(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】吊り治具、吊り姿勢制御装置及び吊り姿勢の制御方法
(51)【国際特許分類】
B66C 13/08 20060101AFI20220622BHJP
B66C 1/10 20060101ALI20220622BHJP
【FI】
B66C13/08 N
B66C1/10 A
(21)【出願番号】P 2018155670
(22)【出願日】2018-08-22
【審査請求日】2021-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505474290
【氏名又は名称】株式会社 内村組
(73)【特許権者】
【識別番号】000141864
【氏名又は名称】株式会社京都スペーサー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】中村 佳大
(72)【発明者】
【氏名】亀井 良至
(72)【発明者】
【氏名】三室 恵史
(72)【発明者】
【氏名】杉山 裕一
(72)【発明者】
【氏名】服部 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】肌勢 弘章
(72)【発明者】
【氏名】貴志 奈奈
(72)【発明者】
【氏名】内村 元彦
(72)【発明者】
【氏名】門間 稔
【審査官】加藤 三慶
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-099414(JP,A)
【文献】特開平02-212258(JP,A)
【文献】実開昭58-038686(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/08
B66C 1/10
B66C 1/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
揚重対象物を揚重装置に吊り下げると共に前記揚重対象物の姿勢を制御する吊り治具であって、
前記揚重装置に対して揚重索体によって吊り下げられる基礎フレームと、
第1軸のまわりに揺動可能であるように、前記基礎フレームに対して連結された第1フレームと、
一端が前記基礎フレームに連結され、他端が前記第1フレームに連結された油圧式の第1駆動ジャッキと、
前記第1軸の方向と直交する第2軸のまわりに揺動可能であるように、前記基礎フレーム又は前記第1フレームに対して連結された第2フレームと、
一端が前記基礎フレームに連結され、他端が前記第2フレームに連結された油圧式の第2駆動ジャッキと、を備え
、
前記第2軸の方向から見たとき、前記第2軸は、前記第1フレームに重複する、吊り治具。
【請求項2】
前記第1フレームは、前記第1軸を挟んで配置される2個の第1索体接続部を有し、
前記第2フレームは、前記第2軸を挟んで配置される2個の第2索体接続部を有する、請求項
1に記載の吊り治具。
【請求項3】
前記第1フレームは、前記第1軸を挟んで配置される2個の第1索体接続部を有し、
前記第2フレームは、前記第2軸から離間して配置される1個の第2索体接続部を有する、請求項
1に記載の吊り治具。
【請求項4】
揚重対象物であり、水平方向に平行であって前記揚重対象物の重心を通る対象物ロール軸と、水平方向に平行であって前記対象物ロール軸に直交する方向に延びると共に前記対象物ロール軸よりも上方に設定される対象物ピッチ軸と、を有する前記揚重対象物を、揚重装置に吊り下げると共に前記揚重対象物の姿勢を制御する吊り姿勢制御装置であって、
前記揚重装置に吊り下げられる吊り治具と、
前記吊り治具に吊り下げられると共に、前記揚重対象物に対して着脱可能に取り付けられる連結治具と、を備え、
前記吊り治具は、
前記揚重装置に対して揚重索体によって吊り下げられる基礎フレームと、
前記対象物ロール軸に平行な治具ロール軸のまわりに揺動可能であるように、前記基礎フレームに対して連結されたロールフレームと、
一端が前記基礎フレームに連結され、他端が前記ロールフレームに連結された油圧式のロール駆動ジャッキと、を有し、
前記連結治具は、前記対象物ピッチ軸に沿って延び、前記ロールフレームに対して少なくとも2本のロール索体によって吊り下げられると共に前記揚重対象物に着脱可能に取り付けられるロール梁を有する、吊り姿勢制御装置。
【請求項5】
前記吊り治具は、
前記対象物ピッチ軸に平行な治具ピッチ軸のまわりに揺動可能であるように、前記基礎フレーム又は前記ロールフレームに対して連結されたピッチフレームと、
一端が前記基礎フレーム又は前記ロールフレームに連結され、他端が前記ピッチフレームに連結された油圧式のピッチ駆動ジャッキと、をさらに有し、
前記連結治具は、前記対象物ロール軸に対して平行な方向に延び、前記ピッチフレームに対して連結されると共に前記ロール梁に固定されるピッチ梁をさらに有する、請求項
4に記載の吊り姿勢制御装置。
【請求項6】
前記ピッチ梁は、前記ロール梁に固定された固定部と、前記揚重対象物の主面側に突出する主面側突出部と、前記揚重対象物の裏面側に突出する裏面側突出部と、を含み、
前記主面側突出部及び前記裏面側突出部は、2本のピッチ索体によって前記ピッチフレームに連結される、請求項
5に記載の吊り姿勢制御装置。
【請求項7】
前記ピッチ梁は、前記ロール梁に固定された固定端部と、前記揚重対象物の主面側に突出する主面側突出部と、を有し、
前記主面側突出部は、1本のピッチ索体によって前記ピッチフレームに連結される、請求項
5に記載の吊り姿勢制御装置。
【請求項8】
揚重対象物であり、水平方向に平行であって前記揚重対象物の重心を通る対象物ロール軸と、水平方向に平行であって前記対象物ロール軸に直交する方向に延びると共に前記対象物ロール軸よりも上方に設定される対象物ピッチ軸と、を有する前記揚重対象物を、揚重装置に吊り下げると共に前記揚重対象物の姿勢を制御する吊り姿勢制御装置であって、
前記揚重装置に吊り下げられる吊り治具と、
前記吊り治具に吊り下げられると共に、前記揚重対象物に対して着脱可能に取り付けられる連結治具と、を備え、
