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特許7093078Li2S-P2S5-SeS2系ガラスセラミックからなる全固体リチウム硫黄電池用固体電解質、前記固体電解質に適した正極材料及びこれらの製造方法、並びにこれらを含む全固体リチウム硫黄電池
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  • 特許-Li2S-P2S5-SeS2系ガラスセラミックからなる全固体リチウム硫黄電池用固体電解質、前記固体電解質に適した正極材料及びこれらの製造方法、並びにこれらを含む全固体リチウム硫黄電池 図1
  • 特許-Li2S-P2S5-SeS2系ガラスセラミックからなる全固体リチウム硫黄電池用固体電解質、前記固体電解質に適した正極材料及びこれらの製造方法、並びにこれらを含む全固体リチウム硫黄電池 図2
  • 特許-Li2S-P2S5-SeS2系ガラスセラミックからなる全固体リチウム硫黄電池用固体電解質、前記固体電解質に適した正極材料及びこれらの製造方法、並びにこれらを含む全固体リチウム硫黄電池 図3
  • 特許-Li2S-P2S5-SeS2系ガラスセラミックからなる全固体リチウム硫黄電池用固体電解質、前記固体電解質に適した正極材料及びこれらの製造方法、並びにこれらを含む全固体リチウム硫黄電池 図4
  • 特許-Li2S-P2S5-SeS2系ガラスセラミックからなる全固体リチウム硫黄電池用固体電解質、前記固体電解質に適した正極材料及びこれらの製造方法、並びにこれらを含む全固体リチウム硫黄電池 図5
  • 特許-Li2S-P2S5-SeS2系ガラスセラミックからなる全固体リチウム硫黄電池用固体電解質、前記固体電解質に適した正極材料及びこれらの製造方法、並びにこれらを含む全固体リチウム硫黄電池 図6
  • 特許-Li2S-P2S5-SeS2系ガラスセラミックからなる全固体リチウム硫黄電池用固体電解質、前記固体電解質に適した正極材料及びこれらの製造方法、並びにこれらを含む全固体リチウム硫黄電池 図7
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】Li2S-P2S5-SeS2系ガラスセラミックからなる全固体リチウム硫黄電池用固体電解質、前記固体電解質に適した正極材料及びこれらの製造方法、並びにこれらを含む全固体リチウム硫黄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20220622BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20220622BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220622BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220622BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20220622BHJP
   H01B 1/10 20060101ALI20220622BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220622BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
H01M10/052
H01B1/06 A
H01B1/10
H01B13/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018157667
(22)【出願日】2018-08-24
(65)【公開番号】P2020031027
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-05-28
(73)【特許権者】
【識別番号】301029388
【氏名又は名称】時空化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関 和治
(72)【発明者】
【氏名】官 国清
(72)【発明者】
【氏名】武 志俊
(72)【発明者】
【氏名】謝 正坤
(72)【発明者】
【氏名】吉田 曉弘
(72)【発明者】
【氏名】阿布 里提
