IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人山梨大学の特許一覧

特許7092996高分子電解質、その製造方法、それを用いた高分子電解質膜、触媒層、膜/電極接合体、及び燃料電池
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】高分子電解質、その製造方法、それを用いた高分子電解質膜、触媒層、膜/電極接合体、及び燃料電池
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/02 20060101AFI20220622BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20220622BHJP
【FI】
C08G61/02
H01B1/06 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018073026
(22)【出願日】2018-04-05
(65)【公開番号】P2019182954
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-02-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成27年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「固体高分子形燃料電池利用高度化技術開発事業/普及拡大化基盤技術開発/セルスタックに関わる材料コンセプト創出(高出力・高耐久・高効率燃料電池材料のコンセプト創出)」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】宮武 健治
(72)【発明者】
【氏名】内田 誠
(72)【発明者】
【氏名】三宅 純平
(72)【発明者】
【氏名】日下部 正人
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-179345(JP,A)
【文献】特表平11-515040(JP,A)
【文献】特開2016-119230(JP,A)
【文献】国際公開第2013/018677(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 61/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子電解質の製造方法であって、
前記高分子電解質は、疎水性セグメント、及び、スルホン酸基を有し、主鎖が主に芳香環からなる親水性セグメントで構成されており、
前記疎水性セグメントは、下記一般式(1)で表されるセグメント、または、ランダムに配置された下記一般式(1)で表されるセグメント及び下記一般式(2)で表されるセグメントからなり、
それぞれのセグメントがすべて芳香環の炭素-炭素直接結合で連結されている高分子電解質であり、
下記一般式(5)で表される化合物、下記一般式(6)で表される化合物、及び式群(7)で表される化合物群から選択される1以上の化合物を、遷移金属化合物の存在下に共重合することを特徴とする高分子電解質の製造方法。
【化1】
【化2】
(前記一般式(1)及び(2)中、yは1~1500の整数、zは0~1500の整数を表し、y:zは100:0~10:90の範囲にある。R 1 ~R 8 は、それぞれ独立に、水素、フッ素、アルキル基、パーフルオロアルキル基、アリール基、アラルキル基、またはシアノ基を表す。)
【化3】
【化4】
【化5】
(前記一般式(5)、一般式(6)及び式群(7)中、Halは、塩素、臭素、またはヨウ素、R1~R8はそれぞれ独立に、水素、フッ素、アルキル基、パーフルオロアルキル基、アリール基、アラルキル基、またはシアノ基を表す。mは1~4の整数、k及びlはそれぞれ0~4の整数を表し、かつk+lは1以上の整数である。pは0~10の整数、qは0~10の整数、rは1~4の整数を表す。Xは、-CO-、-SO2-、及び-C(CF32-からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を表し、Yは、-CO-、-SO2-、-SO-、-CONH-、-COO-、-(CF2t-(tは1~10の整数)、-C(CF32-からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を表し、Zは直接結合又は、-(CH2o-(oは1~10の整数)、-C(CH32-、-O-、及び-S-からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を表す。Ar1は、-SO3H又は-O(CH2sSO3H(sは1~12の整数)で表される置換基を有する芳香族基を表す。Mは水素、アルカリ金属、炭素数1~12のアルキル基、炭素数5~12のシクロアルキル基、炭素数6~18のアリール基、または炭素数7~20のアラルキル基を表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)及び(2)中、y:zが100:0~50:50である請求項1に記載の高分子電解質の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(1)及び(2)中、y:zが80:20~50:50である請求項1又は2に記載の高分子電解質の製造方法。
【請求項4】
スルホン酸基を有し、主鎖が主に芳香環からなる親水性セグメントが下記式群(3)に表される構造群から選択される1以上の構造を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の高分子電解質の製造方法。
【化6】
(前記式群(3)中、mは1~4の整数、k及びlはそれぞれ0~4の整数を表し、かつk+lは1以上の整数である。pは0~10の整数、qは0~10の整数、rは1~4の整数を表す。Xは、-CO-、-SO 2 -、及びC(CF 3 2 -からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を表し、Yは、-CO-、-SO 2 -、-SO-、-CONH-、-COO-、-(CF 2 t -(tは1~10の整数)、及び-C(CF 3 2 -からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を表し、Zは直接結合又は、-(CH 2 o -(oは1~10の整数)、-C(CH 3 2 -、-O-、及び-S-からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を表す。Ar 1 は、-SO 3 H又は-O(CH 2 s SO 3 H(sは1~12の整数)で表される置換基を有する芳香族基を表す。)
【請求項5】
前記高分子電解質は、下記一般式(4)で表される構造を有する請求項1~4のいずれか1項に記載の高分子電解質の製造方法。
【化7】
(前記一般式(4)中、xは1~2000の整数、yは1~1500の整数、及びzは0~1500の整数を表し、y:zは100:0~10:90の範囲にある。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池に好適な高分子電解質、その製造方法、それを用いた高分子電解質膜、燃料電池用触媒層、燃料電池用膜/電極接合体、及び燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化等の環境問題等の観点から、高効率でクリーンなエネルギー源の開発が求められている。その要求に対する一つの候補として燃料電池が注目されている。燃料電池は、水素ガスやメタノール等の燃料と酸素等の酸化剤をそれぞれ電解質で隔てられた電極に供給し、一方で燃料の酸化を、他方で酸化剤の還元を行い、直接発電するものである。上述した燃料電池の材料のなかで、最も重要な材料の一つが電解質である。その電解質からなる燃料と酸化剤とを隔てる電解質膜としては、これまで様々なものが開発されているが、近年、特にスルホン酸基などのプロトン伝導性官能基を含有する高分子化合物から構成される高分子電解質の開発が盛んである。こうした高分子電解質は、固体高分子形燃料電池の他にも、例えば、湿度センサー、ガスセンサー、エレクトロクロミック表示素子などの電気化学素子の原料としても使用される。これら高分子電解質の利用法の中でも、特に、固体高分子形燃料電池は、新エネルギー技術の柱の一つとして期待されている。例えば、プロトン伝導性官能基を有する高分子化合物からなる電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池は、低温における作動、小型軽量化が可能などの特徴を有し、自動車などの移動体、家庭用コージェネレーションシステム等の用途で既に実用化され、さらに民生用小型携帯機器などへの適用が検討されている。
【0003】
