルシリル基を表わす]
【0040】
驚くべきことに、式(V)のSi-又はGe-アシル化合物は、歯科用組成物に特に適した1,2-ジケトン光開始剤を表わすことが見出された。式(V)の化合物を用いると、高い重合効率が達成され、着色の問題が生じず又は従来の光開始剤、例えば、カンファーキノンを含む重合系において、着色が効率的に抑制される。さらに、式(V)の化合物は、歯科用途に典型的に適用される波長範囲内の光吸収を有し、歯科組成物の成分と適合性であり、さらに、生理学的に無害であると考えられる。
【0041】
したがって、重合開始剤系(b)において、式(V)のSi-又はGe-アシル化合物は、1,2-ジケトン光開始剤化合物(i)として特に好ましい。
【0042】
「置換されている」という用語は、式(V)のSi-又はGe-アシル化合物と接続して本明細書で使用する場合、R10、R11、R12、R13及びR’が、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、及び-NRxRy基(式中、Rx及びRyは、それぞれ独立に、C1-6アルキル基を表わす)からなる群より選択される置換基により置換されていてもよいことを意味する。ここで、ハロゲン原子の例示は、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素とすることができる。C1-6アルキル基は、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル及びn-ブチルである。C1-6アルコキシ基の例示は、例えば、メトキシ、エトキシ及びプロポキシである。これらの置換基におけるアルキル部分は、直鎖、分岐鎖又は環状とすることができる。好ましくは、置換基は、塩素原子、ニトロ基、C1-4アルコキシ基及び-NRxRy基(式中、Rx及びRyは、それぞれ独立に、C1-4アルキル基を表わす)から選択される。
【0043】
R10、R11及びR12が置換されている場合には、それらは、1~3つの置換基、より好ましくは、1つの置換基により置換されているのが好ましい。
【0044】
式(V)の化合物において、部分R10、R11及びR12は、下記のように定義することができる。
【0045】
R10及びR11は、それぞれ独立に、置換又は非置換ヒドロカルビル又はヒドロカルビルカルボニル基を表わし、R12は、置換又は非置換ヒドロカルビル基を表わす。
【0046】
ヒドロカルビル基は、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アリールアルキル基又はアリール基とすることができる。
【0047】
アルキル基は、直鎖又は分岐鎖C1-20アルキル基、典型的には、C1-8アルキル基とすることができる。C1-6アルキル基の例は、1~6個の炭素原子、好ましくは、1~4個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖アルキル基、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル及びn-ヘキシルを含むことができる。
【0048】
シクロアルキル基は、C3-20シクロアルキル基、典型的には、C3-8シクロアルキル基とすることができる。シクロアルキル基の例は、3~6個の炭素原子を有するもの、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル及びシクロヘキシルを含むことができる。
【0049】
シクロアルキルアルキル基は、4~20個の炭素原子を有することができ、1~6個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖アルキル基と、3~14個の炭素原子を有するシクロアルキル基との組み合わせを含むことができる。シクロアルキルアルキル(-)基の例は、例えば、メチルシクロプロピル(-)、メチルシクロブチル(-)、メチルシクロペンチル(-)、メチルシクロヘキシル(-)、エチルシクロプロピル(-)、エチルシクロブチル(-)、エチルシクロペンチル(-)、エチルシクロヘキシル(-)、プロピルシクロプロピル(-)、プロピルシクロブチル(-)、プロピルシクロペンチル(-)、プロピルシクロヘキシル(-)を含むことができる。
【0050】
アリールアルキル(-)基は、C7-20アリールアルキル(-)基、典型的には、1~6個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖アルキル基と、6~10個の炭素原子を有するアリール(-)基との組み合わせとすることができる。アリールアルキル(-)基の具体例は、ベンジル(-)基又はフェニルエチル(-)基である。
【0051】
アリール基は、6~10個の炭素原子を有するアリール基を含むことができる。アリール基の例は、フェニル及びナフチルである。
【0052】
R10及びR11のヒドロカルビルカルボニル基は、アシル基(Rorg-(C=O)-(式中、有機残基Rorgは、上に定義されたとおりのヒドロカルビル残基である))を表わす。
【0053】
式(V)の化合物は、1つ又は2つのヒドロカルビルカルボニル基を含有することができる。すなわち、R10又はR11のいずれか一方が、ヒドロカルビルカルボニル基であるか又はR10及びR11の両方が、ヒドロカルビルカルボニル基である。好ましくは、式(V)の化合物は、1つのヒドロカルビルカルボニル基を含有する。
【0054】
好ましくは、ヒドロカルビルカルボニル基は、アリールカルボニル基であり、より好ましくは、ベンゾイル基である。
【0055】
好ましくは、R10及びR11は、ハロゲン原子、ニトロ基、C1-4アルコキシ基及び-NRxRy基(式中、Rx及びRy基は、それぞれ独立に、C1-4アルキル基を表わす)から選択される1~3つの置換基により任意選択的に置換されていてもよい、直鎖又は分岐鎖C1-6アルキル基及びフェニル又はベンゾイル基からなる群より独立に選択され、R12は、直鎖又は分岐鎖C1-6アルキル基又はフェニル基である。
【0056】
最も好ましくは、R10及びR11は、ハロゲン原子、ニトロ基、C1-4アルコキシ基及び-NRxRy基(式中、Rx及びRy基は、それぞれ独立に、C1-4アルキル基を表わす)からなる群より選択される1つの置換基により任意選択的に置換されていてもよい、直鎖又は分岐鎖C1-4アルキル基及びフェニル又はベンゾイル基からなる群より独立に選択され、R12は、直鎖又は分岐鎖C1-4アルキル基である。
【0057】
