(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】電解水生成装置および電解水生成装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/461 20060101AFI20220621BHJP
【FI】
C02F1/461 A
(21)【出願番号】P 2022519144
(86)(22)【出願日】2021-07-06
(86)【国際出願番号】 JP2021025508
【審査請求日】2022-03-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516297242
【氏名又は名称】株式会社エナジックインターナショナル
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】特許業務法人河崎・橋本特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥村 一彦
【審査官】富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-165984(JP,A)
【文献】特開平08-173964(JP,A)
【文献】特開平07-171569(JP,A)
【文献】特開平06-335680(JP,A)
【文献】特開平06-328074(JP,A)
【文献】特開2000-093961(JP,A)
【文献】特開2008-049322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/46-1/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一対の陽極および陰極と、
隔膜で互いに仕切られた陽極室および陰極室を有し、前記陽極室に前記陽極が収容されかつ前記陰極室に前記陰極が収容される電解槽と、
前記陽極と前記陰極との間に電流を流すための電源部と、
前記電源部を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記電解槽に導入される原水を電気分解して前記陰極室で陰極水を生成すると共に前記陽極室で陽極水を生成するように前記電源部を制御する、電解水生成装置であって、
前記制御部は、前記電気分解時の印加電流をi[A]とし、かつ前記電気分解時の前記原水の流量をf[L/sec]として、C・(i/f)(ただし、Cは定数)の値に基づいて、前記電解槽を洗浄する洗浄タイミングを検知する、電解水生成装置。
【請求項2】
前記制御部は、C・(i/f)の積算値に基づいて、前記洗浄タイミングを検知する、請求項1に記載の電解水生成装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記積算値の絶対値が所定の閾値以上となった場合に、前記洗浄タイミングを検知する、請求項2に記載の電解水生成装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記洗浄タイミングを検知したときに、前記電解槽を逆電洗浄するように前記電源部を制御する、請求項1~3のいずれか1項に記載の電解水生成装置。
【請求項5】
少なくとも一対の陽極および陰極と、
隔膜で互いに仕切られた陽極室および陰極室を有し、前記陽極室に前記陽極が収容されかつ前記陰極室に前記陰極が収容される電解槽と、
前記陽極と前記陰極との間に電流を流すための電源部と、
を備える電解水生成装置の制御方法であって、
(i)前記電解槽に導入される原水を電気分解して前記陰極室で陰極水を生成すると共に前記陽極室で陽極水を生成するように前記電源部を制御する工程と、
(ii)前記電気分解時の印加電流をi[A]とし、かつ前記電気分解時の前記原水の流量をf[L/sec]として、C・(i/f)(ただし、Cは定数)の値に基づいて、前記電解槽を洗浄する洗浄タイミングを検知する工程と、
を備える、電解水生成装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電解水生成装置および電解水生成装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電解水生成装置は、水道や井戸と通水管を介して簡便に接続され、電気分解により陰極水(アルカリイオン水もしくは還元水)または陽極水(酸性水)を供給する装置である。水道や井戸からの水は、活性炭などの浄水フィルタにより浄水にされてから当該装置に供給されることもある。浄水フィルタは、当該装置に内蔵されることもある。以下では、電解水生成装置に供給される水を原水という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電解水生成装置では、その心臓部である電解槽にスケールが形成される。そのようなスケールは、逆電洗浄や薬剤洗浄によって除去される。ここで、逆電洗浄とは、電気分解時とは逆の極性の電圧により電極板のスケールを除去する方法である。スケールの洗浄は、通常、一定周期で行われるため、水質や使用状況によっては過洗浄あるいは洗浄不足になってしまうおそれがある。特に逆電洗浄では、電極板の損傷や劣化の問題もあり、逆電洗浄を行うタイミングの適正化が望まれる。実施タイミングの適正化が望まれるのは、薬剤洗浄についても同様である。
【0005】
電解水生成装置で生成するスケールの主成分は炭酸カルシウム(CaCO3)であり、原水に含まれるカルシウムイオンCa2+と炭酸イオンCO3
2-とが反応することで生成することが広く知られている。具体的には、炭酸カルシウム以外にも炭酸マグネシウム(MgCO3)や水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)なども析出するが、水道水などでは量的に僅かとされている。
