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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】磁場計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/035 20060101AFI20220622BHJP
   G01R 33/02 20060101ALI20220622BHJP
   G01R 33/06 20060101ALI20220622BHJP
【FI】
G01R33/035
G01R33/02 V
G01R33/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019519100
(86)(22)【出願日】2018-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2018013670
(87)【国際公開番号】W WO2018211833
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2017100227
(32)【優先日】2017-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人科学技術振興機構、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚田 啓二
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-194434(JP,A)
【文献】特開2010-032368(JP,A)
【文献】特開2011-226819(JP,A)
【文献】特開平01-288722(JP,A)
【文献】特開2013-130471(JP,A)
【文献】特開平08-078742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/035
G01R 33/02
G01R 33/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導体が超伝導状態となる極低温の状態を維持する温度維持手段と、
この温度維持手段内に設けて磁場を検出する磁気センサと、
前記温度維持手段内で超伝導状態となることで超伝導状態に特有の磁場空間を形成する磁場空間形成手段と
を有し、前記磁気センサを前記磁場空間内に配置し、
前記磁気センサは、第1の磁場空間形成手段と第2の磁場空間形成手段の間に配置し、
前記磁気センサを挿通可能としたスリットを備えた基体を有し、このスリットを挟んで前記第1の磁場空間形成手段と前記第2の磁場空間形成手段を設けている磁場計測装置。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記基体上で、前記第1の磁場空間形成手段と前記第2の磁場空間形成手段とが一体化されている請求項1に記載の磁場計測装置。
【請求項5】
前記磁気センサが、ホール素子、磁気インピーダンス素子、磁気抵抗素子のいずれかである請求項1または4に記載の磁場計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサを用いた磁場計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種用途に応じて様々な磁気センサが使われている。広く使われている磁気センサとしてホール素子がある。ホール素子ではホール効果を利用しており、素子中に流れている電流に磁場が作用することで磁場の方向と直交する方向に生じた起電力を検出して、地場の計測を行っている。ホール素子は、モータなどの回転機構の位置検出や、携帯電話などの開閉スイッチなど広く用いられている。
【0003】
高感度な磁気センサとしては、磁気インピーダンス(MI)素子がある。このMI素子では、アモルファス合金のワイヤをパルス電流駆動させた時のインピーダンスが磁場によって変化する現象を用いている。
【0004】
