(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】放射線計測装置および放射線計測方法
(51)【国際特許分類】
G01T 1/17 20060101AFI20220622BHJP
G01T 1/36 20060101ALI20220622BHJP
【FI】
G01T1/17 F
G01T1/36 D
G01T1/17 H
(21)【出願番号】P 2020044171
(22)【出願日】2020-03-13
【審査請求日】2021-10-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大二郎
(72)【発明者】
【氏名】矢澤 博之
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 将史
(72)【発明者】
【氏名】上野 遥
(72)【発明者】
【氏名】松本 晴久
(72)【発明者】
【氏名】神谷 浩紀
(72)【発明者】
【氏名】高島 健
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-219251(JP,A)
【文献】特開2000-075037(JP,A)
【文献】特表2012-527608(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0248704(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00 -1/16
G01T 1/167-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象とする放射線を検出し第1の出力端子および第2の出力端子からパルス状の電流信号を発生する放射線検出器と、
前記測定対象とする放射線のエネルギースペクトルを出力する信号処理装置と、
を備え、
前記信号処理装置は、
前記放射線検出器からの信号を処理する通常速度処理部と、
前記放射線検出器からの信号を前記通常速度処理部より高速で処理する高速処理部と、
前記通常速度処理部、前記高速処理部からの情報に基づいて判定処理を行い前記測定対象とする放射線のエネルギースペクトルを出力する判定処理部と、
を具備し、
前記判定処理部は、
前記高速処理部が出力する高速整形波形から取得されるパルス幅と前記通常速度処理部が出力する通常整形波形のピーク値との組み合わせが、当該判定処理部が収納する判定表で規定する範囲内にあるか否かによってパイルアップの有無を判定するTOTパイルアップ判定器と、
パイルアップの補正の可否を判定するパイルアップ補正判定器と、
前記補正の可否の判定の結果に基づいてパイルアップ補正を行うパイルアップ補正器と、
を有することを特徴とする放射線計測装置。
【請求項2】
前記通常速度処理部は、
前記放射線検出器の前記第1の出力端子に接続され前記放射線検出器から出力された前記パルス状の電流信号を電圧に変換する電荷有感増幅器と、
前記電荷有感増幅器からの出力を受け入れて波形整形する波形整形増幅器と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の放射線計測装置。
【請求項3】
前記高速処理部は、
前記放射線検出器の前記第2の出力端子に接続され、前記電荷有感増幅器よりも高い電荷電圧変換係数を有し、前記放射線検出器から出力された前記パルス状の電流信号を電圧に変換する高利得型電荷有感増幅器と、
前記高利得型電荷有感増幅器の出力を前記波形整形増幅器よりも短い時定数で波形整形する高速波形整形増幅器と、
前記波形整形された高速波形について、閾値を横切るタイミングを出力する波高弁別器と、
を有することを特徴とする請求項2に記載の放射線計測装置。
【請求項4】
前記高速処理部は、
前記電荷有感増幅器の出力を前記波形整形増幅器よりも短い時定数で波形整形する高速波形整形増幅器と、
前記波形整形された高速波形について、閾値を横切るタイミングを出力する波高弁別器と、
を有することを特徴とする請求項2に記載の放射線計測装置。
【請求項5】
前記波高弁別器が出力する検出信号の数を数え上げる計数器と、
前記パイルアップ補正判定器が出力する波高の推定値と
第1のアナログディジタル変換器が出力するディジタル変換値から波高スペクトルを求めるスペクトル測定器と、
前記計数
器が数え上げた個数を用いて前記スペクトル測定器が出力する
前記波高スペクトルの統計量を補正するスペクトル補正器と、
を備えることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の放射線計測装置。
【請求項6】
前記計数器は、前記TOTパイルアップ判定器がパイルアップの発生を検出した際に計数値を増加させることを特徴とする請求項5に記載の放射線計測装置。
【請求項7】
前記パイルアップ補正器は、
ルックアップテーブルに保存した典型的な整形パルスの形状と、前記高速処理部で処理されたパルス間の時間間隔と、前記通常速度処理部で処理されたパルス波形のピーク値をディジタル化したディジタル変換値とを用いて、
前記典型的な整形パルスの形状を時間tの関数としてf(t)で表し、k番目の前記ディジタル変換値をVk(0)で表し、演算をn回行って得られた値をVk(n)で表し、a番目、b番目の前記検出信号の時間間隔をΔtabで表したときに、次の式(1)で表される演算式を補正演算式とし、V(n)をパイルアップがない場合の推定値とする、
ことを特徴とする
請求項5または請求項
6に記載の放射線計測装置。
V
k
(n)=V
k
-ΣV
i
(n-1)・f(-Δt
ki
)-ΣV
i
(N-1)・f(Δt
ik
) ・・・(1)
ただし、右辺第2項のΣは、iがkからNまでの和、右辺第3項のΣは、iが1から(k-1)までの和を示す。
【請求項8】
前記パイルアップ補正器は、
前記ルックアップテーブルに保存した
前記典型的な整形パルスの形状と、前記高速処理部で処理されたパルス間の時間間隔と、前記通常速度処理部で処理されたパルス波形の
前記ピーク値をディジタル化したディジタル変換値とを用いて、パイルアップ補正を行い、この際、未定計数法による行列演算でパイルアップがない場合の波高の推定値を用いる、
ことを特徴とす
る請求項
7に記載の放射線計測装置。
【請求項9】
前記TOTパイルアップ判定器は、前記パルス幅に対し前記ピーク値の正常な幅を規定する前記判定表を有し、受け入れた前記パルス幅と受け入れた前記ピーク値との組み合わせが、前記判定表で規定する範囲内にあるか否かによってパイルアップの有無を判定することを特徴とする請求項1ないし請求項
8のいずれか一項に記載の放射線計測装置
。
【請求項10】
前記パイルアップ補正器は、
前記n回の補正演算により得た値Vk(n)と、(n-1)回以前の演算結果を比較し、演算結果の収束を判定する、
ことを特徴とする請求項9に記載の放射線計測装置。
【請求項11】
前記パイルアップ補正器は、
前記高速処理部で処理されたパルス間の時間間隔が短い場合には補正計算を行わない、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか一項に記載の放射線計測装置。
【請求項12】
前記放射線検出器の温度を測定する温度測定器をさらに備え、
前記パイルアップ補正器は、演算した波高の推定値から、前記温度測定器が測定した温度とあらかじめ記憶された波高値と温度の相関関係に基づいて、温度依存の影響を除いた波高値を推定する、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか一項に記載の放射線計測装置。
【請求項13】
