IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コンティネンタル・テーベス・アクチエンゲゼルシヤフト・ウント・コンパニー・オッフェネ・ハンデルスゲゼルシヤフトの特許一覧

特許7092945ドラムブレーキのための再調整装置を有する拡張装置
<>
  • 特許-ドラムブレーキのための再調整装置を有する拡張装置 図1
  • 特許-ドラムブレーキのための再調整装置を有する拡張装置 図2
  • 特許-ドラムブレーキのための再調整装置を有する拡張装置 図3
  • 特許-ドラムブレーキのための再調整装置を有する拡張装置 図4
  • 特許-ドラムブレーキのための再調整装置を有する拡張装置 図5
  • 特許-ドラムブレーキのための再調整装置を有する拡張装置 図6
  • 特許-ドラムブレーキのための再調整装置を有する拡張装置 図7
  • 特許-ドラムブレーキのための再調整装置を有する拡張装置 図8
  • 特許-ドラムブレーキのための再調整装置を有する拡張装置 図9
  • 特許-ドラムブレーキのための再調整装置を有する拡張装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】ドラムブレーキのための再調整装置を有する拡張装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/22 20060101AFI20220621BHJP
   F16D 65/54 20060101ALI20220621BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20220621BHJP
   F16D 121/24 20120101ALN20220621BHJP
   F16D 125/36 20120101ALN20220621BHJP
【FI】
F16D65/22
F16D65/54 K
B60T13/74 G
F16D121:24
F16D125:36
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021516975
(86)(22)【出願日】2019-09-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-11
(86)【国際出願番号】 EP2019075780
(87)【国際公開番号】W WO2020064786
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-03-25
(31)【優先権主張番号】102018216488.6
(32)【優先日】2018-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】399023800
【氏名又は名称】コンティネンタル・テーベス・アクチエンゲゼルシヤフト・ウント・コンパニー・オッフェネ・ハンデルスゲゼルシヤフト
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100208258
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 友子
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】バッハ・ウーヴェ
(72)【発明者】
【氏名】ゲドケ・マルティン
(72)【発明者】
【氏名】フォン・ハイン・ホルガー
(72)【発明者】
【氏名】ゼーフォ・アーメト
(72)【発明者】
【氏名】ホフマン・イェンス
(72)【発明者】
【氏名】メスナー・アドリーアン
(72)【発明者】
【氏名】リッター・ヴォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】ペッツォルト・ファルク
(72)【発明者】
【氏名】シューリッツ・マティアス
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公開第02168770(GB,A)
【文献】実開昭49-001785(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 65/22
F16D 65/54
B60T 13/74
F16D 121/24
