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7093087遺伝子組み換えヒト甲状腺刺激ホルモンを含む組成物および遺伝子組み換えヒト甲状腺刺激ホルモンを生産する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】遺伝子組み換えヒト甲状腺刺激ホルモンを含む組成物および遺伝子組み換えヒト甲状腺刺激ホルモンを生産する方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/02 20060101AFI20220622BHJP
   C12N 15/16 20060101ALI20220622BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220622BHJP
   C07K 14/59 20060101ALI20220622BHJP
【FI】
C12P21/02 C ZNA
C12N15/16
C12N5/10
C07K14/59
【請求項の数】 9
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020115714
(22)【出願日】2020-07-03
(62)【分割の表示】P 2018542093の分割
【原出願日】2016-11-04
(65)【公開番号】P2020182471
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2020-08-03
(31)【優先権主張番号】10-2015-0154882
(32)【優先日】2015-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】516351304
【氏名又は名称】ジェネクシン・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】GENEXINE, INC.
【住所又は居所原語表記】4F,Bldg. B,700,Daewangpangyo-ro,Bundang-gu,Seongnam-si,Gyeonggi-do 13488,Republic of Korea
(73)【特許権者】
【識別番号】518438092
【氏名又は名称】プロゲン・シーオー.,エルティーディー.
【氏名又は名称原語表記】PROGEN CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】1309-ho, 222, Banpo-daero, Seocho-gu, Seoul 06591, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】スン、ユン・チュル
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ジュンヨン
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】特表平04-501802(JP,A)
【文献】国際公開第2012/091124(WO,A1)
【文献】Applied Biochemistry and Biotechnology,2011年,Vol.164,p.401-409
【文献】Australian and New Zealand Journal of Surgery,2005年,Vol.75,p.10-20
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTplus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)rhTSHを産生するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株を35℃から40℃の培養温度で培養する工程;
2)培養細胞数が細胞×10から×10個/mLに達した時に、前記培養温度を29℃から34℃の範囲に下げることにより前記細胞株を培養する工程;ならびに
3)(i)抗-性腺刺激ホルモン抗体に結合した樹脂を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより一次精製液を得る工程、
(ii)前記一次精製液をフィルターで深層ろ過することにより二次精製液を得る工程、
(iii)前記二次精製液をダイアフィルトレーションすることにより三次精製液を得る工程、および
(iv)前記三次精製液をアニオン交換クロマトグラフィーにより精製することにより、宿主細胞タンパク質(HCP)が100ppm未満のrhTSHを得る工程
を含む、培養液からrhTSHを得る工程
を含む、遺伝子組み換えヒト甲状腺刺激ホルモンを流加培養により高収率および高純度で生産する方法。
【請求項2】
前記ヒト甲状腺刺激ホルモンが、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドと配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程1)のrhTSHを産生する前記細胞株が、rhTSHのαサブユニットをコードする遺伝子とそのβサブユニットをコードする遺伝子を発現する発現ベクターを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程1)の前記培養温度が36℃から38℃の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記培養温度が37℃である、請求項に記載の方法。
【請求項6】
工程2)において前記培養温度を下げる時の前記培養細胞数が細胞6×10から8×10個/mLの範囲である、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞数が細胞6×10個/mLである、請求項に記載の方法。
【請求項8】
工程2)の前記培養温度が31℃から33℃の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記培養温度が33℃である、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子組み換えヒト甲状腺刺激ホルモンを含む組成物および遺伝子組み換えヒト甲状腺刺激ホルモンを生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
甲状腺刺激ホルモン(TSH)は、脳下垂体前葉を通して視床下部より分泌され、様々な機序、たとえば神経系などの組織の全般的な増殖、基礎代謝率の促進、成長ホルモンおよびプロラクチンの生産および分泌、ホルモン活性、グルコース再吸収の増加、ミトコンドリア酸化/リン酸化の亢進、副腎髄質の活性、酵素合成の誘導などに関与している。ある特定のシグナル伝達経路を活性化するため、TSHは甲状腺の甲状腺濾胞細胞のTSHレセプターと結合し、上記の機序に介在するT3(トリヨードチロニン)およびT4(チロキシン)と呼ばれる2つのホルモンの生産および分泌を誘導する。さらに、TSHは2つのサブユニットから成り、これらは92個のアミノ酸を含むαサブユニットと118個のアミノ酸を含むβサブユニットと呼ばれる。
【0003】
甲状腺がんの有病率は世界中で増加し続けている。米国では1980年から2010年の30年で甲状腺がんの患者数が6倍に増加し、韓国では1990年から2010年の20年で約18倍に増加した。米国では2010年から2030年の20年で甲状腺がんの患者数は約3.5倍に増加すると見込まれているが、他の主ながんの患者数は同じ期間に一定で推移するかわずかに減少すると見込まれている。
【0004】
甲状腺がんと診断された場合、ほとんどの治療で甲状腺組織を患者から完全に切除する。甲状腺切除術を受けた患者は、甲状腺機能を維持するため残りの生涯にわたって甲状腺ホルモンであるT3およびT4の投与を受けなければならない。これらの甲状腺がんの治療においては、甲状腺切除術後の残存組織によるがんの再発や転移を防ぐため、事後検査が非常に重要である。初期の甲状腺がんの再発の確定診断に関しては、T3およびT4の投与を長期間中断した後に血中のサイログロブリンタンパク質を定量することにより再発を確認しているが、このような方法では一定期間T3およびT4の投与を中断するため様々な副作用、たとえば甲状腺機能低下が生じる。このため、この20年では、T3およびT4のホルモンの投与を中断せずに、遺伝子組み換えヒト甲状腺刺激ホルモン(rhTSH)を投与した後2から3日以内に血中のサイログロブリンタンパク質を定量することにより甲状腺がんの再発を診断する方法が広く用いられている。
【0005】