前記第2の出力端子に接続された電流増幅器を備え、
前記高速処理部は、前記電流増幅器の出力を閾値と比較し検出信号を出力する波高弁別器を有する、
を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の放射線計測装置。
【請求項14】
一個の弁別パルス信号に対し多数のアナログディジタル変換信号を生成するトリガ生成器と、
前記多数のアナログディジタル変換信号により得た多数のディジタル変換値の平均値を演算
して出力するための
第2のアナログディジタル変換器と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1ないし請求項13に記載の放射線計測装置。
【請求項15】
前記波高弁別器の出力を受け入れてパイルアップ数を出力するパイルアップ数測定器と、
前記パイルアップ数測定器の出力と前記パイルアップ補正判定器の出力とから不感時間を算出し積算する不感時間積算器と、
積算された不感時間に基づいて前記スペクトル測定器が出力した
前記波高スペクトルを不感時間補正するためのスペクトル補正器と、
をさらに備えることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の放射線計測装置。
【請求項16】
放射線検出器が、測定対象とする放射線を検出しパルス状の電流信号を発生する放射線検出ステップと、
信号処理装置が、前記測定対象とする放射線のエネルギースペクトルを出力する信号処理ステップと、
を有する放射線計測方法であって、
前記信号処理ステップは、
通常速度処理部が、前記放射線検出器からの信号を処理する通常処理ステップと、
高速処理部が、前記放射線検出器からの信号を前記通常速度処理部より高速で処理する高速処理ステップと、
判定処理部が、前記通常速度処理部、前記高速処理部からの情報に基づいて判定処理を行い前記測定対象とする放射線のエネルギースペクトルを出力する判定処理ステップと、
を有し、
前記判定処理ステップは、
TOTパイルアップ判定器が、前記高速処理部が出力する高速整形波形から取得されるパルス幅と前記通常速度処理部が出力する通常整形波形のピーク値との組み合わせが、当該判定処理部が収納する判定表で規定する範囲内にあるか否かによってパイルアップの有無を判定するパイルアップ判定ステップと、
パイルアップ補正判定器が、パイルアップの補正の可否を判定するパイルアップ補正判定ステップと、
パイルアップ補正器が、前記補正の可否の判定結果に基づいてパイルアップ補正を行うパイルアップ補正ステップと、
を有することを特徴とする放射線計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線計測装置および放射線計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、放射線計測装置においては、放射線が放射線検出器の有感部分にて損失したエネルギーを電気信号に変換して読み出し、読みだした信号の大きさからエネルギー損出を測定する。
【0003】
このようなエネルギー分析型の放射線計測装置としては、放射線検出器から読み出した信号を、電荷有感増幅器と波形整形増幅器を用いて、その振幅がエネルギーに比例し、1個の放射線の検出に対して1個発生するようなパルス状の電気信号(整形パルス信号と称する)に変換し、整形パルス信号の波高を測定することでエネルギー損失を求める波高分析器というものがある。
【0004】
特に、放射線が放射線検出器に入射する頻度が高い場合には、個々の整形パルス信号が重なり合う事象(パイルアップ)を生じるため、波高が正常に測定できず、エネルギー損失の測定精度が悪化する。このようなパイルアップが生じた場合でも高い精度でエネルギーの損失を測定できるような処理として、ある1個の放射線を計測した後、次の1個の放射線を検出するまでの時間が一定以上短い場合にパイルアップが生じることを利用し、放射線を検出した時間間隔が短い場合にエネルギー損失の測定を行わないことで、パイルアップした信号を除去する方式がある。
【0005】
また別の方法としては、整形パルス信号が、波形整形増幅器の整形時定数に応じて定まる基本波形を電圧方向に伸縮した形となることを利用して、整形パルス信号が波高弁別回路の弁別閾値を超過する時間(タイムオーバー・スレッショルド)を測定し、タイムオーバー・スレッショルドと波高の関係が適正か否かを判定することによりパイルアップを検出する方式がある。
【0006】
上述の方法は、パイルアップが生じた信号に対しては、エネルギー損失を測定しないような排他的な処理であるが、これに対して、次の2つの例のように、パイルアップが生じた信号に対して補正演算を行うことでエネルギー損失の推定値を得る方法もある。
【0007】
第一の例は、パルス状の信号の波形を表わす理論式と、第一のパルス状の信号と重畳している第二のパルス状の信号の時間差を用いて、第二のパルス状の信号がピークに達した時刻において第一のパルス状の信号の影響により生じるオフセットを算出し、その値を減算してエネルギー損失の推定値を得るというものである。
【0008】
第二の例は、ゲートが開いている時間の信号の積分を行うゲート積分器を用いて、ゲートを開く時間を動的に制御し、短い時間での積分値と全時間積分値の関係を参照することで、エネルギー損失の推定値を得るというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5611357号公報
【文献】特許第4160275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述の、パイルアップが生じた信号に対してはエネルギー損失を測定しないような排他的な処理を行う技術においては、パイルアップの発生頻度が増えるほど、エネルギー損失の測定をし損なう割合が多くなり、エネルギー損失と検出数の関係を表わすエネルギースペクトルにおいて、検出数の統計精度が低いことが課題であった。
【0011】
また、前述の、タイムオーバー・スレッショルドと波高の関係が適正か否かを判定することによりパイルアップを検出する方式の技術においては、トリガ信号が重なるほど短い間隔でパルス状の信号が重なった場合にはパイルアップの検出が困難であった。
【0012】
そこで、本発明の実施形態は、パイルアップが頻繁に生じるような高い検出頻度の環境下においても、エネルギー損失量の分析精度と検出数の統計精度の高いエネルギースペクトルを取得可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の目的を達成するため、本実施形態に係る放射線計測装置は、測定対象とする放射線を検出し第1の出力端子および第2の出力端子からパルス状の電流信号を発生する放射線検出器と、前記測定対象とする放射線のエネルギースペクトルを出力する信号処理装置と、を備え、前記信号処理装置は、前記放射線検出器からの信号を処理する通常速度処理部と、前記放射線検出器からの信号を前記通常速度処理部より高速で処理する高速処理部と、前記通常速度処理部、前記高速処理部からの情報に基づいて判定処理を行い前記測定対象とする放射線のエネルギースペクトルを出力する判定処理部と、を具備し、前記判定処理部は、前記高速処理部が出力する高速整形波形から取得されるパルス幅と前記通常速度処理部が出力する通常整形波形のピーク値との組み合わせが、当該判定処理部が収納する判定表で規定する範囲内にあるか否かによってパイルアップの有無を判定するTOTパイルアップ判定器と、パイルアップの補正の可否を判定するパイルアップ補正判定器と、前記補正の可否の判定の結果に基づいてパイルアップ補正を行うパイルアップ補正器と、を有することを特徴とする。
