(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】X線管
(51)【国際特許分類】
H01J 35/18 20060101AFI20220622BHJP
【FI】
H01J35/18
(21)【出願番号】P 2018227380
(22)【出願日】2018-12-04
【審査請求日】2021-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】キヤノン電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【氏名又は名称】樺澤 襄
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 利巳
(72)【発明者】
【氏名】曽根 準基
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-089906(JP,A)
【文献】特開2016-037637(JP,A)
【文献】特開2010-005744(JP,A)
【文献】特表2005-539351(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0120466(US,A1)
【文献】特開平06-036718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/18
H05G 1/00
C23C 14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を透過する出力窓を有する真空外囲器と、
前記真空外囲器内の前記出力窓と対向する位置に配置された陽極ターゲットと、
前記陽極ターゲットに照射する電子を発生する陰極フィラメントと、
前記出力窓の外面に形成された保護膜と
を具備し、
前記保護膜は、ダイヤモンドライクカーボンにケイ素を含有した物質で構成され、ダイヤモンドライクカーボン中のケイ素の割合は質量比で
5~6%である
ことを特徴とするX線管
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、X線を出力するX線管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、材料の分析用などに使用されるX線管がある。このX線管の真空外囲器は、先端の径が徐々に細くなり、先端部が平坦になっている。その平坦な先端部に開口部が形成され、この開口部を閉塞するとともにX線を透過する出力窓が設けられている。出力窓にはX線の減衰が少ない材料として例えばベリリウムが使用され、さらに、X線の減衰を少なくするために出力窓の厚さが数10~数100μmと薄くなっている。
【0003】
真空外囲器の開口部の周縁部は出力窓の材料であるベリリウムと熱膨張係数が近く接合性のよいステンレス部品で構成され、このステンレス部品に出力窓がろう材により接合され、真空外囲器の真空気密を保つ構造となっている。ステンレス部品は、X線の減衰が大きいため、真空外囲器の開口部をなるべく大きくしてX線を多く取り出せるようになっている。
【0004】
X線管を使用するときには、出力窓の外面を試料に接近させるため、試料に含まれる腐食性物質が出力窓の外面に飛散したり、腐食性ガスに出力窓の外面がさらされる。このような環境でX線管を使用すると、出力窓の外面が腐食し、出力窓が薄い場合には早期に孔が開き、真空外囲器の真空気密を保つことができなくなる。このため、出力窓の外面に保護膜を設けることが行われている。保護膜の材料としては、X線の減衰を抑制するためにダイヤモンドライクカーボンのような低元素のものが選ばれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
保護膜の材料としては、X線の減衰を抑制するためにダイヤモンドライクカーボンのような低元素のものが選ばれるが、ダイヤモンドライクカーボンは、高温の雰囲気においては、酸素と結合することで劣化し、出力窓から剥離するおそれがある。
【0007】
本発明は、上記した課題を解決し、高温の雰囲気中での保護膜の劣化を防ぎ、出力窓の腐食を防止できるX線管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態のX線管は、X線を透過する出力窓を有する真空外囲器と、真空外囲器内の出力窓と対向する位置に配置された陽極ターゲットと、陽極ターゲットに照射する電子を発生する陰極フィラメントと、出力窓の外面に形成された保護膜とを具備する。保護膜は、ダイヤモンドライクカーボンにケイ素を含有した物質で構成され、ダイヤモンドライクカーボン中のケイ素の割合は質量比で5~6%である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態を示すX線管の一部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0011】
図2に、材料の分析用などに使用されるX線管装置10を示す。
【0012】
X線管装置10は、円筒状の管容器11と、この管容器11の一端に設けられるX線管12と、管容器11の他端に設けられ高電圧ケーブルを接続する高電圧リセプタクル13と、X線管12と高電圧リセプタクル13を電気的に接続する接続部14と、管容器11内に配置されて冷却液が循環される冷却パイプ15と、管容器11内に充填される絶縁油となどを備えている。