前記吊り治具は、
前記揚重装置に対して揚重索体によって吊り下げられる基礎フレームと、
前記対象物ピッチ軸に平行な治具ピッチ軸のまわりに揺動可能であるように、前記基礎フレームに対して連結されたピッチフレームと、
一端が前記基礎フレームに連結され、他端が前記ピッチフレームに連結された油圧式のピッチ駆動ジャッキと、を有し、
前記連結治具は、前記対象物ロール軸に対して平行な方向に延び、前記ピッチフレームに対して少なくとも2本のピッチ索体によって吊り下げられると共に前記揚重索体に着脱可能に取り付けられるピッチ梁を有する、吊り姿勢制御装置。
【請求項9】
前記吊り治具は、
前記対象物ロール軸に平行な治具ロール軸のまわりに揺動可能であるように、前記基礎フレームに対して連結されたロールフレームと、
一端が前記基礎フレームに連結され、他端が前記ロールフレームに連結された油圧式のロール駆動ジャッキと、をさらに有し、
前記連結治具は、前記対象物ピッチ軸に沿って延び、前記ロールフレームに対して1本のロール索体によって連結されると共に前記ピッチフレームに固定されるロール梁を有する、請求項
8に記載の吊り姿勢制御装置。
【請求項10】
揚重装置に吊り下げられた対象物の姿勢を請求項
9に記載の吊り姿勢制御装置を用いて制御する吊り姿勢の制御方法であって、
前記揚重対象物の重心を通り、前記対象物ロール軸及び前記対象物ピッチ軸と直交する対象物重心軸を設定するステップと、
前記対象物ピッチ軸と前記対象物重心軸との交点に対して前記対象物ロール軸の方向に沿って離間する位置に、前記ロール梁を連結するステップと、
前記揚重装置を操作して、前記揚重対象物の下端が地表面より上方に位置するまで前記揚重対象物を揚重するステップと、
前記対象物ピッチ軸のまわりにおける鉛直軸に対する前記揚重対象物の傾きが所望の傾きとなるように、前記ピッチ駆動ジャッキを操作して前記ピッチフレームを傾けるステップと、を有する、吊り姿勢の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊り治具、吊り姿勢制御装置及び吊り姿勢の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、鉄筋ユニット吊り装置を開示する。この鉄筋ユニット吊り装置は、傾き調整装置を備えており、当該傾き調整装置によって鉄筋ユニットの姿勢を制御する。その結果、据え付け時に鉄筋ユニットの姿勢を微調整することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、大規模構造物の工期の短縮化が望まれており、種々の技術が検討されている。従来、鉄筋コンクリート構造を有する大規模構造物にあっては、必要数の鉄筋を施工現場に搬入した後に、当該施工現場において鉄筋を組み合わせて鉄筋構造物を構築する。このような工法に対して、鉄筋構造物を施工現場とは別の場所において予め組み立てる。そして、当該鉄筋構造物を施工現場に搬入し、鉄筋構造物同士を連結することにより、大規模構造物を速やかに構築する工法が検討されている。
【0005】
このような工法では、既設の鉄筋構造物に対して、別の鉄筋構造物を次々に連結する作業が生じる。この連結作業では、揚重装置を用いて新たな鉄筋構造物を揚重し、既設の鉄筋構造物の近傍まで移動させる。そして、鉄筋構造物同士を連結する。
【0006】
この連結では、既設の鉄筋構造物と新たな鉄筋構造物との相対的な位置関係を所望の位置関係となるように調整する必要がある。しかし、既設の鉄筋構造物は、既に固定されているので、位置を調整することが難しい。また、新たな鉄筋構造物は重量物であるので、姿勢を精度良く調整することが難しかった。
【0007】
そこで、本発明は、揚重対象物の吊り姿勢を容易に制御可能な吊り治具、吊り姿勢制御装置及び吊り姿勢の制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態は、揚重対象物を揚重装置に吊り下げると共に揚重対象物の姿勢を制御する吊り治具であって、揚重装置に対して揚重索体によって吊り下げられる基礎フレームと、第1軸のまわりに揺動可能であるように、基礎フレームに対して連結された第1フレームと、一端が基礎フレームに連結され、他端が第1フレームに連結された油圧式の第1駆動ジャッキと、を備える。
【0009】
この吊り治具は、基礎フレームに対して揺動可能な第1フレームが連結されている。そして、基礎フレームと第1フレームとの間には、第1駆動ジャッキが設けられている。この第1駆動ジャッキは、油圧式であるので、比較的大きい力を生じさせることが可能である。この力は、第1駆動ジャッキに与える油圧によって容易に制御できる。その結果、揚重対象物の吊り姿勢を容易に制御することができる。
【0010】
一形態に係る吊り治具は、第1軸の方向と直交する第2軸のまわりに揺動可能であるように、基礎フレーム又は第1フレームに対して連結された第2フレームと、一端が基礎フレーム又は第1フレームに連結され、他端が第1フレームに連結された油圧式の第2駆動ジャッキと、をさら備えてもよい。この構成によれば、第1軸とは異なる別の第2軸のまわりにおける揚重対象物の姿勢を制御することが可能になる。従って、吊り下げた揚重対象物の姿勢をより柔軟に制御することができる。
【0011】
一形態に係る吊り治具において、第1フレームは、第1軸を挟んで配置される2個の第1索体接続部を有し、第2フレームは、第2軸を挟んで配置される2個の第2索体接続部を有してもよい。この構成によれば、4本の索体によって揚重対象物が吊り下げられるので、揚重対象物の姿勢をさらに柔軟に制御することができる。
【0012】
一形態に係る吊り治具において、第1フレームは、第1軸を挟んで配置される2個の第1索体接続部を有し、第2フレームは、第2軸から離間して配置される1個の第2索体接続部を有してもよい。この構成によれば、3本の索体によって揚重対象物が吊り下げられるので、揚重対象物を簡易な構成によって安定して吊り下げることができる。
【0013】
