(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】高圧タンク
(51)【国際特許分類】
F16J 12/00 20060101AFI20220622BHJP
F17C 1/06 20060101ALI20220622BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20220622BHJP
B29C 70/32 20060101ALI20220622BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20220622BHJP
B29L 22/00 20060101ALN20220622BHJP
【FI】
F16J12/00 A
F17C1/06
B29C70/16
B29C70/32
B29K105:08
B29L22:00
(21)【出願番号】P 2018198782
(22)【出願日】2018-10-22
【審査請求日】2020-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】板垣 修
(72)【発明者】
【氏名】栗山 雄治
(72)【発明者】
【氏名】光田 崇
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-035913(JP,A)
【文献】特開2012-092238(JP,A)
【文献】特開2009-107233(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0314785(US,A1)
【文献】国際公開第2017/149817(WO,A1)
【文献】特開2006-046645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 41/00-41/36
B29C 41/46-41/52
B29C 70/00-70/88
F16J 12/00-13/24
F17C 1/00-13/12
B29K 105:08
B29L 22:00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状に形成された胴体部と、前記胴体部の軸方向両端それぞれにドーム状に形成されたドーム部と、を有する容器本体と、
前記容器本体の外面に複数周に亘って巻き付けられた補強層と、
を備え、
前記補強層は、
前記胴体部の外面に巻き付けられる、繊維が前記胴体部の軸方向に対して直交する第一方向に延びて周回する第一強化繊維部材と、
前記容器本体の外面に巻き付けられると共に、繊維が前記第一方向とは異なる第二方向に延びて前記第一強化繊維部材に交差する第二強化繊維部材と、繊維が前記第一方向とは異なりかつ第二方向とは異なる第三方向に延びて前記第一強化繊維部材及び前記第二強化繊維部材の双方に交差する第三強化繊維部材と、が編み込まれた繊維強化樹脂シートと、
を有
し、
前記ドーム部の外面に巻き付けられている前記繊維強化樹脂シートにおける前記第二強化繊維部材と前記第三強化繊維部材とのドーム部側交差角は、前記胴体部の外面に巻き付けられている前記繊維強化樹脂シートにおける前記第二強化繊維部材と前記第三強化繊維部材との胴体部側交差角とは異なる、高圧タンク。
【請求項2】
前記ドーム部側交差角は、前記胴体部側交差角に比べて、前記胴体部の軸方向を基準にして大きい、請求項
1に記載の高圧タンク。
【請求項3】
前記ドーム部側交差角は、前記胴体部との接続部側から前記ドーム部の頂部にかけて徐々に変化する、請求項
1又は
2に記載の高圧タンク。
【請求項4】
前記第一強化繊維部材は、前記第二強化繊維部材及び前記第三強化繊維部材と共に編み込まれて、前記繊維強化樹脂シートを構成している、請求項1
乃至3の何れか一項に記載の高圧タンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池自動車や天然ガス自動車などに用いられる水素ガスなどを貯蔵する高圧タンクが知られている(例えば、特許文献1)。高圧タンクは、ガスが貯蔵される容器本体と、その容器本体を補強する補強層と、を備えている。容器本体は、円筒状に形成された胴体部と、胴体部の軸方向両側それぞれに形成されたドーム部と、を有している。補強層は、高圧タンクの耐圧を高めるために、容器本体の外面に繊維強化部材が巻き付けられた層である。