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-093262(JP,A)
【文献】特開2009-238587(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01M 4/38
H01M 4/36
H01M 10/052
H01B 1/06
H01B 1/10
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiS-P系ガラスセラミックにおいて、
前記Pの一部がSeSに置換されており、SeSの含有量がPの含有量の1~6モル%であるLiS-P-SeS系ガラスセラミックからなることを特徴とする全固体リチウム硫黄電池用固体電解質。
【請求項2】
前記LiS-P-SeS系ガラスセラミックの組成が、
7LiS-(3-x)P-xSeS
〔但し、SeSのモル比を示すxは、0<x≦0.1である。〕
である、請求項1に記載の固体電解質。
【請求項3】
前記LiS-P-SeS系ガラスセラミックの組成が、
8LiS-(2-x)P-xSeS
〔但し、SeSのモル比を示すxは、0<x≦0.1である。〕
である、請求項1に記載の固体電解質。
【請求項4】
更にFe,Mg,Ca,V,Se及びSnからなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有する、請求項1~3のいずれかに記載の固体電解質。
【請求項5】
LiS粉末,P粉末及びSeS粉末を含有する原料混合物をボールミルを用いて室温下で粉砕した後、粉砕物を不活性ガス雰囲気中で焼成することを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の固体電解質の製造方法。
【請求項6】
全固体リチウム硫黄電池において、請求項1~4のいずれかに記載の固体電解質と組み合わせて用いるための正極材料であって、前記LiS-P-SeS系ガラスセラミックと、硫黄と、炭素との複合物であるS-LiS-P-SeS-C系複合体からなることを特徴とする全固体リチウム硫黄電池用正極材料。
【請求項7】
硫黄及び炭素材料をボールミルを用いて室温下で粉砕した後、粉砕物と前記LiS-P-SeS系ガラスセラミックとの混合物をボールミルを用いて室温下で粉砕することを特徴とする、請求項6に記載の正極材料の製造方法。
【請求項8】
正極材料、負極材料、及び請求項1~4のいずれかに記載の固体電解質を備えた、全固体リチウム硫黄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LiS-P-SeS系ガラスセラミックからなる全固体リチウム硫黄電池用固体電解質、前記固体電解質に適した正極材料及びこれらの製造方法、並びにこれらを含む全固体リチウム硫黄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池の大型化、高性能化、低コスト化が求められる中で、無機固体電解質を用いた全固体リチウム二次電池(例えば、全固体リチウム硫黄(Li-S)電池)が安全性、信頼性等に優れた次世代蓄電池として注目されている。
【0003】
非特許文献1は、「硫化物ガラス系電解質を用いた全固体電池の開発と今後の展望」と称する論文であり、LiS-P系ガラスセラミックからなる固体電解質が種々の固体電解質の中でも高いイオン伝導率を示すこと、材料の組成(混合比率)や構造の乱れ具合によってリチウムイオン伝導率が異なること等が報告されている。
【0004】
例えば、正極にポリサルファイドと呼ばれるSから成る硫黄粉末、負極に金属Li、そして電解質に硫化物系材料のLiS-P系材料とヨウ化リチウム(LiI)を混合した材料を使用し、加圧してセルを作製した全固体リチウム硫黄(Li-S)電池が大きな放電容量密度を示したことが記載されている(非特許文献1の図2など)。
【0005】
また、非特許文献1、2には、LiS-P系ガラスセラミックからなる固体電解質の導電率をさらに増大させるためには、LiS-P系ガラスセラミックの元素を置換したり元素を添加する方法が有効であることが開示されている。例えば、Pの一部をPやPで置き換えることによって導電率が増加したこと、またLiIやGeSを添加した場合に導電率が増加したこと等が記載されている。これらの導電率の増加は、硫黄欠損、新たな結晶生成及び結晶性向上が理由と考えられている。なお、Pで置き換えることについては非特許文献3にも開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】「硫化物ガラス系電解質を用いた全固体電池の開発と今後の展望」、辰巳砂昌弘、大阪府立大学大学院工学研究科、2014年、粉砕 (57), 3-10, 2014