本発明の別の形態は、揚重対象物であり、水平方向に平行であって揚重対象物の重心を通る対象物ロール軸と、水平方向に平行であって対象物ロール軸に直交する方向に延びると共に対象物ロール軸よりも上方に設定される対象物ピッチ軸と、を有する揚重対象物を、揚重装置に吊り下げると共に揚重対象物の姿勢を制御する吊り姿勢制御装置であって、揚重装置に吊り下げられる吊り治具と、吊り治具に吊り下げられると共に、揚重対象物に対して着脱可能に取り付けられる連結治具と、を備え、吊り治具は、揚重装置に対して揚重索体によって吊り下げられる基礎フレームと、対象物ロール軸に平行な治具ロール軸のまわりに揺動可能であるように、基礎フレームに対して連結されたロールフレームと、一端が基礎フレームに連結され、他端がロールフレームに連結された油圧式のロール駆動ジャッキと、を有し、連結治具は、対象物ピッチ軸に沿って延び、ロールフレームに対して少なくとも2本のロール索体によって吊り下げられると共に揚重対象物に着脱可能に取り付けられるロール梁を有する。この装置によれば、対象物ロール軸のまわりにおける揚重対象物の姿勢を制御することができる。
【0014】
別の形態において、吊り治具は、対象物ピッチ軸に平行な治具ピッチ軸のまわりに揺動可能であるように、基礎フレーム又はロールフレームに対して連結されたピッチフレームと、一端が基礎フレーム又はロールフレームに連結され、他端がピッチフレームに連結された油圧式のピッチ駆動ジャッキと、をさらに有し、吊り治具は、対象物ロール軸に対して平行な方向に延び、ピッチフレームに対して連結されると共にロール梁に固定されるピッチ梁をさらに有してもよい。この装置によれば、対象物ロール軸のまわりにおける揚重対象物の姿勢に加えて、さらに、対象物ピッチ軸のまわりにおける揚重対象物の姿勢を制御することができる。
【0015】
別の形態において、ピッチ梁は、ロール梁に固定された固定部と、揚重対象物の主面側に突出する主面側突出部と、揚重対象物の裏面側に突出する裏面側突出部と、を含み、主面側突出部及び裏面側突出部は、2本のピッチ索体によってピッチフレームに連結されてもよい。この構成によれば、4本の索体によって揚重対象物が吊り下げられるので、揚重対象物の姿勢をさらに柔軟に制御することができる。
【0016】
別の形態において、ピッチ梁は、ロール梁に固定された固定端部と、揚重対象物の主面側に突出する主面側突出部と、を有し、主面側突出部は、1本のピッチ索体によって第ピッチフレームに連結されてもよい。この構成によれば、3本の索体によって揚重対象物が吊り下げられるので、揚重対象物を簡易な構成によって安定して吊り下げることができる。
【0017】
本発明のさらに別の形態は、揚重対象物であり、水平方向に平行であって揚重対象物の重心を通る対象物ロール軸と、水平方向に平行であって対象物ロール軸に直交する方向に延びると共に対象物ロール軸よりも上方に設定される対象物ピッチ軸と、を有する揚重対象物を、揚重装置に吊り下げると共に揚重対象物の姿勢を制御する吊り姿勢制御装置であって、揚重装置に吊り下げられる吊り治具と、吊り治具に吊り下げられると共に、揚重対象物に対して着脱可能に取り付けられる連結治具と、を備え、吊り治具は、揚重装置に対して揚重索体によって吊り下げられる基礎フレームと、対象物ピッチ軸に平行な治具ピッチ軸のまわりに揺動可能であるように、基礎フレームに対して連結されたピッチフレームと、一端が基礎フレームに連結され、他端がピッチフレームに連結された油圧式のピッチ駆動ジャッキと、を有し、連結治具は、対象物ロール軸に対して平行な方向に延び、ピッチフレームに対して少なくとも2本のピッチ索体によって吊り下げられると共に揚重索体に着脱可能に取り付けられるピッチ梁を有する。この装置によれば、対象物ピッチ軸のまわりにおける揚重対象物の姿勢を制御することができる。
【0018】
さらに別の形態において、吊り治具は、対象物ロール軸に平行な治具ロール軸のまわりに揺動可能であるように、基礎フレームに対して連結されたロールフレームと、一端が基礎フレームに連結され、他端がロールフレームに連結された油圧式のロール駆動ジャッキと、をさらに有し、連結治具は、対象物ピッチ軸に沿って延び、ロールフレームに対して1本のロール索体によって連結されると共にピッチフレームに固定されるロール梁を有してもよい。この装置によれば、対象物ピッチ軸のまわりにおける揚重対象物の姿勢に加えて、さらに、対象物ロール軸のまわりにおける揚重対象物の姿勢を制御することができる。
【0019】
本発明のさらに別の形態は、揚重装置に吊り下げられた対象物の姿勢を上記の吊り姿勢制御装置を用いて制御する吊り姿勢の制御方法であって、揚重対象物の重心を通り、対象物ロール軸及び対象物ピッチ軸と直交する対象物重心軸を設定するステップと、対象物ピッチ軸と対象物重心軸との交点に対して対象物ロール軸の方向に沿って離間する位置に、ロール梁を連結するステップと、揚重装置を操作して、揚重対象物の下端が地表面より上方に位置するまで揚重対象物を揚重するステップと、対象物ピッチ軸のまわりにおける鉛直軸に対する揚重対象物の傾きが所望の傾きとなるように、ピッチ駆動ジャッキを操作してピッチフレームを傾けるステップと、を有する。
【0020】
この方法によれば、対象物ピッチ軸と対象物重心軸との交点に対して対象物ロール軸の方向に沿って離間する位置に、ロール梁を連結する。その結果、揚重するステップによって吊り下げられた揚重対象物は、鉛直軸に対して傾く。そして、ピッチ駆動ジャッキを操作してピッチフレームを傾けることにより、揚重対象物の姿勢は、重心軸が鉛直軸に平行となる姿勢を経て、重心軸が鉛直軸に対して逆方向に傾く範囲まで調整可能である。従って、対象物ピッチ軸のまわりにおける制御可能な範囲を、鉛直軸を挟んでその両側に確保することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、揚重対象物の吊り姿勢を容易に制御可能な吊り治具、吊り姿勢制御装置及び吊り姿勢の制御方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る吊り姿勢制御装置を用いてユニット鉄筋を揚重する様子を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示された吊り姿勢制御装置を分解して示す斜視図である。