【0003】
補強層は、複数回周回される一枚の繊維強化樹脂シートを有している。この繊維強化樹脂シートは、胴体部の軸方向に沿って延びる第一強化繊維部材と、胴体部の軸方向に対して直交する方向に延びて周回する第二強化繊維部材と、からなる。補強層は、繊維強化樹脂シートが容器本体の外面に複数周に亘って巻き付けられることにより形成される。特に、ドーム部の補強層は、繊維強化樹脂シートの軸方向端部が周方向に捻られることにより形成される。ドーム部の補強層がこのような第一強化繊維部材と第二強化繊維部材とからなる繊維強化樹脂シートのみで構成される構造では、ドーム部の強度が不十分となるおそれがある。
【0004】
そこで、上記特許文献1の高圧タンクは、補強層として、繊維強化樹脂シートとは別の、容器本体の外面に低角度ヘリカル巻き(すなわち、インプレーン巻き)される線状の連続繊維フィラメントを追加することにより、補強されている。このようにドーム部の補強に低角度ヘリカル巻きと第一強化繊維部材とを併用することにより、低角度ヘリカル層の厚さを低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の如く捻りにより形成された補強層と線状の連続繊維フィラメントとによる補強層の組み合わせでは、捻りによる補強層の繊維ズレに対する強度があまり高くならないため、ドーム部の高い耐圧性確保のためにフィラメントワインディング法により連続繊維フィラメントを複数周に亘って周回させることが必要である。このため、高圧タンクの製造時間が長くなり、製造コストが上昇してしまう。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、製造コストの上昇を招くことなくドーム部の高い耐圧性を確保することが可能な高圧タンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、筒状に形成された胴体部と、前記胴体部の軸方向両端それぞれにドーム状に形成されたドーム部と、を有する容器本体と、前記容器本体の外面に複数周に亘って巻き付けられた補強層と、を備え、前記補強層は、前記胴体部の外面に巻き付けられる、繊維が前記胴体部の軸方向に対して直交する第一方向に延びて周回する第一強化繊維部材と、前記容器本体の外面に巻き付けられると共に、繊維が前記第一方向とは異なる第二方向に延びて前記第一強化繊維部材に交差する第二強化繊維部材と、繊維が前記第一方向とは異なりかつ第二方向とは異なる第三方向に延びて前記第一強化繊維部材及び前記第二強化繊維部材の双方に交差する第三強化繊維部材と、が編み込まれた繊維強化樹脂シートと、を有する、高圧タンクである。
【0009】
この構成によれば、容器本体の胴体部が、互いに異なる三方向に延びる第一、第二、及び第三強化繊維部材により巻き締められると共に、容器本体のドーム部が、互いに異なる二方向に延びる第二及び第三強化繊維部材により巻き締められる。このため、ドーム部が一方向の強化繊維部材により巻き締められる構造に比べて、ドーム部の耐圧性を向上させることができる。また、ドーム部の外面に強化繊維部材を巻き締めるうえで、そのドーム部の外面に一枚の繊維強化樹脂シートを巻き付ける作業を行うこととすればよい。このため、別途、線状の繊維を低角度ヘリカル巻き(インプレーン巻き)することを不要とすることが可能であるので、ドーム部の外面に線状の繊維を傾斜角度ズレさせながら複数周に亘って周回させる構造に比べて、製造時間を短縮させることができると共に、製造設備の大型化を抑えて製造コストの削減を図ることができる。従って、製造コストの上昇を招くことなく、ドーム部の高い耐圧性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第一実施形態に係る高圧タンクの構造を模式的に表した図である。
【
図2】第一実施形態の高圧タンクが備える繊維強化樹脂シートの容器本体への巻き付け前の構成図である。
【
