(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】水溶紙を含むサンプル調製用材料およびそれを用いるサンプル調製方法
(51)【国際特許分類】
C12N 9/96 20060101AFI20220622BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20220622BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20220622BHJP
C12Q 1/6806 20180101ALI20220622BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20220622BHJP
【FI】
C12N9/96
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6806 Z
C12N15/09 Z
(21)【出願番号】P 2019510213
(86)(22)【出願日】2018-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2018013523
(87)【国際公開番号】W WO2018181850
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-01-27
(31)【優先権主張番号】P 2017070962
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518448013
【氏名又は名称】一般社団法人生命科学教育研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】木下 健司
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-157295(JP,A)
【文献】特開2001-258556(JP,A)
【文献】国際公開第2018/025856(WO,A1)
【文献】特開平08-013385(JP,A)
【文献】特開2006-262777(JP,A)
【文献】ANALYTICAL SCIENCES,2010年,Vol. 26,p. 503-505
【文献】医療薬学,2014年,Vol. 40,p. 402-408
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/00-9/99
C12Q 1/68-1/6897
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液サンプルのコピー数多型を検出するための
定量的分析用のサンプルを調製するための、一定面積の水溶紙を含む、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼの血液またはその成分による増幅活性阻害効果の抑制剤または抑制材料
であって、該定量的分析において、核酸の抽出または精製が行われないことを特徴とする、抑制剤または抑制材料。
【請求項2】
前記ポリメラーゼはTaq DNAポリメラーゼである、請求項1に記載の抑制剤または抑制材料。
【請求項3】
前記水溶紙は、水溶性セルロース誘導体を含む、請求項1または2に記載の抑制剤または抑制材料。
【請求項4】
前記水溶紙は、カルボキシメチルセルロースを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の抑制剤または抑制材料。
【請求項5】
血液サンプルのコピー数多型の検査の定量的分析に用いるための、請求項1~4のいずれか1項に記載の抑制剤または抑制材料を含むキット
であって、該定量的分析において、核酸の抽出または精製が行われないことを特徴とする、キット。
【請求項6】
さらに、遺伝子増幅のためのサンプルを調製するための、請求項5に記載のキット。
【請求項7】
さらに、遺伝子分析に用いるための、請求項5または6に記載のキット。
【請求項8】
前記遺伝子分析が遺伝子型の検査である、請求項7に記載のキット。
【請求項9】
前記遺伝子型の検査が、薬物代謝酵素遺伝子の遺伝子型の検査である、請求項8に記載のキット。
【請求項10】
前記コピー数多型の検査が、リアルタイムPCRを用いて行われる、請求項5~9のいずれか1項に記載のキット。
【請求項11】
血液サンプルのコピー数多型の検査の定量的分析を行う方法であって、
血液サンプルを水溶紙に接触させる工程と、
該水溶紙の一定面積を採取し、該血液サンプルを担持した該水溶紙を反応液中に添加し、遺伝子増幅反応を行う工程と
を含み、核酸の抽出または精製を行わないことを特徴とする、方法。
【請求項12】
前記コピー数多型の検査が、リアルタイムPCRを用いて行われる、請求項
11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的または化学的な測定のためのサンプルの調製に関する。より詳細には、生体サンプル中の遺伝子分析または薬物分析のためのサンプル調製に関する。
【背景技術】
【0002】
医療の現場では、薬物の効果を調べる際に生体から得られるサンプルを分析することが必要とされる。例えば、薬物を投与する前に、薬物代謝酵素の遺伝子多型を被験体の生体サンプルから調べておくことにより、薬物の効果や副作用について予測することが可能になる。また、薬物の投与後にも、血中の薬物濃度をモニタリングすることにより、薬物が有効となる動態を示しているかを確認することが可能になる。
【0003】
しかしながら、生体から得られた物質(例えば、血液)には夾雑物が多く含まれており、精密な測定、測定に必要な酵素反応等を妨げることがあり、生体サンプルからの情報を分析するのには、煩雑な精製工程を踏む必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、水溶紙またはその成分に、生体サンプル中の物質による反応の阻害またはノイズを抑制・低減する作用があることを見出し、本発明を完成させた。従って、本発明は、水溶紙を含む、生体サンプル中の物質による反応の阻害またはノイズを抑制・低減する剤または材料ならびにこれを利用した生体サンプル中の物質による反応の阻害またはノイズを抑制・低減する方法およびこれを利用した生体サンプル中の特定成分(例えば、遺伝子または遺伝子産物)の検出、測定または同定方法を提供する。かかる反応阻害またはノイズの抑制・低減により、方法における抽出または精製ステップの省略を可能とし得る。
【0005】
本発明の一実施形態は、水溶紙またはその成分を用いて、生体サンプルまたはその成分による核酸ポリメラーゼの増幅活性阻害効果を抑制することに関する。本発明は、例えば、水溶紙またはその成分を含む、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼの生体サンプルまたはその成分による増幅活性阻害効果の抑制剤または抑制材料、ならびにこの抑制剤を用いた5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼの生体サンプルまたはその成分による増幅活性阻害方法、および生体サンプルまたはその成分中の遺伝子または遺伝子産物の検出、測定または同定方法を提供する。
【0006】
増幅活性阻害効果の抑制剤または抑制材料は、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼなどの核酸ポリメラーゼを用いた遺伝子増幅反応(例えば、PCR)に有用である。増幅活性阻害効果の抑制剤または抑制材料を用いて、遺伝子増幅を伴う遺伝子分析(例えば、遺伝子型の分析またはコピー数多型の分析)を行うことができる。本発明の1つの実施形態では、そのような遺伝子分析において用いるための、増幅活性阻害効果の抑制剤または抑制材料を含むキットを提供する。
【0007】
別の局面では、本発明は、水溶紙を含む、吸光度測定で用いるサンプル調製のためのサンプリング剤またはサンプリング材料に関する。吸光度測定は、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)-紫外線吸収(UV)分析で行われるものである。このようなサンプリング剤またはサンプリング材料を用いて調製した乾燥血スポット(DBS)サンプルから、被験体の血中の治療薬物モニタリングを行うことが可能である。
【0008】
本発明のさらなる局面では、本発明は、吸光度測定および核酸増幅による遺伝子分析のためのサンプルを同一のサンプルから調製するためのサンプリング剤またはサンプリング材料を提供する。例えば、本発明の1つの実施形態では、水溶紙を用いて同一の血液サンプルから核酸成分を水性画分へと遊離させるとともに、薬物成分を有機溶媒画分へと遊離させ、遺伝子分析および吸光度測定を同時に行う。
【0009】
本発明の1つの局面は、吸光度測定および核酸増幅による遺伝子分析のためのサンプルを同一のサンプルから調製する方法であって、血液サンプルがスポットされた水溶紙を液体に溶解させる工程と、該水溶紙を溶解させた液体の一部から核酸増幅による遺伝子分析のためのサンプルを調製する工程と、該水溶紙を溶解させた液体の他の一部から吸光度測定のためのサンプルを調製する工程とを含む、方法を提供する。
【0010】
本発明において、水溶紙を使用するすべての局面において、1つの実施形態では、水溶紙は、水溶性セルロース誘導体を含む。1つの実施形態では、水溶紙は、カルボキシメチルセルロースを含む。
【0011】
本発明は、水溶紙またはその成分が、生体サンプル中の物質による反応の阻害またはノイズを抑制・低減するのに有用な性質を有するという予想外の発見に部分的に基づく。
【0012】
生体サンプル(例えば、血液サンプル)の固形物(例えば、乾燥血スポット(DBS)または乾燥唾液スポット(DSS)サンプルから、超臨界二酸化炭素抽出法を利用して目的の薬物を抽出して、超臨界流体クロマトグラフシステムで薬物濃度測定を行い、DBSまたはDSSの抽出残留固形物を蒸留水(DW(Distilled Water 以下、本明細書中においてDWは蒸留水を示す略語として用いられる))に溶解して、その一部を使用して遺伝子検査に使用できる。
【0013】
1つの実施形態では、本発明は、水溶紙またはその成分を含む、吸光度測定および核酸増幅による遺伝子分析のためのサンプルを同一のサンプルから調製するためのサンプリング剤またはサンプリング材料であって、該吸光度測定は、超臨界流体クロマトグラフィーによるものであり、該遺伝子分析のためのサンプルは、該超臨界流体クロマトグラフィーの抽出残渣である、サンプリング剤またはサンプリング材料を提供する。
【0014】
超臨界二酸化炭素抽出は、低温で抽出作業を行うことができるため、薬物を抽出する際水溶紙中の核酸試料が分解されず、本発明において好ましい場合がある。水溶紙は、超臨界二酸化炭素抽出後にもその構造が維持され、さらにその後水(蒸留水)に溶解させることができるため、上記のような同一のサンプルからの吸光度測定および核酸増幅による遺伝子分析のためのサンプルの調製において有用である。
【0015】
本発明は、例えば、以下の実施形態を提供する。
(項目1) 水溶紙またはその成分を含む、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼの血液またはその成分による増幅活性阻害効果の抑制剤または抑制材料。
(項目2) 前記ポリメラーゼはTaq DNAポリメラーゼである、項目1に記載の抑制剤または抑制材料。
(項目3) 前記水溶紙は、水溶性セルロース誘導体を含む、項目1または2に記載の抑制剤または抑制材料。
(項目4) 前記水溶紙は、カルボキシメチルセルロースを含む、項目1~3のいずれか1項に記載の抑制剤または抑制材料。
(項目5) 項目1~4のいずれか1項に記載の抑制剤または抑制材料を含むキット。
(項目6) 遺伝子増幅のためのサンプルを調製するための、項目5に記載のキット。
(項目7) 遺伝子分析に用いるための、項目5または6に記載のキット。
(項目8) 前記遺伝子分析が遺伝子型の検査である、項目7に記載のキット。
(項目9) 前記遺伝子型の検査が、薬物代謝酵素遺伝子の遺伝子型の検査である、項目8に記載のキット。
(項目10) 水溶紙またはその成分を含む、吸光度測定で用いるサンプル調製のためのサンプリング剤またはサンプリング材料。
(項目11) 前記吸光度測定は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)-紫外線吸収(UV)分析で行われるものである、項目10に記載のサンプリング剤またはサンプリング材料。
(項目12) 前記水溶紙は、水溶性セルロース誘導体を含む、項目10または11に記載のサンプリング剤またはサンプリング材料。
(項目13) 前記水溶紙は、カルボキシメチルセルロースを含む、項目10~12のいずれか1項に記載のサンプリング剤またはサンプリング材料。
(項目14) 前記サンプル調製が、乾燥血スポット(DBS)サンプルの調製である、項目10~13のいずれか1項に記載のサンプリング剤またはサンプリング材料。
(項目15) 項目10~14のいずれか1項に記載のサンプリング剤またはサンプリング材料を含むキット。
(項目16) 治療薬物モニタリングに用いるための、項目15に記載のキット。
(項目17) 水溶紙またはその成分を含む、吸光度測定および核酸増幅による遺伝子分析のためのサンプルを同一のサンプルから調製するためのサンプリング剤またはサンプリング材料。
(項目18) 前記遺伝子分析はTaqman(TM)分析である、項目17に記載のサンプリング剤またはサンプリング材料。
(項目19) 前記吸光度測定は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)-紫外線吸収(UV)分析で行われるものである、項目17または18に記載のサンプリング剤またはサンプリング材料。
(項目20) 前記水溶紙は、水溶性セルロース誘導体を含む、項目17~19のいずれか1項に記載のサンプリング剤またはサンプリング材料。
(項目21) 前記水溶紙は、カルボキシメチルセルロースを含む、項目17~20のいずれか1項に記載のサンプリング剤またはサンプリング材料。
(項目22) 前記吸光度測定のためのサンプルが、乾燥血スポット(DBS)サンプルである、項目17~21のいずれか1項に記載のサンプリング剤またはサンプリング材料。
(項目23) 項目17~22のいずれか1項に記載のサンプリング剤またはサンプリング材料を含むキット。
(項目24) 薬物代謝酵素遺伝子の遺伝子型の検査と、治療薬物モニタリングとを同一のサンプルに対して行うための、項目23に記載のキット。
(項目25) 吸光度測定および核酸増幅による遺伝子分析のためのサンプルを同一のサンプルから調製する方法であって、
サンプル(例えば、血液サンプルなどの生体サンプル)がスポットされた水溶紙を液体に溶解させる工程と、
該水溶紙を溶解させた液体の一部から核酸増幅による遺伝子分析のためのサンプルを調製する工程と、
該水溶紙を溶解させた液体の他の一部から吸光度測定のためのサンプルを調製する工程と
を含む、方法。
(項目26) 前記水溶紙は、水溶性セルロース誘導体を含む、項目25に記載の方法。
(項目27) 前記水溶紙は、カルボキシメチルセルロースを含む、項目25または26に記載の方法。
(項目28) サンプル(例えば、血液サンプルなどの生体サンプル)中またはその成分中の遺伝子または遺伝子産物の検出、測定または同定方法であって、該方法は:(A)サンプルまたはその成分を提供する工程;(B)該サンプルまたはその成分に水溶紙またはその成分を接触させる工程;(C)接触後の該サンプルまたはその成分を5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼを用いて該遺伝子または遺伝子産物に関する遺伝子増幅反応に供する工程;および(D)該増幅反応の結果に基づいて該遺伝子または遺伝子産物の検出、測定または同定を行う工程を包含する、方法。
(項目29) 前記遺伝子増幅反応はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を含む、項目28に記載の方法。