【文献】Structure, ionic conductivity and electrochemical stability of Li2S-P2S5-LiI glass and glass-ceramic electrolytes、Satoshi Ujiie, Akitoshi Hayashi, Masahiro Tatsumisago、Solid State Ionics 211 (2012) 42-45
【文献】「Improved chemical stability and cyclability in Li2S-P2S5-P2O5-ZnO composite electrolytes for all-solid-state rechargeable lithium batteries」、Akitoshi Hayashi et al., Journal of Alloys and Compounds 591 (2014) 247-250
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の通り、固体電解質の中でもLiS-P系ガラスセラミックからなる固体電解質の研究開発が進められているが、リチウムイオン伝導率及び充放電を繰り返した際の電池容量の維持の点で未だ改善の余地がある。
【0008】
よって、本発明は、LiS-P系ガラスセラミックを改良した固体電解質であって、リチウムイオン伝導率及び充放電を繰り返した際の電池容量の安定性が向上した全固体リチウム硫黄電池用固体電解質及びその製造方法を提供することを目的とする。また、当該固体電解質と組み合わせて用いるための正極材料及びその製造方法、並びに当該固体電解質を備えた全固体リチウム硫黄電池を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、LiS-P系ガラスセラミックを改良した特定組成のLiS-P-SeS系ガラスセラミックを用いる場合には上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
つまり、本発明は下記の全固体リチウム硫黄電池用固体電解質及びその製造方法、当該固体電解質と組み合わせて用いるための正極材料及びその製造方法、並びに当該固体電解質を備えた全固体リチウム硫黄電池に関する。
1.LiS-P系ガラスセラミックにおいて、
前記Pの一部がSeSに置換されており、SeSの含有量がPの含有量の1~6モル%であるLiS-P-SeS系ガラスセラミックからなることを特徴とする全固体リチウム硫黄電池用固体電解質。
2.前記LiS-P-SeS系ガラスセラミックの組成が、
7LiS-(3-x)P-xSeS
〔但し、SeSのモル比を示すxは、0<x≦0.1である。〕
である、上記項1に記載の固体電解質。
3.前記LiS-P-SeS系ガラスセラミックの組成が、
8LiS-(2-x)P-xSeS
〔但し、SeSのモル比を示すxは、0<x≦0.1である。〕
である、上記項1に記載の固体電解質。
4.更にFe,Mg,Ca,V,Se及びSnからなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有する、上記項1~3のいずれかに記載の固体電解質。
5.LiS粉末,P粉末及びSeS粉末を含有する原料混合物をボールミルを用いて室温下で粉砕した後、粉砕物を不活性ガス雰囲気中で焼成することを特徴とする、上記項1~4のいずれかに記載の固体電解質の製造方法。
6.全固体リチウム硫黄電池において、上記項1~4のいずれかに記載の固体電解質と組み合わせて用いるための正極材料であって、前記LiS-P-SeS系ガラスセラミックと、硫黄と、炭素との複合物であるS-LiS-P-SeS-C系複合体からなることを特徴とする全固体リチウム硫黄電池用正極材料。
7.硫黄及び炭素材料をボールミルを用いて室温下で粉砕した後、粉砕物と前記LiS-P-SeS系ガラスセラミックとの混合物をボールミルを用いて室温下で粉砕することを特徴とする、上記項6に記載の正極材料の製造方法。