さらに、再発甲状腺がんを副作用なく効果的に治療できるように、甲状腺を切除した患者から残存する甲状腺組織を切除する場合、rhTSHは治療目的の放射性同位体(ヨウ素)の吸収率を増加させるために併用することが可能である。
【0006】
しかし、現在、市販のrhTSHは生産性と精製収率が低いため消費者に大きな負担を強いている。従って、本発明の発明者らは、rhTSHの生産性と精製収率の向上のため研究を行い、rhTSHを生産する最適な培養および精製条件を確立し、本発明を完成した。
【発明の開示】
【0007】
[発明が解決しようとする課題]
本発明の目的は、本発明の方法により生産される遺伝子組み換えヒト甲状腺刺激ホルモンを含む、再発甲状腺がんの治療または診断のための組成物を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、流加培養により遺伝子組み換えヒト甲状腺刺激ホルモンを生産する方法を提供することである。
[課題を解決するための手段]
上記の目的を達成するため、本発明は、活性成分として遺伝子組み換えヒト甲状腺刺激ホルモン(rhTSH)を含む、再発甲状腺がんの診断または治療のための組成物を提供するものであり、rhTSHは、rhTSHを産生する細胞株を35℃から40℃の培養温度で培養すること、培養細胞数が細胞3×10から2×10個/mLに達した時に培養温度を29℃から34℃の範囲に下げて細胞株を培養すること、および培養液からrhTSHを得ることを含む流加培養により得られる。
【0009】
上記の別の目的を達成するため、本発明は、rhTSHを産生する細胞株を35℃から40℃の培養温度で培養すること、培養細胞数が細胞3×10から2×10個/mLに達した時に培養温度を29℃から34℃の範囲に下げて細胞株を培養すること、および培養液からrhTSHを得ることを含む流加培養により遺伝子組み換えヒト甲状腺刺激ホルモンを生産する方法を提供する。
[発明の効果]
【0010】
本発明による遺伝子組み換えヒト甲状腺刺激ホルモンを生産する方法では、流加培養による培養でありながらrhTSHの効率的な生産が可能であり、精製収率と純度が高い。従って、上記の方法で生産された遺伝子組み換え甲状腺刺激ホルモンは、再発甲状腺がんの診断および治療に効果的に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1Aおよび1Bは、本発明により調製されたrhTSH発現ベクター(図1A)とそれを含む細胞株の長期安定性試験の結果を示すグラフ(図1B)である。
図2図2Aおよび2Bは、rhTSHの生産において最適な温度を確認するために選択した細胞の生細胞密度と生産性(図2A)および生存率(図2B)を示すグラフである。図2Aの生産性のグラフでは、それぞれのバーは左から37℃→33℃、37℃、37℃→35℃、および37℃→31℃の培養温度を表す。
図3図3は、培養プロセス中に温度を下げる時の細胞数に応じた生細胞密度を示すグラフである。
図4図4は、細胞数が細胞6×10個/mLである時に培養温度を下げた場合の細胞の生細胞密度を示すグラフである。
図5図5Aおよび5Bは、rhTSHの従来の精製方法の簡単な概要(図5A)と従来の方法で精製したタンパク質のSDS-PAGEの結果を示す図(図5B)である。
図6図6Aおよび6Bは、本発明の方法に従い生産したrhTSHの精製方法の簡単な概要(図6A)と本発明の方法により精製したタンパク質のSDS-PAGEの結果を示す図(図6B)である。
図7図7Aおよび7Bは、本発明の方法に従い生産したrhTSHの品質分析のため、等電点電気泳動(IEF)分析(図7A)とペプチドマッピング(図7B)を行った結果を示す図である。
図8図8Aおよび8Bは、本発明の方法に従い生産したrhTSHのin vitro活性(図8A)とin vivo活性(図8B)を確認した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明は、活性成分として遺伝子組み換えヒト甲状腺刺激ホルモン(rhTSH)を含む、再発甲状腺がんの診断または治療のための組成物を提供するものであり、rhTSHは、rhTSHを産生する細胞株を35℃から40℃の培養温度で培養すること、培養細胞数が細胞3×10から2×10個/mLに達した時に培養温度を29℃から34℃の範囲に下げて細胞株を培養すること、および培養液からrhTSHを得ることを含む流加培養により得られる。
【0014】
ここで用いる場合、「遺伝子組み換えヒト甲状腺刺激ホルモン(rhTSH)」という用語は、脳下垂体前葉を通して視床下部より分泌されるタンパク質であり、92個のアミノ酸を含むαサブユニットと118個のアミノ酸を含むβサブユニットから成っている。rhTSHは再発甲状腺がんの患者の診断と治療のための補助剤として用いられている。本発明による遺伝子組み換えヒト甲状腺刺激ホルモンは、配列番号1で表されるアミノ酸配列から成るαサブユニットと配列番号2で表されるアミノ酸配列から成るβサブユニットを含んでいてもよい。
【0015】
本発明の方法により生産、精製されたrhTSHを含む、再発甲状腺がんの診断または治療のための組成物は、甲状腺切除術後の腫瘍組織の再発の診断に使用してもよく、または再発甲状腺がんの治療のためヨウ素同位体と併用してもよい。再発甲状腺がんの治療に使用するrhTSHは、抗がん治療のためのヨウ素同位体用補助剤として用いてもよい。
【0016】
rhTSHはさらに薬学的に許容される担体を含んでいてもよい。薬学的に許容される担体は、患者内への送達に適した無毒性の物質であればどのような担体でもよい。蒸留水、アルコール、脂質、ワックスおよび不活性な固形物を担体として含んでいてもよい。薬学的に許容される補助剤(たとえば、緩衝剤および分散剤)も薬学的な組成物に含むことができる。
【0017】
本発明のrhTSHは様々な方法でも患者に投与が可能である。たとえば、組成物は非経口的に投与してもよい。たとえば、皮下、点眼、腹腔内、筋肉内、経口、直腸内、眼窩内、脳内、頭蓋内、椎骨内、脳室内、髄腔内、大槽内、嚢内、鼻腔内、および静脈内に投与してもよい。具体的には、組成物は筋肉内に投与してもよい。組成物の投与経路は、投与方法に応じて液量、粘度等を考慮して決定できる。
【0018】
上記のように非経口的に投与する場合は、組成物は、好ましくは水性のまたは生理学的に許容される体液の懸濁液または溶液を部分的に含む。従って、生理学的に許容される担体または輸送材料を組成物に添加し患者に送達することができ、これは患者の電解質および/または容積バランス(volume balance)に有害な影響を及ぼさない。従って、組成物の体液物質として生理食塩水は一般的に含まれる。
【0019】
上記の投与は、1回以上、1から3回で行うことができ、より具体的には、2回に分けて投与できる。本発明の組成物を反復投与する場合、12から48時間、または24から36時間の間隔で反復投与が可能であり、具体的には24時間間隔で投与可能である。
【0020】
このような組成物は、従来公知の滅菌技術により滅菌することができる。さらに、本発明による組成物は、薬学的に許容される補助物質ならびに生理的条件、たとえばpHの調節に必要な、補助剤、毒性調節剤、およびその類縁体を含んでいてもよく、その例として酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウム等が挙げられる。組成物に含まれ得るrhTSHの濃度は変えてもよい。
【0021】
本発明による組成物の単位用量は、成人を基準とすると0.6から1.2mg、具体的には0.8から1.0mg、より具体的には0.9mgであってもよい。単位用量は治療される疾患および副作用の有無により変えてもよく、最適用量は通常の実験法により決定することができる。
【0022】
本発明による組成物は、再発甲状腺がんの診断および治療のためヨウ素同位体と併用してもよい。この場合、ヨウ素同位体は、本発明による組成物を投与して12から36時間後、18から30時間後、または20から25時間後に投与することができる。具体的には、24時間後に投与することができる。
【0023】
一方、再発甲状腺がんの診断は、本発明の組成物とヨウ素同位体を投与後に診断的スキャニング(diagnostic scanning)または血清甲状腺グロブリン(Tg)検査で行ってもよい。この場合、診断的スキャニングはヨウ素同位体を投与して24から60時間後、36から54時間後、または46から50時間後に行うことができる。具体的には、48時間後に行うことができる。血清甲状腺グロブリン検査の血清試料の採取は、ヨウ素同位体を投与して48から96時間後、60から84時間後、または70から74時間後に行ってもよく、具体的には72時間後に行ってもよい。
【0024】
本発明の組成物を調製するため、本発明はrhTSHを産生する細胞株を35から40℃で培養する工程を含む。
【0025】