(項目30) 前記検出、測定または同定を行う工程は、遺伝子型の分析を含む、項目28または29に記載の方法。
(項目31) 項目1~9のいずれかまたは複数の項目に記載される特徴をさらに含む、請求項28~30のいずれか1項に記載の方法。
(項目32) サンプル(例えば、血液サンプルなどの生体サンプル)中またはその成分中の遺伝子または遺伝子産物の検出、測定または同定するためのキットであって、該キットは:(a)水溶紙またはその成分;および(b)5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼを含む、遺伝子増幅反応のための試薬を含む、キット。
(項目33) 前記遺伝子増幅反応はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を含む、項目32に記載のキット。
(項目34) 前記検出、測定または同定は、遺伝子型の分析を含む、項目32または33に記載のキット。
(項目35) 項目1~9のいずれかまたは複数の項目に記載される特徴をさらに含む、請求項32~34のいずれか1項に記載のキット。
(項目36) 同一のサンプル(例えば、血液サンプルなどの生体サンプル)に基づいて吸光度測定および核酸増幅を含む分析を行う方法であって、該方法は、水溶紙またはその成分に該サンプルを接触させる工程;該水溶紙またはその成分に有機溶媒を接触させて有機画分を抽出する工程;該水溶紙またはその成分に水または水含有溶媒を接触させて水性画分を抽出する工程;ならびに該有機画分を用いて核酸増幅を含む分析を行い、該有機画分を用いて吸光度測定を行う工程を含む、方法。
(項目37) 前記吸光度測定はHPLCまたはLC-MSを含む、項目36に記載の方法。
(項目38) 項目1~27のいずれかまたは複数の項目に記載される特徴をさらに含む、請求項36または37のいずれか1項に記載の方法。
(項目39) 同一のサンプル(例えば、血液サンプルなどの生体サンプル)を用いて吸光度測定および核酸増幅を含む分析を行う方法であって、該方法は、該サンプルがスポットされた水溶紙を液体に溶解させる工程と、該水溶紙を溶解させた液体の一部から核酸増幅による分析のためのサンプルを調製する工程と、該水溶紙を溶解させた液体の他の一部から吸光度測定のためのサンプルを調製する工程と、該核酸増幅のためのサンプルを用いて核酸増幅を含む分析を行う工程と、該吸光度測定のためのサンプルを用いて該吸光度測定を行う工程とを含む、方法。
(項目40) 前記吸光度測定はHPLCまたはLC-MSを含む、項目39に記載の方法。
(項目41) 項目1~27のいずれかまたは複数の項目に記載される特徴をさらに含む、請求項39または40のいずれか1項に記載の方法。
(項目42) 同一のサンプル(例えば、血液サンプルなどの生体サンプル)に基づいて吸光度測定および核酸増幅を含む分析を行うシステムであって、該システムは、水溶紙またはその成分;該水溶紙またはその成分に有機溶媒を接触させて有機画分を抽出する手段;該水溶紙またはその成分に水または水含有溶媒を接触させて水性画分を抽出する手段;核酸増幅を含む分析を行う手段;および吸光度測定を行う手段を含む、システム。
(項目43) 前記吸光度測定を行う手段はHPLCまたはLC-MSを実施する機器を含む、項目42に記載のシステム。
(項目44) 項目1~27のいずれかまたは複数の項目に記載される特徴をさらに含む、請求項42または43のいずれか1項に記載のシステム。
(項目45) 同一のサンプル(例えば、血液サンプルなどの生体サンプル)を用いて吸光度測定および核酸増幅を含む分析を行うシステムであって、該システムは、必要に応じて予め該サンプルがスポットされた水溶紙;水溶紙を溶解する液体(例えば、水、水含有溶媒等);核酸増幅試薬;および吸光度測定のための手段を含む、システム。
(項目46) 前記吸光度測定を行う手段はHPLCまたはLC-MSを実施する機器を含む、項目45に記載のシステム。
(項目47) 項目1~27のいずれかまたは複数の項目に記載される特徴をさらに含む、請求項45または46のいずれか1項に記載のシステム。
(項目48) 水溶紙またはその成分を含む、吸光度測定および核酸増幅による遺伝子分析のためのサンプルを同一のサンプルから調製するためのサンプリング剤またはサンプリング材料であって、該吸光度測定は、超臨界流体クロマトグラフィーによるものであり、該遺伝子分析のためのサンプルは、該超臨界流体クロマトグラフィーの抽出残渣である、サンプリング剤またはサンプリング材料。
(項目49) 吸光度測定および核酸増幅による遺伝子分析のためのサンプルを同一のサンプルから調製する方法であって、
サンプル(例えば、血液サンプルなどの生体サンプル)がスポットされた水溶紙(例えば、にDBSまたはDSS)を超臨界抽出に供して吸光度測定のためのサンプルを調製する工程と、
該超臨界抽出した水溶紙の残渣から、核酸増幅による遺伝子分析のためのサンプルを調製する(例えば、蒸留水(DW)に溶解する)工程と、
を含む、方法。
(項目50) 前記遺伝子分析が、定量的分析である、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目51) 前記定量的分析が、コピー数多型の検査である、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目52) 前記コピー数多型の検査が、リアルタイムPCRを用いて行われる、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目53) 前記コピー数多型の検査が、ヒトRNase Pを標準として用いて行われる、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目54) 前記遺伝子分析において、核酸の抽出または精製が行われない、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目55) 血液サンプルの遺伝子分析を行う方法であって、
血液サンプルを水溶紙またはその成分に接触させる工程と、
該担体の一定面積を採取し、該血液サンプルを担持した該担体を反応液中に添加し、遺伝子増幅反応を行う工程と
を含み、核酸の抽出または精製を行わないことを特徴とする、方法。
(項目56) 前記項目のいずれか1つまたは複数の項目に記載される特徴をさらに含む、前記項目に記載の方法。
(項目57) 前記遺伝子分析が、定量的分析である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目58) 前記定量的分析が、コピー数多型の検査である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目59) 前記コピー数多型の検査が、リアルタイムPCRを用いて行われる、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目60) 前記コピー数多型の検査が、ヒトRNase Pを標準として用いて行われる、前記項目のいずれかに記載の方法。
【0016】
本発明において、上記の1つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。本発明のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼを用いたアッセイにおいて、血液またはその成分などを直接用いて増幅反応を行うことができ、Taqman法などにおいて、直接血液サンプルを利用することができ、遺伝子多型やコピー数多型の簡易検出がより容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】
図1Aは、水溶紙(120MDP)、およびWhatman(登録商標) 903 Protein saver cardを用いたサンプルからの、Taqmanプローブ法による遺伝子型分析のための遺伝子増幅の結果を示す図である。縦軸はADH1B(A)の遺伝子増幅シグナルを示す。横軸はADH1B(G)の遺伝子増幅シグナルを示す。●はポジティブコントロールの結果を示す。■はネガティブコントロールの結果を示す。×はWhatman(登録商標) 903 Protein saver cardを用いたサンプルの結果を示す。▲は水溶紙のサンプルについての結果を示す。
【
図1B】
図1Bは、水溶紙(120MDP)、およびWhatman(登録商標) 903 Protein saver cardを用いたサンプルからの、Taqmanプローブ法による遺伝子型分析のための遺伝子増幅の際の増幅曲線を示す。
【
図2A】
図2Aは、種々の水溶紙、ろ紙を用いたサンプルおよび反応液に血液をそのまま滴下したサンプルからの、Taqmanプローブ法による遺伝子型分析のための遺伝子増幅の結果を示す図である。縦軸はADH1B(A)の遺伝子増幅シグナルを示す。横軸はADH1B(G)の遺伝子増幅シグナルを示す。●はポジティブコントロールの結果を示す。■はネガティブコントロールの結果を示す。×は遺伝子増幅のシグナルが見られなかったサンプルの結果を示す。▲は遺伝子増幅のシグナルが見られたサンプルについての結果を示す。
【
図2B】
図2Bは、種々の水溶紙、ろ紙、FTAカードを用いたサンプルおよび反応液に血液をそのまま滴下したサンプルからの、Taqmanプローブ法による遺伝子型分析のための遺伝子増幅の結果を示す図である。縦軸はADH1B(A)の遺伝子増幅シグナルを示す。横軸はADH1B(G)の遺伝子増幅シグナルを示す。●はポジティブコントロールの結果を示す。■はネガティブコントロールの結果を示す。×は遺伝子増幅のシグナルが見られなかったサンプルの結果を示す。▲は遺伝子増幅のシグナルが見られたサンプルについての結果を示す。
【
図3】
図3は、種々の水溶紙を用いたサンプルについて、サンプル採取から8か月後に行ったTaqmanプローブ法による遺伝子型分析のための遺伝子増幅の結果を示す図である。縦軸はADH1B(A)の遺伝子増幅シグナルを示す。横軸はADH1B(G)の遺伝子増幅シグナルを示す。●はポジティブコントロールの結果を示す。■はネガティブコントロールの結果を示す。▲は遺伝子増幅のシグナルが見られたサンプルについての結果を示す。
【
図4】
図4は、水溶紙を用いてサンプルを調製して、遺伝子分析を行う場合の例示的な手順を示す。水溶紙に血液サンプルを添加した後、室温で約1時間乾燥させ、一定の大きさ(例えば、2mmΦ)にくりぬいて蒸留水に溶解させる。
【
図5】
図5は、8名の被験者に由来する血液サンプルを、水溶紙4mmΦ、水溶紙2mmΦおよびFTAで処理し、ADH1Bの遺伝子型を判定するためにTaqman PCR法において遺伝子増幅反応に供した結果を示す図である。縦軸はADH1B(A)の遺伝子増幅シグナルを示す。横軸はADH1B(G)の遺伝子増幅シグナルを示す。●は遺伝子増幅の結果、A/Aホモであると判定されたサンプルの結果をプロットしたものである。▲は遺伝子増幅の結果、G/Aヘテロであると判定されたサンプルの結果をプロットしたものである。◆は遺伝子増幅の結果、G/Gホモであると判定されたサンプルの結果をプロットしたものである。■はネガティブコントロールの結果をプロットしたものである。
【
図6】
図6は、8名の被験者に由来する血液サンプルを、FTAで処理し、ADH1Bの遺伝子型を判定するためにTaqman PCR法において遺伝子増幅反応に供した結果を示す図である。縦軸はADH1B(A)の遺伝子増幅シグナルを示す。横軸はADH1B(G)の遺伝子増幅シグナルを示す。●は遺伝子増幅の結果、A/Aホモであると判定されたサンプルの結果をプロットしたものである。▲は遺伝子増幅の結果、G/Aヘテロであると判定されたサンプルの結果をプロットしたものである。◆は遺伝子増幅の結果、G/Gホモであると判定されたサンプルの結果をプロットしたものである。■はネガティブコントロールの結果をプロットしたものである。
【
図7】
図7は、8名の被験者に由来する血液サンプルを、水溶紙4mmΦおよびFTAで処理し、ADH1Bの遺伝子型を判定するためにTaqman PCR法において遺伝子増幅反応に供した結果を示す図である。縦軸はADH1B(A)の遺伝子増幅シグナルを示す。横軸はADH1B(G)の遺伝子増幅シグナルを示す。●は遺伝子増幅の結果、A/Aホモであると判定されたサンプルの結果をプロットしたものである。▲は遺伝子増幅の結果、G/Aヘテロであると判定されたサンプルの結果をプロットしたものである。◆は遺伝子増幅の結果、G/Gホモであると判定されたサンプルの結果をプロットしたものである。■はネガティブコントロールの結果をプロットしたものである。
【
図8】
図8は、8名の被験者に由来する血液サンプルを、水溶紙2mmΦおよびFTAで処理し、ADH1Bの遺伝子型を判定するためにTaqman PCR法において遺伝子増幅反応に供した結果を示す図である。縦軸はADH1B(A)の遺伝子増幅シグナルを示す。横軸はADH1B(G)の遺伝子増幅シグナルを示す。●は遺伝子増幅の結果、A/Aホモであると判定されたサンプルの結果をプロットしたものである。▲は遺伝子増幅の結果、G/Aヘテロであると判定されたサンプルの結果をプロットしたものである。◆は遺伝子増幅の結果、G/Gホモであると判定されたサンプルの結果をプロットしたものである。■はネガティブコントロールの結果をプロットしたものである。
【
図9】
図9は、8名の被験者に由来する血液サンプルを、水溶紙4mmΦ、水溶紙2mmΦおよびFTAで処理し、ALDH2の遺伝子型を判定するためにTaqman PCR法において遺伝子増幅反応に供した結果を示す図である。縦軸はALDH2(A)の遺伝子増幅シグナルを示す。横軸はALDH2(G)の遺伝子増幅シグナルを示す。●は遺伝子増幅の結果、A/Aホモであると判定されたサンプルの結果をプロットしたものである。▲は遺伝子増幅の結果、G/Aヘテロであると判定されたサンプルの結果をプロットしたものである。◆は遺伝子増幅の結果、G/Gホモであると判定されたサンプルの結果をプロットしたものである。■はネガティブコントロールの結果をプロットしたものである。
【
図10】
図10は、8名の被験者に由来する血液サンプルを、FTAで処理し、ALDH2の遺伝子型を判定するためにTaqman PCR法において遺伝子増幅反応に供した結果を示す図である。縦軸はALDH2(A)の遺伝子増幅シグナルを示す。横軸はALDH2(G)の遺伝子増幅シグナルを示す。●は遺伝子増幅の結果、A/Aホモであると判定されたサンプルの結果をプロットしたものである。▲は遺伝子増幅の結果、G/Aヘテロであると判定されたサンプルの結果をプロットしたものである。◆は遺伝子増幅の結果、G/Gホモであると判定されたサンプルの結果をプロットしたものである。■はネガティブコントロールの結果をプロットしたものである。
【
図11】
図11は、8名の被験者に由来する血液サンプルを、水溶紙4mmΦおよびFTAで処理し、ALDH2の遺伝子型を判定するためにTaqman PCR法において遺伝子増幅反応に供した結果を示す図である。縦軸はALDH2(A)の遺伝子増幅シグナルを示す。横軸はALDH2(G)の遺伝子増幅シグナルを示す。●は遺伝子増幅の結果、A/Aホモであると判定されたサンプルの結果をプロットしたものである。▲は遺伝子増幅の結果、G/Aヘテロであると判定されたサンプルの結果をプロットしたものである。◆は遺伝子増幅の結果、G/Gホモであると判定されたサンプルの結果をプロットしたものである。■はネガティブコントロールの結果をプロットしたものである。
【
図12】
図12は、8名の被験者に由来する血液サンプルを、水溶紙2mmΦおよびFTAで処理し、ALDH2の遺伝子型を判定するためにTaqman PCR法において遺伝子増幅反応に供した結果を示す図である。縦軸はALDH2(A)の遺伝子増幅シグナルを示す。横軸はALDH2(G)の遺伝子増幅シグナルを示す。●は遺伝子増幅の結果、A/Aホモであると判定されたサンプルの結果をプロットしたものである。▲は遺伝子増幅の結果、G/Aヘテロであると判定されたサンプルの結果をプロットしたものである。◆は遺伝子増幅の結果、G/Gホモであると判定されたサンプルの結果をプロットしたものである。■はネガティブコントロールの結果をプロットしたものである。