固体高分子形燃料電池に使用される電解質膜としては、1950年代に開発されたスチレン系の陽イオン交換膜があるが、燃料電池動作環境下における安定性に乏しく、充分な寿命を有する燃料電池を製造するには至っていない。一方、実用的な安定性を有する電解質膜としては、ナフィオン(Nafion)(登録商標)に代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸膜が広く検討されている。パーフルオロカーボンスルホン酸膜は、高いプロトン伝導性を有し、耐酸性、耐酸化性などの化学的安定性に優れているとされている。しかしながら、ナフィオン(登録商標)は、使用原料が高く、複雑な製造工程を経るため、非常に高価であるという問題がある。また、電極反応で生じる過酸化水素やその副生物であるヒドロキシラジカルで劣化すると指摘されている。さらに、その構造上、プロトン伝導基であるスルホン酸基の導入には限界がある。
【0004】
このような背景から、再び炭化水素系電解質膜の開発が期待されるようになってきた。その理由としては、炭化水素系電解質膜は化学構造の多様性を持たせやすく、スルホン酸基などのプロトン伝導基の導入の範囲が広く調整できる、他の材料との複合化、架橋の導入などが比較的容易であるという特徴があるからである。
【0005】
近年、そのような炭化水素系高分子電解質膜として、スルホン酸基を有する親水性セグメントと、スルホン酸基を実質的に有さない疎水性セグメントからなる共重合体が、多数報告されている。このような高分子電解質からなる膜は、親水性セグメントと、疎水性セグメントが相分離し、親水性セグメントが高濃度に凝集した部分は、プロトンの伝導パスを形成し、疎水性セグメントが高濃度に凝集した部分で、膜の機械的強度を担保する役割を担っている。
【0006】
このような高分子電解質の製造法としては、水酸基やスルフィド基等の求核性官能基を有するユニットと、ハロゲン等の脱離性置換基を有するユニットを予め用意し、それらの求核置換反応を利用する方法が挙げられる(特許文献1、2)。この製造方法は簡便であるが、樹脂骨格にエーテル結合や、チオエーテル結合が生成するため、燃料電池用電解質膜として利用した場合、酸化劣化しやすい(非特許文献1)という問題があった。
【0007】
この課題を解決するため、親水性セグメントと疎水性セグメントを炭素-炭素直接結合で連結し、スルホン酸基の近傍からエーテル結合やチオエーテル結合を排除するという試みがなされている(特許文献3,4,5)。しかし、この方法により得られる高分子電解質には、依然として、疎水性セグメントにポリエーテルスルホンや、ポリエーテルケトン等のユニットを有する骨格が用いられており、燃料電池運転条件下における電解質膜の耐酸化性は改善されるものの、耐酸化性の一般的な試験法である過酸化水素と2価の鉄イオンを用いたFenton試験を行うと、大幅な重量減少や機械物性の低下が認められ、まだ十分と言える水準には達していなかった。
【0008】
親水性セグメントと疎水性セグメントの主鎖構造からエーテル結合やチオエーテル結合等のヘテロ結合を完全に排除し、炭素-炭素直接結合で連結したポリフェニレン型の高分子電解質も検討されている。例えば、特許文献6には、親水性モノマーと疎水性モノマーを炭素-炭素直接結合でランダムに連結したポリフェニレン型の高分子電解質が記載されている。しかし、この発明においては、プロトン伝導性やガス透過性、耐熱性を付与するためのミクロ相分離構造を精密に制御することを目的としており、そのために、親水性モノマーのスルホン酸基は電子供与性基を含む連結基で芳香環に接続されており、その製造プロセスは煩雑である。
【0009】
本発明者は、このような状況に鑑み、スルホン酸基が導入され、主鎖が芳香環からなる親水性セグメントと、スルホン酸基を有さず、主鎖が芳香環からなる疎水性セグメントが芳香環の炭素-炭素直接結合で連結され、さらに、疎水性セグメントの芳香環も炭素-炭素直接結合で連結された高分子電解質を提案した(特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平10-21943号公報
【文献】特開2005-126684号公報
【文献】特開2007-177197号公報
【文献】特開2008-88420号公報
【文献】特開2012-229418号公報
【文献】特開2013-191375号公報
【文献】特開2017-179345号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】「Polymer」、2009年3月、第50巻、第7号、p.1671-1681
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献7に記載の高分子電解質は、疎水性セグメントとして、パラフェニレン単位、メタフェニレン単位及びオルトフェニレン単位からなる2種以上のフェニレン単位からなる芳香環が炭素-炭素結合で連結されたセグメントを用い、疎水性セグメントと親水性セグメントも炭素-炭素結合で連結され、芳香族の主鎖骨格にヘテロ結合を含まないため、非常に高い化学的耐久性を示す。しかしながら、特許文献7には、疎水性セグメントを構成するパラフェニレン単位、メタフェニレン単位、オルトフェニレン単位の比率については具体的な記載はなく、高分子電解質膜としての最適な構造については明らかでなかった。また、実施例で具体的に例示されている高分子電解質は、非常に高い化学的耐久性を発現するとともに、溶媒への溶解性が良好で、柔軟な膜が得られるものの、疎水性セグメントの製造が煩雑なため、主鎖が芳香環の炭素-炭素結合のみで結合された高分子電解質のより簡便な製造法が望まれていた。
【0013】
本発明は、高いプロトン伝導度を発現し、燃料電池の運転条件下においても酸化劣化に対する耐性が高い高分子電解質膜として使用でき、製造が容易で、かつ、溶媒への溶解性が良好で製膜等の成形性に優れた高分子電解質、その製造方法、それを用いた高分子電解質膜、燃料電池用触媒層、燃料電池用膜/電極接合体、及び燃料電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、疎水性セグメント、及び、スルホン酸基を有し、主鎖が主に芳香環からなる親水性セグメントで構成されている高分子電解質であって、前記疎水性セグメントは、下記一般式(1)で表されるセグメント、または、ランダムに配置された下記一般式(1)で表されるセグメント及び下記一般式(2)で表されるセグメントからなり、それぞれのセグメントがすべて芳香環の炭素-炭素直接結合で連結されていることを特徴とする高分子電解質に関する。
【化1】
【化2】
(前記一般式(1)及び(2)中、yは1~1500の整数、zは0~1500の整数を表し、y:zは100:0~10:90の範囲にある。R1~R8は、それぞれ独立に、水素、フッ素、アルキル基、パーフルオロアルキル基、アリール基、アラルキル基、またはシアノ基を表す。)
【0015】
また、本発明は、前記の高分子電解質の製造方法であって、下記一般式(5)で表される化合物、下記一般式(6)で表される化合物、及び下記式群(7)で表される化合物群から選択される1以上の化合物を、遷移金属化合物の存在下に共重合することを特徴とする高分子電解質の製造方法に関する。
【化3】
【化4】
【化5】
(前記一般式(5)、一般式(6)及び式群(7)中、Halは、塩素、臭素、またはヨウ素、R1~R8は、それぞれ独立に、水素、フッ素、アルキル基、パーフルオロアルキル基、アリール基、アラルキル基、またはシアノ基を表す。mは1~4の整数、k及びlはそれぞれ0~4の整数を表し、かつk+lは1以上の整数である。pは0~10の整数、qは0~10の整数、rは1~4の整数を表す。Xは、-CO-、-SO2-、及び-C(CF32-からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を表し、Yは、-CO-、-SO2-、-SO-、-CONH-、-COO-、-(CF2t-(tは1~10の整数)、-C(CF32-からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を表し、Zは直接結合又は、-(CH2o-(oは1~10の整数)、-C(CH32-、-O-、及び-S-からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を表す。Ar1は、-SO3H又は-O(CH2sSO3H(sは1~12の整数)で表される置換基を有する芳香族基を表す。Mは水素、アルカリ金属、炭素数1~12のアルキル基、炭素数5~12のシクロアルキル基、炭素数6~18のアリール基、または炭素数7~20のアラルキル基を表す。)
【0016】
また本発明は、本発明の高分子電解質を用いた燃料電池用高分子電解質膜に関する。
【0017】
また本発明は、本発明の高分子電解質を用いた燃料電池用触媒層に関する。
【0018】
また本発明は、本発明の高分子電解質を用いた燃料電池用膜/電極接合体に関する。
【0019】
