(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】ボア内面の検査方法及び検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/954 20060101AFI20220622BHJP
【FI】
G01N21/954 B
(21)【出願番号】P 2020003601
(22)【出願日】2020-01-14
【審査請求日】2021-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】393011038
【氏名又は名称】リョーエイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 昂洋
(72)【発明者】
【氏名】西川 昌司
(72)【発明者】
【氏名】前迫 大器
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-121450(JP,A)
【文献】特表2017-520003(JP,A)
【文献】特開2017-044476(JP,A)
【文献】特開平05-346320(JP,A)
【文献】特開2003-302352(JP,A)
【文献】特開2012-184963(JP,A)
【文献】特開2002-22089(JP,A)
【文献】国際公開第2019/083009(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84 - G01N 21/958
G01B 11/00 - G01B 11/30
G02B 23/24
G03B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのボアの開口面の外側に位置させた光源から、ボアの内部に向けて
斜めに光線を照射し、ボアの内部に
ボアの軸線に対して50°から60°の角度に傾斜させて挿入した鏡に映るボア内面からの反射光をボアの開口面の外側のカメラにより撮影し、これらの光源及び鏡をボアの周方向に回転させるとともに、ボアの軸線方向に移動させ、ボアの内面の傷を検査することを特徴とするボア内面の検査方法。
【請求項2】
光源からボアの軸線に対して15°から45°の角度でボア内面に光線を照射することを特徴とする請求項1に記載のボア内面の検査方法。
【請求項3】
カメラが撮影したボア内面の局部的な画像を360°にわたり合成し、良否を判別することを特徴とする請求項1に記載のボア内面の検査方法。
【請求項4】
昇降機構に連結された昇降架台と、この昇降架台に支持され回転される回転台と、この回転台の中心に下向きに支持されたカメラと、この回転台の下面に保持されボアの内部に向けて斜めに光線を照射する光源と、この回転台の下面に保持されてボアの軸線に対して50°から60°の角度に傾斜させてボアの内部に挿入され、ボア内面の画像を前記カメラに向けて反射させる鏡とを備えたことを特徴とするボア内面の検査装置。
【請求項5】
昇降機構の側方に、検査対象となるエンジンブロックの移動手段を配置したことを特徴とする請求項4に記載のボア内面の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのボアの内面に形成されたクロスハッチ上にできた傷を自動検査するに適した、ボア内面の検査方法及び検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンのボアは燃焼によるエネルギでピストンが高速で上下動する部位である。このためボアの内面にはエンジンオイルが塗られていないと、滑らかなピストン運動が行えない。もしボアの内面が鏡面であると、ピストンリングによりエンジンオイルがボア内面から全て掻き落されてしまうため、ピストン運動が行えなくなる。そこでボア内面には、砥石により深さが0.1mm以下の微細なクロス状の凹凸模様を形成し、凹部にエンジンオイルを保持させているのが一般的である。このクロス状に形成された凹凸模様はクロスハッチと呼ばれている。
【0003】
クロスハッチは砥石を用いたホーニング加工により形成されるが、加工中にたまたま砥粒の脱落が生ずると、細かい凹凸模様の中に深い傷が混じることがある。これは不良品として排出しなければならない。
【0004】
従来、ボア内面のクロスハッチ上にできた傷の検査は、ボアの中に光を当てながら人の目で行われていた。しかし検査員の個人差があったり、目の疲労が生じたりするために完全な検査は容易ではなかった。また面粗度の計測器をボア内に入れて微細な凹凸を数値データとして測定する方法もあるが、小さなボア内径内に計測器を収め、全周を検査することは容易ではなかった。
【0005】