【
図13B】
図13Bは、唾液を用いてサンプリングしたサンプルと、水溶紙およびFTAカードを用いて血液からサンプルを調製したサンプルの、Taqman法による遺伝子増幅の結果を示す。縦軸はADH1B(A)の遺伝子増幅シグナルを示す。横軸はADH1B(G)の遺伝子増幅シグナルを示す。●はポジティブコントロールの結果をプロットしたものである。▲は唾液を用いてサンプリングしたサンプルの結果をプロットしたものである。◆は血液を用いたサンプルの結果をプロットしたものである。×は、スワブスポンジ部分に残留していた細胞のゲノムDNAによる分析の結果である。■はネガティブコントロールの結果をプロットしたものである。
【
図14】
図14は、水溶紙を使用したTDMにおける乾燥血スポットサンプルの調製手順と、それを用いた添加回収による定量性試験の結果を示す。
【
図15】
図15は、水溶紙を使用したTDMにおける乾燥血スポットサンプルの詳細な調製手順と、それを用いた添加回収による定量性試験の結果を示す。
【
図16】
図16は、抗生物質検定用のろ紙ペーパーディスクを使用したTDMにおける乾燥血スポットサンプルの調製手順と、それを用いた添加回収による定量性試験の結果を示す。
【
図17】
図17は、水溶紙およびFTAカードを用いてTDMにおける乾燥血スポットサンプルを調製する手順を示す。
【
図18】
図18は、末梢血中のカフェイン濃度を、水溶紙およびFTAカードを用いて調製したDBSサンプルから、HPLC-UVによって検出した結果を示す。
【
図19】
図19は、血液サンプルからの様々な分析の手順を示す図である。
【
図20】
図20は、水溶紙を用いて、遺伝子多型検査と、治療薬物モニタリング(TDM)を同時に行う場合の手順を例示する。
【
図21】
図21は、実施例6で用いたサンプリングキットの模式図である。
【
図22】
図22は、実施例6における末梢血液サンプル(1)のサンプリングの手順を示す模式図である。
【
図23】
図23は、実施例6における末梢血液サンプル(2)のサンプリングの手順を示す模式図である。
【
図24】
図24は、実施例6における口腔内粘膜細胞サンプルの採取の手順を示す模式図である。
【
図25】
図25は、実施例6における口腔内粘膜細胞サンプル(3)のサンプリングの手順を示す模式図である。
【
図26】
図26は、実施例6における口腔内粘膜細胞サンプル(4)のサンプリングの手順を示す模式図である。
【
図27】
図27は、実施例6における各サンプルの処理手順をまとめた模式図である。
【
図28】
図28は、実施例6における末梢血液サンプル(1)での、TaqMan(登録商標)PCRによるRNase Pの遺伝子増幅の結果を示す。
【
図29】
図29は、実施例6における末梢血液サンプル(2)での、TaqMan(登録商標)PCRによるRNase Pの遺伝子増幅の結果を示す。
【
図30】
図22は、実施例6における口腔内粘膜細胞サンプル(3)での、TaqMan(登録商標)PCRによるRNase Pの遺伝子増幅の結果を示す。
【
図31】
図22は、実施例6における口腔内粘膜細胞サンプル(4)での、TaqMan(登録商標)PCRによるRNase Pの遺伝子増幅の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0020】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0021】
(水溶紙)
本明細書において「水溶紙」とは、水と接触することによって分解し、水に溶解または分散する性質(水解性)を有する紙を指す。なお、水解性であるか否かは、たとえば10μlの水(反応液)に、0.05~0.1mgの水溶紙を接触させた後、その水(反応液)の660nmにおける濁度をBio-RAD社製のSmart Spec(商標)3000を用いて測定した場合に0.4以下である場合に水解性を有するものとする。このような水溶紙として、具体的には、60MDP(日本製紙パピリア社製)、30MDP(日本製紙パピリア社製)、120MDP(日本製紙パピリア社製)、30MDP-S(日本製紙パピリア社製)、60MDP-S(日本製紙パピリア社製)などのMDPシリーズの製品、30CD-2(日本製紙パピリア社製)、60CD-2(日本製紙パピリア社製)、120CD-2(日本製紙パピリア社製)などのCD-2シリーズなどの水解性紙、水解紙(株式会社TTトレーディング(旧特種紙商事株式会社)より入手可能)などが挙げられる。水溶紙は、遺伝子増幅、あるいは、特定の遺伝子検出に用いる反応液中で、反応中に均一に分散し、さらに沈降し、物理的操作や光学的検出に干渉しにくい状態になるため好ましい。また、別の好ましい実施形態では、光学的検出を許容するものが好ましい。本明細書では「水溶紙」は「水解紙」とも称することがあり、両者は同じ意味で用いられる。
【0022】
通常の紙は、植物性の繊維(例えば、セルロース)を主体として、繊維を絡み合わせてできている。この繊維の間には、セルロースのOH基によって水素結合が生じるが、水中ではその結合が解除されるため、紙は一般的に水によって物理的強度を失い、時間をかければ繊維が水中に分散する。水溶紙は、そのような、水に溶ける性質をさらに増強するように製造された紙である。水溶紙は、例えば、セルロースに親水性の官能基を導入した誘導体、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の水溶性セルロース誘導体を骨格として紙を形成することによって、紙を構成しているセルロース自体を水に溶解しやすくすることによって製造することができる。例えば、CMCは、サンローズ(登録商標)(日本製紙)等であり得る。CMCは、OH基にカルボキシメチル基を置換させたものであって、カルボキシル基の極性により可溶化される。セルロースの単位となるグルコースには3個のOH基があるが、このうち、グルコース単位1個あたり平均して0.3個以上をカルボキシメチル基で置換すると、水溶性が生じ始める。このような水溶性セルロース誘導体は、セルロース繊維中のOH基を様々な割合で置換したものであってよい。また、紙の繊維中に、任意の割合でこのような水溶性セルロース誘導体を含めることができる。あるいは、紙の繊維の結合について、物理的な絡み合わせではなく、水溶性のバインダーを用いて結合することにより、水中で繊維間の結合が解消されることによって水溶紙を製造することができる。このような紙の水溶性に関する性質は、繊維と工業 Vol.1 1968 No.10 P604-608、江前敏晴, 紙パ技協誌 58(8), パピルス, 105-109(2004)等に記載されている。理論に束縛されることを望まないが、好ましい実施形態では、水溶紙に含まれるこのような特殊な成分が、本発明の作用効果、例えば、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼの血液またはその成分による増幅活性阻害効果の抑制に部分的に寄与しているものと理解される。
【0023】
このような水溶紙(水解紙)は、本発明において好ましい担体として利用することができる。例えば、特開2006-180983号、特開2013-185259号、特開2006-2296号、特開2012-41649号、特開平6-138121号、特開平10-36776号、特開平11-279995号などの文献に記載されている水溶紙、または記載されている方法を用いて製造された水溶紙等も本発明において利用することができる。一般的に市販されているティッシュ(水溶性)や、金魚すくいのポイに用いられるような紙も、利用され得る。
【0024】
1つの実施形態では、水溶紙は、水溶性セルロース誘導体を含む。さらなる実施形態では、水溶紙は、カルボキシメチルセルロースを含む。
【0025】
生体サンプル(例えば、血液)を水溶紙に滴下して乾燥させることによって、生体サンプルの生物学的または化学的分析のためのサンプルを調製することができる。1つの実施形態では、生物学的分析は遺伝子分析である。1つの実施形態では、化学的分析は、薬物動態分析である。
【0026】
(遺伝子分析)
本明細書において、「遺伝子分析」とは生体サンプル中の核酸(DNA、RNA等)の状態を調べることをいう。1つの実施形態では、遺伝子分析は、核酸増幅反応を利用するものを挙げることができる。これらを含め、遺伝子分析の例としては、配列決定、遺伝子型判定・多型分析(SNP分析、コピー数多型、制限酵素断片長多型、リピート数多型)、発現解析、蛍光消光プローブ(Quenching Probe:Q-Probe)、SYBR green法、融解曲線分析、リアルタイムPCR、定量RT-PCRなどを挙げることができる。遺伝子分析の1つの例は、TaqManプローブ法による遺伝子型の判定である。蛍光消光プローブ法については、https://www.aist.go.jp/Portals/0/resource_images/aist_j/aistinfo/aist_today/vol08_02/vol08_02_p18_p19.pdf等に記載されている。
【0027】
そのような遺伝子分析においては、核酸の増幅反応を伴うことが一般的である。生体サンプル(例えば、血液)を直接核酸増幅反応(例えば、PCR)の反応液に添加すると、生体サンプル中の物質による作用で、増幅反応(例えば、Taq DNAポリメラーゼなどの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼ)が阻害される場合がある。水溶紙に生体サンプル(例えば、血液)を滴下して調製したサンプルでは、かかる増幅反応の阻害が抑制される。理論に拘束されるものではないが、水溶紙が、PCR増幅を阻害する物質(ヘム、多糖類、ポリフェノール、フルボ酸、色素、イオンなど)を除去する能力を有しているためであると考えられる。
【0028】
(ポリメラーゼ)
本発明の一つの実施形態で使用され得る核酸増幅反応においては、核酸ポリメラーゼが用いられる。1つの実施形態では、遺伝子分析に用いられるDNAポリメラーゼは、Taq DNAポリメラーゼに代表される、プライマー付加による核酸を合成する耐熱性に優れたポリメラーゼであれば特に制限なく用いることができる。本発明で特に利用される核酸増幅反応は、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼを用いるものである。理論に束縛されることを望まないが、KODポリメラーゼを用いると、増幅方法が異なるため、Taqman DNAポリメラーゼのように標識で検出できず、制限酵素での切断パターンでの解析を余儀なくされるため、煩雑な手法であるがTaq DNAポリメラーゼのような5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼを用いることで、簡便な解析を実現することができるからである。5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼには、Family A(Pol I型)のDNAポリメラーゼが含まれる。
【0029】
このようなDNAポリメラーゼとしては、たとえばThermus aquaticus由来のTaq DNAポリメラーゼの他、Tth DNAポリメラーゼ、あるいは上述したDNAポリメラーゼの少なくともいずれかの混合物などを挙げることができる。なお、Tth DNAポリメラーゼおよびCarboxydothermus hydrogenoformans由来のC.therm DNAポリメラーゼはRT活性も有しているため、RT-PCRをOne tube-One stepで行なうときに、1種類の酵素で賄うことができるという特徴を有している。1つの実施形態では、他のポリメラーゼを用いる方法も利用し得るが、サンプルを直接Taq DNAポリメラーゼのような5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼに用いることが簡便な方法として推奨される。このような場合、生体サンプル(例えば、血液サンプル)中に含まれる増幅阻害が生じることが本発明において見出された。本発明のように水溶紙またはその成分を用いることによって、このような生体サンプル(例えば、血液サンプル)中に含まれる増幅阻害という問題が予想外に解決された。これにより、血液サンプルなどの生体サンプルを直接、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼを用いた解析法(例えば、いわゆるTaqman法またはそれと同等の手法)に適用することができる。このようなことは、従来技術では達成できなかったことである。
【0030】
Taq DNAポリメラーゼのような5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼを用いた反応としては、例えば、PCR(Polymerase Chain Reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)法、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification:ループ介在等温増幅)法、SDA(Strand Displacement Amplification:鎖置換増幅)法、RT-SDA(Reverse Transcription Strand Displacement Amplification:逆転写鎖置換増幅)法、RT-PCR(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction:逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)法、RT-LAMP(Reverse Transcription Loop-Mediated Isothermal Amplification:逆転写ループ介在等温増幅)法、NASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification:核酸配列に基づいた増幅)法、TMA(Transcription Mediated Amplification:転写介在増幅)法、RCA(Rolling Cycle Amplification:ローリングサイクル増幅)法、ICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids:等温遺伝子増幅)法、UCAN法、LCR(Ligase Chain Reaction:リガーゼ連鎖反応)法、LDR(Ligase Detection Reaction:リガーゼ検出反応)法、SMAP(Smart Amplification Process)法、SMAP2(Smart Amplification Process Version 2)法、PCR-インベーダー(PCR-Invader)法、Multiplex PCR-Based Real-Time Invader Assay (mPCR-RETINA)、蛍光消光プローブ(Quenching Probe:Q-Probe)などを挙げることができる。好ましくは、いわゆるTaqman法が用いられる。バッファーは特に制限されないが、EzWay(商標)(KOMA Biotechnology)、Ampdirect(登録商標)((株)島津製作所製)、Phusion(登録商標)Blood Direct PCR kitバッファー(New ENGLAND Bio-Labs)、MasterAmp(登録商標)PCRキット(Epicentre社製)などのうち、増幅阻害の除去の効果を減弱しないものを用いることができる。
【0031】
本発明における反応に用いられるプライマーは、増幅する対象となる遺伝子または検出する対象となる特定遺伝子を決定した時点で、適宜公知の方法で設計することができる。本発明における反応に用いられるプライマーは、増幅する対象となる遺伝子または検出する対象となる特定遺伝子を特異的に増幅することができるものであれば特に制限されない。
【0032】
