(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】洗濯機
(51)【国際特許分類】
D06F 33/40 20200101AFI20220622BHJP
H02P 21/14 20160101ALI20220622BHJP
D06F 33/47 20200101ALI20220622BHJP
D06F 33/48 20200101ALI20220622BHJP
D06F 103/26 20200101ALN20220622BHJP
D06F 103/46 20200101ALN20220622BHJP
【FI】
D06F33/40
H02P21/14
D06F33/47
D06F33/48
D06F103:26
D06F103:46
(21)【出願番号】P 2017251252
(22)【出願日】2017-12-27
【審査請求日】2020-11-12
(73)【特許権者】
【識別番号】512128645
【氏名又は名称】青島海爾洗衣机有限公司
【氏名又は名称原語表記】QINGDAO HAIER WASHING MACHINE CO.,LTD.
(73)【特許権者】
【識別番号】307036856
【氏名又は名称】アクア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137486
【氏名又は名称】大西 雅直
(72)【発明者】
【氏名】川口 智也
(72)【発明者】
【氏名】星野 広行
【審査官】田村 惠里加
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-194089(JP,A)
【文献】特開2007-189766(JP,A)
【文献】国際公開第2013/161252(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105862335(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103451891(CN,A)
【文献】特開2012-120320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06F 33/00-34/34
H02P 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱水槽を回転駆動するモータと、前記モータの発生トルクをベクトル制御する制御手段とを具備するものにおいて、
前記制御手段は、
前記脱水槽の偏芯状態を判定する偏芯判定部を備え、
前記偏芯判定部は、
前記ベクトル制御を行ううえで生成されるd軸電圧に基づいた第1の値と、予め設定した第1閾値とを比較し、前記第1の値が前記第1閾値以上である場合であり、且つ、
前記ベクトル制御を行うために推定したd軸の位相と実際のd軸の位相との位相誤差に基づいた第2の値と、予め設定した第2閾値とを比較し、前記第2の値が前記第2閾値以上である場合に、前記脱水槽の偏芯が大きいと判定することを特徴とする洗濯機。
【請求項2】
前記第1の値は、
前記脱水槽が共振回転数を超える第1回転数で回転している時に前記ベクトル制御を行ううえで生成されるd軸電圧に基づいた基準値と、前記脱水槽が前記第1回転数より大きい第2回転数で回転している時に前記ベクトル制御を行ううえで生成されるd軸電圧に基づいた値との差分であることを特徴とする請求項1に記載の洗濯機。
【請求項3】
前記脱水槽の回転数が1000rpmを超える超高速回転域である場合において、
前記偏芯判定部は、
前記脱水槽が共振回転数を超える第3回転数で回転している時に前記ベクトル制御を行ううえで生成されるd軸電圧に基づいた第1基準値と、前記脱水槽が前記第3回転数よりも大きい第4回転数で回転している時に前記ベクトル制御を行ううえで生成されるd軸電圧に基づいた値との第1差分を算出し、この第1差分と予め設定した第3閾値とを比較し、前記第1差分が前記第3閾値以上である場合、または、
前記脱水槽が共振回転数を超える第3回転数で回転している時に前記ベクトル制御を行うために推定したd軸の位相と実際のd軸の位相との位相誤差に基づいた第2基準値と、前記脱水槽が前記第3回転数よりも大きい第4回転数で回転している時に前記ベクトル制御を行うために推定したd軸の位相と実際のd軸の位相との位相誤差に基づいた値との第2差分を算出し、この第2差分と予め設定した第4閾値とを比較し、前記第2差分が前記第4閾値以上である場合に、前記脱水槽の偏芯が大きいと判定することを特徴とする請求項1または2に記載の洗濯機。