F16D 125/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用のドラムブレーキ(4)のブレーキシュー(2,3)を拡張軸線(A)に沿って拡張する拡張装置(1)であって、ブレーキライニング摩耗によって拡大される拡張距離を補整する、内部に配置された再調整装置(8)を有するハウジング(5)を含んでおり、再調整装置(8)が、拡張軸線(A)に対して同軸に配置された、ネジ部(16)を有する再調整ボルト(9)を含んでおり、再調整ボルトは、第1の周方向への回転によって、拡張方向(S,S’)への少なくとも1つの拡張ピストン(10,11)の軸方向変位をもたらし、逆の周方向への回転がバネ負荷を受ける係止装置(12)によって阻止可能である、拡張装置において、
係止装置(12)により、再調整ボルト(9)の所定のアイドル回転(L)が可能であり、アイドル回転は、第1の周方向に作用する第1のストッパ(13)と、逆の周方向に作用する第2のストッパ(14)とによって構造上設定されていることを特徴とする拡張装置。
【請求項2】
拡張装置(1)は、回転するように駆動されているとともに、回転式の駆動運動を拡張軸線(A)に沿った並進的な拡張運動へ変換する少なくとも1つのボールランプ機構(6,7)を備えていることを特徴とする請求項1に記載の拡張装置(1)。
【請求項3】
再調整装置(8)がブロッキング部材(15)を備えており、ブロッキング部材は、再調整ボルト(9)に対して軸方向に弾性的に付勢して配置されており、係止装置(12)が、ブロッキング部材(15)と再調整ボルト(9)の間に配置されていることを特徴とする請求項1及び2の少なくとも1項に記載の拡張装置(1)。
【請求項4】
係止装置(12)が、再調整ボルト(9)において端面側に形成された第1の係止歯部(17)と、ブロッキング部材(15)において端面側に形成された第2の係止歯部(18)とを含んでおり、第2の係止歯部は、軸方向に作用する力を形成しつつ周方向への逆の回転を可能とするとともに逆方向への相互の回転が阻止されているように第1の係止歯部(17)と協働することを特徴とする請求項3に記載の拡張装置(1)。
【請求項5】
ブロッキング部材(15)が、拡張ピストン(11)に対して相対的に周方向においてストッパ(13,14)間で回転可能に支持されていることを特徴とする請求項3及び4の少なくとも1項に記載の拡張装置(1)。
【請求項6】
ストッパ(13,14)が、部材における凹部(19)の扇形の範囲の脚部として形成されており、脚部は、他の部材に形成された径方向の突出部(20)と協働することを特徴とする請求項5に記載の拡張装置(1)。
【請求項7】
凹部(19)が拡張ピストン(11)に形成されており、ブロッキング部材(15)が少なくとも1つの軸部(33)を備えており、軸部は、凹部(19)に入り込む、当該軸部に配置された少なくとも1つの突出部(20)を有していることを特徴とする請求項6に記載の拡張装置(1)。
【請求項8】
拡張装置(1)が駆動スリーブ(21)を介して操作され、駆動スリーブは、この目的のために、少なくとも部分的に外歯(22)を備えているとともに、ハウジング(5)において回転可能に支持されていることを特徴とする請求項1~7の少なくとも1項に記載の拡張装置(1)。
【請求項9】
駆動スリーブ(21)には、再調整ピストン内部で螺合する再調整ボルト(9)を有する再調整ピストン(23)と、支持ピストン(24)とが配置されており、再調整ピストン(23)及び支持ピストン(24)は、駆動スリーブ(21)に対して回転不能であるとともに軸方向に変位可能に支持されており、支持ピストン(24)が、再調整ピストン(23)の方向へ軸方向に再調整ボルト(9)において支持可能であることを特徴とする請求項8に記載の拡張装置(1)。
【請求項10】
第1のボールランプ機構(6)が再調整ピストン(23)と第1の拡張ピストン(10)の間に形成されており、第2のボールランプ機構(7)が拡張ピストン(24)と第2の拡張ピストン(11)の間に形成されていることを特徴とする請求項9及び請求項2~8の少なくとも1項に記載の拡張装置(1)。
【請求項11】