【0014】
また、本実施形態に係る放射線計測方法は、放射線検出器が、測定対象とする放射線を検出しパルス状の電流信号を発生する放射線検出ステップと、信号処理装置が、前記測定対象とする放射線のエネルギースペクトルを出力する信号処理ステップと、を有する放射線計測方法であって、前記信号処理ステップは、通常速度処理部が、前記放射線検出器からの信号を処理する通常処理ステップと、高速処理部が、前記放射線検出器からの信号を前記通常速度処理部より高速で処理する高速処理ステップと、判定処理部が、前記通常速度処理部、前記高速処理部からの情報に基づいて判定処理を行い前記測定対象とする放射線のエネルギースペクトルを出力する判定処理ステップと、を有し、前記判定処理ステップは、TOTパイルアップ判定器が、前記高速処理部が出力する高速整形波形から取得されるパルス幅と前記通常速度処理部が出力する通常整形波形のピーク値との組み合わせが、当該判定処理部が収納する判定表で規定する範囲内にあるか否かによってパイルアップの有無を判定するパイルアップ判定ステップと、パイルアップ補正判定器が、パイルアップの補正の可否を判定するパイルアップ補正判定ステップと、パイルアップ補正器が、前記補正の可否の判定結果に基づいてパイルアップ補正を行うパイルアップ補正ステップと、を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1の実施形態に係る放射線計測装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】第1の実施形態に係る放射線計測装置におけるTOTパイルアップ補正判定器での判定ロジックの例を示す判定表の一例である。
【
図3】第1の実施形態に係る放射線計測装置におけるパイルアップ補正判定器での判定ロジックの例を示すブロック図である。
【
図4】第1の実施形態に係る放射線計測方法の手順を示すフロー図である。
【
図5】第1の実施形態に係る放射線計測装置によりディジタル変換値を得るまでの各信号の様相を示す波形図である。
【
図6】第1の実施形態に係る放射線計測装置によるTOTパイルアップ判定器での判定を説明する第1の波形図である。
【
図7】第1の実施形態に係る放射線計測装置によるTOTパイルアップ判定器での判定を説明する第2の波形図である。
【
図8】第1の実施形態に係る放射線計測装置によるパイルアップ補正判定器での補正判定を説明する第1の波形図である。
【
図9】第1の実施形態に係る放射線計測装置によるパイルアップ補正判定器での補正判定を説明する第2の波形図である。
【
図10】第1の実施形態に係る放射線計測装置による波形スペクトル補正の例を示すスペクトル図であり、(a)は補正前、(b)は補正後を示す。
【
図11】第1の実施形態に係る放射線計測装置の変形例の構成を示すブロック図である。
【
図12】第2の実施形態に係る放射線計測装置の構成を示すブロック図である。
【
図13】第2の実施形態に係る放射線計測装置におけるパイルアップ補正判定器での判定ロジックの例を示すブロック図である。
【
図14】第3の実施形態に係る放射線計測装置の構成を示すブロック図である。
【
図15】第4の実施形態に係る放射線計測装置の構成を示すブロック図である。
【
図16】第5の実施形態に係る放射線計測装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る放射線計測装置について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0017】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る放射線計測装置100の構成を示すブロック図である。
【0018】
放射線計測装置100は、放射線検出器1および信号処理装置101を有する。
【0019】
放射線検出器1は、入射した放射線が失ったエネルギーを、負電荷キャリアと正電荷キャリアに変換する。正電荷および負電荷のキャリアは、当該放射線検出器1内の電場によってアノード端子とカソード端子にそれぞれ誘導され、それぞれの端子からパルス状の電流信号として出力される。なお、それぞれの端子からの出力電流は、互いに絶対値が等しく逆の極性の電流である。放射線検出器1の一方の出力は、電荷有感増幅器121に出力され、他方の出力は、高利得型電荷有感増幅器111に出力される。
【0020】
信号処理装置101は、たとえば計算機システムであるが、以下に示すそれぞれの要素が独立した計装機器、演算器、あるいは記憶装置であってもよい。
【0021】
信号処理装置101は、高速処理部110、通常速度処理部120、情報取得部130、および判定処理部140を有する。
【0022】
高速処理部110は、高利得型電荷有感増幅器111、高速波形整形増幅器112、波高弁別器113、および、パルス間隔測定器114を有する。
【0023】
通常速度処理部120は、電荷有感増幅器121、および波形整形増幅器122を有する。
【0024】
情報取得部130は、パルス幅測定器131、パイルアップ数測定器132、計数器133を有する。
【0025】
判定処理部140は、トリガ生成器141、アナログディジタル(AD)変換器142、タイムオーバー・スレッショルド(TOT)パイルアップ判定器143、パイルアップ補正判定器145、パイルアップ補正器146、スペクトル測定器147、およびスペクトル補正器148を有する。
【0026】
まず、通常速度処理部120について説明する。
【0027】
電荷有感増幅器121は、放射線検出器1からの出力を受け入れて、電荷電圧変換信号を出力する。具体的には、放射線検出器1から入力したパルス状の電流信号をコンデンサに蓄積し、総電荷量に比例する波高を有するパルス状の電圧信号を出力する。なお、コンデンサに蓄積された電荷は、コンデンサに並列に設けられた抵抗器を通じて、抵抗器の抵抗値とコンデンサの容量の積による時定数で放電される。電荷有感増幅器121の出力、すなわち電荷電圧変換信号の波形は、急峻に立ち上がり緩やかに減衰する形状となる。
【0028】
波形整形増幅器122は、電荷有感増幅器121からの電荷電圧変換信号を受け入れて、整形パルス信号を出力する。詳細には、波形整形増幅器122は、入力された電荷電圧変換信号を、一定の時定数(整形時定数)を持つハイパスフィルタとローパスフィルタを通すことにより、整形時定数の周波数成分を大きく持つような、時間幅が一定で比較的短い時間幅のパルス状の整形パルス信号を出力する。この整形パルス信号の波形を、通常整形波形と呼ぶこととする。
【0029】
次に、高速処理部110について説明する。
【0030】
高利得型電荷有感増幅器111は、放射線検出器1の他方の出力を受け入れて、高速整形パルス信号を出力する。高利得型電荷有感増幅器111は、電荷有感増幅器121と同様の機能を有し同様に電荷電圧変換信号を出力するが、電荷蓄積用のコンデンサの容量が比較的小さいため、同じ電荷量の入力に対して電荷電圧変換信号を出力する電荷電圧変換信号よりも大きな値の高利得電荷電圧変換信号を出力する。この高速整形パルス信号の波形を、高速整形波形と呼ぶこととする。
【0031】
高速波形整形増幅器112は、高利得型電荷有感増幅器111からの高利得電荷電圧変換信号を受け入れて、高速整形パルス信号を出力する。高速波形整形増幅器112は、波形整形増幅器122と同様の機能を有するが、整形時定数が波形整形増幅器122の整形時定数より短いため、波形整形増幅器122の出力である整形パルス信号よりも時間幅の短いパルス状の高速整形パルス信号を出力する。
【0032】