本発明によるrhTSHを産生する細胞株は、上記のαサブユニットとβサブユニットを含む発現ベクターを有する細胞株であってもよく、上記のαサブユニットとβサブユニットはそれぞれのベクターまたは1つのベクターに含まれるように調製されていてもよく、それぞれのサブユニットは、それぞれのプロモーター(デュアルベクター)により発現し、または内部リボソーム結合部位(IRES)により結合され、個別に発現するように調製されている。本発明の1つの具体的な態様によれば、それぞれのサブユニットはIRESにより個別に発現するように調製することができる。
【0026】
ここで用いる場合、「ベクター」という用語は、宿主細胞の中に導入され、組み換えられ、宿主の細胞ゲノムに挿入されることが可能な、または自発的にエピソームへの複製が可能な、ヌクレオチド配列を含む核酸手段を意味している。適切な発現ベクターは、膜標的化または分泌のためのシグナル配列またはリーダー配列とともに、発現制御要素、たとえばプロモーター、開始コドン、停止コドン、ポリアデニル化シグナル、およびエンハンサーを含んでおり、目的に応じて種々調製することが可能である。標的タンパク質をコードする遺伝子構成体を対象に導入した時、開始コドンと停止コドンは明らかに活性を示し、コード配列でインフレームでなければならない。
【0027】
ここで用いる場合、「デュアルベクター」という用語は、1つのベクターの2つの遺伝子がそれぞれのプロモーターにより制御され、標的タンパク質を別々に発現することが可能なベクターを意味している。さらに、ベクターは、標的タンパク質で形質転換された細胞を選択することができるマーカーを含んでいてもよく、本発明の具体的な態様によれば、そのマーカーはDHFRであってもよい。
【0028】
活性を示すTSHを生産するためには、αサブユニットとβサブユニットが二量体を形成しなければならない。この場合、βサブユニットの発現レベルは、細胞内でα/β二量体を高効率で形成するために、αサブユニットの3倍から4倍高くなければならない。従って、発現ベクターを調製する際には、βサブユニットの発現レベルが高くなるようにプロモーターを選択してもよい。本発明の具体的な態様によれば、βサブユニットをCMVプロモーターに結合し、βサブユニットとαサブユニットとを内部リボソーム結合部位(IRES)を介して結合することで、2つのサブユニットの発現レベルを調節してもよい。
【0029】
本発明の別の側面によれば、本発明はベクターを含む宿主細胞またはヒト以外の宿主対象を提供する。宿主細胞またはヒト以外の宿主対象は、本発明のrhTSHを得る方法だけでなく医学/医薬品の環境においても有用である。
【0030】
本発明の態様によるベクターでトランスフェクトまたは形質転換された宿主細胞またはヒト以外の宿主対象は、ベクターにより遺伝子操作された宿主細胞またはヒト以外の宿主対象であってもよい。ここで用いる場合、「遺伝子操作された」という用語は、宿主細胞、ヒト以外の宿主対象、前駆体(predecessor)、または親(parent)が、本発明の態様に従いポリヌクレオチドまたはベクターを有しており、それらが、宿主細胞、ヒト以外の宿主対象、前駆体、または親にそれら自身のゲノムに加えて導入されていることを意味している。さらに、本発明の態様によるポリヌクレオチドまたはベクターは、遺伝子操作された宿主細胞またはヒト以外の宿主対象に、ゲノム外の外部の独立した分子として存在していてもよく、具体的には複製可能な分子として存在していてもよく、または宿主細胞もしくはヒト以外の宿主対象のゲノムに安定的に挿入されていてもよい。
【0031】
本発明の態様による宿主細胞とは真核細胞である。真核細胞としては、真菌、植物細胞、または動物細胞が挙げられる。真菌の例としては、酵母、具体的にはサッカロミセス属(Saccharomyces sp)酵母、より具体的にはS.セレビシア(S. cerevisiae)であってもよい。さらに、動物細胞の例としては、昆虫細胞または哺乳類細胞が挙げられ、動物細胞の具体的な例としては、HEK293、293T、NSO、CHO、MDCK、U2-OSHela、NIH3T3、MOLT-4、Jurkat、PC-12、PC-3、IMR、NT2N、Sk-n-sh、CaSki、C33A等が挙げられる。宿主細胞、たとえばCHO細胞は、本発明の1つの態様により、リーダーペプチドの除去、正確な位置での分子のグリコシル化、および機能分子の分泌など、rhTSHタンパク質の翻訳後修飾を行ってもよい。さらに、従来の技術分野で公知の適切な細胞株を、細胞株寄託機関、たとえばアメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC)から入手してもよい。
【0032】
さらに、本発明の態様によるポリヌクレオチドを含むCHO細胞は、宿主細胞として特に有用である。CHO細胞を宿主細胞として使用する場合、二次修飾、たとえばグリコシル化およびホスホリル化がrhTSHで起きてもよい。
【0033】
ヒト以外の宿主対象は、ヒト以外の哺乳類、特にマウス、ラット、ヒツジ、子ウシ、イヌ、サル、および類人猿であってもよい。
【0034】
本発明によるrhTSHは、様々な種類の生物、たとえば細菌、酵母、哺乳類細胞、植物、遺伝子導入動物で発現してもよい。しかし、タンパク質治療薬の制御および調製したタンパク質は天然型に類似している必要があることを考慮して、哺乳類細胞を使用することができる。哺乳類細胞の例としては、不死のハイブリドーマ細胞、NS/O骨髄腫細胞、293細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、HeLa細胞、CapT細胞(ヒト羊水由来細胞)、COS細胞等が挙げられる。本発明の具体的な態様によれば、CHO細胞を使用してもよい。
【0035】
本発明に従い発現ベクターを上記の細胞株に導入するため、その技術分野で公知の従来の技術を使用することができ、その例としては、エレクトロポレーション、細胞質融合法、リン酸カルシウム(CaPO)沈殿法、および塩化カルシウム(CaCl)沈殿法が挙げられる。
【0036】
本発明によるCHO細胞では、発現ベクターで形質転換されている細胞株を選択するため、プリンおよびチミジル酸を合成する必須酵素であるジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子がノックダウンされている。DHFR陰性CHO細胞は、ナトリウムヒポキサンチンおよびチミジンの混合形態であるHT(ヒポキサンチンおよびチミジン)であり、プリンおよびピリミジンの供給がなければ増殖できない。従って、DHFR遺伝子を含む発現ベクターで形質転換されていない細胞株はHTを含んでいない培地では生存することができない。
【0037】
さらに、本発明では、rhTSHを産生する細胞株は流加培養条件で培養する。
【0038】
rhTSHは従来「灌流培養」により生産されてきた。これは、新たな培養培地を連続的に供給しながら使用した培養培地を連続的に除去する方法である。このような灌流培養には、比較的低い生産性、複雑なプロセス、および高いコストという不利な点がある。
【0039】
ここで用いる場合、「流加培養」という用語は、培養の進行中は培養槽に栄養培地を徐々に添加しながら、培養が終了するまで培養液を培養槽から抜き取らない培養法を意味している。この方法は、特異的な物質の添加速度を微生物による消費速度と釣り合わせることで、培養中に成分濃度を任意の設定値に調節し得るという利点がある。
【0040】
ここで用いる場合、「培養培地」という用語は、人工的なin vitroの多細胞生物の環境または組織外における、細胞の、維持、増殖、繁殖、または増大のための栄養液を意味している。培養培地は特定の細胞培養に最適化してもよく、その例として、細胞増殖を支援するために調製された基礎培養培地、またはモノクローナル抗体の生産を促進するために調製された基礎培養培地、および栄養素が高濃度に濃縮された濃縮培地が挙げられる。
【0041】
「基礎培養培地」とは、細胞増殖を支援することが可能な最小培地を意味している。基礎培養培地は、微量元素、ビタミン、エネルギー源、緩衝系、およびアミノ酸だけでなく、標準的な無機塩、たとえば亜鉛、鉄、マグネシウム、カルシウム、およびカリウムも供給する。本発明による基礎培養培地は、細胞の増殖期である培養の初期段階に使用されている。基礎培養培地の例として、DMEM、MEM、RPMI 1640、F-10、F-12、ハイセル(Hycell)CHO等が挙げられる。本発明の具体的な態様によれば、基礎培養培地はハイセルCHO培地でもよい。
【0042】