請求項1~10の少なくとも1項に記載の少なくとも1つの拡張装置(1)を含むドラムブレーキ(4)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分によるドラムブレーキのための拡張装置と、対応するドラムブレーキとに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両、特に電動車両において、フットブレーキとして設計されたドラムブレーキを用いることが知られている。当該ドラムブレーキは、しばしば回転式に駆動される拡張ユニットを備えている。このとき、拡張ユニットのための駆動部として、多くの場合、後続接続された減速ギヤ装置を有する電気モータが用いられる。
【0003】
このような拡張ユニットにおいては、駆動部の回転運動を被駆動部の並進的な拡張運動へ変換するために、単純かつ堅固なボールランプ機構を用いることが更に知られている。ボールランプ機構においては、多くの場合、3つ又はそれより多くのボールが2つのディスクの間においてその中に形成された周方向において逆方向に向けられたランプ(傾斜路)にはめ込まれ、その結果、ディスクのうち1つの回転時には、ボールは、ランプにおいて転動し、これによりディスクを互いに離れるように押圧する。
【0004】
ここで、ボールランプ機構の特徴的な特徴は、構造空間により大きく制限されたボール及びディスクの直径並びにランプの深さによって限定されている、比較的小さなストロークである。ボールランプ機構の唯一のストロークにより、動作に起因する、ドラムブレーキのブレーキライニングの摩耗を多くの場合には十分に補整することができない。そこで、摩擦距離を補整するために、ボールランプ機構を有する拡張ユニットに統合された再調整装置を設けることが知られている。
【0005】
技術的な背景について、ここでは、例えば特許文献1が挙げられる。ここには2つのボールランプ機構を有する拡張装置が記載されており、当該拡張装置では、拡張軸線に対して同軸に配置されネジ切りされた個別の再調整ボルトを再調整方向へ回転させることよって摩擦距離の再調整がなされ、再調整ボルトは、係止装置を用いて、逆方向への回転について防止されている。
【0006】
一般的には統合された再調整装置、及び特別な場合には剛直なボールランプ機構を有する公知の拡張装置における欠点は、大きな拡張力において再調整がなされることであり、これは、再調整過程中に比較的高い力レベルをもたらすものである。これは、例えば解除過程時に高められる、回転可能な構成要素間の摩擦力を引き起こすことがあり、例えば戻るように回転するときの効率、通常の進行の剛性、摩擦相手方及び他の部材の摩耗などのような別の態様にネガティブに影響する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】独国特許出願公開第102014226270号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、課題は、低減された力レベルにおいて特に信頼性のある再調整機能を可能とする、ドラムブレーキのための統合された再調整装置を有する改善された拡張装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
当該課題は、本発明により、請求項1による特徴の組合せを有する拡張装置によって解決される。従属請求項は、本発明による別の実施形態及び発展形態を記載するものである。
【0010】
本発明は、係止装置により、再調整ボルトの所定のアイドル回転が可能であり、アイドル回転は、周方向に作用する、互いに離間した2つのストッパによって構造上設定されているようになっている。
【0011】
これにより、拡張力の大部分があらかじめ低減されている場合に、再調整に必要な再調整ボルトの保持が、解除過程中に動作点へ意図的に遅延される。したがって、再調整は、小さく作用する力においてなされることができ、摩擦及び摩耗が低減されることができ、寿命が延長されることができ、特に付着摩擦に起因する力負荷を防止することで通常の進行を均等化することができる。再調整装置の構成要素に対する負荷の大幅な軽減により、拡張装置の外部における追加的な再調整装置を省略することが可能である。
【0012】
好ましい実施形態では、拡張装置は、回転するように駆動されることができるとともに、回転式の駆動運動を並進的な拡張運動へ変換する少なくとも1つのボールランプ機構を備えることが可能である。
【0013】
これにより、拡張装置は、特に堅固かつ剛直に設計されることができ、任意の原動機付き車両タイプにおいて、特に電動車両において用いられることが可能である。
【0014】