空間分解能が優れた磁気センサとして、磁気抵抗(MR)素子がある。このMR素子は、磁気ハードディクスの磁気記録のデジタルデータの読み出し用として広く使われている。MR素子は、計測磁場に対して抵抗が変化する現象を用いたものであり、その動作原理には様々なものが提案されており、動作原理に応じて巨大磁気抵抗(GMR)素子や、トンネル型磁気抵抗(TMR)素子、異方性磁気抵抗(AMR)素子などがある。
【0005】
最近では、これらホール素子やMI素子、MR素子などは、デジタル計測のみなら高感度な磁気センサとして利用されることが多い。
【0006】
一方、これのホール素子やMI素子、MR素子などをアナログ計測を目的とした使用する場合として、地磁気を計測するコンパス等として様々な用途の開発がなされている。アナログ計測用としての磁気センサの特性は、磁気強度に応じたセンサ出力値の関係での線形性や、その磁場強度範囲であるダイナミックレンジや、計測できる磁場の最少分解能などの性能が重要となる。このため、これらの向上を目的とする開発が行われている。
【0007】
一方、これらの磁気センサと比較して最も高感度な磁気センサとして超伝導量子干渉素子(SQUID)が知られている。このSQUIDは、超伝導現象を用いたものであり、Nbなどの低温系超伝導体を用いたSQUIDでは液体窒素によって冷却することで超伝導状態にしている。また、酸化物超伝導体として知られているYBCOなどは超伝導になる温度が高いので、液体窒素などで冷却して超伝導状態とすることで利用されている。SQUIDは非常に高感度であるため、生体の脳や心臓などの電気生理学的現象によって発生した非常に微弱な磁場を検査する装置などに利用されている。
【0008】
ホール素子やMI素子、MR素子などの室温で動作する磁気センサの感度と、SQUIDのように超伝導現象を利用した磁気センサの感度とは、大きくかけ離れており、これら中間の感度が計測できる磁気センサがなかった。
【0009】
さらに、SQUIDにおいては、磁場に対して周期的な応答しかできないという問題点が知られていた。すなわち、SQUIDにおいては、センサ特性として重要である磁場に対しての線形応答が得られるようにするために、測定磁場をキャンセルする回路を設ける必要があった。これにより、SQUIDにおいても相対磁場変化を感度よく計測できるようにはなったが、絶対磁場、つまりゼロ点を判断することはできなかった。
【0010】
一方、室温で動作する磁気センサは、測定磁場に対するセンサ出力が、線形の出力となるように工夫されており、絶対磁場を測定することできる。しかし、このような磁気センサでは、温度によるドリフト等があるため、標準点や感度の温度補正が必要であった。
【0011】
ここで、室温で動作する磁気センサをあえて液体窒素で冷却して一定温度にすることにより、温度ドリフトを解消し、しかも感度を向上させて絶対磁場を測定できることを本発明者は報告した(非特許文献1参照)。あるいは、超伝導コイルと磁気センサを組み合わせる方法として超伝導コイル面の中に磁気センサを配置する方法を本発明者らが報告した。ここで、磁気センサが計測する方向は超伝導コイル面に垂直つまり超伝導コイルが検出する磁場と同じ方向であった(非特許文献2参照)。しかし、この構成では測定している磁場と遮蔽電流が作る磁場を同じ方向でとらえるため、それぞれの磁場が混在していることで十分感度が得られない問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】Keiji Tsukada, Takuya Yasugi, Yatsuse Majima, Kenji Sakai, and Toshihiko Kiwa, "Absolute-magnetic-field measurement using nanogranular in-gap magnetic sensor with second-harmonic and liquid-nitrogen-temperature operation" AIP Advances, 7, 056670 (2017)
【文献】Yasuaki Matsunaga, Ryota Isshiki, Yuta Nakayama, Kenji Sakai, Toshihiko Kiwa, Keiji Tsukada, "Application of HTS-coil with a magnetic sensor to nondestructive testing using a low-frequency magnetic field", IEEE Transactions on Applied Superconductivity, 27, 1800304 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