図3】第一実施形態の高圧タンクの製造中における斜視図である。
【
図4】第一実施形態の高圧タンクが備える繊維強化樹脂シート(フープ層を除く。)の容器本体への巻き付け後の胴体部とドーム部との構造の違いを説明するための展開図である。
【
図5】第二実施形態に係る高圧タンクが備える補強層の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る高圧タンクの具体的な実施形態について図面を用いて説明する。
【0012】
[第一実施形態]
第一実施形態の高圧タンク1は、例えば水素ガスや天然ガスなどを高圧で充填する耐圧容器である。高圧タンク1は、例えば自動車などに搭載される。高圧タンク1は、
図1に示す如く、容器本体10と、補強層30と、を備えている。
【0013】
容器本体10は、高圧タンク1の内壁層をなす中空のライナである。容器本体10は、部位として、胴体部11と、ドーム部12と、を有している。胴体部11は、円筒状に形成された部位である。胴体部11は、断面円形に形成されており、所定外径を有している。ドーム部12は、半球状に形成された部位である。ドーム部12は、胴体部11の軸方向両端部それぞれに設けられている。ドーム部12は、胴体部11の軸方向端部に椀を伏せた状態(ドーム状)に形成されている。容器本体10は、胴体部11と2つのドーム部12とが一体化されているように形成されている。容器本体10の内部空間には、ガスが充填される。以下、高圧タンク1、容器本体10、及び胴体部11の軸が延びる方向を、適宜、軸方向Aと称す。
【0014】
容器本体10は、構成部品として、ライナ部20と、口金21と、を有している。すなわち、容器本体10は、ライナ部20と口金21とが組み付けられることにより構成される。ライナ部20及び口金21は、互いに組み付けられた状態で上記の胴体部11及びドーム部12を形成する。
【0015】
ライナ部20は、少なくとも胴体部11を形成するような形状(すなわち、略円筒状)に形成されている。尚、ライナ部20は、ドーム部12の少なくとも一部を含むように形成されていてもよい。ライナ部20は、ガスバリア性を有する材料(例えば、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂,その他の硬質樹脂など)により形成されている。尚、ライナ部20は、例えばアルミニウムなどの材料により形成された金属ライナであってもよい。
【0016】
ライナ部20の軸方向両端部にはそれぞれ、開口22が設けられている。開口22は、胴体部11の軸中心を中心にして略円形に形成されている。開口22には、口金21が嵌入されている。口金21は、ライナ部20の軸方向両端部それぞれに固定されている。ライナ部20への口金21の固定は、両者の螺合または嵌め合いにより或いはインサート成形により行われる。口金21は、略円筒状に形成されており、ボス部23及びフランジ部24を有している。口金21のボス部23の先端側は、ドーム部12の頂点から軸方向Aの外方へ突出している。口金21は、例えばアルミニウム又はアルミニウム合金などの金属により形成されている。口金21には、バルブ(図示せず)が螺合により取り付けられている。
【0017】
補強層30は、高圧タンク1の外壁層をなし、容器本体10の外面を覆う補強部材である。補強層30は、樹脂を含浸した高強度繊維からなる。この高強度繊維は、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などである。また、この高強度繊維に含浸される樹脂は、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などの熱硬化性樹脂である。尚、この高強度繊維に含浸される樹脂は、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂などの熱可塑性樹脂であってもよい。補強層30は、容器本体10の外面を覆った状態で、高強度繊維に含浸されている樹脂が硬化又は固化されることによりその容器本体10の外面側に固着される。尚、高強度繊維への樹脂の含浸は、容器本体10の外面を覆う前に行われてもよいし、その後に行われてもよい。
【0018】