このほか特許文献1には、ボアの内部にレーザ光源と受光用の鏡を挿入し、ボア内面からの反射光を鏡で受光してカメラで撮影するボア検査装置が開示されている。しかしボア内面に光源と受光器(鏡)を挿入すると、ボア内面からの強い反射光がハレーションとなるため微細な凹凸を検出するに適した鮮明な画像を得にくいという問題があるうえ、小径のボアの内部にはレーザ光源と受光用の鏡を挿入し難いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は、人の目に頼ることなく、ボア内面のクロスハッチ上にできた傷を正確に検査することができるボア内面の検査方法及び検査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するためになされた本発明のボア内面の検査方法は、エンジンのボアの開口面の外側に位置させた光源から、ボアの内部に向けて斜めに光線を照射し、ボアの内部にボアの軸線に対して50°から60°の角度に傾斜させて挿入した鏡に映るボア内面からの反射光をボアの開口面の外側のカメラにより撮影し、これらの光源及び鏡をボアの周方向に回転させるとともに、ボアの軸線方向に移動させ、ボアの内面の傷を検査することを特徴とするものである。
【0009】
なお、光源からボアの軸線に対して15°から45°の角度でボア内面に光線を照射することが好ましい。また、カメラが撮影したボア内面の局部的な画像を360°にわたり合成し、良否を判別することが好ましい。
【0010】
更に、上記の課題を解決するためになされた本発明のボア内面の検査装置は、昇降機構に連結された昇降架台と、この昇降架台に支持され回転される回転台と、この回転台の中心に下向きに支持されたカメラと、この回転台の下面に保持されボアの内部に向けて斜めに光線を照射する光源と、この回転台の下面に保持されてボアの軸線に対して50°から60°の角度に傾斜させてボアの内部に挿入され、ボア内面の画像を前記カメラに向けて反射させる鏡とを備えたことを特徴とするものである。
【0011】
なお、昇降機構の側方に、検査対象となるエンジンブロックの移動手段を配置することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ボアの内部に鏡を挿入して回転させるだけで、ハレーションを避けながら、人の目に頼ることなく、ボア内面のクロスハッチ上にできた傷を正確に検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態のボア内面の検査装置の全体図である。
【
図5】光源をボアの内部に入れた場合の拡大断面図である。
【
図6】光源をボアの上方に設置した場合の拡大断面図である。
【
図8】フラットバー光源を用いた場合の説明図である。
【
図9】コリメーション光源を用いた場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に図面を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。
図1は実施形態のボア内面の検査装置の全体図である。10は左右一対の支柱であり、11はこれらの支柱10に支持された上部架台、12は下部架台である。これらの上部架台11と下部架台12の間には複数本のガイドポスト13が設けられている。14はこれらのガイドポスト13にガイドされ水平姿勢を保ったままで昇降することができる平板状の昇降架台である。
【0015】
この昇降架台14の上面にはナット15が固定されており、このナット15に上部架台11と下部架台12の間に鉛直に設けられた送りねじ16が貫通している。この送りねじ16は上部架台11の上方に設けられた昇降用モータ17により正逆方向に回転され、昇降架台14を昇降させることができるようになっている。なお18は昇降用モータ17と送りねじ16を繋ぐカップリングである。これらのナット15と送りねじ16とにより、昇降機構が構成されている。
【0016】
図2に示されるように、昇降架台14の下面にはギヤ19を備えた回転台20が回動可能に支持されている。昇降架台14の下面には回転用モータ21が設けられており、その回転軸に取り付けられた駆動ギヤ22がギヤ19と常に噛み合っている。このため回転台20は任意の角度にわたり回転することができるとともに、昇降架台14とともに昇降することができる。
【0017】
図2、
図3に示すように、回転台20の下面中央にはレンズ29を備えたカメラ23が下向きに取り付けられている。このカメラ23の画像はリアルタイムで、あるいは記録媒体に記憶させて外部に取り出される。また回転台20の下面には、光源24と鏡25とが取り付けられている。光源24と鏡25については、後述する。
【0018】
支柱10の前方位置には、エンジンブロックの移動手段26が設けられている。この移動手段26はレール27とその上を移動できる移動台車28とからなり、移動台車28の上にエンジンブロックEが搭載される。この実施例では4つのボアBを備えたエンジンブロックEが図示されており、図示を略した制御機構により、エンジンブロックEは各ボアBの中心が回転台20の回転軸の直下に位置するように順次移動され、各ボアBの内面が順次検査される。
【0019】