【請求項4】
位相誤差の波形に対してフーリエ級数展開したうちの、実際の振動数に対応するフーリエ係数の値を前記位相誤差として用いている請求項1~3の何れかに記載の洗濯機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサレスであっても偏芯状態の判定を簡易且つ精度良く行うことができる洗濯機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
洗濯機の脱水槽内における洗濯物の分布状態に偏りがあると、脱水運転を行う場合に大きな振動発生の原因となる。脱水槽を回転駆動して脱水工程を行う場合、洗濯物が偏芯していると過大な振動が発生するため回転を停止する必要がある。
【0003】
そこで、偏芯状態をセンサレスで検知して必要な場合に回転を停止させる制御を行うものとして、例えば特許文献1に開示する手法が知られている。
【0004】
この手法は、ベクトル制御を行うために算出したモータのq軸電流と偏芯状態との間に相関があることに着目し、q軸電流に基づいて異常振動の発生を判断するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、q軸電流は電圧制御に対して結果として現れるものであるため、外部ノイズの影響を受け易く、絶対値としても変化が小さい。このため、q軸電流に基づいて偏芯状態を判断すると、誤判定が起こり易い。
【0007】
そこで本発明者は、d軸電圧に着目した。d軸電圧はq軸電流の操作量であり、q軸電流と同様に偏芯状態に依存して変化する。しかも、操作量であるから外部ノイズの影響を受け難く、絶対値としての変化も大きい。
【0008】
ただ、d軸電圧はq軸電流に比べて大きく変動するため、d軸電圧のみに依存して偏芯状態を判定すると、やはり誤判定の可能性は残る。
【0009】
本発明は、このような新たな知見に立って、d軸電圧で偏芯状態を判定する際に適切な補完をなし、場合によってはd軸電圧と対等またはd軸電圧に代わって偏芯状態の判定を行うことができる、新たな判定手法を偏芯状態の判定に用いた洗濯機を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る洗濯機は、以上の目的を達成するために、脱水槽を回転駆動するモータと、前記モータの発生トルクをベクトル制御する制御手段とを具備するものにおいて、前記制御手段は、前記脱水槽の偏芯状態を判定する偏芯判定部を備え、前記偏芯判定部は、前記ベクトル制御を行ううえで生成されるd軸電圧に基づいた第1の値と、予め設定した第1閾値とを比較し、前記第1の値が前記第1閾値以上である場合であり、且つ、前記ベクトル制御を行うために推定したd軸の位相と実際のd軸の位相との位相誤差に基づいた第2の値と、予め設定した第2閾値とを比較し、前記第2の値が前記第2閾値以上である場合に、前記脱水槽の偏芯が大きいと判定することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る洗濯機において、前記第1の値は、前記脱水槽が共振回転数を超える第1回転数で回転している時に前記ベクトル制御を行ううえで生成されるd軸電圧に基づいた基準値と、前記脱水槽が前記第1回転数より大きい第2回転数で回転している時に前記ベクトル制御を行ううえで生成されるd軸電圧に基づいた値との差分であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る洗濯機において、前記脱水槽の回転数が1000rpmを超える超高速回転域である場合において、前記偏芯判定部は、前記脱水槽が共振回転数を超える第3回転数で回転している時に前記ベクトル制御を行ううえで生成されるd軸電圧に基づいた第1基準値と、前記脱水槽が前記第3回転数よりも大きい第4回転数で回転している時に前記ベクトル制御を行ううえで生成されるd軸電圧に基づいた値との第1差分を算出し、この第1差分と予め設定した第3閾値とを比較し、前記第1差分が前記第3閾値以上である場合、または、前記脱水槽が共振回転数を超える第3回転数で回転している時に前記ベクトル制御を行うために推定したd軸の位相と実際のd軸の位相との位相誤差に基づいた第2基準値と、前記脱水槽が前記第3回転数よりも大きい第4回転数で回転している時に前記ベクトル制御を行うために推定したd軸の位相と実際のd軸の位相との位相誤差に基づいた値との第2差分を算出し、この第2差分と予め設定した第4閾値とを比較し、前記第2差分が前記第4閾値以上である場合に、前記脱水槽の偏芯が大きいと判定することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る洗濯機は、上記各構成において、位相誤差の波形に対してフーリエ級数展開したうちの、実際の振動数に対応するフーリエ係数の値を前記位相誤差として用いていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の洗濯機は、d軸電圧に基づいた値と、d軸の位相と実際のd軸の位相との位相誤差の大きさに基づいて偏芯状態を判定する。