(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】マトリックス表及びそれを用いた作業アドバイスの提供方法・プログラム・システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/06 20120101AFI20220622BHJP
G16H 20/00 20180101ALI20220622BHJP
【FI】
G06Q10/06 302
G16H20/00
(21)【出願番号】P 2018156586
(22)【出願日】2018-08-23
【審査請求日】2021-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(73)【特許権者】
【識別番号】506087705
【氏名又は名称】学校法人産業医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 源樹
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 光江
(72)【発明者】
【氏名】武藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】泉 博之
【審査官】萩島 豪
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-115850(JP,A)
【文献】特開2017-111559(JP,A)
【文献】特開2002-222264(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
G16H 10/00 - 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも疾病患者に就労時における作業アドバイスを提供するためのマトリックス表であって、縦軸に症状項目表示欄が形成されていると共に、横軸に職場環境項目表示欄が形成され、かつ当該各症状項目と各職場環境項目との各交差部に、当該各症状に対応する当該各職場環境における作業アドバイス表示欄が形成されているマトリックス表情報を格納しているデータベースを備え、かつ
疾病患者から予め定めた症状項目毎に各症状情報を取得する手順と、
疾病患者から予め定めた職場環境項目毎に各職場環境情報を取得する手順と、
当該マトリックス表を用い、当該取得した各症状情報と各職場環境情報がそれぞれ該当する症状項目と職場環境項目における作業アドバイス表示欄の全作業アドバイス中から職場環境項目毎に、就業上の制限度が最も高い作業アドバイスを択一選択して表示する手順とを、
実行する作業アドバイス提供処理装置により、疾病患者への就労時における作業アドバイス
を提供
する方法。
【請求項2】
少なくとも
疾病患者に就労時における作業アドバイスを提供するためのマトリックス表であって、縦軸に症状項目表示欄が形成されていると共に、横軸に職場環境項目表示欄が形成され、かつ当該各症状項目と各職場環境項目との各交差部に、当該各症状に対応する当該各職場環境における作業アドバイス表示欄が形成されているマトリックス表情報を記憶しているコンピュータに、
疾病患者から予め定めた症状項目毎に各症状情報を取得する手順と、
疾病患者から予め定めた職場環境項目毎に各職場環境情報を取得する手順と、
当該マトリックス表を用い、当該取得した各症状情報と各職場環境情報がそれぞれ該当する症状項目と職場環境項目における作業アドバイス表示欄の全作業アドバイス中から職場環境項目毎に、就業上の制限度が最も高い作業アドバイスを択一選択して表示する手順とを、
実行させるための疾病患者への就労時における作業アドバイスの提供プログラム。
【請求項3】
少なくとも
疾病患者に就労時における作業アドバイスを提供するためのマトリックス表であって、縦軸に症状項目表示欄が形成されていると共に、横軸に職場環境項目表示欄が形成され、かつ当該各症状項目と各職場環境項目との各交差部に、当該各症状に対応する当該各職場環境における作業アドバイス表示欄が形成されているマトリックス表情報を格納しているデータベースを備え
ている作業アドバイス提供処理装置であって、
当該装置が、疾病患者から予め定めた症状項目毎に各症状情報を取得する手段と、
疾病患者から予め定めた職場環境項目毎に各職場環境情報を取得する手段と、