式(V)の化合物において、R9は、Xと同じ意味を有することができるため、式(V)の化合物は、対称又は非対称とすることができる。代替的には、R9は、置換もしくは非置換ヒドロカルビル基又は式(VII)の基を表わすことができる。好ましくは、R9が、Xと同じ意味を有する場合には、式(V)の化合物は非対称である。R9が、置換又は非置換ヒドロカルビル基を表わす場合には、ヒドロカルビル基は、R10について上に定義されたのと同じ意味を有し、その中から独立に選択される。
【0058】
式(V)の化合物の式(VII)の基において、R13は、置換又は非置換ヒドロカルビル基、トリヒドロカルビルシリル基、モノ(ヒドロカルビルカルボニル)-ジヒドロカルビルシリル基又はジ(ヒドロカルビルカルボニル)モノヒドロカルビルシリル基を表わす。
【0059】
式(VII)のR13が、トリヒドロカルビルシリル基、モノ(ヒドロカルビルカルボニル)-ジヒドロカルビルシリル基又はジ(ヒドロカルビルカルボニル)モノヒドロカルビルシリル基である場合、ヒドロカルビル基及びヒドロカルビルカルボニル基の各々は、R10、R11及びR12について定義されたのと同じ意味を有し、その中から独立に選択される。
【0060】
式(VII)において、R’は、R12について定義されたのと同じ意味を有し、その中から独立に選択される。
【0061】
例えば、R
9がXと同じ意味を有し、対称である式(V)の化合物は、下記構造式:
【化4】
を有することができる。
【0062】
例えば、R
9が式(VII)(式中、Yは、結合、酸素原子又はNR’基であり、R
13は、置換又は非置換ヒドロカルビル基を表わす)の基を表わす式(V)の化合物は、下記構造式:
【化5】
を有することができる。
【0063】
例えば、R
9が式(VII)(式中、R
13は、トリヒドロカルビルシリル基を表わす)の基を表わす式(V)の化合物は、下記構造式:
【化6】
を有する。
【0064】
好ましくは、式(V)の化合物は、
【化7】
[式中、M
*=Siを有する式(V)の化合物が特に好ましい]
からなる群より選択される。
【0065】
より好ましくは、式(V)の化合物は、下記構造式:
【化8】
[式中、M
*=Siが特に好ましい。すなわち、tert-ブチル(tert-ブチルジメチルシリル)-グリオキシラート(DKSi)が特に好ましい]
を有する。
【0066】
光硬化性歯科用組成物が、酸性組成物の形態にある場合、すなわち、組成物のpHレベルにより、7未満のpHを有する組成物である場合、エステル基を含有しないか又は少なくとも1か月以内に室温でpH3の水性媒体中で顕著に加水分解しないエステル基のみを含有する場合に限り、式(V)の化合物を選択するのが好ましい。それにより、未硬化光硬化性歯科組成物の貯蔵安定性のみならず患者の口内での硬化後の安定性の点で、酸性の光硬化性歯科組成物、すなわち、7未満のpHを有する組成物の有利な安定性が確保される。したがって、酸性の光硬化性歯科用組成物について、特に好ましいのは、R9が式(VII)の基であり、Yが酸素原子である場合を除き、式(V)の化合物である。
【0067】
さらに、アシルシリル部分(-C(=O)-Si-)は、塩基性条件、すなわち、7より高いpHに感受性である場合があるため、アシルシリル部分が、1か月以内に室温で、選択された塩基性pHの水性媒体中において開裂されない限りで、7より高い組成物のpH値を適切に選択することが好ましい。
【0068】
式(V)の化合物は、市販されている公知の化合物であってもよく、又は公開されている手順に従って調製することもできる。
【0069】
式(V)(式中、R9が式(VII)(式中、Yは、酸素原子であり、R13は、ヒドロカルビル基を表わす)の基を表わす)の化合物は、例えば、Nicewicz D.A.et al.によりOrg.Synth.,2008,85,pages 278 to 286に記載されているような3工程合成により調製することができる。この3工程合成では、アセトアセタートをアジド化合物に変換し、ついで、トリヒドロカルビルシリルトリフルオロメタン-スルホナートと反応させて、トリヒドロカルビルシリルジアゾアセタートを得る。最後に、これをペルオキシモノ硫酸カリウムと反応させて、ターゲット化合物に到達させる。
【0070】
【0071】
スキーム1では、式(V)(式中、式(V)のXにおいて、R10及びR11は、メチル基を表わし、R12は、tert-ブチル基を表わす)の化合物を得るための反応を例示する。R10、R11及びR12は、t-BuMeSiOSO2CF3以外のトリヒドロカルビルシリルトリフルオロメタン-スルホナートを適用することにより変更することができると理解される。代替的には、式(V)(式中、M*は、Siであり、R9は、式(VII)の基を表わし、Yは、酸素原子を表わす)の化合物は、Nicewicz D.A.がJ.Am.Chem.Soc.,2005,127(17),pages 6170 to 6171に記載しているとおりに、ZnI2及びEt3Nの存在下で、シリルグリオキシラート、末端アルキン及びアルデヒドのシングルポット3成分カップリング反応により調製することができる。シリルグリオキシラート化合物の更なる合成は、例えば、Boyce G.R.et al.によりJ.Org.Chem.,2012,77(10),pages 4503 to 4515に、Boyce G.R.et al.によりOrg.Lett.,2012,14(2),pages 652 to 655に記載されている。
【0072】
例えば、式(V)の下記化合物が公知であり、市販されている。それらのChemical Abstracts(CAS)No.を丸括弧内に示す:ベンゾイルトリフェニルシラン(1171-49-9)、ベンゾイルトリメチルシラン(5908-41-8)、1-[(トリメチルシリル)カルボニル]-ナフタレン(88313-80-8)、1-メトキシ-2-[(トリメチルシリル)-カルボニル]-ベンゼン(107325-71-3)、(4-クロロベンゾイル)(トリフェニル)シラン(1172-90-3)、(4-ニトロベンゾイル)(トリフェニル)シラン(1176-24-5)、(メチルジフェニルシリル)フェニル-メタノン(18666-54-1)、(4-メトキシベンゾイル)トリフェニルシラン(1174-56-7)及びtert-ブチル(tert-ブチルジメチルシリル)グリオキシラート(852447-17-7)。
【0073】
式(V)の全ての化合物は、式(VI)
【化10】
[式中、M
*、R
10、R
11及びR
12は、上に定義されたとおりである]
で示される基を含む。M
*の選択に応じて、式(VI)の基は、アシルシラン又はアシルゲルマン基を表わす。UV-VIS光に露光されると、M
*とアシル基との間の結合が開裂し、それにより、シリル/ゲルマニル及びアシルラジカルが、重合開始構造として形成されるが、ラジカルへの開裂と競合して、カルベン構造が形成される場合がある。
【0074】