かかる位相誤差は、d軸電圧ほど大きく変動せずに、偏芯状態に依存して増減する。このため、本発明によれば、d軸電圧を監視する場合とは異なる視点で偏状態を判定することができる。したがって、d軸電圧で偏芯状態を判定する際に適切な補完をなし、場合によってはd軸電圧と対等またはd軸電圧に代わって偏芯状態の判定を行うことが可能となる。位相誤差は低速域における加速時に大きく現れる傾向にある。
また、他の要因によってd軸電圧が大きくなっている場合があり、このとき位相誤差は大きく変動しない。したがって、本発明によれば、d軸電圧による判定を位相誤差によって補完し、偏芯状態をより精度良く判定することができる。他の要因としては、排水が悪いために脱水槽と外槽の間に水が残った、いわゆる「水かみ」の状態が挙げられる。
【0017】
また本発明の洗濯機は、位相誤差の波形をフーリエ変換して実際の振動数に対応する位相誤差を取り出すので、ノイズを排除して精度の高い判定を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る洗濯機の外観を示す斜視図。
【
図3】同実施形態における負荷測定の前提構成となるモータ制御系のシステム構成を示すブロック図。
【
図4】同モータ制御系における速度推定部の概略構成を示す図。
【
図5】同モータ制御系における速度推定原理を示す図。
【
図6】同モータ制御系におけるPLL制御部の概要を示す図。
【
図7】同洗濯機の脱水工程時における制御工程を示すシーケンス図。
【
図8】同実施形態における低速域判定1の処理手順を示すフローチャート。
【
図9】同実施形態における低速域判定2の処理手順を示すフローチャート。
【
図10】同実施形態における高速域判定1の処理手順を示すフローチャート。
【
図11】同実施形態における高速域判定2の処理手順を示すフローチャート。
【
図12】C区間において低速域判定1を適用しない場合のd軸電圧の検知値の推移を偏芯量小の場合と偏芯量大の場合で示したグラフ。
【
図13】C区間において低速域判定2を適用しない場合の位相誤差の推移を偏芯量小の場合と偏芯量大の場合で示したグラフ。
【
図14】D区間において高速域判定1を適用しない場合のd軸電圧および位相誤差Δθの推移を偏芯量小の場合と偏芯量大の場合で示したグラフ。
【
図15】D区間において高速域判定2を適用しない場合のd軸電圧および位相誤差Δθの推移を偏芯量小の場合と偏芯量大の場合で示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0020】
図1は本発明の一実施形態に係る縦型の洗濯機(以下、「洗濯機」と称す。)1の外観を示す斜視図である。また、
図2は、本実施形態の洗濯機1の概略構成を示す縦断面図である。
【0021】
図2に示すように、本実施形態の洗濯機1は、洗濯機本体11と、外槽12と、脱水槽(洗濯槽)13と、駆動部16と、制御手段C(
図3参照)とを備える。このような洗濯機1は、入力部14にあって全自動で洗濯を行う図示しないスタートキーが押されると、脱水槽13内にある洗濯物の量を負荷量として自動判定し、負荷量に基づいて洗い工程およびすすぎ工程で外槽12に貯める水量を自動で決定して、洗濯動作を行う。しかる後、脱水工程では、低速回転後にセンサレス制御に移行して、脱水槽13の偏芯状態をセンサレスで監視しつつ、偏芯異常の場合は回転を停止し、偏芯異常がなければ最高速度に加速する。
【0022】
図3は制御手段の概要を示す機能ブロックである。本実施形態は、かかる偏芯状態の判定に偏芯判定部100を有し、この偏芯判定部100ではq軸電流の値ではなくd軸電圧の値を用い、かつ、制御上推定されるd軸と実際のd軸の位相誤差Δθを用いている。Vd値、Δθ値に対しては、必要に応じてローパスフィルタ、移動平均処理などにより、急峻に変化するデータを取り除く処理が行われる。以下、順を追って説明する。
【0023】