本発明における被検試料に含まれる遺伝子の増幅または被検試料に含まれる特定遺伝子の検出は、プレート状またはチューブ状の不溶性担体上で行なうことが好ましい。このような不溶性担体としては、反応液に対して不溶なプラスチック、ガラスなどからなるチューブのほか、96穴ウェルなどを挙げることができる。なお、チューブ状とは、中空状態のものをいい、底があるPCRチューブや、エッペンドルフチューブのような形状であってもよい。
【0033】
具体的には、まず、プレート状またはチューブ状の不溶性担体に反応液を投入する。チューブ状の不溶性担体である場合には、その内部にバッファー、ポリメラーゼおよびプライマー等の試薬を含有する反応液を投入し、プレート状の不溶性担体である場合には、その表面に前記反応液を置く。そして前記反応液と被検試料および水解性担体が直接接触するように配置し、上述したPCR法などの増幅方法を行う。なお、不溶性担体上に被検試料を担持した水解性担体を置き、その後に不溶性担体上に前記反応液を置いてもよい。基材から担体に核酸含有生体材料を転移し、一定面積(ここでは、4mm直径が使用され得るが、適宜の大きさでよく、例えば、2~6mm直径、3~5mm直径、或いは約4mmの直径であってもよい。)。この担体をチューブ状の不溶性容器の内部に溶解用の水等を入れ、必要に応じて加熱して担体から核酸を溶離させ、あるいは担体の消失を加速し、その後、バッファー、ポリメラーゼおよびプライマー等の増幅試薬を加え、遺伝子の増幅または特定遺伝子の検出を行なう。
【0034】
本明細書で用いられる定量PCRとしては、公知のリアルタイムPCR等の任意の公知の手法を用いて行うことができる。これらの手法は、蛍光試薬などの標識を用いてDNAの増幅量をリアルタイムで検出する方法であり、代表的に、サーマルサイクラーと分光蛍光光度計を一体化した装置を必要とする。このような装置は市販されている。用いる蛍光試薬によりいくつかの方法があり、例えば、インターカレンター法、TaqManTMプローブ法、Molecular Beacon法等が挙げられる。いずれも、鋳型ゲノムDNAおよび目的のSNP部位を含むゲノム領域を増幅するためのプライマー対を含むPCR反応系に、インターカレーター、TaqManTMプローブまたはMolecular Beaconプローブと呼ばれる蛍光試薬または蛍光プローブを添加するというものである。本発明で好ましく用いられるTaqManTMプローブ法(TaqManTM法ともいう)では、TaqManTMプローブは両端を蛍光物質と消光物質のそれぞれで修飾した、標的核酸の増幅領域にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドであり、アニーリング時に標的核酸にハイブリダイズするが消光物質の存在により蛍光を発せず、伸長反応時にDNAポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性により分解されて蛍光物質が遊離することにより蛍光を発する。従って、蛍光強度を測定することにより増幅産物の生成量をモニタリングすることができ、それによって元の鋳型DNA量を推定することができる。
【0035】
Taqmanアッセイによるコピー数分析は、例えば、当該分野で公知の手法である。Taqmanアッセイは、蛍光発生5’-ヌクレアーゼアッセイとも称される5’-ヌクレアーゼアッセイによるものであり;Holland et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:7276-7280 (1991);およびHeid et al., Genome Research 6:986-994 (1996)、をも参照することができる。
【0036】
TaqMan PCRの手順では、PCR反応に特異的なアンプリコンの作製のために、2つのオリゴヌクレオチドプライマーが用いられる。第三のオリゴヌクレオチド(TaqManプローブ)が、2つのPCRプライマーの間に位置するアンプリコン中のヌクレオチド配列とハイブリダイズするように設計される。プローブは、PCR反応で用いられるDNAポリメラーゼによって伸長できない構造を有してよく、通常は(必須ではないが)、互いに近接する蛍光レポーター染料および消光剤部分によって共標識される。レポーター染料からの発光は、蛍光体および消光剤が、プローブ上でそうであるように、近接している場合に、消光部分によって消光される。いくつかの場合では、プローブは、蛍光レポーター染料または別の検出可能部分だけで標識されてよい。
【0037】
TaqMan PCR反応では、5’-3’ヌクレアーゼ活性を持つ熱安定性DNA依存性DNAポリメラーゼを用いる。PCR増幅反応の間、DNAポリメラーゼの5’-3’ヌクレアーゼ活性により、鋳型特異的な様式でアンプリコンとハイブリダイズする標識プローブを開裂する。得られるプローブ断片は、プライマー/鋳型複合体から解離し、そして、レポーター染料は、消光剤部分の消光効果から解放される。新たに合成される各アンプリコン分子に対しておよそ1分子のレポーター染料が遊離され、未消光レポーター染料を検出することで、放出される蛍光レポーター染料の量がアンプリコン鋳型の量に正比例するという形でのデータの定量的解釈のベースが提供される。
【0038】
TaqManアッセイデータの1つの尺度は、通常、閾値サイクル(threshold cycle;CT)として表される。蛍光レベルは、各PCRサイクルの間に記録され、増幅反応にてその時点までに増幅された産物の量に比例している。蛍光シグナルが統計的に有意であるとして最初に記録された際の、または蛍光シグナルが他の何らかの任意レベル(例えば、任意蛍光レベル(arbitrary fluorescence level;AFL))を超える場合のPCRサイクルが、閾値サイクル(CT)である。5’-ヌクレアーゼアッセイのためのプロトコールおよび試薬は、当業者に公知であり、様々な参考文献に記載されている。例えば、5’-ヌクレアーゼ反応およびプローブは、米国特許第6,214,979号(Gelfand et al.);米国特許第5,804,375号(Gelfand et al.);米国特許第5,487,972号(Gelfand et al.);Gelfand et al.第5,210,015号(Gelfand et al.)等を参照することができる。
【0039】
TaqManTMPCRは、市販のキットおよび装置を用いて行うことができ、例えば、ABI PRISM(登録商標)7700 Sequence Detection System(Applied Biosystems,Foster City,CA、USA)、LightCycler(登録商標)(Roche Applied Sciences,Mannheim, Germany)などである。好ましい実施形態では、5’-ヌクレアーゼアッセイ手順は、ABI PRISM(登録商標)7700 Sequence Detection Systemなどのリアルタイム定量的PCR装置上で行われるがこれに限定されない。このシステムは、代表的に、サーモサイクラー、レーザー、電荷結合デバイス(CCD)、カメラ、およびコンピュータから構成される。このシステムは、サーモサイクラー上の96ウェルなどのマイクロタイタープレートフォーマット中のサンプルを増幅する。増幅の間、ウェルすべてについて、レーザー誘導蛍光シグナルが光ファイバーケーブルを通してリアルタイムで集められ、CCDカメラで検出される。このシステムは、機器の運転およびデータの解析のためのソフトウェアを含む。
【0040】
Taqman法の具体的手順の他の例としては、例えば、CYP2D6について報告されたTaqmanアッセイを使用することができる(Bodin et al., J Biomed Biotechnol. 3: 248-53 2005)。この場合、必要に応じて正確なデータを得るために、Primer Express等によって新たなリバースプライマーを設計し、コピー数分析を再度実施することもできる。Taqmanプローブは5’末端がFAMで標識され、3’末端にNo Fluorescence Quencher およびMGBを連結したものを用いることができる。参照遺伝子として、適切な標識(例えば、VIC)で標識したRNase P assay(ThermoFisher)を使用することができる。全てのTaqmanアッセイを製造業者から入手され得る、報告されたプロトコールに従って実施し、コピー数計算をΔΔCt法によって実施することができる(Bodin et al., 2005)。1つの例としては、ΔCt値の中央値を有するサンプルを2コピーと仮定し、キャリブレータとして使用することができるがこれに限定されない。全てのサンプルを2連で試験し、平均コピー数値を散布プロット分析で使用することができるが、サンプル数は必要に応じて増減することができる。
【0041】
本発明におけるリアルタイムPCR試薬として、TaqPathTM ProAmpTM Master Mixを使用することができる。TaqPathTM ProAmpTM Master Mixの特長としては、並外れたデータ品質(PCR阻害物質の存在下でも、ジェノタイピングおよびコピー数多型(CNV)解析において、高い特異性、ダイナミックレンジ、および再現性を提供できる)や、PCR阻害物質に対する耐性(ヒトや動物由来の調製サンプル(頬腔スワブ、血液、およびカードパンチ)に対応可能であること)が挙げられる。本発明における水溶紙またはその成分の、血液またはその成分による増幅活性阻害効果の抑制と併せると、何ら抽出または精製を行わずに血液を反応に供することが可能である。
【0042】
(好ましい実施形態)
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本発明の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができることが理解される。
【0043】
(ポリメラーゼの増幅活性阻害効果の抑制)
1つの局面では、本発明は、水溶紙またはその成分を含む、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼの血液またはその成分による増幅活性阻害効果の抑制剤または抑制材料を提供する。5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼは、Taqman法に代表されるこのエキソヌクレアーゼ活性を用いた定量的解析に利用されるため有用である。利用されるポリメラーゼはTaq DNAポリメラーゼまたはTth DNAポリメラーゼが代表例として挙げられ、好ましくは、Taq DNAポリメラーゼが使用される。
【0044】
本発明で利用され得る水溶紙またはその成分は、水溶性セルロース誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース)を含んでいる。理論に束縛されることを望まないが、これらの誘導体を含むことにより、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼ(例えば、Taqポリメラーゼ等)の増幅反応の生体サンプル(例えば、血液)による阻害作用を抑制することができる。
【0045】
別の局面では、本発明は、本発明の抑制剤または抑制材料を含むキットを提供する。このようなキットは、遺伝子増幅のためのサンプルを調製するためのもの、または遺伝子分析(例えば、薬物代謝酵素遺伝子の遺伝子型の検査などの遺伝子型の検査)に用いるためのものであり、このような場合、遺伝子増幅に必要な試薬(ポリメラーゼ、バッファーなど)および/または適切なプライマーを必要に応じて含む。
【0046】
(ポリメラーゼの増幅活性阻害効果の抑制を用いる核酸増幅および分析)
したがって、1つの局面では、本発明は、サンプル中またはその成分中の遺伝子または遺伝子産物の検出、測定または同定方法を提供する。この方法は:(A)サンプル(例えば、血液サンプルなどの生体サンプル)またはその成分を提供する工程;(B)該生体サンプルまたはその成分に水溶紙またはその成分を接触させる工程;(C)接触後の該生体サンプルまたはその成分を5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼを用いて該遺伝子または遺伝子産物に関する遺伝子増幅反応に供する工程;および(D)該増幅反応の結果に基づいて該遺伝子または遺伝子産物の検出、測定または同定を行う工程を包含する。
【0047】
別の局面では、本発明は、サンプル中またはその成分中の遺伝子または遺伝子産物の検出、測定または同定するためのキットを提供する。このキットは:(a)水溶紙またはその成分;および(b)5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼを含む、遺伝子増幅反応のための試薬を含む。ここで、サンプルは、例えば、血液サンプルなどの生体サンプルでありうる。
【0048】
サンプル中またはその成分中の遺伝子または遺伝子産物の検出、測定または同定するため方法またはキットでは、遺伝子増幅反応はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を含むがこれに限定されず、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼを用いるアッセイであれば、本明細書で例示されるものおよびそのほかの任意のアッセイを含みうる。本発明のこの局面で利用され得る水溶紙は、目的を達成し得る限りどのようなものでもよく、そのような紙としては本明細書において記載される任意のものを挙げることができ、(ポリメラーゼの増幅活性阻害効果の抑制)において説明されるものも使用することができる。
【0049】
1つの実施形態では、検出、測定または同定は、遺伝子型の分析を含む。
【0050】
本発明のサンプリング剤またはサンプリング材料を用いて調製したサンプルを用いて、遺伝子増幅・特定遺伝子の検出を行い、あるいは本発明の方法(例えば、増幅方法等)を用いて、ヒトの30億塩基対あるゲノム遺伝子配列上の一塩基多型(SNP)を検出することが可能であり、SNPタイピングによる遺伝子型の判定から遺伝的背景を調べることができる他、原因遺伝子のわかっている遺伝病については、将来的な危険率も診断することができる。たとえば、アルコール脱水素酵素遺伝子(ADH1B)およびアルデヒド脱水素酵素遺伝子(ALDH2)をSNPタイピングすることにより、アルコールに対する強さなどの遺伝的な要因を調べることができる。
【0051】
ADH1Bの遺伝子多型は47番目のアルギニン(CGC)がヒスチジン(CAC)に変換されており(コドン中の2番目の核酸のGがAに変換)、SNP部位にグアニン(G)を持つものはADH1B*1アレル、変異してアデニン(A)を持つものはADH1B*2アレルと称される。アジアで高頻度に見られる変異型ADH1B*2アレル保有者では、ADHの活性が上昇することによりアセトアルデヒドの生成速度が増加するため、アルコール感受性が高まる。
【0052】
ALDH2の遺伝子多型は487番目のグルタミン酸(GAG)がリシン(AAG)に変換されており(コドン中の1番目の核酸のGがAに変換)、SNP部位にグアニン(G)を持つものはALDH2*1アレル、変異してアデニン(A)を持つものはALDH2*2アレルと称される。ALDH2においてもアジアでは変異型ALDH2*2アレルが高頻度に見られるが、こちらは変異型保有者ではALDH2の活性が低下する。それによりアセトアルデヒドの代謝が遅れるために、アルコール感受性が高まる。
【0053】
また、本発明のサンプリング技術またはこれを利用した増幅方法は、上述の人の体質を診断する一塩基多型(SNP)以外に、唾液、汗、血液・糞便など液状物の被検試料中の細菌・ウイルスなどの微生物検査などにも応用することができる。
【0054】
本明細書において、血液サンプルには、全血のサンプル(例えば、乾燥全血スポットサンプル)に加えて、血液に何らかの処理を施したか、または全血におけるいずれかの成分を欠いたサンプルも含まれ、例えば、血漿、血清、血餅、血球画分、赤血球画分、血小板画分などが挙げられる。血液成分の一部のサンプルであっても核酸増幅阻害物質を含有している場合には、本発明の増幅阻害抑制効果が期待できる。
【0055】