補強層30は、フープ層と、ヘリカル層と、を有している。フープ層は、繊維の向く方向が容器本体10の軸方向Aに対して略垂直に延びている層のことである。このフープ層は、容器本体10の胴体部11の外面側に形成され、胴体部11を巻き締めるために設けられる。また、ヘリカル層は、繊維の向く方向が容器本体10の軸方向Aに対して傾斜している層のことである。このヘリカル層は、容器本体10の軸方向Aに対して繊維の向く方向が傾斜する角度が比較的小さい低角度ヘリカル層であって、容器本体10の胴体部11及びドーム部12の双方の外面側に形成され、主にドーム部12を巻き締めるために設けられている。尚、補強層30として、更に、上記の低角度ヘリカル層よりも軸方向Aに対する傾斜角度が大きい高角度ヘリカル層が形成されていてもよい。
【0019】
補強層30のフープ層及びヘリカル層は共に、
図2に示す如く、繊維強化樹脂シート31により形成される。繊維強化樹脂シート31は、一枚のシート状に形成された部材である。繊維強化樹脂シート31は、容器本体10の外面に巻き付けられる前に予めシート状に形成される。繊維強化樹脂シート31は、複数の方向(具体的には、三方向)に配向された繊維が編み込まれることにより構成されている。尚、本明細書において、繊維とは、一本の繊維を意味するだけでなく、複数本の繊維が束ねられた繊維束を意味することもあるものとする。また、シート状とは、繊維が延びる方向に延在するだけでなく、複数本の繊維がその繊維方向に直交する方向に一体となって容器本体10の軸方向長さ程度に亘って並んでいることである。繊維強化樹脂シート31の繊維の引張強度は、6.5GPa程度である。
【0020】
繊維強化樹脂シート31は、繊維の延びる方向が互いに異なる三つの強化繊維部材32,33,34を有している。強化繊維部材32は、胴体部11の軸方向Aに対して直交する直交方向Bに延びる繊維からなる。強化繊維部材32は、胴体部11の外面に巻き付けられて周回し、フープ層を形成している。強化繊維部材33,34はそれぞれ、胴体部11の軸方向Aに対して斜め方向に延びる繊維からなる。強化繊維部材33,34は、胴体部11及びドーム部12の外面に巻き付けられて周回し、ヘリカル層を形成している。以下、強化繊維部材32を第一強化繊維部材32と、強化繊維部材33,34を第二強化繊維部材33及び第三強化繊維部材34と、それぞれ称す。
【0021】
第二強化繊維部材33は、第一強化繊維部材32の延びる上記直交方向Bとは異なる方向Cに延びており、第一強化繊維部材32に交差している。第二強化繊維部材33の延びる方向Cが第一強化繊維部材32の延びる直交方向Bに対してなす角度(すなわち、第一強化繊維部材32と第二強化繊維部材33との編み角)は、例えば10°-80°(好ましくは45°)である。第三強化繊維部材34は、第一強化繊維部材32の延びる上記直交方向Bとは異なりかつ第二強化繊維部材33の延びる上記方向Cとは異なる方向Dに延びており、第一強化繊維部材32及び第二強化繊維部材33の双方に交差している。第三強化繊維部材34の交差は、第一強化繊維部材32の延びる直交方向Bを基準にして第二強化繊維部材33とは線対称となるようになされている。第三強化繊維部材34の延びる方向Dが第一強化繊維部材32の延びる直交方向Bに対してなす角度(すなわち、第一強化繊維部材32と第三強化繊維部材34との編み角)は、例えば10°-80°(好ましくは45°)である。
【0022】
第一強化繊維部材32、第二強化繊維部材33、及び第三強化繊維部材34は、互いに編み込まれて繊維強化樹脂シート31を構成する。繊維強化樹脂シート31は、容器本体10への巻き付け前において、その容器本体10の軸方向長さよりも長い軸方向長さを有している。繊維強化樹脂シート31での各強化繊維部材32,33,34の編み込みは、第二強化繊維部材33の領域が繊維強化樹脂シート31のシート全域に亘りかつ第三強化繊維部材34の領域が繊維強化樹脂シート31のシート全域に亘ると共に、第一強化繊維部材32の領域が繊維強化樹脂シート31における胴体部11の外面に対応する領域のみに占められるように行われる。
【0023】
