(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】含フッ素芳香族ジアミンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 213/08 20060101AFI20220622BHJP
C07C 215/68 20060101ALI20220622BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20220622BHJP
C08G 69/42 20060101ALI20220622BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220622BHJP
【FI】
C07C213/08
C07C215/68
C08G73/10
C08G69/42
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2018157471
(22)【出願日】2018-08-24
【審査請求日】2021-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2018092211
(32)【優先日】2018-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高橋 新
(72)【発明者】
【氏名】萩原 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】原 由香里
(72)【発明者】
【氏名】江口 弘
(72)【発明者】
【氏名】松永 佳
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/041115(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/043501(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/084185(WO,A1)
【文献】特開2014-129340(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジアミンと、
ヘキサフルオロアセトンを、
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール中で反応させ、
出発原料である芳香族ジアミン中の、アミノ基を有する芳香環に-C(CF
3)
2OH基が結合した含フッ素芳香族ジアミンを得る工程を含む、
含フッ素芳香族ジアミンの製造方法
であって、
前記芳香族ジアミンが、式(1)
【化1】
(式中、Aは、単結合、エーテル結合、スルフィド結合、CO、CH
2
、SO、SO
2
、C(CH
3
)
2
、もしくはC(CF
3
)
2
、または脂環、複素環、芳香族複素環もしくは芳香環を有する2価の基であり、R
1
は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、またはハロゲン原子である。)
で表され、
前記芳香族ジアミン中の、アミノ基を有する芳香環に-C(CF
3)
2OH基が結合した含フッ素芳香族ジアミンが、
式(2)
【化2】
(式中、AおよびR
1
は、式(1)における意味と同義であり、aとbはそれぞれ独立に0~2の整数を表し、1≦ a+b≦4である。)
で表される、
含フッ素芳香族ジアミンの製造方法。
【請求項2】
式(3)
【化3】
(式中、AおよびR
1は、式(1)における意味と同義である)
で表される芳香族ジアミンと、
ヘキサフルオロアセトンを
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール中で反応させ、
式(4)
【化4】
(式中、AおよびR
1は、式(1)における意味と同義である。)
で表される含フッ素芳香族ジアミンを得る工程を含む、
請求項
1に記載の含フッ素芳香族ジアミンの製造方法。
【請求項3】
式(5)
【化5】
(式中、AおよびR
1は、式(1)における意味と同義である。)
で表される芳香族ジアミンと、
ヘキサフルオロアセトンを
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール中で反応させ、
式(6)
【化6】
(式中、AおよびR
1は、式(1)における意味と同義である。)
で表される含フッ素芳香族ジアミンを得る工程を含む、
請求項
1または請求項
2に記載の含フッ素芳香族ジアミンの製造方法。
【請求項4】
式(7)
【化7】
(式中、AおよびR
1は、式(1)における意味と同義である。)
で表される芳香族ジアミンと、
ヘキサフルオロアセトンを、
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール中で反応させ、
式(8)
【化8】
(式中、AおよびR
1は、式(1)における意味と同義である。)
で表される含フッ素芳香族ジアミンを得る工程を含む、
請求項
1または請求項
2に記載の含フッ素芳香族ジアミンの製造方法。
【請求項5】
芳香族ジアミンと、
ヘキサフルオロアセトンを、
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール中で反応させ、
出発原料である芳香族ジアミン中の、アミノ基を有する芳香環に-C(CF
3
)
2
OH基が結合した含フッ素芳香族ジアミンを得る工程を含む、
含フッ素芳香族ジアミンの製造方法であって、
前記芳香族ジアミンが、式(9)
【化9】
で表され
、
前記芳香族ジアミン中の、アミノ基を有する芳香環に-C(CF
3
)
2
OH基が結合した含フッ素芳香族ジアミンが、式(10)
【化10】
(式中、cは、1~4の整数を表す。)
で表される
、
含フッ素芳香族ジアミンの製造方法。
【請求項6】
パラフェニレンジアミンと、
ヘキサフルオロアセトンを、
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール中で反応させ、
式(11)
【化11】
(式中、cは、1~4の整数を表す。)
で表される含フッ素芳香族ジアミンを得る工程を含む、
請求項
5に記載の含フッ素芳香族ジアミンの製造方法。
【請求項7】
式(11)で表される含フッ素芳香族ジアミンが
【化12】
で表される含フッ素芳香族ジアミンである、
請求項
5または請求項
6に記載の含フッ素芳香族ジアミンの製造方法。
【請求項8】
メタフェニレンジアミンと、
ヘキサフルオロアセトンを、
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール中で反応させ、
式(12)
【化13】
(式中、cは、1~4の整数を表す。)
で表される含フッ素芳香族ジアミン化合物を得る工程を含む、
請求項
5に記載の含フッ素芳香族ジアミンの製造方法。
【請求項9】
式(12)で表される含フッ素芳香族ジアミンが
【化14】
で表される含フッ素芳香族ジアミンである、請求項
5または請求項
8に記載の含フッ素芳香族ジアミンの製造方法。
【請求項10】
酸の存在下で反応させる、請求項1乃至請求項
9のいずれか1項に記載の含フッ素芳香族ジアミンの製造方法。
【請求項11】
式(1)
【化15】
(式中、Aは、単結合、エーテル結合、スルフィド結合、CO、CH
2
、SO、SO
2
、C(CH
3
)
2
、もしくはC(CF
3
)
2
、または脂環、複素環、芳香族複素環もしくは芳香環を有する2価の基であり、R
1
は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、またはハロゲン原子である。)
で表される芳香族ジアミンと、
ヘキサフルオロアセトンを
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール中で反応させ、
式(2)
【化16】
(式中、AおよびR
1
は、式(1)における意味と同義であり、aとbはそれぞれ独立に0~2の整数を表し、1≦ a+b≦4である。)
で表される含フッ素芳香族ジアミンを得る第1の工程と、
式(2)で表される含フッ素芳香族ジアミンとテトラカルボン酸二無水物を反応させて、含フッ素芳香族ポリアミック酸を得る第2の工程と、
前記含フッ素芳香族ポリアミック酸を脱水閉環させて、含フッ素芳香族ポリイミドを得る第3の工程とを含む、
含フッ素芳香族ポリイミドの製造方法。
【請求項12】
式(9)
【化17】
で表される芳香族ジアミンと、
ヘキサフルオロアセトンを、
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール中で反応させ、
式(10)
【化18】
(式中、cは、1~4の整数を表す。)
で表される含フッ素芳香族ジアミンを得る第1の工程と、
式(10)で表される含フッ素芳香族ジアミンとテトラカルボン酸二無水物を反応させて、含フッ素芳香族ポリアミック酸を得る第2の工程と、
前記含フッ素芳香族ポリアミック酸を脱水閉環させて、含フッ素芳香族ポリイミドを得る第3の工程とを含む、
含フッ素芳香族ポリイミドの製造方法。
【請求項13】
式(1)
【化19】
(式中、Aは、単結合、エーテル結合、スルフィド結合、CO、CH
2
、SO、SO
2
、C(CH
3
)
2
、もしくはC(CF
3
)
2
、または脂環、複素環、芳香族複素環もしくは芳香環を有する2価の基であり、R
1
は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、またはハロゲン原子である。)
で表される芳香族ジアミンと、
ヘキサフルオロアセトンを
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール中で反応させ、
式(2)
【化20】
(式中、AおよびR
1
は、式(1)における意味と同義であり、aとbはそれぞれ独立に0~2の整数を表し、1≦ a+b≦4である。)
で表される含フッ素芳香族ジアミンを得る第1の工程と、
式(2)で表される含フッ素芳香族ジアミンと、ジカルボン酸もしくはその誘導体、またはジカルボン酸ジハライドを反応させて、含フッ素芳香族ポリアミドを得る第2の工程とを含む、
含フッ素芳香族ポリアミドの製造方法。
【請求項14】
式(9)
【化21】
で表される芳香族ジアミンと、
ヘキサフルオロアセトンを、
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール中で反応させ、
式(10)
【化22】
(式中、cは、1~4の整数を表す。)
で表される含フッ素芳香族ジアミンを得る第1の工程と、
式(10)で表される含フッ素芳香族ジアミンと、ジカルボン酸もしくはその誘導体、またはジカルボン酸ジハライドを反応させて、含フッ素芳香族ポリアミドを得る第2の工程とを含む、
含フッ素芳香族ポリアミドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素芳香族ジアミンの製造方法、含フッ素芳香族ポリイミドの製造方法および含フッ素芳香族ポリアミドの製造方法に関する。含フッ素芳香族ジアミンは、耐熱性等の物性に優れたエンジニアリングプラスチックとして知られるポリイミドの原料であり、これらポリイミドは種々の産業分野において使用される。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、電子デバイスの材料、燃料電池の材料、医療材料、気体分離膜、自動車部品、航空機部品および宇宙機器部品等の素材として、多くの産業分野で使用されている。
【0003】
ポリイミドは、通常、ジアミンとテトラカルボン酸2無水物を用いてポリアミック酸を合成した後、前駆体であるポリアミック酸を加熱等により脱水閉環させることで合成される(以後、イミド化と呼ぶことがある)。
【0004】
通常、イミド化された後の状態であるポリイミドは、有機溶剤に不溶である。そのため、ポリイミド成形体を得るには、イミド化前のポリアミック酸を有機溶剤に溶解させた液(以後、ワニスと呼ぶことがある)の状態で基体に塗布し成形した後でイミド化し、ポリイミド成形体とすることが行われている。しかしながら、ワニスを基体に塗布し膜に成形した後、ワニス中のポリアミック酸をイミド化してポリイミド膜を得る方法は、加熱または化学反応等により塗布後にイミド化を行う必要があり、工程が煩雑となるという問題がある。また、ワニスの保存においても、ワニス中のポリアミック酸は、常温で変性し易く保存安定性に欠け、冷凍庫内に冷却保存し変性を防止しなければならないという問題がある。
【0005】
そのため、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸を有機溶剤に溶解させるのではなく、ポリイミドの状態で有機溶剤に溶解可能としたポリイミドが求められている。
【0006】
ポリイミドの状態で有機溶剤に溶解可能とする手段として、芳香族ポリイミドにおいては、有機溶媒との親和性を向上させるために、その構造中の芳香環にヘキサフルオロイソプロパノール基(-C(CF3)2OH、以後、HFIP基と呼ぶことがある)を結合させ導入することが知られている。以後、構造中の芳香環にHFIP基を結合させてなる含フッ素芳香族ポリイミドを、HFIP基含有ポリイミドと呼ぶことがある。
【0007】