【0006】
特許文献1では、スケールの主成分であるカルシウムイオンやマグネシウムイオンなどに注目して、原水の全硬度と導電率の相関に基づき、電解水生成装置の使用時の水の導電率を全硬度に換算してスケールの形成量を求め、例えば逆電洗浄を行う時間の適正化を図ることが開示されている。しかし、電気分解時ではなく、非電気分解時の原水の硬度からスケールの形成量を間接的に求めているため、スケールの洗浄タイミングの適正化が図れたとは言えない。
【0007】
言うまでもなく、電気分解さえしなければ、硬度の低い水は勿論、硬度が高い水でも短期間にスケールが形成することはほとんどない。なお、スケールは、高温状態で析出しやすく、また水がアルカリ性に傾いたときにも析出しやすいと言われている。したがって、電解水生成装置では、スケールの形成について電気分解時の現象から直接的に解明することが望まれる。以上のような状況において、本開示は、電解槽を適切なタイミングで洗浄できるようにすることを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る一局面は、電解水生成装置に関する。当該電解水生成装置は、少なくとも一対の陽極および陰極と、隔膜で互いに仕切られた陽極室および陰極室を有し、前記陽極室に前記陽極が収容されかつ前記陰極室に前記陰極が収容される電解槽と、前記陽極と前記陰極との間に電流を流すための電源部と、前記電源部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記電解槽に導入される原水を電気分解して前記陰極室で陰極水を生成すると共に前記陽極室で陽極水を生成するように前記電源部を制御する、電解水生成装置であって、前記制御部は、前記電気分解時の印加電流をi[A]とし、かつ前記電気分解時の前記原水の流量をf[L/sec]として、C・(i/f)(ただし、Cは定数)の値に基づいて、前記電解槽を洗浄する洗浄タイミングを検知する。
【0009】
本開示に係る別の一局面は、電解水生成装置の制御方法に関する。当該制御方法は、少なくとも一対の陽極および陰極と、隔膜で互いに仕切られた陽極室および陰極室を有し、前記陽極室に前記陽極が収容されかつ前記陰極室に前記陰極が収容される電解槽と、前記陽極と前記陰極との間に電流を流すための電源部と、を備える電解水生成装置の制御方法であって、(i)前記電解槽に導入される原水を電気分解して前記陰極室で陰極水を生成すると共に前記陽極室で陽極水を生成するように前記電源部を制御する工程と、(ii)前記電気分解時の印加電流をi[A]とし、かつ前記電気分解時の前記原水の流量をf[L/sec]として、C・(i/f)(ただし、Cは定数)の値に基づいて、前記電解槽を洗浄する洗浄タイミングを検知する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、電解槽を適切なタイミングで洗浄することが可能となる。
【0011】
本開示の新規な特徴を添付の請求の範囲に記述するが、本開示は、構成および内容の両方に関し、本願の他の目的および特徴と併せ、図面を照合した以下の詳細な説明によりさらによく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態1の電解水生成装置を模式的に示す正面図である。
【
図2】実施形態1の測定試験の結果を示すグラフである。
【
図3】実施形態2の電解水生成装置を模式的に示す正面図である。
【
図4】電解水生成装置の制御方法のフローチャートである。
【
図5】実施形態2の測定試験の結果を示すグラフである。
【
図6】試験実施後の陰極板の写真であって、(a)が実施例1の陰極板、(b)が比較例1の陰極板である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示に係る電解水生成装置および電解水生成装置の制御方法の実施形態について例を挙げて以下に説明する。しかしながら、本開示は以下に説明する例に限定されない。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本開示の効果が得られる限り、他の数値や材料を適用してもよい。
【0014】
(電解水生成装置)
本開示に係る電解水生成装置は、少なくとも一対の陽極および陰極と、電解槽と、電源部と、制御部とを備える。
【0015】
少なくとも一対の陽極および陰極は、それぞれ電極板で構成されてもよい。陽極および陰極は、一対設けられてもよいし、複数対設けられてもよい。
【0016】
電解槽は、隔膜で互いに仕切られた陽極室および陰極室を有する。隔膜は、イオン透過性を有する材料であればよく、多孔質膜やイオン交換膜を用いてもよい。陽極室には、陽極が収容される。陰極室には、陰極が収容される。陽極および陰極の材質および構造は、特に限定されず、金属、炭素材料などの公知の材料を用いてよい。陽極室の数は、陽極の数と同じであってもよく、異なってもよい。陰極室の数は、陰極の数と同じであってもよく、異なってもよい。複数の陽極が存在する場合、複数の陽極室の各々に1つ以上の陽極が収容されてもよい。複数の陰極が存在する場合、複数の陰極室の各々に1つ以上の陰極が収容されてもよい。
【0017】
電源部は、陽極と陰極との間に電流を流すための要素である。電源部は、例えば、陽極と陰極との間に直流電圧を印加することで両者の間に電流を流してもよい。
【0018】
制御部は、電源部を制御するための要素である。制御部は、電解槽に導入される原水を電気分解して陰極室で陰極水を生成すると共に陽極室で陽極水を生成するように電源部を制御する。制御部は、演算装置と、演算装置によって実行可能なプログラムが格納された記憶装置とを具備してもよい。記憶装置に格納されたプログラムは、本開示に係る電解水生成装置の制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであってもよい。