室温で動作する磁気センサを低温で動作させることにより、感度を向上させることはできたが、十分とはいえない状況であって、さらなる高感度で磁場を計測可能とすることが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、高感度の磁場計測装置を提供するものであって、超伝導体が超伝導状態となる極低温の状態を維持する温度維持手段と、この温度維持手段内に設けて磁場を検出する磁気センサと、温度維持手段内で超伝導状態となることで超伝導状態に特有の磁場空間を形成する磁場空間形成手段とを有し、磁気センサを磁場空間内に配置した磁場計測装置とした。
【0015】
さらに、本発明の磁場計測装置では、以下の点にも特徴を有するものである。
(1)磁気センサは、第1の磁場空間形成手段と第2の磁場空間形成手段の間に配置していること。
(2)磁気センサを挿通可能としたスリットを備えた基体を有し、このスリットを挟んで第1の磁場空間形成手段と第2の磁場空間形成手段を設けていること。
(3)基体上で、第1の磁場空間形成手段と第2の磁場空間形成手段とが一体化されていること。
(4)磁気センサが、ホール素子、磁気インピーダンス素子、磁気抵抗素子のいずれかであること。
(5)磁場空間形成手段は超伝導コイルであって、磁気センサは、超伝導コイルに生じた遮蔽電流によって生成される磁場を計測すること。
(6)超伝導コイルの一部に常伝導体を介設していること。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、より高感度で磁場を計測できる磁場計測装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態の磁場計測装置の要部の概略説明図である。
図2】磁気センサとしてAMR素子を用た第1実施形態の磁場計測装置において、スリットの間隔を変化させたときの磁場応答特性を示したグラフである。
図3】磁気センサとしてAMR素子を用いた第1実施形態の磁場計測装置におけるノイズスペクトラムのグラフである。
図4】磁気センサとしてTMR素子を用いた第1実施形態の磁場計測装置における磁場応答特性のグラフである。
図5】磁気センサとしてTMR素子を用いた第1実施形態の磁場計測装置におけるノイズスペクトラムのグラフである。
図6】第1実施形態の磁場計測装置の変容例の要部の概略説明図である。
図7】第2実施形態の磁場計測装置の要部の概略説明図である。
図8】第2実施形態の磁場計測装置の変容例の要部の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の磁場計測装置は、超伝導体が超伝導状態となる極低温の状態を維持する温度維持手段と、この温度維持手段内に設けて磁場を検出する磁気センサと、温度維持手段内で超伝導状態となるとことで超伝導状態に特有の磁場空間を形成する磁場空間形成手段とを有する磁場計測装置である。
【0019】
特に、本発明の磁場計測装置では、磁気センサを磁場空間形成手段が形成する超伝導状態に特有の磁場空間内に配置しているものである。
【0020】
以下において、具体的な実施形態を示しながら説明する。
【0021】
<第1実施形態>
図1に第1実施形態の磁場計測装置の要部であるセンサ部を示す。図1において、符号1-1は磁気センサであり、符号2-1は超伝導体である。
【0022】
磁気センサ1-1としては、ホール素子、磁気インピーダンス素子、磁気抵抗素子のいずれかであればよく、図示しない計測回路に接続して磁気を計測可能としている。磁気センサ1-1は、適宜の基板b上に配設しており、この基板bに接続した配線cを介して計測回路(図示せず)に接続している。
【0023】
超伝導体2-1は、磁場空間形成手段であって、板状とした支持基体aの表面に超伝導膜を成膜することで形成している。より具体的には、本実施形態において支持基体aはMgO基板としており、超伝導体2-1はイットリウム系のYBCO薄膜で形成した。超伝導体2-1としては、イットリウム系のほかにも、ビスマス系超伝導体などの銅酸化物超伝導体や、鉄系超電導体などを用いてもよく、薄膜ではなくバルク体を用いてもよい。