本発明の1つの局面では、血液サンプルの遺伝子分析を行う方法であって、核酸の抽出または精製を行わないことを特徴とする、方法が提供される。方法は、血液サンプルを水溶紙またはその成分に接触させる工程と、該担体の一定面積を採取し、該血液サンプルを担持した該担体を反応液中に添加し、遺伝子増幅反応を行う工程とを含み得る。遺伝子分析は、定量的分析であってよく、水溶紙またはその成分の増幅阻害効果抑制作用によって、正確な定量が可能となり得る。定量的分析は、コピー数多型の検査であってよく、コピー数多型の検査は、リアルタイムPCRを用いて行われてよい。コピー数多型の検査は、ヒトRNase Pを標準として用いて行うことができる。
【0056】
(吸光度測定用のサンプリング)
別の局面において、本発明は、水溶紙またはその成分を含む、吸光度測定で用いるサンプル調製(のためのサンプリング剤またはサンプリング材料を提供する。本発明のサンプリング技術を用いると、吸光度測定におけるノイズが予想外に低減され、従来使用されている他の紙媒体(例えば、FTAカード、GEヘルスケアより入手可能)を用いたアッセイより正確なアッセイを達成することができる。サンプル調製は、吸光度測定を予定するのであれば、どのような形態でもよく、乾燥血スポット(DBS)サンプル調製などが代表的である。
【0057】
本発明が、対象とする吸光度測定は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)-紫外線吸収(UV)分析、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)等の質量分析を利用した分析、超臨界流体抽出-超臨界流体クロマトグラフィー(SFE-SFC)-紫外線吸収(UV)分析、超臨界流体抽出(SFE)-超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)-質量分析(MS)などにおいて実施されるものでありうる。本発明のこの局面で利用され得る水溶紙は、目的を達成し得る限りどのようなものでもよく、そのような紙としては本明細書において記載される任意のものを挙げることができ、(ポリメラーゼの増幅活性阻害効果の抑制)、(ポリメラーゼの増幅活性阻害効果の抑制を用いる核酸増幅および分析)において説明されるものも使用することができる。
【0058】
(キット)
別の局面では、本発明は、本発明のサンプリング剤またはサンプリング材料を含むキットを提供する。このキットは、薬理学的モニタリング、治療薬物モニタリングなどに用いることができる。本発明のキットは、モニタリングのためのサンプルを調製するための手段を含みうる。
【0059】
本発明のキットは、本発明のサンプリング剤またはサンプリング材料を、その機能が発揮される様式で含んでいれば、その具体的構成は制限されないが、1つの好ましい例としては、
図21に示されるようなものが挙げられる。1つの実施形態において、キットは、台紙上に貼付された水溶紙またはその成分を含む担体を含む。台紙上への担体の配置は、台紙の一方の面に担体を貼り付け、さらに台紙の一部を切り抜くことによって、台紙の反対側からも担体にアクセス可能にすることが可能である。さらなる実施形態において、キットの台紙は、折り畳むことによって、水溶紙またはその成分を含む担体の露出を防ぐことが可能であるように構成される。かかる構成の例は、略長方形上の台紙を、少なくとも3つの区画に分け、端の区画に担体を配置することにより、第2の区画が担体の1つの面を覆い、第3の区画が担体のもう1つの面を覆うことによって担体の両面の露出を防ぐ構成である。この場合、第2の区画には、プラスチックの部材を設け、担体の乾燥促進を図ることが可能である。
【0060】
(同一サンプルから2以上のアッセイを行うためのサンプリング)
別の局面において、本発明は、水溶紙またはその成分を含む、吸光度測定および核酸増幅による遺伝子分析のためのサンプルを同一のサンプルから調製するためのサンプリング剤またはサンプリング材料を提供する。サンプルは例えば、乾燥血スポット(DBS)サンプルなどでありうる。このような二重または多重のアッセイのためのサンプリングは、水溶紙またはその成分を用いた場合の特徴の一つである。本発明のアッセイで実施される遺伝子分析はTaqman(TM)分析などの核酸増幅を伴う任意のアッセイであり得、吸光度測定は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)-紫外線吸収(UV)分析、超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)-紫外線吸収(UV)分析などの、クロマトグラフィーを伴う方法または直接吸光度を測定する方法などを挙げることができる。本発明のこの局面で利用され得る水溶紙は、目的を達成し得る限りどのようなものでもよく、そのような紙としては本明細書において記載される任意のものを例示することができ、(ポリメラーゼの増幅活性阻害効果の抑制)および(吸光度測定用のサンプリング)において説明されるものも使用することができる。
【0061】
別の局面では、本発明は、本発明のサンプリング剤またはサンプリング材料を含むキットを提供する。このキットは、吸光度測定および核酸増幅による遺伝子分析を含む2以上のアッセイを行うためのサンプルを調製することができる。あるいはこのキットは、吸光度測定および核酸増幅による遺伝子分析を含む2以上のアッセイを行うためのキットであり、この場合吸光度測定のための手段、および核酸増幅のための試薬、モニタリングのための手段などを含みうる。好ましい実施形態では、2以上のアッセイは、薬物代謝酵素遺伝子の遺伝子型の検査と、治療薬物モニタリングとを含み、これらは、同一のサンプルに対して行われることを特徴とする。
【0062】
1つの好ましい実施形態では、本発明は、吸光度測定および核酸増幅による遺伝子分析のためのサンプルを同一のサンプルから調製する方法であって、サンプル(例えば、血液サンプルなどの生体サンプル)がスポットされた水溶紙を液体に溶解させる工程と、該水溶紙を溶解させた液体の一部から核酸増幅による遺伝子分析のためのサンプルを調製する工程と、該水溶紙を溶解させた液体の他の一部から吸光度測定のためのサンプルを調製する工程とを含む、方法を提供する。本発明のこの局面で利用され得る水溶紙は、目的を達成し得る限りどのようなものでもよく、そのような紙としては本明細書において記載される任意のものを挙げることができ、(ポリメラーゼの増幅活性阻害効果の抑制)および(吸光度測定用のサンプリング)において説明されるものも使用することができる。
【0063】
(同一サンプルを用いた多重アッセイ)
1つの局面において、本発明は、同一のサンプル(例えば、血液サンプルなどの生体サンプル)に基づいて吸光度測定および核酸増幅を含む分析を行う方法を提供する。この方法は、水溶紙またはその成分に該サンプルを接触させる工程;該水溶紙またはその成分に有機溶媒を接触させて有機画分を抽出する工程;該水溶紙またはその成分に水または水含有溶媒を接触させて水性画分を抽出する工程;ならびに該有機画分を用いて核酸増幅を含む分析を行い、該有機画分を用いて吸光度測定を行う工程を含む。ここで利用される吸光度測定はHPLCまたはLC-MSを含みうる。本発明のこの局面で利用され得る水溶紙は、目的を達成し得る限りどのようなものでもよく、そのような紙としては本明細書において記載される任意のものを挙げることができ、(ポリメラーゼの増幅活性阻害効果の抑制)、(ポリメラーゼの増幅活性阻害効果の抑制を用いる核酸増幅および分析)、(吸光度測定用のサンプリング)において説明されるものも使用することができる。
【0064】
別の局面では、本発明は、同一のサンプル(例えば、血液サンプルなどの生体サンプル)を用いて吸光度測定および核酸増幅を含む分析を行う方法を提供する。この方法は、該サンプルがスポットされた水溶紙を液体に溶解させる工程と、該水溶紙を溶解させた液体の一部から核酸増幅による分析のためのサンプルを調製する工程と、該水溶紙を溶解させた液体の他の一部から吸光度測定のためのサンプルを調製する工程と、該核酸増幅のためのサンプルを用いて核酸増幅を含む分析を行う工程と、該吸光度測定のためのサンプルを用いて該吸光度測定を行う工程とを含む。ここで利用される吸光度測定はHPLCまたはLC-MSを含みうる。本発明のこの局面で利用され得る水溶紙は、目的を達成し得る限りどのようなものでもよく、そのような紙としては本明細書において記載される任意のものを挙げることができ、(ポリメラーゼの増幅活性阻害効果の抑制)、および、(吸光度測定用のサンプリング)において説明されるものも使用することができる。
【0065】
別の局面では、本発明は、同一のサンプル(例えば、血液サンプルなどの生体サンプル)に基づいて吸光度測定および核酸増幅を含む分析を行うシステムを提供する。ここで、このシステムは、水溶紙またはその成分;該水溶紙またはその成分に有機溶媒を接触させて有機画分を抽出する手段;該水溶紙またはその成分に水または水含有溶媒を接触させて水性画分を抽出する手段;核酸増幅を含む分析を行う手段;および吸光度測定を行う手段を含む。
【0066】
別の局面では、本発明は、同一のサンプル(例えば、血液サンプルなどの生体サンプル)を用いて吸光度測定および核酸増幅を含む分析を行うシステムを提供する。このシステムは、必要に応じて予め該サンプルがスポットされた水溶紙;水溶紙を溶解する液体(例えば、水、水含有溶媒等);核酸増幅試薬;および吸光度測定のための手段を含む。
【0067】
ここで、本発明のシステムにおいて、水溶紙またはその成分としては、本明細書において記載される任意のものを挙げることができ、(ポリメラーゼの増幅活性阻害効果の抑制)、および、(吸光度測定用のサンプリング)において説明されるものも使用することができる。有機画分を抽出する手段は、例えば、任意の有機溶媒(例えば、メタノールなどのアルコール、非極性溶媒など)を用いることができる。水性画分を抽出する手段は、水または任意の水含有溶媒を用いることができる。核酸増幅を含む分析は、核酸増幅反応を行う試薬(任意のポリメラーゼ、必要に応じてバッファー、必要に応じてプライマー)を含みうる。吸光度測定を行う手段は、吸光度測定器のほか、必要に応じて、HPLCまたはLC-MSなどを行う機器を含みうる。本発明のこの局面で利用され得る水溶紙は、目的を達成し得る限りどのようなものでもよく、そのような紙としては本明細書において記載される任意のものを挙げることができ、(ポリメラーゼの増幅活性阻害効果の抑制)、(吸光度測定用のサンプリング)および(同一サンプルから2以上のアッセイを行うためのサンプリング)において説明されるものも使用することができる。
【0068】
(超臨界抽出および超臨界流体クロマトグラフィー(SFC))
1つの局面において、本発明は、超臨界抽出または超臨界流体クロマトグラフィーのためのサンプル調製のためのサンプリング剤またはサンプリング材料を提供する。超臨界抽出または超臨界流体クロマトグラフィーは、以下に記載されるような薬物動態分析のために行うものであり得る。1つの実施形態では、水溶紙を含むサンプリング剤またはサンプリング材料から超臨界抽出を行い、超臨界流体相をクロマトグラフィーに供することができる。また、超臨界抽出後の水溶紙の残渣をさらに水に溶解させ、残留する成分(例えば、核酸)の分析のためのサンプルとして利用することができる。
【0069】
超臨界抽出は、超臨界状態の流体(超臨界流体)を溶媒として試料から物質を抽出する方法である。超臨界状態(supercritical fluid)とは、臨界点(critical point)以上の温度・圧力下においた物質の状態のことである。そのような超臨界状態では、分子間力を振り切るに十分な運動エネルギーが得られる温度でありながら、高圧であるために分子間距離が近い、すなわち分子間力の影響を考えざるを得ないという、特異な状態となる。そのため、超臨界流体は、液体でも気体でもない独特の性質を有し、抽出・クラマトグラフィーといった操作において有機溶媒を用いるのとは異なる利点が存在する。特に、超臨界流体は温度や圧力を調整することで流体の溶解性を変化させることができ、目的の物質を選択的に抽出することが可能である。
【0070】
超臨界流体としては、最も一般的には超臨界二酸化炭素(scCO2)が用いられる。超臨界流体の二酸化炭素は、様々な物質をよく溶解し、目的物を溶解した超臨界二酸化炭素を臨界点以下にすると、二酸化炭素は気化するので、後には溶質のみが残り、分析に好都合であり得る。気化した二酸化炭素は回収して再利用が可能である。二酸化炭素は臨界温度が31℃と低いため、分子(特に核酸、タンパク質などの生体分子)の破壊および/または変性を防ぎながら、抽出を行う事ができる。
【0071】
超臨界流体クロマトグラフィー(supercritical fluid chromatography(SFC))はカラムクロマトグラフィーの一種であり、移動相として超臨界流体を用いることが特徴である。SFCは、基本的には高速液体クロマトグラフィーと同様のシステムで行われるが、主な移動相に超臨界流体を用いることが相違点である。超臨界流体として用いられる物質としては二酸化炭素が一般的であり、SFCにおいては超臨界流体が持つ低粘度かつ高い拡散性であるという特長により分離(他の物質のピークと明確に分けられる)および検出(鋭いピークにより高い感度が得られる)の能力がHPLCより改善される傾向が見られる。測定時間は測定パラメータによって大きく変動するが、一般的には数分~十数分/回程度である。
【0072】
一例として、主な移動相として用いる二酸化炭素は液化炭酸ボンベなどから液体状態で採取し、それを送液ポンプで加圧し、一定の圧力に保つためシステムの最後に圧力調整器がある。その後、オーブンなどで加熱して超臨界二酸化炭素とすることができる。その他のシステム構成は一般的なHPLCと同様である。検出器には紫外/可視吸光度検出器(Ultra-Violet/Visible Light Absorbance Detector)をはじめとして、ダイオードアレイ検出器(Diode Array Detector)、質量分析計(MS)、円二色性検出器(CD)などのHPLCで用いられる検出器や、他にガスクロマトグラフィー(GC)で用いられる水素炎イオン化検出器(FID)などを利用することができる。
【0073】
移動相として、二酸化炭素と混じり合う液体であれば、カラムや装置に悪影響を与えない範囲で各種のものを使用することができ、アルコール類(特にメタノール)、アセトニトリル、ジクロロメタンなどのHPLCで使用される溶媒を用いることができる。また、超臨界二酸化炭素は加圧の度合により極性が変化するため、移動相に二酸化炭素のみ使用し、圧力の変化により分析を行うことも可能である。
【0074】
例えば、SFCシステムは、島津製作所(株)、Waters、Thar Instruments, INC、日本分光、ノヴァセップ、ギルソン等によって提供されているシステムを利用することができる。
【0075】
SFCに用いるカラムとしては、Shim-pack UC(島津製作所(株))などの専用カラムを用いることができるが、HPLC用のカラムを利用することも可能である。
【0076】
本発明の1つの実施形態では、水溶紙を含むサンプル(例えば、DBS)を、超臨界流体クロマトグラフィーに供し、残留したサンプルを蒸留水に溶解させ、遺伝子検査に用いる方法が提供される。本発明の他の実施形態では、水溶紙を含むサンプル(例えば、DBS)を蒸留水に溶解させ、一部を遺伝子検査に用いるためのサンプルとし、他の一部から超臨界流体抽出を行い、薬物動態分析のためのサンプルとする方法が提供される。
【0077】
さらなる実施形態では、DBSの後、蒸留水溶解(一部を遺伝子検査)を行い、溶媒抽出(例えば水-酢酸エチル)を行った後、有機相(HPLC)を行うことが有利である。別の実施形態では、DBSの後、溶媒抽出(メタノールなどに浸漬→HPLC)を行い、残DBSを蒸留水溶解(一部を遺伝子検査)を行うことも有利である。さらなる実施形態では、DBSの後、超臨界流体抽出→超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)を行い、残DBSを蒸留水溶解(一部を遺伝子検査)を行ってもよい。
【0078】
(薬物動態分析)