【
図3】
図3は、ユニット鉄筋の姿勢を変更する原理を説明するための図である。
【
図4】
図4は、第2実施形態に係る吊り姿勢制御装置を分解して示す斜視図である。
【
図5】
図5は、第3実施形態に係る吊り姿勢制御装置を用いてユニット鉄筋を揚重する様子を示す斜視図である。
【
図6】
図6は、第4実施形態に係る吊り姿勢制御装置を用いてユニット鉄筋を揚重する様子を示す斜視図である。
【
図7】
図7は、第5実施形態に係る吊り姿勢制御装置を用いてユニット鉄筋を揚重する様子を示す斜視図である。
【
図8】
図8は、第3実施形態に係る吊り姿勢制御装置を用いてユニット鉄筋の姿勢を制御する方法を説明するための図である。
【
図9】
図9は、
図8に続いて、第3実施形態に係る吊り姿勢制御装置を用いてユニット鉄筋の姿勢を制御する方法を説明するための図である。
【
図10】
図10は、
図9に続いて、第3実施形態に係る吊り姿勢制御装置を用いてユニット鉄筋の姿勢を制御する方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
〔第1実施形態〕
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0024】
図1に示すように、吊り姿勢制御装置1は、吊り治具2と、トラバーサ3(連結治具)と、を有する。吊り治具2は、トラバーサ3を介してユニット鉄筋100(揚重対象物)を揚重装置200に対して連結する。
【0025】
ユニット鉄筋100は、複数の鉄筋が格子状に組み合わされたものである。ユニット鉄筋100は、例えば、ニューマチックケーソン工法に用いられる先組鉄筋である。吊り姿勢制御装置1を用いることにより、ケーソンの側壁を構成する先組鉄筋を効率よく配置することができ、工期の短縮を図ることが可能になる。ユニット鉄筋100は、複数のたて筋101と、複数のよこ筋102と、を有する。複数のたて筋101は、互いに離間して配置され、よこ筋102と交差する位置において、よこ筋102に固定されている。ユニット鉄筋100は、平板状であってもよいし、湾曲状であってもよい。なお、吊り姿勢制御装置1が吊り下げる揚重対象物は、ユニット鉄筋100に限定されない。
【0026】
ユニット鉄筋100には、姿勢の制御に関し2本の基準軸が設定されている。具体的には、対象物ロール軸R100(第1軸)と対象物ピッチ軸P100(第2軸)とが設定されている。対象物ロール軸R100は、水平方向に平行であって、ユニット鉄筋100の重心G100を通る。対象物ピッチ軸P100は、水平方向に平行であって、対象物ロール軸R100に直交する方向に延びると共に対象物ロール軸R100よりも上方に設定される。例えば、対象物ピッチ軸P100は、ユニット鉄筋100の上端辺に沿うように設定されている。換言すると、対象物ピッチ軸P100は、ユニット鉄筋100とトラバーサ3との連結部分に設定されているとも言える。
【0027】
クレーンといった揚重装置200は、ワイヤ301を巻き取り、又は、巻き出すことにより、基準面(例えば地表面201)からのユニット鉄筋100の高さを制御する。揚重装置200は、ウインチ(不図示)を備えており、ウインチを駆動することによって、揚重装置200から繰り出されるワイヤ301の長さを制御する。ワイヤ301の下端部には、フック302が連結される。このフック302には、さらに、4本のワイヤ303が連結される。それぞれのワイヤ303の下端は、吊り姿勢制御装置1の上側に連結される。これらワイヤ301、303は、揚重索体を構成する。
【0028】
吊り治具2には、一対のロールワイヤ4(ロール索体)及び一対のピッチワイヤ6(ピッチ索体)の上端が連結される。ロールワイヤ4及びピッチワイヤ6の下端は、トラバーサ3に連結される。吊り治具2の詳細は、後述する。
【0029】
トラバーサ3は、ユニット鉄筋100におけるたて筋101又はよこ筋102を保持する。トラバーサ3は、ロール梁7と、ピッチ梁8と、を有する。
【0030】
ロール梁7は、対象物ピッチ軸P100に沿って延び、2本のロールワイヤ4によって、吊り治具2に対して吊り下げられている。具体的には、ロール梁7は、2個のアイボルト9(第1索体接続部)を有しており、当該アイボルト9は、ロール梁7の両端部分に取り付けられている。ロールワイヤ4の下端は、このアイボルト9に連結されている。さらに、ロール梁7は、ユニット鉄筋100に対して着脱可能に取り付けられる。例えば、ロール梁7は、よこ筋102と略平行となるように、たて筋101に対して固定されている。
【0031】
ピッチ梁8は、対象物ロール軸R100に対して平行な方向に延び、吊り治具2に対して連結される。ピッチ梁8の長さは、ロール梁7よりも短い。ピッチ梁8は、ロール梁7に固定された固定部8aと、ユニット鉄筋100の主面側に突出する主面側突出部8bと、ユニット鉄筋100の裏面側に突出する裏面側突出部8cと、を含む。固定部8aの位置は、ピッチ梁8の長手方向における略中央である。つまり、トラバーサ3の重心は、ロール梁7の重心とピッチ梁8の重心とに一致する。主面側突出部8b及び裏面側突出部8cは、2本のピッチワイヤ6によって吊り治具2に連結されている。具体的には、主面側突出部8b及び裏面側突出部8cのそれぞれの先端部には、アイボルト10(第2索体接続部)が取り付けられている。ピッチワイヤ6の下端は、このアイボルト10に連結されている。
【0032】
このような吊り姿勢制御装置1によれば、揚重装置200を操作することにより、ユニット鉄筋100を鉛直方向及び水平方向のそれぞれに並進させることができる。さらに、吊り治具2を操作することにより、ユニット鉄筋100を対象物ロール軸R100及び/又は対象物ピッチ軸P100のまわりに揺動させることができる。従って、ユニット鉄筋100を所望の姿勢に制御することができる。なお、実施形態の説明において、「姿勢」とは、対象物ロール軸R100及び対象物ピッチ軸P100のまわりの揺動角度と、を少なくとも含むものとする。