8.正極材料、負極材料、及び上記項1~4のいずれかに記載の固体電解質を備えた、全固体リチウム硫黄電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明の全固体リチウム硫黄電池用固体電解質は特定組成のLiS-P-SeS系ガラスセラミックからなり、従来品のLiS-P系ガラスセラミックと比べてリチウムイオン伝導率が向上している。また、当該固体電解質を備えた全固体リチウム硫黄電池は充放電を繰り返した際の電池容量の安定性が向上している。また、本発明の固体電解質及び正極材料の製造方法は、それぞれ、前記固体電解質、及び前記固体電解質と組み合わせて用いる正極材料の製造方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】試験例1の結果(ガラスセラミックのX線回折パターン)を示す図である。
図2】試験例2の結果(ガラスセラミックのイオン伝導率)を示す図である。
図3】試験例3の結果(ガラスセラミックのインピーダンスプロット)を示す図である。
図4】試験例4の結果(ガラスセラミックの直流電流曲線)を示す図である。
図5】試験例5の結果(全固体リチウム硫黄電池の充放電特性1)を示す図である。
図6】試験例6の結果(全固体リチウム硫黄電池の充放電特性2)を示す図である。
図7】全固体リチウム硫黄電池における正極材料1、固体電解質2、負極材料3、及びステンレススチールディスク4の配置の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
全固体リチウム硫黄(Li-S)電池用固体電解質
(固体電解質)
本発明の全固体リチウム硫黄電池用固体電解質(以下、「本発明の固体電解質」ともいう)は、LiS-P系ガラスセラミックにおいて、前記Pの一部がSeSに置換されており、SeSの含有量がPの含有量の1~6モル%であるLiS-P-SeS系ガラスセラミックからなることを特徴とする。
【0014】
上記特徴を有する本発明の固体電解質は、特定組成のLiS-P-SeS系ガラスセラミックからなり、従来品のLiS-P系ガラスセラミックと比べてリチウムイオン伝導率が向上している。また、当該固体電解質を備えた全固体リチウム硫黄電池は充放電を繰り返した際の電池容量の安定性が向上している。
【0015】
本発明の固体電解質は、LiS-P系ガラスセラミックにおいて、前記Pの一部がSeSに置換されたLiS-P-SeS系ガラスセラミックであって、SeSの含有量がPの含有量の1~6モル%であればよいが、その中でも1~5.3モル%が好ましく、3~3.5モル%がより好ましい。
【0016】
本発明の固体電解質は、上記の中でも、特にガラスセラミックの組成が、
7LiS-(3-x)P-xSeS
〔但し、SeSのモル比を示すxは、0<x≦0.1である。〕
であるものが好ましい。Pの含有量に対するSeSの含有量(モル%)を示すxは0<x≦0.1であればよいが、その中でも0.03≦x≦0.1が好ましく、特に0.08≦x≦0.1が好ましい。
【0017】
また、他の態様として、特にガラスセラミックの組成が、
8LiS-(2-x)P-xSeS
〔但し、SeSのモル比を示すxは、0<x≦0.1である。〕
であるものが好ましい。Pの含有量に対するSeSの含有量(モル%)を示すxは0<x≦0.1であればよいが、その中でも0.03≦x≦0.1が好ましく、特に0.08≦x≦0.1が好ましい。
【0018】
本発明の固体電解質は、更にFe,Mg,Ca,V,Se及びSnからなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有することが好ましい。これらの元素を含有することにより、固体電解質の導電率増大の効果が得られやすい。なお、これらの元素の含有量は限定的ではないが、Pの含有量に対するこれらの元素の含有量(モル%)は0.03~0.3モル%が好ましく、0.08~0.1モル%がより好ましい。これらの元素は、例えばPの一部をFeCl,FeCl,MgS,CaS,V,SeCl,SnCl等の少なくとも一種(添加物)により置換することにより含有することができる。
(固体電解質の製造方法)
本発明の固体電解質の製造方法は限定的ではないが、LiS粉末,P粉末及びSeS粉末を含有する原料混合物(更に必要に応じて前記添加物を含む)をボールミルを用いて室温下で粉砕した後、粉砕物を不活性ガス雰囲気中で焼成することにより好適に製造することができる。原料混合物における各成分の粉末の含有量は限定されず、前記本発明の固体電解質を構成するガラスセラミックの組成となるように各成分を配合すればよい。