【0075】
重合開始ラジカルの形成とカルベン形成とのこの競合は、アシルシランについて、El-Roz,M.et al.によりCurrent Trends in Polymer Science,2011,vol.15,pages 1 to 13に記載されている。
【0076】
また、R9が、Xと同じ意味を有するか又は式(VII)の基である、式(V)の化合物の場合、1,2-ジケトン部分(-C(=O)-C(=O)-)のC-C結合は、UV-VIS光に露光されると、2つのアシルラジカルに開裂することができる。この開裂は、R9が式(VII)の基であり、Yが酸素原子である、式(V)の化合物、すなわち、グリオキシラート((-O-C=O)-C(=O)-)化合物について例示的に示される。
【0077】
【0078】
また、式(V)の化合物において、R9が式(VII)の化合物であり、Yが酸素原子であり、R13が置換又は非置換ヒドロカルビル基である場合、ラジカル開裂の第3の可能性がある。すなわち、分子内又は分子間の水素引抜きが生じる場合がある。この場合、水素ラジカルが引き抜かれる。
【0079】
【0080】
ケイ素又はゲルマニウムを含有しない光開始剤、例えば、エチルフェニルグリオキシラート(Irgacure(登録商標)MBF)については、グリオキシラート基の開裂及び水素引抜きメカニズムの両方が知られている。
【0081】
式(V)で示され、R9がXと同じ意味を有するか又は式(VII)の基である化合物について、本発明者らは、分子モデリング計算を行い、その結果は、WO第2017/060459A1号に開示されている。これらの分子モデリング計算から、Si-C又はGe-C結合開裂を除外することができると考えられる。-C(=O)-C(=O)-部分のC-C結合は、Si-C又はGe-C結合よりも弱いためである。
【0082】
光開始剤化合物(i)は、カンファーキノン又はDKSiであるのが特に好ましい。
【0083】
好ましくは、光硬化性歯科用組成物は、前記1種以上のラジカル重合性化合物(a)に基づいて、0.05~5モル%の光開始剤化合物(i)を含む。
【0084】
光開始剤化合物(i)に加えて、重合開始剤系は、更なる光開始剤化合物を含むことができる。適切な更なる光開始剤化合物の例は、1,2-ジケトン、1,3-ジケトン又はホスフィンオキシドである。
【0085】
好ましい1,3-ジケトンは、例えば、ジベンゾイルメタン、ベンゾイルアセトン及びアセチルプロピオニルメタンである。
【0086】
適切なホスフィンオキシドの例は、2,4-6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキシド(Irgacure(登録商標)TPO)、2,4-6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィネート(Irgacure(登録商標)TPO-L、TPO-L)、ビス(2,4-6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド(Irgacure(登録商標)BAPO-X)を含む。
【0087】
光開始剤化合物(i)及び任意選択的な更なる光開始剤化合物に加えて、重合開始剤系(b)は、さらに、下記式(I)のスルフィナート化合物又はスルホナート化合物である共開始剤化合物(ii)を含有する。
(R-SOx
-)yMy+ (I)
[式中、
Rは、有機部分を表わし、
My+は、カチオンであり、
xは、2又は3であり、
yは、1~4の整数である]
【0088】
式(I)のスルフィナート化合物において、xは、2である。xが、2である場合には、Mx+は、下記式(II)のヨードニウムイオンである。
R1-I+-R2 (II)
[式中、R1及びR2は、それぞれ独立に、有機部分を表わす]
【0089】
式(I)のスルホナート化合物において、xは、3である。
【0090】
重合開始剤系(b)は、(ii)1種の共開始剤化合物又は2種以上の共開始剤化合物の混合物を含有することができる。
【0091】
好ましくは、式(I)のスルフィナート化合物において、Rは、芳香族又は脂肪族有機部分である。
【0092】
好ましい実施態様によれば、式(I)のスルフィナート化合物において、Rは、好ましくは、芳香族部分であり、より好ましくは、1~5個の置換基により置換されていてもよいフェニル又はナフチル基である。当該置換基は、同一又は異なっていてもよく、C1-6アルキル基、ヒドロキシル基、アミノ基、ハロゲン原子及びカルボキシル基から独立に選択される。
【0093】
代替的な好ましい一実施態様によれば、式(I)のスルフィナート化合物において、Rは、好ましくは、脂肪族部分であり、より好ましくは、同一又は異なっていてもよく、C1-6アルキル基、ヒドロキシル基、アミノ基、ハロゲン原子及びカルボキシル基から独立に選択される1~5個の置換基により置換されていてもよいフェニル又はナフチル基により置換されていてもよいC1-6アルキル基である。
【0094】
驚くべきことに、光開始剤化合物(i)と共開始剤化合物(ii)との組み合わせは、いずれの着色問題をもなくしつつ、組成物の好適な作業時間を提供するのに適合できる高い変換率及び良好な硬化速度を含む改善された重合効率を提供するという点で相乗効果を有する。
【0095】
式(I)のスルフィナート化合物又はスルホナート化合物において、My+は、歯科用組成物に適したあらゆるカチオン、例えば、金属カチオン、例えば、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属又は有機カチオン、例えば、ヨードニウムイオン、スルホニウムイオン又はホスホニウムイオンである。
【0096】
好ましくは、My+は、
(1)下記式(II)のヨードニウムイオン、
R1-I+-R2 (II)
[式中、R1及びR2は、それぞれ独立に、有機部分を表わす]
(2)下記式(III)のスルホニウムイオン、
R3R4R5S+ (III)
[式中、R3、R4及びR5は、それぞれ独立に、有機部分を表わし、任意選択的に、R3、R4及びR5のうちの任意の2つは、それらが結合している硫黄原子と共に環状構造を形成している]
(3)下記式(IV)のホスホニウムイオン、
R6R7R8P+ (IV)
[式中、R6、R7及びR8は、それぞれ独立に、有機部分を表わす]
から選択される。
【0097】
My+を式(II)、(III)及び(IV)から選択することにより、式(I)のスルフィナート化合物又はスルホナート化合物の共開始剤としての効率が顕著に改善され、それにより、重合開始剤系(b)の重合性能も顕著に改善される。
【0098】