本発明による流加培養で細胞株を35℃から40℃で培養する工程は細胞の増殖期である。これは細胞を播種した後に細胞増殖が急速に進行する期間であり、一般に細胞増殖の培養条件は細胞の種類、産生される標的タンパク質の種類等に応じて変えてもよい。本発明で使用されているCHO細胞の場合は、35℃から37℃の温度で、pHが6.8から7.3の範囲で、細胞数が最も活発に増加することが知られている。一方、本発明の流加培養における細胞の増殖期は3から7日であってもよく、具体的には培養の初期段階から4から6日であってもよい。本発明の具体的な態様によれば、細胞の増殖期は培養の初期段階から6日であってもよい。
【0043】
増殖期間の培養温度は35℃から40℃または36℃から38℃であってもよく、本発明の1つの具体的な態様によれば、37℃であってもよい。細胞を上記の温度範囲外の温度で培養する場合、細胞が順調に増殖しない可能性がある。
【0044】
さらに、本発明は、培養細胞数が細胞3×10から2×10個/mLに達した時に、培養温度を29℃から34℃の範囲に下げることにより細胞を培養する工程を含む。
【0045】
本発明の流加培養法に従い、細胞の培養温度を下げる時、標的タンパク質の生産を最大化する培養条件で、細胞はタンパク質の産生段階に入る。タンパク質の産生段階に入るために細胞増殖期に培養された生細胞の密度が最大生細胞密度の約60から90%、具体的には70から80%である時に、培養条件を変更してもよい。本発明の具体的な態様によれば、生細胞密度が約70%である時に培養条件を変更する。
【0046】
この場合、細胞の培養温度は29℃から34℃または31℃から33℃であってもよい。本発明の1つの態様によれば、培養温度は33℃であってもよい。培養温度が35℃以上の場合は細胞の生存率が急激に低下し、28℃以下の場合は細胞数が十分に増加しないためrhTSHの生産率が低下するという問題が生じる。
【0047】
本発明による流加培養では、細胞数が細胞3×10から2×10個/mL、細胞5×10から1×10個/mL、または細胞6×10から8×10個/mLの時に培養温度の変更を行ってもよい。本発明の1つの態様によれば、細胞数が細胞6×10個/mLの時に培養温度の変更を行ってもよい。細胞数が細胞3×10個/mL以下の時に培養温度を変更すると、細胞数が少なく、得られるタンパク質の量が少なくなる。細胞数が細胞2×10個/mLより多い時には、細胞数は多く、それにより産生されるタンパク質の量は多くなるが、HCP、たとえば細胞片なども大量に産生され、精製プロセスで医薬品基準に対応する濃度にまでHCPを除去するのが困難であるという問題が生じる。
【0048】
本発明による培養温度の変更は、培養5日目から9日目に、具体的には培養5日目から8日目に、より具体的には培養5日目から7日目に行ってもよい。本発明の具体的な態様によれば、6日目に行ってもよい。
【0049】
ここで用いる場合、「生細胞密度」という用語は、一定の空間内に生存している細胞の量または数を意味している。本発明では、高効率で標的タンパク質を生産するのに十分な生存細胞数となった時に培養条件を変更するために、生細胞密度を測定している。生細胞密度は、細胞の吸光度を測定することで決定してもよい。
【0050】
さらに、本発明の流加培養では、タンパク質生産のため基礎培養培地に補給剤を添加してもよい。ここで用いる場合、「補給剤」という用語は、細胞がタンパク質産生期に入った時に、健康を維持しタンパク質を産生するのに十分な栄養素を供給するため基礎培養培地に追加する物質を意味し、脂質、アミノ酸、ビタミン、増殖因子等が挙げられる。タンパク質生産に使用可能な補給剤の種類は従来の技術分野において公知であり、ActiCHO(GE Healthcare)、セルブースト(Cell Boost)(GE Healthcare)、FM(Functional MAX、Gibco)、酵母エキス、フィトンUF(Phytone UF)(BD Biosciences)、DM19、PP3、TCイーストレートUF(TC Yeastolate UF)(BD Biosciences)等が挙げられる。上記の補給剤はActiCHO、セルブーストおよびFMであってもよい。
【0051】
補給剤は、遺伝子組み換えタンパク質を高レベルで生産するために適切な量を添加してもよく、またこれらの補給剤は個々にまたは混ぜて使用してもよい。補給剤は、細胞が増殖期を過ぎてタンパク質産生期に入る時に添加してもよく、本発明の流加培養によれば、タンパク質生産のために温度を下げる1から3日前に添加してもよい。本発明の1つの具体的な態様によれば、1日前に添加してもよい。補給剤は、細胞の生存およびタンパク質生産プロセスで消費されるので、連続的に添加しなければならない。一般的に、補給剤は、添加1日目から1から3日の一定間隔で添加してもよい。補給剤の添加は、細胞の量および種類、培養条件等により変えてもよく、当業者が容易に選択することができる。
【0052】
本発明によるrhTSHを生産する培養は、10から20日間、具体的には11から15日間、より具体的には12から18日間維持してもよい。本発明の具体的な態様によれば、12日間継続してもよい。
【0053】
本発明は、培養液からrhTSHを得る工程も含む。
【0054】
培養液からrhTSHを得るため、一般に公知の方法によりrhTSHを精製してrhTSHを得てもよい。しかし、精製により高収率でrhTSHを得るために、抗-性腺刺激ホルモン抗体に結合した樹脂を詰めたカラムで精製することにより一次精製液を得る工程、一次精製液をフィルターでろ過することにより二次精製液を得る工程、二次精製液を透析することにより三次精製液を得る工程、および三次精製液をイオンクロマトグラフにより精製することによりrhTSHを得る工程によりrhTSHを得てもよい。
【0055】
一般的に、rhTSHは幅広いPI値と3つのN-グリコシル化部位を持ち、そのため精製中に不純物を除去するのは簡単ではない。従来のrhTSH精製法は、ろ過、アニオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、および疎水性相互作用クロマトグラフィーの一連の手順のために、複雑な手順を含み、コストや時間がかかるだけでなく、上記の方法で精製した不純物レベル(たとえば宿主細胞タンパク質)は1,000ppm以上であり、これは医薬品用途のタンパク質に含まれる不純物の許容レベル(100ppm)を超えているという問題がある。従って、本発明者らはrhTSHを高収率、高純度で得る精製法を確立した。
【0056】
ここで用いる場合、「培養液」という用語は培養培地を意味しており、細胞を培養した後の細胞から生産され分泌されたタンパク質を含む様々な因子を含む。これは、培養終了後に遠心分離により細胞を除去することにより得られる。
【0057】
ここで用いる場合、「アフィニティークロマトグラフィー」という用語は、生物学的に高い特異的親和性を有する2種類の物質の1つを固定相として用いて、固定相に対する親和性の差を使用して標的物質を分離するクロマトグラフィー法の1つである。従って、上記の工程では、抗-性腺刺激ホルモン抗体に結合した樹脂を詰めたカラムで培養液を精製してもよい。
【0058】
アフィニティークロマトグラフィーに使用する樹脂は、マトリックス、親水性架橋剤、およびリガンドから成っている。ここでは、マトリックスは架橋したアガロース、たとえば高度に架橋した高流速アガロースであってもよい。リガンドは抗-性腺刺激ホルモン抗体であってもよく、これは本発明のrhTSHに特異的に結合するタンパク質である。この樹脂では、rhTSHに特異的に結合する抗体が、アガロースフラグメントに共有結合しており、rhTSHに選択的に結合してもよい。さらに、リガンドは樹脂中で長い親水性架橋剤を有しているので、分離する標的タンパク質と容易に結合してもよい。この樹脂の例としてはキャプチャーセレクト(CaptureSelect)が挙げられ、これはThermoFisher Scientific(米国)から特注デザインの培地として市販されている。
【0059】
ここで用いる場合、「抗-性腺刺激ホルモン抗体」という用語は、エピトープとして配列番号1のアミノ酸配列を有するrhTSHのαサブユニットを認識し、そこに特異的に結合する抗体を意味している。上記のように、TSHは2つのサブユニットから成り、そのうちのαサブユニットは通常TSHを含む他の性腺刺激ホルモンにも含まれている。
【0060】
本発明の具体的な態様によれば、rhTSHは抗-性腺刺激ホルモン抗体が結合した樹脂を詰めたカラムからクエン酸ナトリウム溶液で溶出してもよい。溶液は、適切な濃度とpHで使用してもよく、標的タンパク質の品質と活性を変えない程度まで抗-性腺刺激ホルモン抗体との結合を阻害してもよい。溶液の適切な濃度範囲は0.01から5M、0.03から1M、0.06から0.5M、または0.07から0.3Mであってもよい。本発明の具体的な態様によれば、溶液の濃度は0.1Mであってもよい。一方、適切なpH範囲は1から5、2から4、または2.5から3.5であってもよい。本発明の具体的な態様によれば、この溶液のpHは3であってもよい。
【0061】