【0024】
超伝導体2-1は、超伝導状態になることで磁場の遮蔽効果が生じ、この遮蔽効果によって超伝導体の周辺に磁束が回りこむ現象が生じる。このような遮蔽効果が生じている空間を、本発明では「超伝導状態に特有の磁場空間」と呼んでいる。
【0025】
図1に示すように、支持基体aには、磁気センサ1-1を挿通可能としたスリットsを設けている。磁気センサ1-1は、このスリットsに挿通させた状態として、支持基体aとともに液体窒素を貯留した容器内に浸漬させることで、超伝導体2-1を超伝導状態としている。本実施形態では、液体窒素を貯留した容器が温度維持手段であって、使用する超伝導体2-1の種類によっては、液体窒素ではなく液体ヘリウムを貯留してもよい。あるいは適宜の冷凍機を用いて超伝導体2-1を超伝導状態としてもよい。
【0026】
超伝導体2-1は、図1に示すようにスリットsが形成されている支持基体aの表面であって、スリットsを挟んで対向させて設けることで、それぞれを第1の磁場空間形成手段と第2の磁場空間形成手段としている。このように、スリットsを挟んで2つの超伝導体2-1を近接させて配置することで、超伝導体2-1が超伝導状態となった際に2つの超伝導体2-1の間、すなわちスリットsの部分に磁束の集中が生じることとなっている。この磁束の集中が生じることで測定する磁場を強くすることができ、この強くなった磁場を磁気センサ1-1で計測することで、実際の磁場より強い磁場として計測することができ、実質的に感度を向上させることができる。特に、磁気センサ1-1は、スリットsを通る磁束の方向と平行に配置することが望ましい。
【0027】
図1における各超伝導体2-1は、長さ10mm、幅5mmの長方形状としてスリットsの両側に対向させて設けている。スリットsの幅寸法を1.5mm,2.5mm,3.5mmとして感度の変化を調べた結果を図2に示す。ここで、磁気センサ1-1としては、異方性磁気抵抗(AMR)素子を用いている。
【0028】
図2に示すように超伝導体2-1を設けない場合と比較して、超伝導体2-1を設けた方が高感度であることは明らかである。また、スリットsの幅寸法が狭くなるにつれ磁束の集中度が高くなって、感度が向上していることが確認できた。すなわち、感度をスリットsの幅を調整することで自由に調整できることを示している。
【0029】
ここで、超伝導体2-1は、上述したようにスリットsを有する板状の支持基体aの表面に形成した超伝導薄膜で形成することとしているが、上記のスリットsに相当する間隔を隔てて2つの超伝導バルク体を並設してもよい。すなわち、これらの超伝導バルク体の間に磁気センサ1-1を配設して磁場計測装置としてもよい。
【0030】
磁場計測装置の重要な特性として「感度」のほかにも「磁場分解能」がある。一般的には「磁場分解能」も含めて「感度」と言っていることが多いが、「感度」は、磁場に対する磁気センサ1-1のセンサ出力の変換係数である。一方、「磁場分解能」は、どのくらい微小な磁場を測定できるかを示している。そこで、「感度」と同様に「磁場分解能」を評価した結果を図3に示す。ここで、磁気センサ1-1としては、異方性磁気抵抗(AMR)素子を用いている。
【0031】
図3はノイズスペクトルのグラフであり、各周波数での磁気ノイズを示している。磁気ノイズ以下の信号は検出できないため、この磁気ノイズは計測できる最小の磁場強度を示す磁場分解能を示していることになる。ここで、支持基体aに設けたスリットsの幅寸法は1.5mmとし、超伝導状態とした超伝導体2-1を設けている支持基体aと、超伝導体2-1を設けていない支持基体とでそれぞれ各周波数での磁気ノイズを計測している。超伝導体2-1を設けることで、磁場分解能が向上していることが確認できた。この結果から、超伝導体2-1と磁気センサ1-1とを組み合わせた構成とすることにより感度だけでなく、磁場分解能を向上させることができることが確認できた。
【0032】
異方性磁気抵抗(AMR)素子ではなく、磁場に対して偶関数特性を示すナノグラニュラートンネル型磁気抵抗(TMR)素子を用いて同様の磁場計測装置とし、磁場応答特性を評価した結果を図4に示す。ここで、支持基体aに設けたスリットsの幅寸法は1.5mmとし、超伝導状態とした超伝導体2-1を設けた支持基体aと、超伝導体2-1を設けていない支持基体とでそれぞれ磁場応答特性を評価した。図4から明らかなように、超伝導状態とした超伝導体2-1を設けた支持基体aの方が、超伝導体2-1を設けていない支持基体よりも、急峻な磁場応答特性となっており、感度が向上していることが確認できた。