【0013】
図1は、X線管12の一部を示す。なお、
図1に示すX線管12は、
図2に示すX線管12に対して上下を逆転させて図示している。
【0014】
X線管12は、真空外囲器21を備えている。真空外囲器21は、筒部22を有し、この筒部22の先端側に径が徐々に細くなる傾斜部23が形成されているとともに先端面に平坦部24が形成されている。平坦部24には、円形の開口部25が形成され、この開口部25の周縁部で大気側となる外面に出力窓取付部26が形成されている。真空外囲器21の少なくとも出力窓取付部26は、例えばステンレスを材料として形成されている。
【0015】
真空外囲器21の出力窓取付部26の外面には、X線を出力する出力窓27が開口部25を閉塞して取り付けられている。この出力窓27は、X線の減衰が少ない材料である例えばベリリウムが使用され、さらに、X線の減衰を少なくするためにベリリウムの厚さが数10~数100μmと薄くなっている。
【0016】
そして、出力窓27の周辺部が出力窓取付部26にろう材によって接合され、開口部25を閉塞し、真空外囲器21の真空気密を保つ構造となっている。
【0017】
また、真空外囲器21の内部には、出力窓27の内面と対向して陽極ターゲット28が配置され、この陽極ターゲット28の外面に図示しない集束電極が配置され、この集束電極の外側に陰極フィラメント29が配置されている。そして、陰極フィラメント29から放出された電子30が陽極ターゲット28に照射され、これにより陽極ターゲット28から放射されるX線31が出力窓27を透過して外部に取り出される。
【0018】
また、出力窓27の大気側となる外面には、分析時において出力窓27の外面に腐食性物質が飛散したり出力窓27の外面が腐食性ガスにさらされても、出力窓27の腐食を防止し、出力窓27を保護する保護膜32が形成されている。保護膜32は、ダイヤモンドライクカーボンの材料を主材料として形成され、その厚さは例えば0.5~1μmに形成されている。保護膜32は、例えば蒸着によって成膜されている。
【0019】
また、X線管12の製造プロセスにおいては真空外囲器21内の真空度を高めるためのガス抜き工程があるが、このガス抜き工程ではX線管12が例えば500℃程度の高温の雰囲気にさらされることになる。この高温の雰囲気においては、ダイヤモンドライクカーボンが酸素と結合することで劣化し、保護膜32が出力窓27から剥離するおそれがある。そこで、保護膜32の高温雰囲気中での劣化を防ぐために、ダイヤモンドライクカーボン中にケイ素(Si)が含有され、耐熱性が向上されている。
【0020】
しかし、ケイ素の含有量を高めれば、ダイヤモンドライクカーボンの耐熱性が向上するものの、ケイ素はベリリウムやカーボンに比べて原子番号が大きいので、あまりにケイ素の含有量を高め過ぎると、X線の減衰が大きく、X線が保護膜32を透過する際に不純線が発生しやすくなる。ケイ素の最適な含有量は、耐熱性とX線減衰のトレードオフによって決定される。
【0021】
そして、ダイヤモンドライクカーボン中のケイ素の割合を変えた保護膜32のサンプルについて、耐熱性とX線減衰について検証した。サンプルは、同条件で成膜するとともに高温雰囲気にさらし、X線透過測定を行った。
【0022】
その結果、ダイヤモンドライクカーボン中のケイ素の割合が質量比で30%よりも高くなると、耐熱性が高く、高温の雰囲気中でのダイヤモンドライクカーボンの劣化を防ぐことが可能となるが、X線の減衰が大きくなり、不純線も多く発生し、分析が困難となる。
【0023】
一方、ダイヤモンドライクカーボン中のケイ素の割合が質量比で2%よりも低くなると、X線の減衰が小さいが、耐熱性が低く、高温の雰囲気中でのダイヤモンドライクカーボンの劣化を防ぐ効果が少なくなる。
【0024】
そのため、ダイヤモンドライクカーボン中のケイ素の割合を質量比で2~30%とすることにより、耐熱性の向上とX線減衰の抑制を図ることが可能となる。
【0025】
さらに、ダイヤモンドライクカーボン中のケイ素の割合を質量比で2~30%の中でも、重量比が5.4%や5.7%のサンプルでは、耐熱性を確保しながら、X線の減衰が小さくなって、高い分析精度を得られるため、耐熱性の向上とX線減衰の抑制とのバランスが最適となる。したがって、より好ましくは、ダイヤモンドライクカーボン中のケイ素の割合は質量比で5~6%とすることにより、耐熱性の向上とX線減衰の抑制とのバランスを最適にすることが可能となる。
【0026】
このように、本実施形態のX線管12によれば、保護膜32のダイヤモンドライクカーボンにケイ素を含有することにより、保護膜32の劣化を防ぎ、出力窓27の腐食を防止できる。
【0027】
さらに、保護膜32のダイヤモンドライクカーボン中のケイ素の割合を質量比で2~30%とすることにより、耐熱性の向上とX線減衰の抑制とのバランスを良好にできる。
【0028】
しかも、保護膜32のダイヤモンドライクカーボン中のケイ素の割合を質量比で5~6%とすることにより、耐熱性の向上とX線減衰の抑制とのバランスを最適にすることができる。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0030】
12 X線管
21 真空外囲器
27 出力窓
28 陽極ターゲット
29 陰極フィラメント
30 電子
31 X線
32 保護膜