アフィニティークロマトグラフィーにより得た一次精製液に含まれる不純物、たとえば不溶の凝集物および宿主細胞タンパク質(HCP)を除去し、標的タンパク質の純度をさらに向上させるため、ろ過を行ってもよい。本発明の具体的な態様では、ろ過は深層ろ過であってもよい。
【0062】
ここで用いる場合、「深層ろ過」という用語は、各層に設置されている孔径の異なる2つ以上のフィルターを用いて行うろ過を意味している。深層ろ過のフィルターの孔径は0.001から30μm、0.005から25μm、0.015から15μm、または0.020から12μmであってもよい。本発明の具体的な態様では、フィルターの孔径は0.025から10μmであってもよい。
【0063】
トリス溶液をろ過に使用してもよく、この場合に使用する溶液は、上記のように適切な濃度とpHであってもよい。トリス溶液の適切な濃度は1から300mM、10から200mM、20から100mM、または30から70mMであってもよい。本発明の具体的な態様によれば、このトリス溶液の濃度は50mMであってもよい。一方、このトリス溶液の適切なpHは6から12、7から11、または8から10であり、本発明の具体的な態様によれば、pHは9であってもよい。
【0064】
ここで用いる場合、「ダイアフィルトレーション」という用語は、小孔を有するフィルターを用いて分子の大きさにより試料中の不純物を除去または分離する希釈工程を意味する。
【0065】
本発明では、0.01から0.5μm、0.1から0.3μm、または0.2から0.25μmの孔径を有する半透膜をダイアフィルトレーションに用いてもよい。本発明の具体的な態様によれば、ダイアフィルトレーションは、孔径が0.22μmの半透膜(Millipak 20、Millipore)を用い1.0bar以下の圧力で行い、ろ液の導電率が30.0μS/cm以下になれば終了する。
【0066】
本発明によるイオンクロマトグラフィーは、化学式1で表される構造を有する化合物が結合している樹脂を詰めたカラムで精製してもよい。
【0067】
【化1】
【0068】
ここで用いる場合、「イオンクロマトグラフィー」という用語は、カラムの固定相に対する親和性の違いに基づく精製法である。イオンクロマトグラフィーカラムによる分離機構は、主に、カチオンまたはアニオン交換材が結合しているイオン交換に基づいており、そこに結合しているイオンとは逆の、移動相中のカチオンまたはアニオンの親和性の程度により競合的な交換が起きる。
【0069】
化学式1の構造を有する化合物が結合した樹脂を詰めたカラムは、多様式官能性を有する強アニオン交換体である。ここで用いる場合、「多重官能性」という用語は、様々な物質と相互作用が可能であることを意味している。従って、化学式1の構造を有する化合物が結合した樹脂は、イオン相互作用、水素結合、疎水性相互作用等により様々な物質と相互作用し、不純物、たとえばHCP、凝集体等を除去する。
【0070】
アニオン交換クロマトグラフィーを通した標的タンパク質は、酢酸ナトリウム溶液で溶出してもよく、この場合に使用する溶液は上記の適切な濃度とpHであってもよい。酢酸ナトリウム溶液の適切な濃度は1から200mM、5から100mM、10から50mM、または15から30mMであってもよい。本発明の具体的な態様によれば、酢酸ナトリウム溶液の濃度は20mMであってもよい。一方、酢酸ナトリウム溶液の適切なpHは2から6、2.5から5、または3から4であり、本発明の1つの具体的な態様によれば、pHは3.8であってもよい。
【0071】
この場合、溶出のための酢酸ナトリウム溶液の流量は、10から500mL/min、10から300mL/min、10から100mL/min、または10から50mL/minの範囲でもよい。本発明の具体的な態様によれば、上記酢酸ナトリウム溶液の流量は15mL/minであってもよい。
【0072】
上記のすべての工程により最終的に精製したrhTSHは、さらにダイアフィルトレーションの工程を経て、最終的なタンパク質産物を保持する適切な溶液としてもよい。タンパク質産物の保存溶液は、たとえ長期間タンパク質を保存するとしても、タンパク質の品質や活性を変えてならない。従って、本発明によるrhTSHタンパク質の保存溶液は、リン酸ナトリウム、マニトール、および塩化ナトリウムを含んでいてもよい。
【0073】
本発明は、rhTSHを産生する細胞株を35℃から40℃の培養温度で培養すること、培養細胞数が細胞3×10から2×10個/mLに達した時に培養温度を29℃から34℃の範囲に下げて細胞を培養すること、および培養液からrhTSHを得ることを含む流加培養により遺伝子組み換えヒト甲状腺刺激ホルモンを生産する方法を提供するものである。
【0074】
本発明による遺伝子組み換えヒト甲状腺刺激ホルモンは、配列番号1で表されるアミノ酸配列から成るαサブユニットと配列番号2で表されるアミノ酸配列から成るβサブユニットを含んでいてもよく、これを生産する一般的な特性は上記の通りである。
【0075】
本発明の方法に従い選択した単細胞クローンを用いて、遺伝子組み換えrhTSHをより簡便に生産する流加培養条件を確立した。
【0076】
細胞培養の基礎培養培地はDMEM、MEM、RPMI 1640、F-10、F-12、ハイセルCHO等である。本発明の具体的な態様によれば、基礎培養培地はハイセルCHO培地であってもよい。
【0077】
本発明による流加培養で、細胞株を35℃から40℃で培養する工程は細胞の増殖期間である。上記増殖期間の培養温度は35℃から40℃、または36℃から38℃であってもよく、本発明の1つの具体的な態様によれば、37℃であってもよい。上記の温度範囲外の温度で細胞を培養すると、細胞が十分に増殖しないという問題が生じる。
【0078】
本発明による流加培養法によれば、細胞の培養温度を下げると、標的タンパク質の産生を最大化する培養条件で、細胞はタンパク質の産生期に入る。この場合、温度は29℃から34℃または31℃から33℃であってもよい。本発明の1つの具体的な態様によれば、培養温度は33℃であってもよい。培養温度が35℃以上では細胞の生存率が急激に低下し、培養温度が28℃以下では細胞が十分に増殖しないためrhTSHの生産率が低下するという問題が生じる。
【0079】
本発明による流加培養では、細胞数が細胞3×10から2×10個/mL、細胞5×10から1×10個/mL、または細胞6×10から8×10個/mLの時に培養温度の変更を行ってもよい。本発明の1つの態様によれば、細胞数が細胞6×10個/mLの時に培養温度の変更を行ってもよい。細胞数が細胞3×10個/mL以下の時に培養温度を変更すると、細胞数が少なく、得られるタンパク質の量が少なくなる。細胞数が細胞2×10個/mLより多い時には、細胞数は多く、それにより産生されるタンパク質の量は多くなるが、HCP、たとえば細胞片なども大量に産生され、精製プロセスで医薬品基準に対応する濃度にまでHCPを除去するのが困難であるという問題が生じる。
【0080】
さらに、本発明の流加培養では、タンパク質生産の基礎培養培地に補給剤を添加してもよい。補給剤の例としては、ActiCHO(GE Healthcare)、セルブースト(GE Healthcare)、FM(Functional MAX、Gibco)、酵母エキス、フィトンUF(BD Biosciences)、DM19、PP3、TCイーストレートUF(BD Biosciences)等が挙げられ、上記補給剤はActiCHO、セルブーストおよびFMであってもよい。補給剤は、遺伝子組み換えタンパク質を高レベルで生産するために適切な量を添加してもよく、またこれらの補給剤は個々にまたは混ぜて使用してもよい。
【0081】
本発明によるrhTSHを生産する培養は、10から20日間、具体的には11から15日間、より具体的には12から18日間維持してもよい。本発明の具体的な態様によれば、12日間継続してもよい。
【0082】
流加培養法で高純度および高品質を維持するrhTSHを生産するため、本発明の発明者らは、rhTSHのαサブユニットとβサブユニットを発現できるベクターを調製し、これをCHO細胞株中に形質転換させてrhTSHを高レベルで発現するモノクローナル細胞を選択し、選択した単細胞クローンをそれぞれ#1、#2、および#3と命名した(図1Aおよび図1B)。
【0083】
これらの選択した細胞を使って、高いrhTSHの生産性を有する流加培養法を確立した。培養6日目まで37℃で培養後、培養7日目から培養温度を33℃に下げた場合、rhTSHの生細胞密度および生産性が高まることが確認された(図2Aおよび2B)。
【0084】
さらに、細胞数に依存するrhTSHの生産性を確認した結果、細胞数が増加するに従いrhTSHの生産も増加するが、温度変更時の細胞数が細胞1.1×10個/mLを超える場合、rhTSHの生産だけでなく不純物も増加した(表1)。
【0085】