【0033】
上記のナノグラニュラートンネル型磁気抵抗(TMR)素子を用いた磁場計測装置において、線形な応答領域で磁気センサ1-1を動作させるために500μTの直流バイアス磁場を印加して測定したノイズスペクトルを図5に示す。この場合でも、磁気センサ1-1として異方性磁気抵抗(AMR)素子を用いた磁場計測装置と同様に、超伝導状態とした超伝導体2-1を設けた支持基体aとすることで、磁場分解能が向上していることが確認できた。
【0034】
<第1実施形態の変容例>
本発明の磁場計測装置では、超伝導体が超伝導状態となることで生じる磁束の集中を利用することで、「感度」及び「磁場分解能」を向上させた磁場計測装置としているが、磁束の集中させることができるのであれば、どのような方法を用いることもできる。
【0035】
たとえば、変容例として、図6に示すように、磁気センサ1-2と、この磁気センサ1-2を挿通可能としたスリットs’を形成している支持基体a’の上面に設けた超伝導体2-2とで構成したセンサ部を有する磁場計測装置とすることができる。特に、支持基体a’に形成しているスリットs’を挟んで対向させて第1の磁場空間形成手段と第2の磁場空間形成手段と形成するとともに、第1の磁場空間形成手段と第2の磁場空間形成手段をスリットs’の上方部分で接続した状態として、第1の磁場空間形成手段と第2の磁場空間形成手段とを一体化してもよい。この場合でも、超伝導体2-2が超伝導状態となることで遮蔽された磁束の一部がスリットs’部分に集中して、磁気センサ1-2が検出する磁場強度が向上し、その結果として感度を向上させることができる。図6中、符号b’は、磁気センサ1-2が配設される基板bであり、符号c’は、この基板b’に接続した配線である。
【0036】
<第2実施形態>
上述した第1実施形態では、超伝導状態による磁場の遮蔽効果を利用して集中させた磁場の大きさを磁気センサで測定していたが、磁場の遮蔽効果によって超伝導体に生じる遮蔽電流の変動を検出することで、磁場の変動を検出することもできる。特に、この場合には、超伝導体に生じた遮蔽電流の変動を、この遮蔽電流の変動によって生じる磁場の大きさの変動として測定することで、磁場を計測することができる。
【0037】
具体的には、図7に示すように、超伝導体で形成した超伝導コイル3-1と、この超伝導コイル3-1に生じる遮蔽電流の大きさを測定する磁気センサ1-3とでセンサ部を構成している。超伝導コイル3-1が磁場空間形成手段である。
【0038】
超伝導コイル3-1は、線状として市販されている超伝導体をリング状として使用してもよいし、図7に示すように、リング状とした円形基板a”の表面に超伝導膜を成膜することでリング状の超伝導体、すなわち超伝導コイル3-1としてもよい。
【0039】
磁気センサ1-3は、ホール素子、磁気インピーダンス素子、磁気抵抗素子のいずれかであればよく、適宜の基板b”上に配設して、この基板b”に接続した配線c”を介して計測回路(図示せず)に接続している。図7では、説明の便宜上、基板b”の上面に磁気センサ1-3を描いているために、磁気センサ1-3と超伝導コイル3-1の間に基板b”が存在しているようにしている。しかし、実際には、磁気センサ1-3は超伝導コイル3-1に対向させて配設して、磁気センサ1-3をできるだけ超伝導コイル3-1に近接させて配設している。
【0040】
さらに、磁気センサ1-3は、超伝導コイル3-1のコイル面と平行であって、図7中の矢印Aが指し示す超伝導コイル3-1の径方向に磁場の測定方向を向けて配置することで、超伝導コイル3-1に生じる遮蔽電流の変動を検出することとしている。図7中、上向きの矢印Bは、超伝導コイル3-1と磁気センサ1-3とで構成したセンサ部による磁場の計測方向を示している。
【0041】
超伝導コイル3-1が超伝導状態となっている場合には、測定する磁場による磁束が超伝導コイル3-1に入ろうとすると、この磁束を打ち消すように超伝導コイル3-1には遮蔽電流が生じるため、この遮蔽電流の変動によって生じる磁場の変動を磁気センサ1-3で検出している。
【0042】