洗濯機本体11は、略直方体形状であり、上面11aに、脱水槽13に対して洗濯物(衣服)を出し入れするための開口11bと、この開口11bを開閉可能な開閉蓋11cとを有し、開閉蓋11cを開けることで開口11bを介して脱水槽13に洗濯物を出し入れ可能な構成である。また、このような洗濯機本体11の上面11aには、前述の入力部14が形成される。
【0024】
図2に示す外槽12は、洗濯機本体11の内部に配置された、水を貯留可能な有底筒状の部材である。
【0025】
洗濯槽としての脱水槽13は、外槽12の内部で外槽12と同軸に配置されるとともに、外槽12によって回転自在に支持された有底筒状の部材である。脱水槽13は、外槽12よりも小径であり、その壁面13aに多数の通水孔(不図示)を有する。
【0026】
このような脱水槽13の底部13b中央には、パルセータ(撹拌翼)15が回転自在に配置される。パルセータ15は、外槽12に貯留された水を撹拌して水流を発生させるものである。
【0027】
また、パルセータ15は、洗い工程の開始時であって脱水槽13への給水前にも回転駆動するものであり、このときの洗濯物を引きずった回転で取得される検出値が負荷量の検出に用いられる。
【0028】
駆動部16は、モータMとクラッチ16bとを含む。モータMは、脱水槽13の底部13aに向けて延出する駆動軸mを回転させることで脱水槽13を回転させる。またモータMは、クラッチ16bを切り替えることでパルセータ15にも駆動力を与え、パルセータ15を回転させることができる。そのため、洗濯機1は、後述する負荷量測定時、洗い工程およびすすぎ工程では主としてパルセータ15のみを回転させ、脱水工程では脱水槽13とパルセータ15とを一体的に高速で回転させることができる。
【0029】
以下は、永久磁石型の同期モータの電圧方程式である。この式に限り、各速度ωはωeと表記してある。
【数1】
…(1)
【0030】
この式において、定常回転と見なし、微分項を無視すると、
Vd=R・Id-ω・Lq・iq …(2)
Vq=ω・Ld・id+R・iq+ω・Φ …(3)
【0031】
更に、ωが大で、Rによる電圧降下が無視できるとすると、
Vd=-ω・Lq・iq …(4)
Vq=ω・Ld・id+ω・Φ …(5)
【0032】
弱め磁束制御が始まっていない場合は通常、id≒0で制御するから、
Vq≒ωΦ …(6)
【0033】
iqが偏芯状態に依存することは特許文献1にも記載されているが、式(4)からも明らかなようにq軸電流Iqの操作量であるd軸電圧Vdの状態変化もまた、偏芯状態に依存する。
【0034】
特に、d軸電圧Vdは制御操作量であり、q軸電流Iqのように制御の結果として現れるものではないため、外部ノイズ等の影響を受けにくい利点がある。このため、この実施形態ではd軸電圧Vdを用いて偏芯状態の判定を行う。
【0035】
ただ、q軸電流Iqを用いた場合と比べた欠点として、変動が大きくなる傾向にある。そのため、偏芯状態を判断するうえで、瞬時値を用いるのではなく、積算値や平均値として演算処理した値を用いる必要があるほか、制御上推定されるd軸と実際のd軸との位相誤差Δθも判断要素に加える。位相誤差Δθは脱水槽13の実際の位相に対して三相の印加電圧の位相がずれている状態であり、制御系は位相誤差Δθを0にするように制御するが、位相誤差Δθが収束しない場合は大きな偏芯状態や振動が発生しているとも言える。すなわち、位相誤差は偏芯状態を反映したパラメータとして扱うことができる。
【0036】
そこで、偏芯判定部100は、位相誤差Δθの大きさ、位相誤差Δθの変化度合によって偏芯状態を判定する。或いは、偏芯判定部100は、d軸電圧を負荷によって補正した値、および、前記トルク制御手段がベクトル制御を行ううえで推定したd軸の位相と実際のd軸の位相との位相誤差Δθとの相関に基づいて、偏芯状態を判定する。
【0037】
これにより、外乱の影響を受け難いが変動が大きいd軸電圧Vdを用いた際の欠点を補完あるいは代替し、適切な判定結果に導くことができる。
【0038】
図3は、本発明に係る制御手段Cを示すセンサレスベクトル制御ブロック図であり、偏芯状態を判定するためのd軸電圧Vdおよび位相誤差Δθは、この制御ブロックのなかで算出される。まず、この制御ブロックについて説明する。
【0039】
この制御手段Cの基本構成は、制御量として与えられるモータ回転速度指令値ω*