波高弁別器113は、高速波形整形増幅器112の出力を受け入れて、弁別パルス信号を出力する。詳細には、波高弁別器113は、入力された高速整形パルス信号と、波高弁別器113に収納されたあるいは波高弁別器113が外部から読み取った閾値との大小関係を比較し、大小関係に応じた論理信号である弁別パルス信号を出力する。ここで、入力された高速整形パルス信号が閾値より大きな場合はHレベルを出力し、入力された高速整形パルス信号が閾値以下の場合はLレベルを出力する。
【0033】
次に、情報取得部130は、必要情報を採取する。すなわち、情報取得部130においては、高速処理部110での処理の結果から、パルス幅測定器131がパルス幅を、パイルアップ数測定器132がパイルアップ数を、計数器133が、計数値を採取する。
【0034】
パルス幅測定器131は、波高弁別器113の出力を受け入れて、パルス幅を出力する。詳細には、パルス幅測定器131は、波高弁別器113からの出力が立ち上がった時点、すなわちLレベルからHレベルに移行した時点から、立ち下がった時点、すなわちHレベルからLレベルに移行した時点までの時間を測定し、ディジタル化した測定値をパルス幅として出力する。
【0035】
トリガ生成器141は、波高弁別器113の出力を受け入れて、アナログディジタル信号を出力する。具体的には、トリガ生成器141は、波高弁別器113の出力がLレベルからHレベルに遷移すると、その時点から所定の時間の後に、AD変換器142に、アナログディジタル変換(AD変換)を行わせるためのAD変換指令信号を出力する。ここで、所定の時間は、波形整形増幅器122が出力する整形パルス信号が、その最大値に到達する時点までの時間である。この所定の時間は予め波形に基づいて設定される。
【0036】
AD変換器142は、トリガ生成器141からのAD変換指令信号を受けて、ディジタル変換値を出力する。詳細には、AD変換器142は、トリガ生成器141からのAD変換指令信号を受けると、その時点の波形整形増幅器122が出力する整形パルス信号の瞬時値をディジタル値に変換して、ディジタル変換値として出力する。前述のように、トリガ生成器141がAD変換信号を出力するタイミングが調整されていることにより、ディジタル変換値は波高値に相当する値となる。
【0037】
TOTパイルアップ判定器143は、パルス幅測定器131の出力、およびAD変換器142の出力を受け入れて、パイルアップの分離の可否を判断し、判定結果を出力する。詳細には、パイルアップが生じていない信号に関して、パルス幅測定器131が出力するパルス幅と、AD変換器142が出力するディジタル変換値の正常な相関関係をあらかじめ評価し、各パルス幅について対応するディジタル変換値がとり得る最大値、最小値のテーブルデータを判定表として収納している。
【0038】
図2は、第1の実施形態に係る放射線計測装置におけるパイルアップ補正判定器での判定ロジックの例を示す判定表の一例である。
【0039】
第1列は、高速処理部110の処理に基づいて、パルス幅測定器131が算出した高速波形整形増幅器112の出力波形のパルス幅である。第2列および第3列は、通常速度処理部120の処理に基づいて、AD変換器142が指定された時点での波形整形増幅器122からの整形パルス信号を波高値に対応するディジタル変換値として出力した値である。第2列はその最小値を、第3列はその最大値を示す。
【0040】
TOTパイルアップ判定器143は、パルス幅測定器131から出力されたパルス幅について、判定表を満たさない場合は、パイルアップ「有り」を出力し、判定表を満たす場合は、パイルアップ「無し」を出力する。
【0041】
TOTパイルアップ判定器143は、パイルアップが生じていない信号に関して、パルス幅測定器131が出力するパルス幅と、AD変換器142が出力するディジタル変換値の正常な相関関係を予め評価し、各パルス幅に対応するディジタル変換値がとりうる最大値、最小値をテーブル化して保管している。判定結果は、パイルアップ判定結果として出力される。
【0042】
パルス間隔測定器114は、波高弁別器113の出力を受け入れて、パルス間隔を出力する。すなわち、パルス間隔測定器114は、波高弁別器113が、放射線の検出により次々と出力する弁別パルス信号間の時間間隔を測定し、パルス間隔として出力する。パルス間隔は、ディジタル回路の制御クロックの周期をカウントするカウンタを使用して、クロック周期を単位として測定する。
【0043】
パイルアップ数測定器132は、波高弁別器113の出力を受け入れて、パイルアップ数を出力する。パイルアップ数測定器132は、波高弁別器113から弁別パルス信号が入力されない場合は、パイルアップ数0個を出力する。波高弁別器113から1個のパルス信号が入力された場合は、パイルアップ数1個を出力する。さらに、パイルアップ数が0個から1個に変化した際には、内部でタイマによるカウントを開始する。
【0044】
このタイマの設定時間は、波形整形増幅器122が出力する整形パルス信号1個の時間幅に相当する値にあらかじめ設定しておく。設定時間が径化したら、タイマは停止して出力するパイルアップ数を1個から0個に変更する。
【0045】
設定時間が経過する前に波高弁別器113から次の弁別パルス信号が入力された場合は、タイマの残り時間を最初の設定時間に初期化して、再度カウントを開始するとともに、出力するパイルアップ数を1個から2個に変更する。
【0046】
このようにして、現在のパイルアップ数がN個(Nは自然数)のとき、タイマの設定時間を経過した場合は、出力するパイルアップ数をN個から0個に変更する。タイマの設定時間を経過する前に波高弁別器113から次の弁別パルス信号が入力された場合は、タイマの残り時間を最初の設定時間に初期化し、再度カウントを開始するとともに、出力するパイルアップ数をN個から(N+1)個に変更する。
【0047】
パイルアップ補正判定器145は、TOTパイルアップ判定器143の出力と、パルス間隔測定器114の出力と、パイルアップ数測定器132の出力を受け入れて、補正要否判定結果を出力する。
【0048】
図3は、第1の実施形態に係る放射線計測装置におけるパイルアップ補正判定器での判定ロジックの例を示すブロック図である。
【0049】
パイルアップ補正判定器145は、次の(条件1)および(条件2)のAND条件が成立する場合は、「補正無し」の判定結果を出力する。
【0050】
(条件1)パイルアップ数測定器132から入力されるパイルアップ数が1個である。
【0051】
(条件2)TOTパイルアップ判定器143が出力するパイルアップ判定結果が「無し」である。
【0052】
また、パイルアップ補正判定器145は、次の(条件1a)および(条件2)のAND条件が成立する場合は、「補正有り」の判定結果を出力する。
【0053】
(条件1a)パイルアップ数測定器132から入力されるパイルアップ数が2個以上で上限値以下である。
【0054】
(条件2)TOTパイルアップ判定器143が出力するパイルアップ判定結果が「無し」である。
【0055】
さらに、パイルアップ補正判定器145は、次の(条件1b)および(条件2a)のAND条件が成立する場合は、「補正不可」の判定結果を出力する。
【0056】
(条件1b)パイルアップ数測定器132から入力されるパイルアップ数が上限値を超える数である。
【0057】
(条件2a)TOTパイルアップ判定器143が出力するパイルアップ判定結果が「有り」である。
【0058】
また、パイルアップ補正判定器145は、次の(条件1b)および(条件2a)のAND条件が成立する場合は、「補正不可」の判定結果を出力する。
【0059】
(条件1a)パイルアップ数測定器132から入力されるパイルアップ数が2個以上で上限値以下である。
【0060】