さらに、本発明は、再調整装置がブロッキング部材を備えており、ブロッキング部材は、再調整ボルトに対して軸方向に弾性的に付勢して配置されており、係止装置が、ブロッキング部材と再調整ボルトの間に配置されているようになっている。
【0015】
これにより、特に効果的に、空間を削減して、かつ、剛直に、自動的な再調整のための軸方向の駆動と、新たなブレーキの構造における最初の調整も実現することができ、当該構造は、加えて、拡張力の影響を受けない。
【0016】
更に改善された、特に剛直かつ単純な再調整の制御のために、係止装置は、再調整ボルトにおいて端面側に形成された第1の係止歯部と、ブロッキング部材において端面側に形成された第2の係止歯部とを含んでおり、第2の係止歯部は、軸方向に作用する力を形成しつつ周方向への逆の回転を可能とするとともに逆方向への相互の回転が阻止されているように第1の係止歯部と協働する。
【0017】
ブロッキング部材が拡張ピストンに対して相対的に周方向においてストッパ間で回転可能に支持されていれば、本発明によるアイドル回転は、特に単純かつ信頼性をもって実現されることが可能である。
【0018】
このとき、ストッパは、単純かつ剛直に、凹部の扇状の範囲の脚部として形成されることができ、当該脚部には、他の部材の径方向の突出部に当接する。ここで、アイドル回転は、一義的かつ信頼性をもって、扇形の角度の設定によって、突出部の幅と共に構造上設定されることが可能である。
【0019】
構成要素の特に効率的な製造性は、凹部が拡張ピストンに形成されており、ブロッキング部材が少なくとも1つの軸部を備えており、軸部は、凹部に入り込む、当該軸部に配置された少なくとも1つの突出部を有している場合に達成されることが可能である。したがって、例えば、拡張ピストンは、薄板材料から単純に打ち抜くことで得られる。
【0020】
更にコンパクトな構造における電気機械的な操作駆動部との単純化された協働のために、拡張装置は駆動スリーブを介して操作されることができ、当該駆動スリーブは、この目的のために、少なくとも部分的に外歯を備えているとともに、拡張装置のハウジングにおいて回転可能に支持されている。
【0021】
本発明の好ましい実施形態は、駆動スリーブには、内部で螺合する再調整ボルトを有する再調整ピストンと、支持ピストンとが配置されており、再調整ピストン及び支持ピストンは、駆動スリーブに対して回転不能であるとともに変位可能に支持されており、支持ピストンが、再調整ピストンの方向へ軸方向に再調整ボルトにおいて支持可能であるようになっている。
【0022】
特に好ましくは、本発明は、第1のボールランプ機構が再調整ピストンと第1の拡張ピストンの間に形成されており、第2のボールランプ機構が拡張ピストンと第2の拡張ピストンの間に形成されていることで発展形成されることが可能である。
【0023】
これにより、定常的な通常の進行及び高い効率のために好都合な対称な力経過を有し、より少ない数の並進的に摩擦を受ける可動の構成要素とを有する、特によりコンパクトでより堅固な拡張装置の構造が得られる。
【0024】
さらに、本発明は、少なくとも1つの本発明による拡張ユニットを含むドラムブレーキを請求している。ここで、本発明による拡張ユニットは、様々なタイプのドラムブレーキ、例えばデュオサーボタイプのドラムブレーキ又はシンプレックスドラムブレーキにおいて同様に有効に用いられることができる。
【0025】
本発明の別の特徴、利点及び応用可能性は、以下の説明から読み取れる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】ブレーキドラムが取り外されている場合の、本発明による拡張ユニットを有するドラムブレーキの平面図である。
図2】軸方向断面における、本発明による拡張ユニットの第1の実施形態を示す図である。
図3】力経過が記入された、本発明による拡張ユニットの第2の実施形態を示す、三次元的な部分断面図である。
図4図3による実施形態を、操作されていない初期位置において示す図である。
図5図3による実施形態を、アイドル回転の通過直後の操作位置において示す図である。
図6図3による実施形態を、図5に対して更に操作した位置、かつ、再調整過程の開始前において示す図である。
図7図3による実施形態を、図6に対して更に操作した位置、切換点において、再調整過程の開始時において示す図である。
図8図3による実施形態を、アイドル回転の戻り後の解除位置において、かつ、再調整の開始前において示す図である。