mとモータ回転速度推定値ωmとの偏差に基づいてトルク指令を生成するトルク指令生成部2と、駆動時のモータ電流Iq(Id)とトルク指令値T*に対応する電流指令値Iq*(Id)との偏差を制御操作量であるモータ電圧指令値V*q、V*dに変換してモータMを駆動するモータ駆動制御部3と、モータ電流Iq、Idおよびモータ電圧指令値V*q、V*dに係るモータ電圧Vq、Vdを用いてモータ回転速度ωmと位相誤差Δθを推定する推定器4とを備え、この推定器4はフィードバックループ5内に構成されている。トルク指令生成部2とモータ駆動制御部3は一般に言うインバータ制御器の構成要素である。また、ここではモータ電圧指令値V*q、V*dに等しいモータ電圧Vq、Vdが発生しているものとして扱っている。
【0040】
トルク指令生成部2では、まず減算器21に、洗濯機1の運転全般を制御するマイクロコンピュータ6から与えられる回転速度指令ω*mとモータ駆動状態から推定した推定速度値ωmを入力する。減算器21の差分出力は速度制御器22に入力される。
【0041】
速度制御器22は、モータMの回転数を目標値に制御するために、回転速度指令ω*
mと推定速度ωmとの差分量に基づきPI制御によってトルク指令T*を生成する。
【0042】
このトルク指令生成部22で生成されるトルク指令T*は、モータ駆動制御部3に入力される。
【0043】
モータ駆動制御部3は、同期モータMのロータの回転に伴って回転している磁極の座標系(d、q)の下に電圧駆動を行う。
【0044】
先ず、トルク指令値T*はゲイン乗算部31においてトルク係数1/KEが乗じられることでq軸電流指令値Iq*とされ、減算器32を介してq軸電流制御器33に入力される。一般に、d軸電流指令部34からは指令値Id=0が出力され、減算器35を介してd軸電流制御器36に入力される。減算器32には[u-v-w→d-q]変換を行う後記の第2変換器51から出力されるq軸電流値Iqが減算値として与えられ、減算器35には前記第2変換器51から出力されるd軸電流値Iqが減算値として与えられる。
【0045】
q軸電流制御器33は、q軸電流指令値Iq*とq軸電流値Iqとの差分に基づいてPI制御を行うことでq軸電圧指令値Vq*を生成する。d軸電流制御器36は、d軸電流指令値Id*(=0)とq軸電流値Iqとの差分に基づいてPI制御を行うことでd軸電圧指令値Vd* を生成する。そして、三相の電圧指令に変換するために[d-q→u-v-w]変換を行う第1変換器37に入力する。
【0046】
第1変換器37は、後述する推定器4より出力されるモータ電気角速度ωeを積分器44で積分することによって得られる推定ロータ回転位相角θを与えられる。そして、その推定ロータ回転位相角θに基づきq、d電圧指令値Vq* 、Vd* を三相電圧指令値Vu、Vv、Vwに変換し、モータ励磁回路38を介してモータMに通電する。
【0047】
一方、フィードバックループ5は、モータ励磁回路38に設けた相電流検出部50を通じて相電流Iu、Iv、Iwを検出し、これを[u-v-w→d-q]変換を行う第2変換器51に入力する。第2変換器51は、後述する推定器4より出力されるモータ電気角速度ωeを積分器44で積分することによって得られる推定ロータ回転位相角θを与えられることで、相電流値をq、d軸電流値Id、Iqに変換する。これらのq、d軸電流値は、それぞれ前記減算器35、32に入力される。
【0048】
他方、推定器4は、
図4に示すようにロータ位相誤差推定器41と、PLL(Phase Locked Loop)制御器42とから構成される。ロータ位相誤差推定器41は、モータ電圧Vd(=Vd
*)、Vq(=Vq
*)、モータ電流Id,Iq、モータパラメータR、L等を使用して、推定位相誤差Δθを計算する。Rはモータ巻線抵抗、Lはモータ巻線インダクタンスである。
【0049】
モータMが永久磁石同期モータである場合、
図5の座標系に示すように、静止座標系α、βに対して、ロータはd-q回転座標系において電気角速度ωnで回転する。一方、一般にセンサレスアルゴリズムと呼ばれる回転速度推定アルゴリズムはγ-δの回転座標を推定する。実際には磁極はd軸上に在るにも拘らず、γ軸に磁極が在ると推定したとき、推定されるd軸と実際のd軸との間にはΔθの位相誤差が生まれる。
【0050】
そして、推定器41は、一例として以下の式、
Δθ=tan-1{(Vd-R・Id+ωγ・L・Iq)/(Vq-R・Iq-ωγ・Li・d)} …(7)
に基づいて位相誤差Δθを算出する。
【0051】
モータMを安定に回す為には、d-q軸の位置を突き止めて、制御手段1が認識しているr-δ軸を合致させなければならない。すなわち、Δθ→0を目指す必要がある。
【0052】
そこで、PLL制御器42を用いる。このPLL制御器42の中身は
図6に示される。