【0019】
制御部は、電気分解時の印加電流をi[A]とし、電気分解時の原水の流量をf[L/sec]として、C・(i/f)の値に基づいて、電解槽を洗浄する洗浄タイミングを検知する。ここで、Cは定数であって、例えば、電解水生成装置の具体的構成に基づいて解析的および/または実験的に定められてもよい。
【0020】
本願発明者は、C・(i/f)の値を用いることで、電解水生成装置におけるスケールの形成について電気分解時の現象から直接的に解明できること、ひいては電解槽の洗浄タイミングを適切に検知できることを見出した。このことについて、詳しくは後述する。そして、洗浄タイミングが検知された場合、電解水生成装置が自動で、あるいは当該装置の操作者がマニュアルで電解槽の洗浄を行えばよい。洗浄には、上述の逆電洗浄および薬液洗浄のいずれを用いてもよい。なお、逆電洗浄には、電源部など装置内の要素のみで実行できるという長所がある一方、薬液洗浄には、電解槽の他に通水経路なども洗浄できるという長所がある。
【0021】
制御部は、C・(i/f)の積算値に基づいて、洗浄タイミングを検知してもよい。本願発明者は、当該積算値と、電解水生成装置におけるスケールの形成量との間に相関関係があることを見出した。したがって、そのような積算値を利用することで、電解槽の洗浄タイミングをより適切に検知することができる。
【0022】
制御部は、C・(i/f)の積算値の絶対値が所定の閾値以上となった場合に、洗浄タイミングを検知してもよい。本願発明者は、当該積算値の絶対値が所定の閾値に至るまではスケールがほとんど形成されず、所定の閾値以上になると、電解槽の洗浄の必要性が高まることを見出した。そのような絶対値が所定の閾値以上となったタイミングを電解槽の洗浄タイミングと見なすことができる。なお、C・(i/f)の値は、電解水生成装置の運転モードに応じて、正値と負値の両方をとり得る。
【0023】
制御部は、洗浄タイミングを検知したときに、電解槽を逆電洗浄するように電源部を制御してもよい。この構成によると、電解水生成装置において、適切なタイミングで電解槽の逆電洗浄が自動で行われる。したがって、過洗浄および洗浄不足を回避して、陽極や陰極の消耗抑制と、陽極や陰極へのスケール蓄積の抑制とを容易に両立することができる。
【0024】
(電解水生成装置の制御方法)
本開示に係る電解水生成装置の制御方法は、少なくとも一対の陽極および陰極と、電解槽と、電源部とを備える電解水生成装置の制御方法である。少なくとも一対の陽極および陰極と、電解槽と、電源部との各々の構成は、上述した構成と同じであってもよい。当該制御方法は、工程(i)と、工程(ii)とを備える。
【0025】
工程(i)では、電解槽に導入される原水を電気分解して陰極室で陰極水を生成すると共に陽極室で陽極水を生成するように電源部を制御する。これにより、ユーザは、必要に応じて、陰極水または陽極水を利用することができる。
【0026】
工程(ii)では、電気分解時の印加電流をi[A]とし、かつ電気分解時の原水の流量をf[L/sec]として、C・(i/f)の値に基づいて、電解槽を洗浄する洗浄タイミングを検知する。ここで、Cは定数であって、例えば、電解水生成装置の具体的構成に基づいて解析的および/または実験的に定められてもよい。C・(i/f)の値を用いることで、電解槽の洗浄タイミングを適切に検知できる。そして、洗浄タイミングが検知された場合、電解水生成装置が自動で、あるいは当該装置の操作者がマニュアルで電解槽の洗浄を行えばよい。洗浄には、上述の逆電洗浄および薬液洗浄のいずれを用いてもよい。なお、「C・(i/f)の値を用いる」とは、任意の1つ以上のタイミングにおけるC・(i/f)の値を指標とする場合が広く含まれる。C・(i/f)の値はそのまま用いてもよく、様々な関数で変換して用いてもよく、複数のタイミングにおけるC・(i/f)の値を加工(例えば積算)して用いてもよい。
【0027】
以上のように、本開示によれば、電解水生成装置の電解槽を適切なタイミングで洗浄することが可能となる。さらに、本開示によれば、次に列挙する効果(1)~(3)が得られる。
(1)(i/f)というこれまで示されてこなかったパラメータを用いることで、原水の硬度や使用形態に依存することなく、国内でも国外でも文化生活様式に関わらず、スケールの洗浄除去に関する最適な制御を実現することができる。
(2)電気分解時の電流や流量の値を取得するために、従来から電解水生成装置に搭載されているセンサを用いるため、追加的なデバイスを導入することなく、適切なタイミングでのスケール洗浄除去を実現することができる。
(3)装置使用時の電解水の種類(例えば強陰極水、中陰極水、または弱陰極水)や流量ごとの膨大かつ複雑なデータではなく、(i/f)という簡素なパラメータを用いるため、本開示の制御部または制御方法を実現するために大容量のマイコンなどを必要とせず、低コストにスケール洗浄除去のタイミングの最適化を実現することができる。
【0028】
本開示は、電解水生成装置におけるスケール形成が、電解水を生成すること、すなわち電解槽で原水を電気分解することによって加速されるという観点に立つ。すなわち、電気分解時に陽極室から陰極室へ移動したカルシウムイオンがスケール形成のトリガになっているという視点に立ち、カルシウムイオンの量を決定づけるパラメータを直接に測定し、当該パラメータに基づいてスケール形成量を求め、適切なタイミングで当該スケールを洗浄除去する。
【0029】
カルシウムイオンやマグネシウムイオンなどのカチオンは、陽極室から隔膜を通って陰極室へ移動し、陰極室の炭酸イオンと結合し、これによりスケールが形成する。実際に、スケールは陽極室よりも陰極室で観察されることが多いことからも、陰極室へのカルシウムイオンやマグネシウムイオンの移動量を知ることが必要になる。