1つの局面において、本発明は、薬物動態分析のためのサンプル調製のためのサンプリング剤またはサンプリング材料を提供する。薬物動態分析は、吸光度測定を含むものであり得る。好ましい実施形態では、薬物動態分析は治療薬物モニタリング(TDM)であり得る。本発明のこの局面でもまた、目的を達成し得る限り本明細書において記載される任意の特徴を採用することを挙げることができ、(ポリメラーゼの増幅活性阻害効果の抑制)、(ポリメラーゼの増幅活性阻害効果の抑制を用いる核酸増幅および分析)、(吸光度測定用のサンプリング)、(同一サンプルから2以上のアッセイを行うためのサンプリング)、および(同一サンプルを用いた多重アッセイ)において説明されるものも使用することができる。
【0079】
薬物動態分析の方法としては、例えば、分離分析法(高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフィー(GC)およびそれらの分離方法と検出法(例えば、UV測定との組み合わせ)、免疫学的手法(例えば、蛍光偏光免疫測定法(FPIA)、酵素免疫測定法(EIA)、放射性免疫測定法(RIA))、原子吸光光度法等、超臨界流体抽出(SFE)→超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)が挙げられる。
【0080】
水溶紙を用いて、吸光度分析を含む方法(例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)-紫外線吸収(UV)分析)のためのサンプルを調製することが特に好ましい。水溶紙を用いて作製した乾燥血スポット(DBS)サンプルを、吸光度分析を含む方法に用いることで、濃度を検出しようとする薬物のシグナルではないノイズのシグナルを低減することができる。
【0081】
TDMを行うべき薬剤の例として、カフェイン、強心配糖体や抗てんかん薬、免疫抑制剤、テオフィリン、抗不整脈薬、抗菌薬(アミノグリコシド系、グリコペプチド系)、リチウム製剤、乳がん治療薬(抗エストロゲン薬タモキシフェン、アロマターゼ阻害薬レトロゾール)等が挙げられる。
【0082】
本発明のさらなる実施形態では、薬物動態分析および核酸増幅による遺伝子分析のためのサンプルを同一のサンプルから調製するためのサンプリング剤またはサンプリング材料が提供される。例えば、本発明の1つの実施形態では、水溶紙を用いて同一の血液サンプルから核酸成分を水性画分へと遊離させるとともに、薬物成分を有機溶媒画分へと遊離させ、遺伝子分析と吸光度測定を同時に行う。
【0083】
本発明の実施形態の1つの例では、乾燥血スポットサンプル(DBS)を蒸留水に溶解させ、一部を遺伝子検査のためのサンプルとし、他の一部を溶媒抽出(例えば水-酢酸エチル)し、有機相をHPLC等により分析し薬物動態分析を行うためのサンプルとする。
【0084】
本発明の実施形態の他の例では、乾燥血スポットサンプル(DBS)から溶媒抽出(メタノールなどに浸漬)を行い、HPLCにより薬物動態分析を行うためのサンプルとし、残留したDBSを蒸留水に溶解し、一部を遺伝子検査に用いるためのサンプルとする。
【0085】
本発明の実施形態のさらなる例では、乾燥血スポットサンプル(DBS)から超臨界流体抽出を行い、超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)によって薬物動態分析を行い、残留したDBSを蒸留水に溶解し、一部を遺伝子検査に供する。
【0086】
好ましい実施形態では、薬物代謝酵素遺伝子が既知の薬物について、その動態と、薬物代謝酵素遺伝子の多型とを分析するためのサンプルを同一の生体サンプル(例えば、血液)から調製する。水溶紙は、蒸留水には溶解するが、メタノール等の有機溶媒には溶解しないため、有機溶媒での薬物画分の抽出後に、蒸留水に溶解させて、核酸を回収することが可能である。
【0087】
限定されるものではないが、薬物および薬物代謝酵素遺伝子の例を以下に記載する。
【0088】
【表1】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J. et al.(1989). Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001); Ausubel, F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Ausubel, F.M.(1989). Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Innis, M.A.(1990).PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Academic Press; Ausubel, F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates; Ausubel, F.M. (1995).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates; Innis, M.A. et al.(1995).PCR Strategies, Academic Press; Ausubel, F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Wiley, and annual updates; Sninsky, J.J. et al.(1999). PCR Applications: Protocols for Functional Genomics, Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0089】
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait, M.J.(1985). Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; Gait, M.J.(1990). Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; Eckstein, F.(1991). Oligonucleotides and Analogues: A Practical Approach, IRL Press; Adams, R.L. et al.(1992). The Biochemistry of the Nucleic Acids, Chapman & Hall; Shabarova, Z. et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids, Weinheim; Blackburn, G.M. et al.(1996). Nucleic Acids in Chemistry and Biology, Oxford University Press; Hermanson, G.T.(I996). Bioconjugate Techniques, Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0090】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0091】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0092】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0093】
以下に実施例を記載する。必要な場合、以下の実施例において、全ての実験は、武庫川女子大学倫理委員会で承認されたガイドラインに従って実施した。また、文部科学省・厚生労働省・経済産業省作成のヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針に関する倫理指針(平成26年11月25日一部改正)の指針にのっとって行った。また、ヒトゲノム遺伝子解析研究の倫理指針に準拠した。実験は、武庫川女子大学倫理委員会における審査後、承認のもとに実施した。試薬類は具体的には実施例中に記載した製品を使用したが、他メーカー(Sigma-Aldrich、和光純薬、ナカライ、R&D Systems、USCN Life Science INC等)の同等品でも代用可能である。
【0094】
(実施例1:核酸増幅阻害作用の水溶紙による抑制)
[目的]
本実施例では、血液サンプル中の核酸の増幅において、血液サンプル中に含まれる物質の増幅阻害作用を水溶紙によって抑制することができることを実証する。
【0095】
[材料および方法]
(サンプル調製)
被験体から血液サンプルを採取した。
【0096】
血液サンプルを以下のように希釈した。その後希釈血液をそのままPCR反応に供するか、または、希釈血液をろ紙または水溶紙に滴下して乾燥させた。
X10:全血10μL(100000コピー)をDW90μLで10倍希釈した。
X100:X10希釈血10μL(10000コピー)をDW90μLで10倍希釈した。
X1000:X100希釈血10μL(1000コピー)をDW90μLで10倍希釈した。
【0097】
ろ紙または水溶紙6mmΦに血液サンプル(X10、X100、X1000)10μL滴下・乾燥後、DW200μL中に入れ、95℃5分間加熱処理したサンプル溶液4μLをTaqMan PCRに供した。
【0098】
全血中の白血球数は3500~9000個/μL(全血)であり、白血球数5000個/μLとすると、ゲノムDNAは10000コピー/μL(全血)となる。したがって、理論的に、
X1:100000コピー/200μL=500コピー/μLx4μL=2000コピー
X10:10000コピー/200μL=50コピー/μL/x4μL=200コピー
X100:1000コピー/200μL=5コピー/μL/x4μL=20コピー
のゲノムDNAが含まれることとなる。
【0099】
本実施例において用いた水溶紙は、60MDPおよび120MDP(日本製紙パピリア)であった。ろ紙は、ADVANTEC定性濾紙 No.2(アドバンテック東洋株式会社)であった。
【0100】
また、血液のサンプリング材料として、Whatman(登録商標) 903 Protein saver cardも用いた。
【0101】
(TaqMan PCR法)
以下の手順で、アルコール脱水素酵素遺伝子の遺伝子多型の検出をリアルタイムPCR装置ABI7300(Applied Biosystems社製)を用いてTaqMan(登録商標)プローブ法により行なった。
【0102】
Taqman(登録商標)プローブ法では、通常のPCR増幅用プライマーセットの他に、Taqmanプローブと称されるオリゴヌクレオチドを使用する。Taqmanプローブは、末端の一方が蛍光物質で修飾されており、他方が蛍光を抑制するクエンチャー物質で修飾されている。PCR反応においてDNAポリメラーゼによる複製に伴い、鋳型DNAに特異的にハイブリダイズしたTaqmanプローブは、複製酵素による5’-3’エキソヌクレアーゼ活性により分解される。Taqmanプローブが分解されると、クエンチャー物質から遊離した蛍光分子から蛍光が発せられる。蛍光検出は、ハロゲンタングステンランプの光によって蛍光分子が励起されることで蛍光が発生し、その蛍光の波長のみを通すフィルターを通過してCCDカメラ等の光学的検出手段によって蛍光が検出される。
【0103】
蛍光の強度は、鋳型DNAにハイブリダイズしたプローブの量を示すため、この蛍光の強度をPCRのサイクル毎に検出すると、サイクル毎の鋳型DNAの量の変化を追跡することができる。PCR増幅産物量が蛍光検出できる量に達すると、増幅曲線が立ち上がり始め、指数関数的にシグナルが上昇したのち、定常状態に達する。初発の鋳型DNA量が多いほど、増幅産物量が早く検出可能な量に達するので、増幅曲線が早いサイクルで立ち上がる。例えば、定常状態のシグナルの半分に達するまでのサイクル数を、初発の鋳型DNA量の指標とすることができる。
【0104】
また、異なる配列に特異的な複数のTaqmanプローブを用いて反応を行うことができる。さらに、それぞれのTaqmanプローブを修飾する蛍光物質は、異なる波長の蛍光を生じさせることができ、区別して検出することができる。ここで、ある遺伝子座における対立遺伝子(例えば、対立遺伝子XとY)について、それぞれに特異的なTaqmanプローブを用いて反応を行った場合、一度の反応において、サンプル中に存在するXとYの鋳型DNA量を求めることができ、遺伝子型(XX、YY、またはXY)を判定することができる。例えば、X軸に対立遺伝子Xに特異的なプローブに由来する蛍光の強度をとり、Y軸に対立遺伝子Yに特異的なプローブに由来する蛍光の強度をとって、サンプルの増幅における蛍光強度をプロットすることにより、そのサンプルがプロットされる位置から遺伝子型を判定することが可能である。
【0105】
(増幅の方法)
アルコール脱水素酵素遺伝子ADH1Bを対象として、ゲノムDNAを以下のようにTaqMan PCRにおいて増幅した。
【0106】
TaqMan PCRの反応溶液の組成は以下の表2に示されるとおりであった。
【0107】
【表2】
反応試薬として、東洋紡リアルタイムPCRマスターミックス Thunderbird qPCR Mixを使用した。Thunderbird qPCR Mixは、DNA合成のためのポリメラーゼとして、Taq DNA polymeraseを含んでいる。本実施例では、KOD FX Neoバッファーを使用しなかった。これまでの実験方法の開発過程から、全血の乾燥水溶紙片を直接PCR反応液にしない場合には、KOD FX Neoバッファー(10%)を用いずにPCR反応を行うことが可能であると考えられたためである。
【0108】
PCRの反応サイクルは、以下の表3に示されるとおりであった。
【0109】
【表3】
ポジティブコントロールとして、ADH1B(A/G)の遺伝子領域をプラスミドDNAに組み込んだリコンビナント(組み換え)DNAを溶解した水溶液を用いてPCR反応を行った(
図1~3の●)。ネガティブコントロールとしては、蒸留水を用いた(
図1~3の■)。
【0110】
さらに、FTA Elute(全血&10倍希釈および唾液(口腔粘膜細胞))と乾燥ろ紙血を、FTA Eluteのプロトコールに従って処理し上記と同様のPCR反応に供した。具体的には以下のとおりである。
【0111】
FTA Eluteに血液採取用ディスポーザブルランセット(完全使い捨てタイプの皮膚穿刺器具)を用いて採取した血液を滴下乾燥したサンプルを4mmΦの生検トレパン(カイインダストリー株式会社)でパンチ片を1.5mLエッペンドルフチューブに入れ、蒸留水0.5mLで3回洗浄後、パンチ片に100μLの蒸留水を加え、95℃で15分間加熱することでサンプル液を調製した。4μLをTaqMan PCRに供した。
【0112】
【表4】
(ADH1BのFTAと水溶紙(パンチ径の差)の比較実験)
G/Gホモは、FTAと水溶紙(60、120MDP)に差があるように見えるが、サンプリング位置による全血液量の僅かなばらつきが反映されている。増幅曲線のCtからは、数倍程度の差と考えられる。A/AホモはG/Aホモはほぼ同等の感度で観察されている。この結果より、水溶紙の4mmΦおよび2mmΦパンチの差は、全くないと考えられる。FTAと水溶紙の感度差は観察されないが、希釈倍率からゲノムDNA回収率は、FTAは水溶紙の1/10と見積もられる。3回の水洗工程、4mmΦパンチディスクの膨張など水溶紙に比べ、デメリットは大きい。
【0113】
水溶紙の場合、2mmΦパンチ片を250μLのDWに溶解し、95℃5分加熱処理後、攪拌・卓上遠心機で遠心した上清4μLをTaqMan PCR溶液に滴加して遺伝子増幅反応を実施すれば良い。唾液同様、非常に簡便な前処理で遺伝子検査が実施できる。唾液に比べ、血液中のPCR反応阻害物(ヘム、多糖類、ポリフェノール,フルボ酸,色素,イオンなど)の影響を考慮して希釈倍率が大きいため、感度は若干劣るが、十分に、SNPなどの遺伝子多型判定が可能であり、コピー数多型解析などの定量的PCR検査にも使用できる。なぜならば、ヒトの血液成分中、ゲノムDNAが存在する白血球数の個人差は数倍程度(3500個~9000個/μL)であることから。最新鋭器のデジタルPCR装置を使用すれば、高度なコピー数多型解析(n=0~10)も可能であろう。