また本発明は、本発明の高分子電解質を用いた燃料電池に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の高分子電解質は、高いプロトン伝導度を発現し、燃料電池の運転条件下においても酸化劣化に対する耐性が高い高分子電解質膜として使用でき、入手容易な原料から簡便な反応を用いて製造することができ、溶剤への高い溶解性を有するため、製膜等の成形が容易である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、下記一般式(1)で表される疎水性セグメント(以下において、メタフェニレンセグメントとも記す。)、下記一般式(2)で表される疎水性セグメント(以下において、パラフェニレンセグメントとも記す。)、及び、スルホン酸基を有し、主鎖が主に芳香環からなる親水性セグメントからなる高分子電解質であって、それぞれのセグメントがすべて芳香環の炭素-炭素直接結合で連結されており、メタフェニレンセグメントとパラフェニレンセグメントの比率が一定の範囲にあり、かつ、その配列がランダムである高分子電解質が、溶媒に対する良好な溶解性を示し、高い製膜性を有すること、得られた高分子電解質膜が高プロトン伝導度、及びすぐれた化学的耐久性を有することを見出し、本発明を完成させた。本発明の高分子電解質は、入手容易な原料を用いて簡便に製造することができる。
【0022】
【化6】
【化7】
【0023】
前記一般式(1)及び(2)中、yは1~1500の整数、zは0~1500の整数を表し、y:zは100:0~10:90の範囲にある。R1~R8は、それぞれ独立に、水素、フッ素、アルキル基、パーフルオロアルキル基、アリール基、アラルキル基、またはシアノ基を表す。
【0024】
本発明の1以上の好ましい態様としては、前記一般式(1)及び(2)中、y:zが100:0~50:50である高分子電解質である。本発明のさらに1以上の好ましい態様としては、前記一般式(1)及び(2)中、y:zが80:20~50:50である高分子電解質である。
【0025】
本発明のさらに1以上の好ましい態様としては、スルホン酸基を有し、主鎖が主に芳香環からなる親水性セグメントが下記式群(3)に表される構造群から選択される1以上の構造を有する高分子電解質である。
【0026】
【化8】
【0027】
前記式群(3)中、mは1~4の整数、k及びlはそれぞれ0~4の整数を表し、かつk+lは1以上の整数である。pは0~10の整数、qは0~10の整数、rは1~4の整数を表す。Xは、-CO-、-SO2-、及びC(CF32-からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を表し、Yは、-CO-、-SO2-、-SO-、-CONH-、-COO-、-(CF2t-(tは1~10の整数)、及び-C(CF32-からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を表し、Zは直接結合又は、-(CH2o-(oは1~10の整数)、-C(CH32-、-O-、及び-S-からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を表す。Ar1は、-SO3H又は-O(CH2sSO3H(sは1~12の整数)で表される置換基を有する芳香族基を表す。
【0028】
本発明の1以上のさらに好ましい態様としては、下記一般式(4)で表される構造を有する高分子電解質である。
【0029】
【化9】
【0030】
前記一般式(4)中、xは1~2000の整数、yは1~1500の整数、及びzは0~1500の整数を表し、y:zは100:0~10:90の範囲にある。
【0031】
本発明の1以上の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0032】
本発明は、1以上の実施形態において、下記一般式(1)で表される疎水性セグメント(メタフェニレンセグメント)及びスルホン酸基を有し、主鎖が主に芳香環からなる親水性セグメントからなり、それぞれのセグメントがすべて芳香環の炭素-炭素直接結合で連結されている高分子電解質に関する。あるいは、本発明は、1以上の実施形態において、下記一般式(1)で表される疎水性セグメント(メタフェニレンセグメント)、下記一般式(2)で表される疎水性セグメント(パラフェニレンセグメント)、及び、スルホン酸基を有し、主鎖が主に芳香環からなる親水性セグメントからなり、それぞれのセグメントがすべて芳香環の炭素-炭素直接結合で連結されており、メタフェニレンセグメントとパラフェニレンセグメントの比率が一定の範囲にあり、かつ、メタフェニレンセグメントとパラフェニレンセグメントの配列がランダムである高分子電解質に関する。
【0033】
【化10】
【化11】
前記一般式(1)及び(2)中、yは1~1500の整数、zは0~1500の整数を表し、y:zは100:0~10:90の範囲にある。R1~R8は、それぞれ独立に、水素、フッ素、アルキル基、パーフルオロアルキル基、アリール基、アラルキル基、またはシアノ基を表す。
【0034】
前記高分子電解質は、疎水性セグメントの主鎖を構成する芳香環が炭素-炭素直接結合で連結され、エーテル結合やチオエーテル結合などのヘテロ結合を含まず、また、疎水性セグメントと親水性セグメントも芳香環の炭素-炭素直接結合で連結されているため、燃料電池運転下の厳しい酸化条件に対し、高い耐久性を発現する。
【0035】
前記一般式(1)及び(2)における芳香環上の置換基R1~R8は、それぞれ独立に、水素、フッ素、アルキル基、パーフルオロアルキル基、アリール基、アラルキル基、またはシアノ基である。入手の容易性から、R1~R8は、すべて水素であることが好ましい。
【0036】
前記一般式(1)におけるメタフェニレンの繰り返し単位数yは1~1500の整数であり、好ましくは、5~500の整数であり、さらに好ましくは6~250の整数である。また、一般式(2)におけるパラフェニレンの繰り返し単位数zは0~1500の整数であり、好ましくは、5~500の整数であり、さらに好ましくは6~250の整数である。yまたはzが1500を超えると、高分子電解質が溶解しにくく、成形が困難になる。
【0037】
また、メタフェニレンの繰り返し単位数yとパラフェニレンの繰り返し単位数zの比率が100:0~10:90の範囲にある。この範囲であると、高分子電解質は良好な溶解性を示し、容易に製膜することができる。yとzの比がこの範囲にない場合、すなわち、y:z=10:90~0:100の範囲にあり、ほとんどがパラフェニレン構造であると、生成する高分子電解質は溶媒に溶け難く、製膜することが困難になる。
【0038】
メタフェニレンセグメントとパラフェニレンセグメントの比率(y:z)としては、溶媒への溶解性がより良好である点で、y:zは100:0~50:50がより好ましい。また、溶解性が良好であるととともに、分子量の高い高分子電解質が得られるという点で、y:zは80:20~50:50であることがさらに好ましい。
【0039】
メタフェニレンセグメントとパラフェニレンセグメントの配列はランダムである。ランダムとは、メタフェニレンとパラフェニレンのモノマーの配列に秩序がないことを意味する。
【0040】
本発明の高分子電解質を構成するスルホン酸基を有し、主鎖が主に芳香環からなる親水性セグメント(以下、スルホン酸基含有セグメントともいう。)は、スルホン酸基を有し主鎖が主に芳香環からなり、かつ、スルホン酸基が芳香環に直接結合しているものである。当該セグメントがスルホン酸基を有するので、高分子電解質のプロトン伝導性が発現し、主鎖が主に芳香環からなるので、耐熱性、化学的耐久性に優れるものになる。
【0041】
本発明におけるスルホン酸基としては、例えば、スルホン酸基、スルホン酸基の塩、スルホン酸エステル基等が挙げられる。すなわち、スルホン酸基は、例えば、ナトリウム、カリウム等の塩になっていてもよいし、ネオペンチルエステル、メチルエステル、プロピルエステル等のエステル基で保護されていてもよい。特にスルホン酸基含有セグメント前駆体の合成中や合成後は、塩やエステル等の保護基を有する状態になっているのが好ましいことが多いが、当該高分子電解質が、例えば燃料電池の電解質膜として用いられる場合は、無機酸の水溶液等に浸漬することにより、スルホン酸基に変換して使用されることが多い。よって、本発明においては、スルホン酸基としては、容易にスルホン酸基になる状態の基であれば、塩やエステル等の保護基を有する状態の基も含まれる。
【0042】
スルホン酸基の量は、親水性スルホン酸基含有セグメントを形成する繰り返し単位当たり、1~6個が好ましく、1~4個がより好ましい。6個よりスルホン酸基の量が多くなると、当該セグメントの水溶性が高くなり、合成中の取り扱いが難しくなる傾向がある。1個より少ないと十分なプロトン伝導性が発現しにくくなる傾向がある。
【0043】