【0030】
陽極室で形成したカルシウムイオンやマグネシウムイオンが陰極室へ移動する量を知る手掛かりは、電解質溶液中の電気分解に関するファラデーの電気分解の法則にある。ファラデーの法則は、基本的に次の(1)式に基づく法則である。
【0031】
【数1】
ここで、Nは、イオンの移動量[mol]であり、zは、イオン価数であり、Qは、電気量[クーロン]=(i・t)であり、Fは、ファラデー定数[クーロン/mol]であり、iは、電気分解電流すなわち印加電流[A]であり、tは、電気分解時間すなわち印加時間[sec]である。
【0032】
ファラデーの電気分解の法則に基づくカルシウムイオンやマグネシウムイオンの移動量に関する(1)式を電解水生成装置の電解槽に適用するには、一つの大きな課題がある。すなわち、ファラデーの電気分解の法則は、溶液が一定の容器に入れられた静的なモデルを対象とするのに対し、電解水生成装置の電解槽の溶液は電気分解時間中にある流量をもって流れる動的なモデルである。これに対して、本願発明者は、ファラデーの電気分解の法則が容器の大きさや形状に拘束されていない点に注目し、同法則の電解槽への適用を可能にするというアプローチを試みた。
【0033】
上記アプローチを(1)式に適用するため、電解水生成装置の電解槽の場合、電気分解時間t[sec]に流れた流量f[L/sec]を一定の仮想容器に入れられたと見なすと、その容量は(f・t)[L]となる。したがって、単位流量あたりのイオンの移動量N[mol]をイオン濃度M[mol/L]に変換すると次の(2)式が得られる。
【0034】
【0035】
(2)式は、1価、2価など全てのイオン濃度を表す。カルシウムイオンやマグネシウムイオンの場合、イオン価数z=2であるため、次の(3)式が得られる。
【0036】
【0037】
(3)式は、特にカルシウムイオンに限らず、厳密に言えばマグネシウムイオンなど2価のイオン全ての濃度または硬度を表しているといえる。
【0038】
ファラデーの電気分解の法則から演繹して得た(2)式と(3)式は、これまでになかった新しい知見である。その重要性は、電解水生成装置の使用時の電解槽におけるカルシウムイオンやマグネシウムイオンなどの発生量を、流量fと印加電流iのみから簡便に求めることができることを明らかにしたことにある。
【0039】
(2)式と(3)式の(i/f)は、結果的に単位流量あたりの印加電流を示すが、印加電流および流量は、電解水生成装置の制御に極めて重要なパラメータであって、市販の電解水生成装置の多くに流量センサと電源が搭載されている。したがって、これらから得られる流量と印加電流からなる(i/f)は、電解水生成装置の開発および使用に極めてドミナントなパラメータであり、新たなデバイスを導入することなく当該パラメータを求められることは革新的な知見である。
【0040】
2価イオン濃度M(すなわち、全硬度)と、印加電流iおよび流量fの一方との関係について解析してもスケール形成現象を解明することはできなかったが、(3)式に基づいて解析することで簡単に解明することができた。陰極室へ移動したカルシウムイオンまたはマグネシウムイオンの量は、直接に知ることはできなかったが、陽極室で減少したカルシウムイオンまたはマグネシウムイオンの量から一元的に知ることができた。重要な知見が得られると同時に、(3)式の有用性を実証的に証明することができた。その詳細は、実施形態1の説明において後述する。
【0041】
全硬度は、カルシウムイオン量とマグネシウムイオン量の和と定義される。しかし、一般に水道水のような原水の場合は雑多なイオンが多く含まれず、カルシウムイオンの量がマグネシウムイオンの量よりも多い。炭酸カルシウムに換算して硬度とする定義から、カルシウムイオンの量をもって硬度として扱うことも許されており、全硬度をしばしば単に硬度ということも多い。これらを前提に、本開示では、カルシウムイオンの量を滴定により簡便に計り、その単位容量あたりの濃度を全硬度やスケールの全量と見なす。
【0042】
特許文献1のように、従来から、スケールの形成は原水の硬度あるいはカルシウムイオン濃度に依存するという考えが示されてきた。そこで、原水の硬度や印加電流の条件を様々に変えて、(3)式の(i/f)を用いて解析した。その結果、スケールの形成とC・(i/f)との関係性が、原水の硬度やカルシウムイオン濃度に左右されないことも実証的に証明することができた。その詳細は、実施形態1,2の説明において後述する。
【0043】
なお、実施形態2のデータ(後述)から、あらゆる測定点が一つの直線に収斂し、次の(4)式が得られた。
【0044】
【0045】
すなわち、(4)式は、陽極室から陰極室へ移動して陽極室で減少したカルシウムイオン濃度を示すものであり、かつ移動したカルシウムイオンが陰極室で炭酸イオンと反応してスケールを形成する量を示すものである。この情報を利用することで、原水の硬度に左右されることなく、またスケール形成前に電極板を損傷することなく、スケールを洗浄除去することが可能となる。
【0046】
以下では、本開示に係る電解水生成装置および電解水生成装置の制御方法の一例について、図面を参照して具体的に説明する。以下で説明する一例の電解水生成装置および電解水生成装置の制御方法の構成要素および工程には、上述した構成要素を適用できる。以下で説明する一例の電解水生成装置および電解水生成装置の制御方法の構成要素および工程は、上述した記載に基づいて変更できる。また、以下で説明する事項を、上記の実施形態に適用してもよい。以下で説明する一例の電解水生成装置および電解水生成装置の制御方法の構成要素および工程のうち、本開示に係る電解水生成装置および電解水生成装置の制御方法に必須ではない構成要素および工程は省略してもよい。なお、以下で示す図は模式的なものであり、実際の部材の形状や数を正確に反映するものではない。
《実施形態1》