【0033】
〔吊り治具〕
以下、吊り治具2について詳細に説明する。
図2に示すように、吊り治具2は、基礎フレーム11と、ロールフレーム12(第1フレーム)と、ピッチフレーム13(第2フレーム)と、ロール駆動ジャッキ14(第1駆動ジャッキ)と、ピッチ駆動ジャッキ16(第2駆動ジャッキ)と、油圧ユニット17(油圧装置)と、を有する。ロールフレーム12は、対象物ロール軸R100に平行な治具ロール軸R12を中心軸線として揺動可能であり、ロール駆動ジャッキ14から提供される駆動力によって揺動する。ピッチフレーム13は、対象物ピッチ軸P100に平行な治具ピッチ軸P13を中心軸線として揺動可能であり、ピッチ駆動ジャッキ16から提供される駆動力によって揺動する。
【0034】
基礎フレーム11は、吊り治具2の基礎となる部分である。基礎フレーム11は、形鋼を組み合わせて構成された枠体であり、平面視して矩形状を呈する。基礎フレーム11は、4個のアイボルト5を有する。アイボルト5は、基礎フレーム11の上面に固定される。そして、アイボルト5には、ワイヤ303が連結される。アイボルト5は、基礎フレーム11の重心G11から等距離となる位置にそれぞれ設けられる。従って、例えば、アイボルト5は、正方形の頂点に対応する位置に固定される。このような構成によれば、揚重装置200にフック302及びワイヤ301、303を介して吊り下げられた基礎フレーム11は、略水平を保つことができる。なお、基礎フレーム11には、必要に応じて、補強フレームを設けてもよい。
【0035】
基礎フレーム11には、油圧ユニット17が載置されている。この構成によれば、油圧ユニット17の重量分だけ基礎フレーム11の重量が増加する。そうすると、ロール駆動ジャッキ14及びピッチ駆動ジャッキ16に対して基礎フレーム11が与える反力を増大させることが可能になる。従って、より重量の大きいユニット鉄筋100の姿勢を調整することができる。油圧ユニット17は、ロール駆動ジャッキ14及びピッチ駆動ジャッキ16に作動油を供給する。油圧ユニット17の操作は、吊り治具2及びユニット鉄筋100を目視或いはカメラ画像によって確認し得る場所にいる作業者によって行われる。つまり、油圧ユニット17は作業者から送信される制御信号を受け取る受信装置を含み、有線又は無線による遠隔操作が可能である。
【0036】
ロールフレーム12は、基礎フレーム11と同様に形鋼を組み合わせて構成された枠体である。ロールフレーム12は、基礎フレーム11の下方に配置されて、一対のロール連結部18によって基礎フレーム11に対して連結されている。ロール連結部18は、鉛直下向きに延びている。ロール連結部18の上端は、基礎フレーム11の治具ロール軸R12の方向に並んだ端部11a、11bのそれぞれに溶接されている。
【0037】
ロール連結部18の下端は、ロールフレーム12に連結されている。具体的には、ロール連結部18の下端は、治具ロール軸R12の軸線上において、治具ピッチ軸P13を挟むように形成された端部12a、12bに連結されている。それぞれのロール連結部18の下端には、軸受19が設けられている。つまり、ロール連結部18は、軸受19を介してロールフレーム12に連結されている。この構成によれば、ロールフレーム12は、治具ロール軸R12を中心軸線として揺動可能である。
【0038】
ロールフレーム12は、一対のアイボルト21を有する。アイボルト21は、治具ピッチ軸P13上において、治具ロール軸R12を挟むようにロールフレーム12に対して取り付けられている。それぞれのアイボルト21には、ロールワイヤ4が連結されている。
【0039】
基礎フレーム11とロールフレーム12との間には、ロール駆動ジャッキ14が設けられている。ロール駆動ジャッキ14は、油圧ユニット17から提供される作動油によって駆動する油圧式のジャッキである。ロール駆動ジャッキ14は、ピストン14aとシリンダ14bと、を有する。基礎フレーム11及びロールフレーム12には、それぞれ軸受22A、22Bが設けられており、シリンダ14b(一端)が基礎フレーム11の軸受22Aに連結され、ピストン14a(他端)がロールフレーム12の軸受22Bに連結されている。これらの軸受22A、22Bは、ピストン14a及びシリンダ14bの揺動を許容する。ここで、基礎フレーム11の軸受22Aは、治具ロール軸R12に対して治具ピッチ軸P13の方向に離間した位置に設けられる。また、ロールフレーム12の軸受22Bも、治具ロール軸R12に対して治具ピッチ軸P13の方向に離間した位置に設けられる。なお、軸受22A、22B共に治具ロール軸R12に対する離間距離は、同じである。
【0040】
このような構成において、例えば、ロール駆動ジャッキ14を伸長する。そうすると、ロール駆動ジャッキ14は、基礎フレーム11を上方に押圧すると共に、基礎フレーム11から反力を受ける。また、ロール駆動ジャッキ14は、ロールフレーム12を下方に押圧すると共に、ロールフレーム12から反力を受ける。基礎フレーム11の反力とロールフレーム12から反力のバランスに応じて、治具ロール軸R12のまわりのトルクが生じる。従って、ロールフレーム12が治具ロール軸R12のまわりに揺動する。なお、基礎フレーム11の質量とロールフレーム12の質量とのバランスによっては、ロールフレーム12及び基礎フレーム11の両方が揺動することもある。ロール駆動ジャッキ14によるロールフレーム12の揺動を考慮するときには、基礎フレーム11の質量として、基礎フレーム11の質量に加えて油圧ユニット17の質量を含めてもよい。ロールフレーム12の質量として、ロールフレーム12に吊り下げられる物体(トラバーサ3及びユニット鉄筋100)の質量を含めてもよい。
【0041】