【0114】
FTA Elute(唾液)では、水溶紙と同様のシグナル(10
4コピーレベル)を得た(
図2B、▲)が、FTA Elute(全血)では全く増幅が観察されなかった(
図2B、×)。
【0115】
乾燥水溶紙血4mmΦパンチ片(mmΦは、パンチ片の直径(mm)を示す、以下同じ)を、蒸留水(DW)0.5および1.0mLに投入し、95℃で5分処理後、4μLをPCR反応液に使用した。
【0116】
さらに、水溶紙に血液を滴下したサンプルの保存性を確認するため、血液を水溶紙に滴下し、乾燥させたのち、8か月経過後にPCR反応に供した。乾燥水溶紙(60MDP)に血液サンプル(被験者7名に由来)を滴下・乾燥後、8ヶ月経過した時点で、水溶紙4mmΦパンチ片をDW100μLに加え、95℃で5分処理し、10倍希釈後4μLをTaqMan PCRに供した。
【0117】
[結果]
被験体から採取した血液を、水溶紙(120 MDP)およびWhatman(登録商標) 903 Protein saver cardに滴下して乾燥させ、4mmΦのパンチ片を切り抜いたものからサンプルを調製し、上記のとおり遺伝子の増幅反応を行った結果を
図1Aに示す。
図1Bには、当該増幅反応における増幅曲線を示す。
【0118】
この結果から、Whatman(登録商標) 903 Protein saver cardを用いて調製したサンプルにおいては、増幅曲線が立ち上がらず、血液中の増幅反応の阻害物が反応に影響を与えているものと考えられるが、水溶紙を用いて調製したサンプルではそのような阻害は見られず、水溶紙が阻害物質の効果を抑制していることが理解される。
【0119】
血液サンプル(x10、100、1000)をDW200μLで希釈後、95℃で5分処理し、4μLをPCR反応に供した結果は
図2Aに示される。これらすべての血液を直接用いたサンプルについては遺伝子増幅シグナルを得られなかった(
図2A、×)。血液中にPCR増幅反応の阻害物があると考えられる。
【0120】
血液(x10、100、1000)を滴下して乾燥させたろ紙の6mmΦパンチ片をDW200μLに加え、95℃で5分処理し、上清4μLをPCR反応に供した結果は
図2Aに示される。これらすべての乾燥ろ紙血サンプルについて遺伝子増幅シグナルを得られなかった(
図2A、×)。血液中のPCR増幅阻害物が、加熱処理上清中に溶出してくるものと考えられる。
【0121】
血液(x10、100、1000)を滴下して乾燥させた水溶紙(60、120MDP)6mmΦパンチ片をDW200μLに加え、95℃で5分処理し、上清4μLをPCRに供した結果は
図2Aに示される。x1000(20コピー)では遺伝子増幅のシグナルが検出されなかったが、x10とx100では遺伝子増幅のシグナルが検出された(
図2A、▲)。x10とx100では、ほぼ理論値のコピー数で検出できた。
【0122】
このことから、水溶紙によって、血液中のPCR反応の阻害物の作用を抑制することができることが実証された。理論に拘束されるものではないが、ゲノムDNAが溶液中に遊離してくる一方で、PCR反応阻害物が水溶紙に保持(トラップ)されているため、水溶紙を用いた場合には、PCR反応の阻害が観察されないと考えられる。水溶紙のこのような性質は今までに考慮されたことのないものであり、画期的であるといえる。
【0123】
増幅曲線から、60MDPより120MDPの方が感度高く(データ示さず)、PCR反応阻害物の除去能が高い。これは、紙の厚み(紙ボリューム)の問題であると考えられる。
【0124】
さらに、全血液を蒸留水で10倍、100倍、1000倍に希釈した溶液を調製した。各希釈液の一定量(10μL)をアドバンテック定性濾紙No.2、水溶紙120MDPと60MDPに滴下乾燥した。各希釈全血(10倍、100倍、1000倍)10μLを95℃5分間加熱処理した溶液4μLをPCR反応液に供した。各希釈全血を滴下乾燥した定性濾紙No.2、水溶紙120MDPと60MDは、各6mmΦパンチ片に蒸留水200μLを加え、95℃5分間加熱処理した溶液4μLをPCR反応液に供した。さらに、FTA Elute(全血&10倍希釈および唾液(口腔粘膜細胞))を、上記と同様のPCR反応に供した。
【0125】
具体的には、FTA Eluteに血液採取用ディスポーザブルランセット(完全使い捨てタイプの皮膚穿刺器具)を用いて採取した血液を滴下乾燥したサンプルを、4mmΦの生検トレパン(カイインダストリー株式会社)でパンチし、パンチ片を1.5mLエッペンドルフチューブに入れ、蒸留水0.5mLで3回洗浄後、パンチ片に100μLの蒸留水を加え、95℃で15分間加熱することでサンプル液を調製した。サンプル液4μLをTaqMan PCRに供した。その他の部分は製造業者のプロトコールに従った。
【0126】
FTA Elute(唾液)では、水溶紙と同様のシグナル(10
4コピーレベル)を得た(
図2B、▲)が、FTA Elute(全血)では全く増幅が観察されなかった(
図2B、×)。
【0127】
希釈全血液(10倍、100倍、1000倍)を95℃5分間加熱処理したサンプル及び定性濾紙を用いた乾燥濾紙血(10倍、100倍、1000倍)の6mmΦパンチ片に蒸留水200μLを加え、95℃5分間加熱処理したサンプルは、全て、遺伝子検出は出来なかった(
図2B、X)。水溶紙120MDPと60MDPの6mmΦパンチ片に蒸留水200μLを加え、95℃5分間加熱処理したサンプルは、10倍と100倍希釈血液では、遺伝子検出できたが、1000倍希釈(X)では検出できなかった。
【0128】
乾燥水溶紙血4mmΦパンチ片を、DW0.5および1.0mLに投入し、95℃で5分処理後、4μLをPCR反応液に使用した。いずれも、阻害なく遺伝子増幅していることが観察された(
図2B、▲)。
【0129】
以上の結果から、全血中にはPCR反応阻害物質が存在し、遺伝子検出できなかったと考えられる。PCR反応阻害物質は、定性濾紙を用いて乾燥血液サンプル(DBS)を調製しても除去できない。水溶紙120MDPと60MDPを用いて、10倍と100倍に希釈した血液を滴下して得た乾燥血液サンプルでは、十分な感度で遺伝子検出できた。1000倍に希釈した血液を用いた水溶紙120MDPと60MDPの乾燥血液サンプルでは、検出できなかった原因は、十分なゲノムDNA量をPCR反応に供することができなかったと推察される。これらの結果から、水溶紙120MDPと60MDPには、PCR反応阻害物質をトラップ(捕獲、吸着)し、蒸留水に溶解して、95℃5分間加熱処理では溶出してこないことが推察される。
【0130】
8か月経過後のPCR反応の結果を
図3に示す。7名全員のサンプルについて、10
3~10
4コピーレベルの遺伝子増幅の検出が出来ていた(
図3)。検出レベルがほぼ一定であったことから、水溶紙に滴下して乾燥させた血液サンプルは、増幅可能な状態で長期間保存することが可能なだけではなく、定量性を伴って増幅することが長期間可能なままであることが示された。
【0131】
これらの結果から、
図4に示されるように、水溶紙に血液を滴下して乾燥させたサンプルを適切なサイズに切り抜き、蒸留水に溶解することで、種々の増幅反応において、血液サンプル中の阻害物質の影響を抑制しながら遺伝子検査を行うことができることが理解される。
【0132】
(実施例2:全血液を用いたFTAと水溶紙の比較実験)
[目的]
本実施例では、水溶紙を用いるとFTAカード(GE Healthcare)よりも簡便なプロトコールで、血液中の核酸増幅阻害物質の作用を抑制し、効率よく反応を行うことができることを示す。
【0133】
[材料および方法]
全血を塗布したFTAおよび水溶紙(60MDP)のサンプル処理を、以下の表5に示されるように行った。
【0134】
【表5】
増幅反応は、上記実施例1におけるものと同様に行い、それぞれの方法で調製したサンプルについて、遺伝子増幅シグナルが検出されるかどうかを調べた。ただし、ALDH2遺伝子について遺伝子型を検出した場合には、プローブはALDH2に対するものを使用した。
【0135】
8名の被験者から得られた血液について、それぞれ上記のとおり水溶紙4mmΦ、2mmΦおよびFTAでサンプリングし、ADH1BまたはALDH2の遺伝子型判定のため、それぞれの遺伝子の増幅反応に供した。
【0136】
【0137】
ADH1Bの遺伝子型判定のための遺伝子増幅について、水溶紙4mmΦ、2mmΦおよびFTAでサンプリングした全てのサンプルについての結果を
図5に示した。
図6は、FTAでサンプリングしたサンプルについて、
図7は、FTAおよび水溶紙4mmΦパンチでサンプリングしたサンプルについて、
図8はFTAおよび水溶紙2mmΦパンチでサンプリングしたサンプルについて、それぞれADH1Bの遺伝子型判定のための遺伝子増幅についての結果を示している。
【0138】
A/AホモおよびG/Aヘテロのシグナルは、全てのサンプリング方法の間でほぼ同等の感度で観察された。G/Gホモは、FTAと水溶紙(4mmΦと2mmΦ)に差があるように見えるが、これは、サンプリング位置による全血液量の僅かなばらつきが反映されているものと考えられる。増幅曲線のCt(データ示さず)からは数倍程度の差と考えられる。この結果より、水溶紙の4mmΦおよび2mmΦパンチの差は、全くないと考えられる。FTAと水溶紙の感度差は観察されないが、希釈倍率からゲノムDNA回収率は、FTAは水溶紙の1/10と見積もられる。FTAを用いる場合には、3回の水洗工程、4mmΦパンチディスクの膨張など水溶紙に比べ、デメリットは大きい。
【0139】
水溶紙の場合、2mmΦパンチ片を250μLのDWに溶解し、95℃5分加熱処理後、攪拌・卓上遠心機で遠心した上清4μLをTaqMan PCR溶液に滴加して遺伝子増幅反応を実施することができた。水溶紙の血液滴下乾燥サンプルを用いた場合、唾液を用いるような方法(例えば、特願2016-152125に記載されているような方法)と同様に、非常に簡便な前処理で遺伝子検査が実施できる。
【0140】
血液を用いる場合には、唾液に比べ、血液中のPCR反応阻害物(ヘム、多糖類、ポリフェノール,フルボ酸,色素,イオンなど)の影響を考慮して希釈倍率が大きいため、感度は若干劣るが、十分に、SNPなどの遺伝子多型判定が可能であり、コピー数多型解析などの定量的PCR検査にも使用できることが示された。これは、ヒトの血液成分中、ゲノムDNAが存在する白血球数の個人差は数倍程度(3500個~9000個/μL)であるためである。デジタルPCR装置等を使用すれば、高度なコピー数多型解析(n=0~10)も可能であると考えられる。
【0141】
ALDH2の遺伝子型判定のための増幅反応の結果は、
図9~12に示される。
【0142】
ALDH2の遺伝子型判定のための遺伝子増幅について、水溶紙4mmΦ、2mmΦおよびFTAでサンプリングした全てのサンプルについての結果を
図9に示した。
図10は、FTAでサンプリングしたサンプルについて、
図11は、FTAおよび水溶紙4mmΦパンチでサンプリングしたサンプルについて、
図12はFTAおよび水溶紙2mmΦパンチでサンプリングしたサンプルについて、それぞれALDH2の遺伝子型判定のための遺伝子増幅についての結果を示している。
【0143】
ALDH2の遺伝子型判定のための増幅反応においても、
図5~8に示されるADH1BのFTAと水溶紙(パンチ径の差)の比較実験の結果と同様に、対象遺伝子ALDH2の遺伝子型を判定することができたことが示された。
【0144】
したがって、水溶紙を用いた場合には、蒸留水による洗浄工程を行わずとも、増幅阻害なく、遺伝子分析を行うことが可能であった。
【0145】
(実施例3:唾液を用いた遺伝子分析との比較)
[目的]
本実施例では、唾液を用いてサンプリングした場合と、水溶紙を用いて血液からサンプルを調製した場合の結果を比較する。
【0146】
[材料および方法]
被験体の口腔粘膜からスワブによって唾液サンプルを採取し、
図13Aに示すように、担体に転移操作を行い、遺伝子分析のためのサンプルを調製した。水溶紙の材質(厚さ、製法など)の違いのある4種類(120MDP、60MDP、120CD2、 60CD2)の水溶紙を担体として用いて比較実験を行った。スワブから水溶紙に転写後、スワブのポリウレタンスポンジ部を取り外し、DW100mLを加え、加熱処理した上清をPCR反応液に滴加して残留口腔粘膜細胞数を概算した。
【0147】
スワブに含まれている口腔粘膜細胞を一定とすると、その紙質により差が生じるか検討した。
【0148】
血液サンプルについては、上記実施例2と同様に行い、FTA Eluteおよび水溶紙(60MDP)を用いた。
【0149】
これらのサンプルを、上記実施例2と同様にして、ADH1Bについての遺伝子型分析のための増幅反応に供した。
【0150】
[結果]
結果を
図13Bに示す。全てのサンプルにおいて、遺伝子型を判定するに十分なシグナルが得られている。水溶紙を用いて血液をサンプリングすることで、他の方法よりも簡便に遺伝子分析のためのサンプルを調製することができたことが示される。
【0151】
なお、唾液から調製した4種類(120MDP、60MDP、120CD2、60CD2)のサンプル間に細胞数の差は認められなかった。全て、1×10の5乗コピーとほぼ一定であった。
【0152】
(実施例4:水溶紙によるHPLC-UVにおけるノイズ低減効果)
[目的]
本実施例では、水溶紙によるHPLC-UVにおけるノイズ低減効果を実証することを目的とする。
【0153】
[材料および方法]
末梢血サンプルに、カフェインを10μg/ml、5μg/ml、2.5μg/ml、1.25μg/mlを添加したものと、カフェイン添加無しの末梢血とを測定用のサンプルとして用いた。
【0154】
水溶紙(MDP120)にこれらの末梢血を10μl滴下し(n=3)、12時間乾燥させた。その後、6mmΦのパンチ片を80%メタノール300μlに浸漬し、10分間超音波処理し、Voltexで10分間攪拌し、15000×Gで5分遠心分離した後、270μlを回収した。これを1時間遠心濃縮し、100μlを添加溶解し、HPLCの移動相として用いた(
図14および15)。
【0155】
また、抗生物質検定用のペーパーディスク(ADVANTEC薄手 8mm)を用いて、同様にサンプルの調製を行った(
図16)。
【0156】
さらに、上記と同様の濃度のカフェインを血液および唾液に添加し、水溶紙およびFTAカードを用いて、DBSサンプルを調製した。
【0157】
上記DBSサンプルから6mmΦをくりぬき、40μlのDWに溶解させ、10分間超音波処理し、960μLのメタノールに溶解し、10分間Voltexし、15000×Gで5分遠心分離した。上清を遠心濃縮したのちに、MeCN:0.1%AcOH=1:9の溶液100μLの移動相に溶解させ、HPLC-UV分析に供した。
【0158】
サンプル溶液50μLを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に注入した。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)装置は、Agilent 1200 HPLC System(Agilent Technologies社製)を用いた。分析カラムは、TSKgel ODS-100V (5mm、4.6×150mm、TOSOH)およびTSKgel guardgel ODS-100V (5mm、3.2×15mm、TOSOH)を使用した。カラムオーブンを30°Cに設定し、移動相を流速1.5mL/minで流し、波長280nmで検出した。上記分析条件は、下記文献を参考にした。(Perera V, Gross AS, McLachlan AJ., Caffeine and paraxanthine HPLC assay for CYP1A2 phenotype assessment using saliva and plasma., Biomed Chromatogr. 2010;Oct 24(10):1136-44. doi: 10.1002/bmc.1419.)