本発明におけるスルホン酸基含有セグメントは、主鎖が主に芳香環からなるものである。ここで「主に芳香環からなる」とは、スルホン酸基含有セグメントにおける主鎖の連結基(エーテル基、チオエーテル基、スルホン基、ケトン基、スルフィド基等)以外の部分の分子量を100%とした場合、その70%以上が芳香環からなるということを意味する。芳香環としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ビフェニル、硫黄や窒素等を含む芳香族複素環等が挙げられる。主鎖が主に芳香環からなると、化学的熱的な安定性が高い。このような主鎖構造としては、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリケトン、ポリスルホン、ポリスルフィド、ポリフェニレン、ポリイミド、ポリベンズイミダゾール等が例示される。
【0044】
前記スルホン酸基含有セグメントは、下記式群(3)に表される構造群から選択される1以上の構造を有するものが好ましい。
【0045】
【化12】
【0046】
前記式群(3)中、mは1~4の整数、k及びlはそれぞれ0~4の整数を表し、k+lは1以上の整数である。pは0~10の整数、qは0~10の整数、rは1~4の整数を表す。Xは、-CO-、-SO2-、及びC(CF32-からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を表し、Yは、-CO-、-SO2-、-SO-、-CONH-、-COO-、-(CF2t-(tは1~10の整数)、及び-C(CF32-からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を表し、Zは直接結合又は、-(CH2o-(oは1~10の整数)、-C(CH32-、-O-、及び-S-からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を表す。Ar1は、-SO3H又は-O(CH2sSO3H(sは1~12の整数)で表される置換基を有する芳香族基を表す。
【0047】
前記式群(3)で表されるスルホン酸基含有セグメントの構造を具体的に例示するならば下記式群(8)で表される構造などが挙げられる。
【0048】
【化13】
【0049】
次に、本発明の高分子電解質の製造方法について説明する。本発明の高分子電解質の製造方法に特に制約はないが、スルホン酸基含有セグメントの前駆体と、及び一般式(1)で表されるメタフェニレンセグメントの前駆体を連結する方法、あるいは、スルホン酸基含有セグメントの前駆体と、一般式(1)で表されるメタフェニレンセグメントの前駆体、及び一般式(2)で表されるパラフェニレンセグメントの前駆体を連結する方法が好ましく用いられる。ここで、前駆体とは、後述する共重合反応により、それぞれ、スルホン酸基含有セグメント、一般式(1)で表されるメタフェニレンセグメント及び一般式(2)で表されるパラフェニレンセグメントとなる、反応部位を持つ繰り返し単位のことをいう。本発明においては、スルホン酸基含有セグメントとメタフェニレンセグメント、あるいは、スルホン酸基含有セグメントと、メタフェニレンセグメント、及びパラフェニレンセグメントが芳香環の直接結合で連結されるので、それぞれのセグメントの前駆体は、芳香環を直接結合で連結されるための官能基を有している必要がある。
【0050】
例えば、前記一般式(1)で表されるメタフェニレンセグメントの前駆体として下記一般式(5)で表される化合物、一般式(2)で表されるパラフェニレンセグメントの前駆体として下記一般式(6)で表される化合物、スルホン酸基含有セグメントの前駆体として下記式群(7)で表される化合物群から選択される1以上の化合物を、金属銅を用いたUllmannカップリング反応や、特許文献5に記載されている方法に従い、遷移金属化合物を用いてカップリングする方法などを用いて連結することができる。
【0051】
【化14】
【0052】
【化15】
【0053】
【化16】
【0054】
前記一般式(5)、一般式(6)及び式群(7)中、Halは、塩素、臭素、またはヨウ素、R1~R8はそれぞれ独立に、水素、フッ素、アルキル基、パーフルオロアルキル基、アリール基、アラルキル基、またはシアノ基を表す。mは1~4の整数、k及びlはそれぞれ0~4の整数を表し、かつk+lは1以上の整数である。pは0~10の整数、qは0~10の整数、rは1~4の整数を表す。Xは、-CO-、-SO2-、及び-C(CF32-からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を表し、Yは、-CO-、-SO2-、-SO-、-CONH-、-COO-、-(CF2t-(tは1~10の整数)、-C(CF32-からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を表し、Zは直接結合又は、-(CH2o-(oは1~10の整数)、-C(CH32-、-O-、及び-S-からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を表す。Ar1は、-SO3H又は-O(CH2sSO3H(sは1~12の整数)で表される置換基を有する芳香族基を表す。Mは水素、アルカリ金属、炭素数1~12のアルキル基、炭素数5~12のシクロアルキル基、炭素数6~18のアリール基、または炭素数7~20のアラルキル基を表す。
【0055】
前記一般式(5)で表される化合物の具体例としては、1,3-ジクロロベンゼン、1,3-ジブロモベンゼン、1,3-ジヨードベンゼン、2,6-ジクロロトルエン、2,6-ジブロモトルエン、2,6-ジヨードトルエン、2,6-ジクロロ-1,4-ジメチルベンゼン、2,6-ジブロモ-1,4-ジメチルベンゼン、2,6-ジヨード-1,4-ジメチルベンゼン、2,6-ジクロロ-1,3-ジメチルベンゼン、2,6-ジブロモ-1,3-ジメチルベンゼン、2,6-ジヨード-1,3-ジメチルベンゼン、2,6-ジクロロベンゾニトリル、2,4-ジクロロベンゾニトリル、2,6-ジクロロフルオロベンゼン、及び3,5-ジクロロフルオロベンゼンなどが挙げられる。これらは、一種を単独で用いても良く、二種以上を組み合わせて用いても良い。これらのうち、入手が容易である点で、1,3-ジクロロベンゼン、2,6-ジクロロトルエン、及び2,6-ジクロロベンゾニトリルからなる群から選ばれる1種以上が好ましく、安価である点で1,3-ジクロロベンゼンがより好ましい。
【0056】
前記一般式(6)で表される化合物の具体例としては、1,4-ジクロロベンゼン、1,4-ジブロモベンゼン、1,4-ジヨードベンゼン、2,5-ジクロロトルエン、2,5-ジブロモトルエン、2,5-ジヨードトルエン、2,5-ジクロロ-1,4-ジメチルベンゼン、2,5-ジブロモ-1,4-ジメチルベンゼン、2,5-ジヨード-1,4-ジメチルベンゼン、2,5-ジクロロ-1,3-ジメチルベンゼン、2,5-ジブロモ-1,3-ジメチルベンゼン、2,5-ジヨード-1,3-ジメチルベンゼン、2,5-ジクロロベンゾニトリル、及び2,5-ジクロロフルオロベンゼンなどが挙げられる。これらは、一種を単独で用いても良く、二種以上を組み合わせて用いても良い。これらのうち、入手が容易である点で、1,4-ジクロロベンゼン、2,5-ジクロロトルエン、2,5-ジクロロベンゾニトリルが好ましく、安価である点で、1,4-ジクロロベンゼンがより好ましい。
【0057】
前記式群(7)で表される化合物の具体例としては、下記式群(9)で表される化合物などが挙げられる。
【0058】
【化17】
【0059】
前記式群(9)で表される化合物群において、塩素原子が臭素またはヨウ素に置き換わった化合物も好適に用いることができる。また、Mとしては、前記式群(7)で説明したように、水素、アルカリ金属、炭素数1~12のアルキル基、炭素数5~12のシクロアルキル基、炭素数6~18のアリール基、または炭素数7~20を表し、重合条件に応じて、適切に選択される。
【0060】
スルホン酸基含有セグメントの前駆体は、対応する芳香族系化合物に、スルホン酸化剤を作用させることにより製造することができる。スルホン酸化剤としては公知のものを使用することができ、例示するならば、硫酸、無水硫酸、クロロスルホン酸、アセチル硫酸、発煙硫酸などである。クロロスルホン酸、及び/または発煙硫酸が適度な反応性を有しているために好ましい。スルホン酸化反応において、溶媒は用いてもよく、用いなくてもよい。溶媒を用いる場合、溶媒としては、スルホン酸化剤に対して不活性なものであればよく、例えば、炭化水素系溶媒、及びハロゲン化炭化水素等が挙げられる。炭化水素系溶媒としては、飽和脂肪族炭化水素が挙げられ、特に炭素数5~15の直鎖状または分岐状の炭化水素が好ましく、溶解度の点から、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、及びデカンがより好ましい。ハロゲン化炭化水素としては、ハロゲン化飽和脂肪族炭化水素、及びハロゲン化芳香族炭化水素等が挙げられる。ハロゲン化飽和脂肪族炭化水素としては、例えば、モノクロロメタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタン、モノクロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等が挙げられ、取り扱いの容易さからジクロロメタンが好ましい。ハロゲン化芳香族炭化水素としては、例えば、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等が挙げられ、取り扱いの容易さからクロロベンゼンが好ましい。