例えば、特許文献1~4には、2個以上の芳香環を含む芳香族多環化合物であるジアミンを原料とし、HFIP基が各々の芳香環に結合した構造を有するHFIP基含有ポリイミドを用いてなる気体分離膜が開示されている。特許文献1~4には、HFIP基含有ポリイミドは、構造中にHFIP基を導入したことで有機溶媒に可溶となり、その後、基体に塗布することで膜状に成形可能となることが記載されている。
【0008】
また、特許文献5には、芳香族多環化合物であるジアミンを原料とし、各々の芳香環にHFIP基とアルキル基またはハロゲン基を結合させてなる、蛍光特性を有するHFIP基含有ポリイミドが開示されている。特許文献5には、本HFIP基含有ポリイミドは、構造中にHFIP基を導入したことで、有機溶剤に可溶となりポリイミド溶液の流延により成膜することができると記載されている。
【0009】
特許文献1~5に記載のHFIP基含有ポリイミドは、HFIP基が各々の芳香環に結合した芳香族多環化合物であるジアミンを原料とし、テトラカルボン酸2無水物とを反応させ、ポリアミック酸を得た後、イミド化することで合成される。以後、構造中の芳香環にHFIPを結合させてなる含フッ素芳香族ジアミンを、HFIP基含有ジアミンと呼ぶことがある。
【0010】
特許文献5~7には、HFIP基含有ジアミンおよびその製造法が開示されている。特許文献5~7には芳香族ジアミンと、ヘキサフルオロアセトン3水和物(以後、HFA3水和物と呼ぶことがある)またはヘキサフルオロアセトン(以後、HFAと呼ぶことがある)を反応させ、芳香族ジアミンが有する芳香環に結合する水素原子をHFIP基と置換することで、HFIP基含有ジアミンが得られることが記載されている。
【0011】
特許文献5および6には、芳香族多環化合物であるジアミンとHFAまたはHFA3水和物より、HFIP基含有ジアミンを得る以下の反応が記載されている。
【化1】
(式中、Aは、単結合、酸素原子、硫黄原子、CO、CH
2、SO、SO
2、C(CH
3)
2、NHCO、C(CF
3)
2 、フェニレン、脂環を表し、R
1は、それぞれ独立に
、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、またはハロゲン原子であり、aとbはそれぞれ独立に0~2の整数を表し、1≦ a+b≦4である。)
【0012】
特許文献5には、上記芳香族多環化合物であるHFIP基含有ジアミンから、HFIP含有ポリアミック酸を経て、HFIP基含有ポリイミドを得る方法が開示されている。
【0013】
また、特許文献6には、上記HFIP基含有ジアミンから、HFIP含有ポリアミドを得る方法、さらにHFIP含有ポリアミドを環化縮合させる方法が開示されている。
【0014】
特許文献7には、芳香族単環化合物であるジアミンとHFAまたはHFA3水和物より、HFIP基含有ジアミンを得る以下の反応が記載されている。
【化2】
(式中、cは、1~4の整数を表す。)
【0015】
特許文献7には、上記芳香族単環化合物であるHFIP基含有ジアミンから、HFIP含有ポリアミック酸を経て、HFIP基含有ポリイミドを得る方法が開示されている。また、上記芳香族単環化合物であるHFIP基含有ジアミンから、HFIP含有ポリアミドを得る方法、さらにHFIP含有ポリアミドを環化縮合させる方法が開示されている。
【0016】
特許文献5~7には、上記HFIP含有ジアミンを得る反応の反応溶媒については、溶媒を使用せずに反応を行うことができるが、溶媒を使用することもできると記載されている。使用される溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ニトロベンゼンまたはベンゾニトリルが例示されている。
【0017】
また、特許文献5~7には、芳香族ジアミンと、HFAまたはHFA3水和物を反応させ、HFIP基含有ジアミンを得る際、触媒はなくてもよいが、酸触媒を用いることで反応を促進させることが好ましいことが記載されている。使用される酸触媒としては、塩化アルミニウム、塩化鉄(III)、フッ化硼素、ベンゼンスルホン酸、カンファースルホン酸(CAS)、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸(p-TsOH)、パラトルエンスルホン酸1水和物(p-TsOH・H2O)またはピリジニウムパラトルエンスルホン酸(PPTS)が例示されている。
【0018】
特許文献1~7の実施例においては、芳香族ジアミンと、HFAまたはHFA3水和物を反応させてHFIP基含有ジアミンを得る際、反応溶媒は無溶剤、トルエンまたはキシレンが使用され、触媒はパラトルエンスルホン酸1水和物(p-TsOH・H2O)が使用されている。
【0019】
また、特許文献8には、特許文献5~7と同様にして、原料としての以下の非対称芳香族ジアミンとHFA3水和物を反応させて、相当するHFIP基含有ジアミンを合成することが記載されている。
【化3】
(式中、R
2は、単結合、酸素原子、硫黄原子、-C(=O)-基、-CH
2-基、-S(=O)-基、-S(=O)
2-、-C(CH
3)
2-基、-NH(C=O)-基もしくは-C(CF
3)
2-基、または脂環、複素環もしくは芳香環を有する2価の有機基である。HFIP
は-C(CF
3)
2OH基を表す。)
【0020】
特許文献9には、特許文献5~7と同様にして、原料としての以下のフルオレン骨格を有する芳香族ジアミンとHFA3水和物を反応させて、相当するHFIP基含有ジアミンを合成することが記載されている。
【化4】
(式中、R
3は、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、炭素数1~4のアルキル基、任意の数の水素原子がフッ素に置換された炭素数1~4のアルキル基、フェニル基、メトキシ基、ニトロ基からなる群から選ばれる1種の置換基を表す。R
4は、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、スルホン酸基、-C≡C-C(CH
3)
2OH基、-C≡C-C
6H
5基、-C≡C-Si(CH
3)
3基からなる群から選ばれる1種の置換基を表す。HFIPは-C(CF
3)
2OH基を表す。)
【0021】
特許文献10には、特許文献5~7と同様にして、原料として対応する芳香族ジアミンとHFA3水和物を反応させて、以下のHFIP基含有ジアミンを合成することが記載されている。
【化5】
(式中、mおよびpは、それぞれ独立に0~2のいずれかの整数でm+p≦2である。qは0もしくは1以上の整数である。rおよびsは、それぞれ独立に0~3の整数であり、且つ、(r+s)は1以上である。但し、少なくとも1つの-C(CF
3)
2OH基は、少なくとも1つの-NH
2基と、該縮合多環式芳香族炭化水素基を構成する炭素原子のうち、隣接する炭素同士に結合する関係にある。
【0022】
また、式中、次式で表される部分
【化6】
は、単環式芳香環もしくは、縮合多環式芳香環を表し、ヘテロ原子としてN原子、O原子またはS原子を含んでもよく、N原子、O原子またはS原子を含む官能基を置換基として有していてもよい。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【文献】特開2013-10096号公報
【文献】特開2014-128787号公報
【文献】特開2014-128788号公報
【文献】特開2016-137484号公報
【文献】特開2014-129340号公報
【文献】特開2007-119503号公報
【文献】特開2007-119504号公報
【文献】特開2014-125455号公報
【文献】特開2014-129339号公報
【文献】特開2008-150534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
特許文献5~7には、芳香族ジアミンとHFAから、HFIP基含有ジアミンを得る反応において、芳香族ジアミンのアミノ基、または生成したHFIP基含有ジアミンのアミノ基は、以下の反応式に示す様にHFAと反応して、イミン類を副生することが記載されている。また、特許文献5~7の実施例において、HFIP基含有ジアミンの収率が33~73%であったことが記載されている。
【化7】
【0025】
本発明はかかる問題を解決し、イミン類の副生を抑制し、選択率および収率よくHFIP基含有ジアミンを製造することのできる、HFIP基含有ジアミンの製造方法を提供することを目的とする。
【0026】
さらに、上記HFIP基含有ジアミンの製造方法を用いた、HFIP基含有ポリイミドの製造方法、およびHFIP基含有ポリアミドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、芳香族ジアミンにHFAを反応させる際に、反応溶媒として1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HC(CF3)2OH、以降、HFIPと略すことがある)を用いることで、意外なことに、イミン類の副生を抑制し、HFIP基含有ポリイミドを選択率および収率よく製造できることを見出し、本発明を完成するに至った([実施例]の実施例1~8参照)。
【0028】
HFIPは原料である芳香族ジアミンを溶解できることに加え、弱酸性であるので酸触媒としての効果もあり、従来技術よりも温和な反応条件で速やかに反応を進行させることができたと推測される。さらに、反応が速やかに進行することにより、原料またはHFIP基含有ジアミンのアミノ基と反応する余剰のHFAが減少したことにより、イミン類の副生を抑制する効果も得ることができたと推測される。
【0029】
尚、本明細書において、単にジアミンまたは芳香族ジアミンという場合は、HFIP基を有さないものを指す。
【0030】
すなわち、本発明は、発明1~13を含む。
[発明1]
芳香族ジアミンと、
ヘキサフルオロアセトンを、
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール中で反応させ、
出発原料である芳香族ジアミン中の、アミノ基を有する芳香環に-C(CF3)2OH基が結合した含フッ素芳香族ジアミンを得る工程を含む、
含フッ素芳香族ジアミンの製造方法。
【0031】
[発明2]
式(1)
【化8】
(式中、Aは、単結合、エーテル結合、スルフィド結合、CO、CH
2、SO、SO
2、C(CH
3)
2、もしくはC(CF
3)
2、または脂環、複素環、芳香族複素環もしくは芳香環を有する2価の基であり、R
1は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、またはハロゲン原子である。)
で表される芳香族ジアミンと、
ヘキサフルオロアセトンを
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール中で反応させ、
式(2)
【化9】
(式中、AおよびR
1は、式(1)における意味と同義であり、aとbはそれぞれ独立に0~2の整数を表し、1≦ a+b≦4である。)
で表される含フッ素芳香族ジアミンを得る工程を含む、
発明1の含フッ素芳香族ジアミンの製造方法。
【0032】
[発明3]
式(3)
【化10】
(式中、AおよびR
1は、式(1)における意味と同義である)
で表される芳香族ジアミンと、
ヘキサフルオロアセトンを
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール中で反応させ、式(4)
【化11】
(式中、AおよびR
1は、式(1)における意味と同義である。)
で表される含フッ素芳香族ジアミンを得る工程を含む、
発明2の含フッ素芳香族ジアミンの製造方法。
【0033】
[発明4]
式(5)
【化12】
(式中、AおよびR
1は、式(1)における意味と同義である。)
で表される芳香族ジアミンと、
ヘキサフルオロアセトンを
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール中で反応させ、
式(6)
【化13】
(式中、AおよびR
1は、式(1)における意味と同義である。)
で表される含フッ素芳香族ジアミンを得る工程を含む、
発明2または発明3の含フッ素芳香族ジアミンの製造方法。
【0034】
[発明5]
式(7)
【化14】
(式中、AおよびR
1は、式(1)における意味と同義である。)
で表される芳香族ジアミンと、
ヘキサフルオロアセトンを、
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール中で反応させ、
式(8)
【化15】
(式中、AおよびR
1は、式(1)における意味と同義である。)
で表される含フッ素芳香族ジアミンを得る工程を含む、
発明2または発明3の含フッ素芳香族ジアミンの製造方法。
【0035】
[発明6]
式(9)
【化16】
で表される芳香族ジアミンと、
ヘキサフルオロアセトンを、
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール中で反応させ、
式(10)
【化17】
(式中、cは、1~4の整数を表す。)
で表される含フッ素芳香族ジアミンを得る工程を含む、
発明1の含フッ素芳香族ジアミンの製造方法。
【0036】
[発明7]
パラフェニレンジアミンと、
ヘキサフルオロアセトンを、
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール中で反応させ、
式(11)
【化18】
(式中、cは、1~4の整数を表す。)
で表される含フッ素芳香族ジアミンを得る工程を含む、
発明6の含フッ素芳香族ジアミンの製造方法。
【0037】
[発明8]
式(11)で表される含フッ素芳香族ジアミンが
【化19】