本開示の実施形態1について説明する。
図1に示すように、本実施形態の電解水生成装置1は、一対の陽極32および陰極31と、電解槽3と、電源部14と、制御部10とを備える。電解水生成装置1は、さらに、給水管40と、陰極室給水管41と、陽極室給水管42と、陰極室吐水管51と、陽極室吐水管52とを備える。
【0047】
一対の陽極32および陰極31は、それぞれ電極板で構成される。陽極32および陰極31の各々は、例えば矩形板状であってもよいが、これに限られるものではない。
【0048】
電解槽3は、隔膜33で互いに仕切られた陽極室32aおよび陰極室31aを有する。陽極室32aには、陽極32が収容される。陰極室31aには、陰極31が収容される。本実施形態の電解槽3は、陽極室32aおよび陰極室31aを1つずつ有する。電解槽3では、原水が電気分解されることにより、陰極室31aで陰極水が、陽極室32aで陽極水が、それぞれ生成される。隔膜33は、陰極室31aで生成した陰イオンを陽極室32aへ透過移動させると共に、陽極室32aで生成した陽イオンを陰極室31aへ透過移動させる機能を有する。
【0049】
電源部14は、陽極32と陰極31との間に直流電圧を印加することで、両者の間に電流を流すための要素である。電源部14は、電解槽3の外部に設けられ、陽極32および陰極31に接続されている。
【0050】
制御部10は、電源部14を制御するための要素である。制御部10は、電解槽3に導入される原水を電気分解して陰極室31aで陰極水を生成すると共に陽極室32aで陽極水を生成するように電源部14を制御する。また、制御部10は、電気分解時の印加電流をi[A]とし、かつ電気分解時の原水の流量をf[L/sec]として、C・(i/f)(ただし、Cは定数)の積算値の絶対値が所定の閾値以上となった場合に、電解槽3を洗浄する洗浄タイミングを検知する。制御部10は、洗浄タイミングを検知したときに、電解槽3を逆電洗浄するように電源部14を制御する。
【0051】
給水管40、陰極室給水管41、および陽極室給水管42は、電解槽3に原水を供給するための管である。給水管40は、原水の供給源(例えば、水道や井戸)と、陰極室給水管41および陽極室給水管42とを接続する。陰極室給水管41は、陰極室31aの流入口に接続している。陽極室給水管42は、陽極室32aの流入口に接続している。
【0052】
陰極室吐水管51、および陽極室吐水管52は、電解槽3で生成した陰極水および陽極水を外部へ供給するための管である。陰極室吐水管51は、陰極室31aの流出口に接続している。陽極室吐水管52は、陽極室32aの流出口に接続している。
【0053】
-電解水生成装置を用いた測定試験-
上述の電解水生成装置1を用いて次の測定試験を実施した。すなわち、電解水生成装置1に原水を供給し、これを一定電流で電気分解したときの陰極室吐水管51および陽極室吐水管52の全硬度を測定した。この測定は、原水の全硬度や電気分解時の印加電流、ならびに原水の流量といった条件を適宜変更して行った。ここで、陰極室吐水管51および陽極室吐水管52の各々から流出する陽極水および陰極水をビーカーに1分間採水し、これらをメスシリンダーで計って全硬度の測定を行った。全硬度の測定には、電位差自動滴定装置AT-710(京都電子工業株式会社製)を使用した。また、電源部14として、電源装置PK60-20(松定プレシジョン株式会社製)を使用した。
【0054】
上述の測定試験の条件を表1に示すと共に、試験結果を
図2に示す。
図2において、(i/f)は、陰極をプラスとし、陽極をマイナスとした。
図2では、条件1-1の測定値を対角線が斜めに延びる黒塗りの四角で、条件1-2の測定値をバツで、条件1-3の測定値を対角線が上下左右に延びる黒塗りの四角で、条件1-4の測定値を黒塗りの三角で、条件1-5の測定値を黒塗りの丸で、それぞれ示す。
図2の縦軸(ΔM)は、原水全硬度を基準値として、その基準値からの変化量を示す。
【0055】
【0056】
陰極室31aの陰極水の全硬度は(3)式にしたがって増加すると考えた。ところが、(i/f)の値がある程度大きくなると増加から減少に転じた。一方、陽極室32aの陽極水の全硬度は、(i/f)の値に対して比例的に減少した。この結果は、ファラデーの電気分解の法則通りではない結果に見えたが、陽極室32aおよび陰極室31aを一元的に捉えると、表1および
図2の結果は電気分解の法則に基づいて次のように理解される。
【0057】
すなわち、カルシウムイオン(およびマグネシウムイオン)が隔膜33を通って陰極室31aに移動した結果、陽極室32aではカルシウムイオン量(およびマグネシウムイオン量)が減少し、陰極室31aに移動したカルシウムイオン(およびマグネシウムイオン)が陰極室31aで少しの間を置いて発生した炭酸イオンと反応し、カルシウムイオン量(およびマグネシウムイオン量)が減少したと考察される。陽極室32aで減少したカルシウムイオン量(およびマグネシウムイオン量)は、陰極室31aへ移動したカルシウムイオン量(およびマグネシウムイオン量)と同等と考えることができる。
【0058】
陰極室31aへ移動したカルシウムイオン(およびマグネシウムイオン)は炭酸イオンと反応して炭酸カルシウム(および炭酸マグネシウム)、すなわちスケール形成のトリガとなる。時間の経過と共にスケールが形成されていくと考えられている。したがって、移動したカルシウムイオン(およびマグネシウムイオン)の濃度の積算量に基づき、スケールが成長する前の最適なタイミングで、例えば逆電洗浄や薬剤洗浄による洗浄除去が可能となる。このカルシウムイオン濃度の積算量は、電解槽3の構造や材質および形状により異なるために一概には決定できず、電解水生成装置1の固有性から割り出されるものである。
【0059】
《実施形態2》
