(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】画像投影用加飾シート
(51)【国際特許分類】
G03B 21/60 20140101AFI20220622BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20220622BHJP
【FI】
G03B21/60
B32B7/023
(21)【出願番号】P 2019062495
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2021-05-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】政次 美徳
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 千春
【審査官】中村 直行
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-290102(JP,A)
【文献】特開2006-181712(JP,A)
【文献】特開2014-164197(JP,A)
【文献】特開2007-003557(JP,A)
【文献】特開2016-133514(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0011342(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 21/00 - 21/64
B32B 7/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な加飾層と、
前記加飾層の上又は下に設けられた、透明拡散反射フィルムからなる画像投影層と、
前記加飾層及び前記画像投影層の下に設けられ、前記加飾層及び前記画像投影層を透過した光が前記加飾層及び前記画像投影層側へ戻ることを抑制する戻り光抑制層と、
を備えた、画像投影用加飾シート。
【請求項2】
前記加飾層が前記画像投影層の上に設けられた、
請求項1に記載の画像投影用加飾シート。
【請求項3】
前記戻り光抑制層が、偏光膜と、前記偏光膜下の1/4波長膜と、前記1/4波長膜下の反射膜を含む、
請求項1又は2に記載の画像投影用加飾シート。
【請求項4】
前記戻り光抑制層の下に、平滑化層を挟んで設けられたクッション層を備え、
前記平滑化層が、前記クッション層よりも表面の平滑性が高い、
請求項1~3のいずれか1項に記載の画像投影用加飾シート。
【請求項5】
前記平滑化層がプラスチック発泡体からなる、
請求項4に記載の画像投影用加飾シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像投影用加飾シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ユーザ(操作者)が希望する任意の操作領域に操作画像が投影されて、ユーザがこの操作画像に対して入力操作することで、車両に搭載される複数の機器(複数種の機器)の作動条件がそれぞれ設定され(入力操作され)、作動状態が制御される仮想操作装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の仮想操作装置によれば、操作画像が車両内のインストルメントパネルのセンター部の領域、センターコンソールのパームレストよりも前方側の領域、ステアリングの中央領域などに投影される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の仮想操作装置によれば、操作画像が投影される部分に加飾が施されている場合、操作画像が投影部分の装飾の柄と混ざることにより、操作画像の視認性が低下する。また、操作画像が投影される部分が外光に照らされると、操作画像の相対的な輝度が低下し、視認性が低下する。
【0006】
本発明の目的は、装飾の柄や外光に起因する投影画像の視認性の低下を抑制することができる画像投影用加飾シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記[1]~[5]の画像投影用加飾シートを提供する。
【0008】
[1]透明な加飾層と、前記加飾層の上又は下に設けられた、透明拡散反射フィルムからなる画像投影層と、前記加飾層及び前記画像投影層の下に設けられ、前記加飾層及び前記画像投影層を透過した光が前記加飾層及び前記画像投影層側へ戻ることを抑制する戻り光抑制層と、を備えた、画像投影用加飾シート。
[2]前記加飾層が前記画像投影層の上に設けられた、上記[1]に記載の画像投影用加飾シート。
[3]前記戻り光抑制層が、偏光膜と、前記偏光膜下の1/4波長膜と、前記1/4波長膜下の反射膜を含む、上記[1]又は[2]に記載の画像投影用加飾シート。
[4]前記戻り光抑制層の下に、平滑化層を挟んで設けられたクッション層を備え、前記平滑化層が、前記クッション層よりも表面の平滑性が高い、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の画像投影用加飾シート。