そして、ロールフレーム12が傾くと、ロールフレーム12とロールワイヤ4とのなす角度が変化する。この角度の変化は、ロールワイヤ4に作用する張力の垂直成分の大きさを変化させる。従って、一対のロールワイヤ4において垂直成分の大きさを変化させる、つまり、ユニット鉄筋100から作用する力を分担する割合が変化する。その結果、ユニット鉄筋100は対象物ロール軸R100のまわりに回転する。従って、ロール駆動ジャッキ14を制御することにより、ユニット鉄筋100の姿勢を調整することが可能であるので、この吊り治具2によれば、吊り下げたユニット鉄筋100の姿勢を容易に調整できる。
【0042】
ピッチフレーム13は、基礎フレーム11と同様に形鋼を組み合わせて構成された枠体であり、平面視して矩形状を呈する。ピッチフレーム13は、基礎フレーム11の下方に配置されて、一対のピッチ軸受23によってロールフレーム12に対して連結されている。この構成によれば、ロールフレーム12が傾いたとき、ピッチフレーム13もその傾きに連動する。ピッチ軸受23は、治具ピッチ軸P13の軸線上において、治具ロール軸R12を挟む側辺部13a、13bに取り付けられる。
【0043】
ピッチフレーム13は、一対のアイボルト24を有する。アイボルト24は、治具ロール軸R12上において、治具ピッチ軸P13を挟むようにピッチフレーム13に対して取り付けられている。それぞれのアイボルト24には、ピッチワイヤ6が連結されている。
【0044】
基礎フレーム11とピッチフレーム13との間には、ピッチ駆動ジャッキ16が設けられる。基礎フレーム11及びピッチフレーム13には、それぞれ軸受26A、26Bが設けられており、シリンダ16b(一端)が基礎フレーム11の軸受26Aに連結され、ピストン16a(他端)がピッチフレーム13の軸受26Bに連結される。これらの軸受26A、26Bは、ピストン16a及びシリンダ16bの揺動を許容する。ここで、基礎フレーム11の軸受26Aは、治具ピッチ軸P13に対して治具ロール軸R12の方向に離間した位置に設けられる。また、ピッチフレーム13の軸受26Bも、治具ピッチ軸P13に対して治具ロール軸R12の方向に離間した位置に設けられる。なお、軸受26A、26B共に治具ピッチ軸P13に対する離間距離は、同じである。
【0045】
このような構成によっても、ピッチ駆動ジャッキ16を伸縮させることにより、ピッチフレーム13が治具ピッチ軸P13のまわりに揺動する。そしてピッチフレーム13の傾きに対応して、ピッチ梁8も傾く。その結果、トラバーサ3及びトラバーサ3に連結されたユニット鉄筋100は、対象物ピッチ軸P100のまわりに強制的に傾けられる(
図3の(a)部参照)。この傾きによれば、対象物重心軸CLからユニット鉄筋100の重心G100がずれる。このずれが生じた状態は、不安定な状態であるので、重心G100が再び対象物重心軸CL上に位置するように、揚重装置200より下方の物体(ワイヤ303、吊り治具2、トラバーサ3及びユニット鉄筋100)がワイヤ303の上端を基点として傾く(
図3の(b)部参照)。上述の理由により、対象物ピッチ軸P100のまわりにユニット鉄筋100を傾けることができる。
【0046】
ところで、コンクリート構造物の構築において、鉄筋の組立作業を効率化することは、全体工期の短縮、安全確保の観点から重要である。そこで、まず、施工現場とは別の場所において、予めユニット鉄筋を組み立てる。ここでいう「施工場所とは別の場所」とは、鉄筋を組み立てる場所とは異なる場所を意味する。そして、次に、当該ユニット鉄筋を施工現場に搬入して、逐次連結する技術が検討されている。従来、土木分野においては、配筋仕様や鉄筋径が大きいために、このような先組み技術の適用が難しかった。近年では、ニューマチックケーソン工法を採用する工事が増加しており、当該工事において、全体の工期に対して配筋工程が占める割合が重くなりつつある。具体的には、ケーソン工事は、ケーソン躯体構築と、ケーソン沈設と、を繰り返す。そこで、ケーソン沈設中に、ケーソン躯体構築における鉄筋先組を実施することにより、全体の工期短縮が可能となる。さらに、設置に要する時間も短縮できれば、更なる工期短縮が期待できる。
【0047】
そこで、吊り姿勢制御装置1によれば、ユニット鉄筋100の姿勢制御が精密かつ簡易に行えるので、従来困難であった土木分野へ先組技術を容易に適用することが可能になる。
【0048】
〔第2実施形態〕
次に、
図4を参照しつつ、第2実施形態に係る吊り姿勢制御装置1Aについて説明する。吊り姿勢制御装置1Aは、吊り治具2Aを備えており、当該吊り治具2Aの構成が吊り治具2と相違する。具体的には、吊り治具2ではピッチフレーム13がロールフレーム12に連結されていたのに対し、吊り治具2Aではピッチフレーム13Aが基礎フレーム11Aに対して連結されている。つまり、ピッチフレーム13Aは、ロールフレーム12Aに連結されていない。以下、基礎フレーム11A及びピッチフレーム13Aについて詳細に説明し、その他の共通する構成については説明を省略する。
【0049】
吊り治具2Aは、基礎フレーム11Aと、ロールフレーム12Aと、ピッチフレーム13Aと、を有する。基礎フレーム11Aは、ピッチフレーム13Aのための一対のピッチ連結部27を有する。ピッチ連結部27は、鉛直方向に沿って延びる。ピッチ連結部27の上端部は基礎フレーム11Aに固定される。ピッチ連結部27の下端部はピッチフレーム13Aに連結される。より詳細には、ピッチ連結部27の下端は、ピッチフレーム13Aに取り付けられた軸受28を介してピッチフレーム13Aに連結される。
【0050】
ところで、第1実施形態に係る吊り治具2では、ロールフレーム12の揺動にピッチフレーム13が追従していた。具体的には、ロールフレーム12が治具ロール軸R12のまわりに揺動したとき、ピッチフレーム13も、治具ピッチ軸P13のまわりに揺動する。
【0051】
一方、第2実施形態に係る吊り治具2Aでは、ロールフレーム12Aの揺動にピッチフレーム13Aが追従しない。具体的には、ロールフレーム12Aが治具ロール軸R12のまわりに揺動したとき、ピッチフレーム13Aは、基礎フレーム11Aを基準として治具ピッチ軸P13のまわりに揺動しない。換言すると、ロールフレーム12Aの揺動と、ピッチフレーム13Aの揺動と、は互いに独立である。
【0052】