さらに、それに加えて驚くべきことに、式(II)、(III)及び(IV)からのカチオンMy+の好ましい選択により、式(I)のスルフィナート化合物又はスルホナート化合物の安定性を改善することができることが見出された。続いて、それにより、光硬化性歯科用組成物の貯蔵安定性を改善することができる。
【0099】
好ましくは、式(II)のヨードニウムイオンのR1及びR2、式(III)のスルホニウムイオンのR3、R4及びR5並びに式(IV)のホスホニウムイオンのR6、R7及びR8はそれぞれ、芳香族、脂肪族又は脂環式基から選択される。芳香族基は、フェニル基とすることができる。フェニル基は、1~6個の炭素原子を有する1つ以上の直鎖もしくは分岐鎖アルキル基、1~6個の炭素原子を有する直鎖もしくは分岐鎖アルコキシ基、芳香族基、例えば、アリール基もしくはアリールオキシ基、3~6個の炭素原子を有する脂環式基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基又はアミノ基により置換されていてもよい。脂肪族基は、1つ以上の芳香族基、3~6個の炭素原子を有する脂環式基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基又はアミノ基により置換されていてもよい、1~6個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖アルキル基とすることができる。脂環式基は、1つ以上の芳香族基、脂肪族基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基又はアミノ基により置換されていてもよい、3~6個の炭素原子を有する基とすることができる。
【0100】
より好ましくは、式(II)のヨードニウムイオンのR1及びR2並びに(III)のスルホニウムイオンのR3、R4及びR5はそれぞれ、ハロゲン原子、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、C1-6アルキル基及びC1-6アルコキシ基から選択される1~3つの置換基により置換されていてもよいフェニル基から選択される。好ましくは、R’は、ハロゲン原子、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、C1-6アルキル基及びC1-6アルコキシ基から選択される1~3つの基により置換されていてもよい、1~6個の炭素原子を有する直鎖、分枝鎖又は環状アルキル基である。
【0101】
好ましい一実施態様によれば、式(II)のヨードニウムイオンは、ジアリールヨードニウムイオンである。有用なジアリールヨードニウムイオンの例には、(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウム、ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボラート、ジ(4-メチルフェニル)ヨードニウム、フェニル-4-メチルフェニルヨードニウム、ジ(4-ヘプチルフェニル)ヨードニウム、ジ(3-ニトロフェニル)ヨードニウム、ジ(4-クロロフェニル)ヨードニウム、ジ(ナフチル)ヨードニウム、ジ(4-トリフルオロメチルフェニル)ヨードニウム、ジフェニルヨードニウム、ジ(4-メチルフェニル)ヨードニウム;ジフェニルヨードニウム、ジ(4-フェノキシフェニル)ヨードニウム、フェニル-2-チエニルヨードニウム、3,5-ジメチルピラゾリル-4-フェニルヨードニウム、ジフェニルヨードニウム、2,2’-ジフェニルヨードニウム、ジ(2,4-ジクロロフェニル)ヨードニウム、ジ(4-ブロモフェニル)ヨードニウム、ジ(4-メトキシフェニル)ヨードニウム、ジ(3-カルボキシフェニル)ヨードニウム、ジ(3-メトキシカルボニルフェニル)ヨードニウム、ジ(3-メトキシスルホニルフェニル)ヨードニウム、ジ(4-アセトアミドフェニル)ヨードニウム、ジ(2-ベンゾチエニル)ヨードニウム及びジフェニルヨードニウムが含まれる。
【0102】
より好ましくは、式(II)の芳香族ヨードニウムイオンは、ジアリールヨードニウム、(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウム、4-オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウム及び4-(1-メチルエチル)フェニル 4-メチルフェニルヨードニウムからなる群より選択される。最も好ましくは、式(II)の芳香族ヨードニウムイオンは、ジフェニルヨードニウム又は(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムである。
【0103】
式(III)の好ましいスルホニウムイオンは、下記式:
【化14】
で示されるS-(フェニル)チアントレニウムである。
【0104】
好ましくは、式(IV)のホスホニウムイオンにおいて、R6、R7及びR8は、それぞれ独立に、脂肪族基、より好ましくは、1つ以上の芳香族基、3~6個の炭素原子を有する脂環式基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基又はアミノ基により置換されていてもよい、1~6個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖アルキル基を表わす。より好ましくは、式(IV)のホスホニウムイオンにおいて、R6、R7及びR8は、それぞれ独立に、1つ以上のハロゲン原子、ヒドロキシル基又はアミノ基により置換されていてもよい、1~4個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキル基を表わす。
【0105】
式(IV)の特に好ましいホスホニウムイオンは、テトラキス-(ヒドロキシメチル)-ホスホニウム(THP)である。
【0106】
式(II)(III)又は(IV)のヨードニウム、スルホニウム及びホスホニウムイオンから選択されるMy+を有する式(I)のスルフィナート化合物又はスルホニウム化合物は、例えば、式(II)(III)又は(IV)のヨードニウム、スルホニウム及びホスホニウムイオンの水酸化物(OH-)塩を、スルフィン酸R-SO2H(式中、Rは、式(I)の化合物について上に定義されたとおりである)又はスルホン酸と反応させることにより調製することができる。
【0107】
好ましくは、光硬化性歯科用組成物は、前記1種以上のラジカル重合性化合物(a)に基づいて、0.05~5モル%の共開始剤化合物(ii)を含む。
【0108】