【0061】
スルホン酸化工程の反応温度は、反応に応じて適宜設定すればよく、具体的にはスルホン酸化剤の最適使用範囲である-80℃~200℃に設定すればよく、より好ましくは-50℃~150℃であり、さらに好ましくは-20℃から130℃である。-80℃よりも低温であれば反応が遅くなり、目的とするスルホン酸化が100%まで進行しない傾向があり、200℃よりも高温であれば副反応が起こる傾向がある。スルホン酸化工程の反応時間は、原料となる芳香族系化合物の構造により適宜選択され得るが、通常1分間~50時間程度の範囲内であればよい。1分間より短いと均一なスルホン酸化が進行しない傾向があり、50時間より長いと副反応が起こる傾向がある。
【0062】
スルホン酸化工程におけるスルホン酸化剤の添加量は、原料の芳香族系化合物に含まれるスルホン酸化される部位の全量を1当量とした場合、1当量~50当量であることが好ましい。1当量より少ないと、スルホン酸化される部位が不均一になる傾向があり、一方、50当量より多いと副反応が起こる傾向がある。
【0063】
スルホン酸化工程における原料の芳香族系化合物の濃度は、スルホン酸化剤と接触させた場合に均一に反応が進行すれば特に限定されないが、副反応が起きにくくすることと、溶媒量抑制によるコスト優位性の観点から、スルホン酸化反応に用いた化合物全体の重量に対して1~30重量%であることが好ましい。
【0064】
スルホン酸基含有セグメントのみのイオン交換容量(以下、イオン交換容量をIECと示すこともある。)は、高分子電解質膜としてのIECが高く設定でき、また低加湿下で高いプロトン伝導性を発現することができる点から、2.0meq./g以上であることが好ましい。meq./gは、ミリ当量/gを意味する。スルホン酸基含有セグメントのIECは、NMRの分析による計算や、共重合により得られた電解質のIEC(従来公知の方法、例えば滴定等により容易に求められる)を、スルホン酸基含有セグメントの重量割合で除すること等により求めることができる。
【0065】
スルホン酸基含有セグメントの前駆体のスルホン酸基は保護された形態であってもよい。
【0066】
遷移金属化合物としては、ニッケル系化合物、及びパラジウム系化合物が好ましく用いられ、より好ましくは、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル、及びテトラキストリフェニルホスフィンニッケル等の0価ニッケル錯体が用いられる。また、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ジクロロビストリフェニルホスフィンニッケル等の2価のニッケル化合物を、亜鉛等の還元剤の存在下に使用してもよい。0価ニッケル錯体は、カップリング反応の活性が高い半面、高価であり、水分や酸素に対して敏感で取り扱いに注意を要することから、2価ニッケル化合物を使用することが好ましい。
【0067】
また、スルホン酸基含有セグメントの前駆体と、疎水性セグメントの前駆体(メタフェニレンセグメント前駆体、あるいはメタフェニレンセグメント前駆体及びパラフェニレンセグメント前駆体)の一方にボロン酸官能基を導入し、他方にハロゲンを導入しておき、パラジウム触媒を用いた鈴木-宮浦カップリング反応を用いることもできる。
【0068】
重合反応用溶媒としては、メタフェニレンセグメントの前駆体、パラフェニレンセグメントの前駆体、及びスルホン酸基含有セグメントの前駆体などの反応物質、ならびに生成する高分子電解質を溶解するものが好ましく、具体例としては、芳香族炭化水素系溶媒、ハロゲン系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、スルホン系溶媒、スルホキシド系溶媒などが挙げられる。これらの中でも、生成する高分子電解質の溶解度の観点から、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド系溶媒、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンなどのハロゲン系溶媒、ジメチルスルホキシドなどの硫黄系溶媒が好ましい。これら重合反応溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合してもよい。
【0069】
遷移金属化合物を用いるカップリング反応を行う場合は、反応系を脱水することが好ましい。脱水の方法は特に限定されないが、上記の溶媒に共沸溶媒を混合し、加熱して共沸脱水する方法が好ましく用いられる。
【0070】
共沸溶媒としては特に限定はないが、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、クロロベンゼン、ジオキサン、及びテトラヒドロフランなどを用いることができ、重合反応用溶媒に応じて、適宜選択される。
【0071】
共沸脱水は、共沸溶媒の沸点に依存するが、100℃~200℃の範囲で行うことが好ましい。100℃未満では脱水速度が遅く実用的でなく、200℃を超えると重合反応用溶媒も留去されてしまうので好ましくない。
【0072】
共沸脱水時の温度によっては、前記一般式(5)で表される化合物及び/または前記一般式(6)で表される化合物が一部蒸発してしまい、重合収率が低下したり、設定値よりも大きなイオン交換容量を有する高分子電解質が得られることがある。このような場合、他の成分を脱水した後に混合物を冷却してから、これらの化合物を添加すると、高分子電解質が高収率で得られることから好ましい。
【0073】
また、カップリングに使用する遷移金属化合物として2価ニッケル化合物等を使用する場合は、スルホン酸基がアルキル基等で保護されたスルホン酸基含有セグメントの前駆体を用いることが好ましいが、共沸脱水時の温度が高すぎると、保護基が脱離してしまい、重合を阻害することがある。このような場合も、他の成分を脱水した後に混合物を冷却し、当該スルホン酸基含有セグメント前駆体を添加すると、高い収率で高分子量の重合体が得られるので好ましい。
【0074】
本発明の1以上の実施形態において、前記高分子電解質の数平均分子量は、1,000~500,000が好ましく、より好ましくは5,000~200,000であり、さらに好ましくは、7,000~100,000である。数平均分子量が1,000より小さいと膜にした場合の強度が不足する傾向があり、一方、500,000より大きいと、溶媒への溶解性が低下し、ハンドリング性が悪化する傾向がある。高分子電解質の数平均分子量は、後述の実施例に記載の方法から求めることができる。
【0075】
本発明の1以上の実施形態において、前記高分子電解質には、スルホン酸基が0.5~4.0meq./gの割合で含まれることが好ましく、1.2~3.8meq./gがより好ましく、1.4~3.6meq./gがさらに好ましい。0.5meq./g未満であると、プロトン伝導度が不十分となる傾向があり、4.0meq./gを超えると、膜とした場合に強度を維持することが困難となる傾向がある。
【0076】
本発明の1以上の実施形態において、前記高分子電解質は、使用する原料や反応の組み合わせにより、種々の構造を取り得る。それらの中でも、下記一般式(4)で表される構造を有する高分子電解質が特に好ましい。
【0077】
【化18】
【0078】
前記一般式(4)中、xは1~2000の整数、yは、1~1500の整数、zは0~1500の整数で、y:zは100:0~10:90の範囲にある。
【0079】
前記一般式(4)での高分子電解質におけるスルホン酸基含有セグメントは、原料が入手しやすいとともに、当該セグメントにおけるスルホン酸基当量が高く、他のスルホン酸基含有セグメントに比較して、より少ない使用量で、高いプロトン伝導率が得られるというメリットがある。また、前記一般式(4)での高分子電解質において、メタフェニレンセグメントの前駆体としての1,3-ジクロロベンゼン、パラフェニレンセグメントの前駆体としての1,4-ジクロロベンゼンは、安価であり好ましい。
【0080】
前記一般式(4)において、xは1~2000の整数、yは1~1500の整数、zは0~1500の整数であり、好ましくは、xは2~1000の整数、y及びzはそれぞれ、5~500の整数であり、さらに好ましくは、xは3~400の整数、y及びzはそれぞれ、6~250の整数である。xの値が2000より大きいと、高分子電解質の親水性が高くなりすぎ、膨潤耐性が低くなったり、水に溶解してしまう可能性がある。一方、yまたはzが1500を越えると、溶媒に溶解しにくく、成形性が低下する。
【0081】
本発明の高分子電解質は、様々な産業上の利用が考えられ、その利用(用途)については、特に制限されるものではないが、高分子電解質膜、燃料電池用触媒層、燃料電池用膜/電極接合体、燃料電池に好適である。
【0082】