繊維強化樹脂シート31は、容器本体10の外面に巻き付けられることでその容器本体10を覆う。繊維強化樹脂シート31は、容器本体10を覆ったとき、第一強化繊維部材32が胴体部11の外面に沿って胴体部11の軸方向Aに対して直交する直交方向Bに延び、第二強化繊維部材33が容器本体10の外面に沿ってその直交方向Bとは異なる方向Cに延び、かつ第三強化繊維部材34が容器本体10の外面に沿ってその直交方向Bとは異なりかつその方向Cとは異なる方向Dに延びるように形成配置される。繊維強化樹脂シート31は、容器本体10の外面に複数周に亘って巻き付けられて径方向外側に積層される。
【0024】
高圧タンク1の製造は、以下の手順で行われる。具体的には、まず、
図3に示す如く、補強層30をなす一枚の繊維強化樹脂シート31が巻回された状態で容器本体10に対して軸方向Aに平行に並べられ、繊維強化樹脂シート31が引き出されながら容器本体10が軸中心で回転されることにより、その繊維強化樹脂シート31が容器本体10の胴体部11の外面に巻き付けられる。次に、その繊維強化樹脂シート31の外面にフィルムを巻く処理などを行うことにより、その繊維強化樹脂シート31が容器本体10のドーム部12の外面に沿って腑形されて巻き付けられる。
【0025】
そして、繊維強化樹脂シート31が径方向に所定複数周に亘って積層されることにより補強層30の巻き付けが完了すると、補強層30の樹脂成分が硬化又は固化されて、その補強層30が容器本体10の外面に固着される。これにより、高圧タンク1は、容器本体10の外面に補強層30が巻き付けられた状態に製造される。
【0026】
上記の如く製造された高圧タンク1では、容器本体10の胴体部11が、繊維強化樹脂シート31の第一強化繊維部材32、第二強化繊維部材33、及び第三強化繊維部材34により巻き締められると共に、容器本体10のドーム部12が、繊維強化樹脂シート31の第二強化繊維部材33及び第三強化繊維部材34により巻き締められる。
【0027】
すなわち、胴体部11は、互いに異なる三方向に延びて交差する強化繊維部材32,33,34により網目状に巻き締められる。このため、胴体部11が一方向や二方向の強化繊維部材により巻き締められる構造に比べて、胴体部11の強度を上げることができ、その胴体部11の耐圧性を向上させることができる。また、ドーム部12は、互いに異なる二方向に延びて交差する強化繊維部材33,34により網目状に巻き締められる。このため、ドーム部12が一方向の強化繊維部材により巻き締められる構造に比べて、ドーム部12の強度を上げることができ、そのドーム部12の耐圧性を向上させることができる。
【0028】
また、容器本体10の外面に繊維強化樹脂シート31が巻き付けられた状態で、
図4に示す如く、ドーム部12の外面に巻き締められている第二強化繊維部材33の繊維と第三強化繊維部材34の繊維とがなす軸方向Aを含んだ範囲の角度(ドーム部側交差角)βは、胴体部11の外面に巻き締められている第二強化繊維部材33の繊維と第三強化繊維部材34の繊維とがなす軸方向Aを含んだ範囲の角度(胴体部側交差角)αとは異なり、具体的には、その胴体部側交差角αに比べて軸方向Aを基準にして大きくなるように巻き締める構成とするのが好ましい。更に、ドーム部側交差角βは、ドーム部12と胴体部11との接続部側からドーム部12の頂部にかけて徐々に変化し具体的には大きくなる。この構造では、胴体部側交差角αが例えば45°であるとき、ドーム部12では、繊維方向に対して直交する方向に並ぶ繊維間の隙間が小さくなり、繊維の密集度が高くなるため、ドーム部12の強度を上げることができ、ドーム部12の更なる耐久性向上を図ることができる。尚、
図4では、第一強化繊維部材32を省いた繊維強化樹脂シート31が示されている。
【0029】
また、胴体部11の外面に巻き締められる三方向の強化繊維部材32,33,34は、一枚の繊維強化樹脂シート31を構成している。ドーム部12の外面に巻き締められる二方向の強化繊維部材33,34は、一枚の繊維強化樹脂シート31を構成している。この構造では、胴体部11の外面に強化繊維部材32,33,34を巻き締めかつドーム部12の外面に強化繊維部材33,34を巻き締めるうえで、容器本体10の外面に一枚の繊維強化樹脂シート31を巻き付ける作業を行うこととすればよく、別途に線状や帯状の繊維をフープ巻きすることは不要であると共に、線状や帯状の繊維をヘリカル巻き(インプレーン巻き)することは不要である。尚、帯状とは、容器本体10の軸方向長さ程度に亘るシート状よりも狭い範囲で複数本の繊維がその繊維方向に直交する方向に並んでいることである。また、線状とは、一本の繊維自体や複数本の繊維が一つに束ねられていることである。