[結果]
水溶紙による、カフェイン添加末梢血サンプルからのカフェインの検出結果を
図15に示す。R
2=0.99913と、非常に直線性が高く検出されていることが理解される。
【0159】
抗生物質検定用のろ紙を用いたサンプルの結果は
図16に示される。ろ紙を用いた場合には、R
2=0.9804であり、水溶紙よりも若干定量性が劣ることが理解される。また、回帰直線の傾きが、水溶紙(0.9551)よりも低い(0.743)ことから、回収率の点でも水溶紙は有利であることが理解される。
【0160】
水溶紙およびFTAカードを用いて調製したDBSサンプルの結果を
図18に示す。水溶紙を用いた場合も、FTA Eluteを用いた場合も、理論上の薬物濃度に近い濃度で非常に定量性よく末梢血中のカフェインを測定できた。ここで、水溶紙を用いた場合には、目的化合物のシグナルは同等に検出されながら、それ以外のシグナルが少なく、ノイズが低減されていることが理解される。
【0161】
(実施例5:複数の解析のためのサンプル同時調製における水溶紙の使用)
生体サンプルは複数の分析手法によって分析することが可能である(
図19)。
【0162】
水溶紙を用いて、治療薬物モニタリングおよび遺伝子型分析を同一のサンプルから行う(
図20)。
【0163】
被験体が医薬品を服薬してTmaxだけの時間が経過した後、末梢血を採取し、水溶紙(120MDP)に滴下し、室温で1時間乾燥させる。
【0164】
これから4mmΦをくりぬき、40μLの蒸留水に溶解させる。そのうち4μLを蒸留水96μLに添加し、95℃で5分処理する。これを、PCR反応液に添加し、PCR反応に供することで、遺伝子分析を行う。
【0165】
4mmΦパンチ片を40μLの蒸留水に溶解させたものの残りを、10分の超音波処理に供し、960μLのメタノールに溶解させ、10分間のVoltexを行う。その後、5分遠心分離し、上清を用いて、HPLC-UVによって血中の薬物濃度を測定する。
【0166】
水溶紙は、蒸留水には溶解するが、メタノール等の有機溶媒には溶解しないため、有機溶媒での薬物画分の抽出後に、蒸留水に溶解させて、核酸を回収することも可能である。
【0167】
(実施例6:リアルタイムPCRによるコピー数多型レファレンスRNase Pの検査)
本実施例では、コピー数多型(CNV)レファレンス(Copy Number Reference Assay, human, RNase P)を使用してリアルタイムPCRによる遺伝子増幅の検査を行った。
【0168】
(サンプル)
検査対象(被検者3名)からの末梢血及び唾液(ヒト口腔粘膜細胞を含む)の採取は、以下のマニュアルに従って行った。
(1)乾燥末梢血サンプル(Dried Blood Spot)は、BD社マイクロティナ セーフティ ランセットを片方の手に持ち、先端をもう片方の手の、例えば、中指の先に押し当て穿刺して、採血した。指先の血液は120MDPを固定したサンプリングキットに接触させ、サンプリングシート(水溶紙120MDPを貼り付けた自作キット:
図21参照)を三つ折に戻し、30分以上乾燥した。他人の飛沫する唾がサンプルに付かないように注意して乾燥した(
図22および23参照)。
(2)コントロールの乾燥唾液サンプル(3)(口腔内粘膜細胞:Dried Saliva Spot)は、スワブスティックを持ち、スポンジの片面で歯茎の外側・内側、頬の内側を、10回ほどこすった。もう片面で同様に10回ほどこすった。スワブ両面を唾液で湿らせた。次いで、スティックの根元を持ち、サンプリングシートの水溶紙部にスポンジの片面を押し当て、表紙部をかぶせて約5秒間挟み込んだ(
図24参照)。使用済みのスワブは元の袋に戻して破棄した。サンプリングシートは三つ折に戻し、30分以上乾燥した。
【0169】
(方法)
TaqMan(登録商標)PCR法によるコピー数多型(Copy Number Variations, CNVs) 解析で使用される内部コントロールとなるTaqMan (登録商標) Copy Number Reference Assay, human, RNase Pを用いて、リアルタイムPCR装置にて血液サンプル中のゲノムDNAの遺伝子増幅が出来ることを確認した。乾燥血液スポットの小片(直径1.2mmパンチ片)を直接TaqMan PCR反応液に入れた場合((1):
図22参照)と小片(直径1.2mmパンチ片)を蒸留水100μLに浸漬、95℃で5分間、処理した上清4μLをTaqMan PCR反応液に添加した場合((2):
図23参照)を比較した。また、乾燥唾液スポットの小片(直径1.2mmパンチ片)を直接TaqMan PCR反応液に入れた場合((3):
図25参照)と小片(直径2mmパンチ片)を蒸留水100μLに浸漬、95℃で5分間、処理した上清4μLをTaqMan PCR反応液に添加した条件をコントロールとした((4):
図26参照)。
【0170】
ABI PRISM(登録商標) QuantStudio
TM 12K Flex Real-Time PCR System (Thermo Fisher Scientific Inc.)を用いて、TaqMan(登録商標)法によるCNVsアッセイと同様、上記乾燥血液テンプレートDNAのRNase Pを増幅し、増幅曲線のCt値を求めた(
図27参照)。
【0171】
1)乾燥血液スポット(1)のPCR反応液の組成は、乾燥血液スポットの直径1.2mmパンチ片、TaqPath(登録商標) ProAmp(登録商標) Master Mix 2x (Thermo Fisher Scientific Inc.):5μL、20×TaqMan(登録商標) Copy Number Reference Assay, human, RNase P(Thermo Fisher Scientific Inc.):0.5μL、滅菌精製水:4.5μLを加え全量10μLとした。
【0172】
2)乾燥血液スポット(2)のPCR反応液の組成は、乾燥血液スポットの直径1.2mmパンチ片を蒸留水100μLで処理した被検試料調製液:4μL、TaqPath (登録商標) ProAmp(登録商標) Master Mix 2x (Thermo Fisher Scientific Inc.):5μL、20×TaqMan(登録商標) Copy Number Reference Assay, human, RNase P(Thermo Fisher Scientific Inc.):0.5μL、滅菌精製水:0.5μLを加え全量10μLとした。
3)乾燥唾液スポット(3)の直径1.2mmパンチ片、TaqPath (登録商標) ProAmp (登録商標) Master Mix 2x (Thermo Fisher Scientific Inc.):5μL、20×TaqMan(登録商標) Copy Number Reference Assay, human, RNase P(Thermo Fisher Scientific Inc.):0.5μL、滅菌精製水:4.5μLを加え全量10μLとした。
4)乾燥唾液スポット(4)のPCR反応液の組成は、乾燥唾液スポットの直径2mmパンチ片を蒸留水100μLで処理した被検試料調製液:4μL、TaqPath (登録商標) ProAmp (登録商標) Master Mix 2x (Thermo Fisher Scientific Inc.):5μL、20×TaqMan (登録商標) Copy Number Reference Assay, human, RNase P(Thermo Fisher Scientific Inc.):0.5μL、滅菌精製水:0.5μLを加え全量10μLとした。
【0173】
(増幅条件)
熱変性:50°C、2分→95°C、10分、 95°C、15秒→60°C、1分を40サイクル。
【0174】
(結果)
TaqMan (登録商標) PCRによるRNase Pの遺伝子増幅の結果を示す(
図28、29、30および31参照)。示されるように、いずれの場合も、反応液に投入された水溶紙120MDPが測定装置ABI PRISM (登録商標) QuantStudio
TM 12K Flex Real-Time PCR System (Thermo Fisher Scientific Inc.)の光路阻害することなく、明確にRNase P遺伝子の増幅曲線が観察できるところである。そのCt値は、乾燥血液スポット(1):平均Ct値:27.6±0.4サイクル、乾燥血液スポット(2):平均Ct値:33.5±0.1サイクルであった。(1)と(2)の差は約6サイクルであり、鋳型DNA量の差は理論的に(1)は(2)の64倍ではある。サンプル調製法から換算出来る実質的な差は100μL/4μL=25倍であるが、操作誤差などを加味すると妥当な相違と考えられる。乾燥血液スポット(1)小片をTaqMan (登録商標) PCR反応液に直接投入して遺伝子検査を行える最大のメリットは、操作の簡略化とコンタミネーションリスク低減の効果がある。更には、血液と共に水溶紙がPCR反応液に混入しても反応阻害は観察されない。一方で、コントロールの乾燥唾液スポット(3)を鋳型DNAとして遺伝子増幅反応は、その増幅曲線の平均Ct値は31.3±1.6サイクル、乾燥唾液スポット(4)は28.0±1.4サイクルであった。(3)と(4)の差は約3サイクル(2
3=8)であり、それぞれサンプル間のCt値が血液に比べばらつきが観察される。鋳型DNA量の差は理論的に(3)は(4)の9倍ではあり、PCR反応系に導入されたゲノムDNA量の理論量から換算されるCt値の差は約3サイクルで、実測値のCt差(3サイクル)と一致する。従って、水溶紙を直接PCR反応液に添加したことによる阻害は観察されない(
図30および31参照)。
【0175】
唾液は非侵襲的な採取が可能であり、血液と鋳型DNA量の大きな差は観察されない。しかしながら、血液中のウイルス・細菌の検出、血液中に浮遊するがん細胞由来の遺伝子断片(cell-free DNA、cfDNA)やマイクロRNAを検出出来れば、ガンを早期発見できる可能性がある。
【0176】
以上の結果から、乾燥血液スポット(1)小片を直接TaqMan (登録商標) PCR反応液に挿入して遺伝子増幅ができるならば、医療分野の遺伝子検査領域、特に新生児マススクリーニング対象疾患(フェニルケトン尿症、ホモシスチン尿症、メープルシロップ尿症、シトルリン血症1型、アルギニノコハク酸尿症、プロピオン酸血症、メチルマロン酸血症、グルタル酸尿症1型、イソ吉草酸血症、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタル酸尿症(HMG-CoAリアーゼ欠損症)、マルチプルカルボキシラーゼ欠損症、3-メチルクロトニルグリシン尿症、CPT-1欠損症、VLCAD欠損症、MCAD欠損症、TFP(MTP)欠損症、尿素サイクル異常症、先天性銅代謝異常症など)の遺伝子診断に適用可能であり、非常に大きな発展をもたらすことになるであろう。
【0177】
(注記)
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。本出願は、特願2017-70962の優先権の利益を主張し、この内容はその全体が本明細書において参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0178】
本発明は、研究または臨床におけるサンプル調製において、例えば、遺伝子型の判定のためのサンプル調製や、薬物動態モニタリングのためのサンプル調製に利用可能である。