本発明にかかる高分子電解質膜は、上記高分子電解質を任意の方法で膜状に成型したものである。このような製膜方法としては、公知の方法が適宜使用され得る。上記公知の方法としては、例えば、ホットプレス法、インフレーション法、Tダイ法などの溶融押出成形、キャスト法、エマルション法などの溶液からの製膜方法が例示され得る。例えば溶液からの製膜方法としては、キャスト法が例示される。これは粘度を調整した高分子電解質の溶液を、ガラス板などの平板上に、バーコーター、ブレードコーターなどを用いて塗布し、溶媒を気化させて膜を得る方法である。工業的には溶液を連続的にコートダイからベルト上に塗布し、溶媒を気化させて長尺物を得る方法も一般的である。
【0083】
さらに、高分子電解質膜の分子配向などを制御するために、得られた高分子電解質膜に対して二軸延伸などの処理を施したり、結晶化度を制御するための熱処理を施したりしてもよい。また、高分子電解質膜の機械的強度を向上させるために各種フィラーを添加したり、ガラス不織布などの補強剤と高分子電解質膜とをプレスにより複合化させたりすることも、本発明の範疇である。
【0084】
高分子電解質膜の厚さは、用途に応じて任意の厚さを選択することができる。例えば、得られる高分子電解質膜の内部抵抗を低減することを考慮した場合、高分子電解質膜の厚みは薄い程よい。一方、得られた高分子電解質膜のガス遮断性やハンドリング性を考慮すると、高分子電解質膜の厚みは薄すぎると好ましくない場合がある。これらを考慮すると、高分子電解質膜の厚みは、1.2μm以上350μm以下であることが好ましい。上記高分子電解質膜の厚さが上記数値の範囲内であれば、取り扱いが容易であり、破損が生じ難いなどハンドリング性が向上する。また、得られた高分子電解質膜のプロトン伝導性も所望の範囲で発現させることができる。
【0085】
なお、本発明の高分子電解質膜の特性をさらに向上させるために、電子線、γ線、イオンビーム等の放射線を照射させることも可能である。これらにより、高分子電解質膜中に架橋構造などが導入でき、さらに性能が向上する場合がある。またプラズマ処理やコロナ処理などの各種表面処理により、高分子電解質膜表面の触媒層との接着性を上げるなどの特性向上を図ることもできる。
【0086】
本発明の高分子電解質膜は、イオン交換容量が0.5meq./g以上であることが好ましく、1.2meq./g以上であることがより好ましく、1.4meq./g以上であることがさらに好ましい。また、4.0meq./g以下であることが好ましく、3.8meq./g以下であることがより好ましく、3.6meq./g以下であることがさらに好ましい。0.5meq./g未満であるとプロトン伝導性が低くなりすぎる傾向があり、4.0meq./gを超えると水による膨潤で機械強度が著しく低下する傾向がある。
【0087】
本発明の燃料電池用触媒層は、本発明の高分子電解質を含有してなるものである。具体的には、当該燃料電池用触媒層は、上述の高分子電解質、燃料電池用触媒、必要に応じて撥水剤やバインダー樹脂から構成されるものである。本発明の高分子電解質を使用することにより、固体高分子形燃料電池や直接メタノール型燃料電池のアノード又はカソード触媒層に好適な、優れた発電特性を示すことができる。
【0088】
本発明で使用される燃料電池用触媒は、当業者にとって従来公知の燃料電池用触媒であればよく、導電性触媒担体と当該導電性触媒担体に担持された触媒活性物質を含むものであればよく、その他の具体的な構成については特に限定されない。具体的には、燃料電池の電極反応に対して活性な触媒が使用される。アノード側では、燃料(水素やメタノールなど)の酸化能を有する触媒が使用される。カソード側では、酸化剤(酸素など)の還元能を有する触媒が使用される。
【0089】
導電性触媒担体としては、具体的には、カーボンブラック、ケッチェンブラック(商品名)、活性炭、カーボンナノホーン、カーボンナノチューブなどの高表面積のカーボン担体が挙げられ、触媒担持能や電子伝導性、電気化学的安定性などから、これらの材料が好ましい。
【0090】
触媒活性物質としては、具体的には、白金、コバルト、ルテニウム等が例示でき、これらを単独で、あるいはこれらの少なくとも一種を含んだ合金、さらには任意の混合物として使用しても構わない。特に燃料の酸化能、酸化剤の還元能、耐久性を考慮すると、白金又は白金を含む合金であることが好ましい。これらは必要に応じて、安定化や長寿命化のために、鉄、錫、希土類元素等を用い、3成分以上で構成してもよい。
【0091】
本発明の燃料電池用触媒層は、本発明の高分子電解質、燃料電池用触媒及び溶媒を含む触媒インクを支持体上に塗布し、溶媒を除去することによって調製することができる。溶媒としては、高分子電解質を溶解でき、燃料電池用触媒を被毒しないものであれば何ら制限なく使用可能である。当該触媒インクは、必要に応じて非電解質バインダー、撥水剤、分散剤、増粘剤、造孔剤などの添加剤を含んでいても構わない。また、これらの添加剤は、当業者にとって従来公知のものが使用可能であり、その他の具体的な構成については特に限定されない。
【0092】
前記組成及び方法で調製された触媒インクは、粘度や基材の種類に応じて、下記に示すような塗布方法が利用できる。前記触媒インクの基材への塗布方法としては、当業者にとって従来公知の塗布方法であればよく、その他の具体的な構成については特に限定されない。例えば、ナイフコーター、バーコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷などを利用する方法が列挙できるが、これらに限定されるものではない
【0093】
本発明において、基材として高分子フィルムを使用した場合には、燃料電池用触媒層転写シートが、基材として導電性多孔質シートを使用した場合には、燃料電池用ガス拡散電極が、それぞれ製造できる。
【0094】
本発明にかかる燃料電池用膜/電極接合体(以下、「MEA」と表記する。)は、本発明の高分子電解質又は高分子電解質膜を用いてなる。かかるMEAは、例えば、固体高分子形燃料電池に好適に用いることができる。MEAを作製する方法は、従来検討されている、パーフルオロカーボンスルホン酸からなる高分子電解質膜やその他の炭化水素系高分子電解質膜(例えば、スルホン酸化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン酸化ポリエーテルスルホン、スルホン酸化ポリスルホン、スルホン酸化ポリイミド、スルホン酸化ポリフェニレンサルファイドなど)で行われる公知の方法が適用可能である。
【0095】
上述した例以外にも、本発明にかかる高分子電解質は、例えば特開2006-179298号公報等で公知になっている固体高分子形燃料電池の電解質として、使用可能である。これらの公知の特許文献に基づけば、当業者であれば、本発明の高分子電解質を用いて容易に固体高分子形燃料電池を構成することができる。
【実施例
【0096】
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0097】
各測定は以下のように行った。
【0098】
(分子量の測定)
GPC法により分子量を測定した。条件は以下の通り。
GPC測定装置:HLC-8220(東ソー株式会社製)
カラム:SuperAW4000及びSuperAW2500(昭和電工株式会社製)の2本を直列に接続
カラム温度:40℃
移動相溶媒:NMP(N-メチルピロリドン、LiBrを10mmol/dm3になるように添加)
溶媒流量:0.3mL/min
標準物質:TSK標準ポリスチレン(東ソー株式会社製)
以下、標準ポリスチレンで換算した数平均分子量をMnと表記し、標準ポリスチレンで換算した重量平均分子量をMwと表記する。
【0099】
(溶解性)
溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用い、高分子電解質のサンプル約30mgをDMSO約5mL又はNMP約5mLにそれぞれ添加し室温で3時間放置した。溶けにくい場合は、サンプルを入れた容器を室温で3時間超音波処理した後、下記の3段階の基準で溶解性を測定した。
A:完全に溶解している。
B:一部溶け残りがある。
C:不溶である。
【0100】
(イオン交換容量の測定)
測定サンプルとして、酸処理後の膜を10~20mg切り出し、80℃で減圧乾燥し、乾燥重量(Wdry)を測定した。高分子電解質が溶媒に溶けない場合は、重合後の粗生成物10~20mgを同様に乾燥した後、測定サンプルとして用いた。これらの膜、または粗生成物を、飽和NaCl水溶液(30mL)に室温で24時間浸漬させることで、イオン基をH+型からNa+型へ変換した。その後得られた溶液に含まれるHClを、電位差自動滴定装置AT-510(京都電子工業株式会社製)を用いて0.01MのNaOH水溶液により定量し、以下の式を用いてイオン交換容量IEC値を算出した。同一の膜について2サンプル作成し、2回の測定の平均値を滴定による算出IEC値とした。
【0101】
【数1】
【0102】
(膨潤率の測定)
約2cm×3cmにカットした高分子電解質膜のサンプルを準備し、サンプルを室温で純水に6時間浸漬した。浸漬直後のサンプル、及びそれを100℃で2時間真空乾燥を行って絶乾状態としたサンプルの膜厚方向の寸法変化、及び重量を測定し、変化率を計算した。膜厚方向については、3箇所の寸法変化を測定し、その平均値を結果とした。