で表される含フッ素芳香族ジアミンである、
発明7の含フッ素芳香族ジアミンの製造方法。
【0038】
[発明9]
メタフェニレンジアミンと、ヘキサフルオロアセトンを、
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール中で反応させ、
式(12)
【化20】
(式中、cは、1~4の整数を表す。)
で表される含フッ素芳香族ジアミン化合物を得る工程を含む、
発明6の含フッ素芳香族ジアミンの製造方法。
【0039】
[発明10]
式(12)で表される含フッ素芳香族ジアミンが
【化21】
で表される含フッ素芳香族ジアミンである、発明6または発明9の含フッ素芳香族ジアミンの製造方法。
【0040】
[発明11]
酸の存在下で反応させる、発明1~10の含フッ素芳香族ジアミンの製造方法。
[発明12]
芳香族ジアミンと、
ヘキサフルオロアセトンを、
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール中で反応させ、
出発原料である芳香族ジアミン中の、アミノ基を有する芳香環に-C(CF3)2OH基が結合した含フッ素芳香族ジアミンを得る第1の工程と、
前記含フッ素芳香族ジアミンとテトラカルボン酸二無水物を反応させて、含フッ素芳香族ポリアミック酸を得る第2の工程と、
前記含フッ素芳香族ポリアミック酸を脱水閉環させて、含フッ素芳香族ポリイミドを得る第3の工程とを含む、
含フッ素芳香族ポリイミドの製造方法。
【0041】
[発明13]
芳香族ジアミンと、
ヘキサフルオロアセトンを、
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール中で反応させ、
出発原料である芳香族ジアミン中の、アミノ基を有する芳香環に-C(CF3)2OH基が結合した含フッ素芳香族ジアミンを得る第1の工程と、
前記含フッ素芳香族ジアミンと、ジカルボン酸もしくはその誘導体、またはジカルボン酸ジハライドを反応させて、含フッ素芳香族ポリアミドを得る第2の工程とを含む、
含フッ素芳香族ポリアミドの製造方法。
【発明の効果】
【0042】
本発明のHFIP基含有ジアミンの製造方法は、イミンの副生を抑制できることから、HFIP基含有ジアミンを選択率および収率よく製造することができる。本発明のHFIP基含有ジアミンの製造方法、およびHFIP基含有ジアミンの製造方法を用いたHFIP基含有ポリイミドの製造方法、もしくはHFIP基含有ポリイミドの製造方法は、工業的規模の製造において有利である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜実施することができる。
【0044】
本発明のHFIP基含有ジアミンの製造方法は、芳香族ジアミンとHFAを、HFIP中で反応させ、HFIP基含有ジアミンを得る方法である。
【0045】
本発明のHFIP基含有ジアミンの製造方法における、芳香族ジアミンおよびHFIP基含有ジアミンは、以下に示す様に、2個以上の芳香環を含む芳香族多環化合物である場合と、1個の芳香環のみを含む芳香族単環化合物である場合がある。
【0046】
1.芳香族多環化合物であるHFIP基含有ジアミンの製造
[式(2)で表されるHFIP基含有ジアミンの製造]
本発明は、式(1)
【化22】
(式中、Aは、単結合、エーテル結合、スルフィド結合、CO、CH
2、SO、SO
2、C(CH
3)
2、もしくはC(CF
3)
2、または脂環、複素環、芳香族複素環もしくは芳香環を有する2価の基であり、R
1は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、またはハロゲン原子である。)
で表される芳香族多環化合物である芳香族ジアミンと、
HFAを
HFIP中で反応させ、
式(2)
【化23】
(式中、AおよびR
1は、式(1)における意味と同義であり、aとbはそれぞれ独立に0~2の整数を表し、1≦ a+b≦4である。)
で表されるHFIP基含有ジアミンを得る工程を含む、
HFIP基含有ジアミンの製造方法である。
【0047】
尚、本発明において、ハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子のいずれかである。
【0048】
[式(4)で表されるHFIP基含有ジアミンの製造]
さらに、本発明は、
式(3)
【化24】
(式中、AおよびR
1は、式(1)における意味と同義である。)
で表される芳香族多環化合物である芳香族ジアミンと、
HFAを
HFIP中で反応させ、
式(4)
【化25】
(式中、AおよびR
1は、式(1)における意味と同義である。)
で表されるHFIP基含有ジアミンを得る工程を含む、
式(4)で表されるHFIP基含有ジアミンの製造方法である。
【0049】
式(1)で表される芳香族多環化合物である芳香族ジアミンとして、NH2基がAに対してパラ位にある式(3)で表される芳香族ジアミンを挙げることができる。また、HFIP基はAに対してメタ位に導入されることより、式(2)で表されるHFIP基含有ジアミンは式(4)で表されるHFIP基含有ジアミンであることが好ましい。
【0050】
式(4)で表されるHFIP基含有ジアミンの中でR
1が水素原子であるジアミンを、以下に例示することができ、東京化成または和光純薬より市販され入手可能である。
【化26】
【0051】
[式(6)または式(8)で表されるHFIP基含有ジアミンの製造]
また、本発明は、式(5)
【化27】
(式中、AおよびR
1は、式(1)における意味と同義である。)
で表される芳香族多環化合物である芳香族ジアミンと、
HFAを
HFIP中で反応させ、
式(6)
【化28】
(式中、AおよびR
1は、式(1)における意味と同義である。)
で表されるHFIP基含有ジアミンを得る工程を含む、
式(6)で表されるHFIP基含有ジアミンの製造方法である。
【0052】
また、本発明は、式(7)
【化29】
(式中、AおよびR
1は、式(1)における意味と同義である。)
で表される芳香族ジアミンと、
HFAを、
HFIP中で反応させ、
式(8)
【化30】
(式中、AおよびR
1は、式(1)における意味と同義である。)
で表されるHFIP基含有ジアミンを得る工程を含む、
式(8)で表されるHFIP基含有ジアミンの製造方法である。
【0053】
式(6)で表されるHFIP基含有ジアミンとして、R
1が炭素数1~4のアルキル基またはハロゲン原子であるものを以下に例示することができる。
【化31】
(Meはメチル基、Etはエチル基である。)
【0054】
式(8)で表されるHFIP基含有ジアミンとして、R
1が炭素数1~4のアルキル基及びハロゲン原子であるものを以下に例示することができる。
【化32】
(Meはメチル基、Etはエチル基である。)
【0055】
2.芳香族単環化合物であるHFIP基含有ジアミンの製造
[式(10)で表されるHFIP基含有ジアミンの製造]
本発明は、式(9)
【化33】
で表される芳香族ジアミンと、
HFAを、
HFIP中で反応させ、
式(10)
【化34】
(式中、cは、1~4の整数を表す。)
で表されるHFIP基含有ジアミンを得る工程を含む、
式(10)で表されるHFIP基含有ジアミンの製造方法である。
【0056】
[式(11)または式(12)で表されるHFIP基含有ジアミンの製造]
本発明の芳香族単環化合物であるHFIP基含有ジアミンの製造法において、式(9)で表される芳香族単環化合物である芳香族ジアミンには、入手し易いことよりパラフェニレンジアミンまたはメタフェニレンジアミンを用いることが好ましい。
【0057】
本発明は、パラフェニレンジアミンと、
HFAを、
HFIP中で反応させ、
式(11)
【化35】
(式中、cは、1~4の整数を表す。)
で表されるHFIP基含有ジアミンを得る工程を含む、
式(11)で表されるHFIP基含有ジアミンの製造方法である。
【0058】
また、本発明は、メタフェニレンジアミンと、
HFAを、
HFIP中で反応させ、
式(12)
【化36】
(式中、cは、1~4の整数を表す。)
で表されるHFIP基含有ジアミンを得る工程を含む、
式(12)で表されるHFIP基含有ジアミンの製造方法である。
【0059】
<式(11)で表されるHFIP基含有ジアミン>
式(11)で表されるHFIP基含有ジアミンとして、以下に例示することができる。
【化37】
【0060】
本発明のHFIP基含有ジアミンの製造方法において、式(11)で表されるHFIP基含有ジアミンは、以下のHFIP基含有ジアミンであることが好ましい。
【化38】
【0061】
<式(12)で表されるHFIP基含有ジアミン>
式(12)で表されるHFIP基含有ジアミンとして、以下に例示することができる。
【化39】
【0062】
本発明のHFIP基含有ジアミンの製造方法において、式(12)で表されるHFIP基含有ジアミンは、以下のHFIP基含有ジアミンであることが好ましい。
【化40】
【0063】
3.芳香族ジアミンとHFAの反応
【0064】
本発明のHFIP基含有ジアミンの製造方法において、芳香族ジアミンとHFAを反応させる操作の手順は限定されるものではないが、好ましい態様の一例につき、以下に詳細を述べる。
【0065】
[反応器]
本発明のHFIP基含有ジアミンの製造方法に使用する反応器は、HFAの沸点が-28℃であることから、HFAの反応系外への流出を防ぐ冷却還流器付き反応器、または密封型の反応器を用いることができ、取り扱いが簡便であることより、好ましくは密封型の反応器である。
【0066】
本発明のHFIP基含有ジアミンの製造方法において、芳香族ジアミンとHFAを反応させる際は、好ましくはオートクレーブ等の密封反応容器を用い、芳香族ジアミンとHFIP、必要に応じて酸触媒を秤とり、室温以下に冷却した密閉反応容器内に仕込む。次いで、密閉反応容器の内圧が0.5MPaを超えないように所定の反応温度まで昇温し、HFAを添加する。
【0067】
[HFA]
本発明のHFIP基含有ジアミンの製造方法において、原料である芳香族ジアミンとの反応に使用するHFAの量は、目的とするHFIP基含有ジアミンによって、導入するHFIP基の数が異なるため、HFAの必要量も異なる。
【0068】
本発明のHFIP基含有ジアミンの製造方法におけるHFAの量は、原料である芳香族ジアミンとの反応に必要な化学量論量に対して、1当量以上、3当量以下であり、好ましくは1当量以上、1.5当量以下である。HFAの当量数が1より少ないと、導入されるHFIP基の数が少なくなり、目的物であるHFIP基含有ジアミンの収率が低くなる。3当量より多くHFAを使用しても反応は進行するが、原料である芳香族ジアミンおよび目的物であるHFIP基含有ジアミンのアミノ基とHFAとが反応し、イミン類の副生が増加し、目的物であるHFIP基含有ジアミンの収率が低下する。
【0069】
[反応溶媒]
本発明のHFIP基含有ジアミンの製造方法に係る反応において、反応溶媒にHFIPを使用する。HFIPは極性が高いので芳香族ジアミンを溶解し易く、且つ弱酸性なので酸触媒の効果もあるため、過剰量のHFAを用いることなく、反応を速やかに進行させることができる。また、余剰のHFAが削減できることにより、原料またはHFIP基含有ジアミンのアミノ基と反応して副生するイミン類を抑制できるため、高い選択率且つ収率でHFIP基含有ジアミンを得ることができる。
【0070】
本発明のHFIP基含有ジアミンの製造方法において、使用するHFIPの量は、原料である芳香族ジアミンに対する質量比で表して、芳香族ジアミン:HFIP=1:0.1~100であり、好ましくは、芳香族ジアミン:HFIP=1:0.5~50であり、特に好ましくは、芳香族ジアミン:HFIP=1:1~20である。芳香族ジアミンの量1に対するHFIPの量が100を超えて使う必要はなく、経済的にも好ましくない。
【0071】
芳香族ジアミンの量1に対するHFIPの量が0.1未満では、HFIPが芳香族ジアミンを十分溶解できずスラリー濃度が高くなり、反応において撹拌が困難になる等、好ましくない。
【0072】
本発明のHFIP基含有ジアミンの製造方法において、反応溶媒としてはHFIP単独であることが好ましい。反応を阻害しないもの(本段落で「他の溶媒」という)であれば、適宜混合して使用できる。全溶媒量に対し他の溶媒は20質量%の範囲内とすることが好ましい。反応を阻害しない「他の溶媒」として芳香族炭化水素系溶剤を挙げることができる。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンまたはメシチレンを例示することができる。好ましくはトルエンもしくはキシレンである。
【0073】
[触媒]
本発明のHFIP基含有ジアミンの製造方法において、触媒を用いるか否かは、原料である芳香族ジアミンの種類による。
【0074】
触媒としては、ブレンステッド酸またはルイス酸が特に制限なく使用でき、常温(20℃)で液体であっても、固体であってもよい。このような酸触媒としては、液体である硫酸、塩酸、パラトルエンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸1水和物もしくはトリフルオロメタンスルホン酸、または固体である酸性のイオン交換樹脂、酸性白土もしくはヘテロポリ酸を例示することができる。これら酸触媒の中でも、入手し易いこと、および取り扱いし易いことから、パラトルエンスルホン酸1水和物またはトリフルオロメタンスルホン酸が好ましい。
【0075】
酸触媒の使用量は、芳香族ジアミンに対するモル比で表して、芳香族ジアミン:酸触媒=1:0~0.5であり、好ましくは、1:0.005~0.2であり、さらに好ましく