【0053】
PLL制御器42はPI制御を用いている。ω
γは、モータ駆動制御部3がモータに印加する三相電圧の角速度(角周波数)で、当然モータ駆動制御部3はインバータ方式によって自由な値を出力することができる。
図5を見れば解るように、ω
γ が増加すると、ω
nとの速度差により、Δθ→大となり、ω
γ が減少すると、Δθ→小となる。
【0054】
図7は、横軸に時間、縦軸に回転数をとって、脱水時の起動からのシーケンスを示している。A区間では同期回転制御が行われ、B区間で同期が完了した後、C区間、D区間のセンサレスベクトル制御に移行する。C区間は低速モードで運転され、D区間は高速モードで運転される。
【0055】
この実施形態は前述したように、
図3に示す推定器4に入力されるd軸電圧と、この推定器4で推定される位相誤差Δθを利用する。d軸電圧Vd、位相誤差Δθは制御の基本周波数であるキャリア周波数毎に更新されるが、今回の検知では所定時間、たとえば10ms毎に、d軸電圧V、位相誤差Δθを推定器4から抽出して、偏芯判定部100に入力する。
【0056】
偏芯判定部100は、予めd軸電圧Vdと位相誤差Δθを利用して偏芯判定を行うためのプログラムやデータを実行するように構成されている。この偏芯判定部100における偏芯判定は、C区間では低速域判定1と低速域判定2が並行して実行され、D区間では前半から高速域判定1が実行され、後半から超高速域判定2が並行して実行される。
【0057】
図8~
図11は、各区間ごとに偏芯判定部100が実行する偏芯判定の処理手順を示したフローチャートである。
【0058】
(低速域判定1)
先ず、
図8に基づいて低速域判定1の処理手順について説明する。
C区間に入り、加速を始めた状態で判断フローをスタートさせる。
【0059】
<ステップS11>
まず、偏芯判定部100はステップS11で、Vd値の最大値を計測する。Vd値は負荷量にほぼ比例することから、Vd値をもって負荷量と推定することができる。
【0060】
<ステップS12>
Vd値の最大値の計測が終了したら、偏芯判定部100は一定時間後からVd値を積算する。
【0061】
<ステップS13>
次に、偏芯判定部100は積算値をステップS11で算出した最大値すなわち負荷量によって補正する。例えば、積算値をVdint、最大値をVdmax、計測カウンターのカウンター値、をCT、負荷量補正値をVdamdとした場合に、補正式として、
Vdamd=Vdint+(30-Vdmax)×0.3×(CT-40)…(8)
として演算する。CTのカウントはステップS11の時点でスタートし、CT(0~40)で最大値Vdmaxを取得後、CT>40でステップS13を実施する。これにより、負荷量を含んだ積算値Vdintから、負荷量を含んだ最大値Vdmaxに係数をかけた値が減じられることで、負荷量の一部相殺がなされる。
【0062】
<ステップS14>
偏芯判定部100は、ステップS13で算出した負荷量補正値Vdamdと、予め設定した閾値とを比較する。そして、負荷量補正値Vdamdが閾値以上であれば、偏芯量大と判断してステップS15に進み、閾値未満であればステップS15をスキップしてエンドする。
【0063】
<ステップS15>
ステップS15では、偏芯判定部100は脱水槽回転停止指令を出して、エンドする。この指令は脱水シーケンスに割り込んで、回転を停止させる。回転停止は、
図4に示す回転速度指令ω
*mを0にするほか、図示しないブレーキ機構によって機械的な制動を掛けるなど、必要な処理がなされる。以下、同様である。
【0064】
通常、偏芯量が小さい時は、最大値が現れた後にVd値は急激に減少する。このため、ステップS12とS13の処理後の値は低くなる。しかし、偏芯量が大きい時には、Vd値の減少が小さくなる。このため、ステップS12とS13の処理後の値が閾値を超えることになる。
【0065】
(低速域判定2)
次に、
図9に基づいて低速域判定2の処理手順について説明する。
図9のフローは、C区間に入り加速を始めた頃から、随時スタートし、繰り返し実行される。
【0066】
<ステップS21>
まず、偏芯判定部100は位相誤差Δθを計測する。
【0067】
<ステップS22>
次に、偏芯判定部100は位相誤差Δθを予め設定した閾値と比較する。そして、位相誤差Δθが閾値以上であればステップS23に進み、閾値未満であればステップS23をスキップする。
【0068】
<ステップS23>
ここで、偏芯判定部100は脱水槽回転停止指令を出して、エンドする。この指令は脱水シーケンスに割り込んで、脱水を停止させる。