次に、確立した生産法で培養したrhTSH発現細胞株中のrhTSHを精製する方法を確立した。具体的には、細胞上清から採取したTSH特異的抗体をアフィニティークロマトグラフィーの固定相として使用して、一連のアフィニティークロマトグラフィー、深層ろ過、ダイアフィルトレーション、およびアニオン交換クロマトグラフィーを順番に行った場合に、従来のrhTSH精製法と比較してタンパク質の収率と純度が高いことが示され、精製タンパク質中の不純物量は医薬品用途の基準値以内に減少し(図5Aから6B)、活性の点でも、現在市販されているrhTSH[タイロゲン(登録商標)]と同様であることが確認された(図7Aおよび図7B)。
【0086】
従って、本発明による流加培養法では、生産されたrhTSHの活性および品質がすぐれているだけでなく、生産プロセスも簡便で経済的である。従って、上記の方法で生産されたrhTSHは再発甲状腺がんの診断および治療に有用である。
【0087】
本発明は、薬学的に活性な成分として本発明のrhTSHを含む組成物を投与することにより疾患を治療する方法も提供する。
【0088】
このような方法は、本発明による組成物の有効量を、目的の疾患と直接に関連するまたは関連しない健康状態の哺乳類に投与することを含む。たとえば、rhTSHは、治療上の有効量で、対象に、好ましくはヒトを含む哺乳類に投与してもよい。
【0089】
本発明による組成物の投与経路および用量については、治療する疾患、副作用の有無により様々な方法および量で対象に投与してもよい。最適な投与方法および用量は、通常の実験法により決定してもよい。
【0090】
組成物は、治療する疾患に治療効果を有する他の薬剤または生理活性物質と組み合わせて投与してもよく、または他の薬剤との合剤の形態として製剤化してもよい。
【0091】
本発明は、本発明のrhTSHを含む組成物を投与することにより、再発甲状腺がんを診断する方法も提供する。
【0092】
上記の方法では、本発明のrhTSHを投与した後に放射性ヨウ素を投与し、診断的スキャニングまたは血清サイログロブリン(Tg)検査により再発甲状腺がんを診断してもよい。
【0093】
再発甲状腺がんの診断のための、本発明による組成物の投与経路と用量については、治療する疾患、および副作用の有無により様々な方法および量で対象に投与してもよく、最適な投与方法および用量は、通常の実験法により決定してもよい。
【発明の形態】
【0094】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。以下の実施例は、本発明をさらに例示することを意図するものであり、その範囲を限定するものではない。
【0095】
例1
遺伝子組み換えヒトTSH(rhTSH)発現ベクターの調製および形質転換
本発明の発明者らは、rhTSHを高収率で生産するための発現ベクターを調製した。
【0096】
具体的には、rhTSHのβサブユニットを含む遺伝子断片およびIRESとrhTSHのαサブユニットの遺伝子を、Top Gene Technologies(カナダ)を使用して合成した。合成した遺伝子を制限酵素EcoRIおよびXhoIを用いてpAD5(Genexine)ベクターにクローン化した後に、pAD-rhTSHと命名した。
【0097】
その結果、図1Aに示す構造を有する発現ベクターを作製した。
【0098】
上記の発現ベクターは、従来の技術分野で周知の方法を使用して宿主細胞中に形質転換させることにより調製した。従って、ベクターを単離するためにエンドフリープラスミド精製キット(Qiagen、米国)を使用し、単離したベクターを使用して、高収率でrhTSHを発現する細胞を調製した。
【0099】
例2
rhTSHを高収率で発現する単細胞クローンの調製
例1で調製したpAD-rhTSH発現ベクターから、rhTSHを高収率で発現することができる細胞を以下に示すように調製した。
【0100】
具体的には、pAD-rhTSH発現ベクターをCHO DG44(-)DHFR(米国コロンビア大学のLawrence Chasin氏より入手)細胞株にいくつかの条件で形質転換した後、最適化した条件下、形質転換細胞を6ウェルプレートでHT(ハイポキサンチンおよびチミジン)を含む基礎培地中で48時間培養した。その後、細胞を、HTを含まない培地中で14日間培養し、この期間に培養スケールを6ウェルプレートから125mLフラスコに上げた。高レベルでrhTSHを発現している細胞クローンをTSH特異的ELISAキット(Genway Biotech、米国)を用いて選択した。
【0101】
選択したクローンを125mLフラスコで10nMのメトトレキサート(MTX)を含む培地中で14から28日間培養し、最も高レベルでrhTSHを発現しているフラスコを選択して、細胞を96ウェルプレートの20ウェルに播種した。14日間培養後、比較的高レベルのrhTSHを発現している単一コロニーを、イメージクローナー(image cloner)を用いて選択した。選択した単一コロニーを、96ウェルプレートから6ウェルプレートにスケールを変えて、21から27日間培養した。培養細胞のrhTSHの生産性を、再度TSH特異的ELSAキットを用いて測定した。MTX濃度を20nM、50nM、100nM、および200nMと上げながら上記のプロセスを繰り返し、最終的に最も高いrhTSHの生産性を持つモノクローナル細胞を選択し増幅させた。選択した細胞は研究用セルバンク(RCB)の候補として選択し、35継代まで培養して長期培養時の安定を確認し、rhTSHのTd(2倍時間)、生産性および細胞形態をすべての継代で確認した。
【0102】
その結果、図1Bに示すように3つのRCBクローン#1、#2、および#3を選択した。
【0103】
例3
rhTSHを生産する細胞培養法の確立
上記の例2で選択した3つのRCBクローンについて、rhTSHを生産する最適な細胞培養法を確立した。現在Genzymeという会社からのみ市販されているrhTSHであるタイロゲン(登録商標)は溶液状態で比較的不安定であることが知られており、その生産には灌流培養が使用されている。他の培養法と比べて、灌流培養は比較的生産性が低く、そのプロセスは複雑でコストがかかる。Genzymeのタイロゲン(登録商標)の灌流培養による生産収率は20から30mg/Lであることが知られている。一方、流加培養の場合、生産性は灌流培養に比べて比較的高く、プロセスは複雑ではなく、培養プロセスにおいてrhTSHを高品質に維持できるという利点もある。従って、rhTSHを生産する有益な培養条件の確立が試みられてきた。そのタンパク質の溶液形態での安定性が、様々な要因、たとえば温度、pH、細胞生存率、培養期間等により影響を受けることが知られているので、Genzymeのタイロゲン(登録商標)(以下「対照群」と呼ぶ)の品質と比較することにより流加培養の最適な条件を確立した。
【0104】
3.1.最適温度の確立
rhTSHを生産する最適温度を確立するために、様々な温度条件で細胞を培養した。
【0105】
最初に、上記の例2で選択したクローン#3の細胞0.5×10個/mLを37℃で15日間ハイセルCHO培地(Hyclone、米国)中で培養し、この場合、培養5、7、9、11、および13日目に0.5%ActiCHO(GE Healthcare、米国)および4%セルブースト5(CB5、GE Healthcare、米国)を補給剤として添加した。6日後、生細胞密度が細胞6×10から8×10個/mLに達した時、温度を37℃、35℃、33℃、および31℃に下げ、15日目まで培養した。
【0106】
生細胞密度、細胞生存率、pH、グルコース、ラクテート、グルタミン、およびグルタメートを毎日測定し、上記の例2で述べたようにrhTSHの生産性を9、11、13、および15日目に測定した。
【0107】
その結果、図2Bに示すように、15日目まで37℃で培養した細胞の生存率は50%以下であり、37℃の温度で培養後35℃に変更した(37℃→35℃)細胞では約60%であった。一方、37℃→33℃または37℃→31℃で培養した細胞では、細胞生存率は95%以上であった。
【0108】
一方、図2Aに示すように、培養15日目のrhTSHの生産性に関しては、37℃→33℃で培養した細胞が0.7g/Lと最も高い生産性を示した。
【0109】
従って、rhTSHを生産する温度は、37℃から33℃に下げる条件を最適な培養条件として設定した。この場合、37℃で6日間培養後、7日目から33℃に温度を下げ培養を行うことができる。
【0110】
3.2.最適細胞数の確立
上記の例3.1では、rhTSHを生産する温度条件を確立した。しかし、温度を下げる時の生細胞密度のrhTSHの生産に対する影響を確認するため、以下の実験を実施した。
【0111】