は1:0.01~0.1である。酸触媒の量が少ないと、反応速度向上の効果は少なく、0.5よりも多いと経済的に好ましくない。
【0076】
[反応温度]
本発明のHFIP基含有ジアミンの製造方法において、芳香族ジアミンとHFAを反応させてHFIP基含有ジアミンを得る際の反応温度は、20℃以上、160℃以下であり、好ましくは、50℃以上、140℃以下であり、さらに好ましくは、60℃以上、120℃以下である。20℃未満では反応速度が極めて遅く、実用的な製造方法とはならない。また、160℃を超えると、HFAと、原料である芳香族ジアミンのアミノ基または目的物であるHFIP基含有ジアミンのアミノ基が反応し、イミン類の副生が増加し、HFIP基含有ジアミンの収率が低下する。
【0077】
[反応時間]
本発明のHFIP基含有ジアミンの製造方法において、芳香族ジアミンとHFAを反応させてHFIP基含有ジアミンを得る際の反応時間は、反応温度または反応溶媒としてのHFIPの量に依存する。反応終了は、原料である芳香族ジアミンの消費をモニタリングすることで、確認することができる。
【0078】
[反応物の精製]
本発明のHFIP基含有ジアミンの製造方法において、HFIP基含有ジアミンは反応物を公知の方法で精製して得ることができる。精製方法としては、抽出、蒸留、晶析等の定法を適宜組合せて行うことができる。例えば、反応物より、HFIP等を留去した後、晶析により精製し、HFIP基含有ジアミンを得ることができる。また、必要に応じて、カラムクロマトグラフィーまたは再結晶により、さらにHFIP基含有ジアミンを高純度化することができる。
【0079】
[HFIPの再利用]
反応終了後に残っているHFIPは、蒸留によって反応物中から分離回収することができる。回収したHFIPは、本発明のHFIP基含有ジアミンの製造方法における芳香族ジアミンとHFAを反応させる際の反応溶媒として再利用することができる。必要に応じて、回収したHFIPに脱水処理を施して水分を除去して、反応溶媒として再利用してもよい。
【0080】
[HFIP基含有ジアミンの利用]
本発明のHFIP基含有ジアミンの製造方法において、得られた含フッ素芳香族ジアミンは、ジカルボン酸またはテトラカルボン酸2無水物と反応させることで、ポリアミド、ポリアミック酸、ポリイミドなどの高分子量体の合成に利用することができる。
【0081】
4.含フッ素芳香族ポリイミドの製造方法
本発明の含フッ素芳香族ポリイミド(以下、HFIP基含有ポリイミドと呼ぶことがある)の製造方法は、
芳香族ジアミンと、
HFAを、
HFIP中で反応させ、
出発原料である芳香族ジアミン中の、アミノ基を有する芳香環にHFIP基が結合した含フッ素芳香族ジアミン(HFIP基含有ジアミン)を得る第1の工程と、
前記HFIP基含有ジアミンとテトラカルボン酸二無水物を反応させて、含フッ素芳香族ポリアミック酸(以下、HFIP基含有ポリアミック酸と呼ぶことがある)を得る第2の工程と、
前記HFIP基含有ポリアミック酸を脱水閉環させて、含フッ素芳香族ポリイミド(以下、HFIP基含有ポリイミドと呼ぶことがある)を得る第3の工程とを含む。
【0082】
本発明のHFIP基含有ポリイミドの製造方法において、使用するHFIP基含有ジアミンは、以下に示す様に、2個以上の芳香環を含む場合と、1個の芳香環のみを含む場合がある。
【0083】
4-1.2個以上の芳香環を含むHFIP基含有ジアミンを用いたHFIP基含有ポリイミドの製造方法
本発明の、2個以上の芳香環を含むHFIP基含有ジアミンを用いたHFIP基含有ポリイミドの製造方法は、
以下の式(1)で表される芳香族ジアミンと、
HFAを、
HFIP中で反応させ、
出発原料である式(1)で表される芳香族ジアミン中の、アミノ基を有する芳香環にHFIP基が結合した式(2)で表されるHFIP基含有ジアミンを得る第1の工程と、
前記式(2)で表されるHFIP基含有ジアミンと、以下の式(13)で表されるテトラカルボン酸二無水物を反応させて、式(14)で表される繰り返し単位を含むHFIP基含有ポリアミック酸を得る第2の工程と、
前記、式(14)で表される繰り返し単位を含むHFIP基含有ポリアミック酸を脱水閉環させて、式(15)で表される繰り返し単位を含むHFIP基含有ポリイミドを得る第3の工程とを含む。
式(1)、式(2)
【化41】
(式中、Aは、単結合、エーテル結合、スルフィド結合、CO、CH
2、SO、SO
2、C(CH
3)
2、もしくはC(CF
3)
2、または脂環、複素環、芳香族複素環もしくは芳香環を有する2価の基であり、R
1は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、またはハロゲン原子である。aとbはそれぞれ独立に0~2の整数を表し、1≦ a+b≦4である。)
式(13)
【化42】
(式中、R
2は脂環、複素環、芳香環、または直鎖状もしくは分枝鎖状の脂肪族炭化水素基らなる群から選ばれた少なくとも一種を含む4価の有機基であり、水素原子の一部がアルキル基、フルオロアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、シアノ基、またはハロゲン基で置換されてもよい。)
式(14)
【化43】
(式中、AおよびR
1は、式(1)における意味と同義であり、aとbは、それぞれ独立に、0~2の整数であり、1≦a+b≦4である。R
2は、式(13)における意味と同義である。)
式(15)
【化44】
(式中、AおよびR
1は、式(1)における意味と同義であり、aとbは、それぞれ独立に、0~2の整数であり、1≦a+b≦4である。R
2は、式(13)における意味と同義である。)
【0084】
4-2.単環の芳香環のみを含むHFIP基含有ジアミンを用いたHFIP基含有ポリイミドの製造方法
本発明の、単環の芳香環のみを含むHFIP基含有ジアミンを用いたHFIP基含有ポリイミドの製造方法は、
以下の式(9)で表される芳香族ジアミンと、
HFAを、
HFIP中で反応させ、
出発原料である式(9)で表される芳香族ジアミン中の、アミノ基を有する芳香環にHFIP基が結合した式(10)で表されるHFIP基含有ジアミンを得る第1の工程と、
前記式(10)で表されるHFIP基含有ジアミンと、以下の式(13)で表されるテトラカルボン酸二無水物を反応させて、式(16)で表される繰り返し単位を含むHFIP含有ポリアミック酸を得る第2の工程と、
前記、式(16)で表されるHFIP基含有ポリアミック酸を脱水閉環させて、式(17)で表される繰り返し単位を含むHFIP基含有ポリイミドを得る第3の工程と、を含む。
式(9)、式(10)
【化45】
(cは、1~4の整数を表す。)
式(13)
【化46】
(式中、R
2は脂環、複素環、芳香環、または直鎖状もしくは分枝鎖状の脂肪族炭化水素基らなる群から選ばれた少なくとも一種を含む4価の有機基であり、水素原子の一部がアルキル基、フルオロアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、シアノ基、またはハロゲン基で置換されてもよい。)
式(16)
【化47】
(式中、R
2は、式(13)における意味と同義であり、cは、1~4の整数を表す。)
式(17)
【化48】
(式中、R
2は、式(13)における意味と同義であり、cは、1~4の整数を表す。)
【0085】
4-3.式(13)で表わされるテトラカルボン酸二無水物
本発明のHFIP基含有ポリイミドの製造方法において使用する、テトラカルボン酸二無水物は、ポリアミック酸またはポリイミドの原料化合物として一般的に知られている物であれば、特に制限なく使用することができる。
【0086】
このようなテトラカルボン酸二無水物としては、ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(ピロメリット酸二無水物)(以下、PMDAと呼ぶことがある)、トリフルオロメチルベンゼンテトラカルボン酸二無水物、ビストリフルオロメチルベンゼンテトラカルボン酸二無水物、ジフルオロベンゼンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレンテトラカルボン酸二無水化物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAと呼ぶことがある)、ターフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ケトン酸二無水物(以下、BTDAと呼ぶことがある)、オキシジフタル酸二無水物(以下、ODPAと略する)、ビシクロ(2,2,2)オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物(以下、6FDAとと呼ぶことがある)、2,3,4,5-チオフェンテトラカルボン酸二無水化物、2,2’,5,5’,6,6’-ヘキサフルオロ-3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン酸二無水化物(以下、DSDAと呼ぶことがある)または3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水化物を例示することができる。これらテトラカルボン酸二無水物の中から2種以上併用してもよい。
【0087】
本発明のHFIP基含有ポリイミドの製造方法において、入手が容易であること、耐熱性に優れること、溶剤に易溶であることから、特に、PMDA、BPDA、6FDA、BTDA、ODPA、DSDAを用いることが好ましい。
【0088】
4-4.本発明のHFIP基含有ポリイミドの製造方法における第1の工程
本発明のHFIP基含有ポリイミドの製造方法における第1の工程は、
芳香族ジアミンと、
HFAを、
HFIP中で反応させ、
出発原料である芳香族ジアミン中の、アミノ基を有する芳香環にHFIP基が結合した含フッ素芳香族ジアミン(HFIP基含有ジアミン)を得る工程である。
本工程は、前述の本発明のHFIP基含有ジアミンの製造方法と同様に行うことができる。
【0089】
4-5.本発明のHFIP基含有ポリイミドの製造方法における第2の工程
本発明のHFIP基含有ポリイミドの製造方法における第2の工程は、前記第1の工程で得たHFIP基含有ジアミンと、テトラカルボン酸二無水物を反応させて、HFIP基含有ポリアミック酸を得る工程である。第2の工程は、特許文献5~7に記載の方法に基づいて行うことができる。
【0090】
本発明のHFIP基含有ポリイミドの製造方法における第2の工程において、テトラカルボン酸二無水物とHFIP基含有ジアミンとの使用割合は、テトラカルボン酸二無水物1モルに対して0.9モル以上、1.1モル以下であり、好ましくは0.95モル以上、1.05モル以下、さらに好ましくは0.98モル以上、1.03モル以下である。この範囲を外れると、得られるHFIP基含有ポリイミドの物性が低下する虞がある。
【0091】
本発明のHFIP基含有ポリイミドの製造方法の前記第2の工程における、HFIP基含有ポリアミック酸を得る重合反応の方法、反応条件については特に制限されない。例えば、HFIP基含有ジアミンとテトラカルボン酸二無水物を150℃以上250℃未満で相互に溶融(融解)させて無溶媒で反応させる方法、また有機溶媒中高温(好ましくは150℃以上)で反応させる方法、-20℃~80℃の有機溶媒中で反応させる方法を挙げることができる。
【0092】
前記有機溶媒中高温(好ましくは150℃以上)で反応させる方法、-20℃~80℃の有機溶媒中で反応させる方法において使用する有機溶媒としては、前記HFIP基含有ジアミンとテトラカルボン酸二無水物が溶解すればよく、アミド系溶媒、芳香族系溶媒、ハロゲン系溶媒、ラクトン系溶媒を挙げることができる。上記のアミド系溶媒とともに、酸受容体、例えば、ピリジンまたはトリエチルアミン等を共存させて反応を行えば、高重合度のポリアミック酸を得ることができる。
【0093】
このようなアミド系溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、またはN-メチル-2-ピロリドン等を例示することができる。
【0094】
芳香族性溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、アニソール、ジフェニルエーテル、ニトロベンゼンまたはベンゾニトリルを例示することができる。
ハロゲン系溶媒としては、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、または1,1,2,2-テトラクロロエタンを例示することができる。
【0095】
ラクトン系溶媒としては、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロ
ラクトン、ε-カプロラクトンまたはα-メチル-γ-ブチルラクトン等を例示すること
ができる。
【0096】
また、これら有機溶媒の中から2種以上併用してもよい。
【0097】
本発明のHFIP基含有ポリイミドの製造方法における第2の工程において、第1の工程で得られたHFIP基含有ジアミン以外に、HFIP基を有さないジアミン、またはジヒドロキシアミンを併用したポリアミド酸等の他のジアミンを加え、テトラカルボン酸二無水物はと反応させて、HFIP基含有ポリアミックを得てもよい。
【0098】