(条件2a)TOTパイルアップ判定器143が出力するパイルアップ判定結果が「有り」である。
【0061】
パイルアップ補正判定器145は、次の(条件1b)および(条件2)のAND条件が成立する場合は、「補正有り」の判定結果を出力する。
【0062】
(条件1b)パイルアップ数測定器132から入力されるパイルアップ数が上限値を超える数である。
【0063】
(条件2)TOTパイルアップ判定器143が出力するパイルアップ判定結果が「無し」である。
【0064】
パイルアップ補正器146は、AD変換器142の出力と、パルス間隔測定器114の出力と、パイルアップ数測定器132の出力と、パイルアップ補正判定器145の出力とを受け入れて、補正ディジタル値を出力する。
【0065】
パイルアップ補正器146は、パイルアップ補正判定器145の判定結果が「補正なし」であった場合には、AD変換器142から入力されるディジタル変換値を出力する。また、補正要否判定が「補正あり」であった場合には、パルス間隔測定器114からのパルス間隔と、パルス数測定器12からのパイルアップ数と、AD変換器142から入力されるディジタル変換値を用いて、未定係数法に従った補正演算式によりパイルアップの影響を補正した補正ディジタル値を演算し出力する。
【0066】
以下に、未定係数法による補正演算の例を示す。この例では、3個の整形パルス信号(第1ないし第3パルス)の重畳に関しての補正を行う場合を示す。
【0067】
パイルアップ数が上限値以上で、補正要否判定結果が「補正有り」の場合は、入力されるディジタル変換値のうち、入力の早い順に上限値と同数分のディジタル変換値に対して補正を行う。すなわち、たとえば、パイルアップ数が4以上であった場合は、上限値である3個に対応する最初の3個について補正を行い、残りは破棄する。
【0068】
パイルアップ補正器146の内部には、波形整形増幅器122が出力する整形パルス信号の典型的な信号波形が、最大値を1とした信号電圧の相対値(相対電圧)と、最大値に達した点を0とした時刻の対応として、ルックアップテーブルとして保存されている。このテーブル化した波形を、以下、時間依存の形状関数f(t)と表現する。
【0069】
このとき、整形パルス信号が重畳した信号波形は、重ね合わせの理から、個々の整形パルス信号を算術的に重ね合わせた形状となる。
【0070】
このことから、パルス間隔測定器114が出力した第1パルスと第2パルスのパルス間隔をΔt12、第2パルスと第3パルスのパルス間隔をΔt23とし、さらに3個の整形パルス信号のそれぞれの真の波高値を、VH1、VH2、VH3とすれば、AD変換器142が出力するディジタル変換値V1、V2、V3は、以下のように表すことができる。
【0071】
V1=VH1+VH2・f(-Δt12)+VH3・f(-Δt12-Δt23)
V2=VH1・f(Δt12)+VH2+VH3・f(-Δt23)
V3=VH1・f(Δt12+Δt23)+VH2・f(Δt23)+VH3
以上の3つの式を行列式で表し、逆行列をとれば、次の式(1)が得られる。
【0072】
【0073】
式(1)中の逆行列を計算すると次の式(2)を得る。ただし、Δt12+Δt23は、第1パルスと第3パルス間の時間間隔なのでΔt13としている。
【0074】
【0075】
ここで、式(2)には、f(t)・f(-t)の項が複数あるので、これを新たな関数g(t)に置き換えて、このように定義したg(t)の形状を、f(t)と同様にルックアップテーブルに保存し参照することでもよい。この場合、式(2)は次の式(3)のように表される。
【0076】
【0077】
式(2)または式(3)の計算により得られたVH1、VH2、VH3を補正ディジタル値と呼ぶこととする。
【0078】
以上の例では、取り扱うパイルアップ数が3個の場合であるため3行3列の行列演算を行った。取り扱うパイルアップ数がM個の場合にはM行M列の行列演算を行うことになる。
【0079】
スペクトル測定器147は、パイルアップ補正器146の出力を受け入れて、波高スペクトルを出力する。すなわち、スペクトル測定器147は、パイルアップ補正器146が出力した補正ディジタル値を単位時間(測定の一単位とする時間)ごとに集計し、ディジタル値の大きさと統計数の対応関係としてヒストグラム化した波高スペクトルを作成して
出力する。
【0080】
計数器133は、波高弁別器113の出力とTOTパイルアップ測定器10の出力を受け入れて、計数値を出力する。すなわち、計数器133は、単位時間の間に波高弁別器113が出力する弁別パルス信号の数を数え上げた値に、TOTパイルアップ判定器143がパイルアップ判定結果「有り」を出力した回数を加えた値を計数値として出力する。
【0081】
スペクトル補正器148は、スペクトル測定器147の出力と計数器10の出力を受け入れて、補正波高スペクトルを出力する。すなわち、スペクトル補正器148は、スペクトル測定器147が出力した波高スペクトルの各値に対し、計数器133が出力した計数値を、波高スペクトルに含まれる統計数の総数(補正ディジタル値の総数)で除算することにより得られるスペクトル補正係数を乗じて、補正波高スペクトルとして出力する。
【0082】
図4は、第1の実施形態に係る放射線計測方法の手順を示すフロー図である。また、
図5は、第1の実施形態に係る放射線計測装置によりディジタル変換値を得るまでの各信号の様相を示す波形図である。
【0083】
以下では、3個の放射線を検出し、3個のパルス状の電流信号(第1パルス、第2パルス、第3パルス)が放射線検出器1に生じた場合を示している。以下、
図5の波形図を参照しながら本実施形態に係る放射線計測方法の手順を説明する。なお、以下では、説明の都合上、時間の流れに従った処理の流れとはせずに、それぞれの信号の時間的な変化を説明して、その処理の流れを説明する場合がある。
【0084】
まず、放射線検出器1による検出がなされる。この結果、第1パルス、第2パルス、第3パルスとして、それぞれのパルスに電流信号A、Bが発生する(ステップS01)。電流信号Aと電流信号Bとは、放射線検出器1の2つの極の端子からの信号であり、互いに極性が逆の信号である。電流信号Aは、電荷有感増幅器121に出力され高速処理される一方、電流信号Bは、高利得型電荷有感増幅器111に出力され、通常の速さでの処理がなされる。
【0085】
まず、高速処理の流れとしては、高利得型電荷有感増幅器111が、受け入れた電流信号Bを電圧信号Eに変換する(ステップS11)。ここで、高利得型電荷有感増幅器111では、コンデンサに直ちに電荷が蓄積されるため、電流信号Bの総電荷量に応じた大きさの電荷電圧変換信号が立ち上がる。高利得型電荷有感増幅器111のコンデンサの容量は、電荷有感増幅器121のコンデンサの容量よりも小さいため、出力される電圧レベルが大きい。
【0086】
次に、高速波形整形増幅器112が、高利得型電荷有感増幅器111の出力を受け入れて、高速整形パルス信号Eを出力する(ステップS12)。
【0087】
次に、波高弁別器113は、高速整形パルス信号Eと閾値とを比較し、閾値を超えた時間がHレベルとなるような弁別パルス信号Fを出力する(ステップS13)。
【0088】
パルス間隔測定器114は、弁別パルス信号Fの間隔を測定し、測定したパルス間隔を出力する(ステップS14)。
【0089】
一方、通常の速さの処理の流れとしては、電荷有感増幅器121が、受け入れた電流信号Aを電圧信号Cに変換する(ステップS21)。
【0090】
次に、波形整形増幅器122が、電荷有感増幅器121の出力である電圧信号Cを受け入れて、整形パルス信号Hを出力する(ステップS22)。
【0091】
また、これらのステップに平行して、波高弁別器113の出力を受けて行われる情報採取の手順がある。