好ましくは、光硬化性歯科用組成物の重合開始剤系(b)は、さらに、(iii)電子供与体を含む。好ましい電子供与体(iii)には、例えば、アミン、アミド、エーテル、チオエーテル、尿素、チオ尿素、フェロセン、スルフィン酸及びそれらの塩、フェロシアニド化物の塩、アスコルビン酸及びその塩、ジチオカルバミン酸及びその塩、キサンタートの塩、エチレンジアミン四酢酸の塩及びテトラフェニルボロン酸の塩又はSi、GeもしくはSnの有機ヒドリド化合物が含まれる。
【0109】
より好ましくは、電子供与体(iii)は、アミン化合物又はSi、GeもしくはSnの有機ヒドリド化合物である。
【0110】
好ましいアミン化合物は、第三級アミン化合物、より好ましくは、トリエタノールアミン、4-N,N-ジメチルアミノベンゾニトリル、メチル N,N-ジメチルアミノベンゾアート、エチル N,N-ジメチルアミノベンゾアート、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリラート及びイソアミル 4-N,N-ジメチルアミノベンゾアート、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチルトルイジン、N,N-ジエタノールトルイジン、ジメチルアミノアニソール、1又は2-ジメチルアミノナフタレンからなる群より選択される第三級アミン化合物である。最も好ましくは、第三アミン化合物は、トリエタノールアミン、メチル 4-N,N-ジメチルアミノベンゾアート、エチル 4-N,N-ジメチルアミノベンゾアート、4-N,N-ジメチルアミノエチルメタクリラート及びイソアミル 4-N,N-ジメチルアミノベンゾアートからなる群より選択される。
【0111】
Si、Ge又はSnの好ましい有機ヒドリド化合物は、下記式(VIII)を有する。
L-H
(VIII)
[式中、Lは、下記式(IX):
RaRbRcX*-
(IX)
で示される部分である]
【0112】
式(IX)において、X*は、Si、Ge又はSnを表わし、Raは、水素原子、有機部分又は別の部分Lを表わし、Rb及びRcは、それぞれ独立に、有機部分を表わす。
【0113】
式(VIII)のSi、Ge又はSnの有機ヒドリド化合物は、金属ヒドリドであるため、光開始剤化合物(i)との光励起錯体において水素供与剤として反応することができる。したがって、光開始剤化合物(i)が、可視光を吸収し、式(VIII)のSi、Ge又はSnの有機ヒドリド化合物と励起錯体を形成すると、金属ヒドリドから光開始剤(i)への水素移動が起こり、それにより、式(VIII)のSi、Ge又はSnの有機ヒドリド化合物は、重合反応を促進可能なラジカル種に変換する。
【0114】
式(IX)において、X*は、Si、Ge、又はSnを表わす。好ましくは、X*は、Si又はGeを表わす。より好ましくは、X*は、Geである。具体的な一実施態様によれば、式(VIII)の化合物は、シラン化合物である。さらに具体的な一実施態様によれば、式(VIII)の化合物は、ゲルマン化合物である。
【0115】
式(IX)において、Raは、水素原子、有機部分又は別の部分Lとすることができる。Raが、水素原子である場合には、式(VIII)の化合物は、2つの金属ヒドリド結合(X*-H)を含有する。Raが、水素原子である場合、X*は、Siである。
【0116】
Raが、有機部分を表わす場合、Raは、好ましくは、芳香族、脂肪族又は脂環式基である。芳香族基は、フェニル基とすることができる。フェニル基は、1~6個の炭素原子を有する1つ以上の直鎖又は分岐鎖アルキル基、3~6個の炭素原子を有する脂環式基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基又はアミノ基により置換されていてもよい。脂肪族基は、1つ以上の芳香族基、3~6個の炭素原子を有する脂環式基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基又はアミノ基により置換されていてもよい、1~6個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖アルキル基とすることができる。脂環式基は、1つ以上の芳香族基、脂肪族基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基又はアミノ基により置換されていてもよい、3~6個の炭素原子を有する基とすることができる。
【0117】
Raが、別の部分Lである場合、式(VIII)の化合物は、金属-金属結合を含有する。2つの部分Lが存在する場合には、各X*、Ra、Rb及びRcは、同一又は異なっていてもよく、独立して、本発明により定義されたとおりの意味を有する。
【0118】
Rb及びRcは、それぞれ独立に、有機部分を表わす。有機基は、芳香族、脂肪族又は脂環式基とすることができる。芳香族基は、フェニル基とすることができる。フェニル基は、1~6個の炭素原子を有する1つ以上の直鎖もしくは分岐鎖アルキル基、3~6個の炭素原子を有する脂環式基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基又はアミノ基により置換されていてもよい。脂肪族基は、1つ以上の芳香族基、3~6個の炭素原子を有する脂環式基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基又はアミノ基により置換されていてもよい、1~6個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖アルキル基とすることができる。脂環式基は、1つ以上の芳香族基、脂肪族基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基又はアミノ基により置換されていてもよい、3~6個の炭素原子を有する基とすることができる。
【0119】
好ましい一実施態様によれば、式(IX)のRa、Rb及びRcは同じであり、脂肪族、芳香族又は脂環式炭化水素基を表わす。
【0120】
好ましい一実施態様によれば、式(VIII)の化合物は、下記式から選択される。
【化15】
【0121】
好ましい一実施態様によれば、光硬化性歯科用組成物は、式(VIII)の化合物を、組成物の総重量に基づいて、0.05~5重量%の量で含有する。
【0122】
成分(i)、(ii)及び任意選択的に、(iii)を含む重合開始剤系(b)において、モル比((i):(ii):(iii))は、好ましくは、1:(0.1~10.0):(0.0~5.0)、より好ましくは、1:(0.1~6.5):(0.0~4.0)、さらにより好ましくは、1:(0.1~3.0):(0.0~3.0)である。一方、共開始剤化合物(ii)の量が、上記示された下限である0.1を下回る場合には、ラジカル重合性化合物(a)の変換率が低下する場合があり、重合反応の反応速度が遅くなる場合がある。任意選択的な電子供与体(iii)の添加により、変換率及び重合速度の両方を、さらに有利に調節することができる。