本開示の実施形態2について説明する。本実施形態の電解水生成装置1は、複数対の陽極32および陰極31を備える点などで上記実施形態1と異なる。以下、上記実施形態1と異なる点について主に説明する。
【0060】
図3に示すように、電解水生成装置1は、複数対(この例では、七対)の陽極32および陰極31と、電解槽3と、電源部14と、電流検知部13と、表示操作部12と、制御部10とを備える。電解水生成装置1は、さらに、通水管20と、給水管40と、陰極室給水管41と、陽極室給水管42と、陰極室吐水管51と、陽極室吐水管52とを備える。
【0061】
複数対の陽極32および陰極31は、それぞれ電極板で構成される。陽極32および陰極31の各々は、例えば矩形板状であってもよいが、これに限られるものではない。
【0062】
電解槽3は、複数(この例では、4つ)の陽極室32aと、複数(この例では、4つ)の陰極室31aとを有する。複数の陽極室32aと複数の陰極室31aとは、1つずつ対をなしている。対をなす陽極室32aと陰極室31aとは、隔膜33で互いに仕切られている。各陽極室32aには、1つの陽極32が収容される。各陰極室31aには、1つの陰極31が収容される。
【0063】
電源部14は、陽極32と陰極31との間に直流電圧を印加することで、両者の間に電流を流すための要素である。電源部14は、全ての陽極32および全ての陰極31に接続されている。
【0064】
電流検知部13は、電気分解時に陽極32と陰極31との間に流れる電流を検知するための要素である。電流検知部13が検知した電流の情報は、制御部10に送られる。本実施形態の電流検知部13は、複数の陽極32と複数の陰極31との間に流れる電流、すなわち電源部14から電解槽3に供給される総電流を検知するように構成される。ただし、電流検知部13は、一部の陽極32と一部の陰極31との間に流れる電流を検知するように構成されてもよい。
【0065】
表示操作部12は、電解水生成装置1の動作状態を表示し、かつ電解水生成装置1の動作を操作するための要素である。表示操作部12は、例えばタッチパネルで構成されてもよい。表示操作部12は、制御部10からの指令を受けて電解水生成装置1の動作状態を表示する。表示操作部12は、ユーザからの操作を受けて、その操作情報を制御部10に送る。
【0066】
制御部10は、電源部14を制御するための要素である。制御部10は、電気分解時の印加電流(上述の総電流)をi[A]とし、かつ電気分解時の原水の流量(総流量)をf[L/sec]として、C・(i/f)(ただし、Cは定数)の積算値の絶対値が所定の閾値以上となった場合に、電解槽3を洗浄する洗浄タイミングを検知する。制御部10は、洗浄タイミングを検知したときに、ユーザにその情報を通知してもよく、電解槽3を自動的に逆電洗浄するように電源部14を制御してもよい。また、制御部10は、電解水生成装置1の動作状態を表示するように表示操作部12を制御する。
【0067】
通水管20、給水管40、陰極室給水管41、および陽極室給水管42は、電解槽3に原水を供給するための管である。通水管20および給水管40は、原水の供給源(例えば、水道や井戸)と、陰極室給水管41および陽極室給水管42とを接続する。陰極室給水管41は、各陰極室31aの流入口に接続している。陽極室給水管42は、各陽極室32aの流入口に接続している。
【0068】
通水管20と給水管40との間には、浄水フィルタ2が設けられる。給水管40には、流量センサ43が設けられる。浄水フィルタ2は、例えば活性炭などを含み、通水管20から流入する原水を浄化して給水管40へ流出させる。流量センサ43は、給水管40を流れる原水の流量を検知する。流量センサ43が検知した流量の情報は、制御部10に送られる。
【0069】
陰極室吐水管51、および陽極室吐水管52は、電解槽3で生成した陰極水および陽極水を外部へ供給するための管である。陰極室吐水管51は、各陰極室31aの流出口に接続している。陽極室吐水管52は、各陽極室32aの流出口に接続している。
【0070】
-電解水生成装置の制御方法-
次に、電解水生成装置の制御方法の一例について、
図4を参照しながら説明する。電解水生成装置の制御方法によると、適切なタイミングで電解槽3の洗浄が行われる。電解水生成装置の制御方法は、ステップ1~21(ST1~21)を備える。
【0071】
図4に示すように、ステップ1(ST1)では、通水の有無を確認する。ステップ1において、制御部10は、流量センサ43の検知信号に基づいて、通水の有無を確認してもよい。通水が検出されない場合(ステップ1でNoの場合)、ステップ1を繰り返す。通水が検出された場合(ステップ1でYesの場合)、ステップ2に進む。
【0072】
ステップ2(ST2)では、電解水生成装置1のモードを確認する。ステップ2において、制御部10は、表示操作部12からの信号に基づいて、電解水生成装置1のモードを確認してもよい。電解水生成装置1が浄水モードである場合、ステップ3に進む。電解水生成装置1がアルカリ水モードである場合、ステップ4に進む。電解水生成装置1が酸性水モードである場合、ステップ8に進む。
【0073】
ステップ3(ST3)では、制御部10が、電解電流(電気分解時の印加電流)を0Aに設定する。この設定を完了したら、ステップ11に進む。
【0074】
ステップ4(ST4)では、アルカリ水モードの強度設定を確認する。ステップ4において、制御部10は、表示操作部12からの信号に基づいて、アルカリ水モードの強度設定を確認してもよい。強度設定が弱設定である場合、ステップ5に進む。強度設定が中設定である場合、ステップ6に進む。強度設定が強設定である場合、ステップ7に進む。
【0075】
ステップ5(ST5)では、電解電流を1.5Aに設定する。この設定を完了したら、ステップ10に進む。なお、電解電流の設定値は、あくまで例示であって、任意に設定可能である。このことは、ステップ6~8においても同様である。
【0076】