[5]前記平滑化層がプラスチック発泡体からなる、上記[4]に記載の画像投影用加飾シート。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、装飾の柄や外光に起因する投影画像の視認性の低下を抑制することができる画像投影用加飾シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、第1の実施の形態に係る画像投影用加飾シートの垂直断面図である。
【
図2】
図2は、画像投影用加飾シートの車両内の設置位置を例示する模式図である。
【
図3】
図3(a)、(b)は、画像投影用加飾シートへ入射する外光とプロジェクタからの光の光路を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、第2の実施の形態に係る画像投影用加飾シートの垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔第1の実施の形態〕
図1は、第1の実施の形態に係る画像投影用加飾シート1の垂直断面図である。第1の実施の形態に係る画像投影用加飾シート1は、透明な加飾層10と、加飾層10の上又は下に設けられた、透明拡散反射フィルムからなる画像投影層11と、加飾層10及び画像投影層11の下に設けられ、加飾層10及び画像投影層11を透過した光が加飾層10及び画像投影層11側へ戻ることを抑制する戻り光抑制層12とを備える。
【0012】
画像投影用加飾シート1は、自動車などの車両の内装品の表面に用いられる加飾シートであって、プロジェクタにより画像を投影することのできるシートである。
【0013】
画像投影用加飾シート1に投影される画像は、例えば、車両に搭載された空調装置、オーディオ装置、ナビゲーション装置などの機器を操作するためのインターフェース画像であり、操作画像の構成に応じた乗員の手の動きなどにより操作のための入力を行うことができる。
【0014】
図2は、画像投影用加飾シート1の車両30内の設置位置を例示する模式図である。
図2に示される例では、画像投影用加飾シート1がセンターコンソールのアームレスト32の表面に設けられ、画像投影用加飾シート1に画像を投影するプロジェクタ31がオーバーヘッドコンソールに設置されている。
【0015】
画像投影用加飾シート1は、乗員40が投影された画像を視認できる箇所、例えば、アームレスト32の表面、ダッシュボード33の表面、ステアリング34のセンターパッドの表面などに貼り付けることができる。なお、画像投影用加飾シート1へ投影された画像を視認する乗員40は運転者に限られない。
【0016】
加飾層10は、加飾が施された透明なシートであり、例えば、透明なインクで加飾された加飾シートや、人工透過皮革からなる。加飾層10は、無色でも有色でもよく、有色の場合は任意の色を有することができる。
【0017】
また、加飾層10は、その装飾の柄に応じた凹凸を表面に有してもよい。この場合、加飾層10の質感や触感を活かすためには、加飾層10が画像投影用加飾シート1の最表面又はその近傍に位置するように、画像投影層11の上に設けられることが好ましい。
【0018】
画像投影層11は、透明なフィルムの中にナノダイヤモンドなどの屈折率の高いフィラーが分散した透明拡散反射フィルムからなる。画像投影層11において焦点が合うように、プロジェクタ31から画像投影用加飾シート1に光を照射すると、照射された光が画像投影層11中で拡散して像を結び、画像が投影される。
【0019】
また、画像投影層11で反射される外光の量が増えると、加飾層10の装飾の柄が混ざることによる投影画像の視認性の低下が著しくなるため、画像投影層11は透過性を有する。画像投影層11の透過率は、例えば可視光領域で80~90%である。
【0020】
戻り光抑制層12は、加飾層10及び画像投影層11を透過して、再び加飾層10及び画像投影層11側へ戻る光(以下、戻り光と呼ぶ)を抑制するための層である。戻り光抑制層12は、例えば、
図1に示されるように、偏光膜12aと、偏光膜12a下の1/4波長膜12bと、1/4波長膜12b下の反射膜12cを含む。
【0021】
図3(a)、(b)は、画像投影用加飾シート1へ入射する外光とプロジェクタ31からの光の光路を模式的に示す図である。
【0022】
まず、
図3(a)を用いて外光の光路について説明する。まず、画像投影用加飾シート1へ進入した外光は、その一部が加飾層10により反射され、それによって加飾層10の装飾の柄を視認することができる。このため、プロジェクタ31から画像投影層11に画像が投影されていないときには、画像投影用加飾シート1は、画像を投影するための機能を有しない通常の加飾シートと同様に機能する。
【0023】
続いて、画像投影層11に進入した外光は一部が画像投影層11によって散乱されるが、外光の拡散では画像投影層11が一様に明るくなるだけであるので、加飾層10の装飾の柄の視認性に及ぼす影響はほとんどない。
【0024】
上述の加飾層10と画像投影層11における外光の振る舞いとその効果は、加飾層10が画像投影層11の下にある場合でも同様である。
【0025】
続いて、加飾層10と画像投影層11を透過した外光は、戻り光抑制層12に進入し、まず、偏光膜12aを通過して直線偏光となる(以下、この直線偏光を水平偏光と呼び、これに垂直な直線偏光を垂直偏光と呼ぶ)。
【0026】