【0123】
好ましくは、本発明の光硬化性歯科用組成物は、酸化還元開始剤を含まない。酸化還元開始剤は、酸化剤と還元剤との組み合わせであり、この組み合わせにより、ラジカルが形成される酸化還元反応が提供される。すなわち、本発明のこのような好ましい光硬化性歯科用組成物は、専ら光硬化により硬化される。なぜなら、改善された重合効率を提供する本発明の有利な重合開始剤系(i)により、酸化還元開始剤、すなわち、二重硬化組成物を省略することができるからである。
【0124】
更なる成分
任意選択的に、本発明の光硬化性歯科用組成物は、さらに、溶媒及び/又は粒子状充填剤を含むことができる。
【0125】
適切な溶媒は、水、アルコール、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール(n-、i-)、ブタノール(n-、イソ-、tert-)、ケトン、例えば、アセトン等から選択することができる。
【0126】
本発明の光硬化性歯科用組成物は、好ましくは、組成物の総重量に基づいて、5~75重量%の溶媒を含むことができる。
【0127】
適切な粒子状充填剤は、歯科用組成物に現在使用されている充填剤から選択することができる。充填剤は、微粉砕されるべきであり、好ましくは、約100μm未満の最大粒径及び約10μm未満の平均粒径を有する。充填剤は、単峰性又は多峰性(例えば、二峰性)の粒径分布を有することができる。
【0128】
充填剤は、無機材料とすることができる。また、充填剤は、前記1種以上のラジカル重合性化合物(a)に不溶性であり、任意選択的に、無機充填剤が充填されている架橋した有機材料とすることもできる。充填剤は、放射線不透過性とすることができる。適切な粒子状無機充填剤の例は、天然又は合成材料、例えば、石英、窒化物、例えば、窒化ケイ素、例えば、Ce、Sb、Sn、Zr、Sr、Ba及びAlから得られるガラス、コロイド状シリカ、長石、ホウケイ酸ガラス、カオリン、タルク、チタニア及び亜鉛ガラス並びにサブミクロンシリカ粒子、例えば、熱分解シリカである。適切な非反応性有機充填剤粒子の例には、充填又は非充填粉砕ポリカーボナート又はポリエポキシドが含まれる。好ましくは、充填剤粒子の表面は、充填剤とマトリックスとの間の結合を強化するために、カップリング剤で処理される。適切なカップリング剤の使用には、ガンマ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、ガンマ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、ガンマ-アミノプロピルトリメトキシシラン等が含まれる。
【0129】
また、粒子状充填剤は、
a)1~1200nmのメジアン粒径(D50)を有する粒子状充填剤を、粒子状充填剤の表面上に被覆層を形成する膜形成剤を含有する被覆組成物で被覆すること(被覆層は、被覆層の表面上に反応性基を提示し、その反応性基は、付加重合性基及び段階成長重合性基から選択され、而して、被覆された粒子状充填剤を形成する)と、引き続いて又は同時に、
b)前記被覆された粒子状充填剤の顆粒を提供するために、任意選択的に更なる架橋剤の存在下、任意選択的に反応性基を示さない更なる粒子状充填剤の存在下に、前記被覆された粒子状充填剤を凝集させること(その顆粒には、少なくとも1つの被覆層により相互に分離され、接続される被覆された粒子状充填剤粒子及び任意選択的な更なる粒子状充填剤粒子が含まれ、而して、反応性基及び任意選択的な更なる架橋剤を反応させることにより得られる架橋基が少なくとも1つの被覆層を架橋することができる)と、
c)任意選択的に、前記被覆された粒子状充填剤の顆粒を粉砕し、分級しかつ/又はふるい分けすることと、
d)任意選択的に、1~70μmのメジアン粒径(D50)を有する複合充填剤粒子を提供するために、前記被覆された粒状充填剤の顆粒をさらに架橋することと
を含む、複合充填剤粒子の調製のためのプロセスであって、
反応性基が、反応性基及び任意選択的に更なる架橋剤を反応させることにより得られる架橋基に変換され、粒子状充填剤が、EP第2604247A号にさらに記載されているように、その複合充填剤粒子の体積における主成分である、方法により得ることができる充填剤とすることもできる。
【0130】
本発明の光硬化性歯科用組成物は、好ましくは、組成物の総重量に基づいて、0.1~85重量%の粒子状充填剤を含むことができる。
【0131】
本発明の光硬化性歯科用組成物は、さらに、安定剤、顔料、フリーラジカルスカベンジャー、重合阻害剤、反応性及び非反応性希釈剤、充填剤の反応性を高めるカップリング剤、レオロジー調整剤及び界面活性剤を含有することができる。
【0132】
適切な安定剤は、還元剤、例えば、ビタミンC、無機硫化物及びポリスルフィド等から選択することができる。
【0133】
ワンパート又はマルチパート組成物
本発明の光硬化性歯科用組成物は、ワンパート又はマルチパート光硬化性歯科用組成物とすることができる。
【0134】
本明細書で使用する場合、「ワンパート」という用語は、光硬化性歯科用組成物の全ての成分が、1つの単一パートに含まれることを意味する。
【0135】
本明細書で使用する場合、「マルチパート」という用語は、光硬化性歯科用組成物の成分が、多数の別個のパートに含まれることを意味する。例えば、第1パートの成分は、第1パートに含まれ、一方、第2パートの成分は、第2パートに含まれ、第3パートの成分は、第3パートに含まれることができ、第4パートの成分は、第4パートに含まれることができ、以下同様である。
【0136】
好ましくは、光硬化性歯科用組成物は、ワンパート又はツーパート光硬化性歯科用組成物であり、最も好ましくは、ワンパート光硬化性歯科用組成物である。
【0137】
ツーパート光硬化性歯科用組成物については、共開始剤化合物(ii)が、その固体パートに含まれることが好ましい。
【0138】
1つ以上のパートの光硬化性歯科用組成物については、共開始剤化合物(ii)が、pH6~8を有するその流体パートに含まれることが好ましい。
【0139】
本重合開始剤系(ii)の使用
上記した重合開始剤系(ii)は、光硬化性歯科用組成物、好ましくは、上記したように光硬化性歯科用組成物に使用することができる。
【0140】
この使用のために、式(I)のスルフィナート化合物のMx+は、好ましくは、上記したように、
(1) 式(II)のヨードニウムイオン、
(2) 式(III)のスルホニウムイオン及び式(IV)のホスホニウムイオン
から選択されるのが好ましい。
【0141】
本重合開始剤系(ii)は、好ましくは、歯科用複合材料、歯科用ガラスアイオノマーセメント、歯科用セメント及び歯科用印象材からなる群より選択される光硬化性歯科材料に使用される。