ステップ6(ST6)では、制御部10が、電解電流を3.0Aに設定する。この設定を完了したら、ステップ10に進む。
【0077】
ステップ7(ST7)では、制御部10が、電解電流を6.0Aに設定する。この設定を完了したら、ステップ10に進む。
【0078】
ステップ8(ST8)では、制御部10が、電解電流を6.0Aに設定する。この設定を完了したら、ステップ9に進む。
【0079】
ステップ9(ST9)では、制御部10が、電圧極性の反転モードをON状態に設定する。この設定を完了したら、ステップ10に進む。
【0080】
ステップ10(ST10)では、電解電圧を印加する。ステップ10において、制御部10は、ステップ5~8で設定された電解電流が流れるよう、陽極32と陰極31との間に直流電圧を印加するように電源部14を制御してもよい。このような制御により、陰極水が生成されると共に陽極水が生成される。続いて、ステップ11に進む。
【0081】
ステップ11(ST11)では、電解電流iを検出する。ステップ11において、制御部10は、電流検知部13からの信号に基づいて、電解電流iを検出してもよい。続いて、ステップ12に進む。
【0082】
ステップ12(ST12)では、流量fを検出する。ステップ12において、制御部10は、流量センサ43からの信号に基づいて、流量fを検出してもよい。続いて、ステップ13に進む。
【0083】
ステップ13(ST13)では、(i/f)の値を算出すると共に、算出値を積算して記憶する。ステップ13において、制御部10は、ステップ11,12で検出した電解電流iと流量fとに基づいて、(i/f)の値を算出してもよい。制御部10は、当該算出値を積算し、積算値を記憶する。続いて、ステップ14に進む。
【0084】
ステップ14(ST14)では、通水が停止したか否かを確認する。ステップ14において、制御部10は、流量センサ43の検知信号に基づいて、通水が停止したか否かを確認してもよい。通水の停止が検出されない場合(ステップ14でNoの場合)、ステップ15に進む。通水の停止が検出された場合(ステップ14でYesの場合)、ステップ17に進む。
【0085】
ステップ15(ST15)では、制御部10が、電解電流iが設定電流値になっているか否かを確認する。ここで、電解電流iの絶対値と設定電流値との間の差が所定の電流閾値よりも小さい場合、電解電流iが設定電流値になっていると判定してもよい。電解電流iが設定電流値になっている場合(ステップ15でYesの場合)、ステップ2に戻る。電解電流iが設定電流値になっていない場合(ステップ15でNoの場合)、ステップ16に進む。
【0086】
ステップ16(ST16)では、電解電圧を調整する。ステップ16において、制御部10は、電解電流iが設定電流値に近づくように電源部14を制御してもよい。この調整を完了したら、ステップ2に戻る。
【0087】
ステップ17(ST17)では、電解電圧の印加を停止する。ステップ17において、制御部10は、陽極32と陰極31との間に電圧を印加しないように電源部14を制御してもよい。続いて、ステップ18に進む。
【0088】
ステップ18(ST18)では、制御部10が、電圧極性の反転モードがON状態になっているか否かを確認する。反転モードがON状態になっている場合(ステップ18でYesの場合)、ステップ19に進む。反転モードがOFF状態になっている場合(ステップ18でNoの場合)、ステップ20に進む。
【0089】
ステップ19(ST19)では、制御部10が、電圧極性の反転モードをOFF状態に設定する。この設定を完了したら、ステップ20に進む。
【0090】
ステップ20(ST20)では、制御部10が、(i/f)の積算値の絶対値が設定値(所定の閾値)よりも小さいか否かを判定する。この場合、本開示における定数Cは1であるが、定数Cの値は任意に設定可能である。当該絶対値が設定値以上である場合(ステップ20でNoの場合)、電解槽3の洗浄タイミングを検知して、ステップ21に進む。当該絶対値が設定値よりも小さい場合(ステップ20でYesの場合)、一連の制御を終了する。
【0091】
ステップ21(ST21)では、電解槽3の洗浄処理を行う。ステップ21において、制御部10は、電解槽3を自動的に逆電洗浄するように電源部14を制御してもよい。洗浄処理を完了したら、一連の制御を終了する。ステップ21は、制御部10が検知した電解槽3の洗浄タイミングをユーザに検知し、ユーザが電解槽3の逆電洗浄の開始を指示する(逆電洗浄開始のスイッチをONする)ステップでもよい。
【0092】
-電解水生成装置を用いた測定試験-
上述の電解水生成装置1を用いて次の測定試験を実施した。すなわち、電解水生成装置1に原水を供給し、これを一定電流で電気分解したときの陰極室吐水管51および陽極室吐水管52のカルシウムイオン濃度を測定した。この測定は、原水のカルシウムイオン濃度や電気分解時の印加電流、ならびに原水の流量といった条件を適宜変更して行った。ここで、陰極室吐水管51および陽極室吐水管52の各々から流出する陰極水および陽極水をビーカーに1分間採水し、これらをメスシリンダーで計ってカルシウムイオン濃度の測定を行った。カルシウムイオン濃度の測定には、電位差自動滴定装置AT-710(京都電子工業株式会社製)を使用した。また、電源部14として、電源装置PK60-20(松定プレシジョン株式会社製)を使用した。
【0093】
上述の測定試験の条件を表2に示すと共に、試験結果を
図5に示す。
図5において、(i/f)は、陰極をプラスとし、陽極をマイナスとした。
図5では、条件2-1の測定値をバツで、条件2-2の測定値を対角線が上下左右に延びる白抜きの四角で、条件2-3の測定値を対角線が斜めに延びる白抜きの四角で、条件2-4の測定値を白抜きの三角で、条件2-5の測定値を白抜きの丸で、条件2-6の測定値を黒塗りの四角で、条件2-7の測定値をドット塗りの四角で、それぞれ示す。