【0092】
第1は、パルス幅測定器131による弁別パルス信号Fのパルス幅の測定である(ステップS31)。
【0093】
第2は、パイルアップ数測定器132によるパイルアップ数の測定である(ステップS32)。
【0094】
第3は、計数器133による検出数のカウントである(ステップS33)。
【0095】
次に、高速処理の流れ(ステップS11ないしステップS14)の結果と、通常の速さの処理の流れ(ステップS21および22)の結果、および上記のステップS31ないしS33のそれぞれの結果に基づいた、判定処理の流れとなる。
【0096】
まず、トリガ生成器141が、波高弁別器113からの弁別パルス信号Fを受け入れて一定の遅延時間の経過後に、AD変換指令を出力する(ステップS41)。
【0097】
AD変換器142は、トリガ生成器141からAD変換指令が出力されると、波形整形増幅器122から出力されている整形パルス信号Hを受け入れてAD変換し、ディジタル変換値として出力する(ステップS42)。上述の遅延時間は、整形パルス信号Hが最大値に達するときにAD変換が行われるように、調整されているため、ディジタル変換値は、波形の最大値となる。すなわち、整形パルス信号Hの波高値をディジタル値に変換したディジタル変換値を得ることができる。
【0098】
図5の第1のパルス間隔、第2のパルス間隔、第1のディジタル変換値、第2のディジタル変換値、第3のディジタル変換値は、それぞれ、式(1)におけるΔt
12、Δt
23、V
1、V
2、V
3に対応する。
【0099】
次に、TOTパイルアップ判定器143が、パイルアップの分離の可否を判定する(ステップS43)。この判定について、
図6および
図7で示す2つのケースでTOTパイルアップ判定器143の判定内容を説明する。
【0100】
図6は、第1の実施形態に係る放射線計測装置によるTOTパイルアップ判定器での判定を説明する第1の波形図である。
図6では、大きさの異なる第1ないし第3パルスの応答を模式的に示している。
【0101】
高速整形パルス信号Eの波形は、時間幅が同一で、放射線検出器1が出力するパルス状の電流信号Bの総電荷量に応じて、電圧方向に伸縮したような形状となる。したがって、波高弁別器113にて閾値との比較を行った際に、入力信号が大きくなるほど、閾値を超過する時間が長くなるため、弁別パルス信号Fのパルス幅が長くなる。
【0102】
これにより、
図6において、パルス幅の大小関係は、第1パルス幅、第2パルス幅、第3パルス幅となるにつれて大きくなり、第3パルス幅が最大である。このように、TOTパイルアップ判定器143は、大きさの異なる信号について、先に示した判定表(
図2)を用いて、パルス幅と整形パルス信号Fの波高値の関係が判定表の範囲にあるか否かを監視する。判定表の範囲を外れる場合は、TOTパイルアップ判定器143は、パイルアップ「有り」を出力する。
【0103】
図7は、第1の実施形態に係る放射線計測装置によるTOTパイルアップ判定器での判定を説明する第2の波形図である。
図7では、2個の高速整形パルス信号E(第1パルス、第2パルス)が重畳する形でパイルアップを生じた場合の応答と、1個のパルス信号(第3パルス)を比較した例である。
【0104】
図7において、第1パルスと第2パルスの波高は同程度の大きさであるが、弁別パルス信号のパルス幅は異なり、第1パルスのほうが第2パルスよりパルス幅が大きい。この波高値の関係が、判定表の範囲を超える場合は、パイルアップ「有り」と判定する。
【0105】
次に、パイルアップ補正判定器145が、パイルアップ補正の要否を判定する(ステップS44)。すなわち、パイルアップ補正判定器145は、TOTパイルアップ判定器143の出力と、パルス間隔測定器114の出力と、パイルアップ数測定器132の出力を受け入れて、補正要否判定結果を出力する。
【0106】
図8は、第1の実施形態に係る放射線計測装置によるパイルアップ補正判定器での補正判定を説明する第1の波形図である。
【0107】
図8は、2個の整形パルス信号H(第1パルスおよび第2パルス)がパイルアップした場合と、4個の整形パルス信号H(第3ないし第6パルス)がパイルアップした場合の信号波形の例である。
【0108】
ここで、パイルアップ補正判定器145のパイルアップ数の上限値を3個に設定し、TOTパイルアップ判定器143は「無し」を出力したものとする。
【0109】
当初、信号がないため、パイルアップ数はゼロ個である。前述のように、弁別パルス信号が生じた場合に、パイルアップ数を1つ増やしてタイマの駆動を開始し、タイマが設定時間の経過を測定し終える前に次の弁別パルス信号が生じれば、パイルアップ数をさらに1個増やすような動作を基本とする。一定時間が経過してタイマの残り時間がゼロになると、それまでのパイルアップ数をリセットし、ゼロに戻す。リセットする直前のパイルアップ数により、補正の要否を判断する。
【0110】
図8において、第1パルス、第2パルスについては、リセット直前のパイルアップ数が2であり上限値以下であるので、「補正有り」を判定結果とする。一方、第3ないし第6パルスについては、リセット直前のパイルアップ数が4個であり、上限値の3を超えているため、「補正不可」を出力する。
【0111】
図9は、第1の実施形態に係る放射線計測装置によるパイルアップ補正判定器での補正判定を説明する第2の波形図である。
【0112】
図9は、第6パルスの発生が
図8の場合より遅い点のみが、
図8と異なっている。
図9に示すように、第5パルスと第6パルスの間隔が長いため、第5パルスから得たディジタル値は第6パルスによる影響を受けていない。このように、第5パルスと第6パルスの間隔が、所定の閾値よりも長い場合は、タイマをリセットする直前のパイルアップ数が上限値を超えていても、「補正有り」と判定する。この所定の域値は、波形の性質等に基づいて設定してもよく、たとえば、整形パルス信号の立ち上がり時間程度の値としてもよい。
【0113】
図10は、第1の実施形態に係る放射線計測装置による波形スペクトル補正の例を示すスペクトル図であり、(a)は補正前、(b)は補正後を示す。すなわち、
図10(a)は、スペクトル測定器147が生成し出力する波高スペクトル、
図10(b)は、スペクトル補正器148が波高スペクトルを補正し出力する補正波高スペクトルの例を示している。
図10(a)および(b)のそれぞれの横軸は波高を、縦軸は頻度などの統計数を示す。
【0114】
波高スペクトルは、波高の測定範囲をK個のビンに分割し、ヒストグラム化して波高値と統計数の関係を表したものである。各ビンの統計数を、N1、N2、・・・、Nkのように表す。ただしkは最大のビン番号である。
【0115】
このとき、計数器133が出力した計数値NCを、各ビンの統計数をすべて合計した値で除した値を、式(4)のように補正係数Aとして、波高スペクトルのすべてのビンの値に乗じ、これにより得られる各ビンの値を用いて補正波高スペクトルとする。
【0116】
A=NC/ΣNi ・・・(4)
ただし、Σは、iが1からkまでの和を表す。
【0117】
本実施の形態によれば、パルス間隔測定器114とパイルアップ補正器146により、パイルアップが生じた場合でも、比較的容易に実行が可能な四則演算のみの補正演算により、本来の波高値を得ることができる。
【0118】
また、高速波形整形増幅器112により高速に整形した信号について、波高弁別器113とパイルアップ測定器9を使用し、タイムオーバースレッショルド値(パルス幅)からパイルアップの発生を判定することで、高速に整形した信号が重なるような極めて短い間隔でパイルアップが発生した場合であっても、パイルアップの発生を検出することができる。