【0030】
このため、軸方向Aに延びる胴体部11の外面に線状や帯状の繊維を軸方向Aにずらしながら複数周に亘って周回させる構造に比べて、製造時間を短縮させることができると共に、製造設備の大型化を抑えて製造コストの削減を図ることができる。また、ドーム部12の外面に線状や帯状の繊維を傾斜角度ズレさせながら複数周に亘って周回させる構造に比べて、製造時間を短縮させることができると共に、製造設備の大型化を抑えて製造コストの削減を図ることができる。更に、ドーム部12において線状や帯状の繊維が複数周に亘って周回する構造とは異なり、ドーム部12の全域で繊維を巻くことが困難となる部分が生じ難いので、その困難となる部分を補強することは不要であり、その補強のために繊維の使用量が多くなるのを抑えることができ、補強層30が厚肉化するのを抑えることができ、高圧タンク1の軽量化を図ることができる。
【0031】
従って、高圧タンク1によれば、製造コストの上昇を招くことなく、胴体部11の高い耐圧性を確保することができると共に、ドーム部12の高い耐圧性を確保することができる。
【0032】
尚、上記の第一実施形態においては、直交方向Bが特許請求の範囲に記載した「第一方向」に、方向C及び方向Dが特許請求の範囲に記載した「第二方向」及び「第三方向」に、それぞれ相当している。
【0033】
[第二実施形態]
第二実施形態の高圧タンク100は、第一実施形態の高圧タンク1と同様に、例えば、自動車などに搭載される、水素ガスや天然ガスなどを高圧で充填する耐圧容器である。一方、高圧タンク100は、第一実施形態の高圧タンク1とは異なり、補強層30が一枚の繊維強化樹脂シート31により構成される構造に代えて、補強層110が一枚の繊維強化樹脂シート111と強化繊維部材112とにより構成される構造を有している。尚、第二実施形態では、第一実施形態の構成と同一の構成部分については、同一の符号を付してその説明を省略又は簡略する。
【0034】
高圧タンク100は、
図5に示す如く、補強層110を備えている。補強層110は、高圧タンク100の外壁層をなし、補強層30と同様に、容器本体10の外面を覆う補強部材である。補強層110は、繊維強化樹脂シート111と、強化繊維部材112と、を有している。補強層110のヘリカル層は、繊維強化樹脂シート111により形成される。また、補強層110のフープ層は、強化繊維部材112により形成される。
【0035】
繊維強化樹脂シート111は、一枚のシート状に形成された部材である。繊維強化樹脂シート111は、容器本体10の外面に巻き付けられる前に予めシート状に形成される。繊維強化樹脂シート111は、二方向に配向された繊維が編み込まれることにより構成されている。繊維強化樹脂シート111は、繊維の延びる方向が互いに異なる二つの強化繊維部材113,114を有している。強化繊維部材113,114はそれぞれ、胴体部11の軸方向Aに対して斜め方向に延びる繊維からなる。強化繊維部材113,114は、胴体部11及びドーム部12の外面に巻き付けられて周回し、ヘリカル層を形成している。以下、強化繊維部材112を第一強化繊維部材112と、強化繊維部材113,114を第二強化繊維部材113及び第三強化繊維部材114と、それぞれ称す。
【0036】
第一強化繊維部材112は、繊維強化樹脂シート111とは別体で設けられている。第一強化繊維部材112は、胴体部11の軸方向Aに対して直交する直交方向Bに延びる繊維からなる。第一強化繊維部材112は、胴体部11の外面に巻き付けられて周回し、フープ層を形成している。第一強化繊維部材112は、一本の繊維や一本の繊維束が延びた線状に、複数本の繊維や複数本の繊維束が軸方向Aに並んだ帯状に、又は複数本の繊維や複数本の繊維束が胴体部11の軸方向長さ程度に亘って並んだシート状に形成されている。
【0037】