図5の縦軸(ΔMc)は、原水カルシウムイオン濃度を基準値として、その基準値からの変化量を示す。
【0094】
【0095】
図5からわかるように、実施形態2においても上記実施形態1の測定結果とよく似た測定結果が得られた。この測定結果についても、上記実施形態1における考察が当てはまる。
図5では、各条件のプロットが一つの近似直線(
図5に破線で示す。)に収斂し、その勾配から上述の(4)式が得られた。
【0096】
全電流における全イオンの濃度は(2)式で表され、またイオン価数2の全硬度に合わせると(3)式で表される。ここで、(2)式および(3)式は理論式である。これに対し、(4)式は、(3)式に基づいて実施形態2の電解水生成装置1において得られた実験式である。理論式である(3)式は、全硬度を表す式に近いと理解され、電解水生成装置1の開発時に重要度が高く、実験式である(4)式は、電解水生成装置1に固有の式であり、同装置を市場に供給する時に重要度が高い。いずれにしても、
図2および
図5のそれぞれの近似直線の全硬度やカルシウムイオン濃度は、全電流のほぼ30%と評価され、両者間に大きな差異はなかった。
【実施例】
【0097】
以下に示す実施例1,2および比較例1,2の電解水生成装置1において、陰極31の洗浄が適切に行われるか否かを実験的に調べた。
【0098】
《実施例1》
上記実施形態2の構造を有する電解水生成装置1において、
図4を参照して説明した制御方法を実行するためのプログラムを制御部10に格納した。当該プログラムにしたがって電解槽3の逆電洗浄を行うようにした。電解槽3に供給する原水の全硬度を80mg/Lとし、20時間使用後の陰極31におけるスケールの状態と、陰極31の白金メッキの厚さとから、適切な洗浄がなされたか否かを判定した。20時間使用の内訳として、6~7分/日、25~35L/日の使用を半年間かけて実施した。20時間使用後の通水量は、約4800Lであった。本実施例の試験後の陰極31の写真を
図6(a)に示す。同図からわかるように、陰極31の表面にスケールは残っておらず、電極本来の白金面が露出しており良好な状態であった。また、白金メッキ厚の減少も見られなかった。以上より、過洗浄にも洗浄不足にもなっておらず、適切なスケール洗浄が行われたことが確認された。
【0099】
《実施例2》
電解槽3に供給する原水の全硬度を200mg/Lとした。20時間使用後の通水量は、約6500Lであった。それ以外の条件は、実施例1と同じにした。結果として、陰極31の表面にスケールは残っておらず、白金メッキ厚の減少も見られなかった。このことから、過洗浄にも洗浄不足にもなっておらず、適切なスケール洗浄が行われたことが確認された。
【0100】
《比較例1》
上記実施形態2の構造を有する電解水生成装置1において、一定時間周期(15分周期)で電解槽3の逆電洗浄を行うようにした。それ以外の条件は、実施例1と同じにした。本比較例の試験後の陰極31の写真を
図6(b)に示す。同図からわかるように、陰極31の表面に、上流部(写真下部)を中心にスケールが残っていることが確認された。白金メッキ厚の減少は見られなかったが、洗浄不足になっていることが確認された。本比較例では、洗浄周期(15分周期)が最適制御よりも長かったことが推察される。
【0101】
《比較例2》
上記実施形態2の構造を有する電解水生成装置1において、一定時間周期(15分周期)で電解槽3の逆電洗浄を行うようにした。それ以外の条件は、実施例2と同じにした。結果として、陰極31の表面にスケールが残っていなかったが、白金メッキ厚の減少(平均0.15μmから平均0.14μmへの減少)が見られた。このことから、本比較例では過洗浄になっていることが確認された。本比較例では、洗浄周期(15分周期)が最適制御よりも短かったことが推察される。
【0102】
各実施例および各比較例の試験結果から、本開示の技術によると、原水の硬度や使用形態に依存することなく、適切なタイミングでスケールの洗浄除去を実行できることが確認された。
【0103】
本開示を現時点での好ましい実施態様に関して説明したが、そのような開示を限定的に解釈してはならない。種々の変形および改変は、上記開示を読むことによって本開示に属する技術分野における当業者には間違いなく明らかになるであろう。したがって、添付の請求の範囲は、本開示の真の精神および範囲から逸脱することなく、すべての変形および改変を包含する、と解釈されるべきものである。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本開示は、電解水生成装置および電解水生成装置の制御方法に利用できる。
【符号の説明】
【0105】
1:電解水生成装置
10:制御部
12:表示操作部
13:電流検知部
14:電源部
2:浄水フィルタ
20:通水管
3:電解槽
31:陰極
31a:陰極室
32:陽極
32a:陽極室
33:隔膜
40:給水管
41:陰極室給水管
42:陽極室給水管
43:流量センサ
51:陰極室吐水管
52:陽極室吐水管
【要約】
開示される電解水生成装置1は、少なくとも一対の陽極32および陰極31と、隔膜33で互いに仕切られた陽極室32aおよび陰極室31aを有し、陽極室32aに陽極32が収容されかつ陰極室31aに陰極31が収容される電解槽3と、陽極32と陰極31との間に電流を流すための電源部14と、電源部14を制御する制御部10と、を備える。制御部10は、電解槽3に導入される原水を電気分解して陰極室31aで陰極水を生成すると共に陽極室32aで陽極水を生成するように電源部14を制御する。制御部10は、電気分解時の印加電流をi[A]とし、かつ電気分解時の原水の流量をf[L/sec]として、C・(i/f)(ただし、Cは定数)の値に基づいて、電解槽3を洗浄する洗浄タイミングを検知する。これにより、電解槽3を適切なタイミングで洗浄できる。