【0103】
(耐酸化性の評価(Fenton試験))
約1×3cmほどの膜(約30mg)を用意した。この膜を50mLのFenton溶液(2ppmのFeSO4を含む3%H22)中に加え、80℃で1時間、浸漬した。試験後の膜を乾燥し、重量及び分子量を測定し、試験前の値からの保持率を計算した。
【0104】
<スルホン酸基含有セグメントの前駆体の合成例1>
1Lの3つ口フラスコに2,5-ジクロロベンゼンスルホン酸2水和物(100.5g、382mmol)及び水(300mL)を仕込み、撹拌しながら、水酸化ナトリウム(16.05g、401mmol)の水溶液(80mL)を室温で加えた。混合物を氷冷し、白色の固体を析出させ、生成物を濾別した。濾液を再度氷冷し、白色固体を析出させ、濾別した。得られた固体をまとめて105℃で減圧乾燥し、2,5-ジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウムを70.6g得た(収率74%)。
【0105】
<スルホン酸基含有セグメントの前駆体の合成例2>
温度計、窒素導入管、及び攪拌子を備え付けた300mLの4つ口フラスコに、窒素雰囲気下、2,2-ジメチル-1-プロパノール(14.36g、162.9mmol)を加え、ピリジン(85mL)を加えて溶解させた。0℃に冷却し、2,5-ジクロロベンゼンスルホニルクロリド(20g、81.5mmol)を加えて、2.5時間撹拌した。反応液を室温に戻し、6時間撹拌を続けた。4N塩酸(200mL)を加え、反応液を酸性とした。酢酸エチル(200mL)を加え、2層を分離した。水層を酢酸エチル(100mL)で抽出し、油層を飽和NaHCO3水溶液(200mL)、及び飽和食塩水(200mL)で洗浄した。油層を硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下、溶媒を留去した。得られた粗生成物を2-プロパノールから再結晶し、下記反応式で示される反応によって生成されたスルホン酸基が2,2-ジメチルプロピル基で保護された化合物(2,5-ジクロロベンゼンスルホン酸2,2-ジメチルプロピル)を19.85g得た(収率82%)。
【0106】
【化19】
【0107】
<実施例1>
リービッヒ冷却器とディーン・スタックトラップを備え、窒素パージしている三口フラスコ中へ、合成例1で得られた2,5-ジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム(2.36g、9.48mmol)、1,3-ジクロロベンゼン(3.06g、20.8mmol)(1,3-ジクロロベンゼンと1,4-ジクロロベンゼンのモル比=100:0)、2,2’-ビピリジル(11.92g、76.4mmol)、ジメチルスルホキシド(40mL)、トルエン(10mL)を加え、170℃で3時間、共沸脱水した。トルエンを留去した後、混合物を80℃に冷却し、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)(10g、36.4mmol)を添加し、2時間撹拌した。混合物をメタノール(200mL)に滴下して再沈殿した。得られた黒色固体を6N塩酸(200mL)で2回洗浄、さらに純水で濾液が中性となるまで洗浄し、真空乾燥することにより、目的とする高分子電解質を2.56g(粗生成物の収率84%)で得た。反応式は、下記の通りである。
【0108】
【化20】
【0109】
得られた高分子電解質は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びN-メチルピロリドン(NMP)のいずれにも溶解した。GPCで測定した分子量はMn=26,300、Mw=78,400であった。また、イオン交換当量(IEC)は2.94meq./gであった。イオン交換当量(IEC)の測定には、後述するように作製した電解質膜を用いた。結果を表1にまとめた。
【0110】
<実施例2>
リービッヒ冷却器とディーン・スタックトラップを備え、窒素パージしている三口フラスコ中へ、合成例1で得られた2,5-ジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム(1.18g、4.74mmol)、1,3-ジクロロベンゼン(1.377g、9.36mmol)、1,4-ジクロロベンゼン(0.153g、1.04mmol)(1,3-ジクロロベンゼンと1,4-ジクロロベンゼンのモル比=90:10)、2,2’-ビピリジル(5.96g、38.2mmol)、ジメチルスルホキシド(20mL)、トルエン(10mL)を加え、170℃で3時間、共沸脱水した。トルエンを留去した後、混合物を80℃に冷却し、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)(5g、18.2mmol)を添加し、2時間撹拌した。混合物をメタノール(200mL)に滴下して再沈殿した。得られた黒色固体を6N塩酸(200mL)で2回洗浄、さらに純水で濾液が中性となるまで洗浄し、真空乾燥することにより、目的とする高分子電解質を1.19g(粗生成物の収率78%)で得た。反応式は、下記の通りである。
【0111】
【化21】
【0112】
得られた高分子電解質は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びN-メチルピロリドン(NMP)のいずれにも溶解した。GPCで測定した分子量はMn=48,800、Mw=96,900であった。また、イオン交換当量(IEC)は3.09meq./gであった。結果を表1にまとめた。
【0113】
<実施例3~7>
1,3-ジクロロベンゼンと1,4-ジクロロベンゼンの仕込み比を表1に示す比に変更した以外は実施例2と同様にして共重合を行い、高分子電解質を得た。粗生成物の収率、分子量、溶解性、及びIECを表1にまとめた。
【0114】
<実施例8>
リービッヒ冷却器とディーン・スタックトラップを備え、窒素パージしている三口フラスコ中へ、合成例1で得られた2,5-ジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム(1.18g、4.74mmol)、2,2’-ビピリジル(5.96g、38.2mmol)、ジメチルスルホキシド(20mL)、トルエン(10mL)を加え、170℃で3時間、共沸脱水した。トルエンを留去した後、混合物を80℃に冷却し、1,3-ジクロロベンゼン(1.224g、8.33mmol)、1,4-ジクロロベンゼン(0.306g、2.08mmol)(1,3-ジクロロベンゼンと1,4-ジクロロベンゼンのモル比=80:20)、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)(5g、18.2mmol)をこの順に添加し、2時間撹拌した。混合物をメタノール(200mL)に滴下して再沈殿した。得られた黒色固体を6N塩酸(200mL)で2回洗浄、さらに純水で濾液が中性となるまで洗浄し、真空乾燥することにより、目的とする高分子電解質を1.41g(粗生成物の収率92%)で得た。得られた高分子電解質は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチルピロリドン(NMP)に溶解した。GPCで測定した分子量はMn=72,900、Mw=136,000であった。また、イオン交換当量(IEC)は2.40meq./gであった。結果を表1にまとめた。
【0115】
<実施例9~10>
1,3-ジクロロベンゼンと1,4-ジクロロベンゼンの仕込み比を表1に示す比に変更した以外は、実施例8と同様にして共重合を行い、高分子電解質を得た。収率、分子量、溶解性、IECを表1にまとめた。
【0116】
<比較例1>
1,3-ジクロロベンゼンを0.0306g(0.208mmol)、1,4-ジクロロベンゼンを1.50g(10.2mmol)用いる(1,3-ジクロロベンゼンと1,4-ジクロロベンゼンのモル比=2:98)こと以外は、実施例2と同様にして高分子電解質を1.14g得た(粗生成物の収率75%)。IECは3.23meq./gであった。得られた高分子電解質は、DMSO、NMPに溶解せず、分子量は測定できなかった。イオン交換当量(IEC)の測定には、重合後の粗生成物を用いた。
【0117】
<比較例2>
1,3-ジクロロベンゼンのかわりに1,4-ジクロロベンゼン(3.06g、20.8mmol)を用いる(1,3-ジクロロベンゼンと1,4-ジクロロベンゼンのモル比=0:100)こと以外は、実施例1と同様にして高分子電解質を2.78g得た(収率91%)。反応式は、下記の通りである。IECは2.3meq./gであった。得られた高分子電解質は、DMSO、NMPに溶解せず、分子量は測定できなかった。
【0118】
【化22】
【0119】
<実施例11>