具体的には、生細胞密度をそれぞれ細胞6.0×10、8.5×10、9.8×10、10.5×10、11.5×10、または12.0×10個/mLとして、すべての実験を、37℃から33℃に培養温度を下げた以外は上記の例3.1と同様に実施した。培養後、例2と同様に細胞培養液のrhTSHの生産率を測定し、rhTSHの純度をSDS-PAGE電気泳動およびクーマシーブルー染色を使用して確認した。
【0112】
一方、HCPを吸光度測定により確認した。0、1、4、20、75、および250ng/mLの濃度の標準試料を吸光度測定のために調製した。さらに、それぞれの条件で得たrhTSHの試料を標準範囲に応じて希釈し、この希釈したrhTSH 120μLと250ng/mLの濃度の標準試料30μLを混ぜて混合試料を調製した。この混合試料50μLをELISAストリップの2ウェルに分注し、Anti-CHO:アルカリホスファターゼ200μLを添加した。これを密封し、24℃、180rpmで2時間撹拌し、洗浄液で4回洗浄後、PNPP 200μLを添加して室温で1時間30分反応させ、その吸光度を405/492nmの二重波長で測定した。
【0113】
培養温度変更時に、生産率、rhTSHの純度、および生細胞密度に依存する不純物である宿主細胞タンパク質(HCP)の量を測定し、以下の表1に示した。
【0114】
【表1】
【0115】
その結果、上記の表1および図3に示すように、培養温度変更時の生細胞密度が細胞6.0×10から11.0×10個/mLの範囲では、rhTSHの生産率と純度は同様のレベルであった。しかし、培養温度変更時の生細胞密度が細胞11.0×10個/mLを超えると、HCPが過剰量含まれてきて、それにより純粋なrhTSHの生産率および純度の測定ができなかった。
【0116】
従って、上記のことから、生細胞密度が細胞6.0×10から11.0×10個/mLの時に、培養温度を下げてrhTSHを高収率および高純度で生産できることが確認された。
【0117】
生細胞密度が細胞8.5×10個/mLの時に培養温度を下げた場合と比べて、密度が細胞6.0×10個/mLの時に培養温度を下げた場合では、生産率は1.12倍低下したが、HCPの量が1.5倍以上減少したことが確認された。医薬品の生産においてHCPの量を減らすことは非常に重要であるので、最適条件は、生細胞密度が細胞6.0×10個/mLの時に培養温度を下げる、HCPの量が生産性に対して最小となる条件とした。
【0118】
一方、生細胞密度が細胞6.0×10個/mLの時に培養温度を下げることが細胞生存率に影響を及ぼすかどうかを確認するため、3つのクローンで、生細胞密度が細胞6.0×10個/mLの時に培養温度を下げること以外は上記の例3.1と同様に実験を行った。培養細胞の生細胞密度の測定結果を図4に示す。
【0119】
その結果、図4に示すように、細胞6.0×10個/mL時に培養温度を下げたにもかかわらず、細胞生存率は影響を受けず、最終的な細胞密度は、細胞14.0×10個/mLに増加した。
【0120】
3.3.最適培養期間の確立
rhTSHを生産する最適な培養期間を確立するために、生細胞密度、細胞増殖率、およびrhTSHの生産性を、上述したように18日間の培養期間で確認した。
【0121】
その結果、細胞増殖率は培養18日目に90%以上であり、rhTSHの生産性は1g/Lよりも高いように思われたが、その品質は対照群よりも低かった。
【0122】
従って、生産されるrhTSHの生産性と品質を維持できる最適な流加培養時間は12日間と設定し、最終的に、上記の一連の実験を通してrhTSH生産の流加培養条件を確立した。
【0123】
本発明で確立した条件下で培養した細胞は培養12日目にrhTSHを0.6g/L以上産生し、対照群と同等の品質を維持しつつ、生産性は20倍以上増加することが判明した。
【0124】
比較例1
従来のrhTSHタンパク質精製法
性腺刺激ホルモンは、脊椎動物の脳下垂体前葉から分泌される糖タンパク質ポリペプチドホルモンであり、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体ホルモン(LH)、ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)、およびTSHなどが挙げられ、それらは同じαサブユニットと特異的なβサブユニットを有する。従って、一般的に、rhTSHタンパク質の精製は性腺刺激ホルモンの精製法と同じような方法で実施される。従って、従来の精製法により精製したタンパク質の精製収率と純度を、本発明により精製したタンパク質のものと比較するため、rhTSHタンパク質を従来の精製法で精製した。
【0125】
具体的には、例3で確立した条件下で培養した細胞の上清を採取し、ミリスタックプラスDOHC(Millistak+DOHC)およびミリスタックプラスXOHC(Millistak+XOHC)フィルターで順番にろ過した。ろ過した上清をポッドデプス(Pod Depth)フィルターおよびXOHCで限外ろ過し、20倍に濃縮後、0.22μmのミリパック20フィルターを用いてA緩衝液(50mM CHES、40mM NaCl、pH10.0)でダイアフィルトレーションに付した。ろ過した上清をヌビア(Nuvia)Q樹脂を用いたアニオン交換クロマトグラフィーに付し、350mM NaClで溶出した。その後、ポッドデプスフィルターで再度ろ過を行い不溶の凝集物を除去した。ろ過した上清はB緩衝液(10mMリン酸ナトリウム、pH7.0)で平衡化後、ブルー6 FF樹脂と530mM NaCl溶出液で二次精製に付した。フェニルHP樹脂を用いた疎水性相互作用クロマトグラフィーを使用して三次精製を行い、上記の精製プロセスに付した溶出液をQメンブレンにC緩衝液(20mMリン酸ナトリウム、pH7.0)で通過させた。最終生成物をD緩衝液(20mMリン酸ナトリウム、3%マニトール、0.2%NaCl)で製剤化した。このようにして精製したタンパク質をSDS-PAGE電気泳動に付し、クーマシーブルー染色を用いて確認した。
【0126】
その結果、図5Aおよび図5Bに示すように、上記の方法で精製したrhTSHタンパク質は、収率は30%以上で純度は98%以上を示したが、宿主細胞からの不純物である宿主細胞タンパク質(HCP)が1,000ppm以上であることが確認された。医薬品用途のタンパク質不純物は100ppm未満であり、これらを除去するには追加の手順が必要であった。
【0127】
例4
rhTSHタンパク質の高収率精製法の確立
一般的に、rhTSHタンパク質は幅広いPI値を持ち、3つのN-グリコシル化部位が存在するため不純物を除去するのは簡単ではない。そのため、rhTSHタンパク質を効率的に精製する精製条件を確立した。
【0128】
最初に、抗-性腺刺激ホルモン抗体(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を固定相として用いてキャプチャーセレクトシステム(サーモフィッシャーサイエンティフィック)でカラムを調製し、カラムに比較例1と同様に調製した細胞上清を流量40L/h、3gタンパク質/Lキャプチャーセレクト量で添加した後、流量40L/hでカラムに注入するE緩衝液(0.1Mクエン酸ナトリウム、pH3.0)で溶出した。その後、不溶の凝集物とHCPを除去するため、ポッドデプスフィルターでF緩衝液(50mMトリス、pH9.0)を用いて3.0bar以下の圧力下、流量86mL/m以下でろ過した。ろ液を、孔径0.22μmの半透膜(ミリパック20、ミリポア)で1.0bar以下の圧力下で透析し、ろ液の導電率が30.0μS/cm以下になった時に終了した。この透析精製した中間体産物をキャプトアドヒア(Capto adhere)カラムに15mL/minで添加後、G緩衝液(20mM酢酸ナトリウム、pH3.8)で流量15mL/minで溶出した。最後に、溶出液をD緩衝液で製剤化した。このように精製したタンパク質はSDS-PAGE電気泳動に付し、クーマシーブルー染色を用いて確認した。
【0129】
その結果、図6Aおよび6Bに示すように、キャプトアドヒア工程を省略して精製したrhTSHタンパク質は100%に近い純度を示し、ほとんどのHCPは除去されるが、その量は医薬品用途の許容範囲である100ppmを超えることが確認された。しかし、キャプトアドヒア工程実施後の精製rhTSHタンパク質では、結果としてHCPが20ppm未満の最終体が得られ、この場合、精製収率が45%と非常にすぐれていることが確認された。
【0130】
例5
精製したrhTSHタンパク質の品質分析
rhTSHタンパク質生産方法の確立の主な目的は、流加培養条件下でタンパク質の生産性を向上させることである。本発明による条件下で、rhTSHの生産のため18日間細胞を培養した時、タンパク質の生産性は非常にすぐれていたが、タンパク質の品質は低下するという問題があった。従って、12日間培養したrhTSHタンパク質を等電点電気泳動プロファイル(IEF)およびペプチドマッピングに付し、市販されている対照群と比較した。
【0131】