他のジアミンとしては、3,5-ジアミノベンゾトリフルオリド、2,5-ジアミノベンゾトリフルオリド、3,3’-ビストリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビストリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ビストリフルオロメチル-5,5’-ジアミノビフェニル、ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、ビス(フッ素化アルキル)-4,4’-ジアミノビフェニル、ジクロロ-4,4’-ジアミノビフェニル、ジブロモ-4,4’-ジアミノビフェニル、ビス(フッ素化アルコキシ)-4,4’-ジアミノビフェニル、ジフェニル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ビス(4-アミノテトラフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノテトラフルオロフェノキシ)オクタフルオロビフェニル、4,4’-ビナフチルアミン、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、2,5-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノキシレン、2,4-ジアミノジュレン、1,4-キシリレンジアミン、ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、ジアルキル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、ジエトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジメチルージアミノジフェニルメタン、3,3’-ジエチルージアミノジフェニルメタン、9、9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4-(3-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-(3-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(3-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-(3-アミノ-5-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3-アミノ-4-メチルフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)オクタフルオロビフェニルまたは4,4’-ジアミノベンズアニリドを例示することができる。これらHFIP基を有さないジアミンを2種以上併用してもよい。
【0099】
4-5.本発明のHFIP基含有ポリイミドの製造方法における第3の工程
本発明のHFIP基含有ポリイミドの製造方法における第3の工程は、前記第2の工程で得られたHFIP基含有ポリアミック酸を脱水閉環させて、含フッ素芳香族ポリイミドを得る工程である。第3の工程は、特許文献5~7に記載の方法に基づいて行うことができる。
【0100】
本発明のHFIP基含有ポリイミドの製造方法における第3の工程において、第2の工程で得られたHFIP基含有ポリアミック酸は、加熱または脱水試薬との反応によって、脱水閉環しイミド環を形成し、HFIP基含有ポリイミドを得ることができる。
【0101】
なお、本発明のHFIP基含有ポリイミドの製造方法において、第2の工程である、加熱により前述の前記HFIP基含有ジアミンと前記テトラカルボン酸二無水物を反応させてHFIP基含有ポリアミック酸を得る工程と、第3の工程である、加熱によりHFIP基含有ポリアミック酸化合物内で脱水閉環させて、HFIP基含有ポリイミドを得る工程は、同時実施してもよい。
【0102】
[加熱脱水閉環によるイミド化]
加熱によりHFIP基含有ポリアミック酸化合物内で脱水閉環してイミド化を行う場合、温度80℃以上、350℃以下でイミド環が形成され、HFIP基含有ポリイミドを得ることができる。好ましくは150℃以上、さらに好ましくは200℃以上である。温度が80℃未満の場合は、脱水閉環が完全に進行せずイミド化率が不十分であり、前記HFIP基含有ポリイミドをコーティング膜にした際に膜強度が損なわれる、または吸水性が高くなる虞がある。一方、温度が350℃を超える場合はポリイミドの一部が熱分解する等して、前記ポリイミドをコーティング膜にした際に膜強度が損なわれる、または着色する虞がある。
【0103】
[脱水試薬を用いた脱水閉環によるイミド化]
脱水試薬を用いて前記HFIP基含有ポリアミック酸化合物内で脱水閉環してイミド化を行う場合、脱水試薬として無水酢酸、さらにピリジンまたはトリエチルアミン等の塩基を添加し、HFIP基含有ポリアミック酸化合物内で脱水することで、HFIP基含有ポリイミドを得ることも可能である。この際、HFIP基含有ポリアミック酸1モルに対し、脱水試薬の添加量は2モル以上、10モル以下、塩基の添加量は2モル以上、10モル以下であることが好ましい。
【0104】
4-6.HFIP基含有ポリイミド
本発明のHFIP基含有ポリイミドの製造方法で得られた式(15)または式(17)で表される繰り返し単位を含むHFIP基含有ポリイミドは、ポリスチレン換算で重量平均分子量(Mw)が10000以上、500000以下であることが好ましい。Mwが10000より小さいと、HFIP基含有ポリイミドの強度が低く自立膜ができにくく、500000より大きいとHFIP基含有ポリイミドは有機溶剤に対する溶解性が低い。特に好ましくは、50000以上、150000以下である。
【0105】
本発明のHFIP基含有ポリイミドの製造方法で得られたHFIP基含有ポリイミドは、有機溶媒に溶解したワニス状態、粉末状態、フィルム状態、固体状態で使用に供することが可能である。その際、得られたHFIP基含有ポリイミド中には必要に応じて、酸化安定化剤、フィラー、シランカップリング剤、感光剤、光重合開始剤または増感剤等の添加剤を加えてもよい。ワニスで使用する場合は、ガラス、シリコンウェハー、金属、金属酸化物、セラミックスまたは樹脂等の上にスピンコート、スプレーコート、フローコート、含浸コート、ハケ塗り等の公知の方法で塗布することができる。
【0106】
5.含フッ素芳香族ポリアミドの製造方法
本発明の含フッ素芳香族ポリアミド(以下、HFIP基含有ポリアミドと呼ぶことがある)の製造方法は、
芳香族ジアミンと、
HFAを、
HFIP中で反応させ、
出発原料である芳香族ジアミン中の、アミノ基を有する芳香環にHFIP基が結合した含フッ素芳香族ジアミン(HFIP基含有ジアミン)を得る第1の工程と、
前記HFIP基含有ジアミンと、ジカルボン酸もしくはその誘導体、またはジカルボン酸ジハライドを反応させて、HFIP含有ポリアミドを得る第2の工程とを含む。
本発明のHFIP基含有ポリアミドの製造方法において、使用するHFIP基含有ジアミンは、以下に示す様に2個以上の芳香環を含む場合と、1個の芳香環のみを含む場合がある。
【0107】
5-1.2個以上の芳香環を含むHFIP基含有ジアミンを用いたHFIP基含有ポリアミドの製造方法
本発明の、2個以上の芳香環を含むHFIP基含有ジアミンを用いたHFIP基含有ポリアミドの製造方法は、
以下の式(1)で表される芳香族ジアミンと、
HFAを、
HFIP中で反応させ、
出発原料である式(1)で表される芳香族ジアミン中の、アミノ基を有する芳香環にHFIP基が結合した式(2)で表されるHFIP基含有ジアミンを得る第1の工程と、
前記式(2)で表されるHFIP基含有ジアミンと、以下の式(18)で表されるジカルボン酸もしくはその誘導体、または式(19)で表されるジカルボン酸ハライドを反応させて、式(20)で表される繰り返し単位を含むHFIP基含有ポリアミドを得る第2の工程とを含む。
式(1)、式(2)
【化49】
(式中、Aは、単結合、エーテル結合、スルフィド結合、CO、CH
2、SO、SO
2、C(CH
3)
2、もしくはC(CF
3)
2、または脂環、複素環、芳香族複素環もしくは芳香環を有する2価の基であり、R
1は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、またはハロゲン原子である。aとbはそれぞれ独立に0~2の整数を表し、1≦ a+b≦4である。)
式(18)
【化50】
(式中、R
3は脂環、複素環、芳香環または直鎖状もしくは分枝鎖状脂肪族炭化水素基からなる群から選ばれた少なくとも一種を含む2価の有機基であり、フッ素、塩素、酸素、硫黄、窒素などを含有してもよく、さらには水素原子の一部がアルキル基、フルオロアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、シアノ基で置換されてもよい。R
4は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基またはベンジル基から選ばれた少なくとも一種の基である。)
式(19)
【化51】
(式中、R
3は式(18)における意味と同義であり、Xはハロゲン原子である。)
式(20)
【化52】
(式中、AおよびR
1は、式(2)における意味と同義であり、aとbは、それぞれ独立に、0~2の整数であり、1≦a+b≦4である。R
3は式(18)における意味と同義である。)
【0108】
5-2.単環の芳香環のみを含むHFIP基含有ジアミンを用いたHFIP基含有ポリアミドの製造方法
本発明の、単環の芳香環のみを含むHFIP基含有ジアミンを用いたHFIP基含有ポリアミドの製造方法は、
以下の式(9)で表される芳香族ジアミンと、
HFAを、
HFIP中で反応させ、
出発原料である式(9)で表される芳香族ジアミン中の、アミノ基を有する芳香環にHFIP基が結合した式(10)で表されるHFIP基含有ジアミンを得る第1の工程と、
以下の式(18)で表されるジカルボン酸もしくはその誘導体、または式(19)で表されるジカルボン酸ハライドを反応させて、式(21)で表される繰り返し単位を含むHFIP基含有ポリアミドを得る第2の工程とを含む。
式(9)、式(10)
【化53】
(cは、1~4の整数を表す。)
式(18)
【化54】
(式中、R
3は脂環、複素環、芳香環または直鎖状もしくは分枝鎖状脂肪族炭化水素基からなる群から選ばれた少なくとも一種を含む2価の有機基であり、フッ素、塩素、酸素、硫黄、窒素などを含有してもよく、さらには水素原子の一部がアルキル基、フルオロアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、シアノ基で置換されてもよい。R
4は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基またはベンジル基から選ばれた少なくとも一種の基である。)
式(19)
【化55】
(式中、R
3は式(18)における意味と同義であり、Xはハロゲン原子である。)
式(21)
【化56】
(式中、R
3は式(18)における意味と同義であり、cは、1~4の整数を表す。)
【0109】
5-3.式(18)で表わされるジカルボン酸もしくはその誘導体
本発明のHFIP基含有ポリアミドの製造方法において使用する、式(18)で表わされるジカルボン酸もしくはその誘導体は、ポリアミドの原料化合物として一般的に知られている物であれば、特に制限なく使用することができる。
【0110】
ジカルボン酸としては、脂肪族カルボン酸、芳香族ジカルボン酸を挙げることができる。式(18)に示されるジカルボン酸誘導体は、これらカルボン酸のカルボキシル基を、水素原子を除くR4で保護したものである。
【0111】
脂肪族カルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸を例示することができる。
【0112】
芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、4,4’-ジカルボキシビフェニル、3,3’-ジカルボキシビフェニル、3,3’-ジカルボキシルジフェニルエーテル、3,4’-ジカルボキシルジフェニルエーテル、4,4’-ジカルボキシルジフェニルエーテル、3,3’-ジカルボキシルジフェニルメタン、3,4’-ジカルボキシルジフェニルメタン、4,4’-ジカルボキシルジフェニルメタン、3,3’-ジカルボキシルジフェニルジフルオロメタン、3,4’-ジカルボキシルジフェニルジフルオロメタン、4,4’-ジカルボキシルジフェニルジフルオロメタン、3,3’-ジカルボキシルジフェニルスルホン、3,4’-ジカルボキシルジフェニルスルホン、4,4’-ジカルボキシルジフェニルスルホン、3,3’-ジカルボキシルジフェニルスルフィド、3,4’-ジカルボキシルジフェニルスルフィド、4,4’-ジカルボキシルジフェニルスルフィド、3,3’-ジカルボキシルジフェニルケトン、3,4’-ジカルボキシルジフェニルケトン、4,4’-ジカルボキシルジフェニルケトン、2,2-ビス(3-カルボキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,4’-ジカルボキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-カルボキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3,4’-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス(3-カルボキシフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-カルボキシフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-カルボキシフェノキシ)ベンゼン、3,3’-(1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン))ビス安息香酸、3,4’-(1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン))ビス安息香酸、4,4’-(1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン))ビス安息香酸、2,2-ビス(4-(3-カルボキシフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(4-カルボキシフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(3-カルボキシフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-(4-カルボキシフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4-(3-カルボキシフェノキシ)フェニル)スルフィド、ビス(4-(4-カルボキシフェノキシ)フェニル)スルフィド、ビス(4-(3-カルボキシフェノキシ)フェニル)スルホンまたはビス(4-(4-カルボキシフェノキシ)フェニル)スルホン、パーフルオロノネニルオキシ基含有のジカルボン酸である5-(パーフルオロノネニルオキシ)イソフタル酸、4-(パーフルオロノネニルオキシ)フタル酸、2-(パーフルオロノネニルオキシ)テレフタル酸または4-メトキシ-5-(パーフルオロノネニルオキシ)イソフタル酸、パーフルオロヘキセニルオキシ基含有のジカルボン酸である、5-(パーフルオロヘキセニルオキシ)イソフタル酸、4-(パーフルオロヘキセニルオキシ)フタル酸、2-(パーフルオロヘキセニルオキシ)テレフタル酸または4-メトキシ-5-(パーフルオロヘキセニルオキシ)イソフタル酸、2,2’-ジートリフルオロメチル-4,4’-ジカルボキシビフェニルを例示することができる。
【0113】
5-4.式(19)で表わされるジカルボン酸ジハライド
式(19)で表わされるジカルボン酸ジハライドは、式(18)に示されるジカルボンにおいて、上記のカルボン酸のカルボキシル基を、ハロゲン原子で置換したものである。
ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子を挙げることができる。
【0114】
5-5.本発明のHFIP基含有ポリアミドの製造方法における第1の工程
本発明のHFIP基含有ポリアミドの製造方法における第1の工程は、
芳香族ジアミンと、
HFAを、
HFIP中で反応させ、
出発原料である芳香族ジアミン中の、アミノ基を有する芳香環にHFIP基が結合した含フッ素芳香族ジアミン(HFIP基含有ジアミン)を得る工程である。
本工程は、前述の本発明のHFIP基含有ジアミンの製造方法と同様に行うことができる。
【0115】
5-6.本発明のHFIP基含有ポリアミドの製造方法における第2の工程
本発明のHFIP基含有ポリアミドの製造方法における第2の工程は、前記第1の工程で得たHFIP基含有ジアミンと、ジカルボン酸もしくはその誘導体、またはジカルボン酸ジハライドを反応させて、HFIP基含有ポリアミドを得る工程である。第2の工程は、特許文献5~7に記載の方法に基づいて行うことができる。
【0116】
本発明のHFIP基含有ポリアミドの製造方法における第2の工程において、前記ジカルボン酸またはその誘導体とジアミン成分との使用割合は、ジカルボン酸もしくはその誘導体またはジカルボン酸ジハライド1モルに対して0.9~1.1モルであり、好ましくは0.95~1.05モルであり、さらに好ましくは0.98~1.03モルである。この範囲を外れると、得られるHFIP基含有ポリアミドの物性が低下する虞がある。
【0117】
本発明のHFIP基含有ポリアミドの製造方法の前記第2の工程における、HFIP基含有ポリアミドを得る重合反応の方法、反応条件については特に制限されない。例えば、前記ジアミン成分と、前記ジカルボン酸またはその誘導体またはジカルボン酸ジハライドとを150℃以上250℃未満で相互に溶融(融解)させて無溶媒で反応させる方法、また-20℃~80℃の有機溶媒中で反応させる方法を例示することができる。
【0118】
前記有機溶媒中-20℃~80℃の有機溶媒中で反応させる方法において使用する有機溶媒としては、使用できる有機溶媒としては前記HFIP基含有ジアミンと、ジカルボン酸もしくはその誘導体、またはジカルボン酸ジハライドがともに溶解すればよく、アミド系溶媒、芳香族性溶媒、ハロゲン系溶媒、またはラクトン系溶媒を挙げることができる。
【0119】
本発明のHFIP基含有ポリアミドの製造方法の前記第2の工程における、HFIP基含有ポリアミドを得る際は、これらの有機溶媒とともに、酸受容体、例えば、ピリジン、トリエチルアミン等を共存させて、反応を行うことが好ましい。特にアミド系溶媒を用いるとこれらの溶媒自身が酸受容体となり高重合度のHFIP基含有ポリアミドを得ることができる。
【0120】
このようなアミド系溶媒としては、N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドまたはN-メチル-2-、ピロリドンを例示することができる。
【0121】
芳香族性溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、アニソール、ジフェニルエーテル、ニトロベンゼン、またはベンゾニトリルを例示することができる。
【0122】
ハロゲン系溶媒としては、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタンまたは1,1,2,2-テトラクロロエタンを例示することができる。
ラクトン系溶媒としては、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトンまたはα-メチル-γ-ブチルラクトン等を例示することができる。
【0123】
また、これら有機溶媒の中から2種以上併用してもよい。
【0124】
本発明のHFIP基含有ポリアミドの製造方法における第2の工程において、第1の工程で得られたHFIP基含有ジアミン以外に、HFIP基を有さないジアミン、またはジヒドロキシアミンを併用したポリアミド酸等の他のジアミンを加え、ジカルボン酸もしくはその誘導体、またはジカルボン酸ジハライドと反応させて、HFIP基含有ポリアミドを得てもよい。
【0125】
本発明のHFIP基含有ポリアミドの製造方法における第2の工程において用いるジアミンとしては、本発明のHFIP基含有ポリイミドの製造方法における第2の工程において用いたのと同じジアミンを用いることができ、2種以上を併用できることも同様である。
【0126】
5-6.HFIP基含有ポリアミド
本発明のHFIP基含有ポリアミドの製造方法で得られた、式(20)または式(21)で表される繰り返し単位を含むHFIP基含有ポリアミドは、ポリスチレン換算で重量平均分子量(Mw)が10000以上、500000以下であることが好ましい。Mwが10000より小さいと、得られるHFIP基含有ポリアミドの強度が低く自立膜ができにくく、500000より大きいと得られるHFIP基含有ポリアミドは有機溶剤に対する溶解性が低い。。特に好ましくは、50000以上、150000以下である。
【0127】
6.HFIP基含有重合体およびその製造方法
本発明のHFIP基含有ポリアミドの製造方法で得られた、以下に示す式(22)で表される繰り返し単位を含む含有ポリアミドを環化させることにより、式(23)で表される繰り返し単位を含む、HFIP基含有重合体を得ることができる。環化反応は、加熱して行うことができ、また酸触媒を加え加熱する等の脱水を促進する方法で行うことができる。
式(22)
【化57】
(式中、AおよびR
1は、式(4)における意味と同義であり、R
3は式(18)における意味と同義である。)
式(23)
【化58】
(式中、AおよびR
1は、式(4)における意味と同義であり、R
3は式(18)における意味と同義である。)
【0128】
また、本発明のHFIP基含有ポリアミドの製造方法で得られた、以下に示す式(24)で表される繰り返し単位を含む含有ポリアミドを環化させることにより、式(25)で表される繰り返し単位を含む、HFIP基含有重合体をえることができる。環化反応は、加熱して行うことができ、また酸触媒を加え加熱する等の脱水を促進する方法で行うことができる。
式(24)
【化59】
(式中、R
3は式(18)における意味と同義である。)
式(25)
【化60】
(式中、R
3は式(18)における意味と同義である。)
【0129】
特許文献5~7に記載の様に、前記式(22)またはは式(24)で表される繰り返し単位を含む、HFIP基含有ポリアミドは加熱処理または脱水試薬との反応によって、化合物内で脱水が起こり、環構造が形成され、式(23)または式(25)で表される繰り返し単位を含む、HFIP基含有重合体を合成することができる。加熱処理により脱水して環化を行う場合、250℃以上、400℃以下の反応温度で環化され、式(23)もしくは式(25)で表される繰り返し単位を含む、HFIP基含有重合体を合成することができる。より好ましくは、300℃以上、380℃以下である。反応温度が250℃より低いと環化が十分に進行せず、前記HFIP基含有重合体をコーティング膜にした際に膜強度が損なわれる、または吸水性が高くなる虞がある。一方、反応温度が400℃を超えると、HFIP基含有重合体の一部が熱分解する等して、前記HFIP基含有重合体をコーティング膜にした際に膜強度が損なわれる、または着色する虞がある。また、脱水試薬を用いて脱水環化を行う場合、脱水試薬として無水酢酸を添加し、さらにピリジンまたはトリエチルアミン等の塩基を添加し、前記ポリアミドと反応させ、脱水環化して、前記HFIP基含有重合体を合成することも可能である。
【0130】
上記方法で得られた式(23)または式(25)で表される繰り返し単位を含む、HFIP基含有重合体は、ポリスチレン換算で重量平均分子量(Mw)が10000以上、500000以下であることが好ましい。Mwが10000より小さいと、HFIP基含有重合体の強度が低く自立膜ができにくく、500000より大きいとHFIP基含有重合体は有機溶剤に対する溶解性に劣る。特に好ましくは、50000以上、150000以下である。
【実施例】
【0131】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定させるものではない。
【0132】
1.芳香族2環化合物であるHFIP基含有ジアミンの合成
1-1.ジフェニル骨格を有するHFIP基含有ジアミンの合成
実施例1
<HFIPを溶媒として用いた、5,5’-ビス(1-ヒドロキシ-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル)-2,2’-ジメチルベンジジンの合成>
圧力計、温度計および攪拌機を備えた1Lのステンレス鋼製耐圧反応器に、原料であるメタトリジン80.0g(0.38モル)、反応溶媒であるHFIP、400gを入れ、反応器内を窒素で置換した後、オイルバスにより加熱し、内温80℃に到達したところで、HFA、156g(0.94モル、2.5当量)を加え、80℃で7時間、反応を行った。
【化61】
【0133】
反応終了後、反応液をサンプリングして、反応物の組成(選択率)をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、それぞれ面積%で表して、目的物である5,5’-ビス(1-ヒドロキシ-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル)-2,2’-ジメチルベンジジンが97.6%、副生したイミン類の合計が2.4%であった。
【0134】
反応終了後、常温(20℃)に冷却した後、反応器を開放しパージしたガスはドライアイスアセトン浴のガラストラップに回収した。次いで、反応器にトルエン600gを入れ、オイルバスにより加熱しながら反応溶媒であるHFIPを常圧留去したところ334gを回収した。回収したHFIPの組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、HFIPが99.1%、トルエンが0.9%であった。
【0135】
反応器にトルエン300gを入れ、さらに加熱を継続し、内温が110℃に到達したところで2時間保持した。次いで、反応器を10℃に冷却し、反応物の結晶を析出させスラリーとした後、遠心分離器にて濾別した。得られた粉末を60℃、6kPaで2時間減圧乾燥することで目的とする5,5’-ビス(1-ヒドロキシ-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル)-2,2’-ジメチルベンジジンの白色粉末を199g(0.37モル)、収率96.8%で得た。以下に目的生成物のNMR測定データを示す。
【0136】
1H-NMR(DMSO-d6):δ9.27(brs,2H),6.80(s,2H)、6.65(s,2H),5.54(brs, 4H),1.88(s, 6H). 19
F-NMR(DMSO-d6):δ-72.78(s).