リービッヒ冷却器とディーン・スタックトラップを備え、窒素パージしている三口フラスコ中へ、1,3-ジクロロベンゼン(2.448g、16.7mmol)、1,4-ジクロロベンゼン(0.612g、4.16mmol)(1,3-ジクロロベンゼンと1,4-ジクロロベンゼンのモル比=80:20)、臭化ニッケル(7.94g、36.4mmol)、2,2’-ビピリジル(11.9g、76.5mmol)、ヨウ化ナトリウム(10.91g、72.8mmol)、ジメチルアセトアミド(DMAc、80mL)、及びトルエン(40mL)を加え、170℃に加熱して、3時間、共沸脱水した。トルエンを留去した後、混合物を60℃に冷却し、合成例2で得られた2,5-ジクロロベンゼンスルホン酸2,2-ジメチルプロピル(2.82g、9.48mmol)、及び亜鉛(11.92g、182mmol)を添加し、3時間撹拌した。混合物をメタノール(500mL)に滴下して再沈殿した。得られた固体を6N塩酸(500mL)で2回洗浄、さらに純水で濾液が中性となるまで洗浄し、60℃で真空乾燥することにより、スルホン酸基が2,2-ジメチルプロピル基で保護された重合体を得た(3.02g)。次に、得られた重合体(2.48g)をDMAc(20mL)に溶解し、臭化リチウム(1.71g、19.7mmol)を加え、120℃で5時間撹拌した。混合物を6N塩酸に注いで再沈殿し、固形物を塩酸で洗浄、さらに水で濾液が中性になるまで洗浄した後、105℃で真空乾燥することにより、目的とする高分子電解質を1.53g得た(粗生成物の2段階のトータル収率50%)。得られた高分子電解質はNMP及びDMSOのいずれにも溶解した。GPCで測定した分子量は、Mn=38,900、Mw=64,400であった。また、IECは3.26meq./gであった。結果を表2にまとめた。
【0120】
【化23】
【0121】
<実施例12~15>
1,3-ジクロロベンゼンと1,4-ジクロロベンゼンの仕込み比を表2に示す比に変更した以外は実施例11と同様にして共重合を行い、高分子電解質を得た。粗生成物の収率、分子量、溶解性、IECを表2にまとめた。
【0122】
<実施例16>
リービッヒ冷却器とディーン・スタックトラップを備え、窒素パージしている三口フラスコ中へ、臭化ニッケル(7.94g、36.4mmol)、2,2’-ビピリジル(11.9g、76.5mmol)、ヨウ化ナトリウム(10.91g、72.8mmol)、ジメチルアセトアミド(DMAc、80mL)、及びトルエン(40mL)を加え、170℃に加熱して、3時間、共沸脱水した。トルエンを留去した後、混合物を60℃に冷却し、1,3-ジクロロベンゼン(2.448g、16.7mmol)、1,4-ジクロロベンゼン(0.612g、4.16mmol)(1,3-ジクロロベンゼンと1,4-ジクロロベンゼンのモル比=80:20)、合成例2で得られた2,5-ジクロロベンゼンスルホン酸2,2-ジメチルプロピル(2.82g、9.48mmol)、及び亜鉛(11.92g、182mmol)をこの順で添加し、3時間撹拌した。混合物をメタノール(500mL)に滴下して再沈殿した。得られた固体を6N塩酸(500mL)で2回洗浄、さらに純水で濾液が中性となるまで洗浄し、60℃で真空乾燥することにより、スルホン酸基が2,2-ジメチルプロピル基で保護された重合体を得た。次に、得られた重合体(3.72g)をDMAc(20mL)に溶解し、臭化リチウム(2.60g、29.9mmol)を加え、120℃で5時間撹拌した。混合物を6N塩酸に注いで再沈殿し、固形物を塩酸で洗浄、さらに水で濾液が中性になるまで洗浄した後、105℃で真空乾燥することにより、目的とする高分子電解質を2.75g得た(粗生成物の2段階のトータル収率90%)。得られた高分子電解質はNMP及びDMSOのいずれにも溶解した。GPCで測定した分子量は、Mn=47,100、Mw=110,000であった。また、IECは2.41meq./gであった。結果を表2にまとめた。
【0123】
<実施例17~19>
1,3-ジクロロベンゼンと1,4-ジクロロベンゼンの仕込み比を表2に示す比に変更した以外は実施例16と同様にして共重合を行い、高分子電解質を得た。粗生成物の収率、分子量、溶解性、IECを表2にまとめた。表1及び表2において、「meta:para」は、「メタフェニレンセグメント:パラフェニレンセグメント」を意味する。
【0124】
<比較例3>
1,4-ジクロロベンゼンを3.06g(20.8mmol)用い、1,3-ジクロロベンゼンを用いない以外は、実施例11と同様にして共重合を行い、高分子電解質を得た(粗生成物の収率85%)。IECは3.11meq./gであった。得られた高分子電解質は、DMSO、NMPに溶解せず、分子量は測定できなかった。
【0125】
<参考例1>
還流管とDeanStark管を取り付けた500mLの4つ口フラスコに、4,4’-ジクロロジフェニルスルホン(31.6g,110mmol)、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン(21.4g,100mmol)、炭酸カリウム(20.7g,150mmol)、ジメチルアセトアミド(200mL)、及びトルエン(50mL)を加えた。混合物を170℃に加熱し、生成した水を除去しながら35時間、攪拌を続けた。4,4’-ジクロロジフェニルスルホン(0.5g)を追加し、さらに5時間攪拌した。混合物を、濾紙を用いて濾過し、過剰の炭酸カリウムを除去した後、濾液を500mLのメタノールに注いで、生成物を再沈殿させた。生成物を減圧下、70℃で4時間乾燥させた後、500mLの純水で、60℃で2回洗浄、さらに500mLのメタノールで60℃で1回洗浄し、減圧下、70℃で一晩乾燥させ、下記反応式で示される反応によって疎水部オリゴマーを41.5g得た。GPCによる分子量はMn=5400、Mw=13900であった。
【0126】
【化24】
【0127】
リービッヒ冷却器とディーン・スタックトラップを備え、窒素パージしている三つ口フラスコ中へ、2,5-ジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム(31.36g,126mmol)、上記で得られた疎水部オリゴマー(16g,3.5mmol)、2,2’-ビピリジル(47.68g,306mmol)、ジメチルスルホキシド(704mL)、トルエン(176mL)を仕込み、170℃で2時間脱水を行なった。水とトルエンを除去後、80℃へと温度を下げ、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)(40g,145.6mmol)を加えて重合を開始した。2時間反応後、放冷し、反応物をメタノール(2L)に注いで再沈殿させた。得られた固体を6mol/L塩酸(2×2L)で洗浄し、さらに濾液が中性になるまで水で繰り返し洗浄した。減圧下、105℃で乾燥し、目的の電解質を29.9g得た(粗生成物の収率84%)。GPCによる分子量はMn=66,600、Mw=137,000であった。また、IECは2.30meq./gであった。
【0128】
【化25】
【0129】
<製膜及び物性評価>
実施例1~19、及び参考例1で得られた高分子電解質を、塩化メチレン、及びメタノールを用いて洗浄し、DMSOに溶解して、約20重量%の溶液を得た。得られた高分子電解質の溶液をPETフィルム(東レ製ルミラー)上に塗布し、120℃で12時間乾燥させた。得られたフィルムを6N塩酸、さらに純水で洗浄し、膜厚が約25μmの高分子電解質膜を得た。
【0130】
実施例1~19の高分子電解質は、疎水性セグメントのメタフェニレンとパラフェニレンの比が100:0~10:90の範囲で重合しているので、溶媒に溶解し、製膜が可能であった。中でも実施例1~4、8~9、11~13、及び16~17の高分子電解質は、疎水性セグメントのメタフェニレンとパラフェニレンの比が100:0~50:50の範囲にあるため、溶解性が特に優れており、製膜が容易であった。さらに実施例3~4、8~9、11~13、及び16~17の電解質は、疎水性セグメントのメタフェニレンとパラフェニレンの比が80:20~50:50の範囲にあるため、溶解性が高いとともに分子量が高く、高分子電解質膜としてより好ましいと言える。
【0131】
比較例1~3の高分子電解質は、メタフェニレンとパラフェニレンの比が100:0~10:90の範囲を外れているため、溶媒への溶解性が低く、製膜できなかった。
【0132】
<膨潤度及びFenton試験>
実施例3、12、及び参考例1の電解質膜の膨潤度測定、及びFenton試験を実施した。結果を表3に示した。
【0133】
実施例3及び12の電解質膜は、平面方向においては参考例1の電解質膜とほぼ同等、膜厚方向においては、若干小さい膨潤度を示した。実施例3及び12の高分子電解質膜は、主鎖がすべて炭素-炭素結合で連結され、耐酸化性が高いため、Fenton試験後も膜の形状を保っており、重量及び分子量も試験前とほとんど変化がなかった。一方、参考例1の電解質膜は、主鎖中にエーテル結合等のヘテロ結合を含んでいるため、Fenton試験後に膜がちぎれて小片に分解し、重量及び分子量が大きく低下した。
【0134】
【表1】
【0135】
【表2】
【0136】
【表3】