第二強化繊維部材113は、第一強化繊維部材112の延びる上記直交方向Bとは異なる方向Cに延びており、第一強化繊維部材112に交差している。第二強化繊維部材113の延びる方向Cが第一強化繊維部材112の延びる直交方向Bに対してなす角度は、例えば10°-80°(好ましくは45°)である。第三強化繊維部材114は、第一強化繊維部材112の延びる上記直交方向Bとは異なりかつ第二強化繊維部材113の延びる上記方向Cとは異なる方向Dに延びており、第一強化繊維部材112及び第二強化繊維部材113の双方に交差している。第三強化繊維部材114の交差は、第一強化繊維部材112の延びる直交方向Bを基準にして第二強化繊維部材113とは線対称となるようになされている。第三強化繊維部材114の延びる方向Dが第一強化繊維部材112の延びる直交方向Bに対してなす角度は、例えば10°-80°(好ましくは45°)である。
【0038】
第二強化繊維部材113及び第三強化繊維部材114は、互いに編み込まれて繊維強化樹脂シート111を構成する。繊維強化樹脂シート111は、容器本体10への巻き付け前において、その容器本体10の軸方向長さよりも長い軸方向長さを有している。繊維強化樹脂シート111での各強化繊維部材113,114の編み込みは、繊維強化樹脂シート111のシート全域に亘るように行われる。
【0039】
繊維強化樹脂シート111は、容器本体10の外面に巻き付けられることでその容器本体10を覆う。繊維強化樹脂シート111は、容器本体10を覆ったとき、第二強化繊維部材113が容器本体10の外面に沿って方向Cに延びかつ第三強化繊維部材114が容器本体10の外面に沿って方向Dに延びるように形成配置される。繊維強化樹脂シート111は、容器本体10の外面に複数周に亘って巻き付けられて径方向外側に積層される。更に、第一強化繊維部材112は、上記の繊維強化樹脂シート111が容器本体10の外面に巻き付けられる前に、胴体部11の外面に沿って胴体部11の軸方向Aに対して直交する直交方向Bに延びるように形成配置される。
【0040】
高圧タンク100の製造は、以下の手順で行われる。具体的には、まず、補強層110のフープ層をなす第一強化繊維部材112が容器本体10の胴体部11の外面に複数周に亘って巻き付けられる。次に、補強層110のヘリカル層をなす一枚の繊維強化樹脂シート111が巻回された状態でその第一強化繊維部材112が巻き付けられている容器本体10に対して軸方向Aに並べられ、繊維強化樹脂シート111が引き出されながら容器本体10が軸中心で回転されることにより、その繊維強化樹脂シート111が容器本体10の胴体部11の外面に巻き付けられる。その後、その繊維強化樹脂シート111の外面にフィルムを巻く処理などを行うことにより、その繊維強化樹脂シート111が容器本体10のドーム部12の外面に沿って腑形されて巻き付けられる。
【0041】
そして、繊維強化樹脂シート111が径方向に所定複数周に亘って積層されることにより補強層110の巻き付けが完了すると、補強層110の樹脂成分が硬化又は固化されて、その補強層110が容器本体10の外面に固着される。これにより、高圧タンク100は、容器本体10の外面に補強層110が巻き付けられた状態に製造される。
【0042】
上記の如く製造された高圧タンク100でも、容器本体10の胴体部11が、第一強化繊維部材112並びに繊維強化樹脂シート111の第二強化繊維部材113及び第三強化繊維部材114により巻き締められると共に、容器本体10のドーム部12が、繊維強化樹脂シート111の第二強化繊維部材113及び第三強化繊維部材114により巻き締められる。すなわち、胴体部11は、互いに異なる三方向に延びて交差する強化繊維部材112,113,114により網目状に巻き締められる。このため、胴体部11が一方向や二方向の強化繊維部材により巻き締められる構造に比べて、胴体部11の強度を上げることができ、その胴体部11の耐圧性を向上させることができる。また、ドーム部12は、互いに異なる二方向に延びて交差する強化繊維部材113,114により網目状に巻き締められる。このため、ドーム部12が一方向の強化繊維部材により巻き締められる構造に比べて、ドーム部12の強度を上げることができ、そのドーム部12の耐圧性を向上させることができる。