【0137】
実施例2
<HFIPの再利用>
実施例1において反応後に回収したHFIP、334gに、未使用のHFIP、66gを加え、実施例1と同様にHFIP、400gを使用し、実施例1と同様の反応を同様の手順で行った。80℃で7時間反応させた後、反応液をサンプリングして、反応物の組成(選択率)をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、それぞれ面積%で表して、目的物である5,5’-ビス(1-ヒドロキシ-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル)-2,2’-ジメチルベンジジンが97.7%、副生したイミン類が2.3%であり、実施例1の結果と同等であった。
【0138】
比較例1
<エタノールを溶媒として用いた、5,5’-ビス(1-ヒドロキシ-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル)-2,2’-ジメチルベンジジンの合成 >
【0139】
圧力計、温度計および攪拌機を備えた内容積300mLのステンレス鋼製耐圧反応器に、原料であるメタトリジン50.0g(0.24モル)、反応溶媒としてエタノール100g、触媒としてパラトルエンスルホン酸1水和物2.02g(0.012モル)を入れ、反応器内を窒素で置換した後、オイルバスにより加熱し、内温110℃に到達したところで、HFA、99.6g(0.60モル、2.5当量)を加え、110℃で24時間、反応を行った。
【化62】
【0140】
反応器を室温(20℃)まで冷却し反応を終了させた後、反応液をサンプリングして、反応物の組成(選択率)をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、それぞれ面積%で表して、目的物である5,5’-ビス(1-ヒドロキシ-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル)-2,2’-ジメチルベンジジンが10.6%、ヘキサフルオロイソプロパノール基が一つ導入された5-(1-ヒドロキシ-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル)-2,2’-ジメチルベンジジンが63.8%、未反応の原料であるメタトリジンが23.1%、その他が2.5%であった。
【0141】
比較例2
<アセトニトリルを溶媒として用いた、5,5’-ビス(1-ヒドロキシ-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル)-2,2’-ジメチルベンジジンの合成>
【0142】
圧力計、温度計および攪拌機を備えた内容積300mLのステンレス鋼製耐圧反応器に、原料であるメタトリジン25.0g(0.12モル)、反応溶媒としてアセトニトリル180g、触媒としてパラトルエンスルホン酸1水和物1.01g(0.006モル )を入れ、反応器内を窒素で置換した後、オイルバスにより加熱し、内温80℃に到達したところで、HFA、49.0g(0.30モル、2.7当量)を加え、80℃で7時間、反応を行った。
【0143】
【0144】
反応器を室温(20℃)まで冷却し反応を終了させた後、反応液をサンプリングして、反応物の組成(選択率)をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、それぞれ面積%で表して、目的物である5,5’-ビス(1-ヒドロキシ-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル)-2,2’-ジメチルベンジジンが0.4%、ヘキサフルオロイソプロパノール基が一つ導入された5-(1-ヒドロキシ-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル)-2,2’-ジメチルベンジジンが18.1%、未反応の原料であるメタトリジンが23.1%、副生したイミン類が58.4%であった。
【0145】
比較例3
<HFA3水和物を原料として用いた、5,5’-ビス(1-ヒドロキシ-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル)-2,2’-ジメチルベンジジンの合成 >
圧力計、温度計および攪拌機を備えた内容積300mLのステンレス鋼製耐圧反応器に、原料であるメタトリジン42.4g(0.20モル)、HFA3水和物220g(1.00モル)、触媒としてパラトルエンスルホン酸1水和物1.90g(0.01モル)を入れ、反応器内を窒素で置換した後、オイルバスにより加熱し反応器を135℃に昇温した後、135℃で22時間、反応を行った。
【化64】
【0146】
反応器を室温(20℃)まで冷却し反応を終了させた後、反応器の密閉を解き、反応物を遠心分離器に移し濾別し粉末を得た。回収して得られた粉末をジイソプロピルエーテルで洗浄し、減圧乾燥することで5,5’-ビス(1-ヒドロキシ-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル)-2,2’-ジメチルベンジジンの白色粉末を75.0g(0.14モル)、収率69.0%で得た。
【0147】
表1に、実施例1~2、比較例1~3の結果を示す。HFA化剤は、ジアミンの芳香環にHFIP基を導入するための原料であり、HFAまたはHFA3水和物を指す(以下、表2~3においても同じ)。
【表1】
【0148】
表1に示す様に、反応溶媒としてHFIPを用いた実施例1は、目的物を高い選択率(97.6%)且つ収率(96.8%)で得た。
【0149】
実施例2は、実施例1と同等の目的物の高い選択率(97.7%)が得られ、反応溶媒としてHFIPの再使用が可能であった。
【0150】
溶媒をHFIPに換えて、求核性を持つエタノールを用いた比較例1は、実施例1と比べ、反応温度が高く(110℃)、反応時間が長く(24時間)、触媒としてパラトルエン酸1水和物を加えたにも関わらず、目的物の選択率が低かった(10.6%)。
【0151】
溶媒をHFIPに換えて、極性溶媒であるアセトニトリルを用いた比較例2は、実施例1と比べ、HFAと原料であるメタトリジンのアミノ基または目的物であるHFIP基含有ジアミンのアミノ基とが反応することで副生するイミン類が増加し、目的物は殆ど得られなかった(0.4%)。
【0152】
原料としてHFA3水和物を用い無溶媒で反応させた比較例3は、実施例1と比べ、反応温度が高く(135℃)、反応時間が長く(22時間)、触媒としてパラトルエンスルホン酸1水和物を加えたにも関わらず、目的物の収率が低かった(69.0%)。
【0153】
1-2.ジフェニルメタン骨格を有するHFIP基含有ジアミンの合成
実施例3
<3,3’-ビス(1-ヒドロキシ-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル)-4,4’-メチレンジアニリンの合成>
圧力計、温度計および攪拌機を備えた1Lのステンレス鋼製耐圧反応器に、原料である4,4-メチレンジアニリン75.0g(0.38モル)、および反応溶媒であるHFIP、750gを入れ、反応器内を窒素で置換した後、オイルバスにより加熱し、内温80℃に到達したところで、HFA、145g(0.87モル、2.3当量)を加え、80℃で24時間、反応を行った。
【化65】
【0154】
反応器を室温(20℃)まで冷却し反応を終了させた後、反応液をサンプリングして反応物の組成(選択率)を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定したところ、それぞれ面積%で表して、目的物である3,3’-ビス(1-ヒドロキシ-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル)-4,4’-メチレンジアニリンが89.9%、HFIP基が一つ導入された3-ビス(1-ヒドロキシ-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル)-4,4’-メチレンジアニリンが5.5%、副生したイミン類が4.6%であった。
【0155】
反応終了後、常温(20℃)に冷却した後、反応器を開放しパージしたガスはドライアイスアセトン浴のガラストラップに回収した。次いで、反応器にトルエン600gを入れ、オイルバスにより加熱しながら反応溶媒であるHFIPを常圧留去した後、反応器にトルエン150gを入れ、さらに加熱を継続し、内温が110℃に到達したところで2時間保持した。次いで、反応器を10℃に冷却し、反応物の結晶を析出させスラリーとした後、遠心分離器にて濾別した。得られた粉末を60℃、6kPaで2時間減圧乾燥することで、目的とする3,3’-ビス(1-ヒドロキシ-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル)-4,4’-メチレンジアニリンの白色粉末を153g(0.27モル)、収率70.8%で得た。以下に目的生成物のNMR測定データを示す。
【0156】
1H-NMR(基準物質:TMS、溶媒:CD3CN)δ(ppm):7.88(br,1H),7.27(s,2H),7.17(dd,2H,J=6.1,2.1Hz),6.98(d,2H,J=8.1Hz),3.88(s,2H)。19F-NMR(基準物質:CCl3F、溶媒:CD3CN δ(ppm):-75.7(s,12F)
【0157】
1-3.ジフェニルエーテル骨格を有するHFIP基含有ジアミンの合成
実施例4
<溶媒としてHFIPを用いた3,3’-ビス(1-ヒドロキシ-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル)-4,4’-オキシジアニリンの合成>
【0158】
圧力計、温度計および攪拌機を備えた1Lのステンレス鋼製耐圧反応器に、原料である4,4’-オキシジアニリン80.0g(0.40モル)、触媒としてトリフルオロメタンスルホン酸3.0g(0.02モル)、反応溶媒であるHFIP、400gを入れ、反応器内を窒素で置換した後、オイルバスにより加熱し、内温80℃に到達したところで、HFA、146g(0.88モル、2.2当量)を加え、80℃で24時間、反応を行った。
【化66】
【0159】
反応器を室温(20℃)まで冷却し反応を終了させた後、反応液をサンプリングして、反応物の組成比(選択率)を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定したところ、それぞれ面積%で表して、目的とする3,3’-ビス(1-ヒドロキシ-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル)-4,4’-オキシジアニリンが88.7%、ヘキサフルオロイソプロパノール基が一つ導入された3-(1-ヒドロキシ-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル)-4,4’-オキシジアニリンが3.2%、副生したイミン類が6.2%、その他が4.9%であった。
【0160】
比較例4
<溶媒としてキシレンを用いた3,3’-ビス(1-ヒドロキシ-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル)-4,4’-オキシジアニリンの合成>
【0161】
圧力計、温度計および攪拌機を備えた内容積300mLのステンレス鋼製耐圧反応器に、原料である4,4’-オキシジアニリン15.0g(0.075モル)、触媒としてパラトルエンスルホン酸1水和物0.71g(0.0038モル)、反応溶媒としてキシレン45mlを入れ、反応器内を窒素で置換した後、オイルバスにより加熱し、内温120℃に到達したところで、HFA、37.2g(0.22モル、3.0当量)を加え、120℃で23時間、反応を行った。
【化67】
【0162】
反応器を室温(20℃)まで冷却し反応を終了させた後、反応液をサンプリングして、反応物の組成比(選択率)をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、それぞれ面積%で表して、目的とする3,3’-ビス(1-ヒドロキシ-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル)-4,4’-オキシジアニリンが39.8%、3-(1-ヒドロキシ-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル)-4,4’-オキシジアニリンが5.4%、副生したイミン類が53.0%、その他が1.8%であった。
【0163】
表2に、実施例4、比較例4の結果を示す。
【表2】
【0164】
表2に示す様に、溶媒をHFIPに換えてキシレンを用いた比較例4は、実施例4に比べ、反応温度が高く(120℃)、反応時間が長い(23時間)に関わらず、目的物の選択率が低かった(39.8%)。
【0165】
2.芳香族単環化合物であるHFIP基含有ジアミンの合成
実施例5
<溶媒としてHFIPを用いた1-(2-ヒドロキシヘキサフルオロ-2-プロピル)-2,5-フェニレンジアミンの合成>