【0069】
このため、
図8のフローチャートでたまたまVd値の変動が小さく現れて偏芯異常が看過されても、
図9のフローチャートでθによる補完がなされることによって、偏芯状態を確実に判定することができる。
【0070】
(高速域判定1)
次に、
図10に基づいて高速域判定1の処理手順について説明する。
図10では、先ず(a)のフローチャートに沿った手順を実行した後、(b)のフローチャートに沿った手順を実行する。
【0071】
<ステップS31>
(a)の手順は、D区間に入った後に偏芯判定部100が随時スタートし、回転数が所定回転数たとえば400rpmに達したか否かを判断する。YESならステップ32へ、NOならステップS31の判断を繰り返す。
【0072】
<ステップS32>
ここでは偏芯判定部100はVd値を計測、記憶して、エンドする。このステップS32が一旦行われた後は(a)の手順は実行しなくてよい。この400rpm時におけるVd値の計測は、負荷量の推定値であり、共振回転数を超えて回転が安定し、偏芯荷重の影響を受けずに負荷量を推定できる回転数との基準で設定してある。
【0073】
ただ、1回だけのVd値だけで判断すると誤差が大きくなる恐れがある場合は、ステップS32であるきめられた区間の平均、例えば100rpm変化する間すなわち400~500rpmの間のVd値の平均値を使用してもよい。また、回転数も400~500rpmである必要はない。
【0074】
続いて、偏芯判定部100は随時
図10(b)の手順をスタートさせる。ここでは、随時Vd値を計測して先の負荷量と見なしたVd値との差分に基づき偏芯量を判断する。
【0075】
<ステップS41>
まず、偏芯判定部100はステップS41で回転数が500rpmに達したか否かを判断する。YESならステップS42に進み、NOならステップS41の判断を繰り返す。
【0076】
<ステップS42>
ここで、偏芯判定部100はVd値を計測する。この計測はただ1回だけのVd値で判断すると誤差が大きくなる可能性がある場合は、ステップS42であるきめられた区間の平均、例えば50rpm変化する間、500~550rpmの間のVd値を測定してその平均値を使用してもよい。そして、ステップS43に進む。
【0077】
<ステップS43>
偏芯判定部100はステップS42で計測したVd値と、負荷量とみなしたVd値の差を算出し、この差分と、予め設定した閾値とを比較する。そして、差分が閾値以上である場合には、直ぐに回転停止指令を出すのではなくステップS44に移り、閾値未満である場合にはエンドする。
【0078】
<ステップS44>
ここでは、偏芯判定部100は位相誤差Δθを計測する。この位相誤差Δθについても、ただ1回だけの計測ではなく、複数回計測して平均値をとっても良い。この場合は、上述したVd値と同様な処理をしても良い。位相誤差Δθはd軸電圧Vdと比較して変化が少ないため、d軸電圧Vdほど多くの値の平均を必要とはしない傾向にある。或いは、位相誤差波形に対してフーリエ級数展開したうちの、実際の振動数(回転数)に対応するフーリエ係数の値を位相誤差Δθとして用いてもよい。フーリエ係数の値を利用すれば、ノイズを排除して精度の高い判定を行うことができる。そして、ステップS45に進む。
【0079】
<ステップS45>
ステップS45では、偏芯判定部100は位相誤差Δθが閾値以上か否かを判断する。閾値以上であれば偏芯大として扱ってステップS46に進み、閾値未満であればいわゆる水かみ状態として扱ってステップS47に進む。水かみ状態とは、前述したように排水が悪く、脱水槽と外槽の間に水が残った状態をいう。
【0080】
<ステップS46>
ステップS46では、偏芯判定部100は脱水停止槽の回転停止指令を出してエンドする。回転停止指令は、脱水シーケンスに割り込んで脱水工程を停止させる。
【0081】
<ステップS47>
ステップS47では、偏芯判定部100は予め定めた所定時間、所定の回転数を維持する指令を出してエンドする。この指令は脱水シーケンスに割り込んで、一定時間のあいだ所定回転数を維持し、その時間が過ぎると回転数を上昇させる。水かみの状態で回転数を上昇させると、水かみ状態はさらに悪化するため、回転数の上昇を停止し、所定回転数を維持して排水を促す。
【0082】
このように、d軸電圧Vdと位相誤差Δθとの相関によって偏芯状態を判定するので、無用な停止指令を回避することができる。
【0083】
(高速域判定2)
次に、
図11に基づいて高速域判定1の処理手順について説明する。