図9図3による実施形態を、図8に対して更に進行した解除位置、かつ、再調整中において示す図である。
図10】ブレーキ操作時及び再調整時の拡張装置の力-距離-グラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
ドラムブレーキの基本的な機能態様及びボールランプ機構は十分に知られているため、以下では、本発明にとって本質的な機能特性についてのみ言及する。
【0028】
図1
【0029】
図1には、ブレーキドラムを取り外したときのドラムブレーキ4が例示的に示されている。拡張装置1は、2つのブレーキシュー2,3をこれに設けられたブレーキライニング25と共に不図示のブレーキドラムに対して拡張させる。ブレーキライニング25の摩耗により、制動に必要な拡張距離が所定の摩耗限度まで連続的に拡大する。拡大された摩耗距離は、ハウジング5に配置された口述の再調整装置8によって段階的に補整される。
【0030】
ライニング25が非対称に不均等にブレーキドラムに接触するのを防止するために、このとき、拡張装置1のハウジング5は、拡張軸線Aに沿ってフロート式に支持されることが可能である。
【0031】
図2
【0032】
図2には、拡張軸線Aを通る軸方向断面における、再調整されていない初期状態での拡張装置1の実施形態が示されている。当該実施形態では、拡張装置1は、不図示の電気モータ式の駆動ユニットによって、回転駆動運動により操作されている。このとき、トルクは、例えば不図示の歯車又は駆動ベルトによって、径方向の外歯22を介して、ハウジング5内でラジアル軸受31,32を用いて拡張軸線Aを中心に回転可能に支持された駆動スリーブ21へ導入される。
【0033】
駆動スリーブ21内では、再調整ピストン23及び支持ピストン24が回転不能かつ軸方向に変位可能に支持されている。このために、再調整ピストン23あるいは支持ピストン24には径方向のリブ29,29’が設けられており、当該リブは、駆動スリーブ21における長手溝30において摺動するように案内されている。
【0034】
再調整ボルト9は、ネジ部16を介して再調整ピストン23に係合式に結合されており、その結果、拡張軸線Aを中心として再調整ボルト9を回転させると、再調整ピストン23は軸方向に変位する。このとき、支持ピストン24は、再調整ピストン23の方向において軸方向に再調整ボルト9において支持されている。
【0035】
さらに、拡張装置1は、そのハウジング5において2つの拡張ピストン10,11を備えており、当該拡張ピストンは、当該実施形態では、介設された皿バネを介してブレーキシュー収容部26,26’に作用する。支持ピストン10,11は、ハウジング5に対して軸方向に変位可能であるとともに、周方向において回転不能に支持されている。
【0036】
回転防止の実施態様は、本発明においては用途特有に異なるように構成されることが可能である。これは、図示の実施形態では、例示的にブレーキシュー収容部26,26’によって実現されており、当該ブレーキシュー収容部は、周方向において、その収容スリット部36,36’でもって平坦なブレーキシュー2,3において支持されている。
【0037】
再調整ピストン23と拡張ピストン10の間あるいは支持ピストン24と拡張ピストン11の間には、それぞれ1つのボールランプ機構7が形成されている。駆動ユニットによる駆動スリーブ21の操作時には、拡張ピストン24及び再調整ピストン23が共に回転し、ボールランプ機構6,7により、両拡張ピストン10,11の並進的な拡張が生じる。
【0038】
再調整装置8はブロッキング部材15を含んでおり、当該ブロッキング部材は、本質的に支持ピストン24内で拡張軸線Aに対して同軸に配置されている。支持ピストン24において支持されたバネ要素31によって、ブロッキング部材15が再調整ボルト9に対して軸方向に常に弾性的に付勢されている。
【0039】
ここで、ブロッキング部材15と再調整ボルト9の間には相補的に互いに係合する2つの軸方向の係止歯部17,18の形態の係止装置12が配置されている。第1の係止歯部17は端面側で再調整ボルト9に形成されており、第2の係止歯部18は端面側でブロッキング部材15に形成されている。両係止歯部17,18は、それぞれ円周部に分配された複数の歯37,37’を有する一種のラチェット歯部として構成されており、当該歯には、それぞれ平坦なランプ(斜面)としての歯面と、より急峻なランプ端面としての他の歯面が構成されている。係止歯部17によって、1つの周方向のみへのブロッキング部材15と再調整ボルト9の間の相互の回転が可能である。