【実施例】
【0142】
以下、本発明は、下記の例及び比較例に基づいて、さらに例証されるであろう。本発明を例証する化合物を、以下のスキーム1及び2に示す。
【0143】
【0144】
【0145】
【0146】
例1.共開始剤としての脂肪族スルフィナート
スルフィナートが、カンファーキノンと組み合わせて使用された場合、歯科用材料のための青色光で照射された際のフリーラジカル重合のための効率的な共開始剤であることを示す。
図1に、カンファーキノン及び亜鉛イソプロピルスルフィナート(スキーム1及び2)の存在下でのビスGMA-TEGDMA樹脂の重合を報告する。優れた最終変換率が、大気下、歯科用LED(λ
max=480nm)に対し、厚み1.4mmのサンプルについて達成されている。スルフィナートがない場合(すなわち、カンファーキノン単独の場合)、重合は起こらず、このことから、スルフィナートの共開始剤の役割がわかる(曲線4)。さらに、漂白特性は、スルフィナートの存在下で優れていることが見出された。
【0147】
1-メチル 3-スルフィノプロパノアート(MeSP)が、フリーラジカル重合のための効率的な共開始剤として機能することができる脂肪族スルフィナートのもう一つの例であることを示す。
図2に、ヨードニウム塩(スキーム1)と組み合わせた脂肪族スルフィナートである1-メチル 3-スルフィノプロパノアート(スキーム1及び2)及びカンファーキノンの存在下におけるビスGMA-TEGDMA樹脂の重合(2-ヒドロキシエチルメタクリラート又はメタクリル酸を加えた場合も)を報告する。優れた最終変換率が、大気下、歯科用LED(λ
max=480nm)に対し、厚み1.4mmのサンプルについて達成されている。注目すべきことに、Smartlite Focus(300mW.cm
-2)による照射の際、メタクリラート(ビスGMA-TEGDMA)のFRPを開始するCQ/1-メチル 3-スルフィノプロパノアート/Iodの作用効果は、同条件での系CQ/EDBを上回る(
図2)。CQ/脂肪族スルフィナート/Iodの組み合わせに基づけば、アミンを含まない系を提案することができる。
【0148】
例2.共開始剤としての芳香族スルフィナート
典型的なII型光開始剤(phtoinitiators,PIs)は光照射時の反応性に乏しく、フリーラジカル重合(FRP)を開始しない。したがって、それらを共開始剤、一般的にはアミンと組み合わせる必要がある。しかし、貯蔵後に観察される着色の問題のために、共開始剤としてのアミンの使用に代わる手段を見出すことが関心事である。本例においては、p-トルエンスルフィナート(スキーム2)を、興味深い漂白特性を有する効率的な共開始剤として提案する。PI単独(CQ又はPPD)では、重合は起こらない。注目すべきことに、スルフィナートの存在下では、良好な重合プロファイルが、高い最終変換率と共に得られる(
図3)。この作用効果は、ヨードニウム塩と組み合わせた場合、さらに改善することができる。
【0149】
注目すべきことに、CQ/スルフィナート/Iod又はPPD/スルフィナート/IodがSmartlite Focus(300mW.cm
-2)を用いた照射によりメタクリラート(メタクリル酸/ビスGMA/TEGDMA:10/63/27%w/w)のFRPを開始する作用効果は、同条件での系CQ/EDB又はPPD/EDBを上回る(
図3)。
【0150】
また、他の芳香族スルフィナートも、カンファーキノンと組み合わせ、かつ、ヨードニウム塩の存在下では、青色光でのフリーラジカル重合のための共開始剤として使用することができる。例えば、本例では、ブチルナフタレンスルフィナート(スキーム2)が、青色歯科用LEDの露光によるビスGMA-TEGDMA樹脂の重合のための効率的な共開始剤であることが示されている。カンファーキノン及びブチルナフタレンスルフィナートの存在下でのビスGMA-TEGDMA樹脂の重合を
図4に報告する。大気下、歯科用LED(λ
max=480nm)に対し、厚み1.4mmのサンプルについて、優れた最終変換率が達成されている。注目すべきことに、CQ/ブチルナフタレンスルフィナート/Iod系は、CQ/EDB参照系に匹敵する、メタクリラートのFRPを開始するための効率を示す。
【0151】
また、本例において、芳香族スルフィナートであって、フリーラジカル重合のための効率的な共開始剤として、4-(アセチルアミノ)ベンゼンスルフィナート(AcABS)も提案する(スキーム2)。カンファーキノン及び4-(アセチルアミノ)ベンゼンスルフィナート(スキーム2)の存在下、ヨードニウム塩と組み合わせたビスGMA-TEGDMA樹脂の重合(2-ヒドロキシエチルメタクリラート又はメタクリル酸の存在下でも)を
図5に報告する。優れた最終変換率が、大気下で達成され、CQ/AcABS/Iod系は、CQ/EDB参照系と同様の、メタクリラート(ビスGMA-TEGDMA)のフリーラジカル重合のための効率を示す。
【0152】
例3.スルフィナート系光開始系の良好な漂白特性
注目すべきことに、良好な漂白特性が、共開始剤としてのスルフィナート及びカンファーキノンに基づく本発明の光開始系について光照射により得られている。重合前後のサンプルの写真の若干の例を
図6に示す。それにもかかわらず、良好な漂白特性が、検討された全てのスルフィナートについて得られた。また、重合後の色安定性も、室温での貯蔵及び50℃での貯蔵のいずれについても非常に良好である。
【0153】
例4.新規なヨードニウム-スルフィナート塩(スルフィナートとヨードニウム塩との間でのイオン交換)
また、本発明のスルフィナートは、ヨードニウムスルフィナートの合成を通して、一成分系中のヨードニウム塩の存在下で効率的であり得る。この新規な系をスルフィナートとヨードニウム塩との間でのイオン交換により合成した。p-トルエンスルフィナート及びジフェニルヨードニウムクロリドを水に溶解し、一緒に一晩混合した。クロロホルムを反応混合物に加え、相を分離した。有機層の溶媒を蒸発させて、新規なヨードニウムスルフィナート塩を得た(スキーム4)。この一成分系も、カンファーキノンの存在下において、青色歯科用LEDへの露光によるビスGMA-TEGDMA樹脂の重合に効率的であり得る。カンファーキノン及び上記ヨードニウムスルフィナートの存在下でのビスGMA-TEGDMA樹脂の重合を
図7に報告する。優れた最終変換率が、大気下、歯科用LED(λ
max=480nm)に対し、厚み1.4mmのサンプルについて達成されている。さらに、優れた漂白特性が得られる。注目すべきことに、CQ/ヨードニウム-スルフィナート系は、参照CQ/EDBより良好である(
図7)。
【0154】
【0155】
例5.ヨードニウム-スルフィナート系光開始系の良好な漂白特性