当該マトリックス表を用い、当該取得した各症状情報と各職場環境情報がそれぞれ該当する症状項目と職場環境項目における作業アドバイス表示欄の全作業アドバイス中から職場環境項目毎に、就業上の制限度が最も高い作業アドバイスを択一選択してディスプレイ部に表示する手段とを、
有することを特徴とする疾病患者への就労時における作業アドバイスの提供システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は疾病患者に就労時における作業アドバイスを提供するためのマトリックス表、当該作業アドバイスの提供方法、当該作業アドバイスの提供プログラム及び当該作業アドバイスの提供システムに関する。
【背景技術】
【0002】
超少子高齢化に伴う就労人口の高齢化や定年延長により、我が国では、就労中にがん等の疾病が発見される労働者のさらなる増加が予想される。事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン(厚生労働省作成)や改正がん対策基本法を踏まえ、がん等の疾病との共生をめざし、長期にわたることが少なくない治療と就労についてどのように調和を図るか、疾病患者自身へのエンパワメント、主治医の負担を増やさない形での医療機関での支援、そして企業での支援の在り方について、実用的かつ効果的な手法の開発が求められている。
而して、斯かる疾病患者の治療と就労の両立を図るためには、患者の職場における作業内容について、当該患者の症状に対応した適切なアドバイスを提供することが、患者本人のみならず医療機関及び企業にとっても極めて重要な要素となっている。
【0003】
しかしながら、斯かるアドバイスを実用的かつ効果的に行なう方法は未だなく、従ってまた何らの情報も公開されていないため、適切なアドバイスを提供し得ず、患者の治療と就労の両立はかなり困難なのが実状であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の如き従来の実状に鑑みてなされたもので、疾病患者に就労時における適切な作業アドバイスを実用的かつ効果的に提供できるマトリックス表及びそれを用いた作業アドバイスの提供方法・プログラム・システムを提供することを課題としている。
【0005】
而して、本発明者は当該課題を解決すべく種々研究を重ねた結果、「患者の症状」と、「職場の就労環境」と、「それらの組み合せに対応する作業アドバイス」とを予めマトリックス表として作成しておけば、患者の具体的な病状と職場環境を当該マトリックス表と照合することにより、直ちに適切なアドバイスを提供し得ることを見い出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、請求項1に係る本発明は、疾病患者に就労時における作業アドバイスを提供するためのマトリックス表であって、縦軸に症状項目表示欄が形成されていると共に、横軸に職場環境項目表示欄が形成され、かつ当該各症状項目と各職場環境項目との各交差部に、当該各症状に対応する当該各職場環境における作業アドバイス表示欄が形成されていることを特徴とするマトリックス表により上記課題を解決したものである。
【0007】
また、請求項2に係る本発明は、疾病患者から予め定めた症状項目毎に各症状情報を取得する手順と、疾病患者から予め定めた職場環境項目毎に各職場環境情報を取得する手順と、請求項1に記載のマトリックス表を用い、当該取得した各症状情報と各職場環境情報がそれぞれ該当する症状項目と職場環境項目における作業アドバイス表示欄の全作業アドバイス中から職場環境項目毎に、就業上の制限度が最も高い作業アドバイスを択一選択して表示する手順とを、
含むことを特徴とする疾病患者への就労時における作業アドバイスの提供方法により上記課題を解決したものである。
【0008】
また、請求項3に係る本発明は、少なくとも請求項1記載のマトリックス表情報を記憶しているコンピュータに、疾病患者から予め定めた症状項目毎に各症状情報を取得する手順と、疾病患者から予め定めた職場環境項目毎に各職場環境情報を取得する手順と、当該マトリックス表を用い、当該取得した各症状情報と各職場環境情報がそれぞれ該当する症状項目と職場環境項目における作業アドバイス表示欄の全作業アドバイス中から職場環境項目毎に、就業上の制限度が最も高い作業アドバイスを択一選択して表示する手順とを、
実行させるための疾病患者への就労時における作業アドバイスの提供プログラムにより上記課題を解決したものである。
【0009】