続いて、直線偏光となった外光は1/4波長膜12bを通過して、電場の直交する2つの成分の位相がπ/2ずれて、円偏光となる。続いて、円偏光となった外光は反射膜12cにより反射される。このとき、円偏光である外光の進行方向に対する回転方向は反射によって変化せず、位相差もπ/2から変化しない。
【0027】
続いて、反射された円偏光である外光は、再び1/4波長膜12bを通過して、位相が更にπ/2ずれて、位相差がπの垂直偏光となる。そして、垂直偏光となった外光は偏光膜12aを通過できずに吸収される。このように、加飾層10と画像投影層11を透過した外光の戻り光は戻り光抑制層12によって抑制され、加飾層10の装飾の柄が混ざることによる画像投影層11への投影画像の視認性の低下が抑えられる。
【0028】
次に、
図3(b)を用いてプロジェクタ31から光の光路について説明する。画像投影層11で像を結ぶようにプロジェクタ31から発せられた光は、加飾層10を透過して、画像投影層11で拡散して画像を形成する。この画像は、加飾層10を透過して視認することができる。
【0029】
一方で、画像投影層11に進入したプロジェクタ31から光の一部は、外光と同様に、画像投影層11を透過して戻り光抑制層12に吸収される。例えば、画像投影層11の透過率が80%である場合、そのおよそ20%が画像投影層11において画像を形成し、およそ80%が画像投影層11を透過して戻り光抑制層12に吸収される。これにより、プロジェクタ31から光の戻り光が投影画像の視認性に及ぼす影響も抑えられる。
【0030】
(第1の実施の形態の効果)
本発明の第1の実施の形態に係る画像投影用加飾シート1によれば、透明な加飾層10及び画像投影層11を用いて、これらを透過する光の戻り光を抑制することにより、加飾層10の装飾の柄や外光に起因する投影画像の視認性の低下を抑えることができる。
【0031】
〔第2の実施の形態〕
本発明の第2の実施の形態は、画像投影用加飾シートがクッション層を備える点において、第1の実施の形態と異なる。なお、第1の実施の形態と同様の点については、説明を省略又は簡略化する。
【0032】
図4は、第2の実施の形態に係る画像投影用加飾シート2の垂直断面図である。画像投影用加飾シート2は、戻り光抑制層12の下に、平滑化層21を挟んで設けられたクッション層20を備える。
【0033】
クッション層20は、画像投影用加飾シート2を車両の内装品の基材、例えばABS(Acrylonitrile butadiene styrene)からなるアームレスト32の基材に貼り付けたときに、その内装品の表面のクッション性を付与するための層であり、発泡ウレタンなどのクッション性に優れる材料からなる。
【0034】
平滑化層21は、加飾層10や画像投影層11の下地の平滑性を向上させるための層であり、クッション層20よりも表面の平滑性が高い。また、平滑化層21は、強度や柔軟性に優れる電子線架橋ポリオレフィンフォーム(例えば、東レ製トーレペフ(登録商標))、ポリエチレンフォーム、ポリプロピレンフォームなどのプラスチック発泡体のシートからなることが好ましい。
【0035】
また、平滑化層21は、クッション層20に対する高い密着性を有することが好ましい。例えば、クッション層20が発泡ウレタンからなる場合、電子線架橋ポリオレフィンフォームからなる平滑化層21は、クッション層20に対する高い密着性を有する。
【0036】
平滑化層21を用いることにより、クッション層20の表面の凹凸に起因する凹凸が加飾層10の表面に現れることによる画像投影用加飾シート2の外観や触感の劣化を抑制できる。特に、加飾層10が装飾の柄に応じた凹凸をその表面に有し、画像投影層11の上に設けられる場合は、触感の劣化を抑制する効果は重要である。
【0037】
また、平滑化層21を用いることにより、クッション層20の表面の凹凸に起因する画像投影層11の凹凸によって投影画像に歪みが生じることを抑制できる。
【0038】
また、平滑化層21を用いる場合、平滑化層21を用いない場合と比較して、画像投影用加飾シート2が変形した際、例えばアームレスト32の表面に貼り付けられた画像投影用加飾シート2に乗員が肘を置いた際の、加飾層10、画像投影層11、及び戻り光抑制層12の破れなどの損傷が生じ難くなる。
【0039】
画像投影用加飾シート2は、クッション層20による高いクッション性を有するため、乗員が肘を乗せるアームレスト32などのクッション性の求められる箇所に用いられることが好ましい。
【0040】
(第2の実施の形態の効果)
本発明の第2の実施の形態に係る画像投影用加飾シート2によれば、第1の実施の形態に係る画像投影用加飾シート1と同様の効果に加えて、外観や触感を劣化させることなく、画像投影用加飾シート2を貼り付ける内装品の表面にクッション性を付与することができる。
【0041】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。また、発明の主旨を逸脱しない範囲内において上記実施の形態の構成要素を任意に組み合わせることができる。
【0042】
また、上記の実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0043】
1、2 画像投影用加飾シート
10 加飾層
11 画像投影層
12 戻り光抑制層
12a 偏光膜
12b 1/4波長膜
12c 反射膜
20 クッション層
21 平滑化層
30 車両
31 プロジェクタ
32 アームレスト
40 乗員