【0040】
図3
【0041】
図3には、拡張装置1の他の好ましい実施形態が部分断面図で図示されている。図2による実施形態とは異なり、ここでは、両拡張ピストン10,11の回転防止部が径方向に突出したガイド突起部27によって実現されており、当該ガイド突起部は、ハウジング5における軸方向のガイド溝28へ入り込む。また、バネ要素31は、図2におけるような皿バネセットに代えてコイルバネとして設けられている。
【0042】
さらに、ここでは、拡張装置1による力の経路が単純化して図示されており、当該力の経路は、ブレーキシュー2,3から拡張装置1へ作用する拡張力Fsによって実現される。支持ピストン24が再調整ボルト9及び再調整ピストン23と共に駆動スリーブ21においてフロート式に支持されているため、これらは、ブレーキシュー2,3の拡張時に軸方向において力均衡して位置している。
【0043】
図4
【0044】
図4には、図3による拡張装置1が示されている。
【0045】
ブロッキング部材15は、拡張ピストン11に対して、2つのストッパ13,14の間で周方向に回転可能に支持されている。両ストッパ13,14間の回転角度は、構造上アイドル回転Lを規定している。
【0046】
この目的のために、ブロッキング部材15には軸部33が形成されているとともに、当該軸部には、リブ状の径方向の2つの突出部20,20’が2つのくさびを有する一種のスプライン軸のように形成されている。
【0047】
拡張ピストン11には凹部19が配置されており、当該凹部は、ここでは軸方向の貫通部として構成されている。しかし、袋状の凹部も本発明においては同様に可能である。凹部は、孔から径方向へ離れる、本質的に扇形の2つの部分35,35’を有する一種の中央孔を断面において備えている。扇形の部分35,35’の脚部は、ストッパ13,14あるいは13’,14’を形成している。突出部20が部分35に位置するように、ブロッキング部材15が軸部35でもって凹部19へ入り込んでいる。したがって、ブロッキング部材15は、拡張ピストン11に対してアイドル回転Lの内部で限定されて回転可能であり、当該限定は、突出部20がその側面でもってストッパ13又はストッパ14に当接することで実現される。
【0048】
係止歯部17における歯数及びネジ部16のネジピッチと共にアイドル回転Lは、再調整装置8の特性について決定的な量である。
【0049】
ここでは不図示の別の実施形態によれば、1つ又は複数の突出部20を有する軸部33が拡張ピストン11に設けられるとともに、凹部19がブロッキング部材15に設けられるように、所定の用途のために軸部33及び凹部19の割り当てを交換することがあり得る。これにより、拡張ピストン11の製造はより手間のかかるものとなるものの、このために、例えば組立におけるその傾動安定性を高めることが可能である。
【0050】
図示の実施形態では、軸部33は、断面において非対称に対向する2つの同一の突出部20,20’でもって構成されている。しかし、本発明内では、1つのみ若しくは2つより多くの突出部を有する様々な別の形態又は対応して応用可能な凹部19と共に対称な構成が常に許容されている。
【0051】
ここに示された操作されていない初期位置では、突出部20がストッパ14に接触している。
【0052】
図5
【0053】
駆動スリーブ21は、制動時に、操作方向Bへ操作され、再調整ピストン23、再調整ボルト3、支持ピストン24及びブロッキング部材15と共に、アイドル回転Lを通過し突出部20がストッパ13に当接するまで回転する。
【0054】
図6
【0055】
更に操作する場合には、ブロッキング部材15はストッパ13に起因して移動しないが、再調整ピストン23は、再調整ボルト3及び支持ピストン24と共に更に回転する。このとき、係止歯部17,18は、再調整ボルト9あるいはブロッキング部材15から互いに対して変位し、ブロッキング部材15は、拡張ピストン11の方向にバネ要素31のバネ力に抗して軸方向に回避する。
【0056】
ブレーキライニング25の摩耗が所定の閾値より小さければ、拡張距離は、この箇所において限定されているとともに、拡張装置1は、ブレーキ過程の終了後、この状態から完全に可逆的に戻る。
【0057】
図7
【0058】