【0019】
原料混合物を粉砕する際は室温下でボールミルを用いて粉砕すればよいが、例えば、高速遊星型ボールミルを用いて10~60時間粉砕することが好ましく、25~35時間粉砕することがより好ましい。また、粉砕物は不活性ガス雰囲気中で焼成して所望のガラスセラミックとすればよいが、特にアルゴンガス雰囲気下、230~280℃で焼成することが好ましく、255~265℃で焼成することがより好ましい。焼成時間は焼成温度によって適宜調整できるが、1~4時間が好ましく、2~3時間がより好ましい。
【0020】
全固体リチウム硫黄(Li-S)電池
前記本発明の固体電解質は全固体リチウム硫黄(Li-S)電池の固体電解質として有用であり、当該固体電解質と、正極材料と、負極材料とを組み合わせることにより全固体リチウム硫黄電池を構成することができる。
【0021】
(正極材料)
正極材料としては限定されず、全固体リチウム硫黄電池で公知の正極材料(例えば、S-LiS-P-C複合体)を使用することができるが、本発明では、前記固体電解質と組み合わせて用いるための正極材料としてLiS-P-SeS系ガラスセラミックと、硫黄と、炭素との複合物である、S-LiS-P-SeS-C系複合体からなる正極材料が好ましい。
【0022】
このような正極材料は、従来品のS-LiS-P-C複合体において、前記Pの一部がSeSに置換されたS-LiS-P-SeS-Cで表される複合材料であればよいが、その中でも、本発明の固体電解質と同様にSeSの含有量がPの含有量の1~6モル%であるものが好ましく、その中でも1~5.3モル%が好ましく、3~3.5モル%がより好ましい。具体的には、
S-7LiS-(3-x)P-xSeS-C
〔但し、SeSのモル比を示すxは、0<x≦0.1である。〕
であるもの、及び、
S-8LiS-(2-x)P-xSeS-C
〔但し、SeSのモル比を示すxは、0<x≦0.1である。〕
であるものが好ましい。このような複合材料を用いることにより、全固体リチウム硫黄電池の充放電を繰り返した際の電池容量の安定性が向上され易い。
【0023】
上記正極材料の製造方法は限定的ではないが、硫黄及び炭素材料をボールミルを用いて室温下で粉砕した後、粉砕物とLiS-P-SeS系ガラスセラミックとの混合物をボールミルを用いて室温下で粉砕することにより好適に製造することができる。硫黄、炭素材料及びLiS-P-SeS系ガラスセラミックの配合割合は、得られる正極材料が所望の組成となるように適宜設定することができる。
【0024】
上記炭素材料としては、アセチレンカーボンブラック(AB)、人造黒鉛(スーパーP)、グラファイト、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0025】
硫黄及び炭素材料をボールミルを用いて室温下で粉砕する際は、例えば、高エネルギー遊星型ボールミルを用いて5~15時間粉砕することが好ましく、8~10時間粉砕することがより好ましい。また、粉砕物とLiS-P-SeS系ガラスセラミックとの混合物をボールミルを用いて室温下で粉砕する際は、例えば、高エネルギー遊星型ボールミルを用いて5~15時間粉砕することが好ましく、8~10時間粉砕することがより好ましい。
【0026】
(負極材料)
負極材料としては限定されず、全固体リチウム硫黄電池で公知の負極材料を使用することができる。例えば、金属リチウム、リチウム合金(Li-In,Li-Al,Li-Si等)、リチウム-グラファイト層間化合物などのリチウムと炭素材料との複合材料等が挙げられる。これらの負極材料は通常金属箔の状態で使用することができる。
【0027】
(Li-S電池の一例)
図7に全固体リチウム硫黄電池における正極材料1、固体電解質2、負極材料3、及びステンレススチールディスク4の配置の一例の断面模式図を示す。
【0028】
Li-S電池は、例えば、乾燥アルゴン充填グローブボックス中で組み立てることができる。組み立て方法の一例としては、先ず正極材料粉末と固体電解質粉末とを直径8~12mmのセルに順番に充填した後、200~400MPaの圧力で1~5分間プレスする。次いで、負極材料であるリチウム金属箔を固体電解質の表面に置き、この3層のペレットを2枚のステンレススチールディスクで挟み込む。次いで、挟み込んだペレットを室温で1~5分間、50~200MPaで加圧することによりLi-S電池が得られる。