この吊り治具2Aによっても、第1実施形態に係る吊り治具2と同様に、ユニット鉄筋100の姿勢を制御することができる。具体的には、ユニット鉄筋100を治具ロール軸R12の方向のまわりに傾けると共に治具ピッチ軸P13の方向のまわりに倒す又は起こすことができる。つまり、吊り治具2Aは、ロールフレーム12の傾きと、ピッチフレーム13Aの傾きと、を互いに独立に調整することができる。従って、ユニット鉄筋100の姿勢を柔軟に制御することができる。
【0053】
〔第3実施形態〕
次に、
図5を参照しつつ、第3実施形態に係る吊り姿勢制御装置1Bについて説明する。
図5に示すように、吊り姿勢制御装置1Bは、吊り治具2と、トラバーサ3Bと、を有する。ここで、吊り治具2は、第1実施形態の吊り姿勢制御装置1と共通である。一方、第3実施形態のトラバーサ3Bは、第1実施形態のトラバーサ3と相違する。
【0054】
トラバーサ3Bは、ロール梁7と、ピッチ梁29と、を有する。第3実施形態のトラバーサ3Bでは、ピッチ梁29がユニット鉄筋100の一方の面側にのみ突出している。
このピッチ梁29は、ロール梁7に固定された固定端部29aと、対象物ロール軸R100の方向に突出した主面側突出部29bと、を有する。ピッチ梁29は、ユニット鉄筋100の上端上において、ユニット鉄筋100の主面から法線に沿って突出する。換言すると、ピッチ梁29は、対象物ロール軸R100の方向に突出する。そうすると、トラバーサ3Bを鉛直方向から平面視すると、T字状を呈する。つまり、トラバーサ3Bは、ユニット鉄筋100の裏面の側に突出する部分を有しない。
【0055】
吊り治具2とトラバーサ3Bとは、2本のロールワイヤ4と1本のピッチワイヤ6とによって連結される。ロールワイヤ4は、ロールフレーム12とロール梁7とに連結されている。1本のピッチワイヤ6は、ピッチフレーム13とピッチ梁29とに連結されている。
【0056】
この構成によれば、一対のロールワイヤ4は、ユニット鉄筋100の重量を負担すると共に、ユニット鉄筋100を対象物ロール軸R100のまわりに揺動する機能を奏する。一方、ピッチワイヤ6は、ユニット鉄筋100を対象物ピッチ軸P100のまわりに揺動させる機能を奏する。
【0057】
このような吊り姿勢制御装置1Bによっても、ユニット鉄筋100の姿勢を所望の姿勢に制御することができる。なお、後述する第6実施形態において、この吊り姿勢制御装置1Bを用いてユニット鉄筋100を揚重すると共にユニット鉄筋100の姿勢を制御する方法を例示する。
【0058】
〔第4実施形態〕
次に、
図6を参照しつつ、第4実施形態に係る吊り姿勢制御装置1Cについて説明する。
図6に示すように、吊り姿勢制御装置1Cは、吊り治具2と、トラバーサ3Cと、を有する。ここで、吊り治具2は、第1実施形態の吊り姿勢制御装置1と共通である。一方、第4実施形態のトラバーサ3Cは、第1実施形態のトラバーサ3と相違する。
【0059】
トラバーサ3Cは、ロール梁7を有する。つまり、第4実施形態のトラバーサ3Cは、ピッチ梁8を有しない。吊り治具2とトラバーサ3Cとは、一対のロールワイヤ4によって連結される。つまり、一対のロールワイヤ4は、ロールフレーム12とロール梁7とに連結されている。
【0060】
このような吊り姿勢制御装置1によっても、ユニット鉄筋100の姿勢を所望の姿勢に制御することができる。
【0061】
施工の態様によっては、ユニット鉄筋100の姿勢を一軸のまわりに制御できれば足りることもあり得る。例えば、ユニット鉄筋100を、対象物ロール軸R100のまわりに制御できればよいこともある。この場合には、例えば、吊り治具2のピッチフレーム13及びピッチ駆動ジャッキ16を省略してもよい。その結果、装置構成を単純化することができる。
【0062】
〔第5実施形態〕
次に、
図7を参照しつつ、第5実施形態に係る吊り姿勢制御装置1Dについて説明する。
図7に示すように、吊り姿勢制御装置1Dは、吊り治具2と、トラバーサ3Dと、を有する。ここで、吊り治具2は、第1実施形態の吊り姿勢制御装置1と共通である。一方、第3実施形態のトラバーサ3Dは、第1実施形態のトラバーサ3と相違する。
【0063】
トラバーサ3Dは、ロール梁7と、ピッチ梁8と、を有する。ロール梁7及びピッチ梁8の構成は、第1実施形態のロール梁7及びピッチ梁8と共通である。一方、第5実施形態では、吊り治具2とトラバーサ3Dとの連結態様が、第1実施形態と相違している。具体的には、ピッチ梁8とピッチフレーム13とは一対のピッチワイヤ6によって連結されている。この構成は、第1実施形態と共通である。一方、ロール梁7とロールフレーム12とは、1本のロールワイヤ4によって連結されている。
【0064】
この構成によれば、一対のピッチワイヤ6は、ユニット鉄筋100を負担すると共に、ユニット鉄筋100を対象物ピッチ軸P100のまわりに揺動させる機能を奏する。一方、ロールワイヤ4は、ユニット鉄筋100を対象物ロール軸R100のまわりに揺動させる機能を奏する。
【0065】
このような吊り姿勢制御装置1によっても、ユニット鉄筋100の姿勢を所望の姿勢に制御することができる。
【0066】
〔第6実施形態〕
以下、
図8、
図9及び
図10を参照しつつ、第6実施形態として、ユニット鉄筋100の姿勢を制御する方法について説明する。この制御方法の説明では、第3実施形態の吊り姿勢制御装置1Bを用いる。
【0067】
図8の(a)部に示すように、まず、ユニット鉄筋100の対象物重心軸CLを設定する(ステップS1)。対象物重心軸CLとは、対象物ロール軸R100と直交する仮想的な軸線であって、ユニット鉄筋100の重心G100を通る軸線をいう。
【0068】
次に、
図8の(b)部に示すように、ユニット鉄筋100の上端にトラバーサ3Bを取り付ける(ステップS2)。このとき、トラバーサ3Bのロール梁7は、対象物重心軸CLと重複する位置に取り付けない。換言すると、ロール梁7は、対象物重心軸CLから対象物ロール軸R100の方向に沿ってずれた位置に取り付ける。より具体的には、ロール梁7を取り付ける位置は、対象物重心軸CLと裏面100aとの間である。
【0069】
次に、