また、請求項4に係る本発明は、少なくとも請求項1に記載のマトリックス表情報を格納しているデータベースを備え、かつ疾病患者から予め定めた症状項目毎に各症状情報を取得する手段と、疾病患者から予め定めた職場環境項目毎に各職場環境情報を取得する手段と、当該マトリックス表を用い、当該取得した各症状情報と各職場環境情報がそれぞれ該当する症状項目と職場環境項目における作業アドバイス表示欄の全作業アドバイス中から職場環境項目毎に、就業上の制限度が最も高い作業アドバイスを択一選択してディスプレイ部に表示する手段とを、
有することを特徴とする疾病患者への就労時における作業アドバイスの提供システムにより上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、疾病患者から取得した具体的な症状情報と具体的な職場環境情報とを、マトリックス表の症状項目と職場環境項目にそれぞれ当てはめ、その各交差部におけるアドバイス表示欄の作業アドバイスを選択するだけで直ちに実用的なアドバイスを提供することができるので、効果的に患者の治療と就労の両立を図ることが可能となる。
【0011】
特に、疾病患者から取得した症状情報と職場環境情報に対応する全作業アドバイス中から職場環境項目毎に、就業上の制限度が最も高い作業アドバイスを択一選択すれば、同一の作業アドバイスを多数表示することがなくなるので、より効率的に見易いアドバイスを提示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】本発明作業アドバイスの提供システムの概略構成説明図。
【
図3】本発明作業アドバイスの提供システムムによる処理ステップの概略フローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下一実施の形態を示す図面と共に本発明を更に説明する。
【0014】
図1は、本発明に係るマトリックス表の概略構成説明図である。
該
図1において、10は台紙等に表示された外形が長方形状枠のL字型マトリックス表で、その長方形状枠の左辺縦軸には症状項目表示欄11が形成されている。この症状項目表示欄11に表示される症状項目は、各疾病に関して、医学書、診療ガイドライン、専門的な見地等から適宜抽出したものが実用性の点で望ましく、例えば乳がんの場合には、
図1に示したような「就労に十分に耐えうる体力がある(療養前の90%以上の体力)」、「就労にある程度、耐えうる体力がある(目安:療養前の約80%の体力)」「就労に何とか耐えうる体力がある(目安:療養前の約70%の体力)」「下痢」「息切れ」等が挙げられる。
【0015】
また、当該長方形状枠の上辺横軸には職場環境項目表示欄12が形成されている。この職場環境項目表示欄12に表示される職場環境項目としては、産業保健人間工学の見地に基き、適宜作成したものが実用性の点で望ましく、例えば
図1に示したような「座り作業ベースの作業」、「立ち作業ベースの作業」、「過重労働」、「夜勤」、「熱源のある場所での作業」、「高所作業」、「長時間の車の運転を伴なう作業」、「神経の集中を必要とする作業」、「機械を操作する作業」、「重量物を運搬する作業」等が挙げられる。
【0016】
また、当該長方形状枠の各症状項目と各職場環境項目との各交差部には、当該症状項目に対応する当該職場環境項目における作業アドバイス表示欄13が形成されている。この作業アドバイス表示欄13に表示されるアドバイスとしては、就労支援の専門家で日本産業衛生学会専門医等から構成されるパネル会議の討議を経て適宜作成されたものが実用性の点で望ましく、例えば
図1に示したように、患者の症状が「就労にある程度耐えうる体力がある(目安:療養前の約80%の体力)」の場合で、職場環境項目が「時間外労働」の場合には、「復職直後は、残業を控えた方が望ましい。可能であれば、復職日から1~3ヶ月は、残業を月約20時間までに控え、少しずつステップアップする方が望ましい。」等が挙げられる。
【0017】
図2は、本発明に係る作業アドバイスの提供システムの概略構成説明図である。
該
図2において、20は作業アドバイス提供処理装置で、入力部21、ディスプレイ部22及びデータベース部23を備えている。このデータベース部23には、
図1に示すようなマトリックス表情報、ディスプレイ部22に表示して入力部21からクリック回答を得るための症状項目と職場環境項目に関するアンケート情報及びディスプレイ部22に表示する作業アドバイス情報が格納されている。
【0018】