【実施例
【0029】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0030】
実施例1(ガラスセラミックの調製)
モル比7:2.9:0.1であるLiS、P及びSeSの粉末の混合物を、10個のメノウボール(直径10mm)を有するアルゴン充填メノウポット(容量45cm)に入れ、遊星型ボールミル装置を用いて、510rpmの回転速度で、室温、30時間機械的に粉砕・混合した。次に、得られた粉末をアルゴン雰囲気中で260℃、2時間加熱することで、70LiS-29P-1SeSガラスセラミックを得た。
【0031】
実施例2(ガラスセラミックの調製)
モル比7:2.95:0.05であるLiS、P及びSeSの粉末の混合物を、10個のメノウボール(直径10mm)を有するアルゴン充填メノウポット(容量45cm)に入れ、遊星型ボールミル装置を用いて、510rpmの回転速度で、室温、30時間機械的に粉砕・混合した。次に、得られた粉末をアルゴン雰囲気中で260℃、2時間加熱することで、70LiS-29.5P-0.5SeSガラスセラミックを得た。
【0032】
実施例3(ガラスセラミックの調製)
モル比7:2.97:0.03であるLiS、P及びSeSの粉末の混合物を、10個のメノウボール(直径10mm)を有するアルゴン充填メノウポット(容量45cm)に入れ、遊星型ボールミル装置を用いて、510rpmの回転速度で、室温、30時間機械的に粉砕・混合した。次に、得られた粉末をアルゴン雰囲気中で260℃、2時間加熱することで、70LiS-29.7P-0.3SeSガラスセラミックを得た。
【0033】
比較例1(ガラスセラミックの調製)
モル比7:3であるLiS及びPの粉末の混合物を、10個のメノウボール(直径10mm)を有するアルゴン充填メノウポット(容量45cm)に入れ、遊星型ボールミル装置を用いて、510rpmの回転速度で、室温、30時間機械的に粉砕・混合した。次に、得られた粉末をアルゴン雰囲気中で260℃、2時間加熱することで、70LiS-30Pガラスセラミックを得た。
【0034】
比較例2(ガラスセラミックの調製)
モル比7:2.7:0.3であるLiS、P及びSeSの粉末の混合物を、10個のメノウボール(直径10mm)を有するアルゴン充填メノウポット(容量45cm)に入れ、遊星型ボールミル装置を用いて、510rpmの回転速度で、室温、30時間機械的に粉砕・混合した。次に、得られた粉末をアルゴン雰囲気中で260℃、2時間加熱することで、70LiS-27P-3SeSガラスセラミックを得た。
【0035】
比較例3(ガラスセラミックの調製)
モル比7:2.5:0.5であるLiS、P及びSeSの粉末の混合物を、10個のメノウボール(直径10mm)を有するアルゴン充填メノウポット(容量45cm)に入れ、遊星型ボールミル装置を用いて、510rpmの回転速度で、室温、30時間機械的に粉砕・混合した。次に、得られた粉末をアルゴン雰囲気中で260℃、2時間加熱することで、70LiS-25P-5SeSガラスセラミックを得た。
【0036】
実施例4(全固体Li-S電池の製造)
S-70LiS-29P-1SeS-C複合正極電極を得るために、最初に、硫黄(S)とカーボンブラック粉末(C)を3:1(重量%)の割合でメノウポットに入れ、遊星型ボールミル装置を用いて、室温で8時間、370rpmで機械的に粉砕・混合した。
【0037】
次に、S-C複合材と70LiS-29P-1SeSガラスセラミックを2:3(wt%)の割合で混合し、370rpmで8時間機械的に粉砕し、S-70LiS-29P-1SeS-C複合正極電極用粉末材料を得た。
【0038】
図7に示す全固体電池を組立てるために、複合正極及び固体電解質粉末を直径12mmの電池用セルに充填し、次に380MPaの圧力で3分間プレスした。固体電解質の反対側にLi箔を対向電極として設置し、120MPaの圧力をかけて、固体電池を得た。
【0039】
比較例4(全固体Li-S電池の製造)
S-70LiS-30P-C複合正極電極を得るために、最初に、硫黄(S)とカーボンブラック粉末(C)を3:1(重量%)の割合でメノウポットに入れ、遊星型ボールミル装置を用いて、室温で8時間、370rpmで機械的に粉砕・混合した。
【0040】
次に、S-C複合材とLiS-Pガラスセラミックを2:3(wt%)の割合で混合し、370rpmで8時間機械的に粉砕し、S-70LiS-30P-C複合正極電極用粉末材料を得た。