図11では、先ず(a)のフローチャートに沿った手順を実行した後、(b)のフローチャートに沿った手順を実行する。
【0084】
<ステップS51>
(a)の手順は、D区間に入った後に偏芯判定部100が随時スタートし、回転数が所定回転数たとえば1000rpmに達したか否かを判断する。YESならステップ52へ、NOならステップS61の判断を繰り返す。
【0085】
<ステップS52>
ここでは偏芯判定部100はVd値とθ値を計測、記憶して、エンドする。このステップS52が一旦行われた後は(a)の手順は実行しなくてよい。回転数が1000rpmから超高速回転域に向かうと、偏芯荷重の影響が、通常の高速回転時より大きくなる。そのため、1000rpmにおける上記値を超高速回転域に向かう入口での基準として設定している。
【0086】
ただ、1回だけのVd値、θ値だけで判断すると誤差が大きくなる恐れがある場合は、上記と同様の平均値を使用してもよい。
続いて、偏芯判定部100は随時たとえば2秒毎に(b)をスタートさせる。ここでは、随時Vd、θを計測して1000rpm時の基準であるVd値、θ値との差分に基づき偏芯量を判断する。
【0087】
<ステップS61>
まず、偏芯判定部100はステップS61でスタートから所定時間が経過したか否かを待つ。YESならステップS62に進み、NOならステップS61の判断を繰り返す。
【0088】
<ステップS62>
ここで、偏芯判定部100はVd値、θ値を計測する。この計測もただ1回だけのVd値で判断すると誤差が大きくなる可能性がある場合は、上記と同様の平均値を使用してもよい。そして、ステップS63に進む。
【0089】
<ステップS63>
ここで、偏芯判定部100はステップS52で計測したVd値と、ステップS62で2秒毎に計測したVd値の差を算出し、この差分と、予め設定した閾値とを比較する。そして、閾値以上である場合にはステップS64に移り、閾値未満であればすぐにエンドするのではなく、ステップS65に移る。
【0090】
<ステップS64>
ここでは、偏芯判定部100は偏芯量大とみなして、脱水槽の回転停止指令を出し、エンドする。この指令は脱水シーケンスに割り込んで、脱水を停止させる。
【0091】
<ステップS65>
ここでは、偏芯判定部100はステップS52で計測したΔθ値とステップS62で2秒毎に計測したΔθ値の差を算出し、この差分と、予め設定した閾値とを比較する。そして、閾値以上である場合には上記ステップS64に移り、閾値未満であればエンドする。
【0092】
このように、d軸電圧Vdの変化の度合いと、位相誤差Δθの変化の度合いとを監視し、何れかが閾値以上であれば偏芯異常として扱うので、刻々変化する偏芯状態を的確に捉えた判定が可能になる。
【0093】
図12は、C区間において低速域判定1を適用しない場合のd軸電圧の検知値の推移を偏芯量小の場合と偏芯量大の場合で示したグラフである。
図13は、C区間において低速域判定2を適用しない場合の位相誤差Δθの推移を偏芯量小の場合と偏芯量大の場合で示したグラフである。
図14は、D区間において高速域判定1を適用しない場合のd軸電圧および位相誤差Δθの推移を偏芯量小の場合と偏芯量大の場合で示したグラフである。
図14のグラフのうち、上のグラフは10kg負荷時、真ん中のグラフは1kg負荷時のものである。
図15は、D区間において高速域判定2を適用しない場合のd軸電圧および位相誤差Δθの推移を偏芯量小の場合と偏芯量大の場合で示したグラフである。
【0094】
何れの場合においても、本発明を適用することによって、d軸の位相と実際の位相との位相誤差Δθの大きさや変化度合、或いは、かかる位相誤差Δθと、d軸電圧Vdを負荷によって補正した値との相関によって偏芯状態を判定する手法を併用あるいは補完するため、偏芯状態を的確に判定することができる。
【0095】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0096】
例えば、
図8、
図9のフローチャートで示す手順はD区間において実施してもよく、あるいは、
図10、
図11のフローチャートで示す手順はC区間において実施しても構わない。
【0097】
また、位相誤差の推定手法についても、上記以外の種々の手法を用いることができる。
【0098】
その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0099】
100…偏芯判定部
A4…脱水槽
M…モータ
Vd…d軸電圧
Vdamd…負荷量補正値
Δθ…d軸の推定位相と実際のd軸の位相との位相誤差