鏡25は、回転台20から垂下するアーム27の先端に斜めに取り付けられている。この鏡25にはボアBの内面の画像が写り、それをカメラ23が撮影する。このため鏡25は鏡面を上向きにして斜めに取り付けられる。光源24は鏡25がボアBの最も深い位置まで降下した場合にもなおボアBの開口面の外側に位置するように、鏡25よりも高い位置に取り付けられている。
【0020】
この実施例では光源24は横長のフラットバー照明であり、ボアBの開口面の外側から
図4に示すようにボアBの内面のクロスハッチを斜めに照らす。
図5に示すようにボアBの内部に光源を挿入し、ボアBの内面に対して垂直方向に照明を当てた場合、もしクロスハッチに深い傷があるとその部分から垂直に反射される光量は正常部分よりも減少するはずである。しかし深い傷からの反射光は平面部からの反射光にかき消されてしまい、深い傷を検出することは困難である。
【0021】
これに対して
図6に示すように、ボアBの開口面の外側からボアBの軸線(鉛直線)に対して斜めに光線を照射すると、大部分の光は反対方向に反射され、鏡25の方向には帰らない。そして深い傷の部分で乱反射した光だけが鏡25の方向に向かうので、カメラ23による撮影が可能となる。このような理由により、本発明ではボアBの開口面の外側に位置させた光源24から、ボアBの内部に向けて斜めに光線を照射し、ボアBの内部に挿入した鏡25に映るボア内面からの反射光を局部的な画像としてボアBの上方のカメラ23により撮影している。
【0022】
発明者が試行錯誤を繰り返した結果、ボア内面への光線の照射角度はボアBの軸線(鉛直線)に対して15°から45°が好ましい。また、
図4に示す鏡25の角度AはボアBの軸線に対して50°から60°が最適であった。鏡25の角度を45°とすると反射の画面全体が明るすぎてハレーションに近い状況になり見え難い。逆にこの角度Aが60°を超えると、画面全体に来る反射光量が不足し、画面が暗くなってしまう。このため45°から少し振った50°から60°が最適となる。
【0023】
また、クロスハッチの正常な凹凸模様とその中にある深い傷とは同じ傾きを持っているため、
図7に示すようにクロスハッチを形成している2方向の筋模様に対してそれぞれ垂直方向から光を当てると傷の反射が起こり易くなる。
図8に示すようにボアBの上方からボア内部に向けて幅のある広がりのある照明を当てることが好ましい。そこで本実施形態では光源24として横長のフラットバー照明を用いている。
【0024】
しかし、
図9に示すようにコリメーション光源を用いることもできる。この場合には拡散光は得られないので、クロスハッチを形成している2方向の筋模様に対してそれぞれ垂直方向からコリメーション光を当てることが好ましい。
【0025】
上記のように光源24と鏡25の角度を設定し、回転台20とともに360°回転することにより、全周を検査する。またボアBの長さが長い場合には昇降機構により回転台20を昇降させることにより、ボアBの内面全体の検査を行うことができる。なお、エンジンブロックEにボアBが複数ある場合には、エンジンブロックの移動手段26によりエンジンブロックを移動させ、次のボアBの内面を検査する。
【0026】
上記のようにして撮影される画像は、円筒面の中心からボアの内表面を撮影した画像である。ボアの内表面は曲面であるため、
図10に示されるようにカメラのレンズ歪による中心とまわりで画像の伸縮による寸法違いも合わさった歪んだ画像である。なお黒丸はボアの内表面の円を撮影した場合の画像の歪を示すためのものである。
【0027】
この画像から
図11に示すように中心部の所定範囲を抽出し、画像処理してX、Y方向に均一な尺度の平面に換算した画像に変換する。この画像はボア内面の一部であるため、撮影した画像を横に並べて合成し、全周の画像とする。また鏡25をボアBの軸線方向にスライドさせて撮影した画像は、この全周画像の上下に合成される。このようにして合成した画像を解析して良否の判定を行うことができる。しかし処理時間やデータボリュームが増大するため、360°の1周づつの画像を解析して良否の判定を行うようにしてもよい。上記の画像処理は、コリメーション光源を用いた場合にも同様である。
【0028】
なお、均一な尺度の平面に換算した画像に変換するためには、ボア内面と同じ曲率を持ったキャリブレーションボードを作り、これをボア内面と同じ位置で撮影し、この画像をキャリブレーションボードと同じ寸法になるように補正するプログラムを作り、処理して行くようにすればよい。
【0029】
以上に説明したように、本発明によればエンジンブロックEのボア内面のクロスハッチ上にできた傷を正確に検査することができる。また本発明によれば、クロスハッチ上のカケや鋳巣も検出することができる。さらに、カメラ23としてカラーカメラを使用すれば、ボア内面の汚れや錆びをも検出することができる。
【符号の説明】
【0030】
10 支柱
11 上部架台
12 下部架台
13 ガイドポスト
14 昇降架台
15 ナット
16 送りねじ
17 昇降用モータ
18 カップリング
19 ギヤ
20 回転台
21 回転用モータ
22 駆動ギヤ
23 カメラ
24 光源
25 鏡
26 移動手段
27 レール
28 移動台車
29 レンズ