【0119】
さらに、放射線検出器1の他方の端子(波高を測定するための信号を読み出す端子とは異なる端子)から信号を読み出して、高利得型電荷有感増幅器111と高速波形整形増幅器112を使用することで、波高弁別器113に立ち上がりの速いパルス信号が入力される。その結果、波高弁別器113に入力される高速整形パルス信号が立ち上がり始めてから閾値に到達するまでの時間がより短くなり、より正確なタイミングでAD変換信号を生成することができる。
【0120】
加えて、計数器133とTOTパイルアップ判定器143とスペクトル補正器148を用いて波高スペクトルの補正を行うことで、補正ディジタル値が得られない場合が一定の割合で生じていても、統計数が補正された波高のスペクトルを得ることができる。ここで、波高はエネルギーに換算できることからエネルギースペクトルを得ることができる。
【0121】
図11は、第1の実施形態に係る放射線計測装置の変形例の構成を示すブロック図である。この変形例においては、高速波形整形増幅器112の入力として、高利得型電荷有感増幅器111の出力に代えて、電荷有感増幅器121の出力を分岐して受け入れる構成である。このように高速処理部110を簡素化した構成であっても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0122】
以上のように、本実施形態によれば、パイルアップが頻繁に生じるような検出頻度の高い環境下であっても、高い精度でエネルギースペクトルを得ることができる。
【0123】
[第2の実施形態]
図12は、第2の実施形態に係る放射線計測装置100aの構成を示すブロック図である。
【0124】
本実施形態は、第1の実施形態の変形である。本第2の実施形態に係る放射線計測装置100aは、第1の実施形態におけるパイルアップ補正判定器145およびパイルアップ補正器146に代えて、パイルアップ補正判定器145aおよびパイルアップ補正器146aを、それぞれ有する。これ以外は、第1の実施形態と同様である。
【0125】
図13は、第2の実施形態に係る放射線計測装置100dにおけるパイルアップ補正判定器での判定ロジックの例を示すブロック図である。第1の実施形態におけるパイルアップ補正判定器145の処理内容に加えて、パルス間隔測定器114の出力情報に基づく処理が追加されている。
【0126】
パイルアップ補正判定器145aは、次の(条件1)および(条件2)のAND条件が成立する場合は、「補正無し」と判定する。
【0127】
(条件1)パイルアップ数測定器132から入力されるパイルアップ数が1個である。
【0128】
(条件2)TOTパイルアップ判定器143が出力するパイルアップ判定結果が「無し」である。
【0129】
また、パイルアップ補正判定器145aは、次の(条件1a)、(条件2)および(条件3)のAND条件が成立する場合は、「補正有り」と判定する。
【0130】
(条件1a)パイルアップ数測定器132から入力されるパイルアップ数が2個以上で上限値以下である。
【0131】
(条件2)TOTパイルアップ判定器143が出力するパイルアップ判定結果が「無し」である。
【0132】
(条件3)パルス間隔測定器114が入力されるパルス間隔が、整形パルス信号の立ち上がり時間を超える。
【0133】
さらに、パイルアップ補正判定器145aは、次の(条件1b)、(条件2a)および(条件3a)のOR条件が成立する場合は、「補正不可」と判定する。
【0134】
(条件1b)パイルアップ数測定器132から入力されるパイルアップ数が上限値を超える数である。
【0135】
(条件2a)TOTパイルアップ判定器143が出力するパイルアップ判定結果が「有り」である。
【0136】
(条件3a)パルス間隔測定器114が入力されるパルス間隔が、整形パルス信号の立ち上がり時間以下である。
【0137】
ただし、パイルアップ補正判定器145aは、次の(条件1b)、(条件3)および(条件4)のAND条件が成立する場合は、「補正有り」と判定する。
【0138】
(条件1b)パイルアップ数測定器132から入力されるパイルアップ数が上限値を超える数である。
【0139】
(条件3)パルス間隔測定器114が入力されるパルス間隔が、整形パルス信号の立ち上がり時間を超える。
【0140】
(条件4)パイルアップ数を3個に変更する起点となった弁別パルス信号と、4個に変更する起点となった弁別パルス信号との時間間隔に相当するパルス間隔が閾値を超える。
【0141】
ここで、(条件4)の閾値は、演算能力の制約の観点から、パイルアップ補正器146が演算可能なディジタル変換値の数の上限値としてあらかじめ設定する。
【0142】
パイルアップ補正器146aは、パイルアップ補正判定器145aから入力される補正要否判定結果が、「補正無し」であった場合には、AD変換器142から入力されるディジタル変換値を出力する。
【0143】
また、パイルアップ補正器146aは、パイルアップ補正判定器145aから入力される補正要否判定結果が、「補正有り」であった場合には、パルス間隔測定器114から受け入れるパルス間隔と、パイルアップ数測定器132から受け入れるパイルアップ数と、AD変換器142から受け入れるディジタル変換値とを用いて、簡易的に未定係数法と同等の結果を得ることができる後述する補正演算式により、パイルアップの影響を補正した補正ディジタル値を演算し出力する。
【0144】
さらに、パイルアップ補正器146aは、パイルアップ補正判定器145aから入力される補正要否判定結果が、「補正有り」であり、かつ、パイルアップ数測定器132から受け入れるパイルアップ数が上限値以上である場合には、入力されるディジタル変換値のうち、入力の早い順に上限値と同数分のディジタル変換値について補正を行う。すなわち、たとえば上限値が3個でパイルアップ数が4個以上であった場合には、最初の3個について補正を行い、残りを破棄する。
【0145】
パイルアップ補正器143aの内部には、第1の実施形態と同様に、波形整形増幅器122が出力する整形パルス信号の典型的な信号波形がルックアップテーブルとして保存されている。
【0146】
実施形態と同様に、f(t)、Δt12、Δt23、V1、V2、V3を定義し、さらに補正演算をn回実行したディジタル変換値をVH1(n)、VH2(n)、VH3(n)としたとき、補正演算式を式(5)とする。
【0147】
なお、VH1(n)=V1、VH2(n)=V2、VH3(n)=V3とする。
【0148】
VH1(n)=V1-VH2(n-1)・f(-Δt12)-VH3(n-1)・f(-Δt13)
VH2(n)=V2-VH1(n-1)・f(Δt12)-VH3(n-1)・f(-Δt23)
VH3(n)=V3-VH1(n-1)・f(Δt13)-VH2(n-1)・f(Δt23)
…(5)
式(5)は、式(1)を式(6)のように変形し、左辺のVH1をVH1(n)に、VH2をVH2(n)に、VH3をVH3(n)に置き換え、右辺のVH1をVH1(n-1)に、VH2をVH2(n-1)に、VH3をVH3(n-1)に置き換えたものである。
【0149】
VH1=V1-VH2・f(-Δt12)-VH3・f(-Δt13)
VH2=V2-VH1・f(Δt12)-VH3・f(-Δt23)
VH3=V3-VH1・f(Δt13)-VH2・f(Δt23)
…(6)
式(5)の演算を所定の回数実行し、得られたVH1(n)、VH2(n)、VH3(n)を補正ディジタル演算値とする。本例は、ディジタル変換値が3個の場合であるが、3個未満あるいは4個以上の場合も、同様にして定義される演算式を使用する。式(5)を、ディジタル変換値の個数によらないように一般化して記述した場合、パルス信号の番号をkとすれば、次の式(7)となる。