【0043】
また、容器本体10の外面に繊維強化樹脂シート111が巻き付けられると、ドーム部12の外面に巻き締められている第二強化繊維部材113の繊維と第三強化繊維部材114の繊維とがなす軸方向Aを含んだ範囲のドーム部側交差角βは、胴体部11の外面に巻き締められている第二強化繊維部材113の繊維と第三強化繊維部材114の繊維とがなす軸方向Aを含んだ範囲の胴体部側交差角αとは異なり、具体的には、その胴体部側交差角αに比べて軸方向Aを基準にして大きくなる。更に、ドーム部側交差角βは、ドーム部12と胴体部11との接続部側からドーム部12の頂部にかけて徐々に変化し具体的には大きくなる。この構造では、胴体部側交差角αが例えば45°であるとき、ドーム部12では、繊維方向に対して直交する方向に並ぶ繊維間の隙間が小さくなり、繊維の密集度が高くなるため、ドーム部12の強度を上げることができ、ドーム部12の更なる耐久性向上を図ることができる。
【0044】
また、容器本体10の外面に巻き締められる三方向の強化繊維部材112,113,114のうち強化繊維部材113,114は、一つの繊維強化樹脂シート111を構成している。この構造では、容器本体10の外面に強化繊維部材112,113,114を巻き締めるうえで、容器本体10の外面に一枚の繊維強化樹脂シート111を巻き付けかつ胴体部11の外面に第一強化繊維部材112を巻き付ける作業を行うこととすればよく、別途に線状や帯状の繊維をヘリカル巻き(インプレーン巻き)することを不要とすることができる。
【0045】
このため、ドーム部12の外面に線状や帯状の繊維を傾斜角度ズレさせながら複数周に亘って周回させる構造に比べて、製造時間を短縮させることができると共に、製造設備の大型化を抑えて製造コストの削減を図ることができる。更に、ドーム部12において線状や帯状の繊維が複数周に亘って周回する構造とは異なり、ドーム部12の全域で繊維を巻くことが困難となる部分が生じ難いので、その困難となる部分を補強することは不要であり、その補強のために繊維の使用量が多くなるのを抑えることができ、補強層110が厚肉化するのを抑えることができ、高圧タンク100の軽量化を図ることができる。従って、高圧タンク100によれば、製造コストの上昇を招くことなく、ドーム部12の高い耐圧性を確保することができる。
【0046】
ところで、上記の第二実施形態においては、第一強化繊維部材112が、繊維強化樹脂シート111が容器本体10の外面に巻き付けられる前に、胴体部11の外面に沿って胴体部11の軸方向Aに対して直交する直交方向Bに延びるように形成配置される。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。繊維強化樹脂シート111が容器本体10の外面に巻き付けられた後に、第一強化繊維部材112が、胴体部11の外面に沿って胴体部11の軸方向Aに対して直交する直交方向Bに延びるように形成配置されてもよい。
【0047】
尚、上記の第一及び第二実施形態においては、補強層30,110が、互いに異なる三方向に延びる強化繊維部材32,33,34,112,113,114からなる。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。補強層30,110が、互いに異なる四以上の方向に延びる強化繊維部材からなるものとしてもよい。
【0048】
また、必要に応じて低角度ヘリカル巻き(インプレーン巻き)による補強層を追加してもよい。この場合でも、ドーム部12の全域で繊維を巻くことができるため、低角度ヘリカル巻きの巻数を低減することができ、製造コストの上昇を抑制しつつ、ドーム部12の高い耐圧性を確保することができる。
【0049】
尚、本発明は、上述した実施形態や変形形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0050】
1,100:高圧タンク、10:容器本体、11:胴体部、12:ドーム部、30,110:補強層、31,111:繊維強化樹脂シート、32,112:第一強化繊維部材33,113:第二強化繊維部材、34,114:第三強化繊維部材。