ブレーキライニング25の摩耗が閾値より大きければ、駆動スリーブ21が図6における位置に比して更に回転するように拡張距離が拡大される。これにより、歯37,37’は互いにとび越え、係止歯部17,18は、バネ要素31のバネ力に基づき、変更された、周囲でずれた位置において係合する。これにより、再調整過程が開始される。
【0059】
図8
【0060】
駆動スリーブ21は、ブレーキの解除後、図7における位置から、再調整ピストン23、再調整ボルト3、支持ピストン24及びブロッキング部材15と共に、アイドル回転Lを新たに今回は逆方向に通過し突出部20がストッパ14に当接するまで戻るように回転する。当該回転時には、拡張ピストン10,11も同様に拡張方向Sとは逆に軸方向に戻り、これにより、ボールランプ機構6,7における力レベルが相応して低下する。
【0061】
図9
【0062】
解除方向への更なる移動時には、図8における箇所の後に再調整ピストン23の再調整が開始される。
【0063】
再調整ボルト9の更なる回転は、係止装置によって、ストッパ14によって止められたブロッキング部材において防止される。しかし、駆動スリーブ21は再調整ピストン23と共に初期位置まで更に回転するため、当該再調整ピストンは、ネジ部16において再調整ボルト9に対して相対的に回転し、軸方向に再調整距離Nだけ変位する。これにより、拡張ピストン10,11間の軸方向間隔が、操作されていない初期位置において拡大する。これにより、ブレーキライニング25の摩耗が補整される。
【0064】
このとき、本質的にまだ比較的わずかな摩擦力のみがネジ部16において作用し、支持ピストン23と再調整ボルト9の間の接触面では、アイドル回転Lにより、ボールランプ機構6,7における大きな緊張力が低減されている。
【0065】
図10
【0066】
図10には、ブレーキ操作時及び再調整時の本発明による拡張装置1の単純化された力-距離-グラフが図示されている。
【0067】
実線は、再調整のために設定された閾値Wv未満での新たな状態b0あるいは摩耗した状態b1,2における操作を象徴している。破線bnは、行われる再調整を伴う操作を象徴している。
【0068】
縦軸は、拡張ピストン10,11を介してシステムに作用する拡張力Fsのレベルを示している。横軸は、拡張距離Wsあるいはこれと相関する回転角度αsを示している。
【0069】
段階Iでは、操作開始時に、まずは、アイドル回転Lを進行する(図4図5での位置)。このとき、ブレーキシュー2,3は、ブレーキドラムに接触して当該ブレーキドラムに対して緊張され、緊張力Fsがその動作値Fsbへ増大する。
【0070】
段階IIでは、歯37,37’がとび越える(図6での位置)ことなく、係止歯部17,18が互いに対して回転し始め、摩耗状態b1,b2に応じて、進行した拡張距離Wsが連続的に大きくなる。この段階内では、拡張装置1は、ブレーキの解除時及び拡張力Fsの低減時に再調整なしに完全に可逆的に初期状態へ戻る。
【0071】
切換点Uでは歯37,37’がとび越え、係止装置12は新たな位置で係合し、再調整過程が開始される(図7での位置)。
【0072】
段階IIIでは、ブレーキの解除後に、まず、アイドル回転Lがストッパ14まで戻され、このとき、拡張力Fsが再調整時のその残存値へ大幅に低下する。
【0073】
段階IVでは、低減された緊張力Fsにおいて、再調整ボルト9に対して再調整ピストン23の回転がなされ、再調整距離Nが生じる(図9での位置)。
【符号の説明】
【0074】
1 拡張装置
2 ブレーキシュー
3 ブレーキシュー
4 ドラムブレーキ
5 ハウジング
6 ボールランプ機構
7 ボールランプ機構
8 再調整装置
9 再調整ボルト
10 拡張ピストン
11 拡張ピストン
12 係合装置
13 ストッパ
14 ストッパ
15 ブロッキング部材
16 ネジ部
17 係止歯部
18 係止歯部
19 凹部
20 突出部
21 駆動スリーブ
22 外歯
23 再調整ピストン
24 支持ピストン
25 ブレーキライニング
26 ブレーキシュー収容部
27 ガイド突起部
28 ガイド溝
29 リブ
30 長手溝
31 バネ要素
32 ラジアル軸受
33 軸部
34 孔
35 部分
36 収容スリット部
37 歯
A 拡張軸線
B 操作方向
L アイドル回転
N 再調整距離
S 拡張方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10