図9の(a)部に示すように、吊り治具2とトラバーサ3Bとを連結する(ステップS3)。具体的には、ロールフレーム12に連結されているロールワイヤ4の端部をロール梁7のアイボルト9に連結する。また、ピッチフレーム13に連結されているピッチワイヤ6の端部をピッチ梁29のアイボルト30に連結する。
【0070】
このとき、ピッチ駆動ジャッキ16の長さが最も短くなるようにする。
図9の(a)部に示す例では、ピッチ駆動ジャッキ16を最短としたとき、ピッチフレーム13は、ピッチワイヤ6が連結されている側の端部が下方に位置する。
【0071】
次に、
図9の(b)部に示すように、揚重装置200(
図1参照)を操作して、ユニット鉄筋100を徐々に吊り上げる(ステップS4)。このとき、ユニット鉄筋100の重量は、ロールフレーム12及びロール梁7を連結するロールワイヤ4が負担する。
【0072】
そして、
図10の(a)部に示すように、ユニット鉄筋100の下端が地表面201から離間する状態まで引き上げる。ここで、ステップS2において、ロール梁7を対象物重心軸CLからずれた位置に取り付けた。その結果、ユニット鉄筋100は、主面100bの側に傾いた姿勢で安定する。具体的には、ロールワイヤ4の連結位置(アイボルト9の位置)と重心G100とが鉛直軸VLに並ぶ姿勢で安定する。つまり、ロールワイヤ4の連結位置(つまり、ユニット鉄筋100におけるロール梁7の取付位置)によって、ユニット鉄筋100の傾きを所望の傾きにすることができる。例えば、この初期状態の傾きは、吊り姿勢制御装置1Bに求められる姿勢の制御範囲によって設定してもよい。
【0073】
そして、
図10の(b)部に示すように、ピッチ駆動ジャッキ16を動作させて、対象物ピッチ軸P100のまわりのユニット鉄筋100の姿勢を制御する(ステップS5)。具体的には、ピッチ駆動ジャッキ16は、初期状態において最短とされている。従って、姿勢制御にあたっては、ピッチ駆動ジャッキ16の長さを長くするように動作させる。油圧ジャッキは、作動油の供給によって伸長する動作に起因する力が強い。従って、ピッチ駆動ジャッキ16の長さを長くする動作によれば、ピッチフレーム13に対して十分な駆動力を提供することができる。ピッチ駆動ジャッキ16を伸長すると、ピッチワイヤ6が連結されたピッチフレーム13の端部が上昇する。この上昇によって、ピッチワイヤ6が上方に引張られ、ひいては、ピッチワイヤ6が連結されたピッチ梁8が上方に持ち上げられる。つまり、初期状態とは逆の向きにユニット鉄筋100が傾く。この傾きは、ピッチ駆動ジャッキ16の伸長長さにより制御される。
【0074】
この吊り姿勢の制御方法によれば、ユニット鉄筋100を所望の姿勢に制御することができる。
【0075】
また、第3実施形態の吊り姿勢制御装置1Bでは、トラバーサ3のピッチ梁29が裏面100aの側に突出していない。従って、ユニット鉄筋100に対してトラバーサ3Bを容易に取り付けることができる(
図8の(b)部参照)。さらに、ユニット鉄筋100を持ち上げるとき(
図9の(a)部及び同(b)部)に、ピッチ梁8に連結されたピッチワイヤ6の取り回しが容易になる。従って、揚重作業を簡易にすることができる。
【0076】
本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られない。
【0077】
吊り治具によって揚重される対象物は、ユニット鉄筋100に限定されない。吊り治具は、設置に精度が要する重量物の揚重作業に用いることができる。例えば、先行設置されたアンカーに対して、機械或いは高欄を設置する作業に吊り治具を用いてよい。このような作業では、機械又は高欄といった設置する側にアンカーが挿通される穴が設けられており、当該穴に対して精度良くアンカーを通すことが求められることがあり得るためである。また、吊り治具は、鋳鉄やダクタイル配管で予め設置されている配管へのつなぎ込みに用いてもよい。さらに、吊り治具は、例えば、覆工板の開口から、山留材又は配管といった長尺物を覆工板下に入れる場合に、角度を付けて開口を通し、通し終わってから水平に戻して設置するといった作業に用いてもよい。
【0078】
吊り治具と対象物とを連結するワイヤは、上記実施形態に示された構成に限定されない。つまり、吊り治具と対象物とは、4本以上のワイヤによって連結されてもよい。
【0079】
上記実施形態に示された吊り治具2は、対象物ロール軸R100と対象物ピッチ軸P100とのまわりに揺動させることが可能であった。例えば、吊り治具は、いずれか一方の軸のまわりのみに揺動させることが可能な構成であってもよい。つまり、吊り治具は、基礎フレームとロールフレームとを備えており、ピッチフレームを備えない構成としてもよい。また、吊り治具は、基礎フレームとピッチフレームとを備えており、ロールフレームを備えない構成としてもよい。
【符号の説明】
【0080】
1,1A,1B,1C,1D…吊り姿勢制御装置、2,2A…吊り治具、3,3B,3C,3D…トラバーサ(連結治具)、4…ロールワイヤ(ロール索体)、5…アイボルト、6…ピッチワイヤ(ピッチ索体)、7…ロール梁、8…ピッチ梁、8a…固定部、8b…主面側突出部、8c…裏面側突出部、9…アイボルト(第1索体接続部)、10…アイボルト(第2索体接続部)、11,11A…基礎フレーム、12,12A…ロールフレーム、13,13A…ピッチフレーム、14…ロール駆動ジャッキ(第1駆動ジャッキ)、16…ピッチ駆動ジャッキ(第2駆動ジャッキ)、17…油圧ユニット(油圧装置)、18…ロール連結部、19…ピッチ軸受、21…アイボルト、22A,22B…軸受、23…ピッチ軸受、24…アイボルト、26A,26B…軸受、27…ピッチ連結部、28…軸受、29…ピッチ梁、30…アイボルト、100…ユニット鉄筋(揚重対象物)、101…たて筋、102…よこ筋、200…揚重装置、201…地表面、301…ワイヤ、302…フック、303…ワイヤ、CL…対象物重心軸、G100…重心、R100…対象物ロール軸(第1軸)、P100…対象物ピッチ軸(第2軸)、R12…治具ロール軸、P13…治具ピッチ軸、VL…鉛直軸。