注目すべきことに、新規に合成されたヨードニウム-スルフィナートは、カンファーキノンと組み合わせて、共開始剤として使用することができ、光照射に際して良好な漂白特性をもたらす。重合前後のサンプルの写真を
図8に示す。重合後の色安定性も非常に良好である。
【0156】
以下に、スルホナート化合物に関する試験を報告する。検討されたスルホナート化合物は上記スキーム3に示す。
【0157】
例6.共開始剤としてのp-トルエンスルホナート
これらのスルホナートは、歯科用材料のための青色光での照射によるフリーラジカル重合のための効率的な共開始剤である。この新規なクラスの共開始剤は、カンファーキノンの存在下で使用して、メタクリラートのフリーラジカル重合(FRP)を開始することができる。例えば、カンファーキノン及びp-トルエンスルホナート(スキーム1及びスキーム3)の存在下、ヨードニウム塩(Iod)と組み合わせたビスGMA-TEGDMAブレンド(2-ヒドロキシエチルメタクリラート又はメタクリル酸の存在下でも)の重合を
図9に報告する。優れた最終変換率が、大気下、代表的な青色光LED(λ
max=480nm)により、厚み1.4mmのサンプルについて達成されている。注目すべきことに、CQ/スルホナート/Iod系は、系CQ/アミン(エチルジメチルアミノベンゾアートEDB)参照系と同様の、同条件でのSmartlite Focus(300mW.cm
-2)による照射によりメタクリラートのFRPを開始する作用効果を示す(
図9)。
【0158】
例7.共開始剤としてのヨードニウム-スルホナート
また、本発明のスルホナート共開始剤は、一成分系におけるヨードニウム塩の存在下でも効率的であり得る。そのヨードニウムスルホナートは、カンファーキノンの存在下、青色歯科用LEDへの露光によるビスGMA-TEGDMA樹脂の重合に使用することができる。本例では、フェニル(2,4,6-トリメトキシフェニル)ヨードニウム p-トルエンスルホナート(スキーム3)がビスGMA-TEGDMA樹脂の重合に効率的な共開始剤として示される。カンファーキノン及びヨードニウムスルホナートの存在下でのビスGMA-TEGDMA樹脂の重合(2-ヒドロキシエチルメタクリラートの存在下でも)を
図10に報告する。優れた最終変換率が、大気下、歯科用材料に代表的な青色光LED(λ
max=480nm)に対し、厚み1.4mmのサンプルについて達成される。注目すべきことに、CQ/ヨードニウムスルホナート系は、CQ/EDB参照系と同様の、同条件でのメタクリラート(ビスGMA-TEGDMA)のFRPを開始する効率を示す。
【0159】
例8.スルホナート系光開始系の良好な漂白特性
注目すべきことに、カンファーキノンと組み合わせた本発明の共開始剤は、光照射時に良好な漂白特性をもたらす。
図11に、重合前後のサンプルの写真を示す。重合後の色安定性も優れている。
【0160】
応用例-複合材料
以下、本発明は、応用例を参照してさらに詳細に説明されるであろう。本発明は、以下に記載された応用例に限定されるものではない。以下、下記略語を使用する。
【0161】
使用された化合物
CQ:カンファーキノン
NapTS:p-トルエンスルフィナートナトリウム
DMABE:エチル 4-(ジメチルアミノ)ベンゾアート
BHT:ブチル化ヒドロキシトルエン
樹脂及びガラス充填剤:Spectrum(登録商標)TPH(登録商標)3
【0162】
ペースト配合物
5gのSpectrum(登録商標)TPH(登録商標)3樹脂及び15gのSpectrum(登録商標)TPH(登録商標)3ガラス充填剤に対し、それぞれの配合物の所定量(表1、樹脂部に基づく重量%)を加えた。その後、その混合物を、SpeedMixerを使用することによりペーストに加工した。
【0163】
手順
曲げ強度、FS:曲げ強度をISO 4049ガイドライン(表1)に従って測定した。
【0164】
色安定性:色安定性は下記手順を使用して検討した。すなわち、各配合の3つのディスク標本を、Liculite光オーブン(照射時間90秒/各面)を使用して調製した。その後、各標本の初期L
*A
*B値を、Datacolor 800を使用して測定した。ついで、標本1を暗所で保存し、37±2℃のオーブン中で7日間乾燥させた。標本2は、暗所、オーブン中、37±2℃の水中で7日間保存した。標本3は、まず暗所で保存し、37±2℃のオーブン中で24±2時間乾燥させた。この後、後者の標本をオーブンから取り出し、その半分をアルミニウム箔と共に対照とした(被覆されていない面-標本3a/被覆された面-標本3b)。ついで、その標本を、水(37±2℃)に浸漬した放射線チャンバに入れ、150000±15000ルックスで24時間、放射線に露光した。水位が標本の上方10±3mmにあることを確保した。露光後、アルミニウム箔を除去し、標本を37±2℃のオーブンに戻し、暗所で保存し、5日間乾燥させた。色の変化(ΔE)、Datacolor 800(表2)を使用して測定した(表2)。ΔEを下記等式(1)を使用して算出した。
【数1】
【0165】
【0166】
【0167】
応用例-樹脂改質ガラスアイオノマー(RMGI)セメント複合材
【表3】
【0168】
【0169】
【0170】
応用例-自己接着性樹脂セメント(SARC)
【表6】
【0171】
【0172】
【0173】
準備
表3、4、6及び7に従い、所定量の成分を遮光性プラスチック容器に入れ、穴を有する蓋で封じた。続いて、各容器をSpeedMixer DAC 600-2 VAC-P(Hauschild)に入れ、2500rpmで2分間を2回、及び1000rpm/100mbarで1分間を1回、混合した。蓋の穴を遮光スコッチテープで封じ、容器をさらに使用するまで室温で保存した。
【0174】
試験:作業時間(working time、wt)
酸性ペーストとベースペースト、又はベースペーストと触媒ペースト(1:1、V/V)を23℃、周囲光で30秒間、手で混合することによりサンプルを調製した。ビーズ様体が形成され、これを金属器具で定期的にプローブした。作業時間の終期は、粘性の展延可能な材料から弾性のゲル状材料への転移点により、作業時間の始期は、手での混合の開始時により定義した。
【0175】
代替的には、サンプルを30秒間手で混合し、次いで、SmartLite Focusで10秒間照射した。その後のプロービングは、上記のとおり行った。
【0176】
試験:3点曲げ
曲げ強度(FS)及び曲げ弾性率(FM)の機械特性データは、ISO 4049:2009に従って、3点曲げモードで測定した。測定前に、手で混合したサンプル(n=6)をライトオーブンLicuLite(Dentsply DeTrey)で2面から2分間硬化させ、37℃で24時間水中に保存するか又は1時間暗硬化させ、37℃で24時間水中に保存した。