【0150】
VHk(n)=Vk-ΣVH1(n-1)・f(-Δtki)-ΣVHi(N-1)・f(Δtik) ・・・(7)
ただし、右辺第2項のΣは、iがkからNまでの和、右辺第3項のΣは、iが1から(k-1)までの和を示す。
【0151】
本実施形態によれば、パイルアップ補正器146aの補正演算が式(5)のように乗算、減算のみであり、加算、除算が不要であるため、第1の実施形態よりもさらに計算量が少ない。
【0152】
また、パイルアップ補正器146aにおいて、式(5)は特にパルス間隔が短い場合に真値に収束しないことがあるが、パルス間隔が短い場合は「補正不可」とすることにより、真値に収束しない演算を実施してしまう割合を低減する効果がある。
【0153】
[第3の実施形態]
図14は、第3の実施形態に係る放射線計測装置100bの構成を示すブロック図である。
【0154】
本実施形態は、第2の実施形態の変形である。本第3の実施形態に係る放射線計測装置100bは、第3の実施形態におけるパイルアップ補正判定器145aに代えて、第1の実施形態と同様のパイルアップ補正判定器145を有し、また、パイルアップ補正器146aに代えてパイルアップ補正器146bを有する。その他の点では、第2の実施形態と同様である。
【0155】
このように構成された本第3の実施形態の作用を、本実施形態に特有の部分についてのみ説明する。
【0156】
パイルアップ補正器146bは、式(5)により補正ディジタル値VH1(n)、VH2(n)、VH3(n)を得た際、1回前の補正計算後の値VH1(n-1)、VH2(n-1)、VH3(n-1)とのそれぞれの差分の大きさ|VH1(n)-VH1(n-1)|、|VH2(n)-VH2(n-1)|、|VH3(n)-VH3(n-1)|が規定値より小さいものかどうかを比較判定する。
【0157】
その結果、規定値以下となっていない場合は、真値に収束していないものとして補正した値を破棄し、出力しないものとする。
【0158】
本第3の実施形態によれば、パイルアップ補正器146bが正常な結果を返さない場合に、補正ディジタル値を破棄するため、全体の精度を低下させる要因を排除し、より精度の高いエネルギースペクトルを得ることができる。
【0159】
[第4の実施形態]
図15は、第4の実施形態に係る放射線計測装置100cの構成を示すブロック図である。本第4の実施形態は、第1の実施形態の変形である。
【0160】
本第4の実施形態に係る放射線計測装置100cは、第1の実施形態における高利得型電荷有感増幅器111と高速波形整形増幅器112の代わりに電流増幅器115を、トリガ生成器141に代えてトリガ生成器141aを、AD変換器142に代えてAD変換器142aを、パイルアップ補正器146に代えてパイルアップ補正器146cを、それぞれ有し、さらに放射線検出器1の温度を測定し出力する温度測定器151を有する。
【0161】
電流増幅器115は、放射線検出器1の出力受け入れて、電流増幅信号を出力する。
【0162】
トリガ生成器141aは、波高弁別器113の出力を受け入れて、多数のAD変換信号を出力する。
【0163】
AD変換器142aは、トリガ生成器141aの出力を受け入れて、多数のAD変換信号の平均値を出力する。
【0164】
パイルアップ補正器146cは、温度測定器151の出力を受け入れて、温度補正後補正ディジタル値を出力する。
【0165】
このように構成された本第4の実施形態の特有の部分の作用を以下に説明する。
【0166】
電流増幅器115は、入力されたパルス信号をそのまま増幅して、電圧信号として出力する。
【0167】
トリガ生成器141aとAD変換器142aが、波形整形増幅器122が出力する整形パルス信号の時間幅に対して十分短く、整形パルス信号のピーク付近の時間幅の中で、多数のディジタル変換値を取得し、それらの平均値を計算して出力する。
【0168】
本第4の実施形態によれば、電流増幅器115は第1の実施形態に比較して回路の規模が小さく、実装体積をより小さくすることができる。
【0169】
また、整形パルス信号のピーク付近のディジタル変換値を高速に多数測定し、それらの平均値をとることにより、ノイズによる揺らぎを抑制することができる。
【0170】
さらに、温度ドリフトの影響を除いた補正ディジタル変換値を得ることにより、より高精度の測定結果を得ることができる。
【0171】
[第5の実施形態]
図16は、第5の実施形態に係る放射線計測装置の構成を示すブロック図である。本第5の実施形態は、第1の実施形態の変形である。
【0172】
本第4の実施形態に係る放射線計測装置100dは、第1の実施形態における計数器133およびスペクトル補正器148に代えて、不感時間積算器134およびスペクトル補正器148aをそれぞれ有し、さらに温度測定器151を有する。
【0173】
不感時間積算器134は、パイルアップ数測定器132の出力と、TOTパイルアップ判定器143の出力とを受け入れて、不感時間積算値を出力する。スペクトル補正器148aは、温度測定器151の出力を受け入れて、温度補正後のスペクトル値を出力する。
【0174】
これら以外では、第1の実施形態と同様である。
【0175】
このように構成された本実施形態においては、不感時間積算器134は、パイルアップ数測定器132が出力するパイルアップ数が0個から1個に変化した時点から、タイマが設定時間を経過しパイルアップ数が0個となるまでの時間(時間A)を計測する。
【0176】
さらに、パイルアップ数が上限値となった時点からタイマが設定時間を経過しパイルアップ数が0個となるまでの時間(時間B)を計測する。
【0177】
パイルアップ数が(上限値+1)以上となり、かつパイルアップ補正判定器145が「補正有り」を判定した場合は、時間Bを不感時間積算値に加える。
【0178】
このようにして、スペクトル測定器147が一回波高スペクトルを出力するまでの間、不感時間積算器134は不感時間を積算し続ける。その後、スペクトル補正器148aにて不感時間の補正を行う。
【0179】
本実施形態によれば、不感時間積算器134とスペクトル補正器148aにより、補正ディジタル値を得られないことによる数え落としの効果を補正した波高スペクトルを得ることにより高精度の測定結果を得ることができる。
【0180】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態を説明したが、実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
【0181】
また、各実施形態の特徴を組み合わせてもよい。また、実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【0182】
実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0183】
1…放射線検出器、100…放射線計測装置、101、101a、101b、101c、101d…信号処理装置、110…高速処理部、111…高利得型電荷有感増幅器、112…高速波形整形増幅器、113…波高弁別器、114…パルス間隔測定器、115…電流増幅器、120…通常速度処理部、121…電荷有感増幅器、122…波形整形増幅器、130…情報取得部、131…パルス幅測定器、132…パイルアップ数測定器、133…計数器、134…不感時間積算器、140…判定処理部、141…トリガ生成器、142…AD変換器、143…TOTパイルアップ判定器、145、145a…パイルアップ補正判定器、146、146a、146b…パイルアップ補正器、147…スペクトル測定器、148、148a…スペクトル補正器、151…温度測定器