【0041】
図7に示す全固体電池を組立てるために、複合正極及び固体電解質粉末を直径12mmの電池用セルに充填し、次に380MPaの圧力で3分間プレスした。固体電解質の反対側にLi箔を対向電極として設置し、120MPaの圧力をかけて、固体電池を得た。
【0042】
試験例1
実施例1~3及び比較例1~3で調製したガラスセラミックのX線回折パターンを調べた。X線回折スペクトル測定結果を図1に示す。
【0043】
図1の結果によれば、実施例1~3及び比較例2のガラスセラミックのX線回折パターンは比較例1(標準)のX線回析パターンとほぼ同じであった。しかしながら、比較例3のガラスセラミックのX線回折パターンは比較例1(標準)のX線回折パターンから変化しておりガラスセラミックの結晶構造が変化したことが分かった。
【0044】
試験例2
実施例1~5で調製したガラスセラミックのイオン伝導率を測定した。測定結果を図2に示す。
【0045】
図2の結果によれば、7LiS-(3-x)P-xSeS
〔但し、SeSのモル比を示すxは、0<x≦0.1である。〕
で表される本発明の固体電解質において、x=0.1の場合にイオン伝導率の向上効果が最も大きいことが分かった。
【0046】
試験例3
実施例1及び比較例1で調製したガラスセラミックのインピーダンスプロットを調べた。測定結果を図3に示す。
【0047】
図3の結果によれば、実施例1のガラスセラミックのバルク抵抗(R)は、比較例1のガラスセラミックのバルク抵抗(R)よりも小さいことが分かった。実施例1のガラスセラミックはより速い反応動力学を伴い、より低いバルク抵抗及び界面抵抗、並びにより高いイオン伝導度(5.28×10-3S・cm-1)を有することが分かった。
【0048】
試験例4
実施例1及び比較例1で調製したガラスセラミックの直流電流曲線を調べた。測定時の印加電圧は1.0V、試料サイズは12φ、試料厚さは0.51mmとした。測定結果を図4に示す。
【0049】
図4の結果によれば、比較例1のガラスセラミックはイオン導電率が2.4×10-3S・cm-1であるのに対し、実施例1のガラスセラミックのイオン伝導度は約5.7×10-3S・cm-1であった。SeSの添加により、ガラスセラミックのイオン伝導度が2倍以上に大きく増加した。また、実施例1のガラスセラミックのリチウム金属との長期的な適合性は、比較例1のガラスセラミックよりも良好である。
【0050】
試験例5
実施例4と比較例4の固体電池の充放電特性を比較した。充放電レートは0.05Cである。測定結果を図5に示す。
【0051】
固体電池は、硫黄からLiSへの変換に対応して1.8Vで単一のプラトーを示す。充電過程においては、どちらの固体電池もLiSの硫黄への酸化反応に起因する約2.4V付近に明確な電位プラトーを示す。充放電電位には大きな差が見られないが、5サイクルの充放電の繰り返しにおける放電容量の低下は実施例4の固体電池の方が少なかった。
【0052】
試験例6
実施例4と比較例4の固体電池の充放電特性を比較した。充放電レートは0.05C、充電電位は1.0~3.0V、放電電位は3.0~1.0Vである。測定結果を図6に示す。
【0053】
実施例4と比較例4の固体電池は、1.0~3.0Vの電圧範囲においてそれぞれ950mAh・g-1及び1187mAh・g-1の放電容量を示した。どちらも充放電の繰り返しにより容量の低下がみられるが、実施例4の固体電池の方が容量の低下が少なかった。
【0054】
比較例4の固体電池のクーロン効率は、初期のサイクルで約91%であったが、実施例4の固体電池の場合、クーロン効率は約92%になった。なお、10サイクル以降では、どちらも約98.5%の効率を示した。実施例4の固体電池は、比較例4の固体電池よりも安定性に優れていることが分かる。
【0055】
以上の試験例の結果から、本発明の全固体リチウム硫黄電池用固体電解質は、従来品のLiS-P系ガラスセラミックからなる固体電解質と比べてリチウムイオン伝導率が向上しており、また、本発明の固体電解質を備えた全固体リチウム硫黄電池は充放電を繰り返した際の電池容量の安定性が向上していることが分かる。
【符号の説明】
【0056】
1.正極材料
2.固体電解質
3.負極材料
4.ステンレススチールディスク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7