圧力計、温度計および攪拌機を備えた1Lのステンレス鋼製耐圧反応器に、原料であるパラフェニレンジアミン30.0g(0.28モル)、反応溶媒であるHFIP、300gを入れ、反応器内を窒素で置換した後、オイルバスにより加熱し、内温80℃に到達したところで、HFA、55.8g(0.34モル、1.2当量)を加え、80℃で24時間、反応を行った。
【化68】
【0166】
反応器を室温(20℃)まで冷却し反応を終了させた後、反応液をサンプリングして、反応物の組成(選択率)をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、それぞれ面積%で表して、目的とする1-(2-ヒドロキシヘキサフルオロ-2-プロピル)-2,5-フェニレンジアミンが73.6%、パラフェニレンジアミンが17.2%、副生したイミン類が9.2%であった。
【0167】
実施例6
<溶媒としてHFIPを用いた1-(2-ヒドロキシヘキサフルオロ-2-プロピル)-2,5-フェニレンジアミンの合成>触媒としてのパラトルエンスルホン酸1水和物の添加
圧力計、温度計および攪拌機を備えた1Lのステンレス鋼製耐圧反応器に、原料であるパラフェニレンジアミン75.0 g( 0.69モル)、触媒としてパラトルエンスルホン酸1水和物5.25g(0.028モル)、反応溶媒であるHFIP、750gを入れ、反応器内を窒素で置換した後、オイルバスにより加熱し、内温80℃に到達したところで、HFA、137g(0.83モル、1.2当量)を加え、80℃で24時間、反応を行った。
【化69】
【0168】
反応器を室温(20℃)まで冷却し反応を終了させた後、反応液をサンプリングして、反応物の組成(選択率)をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、それぞれ面積%で表して、目的とする1-(2-ヒドロキシヘキサフルオロ-2-プロピル)-2,5-フェニレンジアミンが92.0%、パラフェニレンジアミンが0.3%、副生したイミン類が7.7%であった。
【0169】
反応器を室温(20℃)まで冷却し反応を終了させた後、反応器を開放しパージしたガスはドライアイスアセトン浴のガラストラップに回収した。次いで、反応器にトルエン500gを入れ、オイルバスにより加熱しながら反応溶媒であるHFIPを常圧留去した後、反応器にトルエン内容積300gを入れ、さらに加熱を継続し、内温が110℃に到達したところで2時間保持した。次いで、反応器を10℃に冷却し、反応物の結晶を析出させスラリーとした後、遠心分離器にて濾別した。得られた粉末を60℃、6kPaで2時間減圧乾燥することで、目的とする1-(2-ヒドロキシヘキサフルオロ-2-プロピル)-2,5-フェニレンジアミンの紫色粉末を153g(0.58モル)、収率84.1%で得た。以下に目的生成物のNMR測定データを示す。
【0170】
1H-NMR(基準物質:TMS、溶媒:(CD3)2CO)δ(ppm):6.98(d,1H,J=8.5Hz),6.88(m,1H),6.71(dd,1H,J=2.6,8.5Hz),4.80(br,2H),2.83(br,2H)。19F-NMR(基準物質:CCl3F、溶媒:(CD3)2CO)δ(ppm):-75.0(s,6F)。
【0171】
実施例7
<溶媒としてHFIPを用いた1-(2-ヒドロキシヘキサフルオロ-2-プロピル)-2,5-フェニレンジアミンの合成> 触媒としてのトリフルオロメタンスルホン酸の添加
触媒としてパラトルエンスルホン酸1水和物の代わりにトリフルオロメタンスルホン酸を使用した以外は、実施例4と同様の反応を同様の手順で行った。
【化70】
80℃で24時間反応させた後、反応液をサンプリングして、反応物の組成(選択率)をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、それぞれ面積%で表して、目的とする1-(2-ヒドロキシヘキサフルオロ-2-プロピル)-2,5-フェニレンジアミンが93.9%、パラフェニレンジアミンが2.5%、副生したイミン類が3.6%であり、実施例4の結果とほぼ同等であった。
【0172】
比較例5
<溶媒としてトルエンを用いた1-(2-ヒドロキシヘキサフルオロ-2-プロピル)-2,5-フェニレンジアミンの合成>
圧力計、温度計および攪拌機を備えた1Lのステンレス鋼製耐圧反応器に、原料であるパラフェニレンジアミン30.0g(0.28モル)、触媒としてパラトルエンスルホン酸1水和物2.1g(0.011モル)、反応溶媒としてトルエン300gを入れ、反応器内を窒素で置換した後、オイルバスにより加熱し、内温110℃に到達したところで、HFA、55.8g(0.34モル、1.2当量)を加え、110℃で24時間、反応を行った。
【化71】
【0173】
反応器を室温(20℃)まで冷却し反応を終了させた後、反応液をサンプリングして、反応物の組成(選択率)をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、それぞれ面積%で表して、目的物である1-(2-ヒドロキシヘキサフルオロ-2-プロピル)-2,5-フェニレンジアミンが19.3%、パラフェニレンジアミンが78.1%、その他が2.6%であった。
【0174】
表3に、実施例5~7、比較例5の結果を示す。
【表3】
【0175】
表3に示す様に、パラトルエンスルホン酸1水和物を触媒として用いた実施例6は、触媒を使用していない実施例5と比べ、目的物の選択率に向上した(92.0%)。
【0176】
トリフルオロメタンスルホン酸を触媒として用いた実施例7は、パラトルエンスルホン酸1水和物を触媒として用いた実施例6と比べ、目的物の選択率は同等であった(93.9%)。
【0177】
溶媒にトルエンを用いた比較例5は、実施例6に比べ、反応温度が高い(120℃)にも関わらず、目的物の選択率が低かった(19.3%)。
【0178】
実施例8
[1,3-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-ヒドロキシ-2-プロピル)-4,6-フェニレンジアミンの合成]
圧力計、温度計および攪拌機を備えた1Lのステンレス鋼製耐圧反応器に、原料であるメタフェニレンジアミン25.0g(0.23モル)、触媒としてトリフルオロメタンスルホン酸3.47g(0.023モル)、および反応溶媒であるHFIP250gを入れ、反応器内を窒素で置換した後、オイルバスにより加熱し、内温80℃に到達したところで、HFA92.1g(0.56モル、2.4当量)を加え、80℃で24時間、反応を行った。
【化72】
【0179】
反応器を室温(20℃)まで冷却し反応を終了させた後、反応液をサンプリングして、反応物の組成(選択率)をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、それぞれ面積%で表して、目的とする1,3-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-ヒドロキシ-2-プロピル)-4,6-フェニレンジアミンが99.2%、その他が0.8%であった。
【0180】
実施例9
[9,9-ビス(4-アミノ-3-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-ヒドロキシ-2-プロピル)フェニル)フルオレンの合成]
圧力計、温度計および攪拌機を備えた1Lのステンレス鋼製耐圧反応器に、原料である9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン80.0g(0.23モル)、触媒としてトリフルオロメタンスルホン酸1.70g(0.011モル)、および反応溶媒であるHFIP400gを入れ、反応器内を窒素で置換した後、オイルバスにより加熱し、内温80℃に到達したところで、HFA91.5g(0.55モル、2.4当量)を加え、80℃で20時間、反応を行った。
【化73】
【0181】
反応器を室温(20℃)まで冷却し反応を終了させた後、反応液をサンプリングして、反応物の組成(選択率)をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、それぞれ面積%で表して、目的とする9,9-ビス(4-アミノ-3-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-ヒドロキシ-2-プロピル)フェニル)フルオレンが96.3%、その他が3.7%であった。
【0182】
実施例1~9の結果からわかるように、HFIPを溶媒として用いる本発明のHFIP基含有ジアミンの製造方法は、種々の芳香族ジアミンに対して、イミン類の副生が少なく、相当するHFIP基含有ジアミンが高い選択率および収率で得られた。
【0183】
実施例10
[脱水試薬を用いた脱水閉環による含フッ素芳香族ポリイミドの合成]
窒素導入管および攪拌翼を備えた容量500mLの四口フラスコに、実施例1で合成した5,5’-ビス(1-ヒドロキシ-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル)-2,2’-ジメチルベンジジンを33.4g(0.061モル)、および6FDAを27.2g(0.061モル)加え、さらに、有機溶剤としてDMAcを111g加え、窒素雰囲気下、恒温槽(20℃)で24時間攪拌した後、ピリジン10.2g(0.13モル)、無水酢酸13.1g(0.13モル)を順に加え、窒素雰囲気下、室温(20℃)で3時間攪拌し、イミド化を行った。その後、DMAcを加えてイミド化後の反応液を希釈し、加圧濾過することで、式(26)で表される繰り返し単位を含むポリイミドのDMAc溶液を合成した。得られたポリイミド溶液をゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ(以降、GPCと略すことがある)による分子量の測定を行ったところ、Mw=120500、Mw/Mn=2.3であった。Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量である。
【0184】
なお、GPCには、東ソー株式会社製、機種名:HLC-8320GPC、カラム:TSKgel SuperHZM-Hを用い、展開溶剤にはTHFを用いた。
【化74】
【0185】
実施例11
含フッ素芳香族ジアミンを実施例7で合成した1-(2-ヒドロキシヘキサフルオロ-2-プロピル)-2,5-フェニレンジアミンを用いた以外は、実施例10と同様の操作を実施し、式(27)で表される繰り返し単位を含むポリイミド溶液の分子量の測定を行ったところ、Mw=120760、Mw/Mn=2.3であった。なお、GPCには、前記機種および前記カラムを用い、展開溶剤にはTHFを用いた。
【化75】
【0186】
実施例12
[加熱脱水閉環による含フッ素芳香族ポリイミドの合成]
窒素導入管、ディーンシュターク管および攪拌翼を備えた容量300mLの三口フラスコに、実施例1で合成した5,5’-ビス(1-ヒドロキシ-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル)-2,2’-ジメチルベンジジンを43.5g(0.08モル)、および6FDAを35.5g(0.08モル)加え、さらに、有機溶剤としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を143gおよびトルエン50gを加え、窒素雰囲気下、オイルバスにより加熱し、内温180℃で7時間、反応を行った。
【0187】
反応器を室温(20℃)まで冷却し反応を終了させた後、式(26)で表される繰り返し単位を含むポリイミド溶液をサンプリングして、GPCによる分子量の測定を行ったところ、Mw=87190、Mw/Mn=2.1であった。なお、GPCには、前記機種および前記カラムを用い、展開溶剤にはTHFを用いた。
【0188】
実施例13
含フッ素芳香族ジアミンを実施例7で合成した1-(2-ヒドロキシヘキサフルオロ-2-プロピル)-2,5-フェニレンジアミンを用いた以外は、実施例12と同様の操作を実施し、得られたポリイミド溶液の分子量の測定を行ったところ、Mw=91110、Mw/Mn=2.3であった。なお、GPCには、前記機種および前記カラムを用い、展開溶剤にはTHFを用いた。
【0189】
実施例14
[含フッ素芳香族ポリアミドの合成]
窒素導入管、滴下ロートおよび攪拌翼を備えた容量500mLの四口フラスコに、実施例3で合成した3,3’-ビス(1-ヒドロキシ-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル)-4,4’-メチレンジアニリンを53.0g(0.1モル)、およびDMAcを55g加えた。次に、THF55gにテレフタル酸クロリド20.3gを溶解させた溶液を窒素雰囲気下、恒温槽により内温を10℃以下に保ちながら、滴下ロートにて添加した。添加終了後、内温を室温(25℃)まで昇温し、1時間熟成させた後、式(28)で表される繰り返し単位を含むポリアミド溶液をサンプリングして、GPCによる分子量の測定を行ったところ、Mw=760000、Mw/Mn=2.2であった。なお、GPCには、前記機種および前記カラムを用い、展開溶剤にはTHFを用いた。
【化76】
【0190】
実施例10~14の結果からわかるように、本発明のHFIP基含有ジアミンの製造方法において、得られた含フッ素芳香族ジアミンを用いることにより、自立膜が作成可能な高分子量体の含フッ素ポリイミドおよび含フッ素ポリアミドが得られた。