超伝導コイル3-1と磁気センサ1-3は、上記したように磁気センサ1-3を超伝導コイル3-1に対して配置して、液体ヘリウムを貯留した容器内に浸漬させることで超伝導コイル3-1を超伝導状態としている。本実施形態でも、液体ヘリウムを貯留した容器が温度維持手段であって、使用する超伝導コイル3-1の種類によっては、液体ヘリウムではなく液体窒素を貯留してもよいし、あるいは冷凍機を用いて超伝導コイル3-1を超伝導状態としてもよい。
【0043】
磁気センサ1-3は、超伝導コイル3-1のコイル面と平行であって、超伝導コイル3-1の径方向に向けて配置することで、超伝導コイル3-1に生じる遮蔽電流の変動に影響を与えている測定対象の磁場の影響を受けることなく、遮蔽電流の変動に起因した磁場の変動を高感度で検出することができる。
【0044】
<第2実施形態の変容例>
上述した実施形態では、いずれの場合も絶対磁場を計測することを想定した磁場計測装置であるが、例えば地磁気の変動だけを高感度に計測することも求められている分野もある。
【0045】
特に、地磁気の変動を検出する際には、上述した磁場計測装置では、感度が良すぎることにより、地磁気の変動だけでなく、その他の原因による磁気変動まで検出することで、目的の変動を正確に計測できないことも想定される。
【0046】
このような場合、上述した第2実施形態の磁場計測装置と同様に、図8に示すように、超伝導体で形成した超伝導コイル3-2と、この超伝導コイル3-2に生じる遮蔽電流の大きさを測定する磁気センサ1-4とでセンサ部を構成する際に、超伝導コイル3-2の一部に常伝導体4を介設することで、正確な計測を可能とすることができる。すなわち、超伝導コイル3-2の一部に常伝導体4を介設した場合には、この常伝導体4の抵抗成分によって超伝導コイル3-2に生じる遮蔽電流が所定の時定数で減衰することとなり、地磁気の変動以外の変動成分による影響を排除することができる。
【0047】
具体的に説明すると、超伝導コイル3-2の一部を常伝導体4とした場合であって、
L:超伝導コイル3-2の自己インダクタンス
R:常伝導体4の抵抗
τ(=L/ R):超伝導コイル3-2の時定数
r:超伝導コイル3-2の半径
とすると、超伝導コイル3-2のインダクタンスと抵抗値の関係から、超伝導コイル3-2に生じる遮蔽電流In(t)は、下式で表される。
【数1】
ここで、位相遅れθは、下式とする。
【数2】
【0048】
したがって、位相遅れθがゼロの時が、遮蔽電流がもっとも大きく、π/2の時には、最小になる。ここで、その中間値でのπ/4の時の周波数をカットオフ周波数とする。
【0049】
このカットオフ周波数は応答周波数を決めているので、直流磁場には応答せず、カットオフ周波数である時定数に応じた周波数以上の変動磁場だけ遮蔽することが可能となる。
【0050】
したがって、カットオフ周波数以上では超伝導特性と同じように周波数に依存しない信号強度を得ることができ、例えば直流磁場成分だけをカットして、地磁気の変動のような数Hz以上の極低周波には応答可能とすることもできる。
【0051】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々の変形例・設計変更などをその技術的範囲内に包含することは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、MRあるいはMIやホール素子などの従来室温で動作させている磁気センサを超伝導体で作るスリットあるいはコイルに組み合わせた複合型の磁気センサを冷却して動作させている。このスリットの幅寸法やコイルの大きさにより感度を変化させることができるので、例えば地磁気の計測や地質探査などの用途に応じて使い分けることができる。また、応答周波数も絶対磁場ではなく変動成分だけを計測したい場合には超伝導コイルの常伝導部分を調整することにより応答周波数を変化させることができるので地磁気の変動成分計測、金属製の欠陥を検査する非破壊検査装置など幅広い分野での応用ができる。
【符号の説明】
【0053】
1-1 磁気センサ
1-2 磁気センサ
1-3 磁気センサ
1-4 磁気センサ
2-1 超伝導体
2-2 超伝導体
3-1 超伝導コイル
3-2 超伝導コイル
4 常伝導体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8