最初に、精製したrhTSHと対照群のグリコシル化プロファイルをゲルIEFで比較した。試料をpH3から10のIEFゲル(Invitrogen)に添加し、200V、100V、および500Vで連続的にそれぞれ1時間、電気泳動を実施した。その後、電気泳動ゲルをクーマシーブルー染色により確認した。
【0132】
一方、精製したrhTSHと対照群のペプチドマッピングのパターンをトリプシン処理により分析した。具体的には、20μLの8Mウレア(Sigma)と2.5μLの200mM DTT(シグマ)を100μgの試料に添加し、均一に平衡化した後、70℃で10分間反応させた。その後、2.5μLの550mMヨードアセトアミド(シグマ)を各反応管に加え、室温で40分間放置した。50μLのトリプシン(Promega)と105μLの100mM炭酸水素アンモニウム(シグマ)で試料を処理し、37℃、15時間反応させた後、切断されたペプチドを超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)により分析した。
【0133】
その結果、図7Aおよび7Bに示すように、本発明の方法により培養、精製したrhTSHタンパク質は、IEFプロファイルおよびペプチドマッピングの分析において、市販されている対照群と同様な結果を示し、本発明のrhTSHタンパク質の品質がすぐれていることが確認された。
【0134】
例6
精製したrhTSHタンパク質の生理活性の確認
上述の方法により精製したrhTSHタンパク質のin vitroおよびin vivo活性を確認するため、以下の実験を実施した。
【0135】
6.1.rhTSHタンパク質のin vitro活性の確認
rhTSHタンパク質のin vitro活性を確認するため、TSH/TSHRのシグナル伝達経路により誘導されるセカンドメッセンジャーであるcAMPの発現を測定した。
【0136】
具体的には、安定的に甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR)とcAMP依存性ルシフェラーゼ遺伝子を発現しているcAMPハンター(Hunter)(商標)CHO-K1 TSHR(L)Gs細胞株[DiscoveRx]を、96ウェルプレートに分注する前に、約70から80%の集密度を維持する同じ細胞株[DiscoveRx]の培養に使用した培地中で培養した。培養細胞を96ウェルプレートに細胞2×10個/ウェルで分注し、37℃で18から20時間培養した後、各ウェルの培地を取り出し、45μLのcAMP抗体試薬を添加した。3-イソブチル-1-メチルキサンチン(IBMX)で希釈した溶液15μLをそこに添加し、37℃で30分間反応させた。40μLのED/CL溶液をそこに添加し、26℃から28℃で1時間反応させ、ED/CL溶液を、ED試薬、ヒットハンター(HitHunter)cAMP XS+Kit Substrate 2、ヒットハンターcAMP XS+Kit Substrate 1、および細胞溶解試薬を15:1:5:9の比で混ぜて調製した。その後、40μLのEA溶液を添加し、26から28℃で1時間反応させ、相対発光量(RLU)をルミノメーター(BioTek、synergy 2)により測定した。rhTSHタンパク質と対照群のEC50を測定値として計算して比較した。
【0137】
その結果、図8Aに示すように、本発明のrhTSHタンパク質のEC50値は対照群と約99%類似していることが確認された。
【0138】
6.2.rhTSHタンパク質のin vivo活性の確認
rhTSHタンパク質のin vivo活性を確認するため、rhTSHを動物モデルに投与した時の血中のT4量を測定した。
【0139】
最初に、一般的なC57BL/6マウスを準備し、各群4匹ずつに分け、本発明のrhTSHおよび対照群をそれぞれ0.1、0.5、および2mg/kgの濃度で腹腔内に注射した。投与前、投与6時間後、および投与12時間後に各マウスから血液を採取した。得られた試料は、分析するまで低温フリーザーで保管し、上記の例2で述べたようにTSH特異的ELISAキット(Genway)を用いて血管内のT4レベルを確認することにより分析し、比較した。
【0140】
その結果、図8Bに示すように、本発明のrhTSHタンパク質は、濃度依存的に対照群と同様のレベルでT4の発現を誘発した。
【0141】
従って、本発明の方法により生産して精製したrhTSHタンパク質は市販製品と同様の活性を示したので、その品質がすぐれていることが判明した。
以下に、本願の実施態様を付記する。
[1] 遺伝子組み換えヒト甲状腺刺激ホルモン(rhTSH)を活性成分として含む、再発甲状腺がんの診断または治療のための組成物であって、
1)rhTSHを産生する細胞株を35℃から40℃の培養温度で培養する工程;
2)培養細胞数が細胞3×10 から2×10 個/mLに達した時に、前記培養温度を29℃から34℃の範囲に下げることにより前記細胞株を培養する工程;および
3)培養液からrhTSHを得る工程
を含む流加培養により得られる、組成物。
[2] 前記ヒト甲状腺刺激ホルモンが、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドと配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む、[1]に記載の組成物。
[3] 工程1)のrhTSHを産生する前記細胞株が、rhTSHのαサブユニットをコードする遺伝子とそのβサブユニットをコードする遺伝子を発現する発現ベクターを含む、[1]に記載の組成物。
[4] 前記細胞株が不死のハイブリドーマ細胞、NS/O骨髄腫細胞、293細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞、HeLa細胞、CapT細胞、およびCOS細胞から成る群より選択されるいずれか1つである、[3]に記載の組成物。
[5] 工程1)の前記培養温度が36℃から38℃の範囲である、[1]に記載の組成物。
[6] 前記培養温度が37℃である、[5]に記載の組成物。
[7] 工程2)において前記培養温度を下げる時、前記細胞数が細胞5×10 から1×10 個/mLの範囲である、[1]に記載の組成物。
[8] 前記細胞数が細胞6×10 から8×10 個/mLの範囲である、[7]に記載の組成物。
[9] 前記細胞数が細胞6×10 個/mLである、[8]に記載の組成物。
[10] 工程2)の前記培養温度が31℃から33℃の範囲である、[1]に記載の組成物。
[11] 前記培養温度が33℃である、[10]に記載の組成物。
[12] 前記組成物が放射性ヨウ素治療において抗がん療法用補助剤として用いられる、[1]に記載の組成物。
[13] 1)rhTSHを産生する細胞株を35℃から40℃の培養温度で培養する工程;
2)培養細胞数が細胞3×10 から2×10 個/mLに達した時に、前記培養温度を29℃から34℃の範囲に下げることにより前記細胞株を培養する工程;および
3)培養液からrhTSHを得る工程
を含む、遺伝子組み換えヒト甲状腺刺激ホルモンを流加培養により生産する方法。
[14] 前記ヒト甲状腺刺激ホルモンが、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドと配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む、[13]に記載の方法。
[15] 工程1)のrhTSHを産生する前記細胞株が、rhTSHのαサブユニットをコードする遺伝子とそのβサブユニットをコードする遺伝子を発現する発現ベクターを含む、[13]に記載の方法。
[16] 前記細胞株が不死のハイブリドーマ細胞、NS/O骨髄腫細胞、293細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞、HeLa細胞、CapT細胞、およびCOS細胞から成る群より選択されるいずれか1つである、[13]に記載の方法。
[17] 工程1)の前記培養温度が36℃から38℃の範囲である、[13]に記載の方法。
[18] 前記培養温度が37℃である、[17]に記載の方法。
[19] 工程2)において前記培養温度を下げる時、前記細胞数が細胞5×10 から1×10 個/mLの範囲である、[13]に記載の方法。
[20] 前記細胞数が細胞6×10 から8×10 個/mLの範囲である、[19]に記載の方法。
[21] 前記細胞数が細胞6×10 個/mLである、[20]に記載の方法。
[22] 工程2)の前記培養温度が31℃から33℃の範囲である、[13]に記載の方法。
[23] 前記培養温度が33℃である、[22]に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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