また、この作業アドバイス提供処理装置20には、少なくとも請求項1に記載のマトリックス表情報を格納しているデータベースを備え、かつ疾病患者から予め定めた症状項目毎に各症状情報を取得する手順と、疾病患者から予め定めた職場環境項目毎に各職場環境情報を取得する手順と、当該マトリックス表を用い、当該取得した各症状情報と各職場環境情報がそれぞれ該当する症状項目と職場環境項目における作業アドバイス表示欄の全作業アドバイス中から職場環境項目毎に、就業上の制限度が最も高い作業アドバイスを択一選択してディスプレイ部に表示する手順とを、実行させるための疾病患者への就労時における作業アドバイスの提供プログラムがインストールされている。
【0019】
次に、上記の実施の形態に係る本発明の作業アドバイスの提供システムにより、疾病患者に対する就労時における作業アドバイスの提供例を、作業アドバイス提供処理ステップの概略フローチャートを示す
図3に基いて説明する。
【0020】
まず、本システムが作動を開始すると、作業アドバイス提供処理装置20は、ディスプレイ部22に例えば
図4に示すような症状項目アンケート画面を表示する(S100)。
次に、患者が入力部21により該当する症状項目をクリックすると、作業アドバイス提供処理装置20は当該クリックに係る症状情報をデータベース部23に記憶取得する(S101)。
この症状項目アンケート画面の表示とクリック入力による症状情報の取得は、予め定められた症状項目の数に応じて適宜回数繰り返される。
【0021】
次に、作業アドバイス提供処理装置20は、ディスプレイ部22に例えば
図5に示すような職場環境項目アンケート画面を表示する(S102)。
次に、患者が入力部21により該当する職場環境項目をクリックすると、作業アドバイス提供処理装置20は当該クリックに係る職場環境情報をデータベース23に記憶取得する(S103)。
この職場環境項目アンケート画面の表示とクリック入力による職場環境情報の取得は、予め定められた職場環境項目の数に応じて適宜回数繰り返される。
【0022】
次に、作業アドバイス提供処理装置20は、データベース23中のマトリックス表情報と、取得した患者の各症状情報及び各職場環境情報とを照合(S104)し、該当するマトリックス表の各症状項目と各職場環境項目における全作業アドバイス中から職場環境項目毎に、就業上の制限度が最も高い作業アドバイスを択一選択してディスプレイ部22に表示する(S105)。これにより適切な作業アドバイスが見易く表示される。
【0023】
すなわち、例えば取得した患者の症状情報に、
図1に示されている「就労に十分耐える体力がある(療養前の90%以上の体力)」、「下痢」、「息切れ」があり、また取得した患者の職場環境情報に、
図1に示されている「時間外労働」があった場合、当該症状項目における時間外労働に関する全作業アドバイスは、「復職直後は、残業を控えた方が望ましく、可能であれば、復職日から1~3か月は、残業を月約20時間までに控え、少しずつステップアップする方が望ましい。」、「本人の状態により、『時間外労働(残業)』を控えた方が望ましい場合がある。」及び「本人の状態により、『時間外労働(残業)』を控えた方が望ましい場合がある。」であるが、これらを全て表示するのではなく、これらの中、就業上の制限度が最も高い「復職直後は、残業を控えた方が望ましく、可能であれば、復職日から1~3か月は、残業を月約20時間まで控え、少しずつステップアップする方が望ましい。」を択一選択して表示する。
因みに、就業上の制限度は「高い」順に、例えば「望ましい」、「可能であれば」、「望ましい場合がある」等のキーワードを設定し、作業アドバイス提供処理装置20が当該キーワードを検索することにより選択される。例えば患者の症状情報に、
図1に示されている「就労に何とか耐えうる体力がある(目安:療養前の約70%の体力)」があった場合には、その時間外労働に関する作業アドバイス「『時間外労働(残業)』を控えた方が望ましい。」が他の作業アドバイスに比し最も就業上の制限度が高くなるので、当該作業アドバイスが選択表示されることになる。
【0024】
尚、ディスプレイ部22に表示された作業アドバイスは、必要に応じて適宜プリンター(図示省略)によりプリントアウトされる。
【符号の説明】
【0025】
10:L字型マトリックス表
11:症状項目表示欄
12:職場環境項目表示欄
13:作業アドバイス表示欄
20:作業アドバイス提供処理装置
21:入力部
22:ディスプレイ部
23:データベース部